説明

循環器機能測定装置

【課題】被測定者の循環器機能を正確に測定することができる循環器機能測定装置を提供する。
【解決手段】被測定者の身体の一部を圧迫するカフ11と、圧迫圧力を検出する圧迫圧力検出部13と、圧迫圧力を変化させる圧迫圧力制御部12と、圧迫圧力を変化させる過程で身体の一部に生じる脈波の大きさに関する脈波情報を圧迫圧力に関連付けて検出する脈波検出部14と、被測定者の血圧値を算出する血圧算出部15と、時系列的に連続した検出脈波間における圧迫圧力の変化分と脈圧との不一致度合に基づき脈波情報を不一致が解消するように補正した補正脈波情報を生成する脈波補正部16と、圧迫部による圧迫開始から圧迫終了までに得られる補正脈波情報に基づく血管特性曲線を算出する血管特性曲線算出部17と、圧迫圧力に対応付けて血管特性曲線を記憶する記憶部18と、血管特性曲線を利用して循環器機能の測定を行う血管硬さ測定部19と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から得られる脈波に基づいて生体の状態を解析する循環器機能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、動脈中の圧力の変動(脈拍)によって生じる振動(脈波)の変化(特徴量)を利用して、被測定者における動脈硬化度等の循環器機能を測定する循環器機能測定装置が知られている(例えば、特許文献1)。この特許文献1の循環器機能測定装置を用いた測定方法では、まず、カフが被測定者の上腕部に巻回した状態に取り付けられ、その状態においてカフ内に空気が供給される。そして、そのカフ内の気圧(圧迫圧力)により上腕部を圧迫することで得られる脈波情報に基づいて、血圧や動脈硬化度などの循環器機能が測定される。
【0003】
すなわち、特許文献1の循環器機能測定装置を用いた測定方法では、例えば被測定者の最高血圧及び最低血圧を含む圧迫圧力の所定範囲において一定速度で圧迫圧力を微速加圧したときに得られる圧力信号から脈波の振幅値を抽出し、その抽出した振幅値を圧迫圧力に対して時系列的に並べた包絡線を得ている。そして、圧迫圧力の変化過程において脈波の振幅値が最大となる圧迫圧力を境界値として、包絡線をその境界値よりも高圧側の圧迫圧力帯に対応する領域と、低圧側の圧迫圧力帯に対応する領域とに分割し、各圧迫圧力帯においてそれぞれ循環器機能(血管硬さ)を測定するための特徴量を得ている。
【0004】
この特徴量としては、例えば、包絡線における高圧側の圧迫圧力帯の領域において、或る脈波の振幅値をとる圧迫圧力と境界値との差や、低圧側の圧迫圧力帯の領域において、或る脈波の振幅値をとる圧迫圧力と境界値との差が挙げられる。そして、各圧迫圧力帯から抽出された特徴量を比較することで、被測定者の動脈硬化度(循環器機能)の測定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−278708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の循環器機能測定装置で得られた特徴量は、脈波の振幅値の変化の一部を計測しているに過ぎない。よって、例えば、動脈硬化度の測定を一度行った被測定者に対して再度測定を行うときに、被測定者の上腕部に対するカフの巻き方が悪い等の測定条件が異なると、得られる測定結果が、一度目と異なることが起こり得うることになり、循環器機能を正確に測定することができない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、被測定者の循環器機能を正確に測定することができる循環器機能測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の循環器機能測定装置は、被測定者の身体の一部を圧迫する圧迫部と、前記圧迫部により発生する圧迫圧力を検出する圧迫圧力検出部と、前記圧迫圧力を変化させる圧迫圧力制御部と、前記圧迫圧力制御部により圧迫圧力を変化させる過程で前記身体の一部に生じる脈波の大きさに関する脈波情報を圧迫圧力に関連付けて検出する脈波検出部と、前記脈波情報に基づいて前記被測定者の血圧値を算出する血圧算出部と、時系列的に連続した検出脈波間における前記圧迫圧力の変化分と脈圧との不一致の度合に基づいて前記脈波情報を前記不一致が解消するように補正した補正脈波情報を生成する脈波補正部と、前記圧迫部による圧迫開始から圧迫終了までに得られる前記補正脈波情報に基づく血管特性曲線を算出する血管特性曲線算出部と、前記圧迫圧力に対応付けて前記血管特性曲線を記憶する記憶部と、前記血管特性曲線を利用して循環器機能の測定を行う循環器機能測定部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の循環器機能測定装置において、前記血管特性曲線算出部は、前記補正脈波情報を累積加算した補正脈波累積加算曲線を前記血管特性曲線として算出することが好ましい。
【0010】
また、本発明の循環器機能測定装置において、前記脈波補正部は、前記圧迫圧力の変化分を前記脈圧により除した値を前記脈波情報に乗ずる乗除算処理を用いて前記補正脈波情報を生成することが好ましい。
【0011】
また、本発明の循環器機能測定装置において、前記脈波補正部は、前記圧迫圧力の変化分と前記脈圧との差分に対応する値を前記脈波情報に加算又は減算する加減算処理を用いて前記補正脈波情報を生成することが好ましい。
【0012】
また、本発明の循環器機能測定装置において、前記脈波補正部は、前記脈波情報から非線形関数を用いて近似する演算処理を行うことにより前記補正脈波情報を生成することが好ましい。
【0013】
また、本発明の循環器機能測定装置において、前記脈波補正部は、前記圧迫圧力が変化する過程において前記検出脈波における振幅値が最大となる圧迫圧力の値を境界として前記圧迫圧力が低圧側の場合と高圧側の場合とで前記補正脈波情報を生成する際に用いる関数を切り換えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被測定者の循環器機能を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1実施形態の循環器機能測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】上腕動脈の圧迫開始から圧迫終了までの圧迫圧力の変化を示すグラフ。
【図3】圧迫圧力と検出脈波の振幅値との関係を示すグラフ。
【図4】圧迫圧力と脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図5】脈波累積加算値と圧迫圧力とから得られる特性線を示す図。
【図6】血管内外圧差、血管容積、脈圧及び脈波との関係を示すグラフ。
【図7】(a)は脈圧が非常に小さい場合の血管内外圧差、血管容積、脈圧及び脈波との関係を示すグラフ、(b)はその場合の血管内外圧差と脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図8】(a)は脈圧が非常に大きい場合の血管内外圧差、血管容積、脈圧及び脈波との関係を示すグラフ、(b)はその場合の血管内外圧差と脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図9】(a)は心拍数が非常に少ない場合の血管内外圧差、血管容積、脈圧及び脈波との関係を示すグラフ、(b)はその場合の血管内外圧差と脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図10】(a)は心拍数が非常に多い場合の血管内外圧差、血管容積、脈圧及び脈波との関係を示すグラフ、(b)はその場合の血管内外圧差と脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図11】(a)は脈圧が非常に大きい場合の血管内外圧差、血管容積、脈圧、検出脈波及び補正脈波との関係を示すグラフ、(b)はその場合の血管内外圧差と補正脈波による脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図12】補正脈波の算出において、(a)は脈圧が圧迫圧力の変化分よりも大きい場合の血管内外圧差と血管容積との関係を示すグラフ、(b)はその場合における1心拍分を拡大して線形に近似した模式図。
【図13】圧迫圧力と補正脈波累積加算値との関係を示すグラフ。
【図14】補正脈波と圧迫圧力とから得られる特性線、及び、補正脈波累積加算値と圧迫圧力とから得られる特性線を示す図。
【図15】第2実施形態での補正脈波の算出において(a)は脈圧が圧迫圧力の変化分よりも小さい場合の血管内外圧差と血管容積との関係を示すグラフ、(b)はその場合における1心拍分を拡大して線形に近似した模式図。
【図16】第3実施形態での補正脈波の算出において(a)は圧迫圧力が補正脈波包絡線での最大値を示すときの圧迫圧力よりも高圧側である場合の血管内外圧差と血管容積との関係を示すグラフ、(b)はその場合における補正脈波と圧迫圧力の変化分との関係を示したグラフ。
【図17】同じく補正脈波の算出において(a)は圧迫圧力が補正脈波包絡線での最大値を示すときの圧迫圧力よりも低圧側である場合の血管内外圧差と血管容積との関係を示すグラフ、(b)はその場合における補正脈波と圧迫圧力の変化分との関係を示したグラフ。
【図18】他の実施形態の補正脈波と圧迫圧力とから得られる特性線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を循環器機能測定装置の一種である血管硬さ測定装置に具体化した第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示すように、血管硬さ測定装置10は、被測定者における血圧値及び循環器機能の一種である血管硬さを測定する際に、その被測定者の身体の一部である上腕部に巻回し状態で装着されるカフ11を有している。カフ11はゴム製であるとともに袋状をなし、被測定者の上腕部に装着された状態において内部の気圧(圧迫圧力)が変化することで、被測定者の上腕部(上腕動脈)を圧迫する圧迫部として機能する。
【0018】
このカフ11は、カフ11の内部で発生する圧迫圧力を変化させる圧迫圧力制御部12にチューブ11aを介して接続されている。圧迫圧力制御部12は、カフ11にチューブ11aを介して気体を圧送可能な加圧ポンプ(図示略)及びカフ11から気体を排出する際に開弁される排気弁(図示略)を有し、その加圧ポンプ及び排気弁の駆動を制御することで、カフ11に対して加減圧を行い、カフ11の圧迫圧力を変化させる。
【0019】
また、カフ11は、カフ11による圧迫圧力を検出する圧迫圧力検出部13にチューブ11bを介して接続され、その圧迫圧力検出部13は、圧迫圧力制御部12がカフ11の圧迫圧力を変化させる過程で上腕部に生じる脈波の大きさに関する脈波情報を圧迫圧力に関連付けて検出する脈波検出部14に信号線を介して接続されている。すなわち、圧迫圧力検出部13は、圧力センサ(図示せず)及びA/D変換器(図示せず)を有し、圧力センサにより検出したカフ11の圧迫圧力を、A/D変換器によりデジタル信号よりなる圧力信号に変換する。そして、圧迫圧力検出部13で変換された圧力信号は脈波検出部14へ出力される。なお、脈波検出部14は、フィルタ回路(図示せず)を有するとともに、そのフィルタ回路で圧迫圧力検出部13からの圧力信号から直流成分等、所定の周波数成分を除去することにより脈波信号を生成し、生成された脈波信号から脈波(検出脈波)の振幅値を検出する。
【0020】
図1に示すように、圧迫圧力検出部13及び脈波検出部14は、それぞれ血圧算出部15に信号線を介して接続されている。この血圧算出部15は、圧迫圧力検出部13により検出される圧迫圧力と、脈波検出部14により検出される脈波の振幅値との関係からオシロメトリック法などの所定のアルゴリズムを用いて、被測定者の最高血圧及び最低血圧を算出する。そして、以上の圧迫圧力検出部13、脈波検出部14及び血圧算出部15は、それぞれ脈波補正部16に信号線を介して接続されている。
【0021】
脈波補正部16は、圧迫圧力信号、脈波の振幅値及び血圧値から所定のアルゴリズムにより、脈波における波形の重複部分あるいは隙間(不足)部分の影響を除去した補正脈波を算出する。すなわち、脈波補正部16は、時系列的に連続した検出脈波間における圧迫圧力の変化分と脈圧との不一致(重複又は不足)の度合に基づいて検出脈波の脈波情報を不一致(重複又は不足)が解消するように補正した補正脈波情報を補正する。
【0022】
また、この脈波補正部16は、血管硬さを測定する際に用いられる血管特性曲線を算出する血管特性曲線算出部17に信号線を介して接続されている。そして、血管特性曲線算出部17は、補正脈波振幅値もしくは補正脈波累積加算値を上腕動脈の圧迫開始から圧迫終了まで時系列的に並べた血管特性曲線(図14参照)を算出する。また、血管特性曲線算出部17及び圧迫圧力検出部13は、それぞれ記憶部18に信号線を介して接続されている。そして、記憶部18は、圧迫圧力検出部13により検出される圧迫圧力と、血管特性曲線算出部17により算出される血管特性曲線とを対応付けて記憶する。すなわち、記憶部18は、ある圧迫圧力での血管特性曲線値を記憶し、圧迫開始から圧迫終了まで圧迫圧力と血管特性曲線値とを記憶し続ける。
【0023】
さらに、図1に示すように、記憶部18は、循環器機能測定部としての血管硬さ測定部19に信号線を介して接続されている。そして、血管硬さ測定部19は、脈波の振幅値を検出した時の圧迫圧力と血管特性曲線との関係から所定のアルゴリズムにより、上腕動脈の硬さ(すなわち、「血管硬さ」)を測定する。なお、血管硬さ測定部19は、被測定者の血管硬さを測定するための測定プログラムや血管硬さ測定装置10の各部の駆動を制御するためのプログラム等を記憶するROM、プログラムの実行中や実行後に生じるデータを一時的に保管するRAM、及び、制御プログラム等をROMから読み出して実行するCPU等から構成されている。
【0024】
次に、本実施形態の血管硬さ測定装置10の作用について、特に血管硬さを測定する際の作用に着目して説明する。
さて、図1に示すように、カフ11が被測定者の上腕部に巻回し状態に装着された後、圧迫圧力制御部12が排気弁を閉弁した状態で加圧ポンプを駆動すると、カフ11内には加圧空気が供給される。すると、カフ11の圧迫圧力が高圧側に変化するため、そのカフ11によって被測定者の上腕動脈が徐々に圧迫されていく。具体的には、図2に示すように、カフ11の圧迫圧力が、まず、被測定者の予想される最低血圧よりも低い所定圧力値まで急激に上昇し、その後は、その所定圧力値から徐々に増えていく微速加圧になるように、圧迫圧力制御部12がカフ11の圧迫圧力を変化させる。
【0025】
そして、その微速加圧の過程で、圧迫圧力が被測定者の予想される最高血圧よりも高い所定圧力値に達すると、圧迫圧力制御部12は排気弁を開弁して圧迫圧力を減圧させる。すると、今度はカフ11の圧迫圧力が低圧側へ急激に変化するため、そのカフ11による被測定者の上腕動脈に対する圧迫が速やかに解除される。こうしたカフ11の圧迫圧力が変化する過程において特にその微速加圧の過程では、心臓の拍動による脈波W1が生じ、この脈波W1の振幅値が脈波検出部14により検出される。すると、血圧算出部15は、時系列的に変化する圧迫圧力と脈波W1の振幅値との関係から、被測定者の最高血圧及び最低血圧を算出する。
【0026】
図3に示す包絡線L1のように、カフ11の圧迫圧力Pが変化していくにしたがって、検出される脈波W1の振幅値X(X1,X2,X3等)も変化していく。具体的には、カフ11の圧迫圧力Pが低圧側から高圧側になるにしたがって、脈波W1の振幅値Xは、最初のうちは振幅値X1から振幅値X2へという具合で小さく上昇し、その後は振幅値X2から振幅値X3へという具合で次第に大きく上昇していく。なお、平均血圧での圧迫圧力に相当する所定の圧迫圧力Prのときに脈波W1の振幅値Xは最大になり、その後、脈波W1の振幅値Xは次第に小さくなっていく。そして、以上のように検出された脈波W1の振幅値X(X1,X2,X3等)は、圧迫圧力P(P1,P2,P3等)に対応付けられて記憶部18に記憶される。
【0027】
いま例えば、脈波検出部14によって、圧迫圧力P1のときに脈波W1の振幅値X1が検出されるとともに、圧迫圧力P2のときに脈波W1の振幅値X2が検出され、圧迫圧力P3のときに脈波W1の振幅値X3が検出されたとする。この場合、図4に示すように、圧迫圧力Pの変化に応じて時系列的に脈波W1の振幅値Xを累積加算した脈波累積加算値(X1,X1+X2,X1+X2+X3)を算出し、その脈波累積加算値と圧迫圧力との関係から得られる特性線に基づいて血管硬さ等の循環器機能の測定を行うための特徴量を得ることも可能である。すなわち、図5に示すように、かかる脈波累積加算値を上腕動脈の圧迫開始から圧迫終了までの圧迫圧力Pの変化に対応付けて表した特性線L2から所定のアルゴリズムにより血管硬さを測定することも可能である。
【0028】
例えば、特性線L2における最大値の脈波累積加算値を基準として、時系列的に並んだ各脈波累積加算値の比率である脈波累積加算比率を算出し、その脈波累積加算比率の特定の範囲での特性線L2における圧迫圧力の変化量を特徴量とし、所定の圧迫圧力を境界とする各圧迫圧力帯から抽出された特徴量との比較により血管硬さ等が測定される。なお、図5に示す横軸の圧迫圧力Pにおける所定の圧迫圧力Psは、脈波累積加算値が最も大きく増加したときの圧迫圧力の値である。
【0029】
しかしながら、このような特性線L2で表される脈波累積加算値は、脈圧値及び心拍数への依存性を有しており、正確な循環器機能(血管硬さ等)の特性曲線を表しているとはいえない。ここで、「脈圧」とは最高血圧から最低血圧を引いたものであり、「心拍数」とは一分間に心臓が拍動する回数のことである。血管の力学特性曲線としては、図6に示すように、血管内外圧差に対して血管容積の変化を表す血管の圧容積特性曲線が一般的である。この場合、圧迫圧力が加圧により上昇すると、横軸の一拍分の脈圧に対応して縦軸の検出脈波が得られる。そして、この検出脈波を時系列的に累積加算すると、先の図5に示した脈波累積加算値の特性線L2が得られ、一応、この曲線は血管の力学特性曲線を表しているともいえる。しかし、そのようなことが言えるのは、図6に示すように脈圧が過不足なく連続している場合であって、実際には以下の問題がある。
【0030】
まず、脈圧の影響について、図7及び図8を用いて説明する。
図7(a)に示すように、脈圧が非常に小さい場合には、血管の圧容積特性曲線上の各検出脈波間に隙間(不足部分)が発生する。そのため、図7(b)に示すように、検出脈波を累積加算した時の累積加算曲線(同図で半線の曲線)は、脈圧が過不足なく連続している時に得られる累積加算曲線(同図で実線の曲線)よりも加算値が下回ることになる。また、図8(a)に示すように、脈圧が非常に大きい場合には、血管の圧容積特性曲線上の各検出脈波間に波形が重なっている部分(重複部分)が発生する。そのため、図8(b)に示すように、検出脈波を累積加算した時の累積加算曲線(同図で半線の曲線)は、脈圧が過不足なく連続している時に得られる累積加算曲線(同図で実線の曲線)よりも加算値が上回ることになる。
【0031】
次に、心拍数の影響について、図9及び図10を用いて説明する。
図9(a)に示すように、心拍数が非常に少ない場合には、血管の圧容積特性曲線上の各検出脈波間に、図7(a)に示した脈圧が非常に小さい場合と同様に、隙間(不足部分)が発生する。そのため、図9(b)示すように、検出脈波を累積加算した時の累積加算曲線(同図で半線の曲線)は、脈圧が過不足なく連続している時に得られる累積加算曲線(同図で実線の曲線)よりも加算値が下回ることになる。また、図10(a)に示すように、心拍数が非常に多い場合には、血管の圧容積特性曲線上の各検出脈波間に、図8(a)に示した脈圧が非常に大きい場合と同様に、波形が重なっている部分(重複部分)が発生する。そのため、図10(b)に示すように、検出脈波を累積加算した時の累積加算曲線(同図で半線の曲線)は、脈圧が過不足なく連続している時に得られる累積加算曲線(同図で実線の曲線)よりも加算値が上回ることになる。
【0032】
このように、脈圧及び心拍数は被測定者によって異なる場合があり、そうした被測定者から検出される脈波は血管の圧容積特性曲線上で脈圧及び心拍数の影響を受け、時系列的に連続した検出脈波間で波形の隙間(不足部分)や重複部分が発生する場合がある。このような場合、図5に示す特性線L2のような、単純に検出脈波を累積加算しただけの検出脈波累積加算値では、血管の圧容積特性を表しているとは言えない。つまり、図5に特性線L2として示した脈波累積加算曲線は、循環器機能全体の特性を表しているが、脈波を検出する過程で脈圧及び心拍数の影響を受ける。そのため、正確な血管の力学特性を捉えるためには、脈圧値及び心拍数の影響によって発生する脈波の重複部分あるいは不足部分を補正する必要がある。
【0033】
例えば図11(a)に示すように、脈圧が非常に大きく、検出脈波間に重複部分があらわれた場合には、その重複部分を除去し、脈波が連続した理想的な形にすることで、重複部分の影響をなくした補正脈波を算出する必要がある。そして、図11(b)に示すように、そのような補正脈波を累積加算した理想的な補正脈波累積加算曲線は、図11(a)に示す血管の圧容積特性曲線の血管容積を反転させたものと一致する。なお、図11(b)においては、過不足のない脈波累積加算曲線と補正脈波累積加算曲線が一致していることを表すため、これら2つの曲線を半線と実線が交互に連続した1つの曲線にて図示している。このような補正脈波累積加算曲線(同図で半線の曲線)は、脈圧が過不足なく連続している場合に得られる累積加算曲線(同図で実線の曲線)と一致することになるため、血管の力学特性を表すことができる。
【0034】
そこで、本実施形態では、脈圧及び心拍数の影響を受けることなく、正確に被測定者の循環器機能(本実施形態では血管硬さ)を測定できるようにするために、以下のように、検出した脈波の脈波情報を補正した補正脈波情報を生成し、かかる補正脈波情報に基づき算出した血管特性曲線を利用して血管硬さを測定している。以下に、本実施形態での脈波情報の補正方法について説明する。
【0035】
さて、図3に戻り、いま例えば、脈波検出部14によって、圧迫圧力P1のときに脈波W1の振幅値X1が検出されるとともに、圧迫圧力P2のときに脈波W1の振幅値X2が検出され、圧迫圧力P3のときに脈波W1の振幅値X3が検出されたとする。そして、図12(a)に示すように、血管の圧容積特性曲線上で最高血圧から最低血圧を引いた脈圧PPが圧迫圧力の変化分ΔPc(=圧迫圧力P2−圧迫圧力P1)よりも大きい(PP>ΔPc)場合には、振幅値X1の検出脈波と、これに続く振幅値X2の検出脈波との間に波形の重複部分が発生する。
【0036】
ここで、本実施形態では、振幅値X1から脈波の重複の影響を除去した補正振幅値Y1(図12(b)参照)を脈圧PPと圧迫圧力の変化分ΔPcから算出することができる。すなわち、図12(b)に示すように、血管の圧容積特性曲線上における脈波の1心拍分を拡大すると、その部分において同曲線はほぼ直線とみなすことができる。そのため、脈波補正部16では、補正振幅値Y1が線形関数の次式(1)を用いて算出される。
【0037】
Y1=X1・ΔPc/PP … (1)
以下、同様にして、振幅値X2に対応した補正振幅値Y2、振幅値X3に対応した補正振幅値Y3・・・が算出される。このように本実施形態では、圧迫圧力の変化分ΔPcを脈圧PPにより除した値(ΔPc/PP)を補正前の検出脈波における脈波情報(振幅値X1,X2,X3…)に乗ずる乗除算処理により補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)が生成される。
【0038】
そして次に、図13に示すように、血管特性曲線算出部17により、圧迫圧力P1のときに補正脈波累積加算値(Y1)が算出されるとともに、圧迫圧力P2のときに補正脈波累積加算値(Y1+Y2)が算出され、圧迫圧力P3のときに補正脈波累積加算値(Y1+Y2+Y3)が算出される。このように、血管特性曲線算出部17は、圧迫圧力の変化に応じて時系列的に脈波W1から検出される検出脈波の脈波情報(振幅値X1等)を補正した補正脈波情報(補正振幅値Y1等)を加算していき、そして、記憶部18は、圧迫圧力に対応付けて補正脈波累積加算値(Y1,Y1+Y2等)を記憶していく。また、同時に補正脈波振幅値(Y1,Y2,Y3…)を時系列的に並べ、圧迫圧力に対応付けて記憶していく。
【0039】
すると、本実施形態の場合、図14に示すように、補正脈波振幅値(Y1,Y2,Y3…)を時系列的に並べた補正脈波包絡線L3は、図3に示した検出脈波包絡線L1と同様に変化するとともに、補正脈波累積加算曲線L4は、カフ11の圧迫圧力が変化していくにしたがって、算出される補正脈波累積加算値(Y1,Y1+Y2等)が増えていく。具体的には、補正脈波累積加算曲線L4は、カフ11の圧迫圧力が低圧側から高圧側になるにしたがって、最初のうちは小さく上昇するとともに所定の圧迫圧力Psのときに急激に上昇し、所定の圧迫圧力Psから圧迫圧力がさらに高圧になるにしたがって、徐々に上昇度合が小さくなっていく。なお、所定の圧迫圧力Psは、補正脈波包絡線L3が最大値となるときの圧迫圧力の値である。そして、血管硬さ測定部19は、記憶部18に記憶された補正脈波累積加算曲線L4および補正脈波包絡線L3と圧迫圧力との関係から所定のアルゴリズムにより血管硬さを測定する。
【0040】
なお、図15(a)に示すように、血管の圧容積特性曲線上で最高血圧から最低血圧を引いた脈圧PPが圧迫圧力の変化分ΔPc(=圧迫圧力P2−圧迫圧力P1)よりも小さい(PP<ΔPc)場合には、振幅値X1の検出脈波と、これに続く振幅値X2の検出脈波との間に波形の隙間(不足部分)が発生する。本実施形態では、この場合も、図15(b)に示すように、連続した2心拍分の検出脈波を拡大すると、血管の圧容積特性曲線はほぼ直線とみなすことができるため、検出脈波間に重複部分があった場合と同様に、先の式(1)を用いた乗除算処理により補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)が生成される。そして、図14に示した補正脈波包絡線L3及び補正脈波累積加算曲線L4が同様に算出されるとともに記憶され、それらと圧迫圧力との関係から所定のアルゴリズムにより血管硬さが測定される。
【0041】
以上のような第1実施形態によれば、以下のような効果を奏し得る。
(1)脈波補正部16は、検出脈波W1の脈波情報(振幅値X1,X2,X3…)から脈圧及び心拍数の影響による波形の重複部分や隙間(不足部分)を除去した補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)を算出する。すなわち、時系列的に連続した検出脈波間における脈圧PPと圧迫圧力の変化分ΔPcとの不一致(重複又は不足)の度合に基づき、そのような不一致が解消するように検出脈波W1の脈波情報(振幅値X1,X2,X3…)を補正した補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)を算出している。そして、この補正脈波情報に基づき血管特性曲線算出部17が算出した血管特性曲線(補正脈波包絡線L3及び補正脈波累積加算曲線L4)を利用して、血管硬さ測定部19が循環器機能の一種である血管硬さを測定するようにしている。したがって、補正脈波情報に依らない単なる検出脈波の脈波情報を累積加算しただけの脈波累積加算曲線(一例として図5に示す特性線L2)を用いて測定する場合に比較すると、脈圧及び心拍数の影響を受けることなく、正確に被測定者の循環器機能(血管硬さ等)を測定することができる。
【0042】
(2)血管硬さ測定部19は、補正脈波振幅値(Y1,Y2,Y3…)及び補正脈波累積加算値(Y1,Y1+Y2等)と圧迫圧力との関係から得られる補正脈波累積加算曲線L4及び補正脈波包絡線L3に基づき血管硬さを測定する。この場合、補正脈波累積加算曲線L4は、血管の圧容積特性曲線の血管容積を反転させたものとみなすことができるため、かかる補正脈波累積加算曲線L4を利用する場合は、血管硬さを更に一層正確に測定することができる。
【0043】
(3)脈波補正部16では、血管の圧容積特性曲線上における脈波の1心拍分を線形の関係とみなし、検出脈波の振幅値(X1等)、脈圧PP及び圧迫圧力の変化分ΔPc(=圧迫圧力P2−圧迫圧力P1)を用いた乗除算処理により補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)を生成している。したがって、検出脈波の脈波情報から補正脈波情報を生成する際の計算式が非常に簡単になり、計算負荷が軽くなるので、計算時間の短縮を図ることができる。
【0044】
(4)血管硬さ測定装置10は、被測定者の上腕にカフ11を巻回した状態での血圧測定中の脈波W1を用いて被測定者の血管硬さの測定を行っている。よって、被測定者の通常の血圧測定が終わると同時に血管硬さの測定結果を知ることができ、血圧測定と血管硬さの測定とを別々に行う場合に比べて測定時間を短縮することができ、身体への負担が軽減され、使い勝手も良い。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第2実施形態は、脈波情報の補正方法が、第1実施形態とは相違し、その他の点は第1実施形態と同様である。そのため、以下では第1実施形態との相違点につき主に説明し、同様の構成については同じ符号を付すだけにして重複説明を省略する。
【0046】
さて、いま例えば、脈波検出部14によって、圧迫圧力P1のときに脈波W1の振幅値X1が検出されるとともに、圧迫圧力P2のときに脈波W1の振幅値X2が検出されたとする。そして、このとき、図15(a)に示すように、血管の圧容積特性曲線上で最高血圧から最低血圧を引いた脈圧PPが圧迫圧力の変化分ΔPc(=圧迫圧力P2−圧迫圧力P1)よりも小さい(PP<ΔPc)場合には、振幅値X1の検出脈波と、これに続く振幅値X2の検出脈波との間に波形の隙間(不足部分)が発生する。
【0047】
ここで、このような脈圧PPと圧迫圧力の変化分ΔPcとの不一致である隙間(不足部分)が生じるのは、連続する2つの検出脈波の脈圧PPと心拍数の影響であることから、脈波補正部16では、検出脈波の振幅値X1について波形の不足部分の影響を除去した補正振幅値Y1(図15(b)参照)を脈圧PPと圧迫圧力の変化分ΔPcから算出する。すなわち、図15(b)に示すように、血管の圧容積特性曲線上における脈波の2心拍分を拡大すると、その部分において同曲線はほぼ直線とみなすことができる。
【0048】
そして、図15(b)に示す血管の圧容積特性曲線上の不足部分の傾き((不足部分)/(ΔPc−PP))は、(振幅値X1/脈圧PP)と(振幅値X2/脈圧PP)との平均であると考えると、検出脈波間の不足部分は、(ΔPc−PP)・((X2+X1)/(2・PP))で算出される。よって、脈波補正部16では、補正振幅値Y1が検出脈波の振幅値X1に対して圧迫圧力の変化分ΔPcと脈圧PPとの差分に対応した値である不足部分を加えたものであるとして線形関数の次式(2)を用いて算出される。
【0049】
Y1=X1+(ΔPc−PP)・((X2+X1)/(2・PP)) … (2)
以下、同様にして、振幅値X2に対応した補正振幅値Y2、振幅値X3に対応した補正振幅値Y3・・・が算出される。なお、図12(a)に示すように、血管の圧容積特性曲線上で脈圧PPが圧迫圧力の変化分ΔPcよりも大きく、連続する2つの検出脈波の間に波形の重複部分が発生している場合、補正振幅値Y1は、検出脈波の振幅値X1から圧迫圧力の変化分ΔPcと脈圧PPとの差分(PP−ΔPc)に対応した値(この場合は重複部分)を減じたものとなる。そのため、補正振幅値Y1=X1−(PP−ΔPc)・((X2+X1)/(2・PP))=X1+(ΔPc−PP)・((X2+X1)/(2・PP))となり、上記の式(2)と同じ式で算出される。
【0050】
このように本実施形態では、圧迫圧力の変化分ΔPcと脈圧PPとの差分に対応した値(不足部分又は重複部分に相当する振幅値)を補正前の検出脈波における脈波情報(振幅値X1,X2,X3…)に加算又は減算する加減算処理により補正脈波情報(補正振幅値Y1,Y2,Y3…)が生成される。そして、このように生成された補正脈波情報(補正振幅値Y1等)に基づいた補正脈波包絡線L3や補正脈波累積加算曲線L4が血管特性曲線として算出され、こうした血管特性曲線と圧迫圧力との関係から所定のアルゴリズムにより血管硬さが測定される。
【0051】
したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態における(1)(2)及び(4)の効果に加えて次のような効果を奏し得る。
(5)脈波補正部16では、血管の圧容積特性曲線上における脈波の1心拍分を線形の関係とみなし、検出脈波の振幅値(X1等)、脈圧PP、圧迫圧力の変化分ΔPc、及び圧迫圧力の変化分ΔPcと脈圧PPとの差分(PP−ΔPc、ΔPc−PP)を用いた加減算処理により補正脈波情報(補正振幅値Y1等)を生成している。すなわち、補正される脈波と次に検出される脈波の各脈波情報(振幅値X1,X2)から、それらの脈波間の重複部分もしくは不足部分を求めて計算を行っている。そのため、複数の脈波情報(振幅値X1,X2)から補正脈波情報(補正脈波包絡線L3や補正脈波累積加算曲線L4)が演算されるため、一つの脈波情報(振幅値X1)を用いる乗除算処理よりも計算式は複雑になるが、より正確に補正脈波を算出できる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第3実施形態は、脈波情報の補正方法が、第1実施形態とは相違し、その他の点は第1実施形態と同様である。そのため、以下では第1実施形態との相違点につき主に説明し、同様の構成については同じ符号を付すだけにして重複説明を省略する。
【0053】
さて、いま例えば、脈波検出部14によって、圧迫圧力P1のときに脈波W1の振幅値X1が検出されるとともに、圧迫圧力P2のときに脈波W1の振幅値X2が検出されたとする。そして、このとき、図14における圧迫圧力の変化過程において、圧迫圧力が補正脈波包絡線L3を最大値とする圧迫圧力Psよりも低圧側である場合に、脈波の振幅値X1と振幅値X2の関係を血管内外圧差と血管容積の関係を示す血管特性曲線上に示すと、図16(a)に示すように、非線形の血管の圧容積特性曲線上に振幅値X2の上端点がくる。なお、上端点とは、図16(a)に示すごとく、検出脈波(この場合、振幅値X2の検出脈波)の波形における振幅のピーク点のことを意味する。
【0054】
また、図16(b)に示すグラフは、補正脈波と圧迫圧力との関係を示している。そして、このグラフにおいて、非線形の血管の圧容積特性曲線上にプロットされる振幅値X2の上端点は、半線(点線)で示した斜状の直線に比べて下に凸の非線形関係になっている。ここで圧迫圧力の変化分ΔPc=脈圧PPのとき、つまり脈圧と圧迫圧力の増加分(又は減少分)が同値のときは、連続する脈波間における振幅値の過不足がなくなるため、補正脈波の補正振幅値Y1は検出脈波の振幅値X1と同値となる。
【0055】
そこで、この非線形曲線の形状及び上記の条件から、非線形関数のひとつである指数関数を用いて近似すると、脈波補正部16では、補正振幅値Y1が非線形関数の次式(3)を用いて算出される。
【0056】
Y1=X1/(e^(PP)−1)・(e^(ΔPc)−1) … (3)
なお、図14における圧迫圧力の変化過程において、圧迫圧力が補正脈波包絡線L3を最大値とする圧迫圧力Psよりも高圧側である場合に、脈波の振幅値X1と振幅値X2の関係を血管内外圧差と血管容積の関係を示す血管特性曲線上に示すと、図17(a)に示すように、非線形の血管の圧容積特性曲線上に振幅値X2の上端点がくる。また、図17(b)に示すグラフも、図16(b)に示すグラフと同様に、補正脈波と圧迫圧力との関係を示しているが、この場合には、非線形の血管の圧容積特性曲線上にプロットされる振幅値X2の上端点は、半線(点線)で示した斜状の直線に比べて上に凸の非線形関係になっている。
【0057】
そこで、この非線形曲線の形状及び上記の条件から、今度は同じく非線形関数のひとつである自然対数関数(指数関数の逆関数)を用いて近似すると、脈波補正部16では、補正振幅値Y1が非線形関数の次式(4)を用いて算出される。
【0058】
Y1=X1/ln(PP+1)・ln(ΔPc+1) … (4)
このように本実施形態では、圧迫圧力の変化過程における所定の圧迫圧力Psを境界とした低圧側と高圧側とで、図16及び図17に示すように、血管特性曲線の形状が変わること、及び、補正脈波の補正振幅値(Y1等)の上端点と圧迫圧力の変化とが非線形関係にあることを考慮した演算処理により、補正脈波情報が生成される。すなわち、検出脈波の脈波情報(振幅値X1等)から非線形関数の指数関数又は自然対数関数を用いて近似する演算処理を行うことにより補正脈波情報(補正脈波の補正振幅値)が生成される。そして、このように生成された補正脈波情報(補正振幅値Y1等)に基づいた補正脈波包絡線L3や補正脈波累積加算曲線L4が血管特性曲線として算出され、こうした血管特性曲線と圧迫圧力との関係から所定のアルゴリズムにより血管硬さが測定される。
【0059】
したがって、第3施形態によれば、第1実施形態における(1)(2)及び(4)の効果に加えて次のような効果を奏し得る。
(6)脈波補正部16では、血管の圧容積特性曲線上における脈波の1心拍分を非線形の関係とみなし、検出脈波の振幅値(X1等)、脈圧PP、及び圧迫圧力の変化分ΔPcを用いた非線形関数による演算処理を行うことで、補正脈波情報(補正振幅値Y1等)を生成している。すなわち、血管の圧容積特性曲線は非線形形状をしており、非線形関数を利用することで、血管特性をより忠実かつ正確に反映した補正脈波を表すことができる。
【0060】
なお、上記各実施形態は、以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記各実施形態において、図18に示すように、補正脈波の補正振幅値Y1,Y2…を圧迫圧力に対して時系列に並べて得られた補正脈波包絡線L3から次のように血管硬さを測定してもよい。例えば、補正脈波包絡線L3における圧迫圧力Psに対応するピーク(100%)に対し所定の割合で切ったところの圧迫圧力Py1と圧迫圧力Py2との差ΔPなどを動脈硬化度としてもよい。すなわち、圧迫圧力Ps付近の圧力範囲は、血管壁の中でも最も重要な構成要素の一つと考えられる中膜の血管伸展性に特に関与するため、この圧迫圧力Ps付近の圧力範囲の特に中膜の状態を知ることで、血管硬さの測定をより正確に行うことができる。
【0061】
・上記第3実施形態において、補正脈波情報の演算処理に用いる非線形の関数として、例えば、べき乗関数など、その他の非線形関数を用いてもよい。
・上記第1実施形態での補正脈波情報の乗除算処理に用いた式(1)と、第2実施形態での補正脈波情報の加減算処理に用いた式(2)と、第3実施形態での補正脈波情報の非線形関数による演算処理に用いた式(3),(4)のうち何れか1つが、圧迫圧力との関係を考慮して、脈波補正部16においての演算処理に選択使用されるようにしてもよい。
【0062】
・上記各実施形態において、脈波検出部14は、カフ11の圧迫圧力が被測定者の予想される最高血圧よりも高い所定の圧力に達した後、カフ11の微速減圧する過程において、脈波W1の振幅値を検出するようにしてもよい。
【0063】
・上記各実施形態において、脈波W1を検出する部位は上腕部に限定するものではなく、例えば、手首等の身体の他の部位であってもよい。
・上記各実施形態において、循環器機能測定装置は、その循環器機能測定部が血管特性曲線に基づき、血管内に血液を供給するために収縮運動する心臓壁の運動機能を測定するなど、血管の血管硬さ以外の循環器機能を測定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…循環器機能測定装置としての血管硬さ測定装置、11…圧迫部として機能するカフ、12…圧迫圧力制御部、13…圧迫圧力検出部、14…脈波検出部、15…血圧算出部、16…脈波補正部、17…血管特性曲線算出部、18…記憶部、19…循環器機能測定部としての血管硬さ測定部、L3…血管特性曲線としての補正脈波包絡線、L4…血管特性曲線としての補正脈波累積加算曲線、P,P1〜P3,Pr,Ps,Py1,Py2…圧迫圧力、PP…脈圧、ΔPc…圧迫圧力の変化分、W1…脈波、X,X1〜X3…脈波情報を構成する検出脈波の振幅値、Y1〜Y3…補正脈波情報を構成する補正脈波の補正振幅値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の身体の一部を圧迫する圧迫部と、
前記圧迫部により発生する圧迫圧力を検出する圧迫圧力検出部と、
前記圧迫圧力を変化させる圧迫圧力制御部と、
前記圧迫圧力制御部により圧迫圧力を変化させる過程で前記身体の一部に生じる脈波の大きさに関する脈波情報を圧迫圧力に関連付けて検出する脈波検出部と、
前記脈波情報に基づいて前記被測定者の血圧値を算出する血圧算出部と、
時系列的に連続した検出脈波間における前記圧迫圧力の変化分と脈圧との不一致の度合に基づいて前記脈波情報を前記不一致が解消するように補正した補正脈波情報を生成する脈波補正部と、
前記圧迫部による圧迫開始から圧迫終了までに得られる前記補正脈波情報に基づく血管特性曲線を算出する血管特性曲線算出部と、
前記圧迫圧力に対応付けて前記血管特性曲線を記憶する記憶部と、
前記血管特性曲線を利用して循環器機能の測定を行う循環器機能測定部と、
を備えたことを特徴とする循環器機能測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の循環器機能測定装置において、
前記血管特性曲線算出部は、前記補正脈波情報を累積加算した補正脈波累積加算曲線を前記血管特性曲線として算出することを特徴とする循環器機能測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の循環器機能測定装置において、
前記脈波補正部は、前記圧迫圧力の変化分を前記脈圧により除した値を前記脈波情報に乗ずる乗除算処理を用いて前記補正脈波情報を生成することを特徴とする循環器機能測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の循環器機能測定装置において、
前記脈波補正部は、前記圧迫圧力の変化分と前記脈圧との差分に対応する値を前記脈波情報に加算又は減算する加減算処理を用いて前記補正脈波情報を生成することを特徴とする循環器機能測定装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の循環器機能測定装置において、
前記脈波補正部は、前記脈波情報から非線形関数を用いて近似する演算処理を行うことにより前記補正脈波情報を生成することを特徴とする循環器機能測定装置。
【請求項6】
請求項3〜5のうち何れか一項に記載の循環器機能測定装置において、
前記脈波補正部は、前記圧迫圧力が変化する過程において前記検出脈波における振幅値が最大となる圧迫圧力の値を境界として前記圧迫圧力が低圧側の場合と高圧側の場合とで前記補正脈波情報を生成する際に用いる関数を切り換えることを特徴とする循環器機能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−27473(P2013−27473A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164442(P2011−164442)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】