説明

弾性表面波装置

【課題】効率的に不要応答を抑え、かつ、低損失な弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】一対の反射器2と、該一対の反射器の間に配置され、交差部321及びダミー部322を有する交差電極32並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置1であって、ダミー電極の長さと該ダミー電極が隣り合う前記交差電極のダミー部322の長さとが異なっていることを特徴とする弾性表面波装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の通信システムでは、限られた周波数資源の中で高信頼生かつ高速な情報伝達を実現するために高選択性フィルタの利用を前提としている。現在、このような用途に対して、弾性表面波装置が多数利用されており、いまや通信機器の性能を支配する必要不可欠な構成要素といっても過言ではない。
【0003】
弾性表面波装置の達成可能な性能は、利用する圧電基板によって限定されてしまうため、その圧電性が大きく、温度安定性が良好な材料が必要とされる。その一方で、弾性表面波装置はフィルタとして利用されるため、種々の原因で発生する不要応答がその特性を阻害してしまう。よって不要応答の発生しない基板材料や設計技術が探索されてきた。
【0004】
図15に代表的な弾性表面波装置である弾性表面共振子131の構造を示す。図15に示す弾性表面共振子は、一対の反射器132とこの一対の反射器の間に配置されるすだれ変換子(IDT)133を有し、IDTによって励起された弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave、以下単に「SAW」とも言う)が一対の反射器の間において特定の周波数で反射されることにより共振波を発生させる。なおIDT133は交差電極1332とダミー電極1333とを有し、更にこれら電極を共通に接続する一対の共通電極1331を有しているのが一般的である。
【0005】
この素子の不要応答の一つとして、SAWがすだれ変換子や反射器中を上下斜め方向(共振波の進行方向とは別の方向)へジグザグに伝播することに伴って発生する横モードと呼ばれるものがある。
【0006】
この不要応答に対し、例えば図17におけるWやWaを小さく選ぶことによって、SAWを図面上下方向(共振波の進行方向とは垂直の方向)の狭い範囲に閉じ込め、発生する横モードの数を限定するという手法がある(第一の技術)。
【0007】
また、図18のように、IDT143の交差電極部の交差部の長さに重みを付け(図18中の破線参照)、特定の横モード以外を出にくくする方法がある(第二の技術)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記図17における技術の場合、WやWaが小さいため、それに伴って静電容量が小さくなり、低損失な弾性表面波装置が現実しがたいという問題がある。
【0009】
また図18における技術の場合、特定の横モードを抑制することはできるが、それ以外の横モードに起因する不要応答を抑えることは困難である。
【0010】
そこで、本発明は、上記を鑑み、効率的に不要応答を抑え、かつ、低損失な弾性表面波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は具体的には以下の手段を採用する。
【0012】
第一の手段として、一対の反射器と、この一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、ダミー電極の長さとこのダミー電極が隣り合う前記交差電極のダミー部の長さとが異なっているものとする。
【0013】
これにより、ダミー電極及び交差電極のダミー部にまでエネルギーが染み出した横モードのSAWをダミー電極又は交差電極のダミー部の不均一性によって散乱させ効果的に不要応答を抑制することができる。しかも、交差部の長さを減らす若しくは変化させる必要も無く、交差電極の交差部分にエネルギーが集中した主モードは殆ど影響を受けることが無く、低損失な弾性表面装置を実現できる。
【0014】
なお、この手段において、ダミー電極の長さと前記交差電極のダミー部の長さは、共振波の進行方向に沿って重み付けがなされていること、ダミー電極の長さと前記交差電極のダミー部の長さは、共振波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していること、も望ましい。
【0015】
ここで、「共振波の進行方向」とは、後の実施形態を用いて詳細に説明されているが、一対の反射器によって発生する共振波の進行方向であって、より具体的には反射器における線状の電極の方向に対し垂直な方向をいう。なお「共振波の進行方向」、「垂直」、「平行」等の用語においてはいずれも作成における誤差が含まれ、装置の精度との兼ね合いもあるが概ね数度は許容されうるものである。
【0016】
またここで「共振波の進行方向に沿って重み付けがなされている」とは、上記共振波の進行方向に沿った順に(ダミー電極部又は交差電極のダミー部の)対象となる物理量(長さ、幅又は厚み)の変化を計測した場合、有意に変化がつけられていることをいう。この重み付けの量としては、不要応答を低減させることができる限りにおいて適宜設計可能であるが、例えば物理量が長さである場合、横モードのSAWの効率的な散乱から最大の長さと最小の長さの差が共振波の1波長より大きいことが望ましく、2波長以上であることがより望ましい。上限としては望ましくは30波長以下、より望ましくは20波長以下、更に望ましくは10波長以下であることが望ましい。30波長よりも大きくなると電気抵抗が大きくなり、共振波発生の効率が落ちてしまう虞があるからであり、この観点からは短い方が望ましいためである。
【0017】
また、第二の手段として、一対の反射器と、一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、ダミー電極の裾幅とこのダミー電極が隣り合う交差電極のダミー部の裾幅とが異なっていることとする。
【0018】
このようにすることで、ダミー電極及び交差電極のダミー部にまでエネルギーが染み出した横モードのSAWをダミー電極又は交差電極のダミー部の不均一性によって散乱させることができ効果的に不要応答を抑制することができる。しかも、交差電極の交差部分にエネルギーが集中した主モードは殆ど影響を受けることが無く、交差部の長さを減らす若しくは変化させる必要も無く、低損失を実現できる。
【0019】
なおこの場合においてダミー電極又は交差電極の交差部における「裾幅」とは、交差電極と共通電極との境界線の長さであって、より具体的には交差電極と共通電極との接続において生ずる角部を結んだ仮想の直線における長さをいう。具体的な形態としては後述の実施形態でより明らかとなるであろう。
【0020】
またこの手段において、ダミー電極の裾幅と交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けられていること、又は三角波的、矩形波的、三角関数波的若しくはランダムに変化していることも望ましい。
【0021】
また第三の手段として、一対の反射器と、この一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、ダミー電極の裾の厚みとこのダミー電極が隣り合う交差電極のダミー部の裾の厚みとが異ならせることとする。
【0022】
なおここにおいてダミー電極又は交差電極のダミー部における「厚み」とは、交差電極と共通電極との接続において生ずる角部を結んだ仮想の直線によって弾性表面波装置を切断した場合におけるそのダミー電極又は交差電極のダミー部の厚みをいう。具体的な太陽については後の実施形態で明らかとなろう。
【0023】
なおこの手段において、ダミー電極の裾の厚みと交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていること、又は三角波的、矩形波的、三角関数波的若しくはランダムに変化していることが望ましい。
【0024】
また、第一又は第三の手段において、ダミー電極の裾幅は、交差電極における交差部の裾幅と異なっていること、ダミー電極の裾幅と交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていること又は三角波的、矩形波的、三角関数波的若しくはランダムに変化していることも望ましい。
【0025】
また、第一の手段又は第一の手段と第二の手段との組み合わせにおいて、ダミー電極の裾の厚みは、交差電極における交差部の裾の厚みと異なっていること、ダミー電極の裾の厚みと交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていること又は三角波的、矩形波的、三角関数波的若しくはランダムに変化していることが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上により、効率的に不要応答を抑え、かつ、低損失な弾性表面波装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の最良の形態について図面を用いて説明する。
【0028】
(実施形態1)
図1は本実施形態に係る弾性表面波装置の概略図を示すものである。本実施形態に係る弾性共振波装置1は、基板上に対向して形成される一対の反射器2と、この一対の反射器2の間に配置されるすだれ変換子(以下単に「IDT」という。)3とを有して構成されており、IDT3は一対の共通電極31を有し、この共通電極31のそれぞれには交差部321とダミー部322とを有する複数の交差電極32と、複数のダミー電極33が接続されている。また一方の共通電極に接続された複数の交差電極それぞれは対向する他の共通電極の複数の交差電極と交差しており、櫛歯状に配置されている。
【0029】
本実施形態に係る弾性表面波装置は、IDT3における一対の共通電極33間に電圧を印加し、交差電極32の交差部321に電界を発生させ表面弾性波(以下「SAW」という)を発生させるとともに一対の反射器2でこれら発生するSAWを反射させることで特定の周波数の波を共振波として取り出すことができる。なおこの特定の周波数の共振波は、発生したSAWが一対の反射器2の対向する辺の方向(図中符号4)に対して垂直な方向(図中符号5参照)に進行する。従って、図1のように表現される弾性表面波装置の場合、符号5の方向を「共振波の進行方向」と定義する。
【0030】
弾性表面波装置における基板は、一対の反射器2及びIDT3を形成して機能させることができる限りにおいて特段限定されるものではないが、圧電性が大きく温度安定性が良好な材料が好ましく、例えばLiNbO基板、LiTaO基板の圧電基板を用いることができる。
【0031】
一対の反射器2及びIDT3は上記基板上に形成されるものであって、導電性の金属によって形成される。この導電性の金属としては様々採用することができるが、例えばAl、Cu又はそれらの合金等が好適である。これら電極は材料となる金属の薄膜を基板上に形成した後フォトリソグラフィーやエッチングを用いる等周知の方法により作成できる。
【0032】
一対の反射器2は、二つの反射器2が基板上で対をなすよう形成されている。各反射器2の構成は図1に示すとおりであって、平行に配置された複数の線状の電極21(図1では各反射器に3本)と、この複数の線状の電極21に共通して接続される反射器用共通電極22と、を有し、矩形状に形成されている。なおこれら複数の線状の電極21は、他の反射器2における複数の線状の電極21とも平行となるよう配置されている。
【0033】
IDT3は、上記のとおり一対の共通電極31と、この共通電極31のそれぞれに形成される交差部321及びダミー部322とを有する複数の交差電極32と、複数のダミー電極33とを有して構成されており、それぞれの共通電極において交差電極32とダミー電極とは共振波の進行方向に交互に形成されている。また、複数の交差電極32はその複数の交差電極32が接続される共通電極とは別の共通電極における複数の交差電極32と櫛歯状となるようほぼ平行に組み合わされて配置されている。またこの場合において、複数の交差電極32と反射器2における複数の線状の電極21とは共振させる必要からこれらについてもほぼ平行に配置させている。
【0034】
ところで、交差電極32におけるダミー部322とは、隣り合う交差電極との交差を形成していない部分であって、より具体的には、交差電極32のうち、両側に形成される二つのダミー電極33の頂点(図2参照。図2中で符号61及び62で示される。電極に幅がある場合、幅における中間点を指す。以下頂点という場合について同様)を結ぶ仮想の直線63により切り取られる共通電極側の部分をいう。また更にダミー部322の「長さ」とは、上記二つのダミー電極22の頂点を結ぶ直線上に存在する交差電極の幅における中間点(図2中符号64)と、交差電極と共通電極との接続端点までの長さをいう。なおここで「接続端点」とは、交差電極と共通電極との接続において生ずる二つの角部(図2中符号65及び66)を結んだ仮想の直線上に存在する交差電極上の中間点(図2中符号67)との距離をいう。また他の実施形態で用いるダミー部の「裾幅」とは、上記二つの角部を結ぶ直線の長さと定義する(なおダミー電極33の「裾幅」において同様である。)。
【0035】
また交差電極32の交差部321とは、両側に配置される交差電極と交差を形成する部分をいうが、より具体的には、隣接する交差電極32の頂点(図2中符号68、69)同士を結んだ仮想の直線70によって切り取られる交差電極の部分のうち共通電極と接続される側とは反対側の部分をいう。また更に交差電極32における交差電極部321の「長さ」とは、当該交差電極32の頂点(図2中符号71)と、上記隣り合う交差電極32の頂点を結んだ仮想の直線70上にある交差電極の仮想の中間点(図2中符号72)との間の距離をいう。なお交差電極32の交差部321同士は交差して配置されており、この交差により主モードの弾性表面波を集中して発生させることができる。また、本実施形態に係る複数の交差電極の交差部321はいずれもほぼ同じ長さとなっている。なお、ここで「ほぼ同じ」とは製造における誤差程度を許容する概念であるとする。
【0036】
交差電極32の交差部321とダミー部322との間の領域はギャップ部323であり、その「長さ」は符号図2中の符号64であらわされる仮想の点と符号72で表される仮想の点との距離である。なおこのギャップ部の距離としては様々な値をとることができるが、共振波の損失低減を維持する観点から考慮するとλ/2〜λ/4の範囲にあることも望ましい。
【0037】
本実施形態では特に、ダミー電極33及び交差電極32のダミー部322の長さに重みがつけられていることを特徴とする。即ちここではダミー電極33の長さがこのダミー電極33と隣り合う交差電極のダミー部322の長さと異なっている。例えば図1ではダミー電極33の長さが隣り合う交差電極32のダミー部322の長さと異なっており、しかもその長さが共振波の進行方向に沿って三角関数波的(正弦波的又は余弦波的)に変化している。
【0038】
このように、ダミー電極33及び交差電極32のダミー部322の長さに重み付けを行う即ち長さを変化させて異ならせることにより、ダミー電極33及び交差電極32のダミー部にまでエネルギーを染み出させてこのダミー部322又はダミー電極33で横モードのSAWを散乱させることができ、効果的に不要応答を抑制することができるようになる。しかも、交差電極32の交差部分321にエネルギーが集中した主モードは殆ど影響を受けることが無く、交差部の長さを減らす若しくは変化させる必要も無い。なお横モードの波を散乱することができる限りにおいて、長さの変化としては三角波的、矩形波的、三角関数波的、又はランダムなど様々の態様が考えられる。
【0039】
本実施形態の弾性表面波装置における電極の本数、幅、厚さ、電極同士の間隔などについては取得したい共振波の波長等に応じて適宜調整可能であるが、例えば、IDTにおいて隣り合う交差電極の交差部321の間隔は共振波の波長をλとするとλ/2で考えられるため、交差電極の交差部321の幅としてはλ/2より小さい様々な値をとることができる。なおこれらは反射器2における線状の電極において同様である。交差電極32の交差部321の長さとしては、主モードのSAWの損失を大きくしない限りにおいて特段に制限は無いが、共振波の波長をλとした場合、概ね5λ〜100λの範囲内にあることが望ましく、更には10λ〜50λの範囲内にあることがより望ましい。また交差電極32の本数としても適宜設計可能であるが、10本〜1000本、より望ましくは20本〜100本程度である。
【0040】
また交差電極32のダミー部322の長さにおいても様々な長さで設計可能であるが、長すぎると電極抵抗による影響が出てしまうことにより短いことが望ましいが、短くしすぎると後述する横モードのSAW散乱効果に影響が出てしまうこととなるため、1λより大きく30波長より小さい範囲、更には2λ以上20λ以下の範囲であることがより望ましい。なおこの範囲はダミー電極の長さにおいて同様である。
【0041】
(実施例1)
本実施形態に係る弾性表面波装置の効果を確認するために、実際の弾性表面波装置を作成した。以下具体的に説明する。
【0042】
本実施例においては、二つの弾性表面波装置を作成及び接続してその特性測定した。一方の弾性表面波装置41においては、基板の材質としてYカットX伝搬LiNbOを、反射器及びIDTを構成する電極材質としてCuを用いた。各反射器の線状の電極の数は20本とし、その長さは160μm、電極幅は1μm、電極間距離は2μmとし、IDTにおける交差電極の本数は100本、電極幅は1μm、電極間距離は2μm、交差電極の交差部の長さは160μm、ダミー電極の長さは共振波の進行方向に沿って三角波的に変化し、IDT中心部でもっともダミー電極が長く3λに、IDT端部でもっとも短く0.5λになるよう設計した。なお共振波の波長は4μmとなるように設計し、電極の厚みは約0.3μmとした(図3に概略を示す)。なお他方の弾性表面波装置42は上記弾性表面波装置とほぼ同じ形状であるが電極間隔(λ/2の値)のみを変えて作成している。
【0043】
そしてこれらを図4に示すように接続し、交流電圧を共通電極に印加することで挿入損失を測定した。
【0044】
一方、この結果の比較のために、実施例にて用いた弾性表面波装置におけるIDTの交差電極におけるダミー部の重み付けを行わなかった係も作成し、実験も行った(この弾性表面波装置を比較例とする)。この弾性表面波装置は上記ダミー電極及び交差電極の交差部の長さに重みをつけずそれぞれ3λと一定にしたものである。
【0045】
この結果を図5及び図6に示す。図5は本実施例による効果を示す図であり、図6は比較例の結果を示す図である。この結果によると、図5に示す周波数特性が図6に示す周波数特性よりもより有意に横モードの弾性表面波による損失(図6中の矢印参照)を抑えており、かつ、主モードの損失も少ないことがわかる。これにより、本実施形態に係る弾性表面波装置の効果を確認できた。
【0046】
(実施形態2)
本実施形態に係る弾性表面波装置は、実施形態1に係る弾性表面波装置において更にダミー電極の裾幅と交差電極のダミー部の裾幅にも重みをつけた点が異なる。なおそれ以外についてはほぼ実施形態1に記載の弾性表面波装置と同様である。図7に本実施形態に係る弾性表面波装置の模式図を示す。
【0047】
より具体的に説明すると、本実施形態の弾性表面波装置ではダミー電極の裾幅73を変化させ、ダミー電極の裾幅73と交差電極におけるダミー部の裾幅74とが異なるように構成した。このような構成にすることにより、横モードのSAWを散乱させることができる。もちろん、効果的に主モードの表面弾性波を集中させる効果も維持できる。またこの裾幅の変化の態様としては、共振波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化させることができる。
【0048】
なお、本実施形態ではダミー電極の裾幅73を変えて交差電極のダミー部の裾幅とダミー電極の裾幅73とを異ならせる形態としているが、同様な効果を期待できるものとしてダミー電極及び交差電極のダミー部の裾幅とを変えて同様に異ならせた態様(図8参照)、交差電極のダミー部の幅のみを変化させて異ならせた形態(図9参照)も考えられる。また、長さの重み付けを行うことなく幅のみを単独で変化させる場合も、長さによる散乱の効果は得られないが、裾幅の不均一に起因する散乱の効果を得ることができるため、実施の態様とすることができる(図10参照。図10はダミー電極の裾幅のみ変化させているが、上記と同様に交差電極のダミー部の裾幅を変化させることも可能である)。
【0049】
(実施形態3)
本実施形態に係る弾性表面波装置は、実施形態1に係る弾性表面波装置のダミー電極の共通電極との接続部分(裾部)における厚みにも重みをつけた点が異なる。それ以外についてはほぼ実施形態1に記載の弾性表面波装置と同様である。即ち弾性表面波装置を正面から見た場合は図1とほぼ同じであるが切断面における構成が異なる。図11に本実施形態に係る弾性表面波装置を図1としたときの図中A−Aに沿って切断した場合の断面概略図を示す。
【0050】
より具体的には、本実施形態の弾性表面波装置ではダミー電極33の共通電極との接続部分(裾部)の厚み75を交差電極のダミー部の厚み76よりも厚くしている点が異なる。これにより共通電極との接続部分近傍において不均一性が生じ、横モードのSAWを散乱させることができ、効率的に不要応答を抑えかつ低損失な弾性共振波装置を提供することができる。
【0051】
なお本実施形態ではダミー電極の厚みを変化させて異ならせた形態としているが、同質な効果を期待できるものとして交差電極のダミー部の厚みと交差電極のダミー部の厚み双方を変化させて異ならせる形態、交差電極のダミー部の厚みのみを変化させて厚みを異ならせる態様も考えられる。また厚みの変化のさせ方としては共振波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数的又はランダムに異ならせることも有用である。
【0052】
なおこれら厚みを変化させる場合においても、交差電極の交差部近傍においては主モードのSAWの損失を抑えるため交差部分及びギャップ部分においては均一な厚さであることが望ましいため、断面は例えばダミー電極の裾又は交差電極のダミー部の裾に近くなるにつれて厚みが異なっていくようにすることも望ましい(図12参照。図12は本実施形態における交差電極のダミー電極の厚みが裾に近づくに従い厚くなっていく形態を示すものである)。
【0053】
また、上記実施形態2の場合と同様に、ダミー電極又は交差電極のダミー部の長さの重み付けを行わない場合であっても、厚みのみの重み付けにより不均一性を達成して横モードのSAWを効率的に散乱させて低損失な弾性表面波装置を達成することもできる。
【0054】
(実施形態4)
本実施形態では、実施形態1とほぼ同様であるが、ダミー電極の頂部(裾と反対の部分をいう)の幅77と、このダミー電極とギャップを空けて配置される交差電極の頂部の幅79とを異ならせ、更に、交差電極におけるダミー部とギャップ部32との境界近傍におけるダミー部の幅78と交差電極における交差部とギャップ部32との境界近傍における幅79をも異ならせていることを特徴とする。即ち、ギャップ8を挟んで対向するダミー電極における幅と交差電極における幅とを異ならせていることまた、交差電極の交差部の幅とダミー部の幅とを異ならせていることを特徴とする。図13にこの俯瞰慨略図を示す。
【0055】
本実施形態では、このようにすることでギャップ8を挟む両電極の周期性、規則性を保ち主モードのSAWの損失を防ぐと共に、交差電極の交差部にエネルギーが集中した横モードのSAWを他の横モードのSAWと結合させて交差電極のダミー部及びダミー部に染み出させてからここで散乱させ、不要応答押さえ、かつ低損失な弾性表面波装置を提供することができる。
【0056】
なお本実施形態では、ダミー電極の頂部の幅77と交差電極のダミー部の幅双方を異ならせているが、ギャップ部における両電極の境界の周期性、規則性を保持できる限りにおいてダミー電極の頂部の幅のみ、交差電極におけるダミー部とギャップ部32との境界近傍におけるダミー部の幅78と交差電極における交差部とギャップ部32との境界近傍における幅79のみを異ならせる態様(図14参照)も可能である。また、この幅の異ならせ方は基板材料や取り出したい共振波長に応じて適宜調整可能であるが、概ね1.2倍〜2倍程度であることが望ましい。
【0057】
また、本実施形態では、幅を異ならせているが、上記幅と同様、ギャップを挟んで対抗するダミー電極及び交差電極の厚みを異ならせることでも同様な効果を得ることができる。
【0058】
また、上記実施形態1乃至3に記載のいずれの態様も組み合わせることが可能であって、これらによってより効率的に不要応答を抑えかつ低損失な弾性共振波装置を提供することができる。
【0059】
(実施例2)
本実施例では、実施形態4に係る弾性表面波装置を実際に作成し、その効果を確かめた。
【0060】
本実施例における弾性表面波装置の電極の材質、本数、幅、厚み、交差電極の電極間隔等は実施例1における弾性表面波装置とほぼ同じであるが、ダミー電極の頂部の幅を交差電極の交差部の幅と異ならせ、更に、交差電極のダミー部とギャップ部との境界近傍の幅を交差電極の交差部における幅と異ならせた(その電極幅は1.5μmとした)。図15に不感慨略図を示す。また本実施例では、一対の共通電極に交流電圧を印加することでそのコンダクタンスを測定して効果を確かめた。
【0061】
この結果を図15及び図16に示す。図15は本実施例における弾性表面波装置による周波数特性を示す結果であり、図16は実施例1に係る半導体装置における結果を図15と同様に作成したものである。図16においては、840MHz近傍に横モードによると考えられる不要応答があるものの、図15ではこの不要応答が殆ど観測されなかった。即ち、本実施形態によってより効果的に不要応答を低減できる。なお主モードの弾性表面波の損失も効果的に抑えることができていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態1に係る弾性表面波装置の俯瞰概略図
【図2】交差電極のダミー部及び交差部についての説明図
【図3】実施例1に係る弾性表面波装置の俯瞰慨略図
【図4】実施例1に係る弾性表面波装置の接続関係を示す図
【図5】実施例1に係る弾性表面波装置の実験結果を示す図
【図6】比較例に係る弾性表面波装置の実験結果を示す図
【図7】実施形態2に係る弾性表面波装置の俯瞰慨略図
【図8】実施形態2に係る弾性表面波装置の変形形態の俯瞰概略図
【図9】実施形態2に係る弾性表面波装置の変形形態の俯瞰概略図
【図10】実施形態2に係る弾性表面波装置の変形形態の俯瞰概略図
【図11】実施形態3に係る弾性表面波装置の一断面を示す図
【図12】実施形態3に係る弾性表面波装置の一断面を示す図
【図13】実施形態4に係る弾性表面波装置の俯瞰概略図
【図14】実施形態4に係る弾性表面波装置の変形形態俯瞰概略図
【図15】実施例2に係る弾性表面波装置の実験結果を示す図
【図16】比較例に係る弾性表面波装置の実験結果を示す図
【図17】第一の従来技術に係る弾性表面波装置の俯瞰概略図
【図18】第二の従来技術に係る弾性表面波装置の俯瞰概略図
【符号の説明】
【0063】
1…弾性表面波装置、2…反射器、21…線状の電極、22…反射器用共通電極、3…IDT、31…共通電極、32…交差電極、321…交差部、322…ダミー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の反射器と、
該一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、
前記ダミー電極の長さと該ダミー電極が隣り合う前記交差電極のダミー部の長さとが異なっていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記ダミー電極の長さと前記交差電極のダミー部の長さは、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記ダミー電極の長さと前記交差電極のダミー部の長さは、弾性表面波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
一対の反射器と、
該一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、
前記ダミー電極の裾幅と該ダミー電極が隣り合う前記交差電極のダミー部の裾幅とが異なっていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項5】
前記ダミー電極の裾幅と前記交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記ダミー電極の裾幅と前記交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
一対の反射器と、
該一対の反射器の間に配置され、交差部及びダミー部を有する交差電極並びにダミー電極を有するすだれ変換子と、を備えた弾性表面波装置であって、
前記ダミー電極の裾の厚みと該ダミー電極が隣り合う前記交差電極のダミー部の裾の厚みとが異なっていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項8】
前記ダミー電極の裾の厚みと前記交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていることを特徴とする請求項7記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記ダミー電極の裾の厚みと前記交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していることを特徴とする請求項7記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
前記ダミー電極の裾幅は、前記交差電極における交差部の裾幅と異なっていることを特徴とする請求項1又は7記載の弾性表面波装置。
【請求項11】
前記ダミー電極の裾幅と前記交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていることを特徴とする請求項10記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
前記ダミー電極の袖幅と前記交差電極のダミー部の裾幅は、弾性表面波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していることを特徴とする請求項10記載の弾性表面波装置。
【請求項13】
前記ダミー電極の裾の厚みは、前記交差電極における交差部の裾の厚みと異なっていることを特徴とする請求項1又は10記載の弾性表面波装置。
【請求項14】
前記ダミー電極の裾の厚みと前記交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って重み付けがなされていることを特徴とする請求項13記載の弾性表面波装置。
【請求項15】
前記ダミー電極の裾の厚みと前記交差電極のダミー部の裾の厚みは、弾性表面波の進行方向に沿って三角波的、矩形波的、三角関数波的又はランダムに変化していることを特徴とする請求項13記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−268474(P2010−268474A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130564(P2010−130564)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【分割の表示】特願2006−553981(P2006−553981)の分割
【原出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】