説明

弾性表面波装置及びその製造方法

【課題】バンプ形成時の応力による圧電基板のクラックが生じ難く、かつ電極層の圧電基板からの剥離も生じ難い、弾性表面波装置を得る。
【解決手段】バンプ13を介して実装基板にフリップチップボンディング方式で実装される弾性表面波装置であって、圧電基板2の第1の主面上にIDT電極3〜5を含む第1の電極層11が形成されており、第1の電極層11に電気的に接続されるように、第2の電極層12が形成されており、第2の電極層12上にバンプ13が接合され、第2の電極層12のバンプ13が接合される部分を接合領域としたときに、接合領域において第2の電極層12と圧電基板2との間に、バンプ13よりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層8が設けられている、弾性表面波装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップチップボンディング方式により実装基板に実装される弾性表面波装置及びその製造方法に関し、より詳細には、バンプと接合される電極及び該電極周囲の構造が改良された弾性表面波装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共振子や帯域フィルタとして弾性表面波装置が広く用いられている。また、弾性表面波装置及び弾性表面波装置が搭載される電子機器の小型化を図るために、フリップチップボンディング方式が広く用いられている。フリップチップボンディング方式では、弾性表面波素子がバンプを介して実装基板に搭載される。
【0003】
下記の特許文献1には、フリップチップボンディング方式により実装される弾性表面波装置が開示されている。図4は特許文献1に記載の弾性表面波装置を示す正面断面図である。弾性表面波装置1001は、圧電基板1002を有する。圧電基板1002上に、IDT電極1003aを含む第1の電極層1003が形成されている。第1の電極層1003は、IDT電極1003aに接続されている第1の電極パッド層1003bをさらに含む。第1の電極パッド層1003bに、第2の電極パッド層1004が積層されている。この第1の電極パッド層1003bと、第2の電極パッド層1004とが積層されている電極パッド部分上に、Auバンプ1005が接合されている。
【0004】
弾性表面波装置の電極パッド上にAuバンプを超音波振動を用いて形成する際、あるいはAuバンプを介して弾性表面波装置を実装基板に超音波振動を用いて実装する際などに、電極パッドと圧電基板との密着性が十分でないため、電極パッドが圧電基板に剥離するおそれがあった。また、バンプから加わる力により、圧電基板にクラックが生じることもあった。このような問題を解決するために、第2の電極パッド層は3層構造となっている。
【0005】
具体的には、最上層である第2の電極パッド層1004が、Auバンプとの接合性を確保するために、AuまたはAlを主成分とする合金からなる電極層である。また、中間層として、密着性を高めるために、TiまたはNiCrなどの密着層が形成されている。そして、第2の電極パッド層1004の最下層には純度の高いAlやAl−Cu合金等が用いられている。比較的硬度が低いAlは応力緩和層として機能する。
【0006】
他方、下記の特許文献2や特許文献3には、LiNbOやLiTaOからなる圧電基板を有する弾性表面波素子が開示されている。ここでは、IDT電極を覆うように、SiOなどからなる保護膜が形成されている。それによって、周波数温度係数TCFの改善、信頼性の向上、電気機械結合係数の最適化及びリップルの低減等が図られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−261560号公報
【特許文献2】特開2006−121743号公報
【特許文献3】WO2007/125733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の構造では、上記積層構造の電極パッドを用いることにより、電極パッドの剥離や圧電基板のクラックが抑制されるとされている。しかしながら、上記のように、バンプとの接合性に優れた電極層と、応力緩和層や応力分散層として機能する電極層を積層しなければならなかった。そのため、電極パッド部分における電極層の形成工程が煩雑であり、かつコストが高くつくという問題があった。
【0009】
また、特許文献2や特許文献3では、周波数温度特性の改善や信頼性を高めるためなどに、IDTを覆うように保護膜が形成されているが、この保護膜は、周波数温度特性の改善や信頼性を高める機能を有するものにすぎなかった。
【0010】
本発明の目的は、フリップチップボンディング方式により、実装される弾性表面波装置であって、バンプから伝わる力を分散することができ、しかも電極構造の簡略化及び低コスト化を図ることができる弾性表面波装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る弾性表面波装置は、バンプを介して実装基板にフリップチップボンディング方式で実装される弾性表面波装置である。本発明に係る弾性表面波装置は、バンプと、第1及び第2の主面を有し、実装基板にバンプを介して接合される圧電基板と、前記圧電基板の第1の主面に形成されており、IDT電極を含む第1の電極層と、前記第1の電極層に電気的に接続されており、前記バンプが接合される第2の電極層とを備える。さらに、本発明に係る弾性表面波装置は、前記第2の電極層のバンプが接合される部分を接合領域としたときに、該接合領域において、第2の電極層と圧電基板との間に設けられており、前記バンプよりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層を備えている。
【0012】
本発明に係る弾性表面波装置のある特定の局面では、前記圧電基板がへき開方向を有し、前記接合領域と接している部分において誘電体層が、へき開方向を有しないか、または前記圧電基板のへき開方向と異なるへき開方向を有する。この場合には、圧電基板のへき開を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る弾性表面波装置の他の特定の局面では、前記第2の電極層が、前記誘電体層の上面の前記接合領域から該誘電体層の側面を経て前記圧電基板上の第1の電極層側に向かって延び、かつ第1の電極層に接続されている。この場合には、バンプが接合される接合領域においては、誘電体層上に第2の電極層を形成するだけでよい。従って、製造工程のさらなる簡略化を図ることができる。
【0014】
本発明に係る弾性表面波装置の他の特定の局面では、前記誘電体層が、前記第1の電極層の少なくとも一部を覆うように形成されており、該誘電体層が前記第1の電極層に重なり合っている部分に前記第1の電極層を露出させる開口部が形成されており、前記第2の電極層が、前記開口部に至っており、該開口部内において露出している前記第1の電極層に電気的に接続されている。この場合には、開口部を有する平坦な誘電体層を形成すればよい。圧電基板上の誘電体層の開口部の位置を変えることによって、配線の設計の自由度を上げることができる。また、IDT電極を覆う誘電体層を形成する場合、該IDT電極を覆う誘電体層と一体に上記接合領域に位置する誘電体層を形成することができる。すなわち、IDT電極を覆う誘電体層部分により、信頼性の向上、周波数温度係数TCFの向上等を図り得る。
【0015】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記第1の電極層と第2の電極層との間に形成されており、第1の電極層と第2の電極層との接合強度を高める密着層をさらに備える。この場合には、第1の電極層と第2の電極層との接合強度を効果的に高めることができる。
【0016】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに別の特定の局面では、前記誘電体層の前記接合領域とは反対側の面が、前記圧電基板と直接接合されている。この場合には、接合領域において、誘電体層が圧電基板のみに接合している。そのため、接合強度が高められる。さらに、電極層に比べて断熱性に優れた誘電体層が圧電基板に接合されているため、バンプから圧電基板に伝わる熱量を小さくすることができる。
【0017】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記バンプが、AuまたはAu合金からなり、前記誘電体層が、SiO、SiON及びSiNからなる群から選択された少なくとも1種の誘電体からなる。この場合には、AuまたはAu合金からなるバンプ形成時の力を、上記誘電体からなる誘電体層により効果的に分散させることができる。
【0018】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記第1の電極層の上面がAlもしくはAuまたはこれらを主体とする合金からなり、前記第2の電極層の下面が、AlもしくはAuまたはこれらを主体とする合金からなり、前記密着層が、前記第1の電極層に対する密着力が第2の電極層に対する密着力よりも高い材料からなる。この場合には、Auからなるバンプを第1の電極層に強固に接合することができる。また、第1の電極層と第2の電極層とが密着層により強固に接合される。
【0019】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに別の特定の局面では、前記密着層が、Ti、NiCr及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる。この場合には、第1の電極層と第2の電極層とを強固に接合することができる。
【0020】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記密着層が、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間だけでなく、前記誘電体層の表面と、前記第2の電極層との間に至るように形成されている。この場合には、誘電体層と第2の電極層との接合強度も高めることができる。
【0021】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに別の特定の局面では、前記第2の電極層の熱伝導率が、前記誘電体層の熱伝導率よりも高い。この場合には、誘電体層の断熱効果により、圧電基板に加わる熱量を少なくすることができる。
【0022】
本発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、フリップチップボンディング方式により実装基板に実装される弾性表面波装置の製造方法であって、第1及び第2の主面を有する圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板の第1の主面上にIDT電極を含む第1の電極層を形成する工程と、前記圧電基板の第1の主面上において、前記第1の電極層の一部を覆うように、前記バンプよりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層を形成する工程と、前記第1の電極層に接続されるように、かつ前記誘電体層の上面に位置し、かつバンプが接合される接合領域に至るように、第2の電極層を形成する工程とを備える。
【0023】
本発明に係る弾性表面波装置のある特定の局面では、前記誘電体層として、前記第1の電極層の一部を露出させる開口部を有する誘電体層を形成し、前記開口部内に露出している第1の電極層に前記第2の電極層を接続する。この場合には、第1の電極層形成後に、上記開口部を有する保護層を形成した後に、開口部内において第1の電極層と第2の電極層とを容易に接続することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る弾性表面波装置及びその製造方法によれば、第2の電極層のバンプが接合される部分である接合領域において、第2の電極層と圧電基板との間にバンプよりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層が設けられているため、バンプ形成時や実装基板への実装時にバンプから伝わる力による圧電基板のクラックや接合領域における圧電基板と電極層との剥離を効果的に防止することができる。しかも、誘電体層を、製造工程の簡略化及びコストの低減を果すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的平面図及び(a)中のA−A線に沿う断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的平面図及び(a)中のB−B線に沿う断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的断面図である。
【図4】従来の弾性表面波装置を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的平面図であり、(b)は(a)中のA−A線に沿う断面図である。
【0028】
弾性表面波装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2は、適宜の圧電単結晶あるいは圧電セラミックスからなる。圧電単結晶としては、LiNbO、LiTaOなどを挙げることができる。本実施形態では、圧電基板2はLiNbOからなる。
【0029】
圧電基板2の第1の主面である上面に、IDT電極3〜5及び反射器6,7を有する第1の電極層11が形成されている。なお、圧電基板2の上面と対向する下面が第2の主面である。
【0030】
また、本実施形態では、図1(b)に示すように、IDT電極4の両側に、誘電体層8,9が形成されている。誘電体層8,9は、IDT電極4の一部を覆うように形成されている。すなわち、IDT電極4の弾性表面波伝搬領域の外側に誘電体層8,9が形成されているが、誘電体層8,9の内側端部は、IDT電極4の一部を被覆するように設けられている。より具体的には、誘電体層8を例にとると、誘電体層8の内側端8aが、IDT電極4の上面に位置するように誘電体層8が形成されている。また、内側端8aから誘電体層8の上面8bに至る側面8cは、傾斜面とされている。すなわち、側面8cは、上方にいくにつれて外側に位置するように傾斜されている。誘電体層9も同様に構成されている。
【0031】
なお、本発明では、硬度を測定対象にダイヤモンドの四角錐圧子を押し込んで窪みがついたときの荷重よって測定するヌープ硬度(ISO 4546)の値が大きい場合を硬度が高い、値が小さい場合を硬度が低いと定義する。また、弾性表面波伝搬領域に近い側を内側、遠い側を外側とする。
【0032】
上記誘電体層8,9は、後述のバンプ13よりも硬度が高い適宜の誘電体材料からなる。このような誘電体材料としては、酸化ケイ素SiO、酸窒化ケイ素SiON、窒化ケイ素SiNなどの少なくとも1種を挙げることができる。
【0033】
第1の電極層11は、適宜の金属材料により形成することができる。
【0034】
第1の電極層11に接続されるように、第2の電極層12が形成されている。図1(b)に示すように、誘電体層8が形成されている部分を例にとると、IDT電極4の上面に第2の電極層12の下端が接合されている。第2の電極層12は、誘電体層8の側面8c上に至り、さらに誘電体層8の上面8bに至っている。この誘電体層8の上面の内、破線Xで囲まれた領域の上方が、バンプ13を接合する部分である。すなわち、第2の電極層12の上記破線Xで囲まれている部分がバンプを接合する接合領域である。上記接合領域の面積より誘電体層8が第1の電極層12または圧電基板2に接合する面積は大きいものとする。
【0035】
第2の電極層12は、適宜の金属により構成することができる。第2の電極層12の好ましい電極材料については後述する。誘電体層8が形成されている部分を代表して説明したが、誘電体層9が形成されている部分においても、同様に第2の電極層12が形成されている。また、IDT電極3,5が形成されている部分においても、同様に誘電体層及び第2の電極層が形成されている。
【0036】
本実施形態の弾性表面波装置1の特徴は、上記接合領域において、第2の電極層12の下方に誘電体層8,9が位置していることにある。すなわち、バンプ13が接合される部分において、第2の電極層12と圧電基板2との間に誘電体層8,9が介在している。誘電体層8の硬度がバンプ13の硬度よりも高いため、超音波振動を用いてバンプ13を第2の電極層12に接合する、またはバンプ13を実装基板にフリップチップボンディング方式で接合する際に発生する力が、誘電体層8,9で分散される。つまり、力が誘電体層8,9で分散され、バンプ13から圧電基板2に伝わる応力を軽減できる。そのため、圧電基板2のクラックを抑制することができる。加えて、第1の電極層11は、接合領域外に位置しているため、第1の電極層11の圧電基板2からの剥離も生じ難い。また、バンプ13を形成する際の第2の電極層12の誘電体層8,9からの剥離も生じ難い。
【0037】
次に、弾性表面波装置1の製造方法を説明する。弾性表面波装置1の製造に際しては、先ず、圧電基板2を用意する。次に、圧電基板2上に、フォトリソグラフィー法などの周知の方法により、第1の電極層11を形成する。次に、誘電体層8,9を蒸着もしくはスパッタリング法等により形成する。より具体的には、圧電基板2上に、第1の電極層の一部を露出させて誘電体膜を形成した後、パターニングすることにより、誘電体層8,9を形成することができる。しかる後、フォトリソグラフィー法により第1の電極層と接合するように第2の電極層12の一部を形成する。従って、第2の電極層12に煩雑な多層電極を形成する工程を用いることなく、安価に弾性表面波装置1を形成することができる。
【0038】
なお、圧電基板2が圧電単結晶からなり、該圧電基板2がへき開方向を有する場合、接合領域に接している部分において、誘電体層8,9がへき開方向を有しないか、または圧電基板2のへき開方向と異なるへき開方向を有することが望ましい。その場合、バンプ形成、または弾性表面波装置1の実装時の力により、誘電体層8,9がへき開しないか、圧電基板2のへき開方向と異なる方向にへき開するため、誘電体層8,9と圧電基板2とのへき開方向が一致する場合のように、微小クラックが誘電体層8,9のへき開方向に沿って伸展して圧電基板2に達し、誘電体層8,9と同じ圧電基板2のへき開方向にクラック伸展することがなく、圧電基板2のクラック発生を効果的に抑制することができる。
【0039】
図2(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波装置21を示す平面図及び(a)中のB−B線に沿う断面図である。
【0040】
第2の実施形態の弾性表面波装置21では、第1の実施形態と同様に、圧電基板2上に第1の電極層11が形成されている。第1の実施形態と同様の部分については、同一の参照番号を附することにより、第1の実施形態の説明を援用することとする。
【0041】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なるところは、誘電体層8,9に代えて、誘電体層23,24が形成されていることにある。誘電体層24を例にとり代表して説明することとする。誘電体層24は、SiO、SiON、SiNなどの誘電体材料からなる。このような誘電体材料は、バンプ13よりも硬度が高い誘電体材料であることが必要である。それによって、第1の実施形態と同様に、バンプ形成時の力を分散させることができる。
【0042】
もっとも、第2の実施形態では、誘電体層24は、平坦な上面24aを有し、該上面24aから下方に貫くように開口部24bが設けられている。開口部24bは、下方に存在している第1の電極層11を露出させるように設けられている。図2(b)では、第1の電極層11を構成しているIDT電極4が露出している。第2の電極層12は、誘電体層24の開口部24b内において第1の電極層11に接続されている。
【0043】
より具体的には、第2の電極層12は、開口部24bの内面を覆うように形成されている。また、第2の電極層12は、誘電体層24の上面24aにおいて、開口部24bの周縁から外側に至るように形成されている。この外側に至っている部分は、前述した接合領域を含む。すなわち、第2の電極層12の接合領域が、開口部24bの外側に位置している。
【0044】
本実施形態においても、バンプ13の形成に際して加わる力が上記誘電体層24により分散される。従って、バンプ形成時の応力による圧電基板2のクラックを抑制することができる。また、第1の電極層11に、バンプ形成時の力がバンプ13から直接加わらない。従って、第1の電極層11の圧電基板2からの剥離も生じ難い。さらに、第1の電極層11と第2の電極層12の接合部分は、接合領域外に位置しているため、第1の電極層11と第2の電極層12との剥離も生じ難い。
【0045】
このように、第1の電極層11と第2の電極層12との接合部分は、誘電体層24に設けられた開口部24bにおいて形成してもよい。
【0046】
誘電体層23側においても、同様にして第1の電極層11と第2の電極層12が接合されている。
【0047】
本実施形態においても、開口部24bを有する誘電体層24を形成し、しかる後第2の電極層12を形成すればよいだけであるため、製造工程の簡略化及びコストの低減を果し得る。
【0048】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波装置を示す断面図である。第3の実施形態の弾性表面波装置31では、第2の実施形態と同様に、開口部32bを有する誘電体層32が形成されている。もっとも、第3の実施形態が第2の実施形態と異なるところは、誘電体層32が圧電基板2の全面を覆うように形成されていることにある。すなわち、誘電体層32は、IDT電極4をも被覆するように形成されている。なお、図3では、図示されていないが、他のIDT電極及び反射器をも被覆するように誘電体層32が形成されている。従って、誘電体層32により、IDT電極4を保護することができる。
【0049】
また、誘電体層32としてSiOなどの正の周波数温度特性TCFを有する誘電体材料を用い、圧電基板2としてLiTaOやLiNbOなどの負の周波数温度係数TCFを有する圧電単結晶を用いた場合、誘電体層32と圧電基板2とが互いに周波数温度特性TCFを相殺する作用を得ることができる。従って、LiTaOやLiNbOなどの負の周波数温度係数TCFを有する圧電体により圧電基板2を形成し、正の周波数温度係数を有する誘電体材料により誘電体層32を形成することにより、弾性表面波装置31の周波数温度特性TCFを改善することができる。加えて、IDT電極をも被覆するように誘電体層32を形成することにより、膜を適正化することでリップルの低減を果すこともできる。
【0050】
弾性表面波装置31では、上記誘電体層32が第1の電極層11の全体を覆うように圧電基板2の全面に形成されていることを除いては、第2の実施形態と同様である。すなわち、第2の電極層12は、開口部32b内において露出している第1の電極層11に電気的に接続されている。また、第2の電極層12は、誘電体層32の上面32aにおいて、バンプ13が接合される接合領域に至るように形成されている。よって、本実施形態においても、バンプ13の接合に際しての力が誘電体層32により分散して伝搬される。そのため、圧電基板2のクラックを抑制することができる。また、本実施形態においても、第2の実施形態と同様に、第1の電極層11の圧電基板2からの剥離や、第1,第2の電極層11,12の接合部分の剥離も生じ難い。
【0051】
加えて、本実施形態では、第2の電極層12の下面に、密着層33が形成されている。密着層33は、NiCr、Tiなどからなる。すなわち、第1の電極層11と第2の電極層12との接合強度を高め得る金属材料からなる。また、このような金属材料は、第2の電極層12に比べ、誘電体層32への密着性も高い。従って、本実施形態では、密着層33の存在により、第2の電極層12の誘電体層32からのバンプ形成時の剥離も生じ難い。加えて、第1の電極層11と第2の電極層12との間の剥離もより一層生じ難い。
【0052】
本実施形態では、誘電体層32が第1の電極層11の全体を覆っているので、TCFの向上やリップルの低減等を図り得る。
【0053】
ここで、NiCrやTiなどからなる密着層33と、LiTaOやLiNbOなどからなる圧電基板2とが直接接合すると、NiCrやTiがLiTaOやLiNbOに存在する酸素を還元する。従って、圧電基板2が変質する。この変質により圧電基板2の強度が低下して、圧電基板2にクラックが発生しやすくなる。
【0054】
しかしながら、本実施形態では、密着層33と圧電基板2との間にLiTaOやLiNbOに存在する酸素を還元させない第1の電極層11または誘電体層32が介在する。すなわち、第2の電極層12の下面の密着層33が第1の電極層11と圧電基板2とだけに接合する。従って、このような圧電基板2の変質によるクラックが発生することがない。従来技術、例えば弾性表面波装置1001のような実施形態であれば、第2の電極パッド層1004の下面の密着層と圧電基板との直接接合を避けるため、密着層を第2の電極パッド層1004の下面の一部のみに形成する必要がある。これに対して、本実施形態によれば、密着層33を第2の電極層12の下面の全面に形成したとしても、密着層33と圧電基板2とが直接接合しないので好ましい。さらに、圧電基板2に接触させることなく第2の電極層12と密着層33とを同様の形状に形成できるため、密着層33と第2の電極層12とを共通した工法によって容易に形成できる。
【0055】
上記弾性表面波装置31の製造に際しては、第2の実施形態と同様に、圧電基板2上に第1の電極層11及び誘電体層32を形成する。すなわち、開口部32bを有する誘電体層32を全面に形成する。しかる後、密着層33及び第2の電極層12を形成すればよい。密着層33の形成は、フォトリソグラフィー法などの周知の技術により行い得る。
【0056】
次に、クラックの発生防止の効果を観察するため、具体的な実験例を説明するとともに、第1及び第2の電極層並びにバンプの好ましい材料の組み合わせについて説明する。
【0057】
弾性表面波装置31を作製した。圧電基板2としてLiNbOを用いた。圧電基板2上に、後述の電極材料からなる第1の電極層11をフォトリソグラフィー法によりIDTを一体に形成した。しかる後、圧電基板2の全面にSiOからなる誘電体層32をRFスパッタリング法により成膜した。
【0058】
次に、ドライエッチング法により誘電体層32に開口部32bを形成するとともに、真空蒸着及びリフトオフ方式により密着層33を形成した。しかる後、密着層33上に第2の電極層12を形成した。さらに第2の電極層12の接合領域上にAuからなるバンプをボールボンディング法により形成した。
【0059】
弾性表面波素子はAuバンプを介して実装基板上にフリップチップ方式により超音波振動を用いて実装した。
【0060】
上記弾性表面波素子の製造に際し、実施例1,2については、第1の電極層11として、上記の圧電基板にAl膜を500nmの厚みで形成した後、以下の膜厚の第2の電極層12を用いた構造とした。なお、SiOからなる誘電体層32の膜厚は500nmとした。
【0061】
実施例1:Al/Ti/SiO構造。第2の電極層12としてのAl膜の厚み=1000nm、密着層としてのTi膜の厚み=250nmとする。
【0062】
実施例2:Au/Ti/SiOの電極構造。第2の電極層としてのAu膜の厚み=500nm、Ti膜の厚み=250nmとする。
【0063】
圧電基板は上記と同様とし、比較例1として圧電基板に密着層であるTi膜を介して電極を形成した弾性表面波装置を、比較例2として圧電基板に応力緩和層として比較的膜厚の厚いAl層を密着層Tiを介して形成した。さらに比較例3として図4に示した従来の弾性表面波装置1001を作製した。ただし、比較例3では圧電基板上にIDT電極を形成した後に、圧電基板上でIDT電極と隙間を設けて第1の電極層をAl膜を形成し、さらにAl膜上のみにTi膜を形成し、IDT電極と圧電基板とTi膜とが導通するようにAu膜を形成した。各層の厚みは以下の通りとした。なお、密着層であるTi膜を介さず、圧電基板にAu膜またはAl膜を直接接合した構造では、超音波振動を用いたバンプ接合及び実装基板への実装時に、圧電基板からのAu膜またはAl膜の剥離が発生したため、後述の熱応力試験を実施しなかった。
【0064】
比較例1:Au/Ti構造。電極層としてのAu膜の厚み=500nm、密着層としてのTi膜の厚み=250nmとする。
【0065】
比較例2:Al/Ti構造。電極層かつ応力緩和層としてのAl膜の厚み=1000nm、密着層としてのTi膜の厚み=250nmとする。
【0066】
比較例3:Au/Ti/Al構造。第2の電極層としてのAu膜の厚み=500nm、Ti膜の厚み=250nm、Al膜の厚み=500nmとする。
【0067】
弾性表面波装置のリフロー実装に相当する使用環境を再現するためと、クラックの観察を容易にするために、上記のようにして得た実施例1,2及び比較例1,2,3の条件ごとに100個の弾性表面波装置を270℃の温度に昇温したオーブン内に設置して、弾性表面波装置が270℃になるまで加熱する。しかる後、オーブンから弾性表面波装置を取り出し、25℃の室温に放置して弾性表面波装置が25℃の温度になるまで冷却する熱応力試験を行った。熱応力試験の結果を下記の表1に示す。なお、表1の記号は熱応力試験において圧電基板にクラックが発生しなかった場合を○、クラックが発生した場合を×とした。
【0068】
【表1】

【0069】
表1から明らかなように、実施例1,2では、熱応力試験の結果、圧電基板の割れは認められなかった。これに対して、密着層であるTi膜が圧電基板LiNbOと接触する構造である比較例1,2では、応力緩和層の有無によらず圧電基板のクラックが発生していた。また、比較例3では、圧電基板のクラックは生じていなかったが、Al膜とAu膜との間にのみ形成した、Al膜及びAu膜と形状が異なるTi膜を形成するAu/Ti/Alの構造では、電極の形成工程が複雑となり、コストが高くつく。これに対して、実施例1,2の構造では、第1の電極層とIDT電極とを同時に形成でき、かつ共通のレジストあるいは共通のレジストパターンを用いて密着層であるTi膜と第2の電極層であるAl膜を同形状で厚みを変えて形成できるため、電極の形成工程が容易であるにもかかわらず、圧電基板2におけるクラックを防止することができ、コストを効果的に低減し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0070】
1…弾性表面波装置
2…圧電基板
3〜5…IDT電極
6,7…反射器
8,9…誘電体層
8a…内側端
8b…上面
8c…側面
11…第1の電極層
12…第2の電極層
13…バンプ
21…弾性表面波装置
23,24…誘電体層
24a…上面
24b…開口部
31…弾性表面波装置
32…誘電体層
32a…上面
32b…開口部
33…密着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンプを介して実装基板にフリップチップボンディング方式で実装される弾性表面波装置であって、
バンプと、
第1及び第2の主面を有し、実装基板に前記バンプを介して接合される圧電基板と、
前記圧電基板の第1の主面に形成されており、IDT電極を含む第1の電極層と、
前記第1の電極層に電気的に接続されており、前記バンプが接合される第2の電極層と、
前記第2の電極層のバンプが接合される部分を接合領域としたときに、該接合領域において、第2の電極層と圧電基板との間に設けられており、前記バンプよりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層とを備える、弾性表面波装置。
【請求項2】
前記圧電基板がへき開方向を有し、前記接合領域と接している部分において前記誘電体層が、へき開方向を有しないか、または前記圧電基板のへき開方向と異なるへき開方向を有する、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記第2の電極層が、前記誘電体層の上面の前記接合領域から該誘電体層の側面を経て前記圧電基板上の第1の電極層側に向かって延び、かつ第1の電極層に接続されている、請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記誘電体層が、前記第1の電極層の少なくとも一部を覆うように形成されており、該誘電体層が前記第1の電極層に重なり合っている部分に前記第1の電極層を露出させる開口部が形成されており、
前記第2の電極層が、前記開口部に至っており、該開口部内において露出している前記第1の電極層に電気的に接続されている、請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記第1の電極層と第2の電極層との間に形成されており、第1の電極層と第2の電極層との接合強度を高める密着層をさらに備える、請求項3に記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記誘電体層の前記接合領域とは反対側の面が、前記圧電基板と直接接合されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記バンプが、AuまたはAu合金からなり、前記誘電体層が、SiO、SiON及びSiNからなる群から選択された少なくとも1種の誘電体からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記第1の電極層の上面がAlもしくはAuまたはこれらを主体とする合金からなり、前記第2の電極層の下面が、AlもしくはAuまたはこれらを主体とする合金からなり、前記密着層が、前記第1の電極層に対する密着力が第2の電極層に対する密着力よりも高い材料からなる、請求項5に記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記密着層が、Ti、NiCr及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる、請求項8に記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
前記密着層が、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間だけでなく、前記誘電体層の表面と、前記第2の電極層との間に至るように形成されている、請求項8に記載の弾性表面波装置。
【請求項11】
前記第2の電極層の熱伝導率が、前記誘電体層の熱伝導率よりも高い、請求項1〜10のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
フリップチップボンディング方式により実装基板に実装する弾性表面波装置の製造方法であって、
第1及び第2の主面を有する圧電基板を用意する工程と、
前記圧電基板の第1の主面上にIDT電極を含む第1の電極層を形成する工程と、
前記圧電基板の第1の主面上において、前記第1の電極層の一部を覆うように、前記バンプよりも硬度が高い誘電体からなる誘電体層を形成する工程と、
前記第1の電極層に接続されるように、かつ前記誘電体層の上面に位置し、かつバンプが接合される接合領域に至るように、第2の電極層を形成する工程とを備える、弾性表面波装置の製造方法。
【請求項13】
前記誘電体層として、前記第1の電極層の一部を露出させる開口部を有する誘電体層を形成し、前記開口部内に露出している第1の電極層に前記第2の電極層を接続する、請求項12に記載の弾性表面波装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−65940(P2013−65940A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202029(P2011−202029)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】