説明

弾性表面波装置

【課題】高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きく改善することができるとともに、通過帯域外高域側の減衰を大きくすることが可能な弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】圧電基板11と、この圧電基板11の表面において、平衡−不平衡変換機能を有するとともに一端を不平衡信号端子12に接続し、かつ縦結合共振子型弾性表面波素子16を用いた弾性表面波フィルタ部17と、この弾性表面波フィルタ部17の平衡入出力の一方22と第1の平衡信号端子13との間に順次直列に接続した第1と第2の弾性表面波共振子18、19と、他方23と第2の平衡信号端子14との間に順次直列に接続した第3と第4の弾性表面波共振子20、21とを備え、前記第1、第2の弾性表面波共振子18と19の接続部24と、前記第3、第4の弾性表面波共振子20と21の接続部25との間に容量結合部27を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として移動体通信機器において使用される弾性表面波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機のRF段などにおいて、帯域フィルタとして弾性表面波フィルタが広く用いられている。
【0003】
図3は、従来の弾性表面波フィルタを示すパターン配置図である。
【0004】
図3において、弾性表面波フィルタは、圧電基板1の上において、入力端子2と出力端子3の間に直列に接続された縦結合共振子型弾性表面波素子4と、一端子対弾性表面波共振子5と、縦結合共振子型弾性表面波素子4と一端子対弾性表面波共振子5の間から並列に接続された容量電極6からなっている。そして、縦結合共振子型弾性表面波素子4は、弾性表面波伝搬方向に配置された3つのIDTとその両側に配置された反射器とからなり、中央のIDTの一端が入力端子2に接続され、両側のIDTの一端が共通接続されて、一端子対弾性表面波共振子5の一端に接続されている。また、中央のIDTの他端と両側のIDTの他端および、容量電極6の他端はそれぞれグランド電極7に接続されている。8は信号配線とグランド配線の立体交差部である。
【0005】
上記のような弾性表面波フィルタ装置において、縦結合共振子型弾性表面波素子4のみでは、高域側カットオフ周波数領域における急峻性が低く、高域側の減衰量も不十分であるため、一端子対弾性表面波共振子5を直列に接続するとともに、容量電極6を並列に接続することにより改善を図ろうとしたものである。
【0006】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−64358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、使用する通過帯域が増えるとともに通過帯域間の間隔が狭まってきて、周波数の峻別能力の要請が厳しくなってくると、さらに大きな急峻度と減衰量が必要になり、上記従来の構成では、急峻度および減衰量が不十分になってしまうという問題を有していた。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、特に縦結合共振子型弾性表面波素子において問題となる高域側において、カットオフ周波数領域の急峻性を向上するとともに帯域外の減衰量を確保することのできる弾性表面波装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
【0011】
本発明の請求項1に記載の発明は、圧電基板と、この圧電基板の表面において、平衡−不平衡変換機能を有するとともに一端を不平衡信号端子に接続し、かつ縦結合共振子型弾性表面波素子を用いた弾性表面波フィルタ部と、この弾性表面波フィルタ部の平衡入出力の一方と第1の平衡信号端子との間に順次直列に接続した第1と第2の弾性表面波共振子と、前記弾性表面波フィルタ部の平衡入出力の他方と第2の平衡信号端子との間に順次直列に接続した第3と第4の弾性表面波共振子とを備え、前記第1の弾性表面波共振子と前記第2の弾性表面波共振子の接続部と、前記第3の弾性表面波共振子と前記第4の弾性表面波共振子の接続部との間に容量結合部を設けたもので、この構成によれば、第1の弾性表面波共振子と第2の弾性表面波共振子の接続部と、第3の弾性表面波共振子と第4の弾性表面波共振子の接続部との間に容量結合部を設けたことにより、第1〜第4の弾性表面波共振子が単なる共振子波形の足し合わせだけではなく、3素子型のノッチつきローパスフィルタを並列に接続した構成となるため、高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きく改善することができるという作用効果を有する。さらに、第1および第3の弾性表面波共振子の反共振周波数以上の帯域において第1と第3の弾性表面波共振子および縦結合共振子型弾性表面波素子はコンデンサとして機能するため、容量結合部を含めた回路構成は、容量素子のΔ−Y変換により、縦結合共振子型弾性表面波素子の容量と容量結合部の容量を単純合計した値よりも大きな容量が付加される効果があり、通過帯域外高域側の減衰を大きく改善することができるという作用効果を有するものである。
【0012】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、第1の弾性表面波共振子の反共振周波数を第2の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くし、かつ第3の弾性表面波共振子の反共振周波数を第4の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くしたもので、この構成によれば、第1の弾性表面波共振子の反共振周波数を第2の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くし、かつ第3の弾性表面波共振子の反共振周波数を第4の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くしたことにより、より効果的に減衰量を向上することができるという作用効果を有するものである。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、容量結合部をくし型電極により構成し、かつこの容量結合部を第2の弾性表面波共振子と第4の弾性表面波共振子との間に配置したもので、この構成によれば、容量結合部をくし型電極により構成し、かつこの容量結合部を第2の弾性表面波共振子と第4の弾性表面波共振子との間に配置したことにより、少ない面積の中に必要な容量の容量結合部を形成することができるため、小型の弾性表面波装置を得ることができるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明の弾性表面波装置は、第1の弾性表面波共振子と第2の弾性表面波共振子の接続部と、第3の弾性表面波共振子と第4の弾性表面波共振子の接続部との間に容量結合部を設けたことにより、高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きく改善することができるとともに通過帯域外高域側の減衰を大きくすることができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態における弾性表面波装置のパターン配置図
【図2】本発明の他の実施の形態における弾性表面波装置のパターン配置図
【図3】従来の弾性表面波装置のパターン配置図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態における弾性表面波装置について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施の形態における弾性表面波装置のパターン配置図である。
【0018】
図1において、弾性表面波装置は、圧電性の単結晶からなる圧電基板11の表面に、不平衡信号端子12と、第1と第2の平衡信号端子13、14とグランド端子15と、平衡−不平衡変換機能を有し縦結合共振子型弾性表面波素子16からなる弾性表面波フィルタ部17と、第1〜第4の弾性表面波共振子18〜21とを備え、不平衡信号端子12に弾性表面波フィルタ部17の一端を接続し、弾性表面波フィルタ部17の一方の平衡入出力22と第1の平衡信号端子13との間に第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19を順次直列に接続し、弾性表面波フィルタ部17の他方の平衡入出力23と第2の平衡信号端子14との間に第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21を順次直列に接続したものである。縦結合共振子型弾性表面波素子16は、中央を分割電極とした平衡−不平衡変換機能を有する5電極型のものであり、両側から反射器で挟んだものである。ここで、第1の弾性表面波共振子18および第3の弾性表面波共振子20の互いに接していない両外側の電極指は、アポタイズにより反射器の機能を持たせ(図示せず)、Q値を確保している。そして、第2の弾性表面波共振子19と第4の弾性表面波共振子21は、それぞれ両外側の電極指にアポタイズを設けて反射器の機能を持たせ(図示せず)、Q値を確保している。26は信号配線とグランド配線との立体交差部である。
【0019】
そして、第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19の接続部24と、第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21の接続部25との間にくし型電極により構成した容量結合部27を設けたものである。
【0020】
このように、本発明の一実施の形態における弾性表面波装置は、第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19の接続部24と、第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21の接続部25との間に容量結合部27を設けたことにより、第1〜第4の弾性表面波共振子18〜21が単なる共振子波形の足し合わせではなく、3素子型のノッチつきローパスフィルタを並列に接続した構成となるため、高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きく改善することができるものである。さらに、第1および第3の弾性表面波共振子18、20の反共振周波数以上の帯域において第1と第3の弾性表面波共振子18、20および縦結合共振子型弾性表面波素子16は容量素子として機能するため、容量結合部27を含めた回路構成は、各容量素子のΔ−Y変換により、縦結合共振子型弾性表面波素子16の容量と容量結合部27の容量を単純合計した値よりも大きな容量が付加される効果があり、これによって、通過帯域外高域側の減衰を大きく改善することができるものである。
【0021】
そして、第1の弾性表面波共振子18の反共振周波数を第2の弾性表面波共振子19の反共振周波数よりも低くし、かつ第3の弾性表面波共振子20の反共振周波数を第4の弾性表面波共振子21の反共振周波数よりも低くすることにより、より効果的に減衰量を向上することができるものである。また、第1の弾性表面波共振子18の反共振周波数と第3の弾性表面波共振子20の反共振周波数を弾性表面波フィルタ部17の通過帯域周波数よりも大きくするとさらに効果的減衰量を向上することができるものである。
【0022】
また、第1の弾性表面波共振子18の容量を第2の弾性表面波共振子19の容量よりも大きくすることにより、通過帯域近傍における急峻度をさらに効果的に向上することができるものである。同様に、第3の弾性表面波共振子20の容量を第4の弾性表面波共振子21の容量よりも大きくすることにより、通過帯域近傍における急峻度をさらに効果的に向上することができるものである。
【0023】
そして、容量結合部27をくし型電極により構成し、かつこの容量結合部27を第2の弾性表面波共振子19と第4の弾性表面波共振子21との間に配置することにより、少ない面積の中に必要な容量の容量結合部27を形成することができるため、小型の弾性表面波装置を得ることができるものである。
【0024】
なお、第1〜第4の弾性表面波共振子18〜21において、アポタイズにより反射器の機能を持たせた箇所については、その代わりに、反射器を設けても良い。ここで、第1の弾性表面波共振子18と第3の弾性表面波共振子20は、その接している側において、電極指にアポタイズを設けて反射器の機能を持たせても良く、その代わりに反射器を配置しても良いものであるが、第1の弾性表面波共振子18と第3の弾性表面波共振子20を互いに近接させることにより、互いを他の反射器として機能させることが可能になり、弾性表面波共振子の占有面積が小さくなって、弾性表面波装置の小型化が可能になる。
【0025】
なお、本発明の一実施の形態における弾性表面波装置においては、図1に示すように、第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19の接続部24と、第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21の接続部25との間に容量結合部27を設けたが、第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19の接続部24とグランドとの間、および、第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21の接続部25との間に別個に容量結合部を設けても回路的には等価であり、急峻度の向上と減衰量の拡大において同様の効果を生ずる。しかし、接続部24、25とグランドとの間に別個に容量結合部を設けた場合には、前記本発明の一実施の形態における容量結合部27の効果と同等の回路を構成するためには、それぞれの容量結合部の容量値を2倍にする必要があり、全体として4倍の容量結合部の占有面積を必要とするため、弾性表面波装置の寸法が大きくなってしまうという欠点を有している。また、容量結合部とグランドとの間に引き回した配線の影響により、電気信号の中に不要な寄生成分が発生してしまい、弾性表面波装置の電気特性が低下してしまうという欠点を有している。本発明の一実施の形態における弾性表面波装置においては、第1の弾性表面波共振子18と第2の弾性表面波共振子19の接続部24と、第3の弾性表面波共振子20と第4の弾性表面波共振子21の接続部25との間に容量結合部27を設けたことにより、少ない占有面積の容量結合部27により急峻度の向上と減衰量の拡大を実現することができ、弾性表面波装置を小型化することができるとともに、容量結合部27とグランドとの間の配線引き回しが不要であるため、その配線による不要な寄生成分が発生することなく、それによる弾性表面波装置の電気特性の低下が生じないものである。
【0026】
また、本発明の一実施の形態における弾性表面波装置は、容量結合部27を弾性表面波フィルタ部17の縦結合共振子型弾性表面波素子16に直接に接続せず、第1の弾性表面波共振子18と第3の弾性表面波共振子20を介して接続していることにより、さらなる設計上の利点を有する。すなわち、容量結合部27を縦結合共振子型弾性表面波素子16に直接に接続してしまうと、その縦結合共振子型弾性表面波素子16の特性インピーダンスが変化してしまうため、特性インピーダンスを調整するための複雑な設計を縦結合共振子型弾性表面波素子16に施す必要があり、縦結合共振子型弾性表面波素子16の設計が複雑化すると共に追加の制約が必要になってしまう。本発明においては、容量結合部27を縦結合共振子型弾性表面波素子16に直接に接続せず、第1の弾性表面波共振子18と第3の弾性表面波共振子20を介して接続していることにより、縦結合共振子型弾性表面波素子16の特性インピーダンスを調整するために設計を複雑化する必要が無く、そのため、縦結合共振子型弾性表面波素子16の設計の自由度が高まり、要求される特性が実現しやすくなるものである。
【0027】
なお、上記した本発明の一実施の形態における弾性表面波装置においては、図1に示すように、弾性表面波フィルタ部17として中央に分割電極を有する5電極型の縦結合共振子型弾性表面波素子16のものを用いたが、図2のパターン配置図に示すように、弾性表面波フィルタ部28として2個の縦結合共振子型弾性表面波素子29、30を並列接続することにより平衡−不平衡変換機能を持たせたものを用いてもよいもので、このような構成にした場合においても、上記した本発明の一実施の形態における弾性表面波装置と同様に、高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きくすることができるとともに、通過帯域外高域側の減衰を大きくすることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る弾性表面波装置は、高域側カットオフ周波数領域における急峻度を大きく改善することができるとともに、通過帯域外高域側の減衰を大きくすることができるもので、主として移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタ等において有用となるものである。
【符号の説明】
【0029】
11 圧電基板
12 不平衡信号端子
13 第1の平衡信号端子
14 第2の平衡信号端子
16、29、30 縦結合共振子型弾性表面波素子
17、28 弾性表面波フィルタ部
18 第1の弾性表面波共振子
19 第2の弾性表面波共振子
20 第3の弾性表面波共振子
21 第4の弾性表面波共振子
22、23 平衡入出力
24、25 接続部
27 容量結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、この圧電基板の表面において、平衡−不平衡変換機能を有するとともに一端を不平衡信号端子に接続し、かつ縦結合共振子型弾性表面波素子を用いた弾性表面波フィルタ部と、この弾性表面波フィルタ部の平衡入出力の一方と第1の平衡信号端子との間に順次直列に接続した第1と第2の弾性表面波共振子と、前記弾性表面波フィルタ部の平衡入出力の他方と第2の平衡信号端子との間に順次直列に接続した第3と第4の弾性表面波共振子とを備え、前記第1の弾性表面波共振子と前記第2の弾性表面波共振子の接続部と、前記第3の弾性表面波共振子と前記第4の弾性表面波共振子の接続部との間に容量結合部を設けた弾性表面波装置。
【請求項2】
第1の弾性表面波共振子の反共振周波数を第2の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くし、かつ第3の弾性表面波共振子の反共振周波数を第4の弾性表面波共振子の反共振周波数よりも低くした請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
容量結合部をくし型電極により構成し、かつこの容量結合部を第2の弾性表面波共振子と第4の弾性表面波共振子との間に配置した請求項1記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−44765(P2011−44765A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189769(P2009−189769)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】