説明

形質転換植物及びその製造方法、並びにユビキノン10の製造方法

【課題】植物の種子内にCoQ10を高蓄積させる。
【解決手段】ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入してなり、種子中にユビキノン10を蓄積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキノン10(コエンザイムQ10(CoQ10)と別称される)を種子内に蓄積させる形質転換植物及びその製造方法、並びに当該形質転換植物を用いたユビキノン10の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキノン10(以下、CoQ10と称する場合もある)は、呼吸鎖電子伝達系の酸化還元に関わる重要な物質として、古くから基礎及び応用の両面にわたる研究の対象となってきた。近年はエネルギー産生賦活作用だけでなく抗酸化機能が注目され、従来の医薬用途に加えてサプリメントや化粧品として社会に普及している。CoQ10をほとんど蓄積しないイネの種子中にCoQ10を蓄積させる取り組みが行われ、比較的多量のCoQ10を遺伝子組換えイネの種子中に蓄積させることに成功している(特許文献1:特開2006-212019号公報、非特許文献1:S. Takahashi et al., FEBS Letters,580, 955-959 (2006))。酢酸菌の一種であるグルコン酸菌由来で、CoQ10の側鎖(10ユニットのイソプレン鎖)の合成を行う酵素のdecaprenyl diphosphate synthase遺伝子にイネミトコンドリアリボソームタンパクのミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする配列を連結して、decaprenyl diphosphate synthaseをイネのミトコンドリアに発現させることにより、イネ種子中へのCoQ10の蓄積に成功している(特許文献2:United States Patent 6,103,488、非特許文献2:Okada, K., et al., Eur. J. Biochem. 255: 52-59 (1998))。しかしながら、種子中に蓄積されるCoQ10の含量は、種子を食用にしてCoQ10を種子から摂取する場合においても、また種子からCoQ10を抽出利用する場合においても、未だに実用的なレベルには達していない。
【0003】
実用化のために必要な含量を算定するためにはサプリメントとしてのCoQ10の1日必要摂取量の設定が必要であるが、現在までに科学的根拠に基づいた値は存在しない。そこで基準値として市販されているCoQ10サプリメントで推奨されている1日必要摂取量を調査した結果、おおよそ30mgから300mgの範囲で推奨されていた。一方、平成19年の国民一人当たりの一ヶ月の米消費量は約4900gとされている(米ネットhttp://www.komenet.or.jp/)。これを一ヶ月30日として1日あたりに換算すると約160gとなる。仮に1日必要摂取量を30mgに設定してこの必要量を1日の米消費量で補うとすると約190μg/gの量のCoQ10が米に含まれることが必要となる。一方、CoQ10は他の食品にも含まれており(非特許文献3:Kamei M., et al., Int. J. Vitam. Nutr. Res. 56: 57-63 (1986))、必要摂取量をCoQ10強化米だけで補給する必要はないとも考えることができる。そこで、一日摂取必要量(30mg)の半分(15mg)を、CoQ10を含む米で摂取すると仮定した場合、95μg/gの量のCoQ10が米に含まれることが必要となる。
【0004】
【特許文献1】特開2006-212019号公報
【特許文献2】United States Patent 6,103,488
【非特許文献1】S. Takahashi et al., FEBS Letters, 580, 955-959 (2006)
【非特許文献2】Okada, K., et al., Eur. J. Biochem. 255: 52-59 (1998)
【非特許文献3】Kamei M. et al., Int. J. Vitam. Nutr. Res. 56: 57-63 (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上述した実用に鑑み、植物の種子内にCoQ10を高蓄積させることができる形質転換植物及びその製造方法、並びに当該形質転換植物を利用したユビキノン10の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明者らは、非特許文献1に記載された方法により作出された組換えイネよりもさらに多くのCoQ10を蓄積させることを目的として、新たな形質転換ベクターを作製し、これを使用することで、従来よりもさらに多くのCoQ10を種子中に蓄積させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下を包含する。
(1)ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入してなり、種子中にユビキノン10を蓄積する形質転換植物。
【0008】
(2)上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする(1)記載の形質転換植物。
【0009】
(3)選抜マーカーとして、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入されていることを特徴とする(1)記載の形質転換植物。
(4)形質転換イネであることを特徴とする(1)記載の形質転換植物。
【0010】
(5)ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入する、種子中にユビキノン10を蓄積する形質転換植物の製造方法。
【0011】
(6)上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする(5)記載の形質転換植物の製造方法。
【0012】
(7)選抜マーカーとして変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入され、ピリミジニルカルボキシ除草剤により上記発現カセットが導入された個体を選抜することを特徴とする(5)記載の形質転換植物の製造方法。
(8)形質転換イネであることを特徴とする(5)記載の形質転換植物の製造方法。
【0013】
(9)ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入してなる形質転換植物から種子を採取する工程と、採取した種子に含まれるユビキノン10を抽出する工程とを含むユビキノン10の製造方法。
【0014】
(10)上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする(9)記載のユビキノン10の製造方法。
【0015】
(11)上記形質転換植物は、選抜マーカーとして変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入されていることを特徴とする(9)記載のユビキノン10の製造方法。
【0016】
(12)上記形質転換植物は形質転換イネであることを特徴とする(9)記載のユビキノン10の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来と比較して有意に大量のユビキノン10を種子内に蓄積することができる形質転換植物及びその製造方法を提供することができる。本発明に係る形質転換植物及びその製造方法を利用することにより、有用な物質であるユビキノン10を大量に製造することができ、単位作付面積当たりのユビキノン10の生産量を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る形質転換植物及びその製造方法、並びにユビキノン10の製造方法を図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明において形質転換の対象となる植物としては、特に限定されず、例えば、イネ、タバコ、オオムギ、コムギ、パンコムギ、ライムギ、カラスムギ、ハトムギ、モロコシ、トウモロコシ、キビ、アワ、ヒエ、ソバ、カタクリ、クズ、サトウキビ、テンサイ、ナス、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、サトイモ、コンニャク、ゴボウ、レンコン、キュウリ、カラスウリ、ヘチマ、フキ、タロイモ、キャッサバ、トマト、ニンジン、アスパラガス、カボチャ、ダイコン、カブ、アブラナ、キャノーラ、アルファルファ、ピーマン、トウガラシ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、レタス、マツナ、ホウレンソウ、シュンギク、ヨモギ、オクラ、シソ、ゴマ、クチナシ、ワサビ、カラシ、ショウガ、ミョウガ、ウコン、サフラン、タマネギ、ネギ、ニンニク、ワラビ、ゼンマイ、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、ササゲ、ベルベットビーン、カラスノエンドウ、ラッカセイ、クコ、ケシ、オリーブ、ハッカ、アーモンド、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ピーナッツ、ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシ、サトウヤシ、ニッパヤシ、パイナップル、カキ、リンゴ、ウメ、モモ、ビワ、ナシ、ブドウ、サクランボウ、イチゴ、キイチゴ、ブルーベリー、プルーン、ザクロ、イチジク、アケビ、グミ、マンゴスチン、キーウィフルーツ、メロン、柑橘、バナナ、パパイヤ、マンゴー、シロイヌナズナ、ナズナ、イヌナズナ、ユリ、バラ、サクラ、ヤマザクラ、ボタン、ツバキ、サザンカ、ラベンダー、フジ、シャクヤク、スミレ、パンジー、スイートピー、スイセン、ハナショウブ、アヤメ、バショウ、ショウブ、ミズバショウ、スイレン、ハス、ラン、アサガオ、キンモクセイ、アザミ、ガーベラ、ダリア、チューリップ、コスモス、ヒマワリ、タンポポ、カモミール、ローズマリー、ホオズキ、ハマナス、マタタビ、クローバー、ライラック、サボテン、ユキノシタ、ドクダミ、チャ、コーヒー、エゾマツ、カラマツ、アカマツ、タケ、イチョウ、スギ、ヒノキ、モミ、ゴム、ブナ、ケヤキ、クスノキ、モミジバフウ、ユーカリ、カエデ、ポプラ、アカシア、ゲッケイジュ、ワタ、イグサ、シバ、ベニバナ、クルミ、アボカドが挙げられるが、特にイネが好ましい。
【0020】
上述した形質転換対象の植物に導入する発現カセットは、ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有するものである。
【0021】
ここで、ペプチド伸長因子遺伝子とは、翻訳伸長因子とも呼称され、タンパク質生合成系においてペプチド鎖合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。ペプチド伸長因子遺伝子としては、上述した植物由来のペプチド伸長因子遺伝子、哺乳類由来のペプチド伸長因子遺伝子、糸状菌由来のペプチド伸長因子遺伝子、細菌由来のペプチド伸長因子遺伝子及び酵母由来のペプチド伸長因子遺伝子が知られている。
【0022】
ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとは、上述したペプチド伸長因子遺伝子の転写方向の上流に位置し、ペプチド伸長因子遺伝子の発現を制御している領域を意味する。ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとしては、上述したペプチド伸長因子遺伝子の発現を制御するプロモーターであれば、いずれの遺伝子のプロモーターを使用しても良い。例えば、ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとしては、イネ由来のペプチド伸長因子遺伝子1αプロモーター、イネ由来のペプチド伸長因子遺伝子1βプロモーター、トウモロコシ由来のペプチド伸長因子遺伝子1αプロモーター、シロイヌナズナ由来のペプチド伸長因子遺伝子1αプロモーター、シロイヌナズナ由来のペプチド伸長因子遺伝子1βプロモーター、ヒト由来のポリペプチド鎖伸長因子遺伝子1αプロモーター、アカパンカビ由来のペプチド伸長因子EF−1αプロモーター、大腸菌由来のtufA遺伝子プロモーター、酵母由来のペプチド伸長因子EF−1αプロモーター等を使用することができる。
【0023】
一例として、イネ由来のペプチド伸長因子遺伝子1αプロモーターの塩基配列を配列番号1に示す。なお、上述した種々の生物由来のペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターの塩基配列は、Genbank等の塩基配列情報を格納した公的データベースから容易に取得することができる。
【0024】
また、配列番号1に示した塩基配列や、公的データベースにペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとして登録された塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列からなり、且つ、プロモーターとして機能するポリヌクレオチドを、ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとして本発明において使用することができる。ここで複数の塩基とは、例えば2〜250個の塩基、好ましくは2〜125個の塩基、より好ましくは2〜50個の塩基、最も好ましくは2〜25個の塩基を意味する。
【0025】
また、配列番号1に示した塩基配列や、公的データベースにペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとして登録された塩基配列の相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、且つ、プロモーターとして機能するポリヌクレオチドを、ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターとして本発明において使用することができる。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition)等を参照して容易に設定することができる。
【0026】
特に、形質転換対象をイネとする場合には、イネ由来のペプチド伸長因子遺伝子プロモーターを使用することが好ましく、イネ以外の植物についても当該植物由来のペプチド伸長因子遺伝子プロモーターを使用することが好ましい。
【0027】
また、デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とは、デカプレニル2リン酸合成酵素遺伝子とも呼称され、10ユニットのイソプレン鎖を合成する活性を有する酵素をコードする遺伝子を意味する。デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子としては、特に限定されず従来公知の遺伝子を使用することができる。例えば、デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子としては、グルコン酸菌(Gluconobacter suboxydans)由来のddsA(decaprenyl diphosphate synthase:デカプレニル2リン酸合成酵素)遺伝子を使用することができる。また、デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子としては、グルコン酸菌由来のddsA遺伝子の他に、例えば、アグロバクテリウム由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、分裂酵母由来のdps1遺伝子,ヒト由来のDPS1遺伝子、アスペルギルス・クラバタス由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、ブレオマイセス・アルバス由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、ロイコスポリディウム・スコティ由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、ロドバクター・カプスラタス由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、サイトエラ・コンプリカータ由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子、パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子等を使用することができる。
【0028】
一例として、グルコン酸菌(Gluconobacter suboxydans)由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子(ddsA遺伝子)の塩基配列を配列番号2に示し、ddsA遺伝子によりコードされるデカプレニルジホスフェート合成酵素のアミノ酸配列を配列番号3に示す。なお、上述した種々の生物由来のデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、Genbank及びSwiss-Prot等の塩基配列情報を格納した公的データベースから容易に取得することができる。
【0029】
また、配列番号3に示したアミノ酸配列や、公的データベースにデカプレニルジホスフェート合成酵素として登録されたアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ、デカプレニルジホスフェート合成酵素活性を示すタンパク質を、デカプレニルジホスフェート合成酵素として本発明において使用することができる。ここで複数のアミノ酸とは、例えば2〜30個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、より好ましくは2〜15個のアミノ酸、最も好ましくは2〜7個のアミノ酸を意味する。
【0030】
また、配列番号2に示した塩基配列や、公的データベースにデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子として登録された塩基配列の相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、且つ、デカプレニルジホスフェート合成酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子として本発明において使用することができる。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition)等を参照して容易に設定することができる。
【0031】
一方、ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットは、当該プロモーター及び遺伝子の他に、選抜マーカー遺伝子及び発現調節領域等を有するものであっても良い。選抜マーカー遺伝子としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、選抜マーカー遺伝子としては、栄養要求性マーカー遺伝子、薬剤耐性マーカー遺伝子及び除草剤耐性マーカー遺伝子等を挙げることができる。特に、選抜マーカー遺伝子としては、bispyribac-sodium, pyrithiobac-sodium及びpyriminobac等のピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を付与することができる変異型アセト乳酸シンターゼをコードする遺伝子を使用することが好ましい。この変異型アセト乳酸シンターゼ遺伝子については、日本国特許第4091429号及び米国特許7,119,256を参照して、適宜使用することができる。
【0032】
また、発現調節領域としては、例えば、器官特異的に局在性を付与するペプチドをコードする領域、転写終結領域(ターミーネーター遺伝子)を挙げることができる。例えば発現調節領域としては、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドや小胞体局在化シグナルペプチドをコードする遺伝子を挙げることができる。特に、発現調節領域としては、ミトコンドリア局在化シグナルペプチド遺伝子を使用することが好ましい。換言すれば、上述したデカプレニルジホスフェート合成酵素をミトコンドリアに局在させることによって、種子内におけるCoQ10の蓄積量をより大幅に向上させることができる。
【0033】
以上のように構成される発現カセットを形質転換対象の植物に導入することで、種子内にCoQ10を高蓄積する形質転換植物を作製することができる。発現カセットを植物に導入する手法としては、従来公知の如何なる手法をも適用することができる。例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)を用いて外来遺伝子を標的植物細胞に導入する手法を使用することができる。
【0034】
また、発現カセットは、従来公知の発現ベクターにドライブし、上述したデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子をペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターの制御下に発現可能な発現ベクターとして植物に導入しても良い。具体的には、アグロバクテリウムのTiプラスミドのT-DNA配列を含んでいるバイナリーベクターに上述した発現カセットを挿入する。このTiプラスミドを大腸菌等に形質転換する。次に、大腸菌等で増殖させたバイナリーベクターを、ヘルパープラスミドを含んでいるアグロバクテリウム菌に形質転換する。そして、このアグロバクテリウム菌を、標的とする植物に感染させた後、形質転換植物を同定する。同定された形質転換植物が培養細胞の場合には、従来公知の手法により、その植物細胞を完全な植物に再生させることができる。
【0035】
また、上述した発現カセット又は当該発現カセットを含むベクターは、従来公知の手法を用いて直接的に植物に導入してもよい。さらに、上述した発現カセット又は当該発現カセットを含むベクターを用いて形質転換する方法としては、ポリエチレングリコール法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等を使用することができる。
【0036】
以上のように作製された形質転換植物は、その種子内にCoQ10を高蓄積している。したがって、形質転換植物から採取した種子は、CoQ10を高蓄積した種子として、そのまま或いは種々の加工を施した後、医薬用途に加えてサプリメントや化粧品として使用することができる。若しくは、形質転換植物から採取した種子からCoQ10を分離・精製することによって、CoQ10を製造してもよい。
【0037】
種子からCoQ10を製造する方法としては、形質転換植物から採取した種子を粉末化し、その後、有機溶媒により溶媒抽出する。ここで、種子を粉砕化する手法としては、特に限定されないが、乳鉢を用いて粉末化する方法、ボールミル装置を用いて粉末化する方法といった各種の粉末化方法を挙げることができる。また、有機溶媒による抽出工程に先立って、水処理、オートクレーブ処理、酵素処理を予備的に行ってもよい。例えば、酵素処理としては、粉末化した種子をセルロース加水分解酵素を含む緩衝液で処理する方法を挙げることができる。ここで、セルロース加水分解酵素とは、セルラーゼと称される一群の酵素と同義であり、分子内部から切断するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)と、糖鎖の還元末端と非還元末端のいずれから分解してセロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(EC 3.2.1.91)の両者を含む意味である。セルロース加水分解酵素としては、例えば、Aspergillus niger由来のセルラーゼ等を使用することができる。
【0038】
有機溶媒を利用したCoQ10の抽出処理において有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の低極性有機溶媒を使用することが好ましく、特にヘキサンが好ましい。有機溶媒の量は、特に限定されないが、種子の粉体20mgに対して5〜25ml、好ましくは10〜20ml、より好ましくは12〜16mlとする。
【0039】
以上の方法により、上述した形質転換植物の種子からCoQ10を製造することができる。製造されたCoQ10は、何ら限定されることなく医薬用途に加えてサプリメントや化粧品として使用することができる。特に、上述した形質転換植物の種子においては、例えば、デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子を通常の恒常発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来のS35プロモーター)の制御下に導入した形質転換植物の種子と比較して、CoQ10の蓄積量が有意に上昇している。したがって、上述した形質転換植物を使用することによって、単位作付面積当たりのCoQ10生産量を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<材料及び方法>
1. イネ形質転換用バイナリーベクタープラスミド
1-1 Takahashiらの方法で使用されたバイナリーベクタープラスミド
Takahashiらの方法(S. Takahashi et al., FEBS Letters, 580, 955-959 (2006))で使われたバイナリーベクタープラスミドのコンストラクトを図1に示した。なお、本バイナリーベクタープラスミドを持つアグロバクテリム菌により形質転換されたイネ種子のホモ個体(S14ddsA91-1)を、以下の実験の比較対照として使用した。
【0042】
1-2 ALSプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリーベクタープラスミド
本バイナリーベクタープラスミドの作製方法は特願2007-218986号で報告した。そのコンストラクトを図2に示した。特願2007-218986号においては、本バイナリーベクタープラスミドを持つアグロバクテリム菌で形質転換されたイネの後代種子(T1)のCoQ10含量を記述した。本明細書においては、その後代種子のCoQ10含量を記載した。
【0043】
1-3 EFプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリベクタープラスミド
イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーター、イネミトコンドリアリボソームタンパクのミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする0044NAであるS14Signal、酢酸菌の一種であるグルコン酸菌(Gluconobacter suboxydans)由来デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子(ddsA、アクセッション番号AB006850)、P10T(イネプロラミン10ターミネーター遺伝子)並びに植物形質転換用に開発されたバイナリーベクター(pPALS PSR-03(クミアイ化学工業株式会社製))を利用して、EF-1β pro:: S14 Signal::ddsA::P10Tカセットを持つバイナリーベクターのpPALS R-3を作出した。
【0044】
具体的には、図3-1及び図3-2に示す方法で作製した。35Spro::S14 Signal::ddsA::NOSterカセットが組込まれたpUC18ベクターをNot I処理/Klenow Fragmentによるblunt化後、Sal I処理を行ないS14 Signal::ddsA部分を単離した。一方、pUC18ベクターをSal I / Sma I処理し、平滑末端及びSal I突出末端を持つS14 Signal::ddsAフラグメントとライゲートし大腸菌HB101株に形質転換した。この段階でpUC18上にS14 Signal::ddsAカセットが乗る形となった[pUC18(S14::ddsA)]。
【0045】
他方、pPALS R-3をBam HI/Eco RI処理しALS::P10T部分を切り出し、pUC19ベクター上のBam HI/Eco RI部位に組込み大腸菌HB101株に形質転換した。この段階でpUC19上にALS::P10Tカセットが乗る形となった[pUC19(ALS::P10T)]。
【0046】
先のpUC18(S14::ddsA)ベクターをHind III/Sac I処理しS14 Signal::ddsA部分を切り出した。次にpUC19(ALS::P10T)ベクターもHind III/Sac I処理しALS部分を除去し、S14 Signal::ddsAフラグメントをライゲートションし大腸菌HB101株に形質転換した。この段階でpUC19上にS14 Signal::ddsA::P10Tカセットが乗る形になった[pUC19(S14::ddsA::P10T)]。
【0047】
pUC19(S14::ddsA::P10T)ベクターをBlp I処理/ T4 DNA polymeraseによるblunt化後、Sal I処理を行なった。一方、EF-1βプロモーターが組み込まれたpUC19ベクター(KLB-150) をBgl II処理/ T4 DNA polymeraseによるblunt化後、Sal I処理を行いEF-1βプロモーター断片を取得し、平滑末端及びSal I突出末端を持つpUC19(S14::ddsA::P10T)ベクターとライゲートし大腸菌HB101株に形質転換した。この段階でpUC19上にEF-1βpro::S14 Signal::ddsA:: P10Tカセットが乗る形となった(KLB-175)。
【0048】
次に、EF-1βpro::S14 Signal::ddsA:: P10Tカセットが組み込まれたpUC19ベクター(KLB-175)を鋳型にEF:S14:ddsA:P10-1(5'-AAAAAAGAATTCCCGATGTTCAATGACCGAACGA-3'、下線Eco RI認識配列)/EF:S14:ddsA:P10-2(5'-AAAAAACCTGCAGGTGTACAGCATGGCTTTCAAGAGGG-3'、下線Sse8387I認識配列)のプライマーセットでPhusion DNA polymerase(Finnzymes社)を用いPCRを行い{反応条件、98℃(5min)→[98℃(30sec)→60℃(30sec)→72℃(75sec)、25cycles]→72℃(7min)}、EF-1βプロモーターの5’-末端からP10ターミネーターの3’-末端に至る領域を増幅した。これらのプライマーにはそれぞれEco RIとSse8387I認識配列を付与してあったので、このPCR生成物とpPALS R-3ベクターを同制限酵素で消化後、ライゲーションし、大腸菌HB101株に導入した。この段階でpPALS R-3上にEF-1βpro::S14 Signal::ddsA:: P10Tカセットが乗る形となった(KLB-183)。得られたKLB-183の全塩基配列を配列番号1に示した。
【0049】
2. EFプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリーベクターのアグロバクテリウム菌への導入
エレクトロポレーション用アグロバクテリウムコンピテントセルの作成方法を以下に示した。
【0050】
1mlのYM液体培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール含有)でアグロバクテリウム(EHA105株)を27℃で24時間前培養した。前培養液1mlを、300ml容三角フラスコに入れた150mlのYM液体培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール含有)に加え、27℃で24時間本培養を行った (OD600=1.0〜1.5)。培養液を500ml容遠心管に移して10000 rpm、4℃で20分間程度遠心し、菌体を沈殿させた。その後、上清を捨て、氷上で40 mlの氷冷した10% グリセロール(滅菌済み)を加え、菌体を再懸濁した後、10000 rpm、4℃で12分間遠心した。この操作を2回行った後、氷上で20 mlの氷冷した10% グリセロール(滅菌済み)を加え、菌体を再懸濁した後、50ml容遠心管に移して10000 rpm、4℃で12分間遠心した。遠心後、上清を捨て、2 mlの氷冷した10% グリセロールに懸濁した後、20μlの懸濁液を1.5mlエッペンチューブに分注して-80℃で保存した。
【0051】
エレクトロポーレーションおよびpPALSベクター導入アグロバクテリウムの選抜方法を以下に示した。
【0052】
pPALSベクタープラスミド(100ng)を氷上で溶解した20μlのエレクトロポレーション用アグロバクテリウムコンピテントセルに加え、穏やかに混和した。コンピテントセル混合液を、氷冷したキュベットに移し、Gene Pulser Xcell(バイオラッド ラボラトリーズ社製)を用いて25μF、1.8kV、200Ωの条件でエレクトロポレーションを行った。その後、速やかに1mlのYM液体培地(培地1L中に0.4g yeast extract(DIFCO社製)、10g mannitol、0.1g NaCl、0.1g MgSO4、0.5g K2HPO4.3H2Oを含む。pHは7.0に調整した。)をキュベットに加え混合した後、全量を1.5ml エッペンチューブに移して、27℃、250rpmで3時間振盪培養を行った。培養終了後、YM寒天培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm テトラサイクリン含有)に全量を塗布し、25℃で4日間振盪培養を行った。
【0053】
3. EFプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリーベクターを保持するアグロバクテリウム菌によるイネ形質転換
(種子の滅菌)
イネの種子を70%エタノールで30秒、続けて2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で20分間滅菌した後、滅菌水で洗浄した。
【0054】
(アグロバクテリウムを感染させるイネ種子の前培養)
滅菌したイネの種子を、2,4-Dを含むN6D培地に置床し、34℃明条件下で5日間前培養しアグロバクテリウムによる感染に供した。
【0055】
(アグロバクテリウムの前培養)
感染3日前に、アグロバクテリウムをリファンピシン(25mg/L)、クロラムフェニコール (25mg/L)、カナマイシン(50mg/L)を含むAB培地に塗布し、24℃、暗所で3日間培養した。
【0056】
(アグロバクテリウムの感染と共存培養)
5日間培養したイネ種子から誘導された胚盤由来カルスのシュートと胚乳部分を除去し、N6D培地に仮置きした。50mlのファルコンチューブにAAM溶液を40ml入れ、アセトシリンゴンDMSO溶液を20mg/l(最終濃度)になるように加えた。アセトシリンゴン溶液は0.1gのアセトシリンゴンを1mlのDMSOに溶解した後、フィルター滅菌を行って調製した。前培養したアグロバクテリウムを滅菌済ミクロスパーテルで1/4匙程度かきとり、AAM溶液に懸濁し、アグロバクテリウムの塊が残らないようにピペットでゆるやかにピペッティングした。N6D培地に仮置きしたカルスを新しい50mlファルコンチューブに入れ、ここに上述したアグロバクテリウム懸濁液を加え、1.5分間ゆっくりと転倒混和した。その後、懸濁液をカルスごと滅菌済茶こしへ注いだ。カルスが入った茶こしを滅菌済キムタオルの上において余分な水分を除去した後、2N6-AS培地にカルス同士が接触しないように置床し、24℃の暗所で3日間共存培養した。
【0057】
(アグロバクテリウムの除去と選抜)
3日間アグロバクテリウムと共存培養したカルスを50ml容ファルコンチューブへ移し、カルベニシリン(500mg/l)を含む滅菌水で洗浄液が濁らなくなるまで洗浄した。カルスを滅菌済キムワイプに移し余分な水分を除去した後、カルベニシリン400mg/lと選抜試薬0.5μM ピリミノバック(以下PMと記す)を含むN6D培地に、1プレートに14カルスとなるように置床した。その後、34℃、明所で一ヶ月間培養した。なお、2週間経過した時点で継代培養を行った。
【0058】
(形質転換体の再分化および鉢上げ)
N6D選抜培地上で増殖が認められたカルスはPMを含まない再分化培地(RE-III)に移植した。再分化した植物体は根の成長を促進するためさらにホルモンフリー培地で生育し、土に移植し成熟させた。形質転換植物のT0世代は自家受粉させ、T1種子を得た。使用した培地の組成は表1に記載した。
【0059】
【表1】

*以外の成分濃度はmg/Lで示した。
【0060】
4. イネへのT-DNA領域の導入確認
DNAをDNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて葉から抽出し、PCR解析に供した。ALSとP10ターミネーターの連結部を確認するために、フォワードプライマーとして(3-1-4、5'-AGGTGTCACAGTTGTTG-3':配列番号6)、リバースプライマーとして(pTN3、5'-GCACACGATAGTATGCAACACC-3':配列番号7)を使用した。ddsAとp10ターミネーターの連結部を確認するためには、フォワードプライマーとして(ddsA3S、5'-TGGGAGCGCGTCATTGGAGAAG-3':配列番号8)、リバースプライマーとしてpTN3を使用した。PCR反応は95℃で2分行った後、95℃で30秒、54℃で1分、72℃で1分を35サイクル行い、最終伸張反応は72℃で10分行った。
【0061】
5. コエンザイムQ10の抽出および定量
玄米1粒を乳鉢で粉砕した後、1.5 mlのエッペンドルフチューブに入れ、そこにpH 5.0の酢酸buffer (1 ml)に溶解させたセルラーゼ(Aspergillus nigar由来、SIGMA社製)を添加した。添加後、37℃の温浴にエッペンドルフチューブが完全に漬かるように横に寝かせて入れ遮光して24時間静置した。反応終了後、内部標準物質としてビタミンK1を加え、暗所でヘキサン4 mlを加え、30秒間撹拌した後、2000rpmで2分間遠心を行い、ヘキサン層を3 ml回収した。さらにヘキサン4 mlで2回(合計3回)同様に抽出を行った。抽出したヘキサン層をナス型フラスコに集め、エバポレーターで濃縮乾固した。残渣をアセトニトリル:メタノール= 1:1の混合溶液2 mlに溶解し、その50μlをHPLCに注入した。HPLC分析はHP-1100 (Hewlett Packard社製)によりCAPCELL PACK C8 (資生堂社製)カラムを用いて行った。移動相にはメタノール/アセトニトリル混合溶液を使用し、メタノール:アセトニトリル(60:40)から流速1.0 ml/minで15分かけてメタノール:アセトニトリル(90:10)まで変化させた。コエンザイムQ10の検出は可変波長型UV-VIS(測定波長 275nm)の条件で行った。
【0062】
6. イネ葉部及びカルスを用いたin vivo ALS検定
以下の方法に従ってイネ葉部を処理し、ALS活性を測定した。先ず、形質転換イネから約150mgの葉を採取し細かく刻んでシャーレに入れた。ここに処理溶液(25%MS培地用混合塩類、500μM(最終濃度) 1,1-cyclopropanedicarboxilic acid(CPCA)、5μg Triton X-100 、0.5μM(最終濃度)ピリミノバック(PM)を加え30℃、明条件(14000lux)で1日静置した。反応後、処理葉を1.5mlマイクロチューブに入れ、0.025%Triton X-100を含む蒸留水200μlを加えた。60℃で5分間静置した後、超音波(周波数40kHz)で20分抽出した。200μlの上清を別のチューブに移し、20μlの5%(v/v)の硫酸を加え、60℃で30分間静置した。その後、100μlの0.5%(w/v)クレアチン溶液および2.5N NaOH溶液に溶かした100μlの5%(w/v)1―ナフトール溶液(用時調製)を加え37℃で30分間静置した後、530nmの吸光度を測定した。
【0063】
カルスの場合は次の方法でALS活性を測定した。形質転換カルスの一部(50mg程度)を500μM 1,1-cyclopropanedicarboxylic acid (CPCA)及び0.5μM PMを含むN6D培地に置床し、30℃、暗条件で24時間静置した。反応後、処理カルスを1.5mlマイクロチューブに入れ、0.025%Triton X-100を含む蒸留水220μlを加えた。60℃で5分間静置した後、超音波(周波数40kHz)で25分抽出した。200μlの上清を別のチューブに移し、20μlの5%(v/v)の硫酸を加え、60℃で30分間静置した。その後、100μlの0.5%(w/v)クレアチン溶液および2.5NNaOH溶液に溶かした100μlの5%(w/v)1-ナフトール溶液(用時調製)を加え37℃で30分間静置した後、530nmの吸光度を測定した。
【0064】
なお、500μM CPCA及び0.5μM PMを含むN6D培地は以下の操作に従って作製した。CHUの粉(1袋)、ミオイノシトール100mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸塩0.5mg、チアミン塩酸塩1mg、2,4-D 2mg、カザミノ酸300mg、グリシン2mg、L-プロリン2.8g、スクロース30g、ゲルライト4gを1Lの蒸留水に溶かしpH5.8に調整した。オートクレーブ滅菌をした後、55℃まで培地を冷まし500μM CPCA(最終濃度)及び0.5μM PM(最終濃度)を加えた。シャーレに培地を30mlずつ分注し500μMCPCA及び0.25μM PSを含むN6D培地を作製した。
【0065】
7. ピリチオバックナトリウム塩(PS)に対する形質転換イネの感受性試験
形質転換イネの種子を5%過塩素酸ナトリウムに浸漬し、引き続き蒸留水で数回洗浄した。洗浄後、蒸留水に27℃で3日間浸漬して発芽させた。発芽した種子は所定濃度のPSを含むHoagland培地に播種し、27℃で7日間栽培を行い、7日後に生育を観察した。
【0066】
8. RT-PCR解析
上記のALSプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリーベクターで形質転換したイネ(ALSCoQ6-4とALSCoQ28-5)及び陰性対象として野生型イネ、陽性対象としてPSR-04-7-9(ALSプロモーターでW548L/S627I 2点変異型イネALSをドライブした形質転換ホモ接合体)を隔離温室で栽培し、4-5葉期に成長した植物の4葉からRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を使用して total RNAを抽出した。PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ)を使用して、逆転写反応により各2μgのtotal RNAからcDNAを合成した。逆転写反応は37℃で15分の条件で行い、続いて85℃、5秒で逆転写酵素を熱失活させた。定量RT-PCRはThermal Cycler Dice TP800(タカラバイオ)を使用してSYBR premix Ex Taq(タカラバイオ)を用いて行った。反応条件は、95℃で10秒の初期変性後、95℃で5秒、60℃で30秒での40サイクル行った。内部標準遺伝子としてActin1遺伝子を使用した。使用したプライマーセットは以下に記載した。
ALS遺伝子(アクセッション番号:AB049822)増幅プライマー(134bp DNA断片)
フォワードプライマー(ALS-q1S:5'-GTGCACATTGACATTGATC-3':配列番号9)
リバースプライマー(ALS-q1A:5'-ATCAGAACTTGTCTTTGTTGTGCTC-3':配列番号10)
ddsA遺伝子(アクセッション番号:AB006850)増幅プライマー(101bp DNA断片)
フォワードプライマー(ddsA-q1S:5'-TGGAGCGGTTTGGCACCAATC-3':配列番号11)
リバースプライマー(ddsA-q1A:5'-ATCACCAACGGTCTTGCCCAAA-3':配列番号12)
Actin-1遺伝子(アクセッション番号:AK100267)増幅プライマー(116bp DNA断片)
フォワードプライマー(Act-q1S:5'-CCCAAGAATGCTAAGCCAAGAG-3':配列番号13)
リバースプライマー(Act-q1A:5'-TGATAACAGATAGGCCGGTTGAA-3':配列番号14)
【0067】
<結果>
1. ALSプロモーターでドライブしたddsAを持つバイナリーベクターで形質転換したイネの結果
1-1.T1種子中のCoQ10含量
各組換え個体の種子10粒以上から1粒毎にCoQを抽出してHPLCで定量した。その中で最も多くのCoQ10蓄積が認められた種子でのCoQ10含有量を表2に示した。検定を行った22個体すべてに、CoQ10の蓄積が認められ、このうち、ALSCoQ-6で最も多くのCoQ10の蓄積が認められた(10.5μg/g dry weight)。
【0068】
【表2】

【0069】
1-2 T2種子のCoQ10含量
ALSCoQ-6およびALSCoQ-28のT1種子をポットに播種し、隔離温室で栽培を行った。草丈が10cm程度に生育した時点で、実験方法に記載したALSとP10ターミネーターの連結部を増幅する 3-1-4/pTN3のプライマーセットでPCRによる導入遺伝子の確認を行った。その結果、PCRで目的のサイズのDNA断片が検出され、ALSCoQ-6のホモまたはヘテロ接合体と判定された6個体(ALSCoQ-6-1〜6)およびヌル個体と判定された1個体(ALSCoQ-6-7)とALSCoQ-28のホモまたはヘテロ接合体と判定された6個体(ALSCoQ-28-1〜6)のT1植物を選抜した後、1/5000ワグネルポットに移植して隔離温室で栽培し、T2種子を得た。得られた種子からカルスを誘導して0.5μMのPM存在下でin vivo ALS検定を行った。その結果、ALSCoQ-6-4とALSCoQ-28-5の種子から誘導されたカルスはすべてPM抵抗性を示したことからホモ接合体と判断された。一方、PCRの結果からヌル個体と判断されたALSCoQ-6-7の種子から誘導されたカルスはすべてPM感受性を示した。その他の個体ではすべてPM抵抗性を示すカルスと感受性を示すカルスが3:1の割合で分離したことからヘテロ接合体と判断された(表3)。
【0070】
【表3】

【0071】
次にホモ接合体と判断されたALSCoQ-6-4と28-5、ヘテロ接合体と判断されたALSCoQ-6-1、6-2および28-1、ヌル個体と判断されたALSCoQ-6-7の種子でのCoQ10含量を定量した(図4)。その結果、ALSCoQ-6-4と28-5は検定したすべての種子でCoQ10の蓄積が確認され、ホモ接合体であることが明らかとなった。他の個体のCoQ10の蓄積もin vivo ALS検定の結果と一致するものであった。すなわち、ヘテロ接合体と判断された系統(ALSCoQ-6-1、6-2、28-1)はCoQ10を蓄積した種子と蓄積しない種子に分離し、ヌルと判断された系統(ALSCoQ-6-7)はすべての種子でCoQ10の蓄積が認められなかった。ホモ接合体であることが明らかとなったALSCoQ-6-4と28-5においても種子間でCoQ10含量のばらつきは認められたが、平均するとそれぞれ9.9μg/g dry weight、9.5μg/g dry weightのCoQ10を蓄積しており、T1種子で予測した含量(ALSCoQ6、10.5 μg/g dry weight;ALSCoQ28、8.1 μg/g dry weight)に近い値を示した(図4)。この含量は、Takahashiらの方法によって作出された35SプロモーターでddsA遺伝子を過剰発現した形質転換体中、もっとも高いCoQ10を蓄積した系統のT2ホモ接合体の種子(S14ddsA91-1)を用いて同様の手法で測定した結果(11.2μg /g dry weight)とほぼ同程度であった(表2)。なお、図4に表として示した結果は、8粒の平均値±標準偏差である。
【0072】
1-3. T2ホモ接合体のPC系除草剤感受性試験
ALSCoQ-6-4とALSCoQ-28-5のALS阻害剤に対する感受性を調べるために、それぞれの種子を、ピリチオバックナトリウム塩(以下PSと記載)を含む培地に播種し7日間栽培を行った後、生育を観察した。その結果、試験した最低濃度(0.01μM)でも薬剤無添加区に比べて生育抑制が認められ、0.1μMのPS存在下では茎葉部、根部ともに強い生育抑制が観察された。1μM 以上のPS存在下では完全に生育が抑制された。これら形質転換体の薬剤に対する感受性は野生型イネと同じであった(図5-1及び図5-2)。この結果、ddsA遺伝子と同時にイネに導入された選抜マーカー遺伝子はカルス特異的プロモーターにより植物体では発現していないと考えられた。
【0073】
1-4. T2ホモ接合体でのALSおよびddsAの発現
ALSCoQ-6-4とALSCoQ-28-5でのS627I OsALSタンパク質の発現を確認するため、葉を用いたin vivo ALS検定を行った。その結果、PM非添加区では赤色発色が認められたのに対して、内在性のALSが阻害された0.15μM PM添加区では野生型イネと同様に赤色発色が認められなかった。なお、同様に検定したPSR04-7-9(ALSプロモーターでW548L/S627I OsALSをドライブした形質転換ホモ接合体)はPM添加区でも赤色発色が認められた。これらの結果からALSCoQ-6-4とALSCoQ-28-5は植物体ではS627I OsALSタンパク質が発現していないことが確認された(表4)。
【0074】
【表4】

【0075】
次に、ALS遺伝子及びddsA遺伝子の発現を、リアルタイムPCRを用いて確認した。その結果、陽性対象のPSR04-7-9では野生型の約7倍のALS遺伝子の発現が認められたのに対して、ALSCoQ-6および28のALS遺伝子の発現は野生型と変わらなかった。従って、RNAレベルでも変異ALS遺伝子が発現していないことが明らかとなった。一方、野生型およびPSR04-7-9でのddsA遺伝子の発現は確認されなかったのに対してALScoQ-6および28では有意な発現が確認された。したがって、形質転換体でddsA遺伝子が発現してCoQ10が蓄積していることが明確となった(図6)。なお、図6に示した棒グラフは、3回の独立した試験の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示している。
【0076】
2. EFプロモーターでドライしたddsAを持つバイナリーベクターで形質転換したイネの結果
2-1 EFプロモーター::S14::ddsA::P10ターミネーターカセットを持つR-3でのイネ形質転換
EFプロモーター::S14::ddsA::P10ターミネーターカセットを持つR-3でイネ形質転換を行い、0.5μM ピリミノバック(PM)含有N6D培地での選抜を行った。その結果、約1ヶ月半の選抜で57%のカルス(126粒の種子から誘導したカルスのうち72カルス)で増殖が認められ遺伝子が導入されたと考えられた。増殖が認められたカルスはすべて再分化培地に移動し、最終的に58系統の再分化個体(再分化効率64%)を得た。これらはすべてホルモンフリー培地上でシュートおよび根の生育が認められた。このうち任意の30個体でALSとPT10ターミネーターの間を増幅するプライマーセット(3-1-4/pTN3)及びddsAとPT10ターミネーターの間を増幅するプライマーセット(ddsA 3S/pTN3)を用いてPCRを行い、すべての個体で目的の塩基数に相当するPCR産物(428bpおよび289bp)を確認した(図7及び8)。
【0077】
なお、図7において、LBはレフトボーダーを意味し、RBはライトボーダーを意味し、callus sp proはカルス特異的プロモーターを意味し、S627IOsALSはS627I変異ALS遺伝子を意味し、P10Tは10Kdaプロラミンターミネーターを意味し、EFproはイネEFプロモーターを意味し、S14はイネrps14遺伝子のミトコンドリア移行シグナルを意味し、DdsAはデカプレニル2リン酸合成酵素を意味する。また、図7において太線部分はゲノムDNAに導入されたT-DNAを確認するためPCRで増幅した領域を示す。
【0078】
なお、図8において、Mレーンは100bp DNA マーカーを示し、No.1-6レーンは0.5μM ピリミノバック(PM)で選抜された形質転換イネを示し、No.7レーンは野生型イネを示し、M’レーンは200bp DNA マーカーを示す。
【0079】
2-2. T1種子でのCoQ10含量の測定
作出した形質転換当代の植物を1/5000ワグネルポットに移植して隔離温室で栽培し、T1種子を採種した。得られたT1種子を各系統10粒ずつ1粒毎にCoQを抽出してHPLCで定量した。その結果、野生型イネがCoQ9と微量のCoQ10を含んでいるのに対して、形質転換体では解析したすべての系統(22系統)で野生型とは対照的に微量のCoQ9とCoQ9をはるかに上回るCoQ10が蓄積していることが確認された(図9)。なお、図9においてAは野生型を示し、Bは形質転換体を示す。各系統とも1粒ごとにCoQ10の蓄積にばらつきが認められ、CoQ10の蓄積が認められない種子も存在した(図10)。なお図10に示した結果は各系統10粒の種子を1粒ごとに定量した結果である。このばらつきは、導入された遺伝子を同一遺伝子座に一対持つホモ接合体(homo)、1個しか持たないヘテロ接合体(hetero)、又は全く持たないヌル(null)の3種のT1種子が混在することによるものであり、上述したように、各系統の最も多くの蓄積が認められた種子でのCoQ10含量が最終的なホモ個体での蓄積に相当すると判断された。そこで、各系統で最も高いCoQ10の蓄積が確認された種子で比較したところ、20μg/g dry weight 以上のCoQ10を蓄積した系統が3系統(EFCoQ-21、26、28)確認された(表5)。
【0080】
【表5】

【0081】
最も高いCoQ10の蓄積が確認されたEFCoQ-21のCoQ10含量(24.2μg/g dry weight)はALSまたはCaMV35Sプロモーターでドライブした形質転換体で最も高い蓄積を示した系統(ALSCoQ-6及びS14ddsA91-1)の2.2〜2.3倍に達した。また、全体的にEFプロモーターでドライブした形質転換体でのCoQ10含量がALSプロモーターでドライブした形質転換体より高いことからEFプロモーターを使用することによってCoQ10含量を増加できることが明確となった(図11)。
【0082】
なお、図11においてAは、ALSpro::S14::ddsAカセットを導入した形質転換体の22系統で1粒ごとに定量した結果である。また、図11においてBは、EFpro::S14::ddsAカセットを導入した形質転換体の22系統で1粒ごとに定量した結果である。
【0083】
<考察>
イネALSプロモーターは未熟種子のような未成熟で細胞分裂が盛んな器官において強く発現することが明らかになっている(Osakabe et al., Mol. Breed. 16: 313-320 (2005))。一方、CoQの生合成も細胞分裂の盛んな器官や組織で促進されると考えられる。したがって、ALSプロモーターによって発現制御されたddsA遺伝子がCoQ10の生合成の活発な時期に効率的に発現することによって種子におけるCoQ10の蓄積量が、植物形質転換で汎用的に利用されているCaMV35Sプロモーターにより発現制御した場合に比べて増大することが期待された。しかしながら、イネALSプロモーターを使用した場合には、ホモ接合体の種子におけるCoQ10含量の増加までは成し得ず、CaMV35Sプロモーターを使用した場合とほぼ同等のCoQ10が種子に蓄積した。
【0084】
一方、EFプロモーターで発現制御したddsA遺伝子を持つバイナリーベクターで形質転換したイネの中で、最も高いCoQ10の蓄積が認められたEFCoQ-21は、種子1gあたり約24μgのCoQ10を含んでいた。これはT1種子での結果ではあるが、前述したように、ホモ接合体の蓄積量と大きな隔たりはないと考えられた。この蓄積量はTakahashiらの方法で作出された組換えイネの約2倍量に相当し、EFプロモーターで発現制御したddsA遺伝子を利用すれば、従来法よりも多くのCoQ10をイネ種子中に蓄積できることが明らかとなった。
【0085】
今後さらにCoQ10含量を増加させる方法としては次のようなものが考えられる。これまでに、酵母由来のポリプレニルトランスフェラーゼ(PPT)をタバコに導入することによってCoQ10含量が葉で約6倍増加することが報告されている(Ohara et al., Plant J. 40: 734-743 (2004))。PPTはポリプレニル2リン酸と4−ヒドロキシ安息香酸の結合を触媒するCoQ合成の律早酵素であることから(図13)、ddsA遺伝子と同時にppt遺伝子を導入することでCoQ10含量の増加が期待できる。またPPTは異なる長さのプレニル2リン酸に対して広い基質特異性を示すことから(Suzuki et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 58: 1814-1819 (1994))、イネにおいてデカプレニル2リン酸と4−ヒドロキシ安息香酸の結合を効率的に触媒するPPTを探索することによってCoQ10含量が増加する可能性も考えられる。イネPPTが近年報告されている(Ohara K et al., Plant Cell Physiol. 47: 581-590 (2006))ことから、ddsAと同時発現させることでCoQ10の蓄積量を更に向上させることが可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】Takahashiらの方法(S. Takahashi et al., FEBS Letters, 580, 955-959 (2006))で使われたバイナリーベクタープラスミドのコンストラクトを示す模式図である。
【図2】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドのコンストラクトを示す模式図である。
【図3−1】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドのコンストラクトを示す模式図である。
【図3−2】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドのコンストラクトを示す模式図である。
【図4】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換したT2種子のCoQ10含量を示す特性図である。
【図5−1】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した植物体におけるPS感受性試験の結果を示す特性図である。
【図5−2】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した植物体におけるPS感受性試験の結果を示す特性図である。
【図6】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した形質転換体におけるALS遺伝子及びddsA遺伝子に対する定量的RT-PCRの結果を示す特性図である。
【図7】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した際にベクター導入を確認するためのPCRで増幅した領域を示す模式図である。
【図8】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した際にベクター導入を確認するためのPCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図9】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換した植物及び野生型について、CoQ9及びCoQ10の蓄積をHPLCで確認した結果を示す特性図である。
【図10】イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換したT1種子についてCoQ10の蓄積をHPLCで確認した結果を示す特性図である。
【図11】イネALSプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換したT1種子と、イネエロンゲーションファクター(EF)βプロモーターの発現制御下にddsA遺伝子を有するバイナリーベクタープラスミドで形質転換したT1種子についてCoQ10蓄積量を比較した結果を示す特性図である。
【図12】CoQ10とイソプレノイドの生合成経路を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入してなり、種子中にユビキノン10を蓄積する形質転換植物。
【請求項2】
上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする請求項1記載の形質転換植物。
【請求項3】
選抜マーカーとして、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入されていることを特徴とする請求項1記載の形質転換植物。
【請求項4】
形質転換イネであることを特徴とする請求項1記載の形質転換植物。
【請求項5】
ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入する、種子中にユビキノン10を蓄積する形質転換植物の製造方法。
【請求項6】
上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする請求項5記載の形質転換植物の製造方法。
【請求項7】
選抜マーカーとして変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入され、ピリミジニルカルボキシ除草剤により上記発現カセットが導入された個体を選抜することを特徴とする請求項5記載の形質転換植物の製造方法。
【請求項8】
形質転換イネであることを特徴とする請求項5記載の形質転換植物の製造方法。
【請求項9】
ペプチド伸長因子遺伝子のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現可能なデカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子とを有する発現カセットを導入してなる形質転換植物から種子を採取する工程と、
採取した種子に含まれるユビキノン10を抽出する工程とを含むユビキノン10の製造方法。
【請求項10】
上記発現カセットは、上記デカプレニルジホスフェート合成酵素遺伝子の上流に、ミトコンドリア局在化シグナルペプチドをコードする領域を更に有することを特徴とする請求項9記載のユビキノン10の製造方法。
【請求項11】
上記形質転換植物は、選抜マーカーとして変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子が更に導入されていることを特徴とする請求項9記載のユビキノン10の製造方法。
【請求項12】
上記形質転換植物は形質転換イネであることを特徴とする請求項9記載のユビキノン10の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−46043(P2010−46043A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215652(P2008−215652)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】