説明

循環組織因子のインビトロアッセイ方法及び凝固疾患の検出における使用

本発明は、血液凝固、特に、組織因子の異常な発現に関連し、かつ、前記因子の過剰発現に相関する病態生理学的現象に関連する血液凝固症の分野に関する。本発明は、生物学的試料中の循環組織因子の活性をアッセイするための方法に関する。本発明は、インビトロ、特に患者から回収した血液試料に対して実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固、特に組織因子の異常な発現に関連する血液凝固疾患の分野、並びに前記因子の過剰発現と相関する病理学的現象に関する。
【0002】
本発明は、生物学的試料中の循環組織因子の活性をアッセイするための方法に関する。
【0003】
本発明の方法は、インビトロ、特に、患者から回収した血液試料、又は回収した血液試料から調製した試料に対して実施する。
【0004】
本発明の方法は、好ましくは、血漿媒体中で実施する。有利には、発色タイプのアッセイを使用する。
【背景技術】
【0005】
インビボ凝固における主要な活性化因子である、組織因子は、47kDaの膜貫通糖タンパク質であり、第VII因子又は第VIIa因子と結合して、組織因子−第VIIa因子複合体を形成し、第IX因子及び第X因子の活性化によって凝固活性化を引き起こしトロンビンの生成及びフィブリンの形成を同調させる。実際、凝固の開始は、第VII因子が、一定の細胞又はその成分(内皮、単球−マクロファージ、平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、細胞起源の微粒子、単球起源の微粒子から分子が移行した後の血小板、腫瘍性細胞)によって発現される、その特異的な表面タンパク質受容体である組織因子に結合することを必要とする。組織因子−VIIa複合体の活性は、正常な血液凝固だけでなく、悪性疾患、急性冠状動脈症候群、及び重度の敗血症と関連する血栓の発生にも関与する。血液凝固の平衡の維持に必須の活性の制御は、組織因子経路インヒビター(TFPI(組織因子経路インヒビター))によって確実にされる。当該インヒビター、すなわち、TFPIは、組織因子を不活性化しないが、組織因子−第VIIa因子複合体の触媒活性を阻害する。まず、TFPIは第Xa因子に結合し、次いで、第Xa因子が阻害される。次に、Xa/TFPI複合体が第VIIa−組織因子複合体に結合し、4つの要素からなる第Xa因子/TFPI/第VIIa因子/組織因子複合体を形成する。ここでは、第Xa因子、第VIIa因子、及び組織因子はもはや活性を有しない。かくして、TFPIは、組織因子(TF)の発現によって誘導される凝固の活性化を制限し、凝固の最初の分子事象が凝固カスケードの活性化を実際に誘導できるようになる前に、越えるべき所定の初期段階を与える。かくして、TFPIは、凝固をもたらすことなく、組織因子の低いノイズ曝露を達成する。TFPIは内皮細胞及び血小板によって合成される。
【0006】
生理学的条件下においては、組織因子の発現は広範に分布しており、循環する血液と直接接触する細胞(内皮細胞及び例えば血液因子)を除く、広範な種類の細胞種の表面上に存在する。血管の外膜、心筋、粘膜組織、及び表皮組織は組織因子を非常に豊富に含む。
【0007】
急性の虚血性動脈イベントに関与する、アテローム斑の血栓形成は、組織因子に対する病理学的曝露に密接に関連する。アテローム斑の血栓形成は、プラーク破裂の場合の血栓形成プロセスを大きく強化する、組織因子の存在量に相関する。同様に、敗血症の間に、組織因子は、単球及び内皮細胞によって発現され、散在性の血管内凝固に関与し得る。組織因子は、細胞膜由来の微粒子の表面上でも同定されている。その様な微粒子は、単球及びリンパ球に由来し、アテローム斑において同定されている。それらは、凝固促進活性を有し、アポトーシスを起こした細胞に由来する。
【0008】
凝固促進活性に加えて、組織因子は、各種の細胞集団に対してホルモンの機能に相当する機能を有するタンパク質であると現在では解されている(1)。
【0009】
したがって、例えば、組織因子が、血管内皮成長因子(VEGF)の生産を促進し、インビボ及びインビトロ血管新生を誘導することが示されている。
【0010】
組織因子は、細胞移動も刺激し、その転移並びに腫瘍に関連する血管新生における血管壁の構成及び完全性への関与が既に開示されている(2)。
【0011】
かくして、組織因子が各種の生理病理学的状況に関与していることが現在では明らかであり、血栓リスクの状況だけでなく、所定の病態、特に癌の進展の観察において、その活性の変化を理解するアッセイ方法を利用可能にすることが必要である。
【0012】
血液又は血漿の組織因子をアッセイするための従来の方法は、ELISAタイプの方法などの免疫学的タイプの方法であり、抗原のみを測定し、かくして、定性的というよりも定量的アッセイである。
【0013】
各種の活性試験が文献に開示されている。その大半は、(3)に記載の原理を使用する、発色法(凝血塊形成時間を測定する)を使用することにより、細胞抽出物から開始して実施する。
【0014】
他のTF活性試験は、活性化第VII因子(FVIIa)、カルシウム、及び第Xa因子の特異的な基質の存在下における、活性化第X因子(FXa)の生成を評価することからなる。
【0015】
かくして、前記試験は、FXをFXaに活性化するTF−FVIIa複合体の能力を測定することからなる。
【0016】
このFXの活性化は、例えば、加水分解して発色器を生成する基質を使用する際に発色法を使用して、加水分解した基質の量から算出され得る。
【0017】
前記スキームに基づく活性試験の大半は、繊維素を除いた、すなわち、フィブリン単量体のポリマー化を妨げるように処理された血漿試料に実施され、試験を実施する際に得られる最適な測定が乱され得る。しかしながら、この従来の工程は、このタイプの試験の自動化を複雑なものとし、二段階で試験を実施することを必要とする。
【0018】
さらに、従来技術の活性試験は、血漿中のTFPIの量における変化を考慮に入れず、測定されたTFの実際の活性を歪め、かくして、TF測定に関連する患者の血栓形成の可能性に関する不正確な情報を提供する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Valery Daubie, Roland Pochet, Sophie Houard and Pierre Philippart. Tissue factor : a mini-review. J. Tissue Eng Regen Med. 2007 ; 1 : 161 -169.
【非特許文献2】Rudiger Gerlach, Timm Scheuer, Martina Bohm, Jurgen Beck, Alina Woszczyk, Andreas Raabe, Inge Scharrer and Volker Seifert. Increased levels of plasma tissue factor pathway inhibitor in patients with glioblastoma and intracerebral metastases. Neurological Research, 2003 ; Vol 25, 335- 338.
【非特許文献3】Anat Aharon, Benjamin Brenner, Tamar Katz, Yohei Miyagi, Naomi Lanir. Tissue factor and tissue factor pathway inhibitor levels in trophoblast cells : implications for placental hemostasis. Thromb. Haemost. 2004 ; 92 : 776- 86.
【非特許文献4】Nigel Mackman. Role of tissue factor in hemostasis and thrombosis. Blood cells Molecules and Diseases 2006; 36: 104-107.
【非特許文献5】Valery Daubie, Roland Pochet, Sophie Houard, Pierre Philippart. Tissue factor: a mini-review J Tissue Eng Regen Med 2007; 1 : 161 -169.
【非特許文献6】Rachel Tilley, Nigel Mackman. Tissue factor in hemostasis and thrombosis. Semin Thromb and Hemost 2006; 31 : 5-10.
【非特許文献7】Bjarne Osterud, Eirik Bjorklid. Sources of tissue factor. Semin Thromb and Hemost 2006; 32: 11 -23.
【非特許文献8】Arthur J. Chu. Tissue factor mediates inflammation. Archives of Biochem and Biophy 2005; 440: 123-132.
【非特許文献9】Janusz Rak, Chloe Milson, Linda May, Petr Klement, Joanne Yu. Tissue factor in cancer and angiogenesis: The molecular link between genetic tumor progression, tumor neovascularization, and cancer coagulopathy. Semin Thromb and Hemost 2006; 32: 54-70.
【非特許文献10】Pierre-Francois Laterre, Xavier Wittebole, Christine Collienne. Pharmacological inhibition of tissue factor. Semin Thromb and Hemost 2006; 32: 71 -76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、従来技術の試験において遭遇する問題から外れることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的のために、組織因子に対するTFPIの阻害効果を中和する、循環組織因子の活性をアッセイする単一工程アッセイのための方法を提案する。
【0022】
実際、本発明は、フィブリンポリマー化インヒビター及び組織因子に対するTFPIの作用を阻害する化合物の存在下における、生物学的試料中の循環組織因子の活性のインビトロアッセイを実施することからなる。
【0023】
より具体的には、本発明の方法は、試験生物学的試料、フィブリンポリマー化インヒビター、及びTFに対するTFPIの作用のインヒビターによって形成される反応媒体に、過剰な凝固因子VII及びXが添加される際に、循環組織因子の活性によって生成される第Xa因子の測定を可能にする。
【0024】
本発明は、過剰な第VII因子及び第X因子の存在下において第Xa因子を生成する循環組織因子の能力に基づく、循環組織因子の活性の、生物学的試料における、インビトロアッセイを実施する単一工程方法にも関する。
【0025】
本発明の方法を実施する生物学的試料は、個体の試料回収に由来する試料である。
【0026】
前記試料は、好ましくは血液試料、より好ましくは血漿試料である。
【0027】
しかしながら、本発明の方法は、尿試料若しくは脳脊髄液(CSF)又は他の生物学的試料に対して実施してもよい。
【0028】
好ましくは、本発明の方法は、特異的な基質に対する当該因子の加水分解活性の測定によって、形成されるXaの量が測定される、酵素タイプの方法である。
【0029】
特に前記基質は、天然又は合成の、酵素の基質である。好ましくは、第Xa因子のアミド分解活性をアッセイすることができる基質である。特に、発色又は蛍光性基質である。
【0030】
発色タイプの、そのような基質は、例えば、Diagnostica Stago社(他の可能な供給業者:American Diagnostica;Biopep SA;Kabi Vitrum;Biogenic;Biophen;Chromogenix)製のCBS 5244である。
【0031】
生成される第Xa因子の量(及び循環組織因子の活性の測定)は、加水分解された基質の量のアッセイから算出される。
【0032】
前記アッセイは、選択した基質にしたがって決定される読み取りウィンドウにおける、反応混合物の最適な密度の変化を測定することによって実施してよい。
【0033】
本発明の1つの特定の実施態様では、患者から取り出した生物学的試料から得られた血漿を適切な緩衝液で希釈する。
【0034】
前記緩衝液は、例えば、血液凝固試験で頻繁に使用される、オウレン・コーラー(Owren Koller)緩衝液であってよい。
【0035】
得られる希釈物は、試験試料の性質及び使用する基質の感度に依存する。
【0036】
血漿試料の場合には、有利には、1/2から1/20の範囲、好ましくは1/2から1/4の範囲にある。
【0037】
カルシウムイオンは、例えば、CaClの形態で提供される。
【0038】
フィブリンポリマー化インヒビターは、当該技術分野において日常的に使用されている化合物から選択される。
【0039】
特に、前記フィブリンポリマー化インヒビターは、Pentapharm社製のPefablocという商品名で既知のオリゴペプチドGPRP.AcOHなどのポリペプチドインヒビターである。
【0040】
前記インヒビターは、試験血漿の希釈にしたがって選択される、5から25g/Lの濃度で反応媒体中において使用されてよい。例えば、血漿が1/3まで希釈される際は、前記インヒビターは、有利には、10g/Lの濃度、すなわち、0.666g/Lから3.33g/Lの範囲、特に1.332g/Lの終濃度で使用する。
【0041】
Pefablocは本発明の好ましいフィブリンポリマー化インヒビターであるが、例えば抗フィブリノゲン抗体などの他のタイプのインヒビターを使用することもできる。
【0042】
TFPIインヒビターは、循環TFに対するTFPIの阻害効果を阻害する化合物であり、かくして、試料中に存在するTFPIのレベルにおける変化を歪めることがないTFの定量アッセイを可能にする。
【0043】
TFPIインヒビターは、TFPIアンタゴニスト効果を有する任意のタイプの化合物から選択される。好ましくは、抗TFPI抗体又はTFPIに結合する抗体断片であり、前記抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、又は単鎖であってよい。
【0044】
本発明の特定の実施態様にしたがえば、Dagnostica Stagoによって供給されるモノクローナル抗体である、抗体T4E2が使用される。
【0045】
その濃度は、試験試料中に含有されるTFPIの全てを阻害するように選択される。それは、試験試料に応じて、5から500μg/mL(希釈緩衝液中の濃度)で変化し得る。1/3で希釈された血漿試料の場合には、最終的な抗体濃度は好ましくは6.6μg/mLである。
【0046】
本発明の方法にしたがって、反応媒体が、有利には、過剰な第VII因子及び第X因子を含む。上で説明したとおり、組織因子が活性化第VII因子(FVIIa)に結合して第IX因子及び第X因子を活性化する複合体を形成するため、これらの因子を使用して、組織因子の活性を測定することができる。TFの活性は生成される第Xa因子の量によって測定されるため、Xaの特異的な基質の加水分解を測定するために、生成されるXaの量がTFの活性に直接相関するように、第VII因子及び第X因子がその反応を制限してはならない。
【0047】
かくして、これらの因子が過剰に添加され、それらの測定を干渉するリスクを避ける。
【0048】
試験する試料のタイプに依存して、これら2種の因子の各々の終濃度が、有利には、第VII因子については5から20PEU/mg/mLの範囲にあり、第X因子については3から16PEU/mg/mLの範囲にある。
【0049】
本発明の特定の実施態様によれば、試料が1/3に希釈された血漿である際に、第VII因子は137PEU/mg/mLの濃度にあり、第X因子は80PEU/mg/mLの濃度にある(PEU=血漿当量単位)。
【0050】
これらの因子は、精製された又は組換えのものであってよく、ヒト又は動物起源のものであってよい。それらは、例えば、Diagnostica Stago、Enzyme Research Laboratories、又はSigma社によって提供されている。
【0051】
好ましい他の実施態様では、試験する血漿試料は、例えばヘパリン処理を受けた患者に由来する試料のアッセイにおいて、血漿に存在する可能性があるヘパリンから試験を独立したものとするために、ヘパリンインヒビター化合物も含む。
【0052】
この化合物は、例えば、血液凝固試験におけるヘパリンの効果を阻害するために簡便に使用される、ポリブレンである。
【0053】
それは、0.5から10mg/Lの範囲の終濃度で有利に使用される。
【0054】
当業者であれば、選択した試薬にしたがって濃度及び活性を適合させることができるであろう。
【0055】
説明のために、試薬の濃度及び活性が、本願に含まれる目安に対して、±50%、例えば±20%、又は±10%の量まで変化してよいことに注意すべきである。この変化は、他の試薬から独立して、各試薬に関連してよい。
【0056】
特定の実施態様によれば、本発明の方法は、以下のプロトコールを使用して実施される。
【0057】
測定は、Diagnostica Stago社製のSTAの範囲の自動化装置を使用して実施した。
【0058】
血漿試料は、12mg/Lのポリブレン及び50μg/Lの抗TFPI抗体(T4E2)を添加したオウレン・コーラー緩衝液からなる希釈緩衝液で1/3に希釈した。
【0059】
以下の物:
・80PEU/mg/mLの第X因子を含む25μlの溶液(凍結乾燥したフラスコに精製水を入れた:終濃度8PEU/mg/mL);
・137PEU/mg/mLの第VII因子を含む25μlの溶液(凍結乾燥したフラスコに精製水を入れた:終濃度13.7PEU/mg/mL);
・50μlの25mMCaCl溶液
を、50μlの当該混合物に添加した。
【0060】
当該反応媒体を37℃で500秒間にわたってインキュベートした。
【0061】
インキュベーション工程の後に、0.84μMの濃度でCBS5244基質を含む100μlの溶液を添加して、3.36μMの終濃度を与えた(フラスコに精製水を入れた)。
【0062】
組織因子の機能活性を与える検量線を作成するために、以下のもの:
・例えば0.00から44pMのTFを血漿に混入することによって、組織因子を混入した正常な血漿プール(図3);又は
・組織因子を混入したNaCl−CaCl溶液(図3)
を使用した。
【0063】
血漿の各希釈物を1/3の希釈で試験した。
【0064】
44pM、22pM、11pM、5.50pM、2.75pM、及び0pMの活性に相当する血漿プールに添加したTFの濃度が測定される。
【0065】
組織因子の活性は、第Xa因子の合成基質であるCBS52.44で測定した。事実、FVIIの存在下では、TFがFXをFXaに活性化する。FXaのアミド分解活性は、405nmの波長においてパラニトロアニリンの遊離によって測定した。組織因子活性の各値(pM)に相当する光学密度を、405nmの波長において6から600秒の読み取りウィンドウで測定した。
【0066】
次いで、検量上の抗TFPI抗体の効果を測定した(図4及び表1)。
【0067】
【表1】

【0068】
本発明は、
・試験試料、フィブリンポリマー化インヒビター、TFPIインヒビター、及び適当な場合にはヘパリンインヒビターを含む試薬1;
・精製された又は組換えの第VII因子、有利には凍結乾燥されているもの;
・精製された又は組換えの第X因子、有利には凍結乾燥されているもの;
・カルシウムイオン、例えばCaClの形態のもの;
・活性化因子Xの酵素基質、有利には凍結乾燥されているもの;
・適当な場合には、検量試薬、有利には凍結乾燥されているもの
を含む、特に血漿試料中における、循環組織因子の活性を測定するためのキットにも関する。
【0069】
本発明は、本願に記載した循環組織因子の活性の測定を含む、異常な血液凝固のインビトロ検出方法にも関する。前記測定は、各種の生理病理学的な背景で実施されてよい。
【0070】
特に、本発明は、血栓の発生の疑いがあり、かくして、第X因子に対する組織因子の活性の増大をもたらす組織因子の異常な放出が生じる患者の血栓形成の可能性を測定することにも関連してよい。
【0071】
さらに、各種の試験を実施して、子癇前症と正常な妊娠とを区別するために、妊娠の間における複数の血液凝固マーカーの役割を評価した。
【0072】
下記の実施例において報告したとおり、子癇前症を有する女性に由来する血漿において測定される組織因子活性は、正常な妊娠女性及び妊娠していない女性で測定される値よりも大きい。
【0073】
かくして、組織因子は、子癇前症の場合における血管内皮が受ける損傷を評価するための新規生物学的マーカーであってよい。
【0074】
かくして、本発明は、有利には、循環TF活性が本発明にしたがって測定される、妊娠の場合における子癇前症のリスクを評価するための方法を提供する。本発明は、前記方法を実施するためのキットも提供する。
【0075】
同様に、下記の実施例に記載したように、TF活性アッセイ、特に活性TF/遊離TFPI比率は、対照と比較して、活性化TFの数及び活性化TF/遊離TFPI比率の双方が増大する疾患である、例えば急性心筋梗塞(AMI)を観察するための、病態の進展を観察するための新規ツール、及び病態の進展に関して望ましい又は望ましくない予後を確立するための新規ツールを提供する。
【0076】
かくして、本発明は、本発明にしたがって循環TF活性又は循環TF/遊離TFPI比率を測定する、急性心筋梗塞のための予後を観察又は確立するための方法も提供する。本発明は、前記方法を実施するためのキットも提供する。
【0077】
最後に、例えば国際会議(ASH会議 Atlanta USA, 7-11 December 2007, Thrombosis and Haematosis Issues in Cancer, Bergame, Italy 26-28 October 2007)において、最近提示されたデータに示されているように、癌の発生及び発達における組織因子の関与は現在よく認識されている。診断レベルにおいては、TFの活性、特にその増大をアッセイすることは、癌の病態の進展を観察するための新規指標である。
【0078】
かくして、本発明は、有利には、本発明にしたがって循環TF活性を測定する、癌の病態の進展を観察するための方法を提供する。本発明は、前記方法を実施するためのキットも提供する。
【0079】
かくして、組織因子活性のアッセイは、特に流産及び子癇前症、血栓症、敗血症、ガン、炎症、DIVC、糖尿病、血小板減少症などの妊娠合併症のリスクを評価するために、妊娠に関連する各種疾患の評価及び予後にも有利である。また、前記アッセイは、例えばTFPI治療などの抗血栓症治療の評価にも関連してよい。
【0080】
図面及び以下の実施例は、本発明を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、TF濃度の検量線を示す。
【図2】図2は、濃度(ng/mL)とODとの関係を示す。
【図3】図3は、プール及びNaCl−CaClにおける検量を示す。
【図4】図4は、抗TFPI抗体有り又は無しでの検量線を示す。
【図5】図5は、試料の第VII因子の割合に対する感受性を示す。
【図6】図6は、試料の第X因子の割合に対する感受性を示す。
【図7】図7は、試料のTFPIの割合に対する感受性を示す。
【図8】図8は、X ERL−X Stagoの相関関係を示す。
【図9】図9は、死亡又は生存しているMI患者におけるTFの変化を示す。
【図10】図10は、病態血漿における組織因子濃度を示す。
【実施例】
【0082】
血漿の正常な値を推定するために、本発明を使用して、組織因子の活性について、31の正常な血漿をアッセイした。光学密度及び対応するTF活性の割合の測定を下表に記載している。前記測定は、正常な血漿中の組織因子の機能活性の正常な値の指標として解されてよい。
【0083】
【表2】

【0084】
ヘパリンに対する感受性は、上述のアッセイ条件下でアッセイしたTFを混入した(22pM)血漿に対するカルシパリンの濃度を増大させて添加する(0から2IU/mL)ことによって評価した。ヘパリンに対する不感受性試験は、94%超の回収率を示した(表2)。これは、カルシパリンが、TFの機能活性についての低い決定性を有することを示す。
【0085】
【表3】

【0086】
所定の各種の濃度の第VII因子を含むTFを混入させた血漿を、上述の方法を使用してアッセイした。
【0087】
それらは、
・第VII因子欠乏血漿(0%カラム);
・第VII因子を多かれ少なかれ欠乏させたプール由来の血漿(25から87.5%カラム);
・正常プール由来の血漿(100%カラム)
であった。
【0088】
結果(図5及び表3)は、99%以上の回収率とともに、試料中の第VII因子の割合が、TFの機能活性の値に影響を与えないことを示す。
【0089】
【表4】

【0090】
所定の各種濃度の第X因子を含有するTF混入血漿を、上述の方法を使用してアッセイした。
【0091】
それらは、
・第X因子欠乏血漿(0%カラム);
・第X因子を多かれ少なかれ欠乏させたプールに由来する血漿(25から87.5%カラム);
・正常プールに由来する血漿(100%カラム)
であった。
【0092】
結果(図6及び表4)は、99%以上の回収率とともに、サンプル中の第X因子の割合がTFの機能活性の値に影響を与えないことを示す。
【0093】
【表5】

【0094】
所定の各種濃度のTFPIを含有するTF混入血漿を、上述の方法を使用してアッセイした。
【0095】
それらは、
・TFPI欠乏血漿(0%カラム);
・TFPIを多かれ少なかれ欠乏させたプールに由来する血漿(25から87.5%カラム);
・正常プールに由来する血漿(100%カラム)
であった。
【0096】
結果(図7及び表5)は、93%以上の回収率とともに、サンプル中のTFPIの割合がTFの機能活性の値に影響を与えないことを示す。
【0097】
【表6】

【0098】
例として、各種の病態において、
・TF活性の測定を、症状を有しない対象の群に対して実施し、心筋梗塞(MI)の患者の関連群について入院日に実施した。前記群は、良好な予後を有する対象及び梗塞の数日後に死亡した患者に分類した(MI DCD)。TF割合は正常な対象よりもMI患者において顕著に大きく、死亡した患者において実質的により大きかった(図9);
・循環TF活性を、癌、流産:胎児を亡くした段階に依存して3.65±1.35から3.92±1.29、ヘパリンによって誘導された血小板減少症(HIT):6.33±2.10pM;CIVD:2.81±1.52pM、重度の糖尿病:2.98±0.99pM;及びループス:1.95±0.82pMなどの他の血栓症の病態又は妊娠の間、特に、子癇前症:正常な妊娠の間の1.98±1.35pMと比較して3.58±1.34pMなどの妊娠合併症の間においてもアッセイした。全ての測定によって、TF活性の顕著な増大が示されている(図10);
・再現性の測定:
測定の再現性を試験して、以下の値を得た:
【表7】

・症状を有する患者の血漿に対する第X因子(ERL及びStago)の複数の測定の相関は、図8に示すとおり、以下の結果をもたらした:
【表8】

・American Diagnostic由来の組織因子の割合(pM)を本発明にしたがって測定した。
【0099】
再構成後のNeo−Rフラスコ中の6.2nMのTFの濃度に基づいて、Neo−R Stago(単一試験)から得られた範囲にわたって結果を読取った。
【0100】
【表9】

(参考文献)
1. Valery Daubie, Roland Pochet, Sophie Houard and Pierre Philippart. Tissue factor : a mini-review. J. Tissue Eng Regen Med. 2007 ; 1 : 161 -169.
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9. Janusz Rak, Chloe Milson, Linda May, Petr Klement, Joanne Yu. Tissue factor in cancer and angiogenesis: The molecular link between genetic tumor progression, tumor neovascularization, and cancer coagulopathy. Semin Thromb and Hemost 2006; 32: 54-70.
10. Pierre-Francois Laterre, Xavier Wittebole, Christine Collienne. Pharmacological inhibition of tissue factor. Semin Thromb and Hemost 2006; 32: 71 -76.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化第X因子(Xa)の生成が、試験される生物学的試料、過剰な第VII因子及び第X因子、カルシウムイオン、フィブリンポリマー化インヒビター、及びTFPI(組織因子経路インヒビター)活性インヒビターを含む反応媒体中で測定される、患者の事前試料回収に由来する生物学試料中の循環組織因子(cTF)の活性のインビトロアッセイ方法。
【請求項2】
前記生物学的試料が、血液試料又はその派生物、特に血漿試料であることを特徴とする、請求項1に記載の循環組織因子活性のインビトロ測定のための方法。
【請求項3】
前記反応媒体中における第Xa因子の生成が、特異的な基質に対する前記因子の加水分解活性を測定することによって測定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記特異的な基質が酵素基質であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
活性化第X因子(FXa)のアミド分解活性が、発色又は蛍光性基質を使用してアッセイされることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
合成発色基質であるCBS5244によるパラニトロアニリンの遊離が測定されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応媒体が、適当な緩衝液、例えばオウレン・コーラー緩衝液で希釈された血漿を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記血漿が、1/2から1/20の希釈範囲、例えば1/2から1/4の希釈範囲で希釈され、特に前記血漿が1/3に希釈されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フィブリンポリマー化インヒビターが、ポリペプチドインヒビター、例えば、H-GlyProArgPro-OH.AcOH (GPRP.AcOH)又は抗フィブリノゲン抗体であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
凝固の開始に必要なカルシウムイオンがCaClの形態で供給されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記循環組織因子に対するTFPIの活性のインヒビターが、循環組織因子に対するTFPIの活性を阻害することができる、抗TFPI抗体又はTFPIに結合する機能性抗体断片によって構成されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記TFPIインヒビターが、モノクローナルT4E2抗体又は前記抗体の機能性断片である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
a)フィブリンポリマー化インヒビター、cTFに対するTFPIの活性のインヒビター、適当な場合には希釈緩衝液を含む試薬1と血漿試料を接触させる工程;
b)活性化第X因子(FXa)を生成するために、過剰な第X因子、過剰な第VII因子、及びカルシウムイオンを溶液中に含む試薬2と、工程a)で構成された反応媒体をインキュベートする工程;
c)インキュベートの後に、活性化第X因子(FXa)の酵素基質と工程b)で構成された反応媒体を接触させる工程;
d)第Xa因子基質の変化を検出する工程
を含む、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記試薬1が、ヘパリンインヒビター、例えばポリブレンも含むことを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
1.2mg/Lのポリブレン及び50μg/Lの抗TFPI抗体を添加したオウレン・コーラー緩衝液で前記血漿試料を1/3に希釈することを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
第Xa因子の酵素基質の変化の定量測定が、所定のウィンドウで光学密度を読み取ることによって実施されることを特徴とする、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
変化した第Xa因子基質の量が、検量線を参照してアッセイされることを特徴とする、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記反応が、以下の条件:
・工程a)に関して、オウレン・コーラー緩衝液で1/3に希釈した血漿試料を、50μg/Lの抗TFPI抗体及び1.2mg/Lのポリブレン並びに10g/Lの濃度のGPRP.AcOHと示されるフィブリンポリマー化インヒビターと接触させる;
・工程b)に関して、80PEU/mg/mLの割合の25μlの第X因子、137PEU/mg/mLの割合の25μlの第VII因子、及び50μlの25mM CaCl溶液を工程a)の混合物50μlに添加し、得られた反応混合物を37℃で500秒間にわたってインキュベートする;
・工程c)に関して、活性化第X因子の酵素基質の溶液100μlを添加して、405nmの波長で6から600秒の読み取りウィンドウで光学密度を読み取ることによって、変化した酵素基質の量を測定する、
で実施されることを特徴とする、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
内部対照をアッセイする工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
得られた光学密度の値を、組織因子を混入させた正常血漿のプール又は組織因子を混入させたNaCl−CaCl溶液を使用して調製した検量線のものと比較することを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
・試験する試料のための希釈緩衝液、フィブリンポリマー化インヒビター、TFPIインヒビター、及び適当な場合にはヘパリンインヒビターを含む試薬1;
・精製されたか又は組換えの第VII因子、有利には凍結乾燥されたもの;
・精製されたか又は組換えの第X因子、有利には凍結乾燥されたもの;
・カルシウムイオン、例えば、CaClの形態のもの;
・活性化第X因子の酵素基質、有利には凍結乾燥されたもの;
・適当な場合には検量試薬、有利には凍結乾燥されたもの
を含む、生物学的試料、特に血漿試料で生物学的媒体中の循環組織因子の活性を測定するためのキット。
【請求項22】
前記試料希釈緩衝液がオウレン・コーラー緩衝液であり、前記へパリンインヒビターがポリブレンであり、かつ、前記フィブリンポリマー化インヒビターがH-GlyProArgPro-OH.AcOH (GPRP.AcOH)又は抗フィブリノゲン抗体であることを特徴とする、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
内部対照をさらに含むことを特徴とする、請求項21又は22に記載のキット。
【請求項24】
第Xa因子の活性のための検量線を含むことを特徴とする、請求項21から23のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
請求項1から20のいずれか一項に記載のとおりに循環組織因子の活性を測定する工程を含む、異常な凝固のインビトロ検出方法。
【請求項26】
測定された循環組織因子の活性を前記活性の正常値と比較する工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記正常値が、正常な血漿試料のプールにおける循環組織因子の活性をアッセイした後に得られる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記正常値が、個々にアッセイされた正常な血漿試料で測定された循環組織因子の活性の値から確立される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
血栓症のリスク又は血栓症、特に、急性心筋梗塞(AMI)、急性冠不全症候群、播種性血管内凝固症候群(DIVC)、糖尿病、子癇前症、流産、血栓症、敗血症、炎症、又は癌の症状と関連する循環組織因子の割合における増大を検出するための、請求項25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
血栓症のリスク又は血栓症、特に、急性心筋梗塞(AMI)、急性冠不全症候群、播種性血管内凝固症候群(DIVC)、糖尿病、子癇前症、流産、血栓症、敗血症、炎症、又は癌の症状と関連する循環組織因子の割合における増大を検出するための、請求項20から25のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−527897(P2011−527897A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517936(P2011−517936)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059182
【国際公開番号】WO2010/007140
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(508328800)
【Fターム(参考)】