説明

徐崩壊型抗菌剤およびそれを用いた抗菌液と抗菌液生成装置

【課題】水その他の液体中に浸漬するだけで、優れた抗菌性を発揮する抗菌液を生成可能な抗菌剤を提供する。
【解決手段】銀又は銅を担持してなる金属担持無機化合物と粘土と二酸化チタンと微細可燃物を混練し成形した後、比較的低温で焼成した抗菌剤3は、水4などの液体に浸漬すると徐々に崩壊し、金属担持無機化合物から液中にAgイオン、Cuイオンなどが溶出し、また酸化チタンが液中に分散し、水などを交換、補充することで、継続的に抗菌性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットの消臭目的で使用したり、車内、靴、生ごみ、トイレ、洗面場、風呂場などにおいて除菌、消臭などを目的として使用する抗菌剤およびそれを用いた抗菌液と抗菌液生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、AgイオンまたはCuイオンを担持したゼオライトと二酸化チタンを配合してなる、抗菌作用を有する多孔質焼結体が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)
【0003】
しかしながら、前記多孔質焼結体は、粉末状として、浄化対象である気体や液体中に直接添加して用いるものであり、該多孔質焼結体を水に浸漬した抗菌液とする用途のものではない。
【0004】
また、AgおよびTiを含む混合材料を燃焼合成することにより得られる銀イオン水生成用材料が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
前記銀イオン水生成用材料は、燃焼合成する際に、前記AgおよびTiを含む混合材料を空気中で着火することにより、2000℃以上の高温反応が連鎖的に進行する燃焼合成反応が起こり、数秒程度で銀イオン水生成用のセラミック多孔質体材料が得られるというものである。
【0006】
しかしながら、高温で燃焼合成することにより製造される前記銀イオン水生成用材料では、該材料を用いて銀イオン水としたときに、該材料表面から十分な量のAgイオンを放出させるためには、超音波発振装置などを用いて超音波を照射するなど煩雑な工程を経る必要があった。また、前記材料を用いた銀イオン水においては、銀イオン濃度は10〜200ppb程度であり、Agイオン放出量に改善の余地があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−26851号公報
【特許文献2】特開平8−310881号公報
【特許文献3】特開2006−69935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が、前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、水などに浸漬したときに、超音波を照射する等といった煩雑な工程を経ることなく、AgまたはCu等の金属担持無機化合物及び二酸化チタンを高濃度で放出でき、優れた抗菌性能を発揮するとともに、水などの分散媒を交換又は補充するだけで高濃度での放出性能を保持でき、何回も繰り返し使用可能な抗菌剤およびそれを用いた抗菌液と抗菌液生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る抗菌剤は、前述の課題解決のために、AgおよびCuのうち少なくとも一方の金属を担持してなる金属担持無機化合物(A)と、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有する粘土(B)と、二酸化チタン(C)と、微細可燃物(D)とを含有してなる組成物を混練、成形した後に焼成してなり、水に浸漬したときに徐々に崩壊する性質を有することを特徴とするが、金属担持無機化合物(A)を50〜74重量%、シリカおよびアルミナの少なくとも一方を含有する粘土(B)を20〜44重量%、二酸化チタン(C)を1〜10重量%、さらに微細可燃物(D)を5〜10重量%の範囲で含有してなる組成物を用いることが好ましい。
【0010】
ここで、前記抗菌剤は、水に浸漬したときに、部分的に徐々に崩壊する性質を有することが好ましい。
【0011】
また、前記抗菌剤は、前記組成物を500〜800℃の雰囲気温度で2〜8時間焼成してなることで好ましい徐崩壊型のものが得られる。
【0012】
さらに、前記微細可燃物(D)が、粉末状若しくは粒状とした合成高分子、粉末状若しくは粒状とした天然木質材、粉末状若しくは粒状とした種子、合成繊維、天然繊維、活性炭繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるものが好ましいものとして用いられる。
【0013】
前記抗菌剤の大きさは、1個当たりの重量が1〜3g程度の範囲内であることが、その徐崩壊性から好ましい。
【0014】
また、本発明に係る抗菌液は、前記のような抗菌剤を液体に浸漬することにより得られることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る抗菌液生成装置は、スプレー式容器中に、前記のような抗菌剤と液体とを充填してなることを特徴とする。
【0016】
前記溶液としては、水又は水溶液が好ましく、更に前記水溶液が食塩水であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本発明に係る抗菌剤およびそれを用いた抗菌液によれば、超音波を照射する等といった煩雑な工程を経ることなく、抗菌剤を水などの液体に浸漬することで全体又は部分的に徐々に崩壊してAgまたはCu等の金属担持無機化合物と酸化チタン(TiO2)を水その他の液中に分散し、Ag、Cuは液中にイオン化した状態で溶出され、更に、前記液体として食塩水を用いることで溶出効果が促進され、より優れた抗菌性能を発揮するとともに、水などの分散媒の交換又は補充のみで、高濃度でのイオン放出性能を保持できる。従って、例えば、安全な材料でかつ高い抗菌性能が要求されるペット用途に使用した場合には、取り扱いが簡便であるとともに、安全性を確保しつつ、優れた抗菌性能を発現することができる。また、この抗菌剤を水などとともにスプレー式容器に入れておくだけで、簡単に抗菌液を作ることができるだけでなく、ペットなどの臭いの発生しやすい個所にスプレーするだけで、抗菌効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る抗菌剤は、前述のとおり、AgおよびCuのうち少なくとも一方の金属を担持してなる金属担持無機化合物(A)と、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有する粘土(B)と、二酸化チタン(C)と、微細可燃物(D)とを含有してなる抗菌性組成物を混練、成形したのち焼成してなり、水などの液体に浸漬したときに、徐々に崩壊する性質を有することを特徴とする。
【0019】
前記金属担持無機化合物(A)は、抗菌性能を発現するもととなるAg若しくはCuまたはその両方を担持してなり、AgイオンやCuイオンの放出源となるものである。担体となる無機化合物としては、例えば、金属酸化物や金属リン酸塩等を主成分とする無機化合物材料が挙げられ、AgまたはCuを担持することができる機能を有するものであれば、特に制限されるものではなく、前記以外にも、例えばセメント、石こう、ガラス系材料といった無機系の材料も挙げられる。これらのうちでも、金属担持無機化合物(A)としては、銀イオンを強固に長期間保持できることから、難溶性オルトリン酸塩に銀を担持してなる材料(例えば、特開平5−294808号公報、および特開平7−316008号公報参照。)などを好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。金属担持無機化合物(A)におけるAgまたはCuの含有割合は、安定的にこれらの金属を担持させることができ、かつ十分な抗菌性能を発現することができる量に適宜調整すればよく、特に制限されるものではない。金属担持無機化合物(A)は、混練するその他の材料成分(B)、(C)および(D)との均一混合性や、抗菌剤としたときのAgイオンやCuイオンの放出性能の観点から、粉末状であることが好ましい。
【0020】
前記粘土(B)は、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有する無機天然物であり、焼成することによって固まり、抗菌剤の骨格を形成する殻体となる成分である。粘土(B)としては、例えば、木節粘土、蛙目粘土などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。粘土(B)は、その他の材料成分(A)、(C)および(D)との均一混合性の観点から、粉末状であることが好ましい。
【0021】
二酸化チタン(C)は、AgイオンやCuイオンとともに、抗菌性能を発現するものである。即ち、前記AgイオンやCuイオンのみでは、例えば、ベロ毒素、エンテロトキシン等といった菌放出毒素に対しては充分な抗菌効果を発現しにくかったが、前記抗菌剤に二酸化チタンをも含有させることにより、紫外線が当たることで光触媒効果が発現し、前記菌放出毒素をも分解無害化することができる。二酸化チタン(C)は、光触媒用として一般的に用いられる微粒子状のものが好ましい。
【0022】
前記微細可燃物(D)は、前記(A)〜(C)成分とともに混練、成形した組成物を焼成した際に、焼失し、そのあとが空隙となることで、抗菌剤を多孔質体とする機能を有するものである。微細可燃物(D)としては、焼成により焼失するものであれば、特に制限されるものではないが、粉末状若しくは粒状とした合成高分子、粉末状若しくは粒状とした天然木質材、粉末状若しくは粒状とした種子、合成繊維、天然繊維、活性炭繊維などが好適に用いることができる。前記粉末状もしくは粒状とした種子としては、例えば、胡桃を粉末状若しくは粒状にしたものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。更なる高いレベルの安全性を確保し、より安心して使用するためには、天然繊維または粉末状もしくは粒状の種子などを用いることが特に好ましい。微細可燃物(D)は、抗菌剤に偏りのない空隙を生じさせて均一な多孔質体とするために、粉末状若しくは粒状又は繊維状であることが好ましい。(D)成分の粒径には特に限定はないが、50〜500μm程度であることが徐崩壊性の観点から好ましい。
【0023】
前記(A)〜(D)成分を含有してなる組成物は、抗菌剤に求められる適度な強度と優れた抗菌性能を付与するために、各成分の混合割合を以下のような割合とする。すなわち、前記金属担持無機化合物(A)は、AgイオンやCuイオンを放出して消臭抗菌性能を発現する抗菌剤における主要成分であり、抗菌剤の単位体積当りの抗菌性能を優れたものとするために、前記組成物中に、50〜74重量%とする。また、前記粘土(B)は、抗菌剤の骨格を形成する成分であり、抗菌剤に求められる徐崩壊性を付与するために、前記組成物中に20〜44重量%とする。さらに、前記二酸化チタン(C)は、前記(A)成分とともに、抗菌性能を発現する成分であり、前記組成物中に1〜10重量%とする。また、前記微細可燃物(D)は、抗菌剤に偏りのない空隙を生じさせて多孔質体とするために、前記組成物中に5〜10重量%とする。さらに、前記(A)〜(D)成分を含有してなる組成物には、例えば、CMC、メチルセルロースおよびアラビアガム等といったバインダー成分および水を少量加えてもよく、その添加量は、混練、成形時の取り扱い性を考慮して適宜決定すればよいが、前記バインダー成分は前記組成物中に0.5〜2重量%とするのが好ましい。
【0024】
前記(A)〜(D)成分を含有してなる組成物を混練するには、一般的な混練機を用いることができる。また、混練したものを成形する際の形状は、抗菌剤の用途に応じて適宜定めればよく、特に制限されるものではないが、成形体の表面積をより大きくして水との接触面積を確保しつつ、強度も損なわないものとするために、例えば、図1(a)〜(e)に示すような形状とすることが好ましい。例えば、図1(a)に示すように、両端面の略中央部に半球状の凹部を有する円柱型に成形することで、焼成前と焼成後の取り扱い時に保形力を確保でき、抗菌剤を持ち運ぶ際などに衝撃を受けるようなことがあっても、崩れにくいものにできる。また、図1(b)に示すものは円筒体状であるが、このような筒状とすることで、抗菌剤の表面積が増大するうえに、図4に示し、後述するように、スプレー式容器2の吸液管5に抗菌剤3を挿着することができる。さらに、図1(c)はタブレット状、(d)は各面に半球状の凹部を有する四角形状、また図1(e)は球状のものである。前記図1(e)のように球状の抗菌剤とすることで、多数の抗菌剤を互いに接触した状態で充填して使用する場合にも、抗菌剤同士の接触による過剰な崩壊を防ぐことができる。
【0025】
前記(A)〜(D)成分を含有してなる抗菌性組成物を混練、成形したものを焼成するときの条件としては、500〜800℃の雰囲気温度において2〜8時間焼成することが好ましい。ここでいう焼成とは、成形した材料に直接着火させ反応させるものではなく、炉内において高温でじっくりと処理することをいう。とくに本発明では徐崩壊性を与えるために、この温度管理に注意する必要があり、高温度、例えば900℃以上で焼成したものは徐崩壊性を失い、また500℃未満で焼成した時には脆くなりすぎる恐れがある。なお、前記焼成温度と焼成時間との関係は、焼成炉の熱容量との関係もあり、一概に規定することはできないが、前記温度および時間の範囲内で、焼成温度が500℃に近くなる低い温度で焼成する場合には焼成時間を長くとり、反対に焼成温度が800℃に近くなる高い温度で焼成する場合には焼成時間は短めにすることが、焼成後の抗菌剤の強度と崩壊性との兼ね合いの観点から好ましい。
【0026】
本発明に係る抗菌剤は、水などの、媒体となる液体に浸漬したときに徐々に崩壊する性質を有することを特徴とする。さらに、水などの液体に浸漬したときに、部分的に徐々に崩壊する性質を有することが好ましい。このように、徐々に崩壊する性質を本発明では「徐崩壊性」というが、このような性質を有することによる効果は、後述するとおりである。
【0027】
以上にしてなる抗菌剤は、水などの液体に浸漬したときに、超音波を照射する等といった煩雑な工程を経ることなく、その徐崩壊性により金属担持無機化合物とTiO2を液中に分散させ、更に該無機化合物からはAgイオンやCuイオンを高濃度で液中に溶出し、優れた抗菌性能を発揮できる。また、この抗菌剤は、水などに浸漬したときに、徐々に崩壊する性質を有することで、水などの溶媒のみを交換又は補充することによる繰り返し使用においても、前記金属担持無機化合物の分散や高濃度でのイオン放出性能を保持できる。
【0028】
また、本発明に係る抗菌液は、前記のような徐崩壊性を有する本発明の抗菌剤を、例えば水や水溶液などの液体に浸漬することにより得られる。
【0029】
前記抗菌剤を浸漬させる水としては、例えば、純水、水道水、井戸水等といった水を用いることができる。
【0030】
また、本発明に係る抗菌液は、前記のような徐崩壊性を有する本発明の抗菌剤をアルコール水溶液や他の殺菌、抗菌効果のある成分を溶解した水溶液、その他の溶液に浸漬することでも得られる。
【0031】
前記溶液としては、AgイオンまたはCuイオンとTiO2が存在し得るものであれば特に制限されるものではないが、前記溶液として食塩水を用いることにより、水を用いた場合と比較して、イオン濃度、特に分散した金属担持無機化合物からのAgイオンやCuイオンの溶出量を3〜5倍程度に高めることができる。食塩水を用いる場合のNaCl濃度としては、0.25重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0重量%以上、さらに好ましくは2.0重量%以上とする。前記抗菌剤と、水などの液体との割合は、特に制限されるものではないが、例えば、図1(a)に示すような外径が15mmの成形体1個を、水などの液体500ml程度に浸漬して用いることができる。
【0032】
前記抗菌剤の使用方法、抗菌液の生成方法としては、例えば、図2に示すようなスプレー式容器2に、前記抗菌剤3と、適量の水若しくは水溶液などの液体4とを充填してなる抗菌液生成装置1として、前記抗菌液を対象物に吹き付けるなどして使用することができる。また、前記抗菌液は、有機系の抗菌剤を含有させないことにより、安全性の高いものとなり、うがい用としても用いることができる。
【0033】
本発明に係る抗菌液は、液中のAgイオンやCuイオン濃度とTiO2濃度を、高濃度とすることができるものである。このように、液中のAgイオンやCuイオンとTiO2濃度を、高濃度とすることができるのは、抗菌剤を水その他の液体に浸漬したときに徐々に崩壊し、AgイオンやCuイオンなどの抗菌成分を含有する微粒子状の無機化合物やTiO2を液中に分散させるためである。水その他の液体に浸漬した抗菌剤が、徐々に崩壊する性質を有することは、図3に示すように、微粒子状の無機化合物3’が、抗菌液中に分散し、その一部が容器2の底2aに堆積する現象により確認できる。ちなみに、このような徐々に崩壊する性質を有する抗菌剤を、水などの液体に浸漬してなる抗菌液は、抗菌成分が液中に拡散していくことで、該液中のAgイオンやCuイオンとTiO2濃度をより高くすることができるとともに、水などの液体のみを交換または補充することによる繰り返し使用においても高い濃度を保持でき、より製品寿命の長いものとなる。
【0034】
前記スプレー式容器2を用いた抗菌液生成装置1においては、崩壊した抗菌剤成分によるノズルの目詰まりを防止するために、吸液管5の先端が容器2の底2aより上方に位置するようにしたり、吸液管5の先端を斜に形成したりすることも好ましい実施形態である。
【0035】
更に、図4に示すものは、スプレー式容器を用いた本発明にかかる抗菌液生成装置の他の実施の形態を示すものであり、図4(a)に示すように、スプレー式容器2の吸収管5の吸液口側先端部にフランジ部5aを設けておき、この吸液管3に筒状の抗菌剤3を挿着したうえで、これを図5(b)、(c)に示すようにスプレー式容器2に装着して抗菌液生成装置1とすれば、図5(d)に示すように、容器2が揺すられても抗菌剤3が容器内面に衝突して必要以上に崩壊することを防止できる。また、前記のように吸液管5に抗菌剤3を、容器内面との衝突による崩壊を防止した状態で予めスプレー容器2内にセットした製品として製造、運搬、販売に供することで、使用時には水などを容器2内に注入するだけでよく、使用者の手間がかからず簡便に使用できる。
【0036】
また、図5に示すものは、本発明に係る抗菌液生成装置1における吸液管5の更に他の実施の形態を示すものである。この実施の形態では、スプレー式容器の吸液管5における吸液口側先端部に、放射状に外側に拡がる複数の係止片5b・・・を設けたものであり、これら係止片5bにより、前記フランジ部5aの場合と同様に、筒状の抗菌剤3を吸液管5に挿着し、先端に保持可能とするものである。
【0037】
更に、図6に示すものは、スプレー式容器2を用いた抗菌液生成装置1における吸液管5の更に他の実施の形態を示すものである。この実施の形態は、吸液管3の吸液口に格子5c(図6a参照。)を設けたり、不織布5dで覆う(図6b参照。)ことにより、崩壊した抗菌剤のかたまりによるスプレーのノズル詰まりを防止するようにしたものである。なお、この場合、前記フランジ5aや係止片5bを併設してもよいことは、いうまでもない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(1)抗菌剤の製造例1
2種以上の金属の難溶性オルトリン酸塩に銀を10重量%担持してなる材料である金属担持無機化合物(太平化学産業株式会社製、シルバーエース)(A)60重量%と、木節粘土(B)30重量%と、二酸化チタン(テイカ株式会社製、AMT−100)(C)1重量%と、微細可燃物として活性炭粉末(太平化学産業株式会社製、ヤシコールSS(粒径75〜250μmのもの約97重量%))(D)9重量%とからなる組成物を混練し、図1(a)に示した円筒型(外径15mm、内径7mm、高さ15mm)に成形した後に、700℃前後の雰囲気温度において約2時間焼成することにより、1個あたりの重量が約2gの抗菌剤を作製した。
【0040】
(2)抗菌性の評価
(銀イオン濃度の経時的変化)
容器に水道水500mlを入れ、さらに前記製造例で作製した抗菌剤を1個投入した時間を0時間として、2時間ごとに抗菌液を攪拌後、10mlをサンプリングして、銀イオン溶出の経時変化を測定した(n数=3)。測定は、ICP−AES分光装置(「RIGAKU CIROS CCD」、(株)リガク製)を用い、室温で行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示す通り、銀イオン濃度は、投入後2時間後には0.0873ppmとなり、その後も上昇を続け、18時間後には0.2582ppmとなった。
【0043】
(水入れ替え無し時の銀イオン濃度)
容器に水道水500mlを入れ、さらに前記製造例で作製した抗菌剤を1個投入した。水道水を入れ替えずに、1週間ごとに10mlをサンプリングして、前記と同様にして銀イオン濃度を測定した。この操作では抗菌剤として、サンプルAおよびサンプルBの2つそれぞれについて測定を行った。サンプルAについての結果を表2-1に、サンプルBについての結果を表2-2に、それぞれ示す。
【0044】
【表2−1】

【0045】
【表2−2】

【0046】
表2−1、2−2に示す通り、サンプルAおよびサンプルBの何れにおいても、銀イオン濃度は1週間あたり約0.3ppmづつ増加し続けた。
【0047】
(水を毎日入れ替えた時の銀イオン濃度)
容器に水道水500mlを入れ、さらに前記製造例で作製した抗菌剤を1個投入した。水道水を毎日交換し、1週間ごとに10mlをサンプリングして、前記と同様にして銀イオン濃度を測定した。この操作を抗菌剤として、サンプルCおよびサンプルDの2つそれぞれについて測定を行った。サンプルCについての結果を表3-1に、サンプルDについての結果を表3-2に、それぞれ示す。
【0048】
【表3−1】

【0049】
【表3−2】

【0050】
表3−1、3−2に示す通り、4週間毎日、すなわち28回交換しても、初期とほぼ同程度の濃度の銀イオンが溶出することが明らかとなった。サンプルCおよびサンプルDの何れにおいても、同様の結果となった。
【0051】
なお、以上のような銀イオンの濃度の変化は、水中における抗菌剤の徐崩壊、すなわち表面から徐々に脆くなり、徐崩壊することから、その中の無機化合物に担持された銀がイオンとして放出された結果を示し、また同時に徐崩壊によりTiO2も液中に放出され、分散される。
【0052】
(抗菌性試験)
標準寒天培地に、(1)大腸菌(E.coli)、(2)黄色ブドウ球菌(S.aureus)、(3)緑膿菌(P.perfuringens)を塗付し、前記製造例で得られた抗菌剤を水に浸漬して生成した抗菌液を1〜4回散布した。72時間経過後に菌の増殖を観察した結果を、それぞれ図7〜図9に示す。
【0053】
図7〜図9に示すように、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌の何れに対しても、抗菌液を散布することによる抗菌効果が認められた。
【0054】
(NaCl添加が銀イオン濃度に及ぼす影響)
容器に水道水500mlを入れ、さらに前記製造例で作製した抗菌剤を1個投入した。24時間後10mlをサンプリングし(NaCl濃度0重量%)、その後NaCl濃度1%(ほぼ生理食塩水の濃度)となるようにNaClを5g加えた。NaCl添加後24時間目に10mlをサンプリングして、銀イオン濃度を測定した(n数=3)。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
NaClを添加することにより、銀イオンの溶出は3〜5倍に増加することが判明した。
【0057】
(NaCl濃度が銀イオン濃度に及ぼす影響)
溶媒のNaCl濃度を種々変化させたときの、銀イオン濃度への影響を測定した結果を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
銀イオンの溶出は、0.25重量%のNaCl濃度下でも促進されることが明らかとなった。NaCl濃度が、2重量%では、急激な溶出促進が見られた。
【0060】
(サンプル遠心後の銀イオン濃度)
容器に水道水500mlを入れ、さらに前記製造例で作製した抗菌剤を1個投入した。さらに、NaCl濃度が2重量%となるように、10gのNaClを添加した。24時間後にサンプリングし、4℃下、毎分16000回転、30分間遠心した。結果を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
NaCl存在下では、銀イオンはAgClとなり、沈殿する可能性が考えられる。しかし、銀イオン濃度は遠心により影響を受けなかった。このことより、AgClとして沈殿することはないと考えられる。
【0063】
(3)抗菌組成及び焼成条件(製造例2〜7)
前記製造例と同じ金属担持無機化合物(太平化学産業株式会社製、シルバーエース)(A)、木節粘土(B)と、二酸化チタン(C)、及び活性炭粉末(D)を用い、下記表7に示す組成および焼成条件にて、前記製造例と同様にして1個あたりの重量が約2gとなる円柱状の抗菌剤を作製した。得られた抗菌剤をペットボトルに入れた水道水500ml中に浸漬し、24時間静置後、ボトルを軽く振ったのちサンプルを採取し、前記と同様にして銀イオン濃度を測定した。結果を表7に示す。
【0064】
【表7】

【0065】
表7に示すとおり、本発明の抗菌性組成物を500〜800℃で2〜8時間焼成することで、銀イオン放出能の高い抗菌液を生成しうる抗菌剤が得られる。
【0066】
(4)使用例
前記製造例1で得られた抗菌剤を、ペット(犬、猫)の消臭に用いたモニター試験を行った。抗菌剤についてのモニターの評価結果を以下の表に示す。対象としたペットの種類を表8に、その年齢を表9に、消臭対象箇所毎の効果を表10に、効果の有無を表11に、その効果発現までの時間を表12に、更に、総合評価を表13に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
【表9】

【0069】
【表10】

【0070】
【表11】

【0071】
【表12】

【0072】
【表13】

【0073】
表8〜13の結果から、モニターの9割以上がペットに対する消臭効果有りと答えており、本発明に係る抗菌剤及びそれから生成される抗菌液が、ペットの消臭に有効であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)〜(e)は、それぞれ本発明の抗菌剤の例を示す斜視図及び断面図。
【図2】本発明の抗菌液生成装置の例を示す斜視図。
【図3】本発明の抗菌剤が徐々に崩壊する様子を示す概略図。
【図4】スプレー式容器を用いた抗菌液生成装置の他の実施形態を示し、(a)〜(e)は抗菌剤の挿着手順を示す斜視図、(d)は抗菌剤挿着後の容器の一部断面図。
【図5】スプレー式容器を用いた抗菌液生成装置の他実施形態を示す吸液管先端部分の斜視図。
【図6】(a)、(b)は、いずれもスプレー式容器を用いた抗菌液生成装置の他実施形態を示す吸液管先端部分の断面図。
【図7】大腸菌に対する抗菌性試験の結果を示す図。
【図8】ブドウ球菌に対する抗菌性試験の結果を示す図。
【図9】緑膿菌に対する抗菌性試験の結果を示す図。
【符号の説明】
【0075】
1 抗菌液生成装置
2 スプレー式容器
2a 容器の底
3 抗菌剤
3’ 微粒子状の無機化合物
4 水などの液体
5 吸液管
5a 吸液管のフランジ部
5b 吸液管の係止片
5c 吸液管の開口部の格子
5c 吸液管の開口部の不織布


【特許請求の範囲】
【請求項1】
AgおよびCuのうち少なくとも一方の金属を担持してなる金属担持無機化合物(A)と、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有する粘土(B)と、二酸化チタン(C)と、微細可燃物(D)とを含有してなる組成物を混練、成形した後に焼成してなり、水に浸漬したときに、徐々に崩壊する性質を有することを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
AgおよびCuのうち少なくとも一方の金属を担持してなる金属担持無機化合物(A)50〜74重量%と、シリカおよびアルミナのうち少なくとも一方を含有する粘土(B)20〜44重量%と、二酸化チタン(C)1〜10重量%と、微細可燃物(D)5〜10重量%とを含有してなる組成物を混練、成形した後に焼成してなる請求項1記載の抗菌剤。
【請求項3】
水に浸漬したときに、部分的に徐々に崩壊する性質を有する請求項1または2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
500〜800℃の雰囲気温度で2〜8時間焼成してなる請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項5】
前記微細可燃物(D)が、粉末状若しくは粒状とした合成高分子、粉末状若しくは粒状とした天然木質材、粉末状若しくは粒状とした種子、合成繊維、天然繊維、活性炭繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌剤を液体に浸漬することにより得られる抗菌液。
【請求項7】
前記液体が、水又は水溶液である請求項6に記載の抗菌液。
【請求項8】
前記水溶液が、食塩水である請求項7に記載の抗菌液。
【請求項9】
スプレー式容器中に、請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌剤と液体とを充填してなる抗菌液生成装置。
【請求項10】
前記液体が、水又は水溶液である請求項9に記載の抗菌液生成装置。
【請求項11】
前記水溶液が、食塩水である請求項10に記載の抗菌液生成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−332131(P2007−332131A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64943(P2007−64943)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(303003096)
【Fターム(参考)】