説明

形質転換植物体の作出方法及びその利用

【課題】植物体に複数の外来遺伝子を導入して形質転換した形質転換植物体を効率的に作出する方法を提供する。
【解決手段】植物体へ外来遺伝子を導入するのにあたり、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを導入し、これらの外来遺伝子から選択される2種類以上の外来遺伝子により形質転換された植物体群を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換植物体の作出技術に関し、詳しくは、植物体の遺伝子の機能探索や有用個体の作出に有用な形質転換体作出技術及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有用な植物を作出する育種方法としては、従来、交配や接木などが用いられている。近年は、有用な形質を発現する外来遺伝子を導入すること等による遺伝子工学的手法を用いる分子育種も行われるようになってきている。また、植物における遺伝子の機能の探索においては、特定の内在性遺伝子の発現を抑制又は増強するなど遺伝子工学的手法が有用である。
【0003】
植物においては特定の形質の発現や欠損に複数の遺伝子が係わっていることが多い。このため、有用形質の発現や形質の改良には、その形質に係わる複数の遺伝子の改変が重要となる。また、遺伝子の機能や発現解析においても、複数の遺伝子の発現を改変することが重要となる。
【0004】
植物体に対して複数の遺伝子を導入したり抑制したりするには、従来各種の手法が用いられている。例えば、単一の遺伝子を改変した形質転換植物体を取得し、こうした形質転換体と別の遺伝子を改変した形質転換体とを交配する方法が挙げられる。また、植物体によく用いられている形質転換法としてアグロバクテリウム法を用いた方法も試みられている。例えば、発現抑制遺伝子カセット、過剰発現遺伝子カセットなどを任意の組み合わせで一つのバイナリーベクター上に連結して、このバイナリーベクターを用いて1回の形質転換で複数遺伝子を改変する方法も開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、アグロバクテリウム法に関し、単一の外来遺伝子をT-DNA上に保持するアグロバクテリウムをシロイヌナズナに感染させたところ、外来遺伝子が2つ以上タンデム状に導入されたことも開示されている(非特許文献1、2)。
【特許文献1】国際公開公報WO2004/056993
【非特許文献1】Marks et al., The Plant Cell., Vol.1,104-1050
【非特許文献2】Feldman e tal., Mol. Gen. Genet. 208, 1-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、交配を介して逐次的に遺伝子を改変する方法は、2つの遺伝子を改変するだけでも半年以上の期間が必要であった。また、植物体に導入すべき遺伝子の組み合わせを決定するには、可能性のある全ての組み合わせについての植物組織又は植物個体の取得を試みる必要があった。したがって、期待した形質を有する目的遺伝子の組み合わせを得るには。多数の組み合わせの遺伝子挿入組織又は個体を作成し、選抜を行わなければなかった。
【0007】
また、特許文献1に記載されるように、目的遺伝子を連結して複数の遺伝子を導入する場合もある。しかしながら、この場合であっても、組み合わせるべき複数個の遺伝子の組み合わせ毎に発現用コンストラクトを構築しなければならなかった。したがって、網羅的に好ましい遺伝子の組み合わせを探索したり、遺伝子の最適な組み合わせを得たりするには膨大な実験量が必要となってしまう。
【0008】
このように、植物体への複数の遺伝子導入にあたっては、その導入手法自体も未だ非効率的であるとともに、導入すべき複数個の遺伝子を効率的に決定する手法については何ら検討されていなかった。
【0009】
さらに、アグロバクテリウム法において、単一遺伝子が複数個植物体に導入されることが開示されていたものの、アグロバクテリウムによる外来遺伝子の宿主染色体への組込みのメカニズムについては完全に明らかになっているわけではない。したがって、こうした導入外来遺伝子数の異数性が何によるものかは全く知られていなかった。また、すなわち、一つの植物体に単一の外来遺伝子が複数個導入されたという結果が、1種類のアグロバクテリウムが感染した結果であるのか、複数のアグロバクテリウムが感染した結果であるのかは全く知られていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、植物体に複数の遺伝子を効率的に導入し形質転換できる形質転換植物体の作出方法及び当該作出方法に適した植物体への遺伝子導入方法を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、遺伝子の機能解析方法に有用なスクリーニング方法を提供するとともに、複数の外来遺伝子についての各種の組み合わせで外来遺伝子が導入された形質転換植物体ライブラリ及びその作製方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、植物体への遺伝子導入用組成物を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アグロバクテリウムを介した植物体の遺伝子改変に際し、遺伝子改変のための外来遺伝子をT−DNA上にそれぞれ有する2種類以上のアグロバクテリウムを植物体に感染させることで、これらのアグロバクテリウムがそれぞれ有する改変用外来遺伝子が植物体に導入されて、結果として、複数の遺伝子を新たに保持した形質転換体を効率的に得ることができるという知見を得た。また、本発明者らは、複数種類の外来遺伝子をそれぞれ保持する複数種類のアグロバクテリウムを用いて植物体にこれら複数種類の遺伝子が可能性のある組み合わせで植物体に導入されることを見出し、各種の組み合わせで外来遺伝子を保持する形質転換植物体セットを容易に創出できるという知見を得た。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0012】
本発明によれば、形質転換植物体の作出方法であって、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを前記植物体に導入する工程と、前記導入工程を経た前記植物体から植物個体を再生する工程と、を備える、作出方法が提供される。この方法では、前記導入工程は、前記コンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを前記植物体に感染さえる工程とすることができる。
【0013】
さらに、本作出方法における前記感染工程は、前記2種類以上のアグロバクテリウムの混合物を前記植物体に供給する工程とすることができる。また、前記外来遺伝子は、前記植物体の内在性遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチド領域を含むことができる。
【0014】
また、本発明によれば、植物体への遺伝子導入方法であって、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを前記植物体に導入する工程を備える導入方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、植物体における遺伝子のスクリーニング方法であって、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のアグロバクテリウムを植物体に感染させる工程と、前記感染工程を経た前記植物体から植物個体を再生する工程と、再生した前記植物個体又はその子孫の表現型を指標として形質転換植物体を選抜又は分類する工程と、を備える、方法が提供される。本スクリーニング方法は、さらに、選抜又は分類した前記植物体の染色体に組み込まれた前記外来遺伝子を決定する工程を備えることができる。さらに、本スクリーニング方法において、前記外来遺伝子は、前記植物体の内在性遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチド領域を含むことができる。
【0016】
本発明によれば、形質転換植物体ライブラリであって、2種類以上の外来遺伝子から2種類以上を選択する組み合わせで前記外来遺伝子が導入された形質転換植物体を含む、ライブラリが提供される。本ライブラリは、1種類の前記外来遺伝子が導入された形質転換植物体を含むことができる。
【0017】
本発明によれば、形質転換植物体ライブラリの作製方法であって、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に組込み可能に保持する2種以上のコンストラクトを植物体に導入する工程と、前記導入工程を経た前記植物体から植物個体を再生する工程と、そ備える、作製方法が提供される。
【0018】
本発明によれば、植物体への外来遺伝子導入用組成物であって、それぞれ異なる外来遺伝子を保持する2種類以上のアグロバクテリウムを含む、組成物が提供される。また、前記外来遺伝子は、前記植物体の内在性遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチド領域を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の形質転換植物体の作出方法は、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に組み込み可能に保持する2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程と、前記導入工程を経た植物体から植物個体を再生させる工程と、を備えることができる。異なる外来遺伝子を保持する2種類以上のコンストラクトを一つの植物体に導入することでこれらの外来遺伝子の2種類以上が一つの植物体に導入された植物個体を取得することができる。n(nは2以上の整数)種類のコンストラクトを植物体に導入して形質転換させることで、1個以上最大n種類の外来遺伝子が導入された植物体再生させることができる。また、植物体に導入される外来遺伝子の可能性ある組み合わせは、n個のうちから1個以上を選択する全ての組み合わせ数となる。したがって、本作出方法によれば、n種類の外来遺伝子をそれぞれ保持するn種類のアグロバクテリウムを植物体に感染させて、形質転換植物体及び形質転換植物個体を得ることで、n種類の外来遺伝子から2種類以上を選択する組み合わせで外来遺伝子が導入された組換え体セット(ライブラリ)を得ることができる。すなわち、交配を経ることなく、一挙にn種類の外来遺伝子から選択される各種の組み合わせで遺伝子が導入され形質転換された植物体及び植物個体を得ることが可能であり、複数の遺伝子が導入された形質転換体及び植物個体を効率的に取得することができる。
【0020】
さらに、本作出方法によれば、一挙に多様な組み合わせで遺伝子が導入された形質転換植物体を得ることができる。このため、これらの形質転換体植物体又はその子孫の表現型を指標として植物体を分類ないし選抜し、分類等した植物体及び植物個体について外来遺伝子の導入形態を決定することで、外来遺伝子と表現型を容易に関連付けすることができる。すなわち、意図した表現型を発現している形質転換植物体のみについて外来遺伝子の導入形態や発現解析をすればよい。したがって、遺伝子の機能探索及び複数の遺伝子改変のための遺伝子スクリーニングに要する期間及び労力を著しく低減することができる。特に、2種類以上の遺伝子が係わって形質が変化する場合に、本導入方法が有用である。また、意図した有用な形質転換植物体を容易に作出することもできる。
【0021】
本発明の外来遺伝子の導入方法は、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に組み込み可能に保持する2種類以上のコンストラクトを前記植物体に導入する工程を備えることができる。特に、こうしたコンストラクトをそれぞれ保持するアグロバクテリウムを前記植物体に感染させることが好ましい。こうした2種類以上のアグロバクテリウムを一つの植物体に感染入させることで、これらの外来遺伝子から選択される2種類以上を容易に一つの植物体に導入することができる。従来、アグロバクテリウムの感染による植物の形質転換は多く試みられてきているが、2種類以上のアグロバクテリウムを感染させてそれぞれのアグロバクテリウムが保持する導入遺伝子を植物体に感染させることは試みられていなかった。また、アグロバクテリウムの感染による機構は明らかになっておらず、2種類以上のアグロバクテリウムを感染させたとき、それぞれのアグロバクテリウムが保持する遺伝子が宿主DNAに導入されるのかどうかについて予測することも困難であった。本発明の導入方法は、本発明の形質転換植物体の作出方法に適した遺伝子導入方法である。
【0022】
図1に、本発明の作出方法を、ファミリーを構成する3つの内在性遺伝子についてノックダウンした形質転換植物体を作出して、ファミリー内遺伝子の機能探索に適用した一例を示す。
【0023】
図1Aに示すように、本作出方法によれば、3つのファミリー遺伝子をそれぞれノックダウンする3種類の外来遺伝子をそれぞれ保持する3種類のアグロバクテリウムを植物体に感染させることで、ファミリー遺伝子が多様な組み合わせで抑制された形質転換植物体を得ることができる。そして、その中で形質に変化が認められた形質転換植物体についてのみについて遺伝子解析及び発現解析することで、ファミリー遺伝子の機能重複についての知見を得ることができる。これに対して、図1Bに示すように、従来法によれば、個々の遺伝子をノックダウンするノックダウンコンストラクトを保持するアグロバクテリウムを準備し、これらのアグロバクテリウムを個別に植物体に感染させて、各遺伝子がノックダウンされた3種類の形質転換植物体又は植物個体を取得する。ファミリー中二つの遺伝子が機能重複している場合、一つの遺伝子のノックダウンでは形質に変化は見られない。次に、得られた3種類の形質転換植物体を3とおりの組み合わせで交配して2つのファミリー遺伝子がノックダウンされた形質転換植物体を取得する。従来法では、こうして段階的に遺伝子を多重にノックダウンした形質転換植物体を作出してくことで初めて遺伝子の機能重複について知見を得ることができる。図1Cには、本発明を適用した遺伝子機能解析方法のメリットを従来法と対比して示す。
【0024】
以下、本発明の実施の実施形態である形質転換植物体の作出方法、遺伝子のスクリーニング方法、遺伝子導入方法、形質転換植物体ライブラリ及び該ライブラリの作製方法等について詳細に説明する。
【0025】
(形質転換植物個体の作出方法)
本作出方法は、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程を備えることができる。
【0026】
本発明において、「遺伝子」とは、一般に、ポリぺプチドの生成に関連するポリヌクレオチドやポリぺプチドの生成の抑制に関連する各種ポリヌクレオチド(ゲノムDNA、mRNA、cDNA等、典型的には、cDNA)の領域を意味する。この領域は、こうしたポリぺプチド関連領域に先行するあるいは当該コード領域に続く調節領域や介在配列を含んでいてもよい。また、「外来遺伝子」とは、導入対象である植物体に外部から導入された遺伝子を意味している。したがって、「外来遺伝子」は、導入対象である植物体と異種の生物体、異種の植物体及び同種の植物体であるが他の品種の植物体に内在する遺伝子のほか、導入対象たる植物体に内在する遺伝子であってもよい。なお、「外来遺伝子」には、一般に用いられる選択マーカー遺伝子や発現マーカー遺伝子などのマーカー遺伝子など、植物体の改変に本質的でないかあるいは改変用遺伝子に付随する遺伝子は含まれない。
【0027】
外来遺伝子は、コードするポリぺプチドを過剰発現させるプロモーターを含むことができる。こうした過剰発現型の外来遺伝子を植物体に導入することで、植物体における当該外来遺伝子がコードするポリぺプチド及び当該ポリぺプチドが関連するほかの遺伝子の発現プロファイリング等を実施することで当該遺伝子の機能を解析することができる。過剰発現の態様としては、内在性遺伝子を通常発現されるよりも高いレベルで発現させる場合と内在しない遺伝子を発現させる場合とが含まれる。こうした過剰発現に適したプロモーターとしては、特に限定しないで当該分野で公知のプロモーターを使用できる。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーターなどのウイルス性プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)や植物アクチンプロモーターなどの植物由来の構成的プロモーターが挙げられる。
【0028】
外来遺伝子は、導入対象植物体の内在性遺伝子の発現を抑制する領域を含むことができる。内在性遺伝子の発現を抑制するとは、内在するポリペプチドをコードする遺伝子の破壊や当該遺伝子の転写や翻訳を抑制するほか、変異等を導入して不完全なタンパク質等として発現させてその作用を低下又は失活させたり、あるいは本タンパク質と相互作用して本タンパク質の作用を低下させる物質を発現させることが含まれる。例えば、特定の遺伝子の発現を抑制する方法としては、特定遺伝子のノックアウトのほか、、アンチセンス法、コサプレッション法、RNA干渉法及びリボザイム法等を用いて、mRNAを対象にした発現抑制可能な核酸コンストラクトを導入し保持させることが挙げられる。特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法は、特に制限されず従来公知の方法を適用できる。例えば、該遺伝子配列に置換・欠失・付加(挿入)等の変異を導入して、完全なタンパク質の合成を阻害する方法、転写促進因子を阻害若しくは転写抑制因子を活性化することで、該遺伝子の転写を阻害する方法、RNA干渉を利用してタンパク質の合成を阻害する方法、該遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体を過剰発現させる方法等が挙げられる。RNA干渉の方法としては、例えば、アンチセンスRNA、短い阻害RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)等を利用する方法が挙げられる。
【0029】
外来遺伝子は、そのほか、器官又は組織特異的プロモーター、各種環境応答性プロモーターなどを用いることができる。さらに、エンハンサーなどのシス配列、5’側翻訳リーダー配列やターミネーター配列を備えることもできる。
【0030】
形質転換体を選択するために植物体で機能する選択マーカー遺伝子としては、植物種や品種に応じて適宜選択される。例えば、カナマイシン抵抗性遺伝子、G418抵抗性遺伝子、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子などが使用される。
【0031】
2種類以上の外来遺伝子としては、特に限定しないが、所定の形質の発現や欠損に関与するであろうと推測される遺伝子群から選択することができる。例えば、互いに関連するあるいは類似する2つ以上の内在性遺伝子の発現をそれぞれ抑制する外来遺伝子とすることで、どの内在性遺伝子の組み合わせが所定の形質の発現、欠損あるいは変化に関与しているかを検出することができる。また、例えば、互いに関連するあるいは類似する遺伝子を過剰に発現させる外来遺伝子とすることで、どの内在性遺伝子の組み合わせが所定の形質の発現、欠損又は変化に関与しているかを検出することができる。
【0032】
互いに関連する遺伝子群としては、例えば、ファミリーを構成する遺伝子群、多重遺伝子族、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子群、量的形質遺伝子座である遺伝子群又はこれらのいずれかの関係を有すると推測される遺伝子群などが挙げられる。
【0033】
また、外来遺伝子の組み合わせとしては、タンパク質、デンプン、油脂などの植物貯蔵物質の産生量、産生時期、産生部位、組成、種子や果実の成熟、ヒトなどの動物の栄養性向上、医薬ぺプチドの産生能向上、収量、矮化、食味、出穂期、花弁の色、除草物質抵抗性、線虫など害虫抵抗性、菌類抵抗性、ウイルス抵抗性、細菌抵抗性、環境ストレス抵抗性、消化性向上、産業酵素産生能、窒素固定能等の有用形質を含む各種形質の発現を増強、欠損又は改変に関連すると考えられる遺伝子の組み合わせが挙げられる。
【0034】
さらに、こうした組み合わせは、例えば、2種類以上の内在性遺伝子を同時に抑制する外来遺伝子の組み合わせ、内在性遺伝子の発現を増強する外来遺伝子と内在性遺伝子の発現を抑制する外来遺伝子との組み合わせ、2種類以上の内在性遺伝子の発現を同時に抑制する外来遺伝子の組み合わせを含んでいる。
【0035】
n種類(nは2以上の整数)の外来遺伝子について可能性ある組み合わせで2種類以上の外来遺伝子が導入されて形質転換された植物個体を得たい場合、n種類の外来遺伝子をそれぞれ保持したn種類のコンストラクトを植物体に導入することで、n種類の外来遺伝子から選択される2種類以上の外来遺伝子が導入された形質転換植物体を得ることができる。また、単独の外来遺伝子が導入された形質転換植物体も得ることができる。すなわち、n種類の外来遺伝子の可能性ある組み合わせで形質転換体を得ることができる。例えば、A、B及びCの外来遺伝子を導入する場合、これらを1種類ずつ保持する3種類のコンストラクトを植物体に導入すると、Aのみ保持する形質転換植物体、Bのみ保持する形質転換植物体、Cのみ保持する形質転換植物体、ABのみ保持する形質転換植物体、ACのみ保持する形質転換植物体、BCのみ保持する形質転換植物体、ABCを保持する形質転換植物体の合計7種類の形質転換体を得られる可能性がある。nが大きい場合には、nあるいはそれに近い種類数の外来遺伝子を保持する形質転換植物体を取得できる可能性は低くなるが、複数種類(2種類や3種類など)の外来遺伝子を多様な組み合わせで保持する形質転換植物体を得ることができる。
【0036】
本導入工程で用いるコンストラクトは、導入方法に応じた形態を取ることができる。典型的には、DNA断片やプラスミド等のベクター等の形態を採るが特に限定されない。
【0037】
本作出方法では、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に導入可能に保持するコンストラクトを用いることが好ましい。すなわち、個々のコンストラクトは、2以上の外来遺伝子を保持していてもよいが、好ましくは、マーカー遺伝子以外の植物体の機能や有用性に関連する改変用の外来遺伝子としては、単一の外来遺伝子を備えることが好ましい。
【0038】
また、導入しようとする改変のための外来遺伝子数は、好ましくは、25種類以下である。25種類を超えると、二種の外来遺伝子が導入された形質転換体を探索するためには、1000個体以上の形質転換体を探索する必要があるからである。より好ましくは10種類以下である。
【0039】
(植物体)
外来遺伝子の導入対象となる植物体の植物種や品種は特に限定されない。本発明において、「植物」は、特に制限されず、例えば、食糧用、飼料用、観賞用、環境用、実験用および資源用等に用いられる植物を使用できる。また、植物は、例えば、種子植物であって、裸子植物であってもよく、被子植物であってもよい。また、植物は、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。食糧用、飼料用植物としては、例えば、コムギ、オオムギ、モロコシ、キビ、ライムギ、ライコムギ、トウモロコシ、コメ、オートムギ、サトウキビ等の単子葉植物、ナタネ、コショウソウ、シロイヌナズナ、キャベツ又はキャノーラ等のアブラナ科、ダイズ、アルファルファ、エンドウ、インゲンマメ又は落花生等のマメ科、ジャガイモ、タバコ、トマト、ナス又はコショウ等のナス科、ヒマワリ、レタス又はキンセンカ属等のキク科、メロン、カボチャ又はズッキーニ等のウリ科、及び、ニンジン等のセリ科等の双子葉植物を含む。観賞用植物としては、バラ等のバラ科、シャクナゲ、アザレア等のツツジ科、ショウジョウソウ及びクロトン等のトウダイグサ科、セキチク等のナデシコ科、ペチュニア等のナス科、アフリカスミレ等のゲスネリア属、ホウセンカ等のツリフネソウ科、ラン等のラン科、グラジオラス、アヤメ、フリージア、クロッカス等のアヤメ科、マリーゴールド等のキク科、ゼラニウム等のフウロソウ科、ドラセナ等のユリ科、イチジク等のクワ科を含む。環境用・資源用植物としては、各種樹木が挙げられ、実験用植物としては、シロイヌナズナ等が挙げられる。
【0040】
本発明において、「植物体」は、植物個体のほか、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等の植物細胞、植物組織及び植物器官を含んでいる。
【0041】
(外来遺伝子の導入)
本導入工程工程で用いることのできる外来遺伝子の導入方法は、特に限定しない。例えば、セルラーゼやヘミセルラーゼなどの細胞壁分解酵素処理により、植物の細胞からプロトプラストを単離し、該プロトプラストと外来遺伝子の発現カセットを含む発現ベクターとの懸濁液にポリエチレングリコールを加えてエンドサイトーシス様の過程で該発現ベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(PEG法)、ホスファチジルコリン等の脂質膜小胞内に超音波処理等により発現ベクターを入れ、該小胞とプロトプラストをPEG存在下に融合させる方法(リポソーム法)、ミニセルを用いて同様の過程で融合させる方法、プロトプラストと発現ベクターの懸濁液に電気パルスを印加して外液中のベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(エレクトロポレーション法)が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、プロトプラストから植物体へ再分化させる培養技術を必要とする点で煩雑である。細胞壁を有するインタクトな細胞への遺伝子導入手段としては、マイクロピペットを細胞に刺し込み、油圧やガス圧でピペット内のベクターDNAを細胞内に注入するマイクロインジェクション法、およびDNAをコーティングした微小金粒子を火薬の爆発やガス圧を利用して加速し、細胞内に導入するパーティクルガン法等の直接導入法と、アグロバクテリウムによる感染を利用した方法とがある。マイクロインジェクションは操作に熟練を要し、また、扱える細胞数が少ないという欠点がある。従って、操作の簡便性を考慮すれば、アグロバクテリウム法および、パーティクルガン法により植物を形質転換することが好ましい。パーティクルガン法は、栽培中の植物の頂端分裂組織に直接遺伝子を導入することが可能である点さらに有用である。また、アグロバクテリウム法において、バイナリーベクターに植物ウイルス、例えばトマトゴールデンモザイクウイルス(TGMV)等のジェミニウイルスのゲノムDNAをボーダー配列の間に同時に挿入することにより、栽培中の植物の任意の部位の細胞に注射筒などを用いて菌懸濁液を接種するだけで、植物体全体にウイルス感染が拡がり、同時に目的遺伝子も植物体全体に導入される。これらの方法は、当該分野に置いて周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当該者により適宜選択され得る。
【0042】
(アグロバクテリウムの植物体への感染)
本作出方法においては、アグロバクテリウム感染によってコンストラクトを導入することが好ましい。すなわち、前記導入工程は、異なる導入遺伝子を宿主植物体染色体に組み込み可能なコンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを植物体に感染させる工程とすることが好ましい。アグロバクテリウム媒介性の遺伝子導入は、植物種及び品種によってその効率において相違があるが、アグロバクテリウムの種類、感染組織、感染方法、前処理及びマーカー遺伝子等について適切な手法を採用することで効率的な遺伝子導入が可能である。
【0043】
アグロバクテリウム属細菌は特に限定しないで、植物の種類等に応じて適切なものを選択して使用することができる。一般的には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacteriumu
rhizogenes)など、宿主植物染色体に転移可能なDNA領域を備えるTiプラスミドやRiプラスミドなどの転移性プラスミドを保持するアグロバクテリウム属細菌やこれらの変異株を用いることができる。典型的には、アグロバクテリウム・ツメファシエンスが用いられる。
【0044】
コンストラクトの導入方法として、アグロバクテリウム感染法を用いる場合、こうした外来遺伝子は、アグロバクテリウム属細菌中に宿主植物体染色体に導入可能なコンストラクトに保持される。具体的には、外来遺伝子は、アグロバクテリウム属細菌の有するTiプラスミドやRiプラスミドなどの転移性プラスミド上の転移DNA上等に備えられる。Tiプラスミド等に外来遺伝子を導入するには、中間ベクター法やバイナリーベクター法など公知の方法を用いることができる。例えば、中間ベクター法では、pBR322等の任意の配列を挿入したTiプラスミドを保持するアグロバクテリウムに対して、所望の遺伝子を保持するpBR322系中間ベクターを、ヘルパープラスミドなどを使って導入する。中間ベクターが導入されたアグロバクテリウムにおいて、pBR322部分での相同組換えでTiプラスミド上に所望の遺伝子を組み込ませることができる。適当な選択マーカーを外来遺伝子に付随させておくことで、外来遺伝子をTiプラスミド上に有するアグロバクテリウムを容易に選択することができる。また、バイナリーベクターは、一般に、アグロバクテリウムで機能する選択マーカー遺伝子を備えるとともに、T−DNA上に植物体で機能する選択マーカー遺伝子を備えるとともに、所望の外来遺伝子を導入可能なマルチクローニングサイトを備えている。この所望の外来遺伝子を導入したバイナリーベクターをT−DNAを欠損したTiプラスミドを持つアグロバクテリウムに導入し、適当な選択培地で培養することで所望の外来遺伝子を保持するアグロバクテリウムを得ることができる。このようなバイナリーベクターとして、例えばpBI101やpBI121(ともにCLONTECH社)などが市販されている。
【0045】
アグロバクテリウムを感染させる植物体は、植物体全体;葉、茎、寝、花器、成長成長点、種子、胚芽等の器官;表皮、師部、柔組織、木部、維管束等の組織;カルスなどの植物培養組織などのいずれであってもよい。また、必要に応じて、これらの感染対象に傷等を付与したり、所定条件下で培養するなどの前処理を施すことができる。
【0046】
アグロバクテリウムの感染によって外来遺伝子が組み込まれる宿主植物染色体は、核染色体のほかミトコンドリアの染色体であってもよい。
【0047】
外来遺伝子を保持させたアグロバクテリウムを植物体に感染させる手法は、植物体の種類等によって適切な手法が採用される。たとえば、リーフディスク法(Horsch, R.&B.、 et al.: A simple and general method for trams-ferring
cloned genes into plants. Science,227、 1229〜1231, 1985)、プロトプラスト共存培養法(Marton, L., et al.: In vitro transformation of cultured cell from
Nicotiana tabacum by Agrobactevium tumefaciens. Nature,277, 129〜131, 1981)、カルス再生法(Plant Cell Reports, 12, 7-11,
1992)、減圧浸潤法(The Plant Journal, 19(3), 249-257, 1999)等を採用することができる。
【0048】
アグロバクテリウムの感染に際しては、異なる外来遺伝子を宿主植物体の染色体に組み込み可能に保持したアグロバクテリウムを2種類以上用いることが好ましい。2種類以上のアグロバクテリウムは、これらを混合した混合菌液として同時に感染対象に供給してもよいし、別個の菌液として同時に供給してもよい。さらに、2種類以上のアグロバクテリウムを、逐次的に感染対象に供給してもよい。操作上の効率及び形質転換効率等の観点から、2種類以上のアグロバクテリウムを同時に供給することが好ましく、混合菌液として供給するのがより好ましい。
【0049】
2種類以上のアグロバクテリウムを含む混合菌液の調製については特に限定しない。2種類以上のアグロバクテリウムを別個に播種して培養した菌液を混合してもよいし、2種類以上のアグロバクテリウムを併せて播種して培養して混合菌液として調製してもよい。好ましくは、個別に播種・培養して得た菌液を必要に応じて混合して混合菌液とする。感染に際して用いるアグロバクテリウムの濃度は、特に限定しない。用いる感染手法に応じて適宜設定することができる。
【0050】
それぞれのアグロバクテリウムは、選択用マーカーや発現用マーカーなどを保持しているほか、2以上の外来遺伝子を保持していてもよいが、植物体の改変用遺伝子としては、単一の外来遺伝子を保持していることが好ましい。1種類のアグロバクテリウムが単一の外来遺伝子を備えることで、アグロバクテリウムの種類数と改変のための外来遺伝子の種類数とを一致させることができて、意図した外来遺伝子の組み合わせで形質転換体を得ることができるようになる。
【0051】
本作出方法は、選択マーカー遺伝子の種類に応じた選択条件下における形質転換植物体の選抜工程を備えることができる。形質転換植物体の選抜工程は、感染工程で採用する手法に応じて適宜選択される。T0世代において組織あるいは細胞レベルで選抜工程を実施してもよいし、T1世代においてT1種子からの育成段階で選抜工程を実施してもよい。
【0052】
例えば、植物体にアグロバクテリウムを感染後、必要に応じて選択マーカー遺伝子の種類に応じた選択培地で培養するなどして形質転換体(T0植物体)を選択して、T0植物体から種子(T1種子)を取得し、T1種子を発芽させてT1植物体を得ることができる。また、選択することなく取得した種子を選択条件下で播種し、発芽させることで形質転換植物体(T1植物体)を得ることもできる。こうした形質転換植物体(T1植物体)を自家受粉するなどしてT2種子や、T3種子を得ることで、外来遺伝子についてのホモ接合体である形質転換植物個体を得ることができる。
【0053】
また、本作出方法では、選択マーカー遺伝子に基づく選抜工程を実施するかどうかに係わらず、T1世代の植物体又はその子孫を得て、有用な形質など意図した表現型を指標として植物体を選抜してもよい。形質転換植物個体の形質を指標とする選抜工程を実施することで、容易に良好な形質を有する形質転換植物個体を作出することができる。本作出方法は、各種の外来遺伝子の組み合わせによる形質転換植物個体がセットとして得られるため、表現型に基づく選抜工程を実施することが効果的である。すなわち、一挙に各種の組み合わせの外来遺伝子で形質転換された形質転換植物個体を作出し、その後個体の表現型で選抜するため、従来の試行錯誤が解消でき、有用形質を保持する形質転換植物個体作出プロセスを省力化することができる。こうした表現型による選抜工程を実施する場合、選択マーカー遺伝子に基づく選抜工程は必ずしも必要ではない。
【0054】
得られた形質転換植物個体から常法に従いDNAを抽出し、サザンハイブリダイゼーション等により外来遺伝子の有無を確認することができる。また、常法に従いRNAを抽出して適切なプローブを用いたノザンハイブリダイゼーション、RNAから調製したcDNA等を用いるマイクロアレイ等上でのハイブリダイゼーション、あるいはリアルタイムRT-PCR法等を行って外来遺伝子導入後の当該外来遺伝子及び他の遺伝子の発現状態を確認することもできる。
【0055】
また、得られた形質転換個体を、所望の形質、例えば、収量、貯蔵物質組成等の表現型を指標として分類又は選抜し、分類又は抽出した形質転換植物個体における外来遺伝子の有無、種類及び遺伝子発現状態を確認してもよい。なお、表現型を指標とする分類及び選抜は、形質の発現、増強、欠損、抑制を含む何らかの形質の変化を指標とすることができる。
【0056】
本作出方法によって得られる形質転換個体は、2種類以上の外来遺伝子から選択される2種類以上の外来遺伝子を備えることができる。最大では、用いた種類の全ての外来遺伝子を備えることができる。さらに、本方法によって得られる形質転換個体は、2種類以上の外来遺伝子から選択される単独の外来遺伝子のみを備えることもできる。したがって、本作出方法によれば、2種類以上の外来遺伝子から選択される組み合わせで外来遺伝子が導入された形質転換個体のセットを得ることができるといえる。
【0057】
したがって、本作出方法によれば、2種類以上の遺伝子を保持する形質転換植物個体を容易にかつ効率的に得ることができる。異なる遺伝子を備える植物個体を交配して複数種類の外来遺伝子を導入した植物個体を取得していた従来法に比べて飛躍的に労力及び時間が低減されている。しかも、本作出方法によれば、一挙に各種の組み合わせで2種類以上の遺伝子を保持する形質転換植物個体を得ることができるため、各種の組み合わせで個別に形質転換植物個体を試作していた従来法に比較して飛躍的に労力及び時間が低減されている。さらに、本作出方法によれば、単独の外来遺伝子が導入された形質転換植物個体も得られるため、単独導入形質転換植物個体と複数導入形質転換植物個体との形質対比も容易になっており、その点においても好ましい。
【0058】
また、本作出方法によれば、2種類以上の外来遺伝子を保持する形質転換植物個体のセットを得ることができるため、2種類以上の外来遺伝子や関連する内在性遺伝子の相互作用や協同作用を容易に把握することができる。また、単独の外来遺伝子を備える形質転換体を同時に得られる場合には、個々の外来遺伝子や対応する内在性遺伝子の機能探索にも有用であるほか、2種類以上の外来遺伝子やの内在性遺伝子の相互作用等についても有用な情報源となる。
【0059】
本作出方法によれば、こうしたセットについて植物体の所望の形質を指標として形質転換植物体を分類又は選抜し、分類又は抽出した形質転換植物体についてのみ外来遺伝子の有無、種類を確認し、あるいはその外来遺伝子及び他の遺伝子の発現状態を確認することで、有用形質発現に好適な遺伝子及びその組み合わせを効率的にスクリーニングすることができる。同時に、これらの遺伝子の機能及び協同作用等についての知見を得ることができる。
【0060】
(植物体への外来遺伝子の導入方法)
本発明の植物体への外来遺伝子の導入方法は、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程を備えることができる。この導入工程は、異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に組み込み可能なコンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを植物体に感染させる工程とすることができる。この導入方法によれば、2種類以上の外来遺伝子から選択される組み合わせで外来遺伝子を植物体に導入することができる。この結果、2種類以上の外来遺伝子が各種の組み合わせで導入され形質転換された形質転換植物体(セット)を容易に得ることができる。したがって、この導入方法は、遺伝子機能の探索に有用であるほか、2種類以上の遺伝子による制御により所望の形質を発現させることができる遺伝子の組み合わせの探索及びこうした2種類以上の遺伝子改変による有用形質植物体の作出に有用である。なお、本導入方法においては、本発明の形質転換植物体の作出方法における外来遺伝子、植物体、コンストラクト及び導入方法についての各種態様をそのまま適用することができる。
【0061】
(遺伝子スクリーニング方法)
本発明の遺伝子のスクリーニング方法は、前記導入工程と、前記再生工程とに加え、さらに再生した前記植物個体及びその子孫の植物体の表現型を指標として形質転換植物体を選抜又は分類する工程を備える、植物体における遺伝子スクリーニング方法も提供される。本発明のスクリーニング方法によれば、上記導入工程によって、各種の組み合わせで外来遺伝子を保持する形質転換植物個体を一挙に得ることができる。このため、得られた形質転換植物個体又はその子孫の植物体について表現型を指標として選抜又は分類することで、良好な形質を有する形質転換植物個体の有用な外来遺伝子を容易に同定することができる。これまでは、各種の遺伝子及び組み合わせで形質転換植物個体を個々に試作し、その後、形質又は発現解析を行うなど膨大な試行錯誤が必要であったが、本スクリーニング方法によれば形質転換植物個体セットを取得し、これら又はその子孫の植物体から表現型を指標として形質転換植物個体を選択し、当該形質転換植物個体の外来遺伝子を決定するため、有用形質発現に必要な個々の遺伝子及びその組み合わせを容易に検出することができる。すなわち、一挙に形質転換植物体を作出し、形質で選抜し、その後に外来遺伝子を決定するため、有用な形質転換植物体のための遺伝子の決定が省力化されている。
【0062】
また、本スクリーニング方法は、2種類以上の外来遺伝子の組み合わせの形質転換植物体を得られるため、機能未知の遺伝子の機能及び協同作用等を容易にスクリーニングすることができる。例えば、従来、内在性遺伝子を単独で発現抑制しても表現型に変化が現われないことが多く機能解析が困難であったが、本スクリーニング方法によれば、関連する複数遺伝子の発現抑制が容易であるため、表現型の変化を容易に検出できる。このため、内在性遺伝子の機能や協同作用を容易に検出できる。なお、本スクリーニング方法においては、本発明の形質転換植物体の作出方法における外来遺伝子、植物体、コンストラクト及び導入方法についての各種態様をそのまま適用することができる。
【0063】
(形質転換植物体のライブラリ及びその作製方法)
本発明の形質転換植物体ライブラリは、2種類以上の外来遺伝子から選択される2種類以上の外来遺伝子の組み合わせで導入された形質転換植物個体を含むことができる。このライブラリに含まれる形質転換植物体において見出される表現型及び当該表現型に寄与する外来遺伝子の組み合わせは、分子育種や遺伝子機能探索に有用である。このライブラリには、2種類以上の外来遺伝子の組み合わせによる形質転換植物体のみならず、外来遺伝子が単独で導入された形質転換植物体も含むことができる。こうしたライブラリによれば、外来遺伝子の相互作用や協同作用、内在性遺伝子の機能解析により有用である。
【0064】
本ライブラリは、2種類以上の外来遺伝子からなる組み合わせで外来遺伝子が導入された形質転換植物体のみから構成することもできる。本ライブラリにおいては、本発明の形質転換植物体の作出方法における外来遺伝子、植物体、コンストラクト及び導入方法についての各種態様をそのまま適用することができる。
【0065】
本ライブラリは、本発明の形質転換植物体の作出方法により、形質転換植物体のセットとして容易に作製することができる。すなわち、前記作出方法を利用して、前記導入工程と、前記再生工程と、2種類以上の前記外来遺伝子から選択される2種類以上の組み合わせで前記外来遺伝子が導入された形質転換植物個体を含むライブラリを作製する工程を含む、形質転換植物体ライブラリの作製方法として実施することができる。
【0066】
(植物体への外来遺伝子導入用組成物)
本発明の外来遺伝子導入用組成物は、それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に導入可能に保持するアグロバクテリウムを2種類以上含むことができる。本組成物によれば、前記作出方法や前記導入方法の前記外来遺伝子導入工程を効率的に実施して一群の形質転換植物体セットを容易に得ることができる。したがって、本組成物は、形質転換植物体の作出用として、又は植物体の遺伝子スクリーニング用として利用できる。
【0067】
この組成物は、通常はアグロバクテリウム菌液として提供されるが、必要に応じ凍結乾燥体であってもよい。また、この組成物は、用時に混合するべき個別のアグロバクテリウムの菌液や粉末等のキットとして構成されていてもよい。すなわち、本組成物の別態様として植物体形質転換用のキットも提供される。これらのアグロバクテリウムが保持する外来遺伝子、アグロバクテリウム等については、植物体の有用な形質に関連する可能性のある外来又は内在性遺伝子や機能未知の内在性遺伝子の過剰発現あるいは発現抑制のための外来遺伝子を含むことができ、本発明の作出方法において既に説明したように各種態様を本発明に適用することができる。
【0068】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
(RNAi用(Gate
Way(商品名)仕様)バイナリーベクターpYU501の構築)
シロイヌナズナWRKY33遺伝子の第1イントロンをはさんで逆向きに配置された2つのGate Wayカセット(attR1、Cm、ccdBおよびattR2がタンデムに配列されている)およびカリフラワーモザイクウィルスの35Sターミネーター配列を含むDNA断片を、pJawohl8からXhoIおよびPmeIで切り出し、nosターミネーターがpBluescript(商品名)II SK(−) (Stratagene社)のXbaI部位に組み込んであるベクターpYU502のXhoI−EcoRV部位に組換えた。得られたプラスミドをpYU505とした。pYU505をPspOMIとKpnIで消化して得られる大きい方の断片とpSK1(Kojima, S., Banno, H., Yoshioka, Y., Oka, A., Machida, C., and
Machida, Y. (1999). A binary plasmid for gene expression in plant cells that is
stably maintained in Agrobacterium cells. DNA Res. 6, 407-410.)をNotIとKpnIで消化して得られる大きい方の断片をつなぎあわせた。得られたプラスミドをpYU501とした(図2)。pYU505およびpYU501の構築には大腸菌DB3.1株(Invitrogen社)を使用した。pJawohl8はMax Planck InstituteのBekir Ulker博士とImre E. Somssich博士から供与された。
【実施例2】
【0070】
(HD2ファミリーに属するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)をコードするシロイヌナズナ遺伝子のクローニング)
各遺伝子を増幅するための特異的プライマー(表1)を用いてシロイヌナズナ茎頂部由来cDNAからPCRによる増幅を行った。それぞれの断片をpENTR-D-TOPO(商品名)(Invitrogen社)にクローニングした。
【表1】

【実施例3】
【0071】
(各遺伝子の発現を抑制するためのバイナリープラスミドの構築)
クローニングしたそれぞれのcDNAをLR clonase(商品名)(Invitrogen社)を用いて、pYU501に組換えた。大腸菌はStbl2株(Invitrogen社)を用いた。個々のプラスミドは、独立にアグロバクテリウムGV3101/pMP90(Koncz, C., and Schell, J.
(1986). The promoter of TL-DNA gene 5 controls the tissue-specific
expression of chimeric genes carried by a novel type of Agrobacterium binary
vector. Mol. Gen. Genet. 204, 383-396)に形質導入した。
【実施例4】
【0072】
(植物の形質転換及びHDT−RNAiライブラリーの構築)
実施例3で作製した4種類のアグロバクテリウム形質転換系統のそれぞれを、50μg/mLのカルベニシリンを含む5mLのLB培地で3晩培養(full growth,OD600>2)した。これら4種のアグロバクテリウム培養物を等量ずつ混合した後にグリセロールストックを作成し、HDT−RNAiアグロバクテリウムライブラリー(外来遺伝子導入用組成物)とした。
【0073】
HDT−RNAiアグロバクテリウムライブラリーをfloral dip法(Ye, G.-N., Stone, D., Pang, S.-Z.,
Creely, W., Gonzalez, K., and Hinchee, M. (1999). Arabidopsis ovule is the
target for Agrobacterium in planta vacuum infiltration transformation. Plant J.
19, 249-257)によりシロイヌナズナas2−1変異体(Semiarti, E., Ueno, Y., Tsukaya, H., Iwakawa, H., Machida, C., and
Machida, Y. (2001). The ASYMMETRIC LEAVES2 gene of Arabidopsis thaliana
regulates formation of a symmetric lamina, establishment of venation and
repression of meristem-related homeobox genes in leaves. Development 128,
1771-1783.)に感染させた。得られた種子を、15μg/mLハイグロマイシンを含むMurashige−Skoog(MS)培地[1倍強度のMS塩、3mg/Lチアミン、5mg/L ニコチン酸、0.5mg/Lピリドキシン、0.5g/L Mes−KOH(pH5.7)、0.5%(w/v)ゲランガム(和光純薬)]で選抜することで一次形質転換体(HDT−RNAiシロイヌナズナライブラリー)とした。
【0074】
(表現型によるスクリーニング)
得られた形質転換体から、葉身が展開しない葉を形成する個体を探索した。なお、as2変異体にHDACの阻害剤を投与すると葉身が展開しない(背軸側の性質も持った)棒状の葉を形成する。HDT−RNAiシロイヌナズナライブラリーを個体の表現型(葉の形態)を指標に探索した結果、目的の形質(葉身が展開しない)を呈する個体を単離できた。結果を表2に示す。表2は、得られた20系統のうち11系統を解析した結果を示したものである。形質転換体(形質転換系統#1及び#3)の葉身の一例を図3に示す。
【表2】

【0075】
(形質転換体に導入された遺伝子の確認)
また、得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、HDAC遺伝子とベクターにそれぞれ特異的なプライマー(HDAC遺伝子:プライマーGSP)(ベクター:プライマーRv59またはpU104)を用いたPCRにより確認を行った(図4上段参照)。なお、HDT1遺伝子、HDT2遺伝子、HDT3遺伝子及びHDT4遺伝子には、それぞれpU508、pU510、pU512及びpU514(いずれも表1に記載)を用いた。また、HDT3のRNAiのT−DNAの同定には以下のプライマーを用いてnested PCRを行った。用いたプライマーを表3に示す。なお、GSPは各HDT遺伝子に特異的なプライマーである。図4下段には、形質転換系統#1(左)および#301(右)における遺伝子の確認結果を示す。形質転換系統#1には、HDT1とHDT2のRNAiのためのT−DNAが、#301には、HDT2のそれが、それぞれ導入されていたことが確認された。なお、レーン1〜4は、それぞれHDT1〜4に特異的なGSPを用いた増幅断片を示す。左の2レーンはサイズマーカーを示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表2に示すように、形質転換体として得られた20系統のうち11系統の植物体から、導入されたT−DNAを解析したところ、1種、2種および3種のT−DNAが導入されていた個体は、それぞれ7個体(64%)、3個体(27%)および1個体(9%)であった。このことは、宿主植物細胞1個に対して、複数のT−DNAが導入されるのは、複数のアグロバクテリウムが感染することによるということを示している。実際に、この結果は、アグロバクテリウムにより1種のT−DNAをシロイヌナズナに導入したときに得られる形質転換植物のT−DNAの遺伝子座数の報告(1遺伝子座、2遺伝子座、3遺伝子座が導入される確率はそれぞれ53%、25%、8%;Feldmann, K. A.(1991).T-DNA insertion
mutagenesis in Arabidopsis:mutational spectrum.Plant J.1,71-82)と大きくずれていない。このような報告はこれまでになく、アグロバクテリウムを介した植物の形質転換に関する基礎的理解に貢献する知見といえる。
【0078】
また、表2に示すように、同定されたT−DNAはHDT1、HDT2、HDT3およびHDT4に関してそれぞれ延べ数にして、3個、3個、5個および5個であった。それぞれのアグロバクテリウム細胞が均等に存在し、同程度に遺伝子が導入されると仮定すると平均4個なので、期待値と大きくずれてはおらず、HDT−RNAiアグロバクテリウムライブラリーが期待通りにできていることを示している。
【実施例5】
【0079】
(形質転換系統#1における遺伝子発現解析)
形質転換系統#1におけるHDT遺伝子の発現レベルを、RT-PCR(Semiarti, E., Ueno,
Y., Tsukaya, H., Iwakawa, H., Machida, C., and Machida, Y. (2001). The
ASYMMETRIC LEAVES2 gene of Arabidopsis thaliana regulates formation of a
symmetric lamina, establishment of venation and repression of meristem-related
homeobox genes in leaves. Development 128, 1771-1783)により解析した。播種後10日目の個体からRNAを抽出し、RT−PCRを行った。HDT1,HDT2,HDT3およびHDT4に加え、ハイグロマイシンを不活化する酵素の遺伝子(HPT;T−DNA上の薬剤マーカー遺伝子)、PHABULOSA(PHB)、KANADI2(KAN2)およびETTIN (ETT)遺伝子の転写産物の蓄積も調査した。PHB、KAN2およびETTは、この植物体の表現型に関連する遺伝子である。HPTはT−DNAの有無を判定するために調べた。用いたプライマーは以下のとおりであった。結果を図5に示す。
【0080】
HDT1, HDT2,
HDT3およびHDT4: 表1参照
【0081】
HPT
: HPT1
(5’-AGCCTGAACTCACCGCGACGT-3’)(配列番号:13)
HPT2
(5’- TGCCCTCGGACGAGTGCTGGG-3’)(配列番号:14)
【0082】
PHB
: pU579
(5’-ATGATGATGGTCCATTCGATGAGCAGA-3’)(配列番号:15)
pU580
(5’-GGGCCTCCTCTGCTATAGAAAGGAGTCCT-3’)(配列番号:16)
【0083】
KAN2:
pU593
(5’- ATGGAGCTGTTTCCTGCTCAGCCCGAT-3’)(配列番号:17)
pU594
(5’- GTGAGATCGACCCAGAGTAAACTCAAG-3’)(配列番号:18)
【0084】
ETT:
pU223
(5’-ATGGGTGGTTTAATCGATCTGAACGTGATGG-3’) (配列番号:19)
pU224
(5’-GGAGGGAAGCAATCCTCAGCAGC-3’)(配列番号:20)
【0085】
TUBA:
pU51およびpU52 Semiarti, E., Ueno, Y.,
Tsukaya, H., Iwakawa, H., Machida, C., and Machida, Y. (2001). The ASYMMETRIC
LEAVES2 gene of Arabidopsis thaliana regulates formation of a symmetric lamina,
establishment of venation and repression of meristem-related homeobox genes in
leaves. Development 128, 1771-1783. )
【0086】
図5に示すように、形質転換系統#1では確かにHDT1およびHDT2の転写産物の蓄積が抑制されていたが、HDT3およびHDT4では影響がなかった。KAN2およびETTでは有意な差は認められなかったが、PHBの転写産物の蓄積量は、非形質転換体に比べて有意に減少していた。これらの結果は、HDT1およびHDT2のRNAiにより、期待どおりにこれらの発現を抑制し、その効果が現れて下流遺伝子であるPHBの発現に影響を及ぼしていることを示す。なお、TUBAは内部標準として用いた。
【実施例6】
【0087】
形質転換系統#1を野生型に戻し交雑し得られたF2世代における形質とT−DNAの有無を実施例4と同様にして調べた。結果を表4に示す。
【表4】

【0088】
表4に示すように、形質転換系統#1に導入されたt−DNAは、表現型と連鎖していた。
【0089】
以上の実施例によれば、目的の形質を顕著に呈する形質転換系統#1および#301に導入されたT−DNAを調べた結果、HDT1とHDT2の2種およびHDT2 1種のRNAiのT−DNAがそれぞれ確認できた(表2及び図4)。実際に形質転換系統#1では、HDT1およびHDT2の転写産物の蓄積が抑制されており(図5)、これらのT−DNAは表現型と連鎖していた(表4)。ここで探索の指標とした形質は、HDAC阻害剤(TSA等)をas2変異体に投与した際に観察されたものである。なお、HD2ファミリー同様にTSAに感受性を示すHDACのファミリーであるRPD3/HDA1ファミリーについても上記と同様の探索を行ったが、特徴的な形質をしめす個体を得ることはできなかった。これらの結果から、HDT1およびHDT2が葉の形成に関与する遺伝子として同定できた。
【0090】
また、以上の実施例によれば、それぞれ異なるT−DNAを導入したアグロバクテリウムを混合し、これらのアグロバクテリウムを植物細胞に感染させることで、異種T−DNAを同一宿主植物細胞に同時に導入できることがわかった。また、この方法によれば、多重形質転換植物を作成するための時間と労力を大幅に軽減できるということがわかった。さらに、こうした方法を用いれば、様々な組み合わせの多重形質転換植物の形質から、遺伝子の同定が現実的に可能であることもわかった。実際に、本実施例におけるRNAiライブラリーによって、機能欠損に伴う植物の形質変化を指標にした遺伝子同定が可能であることが示された。なお、上記実施例では、個体の外観を指標にスクリーニングを行ったが、抽出液の組成や活性の追跡など、指標を変えれば様々な応用が可能であるほか、機能欠損型形質転換体のほか機能獲得型形質転換体についても同様に適用できることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号1〜20:合成プライマー
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1A】本発明を適用した遺伝子解析方法の一例を示す図。
【図1B】従来の遺伝子解析方法の一例を示す図。
【図1C】本発明を適用した遺伝子解析方法のメリットを示す表図。
【図2】pYU501の構造を示す図。ただし、Riori, アグロバクテリウム内での複製起点;AmpR, アンピシリン耐性遺伝子(β−ラクタマーゼ、大腸菌およびアグロバクテリウムの薬剤マーカー);pUC ori, 大腸菌内での複製起点;tnos, nosターミネーター;t35S,カリフラワーモザイクウィルス35Sターミネーター;attR1およびattR2, LR clonase(商標)の組換え部位;CmR,クロラムフェニコール耐性遺伝子(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、大腸菌およびアグロバクテリウムの薬剤マーカー);ccdB, 大腸菌内での致死遺伝子;WRKY33intron, シロイヌナズナWRKY33遺伝子の第1イントロン;p35S,カリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター;HPT,ハイグロマイシン耐性遺伝子(ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ、植物、アグロバクテリウムおよび大腸菌の薬剤マーカー)である。
【図3】HDT-RNAiライブラリーから得られた形質転換個体例を示す図。Aは、形質転換系統#1(T1世代)を示す。目的の形質である棒状の葉(矢じり)やトランペット状の葉(矢印)を形成していた。Bは、形質転換系統#3(T1世代)を示す。宿主個体と識別できる形質は、確認できなかった。
【図4】HDT-RNAiシロイヌナズナライブラリーの各個体に導入されたT-DNAの判定方法および判定結果の各例を示す図。
【図5】形質転換系統#1における遺伝子発現解析を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形質転換植物体の作出方法であって、
それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程と、
前記導入工程を経た前記植物体から植物個体を再生する工程と、を備える、作出方法。
【請求項2】
前記導入工程は、前記コンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを感染させる工程である、請求項1に記載の作出方法。
【請求項3】
再生した前記植物個体又はその子孫の表現型を指標として形質転換植物体を選抜又は分類する工程を備える、請求項1又は2に記載の作出方法。
【請求項4】
前記外来遺伝子は、前記植物体の内在性遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチド領域を含んでいる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
植物体における遺伝子のスクリーニング方法であって、
それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程と、
前記導入工程を経た前記植物体から植物個体を再生する工程と、
再生した前記植物個体又はその子孫の表現型を指標として形質転換植物体を選抜又は分類する工程と、
を備える、方法。
【請求項6】
前記導入工程は、前記コンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを感染させる工程である、請求項5に記載の作出方法。
【請求項7】
さらに、選抜又は分類した前記形質転換植物体の染色体に組み込まれた前記外来遺伝子を決定する工程を備える、請求項5又は6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
形質転換植物体ライブラリであって、
2種類以上の外来遺伝子から2種類以上を選択する組み合わせで前記外来遺伝子が導入された形質転換植物体を含む、ライブラリ。
【請求項9】
1種類の前記外来遺伝子が導入された形質転換植物体を含む、請求項8に記載のライブラリ。
【請求項10】
形質転換植物体ライブラリの作製方法であって、
それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物体染色体に組込み可能に保持する2種以上のコンストラクトを植物体に導入する工程を、備える、作製方法。
【請求項11】
植物体への外来遺伝子導入用組成物であって、
それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持する2種類以上のアグロバクテリウムを含む、組成物。
【請求項12】
前記外来遺伝子は、前記植物体の内在性遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチド領域を含んでいる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
植物体への遺伝子導入方法であって、
それぞれ異なる外来遺伝子を宿主植物染色体に組込み可能に保持した2種類以上のコンストラクトを植物体に導入する工程を備える、導入方法。
【請求項14】
前記導入工程は、前記コンストラクトをそれぞれ保持する2種類以上のアグロバクテリウムを感染させる工程である、請求項13に記載の導入方法。
【請求項15】
前記導入工程は、2種類以上のアグロバクテリウムの混合物を前記植物体に供給する工程である、請求項14に記載の導入方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173011(P2008−173011A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6588(P2007−6588)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】