説明

弾性表面波素子の製造方法、弾性表面波素子および弾性表面波素子用基板

【課題】 圧電基板上の各電極における静電破壊を防止した上で、圧電基板上の複数のパッド電極における現像による膜減り量を均一化して、極端に膜減り量が大きいパッド電極が発生するのを防止することができる弾性表面波素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 SAW素子の製造方法における素子領域形成工程では、圧電基板11上に、複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dと、複数のSAW素子領域のそれぞれの外周部に設けられるダイシング用の配線導体41とを形成する。そして、複数のSAW素子領域のそれぞれには、IDT電極12と、IDT電極12から導出される複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16と、複数の接地パッド電極13,14同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体18とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターデジタルトランスデューサ電極を備える弾性表面波素子の製造方法、弾性表面波素子および弾性表面波素子用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電波を利用する電子機器のフィルタ、遅延線、発信機などの構成素子として多くの弾性表面波装置が用いられている。特に、小型・軽量でかつフィルタとしての急峻遮断性能が高い弾性表面波(Surface Acoustic Wave;以下、「SAW」と略記することがある)フィルタは、移動体通信分野において、携帯端末装置のRF段およびIF段のフィルタとして多用されるようになってきており、低損失かつ通過帯域外の遮断特性に優れ、高い減衰特性と広い帯域幅を有するSAWフィルタが要求されている。
【0003】
SAWフィルタは、一般に以下のような方法により製造されている。まず、圧電基板上に導電膜を形成し、フォトリソグラフィー法やエッチング法などを用いて、インターデジタルトランスデューサ(Inter Digital Transducer:IDT)電極、接地パッド電極および入出力パッド電極を含むSAW素子領域が複数個形成されたSAW素子用基板を作製する。このようにして作製されたSAW素子用基板を切断(ダイシング)し、個々に分離されたSAW素子を得る。そして、SAW素子をセラミックパッケージに実装することでSAWフィルタが得られる。
【0004】
SAWフィルタの製造工程においては、IDT電極、接地パッド電極および入出力パッド電極を含むSAW素子用基板を作製するときに、圧電基板の焦電効果または静電気帯電によって各電極の静電破壊が生じる場合がある。
【0005】
特許文献1には、上述のような圧電基板の焦電効果または静電気帯電による各電極の静電破壊を防止するようにしたSAWフィルタの製造方法が開示されている。特許文献1に開示されたSAWフィルタの製造方法では、IDT電極、接地パッド電極および入出力パッド電極を含む複数のSAW素子領域と、複数のSAW素子領域のそれぞれの外周部に設けられるダイシング用の配線導体とを圧電基板上に形成する。このとき、圧電基板上に、接地パッド電極とダイシング用の配線導体とを電気的に接続する線状のパターン導体を形成することによって、圧電基板の焦電効果または静電気帯電により圧電基板表面に発生した電荷を、ダイシング用の配線導体に接続された接地パッド電極により電位を均一化することができ、各電極の静電破壊を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−77655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、無線機器の普及と需要増加にともない、電波の有効利用の観点から周波数割当が高密度化、高周波化され、隣接した周波数との相互干渉を防止することの要求がさらに高まってきている。そのため、SAWフィルタとしては、非常に急峻な減衰特性を示すフィルタ特性を有するものが求められる。このフィルタ特性を有するSAWフィルタとするために、SAW素子の圧電基板上に形成されるIDT電極の膜厚をより薄くすることが要求されている。そして、SAW素子の接地パッド電極および入出力パッド電極は、IDT電極と同じ導電膜から形成されているので、各パッド電極の膜厚は、IDT電極の薄膜化に応じて薄くなる。
【0008】
このように、薄膜化されたIDT電極、接地パッド電極および入出力パッド電極を有するSAW素子を製造する場合、アルカリ現像液を用いてレジスト膜を現像(ウエットエッチング)する際などに、接地パッド電極の膜減り量が入出力パッド電極の膜減り量よりも多くなってしまう。これは、接地パッド電極が配設面積の大きいダイシング用の配線導体に接続されていることにより、接地パッド電極のアルカリ現像液に対するエッチング速度が、入出力パッド電極のエッチング速度よりも速くなるためと考えられる。このように接地パッド電極の膜減り量が大きくなると、圧電基板と接地パッド電極との間に剥離が発生しやすくなり、SAW素子の品質信頼性が低下する。
【0009】
したがって本発明の目的は、極端に膜減り量が大きいパッド電極が発生するのを防止することができる弾性表面波素子の製造方法、弾性表面波素子および弾性表面波素子用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ウエハ状の圧電基板上に、複数の弾性表面波素子領域と、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれの外周部に設けられるダイシング用の配線導体とを形成する素子領域形成工程であって、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とを形成する素子領域形成工程と、
前記複数の弾性表面波素子領域および前記ダイシング用の配線導体の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜に露光して現像することによって、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜を形成するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜の上に導電膜を形成し、導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去して、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極を形成するリフトオフ工程と、
前記圧電基板を前記ダイシング用の配線導体に沿って切断し、それぞれ分離された弾性表面波素子を得るダイシング工程と、を含む弾性表面波素子の製造方法である。
【0011】
また本発明は、ウエハ状の圧電基板上に、複数の弾性表面波素子領域を形成する素子領域形成工程であって、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、弾性表面波素子領域の外周部に設けられて前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とを形成する素子領域形成工程と、
前記複数の弾性表面波素子領域の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜に露光して現像することによって、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜を形成するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜の上に導電膜を形成し、導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去して、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極を形成するリフトオフ工程と、
前記圧電基板を前記接地パッド電極接続パターン導体に沿って切断し、それぞれ分離された弾性表面波素子を得るダイシング工程と、を含む弾性表面波素子の製造方法である。
【0012】
また本発明は、圧電基板と、
前記圧電基板上に配設され、複数の電極指を有するIDT電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記IDT電極と接続される複数の接地パッド電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記IDT電極と接続される入出力パッド電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体と、
前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上に配設されるパッド補強電極と、を有する弾性表面波素子である。
【0013】
また本発明は、ウエハ状の圧電基板上に複数の弾性表面波素子領域が形成された弾性表面波素子用基板であって、
前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とが配設され、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極が形成される弾性表面波素子用基板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極端に膜減り量が大きいパッドが発生するのを防止して品質信頼性に優れた弾性波表面波素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態であるSAW素子10を示す概略的な平面図である。
【図2】IDT電極12の構成を示す図である。
【図3】SAW素子10を備えたSAWフィルタの減衰特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態であるSAW素子用基板40を示す平面図である。
【図5A】本発明の一実施形態であるSAW素子10の製造方法の流れを説明する図である。
【図5B】本発明の一実施形態であるSAW素子10の製造方法の流れを説明する図である。
【図5C】本発明の一実施形態であるSAW素子10の製造方法の流れを説明する図である。
【図6】本発明の第2実施形態であるSAW素子30を示す平面図である。
【図7】本発明の第2実施形態であるSAW素子用基板50を示す平面図である。
【図8】本発明の第3実施形態であるSAW素子用基板60を示す平面図である。
【図9】実施例および比較例の現像時におけるパッド電極の膜減り量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るSAW素子、SAW素子用基板、SAW素子の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態であるSAW素子10を示す概略的な平面図である。また、図2は、IDT電極12の構成を示す図である。SAW素子10は、圧電基板11上に、IDT電極12と、IDT電極12から導出される複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16と、複数の接地パッド電極13,14同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体18とが配設されたものである。また、複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16の上には、それぞれパッド補強電極13a,14a,15a,16aが形成されている。
【0018】
圧電基板11は、たとえばタンタル酸リチウム単結晶のXカット112°Y伝搬基板を用いることができる。圧電基板11としては、四硼酸リチウムおよびニオブ酸リチウムなどを用いてもよい。また、圧電基板11は、圧電基板11の厚み方向に垂直な仮想平面に投影した形状が矩形状に形成され、本実施形態では長方形状である。
【0019】
この圧電基板11の厚み方向一方主面上に、IDT電極12、接地パッド電極13,14、入出力パッド電極15,16および接地パッド電極接続パターン導体18が形成されており、これらは、銅(Cu)を含むアルミニウム(Al)合金(以下、「Al−Cu合金」という)などから成る金属導電膜(膜厚は、たとえば100〜10000Åに設定され、本実施形態では500Å程度である)をエッチング加工して形成されたものである。
【0020】
IDT電極12は、図2に示すように接地電極121と入出力電極122とを含んで構成される。IDT電極12における接地電極121と入出力電極122とは、各々が帯状の共通電極121a,122aと該共通電極121a,122aに対して直交する方向に延びる複数の電極指121b,122bとによって構成される櫛歯状電極を、その共通電極121a,122a同士が平行に配置され、かつ両共通電極121a,122aの対向領域内で櫛歯状電極の電極指121b,122bがSAWの伝搬方向に対して交互に配置されるように、かみ合わせた状態で対向配置させて構成される。なお、接地電極121の電極指121bと入出力電極122の電極指122bとの数、配線ピッチおよび寸法などは特に限定されず、SAW素子10の大きさやSAWの波長などに応じて適宜設定すればよい。また、IDT電極12に対するSAWの伝搬方向両端には、反射器19が設けられている。IDT電極12で励振されて伝搬するSAWは、反射器19によって反射され、定在波を発生させる。
【0021】
接地パッド電極13,14は、IDT電極12の接地電極121から導出される電極であり、圧電基板11の主面上に形成されるAl−Cu合金から成る接続パターン導体17を介してIDT電極12と電気的に接続されている。本実施形態では、圧電基板11の主面上に2つの接地パッド電極13,14が形成され、各接地パッド電極13,14は、圧電基板11の外周部における圧電基板11の中心に関して点対称となる位置に形成されている。また、各接地パッド電極13,14は、厚み方向に垂直な仮想平面に投影した形状が矩形状に形成され、本実施形態では略正方形状である。
【0022】
入出力パッド電極15,16は、IDT電極12の入出力電極122から導出される電極であり、前記接続パターン導体17を介してIDT電極12と電気的に接続されている。本実施形態では、圧電基板11の主面上に2つの入出力パッド電極15,16が形成され、各入出力パッド電極15,16は、圧電基板11の外周部における圧電基板11の中心に関して点対称となる位置に形成されている。また、各入出力パッド電極15,16は、厚み方向に垂直な仮想平面に投影した形状が矩形状に形成され、本実施形態では略正方形状である。
【0023】
接地パッド電極接続パターン導体18は、複数の接地パッド電極13,14同士を電気的に接続する導体である。本実施形態では、2つの接地パッド電極13,14同士が、線状に形成された1本の接地パッド電極接続パターン導体18によって電気的に接続され、この線状に形成された接地パッド電極接続パターン導体18は、圧電基板11の外周部に沿って設けられている。このように接地パッド電極13、14が互いに接地パッド電極接続パターン導体18を介して接続されることによって、接地パッド電極13、14それぞれが独立している場合よりも、接地パッド電極13、14の接地電位を安定化させることができ、SAW素子10の電気的特性が安定化する。
【0024】
また、SAW素子10において、複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16の表面上には、それぞれパッド補強電極13a,14a,15a,16aが形成されている。各パッド補強電極13a,14a,15a,16aは、たとえばAl及びAl合金から成る電極であり、その膜厚は1〜2μm程度である。
【0025】
以上のように構成されるSAW素子10は、フィルタとしての急峻遮断性能が高いSAWフィルタを構成可能な素子となる。SAWフィルタは、SAW素子10をセラミックパッケージに実装することで作製される。なお、SAW素子10をセラミックパッケージに実装するときには、SAW素子10の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16のそれぞれの表面上に設けられたパッド補強電極13a,14a,15a,16aと、セラミックパッケージのパッド電極とが接続されることになる。各パッド補強電極13a,14a,15a,16aと、セラミックパッケージのパッド電極との接続は、ワイヤーボンディングやフリップチップボンディングなどで行われる。また、フリップチップボンディングでは、各パッド補強電極13a,14a,15a,16a上にさらにバンプを形成する必要もある。
【0026】
図3は、SAW素子10を備えたSAWフィルタの減衰特性を示すグラフである。図3において横軸は、周波数(GHz)を示し、縦軸は減衰量(dB)を示す。グラフAは、本実施形態のSAW素子10を備えたSAWフィルタの減衰特性を示しており、グラフBは、従来技術のSAW素子を備えたSAWフィルタの減衰特性を示している。なお、SAWフィルタを構成するSAW素子において、圧電基板の主面上に形成されるIDT電極および各パッド電極の膜厚は、本実施形態のSAW素子10が500Å程度であるのに対して、従来技術のSAW素子が1500Å程度である。
【0027】
2.6GHzの周波数帯において、従来技術のSAW素子を備えたSAWフィルタが、通過域端から20MHz離れた周波数帯で30dB typ.の減衰特性を示すのに対して、本実施形態のSAW素子10を備えたSAWフィルタは、通過域端から5MHz離れた周波数帯で30dB typ.の減衰特性を示す。そのため、本実施形態のSAW素子10を備えたSAWフィルタは、非常に急峻な減衰特性を有し、隣接した周波数との電波干渉を防止できる。
【0028】
このように急峻な減衰特性を得るために、本実施形態のSAW素子10は、圧電基板11を伝搬するSAWとしてレイリー波を利用している。またレイリー波を有効に利用するためにIDT電極12や接続パターン17等は、SiO等からなる保護膜で覆われていない。レイリー波は圧電基板11のごく表面に近い部分を伝搬する波であり、保護膜を形成するとその伝搬が著しく阻害されてしまうためである。
【0029】
次に、SAW素子用基板について説明する。SAW素子10は、図4に示すSAW素子用基板40を切断(ダイシング)することによって作製することができる。図4は、本発明の第1実施形態であるSAW素子用基板40を示す平面図である。
【0030】
SAW素子用基板40は、ウエハ状の圧電基板11の主面上に複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dが形成された多数個取り用基板である。そして、複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dのそれぞれには、IDT電極12と、IDT電極12から導出される複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16と、複数の接地パッド電極13,14同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体18とが配設されている。また、複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16の表面上にそれぞれパッド補強電極13a,14a,15a,16aが形成されている。さらに、圧電基板11の主面上において、複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dのそれぞれの外周部には、ダイシング用の配線導体41が形成されている。すなわち、SAW素子用基板40は、圧電基板11をダイシング用の配線導体41に沿ってダイシングすることによって、圧電基板11の主面上に形成される複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dに対応して、フィルタとしての急峻遮断性能が高いSAWフィルタを構成可能な前述したSAW素子10を、複数個作製することができる。なお、圧電基板11をダイシング用の配線導体41に沿って切断するときには、得られるSAW素子10にダイシング用の配線導体41が残らないようにすることが好ましい。
【0031】
図5A、図5Bおよび図5Cは、本発明の一実施形態であるSAW素子10の製造方法の流れを説明する図である。以下に説明する工程は、いわゆるウエハプロセスにおいて実現される。すなわち、分割されることによって圧電基板11となるウエハ状の圧電基板を対象に各工程が行われ、最後にウエハ状の圧電基板をダイシングすることにより、多数個分のSAW素子10が並行して形成される。ただし、図5A〜図5Cでは、1つのSAW素子10に対応する部分のみを図示する。
【0032】
SAW素子10の製造方法は、素子領域形成工程、パッド補強電極用レジスト膜形成工程、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程、パッド補強電極用導電膜形成工程、リフトオフ工程、検査工程およびダイシング工程を含む。また、前記素子領域形成工程は、基板洗浄工程、下地導電膜形成工程、下地電極用レジスト膜パターニング工程およびエッチング工程を含む。
【0033】
まず、基板洗浄工程では、図5A(a)に示すように、圧電基板11をアセトン、イソプロピルアルコールなどを用いて超音波洗浄を施し、圧電基板11から有機成分の除去を行い、その後クリーンオーブンによって充分に基板乾燥を行う。次に下地導電膜形成工程では、図5A(b)に示すように、スパッタリング法を用いて圧電基板11の主面にAl−Cu合金などから成る金属導電膜21(膜厚は、たとえば500Å程度である)を形成する。
【0034】
次に下地電極用レジスト膜パターニング工程では、図5A(c)に示すように、金属導電膜21の上にレジストを塗布してレジスト膜22を形成し、縮小投影露光装置(ステッパー)によってレジスト膜22を所望の形状にパターン化し、現像装置によってレジスト膜22の不要部分をアルカリ現像液で溶解させ、パターニングされたレジスト膜22を形成する。
【0035】
次にエッチング工程では、図5B(d)に示すように、パターニングされたレジスト膜22をエッチングマスクとして、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、RIE)装置を用いて金属導電膜21のエッチングを行い、その後レジスト膜22を剥離する。このようにして、圧電基板11の主面上に、IDT電極12、接地パッド電極13,14、入出力パッド電極15,16、IDT電極12と各パッド電極13,14,15,16とを接続する接続パターン導体17および接地パッド電極接続パターン導体18で構成される複数のSAW素子領域と、ダイシング用の配線導体41とを形成する。ここでレイリー波を有効に利用できるようにすべく、各種電極上に保護膜は形成しない。
【0036】
次にパッド補強電極用レジスト膜形成工程では、図5B(e)に示すように、複数のSAW素子領域およびダイシング用の配線導体41の上にレジストを塗布してレジスト膜23を形成する。先に述べたように各種電極上には保護膜が形成されていないため、レジスト膜23が各種電極に直に接した状態となる。次に、縮小投影露光装置によってレジスト膜23を露光して接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16に対応する部分のレジスト膜23aを変性させる。そして、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程では、図5B(f)に示すように、現像装置によって変性したレジスト膜23aをアルカリ現像液で溶解させ、パターニングされたレジスト膜23を形成する。このときに、レジスト膜から露出した各パッド電極13,14,15,16がアルカリ現像液に晒されるため、これらのパッド電極も多少エッチングされることとなる。
【0037】
次にパッド補強電極用導電膜形成工程では、図5C(g)に示すように、スパッタリング法を用いてパターニングされたレジスト膜23の上にAl及びAl合金などから成る金属導電膜24を形成する。
【0038】
次にリフトオフ工程では、図5C(h)に示すように、金属導電膜24の不要部分をレジスト膜23とともに除去(リフトオフ)して、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16のそれぞれの表面上に、パッド補強電極13a,14a,15a,16aを形成する。
【0039】
以上の工程を経て、SAW素子用基板40を作製することができる。次に検査工程では、図5C(i)に示すように、周波数特性測定装置(たとえば、ネットワークアナライザ)のプローブ25をパッド補強電極13a,14a,15a,16aの表面に接触させて、素子特性を検査する。このとき、複数の接地パッド電極13,14同士が接地パッド電極接続パターン導体18によって接続されているので、接地パッド電極13に接続された接地電極121と、接地パッド電極14に接続された接地電極121とがほぼ同じ電位となる。
【0040】
このように接地パッド電極13と接地パッド電極14とが接地パッド電極接続パターン導体18により接続されていることによって、従来のように接地パッド電極13,14をダイシング用の配線導体に接続しなくとも、SAW素子の周波数特性の測定を精度良く行うことができる。
【0041】
これについてより詳しく述べる。周波数特性測定用のプローブは通常2種類あり、一方のプローブは入出力パッド電極(たとえば、入出力パッド電極16)に、他方のプローブは接地パッド電極(たとえば、接地パッド電極13)に接触させた状態で素子特性の測定が行われる。接地パッド電極には不要な電荷(たとえば、圧電基板11の焦電効果により生じた電荷)が付与されることがあるが、このような状態で測定器のプローブを接地パッド電極に接触させると、接地パッド電極に蓄積された不要な電荷の影響により接地用のプローブ側の信号が電気的に不安定な状態となり正確な測定値を得ることができない。
【0042】
そこで従来は、接地パッド電極をダイシング用の配線導体に接続し、接地パッド電極と導通する導体の面積を大きくすることによって、接地パッド電極に不要な電荷が過度に蓄積されないようにしていた。しかしながらこのような従来の構造、すなわち、接地パッド電極をダイシング用の配線導体に接続させた構造では、接地パッド電極に不要な電荷が蓄積されるのを防止することにより正確な測定を行うことはできるものの、一方で上記従来技術の課題で述べたように接地パッド電極のエッチング速度が他の電極のエッチング速度よりも速くなってしまい、接地パッド電極の膜減り量が多くなってしまうものであった。
【0043】
これに対し、本実施形態にかかるSAW素子10の製造方法によれば、接地パッド電極13をダイシング用の配線導体41には接続せず、接地パッド電極13と同じSAW素子領域内に存在する接地パッド電極14に、接地パッド電極接続パターン導体18を介して接続したことによって、接地パッド電極13に導通する導体の面積は、接地パッド電極13よりも大きくなるため、接地パッド電極13に不要な電荷が蓄積されるのを抑制することできるとともに、接地パッド電極13と導通している導体の面積が、ダイシング用の配線導体41ほど大きくないため、接地パッド電極13のエッチング速度が他の電極のエッチング速度よりも過度に速くなることがない。すなわち、本実施形態にかかるSAW素子10の製造方法は、精度の高い測定と接地パッド電極の極端な膜減り量の抑制とを同時に実現できる。
【0044】
検査工程に続いて行われるダイシング工程では、SAW素子用基板40を、ダイシング用の配線導体41に沿ってダイシング)し、それぞれ分離された複数のSAW素子10を得る。
【0045】
以上のように、SAW素子10の製造方法では、素子領域形成工程において複数の接地パッド電極13,14同士を接続する接地パッド電極接続パターン導体18を形成するので、圧電基板11の焦電効果または静電気帯電により圧電基板11表面に発生した電荷を、接地パッド電極接続パターン導体18に接続された接地パッド電極13,14により電位を均一化することができ、各電極の静電破壊を防止することができる。
【0046】
さらに、各接地パッド電極13,14は、配設面積の大きいダイシング用の配線導体41と接続されることなく設けられている。そのため、圧電基板11の焦電効果または静電気帯電により圧電基板11表面に発生した電荷が蓄積する蓄電量に関して、接地パッド電極13,14と入出力パッド電極15,16とは同程度である。これによって、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程(図5B(f))において、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜23を現像することによって形成するとき、複数の接地パッド電極13,14と入出力パッド電極15,16とにおける、アルカリ現像液に対するエッチング速度が同程度となり、各パッド電極13,14,15,16の現像による膜減り量を均一化して、極端に膜減り量が大きいパッド電極が発生するのを防止することができる。したがって、パッド電極13,14,15,16において、圧電基板11との間に剥離が発生するのを防止することができ、SAW素子10の品質信頼性を高めることができる。
【0047】
図6は、本発明の第2実施形態であるSAW素子30を示す平面図である。SAW素子30は、前述した第1実施形態のSAW素子10に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0048】
SAW素子30は、圧電基板11上に、IDT電極12と、IDT電極12から導出される複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16とが配設されたものであり、複数の接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16の上に、それぞれパッド補強電極13a,14a,15a,16aが形成されている。また、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16は、接続パターン導体17を介してIDT電極12と電気的に接続されている。
【0049】
そして、SAW素子30において、複数の接地パッド電極13,14同士は、接地パッド電極接続パターン導体18と接地パッド電極接続パターン導体31との複数の接地パッド電極接続パターン導体で接続されている。本実施形態では、各接地パッド電極接続パターン導体18,31は、線状に形成されて圧電基板11の外周部に沿って設けられている。具体的には、接地パッド電極接続パターン導体18が圧電基板11における直交する2辺に沿って設けられ、接地パッド電極接続パターン導体31が前記2辺の反対側の2辺に沿って設けられて、2本の接地パッド電極接続パターン導体18,31が組み合わされて、圧電基板11の外周部の全周を取り囲むようにされている。
【0050】
以上のように構成されるSAW素子30は、前述したSAW素子10と同様にして製造することができる。具体的には、SAW素子30を製造するとき、素子領域形成工程では、複数の接地パッド電極13,14同士が複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31で接続されるように、圧電基板11の主面にSAW素子領域を形成する。このこと以外は、前述したSAW素子10の製造方法と同様にして、SAW素子30を製造することができる。
【0051】
このようなSAW素子30の製造方法では、素子領域形成工程において複数の接地パッド電極13,14同士を複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31で接続するので、圧電基板11の焦電効果または静電気帯電により圧電基板11表面に発生した電荷を、複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31に接続された接地パッド電極13,14により電位を効率的に均一化することができ、各電極の静電破壊を効果的に防止することができる。
【0052】
図7は、本発明の第2実施形態であるSAW素子用基板50を示す平面図である。SAW素子用基板50は、前述した第1実施形態のSAW素子用基板40に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0053】
SAW素子用基板50は、前述したSAW素子10を作製することができる基板である。このSAW素子用基板50は、圧電基板11の主面上にダイシング用の配線導体が形成されていないこと以外は、前述したSAW素子用基板40と同様であり、圧電基板11の主面上にSAW素子10に対応した複数のSAW素子領域10a,10b,10c,10dのみが形成された基板である。
【0054】
SAW素子用基板50を切断することによってSAW素子10を作製するときの製造方法(以下、「SAW素子10を作製する他の製造方法」という)について、以下に説明する。
【0055】
SAW素子10を作製する他の製造方法は、素子領域形成工程、パッド補強電極用レジスト膜形成工程、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程、パッド補強電極用導電膜形成工程、リフトオフ工程およびダイシング工程を含む。素子領域形成工程では、圧電基板11の主面上に、IDT電極12、接地パッド電極13,14、入出力パッド電極15,16、IDT電極12と各パッド電極とを接続する接続パターン導体17および接地パッド電極接続パターン導体18で構成される複数のSAW素子領域を形成し、ダイシング用の配線導体は形成しない。このとき、接地パッド電極接続パターン導体18は、SAW素子領域の外周部に設けられる。
【0056】
次にパッド補強電極用レジスト膜形成工程では、複数のSAW素子領域の上にレジストを塗布してレジスト膜を形成し、縮小投影露光装置によってレジスト膜を露光して接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16に対応する部分のレジスト膜を変性させる。そして、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程では、現像装置によって変性したレジスト膜をアルカリ現像液で溶解させ、パターニングされたレジスト膜を形成する。次にパッド補強電極用導電膜形成工程では、スパッタリング法を用いてパターニングされたレジスト膜の上に金属導電膜を形成する。次にリフトオフ工程では、金属導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去(リフトオフ)して、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16のそれぞれの表面上に、パッド補強電極13a,14a,15a,16aを形成する。
【0057】
以上の工程を経て、SAW素子用基板50を作製することができる。そして、ダイシング工程では、SAW素子用基板50を、接地パッド電極接続パターン導体18に沿う線であり、接地パッド電極接続パターン導体18よりも外側の線51に沿って切断(ダイシング)し、それぞれ分離された複数のSAW素子10を得る。
【0058】
SAW素子10を作製する他の製造方法では、素子領域形成工程において複数の接地パッド電極13,14同士を接続する接地パッド電極接続パターン導体18を形成するので、圧電基板11の主面上に形成される各電極における、圧電基板の焦電効果または静電気帯電による静電破壊を防止することができる。
【0059】
さらに、各接地パッド電極13,14は、配設面積の大きいダイシング用の配線導体と接続されることなく設けられている。そのため、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程において、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜を現像することによって形成するとき、各パッド電極13,14,15,16の現像による膜減り量を均一化して、極端に膜減り量が大きいパッド電極が発生するのを防止することができる。
【0060】
また、ダイシング工程では、SAW素子領域の外周部に設けられた接地パッド電極接続パターン導体18に沿ってSAW素子用基板50を切断し、個々に分離されたSAW素子10を得る。すなわち、接地パッド電極接続パターン導体18が、ダイシング用の配線導体としての役割を兼ねることになるので、圧電基板11におけるダイシング用の配線導体を配設するのに相当する面積分を省略することができ、そのため、1つのSAW素子用基板50から得られるSAW素子10の個数を増やすことができて、生産効率を向上することができる。
【0061】
図8は、本発明の第3実施形態であるSAW素子用基板60を示す平面図である。SAW素子用基板60は、前述した第2実施形態のSAW素子用基板50に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0062】
SAW素子用基板60は、前述したSAW素子30を作製することができる基板である。このSAW素子用基板60は、圧電基板11の主面上にダイシング用の配線導体が形成されていないことは前述したSAW素子用基板50と同様であり、複数の接地パッド電極13,14同士が、複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31で接続されている点で異なる。
【0063】
SAW素子用基板60を切断することによってSAW素子30を作製するときの製造方法(以下、「SAW素子30を作製する他の製造方法」という)について、以下に説明する。
【0064】
SAW素子30を作製する他の製造方法は、素子領域形成工程、パッド補強電極用レジスト膜形成工程、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程、パッド補強電極用導電膜形成工程、リフトオフ工程およびダイシング工程を含む。素子領域形成工程では、圧電基板11の主面上に、IDT電極12、接地パッド電極13,14、入出力パッド電極15,16、IDT電極12と各パッド電極とを接続する接続パターン導体17および複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31で構成される複数のSAW素子領域30a,30b,30c,30dを形成し、ダイシング用の配線導体は形成しない。このとき、複数の接地パッド電極接続パターン導体18,31は、各SAW素子領域30a,30b,30c,30dの外周部に設けられる。具体的には、接地パッド電極接続パターン導体18が、矩形状の各SAW素子領域30a,30b,30c,30dにおける直交する2辺に沿って形成され、接地パッド電極接続パターン導体31が、前記2辺の反対側の2辺に沿って形成されて、2本の接地パッド電極接続パターン導体18,31が組み合わされて、各SAW素子領域30a,30b,30c,30dの外周部の全周を取り囲むようにされている。
【0065】
次にパッド補強電極用レジスト膜形成工程では、複数のSAW素子領域30a,30b,30c,30dの上にレジストを塗布してレジスト膜を形成し、縮小投影露光装置によってレジスト膜を露光して接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16に対応する部分のレジスト膜を変性させる。そして、パッド補強電極用レジスト膜パターニング工程では、現像装置によって変性したレジスト膜をアルカリ現像液で溶解させ、パターニングされたレジスト膜を形成する。次にパッド補強電極用導電膜形成工程では、スパッタリング法を用いてパターニングされたレジスト膜の上に金属導電膜を形成する。次にリフトオフ工程では、金属導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去(リフトオフ)して、接地パッド電極13,14および入出力パッド電極15,16のそれぞれの表面上に、パッド補強電極13a,14a,15a,16aを形成する。
【0066】
以上の工程を経て、SAW素子用基板60を作製することができる。そして、ダイシング工程では、異なる2つのSAW素子領域にそれぞれ形成された、2本の接地パッド電極接続パターン導体の間隙をダイシングライン61として切断(ダイシング)する。具体的には、たとえば、SAW素子領域30aの接地パッド電極接続パターン導体18と、SAW素子領域30bの接地パッド電極接続パターン導体31との間隙をダイシングライン61として切断する。これによって、それぞれ分離された複数のSAW素子30を得ることができる。
【0067】
(実施例)
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
以下に示す手順に従って、前述したSAW素子10を作製した。まず、タンタル酸リチウム単結晶のXカット112°Yから成る圧電基板(厚み:0.25mm)の主面上に、Al−Cu合金から成るIDT電極、2つの接地パッド電極、2つの入出力パッド電極、IDT電極と各パッド電極とを接続する接続パターン導体、および1本の接地パッド電極接続パターン導体で構成されるSAW素子領域と、このSAW素子領域の外周部に設けられるダイシング用の配線導体とを形成した。このとき、接地パッド電極と入出力パッド電極とは、表面形状が同じ略正方形状であり、パッド電極の全表面積は160mmとし、膜厚は500Åとした。
【0069】
次に、SAW素子領域およびダイシング用の配線導体の上にレジストを塗布してレジスト膜を形成し、このレジスト膜に露光してアルカリ現像液を用いて現像することによって、接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が溶解除去されてパターニングされたレジスト膜を形成した。
【0070】
(比較例1)
以下に示す従来技術に係るSAW素子の製造方法に従って、SAW素子を作製した。まず、タンタル酸リチウム単結晶のXカット112°Yから成る圧電基板(厚み:0.25mm)の主面上に、Al−Cu合金から成るIDT電極、2つの接地パッド電極、2つの入出力パッド電極、およびIDT電極と各パッド電極とを接続する接続パターン導体で構成されるSAW素子領域と、このSAW素子領域の外周部に設けられるダイシング用の配線導体と、各接地パッド電極とダイシング用の配線導体とを接続する線状の配線導体とを形成した。このとき、接地パッド電極と入出力パッド電極とは、表面形状が同じ略正方形状であり、パッド電極の全表面積は160mmとし、膜厚は500Åとした。
【0071】
次に、SAW素子領域およびダイシング用の配線導体の上にレジストを塗布してレジスト膜を形成し、このレジスト膜に露光してアルカリ現像液を用いて現像することによって、接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が溶解除去されてパターニングされたレジスト膜を形成した。
【0072】
実施例1および比較例1について、アルカリ現像液を用いて現像することによってパターニングされたレジスト膜を形成するときの、各パッド電極における膜減り量を評価した。この各パッド電極における膜減り量の評価結果について、図9を用いて説明する。
【0073】
図9は、実施例および比較例の現像時におけるパッド電極の膜減り量の結果を示すグラフである。図9(a)は実施例1における評価結果を示し、図9(b)は比較例1における評価結果を示す。また、図9(a)および図9(b)において横軸はアルカリ現像液による現像時間(秒)を示し、縦軸は各パッド電極における膜減り量(Å)を示す。図9(a)において、グラフCは接地パッド電極の膜減り量を示し、グラフDは入出力パッド電極の膜減り量を示す。図9(b)において、グラフEは接地パッド電極の膜減り量を示し、グラフFは入出力パッド電極の膜減り量を示す。
【0074】
ここで、各パッド電極の膜減り量は、現像前におけるパッド電極の膜厚と現像後の膜厚とを測定し、その差を膜減り量とした。そして、現像時間を変化させたときの各パッド電極における膜減り量の変化を評価した。なお、各パッド電極の膜厚は、触針式膜厚測定器(モデル名:dektak 6M、Veeco社製)を用いて測定した。
【0075】
実施例1では、各接地パッド電極は、配設面積の大きいダイシング用の配線導体と接続されることなく設けられている。そのため、図9(a)から明らかなように、接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜をアルカリ現像液を用いて現像することによって形成するとき、各パッド電極の現像による膜減り量が均一化されていることが分かり、極端に膜減り量が大きいパッド電極が発生するのが防止されていた。したがって、レジスト膜の除去残渣が発生するのを防止するために予め定められる現像時間(たとえば、150秒間)において、接地パッド電極と入出力パッド電極との、いずれのパッド電極も充分な膜厚を有していた。
【0076】
これに対して比較例1では、各接地パッド電極は、ダイシング用の配線導体と線状の配線導体を介して接続されている。そのため、図9(b)から明らかなように、配設面積の大きいダイシング用の配線導体に接続された接地パッド電極のアルカリ現像液に対するエッチング速度が、入出力パッド電極のエッチング速度よりも速く、同じ現像時間で比較したときに、接地パッド電極の膜減り量が大きくなってしまう。そのため、レジスト膜の除去残渣が発生するのを防止するために予め定められる現像時間(たとえば、150秒間)においては、接地パッド電極の膜減り量が500Åに達して、接地パッド電極が完全に除去されてしまっていた。
【0077】
この結果から明らかなように、実施例1のSAW素子10は、各パッド電極の膜減り量を均一化することができるため、パッド電極の剥離が少なくなりSAW素子の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0078】
10,30 SAW素子
11 圧電基板
12 IDT電極
13,14 接地パッド電極
13a,14a 接地パッド補強電極
15,16 入出力パッド電極
15a,16a 入出力パッド補強電極
17 接続パターン導体
18,31 接地パッド電極接続パターン導体
19 反射器
21,24 金属導電膜
22,23 レジスト膜
25 プローブ
40,50,60 SAW素子用基板
41 ダイシング用の配線導体
121 接地電極
121b,122b 電極指
122 入出力電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハ状の圧電基板上に、複数の弾性表面波素子領域と、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれの外周部に設けられるダイシング用の配線導体とを形成する素子領域形成工程であって、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とを形成する素子領域形成工程と、
前記複数の弾性表面波素子領域および前記ダイシング用の配線導体の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜に露光して現像することによって、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜を形成するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜の上に導電膜を形成し、導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去して、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極を形成するリフトオフ工程と、
前記圧電基板を前記ダイシング用の配線導体に沿って切断し、それぞれ分離された弾性表面波素子を得るダイシング工程と、を含む弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
ウエハ状の圧電基板上に、複数の弾性表面波素子領域を形成する素子領域形成工程であって、前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、弾性表面波素子領域の外周部に設けられて前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とを形成する素子領域形成工程と、
前記複数の弾性表面波素子領域の上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜に露光して現像することによって、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極に対応する部分が除去されてパターニングされたレジスト膜を形成するレジスト膜パターニング工程と、
パターニングされた前記レジスト膜の上に導電膜を形成し、導電膜の不要部分をレジスト膜とともに除去して、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極を形成するリフトオフ工程と、
前記圧電基板を前記接地パッド電極接続パターン導体に沿って切断し、それぞれ分離された弾性表面波素子を得るダイシング工程と、を含む弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
前記素子領域形成工程では、前記複数の接地パッド電極同士が複数の前記接地パッド電極接続パターン導体で接続されるように、弾性表面波素子領域を形成する請求項1または2記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
圧電基板と、
前記圧電基板上に配設され、複数の電極指を有するIDT電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記IDT電極と接続される複数の接地パッド電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記IDT電極と接続される入出力パッド電極と、
前記圧電基板上に配設され、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体と、
前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上に配設されるパッド補強電極と、を有する弾性表面波素子。
【請求項5】
ウエハ状の圧電基板上に複数の弾性表面波素子領域が形成された弾性表面波素子用基板であって、
前記複数の弾性表面波素子領域のそれぞれには、複数の電極指を有するIDT電極と、前記IDT電極から導出される複数の接地パッド電極および入出力パッド電極と、前記複数の接地パッド電極同士を電気的に接続する接地パッド電極接続パターン導体とが配設され、前記複数の接地パッド電極および入出力パッド電極の上にパッド補強電極が形成される弾性表面波素子用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−97481(P2011−97481A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251528(P2009−251528)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】