説明

形質転換酵母を用いるセラミドの製造方法

【課題】
本発明は、ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明の製造方法は、1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;及び2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層には、水分を保持する保湿機能と外部刺激から肌を保護するバリア機能を司る角質層という組織が存在する。角質層は角質細胞と天然保湿因子、そして細胞間脂質から構成されているが、その中でも特に細胞間脂質の約半分を占めるセラミドが、それらの機能に極めて重要な役割を担っている。例えば、アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症に共通する特徴は保湿能の著しい低下であるが、その主因は脂質代謝酵素異常によるセラミド量の減少であることが知られている。またセラミドはバリア機能の増強・美白作用やメラニンの生成を抑制する作用があることも確認されている。セラミドは外部から補給することが可能な物質である。
【0003】
J Invest Dermatol. 96:523-526, 1991(非特許文献1)、Arch Dermatol Res. 283:219-223,1991(非特許文献2)は、「アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症におけるセラミド量の減少」について、J Dermatol Sci. 1:79-83, 1990(非特許文献3)、Acta Derm Venereol. 74:337-340, 1994(非特許文献4)は、「セラミド量の減少と脂質代謝酵素異常」について、Contact Dermatitis. 45:280-285, 2001(非特許文献5)、J Eur Acad Dermatol Venereol. 16:587-594, 2002(非特許文献6)は、「セラミドによるバリア機能の回復」について、そして、Cell Signal 14:779-785, 2002(非特許文献7)は、「セラミドによるメラニン生成の抑制」について開示している。
【0004】
近年では、乾燥敏感肌を伴う皮膚疾患に対する治療薬あるいは化粧品・美容健康食品の素材として大変注目されている。実際、化粧品、食品・サプリメント等として、セラミドを配合した多くの製品がすでに市販されており、さらに、セラミド原料市場規模は拡大傾向が続いている。
【0005】
セラミドの原料としては、これまで牛などの動物由来のものが使われていたが、感染症の問題が指摘され、現在では米、小麦、大豆や芋などの植物性セラミドが主流である。最近の基礎的研究(J. Clin. Invest. 112:1372-1382, 2003(非特許文献8))により、セラミドの構造が皮膚の保湿・バリア能に極めて重要であることが明らかとなり、ヒトのセラミドと構造が異なる植物性セラミドが機能性の高い脂質であるかどうか疑問が残る。しかも動植物に存在するセラミドは微量で抽出・精製が困難であり、生産性が悪い上コストが高いことから、それらを克服することが可能な新しい生産技術の開発が強く望まれている。
【0006】
図1に示したように、スフィンゴ脂質合成・代謝経路においてジヒドロスフィンゴシン(DHS)生合成以降の反応は、ヒトを含む高等動物細胞と酵母の間で大きく異なることが知られている。また、スフィンゴ脂質合成・代謝経路において、各工程において機能する各酵素タンパク質及び当該タンパク質をコードする遺伝子についても、ある程度知見が得られている(Biochemistry. 41:15105-15114. 2002(非特許文献9);J Biol Chem. 277:25512-25518,2002(非特許文献10);Yeast 9: 267-277,1993(非特許文献11);J Biol Chem 272:29704-29710,1997(非特許文献12);J Biol Chem 275:31369-31378, 2000(非特許文献13);J Biol Chem 275:39793-39798, 2000(非特許文献14))。
【非特許文献1】J Invest Dermatol. 96:523-526, 1991
【非特許文献2】Arch Dermatol Res. 283:219-223,1991
【非特許文献3】J Dermatol Sci. 1:79-83, 1990、
【非特許文献4】Acta Derm Venereol. 74:337-340, 1994
【非特許文献5】Contact Dermatitis. 45:280-285, 2001、
【非特許文献6】J Eur Acad Dermatol Venereol. 16:587-594, 2002
【非特許文献7】Cell Signal 14:779-785, 2002
【非特許文献8】J. Clin. Invest. 112:1372-1382, 2003
【非特許文献9】Biochemistry. 41:15105-15114. 2002
【非特許文献10】J Biol Chem. 277:25512-25518,2002
【非特許文献11】Yeast 9: 267-277,1993
【非特許文献12】J Biol Chem 272:29704-29710,1997
【非特許文献13】J Biol Chem 275:31369-31378, 2000
【非特許文献14】J Biol Chem 275:39793-39798, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法を目的とする。本発明の製造方法は、
1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;及び
2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること
を含む。
【0008】
本発明において、好ましくは、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)は、配列番号2のアミノ酸配列又は配列番号2において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0009】
本発明において、好ましくは、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)が、配列番号6のアミノ酸配列又は配列番号6において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0010】
本発明の方法の好ましい一態様において、さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させることを含む。
【0011】
本発明の方法の好ましい一態様において、さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させることを含む。
本発明の方法の好ましい一態様において、さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させることを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題解決のために鋭意研究に努めた結果、本発明を想到した。
セラミドの構造は細胞が持っている酵素の種類によって決定されており生物種で異なる。酵母は、高等動物の主なセラミドであるセラミドNSを合成する酵素を持っていない。そのため酵母でセラミドNSを合成させるためには、それに必要な酵素を酵母に導入する必要がある。さらに、宿主細胞には宿主由来のセラミド合成経路が存在する。よって、宿主由来のセラミド合成経路を抑制することにより、セラミドNSを効率よく選択的に合成させる。
【0013】
具体的には、図1に示したように、スフィンゴ脂質合成・代謝経路においてジヒドロスフィンゴシン(DHS)生合成以降の反応は、ヒトを含む高等動物細胞と酵母の間で大きく異なる。即ち、出芽酵母(サッカロミセス属)では、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)が存在しないことから、DHSのC−4位に二重結合を有するヒト型スフィンゴイド塩基(スフィンゴシン)は合成されない(図2)。その代わりスフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)がコードする酵素によってDHSのC−4位が水酸化されフィトスフィンゴシン(PHS)が合成される。次いでそれらのスフィンゴイド塩基はセラミドへと変換される。
【0014】
本発明者らは、まずヒト型セラミドを酵母細胞内で製造させるために、酵母細胞内には存在しないスフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ酵素を酵母細胞内で発現させること、及び、スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ酵素活性を完全に又は部分的にでも破壊することが重要であること考えた。そこで先ず、酵母の形質転換により、1)上述したSUR2遺伝子破壊株を作成し、その変異株に2)ヒトDES1遺伝子を導入し、本発明を想到した。これにより、従来不可能であったヒト型セラミドの酵母細胞内での製造が初めて可能になった。
【0015】
さらに、ヒト型セラミドNSを効率的に生産させるシステムを構築するために、上記のシステムの最適化を行った。具体的な方法としては、酵母の形質転換によって、以下の3)−5)のいずれか、あるいはこれらの組み合わせを行い、ヒト型セラミドをより効率よく製造することに成功した:
3)セラミドNSが水酸化されないように酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させること;
4)酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させること;あるいは
5)酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させること。
【0016】
よって、本発明は、上記1)及び2)を必須要件とし、3)−5)を好ましい態様の追加要件として行うことにより、ヒト型セラミドを酵母細胞内で簡便かつ効率よく製造する方法を提供するものである。
【0017】
よって、本発明は、ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法であって、
1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;及び
2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること
を含む、前記製造方法に関する。
【0018】
本発明において、ヒト型セラミドは、例えば図2の「目的生産物」に示された構造式を有する、セラミドNSを意味する。これに対して酵母型セラミドであるフィトセラミドは、ヒト型セラミドの4位の二重結合部分が水酸基で置換されている点で相違する(図3)。
【0019】
スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)
本発明の方法は構成要件1)として、酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入することを含む。
【0020】
限定されるわけではないが、DES1は、好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列又は配列番号2において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0021】
本発明に利用可能な遺伝子(核酸)は、ゲノムDNA(その対応するcDNAも含む)、化学的に合成されたDNA、PCRにより増幅されたDNA、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0022】
DES1は、好ましくは配列番号1の塩基配列を有する。これは配列番号2のアミノ酸配列を有するヒト スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼタンパク質をコードする塩基配列であり、例えば、GenBanKTM: accession number AF466375に開示されている
1つ以上のコドンが同一のアミノ酸をコードする場合があり、遺伝暗号の縮重と呼ばれている。このため、配列番号1とは完全には一致していないDNA配列が、配列番号2と全く同一のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることがあり得る。こうした変異体DNA配列は、サイレント(silent)突然変異(例えば、PCR増幅中に発生する)から生じてもよいし、または天然配列の意図的な突然変異誘発の産物であってもよい。
【0023】
DES1は、好ましくは配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする。しかしながら、これに限定されることなく、1またはそれ以上のアミノ酸配列が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有していてもよい。スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有する限り、全ての相同タンパク質を含むことが意図される。配列番号2と同等の機能を有するアミノ酸配列をコードする限り、配列番号2に限定されるものではない。「アミノ酸変異」は1から複数個、好ましくは、1ないし20個、より好ましくは1ないし10個、最も好ましくは1ないし5個である。
【0024】
DES1にコードされるアミノ酸配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と、少なくとも約70%、好ましくは約80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
【0025】
アミノ酸の同一性パーセントは、視覚的検査及び数学的計算により決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の同一性パーセントは、Needleman,S.B.及びWunsch,C.D.(J.Mol.Biol.,48:443−453,1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)Henikoff,S及びHenikoff,J.G.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10915−10919,1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;及び(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。
【0026】
当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、用いてもよい。同一性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl.Acids.Res.25.,p.3389−3402,1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる相同性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。
【0027】
本発明の方法において、好ましくは、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼが、配列番号2又は配列番号2と少なくとも70%の同一のアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有する。
【0028】
同一の機能を有するタンパク質であっても、由来する品種の相違によって、そのアミノ酸配列に相違が存在しうることは当業者にとって周知の事実である。スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有する限り、DES1は、配列番号1の塩基配列のこのような相同体、変異体も含みうる。配列番号2のヒト スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼタンパク質以外にも、例えばマウス(M. musculus)やショウジョウバエ(D. melanogaster)、線虫(C. elegans)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)等で同様の活性を示すタンパク質をコードする遺伝子の存在が知られている(非特許文献10)。
【0029】
「スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有する」とは、例えば図2又は図3に示されているように、ジヒドロスフィンゴシンのC−4にニ重結合を導入し、スフィンゴシンを合成する活性を意味する。あるいは、ジヒドロセラミドのC−4にニ重結合を導入し、セラミドNSを合成する活性を意味する。DES1の導入により、形質転換酵母細胞内では、酵母の天然の代謝経路では合成されない、スフィンゴシン及び/又はセラミドNSの合成が行われる。
【0030】
本発明の好ましいスフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子はまた、配列番号1の塩基配列にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、かつ、フィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有する核酸を含む。
【0031】
「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,第6−7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および例えば、約40℃−60℃、0.5−6×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSCのハイブリダイゼーション条件(及び洗浄条件)を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。
【0032】
一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、最も好ましくは0.2×SSCのハイブリダイゼーション)および/または洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、およびおよそ65℃−68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaHPO、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間行う。
【0033】
当業者に知られていて、以下にさらに記載したように、ハイブリダイゼーション反応と二本鎖の安定性を支配する基本原理を適用することによって望ましい度合いのストリンジェンシーを達成するためには、洗浄温度と洗浄塩濃度を必要に応じて調整することが可能であると理解すべきである(例えば、Sambrookら、2001を参照されたい)。核酸を未知配列の標的核酸へハイブリダイズさせる場合、ハイブリッドの長さはハイブリダイズする核酸のそれであると仮定される。既知配列の核酸をハイブリダイズさせる場合、ハイブリッドの長さは核酸の配列を並列し、最適な配列相補性をもつ単数または複数の領域を同定することによって決定可能である。50塩基対未満の長さであることが予測されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(T)より5−25℃低くなければならず、Tは、以下の等式により決定される。長さ18塩基対未満のハイブリッドに関して、T(℃)=2(A+T塩基数)+4(G+C塩基数)。18塩基対を超える長さのハイブリッドに関しては、T=81.5℃+16.6(log10[Na])+41(モル分率[G+C])−0.63(%ホルムアミド)−500/nであり、ここで、Nはハイブリッド中の塩基数であり、そして[Na]は、ハイブリダイゼーション緩衝液中のナトリウムイオン濃度である(1×SSCの[Na]=0.165M)。好ましくは、こうしたハイブリダイズする核酸は各々、少なくとも8ヌクレオチド(または、より好ましくは、少なくとも15ヌクレオチド、または少なくとも20ヌクレオチド、または少なくとも25ヌクレオチド、または少なくとも30ヌクレオチド、または少なくとも40ヌクレオチド、または最も好ましくは少なくとも50ヌクレオチド)、またはそれがハイブリダイズする核酸の長さの少なくとも1%(より好ましくは少なくとも25%、または少なくとも50%、または少なくとも70%、そして最も好ましくは少なくとも80)である長さを有し、それがハイブリダイズする核酸と少なくとも50%(より好ましくは少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97.5%、または少なくとも99%、そして最も好ましくは少なくとも99.5%)の配列同一性を有する。ここで配列同一性は、上記により詳しく記載されるように、重複部分と同一性を最大化する一方、配列ギャップを最小化するように並列された、ハイブリダイズする核酸の配列を比較することによって決定される。
【0034】
核酸の同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。あるいは、2つの核酸配列のパーセント同一性は、目視検査と数学的計算により決定可能であるか、またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マジソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereuxら、1984、Nucl.Acids Res.12:387)。この「GAP」プログラムの使用により、2つの核酸配列の比較の他に、2つのアミノ酸配列の比較、核酸配列とアミノ酸配列との比較を行うことができる。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、および非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、SchwartzおよびDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide SequenceおよびStructure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、GribskovおよびBurgess,Nucl.Acids Res.14:6745,1986の加重アミノ酸比較マトリックス;または他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;またはヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:および(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry,1993)により決定され;WoottonおよびFederhen,1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol.266:544−71も参照されたい)、または、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry,1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul,1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
【0035】
同様に、本発明のスフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)には、1つまたは複数の塩基の欠失、挿入または置換のため、配列番号1の塩基配列とは異なるが、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む。スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、欠失、挿入または置換される塩基の数は特に制限されないが、好ましくは1個ないし数千個、より好ましくは1個ないし千個、さらにこのましくは1個ないし500個、さらにより好ましくは1個ないし200個、最も好ましくは1個ないし100個である。
【0036】
既定のアミノ酸を、例えば同様の物理化学的特性を有する残基により置換してもよい。こうした保存的置換の例には、1つの脂肪族残基を互いに、例えばIle、Val、Leu、またはAlaを互いに置換するもの;LysおよびArg、GluおよびAsp、またはGlnおよびAsn間といった、1つの極性残基から別のものへの置換;あるいは芳香族残基の別のものでの置換、例えばPhe、Trp、またはTyrを互いに置換するものが含まれる。他の保存的置換、例えば、同様の疎水性特性を有する領域全体の置換が、周知である。当業者は、周知の遺伝子工学的手法により、Sambrookら(2001)(上述)等に記載の、例えば部位特異的突然変異誘発法を使用して、所望の欠失、挿入または置換を施すことが可能である。
【0037】
酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)
本発明の方法は構成要件2)として、酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させることを含む。
【0038】
限定されるわけではないが、SUR2は、好ましくは、配列番号6のアミノ酸配列又は配列番号6において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0039】
SUR2は、好ましくは配列番号5の塩基配列を有する。これは配列番号6のアミノ酸配列を有する酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼタンパク質をコードする塩基配列であり、例えば、SGD(Saccharomyces Genome Database, http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。
【0040】
SUR2は、好ましくは配列番号6に記載のアミノ酸配列をコードする。しかしながら、これに限定されることなく、1またはそれ以上のアミノ酸配列が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有していてもよい。スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有する限り、全ての相同タンパク質を含むことが意図される。配列番号6と同等の機能を有するアミノ酸配列をコードする限り、配列番号6に限定されるものではない。「アミノ酸変異」は1から複数個、好ましくは、1ないし20個、より好ましくは1ないし10個、最も好ましくは1ないし5個である。
【0041】
「スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有する」とは、例えば図2又は図3に示されているように、ジヒドロスフィンゴシンのC−4に水酸基を導入し、フィトスフィンゴシンを合成する活性を意味する。あるいは、ジヒドロセラミドのC−4に水酸基を導入し、フィトセラミドを合成する活性を意味する。本発明では、酵母細胞の形質転換によって、SUR2の発現を部分的又は完全に欠失させることによって、酵母の天然の代謝経路では合成される、フィトスフィンゴシン及び/又はフィトセラミドの合成を部分的又は完全に抑制させる。SUR2遺伝子発現の抑制と、DES1遺伝子発現により、スフィンゴシン及び/又はセラミドNSの効率的な合成が可能になる。
【0042】
SUR2にコードされるアミノ酸配列は、配列番号6に記載のアミノ酸配列と、少なくとも約70%、好ましくは約80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
【0043】
本発明の好ましい酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)はまた、配列番号5の塩基配列にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、かつ、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有する核酸を含む。
【0044】
同様に、本発明の酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)には、1つまたは複数の塩基の欠失、挿入または置換のため、配列番号5の塩基配列とは異なるが、スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む。
【0045】
「アミノ酸及び/又は塩基の欠失、付加、置換」、「アミノ酸及び/又は塩基の同一性パーセント」、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェントな条件下」など、共通する事項については、DES1について上述した通りである。
【0046】
酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)
本発明の方法はさらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させることを含んでもよい。SCS7は、例えば図3又は図7のフィトセラミド、ジヒドロセラミド、セラミドNSのスフィンゴイド塩基にアミド結合した脂肪酸のα位の炭素に水酸基を付加し、各々Cer(AP)、Cer(ASa)、Cer(AS)を合成する活性を有する。SCS7活性の存在により、所望のジヒドロセラミド、セラミドNSが合成されても、さらに水酸化されてしまう。よって、本発明は好ましくは、SCS7の発現を欠失させることを含む。
【0047】
限定されるわけではないが、SCS7は、好ましくは、配列番号8のアミノ酸配列又は配列番号8において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0048】
SCS7は、好ましくは配列番号7の塩基配列を有する。これは配列番号8のアミノ酸配列を有する酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼタンパク質をコードする塩基配列であり、例えば、SGD(Saccharomyces Genome Database, http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。
【0049】
SCS7は、好ましくは配列番号8に記載のアミノ酸配列をコードする。しかしながら、これに限定されることなく、1またはそれ以上のアミノ酸配列が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有していてもよい。スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有する限り、全ての相同タンパク質を含むことが意図される。配列番号8と同等の機能を有するアミノ酸配列をコードする限り、配列番号8に限定されるものではない。「アミノ酸変異」は1から複数個、好ましくは、1ないし20個、より好ましくは1ないし10個、最も好ましくは1ないし5個である。
【0050】
「スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有する」とは、例えば図7に示されているように、フィトセラミド、ジヒドロセラミド、セラミドNSのスフィンゴイド塩基にアミド結合している脂肪酸のα位の炭素に水酸基を付加し、各々Cer(AP)、Cer(ASa)、Cer(AS)を合成する活性を有する、ことを意味する。本発明では、好ましくは、酵母細胞の形質転換によって、SCS7の発現を部分的又は完全に欠失させることによって、ジヒドロセラミド、セラミドNSの好ましくない水酸化を抑制する。
【0051】
SCS7にコードされるアミノ酸配列は、配列番号8に記載のアミノ酸配列と、少なくとも約70%、好ましくは約80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
【0052】
本発明の好ましい酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)はまた、配列番号7の塩基配列にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、かつ、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有する核酸を含む。
【0053】
同様に、本発明の酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)には、1つまたは複数の塩基の欠失、挿入または置換のため、配列番号7の塩基配列とは異なるが、スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む。
【0054】
「アミノ酸及び/又は塩基の欠失、付加、置換」、「アミノ酸及び/又は塩基の同一性パーセント」、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェントな条件下」など、共通する事項については、DES1について上述した通りである。
【0055】
酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)
本発明の方法はさらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させることを含んでもよい。
【0056】
YDC1は、例えば図1−図3に示されているようにジヒドロセラミドを分解してジヒドロスフィンゴシンを合成する活性を有するタンパク質をコードする。YDC1活性は、セラミド合成のいわば反対方向の反応を促進する活性であり、セラミドNS合成の材料となるジヒドロセラミドを減少させる。よって、本発明は好ましくは、YDC1の発現を欠失させることを含む。
【0057】
限定されるわけではないが、YDC1は、好ましくは、配列番号10のアミノ酸配列又は配列番号10において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードする。
【0058】
YDC1は、好ましくは配列番号9の塩基配列を有する。これは配列番号10のアミノ酸配列を有する酵母アルカリジヒドロセラミダーゼタンパク質をコードする塩基配列であり、例えば、SGD(Saccharomyces Genome Database, http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。
【0059】
YDC1は、好ましくは配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする。しかしながら、これに限定されることなく、1またはそれ以上のアミノ酸配列が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有していてもよい。アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有する限り、全ての相同タンパク質を含むことが意図される。配列番号10と同等の機能を有するアミノ酸配列をコードする限り、配列番号10に限定されるものではない。「アミノ酸変異」は1から複数個、好ましくは、1ないし20個、より好ましくは1ないし10個、最も好ましくは1ないし5個である。
【0060】
「アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有する」とは、例えば図1−図3に示されているようにジヒドロセラミドを分解してジヒドロスフィンゴシンを合成する活性を有する、ことを意味する。本発明では、好ましくは、酵母細胞の形質転換によって、YDC1の発現を部分的又は完全に欠失させることによって、好ましくないジヒドロセラミドの分解を抑制する。
【0061】
YDC1にコードされるアミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列と、少なくとも約70%、好ましくは約80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
【0062】
本発明の好ましい酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)はまた、配列番号9の塩基配列にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、かつ、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有する核酸を含む。
【0063】
同様に、本発明の酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)には、1つまたは複数の塩基の欠失、挿入または置換のため、配列番号9の塩基配列とは異なるが、アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む。
【0064】
「アミノ酸及び/又は塩基の欠失、付加、置換」、「アミノ酸及び/又は塩基の同一性パーセント」、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェントな条件下」など、共通する事項については、DES1について上述した通りである。
【0065】
酵母イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)
本発明はさらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させることを含んでもよい。
【0066】
ISC1は、例えば図1、図2に示されているようにイノシトールリン酸セラミド(IPC)からジヒドロセラミドを合成する活性を有するタンパク質をコードする。ISC1活性は、セラミドNS合成の材料となるジヒドロセラミドを増加させる。ISC1は、酵母細胞内に天然に存在する遺伝子であるが、酵母細胞の形質転換によって、当該遺伝子を導入し高発現させることによって、ヒト型セラミドの合成を促進することができる。
【0067】
限定されるわけではないが、ISC1は、好ましくは、配列番号4のアミノ酸配列又は配列番号4において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有するタンパク質をコードする。
【0068】
ISC1は、好ましくは配列番号3の塩基配列を有する。これは配列番号4のアミノ酸配列を有する酵母イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼCタンパク質をコードする塩基配列であり、例えば、SGD(Saccharomyces Genome Database, http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。
【0069】
ISC1は、好ましくは配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする。しかしながら、これに限定されることなく、1またはそれ以上のアミノ酸配列が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有していてもよい。イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有する限り、全ての相同タンパク質を含むことが意図される。配列番号4と同等の機能を有するアミノ酸配列をコードする限り、配列番号4に限定されるものではない。「アミノ酸変異」は1から複数個、好ましくは、1ないし20個、より好ましくは1ないし10個、最も好ましくは1ないし5個である。
【0070】
「イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有する」とは、図1、図2に示されているようにイノシトールリン酸セラミド(IPC)からジヒドロセラミドを合成する活性を有する、ことを意味する。本発明では好ましくは、酵母細胞の形質転換によって、ISC1を高発現させることによって、セラミドNS合成の材料となるジヒドロセラミドを増加させ、ヒト型セラミドの合成を促進させる。
【0071】
ISC1にコードされるアミノ酸配列は、配列番号4に記載のアミノ酸配列と、少なくとも約70%、好ましくは約80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
【0072】
本発明の好ましい酵母イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)はまた、配列番号3の塩基配列にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、かつ、酵母イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有する核酸を含む。
【0073】
同様に、本発明の酵母イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)には、1つまたは複数の塩基の欠失、挿入または置換のため、配列番号3の塩基配列とは異なるが、イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む。
【0074】
「アミノ酸及び/又は塩基の欠失、付加、置換」、「アミノ酸及び/又は塩基の同一性パーセント」、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェントな条件下」など、共通する事項については、DES1について上述した通りである。
【0075】
本発明はより好ましい態様において、ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法であって、
1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;
2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること;
3)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させること;
4)酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させること;及び
5)酵母細胞の形質転換によって、酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させること
を含む、前記製造方法を提供する。
【0076】
酵母の形質転換による遺伝子の導入及び発現方法
本発明において、酵母細胞内におけるDES1の発現及びISC1の高発現は限定されず、公知の方法を用いて行うことが可能である。好ましくは、DES1及び/又はISC1を含む発現ベクターで宿主酵母細胞を形質転換し、そして、核酸の発現を可能にする条件下で形質転換酵母細胞を培養する、ことを含む。
【0077】
本発明の方法に利用可能な酵母は、限定されるわけではないが、好ましくは、サッカロミセス属(Saccharomyces)由来の酵母である。より好ましくは、サッカロミセス・セレビジエ、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・バイヤヌス、サッカロミセス・クルベリである。サッカロミセス属を含む出芽酵母は、遺伝子レベルでセラミドの合成・代謝の解析が最も進んでいる。そのため、本発明のヒト型セラミドの製造方法を迅速に最適化することが可能である。また酵母細胞は培養が容易で、また、伝統的に食品製造に利用されている。簡便、安全、安価にセラミドを大量に抽出・精製する方法を確立することが可能である。
【0078】
本発明において、遺伝子の導入・発現のために公知の酵母発現ベクターを使用可能である。本発明の実施例では、公知の酵母用遺伝子発現ベクターpRS series(p4XX)(Mumberg et al., Gene, 156, 119, 1995)及びpYE22m(Ashikari et al., Appl Microbiol Biotechnol,30, 515, 1989)を使用した。
【0079】
酵母に導入する際に用いるベクターとしては、多コピー型(YEp型)、単コピー型(YCp型)、染色体組み込み型(YIp型)のいずれもが利用可能である。例えば、YEp型ベクターとしてはYEp24 (J. R. Broach et al., Experimental Manipulation of Gene Expression, Academic Press, New York, 83, 1983)、YCp型ベクターとしてはYCp50 (M. D. Rose et al., gene, 60, 237, 1987)、YIp型ベクターとしてはYIp5(K. Struhl et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 1035, 1979)等多数の酵母用発現ベクターが当業者に公知であり、本発明の方法に利用可能である。
【0080】
発現ベクターは、各遺伝子の他に、一般的に、宿主における増殖のため、選択可能マーカーおよび複製起点を含むベクター内に含有されることが可能である。ベクターにはさらに、好ましくは酵母由来の適切な転写または翻訳制御配列が、所望により本発明の核酸に連結されて、含まれる。
【0081】
制御配列の例には、転写プロモーター、オペレーター、またはエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、並びに転写および翻訳開始および終結を調節する適切な配列が含まれる。ヌクレオチド配列は、制御配列が該DNA配列に機能的に関連しているとき、機能可能であるように連結されている。したがって、プロモーターヌクレオチド配列は、該プロモーターヌクレオチド配列がDNA配列の転写を調節するならば、DNA配列に、機能可能であるように連結されている。宿主細胞において複製する能力を与える複製起点、および形質転換体を同定する選択遺伝子が、一般的に発現ベクターに取り込まれている。選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子やHIS3、TRP1などの栄養要求性遺伝子などが例示される。
【0082】
酵母ベクターは、しばしば、2μ酵母プラスミド由来の複製起点配列、自律複製配列(ARS)、プロモーター領域、ポリアデニル化のための配列、転写終結のための配列、および選択可能マーカー遺伝子を含有するであろう。
【0083】
べクターは、簡便には当業界において入手可能な組換え用べクター(例えば、プラスミドDNAなど)に所望の遺伝子を常法により連結することによって調製することができるプラスミドなどのベクターに遺伝子のDNA断片を組み込む方法としては、例えば、Sambrook,J., and Russell, D.W. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed. (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法などが挙げられる。簡便には、市販のライゲーションキット(例えば、宝酒造製等)を用いることもできる。
【0084】
ベクターを宿主細胞に導入する方法としては、一般に、Sambrook,J.ら(2001)(上述)に記載のリン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
【0085】
酵母の形質転換による各遺伝子の欠失方法
本発明の方法は、酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること、を含む。
【0086】
本発明の方法はさらに、好ましい態様において、
酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させること;及び
酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させること
のいずれか、あるいはこれらの組み合わせを含む。
【0087】
本発明において、各遺伝子の発現を欠失させるとは、各遺伝子によってコードされるタンパク質活性が発揮されないことを意味する。酵母細胞のゲノム上の各遺伝子を破壊する、遺伝子の転写が阻害する、遺伝子からタンパク質の翻訳を阻害する、タンパク質が翻訳されても活性が発揮を阻害する、など結果的に遺伝子によってコードされるタンパク質活性が発揮されなければ、本発明の方法における目的を達成するため、本発明の範囲に含まれる。欠失は、部分的な欠失であっても完全な欠失であってもよい。典型的には、母細胞のゲノム上の各遺伝子を破壊し、遺伝子を部分的又は完全に欠失させる。
【0088】
SUR2、SCS7、YDC1の各遺伝子の発現の欠失は公知の方法によって行うことができる。
例えば、本明細書中の実施例では各遺伝子の上流及び下流の塩基配列、及び選択マーカーを連結させたDNA断片を用い、酵母の天然のゲノム配列との相同組換えによって、各遺伝子を欠失させた。
【0089】
遺伝子の破壊は、ターゲットとする遺伝子における遺伝子産物の発現に関与する領域、例えば、コード領域やプロモーター領域の内部へ単一あるいは複数の塩基を付加あるいは欠失させたり、これらの領域全体を欠失させることにより行うことができる。このような遺伝子破壊の手法は、公知の文献を参照することができる(例えば、Yeast 10, 1793 (1994)、Yeast 15,1541(1999)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 4951(1979) 、Methods in Enzymology, 101, 202(1983)など参照)。
【0090】
遺伝子破壊以外にも、本発明の目的のために、各遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス法(例えば、平島および井上: 新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現 (日本生化学会編, 東京化学同人) pp.319-347, 1993などを参照)、RNAi法(特表2002-516062号公報; 米国特許公開公報第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183, 2000などを参照)、リボザイムによる方法(FEBS Lett. 228: 228, 1988; FEBS Lett. 239: 285, 1988; Nucl. Acids. Res. 17: 7059, 1989などを参照)、共抑制による方法(例えば、Smyth DR: Curr. Biol. 7: R793, 1997、Martienssen R: Curr. Biol. 6: 810, 1996など参照)などが挙げられる。
【0091】
セラミド合成の確認方法
本発明の方法によって、製造されたヒト型セラミド(セラミドNS)は、公知の方法を用いることによって、抽出・精製することができる。本発明の方法は、酵母細胞を使用するため、大量の培養、セラミドの簡便かつ迅速な抽出・精製が可能である。実施例で使用した抽出・精製のための好ましい態様の1つを図4に示した。
【0092】
精製されたセラミドは、公知のスフィンゴイド分析のための方法を用いて確認することが可能である。分析方法は、例えば、TLC、HPLC、マススペクトル(例えば、LC−MS、LC−MS/MS、FT−MS)等を含む。
【発明の効果】
【0093】
本発明の形質転換酵母を用いるセラミドの製造法によれば、ヒトの皮膚で機能性の高いヒト型セラミドを安価に製造することが可能となる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0095】
実施例1:ヒト スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)発現ベクターの作製
公開されているデータベース中のヒト スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ(sphingoid Δ4−desaturase)遺伝子(DES1)の塩基配列(GenBanKTM: accession number AF466375)(配列番号1)を参考にプライマーdes1F(配列番号11)およびdes1R(配列番号12)を作製した。
【0096】
配列番号11:5’−CCTTCTCTAGAGGATCCATGGGGAGCCGCGTCTCGCGGGAAGAC−3’
配列番号12:5’−CCTTCGAATTCCCCGGGCCAGGGGAGCTTCTGAGCATCACTGGTC−3’
上記プライマー対を利用して、ヒトcDNAライブラリーを鋳型にPCRを行った。得られたPCR産物(約1.1kb)のBamHIとSmaIサイトを利用して酵母用遺伝子発現ベクターpKO11 (Kamei et al., J. Biol. Chem., 273,28341,1998;Dr.K.Tanakaより提供)にクローニングした。
【0097】
サンガー法による塩基配列決定を行い、クローンの塩基配列がデータベースと一致することを確認した。BamHIとXho1サイトを利用して酵母用遺伝子発現ベクターpRS series(p4XX)(Mumberg et al., Gene, 156, 119, 1995)にサブクローニングした。
【0098】
実施例2:酵母(Saccharomyces cerevisiae)のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)発現ベクターの作製
公開されている酵母ゲノムデータベース中の酵母(Saccharomyces cerevisiae)のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC(Inositol phosphosphingolipid phospholipase C)遺伝子(ISC1)の塩基配列(SGD(Saccharomyces Genome Database,
1133784537468_0
))(配列番号3)を参考にプライマーisc1F(配列番号13)
およびisc1R(配列番号14)を作製した。
【0099】
配列番号13:5’−ATGTACAACAGAAAAGACAGAGATG−3’

配列番号14:5’−AAGGTACCTCATTTCTCGCTCAAGAAAGTT−3’
上記プライマー対を利用して、常法により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型にPCRを行った。得られたPCR産物(約1.4kb)をpCR−BlintII−TOPOベクター(Invitrogen社)にクローニングし、サンガー法(F. Sanger, Science, 214, 1215, 1981)による塩基配列決定を行い、クローンの塩基配列がデータベースと一致することを確認した。
【0100】
EcoRIとKpnIサイトを利用して酵母用遺伝子発現ベクターpYE22m(Ashikari et al., Appl Microbiol Biotechnol,30, 515, 1989)にサブクローニングした。
【0101】
実施例3:酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)破壊株の作製
公開されている酵母ゲノムデータベース中の酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ(sphinganine C4−hydroxylase)遺伝子(SUR2)の塩基配列(SGD(Saccharomyces Genome Database, http://www.yeastgenome.org/))(配列番号5)を参考にプライマーsur2F(配列番号15)およびsur2R(配列番号16)を作製した。
【0102】
配列番号15:5’−CTCCGGCTTCTGCGGTTTTTCTTAGTCTTTCCGCACCAATTTTCACAGGAATTCCCGGGGATCCG
G−3’
配列番号16:5’−GGATAATAAATACAAACGTGGGAAGTCGGAGACATTGCCTTTACCCAGCAAGCTAGCTTGGCTGCAG
G−3’
上記プライマー対を利用して、プラスミドpYDp―L(Berben et al., Yeast,7,475,1991)を鋳型としてPCRを行い、SUR2遺伝子上流295bp、選択マーカーおよびSUR2遺伝子下流75bpが連結したPCR産物を得た。このPCR産物を用いてFK113株(MATa,ura3,his3,leu2,lys2,trp1,bar1−1)の形質転換を常法に従って行い、栄養要求性培地で形質転換体を選抜し、SUR2遺伝子破壊株を得た。
【0103】
正常遺伝子と破壊遺伝子で増幅する断片の長さが異なるように設計した確認用のプライマー(配列番号17および18)を用いて、PCR法によりSUR2遺伝子破壊の確認を行った。
【0104】
配列番号17:5’−CTCCGGCTTCTGCGGTTTTTCTTAGTCTTTC−3’
配列番号18: 5’−GGAAGTCGGAGACATTGCCTTTACCCAG−3’
実施例4:酵母SUR2、および酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)二重破壊株の作製
公開されている酵母ゲノムデータベース中の酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ(sphingolipid alpha−hydroxylase)遺伝子(SCS7)の塩基配列(SGD(Saccharomyces Genome Database,
1133784537468_1
))(配列番号7)を参考にプライマーscs7up280F(配列番号19)
およびscs7up280R(配列番号20)、scs7down280F(配列番号21)およびscs7down280R(配列番号22)を作製した。
【0105】
配列番号19:5’−CGAATTCAGCCGAAAACAGTCTTGCTT−3’
配列番号20:5’− ACGAGGCTGGGATCCGCTTACCACCGCTTTTAGTGC−3’
配列番号21:5’− GGTGGTAAGCGGATCCCAGCCTCGTCCAAAATTGTC−3’
配列番号22:5’−CGAATTCTTGCCAACCTGATCTGTGAA−3’
上記プライマー対を利用して、常法により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、SCS7遺伝子上流域約280bp、下流域約280bpにそれぞれ相当するPCR産物を得た。プライマーscs7up280Rとscs7down280Fはそれぞれ相補的な配列を共有しており、SCS7遺伝子の上流域と下流域の境界にBamHIサイトを含む。SCS7遺伝子の上、下流域約280bpにそれぞれ相当するPCR産物を混合し、プライマーscs7up280Fとscs7down280Rを用いてPCRを行い、BamHIサイトをはさんでSCS7遺伝子の上下流域を含むPCR産物を得た。これをあらかじめpUC19をBamHIで切断後、T4 DNA polymeraseによる平滑末端化を行った後にセルフライゲーションして得たベクターに、プライマーscs7up280Fとscs7down280Rに含まれるEcoRIサイトを利用してクローニングした。サンガー法(F.Sanger, Science, 214, 1215,1981)による塩基配列決定を行い、クローンの塩基配列がデータベースのSCS7上下流域とそれぞれ一致することを確認した。
【0106】
また、プラスミドpYDp−U(Berben et al., Yeast, 7, 475, 1991)をBamHIで切断し、URA3遺伝子を含む約1.1kbの断片を上記のSCS7遺伝子の上下流域を含むプラスミドのBamHIサイトに挿入した。
【0107】
得られたYDC1遺伝子の上下流域にURA3遺伝子をはさんだ領域を含むプラスミドをEcoRIで切断して得られた断片を用い、上記実施例3で得たSUR2遺伝子破壊株の形質転換を常法に従って行った。ウラシルを含まない最少完全平板培地(SC−Ura)でスクリーニングを行うことにより、SUR2/SCS7二重破壊株を得た。後のプラスミド導入を可能にするため、本SUR2/SCS7二重破壊株を0.1% 5−flioro−orotic−acidを含む最少平板培地に播菌し、ウラシル要求性を喪失した株を選抜した。
【0108】
実施例5:酵母SUR2、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)、およびSCS7三重破壊株の作製
公開されている酵母ゲノムデータベース中の酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ(alkaline dihydroceramidase)遺伝子(YDC1)の塩基配列(SGD(Saccharomyces Genome Database,
1133784537468_2
))(配列番号9)を参考に、プライマーydc1up280F(配列番号23)
および ydc1up280R(配列番号24)、ydc1down250F(配列番号25)およびydc1down250R(配列番号26)を作製した。
【0109】
配列番号23:5’−CGAATTCCCCAGAGGCAAAGATGTTA−3’
配列番号24:5’−TGGATGGCACGGATCCGAAAGGCACACCTGTCATTATGG−3’
配列番号25:5’−TGTGCCTTTCGGATCCGTGCCATCCATTTGAATC−3’
配列番号26:5'−CGAATTCCTTTTATGATGGGAGTAACTGCT−3’
上記プライマー対を利用して、常法により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、YDC1遺伝子上流域約280bp、下流域約250bpにそれぞれ相当するPCR産物を得た。プライマーydc1up280Rとydc1down250Fはそれぞれ共通に相補的な配列を共有しておりYDC1遺伝子の上流域と下流域の境界にBamHIサイトを含む。
【0110】
YDC1遺伝子上流域約280bp、下流域約250bpにそれぞれ相当するPCR産物を混合し、プライマーydc1up280Fとydc1down250Rを用いてPCRを行い、BamHIサイトをはさんでYDC1遺伝子の上下流域を含むPCR産物を得た。これをあらかじめpUC19をBamHIで切断後、T4 DNA polymeraseによる平滑末端化を行った後にセルフライゲーションして得たベクターに、プライマーydc1up280Fとydc1down250Rに含まれるEcoRIサイトを利用してクローニングした。サンガー法(F. Sanger, Science, 214, 1215, 1981)による塩基配列決定を行い、クローンの塩基配列がデータベースのYDC1上下流域とそれぞれ一致することを確認した。
【0111】
また、プラスミドpYDp−H(Berben et al., Yeast, 7, 475, 1991)をBamHIで切断し、HIS3遺伝子を含む約1.2kbの断片を上記のYDC1遺伝子の上下流域を含むプラスミドのBamHIサイトに挿入した。
【0112】
得られたYDC1遺伝子の上下流域にHIS3遺伝子をはさんだ領域を含むプラスミドをEcoRIで切断して得られた断片を用い、上記SUR2遺伝子破壊株の形質転換を常法に従って行った。ヒスチジンを含まない最少完全平板培地(SC−His)でスクリーニングを行うことにより、SUR2/YDC1二重破壊株を得た。
【0113】
次に、公開されている酵母ゲノムデータベース中の酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ(SCS7)の塩基配列(SGD(Saccharomyces Genome Database,
1133784537468_3
))(配列番号7)を参考に、プライマーscs7up280F(配列番号19)
およびscs7up280R_G418(配列番号27)、scs7down280F_G418(配列番号28)およびscs7down280R(配列番号22)を作製した。
【0114】
配列番号19:5’−CGAATTCAGCCGAAAACAGTCTTGCTT−3’
配列番号27:5’−CTCCATGTCGCTTACCACCGCTTTTAGTGC−3’
配列番号28:5’−CGCTATACTGCAGCCTCGTCCAAAATTGTCA −3’
配列番号22:5’−CGAATTCTTGCCAACCTGATCTGTGAA−3’
上記プライマー対を用いて、常法により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、SCS7遺伝子上流域約280bp、下流域約280bpにそれぞれ相当するPCR産物を得た。
【0115】
また、プライマーG418PCR2F(配列番号29)およびG418PCR2R(配列番号30)を作製し、プラスミドpFA6a−kanMX4(EMBL AJ002680)を鋳型にPCRを行い、カナマイシンおよびジェネティシン(G418)抵抗性遺伝子を含むPCR産物を得た。
【0116】
配列番号29:5’−GTGGTAAGCGACATGGAGGCCCAGAATACC−3’
配列番号30:5’−GACGAGGCTGCAGTATAGCGACCAGCATTCA−3’
プライマーscs7up280R_G418(配列番号27)とG418PCR2F(配列番号29)、およびプライマーscs7down280F_G418(配列番号28)とG418PCR2R(配列番号30)はそれぞれ共通に相補的な配列を共有しており、上記3種類のPCR産物を混合し、プライマーscs7up280Fとscs7down280RによりPCRを行い、SCS7遺伝子上流280bp、カナマイシンおよびG418抵抗性遺伝子およびSCS7遺伝子下流280bpが連結したPCR産物を得た。PCR産物を直接鋳型にすることによりサンガー法(F. Sanger, Science, 214, 1215, 1981)による塩基配列決定を行い、クローンの塩基配列がデータベースと一致することを確認した。
【0117】
このPCR産物を用いて上記SUR2/YDC1二重遺伝子破壊株の形質転換を常法に従って行い、G418 300mg/Lを含むYPD平板培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース、2%寒天)で形質転換体を選抜し、SUR2/YDC1/SCS7遺伝子三重破壊株を得た。
【0118】
実施例6:ヒトDES1発現プラスミドをもつ酵母セラミド合成系・代謝系形質転換株の作製
上記実施例3−5で得られた各遺伝子の破壊株を用いてDES1遺伝子(実施例1)発現株又はDES1遺伝子発現・ISC1遺伝子(実施例2)高発現株を作した。
【0119】
I.SUR2破壊(実施例3) + ヒトDES1遺伝子発現(実施例1)
II.SUR2/SCS7二重破壊(実施例4) + ヒトDES1遺伝子発現
III.SUR2/SCS7/YDC1三重破壊(実施例5) + ヒトDES1遺伝子発現
IV.SUR2/SCS7/YDC1三重破壊(実施例5) + ヒトDES1遺伝子発現・ISC1遺伝子高発現(実施例1及び2)
実施例1のヒトDES1発現プラスミド、及び実施例2のISC1発現プラスミドによって、実施例3−5で得られた破壊株の形質転換を常法に従って行った。DES1遺伝子形質転換体の選抜はウラシルを、また、DES1およびISC1遺伝子形質転換体の選抜はウラシルおよびトリプトファンを含まない最少完全平板培地(それぞれSC−Ura、およびSC−Ura,Trp)を用いて行った。
【0120】
得られた形質転換株におけるヒトDES1遺伝子の発現は、RNeasyキット(Qiagen社)を用いて精製した総RNAをプライマーHdes1_R(配列番号31)を用いたSuperscriptII(Invitrogen社)による逆転写反応と反応物のHdes1_F(配列番号32)とHdes1_R(配列番号31)を用いたEx−taq(Takara Bio社)によるPCR(RT−PCR)を行って確認した。
【0121】
配列番号31:5’−TCCAGCACCATCTCTCCTTT−3’
配列番号32:5’−AGTGGGTCTACACCGACCAG−3’
ISC1遺伝子の高発現は同様に、プライマーisc1R(配列番号14)を用いた逆転写反応とプライマーisc1F(配列番号13)とisc1R(配列番号14)を用いたRT−PCRによって確認した。
【0122】
実施例7 ヒトDES1発現プラスミドをもつ酵母セラミド合成系・代謝系形質転換株のスフィンゴイド分析
実施例6で得られたI.ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2破壊株、II.ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株、III.ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株をトリプトファン、ヒスチジン、ロイシンおよびリジンを含む最少液体培地(SD+Trp, His, Leu, and Lys)で、また、IV.ヒトDES1発現・ISC1高発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株をヒスチジン、ロイシンおよびリジンを含む最少液体培地(SD+His, Leu, and Lys)で30℃、24時間培養した。次いで、37℃、90分のヒートショック培養を行い、菌体からスフィンゴイドを文献(Sperling et al., Journal of Biological chemistry, 273, 28590, 1998)に従って、スフィンゴイド抽出、ジニトロフェノール化した。
【0123】
上記スフィンゴイドを用いて薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を行った。以下に簡潔にその方法を示す。
菌体(湿重量350mg)を直接、10%(w/v)Ba(OH)を含む1,4−ジオキサン/水,1:1(v/v) 3ml中で、110℃、24時間、加水分解した。遊離したスフィンゴイドをクロロホルム/1,4−ジオキサン/水,8:3:8(v/v/v)で層分離することによって抽出した。有機層を等量の0.1M KOH、0.5M KClで洗浄した後、0.5%(v/v) 1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン メタノール溶液 0.2mlと2M ホウ酸/KOH(pH10.5)0.8mlを60℃、30分間反応させてスフィンゴイドをジニトロフェノール化合物化(DNP化)した。反応後、回収した有機層を真空乾燥させて得られたDNP化スフィンゴイドをクロロホルムに溶解した後、シリカゲル 60TLCプレート上でクロロホルム/メタノール,9:1(v/v)を用いて展開した。DNP化スフィンゴイドは黄色(UV照射下では暗青色)を呈しており、これを観察した。
【0124】
次に、DNP化sphingoidをTLCプレートから回収し、クロロホルム/メタノール,2:1(v/v)で抽出後、クロロホルム/メタノール/0.1 M KOH, 2:1:1(v/v/v)で層分離を行った。有機層を回収し、真空乾燥した後、メタノールに溶解させてHPLCサンプルとして供試した。HPLCはシリカゲルODSカラムを用い、80% メタノール/アセトニトリル/2−プロパノール(10:3:1,v/v/v)、および20%水から0%水への直線勾配溶出(流速 1ml/分、40分)を行い、350nm 紫外線吸収をモニタリングした。
【0125】
理解を容易にするために、TLC、HPLCによるスフィンゴイド分析のためのスキームを図4に示した。
Sigma社から購入した既定量の合成スフィンゴシンを同様に分析したHPLCデータを基準値にして菌体内のスフィンゴシンの定量を行った。表1に菌体100mgあたりに蓄積したスフィンゴシンの計算値を示した。ヒトDES1発現酵母SUR2破壊株、ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株、ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株、およびヒトDES1発現・ISC1高発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株の順に、菌体内のスフィンゴシン量は順次増加した。
【0126】
表1.酵母菌体100mg中のスフィンゴシン量
【0127】
【表1】

【0128】
実施例8 LC−MS解析のための酵母脂質抽出
実施例6のセラミド合成系遺伝子形質転換酵母を、ヒスチジン、ロイシン、リジン、およびトリプトファンを添加した最少液体培地(SD+His,Leu,Lys及びTrp、ただし、ISC1高発現のものはトリプトファンは含まない)250mlで30℃、140rpmで24時間振盪培養した後、37℃、90分ヒートショック培養を行った。菌体を回収し、滅菌水で2度洗浄し、100mgの菌体を500μlの滅菌水に懸濁させた懸濁液を調製した。本懸濁液にグラスビーズを加え、室温で5分間、激しく攪拌することにより菌体を破砕した。これにクロロホルム、メタノール、懸濁液の比が10:10:3になるようにクロロホルム、メタノールを加え、脂質を抽出した。抽出反応液の遠心分離を行い、得られた上清を回収した後、窒素ガスを吹き付けて濃縮乾燥させた。
【0129】
実施例9 LC−MS解析によるセラミド分子種の決定
実施例8で抽出した酵母脂質をヘキサン/イソプロパノール(3:2v/v)で抽出し、6.67%硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、特開2003−28849に記載の装置を用いてセラミド分子種の決定を行った。ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株のセラミド分子種の同定結果を図5に示す。
【0130】
図5に示したように、ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株で、セラミドNS(Cer(NS))(分子量678)が合成されていることが確認された。
同様にヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株でもセラミドNS(Cer(NS))(分子量678)が合成されていることが確認され、菌体100mgあたりに蓄積したセラミドNS(Cer(NS))は、図8に示すようにヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株で6.5nmol、ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株で9.2nmolと順次増加した。
【0131】
実施例10 SUR2破壊株のスフィンゴイドの分析
SUR2破壊株について、TLC及びHPLCを用いてスフィンゴイドの分析を行った。TLC分析及びHPLC分析は、実施例8に記載した方法に従って行った。結果を図6に示す。
【0132】
SUR2破壊株より抽出したスフィンゴイド(サンプル5)はHPLCのピークの位置がサンプル2と一致することからジヒドロスフィンゴシンと同定された。これに対し、野生型酵母より抽出したスフィンゴイド(サンプル4)はHPLCのピークの位置がサンプル1と一致することからフィトスフィンゴシンと同定された。このことからSUR2破壊株では、野生型酵母と異なり、ジヒドロスフィンゴシンが優先的に合成されていることがあきらかとなった。
【0133】
このSUR2破壊株においてDES1を導入し発現させることにより、セラミドNSの材料となるスフィンゴシンが合成される。
実施例11 SUR2/SCS7破壊株のセラミド分析
SUR2/SCS7二重破壊株について、実施例8に記載した方法に従って、LC−MS分析を行った。結果を図7に示す。SUR2/SCS7二重破壊株では、スフィンゴイド塩基にアミド結合した脂肪酸のα位の炭素に水酸基が付加された態様(Cer(ASa)又はCer(AP))ではなく、ジヒドロセラミド(Cer(NSa))が蓄積していることが確認された。この破壊株にDES1を発現させればヒト型セラミドが合成される。
【0134】
実施例12:トリチウム標識(H)したD−erythro−dihydrosphingosine を用いたセラミドの解析
上述のセラミド合成系遺伝子形質転換酵母をヒスチジン、ロイシン、リジン、およびトリプトファンを添加した最少液体培地(SD+His,Leu,Lys及びTrp、ただし、ISC1高発現のものはトリプトファンは含まない)で25℃、150rpmで24時間振盪培養した後、酵母を回収し、最少液体培地に懸濁させた懸濁液5ml(OD600=0.5)を調製した。トリチウム標識(H)したD−エリスロ−ジヒドロスフィンゴシンを10μl(10μCi)加え、一晩25℃で培養を行った(Zanolari et al., The EMBO Journal, 19, 2824,2000)。250mMのNaFと250mMのNaNを200μl加え、反応を停止させた後、氷冷した滅菌水で3度洗浄し、菌体を66μlの滅菌水に懸濁させた。
【0135】
本懸濁液にグラスビーズを加え、激しく攪拌することにより菌体を破砕した。これにクロロホルム、メタノール、懸濁液の比が10:10:3になるようにクロロホルム、メタノールを加え、脂質を抽出した。抽出液の遠心分離を行い、得られた上清を回収した後、窒素ガスを吹き付けて濃縮乾燥させた。試料を100μlのクロロホルム−メタノール−水(10:10:3)に溶解し、0.6N NaOHメタノール溶液を20μl加え、30℃、90min反応させた後、0.6N 酢酸溶液で中和させた。ブタノール抽出により塩を除去し、得られたブタノール層(上層)を窒素ガスを吹き付けて濃縮乾燥させた。
【0136】
脂質を20μlのクロロホルム−メタノール(1:1)に溶解させ、borate処理した薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートにスポットし、クロロホルム−メタノール(9:1)で展開した(Triola et al., Molecular Pharmacology, 66, 1671, 2004)。展開後、放射能標識セラミドをバイオイメージアナライザー(BAS)で分析した。結果を図9に示す。
【0137】
SUR2/SCS7二重破壊株のジヒドロセラミド(CerNSa)を100%とした場合、ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株のセラミドNS(CerNS)は30%、ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株のセラミドNS(CerNS)は64%,ヒトDES1発現・ISC1高発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株のセラミドNS(CerNS)は309%と順次増加した。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、酵母及び高等動物細胞におけるスフィンゴ脂質合成代謝経路を示す。
【図2】図2は、本発明のヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法の好ましい態様の概要を示す。
【図3】図3は、酵母及び高等動物のスフィンゴイド及びセラミドの分子種とその構造式を示す。
【図4】図4は、本発明の酵母菌体の培養からTLC及びHPLCによる分析までの工程を模式的に示したものである。
【図5】図5は、LC−MS解析によるヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株のセラミド分子種の同定結果を示す。
【0139】
左上から;
ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株セラミド領域の全陽イオンクロマトグラム
上記のうち、質量数680のみで書かせたクロマトグラム(ピーク位置RT13.35)
上記のうち、質量数678のみで書かせたクロマトグラム(ピーク位置RT13.69)
標準セラミドNSの陽イオンクロマトグラム
右上から;
質量数680のピークにおけるマススペクトル
質量数678のピークにおけるマススペクトル
ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株でセラミドNS(Cer(NS)(分子量678)が合成されていることが確認できた。
【図6】図6は、SUR2破壊株のTLC,及びHPLCによるスフィンゴイドの分析結果を示す。
【0140】
サンプル1;フィトスフィンゴシン標準
サンプル2;ジヒドロスフィンゴシン標準
サンプル3;スフィンゴシン標準
サンプル4;野生型酵母より抽出したスフィンゴイド
サンプル5;SUR2破壊株より抽出したスフィンゴイド
左から
可視光により観察したTLC(DNP化したsphingoidは黄色のスポットとして観察される)、
UV照射により観察したTLC(DNP化したsphingoidは暗青色のスポットとして観察される)、
HPLCのクロマトグラムを示す。
【0141】
SUR2破壊株より抽出したスフィンゴイド(サンプル5)はHPLCのピークの位置がサンプル2と一致することからジヒドロスフィンゴシンと同定された。これに対し、野生型酵母より抽出したスフィンゴイド(サンプル4)はHPLCのピークの位置がサンプル1と一致することからフィトスフィンゴシンと同定された。
【図7】図7は、SUR2/SCS7二重破壊株のLC−MS分析結果(質量数500から800のイオンクロマトグラム)を示す。SUR2/SCS7二重破壊株では、ジヒドロセラミド(Cer(NSa))が蓄積していることが確認された。この破壊株にDES1を発現させればヒト型セラミドが合成される。
【図8】図8は、ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株、ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株のセラミド量を示す。
【図9】図9は、トリチウム標識(H)したD−erythro−dihydrosphingosine を用いた酵母のセラミドのTLCによる分析結果とバイオイメージアナライザー(BAS)を用いた放射能標識セラミドの定量結果を示す。左から サンプル1;SUR2/SCS7二重破壊株 サンプル2;ヒトDES1遺伝子発現酵母SUR2/SCS7二重破壊株 サンプル3;ヒトDES1発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株 サンプル4;ヒトDES1発現・ISC1高発現酵母SUR2/SCS7/YDC1三重破壊株順次セラミドNSの合成量は増加していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法であって、
1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;及び
2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)が、配列番号2のアミノ酸配列又は配列番号2において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)が、配列番号6のアミノ酸配列又は配列番号6において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させることを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子が、配列番号8のアミノ酸配列又は配列番号8において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させることを含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)が、配列番号10のアミノ酸配列又は配列番号10において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、アルカリジヒドロセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、酵母細胞の形質転換によって、酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させることを含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)が、配列番号4のアミノ酸配列又は配列番号4において1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、付加または置換しているアミノ酸配列を有しており、かつ、イノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC活性を有するタンパク質をコードする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ヒト型セラミドを酵母細胞内で製造する方法であって、
1)酵母細胞の形質転換によって、スフィンゴイド Δ4−デサチュラーゼ遺伝子(DES1)を導入すること;
2)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンガニン C4−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SUR2)の発現を欠失させること;
3)酵母細胞の形質転換によって、酵母スフィンゴ脂質 α−ヒドロキシラーゼ遺伝子(SCS7)の発現を欠失させること;
4)酵母細胞の形質転換によって、酵母アルカリジヒドロセラミダーゼ遺伝子(YDC1)の発現を欠失させること;及び
5)酵母細胞の形質転換によって、酵母のイノシトール ホスフォスフィンゴ脂質ホスフォリパーゼC遺伝子(ISC1)を高発現させること
を含む、前記製造方法。
【請求項11】
酵母が、サッカロミセス属の酵母から選択される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−151464(P2007−151464A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351366(P2005−351366)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】