説明

形鋼床版

【課題】疲労耐力を向上させるとともに、作業の効率化、風通しおよび積雪排除性の向上、排水性の向上、軽量化、構造の簡素化等を実現し、車両等の走行性も確保する。
【解決手段】橋梁の基本構造部材23上に、断面I型の形鋼部材30が、橋梁の幅方向に複数本並列して設けられている。そして、これら複数の形鋼部材30は、橋梁の幅方向に間隔を隔て、互いに隣接する形鋼部材30の間に隙間40が形成されるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や車両などが通行する道路、特に橋梁や立体駐車場に敷設される形鋼床版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁の床版として、オープングレーチング床版と称されるものが用いられつつある。これは、橋梁の主桁(橋桁)上に載置される、鋼材が格子状に組まれたものであり、例えば特許文献1には、図13(a)に示すように、所定間隔で配設したI形鋼の主部材1のウェブ1aに、横主部材2を挿通させて溶接固定してなる格子状の基本構造部材3が構成されている。更に、この基本構造部材3の主部材1の上部に、主部材1に直交した方向と、主部材1に平行な方向に延びる補助部材4、5が格子状に組まれ、これが主部材1に溶接固定されている。
【0003】
また、上記と同様、図13(b)に示すように、I形鋼の主部材6と横主部材7とからなる基本構造部材8上に、小型のI形鋼を主部材9とし、この主部材9の上部に直交させて棒状の横部材10(例えば、スクリューバー)を所定間隔に溶接固定した構成も特許文献1に記載されている。
【0004】
しかし、上記したようなオープングレーチング床版(鋼製格子状床版)の基本構造は、上述したように、I形鋼の主部材1、6に横主部材2、7を貫通して溶接固定するため、前記主部材1、6のウェブ1a、6aにI形状の貫通孔をあけている。一方、I形鋼の横主部材2、7の役割は、主部材1、6に作用する鉛直荷重を分配することであるが、前記貫通孔がI形状であるため、応力集中を容易に招くことになり、溶接と相俟って前記貫通孔が疲労亀裂の発生の巣となり、疲労耐久性に乏しい鋼製格子状床版となっていることが判明した。
【0005】
これに対し、図13(c)に示すように、所定間隔に配列された断面I形状の形鋼からなる主部材11のウェブ11aに円形状の貫通孔を形成し、当該貫通孔に断面円形状の鋼管製の横主部材12を貫通させて溶接固定する構成が提案されている。この構成では、横主部材12を断面円形状としたことで、溶接部の疲労耐力を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、横主部材12の断面形状を円形とした場合においても、横主部材12と主部材11とを溶接しているのは、それ以前の従来技術と同様であり、疲労耐力の問題は依然として残されている。また、図13(a)〜(c)のいずれの構成においても、多数の部材の溶接が必要であり、加工作業に多大な手間がかかり、コストが非常に高い欠点をもつ。
【0008】
また、オープングレーチング床版を橋梁等の床版に採用する上では、車両荷重による溶接部の疲労により、定期的な交換が不可欠となる。しかし、パネル全体を交換しなければならないため、高コストとなる。よって、こうしたオープングレーチング床版は、排水溝などの限定的な使用に限られ、一般的な道路橋などの床版にはほとんど普及していないのが実情である。
【0009】
また、オープングレーチング床版においては、風通しを良くし、特に吊橋などの床版に適用するための空力的な安定性があること、並びに、積雪排除性の向上、軽量化、構造の簡素化、等が常に求められている。
加えて、オープングレーチングは橋梁等の床版を構成するため、車両等の走行性も望まれている。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、低コストで、疲労耐力を向上させるとともに、設置、維持管理作業の効率化、空力安定性および積雪排除性の向上、軽量化、構造の簡素化等を実現し、車両等の走行性も確保することのできる形鋼床版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明による形鋼床版は、一方向に延びる主桁部材、または主桁部材及びこれに直交する横桁部材を備えた基本構造部材と、基本構造部材上に設けられていて主桁部材が連続する方向または主桁部材に直交する方向に延びる形鋼部材と、を備え、形鋼部材は、主桁部材が連続する方向または主桁部材に直交する方向に複数本が間隔を隔てて並列して設けられ、形鋼部材により床版面が形成されていることを特徴とする。
これにより、形鋼部材に直交する繋ぎ部材が不要となり、溶接接合部がなくなり疲労耐力が大幅に向上する。
なお、基本構造部材が例えばトラス構造等の主桁部材で構成されている場合には、主桁部材の連続する方向に直交する方向に延びる形鋼部材をその直交方向に配列させることが好ましく、基本構造部材が主桁部材とこれに直交する横桁部材とで構成されている場合には主桁部材と横桁部材のいずれかの方向に形鋼部材を配列させることが好ましい。
【0012】
また、請求項2に係る発明では、隣接する形鋼部材の間には、コマが嵌合されていることを特徴とする。
形鋼床版の間にコマを設けることで、形鋼部材同士の間隔を容易に設定できると共に、形鋼部材にかかる車両などの各種の荷重をコマを通して分散させることができることになり、形鋼部材の小型化と強度の補強を行えて支持間隔の増大を図ることが出来て製造コストを低減できる。
【0013】
また、請求項3に係る発明では、コマには隣接する形鋼部材のフランジ部に挟持される係合凸部が形成されていてもよい。
コマがその係合凸部を形鋼部材のフランジ部で挟持されることによって、コマを溶接などで連結しなくても高い強度を確保できて溶接による疲労をなくすことができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明では、形鋼部材のフランジ部には、コマを着脱するための切欠部と、切欠部を塞ぐ蓋板が設けられていることを特徴とする。
一部の形鋼部材やコマを交換したり補修したりする場合では、全ての形鋼部材やコマを取り外す必要はなく、交換や補修を必要とする形鋼部材に関連するコマを切欠部から取り外して当該形鋼部材やコマのみを着脱できるため、補修や交換等を容易に行える。
【0015】
また、請求項5に係る発明では、形鋼部材の上面に、アモルファス合金または亜鉛溶射あるいは摩擦粒子が塗布されることにより粗面処理が施されていることを特徴とする。
これにより、形鋼部材の上面の摩擦係数を高めることができる。
また、形鋼部材の上面に凹凸を形成することでも、形鋼部材の上面の摩擦係数を高めることができる。
なお、ここで、摩擦粒子とは、けい砂、セラミック、硬質骨材、エメリー等の粒状でかつ例えば上側から人や車等の荷重が加わっても変形しない程度の強度(硬度)を有するものを意味する。このような摩擦粒子は、例えば型鋼部材の上面に撒かれた後に散布される樹脂によって、あるいは予め樹脂に混入された状態で型鋼部材の上面に塗布されることによって、型鋼部材の上面に固着される。
【0016】
請求項6に係る発明では、形鋼部材は、基本構造部材の上面にボルトを用いて固定されていることを特徴とする。ボルトを用いることにより、溶接を行う必要がなくなり、作業の大幅な効率化、疲労耐力の向上が図れる。
【0017】
ここで、請求項7に係る発明では、形鋼部材は、基本構造部材の上面にボルト止めされた押さえプレートにより固定されていることを特徴とする。
このような押さえプレートを用いることにより、形鋼部材を容易かつ確実に固定でき、また、その取り外しができる。これにより、車両交通により損傷した場合でも、その該当部材のみ交換でき、作業が大幅に省力化される。
【0018】
また、請求項8に係る発明では、押さえプレートは、基本構造部材の上面に固定されるベース部を有し、ベース部は、形鋼部材のフランジ部に沿って突き当たる突き当たり面を有し、形鋼部材の位置決め機能を有することを特徴とする。
これにより、形鋼部材を容易に位置決めすることができる。
【0019】
請求項9に係る発明では、押さえプレートは、ベース部から側方に延び、形鋼部材のフランジ部を押圧するフランジ押圧部を有することを特徴とする。
これにより、押さえプレートを基本構造部材の上面にボルト止めするのみで、フランジ押圧部により形鋼部材を容易に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1にかかる発明によれば、形鋼部材に直交する部材が不要となり、構造の簡素化と軽量化を図ると共に、溶接接合部がなくなり疲労耐力が大幅に向上する。しかも、形鋼部材の取付け取り外しを容易化し、作業の効率化、排水効果の向上、風通しおよび積雪排除性の向上を図ることができる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、形鋼部材の間にコマを設けることで、形鋼部材同士の間隔を容易に設定できると共に、形鋼床版にかかる車両などの各種の荷重をコマを通して分散させることができ、形鋼部材等の小型化と強度の補強を行えて支持間隔の増大を図ることができて製造コストを低減できる。
【0022】
また、請求項3に係る発明によれば、コマがその係合凸部を形鋼部材のフランジ部で挟持されることによって、コマを溶接などで連結しなくても高い強度を確保できて溶接による疲労をなくすことができる。
【0023】
また、請求項4に係る発明によれば、一部の形鋼部材やコマを交換したり補修したりする場合、交換や補修を必要とする形鋼部材とこれに関連するコマを切欠部から取り外して当該形鋼部材やコマのみを着脱できて補修や交換等を容易に行える。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、形鋼部材の上面に、アモルファス合金または亜鉛溶射あるいは摩擦粒子が塗布されることにより粗面処理が施されることで、形鋼部材の上面の摩擦係数を高めることができ、車両等の走行性が高まる。
【0025】
請求項6に係る発明によれば、形鋼部材の固定にボルトを用いることにより、溶接を行う必要がなくなり、作業の大幅な効率化、疲労耐力の向上を図ることができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、押さえプレートを用いることにより、形鋼部材を容易かつ確実に固定できる。
【0027】
請求項8に係る発明によれば、押さえプレートのベース部により、形鋼部材を容易に位置決めすることができる。
【0028】
請求項9に係る発明によれば、押さえプレートを基本構造部材の上面にボルト止めするのみで、フランジ押圧部により形鋼部材を容易に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第一の実施の形態に係る形鋼床版を適用した橋梁の一例を示す図である。
【図2】形鋼部材の固定構造を示す図であり、(a)は形鋼部材どうしの間隔が狭い場合、(b)は形鋼どうしの間隔が広い場合の固定構造の例である。
【図3】形鋼部材の上部フランジに適用する表面処理の複数例を示す図である。
【図4】形鋼部材の固定部材を示す斜視図である。
【図5】他の固定部材、および形鋼部材の固定構造のさらに他の例を示す図である。
【図6】形鋼床版をパネル化した場合の例を示す斜視図である。
【図7】第二の実施の形態に係る形鋼床版をトラス橋梁に適用した平面図である。
【図8】形鋼床版を支持するトラス橋梁を示す要部斜視図である。
【図9】第二の実施の形態による形鋼部材の間にコマを嵌合させた形鋼床版の要部拡大図である。
【図10】(a)は図9に示すコマの拡大斜視図であり、(b)は変形例によるコマを示す斜視図である。
【図11】形鋼部材からコマを着脱する構造を示す要部斜視図である。
【図12】形鋼部材に設けた切欠部と蓋板とを示す分解斜視図である。
【図13】従来のオープングレーチング床版の複数例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明による形鋼床版を実施するための最良の形態を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
図1に示す第一の実施の形態による形鋼床版19において、橋梁20は、橋梁20が架け渡された方向に延びる主桁部材21と、主桁部材21に直交する方向、つまり橋梁20の幅方向に延びる横桁部材22とにより、基本構造部材23が構成されている。
【0031】
このような基本構造部材23上には、主桁部材21が連続する方向に延びる断面I型の形鋼部材30が、橋梁20の幅方向に複数本並列して設けられている。そして、図2に示すように、これら複数の形鋼部材30は、橋梁20の幅方向に間隔を隔て、互いに隣接する形鋼部材30の間に隙間40が形成されるように設けられている。
ここで、隙間40を隔てて配置される形鋼部材30の開口率は、地上10m未満の高さでは10〜60%とすることが好ましく、地上10m以上の高い領域では30〜60%とするのが好ましい。
【0032】
また、形鋼部材30の上部フランジ30bの上面は、そのまま車両等が通る路面(床版面)を形成する。そこで、滑り止めのため、図3(a)に示すように、上部フランジ30bの上面は、例えば、アモルファス合金や亜鉛溶射あるいは摩擦粒子を塗布することにより、粗面処理とするのが好ましい。これにより摩擦係数が高くなり、滑りにくくなる。
また、図3(b)に示すように、形鋼部材30の上部フランジ30bに、凹凸39等を設けても良い。これによっても摩擦係数を高めることができる。
【0033】
各形鋼部材30は、その長さ方向の両端部と、中間部とが、それぞれ横桁部材22に固定されている。
形鋼部材30の両端部は、横桁部材22の上部フランジ22aに形成されたボルト穴と、形鋼部材30の下部フランジ30aに形成されたボルト穴とを合致させ、これらにボルトを貫通させ、ボルト先端部にナットを締結することによって固定されている。
また、各形鋼部材30の長さ方向の中間部は、以下に示すような固定部材により横桁部材22の上部フランジ22aに固定されている。
【0034】
各形鋼部材30は、その長さ方向の中間部において、図2に示すように、固定部材(押えプレート)51、52を用いて固定することができる。
図4(a)に示すように、固定部材51は、平面状のベース部51aと、ベース部51aの一端から上方に湾曲する湾曲部51bと、湾曲部51bに連続して斜め下方に延びるフランジ押圧部51cとを有する。ここで、ベース部51aにはボルト穴51d、51dが形成されている。
また、図4(b)に示すように、固定部材52は、平面上のベース部52aと、ベース部52aの一端の上方側で180°に折り返された折り返し部52bと、折り返し部52bに連続して斜め下方に延びるフランジ押圧部52cとを有する。ここで、ベース部52aおよび折り返し部52bには、ボルト穴52d、52dが形成されている。
【0035】
図2(a)に示すように、このような固定部材51、52を用い、形鋼部材30の下部フランジ30aの一方の側を固定部材51で固定し、他方の側を固定部材52で固定する。
固定部材51は、ボルト穴51d、51dを横桁部材22の上部フランジ22aに形成されたボルト穴に合致させた状態で、ボルト・ナット53によりこれらを締結する。この状態で、ベース部51aが横桁部材22の上部フランジ22a上に面し、その一辺51eを突き当たり面として形鋼部材30の下部フランジ30aに沿わせて突き合わせている。すると、フランジ押圧部51cが形鋼部材30の下部フランジ30aを下方に押圧して横桁部材22の上部フランジ22a上に押し付け、これによって形鋼部材30の中間部の固定がなされる。このとき、固定部材51は、湾曲部51bの近傍で弾性変形することで、下部フランジ30aを横桁部材22の上部フランジ22aに押圧する。
【0036】
また、固定部材52は、ボルト穴52d、52dを横桁部材22の上部フランジ22aに形成されたボルト穴に合致させた状態で、ボルト・ナット53によりこれらを締結する。この状態で、ベース部52aが横桁部材22の上部フランジ22a上に面し、その一辺52eを突き当たり面として形鋼部材30の下部フランジ30aに沿わせて突き合わせている。すると、フランジ押圧部52cが形鋼部材30の下部フランジ30aを下方に押圧して横桁部材22の上部フランジ22a上に押し付け、これによって形鋼部材30の中間部の固定がなされる。このとき、固定部材52は、折り返し部52bの近傍で弾性変形することで、下部フランジ30aを横桁部材22の上部フランジ22aに押圧する。
【0037】
ここで、図2(a)に示すように、互いに隣接する形鋼部材30の間隔が狭い場合には、一方の形鋼部材30の下部フランジ30aを押圧する固定部材51と、他方の形鋼部材30の下部フランジ30aを押圧する固定部材52とを重ね合わせる。これには、ベース部51a上にベース部52aを重ね、これらをボルト・ナット53により共締めする。
【0038】
また、互いに隣接する形鋼部材30の間隔が広い場合には、図2(b)に示すように、固定部材52のみ、あるいは固定部材51のみを用いて、固定することができる。
この場合も、ベース部51a、52aにより、形鋼部材30の取り付け時に、固定部材51、52の位置決めを容易に行える。
【0039】
このように、固定部材51、52により、互いに隣接する形鋼部材30の間隔が広い場合にも狭い場合にも対応することができ、固定部材51、52の汎用性が高まる。このとき、固定部材51、52は、ベース部51a、52aの一辺51e、52eを形鋼部材30の下部フランジ30aに沿わせることで、容易に位置決めを行える。
【0040】
なお、図5(a)に示すような固定部材(押えプレート)55を用いることもできる。
この固定部材55は、ベース部55aと、その両側からそれぞれ上方に湾曲する湾曲部55bと、湾曲部55bに連続して斜め下方に延びるフランジ押圧部55cとを有する。ここで、ベース部55aにはボルト穴55d、55dが形成されている。
【0041】
図5(b)に示すように、このような固定部材55では、互いに隣接する形鋼部材30の下部フランジ30aどうしの間に、ベース部55aを位置させ、ボルト穴55d、55dを横桁部材22の上部フランジ22aに形成されたボルト穴に合致させた状態で、ボルト・ナット53によりこれらを締結する。この状態で、ベース部55aが横桁部材22の上部フランジ22a上に面し、その両辺55e、55eを突き当たり面として、その両側の形鋼部材30の下部フランジ30aに沿わせて突き合わせている。すると、両側のフランジ押圧部55cが形鋼部材30の下部フランジ30aを下方に押圧して横桁部材22の上部フランジ22a上に押し付け、これによって両側の形鋼部材30の中間部の固定がなされる。このとき、固定部材55は、湾曲部55bの近傍で弾性変形することで、下部フランジ30aを横桁部材22の上部フランジ22aに押圧する。
【0042】
上述したような構成によれば、基本構造部材23上には、主桁部材21が連続する延びる断面I型の形鋼部材30が、橋梁20の幅方向に複数本並列して設けられている。そして、これら複数の形鋼部材30は、橋梁20の幅方向に間隔を隔て、互いに隣接する形鋼部材30の間に隙間40が形成されるように設けられている。
このようにして、基本構造部材23上に設ける形鋼部材30により、橋梁20における路面を形成することができ、形鋼部材30は溶接することなく設置できるので、疲労耐力を向上させるとともに、作業の効率化を図ることができる。
また、橋梁20の長さ方向に延びる形鋼部材30のみであるため、地上10m未満の高さでは開口率10〜60%とし、地上10m以上の高い領域では開口率を30〜60%と大きくすることが好ましく、排水効果の向上、風通しおよび積雪排除性の向上、軽量化、構造の簡素化等を図ることもできる。
【0043】
さらに、形鋼部材30の上部フランジ30bの上面に、アモルファス合金や亜鉛溶射あるいは摩擦粒子を塗布することにより粗面処理を施したり凹凸39を形成することで、摩擦係数を高くすることができ、車両の走行性を高めることもできる。
【0044】
加えて、形鋼部材30の固定には、固定部材51、52、55を用いることで、形鋼部材30の固定を、ボルト・ナット53により容易に行える。
また、損傷や老朽化等により形鋼部材30を交換する場合にも、現場においてボルト・ナット53を緩めれば損傷した形鋼部材30のみを一本ずつ容易に取り外せる。これによって保守性を高めることができる。
さらに、固定部材51、52、55のベース部51a、52a、55aが、形鋼部材30の位置決め機能、互いに隣接する形鋼部材30、30の間隔を規定するスペーサ機能を有しているため、形鋼部材30の取り付けを容易かつ確実に行える。
【0045】
なお、本発明の第一の実施形態による形鋼床版19は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、図6に示すように、基本構造部材23を、所定の大きさのパネル化し、所定の大きさの基本構造部材23P上に、複数本の形鋼部材30が予め固定された床版パネル20Pとしてもよい。
また、形鋼部材30をボルト止めにより固定できるのであれば、押えプレートを、固定部材51、52、53以外の形状・構造とすることも可能である。
また、上述の実施形態による形鋼床版19では、横桁部材22の延在方向に沿って主桁部材21の延在方向に延びる形鋼部材30を複数配列させた構成を採用したが、この構成に変えて、横桁部材22の延在方向に延びる形鋼部材30を主桁部材21の延在方向に沿って複数配列させた構成を採用してもよい。
【0046】
次に本発明の第二実施形態による形鋼床版66について図7乃至図12に基づいて説明するが、上述した第一の実施形態による形鋼床版19と同一又は同様な部材、部品には同一の符号を用いて説明する。
本第二の実施形態による橋梁60は例えば鋼管トラス橋梁であり、図7及び図8に示すように、橋梁60が架け渡された方向に延びる例えば鋼管からなる2組のトラス主桁部材61によって橋桁62が構成されている。各トラス主桁部材61は橋梁60の延在方向に沿う長手方向に直交する断面視で例えば3本の鋼管61aが上下を逆三角形にして各頂部に配設され、橋梁60の下方に位置する頂部の鋼管61aから底面をなす2本の鋼管61aに向けて比較的小径の鋼管61bが前後斜め方向に延びて各鋼管61aに接合されてトラス構造を形成している。そのため、各トラス主桁部材61は略三角形筒状の骨組み構造を有しており、横桁部材は設けられていない。
橋梁60はその延在方向に延びる2組のトラス主桁部材61によって基本構造部材63が構成されている。
【0047】
このような基本構造部材63の2組のトラス主桁部材61上には、トラス主桁部材61の延在方向に直交する方向に延びる例えば断面I型の複数の形鋼部材30がトラス主桁部材61の延在方向に並列して配設されてなる形鋼床版66が設けられている。そして、図7に示すように、これら複数の形鋼部材30は、橋梁60の幅方向に所定の間隔を隔てて互いに隣接する形鋼部材30の間に所定の隙間40が形成されるように設けられている。
そして、図9に示すように隣接する形鋼部材30の間には荷重分配用のコマ67が嵌合されている。コマ67は、図10(a)に示すように略四角形箱状に形成され、その内部は例えば空洞(中実でもよい)であり両側面67aに円形の孔68が形成されている。そして、コマ67の上下面には上面67b及び下面67cから係合凸部69が突出して一体に形成されている。
【0048】
コマ67の係合凸部69は、図9に示すように、隣接する形鋼部材30の上部フランジ30b同士と下部フランジ30a同士でそれぞれ挟まれて嵌合状態で強固に係止されることになる。換言すれは、コマ67の上面67bと下面67cは、係合凸部69の部分が形鋼部材30の上部フランジ30bと下部フランジ30aと嵌合して略面一となるように突出し、その両側の部分は上部フランジ30bと下部フランジ30aの内側に押圧されて係止される。その際、コマ67の両端面67eが形鋼部材30のウエブに当接されていることが好ましい。
【0049】
なお、図10(b)はコマ67の変形例であり、この変形例によるコマ71は上下面71b、71cに突出する係合凸部69を設けない略四角形箱状に形成されている点においてコマ67と相違し、その余の構成で一致する。そのため、コマ71が隣接する形鋼部材30の間に嵌合された状態で、上下面71b、71cの両側部と両端面71eがそれぞれ形鋼部材30の上下部フランジ65a、65bとウェブとに面接触して嵌合されて強固に保持される。
【0050】
そして、本実施形態による形鋼床版66によれば、平行に配列された形鋼部材30の隙間40にコマ67が嵌合されていることで強固に固定され、その際、コマ67と形鋼部材30は溶接せず、嵌合強度だけで固定保持されている。
なお、形鋼部材30は、上述の第一実施形態と同様に、ボルトによってトラス主桁部材61に結合されているものとする。
また、上述の説明や図7等ではコマ67は形鋼部材30の隙間40に一列に配列された構成が開示されているが、コマ67の列は一列に限定されることなく適宜の複数列を配列することができ、これによって形鋼床版66を走行する車両の荷重分散が一層促進されて強度が向上する。
【0051】
このような形鋼床版66の施工時には、形鋼部材30とコマ67を交互に配設してコマ67を形鋼部材30で嵌合させながら配設していけばよいが、施工完了後に一部の形鋼部材30が損傷したりした場合には、形鋼床版66全体を分解・解体しなくても一部の形鋼部材30だけを簡単に交換することができる。
次にこのような構造について説明する。
図11及び図12に示す形鋼床版66において、各形鋼部材30はその長手方向の一端近傍において、両側の上部フランジ30b(下部フランジ30aでもよい)に切欠部73を形成するものとする。隣接する両側の形鋼部材30にそれぞれ切欠部73を対向して設けることで、嵌合状態にあるコマ67をスライドさせて切欠部73から取り外すことができる。そして、両側のコマ67を除去した後で、損傷した形鋼部材30をトラス主桁部材61に固定した図示しないボルトを外すことで、取り外し交換することができる。
【0052】
形鋼部材30を交換してコマ67を取り付けた後、図11及び図12に示すように、形鋼部材30の切欠部73には鋼板74を蓋として取り付けてボルト等で固定しくことができる。形鋼床版66において、切欠部73は形鋼部材30の長さ方向のどこに形成してもよいが、歩道の領域にあたる端部近傍に形成しておくと車道部分の強度低下につながらなくて好ましい。
【0053】
上述のように本第二の実施の形態による形鋼床版66によれば、形鋼部材30で受ける車両の荷重をコマ67を介して他の形鋼部材30やコマ67に分配・分散させることができるから耐衝撃性が高く且つ強度と耐久性も高くなり、形鋼部材30の小型化とトラス鋼管61a同士またはトラス主桁部材61同士の間隔を増大させることができる。
また、形鋼部材30同士を施工する際、コマ67によって隙間40を精度よく設定できると共に、形鋼部材30同士でコマ67を嵌合させて固定すれば高強度で施工できるから、コマ67と形鋼部材30をボルト止め等で固定しなくてもよく、車両荷重による疲労を低減することができる。
【0054】
また、コマ67を適用したことで形鋼床版66が高強度になるため、トラス鋼管61a同士またはトラス主桁部材61同士の間隔を増大させることができて鋼管トラス構造の橋梁60等の多様な構造形式による隙間40を備えた形鋼床版66を施工できる。しかも、鋼管トラス構造の橋梁60に形鋼床版66を組み立て施工するに際し、従来、形鋼床版に必須とされた横つなぎ材を省略することができて低コストで組み立て期間を短縮できる。本第二実施形態では、橋桁を構成するトラス主桁部材61にも横桁部材を省略することができる。
【0055】
なお、鋼管以外のトラス構造を備えたトラス主桁部材61を形成した上に形鋼床版66を敷設することで、トラス構造の橋梁60を組み立ててもよい。また、トラス主桁部材61に代えて鋼管トラスまたは四角断面トラス等を採用してもよい。
また、上述した第一の実施形態による主桁部材21と横桁部材22による基本構造部材23に第二実施形態による形鋼部材30とコマ67を備えた形鋼床版66をボルト等で施工してもよい。あるいは第一の実施形態による形鋼床版19の形鋼部材30の間にコマ67や71を嵌合させてもよい。
なお、コマ67、71と形鋼部材30とをボルトで連結するようにしてもよい。
【0056】
また、上述した第一実施形態による形鋼床版19の変形例として、第二実施形態で示す鋼管トラス構造からなるトラス型の主桁部材61また第一実施形態で示すトラス構造でない主桁部材21に対して、これらのいずれかの主桁部材61、21に直交する方向に延びる形鋼部材30を主桁部材の延在方向に配列して形鋼床版を構成してもよい。
さらに、上記構成は、上記実施形態で説明した橋梁20、60に限らず、立体駐車場等、他の構造物にも同様に適用することができるのは言うまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
19,66 形鋼床版
20、60 橋梁
20P 床版パネル
21 主桁部材
22 横桁部材
22a 上部フランジ
23、23P 基本構造部材
30 形鋼部材
30a 下部フランジ
30b 上部フランジ
39 凹凸
40 隙間
51 固定部材(押えプレート)
51a ベース部
51b 湾曲部
51c フランジ押圧部
51d ボルト穴
51e 一辺
52 固定部材(押えプレート)
52a ベース部
52b 折り返し部
52c フランジ押圧部
52d ボルト穴
52e 一辺
53 ボルト・ナット
55 固定部材(押えプレート)
55a ベース部
55b 湾曲部
55c フランジ押圧部
55d ボルト穴
55e 両辺
61 トラス主桁部材
62 鋼管
67,71 コマ
69 係合凸部
73 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる主桁部材、または該主桁部材及びこれに直交する横桁部材を備えた基本構造部材と、該基本構造部材上に設けられていて前記主桁部材が連続する方向または前記主桁部材に直交する方向に延びる形鋼部材とを備え、前記形鋼部材は、前記主桁部材が連続する方向または該主桁部材に直交する方向に複数本が間隔を隔てて並列して設けられ、前記形鋼部材により床版面が形成されていることを特徴とする形鋼床版。
【請求項2】
隣接する前記形鋼部材の間には、コマが嵌合されていることを特徴とする請求項1に記載の形鋼床版。
【請求項3】
前記コマには隣接する前記形鋼床版のフランジ部に挟持される係合凸部が形成されている請求項2に記載の形鋼床版。
【請求項4】
前記形鋼床版のフランジ部には、前記コマを着脱するための切欠部と、該切欠部を塞ぐ蓋板が設けられている請求項2または3に記載の形鋼床版。
【請求項5】
前記形鋼部材の上面に、アモルファス合金または亜鉛溶射あるいは摩擦粒子が塗布されることにより粗面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の形鋼床版。
【請求項6】
前記形鋼部材は、前記基本構造部材の上面にボルトを用いて固定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の形鋼床版。
【請求項7】
前記形鋼部材は、前記基本構造部材の上面にボルト止めされた押さえプレートにより固定されていることを特徴とする請求項6に記載の形鋼床版。
【請求項8】
前記押さえプレートは、前記基本構造部材の上面に固定されるベース部を有し、
前記ベース部は、前記形鋼部材のフランジ部に沿って突き当たる突き当たり面を有し、前記形鋼部材の位置決め機能を有することを特徴とする請求項7に記載の形鋼床版。
【請求項9】
前記押さえプレートは、前記ベース部から側方に延び、前記形鋼部材のフランジ部を押圧するフランジ押圧部を有することを特徴とする請求項8に記載の形鋼床版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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