説明

形状シミュレーション方法

【課題】 トレンチ溝やコンタクト孔形状に対する、気相及び他の物質表面からの入射フラックスについて、基本的な式は与えられているが、具体的な形が与えられていないか、ストリングモデル形状には適用しにくい表現になっている。
【解決手段】 半導体集積回路の加工形状を予測するために気相及び他の物質表面からの入射フラックスを算出する際、シャドウイングにより範囲を狭め、気相からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの開き角度について積分された解析関数を用いて行い、物質表面からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの軸の周りの角度について積分された解析関数を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体集積回路の形状シミュレーションに関し、特に、大規模半導体集積回路の加工プロセス実施後の加工形状を予測するシミュレーション技術に関するものであり、計算時間の短縮を図ったLSIの形状シミュレーション方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、この種の形状シミュレーション方法は、CVD法によるトレンチ溝やコンタクト孔の埋込の形状予測を行うために用いられており、例えば、1991年、ジャーナル・オブ・アプライド・フイジックス、第70巻、7137頁〜7140頁(J.Apple Phys. 70,7137(1991))のM.M.IslamRaja等の論文“A3−dimensional model for low-pressure chemical-vapor-deposition step coveragein trenches and circular vias”や、1993年、ジャーナル・オブ・バキュームサイエンス・アンド・テクノロジー、第A(11)巻、第1号、78頁〜86頁(J.Vac.Sci.Technol.A11(1),78,(1993))までのJ.J.Hsiehの論文“Influence of surface-activated reaction kinetics on low-pressure chemical vapor deposition conformality over microfeatures”に記載されている。
【0003】一般的に、多くのメタルCVDの成膜条件に見られるように、減圧CVDでは、原料ガス分子平均自由行程は、コンタクトホールのサイズと比ベて十分に大きく、基板表面から平均自由行程程度の領域を考えると、気体分子同士が衝突する確率は非常に小さく気体分子は表面に直接衝突すると考えて差し支えないため、上述した論文においては、形状シミュレーションを行う際に以下の仮定が用いられている。
【0004】1.領域内での気体分子同士の衝突は考慮しない。希薄なガスではほとんど無視できる。
【0005】2.気相部分の気体分子は、マックスウェル分布の速度分布を有する数密度一定の理想気体とし、気体分子の内部自由度は考慮しない。
【0006】3.反射の角度分布は等方的とする。表面で熱平衡に達し、入射角の記憶を失っているとする。
【0007】4.表面拡散は無視できるものとする。
【0008】5.活性分子の反応性付着碓率(Reactive Sticking Coefficient:Sc)が場所によらない、すなわち、フラックスや表面状態によらない。
【0009】反応性吸着確率(以下、Scと略記する)をパラメータとして、入射フラックスの再分布は反射のみとする。
【0010】上述した論文に記載された形状シミュレーション方法においては、ある表面での堆積速度がその点での入射フラックスに比例するとされており、入射フラックスが計算されることにより堆積速度が求められている。ある点での入射フラックスは、気相からの入射フラックスと他の物質表面からの入射フラックスとの合計であり、入射フラックスのうち、Scの分だけ堆積し、残りは他の面ヘ反射するとされている。これらの入射フラックス及び反射フラックスの物質収支が、ある時間毎に各点で過不足が無いように計算され、形状発展が行われている。
【0011】ここで、気相からの入射フラックスの計算方法は、M.M.IslamRaja等の論文においては具体的に与えられておらず、J.J.Hsiehの論文においてはトレンチ溝の場合だけ表されている。他の物質の表面からの入射フラックスを決める形状因子はM.M.IslamRaja等の論文においては、
【0012】
【数1】


と表されているが、トレンチ溝及びコンタクト孔ヘの具体的な形は表されていない。
【0013】一方、J.J.Hsiehの論文においては、
【0014】
【数2】


と表されているが、これは、トレンチ溝の場合のみである。しかもこれは、見込み角に基づいた表現であり、実際の計算には適用しにくい。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】上述したような従来の形状シミュレーション方法においては、トレンチ溝やコンタクト孔形状に対する、気相及び他の物質表面からの入射フラックスについて、基本的な式は与えられているが、具体的な形が与えられていないか、ストリングモデル形状には適用しにくい表現になっている。
【0016】しかし、入射フラックスを実際に計算する場合には、ストリング形状の3次元空間に対してフラックスが入射してくる可能性のある部分について、積算する必要があり、その積算の仕方によっては計算量が大きく異なってくる。
【0017】本発明は、上述したような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、トレンチ溝やコンタクト孔の形状シミュレーションにおいて、入射フラックスの計算に解析積分を用いて高速な形状予測を行うことができる形状シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、気相及び他の物質表面からの入射フラックスを算出することにより、半導体集積回路の加工形状を予測する形状シミュレーション方法であって、前記入射フラックスの算出は、シャドウイングにより範囲を狭めて行うことを特徴とする。
【0019】また、前記気相からの入射フラックスの算出は、前記シャドウイングの開き角度について積分された解析関数を用いて行い、前記物質表面からの入射フラックスの算出は、前記シャドウイングの軸の周りの角度について積分された解析関数を用いることを特徴とする。
【0020】(作用)上記のように構成された本発明においては、半導体集積回路の加工形状を予測するために気相及び他の物質表面からの入射フラックスを算出する際、シャドウイングにより範囲を狭め、気相からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの開き角度について積分された解析関数を用いて行い、物質表面からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの軸の周りの角度について積分された解析関数を用いて行うので、トレンチ溝やコンタクト孔の形状予測が高速に行われる。
【0021】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0022】図1は、本発明の形状シミュレーション方法の流れを示すフローチャートである。
【0023】まず、外部からウェハのモデルであるストリング構造が与えられる(ステップS101)。
【0024】ステップS101においてストリング構造が与えられると、各ストリングは空間に向かって堆積して行くので、空間方向の法線を計算する(ステップS102)。
【0025】次に、各ストリングが受け取る気相からの入射フラックスを計算する(ステップS103)。なお、これらは一意に決定できる。
【0026】次に、他の表面からの入射フラックスを計算する(ステップS104)。ここで、各表面ヘの入射フラックスにおいては、未知なので変数とし、表面間のフラックスのやりとりの度合に相当する形状因子を計算する。
【0027】次に、ステップS104において変数として定義した各表面ヘの入射フラックスについて、連立1次方程式を解き、入射フラックスを求める(ステップS105)。
【0028】次に、ステップS105において求められた入射フラックスΓiに基づいて、堆積物質の密度ρ、分子量Mから堆積速度kを次式にしたがって求める(ステップS106)。
【0029】
【数3】


次に、ステップS106において求められた堆積速度に基づいて形状を出力する(ステップS107)。
【0030】その後、ステップS102〜ステップS107までの処理が指定回数分行われたかどうかを判断し、指定回数分行われたと判断した場合は処理を終了し、まだ指定回数分行われていないと判断した場合はステップS102に戻り、処理を繰り返す(ステップS108)。
【0031】以下に、ステップS103における処理について詳細に説明する。
【0032】図2は、コンタクト孔の形状をモデル化するための座標系を示す図であり、図3は、図2に示した座標系におけるコンタクト孔の形状を軸を含む平面で切った断面図である。
【0033】入射フラックスの算出においては、図2に示すように3次元のコンタクト孔は軸対称なので同じ深さのコンタクト側壁は対等である。したがって、図3のようにz軸のまわりの角度θのある範囲のみを考え、その範囲での入射フラックスと反射フクラックスとの平衡を考えれば良い。ストリングは2つの節点を両端に持ち、隣り合うストリングと節点を共有している。形状は軸対称なので、図2に示すように各節点は円周に対応し、各ストリングは円周2つで作られる円錐帯(ここでは、円錐を軸に垂直な平面で輸切りにしたものとする)に対応する。
【0034】図4は、気相からの入射フラックスを求める際のシャドウイング角度の位置関係を示す概念図である。
【0035】座標を図4に示すようにとり、気相からの入射フラックスを求める。点pに気相からの入射フラックスがいくら入るか見積もる。
【0036】コンタクト孔の外においては、入射フラックスの制限はなく、角度νは−π/2からπ/2まで積分できる。一方、コンタクト孔の底部と側壁部では開口部の円周qによって気相を見る立体角が制限されるため、角度νの積分範囲はωに依存して変化する。
【0037】入射フラックスは次のように表される。
【0038】
【数4】


ここで、
【0039】
【数5】


である(図4参照)。ここで、座標を成分で表すと、
【0040】
【数6】


これから、
【0041】
【数7】


となるので、入射フラックスは、
【0042】
【数8】


となる。ここで、入射強度は方向によらず一定値Iをとるとした。
【0043】上述したように、気相からの入射フラックスは、シャドウイングによる角度ωの制限であるωe,ωsと、その範囲内でのωにおけるシャドウイングによる角度νe(ω)が求まれば、上記の積分により計算される。なお、(式2)の積分は解析解がないので、数値的に積分する。
【0044】以下に、気相からの入射フラックスを求める方法をフローチャートを参照して説明する。
【0045】図5は、気相からの入射フラックスを求める方法を示すフローチャートである。
【0046】まず、開始角度を探索する(ステップS501)。
【0047】次に、終了角度を探索する(ステップS502)。
【0048】ここで、角度ωにおいては、気相がz軸の正の方向に設定されているので、z軸に対して点pより正の方向の節点のみをxz平面内で探索し、点p以前のうち最大の角度が開始角度ωsとなり、点p以後で最小の角度が終了角度ωeとなる。
【0049】次に、入射面の向きである表面の法線方向を計算する(ステップS503)。
【0050】次に、開始角度ωsと終了角度ωeとの間において数値積分を行うために、この範囲の角度の変化量を設定する(ステップS504)。具体的には、1/50〜1/200程度にするか、あるいは所要の精度により、0.2°から1.0°の角度の刻とする。
【0051】次に、先に探索した角度範囲が一つの円周によって制限されているか、複数の円周によって制限されているかを判断する(ステップS505)。
【0052】ステップS505において開始円周と終了円周が同一であると判断された場合は、仰角ωに開始角度ωsを代入する(ステップS506)。
【0053】次に、仰角ωに対応する開きの角度νを求める(ステップS507)。ここで、ステップS507における角度νの求め方について説明する。
【0054】シャドウイングとなる候補の円周qを考える。図4に示すように、円周q上の点qの位置を(rqcosθ,rqsinθ,zq)、点pの位置を(−rq,0,zq)とする。yz平面と平行で点pを通る平面から角度ωだけ傾いた平面と円周qの交点qとの畿何学的関係から、νが決まり、
【0055】
【数9】


と求まる。
【0056】次に、(式2)の被積分関数にω及びν(ω)を代入して入射フラックス値を求める(ステップS508)。
【0057】次に、ステップS508に求められた値にsumを加算し(ステップS509)、その後、ωを更新する(ステップS510)。
【0058】次に、ステップ210において更新されたωが終了角度を越えているかどうかを判断し(ステップS511)、終了角度を越えていないと判断した場合はステップS507に戻って処理を繰り返し、終了角度を越えたと判断した場合は積算処理を終了してメインの処理に戻る(ステップS512)。
【0059】一方、ステップS505において開始円周と終了円周が異なると判断した場合は、ステップS513に進む。
【0060】図5に示すように、ステップS513〜ステップS525では、ステップS506〜ステップS512と同様の処理を行うが、シャドウイング候補の各円周に付いてνをもとめ、そのうち最も小さいνを探索する処理にあたるステップS515〜ステップS521が追加されている。
【0061】次に、物質面からの寄与について説明する。
【0062】コンタクト孔において深さが同じ部分では、対称性から、表面のどの部分でも入射するフラックスは相等しいと考えることができる。したがって、表面が同じ材質なら同じ深さの面は出射フラックスも等しく、円周内の一点を代表点にとって、二次元問題に還元できる。さらに、それぞれの深さからの入射フラックスは、以下に示すように軸周りの角度に関して解析的積分が可能であるため、計算時間を短縮することができる。
【0063】コンタクト孔の対称軸をz軸に、x軸y軸を図2に示すようにとる。ある点pヘの円錐帯qからの入射フラックスは、円錐帯p上のどの点でも等しいので、ここではxz平面内で、x軸の負の領域にとることにする。正のx軸と円錐帯qの半径がなす角をθとすると入射フラックスは、次のように表される。
【0064】
【数10】


ここで、
【0065】
【数11】


である。座標を成分で表すと、
【0066】
【数12】


となる。これらを(式3)に代入すると、
【0067】
【数13】


となる。ここで、
【0068】
【数14】


とおき、
【0069】
【数15】


の関係を用いた。ここで、各座標成分に分けてみると、θに関係する部分はcosθとして分母分子ともに一次式のかけ算で取り込まれている。積分記号の部分を取り出して、
【0070】
【数16】


とおくと、
【0071】
【数17】


となる。ここで、次の置き換えを行った。
【0072】
【数18】


ここで、
【0073】
【数19】


の置換を行い、部分分数展開後まとめると、
【0074】
【数20】


となる。ただし、
【0075】
【数21】


である。各項の積分は解析的に行うことができる。各項の積分後、tをθに戻してまとめると、
【0076】
【数22】


となり、θの関数となる。点pにおけるトータルの入射フラックスJpは、
【0077】
【数23】


となる。θは以下に述ベるように物質面p,qの組合せに依存する。
【0078】各点pと円周qの組合せに対してθをそれぞれ求める必要がある。
【0079】以下に、物質面からの入射フラックスを求める方法について図面を参照して説明する。
【0080】図6は、物質面からの入射フラックスを求める方法を示すフローチャートである。
【0081】まず、シャドウイングによる上記の積分範囲の制限を計算する(ステップS601)。ここで、シャドウイングは、p及びq以外の他の円周がpとqの間に存在して視野を狭める場合である。シャドウイングの候補の円周、例えば、rが点pと円周qの間にあってシャドウイングとなっている場合、円周rによって遮られる領域は、点pと円周qのつくる円錐と点pと円周rの作る円錐との交線を求め、対応する円周q上のθで表現して得られる。円周rのそれぞれのθのうち一番狭い領域をもとめ、重なる部分を積分範囲として求める。
【0082】次に、可視性による範囲の制限を求める(ステップS602)。可視性は、(式3)の被積分関数の分子により求められる。この被積分関数の分子は点pあるいは点qの法線とpqを結ぶ方向ベクトルの内積の積である。それぞれの内積は、正の値を持つ場合のみ積分すべきである。なぜなら、フラックスを受け取る表面の向きより後ろ側からのフラックスの寄与は無いし、放出する表面では後方にはフラックスを放出できないからである。したがって、この分子の各因子が正となるようにθを設定する。
【0083】次に、ステップS601において求められたシャドウイングの範囲とステップS602において求められた可視性の範囲との重なる部分を積分範囲として求める(ステップS603)。
【0084】次に、Iq(θ)にステップ603において求められたθの範囲を代入して入射フラックスの形状因子を求める。
【0085】ここで、Δθpは、円筒座標の注目する角度の幅に対応するので、計算全体で共通の値に設定して置けばよい。形状因子は、
【0086】
【数24】


となる。(式3)に代入して点pヘの物質表面からの入射フラックスは、
【0087】
【数25】


と表される。
【0088】
【発明の効果】以上説明したように本発明においては、半導体集積回路の加工形状を予測するために気相及び他の物質表面からの入射フラックスを算出する際、シャドウイングにより範囲を狭め、気相からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの開き角度について積分された解析関数を用いて行い、物質表面からの入射フラックスの算出は、シャドウイングの軸の周りの角度について積分された解析関数を用いて行うため、軸村称の形状に村する形状シミュレーションを高速に高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の形状シミュレーション方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】コンタクト孔の形状をモデル化するための座標系を示す図である。
【図3】図2に示した座標系におけるコンタクト孔の形状を軸を含む平面で切った断面図である。
【図4】気相からの入射フラックスを求める際のシャドウイング角度の位置関係を示す概念図である。
【図5】気相からの入射フラックスを求める方法を示すフローチャートである。
【図6】物質面からの入射フラックスを求める方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
301 ストリング
302 ノード
401 円周q
402 円周p
403 開き角ν
404 仰角ω
405 x軸
406 y軸
407 z軸
408 z軸に平行で点pに立てた直線
409 点p
410 点q

【特許請求の範囲】
【請求項1】 気相及び他の物質表面からの入射フラックスを算出することにより、半導体集積回路の加工形状を予測する形状シミュレーション方法であって、前記入射フラックスの算出は、シャドウイングにより範囲を狭めて行うことを特徴とする形状シミュレーション方法。
【請求項2】 請求項1に記載の形状シミュレーション方法において、前記気相からの入射フラックスの算出は、前記シャドウイングの開き角度について積分された解析関数を用いて行い、前記物質表面からの入射フラックスの算出は、前記シャドウイングの軸の周りの角度について積分された解析関数を用いることを特徴とする形状シミュレーション方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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