説明

弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置

【課題】 液体が滴下された圧電基体の領域を自動的に洗浄し、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させることにある。
【解決手段】 平板状圧電基体11上に形成され、高周波信号を受けて弾性表面波を発生する三組の櫛型電極12〜14と、各櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置21〜23とを備え、前記三組の櫛型電極は、発生する弾性表面波の伝播方向が圧電基体の面上の1点で交差するように配置され、少なくとも一つの液体滴下装置22,23から霧化させたい液体を滴下し、対応する櫛型電極13,14で発生する弾性表面波で霧化し、他の一つの液体滴下装置21から圧電基体面上を洗浄する洗浄液を滴下し、対応する櫛型電極12で発生する弾性表面波で霧化あるいは流動させ圧電基体の面上を洗浄する弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上に弾性表面波を発生させ、その発生された弾性表面波を受信する弾性表面波素子についてはよく知られている。
【0003】
ここで、弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝播する弾性波のことである。弾性表面波の例としては、レーリー波、セザワ波、擬セザワ波、ラブ波等が挙げられる。
【0004】
その中でも、従来からよく知られている弾性表面波素子としては、平面型の弾性表面波素子がある。この平面型の弾性表面波素子は、平坦な基材上に配置された平坦な圧電材料で形成された圧電基体表面上に櫛型電極が設けられている。この櫛型電極に対して、高周波を印加すると、弾性表面波が発生して圧電基体表面を伝播する。
【0005】
このような平面型の弾性表面波素子の応用例の一つとして、弾性表面波によって液体を霧化させる超音波霧化装置が挙げられる。
【0006】
超音波霧化装置の一例としては、櫛型電極に高周波を印加して弾性表面波を発生させて圧電基体表面を伝播させ、この弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下させることで弾性表面波のエネルギーを液滴に伝え、これにより液滴を霧化、飛翔させるといった構成の装置である(特許文献1参照)。
【0007】
従って、このような超音波霧化装置を利用すれば、水、水溶液、有機液体、オイル、各種処理液、薬液、インク、匂い物質などの各種の液体を、粒径数十〜数百μm程度の微粒子に霧化させることが可能となる。その結果、超音波霧化装置は、従来のインクジェット法などと比較してより粒径の小さい微粒子を得ることができること、揮発性の低い液体であっても容易に霧化できることなどの特長を有しており、表面処理装置、印刷機、医療機器、匂い再生装置など広範な用途への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−114467号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ 2010年9月号 Vo;16,No.9、pp.72−79(ISSN 1341−3961)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上のような超音波霧化装置を用いて異なる液体を連続して霧化させる場合、先に圧電材料上に滴下した液体が残った状態のまま、新しく別の液体を滴下して霧化させると、先に滴下した液体と新たに滴下した液体が混ざり合って同時に霧化されてしまうこと(以下、コンタミネーションと略記する)が予想される。特に、超音波霧化装置を例えば匂い再生装置として応用することを考えた場合、コンタミネーションが発生すると異なる匂い物質が混ざり合った状態で霧化され、所望の匂いを再現することができず、好ましい結果が得られない。
【0011】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであって、複数の種類の液体を滴下しつつ任意の比率で調合して霧化でき、また液体が滴下された圧電基体の領域を自動的に洗浄し、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させる弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明は、圧電材料で形成された平板状圧電基体と、この平板状圧電基体の面上に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する少なくとも三組以上の櫛型電極と、これら複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記三組以上の櫛型電極は、それぞれ発生する弾性表面波の伝播方向が前記平板状圧電基体の面上の1点で交差するように配置され、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化し、残りの他の少なくとも一つの液体滴下装置から前記平板状圧電基体の面上を洗浄する洗浄液を滴下し、当該他の少なくとも一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化あるいは流動させることで前記平板状圧電基体の面上を洗浄することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0013】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明の構成に新たに、平板状圧電基体の面上に、前記複数の液体滴下装置から滴下された洗浄液を含む液体が霧化された際に前記平板状圧電基体の面上近傍への拡散を防ぐ覆い体が設けられ、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化し、残りの他の少なくとも一つの液体滴下装置から前記平板状圧電基体の面上を洗浄する洗浄液を滴下し、前記他の少なくとも一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化あるいは流動させるとともに、前記覆い体により当該霧化あるいは流動させた液体が拡散しないようにすることを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0014】
また、請求項3に対応する発明は、圧電材料で形成された平板状圧電基体と、この平板状圧電基体の面上に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する少なくとも三組以上の櫛型電極と、各櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置と、前記平板状圧電基体の面上のほぼ2分するライン上に形成された液体流路溝とを備え、
前記三組以上の櫛型電極は、それぞれ発生する弾性表面波の伝播方向が前記平板状圧電基体の面上の1点で交差するように配置され、
前記複数の液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、前記液体流路溝近傍で混合し、これら液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波を利用して霧化した後、前記液体流路溝に洗浄液を流して前記平板状圧電基体を洗浄することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0015】
さらに、請求項4に対応する発明は、前記液体滴下装置から滴下された液体の霧化と前記洗浄液の供給とを交互に行い、先に滴下し霧化された液体の匂いと交じり合うことなく、新たに滴下し霧化された液体の匂いを再生出力することを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に対応する発明に記載の超音波霧化装置を用いた匂い再生装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の種類の液体を滴下しつつ任意の比率で調合して霧化でき、また液体が滴下された圧電基体の領域を自動的に洗浄し、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させる弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第1の実施形態を説明する斜視図及び平面図。
【図2】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第2の実施形態を説明する斜視図及び平面図。
【図3】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第3の実施形態を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態:請求項1に係る発明に対応)
図1(a)、(b)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第1の実施形態を説明する斜視図及び平面図である。
【0019】
この超音波霧化装置は、平板状に切り出された圧電材料からなる平板状圧電基体11と、平板状圧電基体11の表面上に形成される三組の櫛型電極12、13、14とを備えている。
【0020】
平板状圧電基体11としては、水晶、ランガサイト、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどの圧電材料からなる。なお、図1において平板状圧電基体11は円盤状に切り出されているが、必ずしもこの形態に限定される必要はなく、平板状で任意の形態を有していてもよい。
【0021】
櫛型電極12、13、14は、銅、銀、金、白金、クロムなどのような金属材料からなり、平板状圧電基体11の表面上に蒸着、スパッタ、リソグラフィー、印刷、無電解めっきなどのような公知の技術を適宜組み合わせることにより形成される。櫛型電極12、13、14は、何れも平板状圧電基体11とは別体的に配置される高周波電源(不図示)に接続され、当該高周波電源から出力される高周波信号が印加されたとき、櫛型電極12、13、14から高周波信号により励起された弾性表面波が発生し、圧電基体11の表面を伝播させることができる。
【0022】
なお、平板状圧電基体11の表面上に三組の櫛型電極12、13、14が設けられているが、必ずしもこの形態に限定される必要はない。例えば三組以上の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝搬方向が前記平板状圧電基体11表面上の1点で交差していればよい。
【0023】
また、櫛型電極12、13、14で発生する弾性表面波の伝播経路上で、かつ平板状圧電基体11に対して鉛直な方向の上部にはそれぞれ液体滴下装置21、22、23が設けられている。
【0024】
液体滴下装置21、22、23は、液体を任意の量あるいは複数の種類の液体による任意の比率の量、任意のタイミングで弾性表面波の伝播経路上に滴下できるような機能を有している。液体滴下装置21、22、23には、電磁弁、ダイヤフラムバルブ、インクジェット素子、電気浸透流ポンプなどのような素子を用いてもよい。
【0025】
なお、液体滴下装置21、22、23のうち少なくとも一つの液体滴下装置からは洗浄液、それ以外の液体滴下装置からは霧化させたい液体が、それぞれ平板状圧電基体11上に滴下される。
【0026】
洗浄液としては、平板状圧電基体11上に滴下された霧化させたい液体を溶解することができる溶媒、例えば水、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、トルエンなどのような液体が適宜選択的に用いられる。
【0027】
例えば、図1に示す超音波霧化装置を用いて、液体滴下装置22、23からそれぞれ酪酸メチルおよびカプロン酸エチル(どちらもリンゴ臭を有する香料)を平板状圧電基体11上に滴下、霧化させ、その後に液体滴下装置21からアセトンを平板状圧電基体11上に滴下し、当該平板状圧電基体11上を洗浄する例について考えてみる。
【0028】
先ず、液体滴下装置22、23からそれぞれ所望の量の酪酸メチル及びカプロン酸エチルを平板状圧電基体11上に滴下する。
【0029】
このとき、高周波電源から出力される高周波信号を櫛型電極13及び14に印加し、弾性表面波を発生させる。各櫛型電極13、14で発生した弾性表面波は、何れも平板状圧電基体11の中心に向かって伝播する。この弾性表面波の伝播経路上にはそれぞれ酪酸メチルおよびカプロン酸エチルが滴下されているので、これらの滴下液は弾性表面波のエネルギーにより霧化される。霧化された酪酸メチルおよびカプロン酸エチルは、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと出力される。
【0030】
なお、櫛型電極12、13、14の設計条件や高周波電源から出力する高周波の周波数などを適宜調整することによって、櫛型電極12、13、14において発生する弾性表面波のエネルギーを利用して、液体を霧化させるだけでなく、液体を弾性表面波の伝播方向に沿って流動させることが可能になる。
【0031】
そこで、液体が弾性表面波の伝播方向に沿って流動することを利用し、液体滴下装置22、23からそれぞれ酪酸メチル及びカプロン酸エチルを滴下した後、櫛型電極13及び14で発生する弾性表面波のエネルギーを用いて、酪酸メチル及びカプロン酸エチルを平板状圧電基体11の中心(櫛型電極13,14にて発生させた弾性表面波の伝搬方向の交点)付近まで流動させ、これらを混合した後に霧化させてもよい。
【0032】
次に、液体滴下装置21から洗浄液として適当な量のアセトンを平板状圧電基体11上に滴下する。このとき、高周波電源から出力された高周波信号が櫛型電極12に印加されると、当該櫛型電極12から弾性表面波が発生し、平板状圧電基体11の中心(櫛型電極13及び14にて発生させた弾性表面波の伝搬方向の交点)に向かって伝播する。この弾性表面波の伝播経路上にはアセトンが滴下されているので、当該アセトンが弾性表面波のエネルギーにより霧化される。霧化されたアセトンは、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと排出される。
【0033】
このとき、平板状圧電基体11上に酪酸メチルおよびカプロン酸エチルが残っていてもアセトンにより溶解され、弾性表面波のエネルギーによりアセトンとともに霧化されるため、平板状圧電基体11の面上が洗浄される。
【0034】
なお、前述した通り、櫛型電極で発生する弾性表面波のエネルギーを利用して、液体を霧化させるだけでなく流動させることも可能になる。これを利用して、液体滴下装置21からアセトンを平板状圧電基体11に滴下した後、櫛型電極12で発生させた弾性表面波のエネルギーによってアセトンを平板状圧電基体11の中心に向かって流動させ、さらに平板状圧電基体11の中心から見て櫛型電極12とは反対側の方向に流動させてゆき、平板状圧電基体11の外部へと排出させてもよい。
【0035】
このとき、平板状圧電基体11の面上に酪酸メチルおよびカプロン酸エチルが残っていてもアセトンにより溶解され、弾性表面波のエネルギーによりアセトンとともに流動し、平板状圧電基体11の外部へと排出されるため、平板状圧電基体11の面上が洗浄される。
【0036】
従って、以上のような実施形態によれば、液体滴下装置22及び23から霧化させたい液体を滴下し、櫛型電極13及び14からの弾性表面波を利用して液体を霧化させる一方、液体滴下装置21から洗浄液を滴下して櫛型電極12からの弾性表面波により洗浄液を霧化あるいは流動させることで平板状圧電基体11上を洗浄する、といった一連の動作を交互に行うことにより、平板状圧電基体11の面部が清浄に保ち、液体滴下装置22及び23から新しく別の液体を滴下した際にも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることが可能になる。
【0037】
(第2の実施形態:請求項2に係る発明に対応)
図2(a)、(b)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第2の実施形態を説明する斜視図及び平面図である。
【0038】
この実施形態における超音波霧化装置は、図1に示す超音波霧化装置と比較して、平板状圧電基体11の上面部に、当該平板状圧電基体11と平行に扇形状を有する覆い体31が設けられている。覆い体31は、金属、樹脂、セラミックなどの材料からなり、平板状圧電基体11の上面部のうち、例えば櫛型電極13、14の近傍領域を覆うように配置されている。
【0039】
この超音波霧化装置においては、液体滴下装置22及び23から霧化させたい液体を滴下し、櫛型電極13及び14からの弾性表面波により液体を霧化させる一方、液体滴下装置21から洗浄液を滴下して櫛型電極12からの弾性表面波により洗浄液を霧化あるいは流動させることによって平板状圧電基体11上を洗浄する、といった一連の動作を交互に行うことにより、図1の超音波霧化装置と同様な機能を発揮する。すなわち、第2の実施形態においても、平板状圧電基体11の面部を清浄に保ち、液体滴下装置22及び23から新しく別の液体を滴下した際にも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることができる。
【0040】
ところで、前述するように平板状圧電基体11上面部に扇形状をなす覆い体31を設けたが、その作用について説明する。
【0041】
平板状圧電基体11のうち、櫛型電極13、14の領域付近には覆い体31が覆われているため、液体滴下装置22及び23から滴下された液体は櫛型電極13及び14からの弾性表面波により霧化され、平板状圧電基体11の覆い体31を除く近傍へ容易に拡散していくのに対して、液体滴下装置21から滴下された洗浄液は、櫛型電極12からの弾性表面波により霧化されても、覆い体31が存在するため、平板状圧電基体11の近傍へ拡散していくことを防止できる。
【0042】
その結果、液体滴下装置22及び23から滴下される霧化させたい液体のみを霧化し圧電基体11の近傍へ拡散させ、装置の外部へと出力させることが可能になる。また、このとき、圧電基体11と覆い体31との間に排気装置(不図示)などを設ければ、より確実に液体滴下装置21から滴下された洗浄液が霧化されて圧電基体11の近傍へ拡散していくことを防止できる。
【0043】
(第3の実施形態:請求項3に係る発明に対応)
図3は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第3の実施形態を説明する平面図である。
【0044】
この超音波霧化装置は、平板状に切り出された圧電材料の平板状圧電基体11の表面に四組の櫛型電極12、13、14、15が当該平板状圧電基体11のほぼ等間隔となる周縁部位置から中心方向に向って設けられている。
【0045】
そして、これら櫛型電極12、13、14、15で発生する弾性表面波の伝播経路上で、かつ平板状圧電基体11に対して鉛直な方向の上部にはそれぞれ液体滴下装置21、22、23,24が設けられている。
【0046】
さらに、平板状圧電基体11上には、圧電基体11中心を通ってほぼ2分するライン上に切り溝32が形成される。切り溝32は、平板状圧電基体11に対して、機械加工、切削、リソグラフィー、エッチングなどのような公知の技術を適宜選択することにより形成される。
【0047】
この超音波霧化装置は、図1及び図2に示す超音波霧化装置とは異なり、液体滴下装置21、22、23、24の全てから霧化させたい液体を平板状圧電基体11上に滴下する。その後、櫛型電極12、13、14、15で発生する弾性表面波のエネルギーによって、霧化させたい液体を平板状圧電基体11の中心付近の切り溝32の近傍まで流動させ、これらを混合してから霧化させる。霧化した後、ファン、ポンプなどのような適当な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと出力される。
【0048】
すなわち、この超音波霧化装置は、図1及び図2の超音波霧化装置とは異なり、平板状圧電基体11上を洗浄するための洗浄液は、液体滴下装置21、22、23、24から滴下した液体を霧化した後、液体滴下装置を用いず、切り溝32を流路とし、必要に応じてポンプまたはシリンジ(不図示)などを利用して流すことにより、平板状圧電基体11上に導入される。
【0049】
このとき、平板状圧電基体11の中心付近の切り溝32の近傍に、液体滴下装置21、22、23、24から滴下した液体が残っていても、切り溝32に流される洗浄液により溶解され、平板状圧電基体11の外部へと排出されるため、平板状圧電基体11の面上が洗浄される。
【0050】
従って、第3の実施形態に係る超音波霧化装置は、液体滴下装置21、22、23、24から霧化させたい液体を滴下し、櫛型電極12、13、14、15からの弾性表面波により液体を平板状圧電基体11の中心付近の切り溝32の近傍まで流動させ、これらを混合してから霧化させる一方、切り溝32に洗浄液を流して平板状圧電基体11上を洗浄する、といった一連の動作を交互に行うことにより、平板状圧電基体11の面部を清浄に保ち、液体滴下装置21〜24から新しく別の液体を滴下した際にも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることができる。
【0051】
この超音波霧化装置は、図1及び図2に示す超音波霧化装置とは異なり、切り溝32に洗浄液を流して平板状圧電基体11上を洗浄しているため、洗浄液の回収が容易になり、洗浄液が平板状圧電基体11の近傍へ拡散していくことを防止できる。
【0052】
なお、平板状圧電基体11は円盤状に切り出されているが、必ずしもこの形態に限定される必要はなく、平板状で任意の形態を有していてよい。また、平板状圧電基体11上には四組の櫛型電極12〜15が設けられているが、櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播方向が平板状圧電基体11上の弾性表面波の伝播経路に沿っていれば、任意の個数の櫛型電極を設けてもよい。また、櫛型電極12〜15で発生する弾性表面波の伝播方向が平板状圧電基体11上の1点で交わるように設計されていれば、平板状圧電基体11上の任意の位置に櫛型電極12〜15を設けてもよい。
【0053】
さらに、前述する各実施形態に係る超音波霧化装置においては、液体滴下装置21〜24は平板状圧電基体11に対して鉛直な方向の上部に設けられているが、必ずしもこの形態に限定される必要は無く、任意の形態、例えば平板状圧電基体11に対して平行な方向に配置されていて、霧化させたい液体および洗浄液を平板状圧電基体11上に滴下できるような形態を有していればよい。
【0054】
従って、前述した実施形態に係る超音波霧化装置によれば、平板状圧電基体11上に複数の種類の液体を滴下して任意の比率で調合して霧化させる機構や平板状圧電基体11上の液体が滴下された領域を機械的に洗浄する機構を備えている。
【0055】
よって、本発明の超音波霧化装置を用いることで、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させることが可能となる。特に、本発明に記載の超音波霧化装置を匂い再生装置として用いた場合、従来の技術と比較して、複数の匂い物質を、混ざり合うことなく連続的に霧化、提示させることが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
11…平板状圧電基体、12、13、14、15…櫛型電極、21、22、23、24…液体滴下装置、31…覆い体、32…切り溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料で形成された平板状圧電基体と、
この平板状圧電基体の面上に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する少なくとも三組以上の櫛型電極と、
これら複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記三組以上の櫛型電極は、それぞれ発生する弾性表面波の伝播方向が前記平板状圧電基体の面上の1点で交差するように配置され、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化し、残りの他の少なくとも一つの液体滴下装置から前記平板状圧電基体の面上を洗浄する洗浄液を滴下し、当該他の少なくとも一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化あるいは流動させることで前記平板状圧電基体の面上を洗浄することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置において、
前記平板状圧電基体の面上に、前記複数の液体滴下装置から滴下された洗浄液を含む液体が霧化された際に前記平板状圧電基体の面上近傍への拡散を防ぐ覆い体が設けられ、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化し、残りの他の少なくとも一つの液体滴下装置から前記平板状圧電基体の面上を洗浄する洗浄液を滴下し、前記他の少なくとも一つの液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波で霧化あるいは流動させるとともに、前記覆い体により当該霧化あるいは流動させた液体が拡散しないようにすることを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項3】
圧電材料で形成された平板状圧電基体と、
この平板状圧電基体の面上に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する少なくとも三組以上の櫛型電極と、
各櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置と、
前記平板状圧電基体の面上のほぼ2分するライン上に形成された液体流路溝とを備え、
前記三組以上の櫛型電極は、それぞれ発生する弾性表面波の伝播方向が前記平板状圧電基体の面上の1点で交差するように配置され、
前記複数の液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、前記液体流路溝近傍で混合し、これら液体滴下装置と対応する前記櫛型電極で発生する弾性表面波を利用して霧化した後、前記液体流路溝に洗浄液を流して前記平板状圧電基体を洗浄することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項4】
前記液体滴下装置から滴下された液体の霧化と前記洗浄液の供給とを交互に行い、先に滴下し霧化された液体の匂いと交じり合うことなく、新たに滴下し霧化された液体の匂いを再生出力することを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の超音波霧化装置を用いた匂い再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196615(P2012−196615A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61645(P2011−61645)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】