説明

往復動ガス圧縮機

【課題】
往復動ガス圧縮機に於いて、簡単な構成で、各段のピストンリングの面圧を均等化し、高圧側のピストンリングが局部的に摩耗する等の不具合を解消し、ピストンリングの長寿命化を図り、更に往復動ガス圧縮機のメンテナンスコストの低減を図る。
【解決手段】
シリンダ内をピストン18が往復動してガスの圧縮を行う高圧ガス圧縮機に於いて、前記ピストンにピストンリング23が多段に嵌装され、該ピストンリングは一部が欠切されて隙間を形成し、該隙間は高圧側で大きく、低圧側に向って小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスを高圧に圧縮する為の往復動ガス圧縮機、特に天然ガス等のガスを圧縮する無給油往復動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等のガスを高圧に圧縮する圧縮機として、シリンダが複数段連設され、各段のシリンダ毎に順次圧縮圧を高めて、所望の高圧を得るものがある。
【0003】
斯かる高圧ガス圧縮機として、例えば図5に示されるものがある。
【0004】
クランクケース1にクロスヘッドガイド2が複数放射状に設けられ、該クロスヘッドガイド2の先端に該クロスヘッドガイド2と同心にシリンダ3が設けられている。前記クロスヘッドガイド2にはクロスヘッド4が摺動自在に設けられ、前記シリンダ3にはピストン5が摺動自在に設けられ、該ピストン5と前記クロスヘッド4とはピストンロッド9を介して同心に連結されている。
【0005】
前記クランクケース1にはクランク軸6が回転自在に設けられ、該クランク軸6に連結ロッド7を介して前記クロスヘッド4が連結され、前記クランク軸6は図示しないモータに連結されている。
【0006】
前記シリンダ3のシリンダヘッドには吸排気弁ユニット8が設けられ、該吸排気弁ユニット8には吸気排気用の配管(図示せず)が連結されている。又、前記吸排気弁ユニット8,8間はクーラ(図示せず)を介して前記配管により連結されており、低圧側のシリンダ3からの排気ガスは前記クーラにより冷却されて高圧側のシリンダ3の吸気口に導かれる様になっている。
【0007】
図示しないモータにより前記クランク軸6を回転することで、前記連結ロッド7、前記クロスヘッド4を介して前記ピストン5を往復動し、吸気、圧縮を行い、更に各シリンダ3で複数段で昇圧することで、最終的に高圧ガスを排気する様になっている。
【0008】
前記ピストン5にはシリンダ内を気密室とする為、ピストンリングが設けられている。又、高圧化するガスが天然ガス等の場合、潤滑油が混入するのは好ましくなく、従って、前記ピストンリングは、自己潤滑性を有し、無給油で運転可能な合成樹脂製のものが使用される。
【0009】
図6は、従来のピストン5及び該ピストン5に嵌装されたピストンリング群11を示している。
【0010】
前記ピストンロッド9の先端部に前記ピストン5が設けられ、該ピストン5に前記ピストンリング群11が設けられる。
【0011】
前記ピストン5には所定間隔でリング溝12が所要段刻設され、該リング溝12にピストンリング13がそれぞれ嵌設され、該ピストンリング13によって多段(図6では12段)の前記ピストンリング群11が構成される。
【0012】
前記ピストンリング13はリングの1箇所が切断されており、若干直径が縮小された状態で嵌設され、前記切断箇所には一定の間隙が形成される様になっている。運転状態では、前記ピストンリング13には高圧ガスにより面圧が作用し、該ピストンリング13は前記シリンダ3の内面(シリンダライナ)に所要の面圧で摺接する様になっている。前記ピストンリング13は合成樹脂で形成され、自己潤滑性を有し、無給油で耐摩耗性・シール性を有している。
【0013】
ここで、前記ピストンリング13と前記シリンダライナ間に作用する面圧は、前記ピストンリング13を挾んで、高圧側と低圧側の圧力差によって決定され、前記ピストンリング13を多段に設け、それぞれを前記シリンダライナに摺接させることで、前記ピストンリング13の各段毎に圧力が降下し、高圧力差がシールされる様になっている。
【0014】
従来のピストンリング群11に於ける、リング間に形成されるリング間隙14の圧力を解析した結果が図7に示される。
【0015】
高圧側から1段目のリング間隙14-1、2段目のリング間隙14-2、3段目のリング間隙14-3、4段目のリング間隙14-4、…、11段目のリング間隙14-11 とし、図7中で各間隙の圧力を示す曲線に同様の参照符号を付している。尚、図7に於いて、縦軸は圧力、横軸はクランク角度を示している。
【0016】
解析結果によれば、1段目のリング間隙14-1、2段目のリング間隙14-2、3段目のリング間隙14-3と大きく圧力が降下し、4段目以降については、大きな圧力降下は見られない結果となっている。
【0017】
上記した様に、前記ピストンリング13と前記シリンダライナ間に作用する面圧は、高圧側と低圧側の圧力差によって決定されるので、1段目のピストンリング13と、2段目のピストンリング13には大きな面圧が作用する様になっている。この為、1段目のピストンリング13、2段目のピストンリング13の負担が大きく、摩耗が進行すると考えられ、前記ピストンリング群11としての寿命も1段目のピストンリング13、2段目のピストンリング13の摩耗状態に影響される。
【0018】
実際に運転した場合の前記ピストンリング13の摩耗状態も、1段目、2段目のピストンリング13の摩耗が著しく、1段目、2段目のピストンリング13の摩耗によって前記ピストンリング群11の寿命が決定され、保守期間も前記1段目、2段目等、高圧側の複数のピストンリング13の摩耗によって決定されていた。
【0019】
尚、前記ピストン5に前記リング溝12と圧縮室とを連通する通路を穿設し、前記ピストンリング13の内周面に圧縮ガスによる背圧を作用させ、背圧により前記ピストンリング13と前記シリンダライナ間に作用する面圧を軽減することが特許文献1に示されている。
【0020】
然し乍ら、ピストン内部に多数の通路を穿設することは、面倒であり、又背圧を段階的に減少させる為には、通路の径を変える等、更に面倒である。
【0021】
【特許文献1】特開平8−270557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は斯かる実情に鑑み、簡単な構成で、リング間に形成される間隙の圧力を漸次減少させ、各段のピストンリングの面圧を均等化し、高圧側のピストンリングが局部的に摩耗する等の不具合を解消し、ピストンリングの長寿命化を図り、更に往復動ガス圧縮機のメンテナンスコストの低減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、シリンダ内をピストンが往復動してガスの圧縮を行う高圧ガス圧縮機に於いて、前記ピストンにピストンリングが多段に嵌装され、該ピストンリングは一部が欠切されて隙間を形成し、該隙間は高圧側で大きく、低圧側に向って小さくなっている往復動ガス圧縮機に係るものである。
【0024】
又本発明は、前記隙間は低圧側に向って減少している往復動ガス圧縮機に係り、又前記隙間はリング間圧力が各段毎に降下し、降下圧力量が均等、又は略均等になる様に設定される往復動ガス圧縮機に係るものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、シリンダ内をピストンが往復動してガスの圧縮を行う高圧ガス圧縮機に於いて、前記ピストンにピストンリングが多段に嵌装され、該ピストンリングは一部が欠切されて隙間を形成し、該隙間は高圧側で大きく、低圧側に向って小さくなっているので、高圧側のピストンリングが局部的に摩耗することが防止され、ピストンリングの長寿命化が図れる。又、ピストンに加工は必要なく、ピストンリングの隙間のみ変更すればよいので、製作コストの低減が図れ、既存の往復動ガス圧縮機に対しても実施可能である。
【0026】
又本発明によれば、前記隙間は低圧側に向って減少しているので、或は前記隙間はリング間圧力が各段毎に降下し、降下圧力量が均等、又は略均等になる様に設定されるので、リング間圧力が均等化され、全段でのピストンリングの面圧が平均化されると共にピストンリングの摩耗も平均化され、ピストンリングの長寿命化が図れ、更に往復動ガス圧縮機のメンテナンスコストの低減が図れる等の優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0028】
図1は、本発明が適用されるピストンを示している。尚、本発明が実施される往復動ガス圧縮機は、図5に例示した往復動ガス圧縮機と同様であるので説明を省略する。又、図1中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付してある。
【0029】
ピストンロッド9よりピストン芯軸15がシリンダヘッド側に延出し、該ピストン芯軸15に基端(クランク軸6側端、図5参照)側から、ピストン座金16、基部ライダリング17、ピストン18、先端部ライダリング19が順次嵌装され、ナット21が前記ピストン芯軸15の先端(シリンダヘッド側端)に螺着される。
【0030】
尚、前記ナット21を締込み、前記ピストン芯軸15に初期張力を発生させておけば、温度膨張時の締付け力の低下を防止でき、或は見かけ上の剛性を増大させることができる。
【0031】
前記ピストン18に所定間隔でリング溝22が多段(図示では17段)に刻設され、該リング溝22にピストンリング23がそれぞれ嵌設され、該ピストンリング23によって多段のピストンリング群24が構成される。前記ピストンリング23の材質としては、潤滑性を有する合成樹脂、例えば4弗化樹脂(PTFE)が用いられる。尚、前記基部ライダリング17、前記先端部ライダリング19は前記ピストンリング群24のガイド機能を有し、前記ピストンリング23が摩耗した場合も、シリンダ3の内面(シリンダライナ)に前記ピストン18が接触しない様になっている。
【0032】
前記ピストンリング23は、図2に示される様にリングの一箇所が切断されており、前記リング溝22に前記ピストンリング23が嵌設された状態で、切断箇所に隙間25が形成される様になっている。
【0033】
又、前記ピストンリング23は嵌設される溝の位置で、前記隙間25の大きさが異なる様になっている。該隙間25の大きさは、嵌設した状態で高圧側から低圧側に向って漸次小さくなる様に設定されている。
【0034】
前記リング溝22に嵌設されるピストンリングを高圧側からピストンリング23-1 ,23-2 ,23-3 ,23-4 ,…,23-17とすると、前記隙間25の大きさは、例えば図3に示される様に、漸次減少させる。
【0035】
尚、図3で示される前記隙間25の値は平均値を示すものであり、又一例を示している。前記隙間25は、前記ピストンリング23を境に降下する圧力が、各段のピストンリング23について均等、略均等になる様に設定される。
【0036】
図4は、前記ピストンリング23の前記隙間25を高圧側から低圧側に向って、漸次小さくしていった場合の、リング間隙26-1,26-2,…の圧力を示している。図4中、縦軸は圧力、横軸はクランク角度を示している。
【0037】
高圧側から1段目のピストンリング23と2段目のピストンリング23間のリング間隙26-1、2段目のピストンリング23と3段目のピストンリング23間のリング間隙26-2、3段目のピストンリング23と4段目のピストンリング23間のリング間隙26-3、…とし、図4中で各段の間隙の圧力を示す曲線に間隙と同様の参照符号を付している。
【0038】
図4に示される様に、前記隙間25を高圧側から低圧側に向って、漸次小さくしていった場合の圧力降下は、各段ピストンリング23によって分散され、各段毎の圧力降下は、略均等となっている。特に、圧力降下量は最大圧力時で均等、略均等になっていることが好ましい。
【0039】
この為、前記ピストンリング23とシリンダライナ間の面圧も、各段毎に均等化され、前記ピストンリング23の摩耗も全段に分散され、長寿命化が図れる。
【0040】
特に、高圧側の前記ピストンリング23の前記隙間25を、低圧側に対して大きくすることで、高圧側のピストンリング23の面圧が低減し、高圧側のピストンリング23が局部的に摩耗するということが避けられる。
【0041】
尚、低圧側については、シール性を高める為に、1つのリング溝22に2つのピストンリング23を嵌設しても良い。
【0042】
本発明では、前記ピストンリング23の前記隙間25を、設けられる位置に対応させ変更するだけで、全段のピストンリング23の面圧を平均化でき、加工、製作が容易である。又、ピストンに加工が必要ないので、既存の往復動ガス圧縮機に対しても実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る往復動ガス圧縮機に用いられるピストン、ピストンリングを示す断面図である。
【図2】(A)該ピストンリングの正面図、(B)該ピストンリングの側面図である。
【図3】ピストンリングの位置と該ピストンリングに形成される隙間との関係を示す図である。
【図4】本発明に係るリング間圧力を示す線図である。
【図5】往復動ガス圧縮機を示す断面図である。
【図6】従来のピストン、ピストンリングを示す断面図である。
【図7】従来の往復動ガス圧縮機に於けるリング間圧力を示す線図である。
【符号の説明】
【0044】
3 シリンダ
9 ピストンロッド
15 ピストン芯軸
18 ピストン
22 リング溝
23 ピストンリング
25 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内をピストンが往復動してガスの圧縮を行う高圧ガス圧縮機に於いて、前記ピストンにピストンリングが多段に嵌装され、該ピストンリングは一部が欠切されて隙間を形成し、該隙間は高圧側で大きく、低圧側に向って小さくなっていることを特徴とする往復動ガス圧縮機。
【請求項2】
前記隙間は低圧側に向って減少している請求項1の往復動ガス圧縮機。
【請求項3】
前記隙間はリング間圧力が各段毎に降下し、降下圧力量が均等、又は略均等になる様に設定される請求項1の往復動ガス圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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