説明

形態変形性擬毛

【課題】 常温域乃至常温より僅かに高温の温度域における、外部応力による賦形性、前記賦形による変形形態の保持性、及び前記変形形態からの原形状への復帰性を効果的に発現させる、人形用頭髪等に好適な形態変形性擬毛を提供する。
【解決手段】 特定の熱可塑性樹脂(A)と、ガラス転移温度が20〜50℃の熱可塑性重合体(B)とを特定割合でブレンドして成形した、芯鞘型構造の外径10〜200μmのフィラメントの5〜100本からなるマルチフィラメントを構成単位として、フィラメント相互を交差状に緊密状態に集合させてなる、紐状形態の形態変形性擬毛を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形態変形性擬毛に関する。詳細には、外部応力による賦形性、前記賦形による変形形態の保持性、及び前記変形形態からの原形状への復帰性を効果的に発現させる形態変形性擬毛に関する。
更に詳細には、人形玩具の頭髪や、ぬいぐるみ玩具の体毛等として、カーリング等の変形応力を加えて賦形を施すことができ、前記賦形による変形形態を常温下で長時間、保持させることができ、更には、別の変形形態として、引張応力を加えて、軸方向の延伸形態に賦形させて常温下で保持させることができ、前記各形態は、賦形時の温度以上の条件下で、原形状に復帰させることができる、繰り返しの適用性を満たす形態変形性の擬毛に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が特定範囲にある熱可塑性重合体を特定の割合で溶融ブレンドして成形してなり、前記ガラス転移温度以上で賦形した変形状態をガラス転移温度未満の温度域で固定させる温度依存性ー賦形性材料を開示しており、人形玩具の頭髪等への適用に関しても幾つかの提案を開示している(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【特許文献1】特開平10−1545号公報
【特許文献2】特開平10−118341号公報
【特許文献3】特開2000−178833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
人形玩具の頭髪や、ぬいぐるみ玩具の体毛等の擬毛において、高温加熱手段により、カール、ウエーブ、クリンプ等の賦形を施して変形形態となすことは、賦形効果及び変形形態の保持効果の面で効果的であるとしても、高温加熱手段による熱的危険性に加えて煩雑な手間を要し、幼児等にあっては、安全性及び簡易性を満足させ難く、安心してカーリング遊び用の人形玩具に供し得ない。
これに対し、前記従来の提案に開示された、温度依存性ー賦形性材料を利用した人形用頭髪にあっては、高温加熱を要さず、生活温度域での加熱手段(概ね50℃以下)による賦形を可能としており、高温加熱手段による煩雑性や危険性が回避されている。
しかしながら、前記カール等の変形形態の常温下における保持時間が短時間であり、長時間の変形形態の保持効果を期待する玩具用途にあっては、その用途を必ずしも満足させていない。
本発明者は、常温域乃至常温域より僅かに高温の温度域(25〜50℃)における賦形性と、前記賦形による変形形態の常温下における保持時間の延長化について検討を加え、擬毛の形態が前記賦形性と変形形態の保持性に顕著に関与することを見出した。更には、引張応力を加えることによる、軸方向の延伸形態への賦形性、前記延伸形態の保持性、及び前記延伸形態からの原形状への復帰性等に関しても追求したところ、擬毛の形態が更に大きく関与することを見出し、本発明を完成させた。
補足説明すれば、前記従来技術における擬毛が、マルチフィラメントからなる、実質的に無撚状の平行繊維束の形態に対し、本発明は、フィラメント相互を交差状に緊密状態に一体的に集合状態となした、実質的に紐状形態の擬毛を構成することにより、前記変形形態への賦形性と、変形形態の保持性を満たし、更には、前記延伸形態への賦形性と、延伸形態の保持性を備え、前記変形形態、或いは、延伸形態からの原形状への復帰性を効果的に発現させることができ、更には、繰り返しの実用に対する耐久性を備えた、人形玩具の頭髪や、ぬいぐるみ玩具の体毛、かつら等として好適な簡易形態変形性の擬毛を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、外部応力による賦形性、前記賦形による変形形態の保持性、及び前記変形形態からの原形状への復帰性を効果的に発現させる、フィラメントの緊密状集合体からなる擬毛であって、前記擬毛を構成するフィラメントが、熱可塑性樹脂(A)と、ガラス転移温度が20〜50℃の範囲にある熱可塑性重合体(B)とを含む芯鞘型構造を有し、芯部における(A)/(B)=90/1 0〜0/100(重量比)、鞘部における(A)/(B)=100/0〜50/50(重量比)、及び芯部/鞘部=20/80〜90/10(重量比)の各範囲を満たす、外径10〜200μmのフィラメントからなり、前記フィラメントの5〜100本からなるマルチフィラメントを構成単位として、フィラメント相互を交差状に緊密状に集合させてなることを特徴とする形態変形性擬毛を要件とする。
更には、ガラス転移温度近傍の温度以上における、外部応力により賦形される変形形態は、カール、ウエーブ、或いはクリンプ状の形態であり、ガラス転移温度未満の温度域で前記変形形態が保持され、ガラス転移温度以上の温度域で原形状に復帰する特性、更には、ガラス転移温度近傍の温度以上における、外部応力により賦形される変形形態は、軸方向の引張応力によるフィラメント自体の外径の減少を伴う延伸と、構成組織自体の径方向の緊縮を伴う伸長を含む軸方向の延伸形態であり、ガラス転移温度未満の温度域で前記延伸形態が保持され、ガラス転移温度以上の温度域で前記延伸形態を原形状に復帰させる特性を備えてなる。
更には、熱可塑性樹脂(A)は、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリブタジエン系、ポリエステル系、エチレンー酢酸ビニル系重合体の何れかより選ばれる熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性重合体(B)は、ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる一種又は二種以上の重合体であること、芯部における、(A)/(B)=50/50〜0/100(重量比)、フィラメント中の熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性重合体(B)の各全量の構成比が、(A)/(B)=50/50〜15/85(重量比)であること、フィラメントの芯部のみが、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性重合体(B)により構成されてなること、芯部における熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性重合体(B)が、30〜45℃のガラス転移温度を有する飽和ポリエステル樹脂であり、鞘部における熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、6−ナイロン、6、12−共重合ナイロンから選ばれること、等を要件とする。
更には、マルチフィラメント相互が、斜め交差状態に密接して組み込まれた組紐形態に構成されたこと、マルチフィラメント相互が、縦横に交差状態に編成された編み紐形態に構成されたこと、擬毛の平均外径〔(長径+短径)/2〕が0.1〜2.5mmの範囲にあること、人形玩具の頭髪用、又はぬいぐるみ玩具の体毛用の擬毛であること、更には、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色の生起温度を決める反応媒体を必須三成分として含む均質相溶体からなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル形態の熱変色性顔料が、芯部にブレンドされてなること等を要件とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の形態変形性擬毛は、従来のマルチフィラメントによる非緊密性の平行繊維束の形態の系に比較して、常温域或いは常温より僅かに高温の温度域(25〜50℃)における、外部応力による、カール、ウエーブ、或いはクリンプ状の変形形態への賦形性、及び前記変形形態の常温下での保持性を顕著に向上させている。具体的には、前記保持性において、前記従来の非緊密性の平行繊維束の形態の系が、実質的に15分程度以下の変形形態の保持時間であるのに対し、本発明擬毛は、少なくとも3時間以上、24時間後においても、適性温度下にあっては、概ね変形形態を保持しており、実効性と玩具性を与える。
ここで、前記保持時間内における変形形態、或いは、保持時間経過後における変形形態は、治具等の補助手段を適用することなく、手触、摩擦、或いは呼気による加温により原状態に復元させることができる。
更には、常温域或いは常温より僅かに高温の温度域(25〜50℃)における、引張応力を加えることにより、擬毛自体の外径(太さ)の減少を伴う軸方向の延伸形態に賦形でき、前記延伸形態が常温下で保持でき、ガラス転移温度以上の温度により前記延伸形態を、原形状に復帰させる特性を効果的に発現させることができる。
更には、本発明の形態変形性の擬毛は、実質的に紐状形態の一体的な緊密状集合体を構成単位としており、取り扱い操作に便宜であると共に耐久性を有しており、更には、繰り返しの実用に際し、柔軟性の擬毛性状を維持しており、人形玩具の頭髪や、ぬいぐるみ玩具の体毛、かつら等として、簡易形態変形性を満たす擬毛として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の形態変形性擬毛は、構成フィラメントとして、熱可塑性樹脂(A)と、ガラス転移温度が20〜50℃の範囲にある熱可塑性重合体(B)とを含む芯鞘型構造を有し、芯部における(A)/(B)=90/10〜0/100(重量比)、鞘部における(A)/(B)=100/0〜50/50(重量比)、及び芯部/鞘部=20/80〜90/10(重量比)の各範囲を満たす、外径10〜200μmのフィラメントを適用し、前記フィラメントの5〜100本からなるマルチフィラメントを構成単位として、フィラメント相互を交差状に緊密状態に集合させて一体化させた緊密状集合体の形態を要件とする。
【0007】
前記多数本フィラメントからなる、一体的緊密状集合体の形態に構成することにより、フィラメント相互間の適宜の摩擦抵抗効果と相まって一体的集合性が得られ、一体化した総体として作用し、従来のマルチフィラメントの非緊密性の平行繊維束の系における、フィラメント相互がバラバラのフィラメント単体として応力を受け、賦形、形態保持、或いは原形状への復帰機能の発現に要する、剛性と弾発性が不足しているのに対し、前記両特性を充足させて、前記諸機能を効果的に発現させるものと推察される。
【0008】
前記緊密状集合体としては、撚糸、合糸等の形態があるが、マルチフィラメント相互が斜め交差状態に密接して組み込まれた組紐形態に構成されたもの、或いはマルチフィラメント相互が,縦横に交差状態に編成された編み紐形態に構成されたものが、賦形性、変形形態の保持性、延伸性、原形状への復帰性等の諸機能を優位に発現できると共に、柔軟な触感性を有しており、好適である。
中でも、組紐形態のものは、カーリング等の変形形態の賦形や、軸方向の延伸形態の賦形過程において、賦形応力に対してマルチフィラメント間に、賦形に効果的な僅かの弾性的ズレを生じさせることによる外部応力に対する順応性を与える。殊に、延伸形態への賦形過程において、フィラメント自体の外径の減少に伴う延伸に加えて、交差状態に組み込まれた構成組織自体の径方向の緊縮を伴う全体長さの伸長が効果的に発現され、総体として伸長性の高い延伸性と、原形状への復帰性を効果的に発現させることができる。
編み紐形態のものは、外観の特異性の擬毛として、装飾性を加味した太番手の特殊擬毛としての適用性を有する。
【0009】
前記各形態による擬毛は、平均外径〔(長径+短径)/2〕が、0.1mm以上、汎用的には、0.1〜2.5mmの範囲のものが好適であり、円形状に限らず、偏平状、その他の異形断面形状のものであってもよい。
【0010】
組紐の形態は、汎用の丸紐用或いは平紐用製紐機等を使用して、三つ打ち、四つ打ち、六つ打ち、八つ打ち、十六打ち、バラ打ち等の形態として得ることができる。
通常、三つ〜八つ打ちの範囲、好適には四つ打ちが対称性に加えて、製造性の面よりみて、汎用される。
【0011】
編み紐形態は、汎用の編み機の適用により、例えば、メリヤス編み等の形態として得られる。
【0012】
前記における芯鞘型構造のフィラメントは、本出願人が提案した、特開2000−178833号公報に記載の技術を応用できる。
前記熱可塑性樹脂(A)としては、ポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6ナイロン、12−ナイロン、6,9ナイロン、6、12ナイロン、6−6,6共重合ナイロン、6−12共重合ナイロン、6−6,6−12共重合ナイロン、6,9−12共重合ナイロン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニルデン−塩化ビニル共重合体、共重合アクリロニトリル樹脂、ポリアミド−ポリエ−テルブロック共重合樹脂等のポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン−ブタジエンブロック共重合樹脂等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン−エチレンプロピレンラバーブロック共重合樹脂等のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、或いはエチレン−酢酸ビニル系共重合体等の熱可塑性エラストマーの何れかより選ばれる重合体等を挙げることができる。
前記熱可塑性樹脂(A)のうち、繊維形成性の汎用の樹脂であり、融点又は軟化点が100℃以上の樹脂が基体樹脂として、適性な剛性を維持し、形態保持性に有効に寄与する。又、しなやかな柔軟性状を長期間保持するには、前記熱可塑性エラストマーを適用することが望ましい。前記熱可塑性エラストマーの適用により成形フィラメントの経時や、外部応力により、結晶性が増加したとしても硬質化することが回避される。
【0013】
熱可塑性重合体(B)としては、飽和ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂(未硬化物)、炭化水素樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル−共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−アクリル共重合樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂等が挙げられる。
前記熱可塑性重合体(B)のうち、ガラス転移温度が20〜50℃、好ましくは、25〜50℃、更に好ましくは、30〜45℃の範囲にあるものが、常温域より僅かに高温の温度域にあり、高温による危険性もなく、特殊な熱源を必要とせず、簡易性を満たす。
中でも、飽和ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂等が、フィラメント成形性と前記した諸特性を効果的に満たすバランス適性を有しており、好適である。
前記ガラス転移温度範囲にある熱可塑性重合体(B)を選択することにより、常温域、或いは常温域より僅かに高温の温度域において、従来より公知の各種の髪形変形治具や、適宜の応力変形手段の適用により、任意形状の髪形に変形し、冷却により前記変形した髪形を保持する機能を有し、幼児等が簡易に髪形を変えて遊ぶことができる。又、芸能用等のかつらとしても多様な髪形に簡易に変形できる利便性を備えている。
【0014】
熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性重合体(B)のブレンドによる共存系にあっては、熱可塑性重合体(B)が分散状態、或いは分散と相溶状態が混在された状態にブレンドされていることを要件とするものであり、これにより本発明の機能が有効に発現される。
前記構成において、熱可塑性重合体(B)は、ガラス転移温度以下の温度域にあっては、比較的剛性的性状を呈しているが、ガラス転移温度以上では粘弾性的性状に変化し、曲げ弾性率を低下させることにより、本来剛性的な熱可塑性重合体(B)の剛性と曲げ弾性率が相対的に低下して、外部応力により任意の形状への変形自在性が得られ、前記変形した形状は、ガラス転移温度以下の温度域で剛性的性状に復帰し固定される。
前記した分散状態、或いは分散と相溶状態が混在された状態を形成するためには、熱可塑性重合体(B)と熱可塑性樹脂(A)は、互いに化学構造が異なる重合体から選ばれる。化学構造が同一の樹脂同士、即ち、同質の樹脂同士の組み合わせにあっては、均質な相溶状態が形成されるので、熱可塑性重合体(B)のガラス転移温度以上における粘弾性的性状が、熱可塑性樹脂(A)により適正にコントロールされることなくそのまま発現されることになり、粘着性が過大となり、フィラメント形成性に悪影響を及ぼす。更には、成形フィラメント相互を密接させた場合における相互のくっつき(結着)により実用性が阻害される上、ガラス転移温度未満の温度域における固定化機能が低下し、有効に機能しない。
【0015】
本発明の形態変形性擬毛における、ベースとなる芯鞘型複合フィラメントは、前記熱可塑性樹脂(A)と、ガラス転移温度が20〜50℃の熱可塑性重合体(B)を含み、下記(1)、(2)、及び(3)式を満足させることを必須構成要件とするものであり、これにより、複合繊維形成性(生産性)、外部応力及び温度に順応した変形自在性、形態保持性、及び強度等を満たすと共にフィラメント相互の密接放置時のくっつき(結着)のない実用的機能を備えることができる。
芯部における、(A)/(B)=90/10〜0/100(重量比) (1)
鞘部における、(A)/(B)=100/0〜50/50(重量比) (2)
芯部/鞘部=20/80〜90/10(重量比) (3)
前記(1)及び(2)式において、熱可塑性重合体(B)の重量が増加するにつれ、粘性が増大し、変形自在性も増加する。
(1)式において、(B)が10重量%未満では、熱変形処理時に粘弾性状が発現されず、曲げ弾性率の低下に寄与せず、変形自在性に欠ける。(B)は、好ましくは、40重量%以上、更に好ましくは、50〜90重量%の範囲である。
(2)式において、前記(B)が50重量%を超えると、粘着性の鞘表面を形成するので、フィラメント相互の密接放置状態におけるくっつき(結着)が発生し、実用性が阻害される。0〜50重量%の範囲が有効であり、芯部での(B)の構成比との関連により決定される。この際、フィラメント中の(A)及び(B)の各全量が、(A)/(B)=50/50〜15/85(重量%)の要件を満たすことにより、前記した機能を更に効果的に発現させることができる。
(3)式は、芯鞘型の複合フィラメントの形成性に関するものであり、鞘部の構成比が10重量%未満の系では、芯部とのバランスに欠け、繊維形成性及び実用性を満足させ難い。成形されるフィラメントの外径との関係にも依存するが、芯部/鞘部=50/50〜90/10(重量比)の範囲が好適である。
前記(1)〜(3)式を満足させることにより、繊維形成性(生産性)及び実用的機能性を備えた、所望外径の芯鞘型の複合フィラメントを与える。
尚、前記(A)、(B)の組み合わせにおいて、(A)、(B)は、それぞれが単一の樹脂又は重合体に限らず、複数を併用してもよい。
【0016】
前記フィラメントの外径は、汎用的な人形用頭髪や、かつら用擬毛にあっては、10〜200μm、好ましくは、30〜150μmの範囲が、本発明の形態変形性擬毛における構成フィラメントとしての適性を満たす。
【0017】
前記構成要件において、熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性重合体(B)が、ガラス転移温度が30〜45℃の飽和ポリエステル樹脂であり、鞘部における熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、6−ナイロン、6、12−共重合ナイロンから選ばれることにより、適宜の吸湿性、触感等が、頭髪性状との擬似性に富み、且つ高強度であり、飽和ポリエステルとの併用と相まって持久性を満足させる。更に、好ましい具体的態様として、芯部が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー/飽和ポリエステル=50/50〜10/90(重量%)の構成のものを挙げることができる。
【0018】
前記フィラメントには必要に応じて適宜の彩色を施すことができる。具体的には、前記フィラメントを形成する熱可塑性樹脂(A)、或いは、熱可塑性重合体(B)の1kg当り、一般顔料の0.05〜1.0g、蛍光顔料の1〜20g、熱変色性マイクロカプセル顔料の10〜100g等をブレンドして成形し、彩色したフィラメントを形成することができる。
又、フォトクロミック組成物、或いは前記組成物を内包した光変色性マイクロカプセル顔料を適用して、光変色機能を付与することができる。
【0019】
更には、従来より汎用の光安定剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、一重項酸素消光剤、オゾン消色剤、可視光線吸収剤、赤外線吸収剤から選ばれる光安定剤を適宜配合することもできる。又、光安定剤を固着剤に含有させた光安定剤層を表面に設けることができる。
【0020】
又、従来より汎用の各種可塑剤、例えば、フタル酸系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸、トリメリット酸系等の可塑剤を1〜30重量%配合して、変形可能温度を低下させたり、柔軟性を付与することができる。
【0021】
更には、加工性、物性等を改善するために、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、タルク、その他の着色顔料等を添加することもできる。
【0022】
前記した顔料類等の添加に関しては、芯部に限らず、芯、鞘の両方、或いは鞘部のみに添加してもよい。特に、鞘部に顔料やフィラーが配合された場合、透明性や表面の光沢を低減させることになるが、成形されたフィラメント相互の密接による結着や、エラストマー特有のゴム質的触感を回避することができる。
【0023】
前記熱変色性顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた、マイクロカプセル形態の顔料が有効であり、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては、本出願人が提案した、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載のものが利用できる。
又、加熱消色型熱変色性顔料として、本出願人が提案した特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等、大きなヒステリシス特性を示す、高温域での消色状態と低温域での発色状態を特定温度域で互変的に記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性顔料も利用できる。
更には、加熱発色型熱変色性顔料として、消色状態からの加熱により発色し、温度降下により消色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11−129623号公報、特開平11−5973号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001−105732号公報)、更には、特定の没食子酸エステル等を適用した系(特開2003−253149号公報)等を応用できる。
前記において、熱変色特性が異なる複数の熱変色性顔料や非熱変色性着色剤等の適宜量を併存させることができる。
尚、前記マイクロカプセル形態の顔料は、粒子径1〜30μm、好ましくは5〜15μmの範囲のものが適用できる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を記載するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、実施例中の配合は重量部で示す。
【0025】
実施例1
芯用の熱可塑性樹脂(A)として、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(ショアーD硬度55、融点165℃)20部、熱可塑性重合体(B)として、飽和ポリエステル樹脂(ガラス転移点33℃)80部の混合物を用い、鞘用として前記熱可塑性樹脂(A)を用い、芯部/鞘部=80/20(重量比)の構成比となるよう、複合繊維紡糸装置を使用して18孔の吐出孔を有するダイスから、190℃で紡出し、延伸処理することにより、直径約100μmの芯鞘型複合フィラメントの18本からなるマルチフィラメントを得た。
前記マルチフィラメントに50回/mの加撚を施した糸条の4本を使用し、四つ打ちの丸紐用製紐機を適用して組紐形態の、太さ約1.2mmの形態変形性擬毛を得た。
【0026】
実施例2
芯用の熱可塑性樹脂(A)として、6−12共重合ナイロン(融点155℃)60部、熱可塑性重合体(B)として、飽和ポリエステル樹脂(ガラス転移点35℃)40部の混合物を用い、鞘用として前記熱可塑性樹脂(A)80部と熱可塑性重合体(B)20部の混合物を用い、芯部/鞘部=60/40(重量比)の構成比となるよう、複合繊維紡糸装置を使用して18孔の吐出孔を有するダイスから、170℃で紡出し、延伸処理することにより、直径約100μmの芯鞘型複合フィラメントの18本からなるマルチフィラメントを得た。
前記マルチフィラメントに50回/mの加撚を施した糸条の4本を使用し、四つ打ちの丸紐用製紐機を適用して組紐形態の、太さ約1.2mmの形態変形性擬毛を得た。
【0027】
実施例3
芯用の熱可塑性樹脂(A)として、6−12共重合ナイロン(融点155℃)60部、熱可塑性重合体(B)として、飽和ポリエステル樹脂(ガラス転移点35℃)40部の混合物を用い、鞘用としてポリアミド系熱可塑性エラストマー(ショアーD硬度55、融点165℃)を用い、芯部/鞘部=80/20(重量比)の構成比となるよう、複合繊維紡糸装置を使用して18孔の吐出孔を有するダイスから、190℃で紡出し、延伸処理することにより、直径約100μmの芯鞘型複合フィラメントの18本からなるマルチフィラメントを得た。
前記マルチフィラメントに50回/mの加撚を施した糸条の4本を使用し、四つ打ちの丸紐用製紐機を適用して組紐形態の、太さ約1.2mmの形態変形性擬毛を得た。
【0028】
実施例4
実施例1と同一の構成、手段により得た、直径30μmの芯鞘型複合フィラメント18本からなるマルチフィラメントを用い、4本針の編み機でメリヤス編みし、編み紐形態の太さ約2mmの形態変形性擬毛を得た。
【0029】
実施例5
実施例1の芯用の、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(ショアーD硬度55、融点165℃)20部と飽和ポリエステル樹脂(ガラス転移点33℃)80部の混合物に、加熱消色型熱変色性マイクロカプセル顔料(青色状態から33℃以上になると無色に変化する)8部及び非熱変色性ピンク顔料0.5部を加えた以外は、実施例1と同様にして、芯鞘型複合フィラメントからなるマルチフィラメントを成形し、組紐形態の太さ約1.2mmの形態変形性擬毛を得た。
前記擬毛は、常態では紫色を呈し、賦形適温域でピンクに変色して、賦形時の便宜性と色変化による妙味を付加させることができた。
【0030】
〔機能テスト及びその結果〕
(1)変形形態の保持性
15cm長さの試作擬毛(実施例1〜5)の基端2cmを残し、残り約12cmの部分を直径9mmの円筒状のヘアーカーラーに巻き付け、36℃の温度下(但し、実施例2、3の擬毛の系では、40℃の温度下)で3分間、巻き付け状態で保持した後、23℃の室温下で3分間、放置して、ヘアーカーラーを外すと、前記試作擬毛は、いずれも前記カーラーの外径と略同一径の4重のカール状の変形形態に賦形されていた。
前記カール状の変形形態の試作擬毛の基端を固定し、他端をフリーの状態にして、垂直状態に吊り下げて放置したところ、前記カール状の変形形態は、常温域で24時間経過後においても、外観上、殆ど変化することなく保持されていた。
一方、従来擬毛(実施例1〜4の構成の芯鞘型複合フィラメントからなるマルチフィラメントを、各実施例に対応する本数だけ平行状に集束したもの)について、前記同様のテストを行ったところ、5分程度は、初期のカール状の変形形態を保持したが、常温域で1時間程度経過すると、カールは直線状に伸びて下端寄りに僅かにカール形態を残留させるのみであり、殆ど保持されていなかった。
前記カール形態の保持性に関し、試作擬毛(実施例1)と従来擬毛(マルチフィラメントの平行集束体)を対比して、時間経過に伴うカール保持率(%)を求めたところ、試作擬毛は、1分後に100%、1時間後に93%、3時間後に92%、24時間後に90%の各保持率を示すのに対し、従来擬毛は、1分後に93%、1時間後に16%、3時間後に15%、24時間後に14%の各保持率を示し、試作擬毛(実施例1)は、変形形態保持性に顕著な優位性を示した。
ここで、カール保持率(%)=〔一定時間経過後にカール形態を保持している部分の長さ/(賦形直後にカール形態を形成している部分の擬毛の長さ(=約12cm)×100(%)〕により算出した。
尚、試作擬毛(実施例2〜5)においても、前記と同様に、従来擬毛に比較して形態保持性に顕著な優位性を示した。
(2)延伸性及び復帰性、
試作擬毛(実施例1の擬毛)を36℃で3分間加温後、軸方向に引張応力を加えることにより、原状態の2倍(伸度100%)の長さまで延伸させることができ、23℃の室温下で、原状態の1.7倍(伸度70%)の長さ、約75%の太さ(平均外径)で延伸状態を安定的に保持した。前記安定状態下において、再び、36℃で3分間加温すると、軸方向に収縮し、原状態の1.3倍(伸度30%)の長さ、86%の太さまで復帰した。
前記延伸並びに復帰機能は、繰り返しの適用に対して、再現された。
一方、従来擬毛(マルチフィラメントの平行集束体)では、前記と同様の条件下で延伸すると、原状態の1.5倍(伸度30%)までしか延伸できず、それ以上では、フィラメントの破断を生じた。
前記1.5倍の延伸状態は、23℃の室温下で原状態の1.3倍(伸度30%)の長さで安定化し、再び、36℃で3分間加温すると、原状態の1.1倍(伸度10%)の長さまで収縮復帰したが、収縮復帰後は、フィラメントは、ストレート状態ではなくなり、縮れが生じた。
試作擬毛(実施例2〜5)についても、前記実施例1の擬毛と同様の延伸、復帰性を示し、従来擬毛(マルチフィラメントの平行集束体)に比較して、顕著な優位性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の形態変形性擬毛の一実施形態の説明図である。
【図2】従来の擬毛(マルチフィラメントの平行集束体)の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 形態変形性擬毛(組紐形態)
11 マルチフィラメント
2 マルチフィラメントの平行集束体系擬毛
21 マルチフィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部応力による賦形性、前記賦形による変形形態の保持性、及び前記変形形態からの原形状への復帰性を効果的に発現させる、フィラメントの緊密状集合体からなる擬毛であって、前記擬毛を構成するフィラメントが、熱可塑性樹脂(A)と、ガラス転移温度が20〜50℃の範囲にある熱可塑性重合体(B)とを含む芯鞘型構造を有し、芯部における(A)/(B)=90/10〜0/100(重量比)、鞘部における(A)/(B)=100/0〜50/50(重量比)、及び芯部/鞘部=20/80〜90/10(重量比)の各範囲を満たす、外径10〜200μmのフィラメントをベースとし、前記フィラメントの5〜100本からなるマルチフィラメントを構成単位として、フィラメント相互を交差状に緊密状態に集合させてなることを特徴とする形態変形性擬毛。
【請求項2】
ガラス転移温度近傍の温度以上における、外部応力により賦形される変形形態は、カール、ウエーブ、或いはクリンプ状形態であり、ガラス転移温度未満の温度域で前記変形形態が保持され、ガラス転移温度以上の温度域で原形状に復帰する、請求項1記載の形態変形性擬毛。
【請求項3】
ガラス転移温度近傍の温度以上における、外部応力により賦形される変形形態は、軸方向の引張応力によるフィラメント自体の外径の減少を伴う延伸と、構成組織自体の径方向の緊縮を伴う伸長を含む軸方向の延伸形態であり、ガラス転移温度未満の温度域で前記延伸形態が保持され、ガラス転移温度以上の温度域で前記延伸形態の原形状への復帰性を備えてなる、請求項1記載の形態変形性擬毛。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)は、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリブタジエン系、ポリエステル系、エチレンー酢酸ビニル系重合体の何れかより選ばれる熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性重合体(B)は、ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリスチレン樹脂から選ばれる一種又は二種以上の重合体である、請求項1乃至3のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項5】
芯部における、(A)/(B)=50/50〜0/100(重量比)である、請求項1乃至4のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項6】
フィラメント中の熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性重合体(B)の各全量の構成比が、(A)/(B)=50/50〜15/85(重量比)である、請求項1乃至5のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項7】
フィラメントは芯部のみが、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性重合体(B)により構成されてなる、請求項1乃至6のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項8】
芯部における熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性重合体(B)が、30〜45℃のガラス転移温度を有する飽和ポリエステル樹脂であり、鞘部における熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、6−ナイロン、6−12共重合ナイロンから選ばれる、請求項1乃至7のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項9】
マルチフィラメント相互が、斜め交差状態に密接して組み込まれた組紐形態に構成された、請求項1乃至8のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項10】
マルチフィラメント相互が、縦横に交差状態に編成された編み紐形態に構成された、請求項1乃至8のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項11】
平均外径〔(長径+短径)/2〕が、0.1〜2.5mmの範囲にある、請求項1乃至10のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項12】
人形玩具の頭髪用、又はぬいぐるみ玩具の体毛用の擬毛である、請求項1乃至11のいずれかに記載の形態変形性擬毛。
【請求項13】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色の生起温度を決める反応媒体を必須三成分として含む均質相溶体からなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル形態の熱変色性顔料が、芯部に分散状態にブレンドされてなる請求項1乃至12のいずれかに記載の形態変形性擬毛。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−28700(P2006−28700A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212011(P2004−212011)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】