説明

弾性表面波装置

【課題】直列分割型のIDT電極を用いた弾性表面波装置におけるフィルタ特性の改善を図る。
【解決手段】SAW素子12,13がIDT電極1〜5を備えており、各IDT電極は、中心バスバー電極と、一方の長辺に対して一端が接続され互いに間隔を空けて配置される複数の第1浮き電極と、他方の長辺に対して一端が接続され互いに間隔を空けて配列される複数の第2浮き電極と、第1浮き電極の間に位置するように配置された第1電極と、第2浮き電極の間に位置するように配置された第2電極とを備える。中心バスバー電極の中心線を境に第1浮き電極及び第1電極が配置された領域と、第2浮き電極及び第2電極が配置された領域において、IDT電極の一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方を異ならせた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等に用いられる弾性表面波装置に関するものである。なお、以下では、弾性表面波(Surface Acoustic Wave)を「SAW」と略して表記することがある。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信に用いられる通信機器は、無線通信を利用してデータの送受信を行うWLAN(Wireless Local Area Network)等のサービスに対応して、より高周波帯域で使用されるようになってきている。この通信機器の高周波化にともない、それに使用される電子部品も、より高周波で動作可能なものが要望されている。
【0003】
通信機器のキーパーツとして弾性表面波装置(SAW装置)がある。SAW装置は、例えば、ラダー型弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)を構成するための素子として使用される。このフィルタは、耐電力性能に優れており、高周波で動作する周波数帯でアンテナ分波器等に使用されている。しかし、従来のラダー型SAWフィルタは、高周波で動作する通信機器で要求される通過帯域近傍の減衰特性、通過帯域の挿入損失特性および通過帯域外減衰量等の電気特性を十分に確保することが困難であった。
【0004】
そのため、多重モード型SAWフィルタを用いて、高周波で動作可能であり、かつ、通過帯域近傍の減衰特性や帯域外減衰量等の電気特性を向上させたSAW装置が提案されている。しかし、従来の多重モード型SAWフィルタは、高周波で動作させた場合、耐電力性能を十分に確保できないおそれがある。
【0005】
図13は、従来のSAW装置を示す要部平面図である。そこで、図13に示すように、耐電力性能を十分に確保するために、多重モード型SAWフィルタを構成する圧電基板上に形成されたSAWを励振するIDT(Inter Digital Transducer)電極を直列に分割して、IDT電極に投入される電力を分割させたSAW装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−311180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図13に示す多重モード型SAWフィルタは、IDT電極を直列に分割した構成とすることで耐電力性を向上させることができるものの、フィルタ特性について改善の余地があるものであり、特許文献1には、フィルタ特性を改善するためのピッチの関係について言及されていない。
【0008】
本発明は、かかる状況を鑑みて発明されたものであり、直列分割型のIDT電極を用いた弾性表面波装置におけるフィルタ特性の改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態にかかるSAW装置は、圧電基板と、前記圧電基板上に配置された弾性表面波素子と、を備えた弾性表面波装置であって、前記弾性表面波素子は、弾性表面波の伝搬方向に沿って配列されたN個(N≧3以上の整数)の直列分割型の構造を有するIDT電極を備え、前記各IDT電極は、中心バスバー電極と、前記中心バスバー電極の一方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔を空けて配置される複数の第1浮き電極指と、前記中心バスバー電極の他方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔を空けて配列される複数の第2浮き電極指と、を有する浮き電極と、前記複数の第1浮き電極指の間に位置するように配置された複数の電極指を有する第1電極と、前記複数の第2浮き電極指の間に位置するように配置された複数の電極指を有する第2電極と、を備えている。そして、前記中心バスバー電極の中心線を境界として前記弾性表面波素子を第1領域と第2領域に区分し、前記第1領域を前記第1浮き電極指及び第1電極が配置された領域とし、前記第2領域を前記第2浮き電極指及び第2電極が配置された領域としたときに、前記IDT電極は、前記第1領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方と、前記第2領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方が異なっているものである。
【発明の効果】
【0010】
上記のSAW装置によれば、直列分割型のIDT電極を用いた弾性表面波装置のフィルタ特性を良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のSAW装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1に示すSAW装置のSAW素子の一部を拡大した平面図である。
【図3】図1に示すSAW装置を構成するSAW素子の平面図である。
【図4】(a)は図3に示すSAW素子の各IDT電極の第1領域における電極指ピッチを示すグラフであり、(b)は図3に示すSAW素子の各IDT電極の第2領域における電極指ピッチを示すグラフである。
【図5】図1に示すSAW装置の変形例におけるSAW素子の一部を拡大した平面図である。
【図6】図1に示すSAW装置を用いた通信装置の一実施形態を示すブロック回路図である。
【図7】(a)は実施例1の各IDT電極の電極指ピッチを示すグラフであり、(b)は比較例1の各IDT電極の電極指ピッチを示すグラフである。
【図8】実施例1および比較例1におけるVSWRの周波数特性を示すグラフである。
【図9】実施例1および比較例1における減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図10】(a)は実施例2の各IDT電極の電極指ピッチを示すグラフであり、(b)は比較例2の各IDT電極の電極指ピッチを示すグラフである。
【図11】実施例2および比較例2におけるVSWRの周波数特性を示すグラフである。
【図12】実施例2および比較例2における減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図13】従来のSAW装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のSAW装置について、実施の形態の例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態にかかるSAW装置を示す平面図である。なお、以下の図面において、同様の部位には同じ符号を付し、その説明を省略することがある。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のSAW装置は、圧電基板100と、圧電基板100上に形成された2個のSAW素子12,13とから主に構成されている。
【0015】
圧電基板100は、例えばLiNbO基板やLiTaO基板などからなる。なお、実際の製品では、圧電基板100の主面には、SAW素子12,13の信号を外部へ取り出すための信号電極や圧電基板の主面の外周に沿ってSAW素子12,13を気密封止するための環状電極などが設けられるが図示を省略している。
【0016】
圧電基板100の主面に設けられたSAW素子12,13は、それぞれ同様の構成を有しており、5個の直列分割型の構造を有するIDT電極1,2,3,4,5と、これら5個のIDT電極の両側に配置された反射器電極8、9を備えている。
【0017】
図2は直列分割型構造からなるIDT電極1の平面図である。同図に示すように、IDT電極1は、浮き電極20と、第1電極21と、第2電極22とを備えた構成を有している。浮き電極20は、中心バスバー電極20oと、中心バスバー電極20oの一方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔をあけて配列された複数の電極指(第1浮き電極指)20aと、中心バスバー電極20oの他方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔をあけて配列された複数の電極指(第2浮き電極指)20bとを備えている。また、第1電極21は中心バスバー電極20oから伸びる複数の電極指20aの間に位置するように配置された複数の電極指21aを備え、第2電極22は、中心バスバー電極20oから伸びる複数の電極指20bの間に位置するように配置された複数の電極指22aを備えている。これらの電極指は、圧電基板100上を伝搬するSAWの伝搬方向(図のX方向)に沿って配列されるとともに、前記伝搬方向に対して垂直方向に伸びるようにして形成されている。
【0018】
図2に点線で示したLは、中心バスバー電極20oの中心線である。この中心線Lを境にして、SAW素子が第1領域と第2領域とに分かれている。本実施形態では、中心線Lを境にして浮き電極20の電極指20aが伸びている側が第1領域、浮き電極20の電極指20bが伸びている側が第2領域である。したがって、第1電極21および電極指20aは第1領域に、第2電極22および電極指20bは第2領域にそれぞれ配置されている。
【0019】
第1電極21、第2電極22には、例えば、入力信号の電位、出力信号の電位、グランド電位のいずれかが付与されるようになっている。また浮き電極20はいずれの電位も付与されない浮き状態となっている。すなわち、IDT電極1は、電極指20aと電極指21aとで構成されるIDTと、電極指20bと電極指22aとで構成されるIDTとが直列接続された直列分割型の構造を有している。またIDT電極2乃至5もIDT電極1と同様に直列分割型の構造を有している。
【0020】
このような直列分割型のIDT電極1〜5を備えた各SAW素子12、13は互いに並列接続されている。このように2個のSAW素子12、13が並列接続されるとともに、各SAW素子12、13が直列分割型のIDT電極1〜5を備えた構成を有していることによって、SAW装置に印加される電力が、2個のSAW素子に分散されるとともに、各IDT電極においても分散されるため、エネルギーが特定のIDT電極に集中することが少なくなり、SAW装置の耐電力性を向上させることができる。また、2個のSAW素子12、13を並列接続することで、直列分割型IDT電極1〜5の交差幅を小さくすることができ、SAW装置を小型化することができる。
【0021】
また2個のSAW素子12、13には、図1に示すように不平衡信号端子10,11が接続されている。
【0022】
図3、図4は本実施形態にかかるSAW素子を構成するIDT電極の電極指ピッチを説明するための図であり、図3は、図1に示すSAW素子12の平面図、図4(a)はSAW素子12を構成するIDT電極1〜5の第1領域に配置された電極指のピッチをプロットした図、図4(b)はSAW素子12を構成するIDT電極1〜5の第2領域に配置された電極指のピッチをプロットした図である。図3において、点線で示したN1はIDT電極1とIDT電極2との境界、N2はIDT電極2とIDT電極3との境界、N3はIDT電極3とIDT電極4との境界、N4はIDT電極4とIDT電極5との境界である。
【0023】
図4(a)と図4(b)を比較すればわかるように、本実施形態にかかるSAW素子の電極指ピッチの変化の仕方は第1領域と第2領域とで異なっている。例えば、IDT電極2に着目し、境界N1から境界N2にかけての電極指ピッチの変化をみると、第1領域においては、境界N1の第1電極指ピッチPbからIDT電極2の第1領域の中で最大の電極指ピッチPm1まで単調増加するようにピッチが大きくなり、中央部で若干ピッチが小さくなってそのピッチを一定区間維持する。その後、再び最大ピッチPm1となった後、境界N2の第1電極指ピッチPbまで単調減少するようにピッチが小さくなる。一方,IDT電極2の第2領域においては、境界N1の第2電極指ピッチPbからIDT電極2の第2領域の中で最大の電極指ピッチPm2まで単調増加するようにピッチが大きくなり、中央部でその最大の電極指ピッチPm2を一定区間保った後、境界N2の第2電極指ピッチPbまでは単調減少するようにピッチが小さくなる。換言すれば、同一のIDT電極内において、同じ位置の第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとを比較した場合、異なる部分が存在する(例えば、IDT電極2の中央の電極指ピッチを第1領域と第2領域とで比較すると両者の電極指ピッチは異なっている)。
【0024】
このような電極指ピッチとすることによって、直列分割型IDT電極を用いたSAW装置のフィルタ特性の改善、例えば、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)の周波数特性の改善、通過帯域の広帯域化、リップルの減少等を実現することができる。
【0025】
第1領域と第2領域を伝搬するSAWの位相を考慮すると、第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとはすべて同じにしておく方がフィルタ特性が良くなると思われる。第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとをすべて同じにすることによって、第1領域を伝搬するSAWの位相と第2領域を伝搬するSAWの位相とが等しくなり、第1領域のフィルタ特性と第2領域のフィルタ特性が等しくなって、干渉によるリップルの発生や、通過帯域の肩特性の悪化による狭帯域化を抑えることができるからである。しかしながら、本願発明者がフィルタ特性と電極指ピッチとの関係について鋭意研究を重ねた結果、そうはならないことを見出した。すなわち、直列分割型のIDT電極を用いたSAW素子においては、第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとをすべて同じにしておくよりも、第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとを異ならせた方が、フィルタ特性が良くなることを見出したのである。
【0026】
その理由の1つとして、圧電基板を伝搬するSAWが、IDT電極に接続されている入出力用の配線やグランド用の配線に基づく寄生インダクタンスの影響を受けることが考えられる。第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチとがすべて同じである場合、SAW素子だけで考えれば確かに第1領域を伝搬するSAWの位相と第2領域を伝搬するSAWの位相とが等しくなるものの、実際の製品ではSAW素子を構成するIDT電極には各種配線が接続されており、その配線が有する寄生インダクタンスの影響を受けて第1領域を伝搬するSAWの位相と第2領域を伝搬するSAWの位相とが実際はずれてくるものと考えられる。そこで第1領域の電極指ピッチと第2領域の電極指ピッチを別個に調整することによって、位相のずれ量が小さくなる方向に作用し、フィルタ特性が改善されるものと推測される。
【0027】
また本実施形態のSAW素子は、隣接するIDT電極の第1領域側の境界における第1電極指ピッチPbが極小となるように電極指ピッチが変化する。例えば、第1領域における境界N2付近に着目すると、境界N2の両側の電極指ピッチが境界N2に向かうにつれ電極指ピッチが徐々に小さくなっていき、境界N2における電極指ピッチ(第1電極指ピッチPb)が極小となっている。
【0028】
また、第1領域の各境界における第1電極指ピッチPb同士を比較すると、図4(a)に示すように、これら第1電極指ピッチPbは、その大きさがそろっていない。具体的には境界N2,N3の第1電極指ピッチPbは、境界N1,N4の第1電極指ピッチPbよりも大きい。このように各境界における第1電極指ピッチPbを異ならせることによって、第1電極指ピッチがすべてそろっている場合よりもフィルタ特性を改善することができる。
【0029】
第2領域における境界のピッチである第2電極指ピッチPbも、第1電極指ピッチPbと同様のピッチ関係になっている。すなわち、第2電極指ピッチPbが極小となるように電極指ピッチが変化するとともに、第2領域における第2電極指ピッチPb同士の大きさを比較したときに、境界N2,N3の第2電極指ピッチPbが、境界N1,N4の第2電極指ピッチPbよりも大きくされている。
【0030】
さらに同一境界上の第1電極指ピッチPbと第2電極指ピッチPbとを比較すると、両者の大きさが異なっている。例えば、境界N2における第1領域の第1電極指ピッチPbと第2領域の第2電極指ピッチPbとを比較すると、第2領域の第2電極指ピッチPbの方が大きい。このように同一境界上の第1電極指ピッチPbと第2電極指ピッチPbとを異ならせることによって、両者が等しい場合よりもフィルタ特性を改善することができる。
【0031】
また各IDT電極は、第1領域、第2領域のそれぞれにおいて、主要ピッチ部M1,M2を有している。ここで主要ピッチ部とは、1つのIDT電極の電極指ピッチの中で、同一ピッチの数が最も多い部分をいう。例えば、図4(a)においてIDT電極2に着目すると、一点鎖線で囲った部分はIDT電極2の第1領域における電極指ピッチの中で同一ピッチが最も多く存在する部分であり、この部分がIDT電極2の第1領域における主要ピッチ部(第1主要ピッチ部M1)となる。一方、図4(b)においてIDT電極2に着目すると、一点鎖線で囲った部分はIDT電極2の第2領域における電極指ピッチの中で同一ピッチが最も多く存在する部分であり、この部分がIDT電極2の第2領域における主要ピッチ部(第2主要ピッチ部M2)となる。
【0032】
本実施形態では、この第1、第2主要ピッチ部M1,M2と第1、第2電極指ピッチPb、Pbが所定の関係を満たすように設定されている。例えば、IDT電極2に着目すると、境界N1における電極指ピッチは、第1領域における第1電極指ピッチPbが第2領域における第2電極指ピッチPbよりも小さく、同様に、境界N2における電極指ピッチも第1領域における第1電極指ピッチPbが第2領域における第2電極指ピッチPbよりも小さくなっている。このようにIDT電極2の両サイドの境界における第1電極指ピッチPbが、第2電極指ピッチPbより小さい場合、IDT電極2における第1主要ピッチ部M1も第2主要ピッチ部M2より小さくなっている。第1、第2電極指ピッチPb、Pbと第1、第2主要ピッチ部M1、M2とがこのような関係を満たすように電極指を配置することによって、SAWフィルタの通過帯域両端部におけるVSWRを低く抑えつつ、通過帯域の広帯域化を実現することができる。
【0033】
なお本実施形態では、電極指のdutyを一定に保った状態で電極指ピッチを変化させている。また本実施形態において「電極指ピッチ」とは、隣接する電極指の中心間距離のことをいう(図2参照)。
【0034】
次に、図1に示したSAW装置の作製方法の一例を述べる。まず多数個取り用の圧電材料からなる母基板を準備する。かかる母基板は、例えば、38.7°Yカットや42°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶からなる。次に、母基板の各SAW素子領域に、IDT電極や反射器電極などの各種電極を形成する。これらの電極は、例えば、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金や耐電力性能を向上させるため、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金とTiとの積層膜などからなる。このような金属材料を用いて、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより各種電極が形成される。
【0035】
次に、電極の所定領域上に保護膜を形成する。保護膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極及び圧電基板上にSiO膜を成膜した後、フォトリソグ
ラフィによりパターニングを行うとともに、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行うことで形成される。その後、そのフリップチップ用窓開け部に、スパッタリング装置を使用して、Cr層、Ni層、Au層を積層した構成のパッド電極を成膜する。その後、印刷法及びリフロー炉を用いて、SAW装置を外部回路基板等にフリップチップするための半田バンプを、パッド電極上に形成する。
【0036】
次に母基板を分割線に沿ってダイシング加工し、SAW装置ごとに分割する。その後、各チップをフリップチップ実装装置によってパッド電極の形成面を下面にして、外部のパッケージ内に収容し接着する。最後に、Nガス雰囲気中でベーキングを行うことでパッケージ化されたSAW装置が完成する。
【0037】
〔変形例〕
図5は図1に示したSAW装置の変形例にかかる直列分割型のIDT電極1を示す平面図(図2に対応する図)である。図5の浮き電極20は、図2の浮き電極20の構成に加えて、第1ダミー電極指20c及び第2ダミー電極指20dを有する構成となっている。
【0038】
第1ダミー電極指20cは、電極指20a間において、中心バスバー電極20oから第1領域(第1電極21側)に突出し、その先端は、第1電極21の電極指21aの先端よりも中心バスバー電極20o側に位置している。同様に、第2ダミー電極指20dは、電極指20b間において、中心バスバー電極20oから第2領域(第2電極22側)に突出し、その先端は、第2電極22の電極指22aの先端よりも中心バスバー電極20o側に位置している。
【0039】
また、図5の第1電極21は、図2の第1電極21の構成に加えて、ダミー電極指21cを有する構成となっている。ダミー電極指21cは、電極指21a間において、第1電極21のバスバー電極から浮き電極20側に突出し、その先端は、浮き電極20の電極指20aの先端よりも第1電極21のバスバー電極側に位置している。
【0040】
同様に、図5の第2電極22は、図11の第2電極22の構成に加えて、ダミー電極指22cを有する構成となっている。ダミー電極指22cは、電極指22a間において、第2電極22のバスバー電極から浮き電極20側に延び、その先端は、浮き電極20の電極指20bの先端よりも第2電極22のバスバー電極側に位置している。
【0041】
第1ダミー電極指20cが設けられることにより、SAWが中心バスバー電極20oを超えて第1領域から第2領域へ漏れることが抑制される。その結果、第1領域と第2領域との浮き電極20を介した電気的な接続に対するノイズが低減され、意図する特性を得ることが容易化される。
【0042】
同様に、第2ダミー電極指20dが設けられることにより、SAWが中心バスバー電極20oを超えて第2領域から第1領域へ漏れることが抑制される。第1ダミー電極指20c及び第2ダミー電極指20dにより、第1領域と第2領域との双方においてSAWが漏れることが抑制されることにより、第1領域と第2領域との浮き電極20を介した電気的な接続に対するノイズの低減がより確実になされる。
【0043】
さらに、ダミー電極指21c及びダミー電極指22cが設けられることにより、SAWのIDT電極1からの漏れが抑制され、挿入損失の低下が抑制される。
【0044】
なお、ダミー電極指20c(又は、20d、21c、22c)の、電極指20a(又は、20b、21a、22a)間の位置、幅、突出量、及び、形状は、通過域の周波数等の種々の事情に応じて、適宜に設定されてよい。複数のダミー電極指の位置、幅、突出量、及び、形状は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、ダミー電極指20c(又は、20d、21c、22c)の先端が、反対側から延びてくる電極指21a(又は、22a、20a、20b)の先端よりも突出してしまうと、意図した特性を得ることを阻害してしまうので、ダミー電極指の先端は、反対側から延びてくる電極指の先端と所定のギャップで対向していることが好ましく、そのギャップGは例えば0<G≦0.25λの範囲に設定される(λはSAWの波長)。
【0045】
〔通信装置〕
図6は、上述したSAW装置を用いた通信装置の一実施形態を示すブロック図である。図6において、アンテナ140に送信回路Txと受信回路Rxがフィルタ101ならびに切替器150を介して接続されている。送信される高周波信号は、フィルタ210によりその不要信号が除去され、パワーアンプ220で増幅された後、アイソレータ230と切替器150を通り、アンテナ140から放射される。また、アンテナ140で受信された高周波信号は、切替器150を通りローノイズアンプ160で増幅されフィルタ170でその不要信号を除去された後、アンプ180で再増幅されミキサ190で低周波信号に変換される。上述した実施形態におけるSAW装置を用いて例えばフィルタ101を構成すれば、フィルタ101はフィルタ特性に優れたものとなり、通信装置の通話品質が向上する。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕
次に本発明にかかるSAW装置の実施例1(SAWフィルタ)について説明する。
【0047】
図3に示すようなSAW素子を2個並列に接続することにより形成されるSAWフィルタについて、VSWRの周波数特性および挿入損失の周波数特性をシミュレーションにより計算した。シミュレーションは、モード結合法(COM法)により行った。なお、本実施例では、7個のIDT電極1〜7から構成されるSAW素子12、13を使用した。
【0048】
図7(a)は、実施例1のSAWフィルタを構成するSAW素子20の電極指ピッチをプロットした図であり、横軸は反射器電極8の一方端から反射器電極9の他方端まで順に数えた電極指の本数であり、縦軸は電極指ピッチ(μm)である。同図において第1領域の電極指ピッチの変化の様子を実線で示し、第2領域の電極指ピッチの変化の様子を破線で示している。同図に示すように実施例1のSAW素子20は、第1領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方と、前記第2領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方が異なるように電極指が配置されている。
【0049】
図7(b)は、比較例1のSAWフィルタを構成するSAW素子20の電極指ピッチをプロットした図であり、第1領域の電極指ピッチの変化の様子を実線で示し、第2領域の電極指ピッチの変化の様子を破線で示している。比較例1のSAW素子は、第1領域における電極指ピッチの変化の仕方と、第2領域における電極指ピッチの変化の仕方が同一であり、第2領域の電極指ピッチの変化を示す波線は、第1領域の電極指ピッチの変化を示す実線と重なっている。
【0050】
このような実施例1と比較例1のSAWフィルタについてシミュレーションにより計算したVSWRの周波数特性を図8に示す。図中、実施例1のSAWフィルタのVSWRの周波数特性を実線で、比較例1のVSWRの周波数特性を破線でそれぞれ示す。図8から明らかなように比較例1のSAWフィルタに比べて、実施例1のSAWフィルタは、通過帯域(2400MHz〜2500MHz)におけるVSWRが改善されていることがわかる。
【0051】
図9は、挿入損失の周波数特性のシミュレーション結果を示す図であり、通過帯域(2400MHz〜2500MHz)部分を拡大したものである。図中、実施例1のSAWフィルタの挿入損失の周波数特性を実線で、比較例1の挿入損失の周波数特性を破線でそれぞれ示す。図8から明らかなように比較例1のSAWフィルタに比べて、実施例1のSAWフィルタは、広帯域化されていることがわかる。またリップルの発生も抑制されていることがわかる。
【0052】
この結果から、直列分割型IDT電極を用いたSAW素子においては、第1領域における電極指ピッチの変化の仕方と第2領域における電極指ピッチの変化の仕方が同一である場合よりも、その変化の仕方を異ならせた方がフィルタ特性が良くなることを確認できた。
【0053】
〔実施例2〕
次に本発明にかかるSAW装置の実施例2(SAWフィルタ)について説明する。
【0054】
実施例1と同様に、図3に示すようなSAW素子(IDT電極は7個)を2個並列に接続することにより形成されるSAWフィルタについて、VSWRの周波数特性および減衰量の周波数特性をシミュレーションにより計算した。
【0055】
図10(a)は、実施例2のSAWフィルタを構成するSAW素子20の電極指ピッチをプロットした図であり、第2領域の電極指ピッチの変化の様子を実線で示し、第2領域の電極指ピッチの変化の様子を破線で示している。同図に示すように実施例2のSAW素子20は、第1領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方と、前記第2領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方が異なるように電極指が配置されている。またIDT電極間の境界N1〜N6における電極指ピッチ(第1、第2電極指ピッチPb、Pb)に着目すると、第1領域における第1電極指ピッチPb同士の大きさは、一部同一で一部異なるように電極指が配置され、同様に、第2領域における第2電極指ピッチPb同士の大きさも一部同一で一部異なるように電極指が配置されている。具体的には、第1領域の各境界における第1電極指ピッチPbの大きさは、N1:0.7498(μm)、N2:0.7509(μm)、N3:0.7504(μm)、N4:0.7504(μm)、N5:0.7509(μm)、N6:0.7498(μm)であり、第2領域の各境界における第1電極指ピッチPbの大きさは、N1:0.7520(μm)、N2:0.7532(μm)、N3:0.7540(μm)、N4:0.7540(μm)、N5:0.7532(μm)、N6:0.7520(μm)である。
【0056】
図10(b)は、比較例2のSAWフィルタを構成するSAW素子20の電極指ピッチをプロットした図であり、第1領域の電極指ピッチの変化の様子を実線で示し、第2領域の電極指ピッチの変化の様子を破線で示している。比較例2のSAW素子は、第1領域における第1電極指ピッチPbがすべて同じ値に設定されている。具体的には、第1領域における第1電極指ピッチPbはすべての境界N1〜N6において0.7531(μm)に設定されている。一方、第2領域における第2電極指ピッチPbは、第1電極指ピッチPbとは異なるものの、第2領域においてはすべての境界で同一とされており、その値は0.7513(μm)である。
【0057】
このような実施例2と比較例2のSAWフィルタについてシミュレーションにより計算したVSWRの周波数特性を図11に示す。図中、実施例2のSAWフィルタのVSWRの周波数特性を実線で、比較例2のVSWRの周波数特性を破線でそれぞれ示す。図11から明らかなように比較例2のSAWフィルタに比べて、実施例2のSAWフィルタは、通過帯域(2400MHz〜2500MHz)におけるVSWRが改善されていることがわかる。
【0058】
図12は、挿入損失の周波数特性のシミュレーション結果を示す図であり、通過帯域(2400MHz〜2500MHz)部分を拡大したものである。図中、実施例2のSAWフィルタの挿入損失の周波数特性を実線で、比較例2の挿入損失の周波数特性を破線でそれぞれ示す。図12から明らかなように比較例2のSAWフィルタに比べて、実施例2のSAWフィルタは、広帯域化されていることがわかる。またリップルの発生も抑制されていることがわかる。
【0059】
この結果から、直列分割型IDT電極を用いたSAW素子においては、第1領域における第1電極指ピッチPbおよび第2領域における第2電極指ピッチPbがすべて同一である場合よりも、それらを異ならせた方がフィルタ特性が良くなることを確認できた。
【符号の説明】
【0060】
100・・・圧電基板
1〜5・・・IDT電極
8,9・・・反射器電極
10,11・・・不平衡信号端子
12、13・・・弾性表面波素子
20・・・浮き電極
21・・・第1電極
22・・・第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に配置された弾性表面波素子と、を備えた弾性表面波装置であって、
前記弾性表面波素子は、弾性表面波の伝搬方向に沿って配列されたN個(N≧3以上の整数)の直列分割型の構造を有するIDT電極を備え、
前記各IDT電極は、
中心バスバー電極と、前記中心バスバー電極の一方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔を空けて配置される複数の第1浮き電極指と、前記中心バスバー電極の他方の長辺に対して一端が接続され、互いに間隔を空けて配列される複数の第2浮き電極指と、を有する浮き電極と、
前記複数の第1浮き電極指の間に位置するように配置された複数の電極指を有する第1電極と、
前記複数の第2浮き電極指の間に位置するように配置された複数の電極指を有する第2電極と、を備え、
前記中心バスバー電極の中心線を境界として前記弾性表面波素子を第1領域と第2領域に区分し、前記第1領域を前記第1浮き電極指及び第1電極が配置された領域とし、前記第2領域を前記第2浮き電極指及び第2電極が配置された領域としたときに、
前記IDT電極は、前記第1領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方と、前記第2領域における一方端から他方端にかけての電極指ピッチの変化の仕方が異なっている弾性表面波装置。
【請求項2】
隣接する前記IDT電極の前記第1領域側の境界における第1電極指ピッチPbが極小となるように前記IDT電極の電極指ピッチが変化するとともに、
前記第1領域におけるすべての第1電極指ピッチPb同士の大きさを比較したときに、少なくとも1つの第1電極指ピッチPbの大きさが、他の第1電極指ピッチPbの大きさと異なっている請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
隣接する前記IDT電極の前記第2領域側の境界における第2電極指ピッチPbが極小となるように前記IDT電極の電極指ピッチが変化するとともに、
前記第2領域におけるすべての第2電極指ピッチPb同士の大きさを比較したときに、少なくとも1つの第2電極指ピッチPbの大きさが、他の第2電極指ピッチPbの大きさと異なった大きさとなっている請求項2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
同一境界上に位置する前記第1電極指ピッチPbと前記第2電極指ピッチPbとは、大きさが異なっている請求項3に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記IDT電極は、前記第1領域に第1主要ピッチ部M1を、前記第2領域に第2主要ピッチ部M2をそれぞれ有しており、
前記第1電極指ピッチPbの大きさが前記第2電極指ピッチPbの大きさよりも小さく、且つ前記第1主要ピッチ部M1の大きさが前記第2主要ピッチ部M2の大きさよりも小さい請求項4に記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−97237(P2011−97237A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247667(P2009−247667)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】