説明

徐放性防錆材

【課題】鋼等の鉄製金属製品又は銅材等の非鉄金属製金属製品のような防錆すべき金属材に対して、その金属の種類に関わらず、少量の揮発性防錆有効成分で長期間に渡って充分に防錆性を発現し、併せて防腐性も発現して防錆性を助長でき、劣化・変質させず、特に非鉄金属の変色を誘発することなく、低臭であって安心して安定的かつ安全に、使用でき、揮発性防錆有効成分を、時間毎に一定量を徐々に放出でき、簡便に大量製造可能な簡易な構造の徐放性防錆材を提供する。
【解決手段】徐放性防錆材は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3‐メトキシプロピルアミン、及びアンモニアから選ばれる揮発性アミン化合物及び/又はその有機塩を含む防錆有効成分が、それのガス透過性樹脂で形成されたバッグに封入されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面が、錆びて腐食するのを、揮発性の防錆有効成分によって、防止しつつ、その防錆有効成分の付着によっても金属材表面を変色させない徐放性防錆材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品は、大気中の湿気・酸素・二酸化炭素等のせいで、その表面に酸化物類や、水酸化物又は炭酸塩等の塩類のような錆が生成され易く、さらに表面から内部に向かって腐食が進行して化学的に劣化し易いものである。
【0003】
このような錆の生成を防止するために、防錆剤を用いて金属製品に防錆処理が施される。防錆処理には、金属材に防錆剤を塗布又は噴霧して防錆剤中の被膜形成成分で油性被膜を形成し湿気等から隔離するものや、防錆剤中の揮発性防錆成分をガス化させ金属材の表面に付着させて被覆して湿気等から隔離するものがある。
【0004】
中でも、揮発性防錆成分を含有する防錆剤は、塗布や噴霧の手間が不要なことから、工業用部材や建材等の広範な金属製品に汎用されている。このような防錆剤中の揮発性防錆成分として、従来、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)のような亜硝酸塩類や、シクロヘキシルアンモニウム−N−シクロヘキシルカルバメート(CHC)が、使用されていた。
【0005】
しかし、DICHANを防錆成分として含有する防錆剤は、DICHANの揮発速度が遅いせいで、防錆成分を揮発可能な状態にした使用開始時点から、十分な防錆効果が発揮されるまでに、相当の時間を要する。
【0006】
一方、DIPANを防錆成分として含有する防錆剤は、DICHANの揮発速度よりもDIPANの揮発速度が速いので、使用開始後に金属材へ防錆成分が付着して速やかに十分な防錆効果を発揮する反面、防錆成分が揮発し易いせいで防錆効果が持続しないものである。しかもDIPANは大気中に長期間放置されると、その一部が発がん性物質であるジイソプロピル−N−ニトロソアミンに変質するため、このような防錆剤は、防錆処理作業者やその金属材使用者の健康の観点から、使用が敬遠されている。
【0007】
また、CHCを防錆成分として含有する防錆剤は、DIPANの揮発速度に比べてCHCの揮発速度の方がさらに速いので、使用開始直後に金属製品へ防錆成分が付着して極めて速やかに十分な防錆効果を発揮する反面、防錆効果がなお一層持続し難いものである。しかもCHCは、引火点が低いうえ、強い異臭がすることから、このような防錆剤は、使用場所や用途が極めて限定されてしまう。
【0008】
これらの防錆剤は、鋳鉄に対し防錆効果が低く、一方、非鉄金属に対し防錆効果が低いばかりか却って腐食性を示すものである。
【0009】
特許文献1に、防錆性、防食性を有するもので、アミン化合物を防錆成分として含有する水溶性金属加工油剤組成物が開示されている。
【0010】
また、特許文献2に、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの炭酸塩や、ヘキサメチレンジアミンの炭酸塩のような揮発性防錆成分を含んでいる防錆剤が、開示されている。
【0011】
従来の防錆剤は、揮発性防錆成分の揮発力がさほど強くないのでその成分を多量に必要とするため、高濃度の防錆成分が防錆すべき金属材に直接接触してしまうと変色を起こし易い。そこで、金属材の素材の如何を問わずその金属に変色等の悪影響を与えることなく、一層少量で低濃度でも防錆すべき各種金属材に対して優れた防錆性を発現し、長期間に渡って安定的に防錆効果を奏することができ、環境保全性や生態安全性を兼ね備える徐放性の防錆材が望まれていた。
【0012】
【特許文献1】特開2005−15617号公報
【特許文献2】特開2010−111934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、鋼・鋳鉄等の鉄製金属製品又は銅材・亜鉛材・アルミニウム材等の非鉄金属製金属製品のような防錆すべき金属材に対して、その金属の種類に関わらず、少量の揮発性防錆有効成分で長期間に渡って充分に防錆性を発現し、併せて防腐性も発現して防錆性を助長でき、劣化・変質させず、特に非鉄金属の変色を誘発することなく、低臭であって安心して安定的かつ安全に、使用でき、揮発性防錆有効成分を、時間毎に一定量を徐々に放出でき、簡便に大量製造可能な簡易な構造の徐放性防錆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の徐放性防錆材は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3‐メトキシプロピルアミン、及びアンモニアから選ばれる少なくとも何れかの遊離の揮発性アミン化合物及び/又はその有機塩を含む防錆有効成分が、それのガス透過性樹脂で形成されたバッグに封入されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の徐放性防錆材は、請求項1に記載されたもので、前記バッグが、ポリオレフィンフィルム、又は、織布、不織布若しくは紙を含有するポリオレフィンシートで形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の徐放性防錆材は、請求項1〜2の何れかに記載されたもので、前記防錆有効成分が、多孔質素材に含浸されつつ、前記封入されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の徐放性防錆材は、請求項3に記載されたもので、前記多孔質素材が、スポンジ、織布、不織布、紙、及びセラミックスから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の徐放性防錆材は、請求項1〜4の何れかに記載されたもので、前記バッグに、吸水性繊維及び吸水性ポリマーから選ばれる少なくとも何れかの吸水材が、封入されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の徐放性防錆材は、請求項5に記載されたもので、前記吸水材が、動物繊維、植物繊維、再生繊維及び合成繊維から選ばれる少なくとも何れかの前記吸水性繊維、又は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸共重合体、デンプン−アクリル酸塩共重合体、及びポリアミノ酸から選ばれる少なくとも何れかの前記吸水性ポリマーであることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の徐放性防錆材は、請求項5〜6の何れかに記載されたもので、前記防錆有効成分の100重量部に対し、前記吸水材が0.01〜95重量部であることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の徐放性防錆材は、請求項1〜7の何れかに記載されたもので、前記防錆有効成分と、非鉄用防錆成分とが、前記封入されていることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の徐放性防錆材は、請求項8に記載されたもので、前記非鉄用防錆成分が、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−フェニル−1Hテトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−1,2,3,4−テトラゾール、及び3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸から選ばれる少なくとも何れかのアゾール環含有化合物であって、その少なくとも一部と前記揮発性アミン化合物とで前記有機塩を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の徐放性防錆材は、鋼・鋳鉄等の鉄製金属製品、中でも特に鋳鉄製品、又は銅材・亜鉛材・アルミニウム材等の非鉄金属製金属製品のような防錆すべき金属材に対して、防錆有効成分である高気化能を有する揮発性アミン化合物を、防錆に必要な量の揮発ガスとして、ガス透過性バッグから、一定濃度で徐々に放出でき、長期間に渡って充分な防錆性を安定的に発現する。また、徐放性防錆材は、これら金属材に対して、防腐性も発現して防錆性を助長し、大気中の湿気・酸素・二酸化炭素等による劣化・変質を防止する。そのため、従来用いられていたアミン塩等からなる揮発性防錆成分を含むもので防錆効果の発現が速いほど持続性に劣る従来の防錆剤よりも、持続性の面で遥かに優れている。
【0024】
しかも、防錆有効成分は、少量でも優れた防錆性を発現でき、遊離であって造塩していないから揮発し易いため、この徐放性防錆材は、使用開始直後から、高い防錆効果を発現する。さらに、この徐放性防錆材は、ガス透過性バッグで放出速度を調整できるから、防錆有効成分が放出し尽くされるまで、無駄なく、高い防錆性を発現する。特に、防錆有効成分が多孔質素材に含浸されていると、揮発性がより適度となってより一層安定的に徐放されるよう制御されるので、徐放性防錆材の徐放性能が一層向上する。また、ガス透過性バッグに吸収材が封入されていると、防錆有効成分は、高湿環境下でも、高い防錆効果、さらに加えて防腐食効果を発揮する。
【0025】
さらに、遊離の液状のままである防錆有効成分が、透過性バッグに封入されているから、防錆すべき金属材に直接接触し得ず、揮発して希薄なガス状となってごく低濃度で漸くその金属材に接触するので、この徐放性防錆材は、変色し易い金属材、とりわけ鉄、銅、亜鉛、アルミニウム製金属材の変色を、惹き起こさない。
【0026】
また、この徐放性防錆材は、それに含有された防錆有効成分が揮発して数m先の金属材にまで到達して防錆効果を発現するため、金属材の大小・長短に係わらず防錆処理作業を簡便にすることができる。
【0027】
この徐放性防錆材は、防錆有効成分が有臭のアミン化合物であるが、作業者がアミン臭を感知し得ない程度のごく低濃度のそれの揮発性ガスでも充分な防錆効果を発現する。しかも、この徐放性防錆材は、亜硝酸塩を含まず、バッグで防錆有効成分が封入されそれのごく低濃度のガスが徐放されたとしてもほぼ無臭であり、環境汚染物質や人体有害物質を含有したり生成したりせず安全であって、大量に継続して使用しても環境保全や生態安全・健康維持に資する。
【0028】
この徐放性防錆材は、使用場所や用途を制限されないので、汎用性に優れている。
【0029】
またこの徐放性防錆材は、簡易であるので、簡便に大量に、歩留まり良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0031】
本発明の徐放性防錆材は、ポリオレフィン製で袋状のガス透過性バッグに、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールのような揮発性アミン化合物を含む防錆有効成分が、遺漏しないように、ヒートシールにより密閉されて封入されている。
【0032】
防錆有効成分中の揮発性アミン化合物は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの他、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミンのような遊離のヒドロキシ基含有アミン化合物;アンモニアのような遊離のアミン化合物又はそれを含み解離した水溶液である0.1〜99.9%のアンモニア水のようなヒドロキシ基含有アミン化合物;モルホリンのような遊離の環状アミン;シクロヘキシルアミンのような遊離の環状アルキルアミン化合物;3−メトキシプロピルアミンのような遊離の直鎖状アルキルアミンであってもよく、これらの内の単数又は複数を用いるものであってもよい。防錆有効成分は、このような揮発性アミン化合物のみからなるものであってもよく、少なくともその一部が有機塩を形成したものであってもよい。
【0033】
この徐放性防錆材にはその他に、アゾール環含有化合物を含有させてもよい。揮発性防錆成分とアゾール環含有化合物とを含む防錆剤は、揮発性防錆成分により鉄含有金属や鋳鉄のような鉄製製品のみならず、非鉄製金属製品に対する高い防錆効果及び防腐食効果を一層向上させる。
【0034】
揮発性アミン化合物と共に、非鉄用防錆成分、例えば1H−ベンゾトリアゾール及び2H−ベンゾトリアゾールの互変異性であるベンゾトリアゾールと、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール,それの位置異性体,又はそれらの混合物であるメチル−1H−ベンゾトリアゾール(例えば、東京化成工業株式会社製 Methy-1H-benzotriazole(mixture);以下同様に表記する)のようなメチルベンゾトリアゾールと、2−メルカプトベンゾチアゾールのようなメルカプトベンゾチアゾールと、1H−テトラゾール及び2H−テトラゾールとの互変異性であるテトラゾールと、5−アミノテトラゾールと、5−フェニル−1Hテトラゾールと、1−フェニル−5−メルカプト−1,2,3,4−テトラゾールと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸とから選ばれる少なくとも何れかのアゾール環含有化合物が、更にガス透過性バッグに封入されていてもよい。これらのアゾール環含有化合物は、単独で用いてもよく複数混合して用いてもよい。これらのアゾール環含有化合物は、その少なくとも一部と前記揮発性アミン化合物とで前記有機塩を形成していてもよい。このような非鉄用防錆成分は、銅、亜鉛、アルミニウムの変色防止として作用するものである。
【0035】
このアゾール環含有化合物は、防錆成分中に、揮発性防錆成分とアゾール環含有化合物とのモル比で、1:1×10−4〜1×10、より好ましくは1:1×10−3〜1×10、さらに好ましくは1:1×10−2〜1含まれる。
【0036】
アゾール環含有化合物の含有量が、揮発性防錆成分とアゾール環含有化合物で1:1×10−4のモル比よりも少ないと、非鉄金属に対する防錆効果を低下させてしまう。一方、揮発性防錆成分とアゾール環含有化合物で1:1×10のモル比よりも多いと、鉄に対する防錆効果を低下させてしまう結果、十分な防錆効果を得るためにアゾール環含有化合物と揮発性防錆成分との両方を多量含有させなければならなくなり、非経済的である。
【0037】
さらに揮発性アミン化合物と共に、鉄用防錆成分、例えばジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウムのような亜硝酸塩類や、安息香酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、パルミチン酸アンモニウム、オレイン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、ジシクロヘキシルアミン安息香酸塩、尿素、ウロトロピン、チオ尿素、カルバミン酸フェニル、シクロヘキシルアンモニウム−N−シクロヘキシルカルバメート(CHC)のような一般的に用いられる防錆剤が、更にガス透過性バッグに封入されていてもよい。
【0038】
防錆有効成分は、揮発性アミン化合物のみからなっていてもよく、揮発性アミン化合物と非鉄用防錆成分及び/又は鉄用防錆成分との混合物であってもよくそれらの少なくとも一部が造塩された混合物からなっていてもよい。
【0039】
ガス透過性バッグは、揮発性アミン化合物のような防錆有効成分が金属材を防錆できる適度なガス濃度で徐々に放出されるように、ポリオレフィンフィルム又はポリオレフィンシートで熱溶融によってヒートシールされて袋状に形成されたものであることが好ましい。ガス透過性バッグの適度な徐放性能を発現するために、ポリオレフィンフィルムが、単層であってもよく同種又は異種のポリオレフィンの多層であってもよく、またポリオレフィンシートが、動物性繊維、植物性繊維、再生繊維、合成繊維のような繊維物質製の織布や不織布や紙のような多孔質シートを内包し又は積層しつつ含有するポリオレフィンシートであってもよい。
【0040】
このガス透過性バッグの材質のポリオレフィンは、オレフィンのホモポリマーであってもよくコポリマーであってもよい。このようなポリオレフィンとして、例えば0.91〜0.92g/cm程度の低密度ポリエチレンや0.92〜0.96g/cm高密度ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンで例示される炭化水素系ポリオレフィンホモポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンで例示されるハロゲン含有炭化水素系ポリオレフィンホモポリマー;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体で例示されるコポリマーが挙げられる。中でも、低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0041】
このガス透過性バッグのポリオレフィンのフィルム又はシートの厚さは、揮発性の防錆有効成分の徐放速度、即ちその揮発ガスの透過速度を決定する主要な一要因であるため、防錆有効成分の種類と所望の徐放速度とに応じて、適宜決められるが、0.1μm以上80μm以下であることが好ましい。ポリオレフィンシートは、内包し又は積層され支持材乃至補強材として作用する織布や不織布や紙のような多孔質シートを含む厚さをこの範囲内としていることが好ましい。0.1μm未満であると、防錆有効成分の透過速度が大き過ぎて長期間、防錆効果を発現できなくなるばかりか、脆弱過ぎてガス透過性バッグが破損し易い。一方、80μmを超えると、防錆有効成分の透過速度が小さ過ぎて、防錆効果を発現できなくなってしまう。その厚さが、1μm以上20μm以下であると、なお一層好ましい。
【0042】
この防錆有効成分中、遊離しており揮発性であるアミン化合物は、ガス透過性バッグによって、適度な速度でガス化し、その結果、大気中に拡散し、防錆すべき金属材へ速やかに到達する。このような遊離の揮発性アミン化合物は、造塩された2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール炭酸塩で例示される粉末状・粒状乃至塊状のアミン塩のような従来の防錆剤に比べ、揮発性が高いので少量でも防錆効果が、一層優れている。
【0043】
従来の防錆剤のように防錆成分がアミン塩であっても、銅、アルミニウム、亜鉛に対しての変色性が小さい。しかし、防錆成分としてアミン塩が直接、金属材と接触した場合には、高濃度過ぎて金属材表面の変色を惹き起してしまう。しかも、粉末状・粒状乃至塊状のアミン塩のような防錆剤は、そもそも造塩によって安定化しているから気化し難いうえ、粒径により表面積が変動するから製造時に均質性を担保するのが困難であり、しかも防錆に使用するにつれ粒径が小さくなるとともに表面積も減少するため、気化量が安定しない。
【0044】
それに対し、この徐放性防錆材は、水を透過しないポリオレフィン製のようなガス透過性のバッグで防錆有効成分が封入されているため、防錆有効成分が液状のまま金属材に直接接触し得ないので、金属材の不意な変色を惹き起さない。しかも、防錆有効成分が、常温、特に室温、例えば25℃程度で、液状であるため、粉末状・粒状乃至塊状のアミン塩等の防錆剤のように表面積の影響が殆ど無く、それのガス放出速度が、蒸気圧とガス透過性バッグでの透過速度とによって、揮発し尽くすまで、ほぼ一定である。そのため、防錆開始直後から使用終了まで、防錆性能が一定である。
【0045】
徐放性防錆材は、防錆有効成分が、多孔質素材、例えば海綿のような天然スポンジ、ウレタンスポンジのような合成スポンジ;動物性繊維、植物性繊維、再生繊維、合成繊維のような繊維物質で形成された織布、不織布;紙;及び/又はセラミックスに、含浸されつつ、封入されていてもよい。このような多孔質素材の多孔に、防錆有効成分が浸入し、徐放性能が一層向上する。防錆有効成分と多孔質素材とは、重量比で30.00〜99.99:70.00〜0.01であることが好ましい。
【0046】
徐放性防錆材は、吸水性繊維や吸水性ポリマーのような吸収材が、ガス透過性バッグに封入されたものであってもよい。吸水材により、防錆有効成分中に夾雑している水分の含水量が低下し、遊離の揮発性アミン化合物の沸点が低下して、一層揮発し易くなるので、優れた防錆効果及び防腐食効果を発揮する機能付加がされる。
【0047】
吸水材は、防錆有効成分の100重量部に対し、0.01〜95重量部、より好ましくは0.1〜60重量部、さらに好ましくは1〜30重量部含まれる。
【0048】
この吸水材の含有量が0.01重量部よりも少ないと、十分な吸湿機能が発揮されない。一方、95重量部より多いと、十分な防錆機能が発揮できず、防錆効果が弱くなってしまうので、十分な防錆効果を得ために防錆有効成分を多量に用いなければならなくなり、非経済的である。
【0049】
吸水材は特に限定されないが、具体的には、動物性繊維、植物性繊維、再生繊維、合成繊維といった繊維物質や吸水性ポリマーが挙げられる。
【0050】
繊維物質は、具体的に、羊毛、綿、麻、セルロース、ビスコースレーヨンが挙げられる。
【0051】
吸水性ポリマーは、具体的に、架橋型ポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸塩、デンプン・アクリル酸グラフト共重合体架橋物、デンプン・アクリル酸塩グラフト共重合体架橋物架橋型ポリアミノ酸が挙げられる。
【0052】
これらの吸水材は、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0053】
徐放性防錆材は、防錆有効成分と共に、必要に応じて適量のバインダー、増量剤、顔料、色素などの添加剤が配合されて、封入されていてもよい。
【0054】
この徐放性防錆材は、防錆すべき金属材の傍らに配置して、使用される。防錆効果の範囲は、徐放性防錆材から揮発される防錆有効成分の有意到達距離が2m以上である。従って鉄骨建材のように大きな金属材の防錆に使用する際、数m間隔で徐放性防錆材を配置すれば済むので、経済的である。
【実施例】
【0055】
本発明を適用する徐放性防錆材の試作例を、実施例に示し、本発明を適用外の防錆材の試作例を、比較例に示す。
【0056】
(実施例1〜84)
徐放性防錆材を以下のようにして、調製した。厚さ10μmでサイズ200mm×200mmの低密度ポリエチレン製シートの2枚を重ね合わせ、それの端から10mmの位置で3辺をヒートシールし袋状にした。そこへ表1〜7に記載の所定の重量で厚さ10mmの多孔質素材であるウレタンスポンジ又はクラフト紙と、表1〜7に記載の所定の重量の揮発性防錆成分、表1〜7に記載の所定の重量の吸水材を投入し、残る1辺を、端から10mmの位置でヒートシールして密閉状態としたものを、それぞれ実施例1〜84の徐放性防錆材とした。なお、揮発性防錆成分と多孔質素材と吸水材の総重量は、10gとした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
(比較例1〜4)
防錆成分のみからなる防錆剤の例として、ジシクロロヘキシルアンモニウムナイトライトの10gを比較例1とし、ジイソプロピルアンモニウムナイトライトの10gを比較例2とし、シクロヘキシルアンモニウム−N−シクロヘキシルカルバメートの10gを比較例3とし、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの炭酸塩の10gを比較例4とした。
【0065】
(比較例5〜8)
比較例1〜4の防錆成分の各10gを用いたことと、多孔質部材及び吸水材を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ10μmでサイズ200mm×200mmの低密度ポリエチレン製シートを用いた袋で密閉したものを、比較例5〜8の防錆材とした。
【0066】
実施例1〜84の徐放性防錆材、及び比較例1〜4の防錆剤並びに比較例5〜8の防錆材につき、防錆性能について、以下のようにして評価した。
【0067】
(各防錆材・防錆剤の金属毎の防錆評価)
評価数分のプラスチックケース(奥行500mm×幅800mm×高さ500mm)を用意した。
各種金属製の評価用テストピースとして、
鋳鉄品であるFC250(JIS G5501で規定;40mm×35mm×10mm)、
機械構造用炭素鋼鋼材であるS45C(JIS G4051で規定;40mm×35mm×5mm)、
熱間圧延鋼材であるSS−400(JIS G3101で規定;40mm×35mm×3mm)、
板状の銅であるC1100(JIS H3100で規定;40mm×35mm×3mm)、
板状の亜鉛であるH4321(旧JIS-H4321で規定;40mm×35mm×3mm)、
板状のアルミニウムであるA5052(JIS-H4000で規定;40mm×35mm×3mm)
を用いた。
各種金属製の評価用テストピースと、実施例1〜84の徐放性防錆材、及び比較例1〜4の防錆剤並びに比較例5〜8の防錆材とを、それぞれプラスチックケース内に設置し、プラスチックケースの上部を、40μm厚のポリエチレンシートで、ラッピングして、封止した。プラスチックケースを静置し、温度25℃湿度90%の条件下で12時間、続いて温度60℃湿度90%の条件下で12時間とする計24時間(1日)を1サイクルとして、20サイクル(20日間)繰り返した。その後、この状態で、評価用テストピースの外観を、目視にて観察して、以下のようにして評価した。
【0068】
評価基準として、FC−250、S45C、SS−400に関しては、全く錆びの無い場合を◎とし、10個未満の点錆発生の場合を○、10〜20個の点錆発生の場合を△、21個以上の点錆発生の場合を×とする4段階で評価した。一方、銅、亜鉛、アルミニウムに関しては、全く変色の無い場合を◎とし、わずかに変色ありの場合を○、変色ありの場合を△、強い変色ありの場合を×とする4段階で評価した。その結果をまとめて表8〜15に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

【0074】
【表13】

【0075】
【表14】

【0076】
【表15】

【0077】
表8〜15に示した結果から明らかなように、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3−メトキシプロピルアミン及びアンモニアから選ばれる少なくとも何れかの遊離の揮発性アミン化合物をガス透過性樹脂で形成されたバッグに封入した徐放性防錆材では、鉄材及び防錆の難しい鋳鉄に対しても高い防錆効果を示し、銅、亜鉛、アルミニウムに対する変色性も非常に小さい。また多孔質素材を組み合わせる事で徐放性が安定となり、更に防錆効果を高める事が出来る。更にはベンゾトリアゾール、メチル−1H−ベンゾトリアゾールのようなメチルベンゾトリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールのようなメルカプトベンゾチアゾール、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸の塩を使用する事で銅、亜鉛、アルミニウムに対しても高い防腐食効果を示す。更に吸水材を併用する事で更に防錆効果を高める事が出来る。
【0078】
(各防錆材・防錆剤による揮発性防錆成分の有効到達距離評価)
別な評価用テストピースである板状の鋳鉄品FC−250(JIS G5501で規定;40mm×35mm×3mm)を、直径10cm、高さ200cmの円柱アクリル系樹脂容器の底部から20cmの間隔で吊り下げ、実施例1,10,13,25,37,49,61並びに73の徐放性防錆材、及び比較例1〜4の防錆剤(揮発性防錆成分として50g/m)入りのシャーレと50mLのイオン交換水入りのシャーレとを、容器の下端を塞ぐための下部ゴム栓上に載置してからその下部ゴム栓で容器の下端を塞ぎ、次いで、容器の上端を塞ぐための上部ゴムで容器の上端を塞いで、容器を密閉した。2ヵ月後に評価用テストピースの外観を目視にて判断した。
【0079】
評価基準は全く錆びの無い場合を◎として、10個未満の点錆発生の場合を○、10〜20個の点錆発生の場合を△、21個以上の点錆発生の場合を×とした。その評価結果を表16にまとめて示す。
【0080】
【表16】

【0081】
表16に示す結果から明らかなように、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3‐メトキシプロピルアミン及びアンモニアから選ばれる少なくとも何れかの遊離の揮発性アミン化合物をガス透過性樹脂で形成されたバッグに封入した徐放性防錆材では、長い有効到達距離による広範囲の防錆効果と鋳鉄に対する優れた防錆効果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の徐放性防錆材は、鋼・鋳鉄等の鉄製や、銅・亜鉛・アルミニウム等の非鉄金属製の製品、例えば鉄骨のような建材や大小の各種工業用部材など各種金属材が、酸化して錆びたりさらに浸食されて劣化したりするのを、防止するのに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3‐メトキシプロピルアミン、及びアンモニアから選ばれる少なくとも何れかの遊離の揮発性アミン化合物及び/又はその有機塩を含む防錆有効成分が、それのガス透過性樹脂で形成されたバッグに封入されていることを特徴とする徐放性防錆材。
【請求項2】
前記バッグが、ポリオレフィンフィルム、又は、織布、不織布若しくは紙を含有するポリオレフィンシートで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の徐放性防錆材。
【請求項3】
前記防錆有効成分が、多孔質素材に含浸されつつ、前記封入されていることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の徐放性防錆材。
【請求項4】
前記多孔質素材が、スポンジ、織布、不織布、紙、及びセラミックスから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項3に記載の徐放性防錆材
【請求項5】
前記バッグに、吸水性繊維及び吸水性ポリマーから選ばれる少なくとも何れかの吸水材が、封入されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の徐放性防錆材。
【請求項6】
前記吸水材が、動物繊維、植物繊維、再生繊維、及び合成繊維から選ばれる少なくとも何れかの前記吸水性繊維、又は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸共重合体、デンプン−アクリル酸塩共重合体、及びポリアミノ酸から選ばれる少なくとも何れかの前記吸水性ポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の徐放性防錆材。
【請求項7】
前記防錆有効成分の100重量部に対し、前記吸水材が0.01〜95重量部であることを特徴とする請求項5〜6の何れかに記載の徐放性防錆材。
【請求項8】
前記防錆有効成分と、非鉄用防錆成分とが、前記封入されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の徐放性防錆材。
【請求項9】
前記非鉄用防錆成分が、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−フェニル−1Hテトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−1,2,3,4−テトラゾール、及び3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸から選ばれる少なくとも何れかのアゾール環含有化合物であって、その少なくとも一部と前記揮発性アミン化合物とで前記有機塩を形成していることを特徴とする請求項8に記載の徐放性防錆材。