説明

徐放性防獣鳥物質及びその利用製品

【課題】 鹿などの野生動物を、持続的に有効に忌避排除し、かつ撒く時点での刺激臭が少ない、防獣鳥物質の提供、また該物質を混合した防草シートなどの加工製品を提供する。
【解決手段】 猛獣の糞抽出分または分離分を多孔質の担持体に吸着せしめた徐放性防獣鳥物質、好ましくは、多孔質の担持体が、木粉、木材チップ、シリカ又はゼオライトであり、また多孔質の担持体として、2種類以上の徐放性の異なる多孔質担持体を混合して用いることを好ましい特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鹿、鼠、リス、ウサギ、鳥、サルなどの農林業に害を与える野生動物を忌避、排除するために用いる徐放性の防獣鳥物質、及びその利用製品に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、鹿、鼠、リス、ウサギ、鳥、サルなどの野生動物が、畑や田んぼの農作物や、植樹のための苗木を食い荒らす食害が、深刻な問題となっている。例えば山林の保全のために植樹した杉やヒノキの苗木は植樹しても急増する鹿により全滅し、露出した土面は降雨のために侵食されて土砂災害の原因となっている。
一方、高速道路や、鉄道線路などにおいても、鹿などの野生動物が出現し起こす衝突事故が近年多発しており、事故処理に労力がかかるうえに、列車遅延等の原因になっており、益々問題となっている。
近年、その解決案の一つとして、ライオン等の猛獣の糞の匂いが鹿等を寄せ付けない効果があることが見出されてきており、例えば水に溶かしたライオン糞を、線路沿いにじょうろで散布する方法が実際にJRなどで行われ、その他、乾燥したライオン糞や水に溶かしたものを樹木に塗布又は農作物周囲に散布する方法など(特許文献1)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−191868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの水に溶かした糞を撒く方法では、短期間でライオン糞の効果が散逸して、持続性に欠けるという問題や、撒く時点での刺激臭がきつく、民家の近くでは実施しづらい等の問題があった。また、糞乾燥物などでは、シートなどの加工品を製造しにくいという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、かかる課題を、(1)猛獣の糞抽出分または分離分を多孔質の徐放性物質に吸着せしめた徐放性防獣鳥物質とすることにより解決するものである。本発明の要旨は、更に好ましくは、(2)多孔質の担持体が、木粉、木材チップ、シリカ又はゼオライトである徐放性防獣鳥物質、(3)多孔質の担持体として、2種類以上の徐放性の異なる多孔質担持体を混合して用いることを特徴とする徐放性防獣鳥物質、(4)上記徐放性防獣鳥物質を塗料に混合してなる防獣鳥塗料、(5)上記徐放性防獣鳥物質と樹脂を混合し成形してなる防獣鳥成形体、(6)該樹脂が生分解性樹脂である(5)記載の防獣鳥成形体、(7)上記の徐放性防獣鳥物質と樹脂を混合し、シート状に成形してなる防獣鳥シート、(8)上記徐放性防獣鳥物質と石油ロウを混合し成形してなる防獣鳥成形体、に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
1)この物質を農作物の周囲や、線路道路の周囲等に配置することにより、容易に散逸することなく、持続性良く、野生動物を忌避、排除することが出来る。
2)特にひのき、ひば、楠の木粉や木材チップ等を多孔質担持体として用いると、糞由来の刺激臭を緩和することが出来る。
3)特に、多孔質担持体として、自然崩壊性の木質の木粉や木材チップ、自然界に通常存する無機質成分由来の粉体を用いることにより、自然界への悪影響を与えることがない。
4)特に、徐放性の異なる2種類以上の多孔質担持体を混合することにより、初期から長
期にわたって、徐々に効果を放出し、より効果を安定的に維持することができる。
5)粉体またはチップ状の徐放性防獣物質とすることにより、樹脂等との混合が容易となり、防獣鳥杭や防獣鳥シート、防獣鳥短冊などの、応用成形品を製造することが出来る。
6)この物質を樹脂と混ぜ合わせて塗膜が出来る塗料とすることにより、木等に塗布、噴霧することにより、鹿等の野生動物が木皮を食べない。
7)この物質を樹脂と混ぜ合わせて棒状などの成形体とし、防獣杭として農作物や線路の周囲等を柵で覆うと、野生動物の侵入を防ぐことができる。
8)この物質を樹脂と混ぜ合わせてシート状とし、木に巻くと鹿等が木皮を食べない。また、防草シートとして木の根元に敷くと雑草を防止しかつ食害を防止できるため、苗木の育成が保護される。
9)この物質を石油ロウと混ぜ合わせて粒体状、固形物状または短冊状の成形体とし、農作物や木、線路道路の周囲等に配置することにより野生動物を忌避、排除することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
本発明において、猛獣とは、ライオン、虎、豹、熊などの肉食獣を意味し、主に草食動物である鹿、サル、ウサギ、鼠、リス、鳩等の野生の動物(獣鳥)が恐れる動物を意味する。特にライオンなどの猫科の猛獣が好ましい。
猛獣の糞とは、猛獣の排泄物である糞、尿、又はその乾燥物や加工物を意味し、動物園などから入手することができる。猛獣の糞の抽出分とは、例えば水等の適宜溶媒を用いて糞から得られた抽出分を意味し、好ましくは水抽出分である。また、猛獣の糞の分離分とは、前記抽出分と異なる方法で猛獣糞から取り出された物質であって、獣鳥忌避成分を含むものである。本発明でいう猛獣の糞抽出分または分離分とは、猛獣の糞そのものから抽出または分離して得られた獣鳥忌避成分を含む成分だけでなく、猛獣の糞抽出分または分離分のうち野生動物が忌避する成分を別途合成して得た成分であってもよい。
【0008】
本発明の多孔質の担持体とは、例えば木粉、木材チップ、シリカ、ゼオライト、活性炭、ヤシガラなどの、有機質又は無機質の物質であって、多数の微小な孔を少なくとも表面に有する物質であり、他物質を吸着する性質(吸着性)とその吸着物質を徐放する性質(徐放性)を兼ね備えたものである。
好ましくは、粉体が好ましく、例えば5メッシュ〜200メッシュ程度の粒径の粉体を用いることができる。
中でも木粉または木材チップ、好ましくはひのき、ひば、楠等の香りを有する木由来の木粉または木材チップを用いると、猛獣の糞由来の匂いを緩和する良好な香りを有するため、好適である。また有機質由来の多孔質担持体は、緩やかな生分解性も有するために、広範囲の自然界に散布する防獣鳥物質として好適である。
【0009】
その他、無機質由来のシリカやゼオライト、特に微細な多孔質を有することを特徴とするメソポーラスシリカを用いると、その多孔質の程度により任意の徐放性を達成できるため、好適である。また、シリカやゼオライト等の、通常の自然環境下に存在する無機成分由来の無機質多孔質体を用いると、自然環境を破壊することがない。
【0010】
本発明のより好適な態様として、多孔質の担持体として、徐放性の異なる2種以上の他孔質担持体を混合または併用することが挙げられる。徐放性の異なるものとは、例えば木粉、シリカ、活性炭などの材料種の違うものや、同種であっても、粒径やポーラス体積、製法の違いにより吸着性と放出性のバランスが異なるものを用いればよい。
例えば、シリカ粉、木粉、活性炭を混合することにより、初期にはシリカから成分が放出され、次に木粉、長期的には活性炭から成分が放出されることとなり、本発明の持続的な効果をより発揮することが可能となる。
【0011】
本発明の徐放性防獣鳥物質は、猛獣の糞抽出分または分離分を多孔質の担持体に吸着せしめた徐放性物質であり、例えば猛獣の糞抽出分を多孔質の担持体に吸着せしめた徐放性物質は以下のような製法により製造できる。
糞を溶媒(好ましくは水)に溶かし、スラッジ状にする。この糞と溶媒とを混ぜた溶液に、木粉などの多孔質の担持体を混ぜ、抽出成分を吸着させる。その後多孔質の担持体を取り出し、風乾等で乾燥させると、本発明の徐放性防獣鳥物質が得られる。
例えば糞抽出分または分離分の多孔質の担持体への吸着量は、その担持体の種類や用途目的によっても種々異なるが、例えば糞換算量/多孔質担持体量として0.01mg/1g〜0.1g/1g程度の範囲とすることができる。
【0012】
本発明では、更に上記の多孔質担持体に吸着した徐放性防獣鳥物質を利用することにより、種々の用途製品を製造することが可能となる。
一つは、本発明の徐放性防獣鳥物質を、例えば、適宜孔があいた水の入らない容器等(例えば側面に孔があいたプラスチック容器)に入れた、徐放性防獣鳥器であり、この器を、農園、森林、田畑、家廻り、屋根裏等に設置したり、携帯に持ち歩いたりすることにより、容易に野生動物を忌避排除することができる。また、蚊取り線香などの燻蒸装置に混合して使用することもできる。
他には、上記徐放性防獣鳥物質を任意の塗料に混合した防獣鳥塗料であり、例えば糞抽出分を吸着した木粉を、水系の塗料に含有してスプレー塗料にしたり、水系や溶剤系の塗料、バインダー樹脂と混合して塗布用塗料とすることが可能である。
このような塗料からは、野生の動物を忌避排除する成分が持続的に徐放的に放出されるため、木や植物に直接スプレー、塗布することや、農作物保護用や線路・道路脇の侵入防止用の柵やネット等の防護体に、スプレーや、塗布することが出来る。特に本発明の防獣鳥塗料は、生物由来の糞抽出分と、木粉、木材チップやシリカ、ゼオライトなどの自然界由来の有機質又は無機質成分で構成されるために、人体や環境に悪影響を与えることがない。
【0013】
他の用途製品としては、上記徐放性防獣鳥物質と樹脂を混合し成形してなる防獣鳥成形体がある。樹脂としては、糊作用を有する結着剤として少量用いてもよいし、樹脂を主成分として用いてもよいが、例えばかかる成形体を棒状に成形した防獣鳥杭や、かかる樹脂と物質の混合組成物を成形してネット状に加工した防獣鳥ネット、該混合組成物を成形して短冊状にした防獣鳥短冊等が挙げられる。
【0014】
また、他の有用な用途製品としては、樹脂と物質を混合してシート状に成形した防獣鳥シート、特に好ましくは、農業用フィルムや、防草効果も併用した防草シート、樹木を保護するための木保護シートなどが挙げられる。
【0015】
更に、上記樹脂として、塩化ビニル系樹脂やポリエチレン系樹脂などの汎用樹脂を用いることもできるが、好ましくは、生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸系、サクシネート系、ポリカプロラクトン系、脂肪族−芳香族系のポリエステル系生分解性樹脂や、ポリビニルアルコール系樹脂などを使用することも好適な態様として挙げられる。
【0016】
例えば、防草シートとしては、ポリエステル系生分解性樹脂30〜80重量部に、本発明の猛獣の糞抽出分または分離分を吸着せしめた多孔質の担持体である木粉を70〜20重量部混合し、シート状に成形した防草シートを作成することができる。このような防草シートを、植樹林の苗木育成保護のために用いれば、苗木の育成を妨害する雑草の繁殖を防ぐ防草効果とともに、鹿などによる食害を防ぐことができ、より効果的である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
<徐放性防獣鳥物質の作成>
ライオン糞20g(内、実質溶解量は5.2g)を水1リットルに溶かした液を濾紙で濾過した後、下記の多孔質の担持体に混合し、風乾して、糞抽出分を吸着した徐放性防獣鳥物質を得た。
サンプルA:木粉1kg(常陸化工社製 粒径:60メッシュ ひのきオガクズ由来)
サンプルB:メソポーラスシリカ
サンプルC:活性炭
<サンプル結果>
特に得られたサンプルAは、ひのき木粉の香りにより、ライオン糞の臭いがマスキングされているためか、ひのき木粉の香りはあるものの、人間が気になる悪臭は感知されなかった。
これらサンプルは、通常の木粉、シリカ、活性炭と同等の取扱い性を有するため、例えば木粉入り樹脂コンパウンド、木粉入り樹脂シート等の材料に用いることができる。
【0018】
<鹿の忌避排除効果試験>
ライオン糞の水抽出分の濃度による鹿等の忌避排除効果を確認するため以下の実験を行った。
a)ライオン糞1g(内、実質溶解量は0.5g)を100mlの水に溶かしたもの(濃度=糞換算の糞抽出分5mg/液1g)
b)a)を10倍希釈したもの (濃度=0.5mg/液1g)
c)a)を100倍希釈したもの(濃度=0.05mg/液1g)
の3種類の水抽出分を用意した。
なお、a)の液濃度は、上記サンプルAにおける糞抽出分濃度(5.2mg/木粉1g)とほぼ同じである。
鹿が多数集まる公園において、3種類の各濃度の水抽出分の液2gを用意し、鹿の反応行動を観察した。その結果、a)、b)、c)のいずれとも、鹿が近くに近寄ることはなく、鹿を排除する効果があったが、特にa)の効果が優れていた。また、鳩も近くに寄ることはなかったため、鳩を排除する効果もあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
猛獣の糞抽出分または分離分を多孔質の担持体に吸着せしめた徐放性防獣鳥物質。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質の担持体が、木粉、木材チップ、シリカ又はゼオライトである請求項1記載の徐放性防獣鳥物質。
【請求項3】
請求項1記載の多孔質の担持体として、2種類以上の徐放性の異なる多孔質担持体を混合して用いることを特徴とする請求項1又は2記載の徐放性防獣鳥物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の徐放性防獣鳥物質を塗料に混合してなる防獣鳥塗料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の徐放性防獣鳥物質と樹脂を混合し成形してなる防獣鳥成形体。
【請求項6】
該樹脂が生分解性樹脂である請求項5記載の防獣鳥成形体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の徐放性防獣鳥物質と樹脂を混合し、シート状に成形してなる防獣鳥シート。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の徐放性防獣鳥物質と石油ロウを混合し成形してなる防獣鳥成形体。

【公開番号】特開2006−104190(P2006−104190A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252991(P2005−252991)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】