説明

形態改質剤としての両親媒性タンパク質

有機物質の形態及び/又は多形の改質方法であって、固体物質、又はその溶液又は分散液を、1種又は複数種の両親媒性タンパク質を用いて処理することを含む、改質方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性タンパク質についての固体有機化合物の形態及び/又は多形、例えば、結晶サイズ、晶癖及び態種を改質する方法、両親媒性タンパク質の対応する使用並びに本発明によって得られた改質された固体に関する。
【0002】
固体化、特に結晶化は、ほとんどの製薬、食品及び特殊な化学的プロセス(例えば、着色)において、重要な分離及び精製の単位であり、全プロセスの効率及び採算性に大きな影響を与える。医薬品の大部分は結晶形態で生成される活性成分を含有する。従って、結晶化は当該産業にとって根本的に重要である。効率的な下流の操作(濾過、乾燥、突固めなど)及び生成物の有効性(例えば、生物学的利用能、錠剤安定性)のために、結晶の純度、粒度分布及び形状の制御は非常に重要である。
【0003】
典型的な医薬等級の結晶生成物は、狭い粒度分布を必要とし、これは第1の製造プロセスが最適な条件下でうまく設計され且つ厳しく管理されなければならないことを意味する。結晶サイズ及び形状の制御は、溶解速度の最適化を可能とし、これは副作用を最小化しながら利益を最大化し得る。多くの薬剤は結晶を形成することができ、該結晶は、複数の形態型及び晶癖を示し、これらは生成物の配合及び最終使用特性にとって非常に重要である。
【0004】
技術的背景
図9は、以下の工程を含む、典型的な結晶化プロセスを例示する:
(a)有機分子は異なるプロセスによってランダムに配向された分子クラスタを形成する。
(b)これらのクラスタは再び単一の分子に分解するか又はエンブリオと呼ばれる不安定な格子構成を形成し始める。
(c)かかるエンブリオは再びクラスタに分解するか又は溶液から析出させる安定な核を形成(核生成)するのに十分な程度成長する。かかる結晶サイズは運転条件(温度、過飽和など)によって決まる。
(d)これらの核は次いでより大きな結晶に成長し、該結晶は単結晶に成長するか又は一緒になって結晶のアグリゲートを形成することができる。
(e)かかるアグリゲートは軟質のアグリゲート(元の結晶子に容易に分解することができる)から硬質のアグリゲート(微粉砕などの積極的なプロセスによってのみ分解することができる)までの範囲である。
【0005】
過飽和は結晶の駆動力であり、このため、核生成及び成長の速度は、溶液に存在する過飽和によって動かされる。過飽和は、所与の温度条件下での過剰の飽和濃度における溶質の濃度によって規定される。一旦、過飽和が失われると、固体−液体系は平衡に達し且つ結晶化プロセスが停止する。
【0006】
核生成及び成長は、過飽和が存在する間、平行して起こり続ける。
【0007】
特定の溶媒、不純物又は添加剤の存在、並びに結晶化プロセスを進行させる化合物と類似の化学種の化合物は、結晶化プロセスの過飽和特性を変化させることによってその核生成及び結晶成長段階に大きな影響を与えることができる。
【0008】
条件に応じて、核生成又は成長のどちらかがもう一方に対して優勢であり、その結果、種々のサイズ、種々の粒度分布及び晶癖(形状)を有する結晶が得られる。
【0009】
結晶の晶癖は、例えば、立方、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜、三斜、及び三角形であってよい。
【0010】
種々の多形体も結晶化プロセス中の変化によって生成することができる。
【0011】
多形体は、結晶格子において分子の異なる配置及び/又は配座を有する結晶相であると定義される。これらの結晶形態は、梱包、熱力学、分光学的、速度的、表面及び機械的な特性が異なる。
【0012】
多形体が同じ元素組成を有していても、多形体は異なる物理化学的特性及び物理工学特性、例えば、自由エネルギー、エントロピー、熱容量、融点、昇華温度、溶解度、安定性、溶解速度、生物学的利用能、硬度、相溶性、流動性、引っ張り強さ及び圧縮性などを示す。このため、多形体が結晶生成物の工業的な製造において最も重要である。
【0013】
結晶化プロセスの性質は、熱力学的因子及び反応速度因子の両方によって調整されており、このため変動性が高く且つ制御が困難である。不純物濃度、混合状態、容器の設計、及び冷却プロフィルなどの因子は、生成した結晶のサイズ、数、及び形状に大きな影響を及ぼす。
【0014】
結晶サイズ及び形状の不良な制御は、許容できないほど長い濾過又は乾燥時間をもたらすか、又は再結晶又は微粉砕などの過剰な処理工程をもたらし、且つ生成物の純度に影響を及ぼし、これは特に結晶が消費される食品及び製薬産業において重要である。
【0015】
生物活性物質の形態及びサイズが、結晶化プロセスで使用される溶媒による影響を受けることが公知である。例えば、単斜パラセタモールはエタノールからの結晶化によって形成されるが、安定性の低い多形体、斜方晶パラセタモールは、多重核形成が妨げられる時のみ熱水からの低速の結晶化によって形成される。しかしながら、結晶化溶媒の選択は毒性のために厳しく制限される。
【0016】
多数の添加剤が成長相又は核生成相のいずれかに影響を及ぼすために既に使用されており、この結果、多形形態又は晶癖のいずれかが改質される。場合によっては、パラセタモールはここでモデル物質として働く。
【0017】
合成(コ)ポリマー及び界面活性剤もまた生物活性物質の形態を改質することが示されていたが、これは毒性のために再び商業的価値を制限していた。
【0018】
WO03/033462号は、結晶多形体の成長を開始させるためのポリマーライブラリを提示し且つパラセタモールの結晶化を改質するためのあるポリマーの使用を記載している:結晶は、パラセタモールの熱水溶液の冷却によって成長する。ポリマーが存在しない場合、これらの条件は、単斜パラセタモールが得られることが予想される。結晶化がナイロン又はハロゲン化ポリマーの存在下で行われる時に、斜方晶パラセタモールの生成に大きく偏る。Rodriguez-Hornedoら、J Pharm Sci. (2004) 93(2), 449-60頁は、カルバマゼピン二水和物の結晶化における界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム及びタウロコール酸ナトリウムの使用を記載している。
【0019】
Garekaniら、Int. J. of Pharmaceutics 208 (2000) 87頁、及びそこに引用された文献は、添加剤の存在下での結晶化によるパラセタモールの晶癖の幾つかの改質方法を報告している。
【0020】
WO05/115344号は、速溶性形態のパラセタモールが結晶化改質剤(ポリマー、又はアルブミン、パパイン、ペプシンなどのタンパク質であってもよい)の存在下で再結晶後に得られることを特許請求している。
【0021】
ここで溶液中での有機物質の急速な核生成が、両親媒性タンパク質、特にヒドロホビンによって昇温でさえも誘導され得ることが見出された。かかるタンパク質が、予想できない晶癖及び結晶粒度分布が得られる結晶化プロセス間に、有機物質の結晶成長挙動を変えることも見出された。ヒドロホビンのような両親媒性タンパク質は、例えば、形態の制御(準安定の多形の安定化)及び生物活性物質などの有機化合物の粒度分布の制御、例えば、化粧、殺菌、製薬又は医療の用途(例えば、化粧用有効成分、有効な医薬品成分[APIs]、動物の飼育用製品、農業用化学物質、殺虫剤、顔料、染料など)のために又は特定の多形体を安定化させるために、結晶化の間又はその後に添加剤として使用されてよい。従って本発明は有機物質の形態及び/又は多形の改質方法に関し、該方法は、固体物質、又はその溶液又は分散液を、1種又は複数種の両親媒性タンパク質を用いて処理することを含む。
【0022】
本方法は有利には有機物質の溶液又は分散液及び/又はタンパク質の溶液又は分散液を用いて実施される。溶液は通常、極性溶媒において1種であり、しばしば水性溶媒、例えば、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール)又は水と低級アルコールの混合物、特に水である。
【0023】
本発明の最も重要な態様の1つは、結晶化プロセスの間の両親媒性タンパク質の使用による生物活性物質の結晶特性の改質である。
【0024】
大部分の生物活性物質は水に難溶性であることが分かっており、且つ微細な粒子(ミクロン及びより小さい)の形成が、増大した表面積のためにその生物学的利用能又は溶解速度を改善できることが公知である。
【0025】
従って、本発明は更に、有機生物活性物質及び両親媒性タンパク質、特にヒドロホビンを含む組成物、例えば、本発明の方法で得られる組成物に関する。本発明の組成物は、有利には微粒子の形で有機生物活性物質を含有し、その際、平均粒度は、所望の最終用途に応じて、例えば、0.1〜1000マイクロメートルの範囲であるか、又は動的光散乱によって検出可能な別の場合には、例えば、5〜5000nm、特に20〜2000nmの範囲である。かかる粒子は易流動性であり、液体に分散されるか、又は特に凝塊形成もしくは圧縮されてよい。組成物、例えば、固体粒子組成物中の両親媒性タンパク質の量は、最終使用及び所望の効果に応じて広い範囲にわたっており、例えば、それぞれ最終組成物の質量の、約0.0001〜約10%、しばしば0.01〜約2%、特に0.01〜約1%の範囲である。
【0026】
従って、本方法の一態様は、結晶サイズの減少を含む改質に関する。
【0027】
本方法の別の態様は、晶癖の変化を含む改質に関する。
【0028】
本方法の更なる態様は、結晶形態の変化を含む改質に関する。
【0029】
本発明は更に有機固体の改質であって、以下の結晶特性:
(a)結晶サイズの減少;(b)晶癖の変化及び(c)結晶形態の変化の2つ以上の組み合わせを含む有機固体の改質に関する。
【0030】
両親媒性タンパク質は疎水性と親水性特性の両方を有し且つ「天然の界面活性剤」と呼ばれる。両親媒性(amphiphilic)の同義語は「両親媒性(amphipathic)」である。
【0031】
両親媒性タンパク質は、固体物質の表面上に物理的に吸着し、処理された表面の湿潤性に従って方向付けられた疎水性と親水性の両方を有する表面を形成することができる。
【0032】
表面が疎水性の場合、被膜の疎水性側は被覆された疎水性表面に接触し、被膜の外表面は親水性であり、それによって被覆された表面の水湿潤を増大させる。
【0033】
基材上へのタンパク質の表面活性特性は、界面張力の測定、水中油型エマルションの特性及び水との接触角によって評価することができる。本発明において有用な両親媒性タンパク質は、疎水性表面(例えば、ポリオレフィンの表面又はTeflon(登録商標)表面)上への水の接触角(WCA)を強力に小さくすることを特徴とする。特に、本発明において有用な両親媒性タンパク質の水溶液又は分散液1質量%は、一般に、純水で観察された接触角よりも20度以上、有利には30度以上、更に有利には40度以上、最も有利には45度以上、特定の場合には50度以上小さい、ポリプロピレン表面上への接触角(特に:PPホモポリマー型HC115MO、Borealis、溶融流量=4.0g/10分[230℃/2.16kg])を示す(図8;静的液滴法による全てのWCA測定を参照のこと)。
【0034】
1991年に発見されたヒドロホビンは、菌類に存在する少量分泌されるシステインに富む両親媒性タンパク質の種類であり、菌類の成長及び発育において広範なスペクトルの作用を果たす。ヒドロホビンは最も表面活性な分子であり、親水性−疎水性界面で両親媒性被膜に自己組織化する(Biochimica et Biophysica Acta - Reviews on Biomembranes - 第1469巻、第2号、2000年9月18日、第79-86頁)。
【0035】
ヒドロホビンは典型的には水に易溶性である。ヒドロホビンの自発的な自己組織化は、水の表面張力を顕著に低下させる両親媒性層の形成をもたらす。ヒドロホビンの作用の示唆された機構は、J. Biol. Chem., 第282巻、第39号、第28733-28739頁、2007年9月28日に見出される:モノマーがダイマーに多量体化し、その2つがテトラマーを形成する。テトラマーは整列した疎水性表面領域を有する2つの新たなダイマーに分かれる。これらの両親媒性ダイマーは、疎水性−親水性界面上での両親媒性単一層の形成よりも重要である。高濃度で、過剰のヒドロホビンがフィブリル構造を形成する。
【0036】
ハイドロパシーの型及び生物物理的特性の違いに基づいて、ヒドロホビンは2つの種類に分けられる:I類及びII類。
【0037】
I類の例:
ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)からのPOH3(PO)
タラロマイセスサーモフィラス(Talaromyces thermophilus)からのTT1(TT)
スエヒロタケ(Schizophyllum commune)からのSC3(SC)。
【0038】
II類の例:
トリコデルマリーセイ(Trichoderma reesei)からのHFBI&HFBII(TR)
クラドスポリウムフルブム(Cladosporium fulvum)からのHCf−6
CU(セラト−ウルミン)。
【0039】
ヒドロホビンの精製及び単離は以下の文献に記載されている:
WO−A−96/41882号は食用菌類由来のヒドロホビンを記載している。
WO−A−00/58342号はヒドロホビン含有融合タンパク質の相抽出による精製に関する。
WO−A−01/57066号は、亜硫酸塩処理によるヒドロホビンの安定化、可溶化、及びそれに関連する改良された用途を記載する。
WO−A−01/57076号は、テフロンビーズへの吸着によるヒドロホビンの精製及び低温度でのTweenなどの洗剤を用いる溶離を記載している。
【0040】
米国特許第7,147,912号は、最も表面活性な分子に属するヒドロホビンを引用している。水の表面張力を50マイクログラム/mlで72から24mJm−2まで最大限に低下させ、SC3(スエヒロタケ)を公知の最も表面活性なタンパク質であると見なす。SC3は1類のヒドロホビンである。
【0041】
更に、本発明において有用なヒドロホビン、並びにその由来及び特性は、特にWO96/41882号(第1頁、第14行〜第7頁、第20行、及び実施例1〜5からの1節を参照のこと);WO03/10331号(第1頁、第4行〜第5頁、第20行を参照のこと);又はWO06/103230号(第3頁、第6段落〜第12頁の下から第3行を参照のこと)に記載され;これらの記載された特定の節は本明細書に援用されている。
【0042】
驚くことに、両親媒性タンパク質、特にヒドロホビンも、有機物質の形態特性に影響を与え、しばしば溶媒、ポリマー又は合成界面活性剤が使用される時よりも有利な組成物を提供することが分かった。
【0043】
本方法は、しばしば、
i)極性溶媒中のタンパク質の溶液又は分散液と、タンパク質の溶媒と混和性である、極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液とを混和すること、又は
ii)極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液と、タンパク質で含浸された表面とを接触させることによって実施される。
【0044】
一実施態様は:
(a)両親媒性タンパク質を溶媒中に溶解又は分散させること;
(b)有機物質を、タンパク質の溶媒と混和性である溶媒中に溶解させること;
(c)(a)と(b)とを混合すること
(d)両親媒性タンパク質の存在下で有機物質の析出/結晶化を行うために混合物の物理的環境を調整することを含む。
【0045】
第2の実施態様は:
(a)両親媒性タンパク質を溶媒中に溶解又は分散させること;
(b)有機物質が化学反応によって形成されるべき反応容器に(a)を添加すること;
(c)化学反応を両親媒性タンパク質の存在下で起こすこと;
(d)両親媒性タンパク質の存在下で有機物質の析出/結晶化を行うために混合物の物理的環境を調整することを含む。
【0046】
第3の実施態様は:
(a)両親媒性タンパク質を溶媒中に溶解又は分散させること;
(b)有機物質を、タンパク質の溶媒と混和性である溶媒中に溶解させること;
(c)(a)と(b)とを混合すること;
(d)両親媒性タンパク質の存在下で有機物質を湿式微粉砕することを含む。
【0047】
第4の実施態様は:
両親媒性タンパク質の溶液/分散液の添加前に又はその後に、有機物質の「種結晶」(安定な核)を有機物質の溶液へ添加することを含む。
【0048】
第5の実施態様は:
両親媒性タンパク質と他の添加剤、特に有機物質の結晶化プロセスに影響を与える添加剤との組み合わせを含む。かかる他の添加剤の例は、塩(例えば、塩化ナトリウム、アンモニウム塩)又は更なるポリマー(特に、ポリビニルピロリドンなどの合成ポリマー及びゼラチンなどの天然ポリマーを含む可溶性ポリマー)である。この定義内に少量の溶媒が含まれる。
【0049】
更に、本発明は以下の実施態様を含み、その各々を互いに組み合わせてよい:
・有機物質の形態及び/又は多形の改質方法であって、固体物質、又はその溶液又は分散液を、1種又は複数種の両親媒性タンパク質を用いて処理することを含む、改質方法。
・1質量%の使用される両親媒性タンパク質の水溶液又は分散液が、純水で観察された接触角よりも20度以上小さいポリプロピレン表面上への接触角を特徴とする、前記方法;
・有機物質の析出、結晶化又は固体−固体相転移を含む、前記方法。
・極性溶媒中のタンパク質の溶液又は分散液と、タンパク質の溶媒と混和性である、極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液とを混和すること;又は極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液と、タンパク質で含浸された表面とを接触させることを含む、前記方法。
・両親媒性タンパク質の存在下で有機物質を湿式微粉砕することを含む、前記方法。
・両親媒性タンパク質の添加前に又はその後に、有機物質の種結晶を有機物質の溶液へ添加することを含む、前記方法。
・溶液が塩及び/又はポリマーなどの更なる添加剤を含有する、前記方法。
・有機物質が、0℃で固体であり且つ可溶であり、極性溶媒に部分的に可溶であるか又は、例えば、コロイドとして分散可能である、有機化合物である、前記方法。
・有機物質が、80〜1000、特に100〜500g/モルの範囲の分子量の有機化合物であり、有利には、医薬物質、医薬成分及び化粧品成分、殺虫剤、及び殺真菌剤などの生物活性化合物から選択される、前記方法。
・結晶サイズの減少、非晶質部分の増加、晶癖の変化及び/又は結晶多形の変化のための前記方法。
・タンパク質が、II類のヒドロホビン又は特にI類のヒドロホビンなどのヒドロホビンである、前記方法。
・有機物質の析出又は結晶化が、その溶液又は分散液と両親媒性タンパク質の溶液又は分散液とを混和することによって誘導される、前記方法。
・有機物質の形態及び/又は多形を改質するための、特に上記の実施態様のいずれかを特徴とする、両親媒性タンパク質の使用。
・固体有機物質(特に、上で定義されるか又は以下に更に示されたもの)、及び両親媒性タンパク質(特に、上の実施態様のいずれかを特徴とするもの)を含む、組成物。
・例えば、平均サイズ0.1〜1000マイクロメートル、又は5〜5000nmの微細粒子の形で固体有機物質を含む、前記組成物。
【0050】
従って、本発明は、
・有機物質の形態及び/又は多形の改質方法であって、固体物質、又はその溶液又は分散液を、1種又は複数種の両親媒性タンパク質を用いて処理することを含む、改質方法;
・1質量%の使用される両親媒性タンパク質の水溶液又は分散液が、純水で観察された接触角よりも20度以上小さいポリプロピレン表面上への接触角を特徴とする、前記方法;
・有機物質の析出、結晶化又は固体−固体相転移を含み;特に、結晶サイズの減少、非晶質部分の増加、晶癖の変化及び/又は結晶多形の変化のための、前記方法のいずれか;
・i)極性溶媒中のタンパク質の溶液又は分散液と、タンパク質の溶媒と混和性である、極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液とを混和すること;又はii)極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液と、タンパク質で含浸された表面とを接触させることを含む、前記方法のいずれか;
・両親媒性タンパク質の存在下で有機物質を湿式微粉砕することを含む、前記方法のいずれか;
・両親媒性タンパク質の添加前に又はその後に、有機物質の種結晶を有機物質の溶液へ添加することを含む、前記方法のいずれか;
・溶液が塩及び/又はポリマーなどの更なる添加剤を含有する、前記方法のいずれか;
・有機物質が、0℃で固体であり且つ可溶であり、極性溶媒に部分的に可溶であるか又は、例えば、コロイドとして分散可能である、有機化合物である、前記方法のいずれか;
・有機物質が、80〜1000、特に100〜500g/モルの範囲の分子量の有機化合物であり、有利には、医薬物質、医薬成分及び化粧品成分、殺虫剤、及び殺真菌剤などの生物活性化合物から選択される、前記方法のいずれか;
・タンパク質が、II類のヒドロホビン又は特にI類のヒドロホビンなどのヒドロホビンである、前記方法のいずれか;
・有機物質の析出又は結晶化が、その溶液又は分散液と両親媒性タンパク質の溶液又は分散液とを混和することによって誘導される、前記方法のいずれか;を含む。
【0051】
本発明は更に、有機物質の形態及び/又は多形を改質するために、特に上記の接触角を小さくすることを特徴とする、両親媒性タンパク質、特に上記のヒドロホビンの使用を含み;並びに固体有機物質、特に、0℃で固体で且つ可溶性であり、極性溶媒に部分的に可溶であるか又は、例えば、コロイドとして分散可能である有機化合物、及び/又は80〜1000、特に100〜500g/モルの範囲の分子量であり、有利には医薬物質、医薬成分及び化粧品成分、殺虫剤、及び殺真菌剤などの生物活性化合物から選択される有機化合物と、両親媒性タンパク質とを組み合わせて含む組成物を含む。前記組成物は有利には微細粒子の形で固体有機物質を含む。
【0052】
その固体形態が本方法によって改質される生物活性有機物質の例として、以下のものが挙げられる:
医薬品成分(APIs):アカルボース、アセチルサリチル酸、アルフゾシン、アリスキレン、アンブリセンタン、アムロジピン、アモキシシリン、アナストロゾール、アピキサバン、アプレピタント、アリピプラゾール、アタザナビル、アテノロール、アトモキセチン、アトルバスタチン、アジトロマイシン、バゼドキシフェン、ベナゼプリル、ビカルトアミド、ビサコジル、ブデソニド、ブチルスコポラミン、カンデサルタン、カペシタビン、カルバマゼピン、カリスバメート、カルベジロール、カソピタント、セレコキシブ、セチリジン、クロロキン、シナカルセト、シプロフロキサシン、クラブラン酸、クロドロナート、クロニジン、クロピドグレル、シプロテロンアセタート、ダポキセチン、ダルナビル、ダサチニブ、デフェラシロクス、デキストロメトルファン、ジクロフェナク、ジエノゲスト、ジピリダモール、ドセタキセル、ドネペジル、ドロスピレノン、デュロキセチン、エファビレンズ、エレトリプタン、エナラプリル、エンタカポン、エンテカビル、エンザスタウリン、エルロチニブ、エソメプラゾール、エスゾピクロン、チニルエストラジオール、エトリコキシブ、エトラビリン、エベロリスムス、エキセメスタン、フェキソフェナジン、フィナステリド、フルオキセチン、フルチカソン、フルチカソンプロピオナート、フルバスタチン、ホルモテロール、ガンシクロビル、ゲフィチニブ、グリメピリド、ヒドロコドン、イバンドロン酸、イブプロフェン、インジナビル、イプラトロピウム、イルベサルタン、ラモトリギン、ランソプラゾール、ラパチニブ、レトロゾール、レボノルゲストレル、リネゾリド、リシノプリル、ロサルタン、マラビロク、メロキシカム、メトホルミン、メチルフェニダート、メトプロロール、モキシデクチン、ミコフェノール酸、ナプロキセン、ナテグリニド、ネビラピン、ニコランジル、ニフェジピン、ニロチニブ、オランザピン、オメプラゾール、オルリスタット、オセルタミビル、オキサリプラチン、オキスカルバゼピン、パリペリドン、パントプラゾール、パラセタモール、パロキセチン、ピオグリタゾン、プラミペキソール、プラバスタチン、プレガバリン、クエチアピン、ラベプラゾール、ラロキシフェン、ラミプリル、レボキセチン、リセドロナート ナトリウム、リバロキサバン、リバスチグミン、リザトリプタン、ロシグリタゾン、ルボキシスタウリン、サルメテロール、シルデナフィル シトラート、シムバスタチン、シロリムス、シタグリプチン、ソラフェニブ、スマトリプタン、スニチニブ、スリナバント、タダラフィル、タムスロシン、タペンタドール、テルビブジン、テルミサルタン、テルビナフィン塩酸塩、テリフルノミド、チオトロピウム、トルテロジン、トピルアマート、バビカセリン塩酸塩、バラシクロビル、バルガンシクロビル、バルサルタン、バンデタニブ、バルデナフィル、バレニクリン、ベンラファキシン、ビルダグリプチン、ボリコナゾール、ワルファリン、ジプラシドン、ゾルミトリプタン、ゾルピデム。
【0053】
更なる医薬物質:アセプロマジン、アモキシリン、アンピシリン、アプラマイシン、ベナゼプリル、ベタメタソン、ブスコパン、カルプロフェン、セファピリン、クレンブテロール、クリンダマイシン、クロキサシリン、シクロスポリンA、シロマジン、デラコキシブ、ジクロルボース、ジシクラニル、ジフロキサシン、エンロフロキサシン、エトドラク、フェンベンダゾール、フラミセチン、フロセミド、グリセオフルビン、ヘタシリン、ヒグロマイシン、イミダクロプリド、レバミソール、レボチロキシン、ルフェヌロン、メロキシカム、ミルベマイシンオキシム、モネンシン、モキシデクチン、ナラシン、ニカルバジン、ニテンピラム、オレアンドマイシン、オキスフェンダゾール、オキシクロザニド、パラメクチン、パロモマイシン、ペルメトリン、フェニルブタゾン、プラジクアンテル、プロカインベンジルペニシリン、プロカインペニシリン、ピランテルパモアート、スピノサド、スルファジアジン、チアメトキサム、チアムリン、トリアムシノロン、トリクラベンダゾール、トリメトプリム、タイロシン。
【0054】
殺虫剤及び殺真菌剤などの農薬:アバメクチン、ブロジファコウム、シロマジン、エマメクチン、フェノキシカルブ、ピリミカルブ、ピメトロジン、チアメトキサム。
【0055】
化粧品成分、例えば、
UV遮断物質(例えば、(+/−)−1,7,7−トリメチル−3−[(4−メチルフェニル)メチレン]ビシクロ−[2.2.1]ヘプタン−2−オン;1,7,7−トリメチル−3−(フェニルメチレン)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オン;(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)(4−メチルフェニル)メタノン;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン;2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸;2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン;2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;アルファ−(2−オキソボルン−3−イリデン)トルエン−4−スルホン酸及びその塩;1−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−3−(4−メトキシフェニル)プロパン−1,3−ジオン;メチルN,N,N−トリメチル−4−[(4,7,7−トリメチル−3−オキソビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−イリデン)メチル]アニリニウムスルファート;3,3,5−トリメチルシクロヘキシル−2−ヒドロキシベンゾアート;イソペンチルp−メトキシシンナマート;メンチル−o−アミノベンゾアート;メンチルサリチラート;2−エチルヘキシル2−シアノ,3,3−ジフェニルアクリラート;2−エチルヘキシル4−(ジメチルアミノ)ベンゾアート;2−エチルヘキシル4−メトキシシンナマート;2−エチルヘキシルサリチラート;安息香酸,4,4’,4’’−(1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリイルトリイミノ)トリス−,トリス(2−エチルヘキシル)エステル;2,4,6−トリアニリノ−(p−カルボ−2’−エチルヘキシル−1’−オキシ)−1,3,5−トリアジン;4−アミノ安息香酸;安息香酸,4−アミノ−,エチルエステルの,オキシランとのポリマー;2−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール−5−スルホン酸;2−プロペンアミド,N−[[4−[(4,7,7−トリメチル−3−オキソビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イリデン)メチル]フェニル]メチル]−,ホモポリマー;トリエタノールアミンサリチラート;3,3’−(1,4−フェニレンジメチレン)ビス[7,7−ジメチル−2−オキソ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−メタンスルホン酸];2,2’−メチレン−ビス−[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノール];2,4−ビス{[4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ]−フェニル}−6−(4−メトキシフェニル)−(1,3,5)−トリアジン;1H−ベンゾイミダゾール−4,6−ジスルホン酸,2,2’−(1,4−フェニレン)ビス−,二ナトリウム塩;安息香酸,4,4’−[[6−[[4−[[(1,1−ジメチルエチル)アミノ]カルボニル]フェニル]アミノ]1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル]ジイミノ]ビス−、ビス(2−エチルヘキシル)エステル;フェノール,2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−[2−メチル−3−[1,3,3,3−テトラメチル−1−[(トリメチルシリル)オキシ]ジシロキサニル]プロピル]−;ジメチコジエチルベザルマロナート;ベンゼンスルホン酸,3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−(1−メチルプロピル)−,一ナトリウム塩;安息香酸,2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]−,ヘキシルエステル;1−ドデカンアミニウム,N−[3−[[4−(ジメチルアミノ)ベンゾイル]アミノ]プロピル]N,N−ジメチル−の,4−メチルベンゼンスルホン酸との塩(1:1);1−プロパンアミニウム,N,N,N−トリメチル−3−[(1−オキソ−3−フェニル−2−プロペニル)アミノ]−,クロリド;1H−ベンゾイミダゾール−4,6−ジスルホン酸,2,2’−(1,4−フェニレン)ビス−1,3,5−トリアジン,2,4,6−トリス(4−メトキシフェニル)−;1,3,5−トリアジン,2,4,6−トリス[4−[(2−エチルヘキシル)オキシ]フェニル]−;1−プロパンアミニウム,3−[[3−[3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]−1−オキソプロピル]アミノ]−N,N−ジエチル−N−メチル−,メチルスルファート(塩);2−プロペン酸,3−(1H−イミダゾール−4−イル)−;安息香酸,2−ヒドロキシ−,[4−(1−メチルエチル)フェニル]メチルエステル;1,2,3−プロパントリオール,1−(4−アミノベンゾアート);ベンゼン酢酸,3,4−ジメトキシ−a−オキソ−;2−プロペン酸,2−シアノ−3,3−ジフェニル−,エチルエステル;アントラリン酸,p−メント−3−イルエステル;2,2’−ビス(1,4−フェニレン)−1H−ベンゾイミダゾール−4,6−ジスルホン酸一ナトリウム塩又は二ナトリウムフェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホナート又はヘリオパンAP);
虫に対する活性成分(駆除剤;例えば、ジエチルトルアミド(DEET);又は"Pflegekosmetik"(W. Raab及びU. Kindl, Gustav- Fischer-Verlag Stuttgart/New York,1991)、第161頁)に見出されるような他の一般的な駆除剤;
角質軟化(keratoplastic)作用を有する活性成分(例えば、過酸化ベンゾイル、レチノイン酸、コロイド状硫黄及びレソルシノール);
抗菌剤(例えば、トリクロサン又は第4級アンモニウム化合物);
酸化防止剤。
【0056】
フタロシアニン、アゾなどの有機顔料
溶媒染料、直接染料などの有機染料
【0057】
本発明は上のリストの有機物質に制限されない。
【0058】
以下の試験方法及び実施例は例示的な目的のためだけであり、且つ、本発明をいかなるようにも制限するとは解釈されないものとする。室温(r.t.又はRT)は、20〜25℃の範囲の温度を表す;終夜は12〜16時間の範囲の期間を示す。パーセントは特段示されない限り質量、摂氏温度(摂氏度)に対するものである。
【0059】
実施例又はその他で使用される省略形:
ACN アセトニトリル
API 活性医薬品成分
BSA ウシ血清アルブミン(Fluka)
IPA イソプロパノール
PO ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)由来のI類ヒドロホビン
PP ポリプロピレン
RT 室温
SC スエヒロタケ(Schizophyllum commune)由来のI類ヒドロホビン
TR トリコデルマリーセイ(Trichoderma reesei)由来のII類ヒドロホビン
TT タラロマイセスサーモフィラス(Talaromyces thermophilus)由来のI類ヒドロホビン
WCA PPシートへの水の接触角(静的液滴法)
w/w 全質量に対する質量部又は質量パーセント
【0060】
ヒドロホビンの調製
ヒドロホビン溶液:10mgタンパク質/ml溶液を含有する水溶液が使用される。ヒドロホビンはE. coli中での組み換えで生成し;これらはI類:
ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)由来のPO、
タラロマイセスサーモフィラス(Talaromyces thermophilus)由来のTT、
スエヒロタケ(Schizophyllum commune)由来のSC
であり、II類:
トリコデルマリーセイ(Trichoderma reesei)由来のTRである。トリコデルマリーセイ由来のヒドロホビンも野生型の深部発酵及び後処理によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1はTRの存在下で結晶化したパラセタモール(50倍の拡大)を示す。
【図2】図2はTRの存在下で結晶化したベンズアミド(50倍の拡大)を示す。
【図3】図3はヒドロホビン(SC、PO、TT、TR)の存在下で蒸発により結晶化したアトルバスタチン溶質(拡大:50倍)を示す。
【図4】図4はPO又はSCによって被覆された蒸発により結晶化したアトルバスタチン溶質(拡大:50倍)を示す。
【図5】図5は増大するTR濃度(100〜1000ppm)の存在下で結晶化したパラセタモール(拡大:50倍)を示す。
【図6】図6は増大するTR濃度(100〜1000ppm)の存在下で結晶化したベンズアミド(拡大:50倍)を示す。
【図7】図7はTRの不在又は存在下でのパラセタモール結晶の表面質量粒度分布を示す。
【図8】図8は純水と比較された、ポリプロピレン板上での1質量%のタンパク質溶液の水接触角の相対的変化を示す。
【図9】図9は典型的な結晶化プロセスの図式化された工程を示す。
【0062】
適用例
実施例1:ヒドロホビンの存在下でのパラセタモールの結晶化
ヒドロホビン溶液は、1mlの純水中10mgの凍結乾燥粉末(少なくとも60〜80%のタンパク質含量)の可溶化によって調製される。不溶性の残留物は遠心分離によって除去される。
【0063】
15gのAPI(パラセタモール、シグマ社製)を150mlの純水中に溶解する。得られた溶液10mlのアリコートを、95℃まで予備加熱された15mlのシール可能なポリプロピレン管の中に移し、結晶化の開始を防ぐ。確実に均一な温度にするために、この管を95°及び750rpmでサーモミキサー(エッペンドルフサーモミキサーコンフォート)の上で15〜30分間振盪させ、100μlのヒドロホビン溶液を95℃で継続される混合下で添加し;試料中の最終的なタンパク質濃度は100ppmである。1〜2分後に管をサーモミキサーから回収し、振盪しないでRTで冷却させる。対照試料は、100μlの純水をヒドロホビン溶液の代わりに添加するか、又はAPIが全く存在しないことを除いて、同じ方法で処理する。結晶化挙動を視覚的に評価し;結果を以下の表にまとめる。
【0064】
【表1】

【0065】
「縞模様」は曇りのない初期濃度の縞模様の観測を表す。曇りは、小さいパラセタモール結晶の形成によって影響を受ける。APIの存在しない対照は、タンパク質の変性が起こらないこと(曇りなし)を示す。
【0066】
全ての形成された結晶は分散可能である。
【0067】
注入の数分(5分未満)後に、5mlの上記の母液を皿(φ5cm)に注ぎ込み、これを蒸発によって結晶化させる。約20時間後に得られた乾燥結晶を視覚的に検査する;類似の結晶形態及びサイズが全てのI類のヒドロホビンについて得られ、一方で、TRの存在下での結晶化により、大きな樹枝状結晶(図1)が得られる。
【0068】
実施例2:SC、PO、TT又はTRの存在下でのベンズアミドの結晶化
15gのベンズアミド(Fluka)を150mlの純水中に溶解する。得られた溶液10mlのアリコートを、95℃まで予備加熱された15mlのシール可能なポリプロピレン管の中に移し、結晶化の開始を防ぐ。確実に均一な温度にするために、この管を95°及び750rpmでサーモミキサー(エッペンドルフサーモミキサーコンフォート)の上で15〜30分間振盪させ、100μlのヒドロホビン溶液(実施例1で得られた方法に従って調製されたもの)を添加する(管をさらに振盪させて均一な混合及び焼戻しを行う)。1〜2分後に管をサーモミキサーから回収し、振盪しないでRTで冷却させる。対照試料は、100μlの純水をヒドロホビン溶液の代わりに添加するか、又はAPIが全く存在しないことを除いて、同じ方法で処理する。
【0069】
ヒドロホビン注入後(試料中の最終濃度は100ppmである)の視覚的な評価の結果を以下の表にまとめる。
【0070】
【表2】

【0071】
「縞模様」は曇りのない初期濃度の縞模様の観測を表す。曇りは小さいパラセタモール結晶の形成のためであり、添加されたタンパク質の変性のためではない。
【0072】
注入の数分(5分未満)後に、5mlの母液を皿(φ5cm)に注ぎ込み、これを蒸発によって結晶化させる。約20時間後に得られた乾燥結晶を視覚的に検査する;類似の結晶形態及びサイズが全てのI類のヒドロホビンについて得られ、一方で、TRの存在下での結晶化により、束になった細長い結晶(図2)が得られる。
【0073】
実施例3:ベンラファキシンの結晶化及び再分散
15gのベンラファキシン(Ciba)を150mlのIPA中に溶解する。得られた溶液10mlのアリコートを、95℃まで予備加熱された15mlのシール可能なポリプロピレン管の中に移す。確実に均一な温度にするために、この管を80°及び750rpmでサーモミキサー(エッペンドルフサーモミキサーコンフォート)の上で15〜30分間撹拌し、次いで100μlのタンパク質溶液(実施例1で得られた方法に従って調製されたもの)を添加する。対照試料は、100μlの純水をヒドロホビン溶液の代わりに添加するか、又はAPIが全く存在しないことを除いて、同じ方法で処理する。
【0074】
ヒドロホビンの注入後(試料中の最終濃度は100ppmである)の視覚的な評価の結果を以下の表にまとめる。
【0075】
【表3】

【0076】
曇りは小さいAPI結晶の形成であると解される。室温において、結晶化は更に進み、管はかさ高い塊の結晶アグリゲートで充填されており、このため結晶サイズを決定することができない。
【0077】
母液は一晩で完全に結晶し、その際、付着し合う結晶は溶媒で覆われている。10〜15秒にわたる激しい撹拌(渦)は、様々な程度の再懸濁によって完了する。懸濁液を皿に注ぎ込むと、SC及びTRを含有する試料の場合、完全に空になった管が得られ、その一方、PO、TT、及び対照試料を含有する試料の場合、主として残りの母液が注ぎ出される。最良の分散性はSC又はTRの存在下で得られる。
【0078】
ベンラファキシンの場合、晶出温度及び得られた結晶の分散性はタンパク質による影響を受ける。
【0079】
実施例4:アトルバスタチンの結晶化
a)15gのアトルバスタチン(Ciba)を、50℃への加熱及び2時間の撹拌によって75mlの純水及び75mlのアセトニトリル中に溶解させる。得られた溶液を濾過する(0.45μm)。10mlのアリコートを、50℃まで予備加熱された15mlのシール可能なポリプロピレン管の中に移し、結晶化の開始を防ぐ。確実に均一な温度にするために、この管を50°及び750rpmでサーモミキサー(エッペンドルフサーモミキサーコンフォート)の上で15〜30分間振盪させ、次いで100μlのタンパク質溶液(実施例1で得られた方法に従って調製されたもの)を添加する(最終濃度:100ppm)。対照試料は、100μlの純水をヒドロホビン溶液の代わりに添加するか、又はAPIが全く存在しないことを除いて、同じ方法で処理する。
【0080】
各試料1mlを皿(φ5cm)に注ぎ込み、これを蒸発によって結晶化させる。乾燥した結晶(20時間以降)は顕微鏡で検査する。ヒドロホビンの添加は更に均一な結晶成長(図3)をもたらす。
【0081】
b)更なる一連の試験において、対象のスライドを、実施例1で得られた方法に従って調製された溶液(100μgタンパク質/ml)中で、一晩インキュベーションによりタンパク質で被覆する。次に、上記のアトルバスタチン溶液50μlでスライドを被覆する前に、対象のスライドを洗浄し且つ空気乾燥させる。図4に示したように、ヒドロホビンで被覆されたガラス表面上での蒸発による結晶化は、特にPO又はSCで被覆した後に、更に規則的な結晶成長によって完了する。
【0082】
実施例5:パラセタモール又はベンズアミドの結晶化、タンパク質濃度の変動
(100/250/500/750/1000ppmの最終濃度に調整するために)異なる量のTRを有する溶液500μlを添加することを除いて、全ての溶液及びアリコートを実施例1及び2に記載の通りに調製する。TR原液は、凍結乾燥TR30mgを純水1.5mlに溶解することによって調製する。TR溶液の注入は混濁を伴わないが、250ppmを超える濃度の場合、液体は5分以内にわずかに曇り始める。その時に、各試料5mlを皿に注ぎ込み、これを蒸発によって結晶化させる。
【0083】
高濃度のTRは明らかに、パラセタモール及びベンズアミドの両方について結晶サイズの減少及び母液中の結晶のより安定な分散を特徴とする(図5+図6)。
【0084】
パラセタモール試料の場合、結晶サイズフラクション(粒子表面による質量)を単一粒子光学検知法(SPOS)(AccuSizer 780/A, Particle Sizing Systems)によって測定する。ヒドロホビンがない場合、結晶サイズは主として0.1〜2mmの範囲であり;TRの添加により、5〜50μmのサイズ範囲で小さい粒子のクラスが形成される。更に、TRの存在により、「大きな」フラクションの最も豊富な粒子のサイズが有意に減少する(図7を参照のこと)。2つの優勢なサイズフラクション間のヒドロホビンに誘導される移動は第5表にまとめる。
【0085】
【表4】

【0086】
図面の簡単な説明:
図1:TRの存在下で結晶化した後のパラセタモール(50倍の拡大)は、ヒドロホビン不含の対照と比較して、晶癖の明らかな改質を示す。
図2:TRの存在下で結晶化した後のベンズアミド(50倍の拡大)は、ヒドロホビン不含の対照と比較して、晶癖の明らかな改質を示す。
図3:蒸発により結晶化した後のアトルバスタチン溶質(拡大:50倍);100ppmのヒドロホビン(SC、PO、TT、TR)の存在は、ヒドロホビン不含の対照と比較して、更に均一な結晶成長をもたらす。
図4:対象のスライド上での蒸発により結晶化した後のアトルバスタチン溶質(拡大:50倍):PO又はSCによる被覆は、被覆していない対照と比較して、更に均一な結晶成長をもたらす。
図5(拡大50倍):増大するTR濃度(100〜1000ppm)の存在下で結晶化した後のパラセタモールは、平均結晶サイズの減少をもたらす。
図6(拡大50倍):増大するTR濃度(100〜1000ppm)の存在下で結晶化した後のベンズアミドは、平均結晶サイズの減少をもたらす。
図7:TRの不在又は存在下でのパラセタモール結晶の表面質量粒度分布;タンパク質の添加は、サイズ分布に影響を与え且つより小さな粒子をもたらす。
図8:純水と比較された、ポリプロピレン板(Borealis HC115MO)上での1質量%のタンパク質溶液の水接触角の相対的変化は、ヒドロホビンの高い両親媒性を示す。
図9:典型的な結晶化プロセスの図式化された工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質の形態及び/又は多形の改質方法において、固体物質、又はその溶液又は分散液を、1種又は複数種の両親媒性タンパク質で処理することを含み、該両親媒性タンパク質は、その1質量%の水溶液又は分散液が、純水に対して観察される接触角よりも20度以上小さいポリプロピレン表面上への接触角を示すことを特徴とする、改質方法。
【請求項2】
有機物質の析出、結晶化又は固体−固体相転移を含み;特に、結晶サイズの減少、非晶質部分の増加、晶癖の変化及び/又は結晶多形の変化のために;有利には、有機物質の析出又は結晶化を、その溶液又は分散液と両親媒性タンパク質の溶液又は分散液とを混和することによって誘導する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
i)極性溶媒中のタンパク質の溶液又は分散液と、タンパク質の溶媒と混和性である極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液とを混和すること、又は
ii)極性溶媒中の有機物質の溶液又は分散液と、タンパク質で含浸された表面とを接触させること
を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
両親媒性タンパク質の存在下で有機物質を湿式微粉砕することを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
両親媒性タンパク質の添加前に、又は添加後に、有機物質の種結晶を有機物質の溶液へ添加することを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
溶液が塩及び/又はポリマーなどの更なる添加剤を含有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
有機物質が、0℃で固体であり且つ可溶であり、極性溶媒に部分的に可溶であるか又は、例えば、コロイドとして分散可能である、有機化合物である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
有機物質が、80〜1000、特に100〜500g/モルの範囲の分子量の有機化合物であり、有利には、医薬物質、医薬成分及び化粧品成分、殺虫剤、及び殺真菌剤などの生物活性化合物から選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
結晶サイズの減少、非晶質部分の増加、晶癖の変化及び/又は結晶多形の変化のための請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
タンパク質が、II類のヒドロホビン又は特にI類のヒドロホビンなどのヒドロホビンである、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
有機物質の析出又は結晶化が、その溶液又は分散液と両親媒性タンパク質の溶液又は分散液とを混和することによって誘導される、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
有機物質の形態及び/又は多形を改質するための、請求項1又は10を特徴とする、両親媒性タンパク質の使用。
【請求項13】
請求項5及び/又は6を特徴とする有機物質の形態及び/又は多形を改質するための請求項12記載の使用。
【請求項14】
特に請求項5又は6に定義された、固体有機物質、及び請求項1、又は特に請求項7を特徴とする両親媒性タンパク質を含む組成物であって、前記固体有機物質が、所望の最終用途に応じて、例えば、0.1〜1000マイクロメートルの範囲であるか、又は動的光散乱によって検出可能な別の場合には、例えば、5〜5000nm、特に20〜2000nmの範囲である平均粒度を有する微細粒子の形の有機生物活性物質である、組成物。
【請求項15】
粒子が易流動性であり、液体中に分散されるか、又は特に凝塊形成又は圧縮される、請求項14記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−527668(P2011−527668A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517074(P2011−517074)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057760
【国際公開番号】WO2010/003811
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】