説明

弾性表面波霧化装置

【課題】弾性表面波霧化装置において、液体供給が容易で液体供給量と霧化量のバランスを安定に保ち、大型化することなく、より少ない消費電力でより大量の微細粒子を安定発生可能とする。
【解決手段】弾性表面波霧化装置1は、圧電材料から成る基板2を備え、その表面Sには弾性表面波Wを生成するための一対の櫛形電極3および弾性表面波Wの伝搬領域に達する溝4が形成されている。弾性表面波霧化装置1は、溝4の一端側に投入された液体5を毛細管現象によって弾性表面波Wの伝搬領域に供給して溝4内に保持し、溝4の底表面を伝搬する弾性表面波Wによって霧化する。液体5は、溝4と毛細管現象とによって弾性表面波Wの伝搬領域に安定供給され、必要十分な量と液体層の厚さに維持される。溝4は基板表面Sと接する縁に傾斜面4aを有して滑らかに形成され、弾性表面波Wの反射が抑制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性表面波が伝搬している圧電材料などからなる基板の表面に液体を供給すると、液体が弾性表面波のエネルギを受け取って流動や振動をして、微小粒子となって飛翔する現象が知られており、この現象を利用して液体を霧化する装置が種々提案されている。このような弾性表面波霧化装置において、安定した霧化を小電力で効率的に行うには、液体を基板の表面に薄く延ばすと共に、液体供給量と霧化量とのバランスを良好に保つ必要がある。そこで、弾性表面波が伝搬する基板表面の一部に他部よりも表面粗さの大きい粗面領域を形成し、その粗面領域に液体を保持し、その領域内で弾性表面波によって液体の広がりを促進しつつ霧化する弾性表面波霧化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。これを、図7(a)によって説明する。この弾性表面波霧化装置は、圧電材料からなる基板91を備え、基板91の表面Sには弾性表面波Wを発生させる櫛形電極92を有し、弾性表面波Wが伝搬する前方表面の霧化領域に粗面領域93が形成されている。液体94は、粗面領域93に供給されると、その領域に保持され、液体94の周辺部のうち櫛形電極92に面する部分において、弾性表面波Wによって微小粒子Mとなって次々と霧化される。
【0003】
また、基板表面との間に隙間を形成するため基板表面に対向して配置した液膜形成部材を備え、前記隙間に供給した液体が隙間に保持されると共に隙間から弾性表面波源の方向に出るようにした弾性表面波霧化装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。これを、図7(b)によって説明する。この弾性表面波霧化装置は、上述の図7(a)における粗面領域93に替えて、基板表面との間に隙間を形成する液膜形成部材95を備えたものである。液膜形成部材95の幅(弾性表面波Wの伝搬方向の長さ)は、液体供給量と霧化量のバランスを保つ幅に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−154058号公報
【特許文献2】特開2008−104974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1,2に示されるような弾性表面波霧化装置においては、霧化に関与しない液体が、依然として弾性表面波の伝搬面に多量に存在することがあり、これらの液体によって弾性表面波のエネルギが消費されるという問題がある。また、上述したような弾性表面波霧化装置においては、実質的な霧化領域が、弾性表面波の発生源である櫛形電極に対面している部分に限定されることにより、霧化量の増大のためには装置の大型化が必要であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解消するものであって、液体供給が容易で供給量と霧化量のバランスを安定に保つことができ、装置を構成する基板を大型化することなく、より少ない電力で大量の微細粒子を安定発生できる弾性表面波霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明の弾性表面波霧化装置は、一対の櫛形電極が形成された圧電材料から成る基板を備え、櫛形電極に高周波電圧を印加することにより基板の表面に弾性表面波を生成し、この弾性表面波によって基板の表面に供給される液体を霧化する弾性表面波霧化装置において、基板の表面には溝が形成されており、溝の一端側に投入された液体を毛細管現象によって弾性表面波の伝搬領域に供給し、溝の底表面を伝搬する弾性表面波によって霧化することを特徴とする。
【0008】
この弾性表面波霧化装置において、溝は、基板表面と接する縁に傾斜面を有して滑らかに形成されていることが好ましい。
【0009】
この弾性表面波霧化装置において、溝が複数形成されていることが好ましい。
【0010】
この弾性表面波霧化装置において、複数の溝は、弾性表面波が繰り返し通過するように配置されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾性表面波霧化装置によれば、基板表面の溝に投入された液体を毛細管現象により、弾性表面波の伝搬領域に必要かつ十分に安定供給でき、また、溝内の液体を一定厚さに保持することができる。これにより、基板を大型化することなく、液体を効率良く大量の微細粒子に霧化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る弾性表面波霧化装置についての斜視図、(b)は同装置の溝部分の溝方向の断面図、(c)は同装置の溝横断方向の断面図。
【図2】(a)は他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置についての斜視図、(b)は同装置の溝横断方向の断面図。
【図3】(a)はさらに他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置についての平面図、(b)は同装置の溝横断方向の断面図。
【図4】(a)は同装置の変形例を示す断面図、(b)は同装置の他の変形例を示す断面図。
【図5】(a)は同装置のさらに他の変形例を示す平面図、(b)は同装置のさらに他の変形例を示す平面図。
【図6】さらに他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置についての斜視図。
【図7】(a)は従来の弾性表面波霧化装置の断面図、(b)は従来の他の弾性表面波霧化装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波霧化装置について、図面を参照して説明する。また、図中の直交座標軸XYを適宜参照する。図1(a)(b)(c)は一実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。弾性表面波霧化装置1は、図1(a)に示すように、基板2を備えており、基板2の表面Sには弾性表面波Wを生成するための一対の櫛形電極3が形成され、さらに、基板2には、弾性表面波Wの伝搬領域に達する溝4が形成されている。弾性表面波霧化装置1は、溝4の一端側に投入された液体5を毛細管現象によって弾性表面波Wの伝搬領域に供給して溝4内に保持し、溝4の底表面を伝搬する弾性表面波Wによって霧化する。以下、各部を詳述する。
【0014】
基板2は、圧電材料、例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)のような圧電体そのものから構成される。また、基板2は、弾性表面波Wが存在する表面部分のみに圧電体材料を備えた基板とすることもできる。例えば、基板2は、非圧電性基板の表面に圧電薄膜、例えば、PZT薄膜(鉛、ジルコニューム、チタン合金薄膜)を形成したものでもよい。基板2の圧電体薄膜の表面部分において、弾性表面波Wが発生し伝搬する。
【0015】
櫛形電極3は、圧電材料の表面に2つの櫛形の電極を互いに噛み合わせて形成した電極(IDT:インター・ディジタル・トランスジューサ)である。櫛形電極3のY方向(弾性表面波Wの伝搬方向Xに直交する方向)の幅は、安定した弾性表面波Wを生成するには、波長λの20倍程度以上が好ましいが、それ以下でもよい。一対の櫛形電極3の互いに隣り合う櫛の歯は互いに異なる電極に属し、生成される弾性表面波Wの波長λの半分の長さのピッチでX方向に沿って配列されている。櫛形電極3に高周波電圧印加用の電気回路10から高周波(例えば、MHz帯)電圧を印加することにより、櫛形電極3によって電気的エネルギが波の機械的エネルギに変換されて、基板2の表面Sに弾性表面波Wが生成される。弾性表面波Wの振幅は、櫛形電極3に印加する電圧の大きさで決まる。弾性表面波Wは、櫛形電極3の歯が交差した幅に対応する幅の波となって、櫛の歯に垂直な方向に伝搬する。櫛形電極3は、その両側に互いに逆向きに伝搬する弾性表面波を生成するので、基板表面に反射器を備えて、X方向にのみ伝搬する弾性表面波Wを生成する、いわゆる一方向性電極として構成してもよい。
【0016】
溝4は、図1(a)(b)(c)に示すように、基板2における弾性表面波Wの伝搬方向X側の端部から、弾性表面波Wの伝搬領域に入り込む位置まで、伝搬方向Xに平行に形成されている。溝4は、言い換えると、基板2の表面Sに設けた、長い微小隙間の段差構造である。溝4の先端は、基板表面と接する縁に傾斜面4aが形成されて、基板2の表面Sと溝4の底面とが滑らかに接続されている。従って、櫛形電極3によって生成されて溝4に向かう弾性表面波Wは、溝4の先端に到達すると、溝4の内部に入りこみ、溝4の底表面を溝4に沿って伝搬する。このような溝4の一端側に、適宜の液体供給手段5aによって液体5を投入すると、液体5は、毛細管現象によって溝4に沿って基板2の中央側の溝4の先端へと進入する。溝4に進入した液体は、溝4の内部に所定の一様な厚みを有して保持された状態となる。この溝4に沿って広がる液体5を霧化に利用することができる。すなわち、この溝4の底表面には、溝4に沿って伝搬する弾性表面波Wが存在しているので、一様な厚さで長距離にわたって溝4内に分布する液体5を微小粒子Mとして効率的に霧化することができる。なお、液体供給手段5aは、液体5の微小量を送るポンプで構成してもよく、毛細管現象を利用する方法で構成してもよい。なお、傾斜面4aの構造は、溝4の深さと、弾性表面波Wの波長等に基づいて設定することができる。また、溝4の幅と深さとは、霧化の対象と成る液体5の表面張力などの物性値や投入する弾性表面波Wの振幅(エネルギ)等に基づいて、適正厚さに液体5を保持できる寸法とすればよい。
【0017】
本実施形態によれば、毛細管現象によって溝4内に液体5を供給するので必要十分な量の液体5を溝4内に安定供給でき、溝4に保持されて一様厚さで溝4に沿って広がる液体5を霧化に有効に利用できる。すなわち、基板表面に供給される液体5の液面の高さを一定とすることができ、霧化効率が向上する。また、溝4の構造(長さ)とその配置の設定により、弾性表面波Wが液体5と相互作用する距離を長くすることができる。すなわち、溝4の底表面すなわち霧化に使われる有効面積を長さで稼いで広くでき、基板2を大型化することなく、より大量に効率的に霧化できる。
【0018】
本実施形態は、従来装置における、基板表面上に液体を直に配置して基板表面で液体を広げる場合に液体の表面張力の影響のため広い範囲で適切な厚さを維持することができず、厚すぎる液体層中でエネルギの伝達が困難であった問題を解消している。言い換えると、溝4の内部は、従来装置における大量の液体の存在が排除されているので、弾性表面波Wのエネルギの損失が回避されている。さらに述べると、毛細管現象によって液体5を供給することにより、液体供給量と霧化量のバランスを自己調節的に維持することができ、霧化に関与しない液体5の存在を抑えることができるので、より少ない消費電力で大量の微細粒子を安定に噴霧できる。なお、表面張力によって保持された液体は、霧化によって消費されると、表面張力によって自動的に液体を補充するように動作する。また、毛細管現象を利用し液体を供給すると共に、表面張力によって溝4内に液体5が保持されるので、溝4の断面を適切に設定することにより、最適な厚さに維持した液体5の薄い層を効果的に形成することができる。また、溝4の先端の段差は傾斜面4aを有して滑らかに形成されているので、この段差部分における弾性表面波Wの反射を抑制して効率よく弾性表面波Wを溝4の底表面に導くことができる。
【0019】
弾性表面波霧化装置1は、例えば、小電力の乾電池によって駆動する医療用の吸霧器として用いられる。この場合、霧化される液体5は、水や、水に薬品を溶かした薬液などである。また、弾性表面波霧化装置1を比較的大電力で駆動する場合は、例えば、乾燥防止用の湿度調整装置として用いられる。
【0020】
次に、図2(a)(b)を参照して、他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を説明する。この弾性表面波霧化装置1は、上述の図1に示した弾性表面波霧化装置1において、溝4を並列に3箇所に備えたものであり、他は同様である。本実施形態によれば、溝4の個数を増加することにより、装置を大型化することなく、その個数の増加分に応じて、より大量に霧化することができる。
【0021】
次に、図3(a)(b)を参照して、さらに他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を説明する。この弾性表面波霧化装置1は、溝4が、弾性表面波Wの伝搬方向Xに平行ではなく方向Xに直交するように基板2の表面Sを横断して形成されている点が、上述の図2に示した弾性表面波霧化装置1と異なる。液体5は、それぞれの溝4の端部側から導入され、毛細管現象によって基板2の中央側へと供給される。この実施形態においては、複数の溝4は、弾性表面波Wが繰り返し通過するように配置されている。すなわち、弾性表面波Wは、溝4の段差を上り下りしながら基板2の表面Sと溝4の底表面とを交互に伝搬し、溝4の底表面を伝搬する際に、溝4内の液体5を霧化する。つまり、弾性表面波Wは、複数の溝4の存在により、複数回利用される。このような構成の弾性表面波霧化装置1は、従来の図7(b)に示したような液膜形成部材95を備える必要がなく、より、簡単な構成とすることができ、より効率的に大量に霧化をすることができる。なお、このような溝4の配置において、図4(a)(b)に示すように、弾性表面波Wの反射を抑制するために、各溝4はその両側、すなわち弾性表面波Wの伝搬方向に位置する基板表面と接する縁に傾斜面4bを設けることが好ましい。
【0022】
次に、図5(a)(b)を参照して、さらに他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を説明する。図5(a)に示す弾性表面波霧化装置1は、上述の図3(a)における3個の溝4が方向Xに対して斜めに形成されているものである。すなわち、溝4は、方向Xに直交しない構成であっても上述同様の効果が得られる。また、図5(b)に示す弾性表面波霧化装置1は、上述の図3(a)における3個の溝4の一端側が共通の凹部4cによって連結されているものである。この弾性表面波霧化装置1においては、凹部4cに液体5を投入して各溝4に液体5を供給することができる。
【0023】
次に、図6を参照して、さらに他の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を説明する。この弾性表面波霧化装置1は、上述の図2に示した弾性表面波霧化装置1を縦型に使用するものであり、液体供給手段5aとして液体容器を使用し、基板2の端部を液体5に浸すことにより、液体5を溝4に沿って毛細管現象を利用して上昇させるものである。本実施形態によれば、液体投入が容易で液体供給量と霧化量のバランスをより安定に保つことができる。基板2の配置は、垂直に限らず、斜めに傾ける構成とすることもできる。
【0024】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。例えば、図2に示した溝4と図3に示した溝4とを組み合わせた溝を備えるようにしてもよい。また、溝4の個数は、2個や4個以上とすることができる。図3、図5における溝4は、基板2の表面Sを横断する構成に変えて、一端が開放され多端が閉塞された溝とすることができる。また、図1(c)に示した溝4の矩形の断面形状に替えて、台形断面や逆台形断面や楕円弧状断面などの溝とすることができる。また、溝4の長さ方向の形状は、直線形状に限らず屈曲した形状や滑らかな曲線形状などとすることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 弾性表面波霧化装置
2 基板
3 櫛形電極
4 溝
4a,4b 傾斜面
5 液体
S 基板の表面
W 弾性表面波
X 伝搬方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の櫛形電極が形成された圧電材料から成る基板を備え、前記櫛形電極に高周波電圧を印加することにより前記基板の表面に弾性表面波を生成し、この弾性表面波によって前記基板の表面に供給される液体を霧化する弾性表面波霧化装置において、
前記基板の表面には溝が形成されており、
前記溝の一端側に投入された液体を毛細管現象によって弾性表面波の伝搬領域に供給し、前記溝の底表面を伝搬する弾性表面波によって霧化することを特徴とする弾性表面波霧化装置。
【請求項2】
前記溝は、基板表面と接する縁に傾斜面を有して滑らかに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項3】
前記溝が複数形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項4】
前記複数の溝は、弾性表面波が繰り返し通過するように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波霧化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate