説明

後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒によるポリオレフィン系グラフト共重合体とその製造方法

オレフィン系モノマーと乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーとのグラフト共重合において、新規なポリオレフィン系グラフト共重合体、およびその製造方法を提供する。さらにはそれらを含有する組成物、およびその製造方法を提供する。後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーをグラフト共重合させることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒を用いて得られる、新規なポリオレフィン系グラフト共重合体、それらを含有する組成物、及び製造方法に関する。
【背景技術】
グラフト共重合体は、その構造上の特徴から、ポリマーへの機能付与剤、表面機能付与剤、ポリマーブレンドの相溶化剤、ポリマー/フィラー系複合材料の界面活性化剤等々、機能性ポリマーとして有効に利用されている。
また、乳化重合を利用して得られるグラフト共重合体としては、コアシェルポリマーが有名であり、特に、ジエン系ゴム粒子、アクリル系ゴム粒子、アクリル/シリコーン系複合ゴム粒子などを用いたコアシェルポリマー、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂等が、耐衝撃性の高い樹脂あるいは樹脂組成物として市販されている。しかし、これらの樹脂はポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂には分散性が低いため適さないという問題があった。
乳化重合を利用して得られるオレフィン系のグラフト共重合体(コアシェルポリマー)は知られているが(特開昭52−108490)、高温高圧が必要という問題がある。また、ラジカル重合であるために、エチレンしか実質的に重合できないという問題もある。
オレフィンの配位重合触媒としては、チーグラーナッタ触媒、近年は、メタロセン触媒が有名であるが、このような前周期遷移金属系を用いる場合、特に極性化合物に対する耐性が低いために、乳化重合系ではその活性を失ってしまう。ここで、耐性とは、極性化合物が錯体や触媒活性種に配位しにくい、あるいは、配位しても活性を失いにくい、あるいは、極性化合物と反応をおこしにくい、あるいは、分解しにくいという意味である。
各種総説中(S.D.Ittel,L.K.Johnson,M.Brookhart,Chemical Review,2000年,100巻,1169−1204頁、野村琴広,有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293−305頁、S.Mecking,A.Held,F.M.Bauers,Angewandte Chemie International Edition,2002年,41巻,544−561頁)に例示されるように、極性モノマー(例えば(メタ)アクリレート等の極性ビニル系モノマー)や極性溶媒(例えばテトラヒドロフラン、エーテル、アセトン、酢酸エチル、水)といった、極性化合物に対する耐性が高いものとしては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が最近、着目されつつある。
【発明の開示】
本発明の課題は、オレフィン系モノマーと乳化重合により製造されたシリコーン系粒子(以下シリコーン系マクロモノマーともいう)とのグラフト共重合において、上記の不利を解決し、かつ、新規なポリオレフィン系グラフト共重合体を提供することである。さらにはそれら共重合体を含有する組成物、および製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するにいたった。即ち本発明は、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、α−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される活性種であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)
好ましい実施態様としては、前記乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーが、オルガノシロキサンと、分子内に該オルガノシロキサンと反応可能な官能基および配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物とを反応させてなるシリコーン系マクロモノマーであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、ポリオレフィン系グラフト共重合体中のポリオレフィンが、分岐構造を有することを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、オレフィン系モノマーがエチレン、またはプロピレンであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
さらには、上記ポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する組成物に関する。
好ましい実施態様としては、組成物の成分として、ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する組成物に関する。
さらには、上記ポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法に関する。
さらには、上記組成物の製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体である。本発明に使用される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、水共存下でオレフィン重合活性をもつものであればいずれのものでも使用可能であり、後周期遷移金属としては、周期表8〜10族の、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が好ましく、この中でも10族のニッケル、パラジウム、白金が好ましく、特にニッケル、パラジウムが、さらにパラジウムが、水に対する耐性が高いために好ましい。
本発明の後周期遷移金属錯体中の配位子としては、窒素、酸素、リン、硫黄を含有する配位子が挙げられるが、特に制限はなく、例えば、Chem.Rev.2000年,100巻,1169頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、Angew.Chem.Int.Ed.2002年,41巻,544頁等の総説中や、WO97/17380、WO97/48740、Chem.Commun.2000年,301頁、Macromol.Symp.2000年,150巻,53頁、Macromolecules,2001年,34巻,1165頁、Macromolecules,2001年,34巻,2022頁、Macromolecules,2003年,36巻,6711頁等に記載されている配位子を用いることができる。その中でも合成が簡便という点で、2つのイミン窒素を有する配位子が、特にα−ジイミン型の配位子が好ましい。
本発明の後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される活性種が好適に使用される。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)。
Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またRがヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。
また、Lで表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R)C(R)=NArで表される化合物が、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R、Rは炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q)が、触媒の金属−ハロゲン結合から、ハロゲンを引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M)が発生し、助触媒のアニオン(L)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。Rを具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、特に、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。M−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入はM−炭素結合(あるいは水素結合)に比べておこりにくいため、特に好ましいRはメチル基である。さらに、RとしてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
助触媒としては、Qで表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き抜き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF、B(C、B(C(CF、PF、AsF、SbF、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが挙げられる。特に、PF、AsF、SbF、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF、AsF、SbFが、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。活性の高さからは、BF、B(C、B(C(CFが、特にB(C、B(C(CFが好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF、C、C、C17、Cがあるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
上述の活性化の理由から、後周期遷移金属錯体系触媒/助触媒のモル比は、1/0.1〜1/10、好ましくは1/0.5〜1/2、特に好ましくは1/0.75〜1/1.25である。
本発明に用いられる、オレフィン系モノマーは、炭素数2〜20のオレフィンであれば特に制限はなく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン等が挙げられる。また、1,3−ブタジエン、3,3−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,13−テトラデカジエン、イソプレン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等のジエンを本発明の効果を損なわない範囲で少量併用してもよい。この中でも炭素数10以下のα−オレフィンが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。特に活性を考えた場合エチレン、プロピレンが好ましい。これらのオレフィン系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。
オレフィン系モノマーの使用量としては、制限はないが、オレフィン系モノマー/活性種(触媒または助触媒のうち少ない方の量になる)がモル比で10〜10、さらには10〜10、とくには10〜10とするのが好ましい。当該モル比が小さすぎると、分子量の小さい重合体しか得られなくなり、大きすぎると、モノマーに対するポリマーの収率が低くなる傾向が生ずる。
本発明により得られるポリオレフィン系グラフト共重合体中のポリオレフィンは、前周期遷移金属錯体系と比較して、分岐構造、1,ω−挿入構造(Chem.Rev.2000年,100巻,1169頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁参照)、あるいはアタクチック構造を有しうる。後周期遷移金属錯体系では、配位子の立体因子によって、炭素数3以上のオレフィン系モノマーの挿入方向をそれほど制御しえないため、立体規則性が発現しにくい(アタクチック)。このようなことから、しばしば非晶性のポリマーが得られ、溶媒に可溶であるため、重合後、濾別、洗浄、吸着等により触媒またはその残渣を除去しやすいという利点がある。
本発明で用いられる、乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、オレフィン系モノマーとグラフト共重合しうる炭素−炭素二重結合を1分子内に少なくとも1個以上持つことが好ましい。この炭素−炭素二重結合は配位重合しやすいものがよいが、特にアリル末端(α−オレフィン構造)、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端のものが好ましく、特に、(メタ)アクリル末端およびアリル末端のものが、配位重合しやすく、すなわち、オレフィンとグラフト共重合しやすいという点で好ましい。
本発明の乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、オルガノシロキサンを主成分とするマクロモノマーである。オルガノシロキサンとしては、公知のものが多数存在するが、制限はなく、必要な機能に応じて、オルガノシロキサンの1種あるいは2種以上を選択すればよい。さらに、本発明のシリコーン系マクロモノマーは、他の単量体を含んでいても良い。主鎖骨格は直鎖状でも環状でも分岐状でも良く、架橋により三次元的な網目構造を取っていても良い。本発明のシリコーン系マクロモノマーは微粒子であっても良い。複合粒子であっても良く、コアシェル構造を取っていても良い。
本発明のシリコーン系マクロモノマーは、オルガノシロキサン(以下、オルガノシロキサン(A−1)ともいう)と、分子内に該オルガノシロキサン(A−1)と反応可能な官能基および配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、化合物(A−2)ともいう)とを反応させてなるシリコーン系マクロモノマーであることが好ましく、必要に応じて該オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応可能な官能基を有する単量体(以下、化合物(A−3)ともいう)を含有していても良い。各成分の使用量には特に制限は無く任意の量で用いて良いが、好ましい使用量は、オルガノシロキサン(A−1)は好ましくは40〜99.99重量%、さらに好ましくは60〜99.90重量%である。少なすぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。化合物(A−2)は好ましくは0.01〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。少なすぎるとオレフィン系モノマーとのグラフトが不充分になり、多すぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。化合物(A−3)を使用する場合は、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。多すぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。ただし、これらオルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)および化合物(A−3)の合計は100重量%である。
前記オルガノシロキサン(A−1)は、シリコーン系マクロモノマーの主骨格を構成するための成分である。オルガノシロキサン(A−1)は、乳化重合しうる液状のものであれば任意の分子量のものを使用しうるが、得られるシリコーン系マクロモノマーの物性が設計しやすいという点から、好ましくは分子量1000以下、特に好ましくは500以下である。オルガノシロキサン(A−1)としては、直鎖状、環状または分岐状のものを使用することが可能である。乳化重合系の適用可能性および経済性の点から、環状シロキサンが好ましい。かかる環状シロキサンの具体例としては、たとえばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,2,3,4−テトラハイドロ−1,2,3,4−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどがあげられる。また、2官能性のアルコキシシランもかかるオルガノシロキサン(A−1)として用いることができ、その具体例としては、たとえばジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシランなどがあげられる。さらには、環状シロキサンと2官能性のアルコキシシランとを併用することもできる。これらオルガノシロキサン(A−1)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記化合物(A−2)は、それ自身が有する官能基により前記オルガノシロキサン(A−1)と反応する。その結果、得られるシリコーン系マクロモノマーの側鎖または末端に配位重合可能な炭素−炭素二重結合を導入させることができる。この配位重合可能な炭素−炭素二重結合は、該シリコーン系マクロモノマーとオレフィン系モノマーとのグラフト共重合を可能にするための成分である。前記配位重合可能な炭素−炭素二重結合は、ビニル末端、アリル末端(α−オレフィン構造)、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端の炭素−炭素二重結合が好ましく、特に(メタ)アクリル末端およびアリル末端のものが、配位重合しやすく、すなわち、オレフィンとグラフト共重合しやすいという点で好ましい。化合物(A−1)と反応するための基としては、珪素原子に結合した加水分解性アルコキシ基またはシラノール基、あるいは化合物(A−1)と開環共重合しうる環状シロキサン構造を持つ基を用いることが好ましい。化合物(A−2)の具体例としては、たとえば3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、および1,3,5,7−テトラキス(アクリロキシプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリス(アクリロキシプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンなどのオルガノシロキサンがあげられ、このうち3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが反応性が良好であるという点で特に好ましい。これら化合物(A−2)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記化合物(A−3)は、前記オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応し、シリコーン系マクロモノマーの物性を調整するための成分である。例えば珪素原子結合加水分解性基を分子中に少なくとも3個有する多官能シラン化合物またはその部分加水分解縮合物を用いると、シリコーン系マクロモノマー中に架橋構造を導入してTgや弾性率を調整することができる。このような多官能シラン化合物の具体例としてはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリ(メトキシエトキシ)シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、などのアルコキシシラン、およびその加水分解縮合物;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、テトラアセトキシシランなどのアセトキシシラン、およびその加水分解縮合物があげられる。また、化合物(A−3)としては、オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応しうる官能基を有する非シリコーン系マクロモノマーを用いることもできる。そのようにしてシリコーンとアクリルとの複合粒子を得ることも可能である。これら化合物(A−3)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いられるシリコーン系マクロモノマーは、酸性もしくは塩基性条件下で行われる通常の重合方法により製造することができる。たとえば前記オルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)ならびに必要に応じて用いられる化合物(A−3)を、乳化剤および水とともにホモミキサー、コロイドミル、ホモジナイザーなどを用いてエマルジョンとし、ついで、系のpHをアルキルベンゼンスルホン酸や硫酸などで2〜4に調整し、加熱して重合させた後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ成分を加えて中和するなどの方法で製造することができる。
なお、原料の全部を一括添加したのち、一定時間撹拌してからpHを小さくしてもよく、また原料の一部を仕込んでpHを小さくしたエマルジョンに残りの原料を逐次追加してもよい。逐次追加するばあい、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで添加してもよいが、重合速度の面から、乳化状態で追加する方法を用いることが好ましい。反応温度は50〜95℃が好ましい。50℃未満では重合速度が遅くなり、95℃を超えると安定性が乏しくなる。反応時間は好ましくは1〜100時間であり、さらに好ましくは5〜50時間である。反応時間が短すぎると重合が不充分であり、長すぎると生産性が低くなる。
酸性条件下で重合を行う場合、通常、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合は切断と結合生成の平衡状態にある。この平衡は温度によって変化し、低温になるほど高分子量のポリオルガノシロキサンが生成しやすくなる。したがって、高分子量のポリオルガノシロキサンを得るためには、加熱によりオルガノシロキサン(A−1)を重合した後、重合温度以下に冷却して熟成を行うことが好ましい。具体的には、50℃以上で重合を行い重合転化率が75〜90%、さらに好ましくは82〜89%に達した時点で加熱を止め、10〜50℃、好ましくは20〜45℃に冷却して5〜100時間程度熟成を行うことができる。なお、ここで言う重合転化率は原料中のオルガノシロキサンの低揮発分への転化率を意味する。
乳化重合に用いる水の量についてはとくに制限は無く、モノマーを乳化分散させるために必要な量であれば良く、通常前記オルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)および化合物(A−3)の合計量に対して1〜20倍の重量を用いれば良い。使用する水の量が少なすぎると、疎水性油であるモノマーの割合が多すぎてエマルジョンがW/OからO/Wへ転相せず、水が連続層となりにくい。使用する水の量が多すぎると安定性に乏しくなる上、釜効率が低くなる。
乳化重合に用いる乳化剤は、反応を行うpH領域において乳化能を失わないものであれば特に限定なく公知のものを使うことができる。かかる乳化剤の例としては、たとえばアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、該乳化剤の使用量にはとくに限定がなく、目的とするシリコーン系マクロモノマーの粒子径などに応じて適宜調整すればよい。充分な乳化能が得られ、かつ得られるシリコーン系マクロモノマーとそれから得られるポリオレフィン系グラフト共重合体の物性に悪影響を与えないという点から、前記エマルジョン中に0.05〜20重量%用いるのが好ましく、特には0.1〜10重量%用いるのが好ましい。
シリコーン系マクロモノマーの粒子径は、前記乳化剤の使用量の増減などの通常の乳化重合技術を用いて制御することが可能である。熱可塑性樹脂と配合したときに良好な分散性を発現する点から、好ましくは20〜1000nm、さらに好ましくは30〜500nmの範囲内であることが好ましい。
本発明の乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、上述のように単一のシリコーン系マクロモノマーのみからなるものであっても良いし、1種あるいは2種以上のマクロモノマーからなる複合粒子、さらにはラテックスブレンドであってもよい。
本発明の乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、そのままオレフィン系モノマーとの反応に用いても良いし、必要に応じて希釈、濃縮、熱処理、熟成処理などの操作を加えた後用いても良いし、乳化剤、凍結防止剤、安定剤、pH調整剤などの添加物を加えて成分を調整した後用いても良い。該シリコーン系マクロモノマーは、固形分含量が1〜50重量%のラテックスとして用いることが好ましく、さらに好ましくは固形分含量が5〜30重量%のラテックスとして用いることが好ましい。固形分含量が多すぎるとラテックス粒子の凝集が起って反応が不均一になりやすく、固形分含量が少なすぎると反応液全体の量が増えるので釜効率が悪くなる。
本発明のグラフト共重合体の重合は、乳化あるいはそれに近い系で行う。例えば、シリコーン系マクロモノマーのラテックスに配位重合触媒およびオレフィン系モノマーを均一に分散させて反応させることが出来る。用いるオレフィン系モノマーが反応温度において気体である場合は、低温で凝固させて液体もしくは固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱しても良いし、圧力をかけて気体として仕込んでも良い。シリコーン系マクロモノマー、オレフィン系モノマーおよび触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加しても良い。また、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで仕込んでも良い。
シリコーン系マクロモノマーとオレフィン系モノマーの使用割合は任意に設定しうるが、用いるシリコーン系マクロモノマー100重量部に対してオレフィン系モノマーを好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは2〜33重量部用いることが好ましい。オレフィン系モノマーが沸点100℃以下の揮発性液体もしくは気体である場合は、オレフィン系モノマーを大過剰に用い、上記の好ましい量が重合した時点で反応を停止して未反応モノマーを除去することも可能である。
重合の際、モノマーおよび触媒の溶解度を高め反応を促進するために有機溶媒を少量添加してもよい。その溶媒としては、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。また、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよい。水溶性が低く、かつ使用するシリコーン系マクロモノマーに含浸しやすく、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましく、このような特に好ましい例としては塩化メチレン、クロロホルムおよびブチルクロリドが挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。溶媒の合計使用量は、反応液全体の体積に対して好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。あるいは、使用するシリコーン系マクロモノマーの総重量に対して好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下である。使用量が多すぎるとラテックス粒子の凝集が起こったり、新たな粒子が発生して反応が不均一になりやすい。
本発明のグラフト共重合体の製造は、−30〜200℃、好ましくは0〜100℃で行われる。重合時間は通常10分〜100時間、反応圧力は常圧〜10MPaである。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保っても良いし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させても良い。用いるオレフィン系モノマーがエチレン、プロピレンなどの気体である場合は、重合反応によるモノマー消費に伴って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行っても良く、モノマーを供給したり加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行っても良い。
なお、該グラフト共重合体は、全重量に対して、フリーのポリオレフィンを含有する場合があるが、フリーのポリオレフィンを実質的に含まないのが好ましく、各種の重合条件の調整により達成しうる。例えば前記シリコーン系マクロモノマー中における化合物(A−2)の使用量を増やして該マクロモノマー中の配位重合可能な炭素−炭素二重結合の含量を増やしたり、マクロモノマー粒子をコアシェル構造にして表面部分に配位重合可能な炭素−炭素二重結合を偏在させたり、オレフィン系モノマーの重合時に溶媒を添加してマクロモノマー粒子中に触媒溶液を含浸させることにより、フリーのポリオレフィンを低減しうる。
本発明により得られるポリオレフィン系グラフト共重合体は通常ラテックスとして得られる。ラテックスの粒径は使用した原料マクロモノマーの粒径および反応させたオレフィン系モノマーの量に応じて、通常30nm〜1000nmのものが得られる。反応条件によってはラテックス粒子の一部が凝集して析出したりフリーのポリオレフィンが副生成して析出する場合があるが、このような析出物の無い条件で反応を行うことが好ましい。
なお、前記のごとく得られるグラフト共重合体粒子を含むラテックスは、たとえばラテックスを噴霧乾燥したり、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、ギ酸カルシウムなどの電解質により凝集させたのち加熱・脱水・乾燥などの処理を経て、グラフト共重合体粒子からなる粉末、樹脂塊あるいはゴム塊として回収することができる。本発明のグラフト共重合体粒子の乾燥物を押出機またはバンバリーミキサーなどを用いてペレット状に加工したり、凝集・脱水を経て得られた含水状態の樹脂を圧搾脱水機を経由させることによりペレット状に加工し回収することもできる。
本発明のグラフト共重合体粒子を各種の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に配合することにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
前記熱可塑性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体などのビニルポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどが好ましく例示される。前記熱硬化性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ホリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく例示される。これらのうちポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが、本発明のグラフト共重合体の分散性が良好であるという点で好ましい。これら熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂とグラフト共重合体粒子との配合割合は、成形品の物性がバランスよくえられるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはグラフト共重合体粒子の量が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂100部に対して0.1部以上、好ましくは5部以上であり、また熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の特性を維持するためには、グラフト共重合体粒子の量が熱可塑性樹脂100部に対して500部以下、好ましくは100部以下が好ましい。
本発明のポリオレフィン系モノマーと乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーからなるグラフト共重合体は、ポリオレフィン成分を含むためポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂に対しても良好な分散性を示し、かつシリコーン成分を含むため様々な機能性を付与することができる。本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体およびその組成物は、特にポリオレフィン用の耐油性改良剤、低温脆性改良剤、難燃助剤、耐衝撃性改良剤、エラストマー特性付与剤、摺動性付与剤、可塑剤、耐薬品性改良剤、ガス透過性付与剤、電気特性改良剤、相溶化剤などに用いることができる。
さらに、本発明のグラフト共重合体とその組成物は、プラスチック、ゴム工業において知られている通常の添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤などの配合剤を含有することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、たとえば、熱可塑性樹脂と本発明のグラフト共重合体粒子および所望により添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また各成分の混練順序は特に限定されず、使用する装置、作業性あるいは得られる熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて決定することができる。
また、その熱可塑性樹脂が乳化重合法で製造されるばあいには、該熱可塑性樹脂とグラフト共重合体粒子とを、いずれもエマルジョンの状態でブレンドしたのち、共凝集することで得ることも可能である。
かくして得られる熱可塑性樹脂組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる、たとえば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法があげられる。
【実施例】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
なお、以下の合成例、実施例および比較例において、各物性および特性の測定は、それぞれ以下の方法にしたがって行なった。
[平均粒子径]NICOMP製のSubmicron Particle Sizer Model 370を用いて動的光散乱法により粒子径を測定し、体積平均粒子径を求めた。
[ゲル含量]試料約100mgを300Meshステンレス金網の袋に入れ、トルエンに室温24時間以上浸漬した後、室温で4時間以上減圧乾燥して試料中のトルエン不溶分の重量を測定した。下記の式によりゲル含量を求めた。
ゲル含量(重量%)={(トルエン不溶分乾燥重量)/(トルエン浸漬前重量)}×100
[重合転化率]シリコーン系マクロモノマーの乳化重合において、仕込んだモノマー、乳化剤および開始剤の重量の合計を反応液全体の総重量で除して、モノマーが100%重合した場合の最大固形分濃度を求めた。重合したラテックスを軟膏缶に0.5〜2g程度採取し、100℃以上のオーブンで30分以上熱乾燥して残留する固形分の割合を求め、これをラテックス中の固形分濃度とみなした。以下の式に基づいて重合転化率を算出した。
重合転化率(重量%)={(ラテックス中の固形分濃度)/(最大固形分濃度)}×100
H NMRスペクトル]ラテックスを塩化カルシウムで塩析し水洗、乾燥して得られた樹脂約10mgを重水素化クロロホルム(市販試薬)約1mLに溶かし、300MHz NMR装置(Varian社製Gemini300)によりH NMRスペクトルを測定した。1.2〜1.3ppmのポリエチレンCHピーク、0.8〜0.9ppmのポリエチレンCHピーク、および0.0〜0.1ppmのシロキサンCHピークにより、生成物を同定した。
[引張弾性率、引張伸び]ポリプロピレン樹脂または本発明の樹脂組成物の約1mm厚プレスシートを作成し、そこからJIS−K7113付属書1に記載の2(1/3)号形小型試験片を打ち抜いた。オートグラフ(Shimadzu製、AUTOGRAPH AG−2000A)を用いて、n=3で引張特性を測定した。初速1mm/minで引張弾性率を測定した後30%まで引っ張り、次に5mm/minの速度で40%まで引っ張り、最後に引張速度を16.66mm/minに上げて破断点の伸び率を測定した。
[耐油性]ポリプロピレンまたは本発明の樹脂組成物の約1mm厚プレスシートからJIS−K7113付属書1に記載の2(1/3)号形小型試験片を打ち抜いた。オートグラフを用いて引張速度16.66mm/minで引張特性を測定した。また、同じシートから打ち抜いた別のダンベルをJIS−K6258に準拠して耐油試験を行った。IRM903オイル(日本サン石油製)に100℃24時間の浸漬した後の引張特性を同様に測定し、耐油試験前後の物性変化を評価した。
[動摩擦係数]
表面性試験機(新東科学工業(株)製、HEIDON−14DR)を用いて動摩擦係数を測定した。約2mm厚プレスシートから20mm×20mmの上面シートと100mm×150mmの下面シートを切り出し、垂直荷重200g、すべり速度100mm/minの条件で測定した。
(合成例1)シリコーン系マクロモノマー合成例
反応容器に水80g、オクタメチルテトラシクロシロキサン(東レダウコーニング製)30g、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業製)1.5g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王製、ネオペレックス)25%水溶液0.6gを仕込んで乳化させた後、ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業製)2.5%水溶液12gを加えて80℃で反応開始し8時間後に重合転化率73%に達した。室温に冷却し12時間熟成した後に水酸化ナトリウム水溶液で中和し、シリコーン系マクロモノマーのラテックスを得た。各成分の使用量と得られたラテックスの物性を表1に示す。

(参考例1)エチレン単独重合
下記化学式(3)

の構造を持つパラジウム錯体(以下[N^N]PdMeClという)をJ.Am.Chem.Soc.1995年,117巻,6414頁等の文献に記載されている公知の方法によって合成した。[N^N]PdMeClを80mmol/L含有するジエチルエーテル溶液8mLと、LiB(Cを80mmol/L含有するジエチルエーテル溶液8mLとを混合し、LiClを沈殿させて[N^N]PdMe・B(C錯体を40mmol/L含有するジエチルエーテル溶液16mLを調製した(以下ジエチルエーテル触媒溶液という)。
窒素置換した圧力容器にジエチルエーテル触媒溶液2mLを入れ、室温で減圧してジエチルエーテルを除去した後、塩化メチレン0.5mLを加えて触媒を溶解させた。0.4%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液25mLを加えて撹拌し、触媒を分散させた。エチレンを導入して2MPaとし、室温30時間反応させた。生成物は樹脂塊とラテックスの混合物として得られ、H NMR観測によりいずれも分岐ポリエチレンであることが確認された。ラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、乾燥の後処理を行ってポリエチレン樹脂を得た。得られた樹脂塊とラテックス塩析物のゲル含量はいずれも0.5%以下であった。なお、ラテックス塩析物100mgをヘキサン100mLに室温24時間浸漬したところ、完全に溶解した。
(実施例1)シリコーン系マクロモノマーとエチレンの共重合
シュレンク管に参考例1で調整したジエチルエーテル触媒溶液15mLを入れ、室温で減圧してジエチルエーテルを除去した後、塩化メチレン15mLを加えて溶解させ、[N^N]PdMe・B(C錯体を40mmol/L含有する塩化メチレン溶液(以下塩化メチレン触媒溶液という)を調整した。この塩化メチレン触媒溶液0.5mLを上記合成例1で得られたラテックス25mLと混合し、触媒を均一に分散させた。反応混合液を、窒素置換した圧力容器内に仕込み、エチレンを導入して2MPaとし、室温7時間反応させた。生成物はラテックスとゴム状樹脂塊の混合物として得られた。このうちラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、乾燥の後処理を行って本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体樹脂を得た。H NMR観測により、樹脂塊は分岐ポリエチレンが主成分であり、ラテックス塩析物は分岐ポリエチレンとシロキサンマクロモノマー成分の両方からなることが確認された。反応条件と生成物の収量および物性を表2に示す。
このラテックス塩析物100mgをヘキサン100mLに室温24時間浸漬したところ、不溶物が残存した。この不溶物は、H NMR観測によりマクロモノマー成分とポリエチレン成分を両方含有することが確認された。フリーのポリエチレンはヘキサンに溶解するため、該不溶物はシリコーン系マクロモノマー−エチレン共重合体である。

(実施例2)共重合体/PP組成物のプレスシート作成
実施例1で得た本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体のラテックスの塩析物1gとポリプロピレン樹脂(F232DC)5gとをマイクロレオロジーコンパウンダー(ThermoHaake製、minilab)を用いて200℃で10分間混練し、本発明の樹脂組成物を得た。200℃でプレスして約1mm厚のシートを作成し、このシートの引張弾性率および引張伸びと耐油性を測定した。結果を表3に示す。
(比較例2)PP単独プレスシート作成
ポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、200℃でプレスして約1mm厚のシートを作成し、引張弾性率および引張伸びと耐油性を測定した。結果を表3に示す。また、同様に約2mm厚のシートを作成して、このシートから試料を切り出し、動摩擦係数を測定した。結果を表4に示す。
(比較例3)シリコーン/PP組成物のプレスシート作成
合成例1で得たシリコーン系マクロモノマーのラテックスの塩析物1gとポリプロピレン樹脂(F232DC)5gとをマイクロレオロジーコンパウンダー(ThermoHaake製、minilab)を用いて200℃で10分間混練し、本発明の樹脂組成物を得た。200℃でプレスして約1mm厚のシートを作成し、このシートの引張弾性率および引張伸びと耐油性を測定した。結果を表3に示す。

(実施例3)共重合体/PP組成物のプレスシート作成
実施例1で得た本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体のラテックスの塩析物2gとポリプロピレン樹脂(F232DC)40gとをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練し、本発明の樹脂組成物を得た。200℃でプレスして約2mm厚のシートを作成した。このシートから試料を切り出し、動摩擦係数を測定した。結果を表4に示す。
(比較例4)シリコーン/PP組成物のプレスシート作成
合成例1で得たシリコーン系マクロモノマーのラテックスの塩析物2gとポリプロピレン樹脂(F232DC)40gとをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練し、本発明の樹脂組成物を得た。200℃でプレスして約2mm厚のシートを作成した。このシートから試料を切り出し、動摩擦係数を測定した。結果を表4に示す。

本発明の組成物(実施例2)はポリプロピレン樹脂(比較例2)に比べて耐油試験後の引張特性変化率が小さく、耐油性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
このように、オレフィン系モノマーとシリコーン系マクロモノマーとのグラフト共重合体を常温低圧の温和な条件下で簡便に得ることが出来る。該グラフト共重合体粒子は、熱可塑性樹脂、特にポリオレフィンの改質剤として好適に用いることができる。特にポリプロピレンの改質剤として用いた場合には、耐油性、軟質性(低引張弾性率)、摩擦係数、酸素透過係数、圧縮永久歪が改善されたシートを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項2】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする、請求項1記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項3】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、α−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする、請求項2記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項4】
後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が、助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される活性種であることを特徴とする、請求項3記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子をもつ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)
【請求項5】
前記乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーが、オルガノシロキサンと、分子内に該オルガノシロキサンと反応可能な官能基および配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物とを反応させてなるシリコーン系マクロモノマーであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項6】
ポリオレフィン系グラフト共重合体中のポリオレフィンが、分岐構造を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項7】
オレフィン系モノマーがエチレン、またはプロピレンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する組成物。
【請求項9】
組成物の成分として、ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする請求項8記載のポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項11】
請求項8または9に記載の組成物の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/096877
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505833(P2005−505833)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005040
【国際出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】