説明

彫刻刀

【課題】使用者が彫刻刀を使用する際に誤って指等を傷つけることを防止できる彫刻刀を提供する
【解決手段】使用者によって把持される軸筒3と、軸筒3の内部に配された芯部材2と、芯部材2の先端に固定される刃体部材6とを有する彫刻刀1であって、前記軸筒3は、芯部材2に対して相対的に移動可能であり、軸筒3の軸方向の移動によって、刃体部材6は、軸筒3から突出する突出姿勢と軸筒3内に退避する退避姿勢との切り替えが可能であり、軸筒3の周方向の回転により、刃体部材6は、前記突出姿勢と退避姿勢の各々の姿勢に固定される構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、彫刻刀に関するものである。
【背景技術】
【0002】
彫刻刀は、彫刻や版画を行う場合に使用する刃物であり、芸術家が創作活動を行う場合に使用するほか、学校教育における児童生徒の教材としても広く利用されている。
彫刻刀の構造は、特許文献1に記載されているような丸刀、切出刀、平ノミ等の各種の刃先形状を有する刀身に、木や樹脂の柄が取り付けられた構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−319624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、彫刻刀は、通常一セット単位で収納ケースに収納されて販売されることが多く、使用者は収納ケースから彫刻刀を取り出して使用する。即ち、使用する彫刻刀の種類を変更する場合は、変更する彫刻刀を収納ケースに収納し、新たに使用する彫刻刀を収納ケースから取り出して使用する。しかしながら、使用者は作品制作に没頭すると、変更時に収納ケースに収納せず、彫刻刀が抜き身の状態で作品の近傍に放置されることが多い。そのため、誤って刃先を握り、指等を負傷する場合があった。特に、児童生徒が使用する場合、指等が負傷しやすく、学校教育において安全性が問題視されていた。
【0005】
そこで本発明は、使用者が彫刻刀を使用する際に誤って指等を傷つけることを防止できる彫刻刀を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、使用者によって把持される軸筒と、軸筒の内部に配された芯部材と、芯部材の先端に固定される刃体部とを有する彫刻刀であって、前記軸筒は、芯部材に対して相対的に移動可能であり、軸筒の軸方向の移動によって、刃体部は、軸筒から突出する突出姿勢と軸筒内に退避する退避姿勢との切り替えが可能であり、軸筒の周方向の回転により、刃体部は、前記突出姿勢と退避姿勢の各々の姿勢に固定されることを特徴とする彫刻刀である。
【0007】
かかる構成によれば、軸筒の軸方向の移動によって、刃体部は、軸筒から突出する突出姿勢と軸筒内に退避する退避姿勢との切り替えが可能であるため、使用後に退避姿勢にしておけば、例え、収納ケースに収納せずに作品の近傍に放置したとしても、使用者が誤って彫刻刀に接触し、指等を傷つけることがない。
また、軸筒の周方向の回転により、刃体部は、前記突出姿勢と退避姿勢の各々の姿勢に固定される。即ち、軸筒の軸方向の移動によって突出姿勢と退避姿勢を切り替える切り替え動作と、軸筒の周方向の回転によって姿勢を固定する固定動作は、移動動作の方向が異なるため、誤って、突出姿勢と退避姿勢の切り替えてしまうことがない。
【0008】
請求項2に記載の発明は、軸筒の内側面に筒側突起又は筒側溝を有しており、芯部材の外側面に芯側溝又は芯側突起を有しており、筒側突起又は筒側溝が芯側溝又は芯側突起と互いに係合し、相対的に移動することによって、刃体部の前記突出姿勢と退避姿勢との切り替えが可能であることを特徴とする請求項1に記載の彫刻刀である。
【0009】
かかる構成によれば、軸筒の内側面に筒側突起又は筒側溝を有しており、芯部材の外側面に芯側溝又は芯側突起を有しており、筒側突起又は筒側溝が芯側溝又は芯側突起と互いに係合し、相対的に移動することによって、刃体部の前記突出姿勢と退避姿勢との切り替えが可能であるため、突出姿勢と退避姿勢の切り替えに複雑な動作が必要ない。即ち、児童でも容易に使用できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、ガード部を有する保護部材を備えており、前記ガード部は、少なくとも刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢を取ることが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の彫刻刀である。
【0011】
かかる構成によれば、刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢を取ることが可能であるため、例え、彫刻時に被彫刻物を押さえた手に刃先が突進しても、手がガード部により防御される。即ち、彫刻時においても、誤って指等を傷つけることがなく、児童でも安心して使用できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、保護部材は芯部材に対して相対的に移動可能であり、ガード部が刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢と、ガード部が軸筒内に退避するガード部退避姿勢との切り替えが可能であることを特徴とする請求項3に記載の彫刻刀である。
【0013】
かかる構成によれば、ガード部が刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢と、ガード部が軸筒内に退避するガード部退避姿勢との切り替えが可能であるため、ガード部を軸筒内に退避させることができる。即ち、例え従来の彫刻刀に慣れ親しみ、ガード部が刃先の近くにあると使用しづらいと感じる使用者であっても、保護部材を本体部に沿って移動させ、刃から保護部材を退避させることによって、従来と同様の動作で彫刻作業を行うことができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、軸筒の内側面に筒側突起を有しており、保護部材の内側面に保護側突起を有しており、芯部材の外側面に前記芯側溝及び保護側溝を有しており、筒側突起は芯側溝に係合し、芯側溝に沿って移動可能であり、保護側突起は保護側溝に係合し、保護側溝に沿って移動可能であり、芯側溝及び保護側溝は、芯部材の周方向に配された2つの水平溝と、前記水平溝間をつなぐ垂直溝を有しており、芯側溝の垂直溝は、保護側溝の垂直溝に対して周方向にずれていることを特徴とする請求項4に記載の彫刻刀である。
【0015】
かかる構成によれば、芯側溝の垂直溝は、保護側溝の垂直溝に対して周方向にずれているため、軸筒と保護部材は互いに独立して移動可能である。即ち、一連の動作で姿勢の切り替えが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軸筒の軸方向の移動によって、刃体部は、軸筒から突出する突出姿勢と軸筒内に退避する退避姿勢との切り替えが可能であるため、使用後に退避姿勢にしておけば、例え、収納ケースに収納せずに作品の近傍に放置したとしても、使用者が誤って彫刻刀に接触し、指等を傷つけることがない。また、軸筒の周方向の回転により、刃体部は、前記突出姿勢と退避姿勢の各々の姿勢に固定される。即ち、軸筒の軸方向の移動によって突出姿勢と退避姿勢を切り替える切り替え動作と、軸筒の周方向の回転によって姿勢を固定する固定動作は、移動方向が異なるため、誤って、突出姿勢と退避姿勢を切り替えてしまうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る彫刻刀を示す斜視図である。
【図2】図1の彫刻刀を示す分解斜視図である。
【図3】図1の芯部材を示す斜視図である。なお、図1の芯部材の角度を周方向に少しずらして図示している。
【図4】図3の芯部材を示す正面図である。
【図5】図4の前段部と中段部を示す説明図である。
【図6】図1の軸筒を示す一部破断斜視図である。
【図7】図1の保護部材を示す一部破断斜視図である。
【図8】図7の保護部材を別角度から見た斜視図である。なお、図7の保護部材を天地方向に逆転して図示している。
【図9】姿勢変更の動作における保護係合溝と内側突起部、及び軸筒係合溝と突出部の位置関係の説明図であり、(a)退避姿勢時の位置関係を表す図、(b)退避姿勢から芯部材を周方向に回転させた時の位置関係を表す図、(c)突出姿勢時の位置関係を表す図、(d)突出姿勢から芯部材を周方向に回転させた時の位置関係を表す図、(e)保護部材退避姿勢時の位置関係を表す図である。
【図10】保護部材と刃体部材の双方が軸筒内に退避した退避姿勢における彫刻刀の説明図である。
【図11】保護部材と刃体部材の双方が軸筒から突出した突出姿勢における彫刻刀の説明図である。
【図12】突出姿勢における彫刻刀の側面図である。
【図13】刃体部材が突出し、保護部材が軸筒に退避した保護部材退避姿勢における彫刻刀の説明図である。
【図14】突出姿勢における彫刻刀の彫刻動作を表す説明図であり、(a)彫刻前、(b)被彫刻物に彫刻刀が接触する時、(c)被彫刻物に彫刻刀が彫り込まれている時を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、特に断りがない限り、上下左右の位置関係は、図1のように刃体部材6及び保護部材5が軸筒3から突出した姿勢(以下、突出姿勢ともいう)を基準に説明する。即ち、図1において幅方向を左右、高さ方向を上下、長手方向を前後と表す。
【0019】
彫刻刀1は、彫刻や版画を行う際に使用するものであり、図1、2のように芯部材2と軸筒3と保護部材5と刃体部材6とによって構成されている。
【0020】
以下、各部材の構成について説明する。まず、刃体部材6について説明する。
刃体部材6の刃先の形状は、特に限定されるものではなく、平刀、丸刀、三角刀、切り出し刀、平刀等の通常に用いられる彫刻刀の刃先の形状が採用可能である。
【0021】
続いて、芯部材2について説明する。
芯部材2は、外形が段付きの芯材である。即ち、芯部材2は、図3のように同一中心上に3つの略円柱状の部材が積み重なった形状をしている。芯部材2は、前方から順にそれぞれ外径が異なる前段部7と、中段部8と、後段部10とによって構成されている。また、前記した芯部材2と刃体部材6は、実質的に一体不可分に接合されている。
【0022】
前段部7は、図3のように外側面に保護係合溝11を有している。なお、図3では、保護係合溝11と軸筒係合溝17の形状及び位置の理解を容易にする為、図2の芯部材2を少し周方向に移動させて図示している。保護係合溝11の形状は正面視において略「Z」字状をしている。即ち、保護係合溝11は、図4のように周方向に配された2つの水平溝12、15を有しており、これらの水平溝間をつなぐ垂直溝16によって形成されている。垂直溝16の長さは後述する軸筒3の操作溝27(図2参照)の長さにほぼ等しい。前段部7の外径は、保護部材5の内径とほぼ等しい。
【0023】
中段部8は、外側側面に軸筒係合溝17を有している。軸筒係合部17の形状は、保護係合部11と同様、正面視において略「Z」字状をしている。即ち、軸筒係合溝17は、図4のように周方向に配された2つの水平溝21、22を有しており、これらの水平溝間をつなぐ垂直溝23によって形成されている。前段部7の外周面と中段部8の外周面は、立壁部25を介して段状に連続している。中段部8の外径は、前段部7の外径よりも大きく、保護部材5の外径とほぼ等しい。即ち、立壁部25の高さは保護部材5の厚みとほぼ等しい。
【0024】
後段部10は、姿勢を変更する際に主に把持される部位である。
中段部8の外周面と後段部10の外周面は立壁部26を介して段状に連続している。
後段部10の外径は、中段部8の外径よりも大きく、軸筒3の外径にほぼ等しい。即ち、組み立て完成時における突出姿勢において、後段部10の外周面は、図1のように軸筒3の外周面と面一となっている。また、立壁部26によって、軸方向の後方への軸筒3の動きを規制可能である。
【0025】
ここで、前段部7の保護係合溝11と中段部8の軸筒係合溝17の形状及び位置関係について図5を用いて詳説する。
保護係合溝11と軸筒係合溝17は5つの領域に分けられる。即ち、組み立て完成時に退避姿勢に対応する退避領域Iと、軸筒3が中段部8の垂直溝23に沿って移動可能な軸筒移動領域IIと、突出姿勢に対応する突出領域IIIと、保護部材5が前段部7の垂直溝16に沿って移動可能な保護部材移動領域IVと、ガード部退避姿勢に対応する保護部材退避領域Vとに分類される。また、保護係合溝11の周方向(図5では左右方向)の全長は、軸筒係合溝17の周方向の全長と等しい。
【0026】
保護係合溝11の水平溝12は、軸筒係合溝17の水平溝21に比べて長く、退避領域Iと軸筒移動領域IIと突出領域IIIの3領域に亘って属している。一方、軸筒係合溝17の水平溝21は退避領域Iのみに属している。そして、軸筒係合溝17の垂直溝23は軸筒移動領域IIに属している。また、保護係合溝11の水平溝15は、軸筒係合溝17の水平溝22に比べて短く、保護部材退避領域Vのみに属している。そして、保護係合溝11の垂直溝16は保護部材移動領域IVに属している。一方、軸筒係合溝17の水平溝22は突出領域IIIと、保護部材移動領域IVと、保護部材退避領域Vの3領域に亘って属している。言い換えると、保護係合溝11の垂直溝16と軸筒係合溝17の垂直溝23との位置は周方向(図5では右方向)にずれている。具体的には、前段部7の垂直溝16と中段部8の垂直溝23は突出領域IIIの間隔を空けて配されている。
【0027】
続いて、軸筒3について説明する。
軸筒3は、内径が一定の筒状の部材であり、内部に芯部材2の前段部7及び中段部8が収納可能である。軸筒3は、図6のように軸方向に沿った操作溝27を有しており、操作溝27は軸筒3の先端付近から軸筒3の中間まで直線状に延びている。操作溝27は軸筒3の厚み方向に貫通する。操作溝27の幅は、保護部材5の外側突起部35(図7参照)の外径に等しいかやや大きく、外側突起部35が操作溝27に沿ってスライド可能になっている。軸筒3の内壁には、図6のように軸筒3の中心軸方向へ突出した突出部30を有している。突出部30は、軸筒3の後方の端部付近に設けられている。突出部30は、芯部材2の中段部8に設けられた軸筒係合溝17(図3参照)内に挿入可能であり、軸筒係合溝17に沿ってスライド可能となっている。
【0028】
続いて、保護部材5について説明する。
保護部材5は、ABS樹脂や、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂等の剛性を有した樹脂によって成形されている。そして、保護部材5は、組み立て完成時における突出姿勢において、軸筒3内に収納される筒状部31と、軸筒3の外部に露出するガード部32を有している。
筒状部31は、筒状の部位であり、図7のように内側面と外側面の互いに対応した位置に、内外方向に突出した内側突起部33と外側突起部35を有している。
ガード部32は、図7、8のように筒状部31の先端の縁から前方に向けて延設されている。このガード部32は左右方向両側で一対の壁部36、37を有しており、その先端には左右方向に延びた支点部38が接続されている。壁部36、37と支点部38は連続して設けられており、環状に繋がっている。なお、図8は、ガード部32の形状の理解を深めるため、図7の保護部材を天地方向に逆転して図示している。
【0029】
また、壁部36、37は基端側(筒状部31側)から先端側に向かうにつれて先細りしている。即ち、壁部36、37は基端から先端に向かって幅が緩やかに狭くなっている。
壁部36、37の上辺部50(図8では下方の辺)は、基端から先端に向けて緩やかに下方に向かって傾斜しており、下辺部51(図8では上方の辺)は、基端から先端に向けて上方に向かって傾斜している。
保護部材5は、天地方向に壁部36、37と支点部38によって囲まれた環状形状の2つの開口が形成されている。即ち、保護部材5は、図7、8のように保護部材5の上部に位置する上部開口40と保護部材5の下部に位置する下部開口41を有している。そして、上部開口40と下部開口41は連通している。
以上が彫刻刀1の各部材の構成である。
【0030】
続いて、彫刻刀1の各部材の位置関係について図面を参照しながら説明する。
【0031】
突出姿勢においては、彫刻刀1は、図11のように芯部材2の前段部7の周りを保護部材5の筒状部31が覆っており、芯部材2の前段部7と中段部8と、保護部材5の筒状部31と、の周りを軸筒3が覆っている。即ち、保護部材5は、芯部材2の前段部7と軸筒3との間に位置している。保護部材5の内側突起部33(図7参照)は、芯部材2の前段部7の保護係合溝11(図3参照)内に挿入されている。即ち、保護部材5の内側突起部33は、保護係合溝11の溝壁によって係止されており、保護係合溝11内の範囲内のみで移動可能となっている。軸筒3の突出部30(図6参照)は、芯部材2の中段部8の軸筒係合溝17(図3参照)内に挿入されている。即ち、軸筒3の突出部30は、軸筒係合溝17の溝壁によって係止されており、軸筒係合溝17内の範囲内のみで移動可能となっている。また、軸筒3の操作溝27内に保護部材5の外側突起部35が挿入されている。保護部材5の外側突起部35は、軸筒3の操作溝27によって係止されており、軸筒3の操作溝27内のみ移動可能となっている。即ち、保護部材5は、保護係合溝11と操作溝27の両方によって移動を規制されている。保護部材5の内側突起部33と軸筒3の突出部30は、図9のように、いずれの姿勢においても軸方向(図9では上下方向)に常に直線状に1列に並んで配されている。
【0032】
本発明の彫刻刀1は、使用状態に合わせて3種類の姿勢を取ることが可能である。そこで、姿勢変更の動作の手順に沿って、図9を基準に各姿勢での各部材の位置関係について説明する。なお、図9は、姿勢変更の動作における保護係合溝11と内側突起部33、及び軸筒係合溝17と突出部30の位置関係のみを抜き出した概念図であり、黒丸は内側突起部33及び突出部30の現在位置を示している。一点鎖線は芯部材2の前段部7と中段部8の対応位置及び対応領域を表している。
【0033】
まず、説明の都合上、図10のような軸筒3内に刃体部材6及び保護部材5が収納された姿勢(以下、退避姿勢ともいう)から説明する。(図9(a))
彫刻刀1は、図10のように退避姿勢においては、軸筒3内に刃体部材6及び保護部材5が収納されている。保護部材5の内側突起部33と軸筒3の突出部30は、図9(a)のように軸方向(図9では上下方向)に直線状に1列に並んで配されている。保護部材5の内側突起部33は、芯部材2の前段部7の保護係合溝11内に挿入されており、保護係合溝11の前方に位置する水平溝12の端部に位置している。また、軸筒3の突出部30は軸筒係合溝17内に挿入されており、軸筒係合溝17の前方に位置する水平溝21の端部に位置している。具体的には、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、退避領域I(図5参照)に位置している。この姿勢において、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、それぞれ水平溝12、21の軸方向(図9では上下方向)の溝壁によって係止され、軸方向(図9では上下方向)の移動を規制される。そのため、彫刻刀1は、図10のように軸筒3内に刃体部材6が収納された状態で固定され、刃体部材6が露出しないため、使用者が誤って負傷することがない。
【0034】
次に、軸筒3に対して芯部材2を前方から見て時計回り方向に回し、その後、芯部材2を軸筒3に対して相対的に前方へ移動させる。この時、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、図9(b)のように軸筒移動領域II(図5参照)に属している。即ち、軸筒3の突出部30は、垂直溝23の周方向(図9では左右方向)の溝壁によって係止され、周方向の移動を規制される。また、軸筒3の突出部30は軸方向の規制が解除され、垂直溝23に沿って軸方向に移動可能となる。一方、保護部材5の内側突起部33は未だ水平溝12に位置するため、水平溝12の軸方向の溝壁によって係止され、軸方向の移動が規制されている。そのため、軸筒3の突出部30の軸方向に移動に伴って、軸筒3のみが後方に移動し、刃体部材6及び保護部材5が露出する。
【0035】
その後、再び軸筒3に対して芯部材2を前方から見て時計回り方向に回し、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30を、保護係合溝11と軸筒係合溝17に係止させることによって固定する。この時、刃体部材6及び保護部材5は、図11のように軸筒3から突出した姿勢(以下、突出姿勢又は保護姿勢ともいう)に固定される。保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、図9(c)のように突出領域III(図5参照)に属している。即ち、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、それぞれ水平溝12、22の軸方向の溝壁によって係止され、軸方向の移動を規制される。そのため、彫刻作業の際に、切削方向たる軸方向に刃体部材6及び保護部材5に力が加わっても、刃体部材6及び保護部材5は相対的に移動することがない。また、この突出姿勢において、図12のようにガード部32の先端付近の下方の位置には刃体部材6の一部がガード部32から露出する。そのため、刃体部材6の刃先は被彫刻物に接触することができる。また、刃体部材6の刃先は、ガード部32の先端に位置する支点部38よりも後方に位置している。
【0036】
次に、さらに軸筒3に対して芯部材2を前方から見て時計回り方向に回し、その後、保護部材を軸筒3に対して相対的に後方へ移動させる。この時、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、図9(d)のように保護部材移動領域IV(図5参照)に属している。即ち、保護部材5の内側突起部33は、垂直溝16の周方向(図9では左右方向)の溝壁によって係止され、周方向の移動を規制される。また、保護部材5の内側突起部33は軸方向の移動の規制が解除され、垂直溝16に沿って軸方向に移動可能となる。一方、軸筒3の突出部30は水平溝22に位置するため、水平溝22の軸方向の溝壁によって係止され、芯部材2に対する軸方向の移動が規制されている。
また、この時、軸筒3の操作溝27(図6参照)と軸筒係合溝11の垂直溝16の一部又は全部は、投影面上に重なっている。そのため、保護部材5は、垂直溝16(操作溝27)に沿って軸方向に移動可能となる。即ち、保護部材5のみが軸方向に移動可能となる。そのため、保護部材5の内側突起部33の軸方向に移動に伴って、軸筒3及び芯部材2に対して保護部材5のみが軸方向に相対的に移動する。
【0037】
その後、再び軸筒3に対して前方から見て時計回り方向に回し、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30を、保護係合溝11と軸筒係合溝17に係止させることによって固定する。即ち、保護部材5は、図13のように軸筒3内に退避する姿勢(以下、保護部材退避姿勢ともいう)に固定される。この時、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、図9(e)のように保護部材退避領域V(図5参照)に属している。即ち、保護部材5の内側突起部33及び軸筒3の突出部30は、それぞれ水平溝15、22の軸方向の溝壁によって係止され、軸方向の移動を規制される。そのため、彫刻作業の際に、切削方向たる軸方向に刃体部材6に力が加わっても、刃体部材6は相対的に移動することがない。また、この保護部材退避姿勢において、図13のように刃体部材6のみが軸筒3から露出する。そのため、例え、熟練者のように通常の彫刻刀に慣れており、保護部材5に煩わしさを感じたとしても、切り替え動作を行うことによって、通常の彫刻刀と同様の彫刻作業を行うことができる。
【0038】
続いて、突出姿勢における彫刻刀1の彫刻動作について説明する。なお、保護部材退避姿勢における彫刻刀1の彫刻動作については、通常の彫刻刀と同様であるため、省略する。
【0039】
まず、彫刻刀1は、彫刻の際には、図14(a)のように通常の彫刻刀と同様に斜め方向から被彫刻物の表面に彫り込む。そして、被彫刻物表面に対して刃体部材6が斜め方向に彫り込まれると、ガード部32が被彫刻物表面に当接する。そして、刃体部材6の刃先が被彫刻物を彫り込まれると、図14(b)のようにガード部32が適度に撓む。そして、さらに彫り進めると、図14(c)のように被彫刻物表面上をガード部32が滑り被彫刻物に彫刻される。この時、例え、力が入れすぎて被彫刻物を押さえた手に刃体部材6の刃先が突進しても、手にガード部32が接触し、刃体部材6の刃先が手に触れることを防止できる。また、刃体部材6の刃先の延長上にガード部32が存在しないため、ガード部32に干渉されることがなく目的の方向に彫刻することができる。
【0040】
上記した実施形態では、芯部材2の外周面に保護係合溝11及び軸筒係合溝17を設け、軸筒3の内側面に突出部30、保護部材5の内側面に内側突起部33を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、芯部材2に突起を設け、軸筒3と保護部材5に溝を設けてもよい。
【0041】
上記した実施形態では、保護部材5を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、保護部材5を設けなくてもよい。
【0042】
上記した実施形態では、壁部36、37と支点部38は連続して設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、支点部38が分裂していてもよい。
【0043】
上記した実施形態では、保護部材5の内側突起部33と軸筒3の突出部30は、軸方向に常に直線状に1列に並んで配されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、保護部材5の内側突起部33と軸筒3の突出部30は、1列に並んでいなくてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 彫刻刀
2 芯部材
3 軸筒
5 保護部材
6 刃体部材(刃体部)
11 保護係合溝
12 水平溝
15 水平溝
16 垂直溝
17 軸筒係合溝(筒側溝)
21 水平溝
22 水平溝
23 垂直溝
30 突出部(筒側突起)
32 ガード部
33 内側突起部(保護側突起)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者によって把持される軸筒と、軸筒の内部に配された芯部材と、芯部材の先端に固定される刃体部とを有する彫刻刀であって、
前記軸筒は、芯部材に対して相対的に移動可能であり、
軸筒の軸方向の移動によって、刃体部は、軸筒から突出する突出姿勢と軸筒内に退避する退避姿勢との切り替えが可能であり、
軸筒の周方向の回転により、刃体部は、前記突出姿勢と退避姿勢の各々の姿勢に固定されることを特徴とする彫刻刀。
【請求項2】
軸筒の内側面に筒側突起又は筒側溝を有しており、
芯部材の外側面に芯側溝又は芯側突起を有しており、
筒側突起又は筒側溝が芯側溝又は芯側突起と互いに係合し、相対的に移動することによって、
刃体部の前記突出姿勢と退避姿勢との切り替えが可能であることを特徴とする請求項1に記載の彫刻刀。
【請求項3】
ガード部を有する保護部材を備えており、
前記ガード部は、少なくとも刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢を取ることが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の彫刻刀。
【請求項4】
保護部材は芯部材に対して相対的に移動可能であり、
ガード部が刃体部の刃先近傍に位置する保護姿勢と、ガード部が軸筒内に退避するガード部退避姿勢との切り替えが可能であることを特徴とする請求項3に記載の彫刻刀。
【請求項5】
軸筒の内側面に筒側突起を有しており、
保護部材の内側面に保護側突起を有しており、
芯部材の外側面に前記芯側溝及び保護側溝を有しており、
筒側突起は芯側溝に係合し、芯側溝に沿って移動可能であり、
保護側突起は保護側溝に係合し、保護側溝に沿って移動可能であり、
芯側溝及び保護側溝は、芯部材の周方向に配された2つの水平溝と、前記水平溝間をつなぐ垂直溝を有しており、
芯側溝の垂直溝は、保護側溝の垂直溝に対して周方向にずれていることを特徴とする請求項4に記載の彫刻刀。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−196823(P2012−196823A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61433(P2011−61433)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)