説明

形状シミュレーション方法

【目的】コンタクトホールに対する金属堆積膜の形状を高精度かつ高速に解析するシミュレーション手法を提供する。
【構成】コンタクトホールの形状を中心線で切断した外形線の座標点で代表させ、その座標点に流入する流束ベクトルを抽出し、軸対称近似によりコンタクトホールのシャドウ効果を判定し、流速ベクトルをコンタクトホールの中心面に写像して得られるベクトル量だけ座標点を移動させる手法を繰り返す構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は形状シミュレーション方法に関し、特にコンタクトホールへの成膜時の形状を高精度かつ短時間に解析できる機能を有することを特徴とする形状シミュレーション方法に関する。
【0002】
【従来の技術】スパッタ、CVD等による成膜時の形状シミュレーションでは、成膜による形状変化を表面に入射する粒子の流速を計算し、表面形状の変化量を計算することにより形状シミュレーションする方法が用いられていた。
【0003】形状のモデル化の方法として、まず2次元モデルで解析する方法ではストリングモデルを用いて行なう場合が多く報告されており、例えばカリフォルニア大の形状シミュレータ「SAMPLE」でもこの方法により形状計算が行われている。
【0004】これらの2次元モデルでは、入射する流速を2次元空間に投影していたため、特に2次元平面に垂直に入射する流速が多い場合に実際の形状と大きな誤差を生じるという大きな問題点があった。
【0005】3次元モデルで形状を解析する方法として、まずセルリムーバルモデルを用いた場合は斜めの形状が表現されず問題となる。そこで、藤永,小谷らにより応用物理、第62巻、第11号(1993年、応用物理学会発行)に示されている様に等濃度面で形状表現を行う従来技術が開発されている。
【0006】この従来技術では、3次元形状の表現方法として、3次元的な濃度分布から補間計算により等濃度面を求めることにより形状計算を行なっている。この従来技術を用いてスパッタ形状を解析している。粒子の衝突は考慮せず、コンタクトホールの角部分で、スパッタターゲットの見込み角を3次元的に計算することにより形状計算を行っていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】また3次元形状モデルを用いたシミュレーションでは計算時間が問題となる。つまり接点データ数が1次元方向分(例えば100倍)余分に乗算されるだけでなく、データ関係を示す処理が増加し、形状を忠実に表現するにはデータ数を多くする必要があり、結果として解析時間の増大が問題となる。
【0008】また従来技術に関しては、まず形状のデータ処理が複雑であり、それに伴い計算時間が増大するのも問題である。また上記文献中に示されているように、見込み角の計算に時間がかかるという点であり、これは3次元形状モデルの各点で見込み角を積分計算する必要があるためである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では、気相中からの流速およびシャドウ効果の判定は3次元で計算を行ない、2次元ストリングモデルを用いコンタクトホールの断面形状のみを計算する方法を用いることによりこれらの問題点を解決している。
【0010】より具体的に本発明で用いている形状計算フローの概略を図1に示すフローチャートを参照して以下で説明する。
【0011】1)装置内の3次元流速を解析する。
【0012】2)コンタクトホールを中心線で切断して得られる外形線の各座標点をつなげたストリングデータを作成する。このデータでスルーホール形状をモデル化している。
【0013】3)まず座標点を1つ選択し、その点に流入する流速ベクトルJを抽出する。
【0014】4)各流速について3次元でのシャドウ効果をコンタクトの軸対象性を利用して判定する。つまり座標点(Xn,Yn,0)から流速ベクトルJの方向に伸ばした直線とコンタクトホール上面すなわちZ平面(Y=Yk)の交点の座標(Xcr,Ycr)を求め、Xcr2 +Ycr2 >R02 (ここでR0はコンタクトホールの半径とした。)
の条件であればシャドウ効果により粒子が入射されないとした。
【0015】5)シャドウ効果が生じない場合の、座標点の移動距離Δr=(ΔX,ΔY)は、流速をJ=(Jx,Jy,Jz)とした場合にΔX=K×Δt×Jx/|J|ΔY=K×Δt×Jy/|J|により求める。ここでKは定数、Δtは各時間ステップである。
【0016】6)上記3)〜5)を各流速について計算する。
【0017】7)次の座標点を選択し、3)〜6)の計算を行なう。全ての座標点に関して操作を繰り返す。
【0018】8)各時間ステップで以上を繰り返す。
【0019】
【実施例】本発明の第一の実施例は蒸着であり、蒸着源からシリコンウエハに蒸着を行なった場合のコンタクトホールの形状をシミュレーションする方法を図2を参照して示す。なお蒸着時の圧力は極めて小さく、従って蒸着粒子は背景の気体粒子に衝突することなくウエハに到達するとした。
【0020】図2に示すようにコンタクトホール101の中心線で切断して得られる外形線102の各座標点をつなげたストリングデータを作成する。次に座標点103を抽出し、蒸着源104からの流速ベクトル105を計算すると、
【0021】


【0022】となる。ここでeは座標点から蒸着源方向の単位ベクトル、Sはスパッタ速度、Rは蒸着源と座標点間の距離、θは蒸発源から座標点を見込む角度、g(θ)は蒸着源から放出される流速の角度依存性である。次に、蒸着源と座標点を結ぶ直線とコンタクトホール上面106(Y=Yk)との交点107(Xcr,Yk,Zcr)を求め、Xcr2 +Zcr2 >02 (ここでR0はコンタクトホールの半径である。)
の場合に、シャドウ効果により流速は入射しないとした。シャドウ効果が起こらない場合には座標点の移動量Δr=(ΔX,ΔY)は、流速をJ=(Jx,Jy,Jz)とした場合にΔX=K×Δt×Jx/|J|ΔY=K×Δt×Jy/|J|により求める。ここでKは定数、Δtは各時間ステップである。各流速について上記計算を行った後、移動後の座標点108を選択し計算を繰り返し、全ての座標点で計算が終了した後、次の時間ステップで計算を行った。
【0023】このように、本発明の方法を用いてシミュレーションを行なった結果、3次元解析を行なった場合に比較して、約1/300の計算時間でコンタクト形状を解析することが出来た。
【0024】本発明の第二の実施例としてコンタクトホールのスパッタ法による金属成膜のモンテカルロ法を用いた形状シミュレーションについて説明する。スパッタ装置のターゲットから放出される粒子の軌道をモンテカルロ法を用い統計的に計算した。
【0025】図3を用いてより具体的に説明する。解析方法としてモンテカルロ法を用い、まずターゲット201からの粒子の放出位置202は乱数を用いて決定した。また放出される粒子のエネルギーはトンプソンの式、放出の角度分布はsinθcosθに比例するとし、放出後の粒子の軌道203を計算した。また粒子間の衝突に関しては、弾性衝突を仮定し、衝突断面積は一定として行なった。また衝突点203の位置はポアソン分布から乱数を用いて決定した。また、衝突後の粒子の軌道205は、弾性散乱を仮定し衝突断面積は一定として計算した。このようにモンテカルロ法を用いて100万個の粒子の軌道を計算した。これらの軌道の内、ウエハの一定領域206に入射する粒子の軌道を抽出し、これを各コンタクトホールに入射する均一な流束とした。
【0026】次に得られた結果を用いて形状の解析を行なった。この形状計算の詳細は第1の実施例とほぼ同様であり簡略に記述する。コンタクトホールの形状として中央部の外形線の座標点のストリングデータを作成し、座標点の一つを抽出し、その点への流束としてモンテカルロ法の軌道計算で得られた値を用いた。次に、流束ベクトルがコンタクトホール上面と交わる点を計算することによりシャドウ効果を判定し、シャドウ効果が生じない場合には座標点の移動量を計算した。このようにして各点の座標を計算後次の時間ステップに移っていった。
【0027】この第二の実施例では、モンテカルロ法で各粒子の軌道を正確に検討できるため、正確なシミュレーションを行える大きな利点のみならず粒子間の衝突を統計的に扱えるため高圧力領域の解析が可能になるという利点も有する。
【0028】
【発明の効果】本発明の、コンタクトホールの形状シミュレーション方法を用いることにより、解析精度を損なうことなく、計算時間を大幅に短縮できるという大きな利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の形状計算のフローの概略を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第一の実施例である蒸着によるコンタクトホールの埋め込み形状のシミュレーションの実施例である。
【図3】本発明の第二の実施例であるスパッタによるコンタクトホールの埋込形状のシミュレーションの実施例を示す。
【符号の説明】
101 コンタクトホール
102 外形線
103 座標点
104 蒸着源
105 流束ベクトル
106 コンタクトホール上面
107 交点
108 移動後の座標点
201 ターゲット
202 粒子の放出位置
203 放出後の粒子の軌道
204 衝突点
205 衝突後の粒子の軌道
206 ウエハ上の一定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンタクトホールに対する堆積膜の形状をシミュレーションする方法に於いて、前記コンタクトホールをその中心線で切断して成る面の外形線の座標点をつなげたストリングデータを作成する工程、前記座標点に流入する流速ベクトルを抽出し、前記座標点から前記流速ベクトルの方向に伸ばした直線と前記コンタクトホール上面の交点の座標を求め、前記コンタクトホール上面上で前記コンタクトホールの中心軸と前記交点の座標との間の距離が前記コンタクトホールの半径より大きい場合にはシャドウ効果により前記流速ベクトルを無効と判定する工程、および前記コンタクトホールの中心線で切断して成る面に前記流速ベクトルを写像して得られるベクトル量だけ前記座標点を移動させる工程を含むことを特徴とする形状シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平8−171549
【公開日】平成8年(1996)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−317147
【出願日】平成6年(1994)12月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)