説明

弾性表面波装置、フィルタ装置および通信装置

【課題】 弾性表面波を発生する電極をウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる弾性表面波装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波を伝搬する圧電基板1と、圧電基板上に形成され、弾性表面波の伝搬方向に伸びて互いに対向配置された一対のバスバー電極2aを有するIDT電極2と、圧電基板上に配置され、圧電基板との間にIDT電極2を収容する収容空間3を形成する封止部材4と、を含む弾性表面波装置である。圧電基板上において、伝搬方向と一致するIDT電極の中心を通る仮想的な中心線を定義したときに、封止部材4の圧電基板側の面である配設面4aの外郭線は、中心線の両側において、この中心線に沿ってIDT電極2から離れるにしたがって、この中心線から配設面4aを構成する外郭線までの距離が短くなる反射部4Aを有し、反射部4Aは、少なくとも一部が一対のバスバー電極2aを伝搬方向に沿って伸ばした一対の仮想線で挟まれた領域である軌跡上に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の通信装置に用いられる小型な弾性表面波装置に関するものであり、詳細には弾性表面波を発生する電極をウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる弾性表面波装置、それを用いたフィルタ装置および通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電基板上に弾性表面波を発生する電極とその電極を収容する収容空間を形成する部材とが設けられることにより、圧電基板上で電極が封止された弾性表面波装置が広く知られている。このような弾性表面波装置は、圧電効果により電極が振動する空間が確保されるとともに、圧電基板上で電極が封止されるため、通常の弾性表面波装置全体をパッケージに収容して封止するものと比べて小型にすることができるというものである。
【0003】
このような収容空間を形成する方法として、例えば、ウェハ上に、電極が形成された領域を複数個形成し、ウェハ状態でそれぞれの領域に対して上記のような収容空間を形成してウェハ段階(ウェハレベル)で封止してから、封止された各領域毎にウェハから切り出し、複数個の弾性表面波装置を得るものが開示されている(例えば、特許文献1,特許文献2,非特許文献1を参照)。なお、このようなウェハレベルで封止された弾性表面波装置をウェハレベルパッケージ(WLP)型の弾性表面波装置と呼ぶことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−318625号公報
【特許文献2】特開2002−300000号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ウェハレベルパッケージ フォー バルク アコースティック ウェーブ フィルタ」(Wafer−Level−Package for Bulk Acoustic wave filter) アイトリプルイー エムティーティーエス ダイジェスト(IEEE MTT−S 2004 Digest)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、弾性表面波装置として、Q値を高めるために、伝搬する弾性表面波を閉じ込めて弾性表面波のロスを抑制することが望まれている。
【0007】
また、弾性表面波を閉じ込めるように、電極の弾性表面波の伝搬方向の両端に設けられる反射器電極を配置した弾性表面波装置が提案されている。しかしながら、これら反射器電極を含む場合には、収容空間が大きくなり弾性表面波装置が大型になったり、収容空間の大型化に伴い、中空構造の作製が困難になったりするなどの課題もあった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて完成されたものであり、その目的は、ウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる小型でQ値の高い弾性表面波装およびそれを用いたフィルタ装置,通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の弾性表面波装置は、1)弾性表面波を伝搬する圧電基板と、前記圧電基板上に
形成され、前記弾性表面波の伝搬方向に伸びて互いに対向配置された一対のバスバー電極を有するIDT電極と、前記圧電基板上に配置され、前記圧電基板との間に前記IDT電極を収容する収容空間を形成する封止部材と、を含む弾性表面波装置であって、前記伝搬方向と一致し、前記圧電基板上において、前記IDT電極の中心を通る仮想的な中心線を定義したときに、前記封止部材の前記圧電基板側の面である配設面の外郭線は、前記中心線の両側において、この中心線に沿って前記IDT電極から離れるにしたがって、この中心線から前記配設面を構成する外郭線までの距離が短くなる反射部を有し、前記反射部は、少なくとも一部が、前記一対のバスバー電極を前記伝搬方向に沿って伸ばした一対の仮想線で挟まれた領域である軌跡上に存在するものである。
【0010】
また、本発明のフィルタ装置は、入力端子と出力端子とグランド端子とを有し、前記入力端子と前記出力端子とをつなぐ入出力ライン上、または前記入出力ラインとグランド端子との間に、上記の弾性表面波装置を設けたものである。
【0011】
また、本発明の通信装置は、上記のフィルタ装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の弾性表面波装置によれば、上記の構成により、中心線から配設面を構成する外郭線までの距離が、IDT電極から離れるにしたがって短くなる反射部が、IDT電極の外側に漏洩する弾性表面波をIDT電極側に反射させ、弾性表面波を閉じ込めることができるので、Q値の高いものを提供することができる。
【0013】
また、封止部材が反射部を有することから、配設面の面積を増やすことができるので、封止部材の屋根部分を確実に支えることができる。このため、屋根部分が自加重により変形することを抑制できる。これにより、確実に収容空間を維持することができるので、安定して且つ継続して良好な特性を発現することが可能となる。
【0014】
また、上記のように、反射器電極を設けなくても、封止部材の形状によりQ値の高いものとすることができるので、小型な弾性表面波装置とすることができる。また、複数の反射器電極も含めて封止するように収容空間を大きくする必要がない。このため、収容空間の大型化に伴う封止部材の製造が困難になるという問題も発生しないので、ウェハレベルで簡単に弾性表面波装置を提供することができ、生産性の高いものとなる。
【0015】
また、本発明のフィルタ装置によれば、上記の構成により、小型でQ値の高い、生産性の高いものを提供できる。
【0016】
さらに、本発明の通信装置によれば、上記の構成により、小型でQ値の高い、生産性の高いものを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例を示す模式的な透視状態の平面図,(b)は(a)のA−A’線矢視断面図,(c)は(a)のB−B’線矢視断面図である。
【図2】図1(a)に示す弾性表面波装置の要部を拡大した透視状態の平面図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の弾性表面波装置の実施の形態の他の例を示す模式的な透視状態の平面図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の弾性表面波装置の製造方法の一例を示す工程毎の断面図である。
【図5】(a)〜(b)はそれぞれ、本発明のフィルタ装置の実施の形態の一例を示す等価回路図である。
【図6】本発明の通信装置の実施の形態の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の弾性表面波装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1(a)〜(c)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例を示す模式的な透視状態の平面図,(a)のA−A’線の矢視断面図,(a)のB−B’線の矢視断面図である。
【0020】
図1において、1は圧電基板、2はIDT電極、3はIDT電極2を収容する収容空間、4は封止部材、4aは圧電基板1と接する封止部材4の配設面、4Aは配設面4aの外郭線の一部である反射部、7は保護部材、8はIDT電極2を外部回路と接続するための導電パターン、9は導電パターン8から装置の外側に電気信号を取り出すための外部接続電極、10はIDT電極2の伝搬方向の両端部に隣接して配置された反射器電極である。なお、図1(a)において、弾性表面波装置の構成を分かり易くするために、上面に位置する部材の一部を省略するとともに、配設面4a部に斜線を付している。
【0021】
なお、以下の図面においても同様であるが、同様の箇所には同一の符合を付し、重複する説明を省略する。また、図中のIDT電極2の電極指の本数及び間隔等は模式的に示したものであり、図に示す限りではない。
【0022】
図1において、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1と、圧電基板1上に形成された弾性表面波を発生する電極であるIDT電極2と、圧電基板1上に形成され、IDT電極2と外部の回路とを接続する導電パターン8と、圧電基板1との間に、IDT電極2を収容する収容空間3を形成する封止部材4と、これらの構造体を覆うように形成された保護部材7と、導電パターン8に接続され、保護部材7の上面に一端が露出する外部接続電極9とから構成される。外部接続端子9は、信号が入力される入力端子9in,信号が出力される出力端子9out,接地される接地端子9groundからなる。
【0023】
なお、ここでIDT電極2は、バスバー電極2aとこれに共通に接続された複数本の電極指2bからなる櫛歯状電極が組み合わされている。具体的には、IDT電極2の一対の櫛歯状電極は、互いの電極指2b同士が交互に配置されるように組み合わされており、電極指2bは、隣接する互いの電極指2bと対向する(交叉する)部分(以下、対向部とする)を有する。また、このIDT電極2から励振された弾性表面波の主たる伝搬方向(以下、単に伝搬方向ということもある)である電極指2bの繰り返し方向の両側にIDT電極2に隣接して配置された反射器電極10を設けても良い。なお、これらのIDT電極2および反射器電極10は、求める特性に応じて複数個配置したり、それらを相互に接続する接続線等をさらに含んだりするものとする。
【0024】
また、封止部材4は、キャップ状の部材で、圧電基板1との間にIDT電極2を封止する収容空間3を形成するものであり、IDT電極2を囲むように圧電基板1に配設される配設面4aを有する。この配設面4aの形状について図1(a)および図2を用いて詳細に説明する。なお、図2は図1(a)のうち、反射部4A周辺の要部拡大図である。
【0025】
まず、配設面4aの形状を説明するために、IDT電極2に対して仮想的な中心線を定義する。中心線は、IDT電極2から励振された弾性表面波の主たる伝搬方向である電極指2bの繰り返し方向と一致し、圧電基板1上においてIDT電極2の中心を通るものである。図1においては、例えば、A−A’線となる。ここで、IDT電極2の中心とは、
電極指2bの対向部を伝搬方向と直交する方向でみたときにその中心となる部分を指すものである。
【0026】
配設面4aは、この中心線の両側において、この中心線から配設面4aの外郭線までの、伝搬方向と直交する方向における距離が、IDT電極2から中心線に沿って離れるにしたがい短くなる箇所(反射部4A)を有するものである。ここで、配設面4aの外郭線は、配設面4aの外形を作るものであり、図2では4eで示す。
【0027】
また、この反射部4Aの少なくとも一部は、IDT電極2を中心線に沿って移動させたときの軌跡上に存在するように配置されている。なお、図1(a)および図2において、圧電基板1上における軌跡外郭線15を破線で示している。軌跡は2本の軌跡外郭線で挟まれた領域である。図1(a)および図2においては、IDT電極2の弾性表面波の伝搬方向の外側において、配設面4aの外郭線のうち、収容空間3を挟んで対向する部分の距離が、IDT電極2から離れるにしたがい一次関数的に短くなるように設計されている。このような反射部4Aを中心線の両側に有することから、IDT電極2から漏洩した弾性表面波が中心線を挟んだ一方に位置する反射部4Aに到達すると、他方に位置する反射部4Aを介して確実にIDT電極2側に反射させることができ、弾性表面波を閉じ込めることができる。
【0028】
なお、反射部4AとIDT電極2とは近接配置させることが好ましい。
【0029】
配設面4aがこのような形状であることから、図1に示す本発明の弾性表面波装置は、配設面4aの面積が大きくなる。このため、圧電基板1と収容空間3を挟んで対向する封止部材4の屋根部分の自荷重による変形で収容空間3が潰れたり、また、これらを保護部材7で覆う際に保護部材7の自荷重や縮合時に発生する圧力の影響で収容空間3が潰れたりすることをなくすことが可能となる。また、配設面4a自体に漏洩した弾性表面波をIDT電極2側に反射させる構造を採用したことにより、弾性表面波の閉じ込め効率を上昇させることができる。これにより、伝搬損失が少なくQ値の高い弾性表面波装置を安定して提供することができる。さらに、反射器電極10を設けなくても、弾性表面波配設面4aの反射部により弾性表面波を閉じ込めることが可能なので、収容空間3を形成する面積を最少にすることができる。これにより、小型でQ値の高い弾性表面波装置を提供することができる。
【0030】
また、図1に示すように、反射部4Aは、中心線から軌跡の軌跡外郭線まで連続的に形成されていることが好ましい。このように構成にすることで、伝搬方向におけるIDT電極2の端部を囲うように反射部4Aを配置することができるので、さらに効率的に弾性表面波を閉じ込めることができる。
【0031】
また、図1に示すように、IDT電極2の伝搬方向の両端に隣接するように反射器電極10を設け、封止部材4の配設面4aのうち、反射部4Aの少なくとも一部が、この反射器電極10上に配置されていることが好ましい。IDT電極2から漏洩した弾性表面波を、封止部材4の反射部4Aに加えて反射器電極10によりIDT電極2に反射して弾性表面波を閉じ込めることができるので、より確実に弾性表面波を閉じ込め、Q値の高い弾性表面波装置を提供することができる。特に、配設面4aの反射部4Aが反射器電極10上に配置されている場合には、反射器電極10を設けても収容空間3の大型化を抑制することができるので、生産性の高いものとすることができる。また、IDT電極2の弾性表面波の主伝搬方向の両端は、最も弾性表面波の漏洩が多い部位であるが、ここに反射部4Aと反射器電極10を配置することで、効果的に弾性表面波を閉じ込めることができる。なお、反射器電極10上に配設面4aを設けるときには、反射器電極2と封止部材4の配設面4aとで電気的にショートしないように、封止部材4を絶縁性材料で形成する。
【0032】
また、このような封止部材4を含む構造体を覆うように保護部材7を形成する。なお、IDT電極2,導電パターン8の一部は封止部材4により封止されており、導電パターン8の一部が封止部材4の外側まで導出されている。また、導電パターン8は、封止部材4の外側でIDT電極2と接続されていない側の端部に、外部接続電極9が接続されている。この外部接続電極9は保護部材7を介して外部に導出されている。すなわち、導電パターン8上に直接外部接続電極9が形成され、外部接続電極9の上面を露出させるように保護部材7が形成されている。このような構造とすることにより、収容空間3を形成するとともに外部の回路基板等に接続するために、圧電基板1とLTCC基板(Low Temperature Co fire Ceramic)、HTCC基板(High Temperature Co fire Ceramic)、有機多層基板等のインターポーザとを貼り合せる必要がなくなるので、インターポーザなしに外部の回路との接続が可能となる。これにより、部品点数の低減や低背化、小型化が可能となる。
【0033】
また、保護部材7が封止部材4を機械的に保護するので、弾性表面波装置を回路基板等に実装する際に機械的な衝撃や応力が発生しても良好な封止状態が維持される。
【0034】
このように、本発明の弾性表面波装置によれば、ウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる小型でQ値の高いものを提供することができる。
【0035】
なお、図1に示す例では、封止部材4の平面形状(外形)は矩形状であったが、IDT電極2を封止できれば、特に平面形状は限定されない。例えば、反射部4Aの形状を反映したものとしてもよい。
【0036】
また、配設面4aのうち、反射部4Aの形状は、図1に示すような直線状以外にも、円弧状など湾曲した形状でも良く、漏洩した弾性表面波が効率的に反射できればその形状に制限はない。例えば、中心線の両側で反射部4Aの形状が異なるものであってもよい。ここで、軌跡外郭線15と反射部4Aとでなす角度のうち小さい方を反射部4Aの角度とすると、特に、反射部4Aの角度が小さくなるにしたがって弾性表面波装置の電気特性上、共振周波数以外と共振周波数付近の信号抑圧度が良好となる。一方、角度を小さく取ることは反射器電極10及び反射部4Aの面積を大きくすることになるため適当な角度とすることが好ましい。
【0037】
また、配設面4aのうち反射部4Aを設ける位置は、IDT電極2の伝搬方向の両端に限定されるものではなく、例えば、IDT電極2の伝搬方向の一端にのみ設けてもよいし、伝搬方向に垂直な方向に設けても良い。
【0038】
また、配設面4aの少なくとも一部がバスバー電極2a上に配置されていても良い。バスバー電極2a部において封止部材4の質量が付加されたこととなり、質量効果により、電極指2b部とバスバー電極2a部において弾性表面波の伝搬速度に差を持たせることができるので、弾性表面波がバスバー電極2a側に漏洩することを防ぐことができる。このため、弾性表面波の閉じ込め効率をさらに上昇させ、Q値の高い弾性表面波装置を実現することができる。
【0039】
また、図1では、配設面4aが一体である例で説明しているが、図3(a)に示すように、配設面4aは、収容空間3を形成するための枠状のリング部4bとリング部4bと別体で、反射部4Aを構成する補助部4cを有するものとしてもよい。なお、補助部4cを設けた場合には、リング部4bの収容空間3と接する側の外郭線は、矩形状でもよいし、図1に示すように、軌跡外郭線15に対して角度を有するものでもよい。
【0040】
また、図1では、圧電基板1上に複数組のIDT電極2がある場合を例にとり、封止部材4中に一つの収容空間3が形成された例で説明しているが、図3(b)に示すように、一つの封止部材4に複数の収容空間3を形成しても良い。さらに、図3(b)に示す例では、1つの封止部材4中に複数の収容空間3を形成しているが、1つの収容空間3としてもよい。この場合には、封止部材4の屋根部分を支えるために、複数のIDT電極2の間に柱4dを設けることが好ましい。
【0041】
次に、本発明の弾性表面波装置の各部について説明する。
【0042】
圧電基板1の材質は、タンタル酸リチウム(LiTaO,LiTaO;x<3),ニオブ酸リチウム(LiNbO,LiNbO;y<3),四ホウ酸リチウム(Li,Li;z<4),酸化亜鉛(ZnO),ランガサイト,水晶等の圧電性誘電体の中から選択することができる。
【0043】
また、弾性表面波を発生させるIDT電極2の材質としては、アルミニウム(Al),アルミニウム・銅合金(Al−Cu),アルミニウム・銅・マグネシウム合金(Al−Cu−Mg)等が好適である。また、これらの下地層としてチタン(Ti)またはクロム(Cr)を用いてもよい。
【0044】
また、封止部材4の材料は、圧電基板1との密着性が良いことを考慮すると、ポリイミド樹脂,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,シロキサン樹脂,アクリル樹脂,ポリメチルメタクリート(PMMA)樹脂,ポリカーボネート(PC)樹脂,ベンゾシクロブテン(BCB)樹脂等が挙げられる。特に、圧電基板1と熱膨張係数が近いエポキシ樹脂が好適に用いられる。
【0045】
また、封止部材4の配設面4aから屋根部分へと続く部位の厚さは連続膜として機能する5μm程度の厚さから形成可能な数百ミクロンμm程度が利用されるが、封止部材4としての機械的な強度およびIDT電極2の厚さを考慮すると10μmから100μmが好適な範囲である。
【0046】
さらに、封止部材4は単一材料で形成してもよいし、複数の材料からなるものとしてもよいが、気密性を考慮すると単一材料が好ましい。
【0047】
また、保護部材7としては、圧電基板1と同等の熱膨張係数を有するエポキシ系の樹脂を用いることが好ましい。これにより、回路基板へ実装する時に、リフローによる熱応力が圧電基板1および外部接続電極9に加わることを防止する。このため、圧電基板の破損や外部接続電極9と回路基板上のパターンとの接続不良の発生を抑制し、信頼性の高いものとすることができる。なお、保護部材7の熱膨張係数を圧電基板1と同等にするためには保護部材7を形成する材料にSiO等のフィラーを添加して調整することが好ましい。また、基本的には、封止部材4により収容空間3内への水分の浸入を遮断するが、さらに確実に水分の浸入を遮断するように保護部材7にシリカゲル、ゼオライト、ポリアクリル酸塩系の吸湿剤を添加しても良い。さらに、保護部材7には250℃以上での耐熱性がある材料を選択することが好ましい。これは、外部接続電極9の封止部材4からの露出部にバンプ電極等の電極端子を設け、その電極端子を介して弾性表面波装置を実装する回路基板側の電極に電気的に接続する際のプロセスに対応するためであり、このような材料を用いることにより、実装基板に弾性表面波装置を安定に固定することができる。
【0048】
また、導電パターン8の材質としては、アルミニウム(Al),アルミニウム・銅合金(Al−Cu),アルミニウム・銅・マグネシウム合金(Al−Cu−Mg)等が好適である。また、これらの下地層としてチタン(Ti)またはクロム(Cr)を用いてもよい
。また、弾性表面波共振器2同士を接続するための接続線も導電パターン8と同様の材料を用いることができる。
【0049】
また、外部接続電極9は、金(Au),銅(Cu),ニッケル(Ni)等から成り、径が50〜100ミクロン(μm),高さが20〜400ミクロン(μm)程度が好適である。なお、弾性表面波共振器2上への外部接続電極9形成のため、チタン、Cu等の積層膜を下地層として形成しても良い。
【0050】
反射器電極10の材質としては、IDT電極2と同じ材料を用いることができる。
【0051】
次に、図4を用いて、本発明の弾性表面波装置の製造方法について説明する。
【0052】
本発明の弾性表面波装置の製造方法の一例は、IDT電極2および導電パターン8が形成された圧電基板1上に、IDT電極2を囲繞する枠体5を形成する工程Aと、蓋体6を枠体5上に形成し、枠体5と蓋体6とで封止部材4を形成し、圧電基板1との間に収容空間3を形成する工程Bと、導電パターン8上に外部接続電極9を形成する工程Cと、封止部材4,入出力電極9を保護部材7で覆う工程Dを具備する。なお、図4(a)〜(d)の断面図はそれぞれ弾性表面波装置の製造工程における工程A〜Dの各段階を示している。
【0053】
まず、図4(a)に示す通り、圧電基板1上に、IDT電極2,導電パターン8,反射器電極10を、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor
Deposition)法等の薄膜形成法により形成し、縮小投影露光機(ステッパー)とRIE(Reactive Ion Etching)装置とを用いたフォトリソグラフィ法等によりパターニングして所望の形状を得る。
【0054】
次に、圧電基板1上にIDT電極2を囲むように枠体5を形成する。ここで枠体5は、
液状の材料を用いてスピンコート法により形成したり、フィルム状の材料をフィルム貼り装置を用いたりして形成後、パターニングして形成しても良い。
【0055】
次に、図4(b)に示す通り、枠体5上に蓋体6を形成する。蓋体6は、フィルム状の材料をフィルム貼り装置を用いて加圧しながら枠体5上に載置することが好ましい。これは、蓋体6にフィルム状の材料を用いることにより、容易に収容空間3を形成することが可能となるためである。なお、枠体5および蓋体6は所望の形状に加工することを考慮すると、感光性の材料を用いてフォトリソグラフィ法により形成することが好ましい。次に、枠体5と蓋体6とを加熱・硬化することで、枠体5と蓋体6を一体化させて、封止部材4とすることができる。
【0056】
また、不活性ガス雰囲気下で蓋体6を形成すれば、収容空間3内に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを充填することができ、収容空間3内のIDT電極2等の酸化等を防ぎ、信頼性の高いものとすることができる。
【0057】
次に、図4(c)に示す通り、導電パターン8上に外部接続電極9を形成する。具体的には、無電解や電界等のメッキプロセス、スクリーン印刷等が好ましい。
【0058】
次に、図4(d)に示す通り、保護部材7の上面に外部接続電極9が露出するように、これらの構造体を保護部材7で覆う。保護部材7は、樹脂を印刷機や真空印刷機を用いて形成することが可能である。なお、本発明品の構成では樹脂を印刷する基材(構造体)の表面に数百ミクロン程度の大きな段差があるため、印刷時に保護部材7の内部に気泡が入りやすい。そのため、真空印刷方式にて気泡を抜きながら印刷する方式が好適である。
【0059】
このように、図4に示す本発明の弾性表面波装置の製造方法によれば、上記構成とすることが可能なことから、収容空間3においてその良好な状態を維持することができるので、弾性表面波を発生する電極を含む弾性表面波共振器をウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができるものとなる。特に、封止部材4を枠体5と蓋体6とで形成したことから、簡易に収容空間3を形成することができ生産性の高いものとすることができる。さらに、収容空間3を形成するために、犠牲層を用いる必要がないことから、工程の削減ができるとともに、収容空間3内に犠牲層を除去する際のエッチャントや犠牲層が残り、IDT電極2に悪影響を及ぼす恐れがないので、生産性が高く、信頼性の高いものとすることができる。
【0060】
なお、前述した収容空間3の形成方法の他に、収容空間3形成部分に犠牲層と呼ばれる層を形成し、封止部材4を形成する材料を犠牲層の上に形成した後、犠牲層を除去して収容空間3を形成するような方法を採用してもかまわない。
【0061】
次に、本発明の可変共振回路を用いてフィルタを形成した例について説明する。
【0062】
図5は、本発明のフィルタ装置の一実施形態のフィルタ装置を示す等価回路図である。
【0063】
本発明の弾性表面波装置100が共振子としての特性を有する場合には、本発明のフィルタ装置は、図5(a)に示すように、入力端子Inと出力端子Outとをつなぐ入出力ラインとグランド端子との間に、本発明の弾性表面波装置100を接続すればよい。また、図5(b)に示すように、入出力ライン上に、弾性表面波装置100を接続してもよい。さらに、入力端子Inと出力端子Outとをつなぐ入出力ラインとグランド端子との間および入出力ライン上の両方に、弾性表面波装置100を接続してもよい。共振子としての特性を有する弾性表面波装置としては、例えば、IDT電極2を構成する櫛歯状電極のうち、一方が入力端子Inに接続され、他方が出力端子Outに接続されているものがあげられる。
【0064】
このようにしてラダー型のフィルタを形成してもよいし、非平衡入力―平衡出力等のバランス型のフィルタを形成してもよい。
【0065】
例えば、図1に示す弾性表面波装置は、複数組のIDT電極2をバランス型のフィルタを形成するように接続している。すなわち、信号入力端子9inを入力端子In,2つの出力端子9outをそれぞれ出力端子Outとすると、この入力端子Inと出力端子Outとを結ぶそれぞれの入出力ラインに以下のようにIDT電極2が接続されている。まず、IDT電極2は、入力端子Inに接続された第1IDT電極と、出力端子Outに接続された第2IDT電極と、この第2IDT電極の両側に配置された第3および第4IDT電極とがある。入力端子In(9in)は第1IDT電極の一方の櫛歯状電極に接続され、他方の櫛歯状電極は、第3および第4IDT電極の一方の櫛歯状電極に接続されている。第2IDT電極の櫛歯状電極の一方は出力端子Out(9out)に接続されている。第2から第4IDT電極の他方の櫛歯状電極はグランド端子に接続されている。このように接続することで、入力端子Inから入力された信号は、第1IDT電極から第3および第4IDT電極を介して第2IDT電極に達し出力端子Outから取り出される。以上から、入出力ライン上または入出力ライン上からグランド端子との間に複数のIDT電極2を接続したフィルタ装置となり、この複数のIDT電極2の少なくとも1つを含む本発明の弾性表面波装置を用いることで、本発明の弾性表面波装置を用いたフィルタ装置とすることができる。
【0066】
次に、本発明のフィルタ装置を用いて通信装置を形成した例について説明する。
【0067】
図6は、本発明の通信装置の一実施形態の通信装置を示すブロック図である。
【0068】
図6において、アンテナ140に送信回路Txと受信回路Rxが分波器150を介して接続されている。送信される高周波信号は、フィルタ210によりその不要信号が除去され、パワーアンプ220で増幅された後、アイソレータ230と分波器150を通り、アンテナ140から放射される。また、アンテナ140で受信された高周波信号は、分波器150を通りローノイズアンプ160で増幅されフィルタ170でその不要信号を除去された後、アンプ180で再増幅されミキサ190で低周波信号に変換される。
【0069】
図6において、分波器150,フィルタ170,フィルタ210のいずれかに、本発明のフィルタ装置を用いれば、小型でQ値の高いものとすることができる。
【0070】
なお、図6では送信回路Txと受信回路Rxとを有する通信装置について説明したが、送信回路Txまたは受信回路Rxのいずれか一方を有する通信装置としてもよい。
【0071】
このように、上記各構成のいずれかの弾性表面波装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えた通信装置を構成すれば、通信装置の受信回路または送信回路に用いられる弾性表面波装置を、ウェハレベルで良好に封止することにより実用的な性能を備えつつ小型にすることができるので、通信装置を小型にすることができる。例えば、このように小型化された通信装置は、携帯電話,パーソナルハンディホン(PHS),アマチュア無線用ポータブルトランシーバ,ICカード等の携帯通信端末、パームトップコンピュータ等の電子情報処理端末または車載用のカーナビケーションシステムおよびETC(エレクトロニック・トール・コレクション・システム)車載端末等に好適に使用することができる。
【0072】
かくして、本発明によれば、弾性表面波を発生する電極をウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる小型な弾性表面波装置およびその小型な弾性表面波装置を具備する小型なフィルタ装置及び通信装置を提供することができる。
【0073】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更・改良を施すことは何等差し支えない。
【0074】
例えば、上述の実施の形態の例においては、封止部材4を保護部材7で覆う形式をとっているが、保護部材7を形成せず入出力電極9を露出させた状態でも良い。さらに、本実施の形態では外部接続電極9を用いて外部の回路との接続を実現したが、圧電基板1に導電パターン8と接続するビアホールを設け、圧電基板1の裏面において外部の回路と接続してもよい。また、外部接続電極9を形成せず導電パターン8上の保護部材7に穴を開けておき、外部の回路との接続をワイヤーボンディング等の手法を用いるようにしても良い。また、図4(a)において、枠体5を形成する前に、圧電基板1の外部接続電極9が形成される位置を除く全面に、IDT電極2を保護するSiOから成る保護膜を形成し、この保護膜上に枠体5を形成しても良い。このようにすれば、枠体5を段差のない面に形成することができるので好ましい。
【符号の説明】
【0075】
1:圧電基板
2:IDT電極
2a:バスバー電極
2b:電極指
3:収容空間
4:封止部材
4A:反射部
4a:配設面
5:枠体
6:蓋体
7:保護部材
8:導電パターン
9:外部接続電極
10:反射器電極
15:軌跡外郭線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を伝搬する圧電基板と、
前記圧電基板上に形成され、前記弾性表面波の伝搬方向に伸びて互いに対向配置された一対のバスバー電極を有するIDT電極と、
前記圧電基板上に配置され、前記圧電基板との間に前記IDT電極を収容する収容空間を形成する封止部材と、を含む弾性表面波装置であって、
前記圧電基板上において、前記伝搬方向と一致する、前記IDT電極の中心を通る仮想的な中心線を定義したときに、
前記封止部材の前記圧電基板側の面である配設面の外郭線は、前記中心線の両側において、この中心線に沿って前記IDT電極から離れるにしたがって、この中心線から前記配設面を構成する前記外郭線までの距離が短くなる反射部を有し、
前記反射部は、少なくとも一部が、前記一対のバスバー電極を前記伝搬方向に沿って伸ばした一対の仮想線で挟まれた領域である軌跡上に存在する、弾性表面波装置。
【請求項2】
前記封止部材は、前記圧電基板上に配置された、前記IDT電極を囲繞する枠体と、前記枠体上に配置された蓋体とを含む、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記圧電基板上に形成され、前記IDT電極の弾性表面波の主伝搬方向の両端部に隣接して配置された反射器電極をさらに含み、
前記封止部材は、前記反射部の少なくとも一部が前記反射器電極上となる位置に配置されている、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記封止部材は、前記配設面の少なくとも一部が前記バスバー電極上に配置されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記IDT電極を保護する保護膜をさらに備え、
前記保護膜は前記圧電基板と前記封止部材との間に介在している、請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記反射部は湾曲した部分を有している、請求項1乃至5のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
入力端子と出力端子とグランド端子とを有し、前記入力端子と前記出力端子とをつなぐ入出力ライン上、または前記入出力ラインとグランド端子との間に、請求項1乃至6のいずれかに記載の弾性表面波装置を設けたフィルタ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のフィルタ装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えた通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−5148(P2012−5148A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204260(P2011−204260)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2006−262919(P2006−262919)の分割
【原出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】