説明

徐放性組成物およびその徐放方法

【課題】 目的に合うように活性物質の放出過程を制御可能な徐放性組成物を提供する。
【解決手段】 ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲルを形成可能なハイドロゲル形成性高分子と;分散液体と;活性物質を少なくとも含み、且つそれ自体で該活性物質の徐放性を発現可能な微粒子とを少なくとも含む徐放性組成物。この組成物は、前記ゾル−ゲル転移温度より低温では流動性のゾル状態となり、且つゾル−ゲル転移温度より高温では可逆的にハイドロゲル状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイドロゲルを含む徐放性組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、低温の流動状態で目的箇所に容易に適用でき、使用温度(例えば、体温)ではゲル状となって、ゲル内部の活性物質をある程度の期間に亘って徐放化することができる徐放性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の徐放性組成物は、このような徐放が有益な用途に特に制限なく適用することができるが、説明の便宜のため、ここでは活性物質として、薬物等の生理活性物質を用いる本発明の態様に関連する背景技術について主に説明する。
【0003】
近年、薬物を必要な量だけ、必要とする患部に、必要な時間供給し、薬効を最大限に発揮させて副作用は最小限に抑える薬物投与法であるドラッグ・デリバリー・システム(Drug Delivery System,DDS)の開発が活発に行われている。すでに本発明者らは、体温より低い温度でゲル化し、該ゲル化温度より低温では水溶性を示す高分子化合物を含むドラッグキャリアーを提案した(特許文献1:特開平5−255119号)。このドラッグキャリアーと抗癌剤、各種ホルモン剤、インターフェロン、インターロイキンなどの免疫賦活剤、麻薬拮抗剤、麻酔剤などの薬物を複合化させたDDS(薬物の徐放が単純な薬物分子のゲル内拡散過程によって行われる)では、投与温度において液体であるので、経口、注射、カテーテルなどによる注入が容易であり、生体の管空内あるいは生体内で瞬時にゲル化するために薬物の局所投与と徐放化が可能であった。
【0004】
しかしながら、近年では、薬効ないしその持続効果の観点から、より長時間徐放可能であるか、ないしは薬物の放出制御がより強力な徐放性組成物が求められる傾向があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−255119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上述の問題点を解決した徐放性組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、より長期間持続的に活性物質を徐放可能な徐放性組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、より目的に合うように活性物質の放出過程を制御可能な徐放性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは種々検討の結果、活性物質を少なくとも含む微粒子に、更にハイドロゲルを組み合わせることが、該活性物質単体が該ハイドロゲル中を自由拡散する過程のみに依存しない活性物質の徐放を可能とし、上記目的の達成に極めて効果的なことを見出した。
【0010】
本発明の徐放性組成物は上記知見に基づくものであり、より詳しくはゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲルを形成可能なハイドロゲル形成性高分子と;分散液体と;活性物質を含む微粒子とを少なくとも含み;前記ゾル−ゲル転移温度より低温では流動性のゾル状態となり、且つゾル−ゲル転移温度より高温では可逆的にハイドロゲル状態となることを特徴とするものである。
本発明によれば、更にゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲルを形成可能なハイドロゲル形成性高分子と;分散液体と;活性物質を含む微粒子とを少なくとも含み;前記ゾル−ゲル転移温度より低温では流動性のゾル状態となり、且つゾル−ゲル転移温度より高温では可逆的にハイドロゲル状態となる徐放性組成物を用い、
該徐放性組成物を流動性のあるゾル−ゲル転移温度より低温で、徐放性を発現させるべき適用部位に配置し、
ゾル−ゲル転移温度より高温でゲル化させることにより、該活性物質を徐放性組成物から徐放させることを特徴とする徐放方法が提供される。
【0011】
本発明の徐放性組成物を用いれば、そのゾルーゲル転移温度より低い温度のゾル状態で容易に目的部位ないし箇所(例えば、生体の内部あるいは生体の表面)に注入ないし配置することができ、そのまま使用温度(例えば体温)でゲル化させることにより流動性のないハイドロゲル状態とすることができるので、目的部位に長時間留置することができる。
【0012】
本発明においては、活性物質を含有する微粒子のハイドロゲル中における拡散速度を極めて遅くすることもでき、例えば、徐放性組成物の使用温度(例えば、ヒトの体温(約37℃))においては実質的に拡散しないようにすることも可能である。
【0013】
本発明者の知見によれば、本発明の徐放性組成物からの活性物質の放出は、下記の4種類の放出過程の組み合わせによって制御することができる。
【0014】
1)活性物質のハイドロゲル中拡散過程、
2)活性物質を含有する微粒子のハイドロゲル中拡散過程、
3)活性物質を含有する微粒子からの活性物質放出過程、
4)ハイドロゲルの崩壊過程。
【発明の効果】
【0015】
上述したように本発明の徐放性組成物は、上記の4種類の放出過程の組み合わせによって制御することができるため、該組成物を使用する目的に適した活性物質の理想的な放出挙動(例えば、従来の徐放性組成物においては不可能であったような活性物質の理想に近い放出挙動)を設計することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0017】
(ハイドロゲル)
本発明のハイドロゲルは、ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含む。該ハイドロゲルは、より低い温度でゾル状態、より高い温度でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す。
【0018】
本発明のハイドロゲルを構成する「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を有し、該構造に基づき、その内部に水等の分散液体を保持するハイドロゲルを形成可能な性質を有する高分子をいう。又、「ハイドロゲル」とは高分子からなる架橋ないし網目構造と該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水を少なくとも含むゲルをいう。
【0019】
(分散液体)
架橋ないし網目構造中に保持された「分散液体」は水を主要成分として含む液体である限り、特に制限されない。より具体的に言えば、分散液体は水自身であってもよく、また水溶液及び/又は含水液体のいずれであってもよい。この含水液体は、該含水液体の全体100部に対して、水を80部以上、更には90部以上含むことが好ましい。
【0020】
本発明の目的に反しない限り、上記分散液体は、所定の含量で有機溶媒(例えば、水と相溶性を有するエタノール等の親水性溶媒)を含んでいてもよい。
【0021】
(ゾル−ゲル転移温度)
本発明において「ゾル状態」、「ゲル状態」および「ゾル−ゲル転移温度の定義および測定は、文献(H. Yoshioka ら、Journal of Macromolecular Science,A31(1),113(1994))に記載された定義および方法に基づく。即ち、観測周波数1Hzにおける試料の動的弾性率を低温側から高温側へ徐々に温度を変化(1℃/1分)させて測定し、該試料の貯蔵弾性率(G´、弾性項)が損失弾性率(G″、粘性項)を上回る点の温度をゾル−ゲル転移温度とする。一般に、G″>G´の状態がゾルであり、G″<G´の状態がゲルであると定義される。このゾル−ゲル転移温度の測定に際しては、下記の測定条件が好適に使用可能である。
【0022】
<動的・損失弾性率の測定条件>
測定機器(商品名):ストレス制御式レオメーター AR500、TAインスツルメント社製
試料溶液(ないし分散液)の濃度(ただし「ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性高分子」の濃度として):10(重量)%
試料溶液の量:約0.8 g
測定用セルの形状・寸法:アクリル製平行円盤(直径4.0cm)、ギャップ600μm
測定周波数:1Hz
適用ストレス:線形領域内。
【0023】
本発明の組成物をヒト生体に適用する態様においては、生体組織の熱的損傷を防ぐ点からは、上記ゾル−ゲル転移温度は0℃より高く、37℃以下であることが好ましく、更には、5℃より高く35℃以下(特に10℃以上33℃以下である)ことが好ましい。
【0024】
このような好適なゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性高分子は、後述するような具体的な化合物の中から、上記したスクリーニング方法(ゾル−ゲル転移温度測定法)に従って容易に選択することができる。本発明の徐放性組成物を生体の目的部位に留置し、活性物質を徐放化させる一連の操作においては、上記したゾル−ゲル転移温度(a℃)を生体の温度(b℃)と、生体の目的部位へ注入するための冷却時の温度(c℃)との間に設定することが好ましい。すなわち、上記した3種の温度a℃、b℃、およびc℃の間には、b>a>cの関係があることが好ましい。より具体的には、(b−a)は1〜36℃、更には2〜30℃であることが好ましく、また(a−c)は1〜35℃、更には2〜30℃であることが好ましい。
【0025】
(徐放性組成物の動作に対する追従性)
本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルは、その生体組織の形態変化への追従性のバランスの点から、より高い周波数に対しては固体的な挙動を示し、他方、より低い周波数に対しては液体的な挙動を示すことが好ましい。より具体的には、該ハイドロゲルの動作に対する追従性は以下の方法で好適に測定することが可能である。
【0026】
(動作に対する追従性の測定方法)
ハイドロゲル形成性の高分子を含む本発明の徐放性組成物(ハイドロゲルとして1mL)をゾル状態(ゾル−ゲル転移温度より低い温度)で内径1cmの試験管に入れ、該徐放性組成物のゾル−ゲル転移温度よりも充分高い温度(たとえば該ゾル−ゲル転移温度よりも約10℃高い温度)とした水浴中で上記試験管を12時間保持し、該ハイドロゲルをゲル化させる。
【0027】
次いで、該試験管の上下を逆にした場合に溶液/空気の界面(メニスカス)が溶液の自重で変形するまでの時間(T)を測定する。ここで1/T(sec−1)より低い周波数の動作に対して該ハイドロゲルは液体として振舞い、1/T(sec−1)より高い周波数の動作に対しては、該ハイドロゲルは固体として振舞うことになる。本発明のハイドロゲルの場合にはTは1分〜24時間、好ましくは5分〜10時間である。
【0028】
(定常流動粘度)
本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルのゲル的性質は、定常流動粘度の測定によっても好適に測定可能である。定常流動粘度η(イータ)は、例えばクリープ実験によって測定することができる。クリープ実験では一定のずり応力を試料に与え、ずり歪の時間変化を観測する。一般に粘弾性体のクリープ挙動では、初期にずり速度が時間とともに変化するが、その後ずり速度が一定となる。この時のずり応力とずり速度の比を定常流動粘度ηと定義する。この定常流動粘度は、ニュートン粘度と呼ばれることもある。ただし、ここで定常流動粘度は、ずり応力にほとんど依存しない線形領域内で決定されなければならない。
【0029】
具体的な測定方法は、測定装置としてストレス制御式粘弾性測定装置(AR500、TAインスツルメント社製)を、測定デバイスにアクリル製円盤(直径4cm)を使用し、試料厚み600μmとして少なくとも5分間以上の測定時間クリープ挙動(遅延曲線)を観測する。サンプリング時間は、最初の100秒間は1秒に1回、その後は10秒に1回とする。適用するずり応力(ストレス)の決定にあたっては、10秒間ずり応力を負荷して偏移角度が2×10−3rad以上検出される最低値に設定する。解析には5分以降の少なくとも20以上の測定値を採用する。本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルは、そのゾル−ゲル転移温度より約10℃高い温度において、ηが5×10〜5×10Pa・secであることが好ましく、更には8×10〜2×10Pa・sec、特に1×10Pa・sec以上、1×10Pa・sec以下であることが好ましい。
【0030】
上記ηが5×10Pa・sec未満では短時間の観測でも流動性が比較的高くなり、生体内の目的部位から移動し易くなる。他方、ηが5×10Pa・secを超えると、長時間の観測でもゲルが流動性をほとんど示さなくなる傾向が強まり、生体の変形に対する徐放性組成物の追従性が不充分となる。また、ηが5×10Pa・secを超えるとゲルが脆さを呈する可能性が強まり、わずかの純弾性変形の後、一挙にもろく破壊する脆性破壊が生起しやすい傾向が強まる。
【0031】
(動的弾性率)
本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルのゲル的性質は、動的弾性率によっても好適に測定可能である。該ゲルに振幅γ、振動数をω/2πとする歪みγ(t)=γcosωt(tは時間)を与えた際に、一定応力をσ、位相差をδとするσ(t)=σcos(ωt+δ)が得られたとする。|G|=σ/γとすると、動的弾性率G’(ω)=|G|cosδと、損失弾性率G”(ω)=|G|sinδとの比(G”/G’)が、ゲル的性質を表す指標となる。
【0032】
本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルは、ω/2π=1Hzの歪み(速い動作に対応する)に対しては固体として挙動し、且つ、ω/2π=10−4Hzの歪み(遅い動作に対応する)に対しては流体として挙動する。より具体的には、本発明の徐放性組成物に基づくハイドロゲルは、以下の性質を示すことが好ましい(このような弾性率測定の詳細については、例えば、文献:小田良平ら編集、近代工業化学19、第359頁、朝倉書店、1985を参照することができる)。
【0033】
ω/2π=1Hz(ゲルが固体として挙動する振動数)の際に、(G”/G’)s=(tan δ)sが1未満であることが好ましい(より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下)。
【0034】
ω/2π=10−4Hz(ゲルが液体として挙動する振動数)の際に、(G”/G’)L=(tan δ)が1以上であることが好ましい(より好ましくは1.5以上、特に好ましくは2以上)。
【0035】
上記(tan δ)sと、(tan δ)との比{(tan δ)s/(tan δ)}が1未満であることが好ましい(より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下)。
【0036】
<測定条件>
徐放性組成物中のハイドロゲル形成性高分子の濃度:約8質量%
温度:徐放性組成物のゾル−ゲル転移温度より約10℃高い温度
測定機器:ストレス制御式レオメータ(機種名:AR500、TAインスツルメンツ社製)
【0037】
(ハイドロゲル形成性高分子)
上述したような熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す(すなわち、ゾル−ゲル転移温度を有する)限り、本発明の徐放性組成物に使用可能なハイドロゲル形成性の高分子は特に制限されない。
【0038】
その水溶液がゾル−ゲル転移温度を有し、該転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示す高分子の具体例としては、例えば、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のエーテル化セルロース;キトサン誘導体(K. R. Holme ら、 Macromolecules,24,3828(1991))等が知られている。
【0039】
ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体として、ポリプロピレンオキサイドの両端にポリエチレンオキサイドが結合したプルロニック(Pluronic)F−127(商品名、BASF Wyandotte Chemicals Co.製)ゲルが開発されている。このプルロニックF−127の高濃度水溶液は、約20℃以上でハイドロゲルとなり、これより低い温度で水溶液となることが知られている。しかしながら、この材料の場合は約20質量%以上の高濃度でしかゲル状態にはならず、また約20質量%以上の高濃度でゲル化温度より高温に保持しても、更に水を加えるとゲルが溶解してしまう。また、プルロニックF−127は分子量が比較的小さく、約20質量%以上の高度のゲル状態で非常に高い浸透圧を示すのみならず細胞膜を容易に透過するので、生体に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0040】
一方、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等に代表されるエーテル化セルロースの場合は、通常は、ゾル−ゲル転移温度が高く約45℃以上である(N.Sarkar,J.Appl.Polym.Science,24,1073,1979)。これに対して、生体の体温は通常37℃近辺の温度であるため、上記エーテル化セルロースはゾル状態であり、該エーテル化セルロースを生体に適用すべき徐放性組成物として用いることは事実上困難である。
【0041】
上記したように、その水溶液がゾル−ゲル転移点を有し、且つ該転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示す従来の高分子の問題点は、1)ゾル−ゲル転移温度より高温で一旦ゲル化しても、更に水を添加するとゲルが溶解してしまうこと、2)ゾル−ゲル転移温度が生体の体温(37℃近辺)よりも高く、体温ではゾル状態であること、3)ゲル化させるためには、水溶液の高分子濃度を非常に高くする必要があること、等である。
【0042】
これに対して、本発明者らの検討によれば、本発明の徐放性組成物をヒト生体に適用する態様においては、好ましくは0℃より高く37℃以下であるゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲル形成性の高分子(例えば、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなり、その水溶液がゾル−ゲル転移温度を有し、且つ、ゾル−ゲル転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示す高分子)を用いて徐放性組成物を構成した場合に、上記問題は解決されることが判明している。
【0043】
(好適なハイドロゲル形成性高分子)
本発明の徐放性組成物として好適に使用可能な疎水結合を利用したハイドロゲル形成性高分子は、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなることが好ましい。該親水性のブロックは、ゾル−ゲル転移温度より低い温度で該ハイドロゲルが水溶性になるために存在することが好ましく、また曇点を有する複数のブロックは、ハイドロゲルがゾル−ゲル転移温度より高温でゲル状態に変化するために存在することが好ましい。換言すれば、曇点を有するブロックは該曇点より低い温度では水に溶解し、該曇点より高い温度では水に不溶性に変化するために、曇点より高い温度で、該ブロックはゲルを形成するための疎水結合からなる架橋点としての役割を果たす。すなわち、疎水性結合に由来する曇点が、上記ハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度に対応する。
【0044】
ただし、該曇点とゾル−ゲル転移温度とは必ずしも一致しなくてもよい。これは、上記した「曇点を有するブロック」の曇点は、一般に、該ブロックと親水性ブロックとの結合によって影響を受けるためである。
【0045】
本発明に用いるハイドロゲルは、疎水性結合が温度の上昇と共に強くなるのみならず、その変化が温度に対して可逆的であるという性質を利用したものである。1分子内に複数個の架橋点が形成され、安定性に優れたゲルが形成される点からは、ハイドロゲル形成性の高分子が「曇点を有するブロック」を複数個有することが好ましい。
【0046】
一方、上記ハイドロゲル形成性高分子中の親水性ブロックは、前述したように、該ハイドロゲル形成性高分子がゾル−ゲル転移温度よりも低い温度で水溶性に変化させる機能を有し、上記転移温度より高温で疎水性結合力が増大しすぎて上記ハイドロゲルが凝集沈澱してしまうことを防止しつつ、含水ゲルの状態を形成させる機能を有する。
【0047】
更に本発明に用いるハイドロゲルは、生体内で分解、吸収されるものであることが望ましい。すなわち、本発明のハイドロゲル形成性高分子が生体内で加水分解反応や酵素反応により分解されて、生体に無害な低分子量体となって吸収、排泄されることが好ましい。
【0048】
本発明のハイドロゲル形成性高分子が曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなるものである場合には、曇点を有するブロックと親水性のブロックの少なくともいずれか、好ましくは両方が生体内で分解、吸収されるものであることが好ましい。
【0049】
(曇点を有する複数のブロック)
曇点を有するブロックとしては、水に対する溶解度−温度係数が負を示す高分子のブロックであることが好ましく、より具体的には、ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体、N−置換アクリルアミド誘導体とN−置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物からなる群より選ばれる高分子が好ましく使用可能である。
【0050】
曇点を有するブロックを生体内で分解、吸収されるものとするには、曇点を有するブロックを疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸から成るポリペプチドとすることが有効である。あるいはポリ乳酸やポリグリコール酸などのポリエステル型生分解性ポリマーを生体内で分解、吸収される曇点を有するブロックとして利用することもできる。
【0051】
本発明の徐放性組成物をヒト生体に適用する態様においては、上記の高分子(曇点を有するブロック)の曇点が4℃より高く40℃以下であることが、本発明に用いる高分子(曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合した化合物)のゾル−ゲル転移温度を0℃より高く37℃以下とする点から好ましい。
【0052】
ここで曇点の測定は、例えば、上記の高分子(曇点を有するブロック)の約1質量%の水溶液を冷却して透明な均一溶液とした後、除々に昇温(昇温速度約1℃/min)して、該溶液がはじめて白濁する点を曇点とすることによって行うことが可能である。
【0053】
本発明に使用可能なポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体の具体的な例を以下に列挙する。
【0054】
ポリ−N−アクロイルピペリジン;ポリ−N−n−プロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド;ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド;ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド;ポリ−N−アクリロイルピロリジン;ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−エチルアクリルアミド。
【0055】
上記の高分子は単独重合体(ホモポリマー)であっても、上記重合体を構成する単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。このような共重合体を構成する他の単量体としては、親水性単量体、疎水性単量体のいずれも用いることができる。一般的には、親水性単量体と共重合すると生成物の曇点は上昇し、疎水性単量体と共重合すると生成物の曇点は下降する。従って、これらの共重合すべき単量体を選択することによっても、所望の曇点(例えば4℃より高く40℃以下の曇点)を有する高分子を得ることができる。
【0056】
(親水性単量体)
上記親水性単量体としては、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、酸性基を有するアクリル酸、メタアクリル酸およびそれらの塩、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等、並びに塩基性基を有するN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
(疎水性単量体)
一方、上記疎水性単量体としては、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアクリレート誘導体およびメタクリレート誘導体、N−n−ブチルメタアクリルアミド等のN−置換アルキルメタアクリルアミド誘導体、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
(親水性のブロック)
一方、上記した曇点を有するブロックと結合すべき親水性のブロックとしては、具体的には、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩;ポリN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられる。
【0059】
また親水性のブロックは生体内で分解、代謝、排泄されることが望ましく、アルブミン、ゼラチンなどのたんぱく質、ヒアルロン酸、ヘパリン、キチン、キトサンなどの多糖類などの親水性生体高分子が好ましく用いられる。
【0060】
曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとを結合する方法は特に制限されないが、例えば、上記いずれかのブロック中に重合性官能基(例えばアクリロイル基)を導入し、他方のブロックを与える単量体を共重合させることによって行うことができる。また、曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとの結合物は、曇点を有するブロックを与える単量体と、親水性のブロックを与える単量体とのブロック共重合によって得ることも可能である。また、曇点を有するブロックと親水性のブロックとの結合は、予め両者に反応活性な官能基(例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基等)を導入し、両者を化学反応により結合させることによって行うこともできる。この際、親水性のブロック中には通常、反応活性な官能基を複数導入する。また、曇点を有するポリプロピレンオキサイドと親水性のブロックとの結合は、例えば、アニオン重合またはカチオン重合で、プロピレンオキサイドと「他の親水性ブロック」を構成するモノマー(例えばエチレンオキサイド)とを繰り返し逐次重合させることで、ポリプロピレンオキサイドと「親水性ブロック」(例えばポリエチレンオキサイド)が結合したブロック共重合体を得ることができる。このようなブロック共重合体は、ポリプロピレンオキサイドの末端に重合性基(例えばアクリロイル基)を導入後、親水性のブロックを構成するモノマーを共重合させることによっても得ることができる。更には、親水性のブロック中に、ポリプロピレンオキサイド末端の官能基(例えば水酸基)と結合反応し得る官能基を導入し、両者を反応させることによっても、本発明に用いる高分子を得ることができる。また、ポリプロピレングリコールの両端にポリエチレングリコールが結合した、プルロニック F−127(商品名、旭電化工業(株)製)等の材料を連結させることによっても、本発明に用いるハイドロゲル形成性の高分子を得ることができる。
【0061】
この曇点を有するブロックを含む態様における本発明の高分子は、曇点より低い温度においては、分子内に存在する上記「曇点を有するブロック」が親水性のブロックとともに水溶性であるので、完全に水に溶解し、ゾル状態を示す。しかし、この高分子の水溶液の温度を上記曇点より高い温度に加温すると、分子内に存在する「曇点を有するブロック」が疎水性となり、疎水的相互作用によって、別個の分子間で会合する。
【0062】
一方、親水性のブロックは、この時(曇点より高い温度に加温された際)でも水溶性であるので、本発明の高分子は水中において、曇点を有するブロック間の疎水性会合部を架橋点とした三次元網目構造を持つハイドロゲルを生成する。このハイドロゲルの温度を再び、分子内に存在する「曇点を有するブロック」の曇点より低い温度に冷却すると、該曇点を有するブロックが水溶性となり、疎水性会合による架橋点が解放され、ハイドロゲル構造が消失して、本発明の高分子は、再び完全な水溶液となる。このように、好適な態様における本発明の高分子のゾル−ゲル転移は、分子内に存在する曇点を有するブロックの該曇点における可逆的な親水性、疎水性の変化に基づくものであるので、温度変化に対応して、完全な可逆性を有する。
【0063】
(ゲルの溶解性)
上述したように水溶液中でゾル−ゲル転移温度を有する高分子を少なくとも含む本発明のハイドロゲル形成性の高分子は、該ゾル−ゲル転移温度より高温(d℃)で実質的に水不溶性を示し、ゾル−ゲル転移温度より低い温度(e℃)で可逆的に水可溶性を示す。
【0064】
上記した高い温度(d℃)は、ゾル−ゲル転移温度より1℃以上高い温度であることが好ましく、2℃以上(特に5℃以上)高い温度であることが更に好ましい。また、上記「実質的に水不溶性」とは、上記温度(d℃)において、水100mLに溶解する上記高分子の量が、5.0g以下(更には0.5g以下、特に0.1g以下)であることが好ましい。
【0065】
一方、上記した低い温度(e℃)は、ゾル−ゲル転移温度より(絶対値で)1℃以上低い温度であることが好ましく、2℃以上(特に5℃以上)低い温度であることが更に好ましい。また、上記「水可溶性」とは、上記温度(e℃)において、水100mLに溶解する上記高分子の量が、0.5g以上(更には1.0g以上)であることが好ましい。更に「可逆的に水可溶性を示す」とは、上記ハイドロゲル形成性の高分子の水溶液が、一旦(ゾル−ゲル転移温度より高温において)ゲル化された後においても、ゾル−ゲル転移温度より低い温度においては、上記した水可溶性を示すことをいう。
【0066】
上記高分子は、その10%水溶液が5℃で、10〜3,000センチポイズ (更には50〜1,000センチポイズ)の粘度を示すことが好ましい。このような粘度は、例えば以下のような測定条件下で測定することが好ましい。
【0067】
粘度計:ストレス制御式レオメータ(機種名:AR500、TAインスツルメンツ社製)
ローター直径:60mm
ローター形状:平行平板
【0068】
本発明のハイドロゲル形成性高分子の水溶液は、上記ゾル−ゲル転移温度より高温でゲル化させた後、多量の水中に浸漬しても、該ゲルは実質的に溶解しない。上記徐放性組成物の上記特性は、例えば、以下のようにして確認することが可能である。
【0069】
すなわち、本発明のハイドロゲル形成性の高分子0.15gを、上記ゾル−ゲル転移温度より低い温度(例えば氷冷下)で、蒸留水1.35gに溶解して10wt%の水溶液を作製し、該水溶液を径が35mmのプラスチックシャーレ中に注入し、37℃に加温することによって、厚さ約1.5mmのゲルを該シャーレ中に形成させた後、該ゲルを含むシャーレ全体の重量(fグラム)を測定する。次いで、該ゲルを含むシャーレ全体を250ml中の水中に37℃で10時間静置した後、該ゲルを含むシャーレ全体の重量(gグラム)を測定して、ゲル表面からの該ゲルの溶解の有無を評価する。この際、本発明のハイドロゲル形成性の高分子においては、上記ゲルの重量減少率、すなわち(f−g)/fが、5.0%以下であることが好ましく、更には1.0%以下(特に0.1%以下)であることが好ましい。
【0070】
本発明のハイドロゲル形成性高分子の水溶液は、上記ゾル−ゲル転移温度より高温でゲル化させた後、多量(体積比で、ゲルの0.1〜100倍程度)の水中に浸漬しても、長期間に亘って該ゲルは溶解することがない。このような本発明に用いる高分子の性質は、例えば、該高分子内に曇点を有するブロックが2個以上(複数個)存在することによって達成される。
【0071】
これに対して、ポリプロピレンオキサイドの両端にポリエチレンオキサイドが結合してなる前述のプルロニックF−127を用いて同様のゲルを作成した場合には、数時間の静置で該ゲルは完全に水に溶解することを、本発明者らは見出している。
【0072】
非ゲル化時の細胞毒性をできる限り低いレベルに抑える点からは、水に対する濃度、すなわち{(高分子)/(高分子+水)}×100(%)で、20%以下(更には15%以下、特に10%以下)の濃度でゲル化が可能なハイドロゲル形成性の高分子を用いることが好ましい。
【0073】
本発明に用いられるハイドロゲル形成性高分子の分子量は3万以上3,000万以下が好ましく、より好ましくは10万以上1,000万以下、更に好ましくは50万以上500万以下である。
【0074】
(活性物質)
本発明において、徐放性組成物を構成する一成分たる微粒子は、活性物質を少なくとも含む微粒子である。徐放性コントロールの点からは、この微粒子は、それ自体で該活性物質の徐放性を発現可能な微粒子であることが好ましい。ここに、「活性物質」とは、それ自体の徐放化が有益であり、且つ、その上記微粒子からの放出が何らかの手段で検出可能(detectable)な物質を言う。生理活性作用を有する生理活性物質は、この「活性物質」の一態様である。
【0075】
本発明において、「活性物質の徐放性を発現可能な微粒子」は特に制限されない。すなわち、公知の微粒子(リポソーム、デンドリマー、脂肪製剤、マイクロカプセル、マイクロスフェアー、高分子ミセル、等)から適宜選択して、本発明における「微粒子」として使用することができる。このような「活性物質の徐放性を発現可能な微粒子」の構成、製造方法、使用方法等に関しては、必要に応じて、小石眞純監修「マイクロ/ナノ系カプセル・微粒子の開発と応用」2003年、(株)シーエムシー出版を参照することができる。また、生理活性物質の徐放化に関しては、必要に応じて、宮尾興平著、ドラッグ・デリバリー・システムの実際、1986年、医薬ジャーナル社を参照することができる。
【0076】
活性物質の徐放性を発現可能である限り、活性物質の微粒子への担持ないし保持形態は特に限定されない。例えば、活性物質は微粒子内に封入されていてもよいし、微粒子の表面に、接着、吸着もしくは結合していてもよい。
【0077】
(生理活性物質)
本発明における生理活性物質とは、生物の営む精妙な生命現象に、微量で関与し影響を与える有機物質、無機物質を総称する。前記生理活性物質としては、動物、好ましくはヒトに投与できる任意の化合物あるいは物質組成物であれば、特に限定されない。例えば前記活性物質としては、体内で生理活性を発揮し、疾患の予防または治療に有効な化合物または組成物、例えば造影剤等の診断に用いる化合物または組成物、更に遺伝子治療に有用な遺伝子等も含まれる。
【0078】
(活性物質の具体例)
本発明における活性物質(ないし生理活性物質)として、各種の医薬品を好適に用いることができる。例えば、抗癌剤、抗生物質、鎮痛剤、免疫増強剤、免疫抑制剤、抗血栓剤、気管支拡張剤、高血圧剤、成長因子、ホルモンなどを用いることができる。
【0079】
本発明における活性物質として、例えば抗腫瘍剤(抗癌剤)を好適に用いることができる。抗腫瘍剤として例えば、アルキル化剤、各種代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、その他抗腫瘍剤、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、血管新生阻害剤、細胞接着阻害剤、マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤またはホルモン等が挙げられる。
【0080】
(アルキル化剤)
より具体的には、アルキル化剤として、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、イホスファミド、メルファラン、シクロホスファミド、クロラムブシル等のクロロエチルアミン系アルキル化剤、;例えば、カルボコン、チオテパ等のアジリジン系アルキル化剤;例えば、ディブロモマンニトール、ディブロモダルシトール等のエポキシド系アルキル化剤;例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、クロロゾトシン、ラニムスチン等のニトロソウレア系アルキル化剤;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン、ピポスルファン等のスルホン酸エステル類;ダカルバジン;プロカルバジン等が挙げられる。
【0081】
(代謝拮抗剤)
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6−メルカプトプリン、アザチオプリン、6−チオグアニン、チオイノシン等のプリン代謝拮抗剤;フルオロウラシル(5−フルオロウラシル)、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤;メトトレキサート、トリメトレキサート等の葉酸代謝拮抗剤等、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。
【0082】
(抗腫瘍剤)
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、ダウノルビシン、アクラシノマイシンA(アクラルビシン)、アンサマイトシン、ドキソルビシン(塩酸ドキソルビシン)、ピラルビシン、エピルビシン等のアントラサイクリン系;アクチノマイシンD等のアクチノマイシン系;クロモマイシンA等のクロモマイシン系;マイトマイシンC等のマイトマイシン系;ブレオマイシン、ペプロマイシン等のブレオマイシン系等;および、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0083】
その他の抗腫瘍剤としては、例えば、タキソール(パクリタキセル)、タキソテール(ドセタキセル)、バチマスタット、シスプラチン、カルボプラチン、タモキシフェン、L−アスパラギナーゼ、アセブラトン、シゾフィラン、ピシバニール、ウベニメクス、クレスチン等、および、それらの塩もしくは複合体が挙げられる。
【0084】
抗腫瘍性植物成分としては、例えば、カンプトテシン、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン等の植物アルカロイド類;エトポシド、テニポシド等のエピポドフィロトキシン類;および、その塩もしくは複合体が挙げられる。また、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレア等も挙げることができる。
【0085】
(BRM)
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子、インドメタシン等、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。血管新生阻害剤としては、例えばフマギロール誘導体、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。細胞接着阻害剤としては、例えば、RGD配列を有する物質、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、マリマスタット、バチマスタット等、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。ホルモンとしては、例えばヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、メドロキシプロゲステロン等、および、その塩もしくは複合体が挙げられる。
【0086】
(抗生物質)
本発明における活性物質として、例えば抗生物質を好適に用いることができる。具体的な例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、セファロスポリン、カナマイシン、ジベカシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、グリセオフルビン、ゲンタマイシン、アクチノマイシン、アクラルビシン、アムピシリン、スペクチノマイシン、トブラマイシン、ブレオマイシン、アミカシン、シソマイシン、フラジオマイシン(ネオマイシン)、バロモマイシン、サイクロセリン(オキザマイシン)、リファンピシン、バイオマイシン、ダウノマイシン、ナイスタチン、トリコマイシン、ポリミキシン、コリスチン、バシトラシン、ロイコマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン、グラミシジン、ホスホマイシン、ノボビオシン、リンコマイシン、ナイスタチン、トリコマイシン、アンフォテリシンB、ピマリシン、ベンタマイシン、アザロマイシン、バリオチン、ピロルニトリン、グリセオフルビン、ザルコマイシンなどを挙げることができる。
【0087】
(鎮痛剤)
本発明における活性物質として、例えば鎮痛剤を好適に用いることができる。具体的な例としては、麻薬性鎮痛剤(中枢性鎮痛剤)として、アヘン、モルフィン、コデイン、モルヒネ、オキシコドン、ペンタゾシン、ジヒドロコデイン、ペチジン、メサドン等を、解熱性鎮痛剤(抗炎症剤)として、サリチル酸ナトリウム、アセチルサリチル酸(アスピリン)、サリチルアミド、アセトアミノフェン、フェナセチン、アンチピリン、アミノピリン、スルピリン、ブロメルシン、リゾチーム、プロクターゼ、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、メフェナム酸、フェニルブタゾン、インドメタシン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、アラントイン、グアイアズレン及びそれらの誘導体並びにそれらの塩、ε−アミノカプロン酸、酸化亜鉛、ジクロフェナクナトリウム、アロエ抽出物、サルビア抽出物、アルニカ抽出物、カミツレ抽出物、シラカバ抽出物、オトギリソウ抽出物、ユーカリ抽出物及びムクロジ抽出物などを挙げることができる。
【0088】
(免疫増強剤)
本発明における活性物質として、例えば免疫増強剤を好適に用いることができる。そのような物質は、免疫応答を起こし、微粒子に組み合せることができるいずれの抗原、ハプテン、有機部分、あるいは有機又は無機化合物をも含む。例えば担持される物質は、免疫グロブリン、モノクローナル抗体及び非−ヨウドタイプ抗体を含む抗体、抗体断片、インターロイキン、インターフェロン、ウィルス、ウィルス断片及び他の遺伝物質などである。より具体的には、マラリア(米国特許第4,735,799号)、コレラ(米国特許第4,751,064号)及び尿管感染(米国特許第4,740,585号)に対するワクチンの製造に用いることができる合成ペプチド、殺バクテリアワクチンの製造のためのバクテリア多糖(米国特許第4.695.624号)及びAIDS及び肝炎などの疾患予防のための抗ウィルス性ワクチン製造のためのウィルスタンパク質又はウィルス粒子などを用いることができる。
【0089】
(免疫抑制剤)
本発明における活性物質として、例えば免疫抑制剤を好適に用いることができる。具体的には、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、メトトレキサート、サイクロフォスファミド、アザチオプリン、ミゾリビン等を挙げることができる。
【0090】
(抗ウイルス剤)
本発明における活性物質として、例えば抗ウイルス剤を好適に用いることができる。具体的には、アシクロビル、ジドブディン(zidovudin)、インターフェロン類等を挙げることができる。
【0091】
(細胞増殖因子等)
本発明における活性物質として、例えば細胞増殖因子、ホルモン類あるいは局所性化学仲介物質を好適に用いることができる。具体的な例としては、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor、FGF)、上皮細胞成長因子(epithelial growth factor、EGF)、血管内皮細胞成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、血小板由来増殖因子(platelet derived growth factor、PDGF)等の細胞成長因子、インスリン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)等のタンパクまたは糖タンパク、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン及びケラタン硫酸等のムコ多糖類並びにこれらの塩類、TSH放出因子、バソプレシン、ソマトスタチン等のアミノ酸誘導体、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子、コルチゾール、エストラジオール、テストステロン、トロンボモデュリン、17β−エストラジオール、ノルエチンドロン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等のステロイド等が挙げられる。局所性化学仲介物質としては、神経細胞成長因子等のタンパク、走化性因子等のペプチド、ヒスタミン等のアミノ酸誘導体、プロスタグランジン等の脂肪酸誘導体等が挙げられる。
【0092】
(抗血栓剤)
本発明における活性物質として、例えば抗血栓剤を好適に用いることができる。抗血栓剤として例えば、ヘパリン、ワーファリン、アセノクマロール、フェニンジオン、EDTAなどを挙げることができる。
【0093】
(骨形成促進作用剤)
本発明における活性物質として、例えば軟骨形成促進作用または骨形成促進作用を有する物質を好適に用いることができる。例えば、カルシウム剤、活性型ビタミンD(例、1α−ヒドロキシビタミンD、1α−2,5−ジヒドロキシビタミンD、フロカルシトリオール、セカルシフェロール等)、カルシトニンおよびその誘導体、ペプチド類、(インターロイキン−1β変換酵素、カテプシンB、カテプシンL等)、非ペプチド性軟骨形成促進物質、ベンゾチオピラン、ベンゾチエビン誘導体等の軟骨形成促進作用または骨形成促進作用を有する物質(例、特開平3−232880号公報、特開平4−364179号公報、特開平8−231569号公報、特開平2000−72678号公報等に記載の化合物またはその塩)、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン、キサンチン誘導体、ポリフェノール化合物、プロスタグランジン類、金チオリンゴ酸ナトリウム、オーラノフィン、Dペニシラミン、ブシラミン、ロベンザリット、アクタリット、サラゾスルファピリジン等の抗リウマチ薬、アミノグリコシド、セファロスポリン、テトラサイクリン等の抗菌剤、ポリエン系抗生物質、イミダゾール、トリアゾール等の抗真菌剤、コレステロール等のステロール、コラーゲン、エラスチン、ケラチン及びこれらの誘導体並びにその塩類、例えば糖やデンプン等の炭水化物、細胞受容体蛋白質、酵素、神経伝達物質、糖蛋白質などを用いることができる。
【0094】
(チロシナーゼ活性阻害剤)
本発明における活性物質として、例えばチロシナーゼ活性阻害剤を好適に用いることができる。例えば、システイン及びその誘導体並びにその塩、センプクカ抽出物、ケイケットウ抽出物、サンペンズ抽出物、ソウハクヒ抽出物、トウキ抽出物、イブキトラノオ抽出物、クララ抽出物、サンザシ抽出物、シラユリ抽出物、ホップ抽出物、ノイバラ抽出物及びヨクイニン抽出物などを挙げることができる。
【0095】
(カロチノイド誘導体)
本発明における活性物質として、例えばカロチノイドおよびその誘導体を好適に用いることができる。例えば、アスタキサンチンのエステルが挙げられ、例えば、グリシン、アラニン等のアミノ酸エステル類、酢酸エステル、クエン酸エステル等のカルボン酸エステル及びその塩類、リン酸エステル、硫酸エステル等の無機塩エステル及びその塩類、グルコシド等の配糖体類、またはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸、オレイン酸やリノール酸等の不飽和脂肪酸またはパルミチン酸やステアリン酸等の飽和脂肪酸から選択される脂肪酸エステル類等から選択されるモノエステル体及び同種または異種のジエステル体等が挙げられる。
【0096】
(トキシン類)
本発明における活性物質として、例えばトキシン類を好適に用いることができる。例えば、ジフテリアトキシン、ゲロニン、エキソトキシンA、アブリン、モデシン、リシン又はそれらの毒性断片を用いることができる。
【0097】
(金属または金属イオン)
本発明における活性物質として、例えば金属または金属イオンを好適に用いることができる。例えば、周期表第VIIIA族(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、第IVB族(Pb、Sn、Ge)、第IIA族(SC、Y、ランタニド類及びアクチニド類)、第IIIB族(B、Al、Ga、In、Tl)、第IA族アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)、及び第IIA族アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)及び遷移金属などの金属およびそれらの金属イオンを用いることができる。
【0098】
(放射性核種)
本発明における活性物質として、例えば放射性核種を好適に用いることができる。例えば、アクチニド類又はランタニド類、あるいは他の類似の遷移元素から、あるいは他の元素、例えば47Sc、67Cu、67Ga、82Rb、89Sr、88Y、90Y、99mTc、105Rh、109Pd、111In、115mIn、125I、131I、140Ba、140La、149Pm、153Sm、159Gd、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、194Ir及び199Au、好ましくは88Y、90Y、99mTc、125I、131I、153Sm、166Ho、177Lu、186Re、67Ga、111In、115mIn及び140Laから発生されるものを用いることができる。
【0099】
(香料)
本発明における活性物質として、例えば香料を好適に用いることができる。香料としては、動物系および植物系の天然香料、合成香料、または調合香料のいずれを用いても良い。本発明では、香料を含有する微粒子を本発明のハイドロゲルに担持させて香料の放出特性を制御するため、香料が非水溶性であることが好ましい。ここで香料が非水溶性であるとは、香料の水に対する溶解度が25℃において、1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下であることを言う。
【0100】
(活性物質を含む微粒子)
本発明において、活性物質を含む微粒子としては、リポソーム、デンドリマー、マイクロスフェアー、脂肪製剤、リピッドマイクロスフェアー(リポスフェアー)、マイクロカプセル、高分子ミセルなど、活性物質を含有する公知の微粒子を用いることができる。
【0101】
更には、血小板や白血球、赤血球、リンパ球などの血球細胞、癌細胞や各種の正常細胞も活性物質を含む微粒子として使用可能である。例えば、血小板(微粒子)を本発明の徐放性組成物として利用すれば、血小板内に含有されるPDGF(活性物質)を徐放化させることができる。あるいはインスリン産生細胞(微粒子)を本発明の徐放性組成物として利用すれば、インスリン(活性物質)を徐放化させることができる。
【0102】
(粒径)
本発明において、徐放に至るまでに所望の時間ハイドロゲル中に保持(例えば、ハイドロゲル中への分散による保持)させることが可能である限り、活性物質を含む微粒子の粒径は特に制限されない。ハイドロゲル中への保持が容易な点からは、活性物質を含む微粒子の粒径は1nm以上1mm以下の範囲であることが好ましく、更には10nm以上0.1mm以下の範囲(特に20nm以上20μm以下の範囲)が好ましい。微粒子の大きさがこの範囲を下回るとハイドロゲル中における微粒子の拡散速度が大きくなり、活性物質を長期間に亘って本発明の徐放性組成物に保持することが困難となる傾向が生じ易くなる。他方、また微粒子の大きさがこの範囲を上回ると、本発明の徐放性組成物内に微粒子を均一に分布させることが困難となる傾向が生じ易くなる。
【0103】
上記したような生理活性物質を含む微粒子をDDSに利用する試みは広く行われている(宮尾興平著、ドラッグ・デリバリー・システムの実際、1986年、医薬ジャーナル社)が、生体に注射投与した場合、容易に全身に循環してしまい、目的部位局所で活性物質を徐放化させることは困難である。一方、本発明の徐放性組成物は、活性物質を含む微粒子を液状で投与した後、体温でゲル化させるものであるので投与部位局所に活性物質を含む微粒子を留置することができ、目的部位局所で活性物質を徐放化させることが可能である。
【0104】
(リポソーム)
本発明において使用可能なリポソームは、水相中においてリン脂質2重層膜から構成される球状の閉鎖小胞体であり、その粒径は体積平均粒子径で20nmから20μm 程度まで調節できる。体積平均粒子径は動的光散乱法によって求めることができる。2重層膜単層から成るスモールユニラメラベシクル(SUV)やラージユニラメラベシクル(LUV)、複数の2重層膜から成るマルチラメラベシクル(MLV)などに分類されるが、いずれも本発明の活性物質を含む微粒子として用いることができる。
【0105】
リポソームを形成するリン脂質はホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンなどであるが、通常はレシチンが用いられ、これに中性脂質のコレステロールなどを加えて膜を安定化させる。また、リポソーム中への活性物質の封入効率を改善したり、リポソームに臓器指向性を付与したりする目的で荷電を有する脂質や親水性高分子を結合した脂質を添加することもできる。プラスに荷電させる脂質としてはステアリルアミンなどの脂肪族アミン類、マイナスに荷電させる脂質としてはステアリン酸やミリスチン酸などの脂肪酸、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ジセチルホスフェートなどを用いることができる。
【0106】
親水性高分子を結合した脂質の添加は主にリポソームの表面修飾を目的としている。リポソーム表面にモノクローナル抗体を結合させることにより、特定の抗原に対するリポソームの親和性を高めることができる。また、多糖類やポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子を結合した脂質を、リポソームを形成する脂質に混合してリポソーム表面に露出させることができる。PEGによるリポソーム表面の修飾は、リポソーム表面へのタンパク吸着を抑制したり、リポソームの血漿中での凝集を防止したり、網内系によるリポソーム捕捉を回避して循環血液中の滞留時間を延長したりする効果がある(H. Yoshioka, Biometerials,12,861 (1991)。
【0107】
リポソームを製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いてよい。例えば、上記リン脂質および水相を使用し、薄膜法、逆相蒸発法、エタノール注入法、エーテル注入法、脱水−再水和法等により、リポソームを製造することができる。中でもエーテル注入法が好ましい。超音波照射法、凍結融解後の超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等の方法により、体積平均粒子径を調節することができる(D.D.Lasic、“Liposomes: from basic to applications”、Elsevier Science Publishers、p.1−171(1993年)参照。)。ここで、水相には、水、水溶液が含まれリポソーム 内部を構成する水溶液でもあり得る。本技術分野において通常使用されるものであれば特に制限はないが、塩化ナトリウム水溶液、リン酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液等の緩衝液、グルコース水溶液、トレハロース等の糖水溶液またはこれらの混合水溶液が好適である。一般に、生体内に投与されたリポソームの構造を安定に保つため、リポソームの製造に使用される水相は、リポソーム外、すなわち、体液に対して等張に近く、リポソーム内外にかかる浸透圧が小さいことが好ましい。
【0108】
リポソームに活性物質を含有させるには、上記製造工程中水相あるいはリン脂質中に溶解ないし混合しておけば良い。水溶性の活性物質はリポソームの内水層に、脂溶性の活性物質はリポソームのリン脂質2重層膜中に保持させることができる。
【0109】
(デンドリマー)
デンドリマーはギリシャ語で樹木を意味するdendraを語源とする化合物形態であり、多重に分岐した分子鎖が分子の中心部から放射状に伸びた構造からなる。その分岐構造ゆえに、デンドリマー化合物の空間的な広がりは分子量の割に比較的小さく、通常は、直径数十nmまでのほぼ球状の大きさである。従来の直鎖状ポリマー化合物と比べて、デンドリマー化合物ではコア、分岐鎖、表面等の独立した分子設計が可能であり、三次元的な分子構築を達成し得る。用途に合わせて特定の原子団を効果的に空間配列することにより、該化合物の機能の飛躍的な向上が期待できる。ナノカプセル、遺伝子ベクター等幅広い分野において、その応用が期待されている。
【0110】
工業的に製造されるポリエチレンイミンやポリプロピレンイミンといった分岐状ポリマー化合物もデンドリマー化合物の1種であるが、これらは分岐が自然促進される反応性モノマーの重合反応により形成される。目的とする機能の発現に向けた分子設計に基づくデンドリマー 化合物の合成方法としては、Divergent法とConvergent法とがある。Divergent法は中心となる出発物質に段階的反応を繰り返し、分岐を増やしていく製法である。一方、Convergent法は逆に周辺構成部から段階的にデンドロン(dendron)を合成し、最後に複数のデンドロンを結合する製法である。
【0111】
デンドリマーに活性物質を含有させるには従来公知の方法(例えば特表平08−510761に開示された方法を用いることができる。
【0112】
(マイクロスフェアー)
通常、マイクロスフェアーは、微小球状(1〜数十ミクロン)のマトリックスDDSとして、薬物の徐放とある程度のターゲティングを主目的として利用されている。更には抗体を結合させたり、磁性を持たせたりしてより強いターゲティング機能を付与することもできる。その構成成分はアルブミンやコラーゲンなどの生体高分子、あるいは合成の高分子を用いることができる。
【0113】
(リポスフェアー)
マイクロスフェアーの一種ではあるが、油脂の微小滴マイクロスフェアーをリピッドマイクロスフェアー(リポスフェアー)と呼び、本発明で好適に用いることができる。例えば、脂肪注射剤のイントラリピッドを本発明の微粒子として用いることができる。リポスフェアーには各種の脂溶性活性物質を担持させることができる。
【0114】
(マイクロカプセル)
本発明において使用可能なマイクロカプセルは、固体、液体、溶液あるいは懸濁液などの微小な粒子あるいは微小滴を高分子の均一な膜でコートしたものである。マイクロスフェアーは全体が均質であるのに対し、マイクロカプセルでは隔壁と内容物は異なっている。コーティング材料は、天然および合成の膜形成性高分子から選ばれ、例えば、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、ゼラチン、ゼラチン−アラビアガム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、プロピルハイドロキシセルロース、シェラック、サクシニレートゼラチン、ワックスなどを用いることができる。
【0115】
マイクロカプセルの調整法としては、コアセルベーション法(相分離法)、界面重合法、気中懸濁法、オリフィス法(多孔遠心機法)、静電沈着法、スプレードライ法、パンコーティング法などを用いることができる(宮尾興平著、ドラッグ・デリバリー・システムの実際、1986年、医薬ジャーナル社)。
【0116】
(高分子ミセル)
本発明において使用可能な活性物質を含む微粒子として、親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有するブロックコポリマーを使用して水難溶性薬物を封入した高分子ミセル(例えば、特許第2777530号公報参照)を好適に用いることができる。
【0117】
高分子ミセルの調製方法としては、例えば上記公報に記載された以下の方法を採用できる。
【0118】
a)水難溶性薬物を、必要により水混和性の有機溶媒に溶解して、ブロックコポリマー分散水溶液と撹拌混合する。なお、撹拌混合時に加熱することにより薬物の高分子ミセル 内への封入を促進できる場合もある。
【0119】
b)水難溶性薬物の水非混和性の有機溶媒溶液とブロックコポリマー分散水溶液とを混合し、撹拌しながら有機溶媒を揮散させる。
【0120】
c)水混和性の有機溶媒に水難溶性薬物およびブロックコポリマーを溶解した後、得られる溶液を透析膜を用い緩衝液および/または水に対して透析する。
【0121】
あるいは、特開2001−226294号に記載された以下の方法を採用できる。
d)水非混和性の有機溶媒に水難溶性薬物およびブロックコポリマーを溶解し、得られる溶液を水と混合し、撹拌して水中油(O/W)型エマルジョンを形成し、次いで有機溶媒を揮散させる。
【0122】
更に特開2003−26812号に記載された方法等により、糖類、無機塩類およびポリエチレングリコール等を助剤として添加することで水難溶性薬物を封入した高分子ミセルを凍結乾燥することもできる。この凍結乾燥物は再度水に分散させることで容易に水難溶性薬物を封入した高分子ミセル分散液を再構成する。
【0123】
(好適なブロックコポリマー)
本発明で好適に使用できるブロックコポリマーとしては、親水性セグメント(以下、Aセグメントともいう)および疎水性セグメント(以下、Bセグメントともいう)からなる、所謂、AB型またはABA型のブロックコポリマーであることができる。Aセグメントを構成するポリマーとしては、限定されるものでないが、ポリエチレングリコール(もしくはポリオキシエチレン)、ポリサッカライド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等をあげることができる。これらの中、好ましいものとしてはポリエチレングリコールから構成されるものをあげることができる。限定されるものでないが、ポリエチレングリコールセグメントのオキシエチレンの反復単位は10〜2500個となるものがより好ましい。
【0124】
Aセグメントは、Bセグメントとの結合端と反対側の末端に、高分子ミセルを形成する上で悪影響を及ぼさない限り、いかなる低分子官能基または分子の部分(例、低級アルキル、アミノ基、カルボキシル基、糖残基、タンパク質残基等)を有していてもよい。
【0125】
他方、Bセグメントとしては、限定されるものでないが、ポリアミノ酸エステル(ポリアスパラギン酸エステル、ポリグルタミン酸エステル、またこれらの部分加水分解物等)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリラクチド、ポリエステル、等をあげることができる。Bセグメントも、Aセグメントとの結合端との反対の末端に、高分子ミセルを形成する際に薬物とBセグメントとの相互作用に悪影響を及ぼさない範囲で、Aセグメントについて説明したのと同様な低分子官能基を有することができる。かようなブロックコポリマーの代表的なものは、例えば、特許第2777530号公報、WO96/32434、WO96/33233およびWO97/06202等、に記載されているポリマーそれら自体またはそれらから誘導されるものをあげることができる。
【0126】
(微粒子の拡散速度)
本発明の徐放性組成物をヒト生体に適用する態様において、該徐放性組成物内における活性物質を含む微粒子の拡散係数は、37℃において、1×10−8(cm/sec)以下,より好ましくは1×10−9(cm/sec)以下、更に好ましくは1×10−10(cm/sec)以下である。本発明で微粒子が実質的に拡散しないとは、微粒子の拡散係数が1×10−10(cm/sec)以下であることを言う。
【0127】
ハイドロゲル中の微粒子の拡散係数は文献(Eric K.L.Leeら、Journal of Membrane Science,24,125−143(1985))に記載された“early-time”近似法により求めることができる。この方法では、均一な厚さL(cm)のハイドロゲル平板中に均一に分散された微粒子がハイドロゲル平板の両表面から溶出する過程を経時的に観測する。時間t(sec)における微粒子の溶出量をMt、無限大時間後の溶出量をM∞とすると、Mt/M∞<0.6の範囲で微粒子のハイドロゲル中における拡散係数D(cm/sec)について下記の式(1)が成立する。
【0128】
Mt/M∞=(Dt/π)1/2×4/L (1)
従って、経過時間tの平方根に対して、時間tまでの溶出率をプロットした直線の傾きから拡散係数Dを算出することができる。
【0129】
(活性物質徐放制御機構)
本発明の徐放性組成物からの活性物質の放出は、1)活性物質のハイドロゲル中拡散過程、2)活性物質を含む微粒子のハイドロゲル中拡散過程、3)活性物質を含む微粒子からの活性物質放出過程、4)ハイドロゲルの崩壊過程という4種類の放出過程の組み合わせによって制御される。
【0130】
本発明者らはすでに、1)活性物質のハイドロゲル中拡散過程の制御方法について提案(特開2004−043749号)している。本発明においても、ハイドロゲル中で微粒子から活性物質が放出された場合、放出された活性物質はそれ自体がハイドロゲル中を拡散する過程を経て本発明の徐放性組成物から放出されることになる。
【0131】
また、本発明の活性物質を含む微粒子を含む徐放性組成物中に、予め活性物質を微粒子に担持させずに、活性物質単体で混合しておいても良い。この時、微粒子に担持された活性物質と担持されない活性物質は同一であっても、異なる活性物質であっても良い。この場合、通常は微粒子に担持されない活性物質が比較的早期に放出され、次いで微粒子に担持された活性物質が徐放される。従って、活性物質の放出量を初期と後期の2段階で制御したり、異なる活性物質を逐次的に作用させたりすることができる。
【0132】
本発明では更に、2)活性物質を含む微粒子のハイドロゲル中拡散過程を組み合わせることでより高度な活性物質の徐放制御が可能となる。具体的には、本発明の組成物をヒト生体に適用する態様においては、活性物質を含む微粒子の粒径を大きくすることで該微粒子の拡散速度を低下させることができる。あるいはハイドロゲル形成性高分子の濃度を高くすることで、生体温度(37℃)におけるハイドロゲル網目構造を緻密化して活性物質を含む微粒子の拡散速度を低下させることもできる。
【0133】
更に本発明では、3)活性物質を含む微粒子からの活性物質放出過程をも組み合わせることができる。一般にリポソーム製剤などの活性物質を含む微粒子は生体外では非常に安定で、保存中に活性物質が微粒子から放出されることはほとんどない。しかし、生体内では酵素等による作用で微粒子が分解され、含有されている活性物質が放出されてその生理活性機能が発揮される。また、本発明のハイドロゲル中では、通常安定な微粒子がハイドロゲル形成性高分子との相互作用によって含有する活性物質を放出する場合もある。これは本発明のハイドロゲル形成性高分子が比較的疎水性の高い高分子ブロック(曇点を有する高分子ブロック)から構成されているためである。
【0134】
本発明において使用可能なリポソームや高分子ミセルあるいはリピッドスフェアーなどの微粒子は主として疎水相互作用によってその微粒子構造が形成されている。そのため、比較的疎水性の高い高分子ブロックを有する本発明のハイドロゲル形成性高分子との疎水相互作用によってその微粒子構造が影響を受け、微粒子に含有されている活性物質が微粒子から徐々に放出されるものと考えられる。
【0135】
例えば活性物質を含む微粒子として多重層リポソームを利用した場合、リポソームのリン脂質2重層膜はハイドロゲル形成性高分子と接触する最外層から順に内層側へ影響を受ける。従って最外層に含まれる活性物質が最初に放出され、次第に内層側に含まれる活性物質が順に放出されることになるので、高度に制御された活性物質の徐放プロファイルを設計することが可能である。
【0136】
また、微粒子の粒径によってもその安定性に違いがあることが予想される。従って、活性物質を含む微粒子の粒度分布を調整することによって活性物質の徐放プロファイルを設計することが可能である。
【0137】
本発明の徐放性組成物において、上記の3)活性物質を含む微粒子からの活性物質放出過程を主として利用する場合、活性物質を含む微粒子は本発明の徐放性組成物内で実質的に拡散しないことが好ましい。
【0138】
更に本発明では、本発明の徐放性組成物からの活性物質の放出制御に、4)ハイドロゲルの崩壊過程を組み合わせることもできる。本発明のハイドロゲルは生体内(血管内、腹腔内、皮下、創面上など)等の対象内における分解速度を制御することが可能である。
これはハイドロゲルを形成する物理的な相互作用力(疎水相互作用、静電的相互作用、水素結合、結晶構造など)が対象成分によって影響を受けてハイドロゲルの構造を崩壊させるためである。たとえば、疎水相互作用による架橋によってハイドロゲルが形成されている本発明のハイドロゲルを対象内に置いた時、対象内の両親媒性物質(例えば生体中のリン脂質)などがハイドロゲル形成性高分子の疎水性部分に吸着しハイドロゲル形成性高分子間の疎水相互作用を弱める結果、ハイドロゲルの架橋構造が破壊されてハイドロゲルが分解する。
また、対象内における化学的な反応によって本発明のハイドロゲルの分解速度を制御することも可能である。これはハイドロゲル形成性の高分子が、加水分解反応、酸化反応等によって分解可能なためである。例えば生体内では、酵素によって加水分解反応や酸化反応が更に加速され、ハイドロゲルの崩壊が促進される。加水分解反応を受け易くするには、例えばハイドロゲル形成性の高分子がエステル結合を含むものを好適に用いることができる。具体的にはポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリエステルを部分的に含むハイドロゲル形成性の高分子を好適に用いることができる。また、酸化分解反応を受け易くするには、例えばハイドロゲル形成性の高分子がエーテル結合を含むものを好適に用いることができる。具体的にはポリエチレングリコールのようなポリエーテルを部分的に含むハイドロゲル形成性の高分子を好適に用いることができる。
【0139】
本発明のハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度を低下させると、ハイドロゲルは生体内での崩壊速度が低下し、ゾル−ゲル転移温度を上昇させると生体内でのハイドロゲルの崩壊が速くなる。また、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成性高分子の濃度を高くするとハイドロゲルは生体内で長期間残存するようになり、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成性高分子の濃度を低くすると、生体内でハイドロゲルの消失が速くなる。
【0140】
本発明のハイドロゲルでは、本発明のハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度を低下させると、生体温度(37℃)におけるハイドロゲルの貯蔵弾性率(G’)が上昇する。また、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成性高分子の濃度を高くすると、生体温度(37℃)におけるハイドロゲルの貯蔵弾性率(G’)が上昇する。すなわち、生体内での崩壊速度を制御するためには、37℃におけるG’を制御すれば良い。
【0141】
このG’の測定測定に際しては、下記の測定条件が好適に使用可能である。
<動的・損失弾性率の測定条件>
測定機器(商品名):ストレス制御式レオメーターAR500、TAインスツルメンツ社製
試料溶液の量:約0.8 g
測定用セルの形状・寸法:アクリル製平行円盤(直径4.0cm)、ギャップ600μm、
測定周波数:1Hz
適用ストレス:線形領域内。
【0142】
本発明のハイドロゲルの生体内での残存期間とG’の関係は生体内の部位によっても異なるので一概には言えないが、例えば腹腔内での崩壊期間と、観測周波数1HzでのG’の関係は、本発明者らの知見によれば、以下の通りである。
【0143】
すなわち、3日以内に消失させるためのG’の望ましい範囲は10〜500Pa、3日以上残存し14日以内にさせるためのG’の望ましい範囲は200〜1500Pa、14日以上残存させるためのG’の望ましい範囲は400〜10000Paである。
【実施例】
【0144】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は特許請求の範囲により限定されるものであり、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0145】
製造例1
ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド共重合体(プロピレンオキサイド/エチレンオキサイド平均重合度約60/180、旭電化工業(株)製:プルロニックF−127)10gを乾燥クロロホルム30mlに溶解し、五酸化リン共存下、ヘキサメチレンジイソシアネート0.13gを加え、沸点還流下に6時間反応させた。溶媒を減圧留去後、残さを蒸留水に溶解し、分画分子量3万の限外濾過膜(アミコンPM−30)を用いて限外濾過を行い、高分子量重合体と低分子量重合体を分画した。得られた水溶液を凍結して、F−127高重合体およびF−127低重合体を得た。
【0146】
上記により得たF−127高重合体(本発明のハイドロゲル形成性高分子、TGP−1)を、氷冷下、8質量%の濃度で蒸留水に溶解した。この水溶液をゆるやかに加温していくと、21℃から徐々に粘度が上昇し、約27℃で固化して、ハイドロゲルとなった。このハイドロゲルを冷却すると、21℃で水溶液に戻った。この変化は、可逆的に繰り返し観測された。一方、上記F−127低重合体を、氷点下8質量%の濃度で蒸留水に溶解したものは、60℃以上に加熱しても全くゲル化しなかった。
【0147】
製造例2
トリメチロールプロパン1モルに対し、エチレンオキサイド160モルをカチオン重合により付加して、平均分子量約7000のポリエチレンオキサイドトリオールを得た。
【0148】
上記により得たポリエチレンオキサイドトリオール100gを蒸留水1000mlに溶解した後、室温で過マンガン酸カリウム12gを徐々に加えて、そのまま約1時間、酸化反応させた。固形物を濾過により除いた後、生成物をクロロホルムで抽出し、溶媒(クロロホルム)を減圧留去してポリエチレンオキサイドトリカルボキシル体90gを得た。
【0149】
上記により得たポリエチレンオキサイドトリカルボキシル体10gと、ポリプロピレンオキサイドジアミノ体(プロピレンオキサイド平均重合度約65、米国ジェファーソンケミカル社製、商品名:ジェファーミンD−4000、曇点:約9℃)10gとを四塩化炭素1000mlに溶解し、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.2gを加えた後、沸点還流下に6時間反応させた。反応液を冷却し、固形物を濾過により除いた後、溶媒(四塩化炭素)を減圧留去し、残さを真空乾燥して、複数のポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとが結合した本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−2)を得た。これを氷冷下、5質量%の濃度で蒸留水に溶解し、そのゾル−ゲル転移温度を測定したところ、約16℃であった。
【0150】
製造例3
N−イソプロピルアクリルアミド(イーストマンコダック社製)96g、N−アクリロキシスクシンイミド(国産化学(株)製)17g、およびn−ブチルメタクリレート(関東化学(株)製)7gをクロロホルム4000mlに溶解し、窒素置換後、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル1.5gを加え、60℃で6時間重合させた。反応液を濃縮した後、ジエチルエーテルに再沈(再沈殿)した。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、78gのポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)を得た。
【0151】
上記により得たポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)に、過剰のイソプロピルアミンを加えてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)を得た。このポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)の水溶液の曇点は19℃であった。
【0152】
前記のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N−アクリロキシスクシンイミド−コ−n−ブチルメタクリレート)10g、および両末端アミノ化ポリエチレンオキサイド(分子量6,000、川研ファインケミカル(株)製)5gをクロロホルム1000mlに溶解し、50℃で3時間反応させた。室温まで冷却した後、イソプロピルアミン1gを加え、1時間放置した後、反応液を濃縮し、残渣をジエチルエーテル中に沈澱させた。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、複数のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−n−ブチルメタクリレート)とポリエチレンオキサイドとが結合した本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−3)を得た。
【0153】
このようにして得たTGP−3を氷冷下、5質量%の濃度で蒸留水に溶解し、そのゾル−ゲル転移温度を測定したところ、約21℃であった。
【0154】
製造例4
(滅菌方法)
上記した本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−3)の2.0gを、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌バッグ(ホギメディカル社製、商品名:ハイブリッド滅菌バッグ)に入れ、EOG滅菌装置(イージーパック、井内盛栄堂製)でEOGをバッグに充填し、室温にて一昼夜放置した。更に40℃で半日放置した後、EOGをバッグから抜き、エアレーションを行った。バッグを真空乾燥器(40℃)に入れ、時々エアレーションしながら半日放置することにより滅菌した。
【0155】
この滅菌操作により高分子のゾル−ゲル転移温度が変化しないことを、別途確認した。
製造例5
N−イソプロピルアクリルアミド37gと、n−ブチルメタクリレート3gと、ポリエチレンオキサイドモノアクリレート(分子量4,000、日本油脂(株)製:PME−4000)28gとを、ベンゼン340mlに溶解した後、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル0.8gを加え、60℃で6時間反応させた。得られた反応生成物にクロロホルム600mlを加えて溶解し、該溶液をエーテル20L(リットル)に滴下して沈澱させた。得られた沈殿を濾過により回収し、該沈澱を約40℃で24時間真空乾燥した後、蒸留水6Lに再び溶解し、分画分子量10万のホローファイバー型限外濾過膜(アミコン社製H1P100−43)を用いて10℃で2lまで濃縮した。該濃縮液に蒸留水4lを加えて希釈し、上記希釈操作を再度行った。上記の希釈、限外濾過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外濾過により濾過されなかったもの(限外濾過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−4)60gを得た。
【0156】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−4)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は25℃であった。
【0157】
製造例6
製造例3の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−3)を10質量%の濃度で蒸留水に溶解し、37℃におけるηを測定したところ、5.8×10 Pa・secであった。一方、寒天を2質量%の濃度で蒸留水に90℃で溶解して、10℃で1時間ゲル化させた後、37℃におけるηを測定したところ、そのηは機器の測定限界(1×10Pa・sec)を越えていた。
【0158】
製造例7
N−イソプロピルアクリルアミド71.0gおよびn−ブチルメタクリレート4.4gをエタノール1117gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)22.6gを水773gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.8mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液8mLを加え30分間攪拌反応させた。更にTEMED0.8mLと10%APS水溶液8mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を10℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
【0159】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−5)72gを得た。
【0160】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−5)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は20℃であった。
【0161】
製造例8
N−イソプロピルアクリルアミド42.0gおよびn−ブチルメタクリレート4.0gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)11.5gを水65.1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.4mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mLを加え30分間攪拌反応させた。更にTEMED0.4mLと10%APS水溶液4mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を5℃以下に冷却後、5℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて5℃で2Lまで濃縮した。
【0162】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−6)40gを得た。
【0163】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−6)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は7℃であった。
【0164】
製造例9
N−イソプロピルアクリルアミド45.5gおよびn−ブチルメタクリレート0.56gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂(株)製)11.5gを水65.1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.4mLと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mLを加え30分間攪拌反応させた。更にTEMED0.4mLと10%APS水溶液4mLを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を10℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
【0165】
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外ろ過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外ろ過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外ろ過によりろ過されなかったもの(限外ろ過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−7)22gを得た。
【0166】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(TGP−7)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解した。この水溶液のゾル−ゲル転移温度を測定したところ、該ゾル−ゲル転移温度は37℃であった。
【0167】
実施例1
製造例7、8,9で得られたハイドロゲル形成性高分子TGP−5,TGP−6,TGP−7それぞれを生理食塩水に溶解して10wt%の溶液を調製した。それぞれのゾル−ゲル転移温度を測定したところ、18℃(TGP−5)、5℃(TGP−6)、35℃(TGP−7)であった。各生理食塩水溶液をそのゾルーゲル転移温度以下に冷却して、1群10匹の6週齢のラット(雄5匹、雌5匹)の腹腔内に20mL/kgずつ投与した。
【0168】
投与法はラットの腹部を電気バリカンにて除毛し、消毒用エタノールにて投与部位を消毒した後、シリンジ及び留置針(22G)を用いて投与した。いずれの群も対照として生理食塩水を腹腔内に20mL/kgずつ投与した群と同等の体重増加を示し、7日間の観察期間中異常な所見は全く認められなかった。投与後7日目にエーテル麻酔下で放血致死させ、すべての器官および組織について異常の有無とともに、腹腔内のハイドロゲル(本発明の再生用材料)の残存を検査した。いずれの群もすべての器官および組織について異常は全く認められなかった。TGP−5およびTGP−6については腹腔内にハイドロゲルの残存を認めたが、ゾル−ゲル転移温度が35℃と高いTGP−7については投与後7日目に腹腔内にハイドロゲルの残存を認めなかった。
【0169】
実施例2
製造例7,8で得られたハイドロゲル形成性高分子TGP−5,TGP−6それぞれを生理食塩水に溶解して10wt%の溶液を調製した。各生理食塩水溶液をそのゾル−ゲル転移温度以下に冷却して、ラットの背部皮下に1mLずつ注入した。投与法はラットの背部を電気バリカンにて除毛し、消毒用エタノールにて投与部位を消毒した後、シリンジ及び留置針(22G)を用いて投与した。
【0170】
ゾル−ゲル転移温度が18℃のTGP−5は投与23日目にラット皮下から消失しており、肉眼的にその残存を認めなかった。一方、ゾル−ゲル転移温度が5℃のTGP−6は投与37日目に剖検したところ、その残存を肉眼的に認め、HE染色組織像でも周囲組織に異物反応等の異常所見は認められなかった。
【0171】
実施例3
製造例7で得られたハイドロゲル形成性高分子TGP−5を生理食塩水に溶解して高分子濃度10質量%(wt%)、8質量%(wt%)、6質量%(wt%)の溶液を調製した。それぞれのゾル−ゲル転移温度を測定したところ、それぞれ18℃、20℃、22℃であった。各生理食塩水溶液をそのゾル−ゲル転移温度以下に冷却して、1群10匹の6週齢のラット(雄5匹、雌5匹)の腹腔内に1mL/kgずつ投与した。投与法はラットの腹部を電気バリカンにて除毛し、消毒用エタノールにて投与部位を消毒した後、シリンジ及び留置針(22G)を用いて投与した。投与後1日目、3日目、7日目、14日目、21日目に各群2匹(雄1匹、雌1匹)をエーテル麻酔下で放血致死させ、腹腔内のハイドロゲルの残存を検査した。高分子濃度6質量%(wt%)のハイドロゲルは投与後3日目に腹腔内から消失、高分子濃度8質量%(wt%)のハイドロゲルは投与後14日目に腹腔内から消失、高分子濃度10質量%(wt%)のハイドロゲルは投与後21日目に腹腔内から消失した。
【0172】
実施例4
1gのTGP−5を4gの5%ブドウ糖注射液に氷冷下で溶解し、20wt%のTGP−5水溶液を調製した。この20wt%のTGP−5水溶液2gと塩酸ドキソルビシン(doxorubicin HCl、DOX)を内包したリポソーム製剤(Doxil(登録商標)、DOX濃度:2mg/ml、Ortho Biotech Products L. P.,USA) 2gとを氷冷下で混合し、活性物質として抗癌剤であるDOXを含有する微粒子(リポソーム)を含む本発明の徐放性組成物Iを得た(TGP−5濃度10wt%、DOX濃度1mg/ml)。本発明の徐放性組成物Iの0.8gを氷冷下液体状態で孔径8μmのポリカーボネート膜(直径24mm)を底面とする6well細胞培養用インサート(Transwell(登録商標)3428、Cornig Inc. USA)上に注入し、37℃に昇温して直径24mm(面積4.52cm)、厚さ1.77mmの円盤状ハイドロゲルとした。6well細胞培養用プレートの1wellに3mlの生理食塩水を入れ、37℃で上記の円盤状ハイドロゲルが底面に置かれた細胞培養用インサートを挿入した。
【0173】
37℃で振とうしながら、所定時間ごとにwell中の3mlの生理食塩水を全量採取し、新たに37℃の生理食塩水を入れた。採取された生理食塩水中のDOX濃度を480nmの吸光度測定により求め、所定時間までの累計溶出率(Mt/M∞)を表1〜3に示した。実験は3回行い、その平均値と標準偏差をあわせて示した。表1〜3の結果を図1および図2のグラフに示す。
【0174】
【表1】

【0175】
【表2】

【0176】
【表3】

【0177】
図1に示すように、本発明の徐放性組成物からの活性物質徐放は5日目以降27日目までほぼ一定の速度で徐放されていることが分かる。これは薬物の徐放特性として理想的な0次放出(薬物の放出速度が一定)となっていることを示している。また、横軸を経過時間(秒)の平方根としたプロット(図2)では、Mt/M∞=(Dt/π)1/2×4/L (1)式の比例関係にならず、本発明の徐放性組成物からの活性物質徐放は、DOXのハイドロゲル中における単純な拡散現象による放出ではないことが明らかである。27日間でDOX含有量の約50%が放出され、極めて長期間に亘って活性物質の徐放が持続することが確認された。
【0178】
比較例1
塩酸ドキソルビシンの凍結乾燥製剤(DOX10mg含有)を10mlの5%ブドウ糖注射液に室温で溶解し、その9gを1gのTGP−5に加えて氷冷下で溶解した(TGP−5濃度10wt%、DOX濃度1mg/ml)。この溶液0.844gを氷冷下液体状態で孔径8μmのポリカーボネート膜(直径24mm)を底面とする6well細胞培養用インサート(Transwell(登録商標)3428、Cornig Inc. USA)上に注入し、37℃に昇温して直径24mm(面積4.52cm)、厚さ1.87mmの円盤状ハイドロゲルとした。6well細胞培養用プレートの1wellに3mlの生理食塩水を入れ、37℃で上記の円盤状ハイドロゲルが底面に置かれた細胞培養用インサートを挿入した。37℃で振とうしながら、所定時間ごとにwell中の3mlの生理食塩水を全量採取し、新たに37℃の生理食塩水を入れた。採取された生理食塩水中のDOX濃度を480nmの吸光度測定により求め、所定時間までの累計溶出率(Mt/M∞)を表4〜5、および図3に示した。溶出率は12時間で90%を超えてしまった。
【0179】
【表4】

【0180】
【表5】

【0181】
表4〜5の結果から、累積溶出率60%までの範囲で溶出時間t1/2と累計溶出率(Mt/M∞)をプロットし、y=axの一次関数として最小二乗法近似すると、図4に示す直線(y=0.006x)が得られ、相関係数Rは0.9939であった。すなわち、Mt/M∞=(Dt/π)1/2×4/L (1)式の関係が成立しており、DOXの溶出はゲル中のDOX分子の拡散現象のみに依存していることが明らかである。ここで、ゲルの片側のみからの溶出であることを考慮して、L=0.187x2=0.373cmとして、ゲル中のDOX分子の拡散係数Dを求めると、D=9.8x10−7(cm/sec)と算出できた。
【0182】
実施例5
1gのTGP−5を4gの5%ブドウ糖注射液に氷冷下で溶解し、20wt%のTGP−5水溶液を調製した。この20wt%のTGP−5水溶液2gと塩酸ドキソルビシン(doxorubicin HCl、DOX)を内包したリポソーム製剤(Doxil(登録商標)、DOX濃度:2mg/ml、Ortho Biotech Products L. P.,USA) 2gとを氷冷下で混合し、活性物質として抗癌剤であるDOXを含有する微粒子(リポソーム)を含む本発明の徐放性組成物Iを得た(TGP−5濃度10wt%、DOX濃度1mg/ml)。本発明の徐放性組成物Iの0.1gを氷冷下液体状態でヌードマウスの皮下に注入した。25日目に剖検したところ、本発明の徐放性組成物がオレンジ色の状態で残存しており、DOXが本発明の徐放性組成物内に残存していることが確認された。
【0183】
比較例2
塩酸ドキソルビシンの凍結乾燥製剤(DOX10mg含有)を10mlの5%ブドウ糖注射液に室温で溶解し、その9gを1gのTGP−5に加えて氷冷下で溶解した(TGP−5濃度10wt%、DOX濃度1mg/ml)。この溶液0.1gを氷冷下液体状態でヌードマウスの皮下に注入した。7日目に剖検したところ、ハイドロゲルが完全に透明な状態で残存しており、DOXは7日以内に全て放出されてしまっていることが確認された。
参考例1
塩酸ドキソルビシン(doxorubicin HCL、DOX)を内包したリポソーム製剤(Doxil(登録商標)、DOX濃度:2mg/ml、Ortho Biotech Products L. P.,USA)を5%ブドウ糖注射液で30倍に希釈して可視光吸収スペクトルを測定したところ、極大吸収波長は496nm、吸光度は0.948であった。この溶液3mLに濃度10wt%のTriton X100水溶液を0.1mL添加してリポソームを破壊し、再度可視光吸収スペクトルを測定したところ、極大吸収波長は480nm、吸光度は1.301であった。すなわち、DOXは遊離状態とリポソームに内包された状態とでは可視光吸収スペクトルに違いがあり、可視光吸収スペクトルの測定によりDOXがリポソームに内包された状態かリポソームから溶出した状態かを判別できる。
参考例2
塩酸ドキソルビシン(doxorubicin HCL、DOX)を内包したリポソーム製剤(Doxil(登録商標)、DOX濃度:2mg/ml、Ortho Biotech Products L. P.,USA)0.8mLを分画分子量1万の限外ろ過膜(ミリポア社製)でろ過したろ液0.1mLを採取し、5%ブドウ糖注射液で30倍に希釈して可視光吸収スペクトルを測定したところ、極大吸収波長は480nm、吸光度は0.012であった。すなわち、上記リポソーム製剤Doxilにおいてリポソーム外に存在するDOXは0.9%であり、99%以上がリポソームに内包されていることが確認された。
次に、上記リポソーム製剤Doxilを37℃で22日間静置した後、その0.8mLを分画分子量1万の限外ろ過膜(ミリポア社製)でろ過したろ液0.1mLを採取し、5%ブドウ糖注射液で30倍に希釈して可視光吸収スペクトルを測定したところ、極大吸収波長は480nm、吸光度は0.017であった。従って、37℃で22日間静置したことによってリポソームから溶出したDOXはリポソームに内包されているDOXのうち僅か0.4%にすぎない。
一方、驚くべきことに実施例4で示した本発明の徐放性組成物では37℃で22日間静置したことにより、約44%のDOXを放出させることができた。この意外な効果は本発明の徐放性組成物において、ハイドロゲル形成性高分子と、活性物質を含有する微粒子との相互作用が存在することによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明のDOX含有リポソームを含むハイドロゲルからのDOX徐放挙動(横軸は経過日数)を示すグラフである。
【図2】本発明のDOX含有リポソームを含むハイドロゲルからのDOX徐放挙動(横軸は経過秒数の平方根)を示すグラフである。
【図3】DOX含有ハイドロゲルからのDOX徐放(横軸は経過時間(時間))を示すグラフである。
【図4】DOX含有ハイドロゲルからのDOX徐放(横軸は経過秒数の平方根)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲルを形成可能なハイドロゲル形成性高分子と;
分散液体と;
活性物質を含む微粒子とを少なくとも含み;
前記ゾル−ゲル転移温度より低温では流動性のゾル状態となり、且つゾル−ゲル転移温度より高温では可逆的にハイドロゲル状態となることを特徴とする徐放性組成物。
【請求項2】
前記微粒子がそれ自体で活性物質の徐放性を発現可能な微粒子である請求項1に記載の徐放性組成物。
【請求項3】
前記ゾル−ゲル転移温度が0℃以上37℃以下の範囲にある請求項1または2に記載の徐放性組成物。
【請求項4】
前記活性物質が生理活性物質である請求項1〜3のいずれかに記載の徐放性組成物。
【請求項5】
ハイドロゲル状態では実質的に水不溶性である請求項1〜4のいずれかに記載の徐放性組成物。
【請求項6】
前記微粒子の粒径が1nm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の徐放性組成物。
【請求項7】
前記微粒子がリポソーム、デンドリマー、脂肪製剤、マイクロカプセル、マイクロスフェアー、高分子ミセルから成る群より選ばれる請求項1〜6のいずれかにに記載の徐放性組成物。
【請求項8】
前記微粒子がリポソームである請求項7に記載の徐放性組成物。
【請求項9】
前記生理活性物質が抗癌剤、抗生物質、成長因子、免疫増強剤、免疫抑制剤、抗血栓剤から成る群より選ばれる請求項4に記載の徐放性組成物。
【請求項10】
ゾル−ゲル転移温度を有するハイドロゲルを形成可能なハイドロゲル形成性高分子と;分散液体と;活性物質を含む微粒子とを少なくとも含み;前記ゾル−ゲル転移温度より低温では流動性のゾル状態となり、且つゾル−ゲル転移温度より高温では可逆的にハイドロゲル状態となる徐放性組成物を用い、
該徐放性組成物を流動性のあるゾル−ゲル転移温度より低温で、徐放性を発現させるべき適用部位に配置し、
ゾル−ゲル転移温度より高温でゲル化させることにより、該活性物質を徐放性組成物から徐放させることを特徴とする徐放方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−111585(P2006−111585A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301772(P2004−301772)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【出願人】(395024506)
【Fターム(参考)】