説明

微多孔性フィルムの製造方法、及び電池用セパレータ

【課題】微多孔性フィルム前駆体の熱処理時間を短縮しても透過性の良好な微多孔性フィルムを製造することが可能な微多孔性フィルムの製造方法。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂組成物から形成される微多孔性フィルムの製造方法であって、(1)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融状態でシート状に押し出すと共に、ドロー比10〜300で引き取り、微多孔性フィルム前駆体を形成し、(2)微多孔性フィルム前駆体を熱処理し、熱処理フィルムを形成し、(3)熱処理フィルムを−20℃以上100℃未満の温度で冷延伸し、100℃以上170℃未満の温度で熱延伸して微多孔性フィルムを形成し、(2)における熱処理が、微多孔性フィルム前駆体を140℃≦TA1≦160℃である温度TA1(℃)で熱処理する工程と、その後に、TA1−40℃≦TA2<TA1である温度TA2(℃)で熱処理する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルムの製造方法、及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に使用されており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途として使用されている一方で、ハイブリッド電気自動車等への応用も図られている。
【0003】
リチウムイオン電池では、電解液として活性の高い有機溶媒を使用することに起因して、有機溶媒との反応性が低く、かつ、製造費用の安いポリオレフィン系樹脂が電池用セパレータに用いられる場合が多い。現在市販されているポリオレフィン系樹脂を用いたセパレータとして用いられる微多孔性フィルムを製造する方法は、溶剤を使用する湿式法と溶剤を使用しない乾式法とに大別される。また、これらの方法で微多孔を形成するのに関連する延伸工程としては、1軸法及び2軸法が挙げられる。
【0004】
乾式法は、湿式法に比べて、まず広幅の原反フィルムの製造が可能であり、生産工程が比較的に容易であり、溶剤を使用しないので優れた製造環境を有することができ、かつ、大量生産が容易であるという長所を有する。
乾式法を用いて微多孔性フィルムを製造する方法は、熱処理(アニール)された原反フィルムを初期に冷延伸し、連続的に高温延伸する工程を含む。一般にこのような工程は、高い結晶化度及び弾性を有する原反フィルムを、冷延伸工程を経て、連続的に高温延伸することによって、微多孔性フィルムを形成した後、熱固定によって膜形成を完成する一連の工程を含む。
【0005】
例えば、特許文献1では、乾式法を用いて作製した、高結晶性ポリプロピレンを使用した微多孔性フィルム及びそれを用いた電池用セパレータが提案されている。また、特許文献2では、特定の重量平均分子量を有するポリプロピレンから形成される積層微多孔性フィルムが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特表2003−519723公報
【特許文献2】特許第3939778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、電池用セパレータである微多孔性フィルムは、微多孔性フィルム前駆体を長時間熱処理することで結晶化状態を高め、延伸開孔することにより製造される。この長時間の熱処理は、電池用セパレータに用いられる微多孔性フィルムとして高い透過性を得るために重要な要素であるが、熱処理工程の処理時間を長くすることは、生産効率を低下させる等、改善の余地がある。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、微多孔性フィルム前駆体の熱処理時間を短縮しても透過性の良好な微多孔性フィルムを製造することが可能な、微多孔性フィルムの製造方法、及びその製造方法により得られた微多孔性フィルムからなるセパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の条件にて熱処理を行い、その後延伸多孔化を施すことにより、リチウムイオン二次電池用セパレータとして利用するのに好適な透過性を有する微多孔性フィルムを効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ポリオレフィン樹脂組成物から形成される微多孔性フィルムの製造方法であって、
(1)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融状態でシート状に押し出すと共に、ドロー比2〜500で引き取り、微多孔性フィルム前駆体を形成する工程と、
(2)前記微多孔性フィルム前駆体を熱処理し、熱処理フィルムを形成する工程と、
(3)前記熱処理フィルムを−20℃以上100℃未満の温度で冷延伸し、100℃以上170℃未満の温度で熱延伸して微多孔性フィルムを形成する工程と、
を含み、
前記(2)の工程における熱処理が、前記微多孔性フィルム前駆体を下記式(A):
140℃≦TA1≦160℃ ・・・(A)
で表される条件を満足する温度TA1(℃)で熱処理する第1熱処理工程と、当該第1熱処理工程の後に、下記式(B):
A1−40℃≦TA2<TA1 ・・・(B)
で表される条件を満足する温度TA2(℃)で熱処理する第2熱処理工程と、を含む微多孔性フィルムの製造方法。
[2]前記ポリオレフィン樹脂組成物が、ポリプロピレン樹脂を主成分として含む、[1]の製造方法。
[3]前記ポリオレフィン樹脂組成物が、更にポリフェニレンエーテル樹脂を含む、[1]又は[2]の製造方法。
[4][1]〜[3]のいずれか一つの製造方法により得られた微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、微多孔性フィルム前駆体の熱処理時間を短縮しても透過性の良好な微多孔性フィルムを製造することが可能な、微多孔性フィルムの製造方法、及びその製造方法により得られた微多孔性フィルムからなるセパレータが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態の微多孔性フィルムの製造方法は、ポリオレフィン樹脂組成物から形成される微多孔性フィルムの製造方法であって、(1)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融状態でシート状に押し出すと共に、ドロー比10〜300で引き取り、微多孔性フィルム前駆体を形成する工程と、(2)前記微多孔性フィルム前駆体を熱処理し、熱処理フィルムを形成する工程と、(3)前記熱処理フィルムを−20℃以上100℃未満の温度で冷延伸し、100℃以上170℃未満の温度で熱延伸して微多孔性フィルムを形成する工程とを含み、前記(2)の工程における熱処理が、前記微多孔性フィルム前駆体を下記式(A):
140℃≦TA1≦160℃ ・・・(A)
で表される条件を満足する温度TA1(℃)で熱処理する第1熱処理工程と、当該第1熱処理工程の後に、下記式(B):
A1−40℃≦TA2<TA1 ・・・(B)
で表される温度TA2(℃)で熱処理する第2熱処理工程とを含む。
【0013】
前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂を主成分として含むことが好ましい。本実施の形態において「主成分」とは、特定の成分が、マトリックス成分(成分全体)中に占める割合として、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは100質量%すなわち全量、であることを意味する。
また、ポリプロピレン樹脂とは、その原料モノマーの主成分がプロピレンであるポリマーをいう。ポリプロピレン樹脂としては、例えば、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーが挙げられる。ポリプロピレン樹脂は、1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。透気性及び破膜温度の観点から、ポリプロピレン樹脂はホモポリマーであることが好ましい。ポリプロピレン樹脂の重合触媒にも特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒及びメタロセン系の触媒が挙げられる。また、ポリプロピレン樹脂の立体規則性も特に制限はなく、アイソタクチック又はシンジオタクチックのいずれのポリプロピレン樹脂も用いられる。
【0014】
ポリプロピレン樹脂は、いかなる結晶性及び融点を有するものであってもよく、得られる微多孔性フィルムの物性及び用途に応じて、異なる性質を有する2種類のポリプロピレン樹脂を特定の配合比率で配合したものであってもよい。
【0015】
本実施の形態で用いるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.1〜80g/10分である。ポリプロピレン樹脂のMFRは、ポリオレフィン樹脂組成物がポリフェニレンエーテル樹脂を含む場合にそのポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が良好であり、また、微多孔性フィルムに加工する際にフィルムが破断しないこと等の成形性の観点から、上記範囲であることが好ましい。
【0016】
本実施の形態で用いるポリプロピレン樹脂としては、上述のポリプロピレン樹脂の他に、例えば、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。さらに、ポリプロピレン樹脂は、上述のポリプロピレン樹脂と該変性ポリプロピレン樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0017】
本実施の形態に係るポリオレフィン樹脂組成物は、更にポリフェニレンエーテル樹脂を含むことが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、下記一般式(α)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
ここで、式(α)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基、からなる群より選ばれる基を示す。
【0020】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール及び2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中では、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、並びに、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂は、1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0021】
なお、上記ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、ポリフェニレンエーテル樹脂を好ましくは5〜90質量部含有し、より好ましくは10〜80質量部、更に好ましくは20〜65質量部含有する。ポリフェニレンエーテル樹脂の含有割合を上記範囲に設定することは、得られる微多孔性フィルムの延伸性の観点から好適である。
【0022】
ポリオレフィン樹脂組成物には、必要に応じて、他の付加的成分、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物などの混和剤、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等のうち1種又は2種以上を含有してもよい。これらの付加的成分がポリオレフィン樹脂組成物中に占める割合としては、本発明による課題の解決を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0023】
上記(1)の工程において、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融状態でシート状に押し出す方法としては、例えば、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、及びスカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。中でも、本実施の形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出成形が好ましい。より具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂組成物のペレットを押出機に供給し、好ましくは200℃〜350℃、より好ましくは260℃〜320℃の温度でT型ダイよりシート状に押し出す方法が挙げられる。
【0024】
ドロー比、すなわち、シートの巻取速度(単位:m/分)を原料樹脂の押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、2〜500、好ましくは10〜300、より好ましくは100〜350である。また、フィルムを巻き取る際のフィルムの巻取速度は、好ましくは2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分である。
ドロー比を上記範囲とすることは、得られる微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。
【0025】
上記(2)の工程における熱処理方法としては、例えば、微多孔性フィルム前駆体を加熱ロール上に接触させる方法、加熱気相中に曝す方法、微多孔性フィルム前駆体を芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びに、これらを組み合わせて行う方法が挙げられる。
【0026】
ここで、上記(2)の工程において、熱処理は、更に第1熱処理工程と第2熱処理工程とを含む。
第1熱処理工程における熱処理温度TA1(℃)は、140℃以上、好ましくは145℃以上であり、160℃以下、好ましくは155℃以下である。また、第2熱処理工程における熱処理温度TA2(℃)は、(TA1−40)℃以上、好ましくは(TA1−30)℃以上であり、TA1℃以下、好ましくは(TA1−5)℃以下である。熱処理条件をこのような範囲に設定することは、後述する延伸工程において、マトリックス領域に微細孔が形成しやすくなる傾向となり好ましい。また、第1熱処理工程において、上記温度範囲にて熱処理を行うことは、例えば、ポリプロピレン樹脂を用いた場合、ラメラ結晶が溶融せず安定に存在できる傾向となるため好ましい。更に、第2熱処理工程において、上記温度範囲にて熱処理を行うことは、安定して存在するラメラ結晶の成長をより促進させる傾向となるため好ましい。
(2)の工程は、第2熱処理工程の後に、更に1つ又は2つ以上の熱処理工程を含んでもよい。それらの工程における熱処理温度は、その直前の熱処理工程における熱処理温度よりも低いと、安定して存在するラメラ結晶の成長をより促進させる傾向となるため好ましい。
【0027】
上記(3)の工程において、冷延伸する際の延伸温度は、−20℃以上100℃未満、好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。−20℃以上で延伸することは、フィルム破断を抑制する傾向となり好ましく、100℃未満で延伸すれば、得られる微多孔性フィルムの透気性がより向上する傾向となるため好ましい。ここで、冷延伸の延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
また、冷延伸時の延伸倍率は、少なくとも一方向に、好ましくは1.05倍〜5.0倍、より好ましくは1.1倍〜2.0倍である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向となり好ましく、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向となり好ましい。なお、フィルムの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、フィルムの押し出し方向(以下「MD方向」という。)にのみ一軸延伸を行う。
【0028】
一方、(3)の工程において、熱延伸する際の延伸温度は、100℃以上170℃未満、好ましくは110℃以上160℃未満の温度である。100℃以上で延伸することは、フィルム破断を抑制する傾向となり好ましく、170℃未満で延伸すれば、得られる微多孔性フィルムの透気性がより向上する傾向となるため好ましい。ここで、熱延伸の延伸温度は熱延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
また、熱延伸時の延伸倍率は、少なくとも一方向に、好ましくは1.05倍〜5.0倍、より好ましくは1.1倍〜2.0倍である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向となり好ましく、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向となり好ましい。なお、フィルムの熱延伸は、一方向に行う方が好ましいが、二方向に行ってもよい。
【0029】
このように、2段階以上の工程(冷延伸工程及び熱延伸工程)で延伸することは、透気度を向上させる観点から好ましい。また、微多孔性フィルムの透過性を向上させる観点から、熱延伸工程の温度を上記TA1よりも低い温度に設定することが好ましい。このような温度範囲で延伸することは、透過性を発現する要因の1つである原料樹脂のラメラ結晶を安定に維持しつつ延伸し得るため好ましい。
【0030】
本実施の形態の製造方法においては、例えば、寸法安定性を向上させることを目的として、得られた微多孔性フィルムを、例えば、120〜190℃の温度で熱固定する工程を更に含んでもよい。
【0031】
本実施の形態の製造方法により得られる微多孔性フィルムは、他の樹脂フィルムと積層して、積層フィルムを構成してもよい。そのような他の樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂からなる微多孔性フィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の飽和ポリエステル樹脂からなる微多孔性フィルムが挙げられる。好ましくは、得られる積層フィルムに要求される物性や用途の観点から、JIS K−7121準拠の方法で測定した融点が110℃〜150℃の樹脂を含む微多孔性フィルムと、本実施の形態に係る微多孔性フィルムとを積層した微多孔性の積層フィルムである。上記融点が110℃〜150℃の樹脂を含む微多孔性フィルムと、本実施の形態に係る微多孔性フィルムとを積層した微多孔性フィルムは、電池用セパレータとして用いた際、電池の安全性が飛躍的に向上する。上記融点が110℃〜150℃の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂が挙げられ、より具体的には、例えば、いわゆる高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンが挙げられる。
【0032】
また、上記他の樹脂フィルムは、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ及びタルク等の充填剤を含んでもよい。さらに、積層フィルムは2層以上のフィルム(層)から構成されていればよく、本実施の形態に係る微多孔性フィルム及び他の樹脂フィルムのいずれが積層フィルムの表面層として存在してもよい。
【0033】
積層フィルムの製造方法としては、例えば、Tダイ又はサーキュラーダイを用いた共押出法、各樹脂フィルム(層)を別々に押出成形した後に貼合するラミネート法、別々に多孔化したフィルムを貼合するラミネート法が挙げられる。
【0034】
本実施の形態に係る微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的には、リチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用できる。その他、各種分離膜としても用いられる。
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りのない限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び各種特性の評価方法は下記の通りである。
【0036】
[原材料]
(1)ポリプロピレン樹脂
ポリプロピレン樹脂として、メルトフローレートが0.4g/10minのホモポリマーを用いた。
(2)ポリフェニレンエーテル樹脂
ポリフェニレンエーテル樹脂として、2,6−キシレノールを酸化重合して得た還元粘度0.54のものを用いた。
(3)混和剤
混和剤として、ポリスチレン(i)−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレン(ii)の構造を有し、結合スチレン量43%、数平均分子量95000、水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計量80%、ポリスチレン(i)の数平均分子量30000、ポリスチレン(ii)の数平均分子量10000、ポリブタジエン部の水素添加率99.9%のスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を用いた。
【0037】
[評価方法]
(1)厚み(μm)
厚みは、ダイヤルゲージ(尾崎製作所:「PEACOCK No.25」(商標))にて測定した。
(2)透気度(sec/100cc)
透気度は、JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて測定した。なお、膜厚を20μmに換算した値を示した。
(3)気孔率(%)
気孔率は、10cm角のサンプルを採取し、その体積と質量とから次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積(cm3)−質量(g)/樹脂組成物の密度)/体積(cm3)×100
(4)メルトフローレート
JIS K−7120に準じて測定した(温度230℃、2.16kgの荷重下)。
【0038】
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂100質量部、ポリフェニレンエーテル樹脂11質量部、混和剤3質量部を、温度260〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定した、第一原料供給口及び第二原料供給口(押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機を用い、押出機の第一原料供給口からポリフェニレンエーテル樹脂を、また第二原料供給口からポリプロピレン樹脂と混和剤を押出機に供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。この樹脂組成物の密度は、0.93g/cm3であった。
上記のようにして得た熱可塑性樹脂組成物のペレットを、口径20mm、L/D=42の260℃に設定した2軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚2.5mmのTダイから押し出した後、直ちに溶融した樹脂に30℃の冷風を当て、110〜120℃に冷却したキャストロールで引き取り、微多孔性フィルム前駆体を成形した。
この微多孔性フィルム前駆体を、温度TA1=150℃で10分間、温度TA2=130℃で5分間熱処理し、熱処理フィルムを得た。次いで、その熱処理フィルムを、25℃の温度で1.2倍に一軸延伸(MD方向、以下同様。)した後、この延伸フィルムを更に、130℃の温度で2.4倍に一軸延伸(MD方向、以下同様)して微多孔性フィルムを得、さらにその微多孔性フィルムに対して150℃で熱固定を行った。熱固定後の微多孔性フィルムに対して、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
表1に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にして、微多孔性フィルムを得た。なお、実施例4においては、第2熱処理工程の後、更に第3熱処理工程を設けている。得られた微多孔性フィルムに対して、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、熱処理(アニール)工程に特定の温度条件を採用する実施例の製造方法においては、比較例の製造方法と比較して、透気度に優れた微多孔膜を効率よく製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の微多孔性フィルムの製造方法により得られた微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的には、リチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用でき、その他、各種分離膜としても用いられるので、それらの分野において産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂組成物から形成される微多孔性フィルムの製造方法であって、
(1)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融状態でシート状に押し出すと共に、ドロー比2〜500で引き取り、微多孔性フィルム前駆体を形成する工程と、
(2)前記微多孔性フィルム前駆体を熱処理し、熱処理フィルムを形成する工程と、
(3)前記熱処理フィルムを−20℃以上100℃未満の温度で冷延伸し、100℃以上170℃未満の温度で熱延伸して微多孔性フィルムを形成する工程と、
を含み、
前記(2)の工程における熱処理が、前記微多孔性フィルム前駆体を下記式(A):
140℃≦TA1≦160℃ ・・・(A)
で表される条件を満足する温度TA1(℃)で熱処理する第1熱処理工程と、当該第1熱処理工程の後に、下記式(B):
A1−40℃≦TA2<TA1 ・・・(B)
で表される条件を満足する温度TA2(℃)で熱処理する第2熱処理工程と、を含む微多孔性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂組成物が、ポリプロピレン樹脂を主成分として含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂組成物が、更にポリフェニレンエーテル樹脂を含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られた微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。

【公開番号】特開2012−179798(P2012−179798A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44240(P2011−44240)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】