説明

形状追従性経編地

【課題】シートフレームが部分的な凹凸や湾曲等を有する複雑な形状であっても、布バネ材がシートフレームの形状に追従し易く、布バネ材を張設する際の局部的なシワや引きつれが抑えられ、違和感のない座り心地を達成できる布バネ材用経編地の提供。
【解決手段】地組織の一つのニットループを形成する繊維の総繊度が300〜1800デシテックスであり、ニットループの幅Aが0.5〜1.7mmであり、隣り合うニットループ間の距離Bが0.2〜1.5mmであり、ニットループの内側に形成される孔の幅Cが0.1〜0.8mmであり、ニットループの幅とニットループの内側に形成される孔の幅の比A/Cが2〜10であり、そして編地の少なくとも片面の剛軟度がタテ方向及びヨコ方向ともに30〜135mmであることを特徴とする布バネ材用経編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務椅子等の座席シート用クッション材として用いられる布バネ材用経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
高強力で伸長回復性に優れた織編物をフレームに張設することにより、織編物の伸長回復性を活かしてクッション性を発現させることができ、金属バネやウレタンクッション材に比べて、薄型、軽量、高通気性等の特徴を有する座席が得られる。このような織編物は布バネと称され、事務椅子や家具等の多くの座席用途に使用されつつある。
【0003】
以下の特許文献1には、地組織が鎖編と3〜8針振りトリコット編とで構成され、挿入糸が経糸挿入されている編物であって、高い引裂き抵抗力を有し、人体とのフィット性に優れ、伸長回復性が良好な布バネ材が開示されている。
しかしながら、特許文献1の布バネ材は、モノフィラメントからなる挿入糸をタテ方向および/またはヨコ方向に挿入する等の方法により面剛性を高め、伸長時の編目の変形(組織変形)抑えたものとなっているため伸長回復性は改善されているものの、部分的に凹凸があったり、湾曲形状等の複雑な形状のシートフレームに張設する場合、シートフレームの形状にきれいに沿う形状追従性が極めて乏しく、布バネが局部的にタテ方向やヨコ方向に引きつれて、座り心地に悪影響を与えるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、前記した従来技術の問題点を解決し、シートフレームが部分的な凹凸や湾曲等を有する複雑な形状であっても、布バネ材がシートフレームの形状に追従し易く、布バネ材を張設する際の局部的なシワや引きつれが抑えられ、違和感のない座り心地を達成できる布バネ材用経編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、布バネ材用経編地のニットループの形状と編地の剛軟度、バイアス方向の伸長率等に着目し、これらを特殊な構造とすることで、布バネ材がシートフレームの形状に追従し易く、布バネを張設する際の局部的なシワや引きつれるが抑えられ、違和感のない座り心地を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]地組織の一つのニットループを形成する繊維の総繊度が300〜1800デシテックスであり、ニットループの幅Aが0.5〜1.7mmであり、隣り合うニットループ間の距離Bが0.2〜1.5mmであり、ニットループの内側に形成される孔の幅Cが0.1〜0.8mmであり、ニットループの幅とニットループの内側に形成される孔の幅の比A/Cが2〜10であり、そして編地の少なくとも片面の剛軟度がタテ方向及びヨコ方向ともに30〜135mmであることを特徴とする布バネ材用経編地。
【0008】
[2]バイアス方向に20%伸長する際の応力が20〜300Nである、前記[1]に記載の布バネ材用経編地。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シートフレームが部分的な凹凸や湾曲等の複雑な形状をしていても、布バネ材が引きつれることなくシートフレームの形状に追従して張設でき、引きつれによる違和感のない座り心地を達成できる布バネ材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう布バネ材とは、略4角形、多角形などの各種形状のシートフレームに布バネ材を縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成し、布バネ材の伸長特性を利用して人が座った際のクッション性を発現させるものである。
【0011】
布バネ材はシートフレームと直接接合したり、金属バネ等を介してシートフレームと接合することによりクッション層を形成する。必要に応じて布バネ材の上に立体編物、硬綿、不織布、立体網状体等の繊維状クッション性材料、ウレタン、表皮材等を積層したクッション材とすることができる。
【0012】
従来の布バネ材は面剛性を高めることにより、着座時に人体を良好に支持できる安定性を有しているが、シートフレームに張設する際に局部的な引きつれやシワが発生し易い。本発明の布バネ材用経編地は、シートフレームに張設する際に、編地がシートフレームの凹凸や湾曲形状等に良好にフィットするために、編地を曲がり易くする改善を行い、かつ、人体を良好に支持できる安定性を維持できるものである。
【0013】
編地の曲がり易さを向上させるため、1つのニットループを形成する繊維の総繊度、ニットループの幅、隣り合うニットループ間の距離を最適化しており、具体的には、ニットループの総繊度を300〜1800デシテックス、編地のニットループの幅Aを0.5〜1.7mm、隣り合うニットループ間の距離Bを0.2〜1.5mmとしている。尚、ここでいうニットループの総繊度とは、経編地の地組織を形成する繊維からなるニットループの総繊度を示し、連結糸やパイル糸が地組織のニットループに編込まれていても、これらは含まないものとする。
【0014】
曲がり易さを向上させる重要なポイントは、幅Aが0.5〜1.7mmで形成されたニットループにおいて、隣り合うニットループ間に0.2〜1.5mmの隙間を形成することである。布バネ材用経編地が折り曲げられる際にニットループ間の距離Bが広がったり狭まることで、編地が折り曲がり易くなり、シートフレームの凹凸や湾曲形状にフィットし易いものとなる。
【0015】
ここでいうニットループの幅Aとは、一つのニットループにおいて幅方向に最も広がっている部分の距離のことを指し、編地のニットループ面を真上から見て、任意に10個のニットループの幅を測定し、これらの値を平均して求められるものである。
ニットループの幅Aが0.5mm未満の場合、布バネ材としての十分な強度が得られなくなると共に、編地のバイアス方向の伸長率が大きくなり過ぎ、安定した座り心地が得られなくなる。また、ニットループの幅Aが1.7mmを超えると編地が曲がり難く、シートフレームに張設する際にシワが発生し易くなる。幅Aのより好ましい範囲は0.7〜1.5mmであり、さらに好ましくは0.8〜1.3mmである。
【0016】
また、隣り合うニットループ間の距離Bが0.2mm未満の場合も、編地が曲がり難く、シートフレームに張設する際にシワが発生し易くなる。逆に、距離Bが1.5mmを超えると、編地のバイアス方向の伸長率が大きくなり過ぎ、安定した座り心地が得られなくなる。ここでいう距離Bとは前述の幅Aを測定した左右どちらかの真横の位置の距離Bを測定するものであり、幅Aと同様に10個所の測定値の平均値である。距離Bのより好ましい範囲は0.3〜1.3mmである。
【0017】
さらに、本発明の布バネ材用経編地は、シートフレーム形状にフィットし易くするために、編地の少なくとも片面の剛軟度を、タテ方向及びヨコ方向ともに30〜135mmとしている。剛軟度を前述の範囲とすることでシートフレームの凹凸や湾曲形状等にフィットし易く、又、着座時に安定感のある座り心地が得られるものとなる。剛軟度のより好ましい範囲は40〜130であり、さらに好ましくは50〜110である。
【0018】
剛軟度が30未満の場合、シートフレームへのフィット性は良好になるが、着座時の座り心地に安定感が得られ難いものとなる。逆に剛軟度が135mmを越えると、シートフレームの凹凸や湾曲部にフィットし難くなり、張設後の布バネに局部的な引きつれやシワが発生し易くなる。
【0019】
また、従来の布バネ材はタテ及びヨコ方向の伸長率を抑えることにより、着座時に安定感のある座り心地が得られるが、タテ及び又はヨコ方向の伸長率が大き過ぎると極端に着座時の安定感がなくなる。しかしながら、伸長率を抑えるとシートフレームに張設する際に、フレームの凹凸部等の部位で局部的な引きつれが発生する問題点が生じる。本発明においては、局部的な引きつれを防止し、着座状態での安定した座り心地と良好な伸長回復性を発現するためにニットループの形状を特殊化している。具体的にはニットループの幅をA(mm)、ニットループの内側に形成される孔の幅をC(mm)としたときに、幅Aが0.5〜2.0mm、幅Cが0.1〜0.8mmであり、かつ、幅Aと幅Cの比A/Cが2〜10である。
【0020】
ここでいうニットループの内側に形成される孔の幅Cとは、ニットループの幅Aを測定した部位の、一つのニットループの2本の柱間の内側の距離を示し、幅Aと同様に10個所の測定値の平均値である。
【0021】
ニットループの内側に形成される孔の幅Cを0.1〜0.8mmとすることで、ニットループが適度に変形しやすくなり、シートフレームに張設する際の引きつれが大きく改善される。幅Cが0.1mm未満であるとニットループが変形しづらく、フレームへの張設時に引きつれが生じやすくなる。幅Cが0.8mmを超えると、逆にニットループの変形が大きくなり過ぎ、着座時の安定性が劣るものとなる。同時に、幅Aと幅Cの比A/Cが重要であり、本発明ではA/Cは2〜10とする必要がある。A/Cが2未満の場合、シートフレームへ形状への追従性は良好となるものの、着座時に伸び過ぎて不安定な座り心地となる。A/Cが10を超えると、シートフレーム形状への追従性が悪く引きつれが生じ易くなる。幅Cのより好ましい範囲は0.1〜0.6mmであり、さらに好ましくは0.1〜0.5mmである。又、A/Cのより好ましい範囲は2〜7であり、さらに好ましくは2〜5である。
【0022】
ニットループの内側に形成される孔の幅Cは、ニットループを形成する際にニットループの大きさに影響する針のノックオーバーの深さ、機上コース、ウエールと仕上げコース、ウエールの関係をコントロールして、幅Cを適性化する必要があり、特に、生機に対して、幅入れを行なってヒートセットすることが、適度な孔の幅Cを形成する上で好ましい。
さらに本発明の布バネ材用経編地は、編地のバイアス方向を20%伸長する際の応力が20〜300Nであることが好ましい。バイアス方向に適度な伸長率を有することにより、シートフレームへの張設時の引きつれやシワが防止できるものとなる。
【0023】
20%伸長する際の応力が20N未満の場合、安定感のある座り心地が得られ難くなる。300Nを越えると、引きつれによる違和感が発生し易く、応力のより好ましい範囲は20〜250N、さらに好ましくは30〜200Nである。
本発明の布バネ材用経編地は、ニットループを形成する繊維の繊度、編機のゲージ、編組織、編成時の機上コース、ヒートセット時の幅入れ率、アンダーフィード率を適宜設計することにより、ニットループの幅、隣り合うニットループ間の距離、ニットループの内側に形成される孔の幅を本発明の範囲内に形成するものである。ニットループの幅と隣り合うニットループの幅を最適化するためには、特に、地組織のニットループを形成する繊維の総繊度と編機のゲージの関係が重要であり、(総繊度)/(編機のゲージ)の値が25〜75であることが好ましく、25〜70がより好ましい。(総繊度)/(編機のゲージ)の値が25未満の場合、バイアス方向の伸長率が大きくなり過ぎ、安定した座り心地が得られなくなる。(総繊度)/(編機のゲージ)の値が75を超えると、編地が折り曲げ難くなり、シートフレームにフィットしなくなる。
【0024】
編組織においては、ニットループを形成する1針振り以上のトリコット編に対して、該トリコット編の筬振りと逆振りの1針以上のトリコット編を組み合わせた組織や、ニットループを形成する1針振り以上のトリコット編に対して、該トリコット編の筬振りと逆方向の振りの1針以上の挿入編を組み合わせた編組織で地組織を形成することが、隣り合うニットループ間に適正な距離Bを形成する上で好ましい。
【0025】
本発明の布バネ材用経編地は、着座時の安定性を高めると共に伸長後の回復性を向上させるために、タテ方向及び/又はヨコ方向にモノフィラメントからなる挿入糸を混入させることが好ましい。タテ方向に挿入する場合はモノフィラメントの挿入糸は、地組織のトリコット編に対して逆振りの状態で、1針〜5針振りで挿入することが好ましい。ヨコ方向に挿入する場合は緯糸挿入装置を用いて、地組織の全幅に渡ってモノフィラメントを直線状に挿入することが好ましい。
【0026】
本発明の布バネ材用経編地はシングルラッセル編機やダブルラッセル編機を用いて製造される。布バネ材用経編地はシングル経編地であってもよく、本発明の布バネ材用経編地の地組織を少なくとも一層に形成して、二層以上の経編地が一体化したダブル経編地や、表裏の地組織を連結糸によってつなぎ合わせた立体編地でもよい。ダブル経編地や立体編地の場合は、布バネ材用経編地に厚み方向のクッションを付与できるものとなり好ましい。
本発明の布バネ材用経編地の地組織を構成する繊維には任意の繊維を使用することができるが、布バネ材の強度を高めるためには、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維等の合成繊維を用いることが好ましい。また、布バネ材の伸長回復性をより向上させる上で、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等の弾性回復性に優れた繊維を用いることもできる。
【0027】
本発明の布バネ材用経編地の地組織に用いるマルチフィラメントには任意の繊度のものを用いることができるが、150〜1000デシテックスの繊度を用いることが好ましい。より好ましくは160〜700デシテックス、さらに好ましくは230〜600デシテックスである。また、単糸繊度は2〜10デシテックスが好ましい。
【0028】
地組織にモノフィラメントを使用する場合、モノフィラメントの繊度は200〜3000デシテックスの繊度を用いることが好ましい。尚、モノフィラメントを用いる場合は、モノフィラメントがスリップして地組織が変形することを防止するために、モノフィラメントが地組織に接着されていてもよい。接着の方法は、モノフィラメント表面を低融点のポリマーで覆った鞘芯モノフィラメントを用い、地組織を形成した後にヒートセット等で熱融着させる方法や、地組織に低融点の繊維を編み込み、地組織とモノフィラメントとを熱融着させる方法、或いは地組織の少なくとも片面を樹脂コーティングする方法等が好ましい。
【0029】
布バネ材用経編地の目付は目的に応じて任意に設定できるが、好ましくは200〜1000g/m、より好ましくは250〜800g/mである。
布バネ材用経編地は必要に応じて座席シート等のフレームに接合するための縫製等の加工処理が行われ、布バネ材として張設タイプの座席シート等に用いられる。
布バネ材をシートフレームに張設する状態は限定されるものではなく、布バネ材の外周または少なくとも2辺を、背部または座席のフレームに緊張状態又は弛ませた状態で張ることにより、布バネ材が座部や背部を形成した座席が得られる。
【0030】
フレームへの布バネ材の固定方法は任意の方法を用いることができる。例えば、布バネ材の末端部に断面略U字状の溝部を有する樹脂製プレート部材を縫製し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、布バネ材の末端部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法、樹脂フレームと一体成型する等、任意の方法を用いることができる。尚、布バネ材をコイルスプリング、トーションバー等の金属バネを介してフレームに固定する方法等を用いることにより、よりストローク感のあるクッション性が付与できる。
【0031】
本発明の布バネ材用経編地は、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げた後、所望の形状、寸法に裁断後、切断部の周辺に縫い糸を縫い込んでほつれ防止を行ったり、本布バネ材用経編地同士や他の部材と縫製や接着等により接合することで布バネ材に形成される。仕上げ工程時には本発明の目的を損なわなければ、通常、繊維加工に用いられている樹脂加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工、難燃加工などの仕上げ加工を適用して良い。特に、地組織のほつれ防止性をより改善するためにはポリウレタン、塩化ビニル、アクリル、シリコーン、フッ素、クロロプレン等の樹脂加工を行うことが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。尚、実施例中の各特性の評価及び測定は下記の方法で行った。
(1)ニットループの幅A(mm)、ニットループ間の距離B(mm)、ニットループの内側に形成される孔の幅C(mm)
布バネ材用経編地のニットループ面を直角方向から見て、表面写真を10〜50倍の範囲のニットループ形状の見やすい適当な倍率で撮影し、ニットループの幅A、ニットループ間の距離B、ニットループの内側に形成される孔の幅Cの寸法を測定する。寸法測定は任意のニットループ10個所における各値を測定し、平均値を求める。
【0033】
(2)バイアス方向の20%伸長時の応力評価
布バネ材用経編地の長さ方向(タテ方向)から45度傾けたバイアス方向に20cm×4cm(幅)の短冊状の試験片を3枚ずつ採取する。島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用い、つかみ幅4cm、つかみ間隔10cm、引張り速度50mm/minの条件で、20%まで伸長させた時の引張り応力(N/4cm幅)を3回測定し、平均値を求める。
【0034】
(3)引きつれ防止性
布バネ材用経編地から長さ33cm、上辺の幅93cm、下辺の幅91cmの略長方形を切り出し、切断端部から4mmの距離で全周を、#8ポリエステル糸のミシン糸により縫目ピッチ3mmで本縫いした。得られた縫製品をニットループ面を外側にして縫い代1cmで円筒状に縫製し、円筒状の布バネ材を得た。
背もたれ(樹脂性)の両サイドのフレームが、座面から約15cm高さの腰部において約11cmの曲率半径で前方に突出している株式会社岡村製作所製ミーティングチェア(商標グラータ)の背もたれ部に、円筒状の布バネ材を径が小さい方を下側にして被せ、背もたれの前面に背もたれの中央部と接することなく布バネ材が張設された椅子を得た。布バネ材が弛む場合やきつ過ぎる場合は、円筒の径を微調整した。
得られた椅子の布バネ材のフレーム付近の張設状態を目視で観察し、相対評価により以下の4段階で評価する:
◎:腰部に引きつれが殆んどない
○:腰部に若干、引きつれがある
△:腰部にかなり引きつれがある
×:腰部に非常に大きな引きつれがある。
【0035】
(4)シワ防止性
(3)で得られた椅子の布バネ材のフレーム付近の張設状態を目視で観察し、相対評価により以下の4段階で評価する:
◎:シワが殆んどない
○:シワが若干あるが気にならない
△:シワが若干目立ち気になる
×:シワがかなり目立つ。
【0036】
(5)着座時の安定性
(3)で得られた椅子に体重65Kgの男性が深く腰掛け、背もたれの安定感を相対評価により以下の4段階で評価する:
◎:非常に安定して背中を支える
○:やや安定して背中を支える
△:やや伸びすぎて安定感に劣る
×:非常に伸びすぎて安定感がない。
【0037】
(6)着座時の違和感
(3)で得られた椅子に体重65Kgの男性が深く腰掛け、腰部の引きつれによる違和感を相対評価により以下の4段階で評価する。
◎:全く違和感がない
○:やや違和感があるが気にならない
△:違和感がやや強く気になる
×:非常に違和感がある。
【0038】
[実施例1、実施例2]
4枚筬を装備した18ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から280デシテックス/48フィラメントポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をそれぞれオールインの配列で供給し、挿入用の筬(L3)から330デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給した。生機編成時の機上コース数(個/2.54cm)、ヒートセット時の幅入れ率、アンダーフィード率を各種変更して布バネ材用経編地を得た。得られた布バネ材用経編地の特性を以下の表1に示す。
(編組織)
L1:20/02/
L2:20/1012/
L3:44/00/
得られた布バネ材用経編地は何れも引きつれ、シワが少なく、引きつれによる違和感もなく、安定した座り心地が得られるものであった。
【0039】
[実施例3、比較例1]
4枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1)から560デシテックス/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、地組織を形成する筬(L2)280デシテックス/48フィラメントポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をそれぞれオールインの配列で供給し、挿入用の筬(L3)から660デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給し、実施例1と同様の編組織にて、生機編成時の機上コース数(個/2.54cm)、ヒートセット時の幅入れ率、アンダーフィード率を各種変更して布バネ材用経編地を得た。得られた布バネ材用経編地の特性を以下の表1に示す。
得られた布バネ材用経編地の内、本発明の構成要件を満たすものは、引きつれ、シワが少なく、引きつれによる違和感もなく、安定した座り心地が得られるものであった。
【0040】
[比較例2]
6枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から560デシテックス/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から880デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給し、実施例1と同様の編組織にて布バネ材用経編地を得た。得られた布バネ材用経編地の特性を以下の表1に示す。
得られた布バネ材用経編地は、ニットループの幅、隣り合うニットループ間の距離、ニットループの内側に形成される孔の幅共に適正値ではなく、引きつれ、シワの非常に大きいものであった。
【0041】
[比較例3、比較例4]
6枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1)から280デシテックス/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、地組織を形成する筬(L2)から167デシテックス/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、それぞれオールインの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から330デシテックスのポリエチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給し、実施例1と同様の編組織にて生機を編成し、ヒートセット時の幅入れ率、アンダーフィード率を各種変更して布バネ材用経編地を得た。得られた布バネ材用経編地の特性を以下の表1に示す。
得られた布バネ材用経編地は、ニットループの孔の幅、隣り合うニットループ間の距離やバイアス変形が大きすぎ、着座時の安定感がないものであった。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の布バネ材用経編地は、シートフレームが部分的な凹凸や湾曲等の複雑な形状をしていても、布バネ材が引きつれることなくシートフレームの形状に追従して張設でき、安定感のある座り心地を達成できるものである。特に、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材において、違和感のない座り心地を達成できる布バネ材用経編地として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織の一つのニットループを形成する繊維の総繊度が300〜1800デシテックスであり、ニットループの幅Aが0.5〜1.7mmであり、隣り合うニットループ間の距離Bが0.2〜1.5mmであり、ニットループの内側に形成される孔の幅Cが0.1〜0.8mmであり、ニットループの幅とニットループの内側に形成される孔の幅の比A/Cが2〜10であり、そして編地の少なくとも片面の剛軟度がタテ方向及びヨコ方向ともに30〜135mmであることを特徴とする布バネ材用経編地。
【請求項2】
バイアス方向に20%伸長する際の応力が20〜300Nである、請求項1に記載の布バネ材用経編地。