説明

形状記憶複合材料およびその製造方法

【課題】 変形量の大きな形状記憶性能を有し、製品の軽量化コンパクト化が可能であり、摩擦や紫外線照射等によっても表面劣化を抑制できる形状記憶材料を提供する。
【解決手段】 形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームを用いた形状記憶複合材料であって、該形状記憶発泡体の外面の少なくとも一部が、ポリマー材料からなる層によって被覆されていることを特徴とする形状記憶複合材料、並びに、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶複合材料及び形状記憶複合材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームを有する複合材料であって、インフレータブル性を有する形状記憶複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間などへ材料を持ち出して構造物を組み立てるには、運搬中における構造物の体積を出来るだけ小さくする必要がある。例えば人工衛星や宇宙構造物では、太陽電池用のパネル等の大型の装置が取り付けられるが、地上からの運搬時には小型化しておくことが要求される。そして、運搬時には折り畳んであったものを、衛星軌道などの宇宙空間では使用状態である所定形状に展開する。このような運搬時にはコンパクトに圧縮可能であって、使用時には所定形状に展開可能な膨張性や展開性を有する材料特性を、いわゆるインフレータブル性という。
このようなインフレータブル性を有することは、地上構造物に用いる材料特性としても当然に重要なものであり、インフレータブル性材料を用いれば、運搬車両等に積載される際にはコンパクトに収納可能(容積が小さくなる)であり、組立や建設を行う現場での使用時には所定形状に展開できる。
【0003】
インフレータブル性を有する構造物には、ジョイント部の折り畳み等による機械的作用によるものと、加熱して元の形状に復する材料特性的作用によるものがある。
従来のインフレータブル性は、機械的な構造によるものが多く、ジョイント部分で折り畳むような態様であった。よって、使用時には何らかの力を加えて、所定形状に展開することが必要であった。また構造上、展開時に故障や事故等のトラブルが起きかねないという問題があった。
【0004】
一方これまでも、材料特性的作用によるインフレータブル性を有する組成物についても研究がなされてきた。インフレータブル性を有する形状記憶ポリマーは、通常のポリマーの中にあって、成形形状と変形形状とを熱による温度操作で使い分けることのできる樹脂である。この樹脂を用いた形状記憶ポリマー成形体は、ポリマーのガラス転移点以上、溶融温度又は分解温度未満の温度で変形を加え、その形状を保持した状態でガラス転移点(Tg)以下まで冷却することにより、変形形状を固定し、また、ガラス転移点以上で溶融温度又は分解温度未満の温度に加熱することにより、元の成形形状を回復するもので、温度操作により変形形状と成形形状を使い分けることのできるものである。
【0005】
インフレータブル性を有する材料を大型構造物に使用する場合、形状変化がより大きな材料を用いれば、運搬移動時の容積負荷等が軽減されるので望ましい。形状変化の大きな形状記憶ポリマーとしては、ポリイソシアネート及びポリオールを反応させて得られる形状記憶発泡体、形状記憶性を有するポリウレタンフォームが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0006】
この形状記憶発泡体を例えば移動装置のタイヤ部分に使用する場合、使用しないときはタイヤを車軸に密着させておいて、小さく圧縮させておくことができる。そして、移動時に大きく復元させることでタイヤとして利用できる。しかしながら、従来のポリウレタンフォームの形状記憶発泡体では、それ自体の強度が不足しているため、表面の摩擦に耐えられない。また、発泡体には多くの空隙が形成されているため、表面に凹凸があり、例えばアンテナとしてはそのまま用いることができない。
【0007】
一方、発泡体の外周を、例えば繊維材料などの剛体を有する部材で被覆して、表面を保護する場合には、逆に、外周部材の特性によって体積が一定以下には圧縮されないことが起こる。特に、円体状の発泡体を潰すような場合には、最外郭に剛体が設けられていては、一定以下の体積には圧縮できない。また、宇宙環境などの無重力状態では、地上における強度と同等の強度が必要とされない場面も存在する。
他方、形状記憶発泡体や形状記憶ポリマーは主にポリウレタン素材であるため、例えば宇宙環境などの過酷な状況を考えた場合、紫外線や電子線等の照射による表面劣化の問題を回避できない。
【0008】
【特許文献1】特開平6−239955号公報
【特許文献2】特公平7−39506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、変形量の大きな形状記憶性能を有する構造体として、大型の製品でも軽量化コンパクト化が可能であり、摩擦等に対する所定の強度を有するとともに、紫外線や電子線等が照射される過酷な環境においても表面劣化を抑制できる、インフレータブル性を有する構造体を開発すべく、鋭意検討した。
その結果、本発明者らは、発泡体の十分な嵩密度を生かし、形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームの外面に、ポリマー材料を被覆することによって、かかる問題点が解決されることを見出した。本発明は、かかる見地より完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームを用いた形状記憶複合材料であって、該形状記憶発泡体の外面の少なくとも一部が、ポリマー材料からなる層によって被覆されていることを特徴とする形状記憶複合材料を提供するものである。
本発明の一形態としては、前記形状記憶発泡体が層を形成しており、該層の外側両面に、前記ポリマー材料からなる層がそれぞれ設けられている態様が挙げられる。
本発明の他の形態としては、前記形状記憶発泡体の外面全体に、ポリマー材料からなる層が形成されている態様が挙げられる。
これらいずれの形態においても、前記ポリマー材料としては、例えば形状記憶ポリマー組成物を用いることができる。この形状記憶ポリマー組成物には形状記憶ポリマー自体の他、紫外線吸収成分や金属成分などが含まれていてもよい。
【0011】
また、本発明は形状記憶複合材料の製造方法を提供するものであり、その一形態としては、ポリウレタンフォームからなる形状記憶発泡体を形成する工程と、該形状記憶発泡体の外面にポリマー材料からなる層を形成する工程と、を含む製造方法が挙げられる。その他の形態としては、ポリマー材料からなる層を形成する工程と、該ポリマー材料からなる層を形状記憶発泡体成形用の型内に配置する工程と、該型内にて形状記憶発泡体を形成して複合材料を成形する工程と、を含む製造方法が挙げられる。これらいずれの形態においても、前記ポリマー材料としては、例えば形状記憶ポリマー組成物を用いることができる。
【0012】
上記製造方法においては、前記ポリマー材料からなる層を形成する工程において、積層における各層の貼合わせ部分に形状記憶樹脂成分を塗布することもできる。この形状記憶樹脂成分が、前記形状記憶発泡体又は前記形状記憶ポリマー組成物のいずれか1つと同一の樹脂組成物であることが好ましい。
【0013】
上記形状記憶発泡体が層を形成しており、該層の外側両面に、前記ポリマー材料からなる層がそれぞれ設けられている態様(サンドイッチ構造)おいては、外側に剛性を有する材料を配置すれば、強度・剛性を有し且つ変形自由度の高い積層体となる。変形時にはコア部の発泡体が圧縮可能であることから、積層体の板厚が極めて薄くなり変形自由度は飛躍的に向上する。形状記憶発泡体は、形状記憶ポリマーのフォーム材であるため、発泡倍率が40倍程度にまで発泡できるので、例えば複合材料の体積で40分の1程度に圧縮できる。
【0014】
形状記憶発泡体はポリウレタンであるため宇宙環境を考えた場合、紫外線や電子線等で劣化しやすいが、外側をポリマー材料からなる層で覆うことによって、表面劣化を抑制することができる。表面劣化を効果的に抑制する観点からは、ポリマー材料として例えばポリイミドなどのポリマーフィルムを用いることができる。一方、本来の形状記憶性能を十分に発揮させる観点からは、ポリマー材料として形状記憶ポリマーを用いることができるが、本発明の形状記憶ポリマー組成物には、形状記憶ポリマーに遮光性を有する材料を混合したものが用いられる。これによれば、形状記憶ポリマー組成物による遮蔽効果とともに、十分な形状回復・形状記憶機能を発揮することができる。
【0015】
また、サンドイッチ構造のコア部に形状記憶発泡体が設けられ、上下面にポリマー材料としてゴムシートを設けることもできる。この場合にも、形状記憶発泡体の容積が相対的に厚ければ、形状記憶性能を有する。さらに、サンドイッチ構造に限らず、形状記憶発泡体の一方の面にポリマー材料が設けられている場合(バイメタル構造)にも、形状記憶性能を発揮できる。
【0016】
本発明の形状記憶複合材料は、形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームによって形成されているので、インフレータブル性を有し、例えば熱を加えることによって第2の形状をとることができる。このような2以上の形状及びその形状における物性を使い分けることにより、本発明の複合材料を種々の用途に適用することができる。特に、ポリマーのガラス転移点を室温付近に設定した場合については、簡易な加熱手段を用いて、随時簡単に変形固定、展開、膨張させることができる。
以下、本発明の形状記憶複合材料について詳しく説明する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の形状記憶複合材料は、変形量の大きな形状記憶性能を有する構造体として、大型の製品でも軽量化コンパクト化が可能であり、摩擦等に対する所定の強度を有する。また、紫外線や電子線等が照射される過酷な環境においても表面劣化を抑制できる、インフレータブル性を有する形状記憶複合材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の形状記憶複合材料は、形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームを用いた形状記憶複合材料である。
本発明に用いられる形状記憶発泡体(ポリウレタンフォーム)としては、具体的には、発泡剤およびシロキサン−オキシアルキレンブロック共重合体を含む整泡剤の存在下で、ポリイソシアネートと、ポリオールと、鎖延長剤及び/又は架橋剤と、を含むフォーム原料を反応させて得られる形状記憶ポリウレタンフォームが挙げられる。
【0019】
上記鎖延長剤の配合割合は、ポリオール100重量部に対して1〜15重量部であり、上記架橋剤の配合割合は、ポリオール100重量部に対して5〜45重量部である。このような形状記憶ポリウレタンフォームのガラス転移温度は、室温での扱い易さを保証するとともに、使いやすい温度範囲で形状記憶性を発現するための重要な物性でもあり、40〜80℃である。ガラス転移温度が40℃未満では室温での形状記憶性が発現せず、80℃を超えるとゴム状態とするまでに付与する熱量が大きくなり過ぎるので好ましくない。一方、ガラス転移温度が上記範囲にあれば、形状を固定したときの安定性と、ガラス転移温度を超えて変化したときの形状回複性の双方が好ましいものとなる。
【0020】
上記フォーム原料を構成する上記発泡剤としては、ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物を発泡させる性質を有するものであれば特に限定されない。例えば、水、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤、及び、トリクロロモノフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、塩化メチレン等の有機系発泡剤が挙げられる。これらのうち、水が好ましく用いられる。上記発泡剤は、ポリオール100重量部に対して、通常0.5〜5.0重量部添加される。
【0021】
上記整泡剤は、反応系に均一分散した微細な気泡を安定化させるために、シロキサン−オキシアルキレンブロック共重合体(AB)nを含むものを用いる。ただし、(AB)nにおいて、nは整数であり、Aはシロキサンプロックであり、Bはオキシアルキレンブロックであり、該ブロックは2価の元素又な2価の基によって結合されている。また、上記シロキサン−オキシアルキレンブロック共重合体は、加水分解の可能な共重合体が好ましく用いられる。更に、シロキサンブロックが共重合体全量に対して20〜50重量%含まれるものが好ましく用いられる。上記シロキサン−オキシアルキレンブロック共重合体は数平均分子量が65,000以上のものが好ましく用いられる。
【0022】
上記ポリイソシアネートとしては、末端にイソシアネート基を2つ以上有するものであれば特に限定されない。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、粗製MDIの他、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、粗製HDI、1,5−ナフタレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等、芳香族系並びに脂肪族系の各種のものを用いることができる。これらの他、プレポリマー型のポリイソシアネートを使用することもできる。これらは1種単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0023】
上記ポリオールは、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びこれらを共重合させたポリエーテルエステルポリオール等、いずれも使用することができる。これらのうち、ポリエーテルポリオールが好ましく用いられ、中でもポリアルキレンオキサイドのポリエーテルポリオール、更には、ポリプロピレンオキサイド100%付加重合ポリエーテルポリオールが好ましく用いられる。上記ポリオールの数平均分子量は、ポリウレタンフォームのガラス転移温度に大きく関連し、400〜1600、より好ましくは400〜1400のものが用いられる。
【0024】
上記鎖延長剤及び/又は架橋剤は形状記憶性を備えるために用いられるものである。
上記鎖延長剤としては、特に限定されないが、(1)エチレングリコール、ジエチレシグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール及び1,4−ブタンジオール等のジオール、(2)ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ヒドラジン等のジアミン、(3)ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等のアミノアルコール等が挙げられる。これらは、1種単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、1,4−ブタンジオールが好ましく用いられる。上記鎖延長剤の配合割合は、ポリオール100重量部に対し、1〜15重量部であり、好ましくは5〜10重量部である。
【0025】
上記架橋剤としては、特に限定されないが、(1)グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール、(2)オキシプロピレートエチレンジアミン、ペンタエリスリトール等のテトラオール等が、これらのうちでトリメチロールプロパンが好ましく用いられる。上記架橋剤の配合割合は、ポリオール100重量部に対し、5〜45重量部であり、好ましくは5〜20重量部である。
【0026】
上記鎖延長剤及び上記架橋剤は、上記配合割合で用いられるが、併用した場合も同様に使いやすい温度で形状記憶が発現される。上記鎖延長剤及び上記架橋剤を併用する場合・ポリオール100重量部に対し、好ましくは上記鎖延長剤を1〜5重量部、上記架橋剤を5〜15重量部、より好ましくは上記鎖延長剤を2〜4重量部、上記架橋剤を5〜10重量部配合して用いられる。
【0027】
本発明の形状記憶ポリウレタンフォームを製造する際のフォーム原料の主たるものとしては、上記の他、触媒が挙げられる。この触媒の例としては、スタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート等の有機スズ化合物、ニッケルアセチルアセトネート等の有機ニッケル化合物、鉄アセチルアセトネート等の有機鉄化合物、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコキシド等の金属触媒を使用することができる。また、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール等の3級アミン系触媒の他、有機酸塩等が挙げられる。
【0028】
また、本発明の形状記憶ポリウレタンフォームの製造に際して、目的、用途に応じて上記フォーム原料に公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、有機充填剤、無機充填剤、着色剤等を配合することができる。
【0029】
このような形状記憶ポリウレタンフォームは、ガラス転移温度以上、溶融温度又は分解温度未満の温度で変形を加え、その形状を保持した状態でガラス転移温度以下まで冷却することにより変形形状を固定し、また、ガラス転移温度以上で溶融温度又は分解温度未満の温度に加熱することにより、元の成形形状を回復するものであり、温度操作により形状を使い分けることができる。
【0030】
本発明の形状記憶複合材料では、上記形状記憶発泡体の外面の少なくとも一部がポリマー材料からなる層によって被覆されている態様の他、より具体的には、上記形状記憶発泡体が層を形成しており、該層の外側両面に、前記ポリマー材料からなる層がそれぞれ設けられている態様や、上記形状記憶発泡体の外面全体に、ポリマー材料からなる層が形成されている態様が挙げられる。いずれの態様においても、ポリマー材料が用いられる。
【0031】
本発明で用いられるポリマー材料としては、形状記憶発泡体の体積変化量や形状回復・形状固定機能を十分に生かす材料が好ましく、具体的には形状記憶ポリマーを主成分とするポリマー組成物が挙げられる。
本発明で用いられる形状記憶ポリマーとは、ポリウレタンなどの形状記憶ポリマー材料から構成される樹脂組成物であり、これをシート状あるいはフィルム状に形成してから形状記憶発泡体に接着することが可能である。また、形状記憶発泡体に樹脂組成物を直接塗布して層を形成すること、あるいは、既に形成されたシート状あるいはフィルム状のポリマー材料の中で形状記憶発泡体の材料を入れて成形することもできる。
【0032】
形状記憶ポリマーを構成する樹脂組成物としては、例えば2官能及び3官能の液状イソシアネートと、2官能のポリオールと、活性水素基を含む2官能の鎖延長剤とを官能基のモル比で、イソシアネート:ポリオール:鎖延長剤=5.0〜1.0:1.0:2.0〜0.1にて調製した樹脂組成物(組成1)が挙げられる。また、他の樹脂組成物(組成2)としては、2官能及び3官能のイソシアネートと、平均分子量100〜550のポリオールとを、官能基のモル比でイソシアネート:ポリオール=0.9〜1.1:1.0にて含むものが挙げられる。
【0033】
上記樹脂組成物に使用可能な原料を次に例示するが、これらに限定されるものではない。
イソシアネートの例としては、一般式でOCN−R−NCOと表記することができ、Rにはベンゼン環を1、2個有するものと全く有しないものがあるが、いずれも使用可能であり、具体的には、2.4−トリエンジイソシアネート、4.4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性の4.4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0034】
2官能のポリオールの例としては、一般式でHO−R′−OHと表記することができ、R′にはベンゼン環を1、2個有するものと有しないもの、更には上記の2官能のポリオールに対して2官能のカルボン酸若しくは環状エーテルを反応させた生成物などが挙げられ、具体的には、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタングリコールアジペート、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール−A+プロピレンオキサイド等を挙げることができる。
本発明においては上記ポリオールの中で、加水分解が懸念されないエーテル系であって、分子設計的に高Tg化が可能な芳香族系もしくは脂肪族側鎖系が好ましい。特に上記化合物中では、ポリプロピレングリコールが好ましく、ポリオール成分中のモノマーとして通常50重量%以上好ましくは70重量%以上さらに好ましくは90重量%以上含むのがよい。
【0035】
活性水素基を含む2官能の鎖延長剤の例としては、一般式でHO−R″−OHで表記することができ、R″には(CH2n基、ベンゼン環を1、2個有する基など、いずれも使用可能であり、具体的には、エチレングリコール、1.4−ブタングリコール、ビス(2−ハイドロキシエチル)ハイドロキノン、ビスフェノール−A+エチレンオキサイド、ビスフェノール−A+プロピレンオキサイド等を挙げることができる。このような鎖延長剤は、樹脂組成物の中でTg調整剤の役割を有するものであり、特に高Tgを維持するのに用いられる。
【0036】
なお、上記組成2の樹脂組成物は、上記鎖延長剤を含有しない。鎖延長剤は、ボリマー組成物の中でTg調整剤の役割を有するものであり、高いTgを維持するのに用いられているが、その一方で可使時間を短くする傾向があるため、このような鎖延長剤を用いずに、低分子量のポリオールを用い且つイソシアネートとポリオールの含有割合を制御することで組成2の樹脂組成物は高いTgを有する。
樹脂組成物として、2官能及び官能のイソシアネートと、ポリオールとを、官能基のモル比でイソシアネート:ポリオール=0.9〜1.1:1.0にて含むものを用いる場合には、ポリオールとして平均分子量が通常100〜550のものを用いる。この樹脂組成物の場合、ポリオールの分子量が550を超えると、得られる形状記憶ポリマーの可使時間が長くなる利点があるものの、Tgが低下するため、宇宙環境において形状固定及び形状回復といった形状記憶性を発現させるために必要なポリマー組成物のTgを40℃以上に維持することができなくなる。一方、平均分子量が100未満の場合、FRPの成形に必要な可使時間を確保できなくなる。ポリオールの平均分子量は、好ましくは150〜250である。
この樹脂組成物(組成2)においては、イソシアネートとポリオールとの混合比は、官能基のモル比で、イソシアネート:ポリオール=0.9〜1.1:1.0(すなわち、NCO/OH=0.9〜1.1)である。このような混合比とすることで、必要な可使時間を確保しつつ、形状固定及び形状回復といった形状記憶性を発現することができる高いTgを有するポリマー組成物を得ることができる。
【0037】
上記いずれの樹脂組成物にも硬化可能な範囲で添加剤を添加できる。添加剤としては、各種フィラー、有機成分、希釈剤等の慣用される添加剤を一種以上添加することができる。特に、ポリマー材料からなる層によって紫外線などの遮蔽効果を期待する場合、ポリマー材料としての形状記憶ポリマー組成物には、紫外線や電子線による照射線の吸収作用を有する有機成分・無機成分や金属成分などが含まれることが好ましい。
【0038】
本発明の形状記憶複合材料では、形状記憶ポリマー組成物のフィルムを最外郭に設けておけば、十分に圧縮した体積とすることができるとともに、復元後は摩擦にも強い製品となる。形状記憶ポリマー自体はポリウレタンを主成分とするので、外側に滑り止め機能等を付加させることもできる。
本発明で用いる形状記憶発泡体は曲げ等の変形だけでなく、体積自体を大きく変化できるという利点を有しており、本発明の複合材料によれば、その性質を生かした製品を得ることができる。そして、ポリマー材料、特に形状記憶ポリマー組成物(例えばフィルム状)と組み合わせることにより、体積変化にも十分に対応可能である。
ポリマー材料の厚さは任意に定められ、何ら限定されるものではないが、形状回復・形状記憶機能を発揮させる際に、形状記憶発泡体との境界面で応力集中が生じて剥離等が生じないためには、遮蔽効果を有する範囲内で薄い方が好ましい。具体的には、通常0.005〜10.0mmの範囲内、より好ましくは0.01〜5.0mmの範囲内、特に好ましくは0.02〜1.0mmの範囲内、例えば0.25mmにて用いられる。
【0039】
本発明の形状記憶複合材料としては、形状記憶発泡体が層を形成しており、該層の外側両面に、前記ポリマー材料からなる層がそれぞれ設けられている、いわゆるサンドイッチ構造が挙げられる。積層構造を成形する工程においては、層の貼合わせ部分に接着剤、例えば形状記憶ポリマー成分を塗布することができる。
このサンドイッチ構造の積層体において、外側に強度を有するポリマー材料を配置すれば、コア材の発泡体が大きな変形自由度を有するので、強度を有し且つ変形自由度の高い積層体となる。コア材の発泡体は、変形時に圧縮可能であることから板厚が薄くなり、圧縮した状態では一層変形自由度が向上する。形状記憶発泡体からなる層の厚さは特に限定されないが、例えば5.0〜100mm厚の発泡体層とすることができる。形状記憶発泡体として上記ポリウレタンフォームを用いる場合、発泡体は発泡倍率が5〜50倍程度まで発泡できるので、体積で5〜50分の1程度にできるという減容効果が期待できる。
【0040】
また、本発明の形状記憶複合材料としては、形状記憶発泡体の外面全体に、ポリマー材料からなる層が形成されている、いわゆる袋構造が挙げられる。この態様では、ポリマー材料には、形状記憶性とともに一定の強度を有する材料が好ましく用いられる。また、外部からの紫外線等の照射から形状記憶発泡体を保護する必要から、上記したように形状記憶ポリマー組成物の中でも、添加剤等によって照射線遮蔽効果や抑制効果を有する材料が好ましく用いられる。
【0041】
本発明の形状記憶複合材料を製造する方法について、その一例を説明する。本発明の製法の一例では、ポリウレタンフォームからなる形状記憶発泡体を形成する工程と、該形状記憶発泡体の外面にポリマー材料からなる層を形成する工程と、を含む。本発明の他の製法の一例では、ポリマー材料からなる層を形成する工程と、該ポリマー材料からなる層を形状記憶発泡体成形用の型内に配置する工程と、該型内にて形状記憶発泡体を形成して複合材料を成形する工程と、を含む。ポリマー材料としては、形状記憶ポリマー組成物が挙げられる。
本発明の製造方法では、形状記憶ポリマー組成物として半硬化材料を用いることができる。半硬化材料にはアルミニウムの粉等を混合する態様が挙げられ、例えば、形状記憶発泡体の外周に、アルミニウムの粉等を混合した半硬化材料を塗布することもできる。
積層体を構成する場合には、接着剤を用いずに圧着することも可能であるが、上記樹脂組成物の一部を塗布すること等によって接着させることができる。接着の際には、加熱することによって行うこともできる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び変更を加え得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶発泡体であるポリウレタンフォームを用いた形状記憶複合材料であって、該形状記憶発泡体の外面の少なくとも一部が、ポリマー材料からなる層によって被覆されていることを特徴とする形状記憶複合材料。
【請求項2】
前記形状記憶発泡体が層を形成しており、該層の外側両面に、前記ポリマー材料からなる層がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶複合材料。
【請求項3】
前記形状記憶発泡体の外面全体に、ポリマー材料からなる層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶複合材料。
【請求項4】
前記ポリマー材料が、形状記憶ポリマー組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の形状記憶複合材料。
【請求項5】
ポリウレタンフォームからなる形状記憶発泡体を形成する工程と、該形状記憶発泡体の外面にポリマー材料からなる層を形成する工程と、を含むことを特徴とする形状記憶複合材料の製造方法。
【請求項6】
ポリマー材料からなる層を形成する工程と、該ポリマー材料からなる層を形状記憶発泡体成形用の型内に配置する工程と、該型内にて形状記憶発泡体を形成して複合材料を成形する工程と、を含むことを特徴とする形状記憶複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー材料が、形状記憶ポリマーであることを特徴とする請求項5又は6に記載の形状記憶複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2007−268949(P2007−268949A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99842(P2006−99842)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】