説明

弾性表面波素子とその使用方法

【課題】液体の力学的性質(粘性率,弾性率,密度など)や電気的性質(導電率,誘電率など)の計測に応用することが可能なボールSAWデバイスを実現する。
【解決手段】球面または円筒面の一部で形成され、円環状に連続している円環状表面を有する基材と、前記円環状表面に沿って伝搬する弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段とを備えており、前記円環状表面は、弾性表面波が伝搬可能な曲面からなる伝搬路を有していると共に、前記弾性表面波励起手段は、前記円環状表面に沿って設けられ、高周波電源に接続されるすだれ状電極を含んでいる構成の弾性表面波素子(ボールSAWデバイス)を用いて、少なくとも前記円環状表面の一部を溶液に接触させた状態で、前記弾性表面波励起手段により、固液界面を伝搬可能なモードの弾性表面波を励起して伝搬させ、その周回を検出することにより、弾性表面波の伝搬状態を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子,およびそれを用いた電気信号処理方法の改良に関する。
特に、本発明は、単結晶またはLiNbO3あるいはLiTaO3などの圧電体(以後、これらを、「圧電性結晶」と称することもある。)で形成されており、少なくとも球面の一部で形成されていて円環状に連続している円環状表面を有している基材を有しており、前記円環状表面に沿って伝搬する弾性表面波(Surface Acoustic Wave;SAW)が励起される弾性表面波素子(以下、SAWデバイスとも称する)に関するものであるが、
バイオ用途などでの体液検査や、液体の弾性変化など各種物性の検出にあたって好適な弾性表面波素子とそれを用いた処理(使用)方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に弾性表面波を発生させると共に、発生された弾性表面波を受信するものとして、弾性表面波素子は従来から良く知られている。
【0003】
SAWデバイスは、平坦な基材上に1対の櫛形電極(Interdigital Transducer;IDT。以降は、すだれ状電極とも称する。)が設けられている。
基材が圧電性材料で形成されているか、又はすだれ状電極と基板の間には圧電体が設けられており、一方のすだれ状電極に高周波電圧を供給することにより、電極の並んでいる方向に弾性表面波を励起させる。他方のすだれ状電極はこの弾性表面波の伝搬方向に配置されていてこの弾性表面波を受信する。
【0004】
SAWデバイスは、圧電効果によって発生する弾性表面波を利用した素子であり、以下のような特徴を有することから、遅延線,発信機のための発振素子もしくは共振素子,周波数を選択するためのフィルタ,化学センサー,バイオセンサ,またはリモートタグ等、応用範囲は多岐に渡っている。
1)伝搬速度が数千m/sであり、波長は周波数1GHzで、電磁波は30cmであるのに対して、弾性表面波は4μmと短いので、素子の小型化(1mm角以下)が可能。
2)表面付近にエネルギ−のほぼ90%が集中しているため表面から波の発生・検出及び伝搬途中での光等との自由なアクセスが可能。
3)固定化デバイスであるため無調整であり信頼性に優れている。
4)製造技術にLSIと同じフォトリソグラフィ技術が適用できるため量産化が容易。
【0005】
国際公開 WO 01/45255 号公報は、球形状の弾性表面波素子(以下、ボールSAWデバイスや球状弾性表面波素子と称することもある)を開示している。
ボールSAWデバイスの基体は、弾性表面波が励起可能であり励起された弾性表面波を伝搬させることが可能な球形状の表面を有している。
ボールSAWデバイスにおける電気音響変換素子は、基体の球形状の表面において円環状に連続している所定の幅を有した帯域に配置されており、前記表面に励起した弾性表面波を前記帯域が連続している方向に沿い伝搬させ繰り返し周回させるよう構成される。
【0006】
ボールSAWデバイスでは、基体の表面の円環状に連続している弾性表面波伝搬帯域に電気音響変換素子により励起された弾性表面波を、弾性表面波伝搬帯域内で実質的に減衰することなく上記表面を繰り返し周回させることが出来る。
【特許文献1】国際公開 WO 01/45255 号公報
【0007】
ボールSAWデバイスでは、球状面に弾性表面波がエネルギーを集中させて伝搬する際に、エネルギーが球表面から球の内部やあるいはその他に漏洩することがないため、非常に多周回に球表面を伝搬する現象を利用している。
また、上記デバイスでは、限られた面積の領域を繰り返し弾性波を伝搬させるため、弾性表面波の伝搬速度の非常に小さな変化やあるいはその減衰の仕方を高精度に測定できることから、ガスセンサー等にその応用が進められている。
【0008】
IDTを用いたSAWデバイスにおけるSAWの励起にあたっては、
弾性表面波を伝搬させる球(基材)を構成するガラスやセラミックなどの材料の表面に圧電性膜を形成し、圧電性膜に接触あるいは近接して配置されるすだれ状電極(IDT)を用いて電界を印加し、生じる圧電性膜の弾性変形に基づいて超音波振動(弾性表面波)を発生させることが出来る。
あるいは、基材を圧電性結晶によって構成し、その表面に接触するかあるいは近接して電界を印加し、弾性表面波を励起することが出来る。
前者の場合、球表面上に任意の最大円周線に沿って周回経路を背系することが出来る。
後者の場合、結晶の結晶軸に依存した中心線を持つ経路に周回経路を設計しなくてはならないが、構造が簡単で弾性表面波の伝搬に伴う減衰が小さいという長所がある。
【0009】
SAWは、伝搬面に接する媒質の特性変化や伝搬面上への物質の吸脱着により伝搬特性(速度と振幅)が摂動を受けるため、この変化を検出することによりセンサが実現できる。
伝搬特性とは、弾性表面波が素子表面を伝搬する際の速度(周回するに必要な速度でも、絶対速度を区別しない)、あるいはその速度の関数である弾性表面波の周波数依存性、あるいは伝搬に伴う弾性表面波の減衰量を指す。
【0010】
これまでのボールSAWデバイスは、気体中での駆動(使用)を前提としてきたが、液体中での駆動(使用)に対する要求も高まっている。
【0011】
医療診断分野では、血液あるいはそれを処理したサンプルあるいは体内組織を処理して溶液に溶かしたものなど、溶液として被分析物がハンドリングされる。
生体物質は、乾燥状態よりも液体状態の方が安定に存在できることが多いためであって、乾燥によって蛋白質の変質が起こったり、特にそれを他の物質を反応させる作業はドライの状態では困難であって、その結果を観測する際にも乾燥するプロセスを用いずに溶液で実施するほうが簡単にできることは明らかである。
【0012】
このように、生体物質の評価だけでなく、体内に直接カテーテルなどを挿入したり、あるいは人体の外部から電磁波などで姿勢コントロールを行いながら診断あるいは治療を行なうことが成されている。
しかし、検査チップを体内に挿入することは、消化器の場合を除く場合、たとえば欠陥の内径は大きくても数ミリであって、大きなセンサーを挿入することは非常な努力を必要とした。
このため、血液の粘度などを測定するには血液採取を行なうことで実施しており、日常生活の中で、それをモニターすることは実質困難であった。
例えば、血液の粘性は高脂血症などの評価で重要なパラメーターであるが、顕微鏡下で抵抗を持った構造物の流動を調べるなどの方法をとらざるを得なかった。
このような顕微鏡を用いない血液の粘度測定にあたって、弾性表面波素子を用いた方法が実施されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
SAWの伝搬路が球面または円筒面の一部であるようなボールSAWデバイスの場合、特に圧電性結晶をボール基材とする場合、基材が結晶であることから、伝搬面の弾性物性が連続的に変わっている。
圧電性結晶では、弾性表面波の伝搬する球表面の場所に従って、基材表面での粒子変位方向は変わる。
このため、周回に渡って垂直の粒子変位を免れないことから、液中でのSAWの伝搬が困難と思われてきた。
【0014】
最も有名な弾性表面波であるRayleigh波は、表面と平行でない変位を持つ横波(SV波)と縦波が結合した非分散(音速が周波数に依存しない)性の波である。
Rayleigh波は、水平変位と垂直変位の位相が90°ずれているので、図1に示すように表面付近の粒子の動きは楕円軌道を描き、表面から遠ざかるにつれてその振幅が指数関数的に減少する。表面から1波長以内の深さに大部分のエネルギーが集中している。
上述のように、圧電体の表面にすだれ状電極(IDT)を設け、高周波電界を加えると、圧電効果を介して弾性表面波が励振される。
非圧電体には、表面および伝搬方向に平行な変位を有する横波(SH波)の表面波は存在しない。
しかし、特定の圧電体には、その表面にエネルギーを集中して伝搬する純粋な横波の弾性表面波が存在することが知られている。
この表面波は、圧電表面すべり波あるいはBGS波(Bleustein-Gulyaev-Shimizu wave)と呼ばれ、六方晶系6mm圧電結晶や圧電セラミックスの、c軸または分極軸に平行な面を有する基板などに存在する、と報告されている。
【0015】
平面型の弾性表面波素子を用いて、液体の粘度を評価することを可能とする各種手法が明らかになっている。
中央付近で発生される弾性表面波は、導電性膜により左右に形成されたはしご上に形成された反射器によって反射し、外部から高周波信号を入力すると、特定の周波数において共振現象を起こす現象を利用して、その周波数を測定することで、弾性表面波の伝搬速度を測定することが出来る。
あるいは、一定の共振現象を維持する為に必要な高周波の投入エネルギーの量を求めることで、弾性表面波の減衰量を求めることが出来る。
上記の弾性表面波は、表面に水平方向にしか表面の変位を持たない振動成分を持つ伝搬モードであり、SH波と呼ばれる。このようなモードはその接する溶液に対して圧縮応力を発生しない為に、液体の粘性を介した摺り応力によって溶液と相互作用を及ぼし合う。
SH波の伝搬過程では、溶液の粘性が大きくなるとSH波の伝搬速度が低下すると共に、その減衰率も変化し、それらを観測することで測定が可能である。
【0016】
しかし、上記手法による場合、反射器は十分な反射率で進行していた弾性表面波を反射する必要から、十分なサイズが必要であって、デバイスが大型になることが避けられない。
そのため、平面型SAWデバイスでは、人体に挿入して使用(検査・測定)するには、そのサイズから、実用困難であった。
人体に挿入しての使用でなく、平面型の弾性表面波素子を体液検査などに使用する場合には、デバイスのSAW伝搬路にサンプル溶液を接触させる必要があるが、サンプル溶液の量を確保したり、所定の場所に滴下することに難点があり、弾性表面波素子を用いての液体評価の実現にあたってのハードルとなっていた。
【0017】
平面型の弾性表面波素子を利用した液体評価として、その他にQCMと呼ばれる手法があり、ATカット水晶と呼ばれる切片の表裏に電極を形成して、それを溶液中に浸漬して使用する手法である。
ATカット水晶は、その表面の粒子振動の方位が表面平衡であって、溶液とのずり変位に対する応答を、非常に精度良く検出することが出来る。
上記手法による測定では、表面に特定の蛋白質と結合する抗体を固定しておき、溶液中で蛋白質との結合に基づく表面質量負荷に伴う共振周波数の測定によって、特定の蛋白質を検出する技術にも応用されている。
ATカット水晶を用いた素子の場合も、直径は8mm程度あり小型化が困難で、さらに、ATカット水晶の共振周波数を上げることで感度を上げることは出来るが、薄くすることには限界があり、高感度化の上でも難点があった。
【0018】
本発明は、固液界面を伝搬可能なモードのSAWを励起〜伝搬させることが可能なボールSAWデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によるボールSAWデバイスは、
球面または円筒面の一部で形成され、円環状に連続している円環状表面を有する基材と、
前記円環状表面に沿って伝搬する弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と
を備えており、
前記円環状表面は、弾性表面波が伝搬可能な凸曲面からなる伝搬路を有していると共に、
前記弾性表面波励起手段は、前記円環状表面に沿って設けられ、高周波電源に接続されるすだれ状電極を含んでおり、
前記すだれ状電極への電界印加に伴い、伝搬する前記円環状表面の法線方向に変位を持たない部分を少なくとも有するモードの弾性表面波を励起することを特徴とする。
また、上記の弾性表面波素子を用いて、
少なくとも前記円環状表面の一部を溶液に接触させた状態で、前記弾性表面波励起手段により弾性表面波を励起して伝搬させ、その周回を検出することにより、弾性表面波の伝搬状態を計測することを特徴とする弾性表面波素子の使用方法を提案する。
【発明の効果】
【0020】
固液界面を伝搬可能なモードのSAWを励起〜伝搬させることが可能なデバイスを用いることにより、液体の力学的性質(粘性率,弾性率,密度など)や電気的性質(導電率,誘電率など)の計測に応用することが可能なボールSAWデバイスが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<実施形態1>
図2に、ボールSAWデバイスの構成例とそれを用いた測定を行なっている状態の要部および観測される弾性表面波の周回経路の一例を示す。
【0022】
ボールSAWデバイスは、
球面の一部で形成され、円環状に連続している円環状表面を有する基材と、
前記円環状表面に沿って伝搬する弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と
を備えており、
前記円環状表面は、弾性表面波が伝搬可能な曲面からなる伝搬路を有していると共に、
前記弾性表面波励起手段は、前記円環状表面に沿って設けられ、高周波電源に接続されるすだれ状電極を含んでいる構成である。
【0023】
本実施形態においては、圧電性結晶からなる基材として、LiNbO3あるいはLiTaO3を採用する。
上記デバイスを用いて、
少なくとも前記円環状表面の一部を溶液に接触させた状態で、前記弾性表面波励起手段により弾性表面波を励起して伝搬させ、その周回を検出することにより、弾性表面波の伝搬状態を計測する。
同図では、円環状表面と溶液とは、「接触部」となっている部分で接触している。
【0024】
あるいは、凹部壁面にすだれ状電極を形成した基材を純水中に浸漬し、前記凹部壁面に嵌合する形状の圧電性結晶材料を配置して、すだれ状電極への電界印加に伴って発生したSAWを観測した結果、水中で周回する弾性表面波の観測が可能だった。
このように、間接的に電磁界を作用させて、圧電性結晶材料に弾性波を励起する方法について、前記材料表面に十分な強度ですだれ状電極パターンに対応した電界を生じさせて弾性波を励起するように、すだれ状電極パターンの間隔に対して十分接近させておくことが必要であることは言うまでもない。
【0025】
空気中(真空中も含む)で測定する際に、最も効率良く計測出来たSAWの伝搬速度(音速)は、3600〜4000m/sおよび3800〜5000m/sであった。
【0026】
前者の周波数で励起される振動は、Rayleigh波と呼ばれるモード,あるいはそれと似た変位を持つ振動であって、後者は表面に水平に変位を持つモードである。
【0027】
入力する高周波信号の周波数を変えることでも、励起される弾性表面波のモードを変更することが可能であった。
モードの違いによる溶液との影響の仕方をモードの選択によって行なうことが出来る。
【0028】
空中での測定と、溶液中の測定を同一の素子で行なった場合、共に測定可能であることも確認された。
【0029】
球状弾性表面波素子に対して所定の高周波信号を印加することで、溶液中でも伝搬する弾性表面波を伝搬させることが出来ることを利用すれば、球形であることから非常にセンサーヘッドを小型化できることが明らかであり、SAWデバイスを利用したセンサーを、体内に設置あるいは挿入する場合にも、組織を傷つける可能性が小さく有効である。
【0030】
<実施形態2>
図3は、上記デバイスとは異なる形状(中心がZ軸の円筒形状)の素子を示す説明図である。
直径は、1mm〜3mm強であり、円筒の側面に沿ってSAWを周回させることが可能である。
本実施形態で使用する圧電性結晶基材はリチウムナイオベートであり、線状に加工した結晶材料を切断することで容易に作製が可能である。
円筒形状とする利点は、血管などへの挿入が容易であり、取り扱いが容易なことである。
【0031】
<実施形態3>
体外で、限られた量のサンプルに対して素子表面を接触させるような用途においては、球形の内面を持つ容器に溶液を表面張力を利用して導入して、弾性表面波を励起してその伝搬状態を測定することで溶液の評価を行なうことが可能であり、非常に少量のサンプルで済むことも明らかである。
【0032】
<実施形態4>
円筒形状の素子にバースト信号を入力し、その出力を検出する形態での使用(測定)も可能である。
上記の場合、体内で接触が起こると、接触の程度に応じて弾性表面波の伝達が阻害され、エネルギーを奪われるために出力が小さくなる。
さらに、体内で組織に接触する領域の周回経路上の位置を、接触部分で起こる経路上の反射波の出力時間から求めることが出来、カテーテルの挿入において組織との接触状態を外部から認識する上で有効と考えられるだけでなく、体内組織に素子を押し当てるに従って、接触状態がどのように変化するかを測定出来れば、癌化組織の硬さなど弾性的に特徴のある部位を識別することが可能である。
【0033】
<実施形態5>
図4は、ボールSAWデバイスの他の使用形態を示す説明図であり、非接触で弾性表面波素子を駆動するタイプに関する。
つまり、ボール表面にすだれ状電極は形成せず、非常に接近して(すだれ状電極の電極周期の少なくとも4分の1以下)配置した場合の使用形態である。
ボールSAWデバイスを大量に使用して、各種の計測・検査を多数回行なう必要がある場合には、圧電性結晶基材からなるボール全てにすだれ状電極を形成する必要がないため、消耗されるデバイスや計測に要するコスト低減の上で有効である。
すだれ状電極は、電解質と接触すると十分な電圧で圧電面に電界を印加することが困難であるために、発生できる弾性表面波の強度及び検出できる伝搬する弾性表面波の強度が小さくなる。
【0034】
このため、すだれ状電極は溶液に接触しないように配置する工夫を施している。
図中、円環状空隙領域があることで、毛細管現象によって下部から供給される溶液は、この部分から上部には上昇せず、すだれ状電極が溶液(特に電解質溶液)に接触することを防ぐことが出来る。
【0035】
<実施形態6>
図5は、他の実施形態を示す説明図であり、球殻型の球状弾性表面波素子の例である。
この形状のデバイスでは、主にガス配管に使用し、液体の流入を検出したり、周回経路にガス感応膜を形成することで、ガス漏れセンサーに応用する用途が考えられていたが、本発明により、液体の粘性と温度の測定にも転用出来る。
できる。
【0036】
<実施形態7>
図6は、他の実施形態を示す説明図であり、球状弾性表面波素子の周回経路を被分析用の溶液に浸漬する場合に係る説明図である。
球状弾性表面波素子に印加する高周波信号を発生する高周波発生手段と、
その出力を解析する信号解析装置を備えている。
【0037】
高周波発生手段は数百MHzのバースト信号発生器であり、信号解析手段はデジタイザーとその時間波形情報から周波数分析あるいはその周回する弾性表面波の強度の変化から減衰率を解析する手段を有していても良い。
【0038】
図7は、他の実施形態を示す説明図であり、超高圧の圧力測定に用いる場合に係る説明図である。
これまで述べたように、本発明による球状弾性表面波素子は、溶液の弾性的な性質を、それに接触した状態で伝搬する弾性表面波の伝搬状態から類推することが可能である。
伝播路に液体を満たした状態で(金属製などの耐圧性)容器に密閉すると、容器外側の圧力が超高圧になっても、容器は殆どその形状を変えることなく、圧力を内部の液体に及ぼすことが出来る。
液体は超高圧下で弾性定数を変えることが知られており、その変化から圧力変化を測定することが可能である。
従来の素子のように、周囲が気体の環境で用いる場合、外部の圧力が変化するに従って内部の圧力が変化するために、容器が変形してしまう問題があり、特に素子を外部のゴミなどから保護するためにフィルターなども必要であった。
溶液で満たした場合、溶液の圧力に対する体積変化は限られており、素子を外部環境から保護する遮蔽膜を金属で作っても、溶液の体積変化が小さく、圧力測定用途として機能する素子を較正することが可能になる。
本実施形態としての使用形態は、圧力が数百気圧以上の場合に有効であり、内部に封入する溶液を、その対圧力による弾性変化の異なる溶液を選ぶことで、異なる特性の圧力測定を可能にする。
【0039】
上記の何れの実施形態においても、出力を解析する方法については、様々な方法が提案されており、如何なる方法を用いても、本発明では特に除外しない。
一般のQCMあるいは平面型弾性表面波素子をセンサー用途として使用する場合には、その共振周波数を、カウンターと呼ばれる周波数を精密に変更してその強度最大の周波数を探す回路によって可能で非常に広く使用されており、これと同様の方法を用いても良いことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】Rayleigh波の挙動・深さ方向でのエネルギー分布を示す説明図。
【図2】ボールSAWデバイスの構成例とそれを用いた測定を行なっている状態の要部および観測される弾性表面波の周回経路の一例を示す説明図。
【図3】本発明の他実施形態に係る説明図。
【図4】本発明の他実施形態に係る説明図。
【図5】本発明の他実施形態に係る説明図。
【図6】本発明の他実施形態に係る説明図。
【図7】本発明の他実施形態に係る説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面または円筒面の一部で形成され、円環状に連続している円環状表面を有する基材と、
前記円環状表面に沿って伝搬する弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と
を備えており、
前記円環状表面は、弾性表面波が伝搬可能な曲面からなる伝搬路を有していると共に、
前記弾性表面波励起手段は、前記円環状表面に沿って設けられ、高周波電源に接続されるすだれ状電極を含んでおり、
前記すだれ状電極への電界印加に伴い、伝搬する前記円環状表面の法線方向に変位を持たない部分を少なくとも有するモードの弾性表面波を励起することを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記弾性表面波励起手段により励起され、前記円環状表面を伝搬する弾性表面波は、
SH波,圧電表面すべり波,BGS波(Bleustein-Gulyaev-Shimizu wave)から選択される少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記円環状表面を構成する基材は単結晶からなり、
前記円環状表面は、前記基材を形成している単結晶の結晶方位で決まる所定の経路に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記円環状表面を構成する基材はLiNbO3あるいはLiTaO3であり、
弾性表面波の伝搬速度が、3600〜5000m/sであることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記弾性表面波励起手段により励起され、前記円環状表面を伝搬する弾性表面波は、
弾性表面波の中で、変位が伝搬面に平行なモードである横波型弾性表面波であることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記円環状表面には、弾性表面波が伝搬可能な凹面からなる液体流路を有する構成であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記円環状表面における弾性表面波が伝搬する伝搬経路の幅は、伝搬経路の球形表面の中心から見た見掛け角が60度以内であって、
伝搬経路球形表面の曲率半径Rおよびそこに励起する弾性表面波の周回時間と周回長と励起する弾性表面波の周波数から求められる平均波長λを用いて求められる前記球表面の中心からのコリメート角の0.5倍より大きいことを特長とする特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の弾性表面波素子を用いて、
少なくとも前記円環状表面の一部を溶液に接触させた状態で、前記弾性表面波励起手段により弾性表面波を励起して伝搬させ、その周回を検出することにより、弾性表面波の伝搬状態を計測することを特徴とする弾性表面波素子の使用方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れかに記載の弾性表面波素子を用いて、弾性表面波の伝搬状態を計測することによって、素子の伝搬経路の表面状態あるいは周囲の液体の弾性変化を検出することを特徴とする弾性表面波素子の使用方法。
【請求項10】
請求項1〜7の何れかに記載の弾性表面波素子を、液体の封入された容器内で、少なくとも前記円環状表面の一部を溶液に接触させて配置し、
封入容器の外部の圧力に応じた弾性表面波の伝搬状態の変化を検出することにより、前記圧力を測定することを特徴とする弾性表面波素子の使用方法。
【請求項11】
請求項1〜7の何れかに記載の弾性表面波素子を体内に挿入して、弾性表面波の伝搬状態から体内環境の評価を行なう体内環境評価素子として用いることを特徴とする弾性表面波素子の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−275999(P2006−275999A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286682(P2005−286682)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】