説明

弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置

【課題】 複数の液体のコンタミネーションを防ぎつつ、複数の液体を連続的に霧化させることにある。
【解決手段】 溝状部分を有する圧電基体11と、この基体上面部の溝状部分及び当該溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成され、それぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極21〜25と、櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置31〜33とを備え、少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置22〜25から霧化させたい液体を滴下し、弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に他の少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置21から洗浄液を滴下し、弾性表面波によって洗浄液を霧化あるいは流動化させ、溝状部分に沿って外部へ排出する弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上に弾性表面波を発生させ、その発生された弾性表面波を受信する弾性表面波素子については、よく知られている。
【0003】
ここで、弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝播する弾性波のことである。弾性表面波の例としては、レーリー波、セザワ波、擬セザワ波、ラブ波等が挙げられる。
【0004】
その中でも、従来からよく知られている弾性表面波素子としては、平面型の弾性表面波素子がある。この平面型の弾性表面波素子は、平坦な基材上に配置された平坦な圧電材料で形成された圧電基体面上に櫛型電極が設けられている。この櫛型電極に対して、高周波を印加すると、弾性表面波が発生して圧電基体表面を伝播する。
【0005】
このような平面型の弾性表面波素子の応用例の一つとして、弾性表面波によって液体を霧化させる超音波霧化装置が挙げられる。
【0006】
超音波霧化装置の一例としては、櫛型電極に高周波を印加して弾性表面波を発生させて圧電基体表面を伝播させ、この弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下させることで弾性表面波のエネルギーを液滴に伝え、これにより液滴を霧化、飛翔させるといった構成の装置である(特許文献1参照)。
【0007】
従って、このような超音波霧化装置を利用すれば、水、水溶液、有機液体、オイル、各種処理液、薬液、インク、匂い物質などの各種の液体を、粒径数十〜数百μm程度の微粒子に霧化させることが可能となる。その結果、超音波霧化装置は、従来のインクジェット法などと比較してより粒径の小さい微粒子を得ることができること、揮発性の低い液体であっても容易に霧化できることなどの特長を有しており、表面処理装置、印刷機、医療機器、、嗅覚ディスプレイなど広範な用途への応用が期待されている。
【0008】
ここで、嗅覚ディスプレイとは、ユーザの鼻元に匂いを提示する装置のことであり、超音波霧化装置を利用して香気成分を霧化させる構成の装置などが研究されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−114467号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】超小型液体ポンプとSAWデバイスを用いた嗅覚ディスプレイの基礎的研究、電気学会E部門総合研究会、2010年6月、CHS−10−001
【非特許文献2】月刊ディスプレイ 2010年9月号 Vo;16,No.9、pp.72−79(ISSN 1341−3961)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、以上のような超音波霧化装置を用いて異なる液体を連続して霧化させる場合、先に圧電基体上に滴下した液体が残った状態のまま、新しく別の液体を滴下して霧化させると、先に滴下した液体と新しく滴下した液体が混ざり合って同時に霧化されてしまうこと(以下、コンタミネーションと略記する)が予想される。特に、超音波霧化装置を例えば嗅覚ディスプレイとして応用することを考えた場合、コンタミネーションが発生すると異なる匂い物質が混ざり合った状態で霧化され、所望の匂いを再現することができず、好ましい結果が得られない。
【0012】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであって、複数の種類の液体を滴下しつつ任意の比率で調合して霧化でき、かつ液体が滴下された圧電基体の領域を自動的に洗浄し、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させる弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明は、少なくとも溝状部分を有するように圧電材料で形成された圧電基体と、この圧電基体の上面部の溝状部分及び当該溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、前記溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に少なくとも前記溝状部分に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から洗浄液を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波によって前記洗浄液を霧化あるいは流動化させ、前記溝状部分に沿って外部へ排出することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0014】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明の構成にあって、前記圧電基体の上面部の溝状部分に形成された櫛型電極及び当該櫛型電極に対応する液体滴下装置を削除する代わりに前記溝状部に沿って切り溝を設け、
前記溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記切り溝に沿って前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0015】
また、請求項3に対応する発明は、円筒状をなすように圧電材料で形成された圧電基体と、この圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向及び円筒状方向に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、前記円筒状方向に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記円筒状をなす方向と直交する方向に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から洗浄液を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波によって前記洗浄液を霧化あるいは流動化させ、前記圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向の最下円筒面に沿って外部へ排出することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0016】
また、請求項4に対応する発明は、請求項3に対応する発明にあって、前記圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向に形成された櫛型電極及び当該櫛型電極に対応する液体滴下装置を削除する代わりに当該円筒状をなす方向と直交する方向の最下円筒面に沿って切り溝を設け、
前記円筒状方向に形成された櫛型電極に対応する少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記切り溝に沿って前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0017】
さらに、請求項5に対応する発明は、半球状の凹面部を有するように圧電材料で形成された圧電基体と、この圧電基体の凹面部の底部に向けて形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置と、前記圧電基体の凹面部の底部に貫通された排液口とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記圧電基体の凹面部に沿って前記排液口から前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置である。
【0018】
さらに、請求項6に対応する発明は、請求項1ないし請求項5に対応する何れか1つの発明にあって、前記液体滴下装置から滴下された液体の霧化と前記洗浄液の供給とを交互に行い、後に新たに滴下した液体の臭いが先に滴下した液体の臭いとが混じり合わないようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の超音波霧化装置を用いた嗅覚ディスプレイである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、圧電基体上に複数の種類の液体を滴下して任意の比率で調合して霧化させる機能と、圧電基体上の液体が滴下された領域を機械的に洗浄する機能を備えることにより、複数の種類の液体を滴下しつつ任意の比率で調合して霧化でき、かつ液体が滴下された圧電基体の領域を自動的に洗浄し、コンタミネーションを防ぎながら、複数の種類の液体を連続的に霧化させる弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置を提供できる。
【0020】
特に、本発明に記載の超音波霧化装置を嗅覚ディスプレイとして用いた場合、従来の技術と比較して、複数の匂い物質を、混ざり合うことなく連続的に霧化し、提示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第1の実施形態を示す斜視図及び平面図。
【図2】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第2の実施形態を示す斜視図及び平面図。
【図3】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第3の実施形態を示す斜視図及びA−A矢視断面図。
【図4】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第4の実施形態を示す斜視図及びA−A矢視断面図。
【図5】本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第5の実施形態を示す斜視図及び平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態:請求項1に係る発明に対応)
図1(a)、(b)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第1の実施形態を説明する斜視図及び平面図である。
【0023】
この超音波霧化装置は、少なくとも一部に溝状を有するように波板状に切り出された圧電材料からなる圧電基体11と、この圧電基体11の表面上に設けた例えば五組の櫛型電極21〜25とを備えている。
【0024】
圧電基体11としては、水晶、ランガサイト、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどの圧電材料からなる。なお、図1に示す圧電基体11は、波板状に切り出されているが、必ずしもこの形態に限定される必要はなく、溝状部分を有するような任意の形態、例えばV曲げ板状あるいは平板の表面に断面U字状またはV字状となるように加工を施したものであってもよい。
【0025】
これら櫛型電極21〜25は、銅、銀、金、白金、クロムなどのような金属材料からなり、何れも圧電基体11とは別体的に設けられる高周波電源(不図示)に接続され、当該高周波電源から発生される高周波信号が印加されたとき、この高周波信号によって励起されて各櫛型電極21〜25から弾性表面波が発生し、圧電基体11の表面を伝播させることができる。
【0026】
このうち、櫛型電極21は、発生する弾性表面波が圧電基体11の溝状部分に沿って伝播するような位置に設けられ、他の櫛型電極22〜25は、それぞれ発生する弾性表面波が圧電基体11の溝状部分を挟む方向に向かって伝播するような位置にそれぞれ設けられている。
【0027】
なお、図1においては、圧電基体11上に五組の櫛型電極21〜25を設けているが、必ずしもこの組数の形態に限定される必要はない。櫛型電極21〜25で発生する表面弾性波の伝播方向が圧電基体11上の弾性表面波の伝播経路に沿っており、なおかつ少なくとも一つの櫛型電極21で発生する弾性表面波の伝播方向が圧電基体11の溝状部分に沿っており、それ以外の櫛型電極22〜25で発生する弾性表面波の伝播方向が圧電基体11の溝状部分を挟む方向に向かって伝播するように設計されていれば、任意の位置に、任意の個数の櫛型電極を設けてよい。
【0028】
また、櫛型電極21で発生する弾性表面波の伝播経路上であって、圧電基体11の上方位置に液体滴下装置31が設けられ、また、圧電基体11の溝状部分を挟んで対向する位置に配置される櫛型電極22及び23で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分での上方位置に液体滴下装置32が設けられ、同じく圧電基体11の溝状部分を挟んで対向する位置に配置される櫛型電極24及び25で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分での上方位置に液体滴下装置33が設けられている。
【0029】
これら液体滴下装置31、32、33は、液体を任意の量あるいは任意の調合比率の量、任意のタイミングで弾性表面波の伝播経路上に滴下できるような機能を有している。液体滴下装置31、32、33には、電磁弁、ダイヤフラムバルブ、インクジェット素子、電気浸透流ポンプなどのような素子を用いてもよい。
【0030】
なお、液体滴下装置32は櫛型電極22及び23で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分、液体滴下装置32は櫛型電極24及び25で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分に液体を滴下できるように配置されているが、必ずしもこの形態に限定される必要はなく、例えば四組の櫛型電極22、23、24、25で発生する弾性表面波の伝播経路上の任意の点に液体を滴下できるように、四組の液体滴下装置を設けてもよい。
【0031】
次に、弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の作用について説明する。
【0032】
この超音波霧化装置においては、先ず、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を所望の量あるいは任意の調合比率の量、圧電基体11の表面に滴下する。その後、高周波電源から高周波信号を櫛型電極22、23、24、25に印加し、弾性表面波を発生させる。櫛型電極22〜25から発生した弾性表面波は、何れも圧電基体11の溝状部分に向かって伝播する。このとき、櫛型電極22、23で発生する弾性表面波の伝播経路の交点近傍及び櫛型電極24、25で発生する弾性表面波の伝播経路の交点近傍にはそれぞれ液体滴下装置32、33から霧化させたい液体が滴下されているので、これらの液体は弾性表面波のエネルギーを受けて霧化される。霧化された液体は、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと出力される。
【0033】
続いて、液体滴下装置31から適当な量の洗浄液を、圧電基体11の表面に滴下する。洗浄液としては、圧電基体11の表面に滴下された霧化させたい液体を溶解することができる溶媒、例えば水、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、トルエンなどの液体を適宜選択して用いてよい
洗浄液を滴下した後、高周波電源から高周波信号を櫛型電極31に印加し、弾性表面波を発生させる。櫛型電極31で発生した弾性表面波は、圧電基体11の溝状部分に沿うように伝播していく。このとき、伝播経路上には洗浄液が滴下されているので、該洗浄液が弾性表面波のエネルギーを受けて霧化される。霧化された洗浄液は、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと排出される。
【0034】
このとき、圧電基体11の表面には、先に液体滴下装置32、33から滴下した霧化させたい液体が残っていても、洗浄液により溶解され、弾性表面波のエネルギーにより洗浄液とともに霧化されるため、圧電基体11の表面が洗浄される。
【0035】
なお、櫛型電極21〜25の設計条件や高周波電源から印加される高周波信号の周波数などを適宜調整することにより、櫛型電極21〜25において発生する弾性表面波のエネルギーを利用して、液体を霧化させるだけでなく、液体を弾性表面波の伝播方向に沿って流動させることが可能になる。この液体の流動を利用して、液体滴下装置31から洗浄液を滴下した後、櫛型電極21で発生する弾性表面波のエネルギーによって洗浄液を溝状部分に沿って流動させ、圧電基体11の外部へと排出させてもよい。このとき、圧電基体11の表面上に、液体滴下装置32、33から滴下した霧化させたい液体が残っていても、洗浄液により溶解され、弾性表面波のエネルギーにより洗浄液とともに流動し圧電基体11の外部へと排出されるため、圧電基体11の表面が洗浄される。
【0036】
従って、以上のような実施形態によれば、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を滴下して櫛型電極22〜25から発生する弾性表面波を利用して液体を霧化する。しかる後、液体滴下装置31から洗浄液を滴下して櫛型電極21から発生する弾性表面波により洗浄液を霧化あるいは流動させることにより、圧電基体11の表面を洗浄する、といった動作を交互に行うことにより、圧電基体11の表面を清浄に保ち、液体滴下装置32、33から新しく別の液体を滴下した際にも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることが可能になる。
【0037】
(第2の実施形態:請求項2に係る発明に対応)
図2(a)、(b)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第2の実施形態を説明する斜視図及び平面図である。
【0038】
この実施形態の超音波霧化装置は、図1に示す超音波霧化装置と比較して、櫛型電極21及び液体滴下装置31を削除する代わりに、圧電基体11の溝状部分に沿って切り溝41を設けている点が異なる。切り溝41は、圧電基体11に対して、機械加工、切削、リソグラフィー、エッチングなどのような公知の技術を適宜選択することによって形成される。
【0039】
この超音波霧化装置においては、先ず、液体滴下装置32、33から、霧化させたい液体を所望の量あるいは任意の調合比率の量、圧電基体11の表面に滴下する。その後、櫛型電極22〜25から弾性表面波を発生させ、液体滴下装置32、33から滴下した霧化させたい液体を、弾性表面波のエネルギーにより霧化させる。
【0040】
液体滴下装置32、33から滴下した液体を霧化させた後、圧電基体11の表面を洗浄するための洗浄液を、必要に応じてポンプ、シリンジ(不図示)などを利用して圧電基体11の表面に導入し、切り溝41を流路として流す。その結果、圧電基体11の表面に、液体滴下装置32、33から滴下した液体が残っていても、切り溝41に流される洗浄液により溶解され、圧電基体11の外部へと排出されるため、圧電基体11表面が洗浄される。なお、切り溝41を設けず、圧電基体11が有する溝状部分を利用してそのまま洗浄液の流路として利用してもよい。
【0041】
従って、この実施形態によれば、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を滴下して櫛型電極22〜25から発生する弾性表面波により霧化させる。しかる後、切り溝41に洗浄液を流して圧電基体11の表面を洗浄する、といった動作を繰り返して行うことにより、圧電基体11の表面を清浄に保ち、液体滴下装置32、33から新しく別の液体を滴下した場合でも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることができる。また、図1に示す超音波霧化装置とは異なり、切り溝41に洗浄液を流して圧電基体11の表面を洗浄しているため、洗浄液の回収が容易になり、洗浄液が圧電基体11の近傍へ拡散していくことを防止できる。
【0042】
(第3の実施形態:請求項3に係る発明に対応)
図3(a)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第3の実施形態を説明する斜視図、図3(b)は同図(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0043】
この超音波霧化装置は、円筒状をなす圧電基体12の内面に、図1と同様な配置関係で櫛型電極21、22、23、24、25が設けられている。このうち、櫛型電極21は、該櫛型電極21から発生する弾性表面波を円筒状方向に対して垂直な方向に伝播させるような位置に設けられ、櫛型電極22〜25は、該当電極22〜25から発生する弾性表面波を円筒状方向に伝播させるような位置に設けられている。
【0044】
なお、櫛型電極22、23、24、25は、発生する弾性表面波の伝播方向が櫛型電極21で発生する弾性表面波の伝播方向と交わるようになっていれば、円筒状の圧電基体12の内面の任意の位置に、任意の個数だけ設けてもよい。
【0045】
櫛型電極21で発生する弾性表面波の伝播経路上であって、圧電基体12の上方位置外側から内側へと貫通するように液体滴下装置31が設けられている。同様に対向関係にある櫛型電極22、23で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分及び同じく対向関係にある櫛型電極24、25で発生する弾性表面波の伝播経路の交点部分であって、それぞれ圧電基体12の上方位置外側から内側へと貫通するように液体滴下装置32,33が設けられている。
【0046】
なお、図3の超音波霧化装置では、圧電基体12そのものが円筒状であるものが示されている。しかしながら、本発明の第3の実施形態及び後述する第4の実施形態の超音波霧化装置にあっては、図3及び図4に示された実施形態に限定されるものではなく、断面が連続面となる貫通孔を有するように加工された圧電基体も円筒状の圧電基体12として使用できる。例えば直方体の圧電材料に断面が円形あるいは楕円形となる貫通孔をくりぬき加工した圧電基体を円筒状の圧電基体12とすることも可能である。本発明の第3の実施形態及び後述する第4の実施形態の超音波霧化装置における「円筒状をなすように圧電材料で形成された圧電基体」とは、円筒状の内面が圧電材料で構成されていればよく、図3及び図4に示された実施形態に限定されるものではない。
【0047】
次に、この実施形態における弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の作用について説明する。
【0048】
この超音波霧化装置においては、先ず、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を所望の量、円筒状の圧電基体12の内表面に滴下する。その後、櫛型電極22、23、24、25から弾性表面波を発生させ、液体滴下装置32、33から滴下した霧化させたい液体を、弾性表面波のエネルギーにより霧化させる。霧化された液体は、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、円筒状の圧電基体12の開口部から超音波霧化装置の外部へと出力される。
【0049】
引き続き、液体滴下装置31から適当な量の洗浄液を、圧電基体12の内表面に滴下する。洗浄液を滴下した後、高周波電源から高周波信号を櫛型電極31を印加し弾性表面波を発生させ、圧電基体12の円筒面に垂直な方向に伝播させる。この弾性表面波のエネルギーにより、伝播経路上に滴下させた洗浄液が霧化させる。霧化された洗浄液は、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、超音波霧化装置の外部へと排出される。
【0050】
このとき、圧電基体12の内表面には、先に液体滴下装置32、33から滴下した液体が残っていても、洗浄液により溶解され、弾性表面波のエネルギーにより洗浄液とともに霧化されるため、圧電基体12の内表面が洗浄される
また、液体滴下装置31から洗浄液を滴下した後、櫛型電極21で発生する弾性表面波のエネルギーによって洗浄液を円筒状方向に垂直な方向に流動させ、圧電基体12の外部へと排出させることにより、液体の滴下された圧電基体12内表面を洗浄することもできる。
【0051】
従って、この実施形態によれば、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を滴下して櫛型電極22、23、24、25から発生する弾性表面波により液体を霧化させる。しかる後、液体滴下装置31から洗浄液を滴下して櫛型電極21からの弾性表面波により洗浄液を霧化あるいは流動させることにより、圧電基体12の内表面を洗浄する、といった動作を交互に行うことにより、圧電基体12の内表面を清浄に保ち、液体滴下装置32、33から新しく別の液体を滴下した場合でも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることができる。また、図、図2に示すの超音波無化装置とは異なり、霧化された液体及び洗浄液を円筒状の圧電基体12の開口部から取り出すことが可能であり、超音波無化装置の外部への出力及び排出が容易である。
【0052】
(第4の実施形態:請求項4に係る発明に対応)
図4(a)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第4の実施形態を説明する斜視図、図4(b)は同図(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0053】
この実施形態に係る超音波霧化装置は、図3に示す超音波霧化装置と比較して、櫛型電極21及び液体滴下装置31を削除する代わりに、圧電基体12の内表面であって、液体滴下装置32及び33から液体が滴下される領域に沿って、切り溝42を設けている点が異なる。
【0054】
この超音波霧化装置においては、先ず、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を所望の量、円筒状の圧電基体12の内表面に滴下する。その後、櫛型電極22、23、24、25から弾性表面波を発生させ、液体滴下装置32、33から滴下した霧化させたい液体を、弾性表面波のエネルギーにより霧化させる。
【0055】
以上のようにして液体滴下装置32、33から滴下した液体を霧化させた後、圧電基体12の内表面を洗浄するための洗浄液を、必要に応じてポンプまたはシリンジ(不図示)などを利用して圧電基体12の内表面に導入し、切り溝42を流路として流す。このとき、圧電基体12の内表面に液体滴下装置32、33から滴下した液体が残っていても、切り溝42に流される洗浄液によって溶解され、圧電基体12の外部へと排出されるため、圧電基体12の内表面が洗浄される。
【0056】
従って、この実施形態によれば、液体滴下装置32、33から霧化させたい液体を滴下して櫛型電極22〜25からの弾性表面波により液体を霧化させる、さらに、切り溝42に洗浄液を流して圧電基体12の内表面を洗浄する、といった動作を交互に行うことにより、圧電基体12の内表面を清浄に保ち、液体滴下装置32、33から新しく別の液体を滴下した際にも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることが可能である。また、図3に示す超音波無化装置と同様に、霧化された液体及び洗浄液を円筒状の圧電基体12の開口部から取り出すことが可能であり、超音波無化装置の外部への出力及び排出が容易である。
【0057】
(第5の実施形態:請求項5に係る発明に対応)
図5(a)、(b)は本発明に係る弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置の第5の実施形態を説明する斜視図及び平面図である。
【0058】
この実施形態に係る超音波霧化装置は、半球状の凹面を有する圧電基体13の凹面部分に、何れも発生する弾性表面波が凹面部分の底部に向けて伝播するような位置関係で櫛形電極21、22、23が設けられている。櫛型電極21、22、23で発生する弾性表面波の伝播経路上であって、圧電基体13の上部には、それぞれ液体滴下装置31、32、33が配置されている。また、圧電基体13の凹面部分の最下底部には、圧電基体13を貫通する排液口43が設けられている。
【0059】
なお、櫛型電極21、22、23については、発生する弾性表面波の伝播方向が、圧電基体13の凹面部分における弾性表面波の伝播方向と一致していれば、圧電基体13の凹面部分の任意の位置に、任意の個数だけ設けてもよい。
【0060】
次に、本実施形態に係る超音波霧化装置の作用に付いて説明する。この超音波霧化装置は、先ず、液体滴下装置31、32、33から、霧化させたい液体を圧電基体13の凹面部上に滴下し、櫛型電極21、22、23で発生させた弾性表面波のエネルギーにより液体を霧化させる。霧化された液体は、例えばファン、ポンプなどのような適宜な機構(不図示)によって回収され、圧電基体13の凹面部分から超音波霧化装置の外部へと出力される。
【0061】
液体滴下装置31、32、33から滴下した液体を霧化させた後、圧電基体13の凹面部分を洗浄するための洗浄液を、必要に応じてポンプまたはシリンジ(不図示)などを利用して圧電基体13の凹面部上に導入し、凹面部分の洗浄を行った後、排液口43を通して圧電基体13の外部へと排出する。このとき、圧電基体13の凹面部には液体滴下装置31、32、33から滴下した液体が残っていても、洗浄液により溶解され、排液口43から圧電基体13の外部へと排出されるため、圧電材料13の凹面が洗浄される。
【0062】
従って、この実施形態によれば、液体滴下装置31、32、33から霧化させたい液体を滴下して櫛型電極21、22、23からの弾性表面波により液体を霧化させ、圧電基体13の凹面部に洗浄液を導入して洗浄する、といった動作を交互に行うことにより、圧電基体13の凹面部を清浄に保ち、液体滴下装置31、32、33から新しく別の液体を滴下した場合でも、コンタミネーションを起こすことなく霧化させることが可能である。また、霧化された液体は圧電基体13の凹面部から超音波霧化装置の外部へ出力し、圧電基体13の凹面部の洗浄に用いた洗浄液は排液口43を経て圧電材料13の外部へと排出されるため、霧化された液体と洗浄液とが混ざり合うことを防ぎ、霧化された液体のみを効率よく取り出すことができる。
【符号の説明】
【0063】
11、12、13…圧電基体、21、22、23、24、25…櫛型電極、31、32、33…液体滴下装置、41、42……切り溝、43……排液口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも溝状部分を有するように圧電材料で形成された圧電基体と、
この圧電基体の上面部の溝状部分及び当該溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、
この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、前記溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に少なくとも前記溝状部分に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から洗浄液を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波によって前記洗浄液を霧化あるいは流動化させ、前記溝状部分に沿って外部へ排出することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置において、
前記圧電基体の上面部の溝状部分に形成された櫛型電極及び当該櫛型電極に対応する液体滴下装置を削除する代わりに前記溝状部に沿って切り溝を設け、
前記溝状部分を挟む方向を臨む位置に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記切り溝に沿って前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項3】
円筒状をなすように圧電材料で形成された圧電基体と、
この圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向及び円筒状方向に形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、
この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、前記円筒状方向に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記円筒状をなす方向と直交する方向に形成された少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から洗浄液を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波によって前記洗浄液を霧化あるいは流動化させ、前記圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向の最下円筒面に沿って外部へ排出することを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置において、
前記圧電基体の円筒状をなす方向と直交する方向に形成された櫛型電極及び当該櫛型電極に対応する液体滴下装置を削除する代わりに当該円筒状をなす方向と直交する方向の最下円筒面に沿って切り溝を設け、
前記円筒状方向に形成された櫛型電極に対応する少なくとも一つの液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記切り溝に沿って前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項5】
半球状の凹面部を有するように圧電材料で形成された圧電基体と、
この圧電基体の凹面部の底部に向けて形成され、高周波信号を受けてそれぞれ弾性表面波を発生する複数の櫛型電極と、
この複数の櫛型電極で発生する弾性表面波の伝播経路上に液滴を滴下するための複数の液体滴下装置と、
前記圧電基体の凹面部の底部に貫通された排液口とを備え、
前記複数の液体滴下装置のうち、少なくとも一つの櫛型電極に対応する液体滴下装置から霧化させたい液体を滴下し、当該櫛型電極で発生する弾性表面波により霧化させ、当該液体の霧化後に前記圧電基体の凹面部に沿って前記排液口から前記洗浄液を流すようにしたことを特徴とする弾性表面波素子を用いた超音波霧化装置。
【請求項6】
前記液体滴下装置から滴下された液体の霧化と前記洗浄液の供給とを交互に行い、後に新たに滴下した液体の臭いが先に滴下した液体の臭いとが混じり合わないようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の超音波霧化装置を用いた嗅覚ディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate