説明

形成施術用糸

【課題】形成施術後においても、皮膚のたるみ、または皺などを効果的に除去することができ、かつ皮膚の強さを生み出したり保水効果を発揮するコラーゲンを積極的にその位置に定着させることができる形成施術用糸を提供する。
【解決手段】直線状に延びる糸本体10aの外周面に、複数本の短い返し糸10bが略放射状に円を描くように、所定間隔置きに形成されているとともに、これらの返し糸10bを囲繞するように、膜体10cが一体的に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形成施術用糸、特に皮膚のたるみ、または皺などを除去する施術に好適な形成施術用糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、形成施術には種々の施術があり、顔面、胸およびおしりなどの皮膚を引き締め、皮膚のたるみ、または皺(以下、「皺等」ともいう)などを除去する施術も行われている。このような施術の際には形成施術用の糸が用いられ、所望の部位に糸を刺し通し、次いで糸を引っ張り上げることによって、所望の部位の皮膚または肉を引き上げ、皺等を除去する処置が施される。
【0003】
これら形成施術用の糸は、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維を材質とした外科手術用の糸をそのまま採用するだけでなく、特定の形状を施した形成施術用の糸も利用されている。この特定の形状としては、たとえば、図4(A)、(B)に示した形成施術用の糸2のように、糸本体2aに三角形状の返し2b、2bが対を成すように形成された形状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように三角形状の返し2b、2bが形成された糸2は、剛性が高く変形し難いため、施術部位に糸を挿通した後において糸を矢印D方向に引っ張り上げたときに、必要以上に肉4を引きずってしまう虞があった。
【0005】
一方、返し2bなどが形成されていない通常の形成施術用の糸では、施術部位における炎症反応が少ないため、コラーゲンの生成量が少なく、コラーゲンによる保水効果や皮膚の強さを生み出す作用が十分に発揮でなきなかった。また、これら従来の通常の形成施術用の糸では、一旦糸を抜いてしまうと、次第にたるみ、皺などを除去する効果が薄れて、再度垂れ下がってくる虞がある。
【0006】
そこで、形成施術後においても、皮膚のたるみ、または皺などを効果的に除去することができ、またコラーゲンを積極的に生成することができる形成施術用糸を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の形成施術用糸は、直線状に延びる糸本体の外周面に、複数本の短い返し糸が略放射状に円を描くように、所定間隔置きに形成されているとともに、これらの返し糸を囲繞するように、膜体が一体的に配置されていることを特徴としている。
【0008】
ここで、前記返し糸は、前記糸本体に対して傾斜した姿勢で配置されているとともに、この傾斜角度αは、10°〜45°の範囲であることが好ましい。
このような構成の形成施術用糸であれば、糸本体を引き上げた場合に、短い返し糸の廻りに、略円筒状の膜体が傘を広げたように広がるので、この略円筒状の膜体の部分で肉、皺などを引っ張り上げることができる。また、特に、短い返し糸を設けた周辺では、人体内で炎症反応が生じ、これを修復しようとしてコラーゲンが形成される。なお、このコラーゲンの成形は、短い返しの糸の延びる側に多く、返しの糸が存在しない側で少ない。さらに、短い返しの糸を設けた部分の直ぐ横では、刺激が加わり、人体の再生力により繊維組織(結合組織)が形成される。この繊維組織が存在することにより、糸を抜いた後であ
っても、その繊維組織が形成施術用糸の代わりとなり、肉の塊を引き上げることができる。よって、肉や皺を引き上げる効果を持続させることができる。
【0009】
さらに、前記糸本体および前記返し糸には、アミノ酸および/またはサイトカインが塗布または浸透されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の形成施術用糸によれば、所望の施術部位において、糸を引っ張り上げた場合には、略円筒状の膜体が返し糸の外側に放射状に広がるので、自然な形で肉、皺などを引き上げる。また、特に、短い返し糸を設けた周辺では、人体内で炎症反応が生じ、これを修復しようとしてコラーゲンが形成され、このコラーゲンにより、保水効果や皮膚の強さを生み出すことができる。
【0011】
さらに、短い返しの糸を設けた部分の直ぐ横では、刺激が加わり、人体の再生力により繊維組織(結合組織)が形成され、この繊維組織が存在することにより、糸を抜いた後であっても、その繊維組織が形成施術用糸の代わりとなる。これにより、糸が抜かれた後であっても、あるいは糸が消失された後であっても、人体内に形成された繊維組織により肉の塊、皺などを引き上げることができる。したがって、肉、皺などの引き上げ効果を持続させることができる。
【0012】
さらに、特定のアミノ酸および/またはサイトカインを塗布または浸透させた形成施術用糸とすることで、施術部位の皮膚を活性化させ、老化を低減するとともに美容効果をも付与することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明の形成施術用糸について、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1〜図3は本発明の一実施例に係る形成施術用糸(以下、「本発明の施術用糸」ともいう。)10示したもので、図1は形成施術用糸10を部分的に断面で示したものである。この施術用糸10の本体10aは、伸縮性のある材質から形成されたもので、糸本体10aの外周面には、複数本の短い返し糸10bが、同一地点から略放射状に円を描くように形成されている。また、これら返し糸10bの回りには、柔軟で変形し易いフィルム状の膜体10cが張り巡らされている。
【0014】
この施術用糸10を側方から見れば、自然状態において所定間隔置きに傘状の部材Aが所定間隔置きに具備されたように視認される。それぞれの返し糸10bは、同一径の短繊維であり、糸本体10aと同一の材質から形成されていても良く、他の材質から形成されていても良い。また、糸本体10aに対して、返し糸10bは傾斜しており、その傾斜角度αは、図2に拡大して示したように、10°〜45°、好ましくは20°〜35°である。
【0015】
一方、返し糸10bの外側を囲繞する膜体10cは、糸本体10aと同一の材質から形成されていても良いが、他の材質から形成されていても良い。要は、返し糸10bより柔軟で変形自在であればよい。よって、柔軟で変形自在であれば、薄いゴム、自己消失形のたんぱく質などから形成されていても良い。さらに、返し糸10bも自己消失性のたんぱく質などから形成しても良い。
【0016】
返し糸10bが傾斜して設けられた糸本体10aは、例えば、図1に示したように、頬などの肉4の内部を矢印Cの態様で進む場合には、これらの返し糸10bがE方向に変形するとともに、同様に膜体10cがE方向に変形する。よって、肉4に対する抵抗が小さい。
【0017】
一方、矢印Dの態様で糸本体10aが肉4の内部を進む場合には、返し糸10bと膜体10cとが広がる方向(矢印Eと反対の方向)に移動する。よって、このような返し10bおよび膜体10cを備えた施術用の糸10によれば、たるんだ頬、尻などの施術部位を矢印C方向に挿通した後に、糸10を矢印D方向に引っ張り上げれば、糸周辺の皮膚または肉4を引き込み易く、皺等を効果的に除去することができる。
【0018】
また、矢印D方向に引っ張って端部を固定してあれば、膜体10cが広がった状態にあるので、その周辺では炎症反応が生じ、これを修復しようとしてコラーゲンが多量に形成される。これにより、皮膚の強さを生み出したりを高めたり、あるいは保水効果を発揮させることができる。
【0019】
また、短い返し糸10bの直ぐ横では、刺激が加わるため、人体の再生力により、繊維組織(結合組織)が形成される。そして、この繊維組織が形成施術用糸の代わりとなって、長期にわたり、肉、皺などを引き上げることが可能になる。
【0020】
本発明の施術用糸10の材質は、伸縮性を有していることが好ましいが、材質は特に限定されない。伸縮性を有する材質を用いれば、施術後においても施術部位に生じ易い引きつりを低減することができる。また、施術部位に半永久的に自然な弾力性、および柔軟性を付与することができるので、施術後の部位に直接触れても形成施術に起因する違和感を生じるおそれがない状態を半永久的に維持することができる。さらに、施術部位周辺の動きに対しても柔軟に対応することができる。
【0021】
上記伸縮性を有する材質は、医療用材料として好適に用いられるものであれば、特に限定されない。
伸縮性を有する材質としては、具体的には、シリコーン、天然ゴム、合成ゴム、ホルマール化ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリコーン、ホルマール化ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレンは、従来より採用されていたポリエステル、ナイロン等の合成繊維と比較して、正常皮膚により近似した伸縮性および柔軟性を有しているため、特に好適である。
【0022】
なお、ホルマール化ポリビニルアルコールとは、ホルマリンによってポリビニルアルコールをホルマール化したものを意味する。
本発明の施術用糸は、さらにアミノ酸および/またはサイトカインを塗布または浸透させて用いるのが望ましい。
【0023】
アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、システイン、グリシン、セリンおよびリジンからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、1種単独で用いてもよく、または2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのアミノ酸を本発明の施術用糸に塗布または浸透させることによって、施術部位の老化を低減するとともに美容効果を付与することができる。また、人体における施術用糸の親和性および付着性をも向上させることができる。
【0024】
具体的には、たとえば、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、新陳代謝を促進して運動エネルギー源として機能するとともに筋力アップに効果をもたらす。グルタミン酸は保湿作用があり、皮膚にうるおいを与える効果を奏する。プロリンは皮膚を構成するコラーゲンの主要成分であり、肌にハリをもたせることができる。システインは皮膚に含ま
れるメラニン色素の産生を抑制する効果を奏する。
【0025】
サイトカインとは、細胞が産生するタンパク質であり、それに対するレセプターを持つ細胞に働きかけ、細胞の増殖、分化または機能発現を行うものである。
サイトカインとしては、具体的には、たとえば、インターロイキン、リフォカイン、ケモカイン、インターフェロン、FGFまたはEGFなどの細胞増殖因子、造血因子、細胞増殖因子、細胞傷害因子、アディポカイン、または神経栄養因子などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのサイトカインを本発明の施術用糸に塗布または浸透させることによって、施術部位の細胞の増殖、分化または機能発現をもたらすことができ、老化を低減するとともに美容効果を付与することができる。
【0026】
これらのアミノ酸およびサイトカインは、アミノ酸またはサイトカインをそれぞれ単独で用いてもよく、アミノ酸とサイトカインとを組み合わせて用いてもよい。これらは、施術の際、本発明の施術用糸に直接塗布してもよく、施術前にあらかじめ本発明の施術用糸に充分浸透させて用いてもよい。これにより、皮膚内層において、施術用糸に接する部位を介して特定のアミノ酸を吸収させることができ、所定の部位における皺等の除去だけでなく、美容効果等をも付与することが可能となる。
【0027】
なお、本発明の施術用糸は編み糸、モノフィラメントなどに限定されず、その製造方法についても特に限定されないため、公知の方法、たとえば簡易型溶融紡糸機などを用いることにより製造することができる。
【0028】
本発明の形成施術用糸は、人体における所定の部位の皮膚のたるみ、または皺を除去する施術に好ましく適用される。これらの形成施術としては、たとえば、目元のたるみおよび皺取り、顔の皺取り、頬のたるみ取り、額の皺取り、首の皺取り、鼻元の皺取りなどの顔面のたるみおよび皺とり形成施術;垂れ下がった胸の整え、豊胸などのバスト形成施術;垂れ下がったおしりの整えなどの体型形成施術などが挙げられる。
【0029】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されない。例えば、膜体10cは、返し糸10bの外側全体ではなく、周囲に分散して形成されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る施術用糸の概略部分断面図である。
【図2】図2は図1の返し糸を一部拡大して示す概略図である。
【図3】図3は図1の断面図である。
【図4】図4(A)は従来の施術用糸の概略図、図4(B)は図4(A)の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
4 肉
10 形成施術用糸
10a 糸本体
10b 返し糸
10c 膜
α 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延びる糸本体の外周面に、複数本の短い返し糸が略放射状に円を描くように、所定間隔置きに形成されているとともに、これらの返し糸を囲繞するように、膜体が一体的に配置されていることを特徴とする形成施術用糸。
【請求項2】
前記返し糸は、前記糸本体に対して傾斜した姿勢で配置されているとともに、この傾斜角度αは、10°〜45°の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の形成施術用糸。
【請求項3】
前記糸本体および前記返し糸には、アミノ酸および/またはサイトカインが塗布または浸透されていることを特徴とする請求項1または2に記載の形成施術用糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−118967(P2009−118967A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294738(P2007−294738)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(506053009)
【Fターム(参考)】