説明

弾性表面波装置

【課題】
長時間の遅延時間を有すSAWチャープフィルタをマルチストリップカプラで実現する。
【解決手段】
ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタの前後にチャープ信号を発生させる電気回路が接続されたSAWチャープZ変換器から構成されるOFDMシステムで、長遅延時間のLiNbO基板を使ったSAWチャープフィルタからなる。
【効果】以上のとおり、本発明の弾性表面波装置は、移動体通信分野の信号処理に適用できる弾性表面波を用いてコンボリューションを行うSAW分散型遅延線から構成されてなる1つのSAWチャープフィルタでSAWチャープZ変換を実現したOFDMシステムで、その工業的価値は極めて高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波のトラック間のSAWエネルギーの完全移行が可能なマルチストリップカプラを使って複数個のRACを結合させて構成される長時間の遅延時間を持つSAW分散型遅延線からなるSAWチャープフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波を用いてフーリエ変換を行うためのSAWチャープフィルタを用いる方法は高速で機能性にも優れたアナログ信号処理であり、電子回路でディジタルフーリエ変換を行う方法に比べ電力消費では圧倒的に優位にある。SAWチャープフィルタとは周波数により遅延時間が異なる分散型遅延線のことで、その構成は、可変ピッチをもった対向型すだれ状電極によるものと、可変ピッチの反射格子によるRAC型がある。B(帯域幅)とT(遅延時間)の積が100以下の場合には対向型が、100以上の場合にはRAC型が選択されて分散型遅延線となる。従来のディジタル回路で構成されるOFDM送信機は、情報シンボルは直並列変換され逆離散フーリエ変換回路(IDFT)に入力されアンテナから送信される。受信機ではアンテナで受信した信号をバンドパスフィルタに通して再生しキャリアと乗算してローパスフィルタに通すことによりベースバンド信号に変換する。受信信号は、A/D変換後に離散フーリエ変換(DFT)により再生される。この一連のOFDMシステムは、SAWチャープフィルタを1つ使ったSAWチャープZ変換で実現できることがわかっている。SAWチャープZ変換は超高速の信号処理が可能なことからバタフライ回路を必要としないので、電力消費を大幅に低減できる。非特許文献1には、SAWチャープZ変換の心臓部のSAWチャープフィルタの実現できる分散遅延時間と帯域幅に関して、材料がLiNbOとBi12GeO20(BGO)の場合の寸法サイズや挿入損失についての関係が図2に示されている。なお、弾性表面波に対する等方性材料であるBi12GeO20のSAW反射角度は45°であるが、異方性材料のY−Z LiNbOのSAW反射角度は46.83°である。
【非特許文献1】R. C. Williamson, ”Properties and Applications of Reflective-Array Devices,”, Proceedings of theIEEE,Vol.04,No.5,pp.703-709, May 1976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
SAWチャープZ変換を構成するSAWチャープフィルタに使用される圧電材料には、Y−Z LiNbO基板やZ−X Bi12GeO20基板が使用されている。Bi12GeO20基板は、130ppm/℃の温度係数を有するが、弾性表面波の伝搬速度は1、620m/s とLiNbO基板の3、488m/sのほぼ半分であることから約半分のサイズでSAWチャープフィルタが実現できる。しかしながら、Bi12GeO20基板は、LiNbO基板の電気機械結合係数K=4.8%より小さくてK=1.36%であるから、挿入損失は大きくなる。SAWチャープZ変換の移動体通信分野や無線LAN分野での使用を考えると超小型で材料の安定供給が必須の課題である。すでにOFDMは地上波ディジタル放送、ADSL、無線LANで実績があり、今後4G携帯移動通信網にもOFDMの導入が検討されている。本発明の弾性表面波装置からなるSAWチャープフィルタをOFDMに使われるSAWチャープZ変換に適用すれば、電力消費の少ない携帯端末が実現可能になる。
【0004】
日本における次世代高速移動通信には2.5GHz帯に30MHzの帯域が二つ割り当てられている。今それを用いて次のような通信網を作るものとすると、使用無線帯域幅=25MHz、伝送符号の時間長=20μs、FDMチャンネル数N(BT)=500となる。本発明をこれに適用すると、SAWチャープフィルタへの要求仕様は、中心周波数300MHz、BT=500、遅延時間は20μs、帯域幅は25MHzである。ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタにReflective Array Compressorを配置することで、LiNbOのRAC構造の中心周波数300MHzのSAWチャープフィルタであり、長時間遅延時間を有するSAWチャープフィルタを実用的範囲内で十分実現可能なマルチストリップカプラを用いて、SAWデバイスの小型化を図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の弾性表面波装置で実現するSAWチャープフィルタは、材料としても汎用性の高いLiNbO基板を使用している。遅延時間をBi12GeO20基板と同程度にするためには、マルチストリップカプラを用いてSAW伝搬路をトラック間を移動させて伝搬遅延時間を稼ぐことで、長い遅延時間を持つSAWチャープフィルタを実現できる。本発明の弾性表面波装置は、ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタの前後にチャープ信号を発生させる電気回路が接続されたSAWチャープZ変換器から構成されるOFDMシステムで使用される。本発明のSAWチャープフィルタは超小型のSAWチャープZ変換を用いるOFDMシステムである。特に本発明のチャープZ変換器を構成するSAWチャープフィルタは、B(帯域幅)T(遅延時間)積が100以上のRAC型のSAW分散型遅延線からなるSAWチャープZ変換を用いるOFDMシステムである。
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように本発明の弾性表面波装置は、移動体通信分野の信号処理に適用できる弾性表面波を用いてコンボリューションを行うための複数個のRACから構成されるSAW分散型遅延線からなる一つのSAWチャープフィルタから構成されるSAWチャープZ変換を実現できる。移動体通信分野の信号処理に適用できる弾性表面波を用いてコンボリューションを行うSAW分散型遅延線から構成されてなるSAWチャープZ変換であり、その工業的価値は極めて高い。本発明の弾性表面波装置からなるSAWチャープZ変換を用いたOFDMシステムでは、ディジタル方式ではDFTとしては512=2点のDFTを用いるのが一般的である。またその速度は50、000回/秒である。この時FFTに必要な演算速度は512×9×50、000=230.4MIPS上の乗算は複素乗算であるから実乗算の数はその4倍であり921.6MIPSにもなる。これは携帯端末には過大な演算量であり実現困難である。そこでSAWチャープZ変換プロセッサーを用いることで所要演算量を激減することができる。SAWチャープフィルタのチャープZ変換プロセッサーは、帯域25MHz、N=500での演算時間は1、100MIPSとなり、OFDMで要求される921.6MIPSを満足できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の弾性表面波装置は、ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタとして複数個のRACと複数個のマルチストリップカプラからなり、トラック間でのSAWの完全エネルギー移行が行えるマルチストリップカプラ及び入出力交差指状電極から各々形成されるトラック部内にRACを配置して分散型遅延線を構成して、SAWチャープフィルタの長時間遅延時間を実現する。ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタの前後にチャープ信号を発生させる電気回路が接続されたSAWチャープZ変換からなるSAWチャープフィルタである。
【実施例1】
【0008】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の弾性表面波装置である。Y−Z LiNbO圧電基板101上に入力交差指状電極102、出力交差指状電極103とマルチストリップカプラ104、105、106からなるトラック内にMSCとして107、108、109、110を配置する。102と104のRAC107のSAWエネルギーは、SAWチャープフィルタの中心周波数を300MHz、帯域幅25MHzとすると、設計時のマルチストリップカプラ104、105、106のカットオフ周波数をすべて同じ435MHzに選ぶことでSAWエネルギーは、マルチストリップカプラ104からRAC108に完全移行される。RAC108からのSAWエネルギーは、マルチストリップカプラ105からRAC109に完全移行する。RAC109からのSAWエネルギーは、マルチストリップカプラ106からRAC110に完全移行する。従って、RAC107、108の折り返しでの遅延時間は10μsなる。RAC109、RAC110のSAWエネルギーは出力交差指状電極103に2倍の遅延遅れで現れるから、同じ配置で出力信号のトータルの遅延時間は20μsとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のマルチストリップカプラを使用した弾性表面波装置である。
【図2】非特許文献1に示された従来の分散時間(Disperson)− 帯域幅(Bandwidth)の関係図である。
【符号の説明】
【0010】
101 LiNbO圧電基板
102 IDT
103 IDT
104 マルチストリップカプラ
105 マルチストリップカプラ
106 マルチストリップカプラ
107 RAC
108 RAC
109 RAC
110 RAC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウンチャープ特性を有するSAWチャープフィルタとして複数個のReflective Array Compressor(RAC)と複数個のマルチストリップカプラからなる弾性表面波装置において、マルチストリップカプラ及び入出力交差指状電極から各々形成されるトラック部内にRACを配置して分散型遅延線を構成されることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
SAWチャープフィルタの前後にチャープ信号を発生させる電気回路が接続されたSAWチャープZ変換器から構成されるOFDMシステムからなることを特徴とする請求項1項記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−273196(P2010−273196A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124215(P2009−124215)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【特許番号】特許第4395813号(P4395813)
【特許公報発行日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(595141982)
【Fターム(参考)】