説明

後発酵健康茶の製法

【課題】 一般に「健康茶」と呼ばれている飲料は、その薬効を期待してじつに広く普及しているが、ほとんどの場合非常に飲みづらく、緑茶と混合して、或いはハチミツ等を混合して飲用するよりほかなかったのが実情であった。
【解決手段】 未加熱未殺菌の黒茶を水中に投じて当該黒茶から微生物を移動させた抽出液を作成し、健康茶材料である植物の葉を粉砕し、撹拌させながらこの粉砕体に該抽出液を噴霧し、湿度・温度を保ちながら7〜21日間程度発酵させ、続いて熱風乾燥工程、焙煎工程を経て製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味に優れた健康茶の新規な製法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康茶と呼ばれる食品群がある。これらは「茶」と称されてはいるが狭義の「茶(ツバキ科の常緑植物)」を材料とするものではなく、他の植物の葉、実、根、その他を、単に加熱乾燥したもの、或いは焙煎したものであって、通常はこれを湯水に抽出させて飲用する。
【0003】
例えば「ドクダミ茶」を例に採って説明する。
ドクダミ科に属する多年生草本である「ドクダミ」は、初夏になると白色をした花弁様のガクを有する淡黄色の小花を穂状に付け、全体に独特の悪臭を放つ植物である。これを盛花の頃、少し白根を付けた状態で全草を採集し、陰干ししたものが日本薬局方にも「十薬(重薬とも書く)」という生薬名で収録されている。この十薬を煎服又は茶代用で摂取すると、相応の薬効(利尿作用、動脈硬化予防、等)がある。近時は、ティーバッグタイプのドクダミ茶も多く見られる。
【0004】
乾燥させることで、特有の臭気成分である「デカノイルアセトアルデヒド」は酸化されるが、それでも茶代用飲料に適しているとは言い難い風味のものである。そこで、緑茶と上記十薬とを混合した物が茶として飲用されることがある。
【0005】
単に緑茶と十薬とを混合するだけではなく、緑茶と混合した後に、茶葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼ等の酸化酵素が、ドクダミ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物を生成するように、酵素反応(茶業界ではこの反応を「発酵」と呼んでいるが、微生物が介在していないので「狭義の発酵」でも「典型的な発酵」でもない)させる方法も提案されている。例えば特開2007−202481号公報に記載された方法がその一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−202481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この方法で得られた健康茶は、緑茶を含むものであるので確かに飲みやすいが、薬草を他の薬草と混合した場合しばしば本来の薬効を損ないがちであり、ドクダミの場合もその傾向が強いといわれている。また、緑茶との混合物の場合には、100%ドクダミ茶に比して効果が小さいと判断されがちであって、飲みやすいものでありながら支持されにくいものとなっている。即ち、他の植物を一切含んでいない100%健康茶であり、茶代用品として充分飲みやすいものが見当たらないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記点に鑑み長年鋭意研究の結果遂に本発明方法を成したものであり、その特徴とするところは、未加熱未殺菌の黒茶を水中に投じて当該黒茶から微生物を移動させた抽出液を予め作成しておき、健康茶材料である植物の葉をスライスまたは寸切りしたのち乾燥させ、次いでカットまたは粉砕し、その結果得られるカット体または粉砕体を撹拌させながら該抽出液を噴霧し、湿度・温度を保ちながら7〜21日間程度発酵させ、続いて熱風乾燥工程、焙煎工程を経て製造する点にある。
【0009】
ここで「健康茶材料」は、字義としては健康茶全般の原料のことであるが、本発明においては、「葉」に限定する。但し、葉以外の部位(茎、根、実、花、等々)を完全に排除するという意味ではない。従って、ほとんどが葉でありさえすれば、多少他の部位を含んでいても本発明に属するものとする。
【0010】
例えば、トチュウ(杜仲)、ドクダミ、グァバ、クワ(桑)、ハマ、ステビア、テン(甜)、ハス、アシタバ、アマチャヅル、アロエ、イチョウ(銀杏)、エンメイソウ(延命草)、オオバコ、カキ(柿)、クコ、ハブ、シソ(紫蘇)、バナバ、ビワ、モロヘイヤ、ヨモギ、ラフマ(羅布麻)、ルイボス、などの葉部分が該当する。
【0011】
「黒茶」は、麹菌に代表される微生物により数ヶ月以上発酵させる後発酵製法により作られる茶である。中国茶は、製法の違いにより、青茶・緑茶・白茶・黄茶・黒茶・紅茶の6種(六大茶類)に分類されており、六大茶類中「黒茶」が唯一、微生物による発酵が施された茶である。最も有名であるのは中国雲南省の「プーアル茶」であるが、他にも広西チワン族自治区の「六堡茶」、四川省の「唐磚茶」等がある。
また日本においても「黒茶」は製造されており、高知県の「碁石茶」、徳島県の「阿波番茶」、岡山県の「美作番茶」、愛媛県の「石鎚番茶」、富山県の「バタバタ茶」等、いずれも希少であって簡単に入手できるものではないが知られている。
他の茶と異なり「黒茶」は、新鮮なものではなく長期に亘って発酵熟成させたものがより珍重される傾向にある。プーアル茶の場合であれば、保存期間が数十年にも及んだものが、ワイン並のビンテージものとして存在している。但し、微生物(主として黒麹菌)が存在しているので検疫上の問題、衛生上の問題、その他により、製品出荷段階で加熱殺菌処理されることも多い。本発明においては、加熱殺菌しない黒茶、或いは加熱殺菌する前の黒茶を用いる。即ち微生物が活動している状態の黒茶であり、これを「未加熱未殺菌の黒茶」と呼ぶ。
【0012】
未加熱未殺菌の黒茶を水中に投じると、黒茶中の微生物は水側に移動する。この抽出液中の微生物の活動を維持するために、温度管理その他を万全にすることが望ましいが、そうした点は本発明の必須要件ではなく、適宜採用すれば良いものとする。
【0013】
この抽出液製造とは別工程で、健康茶材料である植物の葉(生葉)を加工する。具体的には、生葉を先ずスライス(または寸切り)にする。これは、後続の工程である「乾燥」を効率良く行なうための処理であり、スライスした方が良いのか単に細断した方が良いのかは適宜選択すればよい事項である。
【0014】
スライス(または寸切り)された材料は、乾燥乾燥工程に移る。具体的な方法、装置の詳細については特に限定しないが、植物中の水分量は生葉の10%程度にまでの乾燥をしておくことが望ましい。
【0015】
乾燥させた後、カットまたは粉砕する。この工程によって、原料植物の葉はより細分化されるわけであるが、ティーバッグ用茶葉に利用する場合であれば、その粒度を、10メッシュパス60メッシュオン程度に揃えておくと良好である。なお、本発明製法によって得られる茶は、ティーバッグ用としてだけでなく、急須での使用も可能であるし、飲料用原料としても使用可能である。
【0016】
そして、得られたカット体または粉砕体を撹拌させながら、該抽出液を噴霧する。撹拌方法、噴霧方法、に関しては特に限定しない。なお抽出液の噴霧量については、本発明者が実験した範囲ではカット体または粉砕体の乾燥重量の約30%(20〜40%)が好ましい量であった。
【0017】
次に、該抽出液を含んだ健康茶材料のカット体または粉砕体を、湿度・温度を保ちながら7〜21日間程度発酵させる。湿度・温度の保持方法について特に限定しないが、微生物に応じた最適環境というものは存在するわけであるので、注意を払うのは当然である。発酵時間を7〜21日間としたのは、6日未満では発酵不充分なため材料植物由来の渋みや青臭さがそのまま残ることが多いためであり、22日以上発酵させた場合には、発酵速度が非常にゆるかやになって製造コストが高騰するからである。本発明者が試作実験した範囲では、特に好適であったのは、12〜14日間発酵させたものであった。
【0018】
そして最後に、熱風乾燥工程、焙煎工程を経て最終製品とする。この熱風乾燥工程、焙煎工程については、一般的な緑茶の工程と同様の設備を用い、同等の手法で良く、例えば熱風乾燥は120℃の熱風を60〜70分程度、焙煎工程は150〜160℃環境下に4〜6分程度、といったところが標準となる。この状態で、梱包し商品としても良いが、要すれば篩選別工程を付加し、微細な健康茶葉粉体を除外しても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下述べる効果を有する極めて高度な発明である。
【0020】
(1) 材料植物の葉を、黒茶に由来する微生物によって発酵させるため、独特の風味が得られ、飲用しやすい健康茶となる。
(2) 水に微生物を移動させた抽出液を、カットまたは粉砕した原料に噴霧し撹拌するという方法であるため、ムラのない発酵が図れる。
(3) 茶葉との混合品ではない健康茶が得られるので、純粋品を求める需要者にとって商品価値が高い。
(4) 従来の茶製造設備を利用した場合、追加しなければならない設備投資額が小さくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る後発酵健康茶の製法の一例の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
トチュウ(杜仲)の木から収穫した葉10kg(生葉)を、裁断機で約2cm幅に切断し、水分が10%程度となるまで粗乾燥した後、粉砕機にかけて、10〜60メッシュ程度の粒度を主体とする粉砕体とした。本例では、蒸煮という工程は設けなかったが、蒸煮工程として例えば、裁断された葉を撹拌させながら97〜98℃環境下に2分前後おく等すると、理想的な発酵熟成を阻害する微生物を加熱殺菌できるし、発酵自体がスムーズに行なえるという効果もあり好ましい。
【0024】
これとは別に、未加熱未殺菌の黒茶1kg(製品重量)を、38〜40℃に保温された10Lの水に投じ、浸漬する。24時間後、布フィルターを用いて茶葉を引き上げ、抽出液を得る。抽出液には、黒茶に含まれていた微生物(主として黒麹菌)が移動し、増殖している。増殖を促すために、水中に微量のデンプンを入れておいても良い。なお、抽出液には腐敗を起こしたりカビ毒を発する雑菌が入ることがないよう注意が必要である。
【0025】
次に、トチュウ粉砕体全量を撹拌ドラムに投入しゆっくり回転させながら、噴霧器を用いて抽出液をトチュウ粉砕体乾燥重量の約30%量を噴霧する。トチュウ粉砕体は、手でつかんで強く握ると水滴が落ちる程度にしっとりとしている。
【0026】
そして、撹拌ドラム内のトチュウ粉砕体をパッドにあけ、保温のためにプラスチック製袋(布・不織布程度の通気性のある)に入れ、暗室に置く。これで発酵が開始されることになる。発酵時間は、7日以上必要であるが、条件によって様々であるので、時々(1日一回)プラスチック製袋を開いて発酵状態を目視で確認した。その際発酵熱によって60℃を超えていたときは、撹拌して熱を逃がすようにした。その結果、14日目でむらなく完全に発酵ができたことを確認した。なお、1日に一回袋を開く際に、水分が散逸したので、この14日の間に2回、合計0.5Lの水を噴霧器で加えた。
【0027】
発酵が完了したトチュウ粉砕体を、トレーに広げ、乾燥機に入れて熱風乾燥する。本例では、120℃、60〜70分とした。続いて、150〜160℃、4〜6分の焙煎工程を経て、一応完成となる。この段階では水分量は約5%となった。
【0028】
なおこの状態での後発酵健康茶(トチュウが原料)は微粉末も混じっているので、50メッシュの篩を用い、これを通過するものは除外するという選別工程を設けたが、篩選別は本発明製法に不可欠の工程ではない。
【0029】
完成品は、ティーバッグにパッケージングした。この1包をティーカップに入れて熱湯を注ぎ、飲料を作成した。そしてこれを、これまで「杜仲茶」を飲んだ経験のある3人と未経験の5人に試飲させてみたところ、焙煎によって得られた香ばしさと発酵による風味を美味しいと感じた者は、経験者2名、未経験者3名であった。
次にこの8名に対して、一般的な黒茶(中国製の中級品)と比較してもらったところ、本発明によって製造された茶の方が美味しいと感じた者は、経験者1名、未経験者2名であった。
更に、市販されている「杜仲茶」(杜仲以外の植物を含まないもの)を8名に試飲してもらい、本発明によって製造された茶と比較してどちらが美味しいか尋ねたところ、経験者3名、未経験者4名は本発明品を選んだ。
【0030】
この結果から何かを結論するということは容易ではない。まず8名のいう人数は少ないと言えるし、黒茶自体が茶としては特異な風味を持ち、例えばプーアル茶の「土のような香り」、碁石茶の「古漬け漬物のような香り」、等を苦手とする者も少なくないため、官能評価によっては優劣がつけにくい、といったこともある。しかし、従来の杜仲茶に比して7/8の人が、風味が改善されていると評価した意味は大きい。黒茶を苦手とする者が少なくないという事実の中で、ほとんどの人が本発明健康茶の方が美味しいと感じたということは、いかに従来の杜仲茶は飲みづらいものであったのか、そして本発明においてそれが大きく改善されているかを物語っているからである。
【実施例2】
【0031】
アロエの葉10kg(生葉)を、まず包丁で約2cm幅にスライスした。これを、24時間かけて水分が50%程度となるまで粗乾燥した後、更に熱乾燥して水分量を生葉の10%程度までした後、カット機械にかけて、10〜60メッシュ程度の粒度を主体とするカット体とした。
【0032】
アロエ生葉は、既述したトチュウと比較して、肉厚で粘性が強いため、通常の茶葉裁断に用いる裁断機が使用できないこと、乾燥を急ぐと表面が固化して中央部分の水分が除去されにくくなること、等々の問題があるため、カット体または粉砕体を得るまでの手法は多少異なる。
しかし、その後は実施例1とほとんど同様の方法で健康茶を得ることができる。即ち、図1で示すような手順で簡単に本発明健康茶を製造することができる。
そのようにして得られたアロエ由来の本発明健康茶は、苦さや青臭さが著しく軽減されており、飲みやすいものとなった。
【0033】
トチュウ及びアロエ以外に、ドクダミ、グァバ、クワ(桑)、ハマ、ステビア、テン(甜)、ハス、アシタバ、アマチャヅル、イチョウ(銀杏)、エンメイソウ(延命草)、オオバコ、カキ(柿)、クコ、ハブ、シソ(紫蘇)、バナバ、ビワ、モロヘイヤ、ヨモギ、ラフマ(羅布麻)、ルイボス、についても、本発明方法で製造してみた。結果、同様に飲みやすい健康茶を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加熱未殺菌の黒茶を水中に投じて当該黒茶から微生物を移動させた抽出液を予め作成しておき、健康茶材料である植物の葉をスライスまたは寸切りしたのち乾燥させ、次いでカットまたは粉砕し、その結果得られるカット体または粉砕体を撹拌させながら該抽出液を噴霧し、湿度・温度を保ちながら7〜21日間程度発酵させ、続いて熱風乾燥工程、焙煎工程を経て製造することを特徴とする後発酵健康茶の製法。
【請求項2】
該健康茶材料である植物は、トチュウ(杜仲)、ドクダミ、グァバ、クワ(桑)、ハマ、ステビア、テン(甜)、ハス、アシタバ、アマチャヅル、アロエ、イチョウ(銀杏)、エンメイソウ(延命草)、オオバコ、カキ(柿)、クコ、ハブ、シソ(紫蘇)、バナバ、ビワ、モロヘイヤ、ヨモギ、ラフマ(羅布麻)、ルイボス、から選択された一つ又は複数である請求項1記載の後発酵健康茶の製法。

【図1】
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