説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 弾性表面波の横方向(伝搬方向に直交する方向)の漏洩波を抑制して挿入損失を向上させ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能する弾性表面波装置及び通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波装置は、圧電基板1上に、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極3〜5と、IDT電極3〜5の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極6,7とを有する弾性表面波素子2が形成されており、反射器電極6,7は、弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極11,12が反射器電極6,7の電極指13,14の形成領域の内部に伝搬方向に沿って形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。また、近年、移動体通信機器において、小型化のためアンテナが、従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきている。そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大している。
【0003】
このような広帯域化、低損失化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
図4は、従来の平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタの電極構造を模式的に示す平面図である。圧電基板201上に弾性表面波フィルタ202を形成する。弾性表面波フィルタ202は、3個のIDT電極203,204,205と、それらの両側に配置された反射器電極206,207とから構成されている。弾性表面波フィルタ202は、不平衡信号端子208に接続されている。不平衡信号端子208に接続されたIDT電極203,205は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加えられ、弾性表面波を励振させる。励振された弾性表面波が中央のIDT電極204に伝搬する。最終的に中央のIDT電極204の櫛状電極から平衡出力信号端子209,210へ信号が伝わり平衡出力される。このような構造により、平衡−不平衡変換機能を実現している。
【特許文献1】特開2000−323957号公報
【特許文献2】特開2004−120184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4に示すような従来の弾性表面波フィルタを用いることにより、不平衡−平衡変換機能を実現することができる。しかしながら、周波数選択フィルタに求められる特性としての低損失を実現する場合に、図4の反射器電極206,207のバスバー電極211,212が、弾性表面波の伝搬方向に沿って、反射器電極206,207の電極指213,214の形成領域の両端部に形成されていると、電極指213,214の形成領域を伝搬する弾性表面波がバスバー電極211,212の部分にも伝搬し、電極指213,214の形成領域における弾性表面波の閉じ込め効率が悪化する。即ち、バスバー電極211,212の部分は弾性表面波の伝搬特性が良好でないため、弾性表面波が減衰したり漏洩し易い部分として機能する。その結果、弾性表面波フィルタ202の通過帯域における挿入損失を十分に向上させることができないという問題点があった。
【0006】
また、電極指の中央でバスバー電極によって短絡された反射器電極を有する弾性表面波装置が、特許文献1,2に記載されているが、反射器電極の電極指の形成領域における弾性表面波の強度が最大になる中心軸の部分にバスバー電極が形成されている場合、反射器電極の反射効率が低下し、通過帯域における挿入損失が劣化し易いという問題点があった。
【0007】
従って、本発明は、上述した従来の問題に鑑み提案されたものであり、その目的は、弾性表面波フィルタにおける弾性表面波の横方向(伝搬方向に直交する方向)の漏洩波を抑制して挿入損失を向上させ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能できる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、前記IDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、前記反射器電極は、前記弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極が前記反射器電極の電極指の形成領域の内部に前記伝搬方向に沿って形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記バスバー電極は、前記反射器電極の前記伝搬方向に平行な中心軸からずれた位置に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記バスバー電極は、前記中心軸に対して対称に二本形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の通信装置は、上記本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、IDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、反射器電極は、弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極が反射器電極の電極指の形成領域の内部に伝搬方向に沿って形成されていることにより、以下の効果を奏する。
【0013】
即ち、従来のように、バスバー電極が反射器電極の電極指の形成領域の両端部に形成されている場合には、反射器電極の電極指の形成領域を伝搬する弾性表面波がバスバー電極の部分にも伝搬し、反射器電極の電極指の形成領域における弾性表面波の閉じ込め効率が悪化し、通過帯域における挿入損失を十分に向上させることができない。これに対して、本発明のように、弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極が反射器電極の電極指の形成領域の内部に伝搬方向に沿って形成されていると、バスバー電極の部分よりも弾性表面波の速度が速い圧電基板の表面部分が反射器電極の電極指の形成領域の両端部に存在することになる。その結果、反射器電極の電極指の形成領域における弾性表面波の閉じ込め効率が向上する。
【0014】
また、バスバー電極の幅が弾性表面波の波長の半分以下の長さであることにより、弾性表面波がバスバー電極による反射や干渉の影響を受けにくくなり、反射器電極の電極指の形成領域において弾性表面波の伝搬を阻害することがないので、通過帯域における挿入損失特性が良好になる。
【0015】
また、本発明の弾性表面波装置において好ましくは、バスバー電極は、反射器電極の伝搬方向に平行な中心軸からずれた位置に形成されていることにより、反射器電極の電極指の形成領域における弾性表面波の強度が最大になる中心軸の部分にバスバー電極が形成されている場合、反射器電極の反射効率が低下し、通過帯域における挿入損失が劣化するが、本発明のように、バスバー電極が中心軸からずれた位置に形成されていることにより、反射器電極の反射効率を低下させること無く、通過帯域における挿入損失特性を良好にすることができる。
【0016】
また、本発明の弾性表面波装置において好ましくは、バスバー電極は、反射器電極の伝搬方向に平行な中心軸に対して対称に二本形成されていることにより、反射器電極の電極指の形成領域における弾性表面波の分布を中心軸に対して対称にすることができ、IDT電極から伝搬してきた中心軸に対して対称な分布の弾性表面波を反射器電極で効率よく反射させることができる。
【0017】
また、バスバー電極が四本以上の場合、反射器電極の電極指の形成領域に占めるバスバー電極の面積の割合が大きくなり、弾性表面波の伝搬を阻害して反射効率が低下するので、通過帯域における挿入損失が劣化するが、本発明のように、バスバー電極が二本の場合、二本でバスバー電極としての機能を十分に果たすことができるので、弾性表面波の伝搬を阻害することなく、通過帯域における挿入損失特性を良好にすることができる。
【0018】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことから、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減されかつ感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の弾性表面波装置の実施の形態について、図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波装置について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0020】
本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例における電極構造を示す平面図を図1に示す。図1に示すように、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極3〜5と、IDT電極3〜5の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極6,7とを有する弾性表面波素子2が形成されており、反射器電極6,7は、弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極11,12が反射器電極6,7の電極指13,14の形成領域の内部に伝搬方向に沿って形成されている。
【0021】
この構成により、バスバー電極11,12の部分よりも弾性表面波の速度が速い圧電基板1の表面部分が反射器電極6,7の電極指の形成領域の両端部に存在することにより、反射器電極6,7の電極指の形成領域における弾性表面波の閉じ込め効率が向上する。また、バスバー電極11,12が弾性表面波の波長の半分以下の幅であることにより、反射器電極6,7の電極指の形成領域における弾性表面波の伝搬を阻害することがないので、通過帯域における挿入損失特性が良好になる。
【0022】
また、図1に示すように、弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極11,12は、バスバー電極11,12は、反射器電極6,7の伝搬方向に平行な中心軸からずれた位置に形成されていることが好ましい。これにより、反射器電極6,7の電極指の形成領域における弾性表面波の閉じ込め効率が向上し、通過帯域における挿入損失が良好になる。
【0023】
特に、バスバー電極11,12は、反射器電極6,7の電極指13,14の形成領域の両端から弾性表面波の1波長以上離れた内部に伝搬方向に沿って形成されていることが好ましい。この場合、弾性表面波が漏洩し易いバスバー電極11,12が、反射器電極6,7の電極指13,14の形成領域の両端に近接していると、弾性表面波の閉じ込め効果が十分なものとならないため、バスバー電極11,12を、反射器電極6,7の電極指13,14の形成領域の両端から弾性表面波の1波長以上離れた内部に形成することにより、弾性表面波の閉じ込め効果を十分なものとすることができる。
【0024】
また、バスバー電極11,12は、一定の幅で直線状に形成されているのが良く、弾性表面波の反射特性を、反射器電極6,7全体で均一にすることができる。
【0025】
バスバー電極11,12の厚みは、反射器電極6,7の電極指の厚みと同じであればよく、0.1〜0.5μm程度である。また、バスバー電極11,12における弾性表面波の速度が、電極の質量効果によって低下するのを抑えるために、バスバー電極11,12の厚みを反射器電極6,7の電極指の厚みよりも薄くすることが良い。
【0026】
本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の電極構造を図2の平面図に示す。図1に示した弾性表面波装置の構成において、バスバー電極11,12は、反射器電極6,7の伝搬方向に平行な中心軸Aからずれた位置に形成されている。
【0027】
この構成により、以下の効果が得られる。即ち、反射器電極6,7の電極指の形成領域における弾性表面波の強度が最大になる中心軸A部分にバスバー電極11,12が形成されている場合、反射器電極6,7の反射効率が低下し、通過帯域における挿入損失特性が劣化するが、本発明のように、バスバー電極11,12が中心軸Aからずれた位置に形成されていることにより、反射器電極6,7の反射効率を低下させること無く、通過帯域における挿入損失特性を良好にすることができる。
【0028】
本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例における電極構造を図3の平面図に示す。
【0029】
図1に示した弾性表面波装置の構成において、バスバー電極11,12は、反射器電極6,7の伝搬方向に平行な中心軸Aに対して対称に二本形成されている。
【0030】
この構成により、IDT電極3〜5から伝搬してきた、中心軸Aに対して対称な分布の弾性表面波を、反射器電極6,7で効率よく反射させることができる。また、バスバー電極指11,12が四本以上の場合、反射器電極6,7の電極指の形成領域に占めるバスバー電極指11,12の面積の割合が大きくなり、弾性表面波の伝搬を阻害して反射効率が低下するので、通過帯域における挿入損失が劣化するが、本発明のように、バスバー電極11,12が二本の場合、二本でバスバー電極11,12としての機能を十分果たすことができるので、弾性表面波の伝搬を阻害することなく、通過帯域における挿入損失特性を良好にすることができる。
【0031】
なお、IDT電極3〜5,反射器電極6,7の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれらの形状を簡略化して図示している。
【0032】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0033】
また、IDT電極及び反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等の薄膜形成法により形成される。各電極の厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが、弾性表面波フィルタとしての所期の特性を得る上で好適である。
【0034】
さらに、本発明に係る弾性表面波フィルタの電極及び圧電基板1上の弾性表面波の伝搬部に、SiO,SiN,Si,Alを保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0035】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。したがって、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、弾性表面波装置の挿入損失が改善されたため、消費電力が低減され感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0036】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を1個以上の複数個配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0037】
本発明の弾性表面波装置の実施例について以下に説明する。
【0038】
図3に示す弾性表面波装置を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO単結晶の圧電基板(多数個取り用の母基板)1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金から成る微細電極パターンを形成した。
【0039】
また、各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行った。
【0040】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行った後、各電極となる金属層の成膜を行った。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の膜みは約0.36μmとした。
【0041】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みでスピンコートし、縮小投影露光装置により、所望形状にパターニングを行い、現像装置によって不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波素子を構成する各電極のパターンを得た。
【0042】
この後、電極の所定領域上に保護膜を形成した。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターン及び圧電基板1上にSiO層を約0.02μmの厚みで形成した。
【0043】
その後、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行った。その後、このフリップチップ用窓開け部に、スパッタリング装置を使用し、Alを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波装置を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0044】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0045】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波装置(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N雰囲気中でベーキングを行い、パッケージ化された弾性表面波装置を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る1.4×1.1mm角の積層構造のものを用いた。
【0046】
なお、図3の弾性表面波装置は、IDT電極3,5は不平衡信号端子(不平衡信号入力端子)8に接続され、中央のIDT電極4は平衡信号端子(平衡信号出力端子)9,10に接続されている。
【0047】
また、比較例1のサンプルとして、図4に示す構成の弾性表面波装置を作製した。即ち、図4の弾性表面波装置は、圧電基板201上に弾性表面波フィルタ202を形成したものであり、弾性表面波フィルタ202は、3個のIDT電極203,204,205と、それらの両側に配置した反射器電極206,207とから構成されており、反射器電極206,207のバスバー電極211,212は、反射器電極206,207の電極指213,214の形成領域の両端部に形成されている。IDT電極203,205は不平衡信号端子208に接続され、中央のIDT電極204は平衡出力信号端子209,210に接続されている構成であり、上記実施例と同様の工程で作製した。
【0048】
次に、本実施例の弾性表面波装置及び比較例の弾性表面波装置の特性測定を行った。それぞれ0dBmの信号を入力し、周波数840〜1040MHz、測定ポイントを401ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)である。
【0049】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図5に示す。図5は、弾性表面波フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例のフィルタ特性は非常に良好であった。即ち、図5の実線に示すように、本実施例品の弾性表面波フィルタの挿入損失は、図5の点線で示す比較例の挿入損失に比べて特に930MHz〜945MHzの挿入損失が最大で0.05dB改善され、良好な特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図4】従来の弾性表面波装置を示す平面図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波装置の通過帯域における挿入損失の周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1:圧電基板
2:弾性表面波素子
3〜5:IDT電極
6,7:反射器電極
11,12:バスバー電極
13,14:反射器電極の電極指
8:不平衡信号端子
9,10:平衡信号端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、前記IDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、前記反射器電極は、前記弾性表面波の波長の半分以下の幅を有するバスバー電極が前記反射器電極の電極指の形成領域の内部に前記伝搬方向に沿って形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記バスバー電極は、前記反射器電極の前記伝搬方向に平行な中心軸からずれた位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記バスバー電極は、前記中心軸に対して対称に二本形成されていることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−177885(P2008−177885A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9877(P2007−9877)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】