説明

微多孔膜、及びその製造方法及び使用方法

本発明は電池のセパレータフィルムとして使用するのに好適なポリマー微多孔膜に関する。本発明はまたこのような膜の製造方法、このような膜をセパレータとして有する電池、このような電池の製造方法、及びこのような電池の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、2010年1月13日に出願の米国予備特許出願第61/294,657号、及び2010年2月12日に出願のヨーロッパ特許出願第10153506.0号に基づく優先権を主張する。これらの各々の内容は全て参照により本明細書に組み入れる。
【関連出願の相互参照】
【0002】
本願は、2009年12月18日に出願の米国予備特許出願第61/287,919号(2009EM327)に関連する。この出願の開示は全て参照により本明細書に組み入れる。
【技術分野】
【0003】
本発明は電池のセパレータフィルムとして使用するのに好適な多層ポリマー微多孔膜に関する。本発明はまたこのような膜の製造方法、このような膜をセパレータとして有する電池、このような電池の製造方法、及びこのような電池の使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
微多孔膜は、例えば一次及び二次のリチウム電池、リチウムポリマー電池、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛二次電池等の電池セパレータフィルム(BSF)として用いることができる。ポリオレフィン微多孔膜を電池セパレータ、特にリチウムイオン電池のセパレータに用いる場合、膜特性は電池の特性、生産性及び性能に著しく影響する。従って、微多孔膜は比較的高いメルトダウン温度を有し、電池(特に過充電又は急速放電のような条件下で比較的高温にされられる電池)の製造条件及び使用条件下で電気化学的に安定であるのが望ましい。
【0005】
比較的高いメルトダウン温度を有する電気化学的に安定な微多孔膜はポリプロピレンから製造されてきた。例えばJP 10-279718 Aは、ポリプロピレンを含有する外層を有し、外層のポリプロピレン含有量が80〜100重量%の範囲内である多層微多孔膜を開示している。これらの膜は比較的高いメルトダウン温度及び電気化学的安定性を有するが、外層中の多量のポリプロピレンにより膜の電解質親和性が低下するだけでなく、膜の水分保持特性が大きくなるので望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、電気化学的安定性、高いメルトダウン温度、高い電解質親和性及び低い水分保持特性のバランスが改善された微多孔膜が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、(a) 6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%(第一の層の重量を基準として)を含有する第一の層と、(b) ポリオレフィンを含有する第二の層と、(c) 6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%(第三の層の重量を基準として)を含有する第三の層とを含有し、微多孔であり、かつ前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置することを特徴とする膜に関する。
【0008】
本発明の別の実施形態は、
(a) 第一の希釈剤と第一のポリマーとを含有する第一の混合物であって、前記第一のポリマーが6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%(第一のポリマーの重量を基準として)を含有する第一の混合物を生成し、
(b) 第二の希釈剤及び第二のポリマーを含有する第二の混合物を生成し、
(c) 第三の希釈剤と第三のポリマーとを含有する第三の混合物であって、前記第三のポリマーが6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%(第三のポリマーの重量を基準として)を含有する第三の混合物を生成し、
(d) 前記第一の混合物を含有する第一の層と、前記第三の混合物を含有する第三の層と、前記第二の混合物を含有する第二の層とを有し、前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置するシートを形成し、
(e) 前記シートから前記第一〜第三の希釈剤の少なくとも一部を除去することを特徴とする微多孔膜の製造方法に関する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態は、正極と、負極と、電解質と、前記正極と前記負極との間に位置する少なくとも一つのセパレータとを具備する電池であって、前記セパレータは実質的に等しい膜厚を有する第一の層及び第三の層と、前記第一の層と前記第三の層との間に位置する第二の層とを有し、前記第一の層及び前記第三の層の各々は、場合に応じて第一の層又は第三の層の重量を基準として、(i) 5.0×105以上のMw、約2.0〜6.0の範囲内のMWD、及び90.0 J/g以上のΔHmを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%と、(ii) 1.0×106以下のMwを有する第一のポリエチレン15.0〜60.0重量%と、(iii) 1.0×106超のMwを有する第二のポリエチレン45.0重量%以下とを含有し、前記第二の層は、第二の層の重量を基準として、(i) 55.0〜75.0重量%の前記第一のポリエチレンと、(ii) 25.0〜45.0重量%の前記第二のポリエチレンとを含有することを特徴とする電池に関する。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態は、アイソタクチックポリプロピレンを含有する第一の層と、ポリオレフィンを含有する第二の層と、アイソタクチックポリプロピレンを含有する第三の層とを有する膜であって、(i) 微多孔であり、(ii) 前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置し、(iii) 1.0×102 mAh以下の電気化学的安定性、170.0℃以上のメルトダウン温度、3.0×102秒以下の電解液の注液速度、及び膜の重量を基準として10.0重量%以下の固有吸水量を有することを特徴とする膜に関する。
【0011】
上記いずれかの実施形態による膜は、例えばリチウムイオン電池のセパレータフィルムとして使用することができる。
【0012】
任意に、上記いずれかの実施形態による膜は、6.5×102秒/100 cm3/20 μm以下の規格化された透気度、25%以上の空孔率、2.0×103 mN/20μm以上の規格化された突刺強度、8.5×104 kPa以上のMD方向の引張強度、8.0×104 kPa以下のTD方向の引張強度、50.0%以上のMD方向の引張伸度、50.0%以上のTD方向の引張伸度、2.5×102秒以下の電解液の注液速度、及び50.0 mAh以下の電気化学的安定性の一つ以上を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1は、膜の電気化学的安定性と膜の外層中のポリプロピレンの相対濃度との関係を示す。6.0×105以上の重量平均分子量を有するアイソタクチックポリプロピレンの値は黒い菱形で表し、6.0×105未満の重量平均分子量を有するポリプロピレンの値は黒い四角で表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、一部にはポリマー(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン)を含有する多層微多孔膜の発見に基づく。膜は、6.0×105以上の重量平均分子量(Mw)を有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%を含有する外層を有する。このような膜は、親水化後処理の必要なしに、電池セパレータフィルムとして使用するのに好適な電解質親和性(電解液の注液速度により測定)を有することが分った。親水化後処理は、膜の吸水量を増大させるので望ましくない。本発明の膜は、85.0重量%超のポリプロピレンを含有する外層を有する従来の微多孔膜と同様のメルトダウン温度及び電気化学的安定性を有する。しかし、このような従来の微多孔膜は、所望の電解質親和性レベルに達するのに親水化後処理を必要とする。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲では、用語「ポリマー」は、複数の高分子化合物(一種以上のモノマーからなる繰り返し単位を有する高分子化合物)を含む組成物を意味する。高分子化合物は異なる大きさ、分子構造、原子含有量等を有していても良い。用語「ポリマー」はコポリマー、ターポリマー等のような高分子化合物を含む。「ポリエチレン」は50%(数基準)以上のエチレン系繰り返し単位を含有するポリオレフィンを意味し、好ましくはポリエチレンホモポリマー及び/又はポリエチレンコポリマー(繰り返し単位の少なくとも85%(数基準)がエチレン単位)である。「ポリプロピレン」は50%(数基準)超のプロピレン系繰り返し単位を含有するポリオレフィンを意味し、好ましくはポリプロピレンホモポリマー及び/又はポリプロピレンコポリマー(繰り返し単位の少なくとも85%(数基準)がプロピレン単位)である。用語「アイソタクチックポリプロピレン」は、約50.0モル%以上、好ましくは96.0モル%以上のメソペンタッド分率(mmmm)を有するポリプロピレンを意味する。「微多孔膜」は微細孔を有する薄いフィルムであり、フィルムの細孔の90.0体積%以上は0.01〜10.0μmの平均径を有する微細孔である。
【0016】
多層微多孔膜の構造及び組成
一実施形態では、微多孔膜は第一の層と、第三の層と、前記第一の層と前記第三の層との間に位置する第二の層とを有する。第一の層及び第三の層は第一の層材料からなり、第二の層は第二の層材料からなる。第一の層材料は、その重量を基準として40.0〜85.0重量%のポリプロピレンを含有し、前記ポリプロピレンは6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレンである。第二の層材料は、例えばポリオレフィンを含有する。一実施形態では、膜の第一の層は外層(すなわち「スキン」層)、例えば、製造したままの膜の長さ及び幅に沿った面内の軸にほぼ垂直な軸上で上から見たとき平面状の上層である。任意に、第三の層は外層、例えば上層に平行又はほぼ平行な平面状の下層である。任意に、微多孔膜は、第二の層(コア層)が第一の層及び第三の層の両方に接した三層膜であり、例えばA/B/Aのように各層が面接触した積層構造を有する。3層より多い膜も、第一の層材料からなる対向層と、対向層の間に位置する中間層とを有し、前記中間層が第二の層材料からなる膜であれば、本発明の範囲内である。膜は、例えば2つのスキン層及びコア層の他に、追加の層を有しても良い。膜は、第一の層と第三の層との間に追加のコア層を有しても良い。膜は被覆膜でも良く、すなわち、第一の層及び第三の層上に一つ以上の追加の層を有しても良い。一般に、第二の層は膜全体の50.0%以上、例えば70.0〜90.0%の範囲内の膜厚を有し、第一の層及び第三の層は同じ膜厚を有する。第一の層及び第三の層の各々の膜厚は膜全体の5.0〜15.0%の範囲内である。第一の層及び第三の層は実質的に同じ膜厚及び組成を有しても良い。
【0017】
一実施形態では、第一の層及び第三の層は実質的に同じポリマー又はポリマー混合物から製造される(一般に同じポリマー又はポリマー混合物を含有する)。例えば、両方とも第一の層材料から製造する。別の実施形態では、第三の層は第一の層材料と実質的に異なる第三の層材料を含有する。第三の層材料は、その重量を基準として40.0〜85.0重量%のポリプロピレンを含有し、前記ポリプロピレンは6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレンである。膜はポリオレフィンを含有するので、「ポリオレフィン膜」と呼ぶこともできる。
【0018】
必須ではないが膜はポリオレフィンのみを含有しても良く、ポリオレフィン及び非ポリオレフィン系材料を含有するポリオレフィン膜も本発明の範囲内である。ポリオレフィンは、例えばクロム触媒、チーグラー−ナッタ触媒又はシングルサイト重合触媒を用いる方法で製造することができる。一実施形態では、膜は、(i) 第一の層材料を含有する第一の層及び第三の層と、(ii) 第二の層材料を含有する第二の層とを有し、第一の層と第三の層との間に第二の層が位置する三層膜である。本発明はこの実施形態に限定されず、また以下の説明は本発明の広い範囲内の他の実施形態を排除するものではない。第一の層材料及び第二の層材料をより詳細に説明する。
【0019】
一実施形態では、(i) 第一の層材料はその重量を基準として40.0〜85.0重量%のポリプロピレンを含有し、前記ポリプロピレンは6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレンであり、(ii) 第二の層材料はポリオレフィンを含有する。第一の層材料はさらにポリエチレン、例えば15.0〜55.0重量%のポリエチレンを含有しても良い。例えば第一の層材料は、その重量を基準として、40.0〜85.0重量%のポリプロピレンと、1.0×106以下のMwを有する15.0〜60.0重量%のポリエチレン(「第一のポリエチレン」)と、1.0×106超のMwを有する45.0重量%以下のポリエチレン(「第二のポリエチレン」)とを含有する。第一の層材料は50.0〜70.0重量%のポリプロピレン、例えば55.0〜65.0重量%のポリプロピレンを含有しても良い。
【0020】
一実施形態では、第二の層材料は第一のポリエチレン及び第二のポリエチレンを含有する。例えば、第二の層材料は、その重量を基準として、50.0重量%以上、例えば55.0〜75.0重量%、さらに60.0〜70.0重量%の第一のポリエチレンと、50.0重量%以下、例えば25.0〜45.0重量%、さらに30.0〜40.0重量%の第二のポリエチレンとを含有する。任意に、(i) 第二の層材料は10.0重量%以下(例えば1.0〜9.0重量%)のポリプロピレンを含有し、(ii) 第二の層材料のポリプロピレンは6.0×105以上のMw及び90.0 J/g以上のΔHmを有するアイソタクチックポリプロピレンであり、及び/又は(iii) 第二の層材料のポリプロピレンは第一の層材料のポリプロピレンと実質的に同じポリプロピレンである。
【0021】
一実施形態では、膜の重量を基準として、膜中のポリプロピレンの全量は40.0〜70.0重量%の範囲内であり、第一のポリエチレンの全量は15.0〜60.0重量%の範囲内であり、第二のポリエチレンの全量は0.0〜40.0重量%の範囲内であり、膜中のポリエチレンの全量は80.0〜95.0重量%の範囲内である。
【0022】
第一の層材料及び/又は第二の層材料はコポリマー、無機物質(例えば珪素及び/又はアルミニウム原子を含有する物質)、及び/又はWO 2007/132942 及びWO 2008/016174に記載されているような耐熱ポリマーを含有しても良いが、必須ではない。一実施形態では、第一の層材料及び第二の層材料は実質的にこのような物質を含有しない。この文脈における「実質的に含有しない」は、層材料全体に対するこのような物質の含有量が1重量%未満であることを意味する。
【0023】
第一の層材料及び/又は第二の層材料は、少量の希釈剤又は他の物質(例えば処理助剤)を、一般に層材料の重量を基準として1.0重量%未満の割合で含有しても良い。押出成形体及び微多孔膜の製造に用いるポリプロピレン、第一のポリエチレン、第二のポリエチレン、及び希釈剤を以下詳細に説明する。
【0024】
微多孔膜の製造に用いる材料
一実施形態による膜は三層膜であって、(i) 第一の層及び第三の層は第一の希釈剤と第一の層材料との混合物を押し出すことにより製造され、(ii) 第二の層は第二の希釈剤及び第二の層材料を押し出すことにより製造される。第一の層材料、第二の層材料及び/又は第三の層材料を製造するのに、珪素及び/又はアルミニウム原子を含有する物質のような無機物質、及び/又はWO 2007/132942 及びWO 2008/016174(両者とも全記載を参照により本明細書に組み込む)に記載されているような耐熱ポリマーを使用することができる。一実施形態では、これらの任意の物質を使用しない。最終製品の膜は一般に押出機に送給された第一の層材料及び第二の層材料を含有する。処理中にポリマー分子量の僅かな低減が起こり得るが、問題ない。同様に、最終製品の膜中に少量の第一の希釈剤及び/又は第二の希釈剤が残留しても良い。一般に「少量」とは、最終製品の膜の重量を基準として1.0重量%以下である。
【0025】
A. 第一のポリエチレン
第一のポリエチレンは1.0×106以下、例えば約1.0×105〜約9.0×105、さらに約4.0×105〜約8.0×105のMwを有する。任意に、第一のポリエチレンは約1.5〜50.0、例えば約3.0〜20.0の範囲内の分子量分布(MWD)を有する。例えば第一のポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HPDE)、中密度ポリエチレン、分枝低密度ポリエチレン又は線状低密度ポリエチレンの一つ以上とすることができる。
【0026】
一実施形態では、第一のポリエチレンは、1.0×105個の炭素原子当たり、0.2個以上、例えば5.0個以上、又は10.0個以上の末端不飽和基を有する。末端不飽和基の数は、例えばWO 97/23554に記載の方法により測定できる。
【0027】
一実施形態では、第一のポリエチレンは、(i) エチレンホモポリマー、又は(ii) エチレンと5.0モル%以下のコモノマー(例えば、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メチルメタクリレート及びスチレンの一種以上)とのコポリマーの少なくとも一つである。任意に、第一のポリエチレンは132.0℃以上の融点を有する。第一のポリエチレンとして、例えばBasell製のLupolenTM、及び/又は旭化成ケミカルズ株式会社製のポリエチレン(SUNFINE SH-800TM)を使用することができる。
【0028】
B. 第二のポリエチレン
第二のポリエチレンは1.0×106超、例えば1.1×106〜5.0×106、さらに約1.2×106〜3.0×106の範囲内、特に約2.0×106のMwを有する。任意に、第二のポリエチレンは50.0以下、例えば約2.0〜25.0、さらに約4.0〜20.0、又は約4.5〜10のMWDを有する。第二のポリエチレンは、例えば超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とすることができる。一実施形態では、第二のポリエチレンは、(i) エチレンホモポリマー、又は(ii) エチレンと5.0モル%以下のコモノマー(例えば、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メチルメタクリレート及びスチレンの一種以上)とのコポリマーの少なくとも一つである。任意に、第二のポリエチレンは134.0℃以上の融点を有する。このようなポリマー又はコポリマーは、シングルサイト触媒を用いて製造することができる。第二のポリエチレンとして、例えば三井製のポリエチレン(Hi-ZEX 240MTM)を使用することができる。
【0029】
第一のポリエチレン及び第二のポリエチレンのTmは、例えばWO 2008/140835に記載の方法により求めることができる。
【0030】
C. ポリエチレンのMw及びMWD
第一のポリエチレン及び第二のポリエチレンのMw及びMWD(数平均分子量Mnに対するMwの比と定義する。)は、示差屈折率検出器(DRI)を具備した高温分子サイズ排除クロマトグラフ(SEC、ポリマーラボラトリーズ製のGPC PL 220)を用いて求める。ポリマーラボラトリーズ製の3本のPLgel Mixed-Bカラムを用いる。公称流量は0.5 cm3/minであり、公称注入量は300μLである。145℃に維持したオーブンにトランスファライン、カラム及びDRI検出器を設置する。測定は、「マクロモレキュールズ」、第34巻、第19号、6812-6820頁(2001年)に記載の方法により行う。
【0031】
GPC溶媒は、ほぼ1000 ppmのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含有する濾過したアルドリッチ試薬級の1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)である。TCBは、SECに導入する前にオンライン脱気装置で脱気する。ポリマー溶液は、乾燥ポリマーをガラス容器に入れ、所望量のTCB溶媒を加えた後、得られた混合物を連続的に攪拌しながら約2時間160℃に加熱することにより、調製する。ポリマー溶液の濃度は0.25〜0.75 mg/mlである。サンプル溶液は、GPCに注入する前にポリマーラボラトリーズ製のSP260 Sample Prep Stationを用いて2μmのフィルタでオフラインで濾過する。
【0032】
カラム装置の分離効率は、約580〜10,000,000の範囲内のMpを有する17個のポリスチレン標準試料を用いて得た検量線を用いて求める。ポリスチレン標準試料はマサチューセッツ州アムハーストのポリマーラボラトリーズ製である。検量線(log(Mp)対保持容量)は、各PS標準試料に対するDRI信号のピークにおける保持容量を記録し、このデータの組を二次多項式で近似することにより得る。サンプルは、ウェーブメトリックス社製のIGOR Proを用いて分析する。
【0033】
D. ポリプロピレン
一実施形態では、ポリプロピレンはアイソタクチックであり、6.0×105以上、例えば7.5×105以上、特に約0.9×106〜2.0×106の範囲内のMwを有する。任意にポリプロピレンは、160.0℃以上の融点(Tm)及び90.0 J/g以上、例えば100.0 J/g以上、特に110〜120 J/gの範囲内のΔHmを有する。任意にポリプロピレンは、20.0以下、例えば6.0以下、さらに約1.5〜10.0、特に約2.0〜6.0の範囲内のMWDを有する。任意にアイソタクチックポリプロピレンは、プロピレンと5.0モル%以下のコモノマーとの(ランダム又はブロック)コポリマーであり、コモノマーは、例えばエチレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メチルメタクリレート及びスチレン等のようなα-オレフィン類、又はブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等のようなのジオレフィン類の一種以上である。
【0034】
一実施形態では、アイソタクチックポリプロピレンは、(a) 約90.0モル%以上、好ましくは96.0モル%以上のメソペンタッド分率(mmmm)、及び(b) 1.0×104個の炭素原子当たり約50.0以下(例えば約20以下)、さらに約10.0以下(例えば約5.0以下)の立体欠陥を有する。任意に、アイソタクチックポリプロピレンは下記特性の一つ以上を有する。(i) 162.0℃以上のTm、(ii) 230℃の温度及び25 sec-1の歪み速度で約5.0×104 Pa・秒以上の伸長粘度、(iii) 約230℃の温度及び25 sec-1の歪み速度で測定したときに約15以上のTrouton比、(iv) 約0.01 dg/分以下(測定不能なほど低い値)のメルトフローレート(MFR、ASTM D-1238-95,230℃及び2.16 kgの条件Lで測定)、又は(v) ポリプロピレンの重量を基準として0.5重量%以下、例えば0.2重量%以下、特に0.1重量%以下の沸騰キシレンで抽出可能な成分。
【0035】
一実施形態では、アイソタクチックポリプロピレンは、約0.9×106〜2.0×106の範囲内のMw、約2.0〜6.0の範囲内のMWD、及び90.0 J/g以上のΔHmを有する。一般にこのようなポリプロピレンは、96.0モル%以上のメソペンタッド分率(mmmm)、1.0×104個の炭素原子当たり約5.0以下の立体欠陥、及び162.0℃以上のTmを有する。
【0036】
ポリプロピレン及びそのTm、Mw、MWD、メソペンタッド分率、立体規則度、固有粘度、Trouton比、立体欠陥及び抽出可能成分の含有量の測定方法の例はWO 2008/140835に記載されているが、限定されない。WO 2008/140835の全記載は参照により本明細書に組み入れる。
【0037】
ポリプロピレンのΔHmは示差走査熱量測定法(DSC)により求められる。DSCはティー・エイ・インスツルメント(TA Instruments)のMDSC 2920又はQ1000 Tzero-DSCを用いて行い、データを標準の解析ソフトを用いて分析する。典型的には、3〜10 mgのポリマーをアルミニウム皿に載せ、室温で装置に装填する。サンプルを−70℃以下の温度まで冷却した後10℃/分の加熱速度で210℃まで加熱し、サンプルのガラス転移及び融解挙動を評価する。サンプルを210℃に5分間保持して、その熱履歴を消失させる。結晶化挙動は、サンプルを溶融状態から10℃/分の冷却速度で23℃の温度まで冷却することにより評価する。サンプルを23℃に10分間保持して、安定した固相の平衡状態にする。この溶融結晶化したサンプルを10℃/分で加熱することにより、第二の加熱データを得る。第二の加熱データから、制御された熱履歴条件下で結晶化したサンプルの相挙動が分る。吸熱融解遷移(第一及び第二の溶融)及び発熱結晶化遷移を分析して、転移の開始温度及びピーク温度を求める。曲線より下の面積から、融解熱(ΔHm)を求める。
【0038】
微多孔膜の製造方法
一実施形態では、本発明の多層微多孔膜は3層を有する(三層膜である)。このような膜の製造方法の一つは、押出し成形体又は膜(例えば単層押出し成形体又は単層微多孔膜)の積層又は共押出による多層化工程を有する。例えば、第一の希釈剤及び第一の層材料を含有するスキン層を、第二の希釈剤(第一の希釈剤と実質的に同じでも良い。)及び第二の層材料を含有する少なくとも一つのコア層と共押出することができる。方法はさらに、共押出成形体を例えば延伸により配向させ、第一の希釈剤、第二の希釈剤及び第三の希釈剤の少なくとも一部を除去して多層膜を製造する工程を有しても良い。
【0039】
膜のもう一つの製造方法では、例えば熱及び圧力を用いて、第二の単層微多孔膜の両面に第一の単層微多孔膜及び第三の単層微多孔膜を積層する。第一の微多孔膜及び第三の微多孔膜は第一の層材料を含有し、第二の微多孔膜は第二の層材料を含有する。第一の微多孔膜、第二の微多孔膜及び第三の微多孔膜は、(i) 湿式法、(ii) 乾式法(例えば、希釈剤をほとんど又は全く用いないで製膜する方法)、又は(iii) 湿式法と乾式法の組合せ(例えば、第一の微多孔膜及び第三の微多孔膜を乾式法で製造し、第二の微多孔膜を湿式法で製造する。)により製造することができる。主に湿式法を用いて製造した三層膜について以下説明するが、本発明を限定するものではなく、本発明の広い範囲内の他の実施形態を排除しない。
【0040】
従って、一実施形態による膜は、第一の面方向(例えば、「長手方向」又は「MD方向」とも呼ばれる押出方向)と、MD方向及び膜厚方向の両方に直交する第二の面方向(例えば、「横手方向」又は「TD方向」と呼ばれるMD方向に直交する方向)と、を有する多層押出成形体を冷却する工程を有する連続的又は半連続的(例えば、逐次バッチ)法により製造する。押出成形体は第一の層、第二の層及び第三の層を有し、第二の層は第一の層と第三の層との間に位置する。押出成形体の第一の層及び第三の層は第一の層材料及び第一の希釈剤を含有し、押出成形体の第二の層は第二の層材料及び第二の希釈剤を含有する。第一の層及び第三の層は押出成形体の外層(スキン層とも呼ばれる)とすることができる。当業者には明らかなように、(i) 押出成形体の第三の層は第三の層材料(組成的に第一の層材料と区別できるが、第一の層材料と実質的に同じポリマー又はポリマー混合物から選ばれる。)から製造することができ、及び/又は(ii) 第三の層は第一の層と実質的に同じか異なる膜厚を有しても良い。一実施形態では本方法はさらに、冷却した押出成形体をMD方向及び/又はTD方向に延伸し、延伸した成形体から第一の希釈剤及び第二の希釈剤の少なくとも一部を除去して、第一の乾燥長さ(MD方向)及び第一の乾燥幅(TD方向)を有する乾燥膜を製造する。本方法はさらに、乾燥膜をMD方向及び任意にTD方向に延伸して最終製品の膜を形成しても良い。三層微多孔膜を製造する例をさらに詳細に説明する。本発明を押出シートから湿式法により製造した三層膜について説明するが、本発明はこれに限定されず、かつ説明も本発明の広い範囲内の他の実施形態を排除するものではない。
【0041】
第一の層材料と第一の希釈剤の混合
第一の層材料は、ポリプロピレンと、第一のポリエチレンと、任意に第二のポリエチレンとを例えば乾燥混合又は溶融混練により混合したポリマーブレンドから製造する。ポリマーは、従来から微多孔フィルムの製造に用いられたポリマー樹脂の形態で使用することができる。ポリマー組成物を第一の希釈剤(希釈剤混合物、例えば溶媒混合物でも良い。)と混合して、第一の混合物を作製する。第一の混合物は一種以上の酸化防止剤のような添加剤を含有しても良い。一実施形態では、このような添加剤の含有量は、ポリマー混合物及び希釈剤の重量を基準にして、1.0重量%を超えない。
【0042】
押出温度で樹脂と単相を形成できる物質(又はその混合物)であればいずれも、希釈剤として使用することができる。例えば第一の希釈剤は、第一の層材料のポリマー用の溶媒でも良い。希釈剤の代表例として、ノナン、デカン、デカリン及びパラフィン油のような脂肪族又は環状炭化水素、及びジブチルフタレート及びジオクチルフタレートのようなフタル酸エステルが挙げられる。40℃で20〜200 cStの動粘度を有するパラフィン油を使用することができる。第一の希釈剤、混合条件、押出条件等の選択は、例えばWO 2008/016174(全記載を参照により本明細書に組み入れる)に記載のものと同じで良い。
【0043】
第一のポリオレフィン溶液において、希釈剤と第一の層材料の合計に対する第一の希釈剤の量は重要ではない。一実施形態では第一の希釈剤の量は、第一の希釈剤と第一の層材料の合計量を基準として、15.0〜99.0重量%、例えば18.0〜95.0重量%、又は20.0〜90.0重量%の範囲内である。
【0044】
第二の層材料と第二の希釈剤の混合
第二の層材料もまたポリマーブレンドとすることができる。第一の層材料と第一の希釈剤の混合と同じ方法により第二の層材料と第二の希釈剤を混合して、第二の混合物を作製することができる。例えば第二の層材料を構成するポリマーは、第一のポリエチレンと、第二のポリエチレンと、任意にポリプロピレンとを溶融ブレンドすることにより混合することができる。第二の希釈剤は、第一の希釈剤と同じ希釈剤から選択することができる。第二の混合物中の第二の希釈剤の種類及び濃度は第一の希釈剤と独立に選択できる(一般に選択する)が、その希釈剤は第一の希釈剤と同じで良く、第二の混合物に対する第二の希釈剤の相対濃度は第一の混合物に対する第一の希釈剤の相対濃度と同じにしても良い。
【0045】
押出
一実施形態では、第一の層材料と第一の希釈剤の混合物を第一の押出機から第一のダイ及び第三のダイに送給し、第二の層材料と第二の希釈剤の混合物を第二の押出機から第二のダイに送給する。シート状の多層成形体(すなわち膜厚方向より面方向に著しく大きい物体)を第一のダイ、第二のダイ及び第三のダイから押出して(例えば共押出して)、第一の混合物からなるスキン層と、第二の混合物からなるコア層とを有する多層成形体を製造する。
【0046】
ダイ及び押出条件の選択は、例えばWO 2008/016174に記載のものと同じにしても良い。
【0047】
多層押出成形体の冷却(任意)
任意に、押出された多層成形体を15〜25℃の範囲内の温度に曝して、冷却した押出成形体を作製する。任意に、押出成形体の温度(冷却温度)がほぼゲル化温度以下になるまで、押出成形体を少なくとも約30℃/分の冷却速度で冷却することができる。冷却条件は例えばWO 2008/01617に記載のものと同じで良い。一実施形態では、冷却した押出成形体は10 mm以下、例えば0.1〜10 mm、又は0.5〜5 mmの範囲内の膜厚を有する。一般に冷却した押出成形体の第二の層は、冷却した押出成形体の全膜厚の74.0〜88.0%の膜厚を有し、冷却した押出成形体の第一の層及び第三の層は実質的に同じ膜厚を有し、かつ第一の層及び第三の層の各々は冷却した押出成形体の全膜厚の6.0〜13.0%の範囲内の膜厚を有する。
【0048】
冷却した押出成形体の延伸(任意)
冷却した押出成形体を少なくとも一方向(例えば、MD方向又はTD方向のような少なくとも一つの面方向)に延伸(「湿式」延伸)し、延伸成形体を得ることができる。任意に、押出成形体を4.0〜6.0の範囲内の倍率でMD方向及びTD方向に同時に延伸する。好適な延伸方法は、例えばWO 2008/016174に記載されている。一軸延伸の場合、延伸倍率は例えば2倍以上、好ましくは3〜30倍とすることができる。二軸延伸の場合、各方向の延伸倍率を例えば3倍以上にすることができ、すなわち面倍率を9倍以上、好ましくは16倍以上、例えば25倍以上にすることができる。この延伸工程の例は約9〜49倍の面倍率の延伸を含む。再び、両方向の延伸量が同じである必要はない。膜の大きさは倍率で掛け算して得られる。例えば、初期幅(TD方向)が2.0 cmのフィルムをTD方向に4倍に延伸すると、最終幅は8.0 cmとなる。
【0049】
MD方向及びTD方向の倍率は同じでも良い。一実施形態では、延伸倍率はMD方向及びTD方向とも実質的に5倍である。任意に、押出成形体を約Tcd温度Tmの範囲内の温度にさらしながら、延伸することができる。ここで、Tcd及びTmはそれぞれ、押出成形体を製造するのに用いるポリエチレン(すなわち、第一のポリエチレン及び第二のポリエチレン)のうち最も低い融点を有するポリエチレンの結晶分散温度及び融点と定義される。結晶分散温度は、ASTM D 4065により動的粘弾性の温度特性を測定することにより求められる。一実施形態では、延伸温度は約110〜120℃、例えば約112.0〜119.0℃の範囲内である。
【0050】
一実施形態では、希釈剤の除去の前に延伸した押出成形体に任意の熱処理を施す。熱処理では、延伸した押出成形体を延伸温度より低い温度に曝す。延伸した押出成形体を低温に曝している間、その面寸法(MD方向の長さ及びTD方向の幅)を一定に保つことができる。押出成形体はポリマー及び希釈剤を含有するので、その長さ及び幅を「湿潤」長さ及び「湿潤」幅と呼ぶ。一実施形態では、例えば成形体の縁を保持するテンタークリップを用いて湿潤長さ及び湿潤幅を一定に保持しながら、延伸した押出成形体を90.0〜100.0℃の範囲内の温度に1〜100秒間さらす。換言すれば、熱処理中、延伸した押出成形体をMD方向又はTD方向に拡大又は縮小させない(すなわち、寸法変化を起こさせない)。
【0051】
この工程及びドライ延伸及び熱固定のような他の工程において、加熱空気をサンプル付近に送給することにより、サンプル(例えば、押出成形体、乾燥した押出成形体、膜など)を高温にさらす。一般に所望の温度と等しくなるように制御した加熱空気の温度を、例えばプレナムを経てサンプルに伝える。サンプルを高温にさらす他の方法には、サンプルを加熱表面にさらす方法、オーブン中で赤外線加熱する方法等のような従来の方法があり、加熱空気とともに又はその代わりに使用することができる。
【0052】
希釈剤の除去
一実施形態では、延伸した押出成形体から第一の希釈剤及び第二の希釈剤(例えば製膜溶媒)の少なくとも一部を除去(又は置換)し、乾燥膜を得る。第一の希釈剤及び第二の希釈剤を除去する(洗い流す又は置換する)ために、置換(又は洗浄)溶媒を使用することができる。第一の希釈剤及び第二の希釈剤の除去条件は、例えばWO 2008/016174に記載されているのと同じで良い。用語「乾燥膜」は、希釈剤の少なくとも一部のが除去された押出成形体を意味する。希釈剤の除去により最終製品の膜の空孔率が増大するので、延伸した押出成形体から全ての希釈剤を除去するのが望ましいが、必須ではない。
【0053】
一実施形態では、希釈剤の除去後に残留する揮発成分(例えば洗浄溶媒)の少なくとも一部を、乾燥膜から除去することができる。洗浄溶媒が除去可能であれば、熱乾燥、風乾(送風)等のような従来の方法を含むいかなる方法も使用可能である。洗浄溶媒のような揮発成分の除去条件は、例えばWO 2008/016174及びWO 2007/132942に記載のものと同じで良い。
【0054】
乾燥膜の延伸(任意)
乾燥膜を少なくともMD方向に延伸することができる(「ドライ延伸」と呼ぶ)。ドライ延伸前の乾燥膜はMD方向の初期サイズ(第一の乾燥長さ)及びTD方向の初期サイズ(第一の乾燥幅)を有する。本明細書で使用する用語「第一の乾燥幅」はドライ延伸前の乾燥膜の横手方向のサイズを意味し、用語「第一の乾燥長さ」はドライ延伸前の乾燥膜の長手方向のサイズを意味する。例えば、WO 2008/016174に記載のテンター延伸装置を使用することができる。
【0055】
乾燥膜をMD方向に第一の乾燥長さからそれより長い第二の乾燥長さに、約1.1〜1.5倍、例えば約1.2の倍率(MD方向のドライ延伸倍率)で延伸することができる。TD方向のドライ延伸を行う場合、乾燥膜をTD方向に第一の乾燥幅からそれより広い第二の乾燥幅に、TD方向のドライ延伸倍率で延伸することができる。任意に、TD方向のドライ延伸倍率はMD方向のドライ延伸倍率以下である。TD方向のドライ延伸倍率は約1.1〜1.3の範囲内とすることができる。延伸(希釈剤を含有した押出成形体が既に延伸されているので、「再延伸」と呼ばれる)は、MD方向及びTD方向に逐次又は同時に行うことができる。TD方向の熱収縮は一般にMD方向の熱収縮より電池特性に大きな影響を与えるので、一般にTD方向のドライ延伸倍率がMD方向のドライ延伸倍率を超えることはない。TD方向にドライ延伸を行う場合、MD方向及びTD方向に同時か逐次的に行うことができる。ドライ延伸が逐次的な場合、一般にまずMD方向の延伸を行い、次いでTD方向の延伸を行う。ドライ延伸は一般に、乾燥膜をTm以下(例えば約Tcd−30℃〜Tm)、さらに約118〜133℃(例えば約119〜128℃)の範囲内の温度にさらしながら行う。
【0056】
延伸速度は延伸方向(MD方向又はTD方向)に3%/秒以上であるのが好ましい。MD方向の延伸速度はTD方向の延伸速度と同じで良い。延伸速度は好ましくは5%/秒以上、より好ましくは10%/秒以上、例えば5〜25%/秒の範囲内である。限定的でないが、破膜を防止するために、延伸速度の上限は50%/秒が好ましい。
【0057】
膜の縮幅の制御(任意)
ドライ延伸の後、乾燥膜の幅を第二の乾燥幅から第三の幅(第一の乾燥幅乃至その約1.1倍の範囲内)に制御しつつ低減できる。縮幅は一般に膜を(Tcd−30℃)以上かつTm未満の温度、例えば約118〜133℃、特に約119〜128℃の範囲内の温度にさらしながら行う。一実施形態では、膜の縮幅は、膜をTm未満の温度にさらしながら行う。一実施形態では、第三の乾燥幅は第一の乾燥幅の1.0倍〜約1.1倍の範囲内である。
【0058】
制御した縮幅の間、膜をTD方向の延伸温度以上の温度にさらすと、最終製品の膜は大きな耐熱収縮性を有すると考えられる。
【0059】
熱固定(任意)
希釈剤の除去に続いて、例えばドライ延伸、制御した縮幅又は両方の後に、膜に一回以上の熱処理(例えば熱固定)を施しても良い。熱固定は結晶を安定化し、膜中に均一なラメラを形成すると考えられる。一実施形態では、膜をTcd〜Tmの範囲内の温度(例えば約118〜133℃、特に約119〜128℃の範囲内の温度)にさらしながら、熱固定を行う。一般に、熱固定は膜中に均一なラメラを形成するのに十分な時間、例えば1〜100秒間行う。一実施形態では、熱固定を従来の熱固定条件で行う。用語「熱固定」は、膜の周囲を例えばテンタークリップで保持することにより、膜の長さ及び幅を実質的に一定に保ちながら行う熱固定を意味する。
【0060】
熱固定の前、間又は後にアニーリング処理を行っても良い。アニーリングは膜に荷重をかけずに行う熱処理であり、例えばベルトコンベアを具備する加熱炉又はエアフローティング式加熱炉を用いて行うことができる。また熱固定後にテンターを緩めて、アニーリングを連続的に行っても良い。アニーリング中に膜をさらす温度(アニーリング温度)は、例えば約118〜133℃、特に約119〜128℃の範囲内にすることができる。アニーリングにより微多孔膜の熱収縮率及び強度が改善されると考えられる。
【0061】
所望に応じて、例えばWO 2008/016174に記載されているように、ローラ加熱、溶媒加熱、架橋、親水化及びコーティングを行っても良い。
【0062】
多層微多孔膜の特性
一実施形態では、膜は多層微多孔膜である。例えば一実施形態では、膜はアイソタクチックポリプロピレンを含有する第一の層と、ポリオレフィンを含有する第二の層と、(c) アイソタクチックポリプロピレンを含有する第三の層とを有し、(i) 微多孔であり、(ii) 第二の層は第一の層と第三の層との間に位置し、かつ(iii) 1.0×102 mAh以下の電気化学的安定性、170.0℃以上のメルトダウン温度、3.0×102秒以下の電解液の注液速度、及び膜の重量を基準として10.0重量%以下の吸水量を有する。
【0063】
別の実施形態では、膜は第一の層及び第三の層を有し、第一の層及び第三の層の各々は、層の重量を基準として、(i) 6.0×105以上のMw、約2.0〜6.0の範囲内のMWD、及び90.0 J/g以上のΔHmを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%と、(ii) 1.0×106以下のMwを有する第一のポリエチレン15.0〜60.0重量%と、(iii) 1.0×106超のMwを有する第二のポリエチレン45.0重量%以下とを含有する。膜はさらに第一の層と第三の層との間に位置する第二の層を有し、第二の層はその重量を基準として、(i) 55.0〜75.0重量%の第一のポリエチレン及び(ii) 25.0〜45.0重量%の第二のポリエチレンを含有する。第一の層及び第三の層は例えば実質的に同じ膜厚を有しても良い。
【0064】
さらに別の実施形態では、膜は第一の層及び第三の層を有し、第一の層及び第三の層の各々は50.0重量%以上、例えば65.0〜75.0重量%のアイソタクチックポリプロピレンを含有する。膜はさらに第一の層と第三の層との間に位置する第二の層を有し、第二の層は10.0重量%以下のアイソタクチックポリプロピレンを含有し、膜の120℃における熱収縮率はTD方向のような少なくとも一つの面方向で2.5%以下、例えば1.0%以下である。
【0065】
膜厚は一般に3.0μm以上である。膜は約5.0〜2.0×102μm、例えば約10.0〜25.0μmの膜厚を有して良い。任意に、第二の層は膜全体の70.0〜90.0%の膜厚を有し、第一の層及び第三の層の膜厚は各々膜全体の5.0〜15.0%の範囲内である。膜厚は、例えば接触膜厚計により10 cmの幅にわたって1.0 cmの長手方向間隔で測定し、得られた値を平均することにより求める。株式会社ミツトヨ製のLITEMATICのような膜厚計が好適である。光学式膜厚測定方法のような非接触式膜厚測定方法も好適である。
【0066】
任意に、膜は以下の特性の一以上を有する。
【0067】
空孔率
一実施形態では、膜は25%以上、例えば約25〜80%、又は35〜60%の範囲内の空孔率を有する。膜の空孔率は従来から、膜の実際の重量を同じ組成の同等の(同じ長さ、幅及び厚さを有する)非多孔膜の重量と比較することにより求めている。空孔率は、空孔率(%)=100×(w2−w1)/w2の式(ただし、w1は微多孔膜の実際の重量であり、w2は同じサイズ及び膜厚を有する同等の非多孔膜の重量である。)により求める。
【0068】
規格化された透気度
一実施形態では、膜の規格化された透気度(ガーレイ値、20.0μmの膜厚を有する同等の膜に規格化されている。)は、7.0×102秒/100 cm3/20μm以下、例えば6.0×102秒/100 cm3/20μm以下である。透気度は膜厚20.0μmのフィルムに規格化された値であるので、透気度の値を「秒/100 cm3/20μm」の単位で表す。一実施形態では、規格化された透気度は1.0×102秒/100 cm3/20μm〜約6.5×102秒/100 cm3/20μm、又は1.5×102〜4.5×102秒/100 cm3/20μmの範囲内である。規格化された透気度はJIS P8117により測定し、結果を20.0μmの膜厚に対して、A=20.0μm×X/T1の式(ただし、Xは実際の膜厚T1を有する膜の透気度の測定値であり、Aは20.0μmの膜厚に規格化された透気度である。)を用いて規格化する。
【0069】
規格化された突刺強度
一実施形態では、膜は2.0×103 mN/20μm以上、例えば3.0×103 mN/20μm以上、又は4.0×103 mN/20μm以上、特に3.0×103〜1.0×104 mN/20μmの範囲内の突刺強度を有する。突刺強度は、先端が球面(曲率半径R:0.5 mm)の直径1.0 mmの針を2.0 mm/秒の速度で膜厚T1の微多孔膜に刺したときに測定された最大荷重と定義する。突刺強度は、S2=20.0μm×S1/T1の式(ただし、S1は突刺強度の測定値であり、S2は規格化された突刺強度であり、T1は膜の平均膜厚である。)を用いて、20.0μmの膜厚に規格化する。
【0070】
引張強度
一実施形態では、膜は8.5×104 kPa以上、例えば1.0×105〜2.0×105 kPaの範囲内のMD方向の引張強度、及び8.0×104 kPa以上、例えば1.0×105〜2.0×105 kPaの範囲内のTD方向の引張強度を有する。引張強度はASTM D-882AによりMD方向及びTD方向で測定する。
【0071】
50.0%以上の引張伸度
引張伸度はASTM D-882Aにより測定する。一実施形態では、膜のMD方向及びTD方向の引張伸度はそれぞれ150%以上、例えば150〜350%の範囲内である。別の実施形態では、膜のMD方向の引張伸度は例えば150〜250%の範囲内であり、TD方向の引張伸度は例えば150〜250%の範囲内である。
【0072】
シャットダウン温度
一実施形態では、膜は140℃以下、例えば約128〜135℃の範囲内のシャットダウン温度を有する。微多孔膜のシャットダウン温度は熱機械分析装置(セイコー電子工業株式会社製、TMA/SS6000)を用いて下記の通り測定する。サンプルの長軸及び短軸がそれぞれ微多孔膜のTD方向及びMD方向と一致するように、微多孔膜から3.0 mm×50.0 mmの長方形サンプルを切り出す。サンプルを10 mmのチャック間距離(すなわち、上方チャックと下方チャックとの距離が10.0 mm)で熱機械分析装置にセットする。下方チャックを固定し、上方チャックでサンプルに19.6 mNの荷重をかける。チャック及びサンプルを加熱できる管内に入れる。管内の温度を30℃から5.0℃/分の速度で上昇させながら、19.6 mNの荷重下でサンプルの長さ変化を0.5秒間隔で測定し、記録する。温度は200.0℃まで上昇させる。「シャットダウン温度」は、膜を製造するのに用いるポリマーのうち最も低い融点を有するポリマーのほぼ融点で観察される変曲点の温度と定義する。
【0073】
メルトダウン温度
一実施形態では、膜のメルトダウン温度はl70.0℃以上、又はl80.0℃以上、例えばl71.0〜200.0℃、又はl72.0°〜l90.0℃の範囲内である。膜のメルトダウン温度は下記の方法により測定する。サンプルの長軸及び短軸がそれぞれ微多孔膜のTD方向及びMD方向と一致するように、微多孔膜から3.0 mm×50.0 mmの長方形サンプルを切り出す。サンプルを10.0 mmのチャック間距離(すなわち、上方チャックと下方チャックとの距離が10.0 mm)で、熱機械分析装置(セイコー電子工業株式会社製TMA/SS6000)にセットする。下方チャックを固定し、上方チャックでサンプルに19.6 mNの荷重をかける。チャック及びサンプルを加熱できる管に入れる。管内の温度を30℃から5℃/分の速度で上昇させながら、サンプルの長さ変化を19.6 mNの荷重下で0.5秒の間隔で測定し、記録する。温度は200.0℃まで上昇させる。サンプルのメルトダウン温度はサンプルが破断する温度と定義し、一般に170.0℃以上の温度である。
【0074】
少なくとも一つの面方向における15%以下の熱収縮率(105℃)
一実施形態では、膜は105℃で少なくとも一つの面方向(例えば、MD方向又はTD方向)に15%以下、例えば10.0%以下、特に1.0〜10.0%の範囲内の熱収縮率を有する。MD方向及びTD方向における105℃での膜の収縮率は以下の通り測定する。(i) 微多孔膜の試験片のMD方向及びTD方向両方のサイズを室温で測定し、(ii) 荷重をかけずに微多孔膜の試験片を105.0℃の温度に8時間保持して平衡状態にし、次いで(iii) 前記膜のMD方向及びTD方向両方のサイズを測定する。(i) の測定結果を(ii) の測定結果で割った値(%で表す)がMD方向及びTD方向の熱収縮率である。
【0075】
120℃におけるTD方向の熱収縮率
一実施形態では、120℃で測定した膜のTD方向の熱収縮率は15%以下、例えば1.0〜12.0%である。120℃は一般に充電及び放電中にリチウムイオン二次電池が達する温度範囲内であるので(この範囲の上限(シャットダウン)に近いが)、例えば15%と比較的低い熱収縮率は特に重要である。
【0076】
TD方向の膜の縁部は一般に電池内に固定されており、TD方向の拡張又は収縮は特にMD方向の縁部の中心付近で制限されているので、熱収縮率の測定法は105℃における場合と僅かに異なる。従って、TD方向及びMD方向にともに50.0 mmの長さを有する微多孔フィルムの正方形のサンプルをフレームに取り付る。この時、MD方向に35.0 mm、TD方向に50.0 mmの自由面が残るように、TD方向の縁部を例えばテープによりフレームに固定する。サンプルを取り付たフレームを例えばオーブン中で120.0℃の温度に30分間加熱して熱平衡の状態にし、次いで冷却する。TD方向の熱収縮率により、一般にフィルムのMD方向の縁部は僅かに内側(フレームの開口部の中心側)に凹む。サンプルのTD方向の収縮率(%)は、加熱前のTD方向長さを加熱後の最短のTD方向長さ(フレーム内)で割った値(×100%)に等しい。
【0077】
溶融状態における最大熱収縮率
溶融状態における膜の面方向の最大収縮率は以下の方法により測定する。
【0078】
メルトダウン温度の測定法で記載したTMA法を用いて、135〜145℃の温度範囲で測定したサンプル長さを記録する。膜の収縮につれてチャック間距離が減少する。溶融状態における最大収縮率は、23℃で測定したチャック間のサンプル長さ(10.0 mmに等しいL1)から一般に約135〜145℃の範囲内で測定した最小長さ(L2)を引いた値をL1で割った値、すなわち、[(L1−L2)/L1]×100%と定義する。TD方向の最大収縮率を測定するとき、サンプルの長軸方向及び短軸方向がそれぞれ微多孔膜の横手方向及び長手方向に一致するように、微多孔膜から3.0 mm×50.0 mmの長方形のサンプルを切り出す。MD方向の最大収縮を測定するとき、サンプルの長軸方向及び短軸方向がそれぞれ微多孔膜のMD方向及びTD方向に一致するように、微多孔膜から3.0 mm×50.0 mmの長方形のサンプルを切り出す。
【0079】
一実施形態では、溶融状態における膜のMD方向の最大熱収縮率は30.0%以下、又は25.0%以下、又は15.0%以下、例えば1.0〜25.0%の範囲内、又は2.0〜20.0%の範囲内である。一実施形態では、溶融状態における膜のTD方向の最大熱収縮率は35.0%以下、又は30.0%以下、又は15.0%以下、例えば1.0〜35.0%の範囲内である。
【0080】
電解液の注液速度
一実施形態では、膜は3.0×102秒以下、例えば2.5×102秒以下、さらに1.0×102〜3.0×102秒の範囲内の電解液の注液速度を有する。膜の電解液の注液速度の測定に、透明ガラス支持体上で25℃の温度にさられる100 mm×100 mmの膜サンプルを用いる。ほぼ直径1.0 mmのプロピレンカーボネートの一滴を膜上に滴下し、膜に白熱可視光を照射する。プロピレンカーボネートの吸収により光に対する膜の透明度が高くなる。液滴の滴下から液滴と接触した膜部分の透明度の増大が認められなくなるまでの時間(秒)を膜の電解液の注液速度とする。比較的高い(例えば3.0×102秒以下の)電解液の注液速度を有する電池セパレータフィルムは、電池の製造過程でセパレータが電解質を吸収するのに要する時間が短くなり、その結果電池の製造速度が速くなるので、望ましい。
【0081】
電気化学的安定性
電気化学的安定性は、膜を比較的高温で貯蔵又は使用する電池のBSFとして使用する場合、膜の耐酸化性に関連する特性である。電気化学的安定性はmAhの単位を有し、その値が低いほど高温貯蔵又は過充電中に充電損失が少ないので、一般に望ましい。比較的高出力、高容量の用途はBSFの電気化学的不安定性に起因する自己放電損失のような電池容量の損失に対して特に敏感であるので、電気自動車又はハイブリッドカーを動かすモータをスタートさせるか駆動するのに用いるような自動車用電池、及び電動工具用電池にとって、電気化学的安定性は50.0 mAh以下が望ましい。用語「高容量電池」は一般に、1.0アンペア時(1.0 Ah)以上、例えば2.0〜3.6 Ahの電力を供給できる電池を意味する。任意に、熱可塑性フィルムは40.0 mAh以下、例えば1.0〜35.0 mAhの範囲内の電気化学的安定性を有する。
【0082】
膜の貯蔵安定性を測定するために、70 mmのMD方向長さ及び60 mmのTD方向幅を有する膜を、膜と同じ面寸法を有する正極及び負極の間に配置する。正極は天然グラファイトからなり、負極はLiCoO2からなる。電解質は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(4/6の体積比)にLiPF6を溶解することにより、1 Mの溶液として調製する。電解質を正極と負極の間の領域の膜に含浸させ、電池を完成する。
【0083】
電池を60℃の温度に21日間保持しながら、4.3 Vの電圧を印可する。電気化学的安定性は、21日間電源と電池との間に流れる電流の積算量(mAh)と定義する。
【0084】
吸収水
膜のスキン層が85.0重量%超のポリプロピレンを含有する場合、膜の電解液の注液速度(電解質親和性の一特性)を改善するために、一般に膜に親水化処理を施す。3.0×102超の電解液の注液速度を有する膜は一般にBSFとして使用するのに十分な電解質親和性を有さない。膜の電解質親和性を改善するために従来の親水化処理を使用することができるが、このような親水化処理は膜が大気から吸収する水の量を増大させ、吸収された水が電池の製造、貯蔵及び使用中に望ましくない水反応副生物を生成するおそれがあるので、望ましくない。一実施形態では、ドライ延伸又は熱固定の後に膜に親水化処理を施さない。一実施形態では、25.0℃の温度及び50.0%の相対湿度の大気に24時間さらした製造したままの膜の吸水量は、10.0%以下、例えば5.0%以下、又は1.0%以下、さらに0.05〜5.0%の範囲内である。吸水量は、大気にさらした後吸水量を減少させる膜の加熱前に測定したときの「固有の吸水量」と定義する。
【0085】
吸水量は熱重量分析(TGA)により測定することができる。膜のサンプルを白金皿に載置し、20.0℃の出発温度の窒素雰囲気流にさらす。次いでサンプルの重量を記録しながら、20.0℃/分の速度で600.0℃の最終温度まで昇温する。ティー・エイ・インスツルメント(TA Instruments)製のTGAモデルQ500が好適である。吸水量は95.0℃と105.0℃との間の膜サンプルの重量損失により求め、測定スタート時の膜サンプルの全重量を基準とした重量%で表す。
【0086】
熱可塑性フィルムは大気圧で液体(水性及び非水性)に対して透過性を有するので、微多孔膜を電池セパレータ、濾過膜等として使用することができる。熱可塑性フィルムは特にニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池等のような二次電池用のBSFとして有用である。一実施形態では、本発明は熱可塑性フィルムからなるBSFを有するリチウムイオン二次電池に関する。このような電池の例はWO 2008/016174(全記載を参照により本明細書に組み入れる)に記載されている。
【実施例】
【0087】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0088】
実施例1
(1) 第一の混合物の調製
第一のポリオレフィン組成物を、その重量を基準として、(a) 7.5×105のMw及び11.9のMWDを有する第一のポリエチレン樹脂(PEl)30重量%と、(b) 1.1×106のMw、114 J/gの融解熱及び5のMWDを有するアイソタクチックポリプロピレン樹脂(PP)40重量%とをドライブレンドすることにより調製する。PElは135℃のTm及び100℃のTcdを有する。ポリプロピレンは160.0℃以上のTmを有する。
【0089】
第二の混合物の重量を基準として、第一のポリオレフィン組成物が25重量%となるように、内径58 mm及びL/D 42の第一の強混練二軸押出機に入れ、流動パラフィン(40℃で50 cst)が75重量%となるようにサイドフィーダから第一の強混練二軸押出機に供給することにより、第二の混合物を調製する。溶融混練は2l0℃及び200 rpmで行う。
【0090】
(2) 第二の混合物の調製
第一のポリオレフィン組成物と同様にして、第二のポリオレフィン組成物を、その重量を基準として、(a) PE1 60.0重量%と、(b) 1.9×106のMw及び5.1のMWDを有する第二のポリエチレン樹脂(PE2)40.0重量%とをドライブレンドすることにより調製する。
【0091】
第二の混合物の重量を基準として、第二のポリオレフィン組成物が27.5重量%となるように、内径58 mm及びL/D 42の第一の強混練二軸押出機に入れ、流動パラフィン(40℃で50 cst)が72.5重量%となるようにサイドフィーダから第一の二軸押出機に供給することにより、第二の混合物を調製する。溶融混練は210℃及び200 rpmで行う。
【0092】
(3) 膜の製造
第一の混合物及び第二の混合物を各二軸押出機から三層押出用T-ダイに送給し、そこから押し出して11.5/77/11.5の層厚比の第一の混合物層/第二の混合物層/第一の混合物の層構成を有する多層成形体を製造する。成形体を20℃に調節した冷却ローラを通して冷却し、三層ゲル状シートを作製する。ゲル状シートを112.5℃の温度(二軸延伸温度)にさらしながら、テンター延伸装置によりMD方向及びTD方向にそれぞれ5倍に(同時)二軸延伸する。延伸シートの外周を実質的に一定のTD方向幅に固定しながら、延伸シートを95.0℃の温度(湿潤熱固定温度)にさらす。延伸した三層ゲル状シートを20 cm×20 cmのアルミニウムフレームに固定し、25℃に調温した塩化メチレン浴に3分間浸漬して流動パラフィンを除去し、室温の空気流により乾燥する。乾燥膜を次いでドライ延伸する。流動パラフィンの除去後でドライ延伸の前に、乾燥膜は初期乾燥長さ(MD方向)及び初期乾燥幅(TD方向)を有する。乾燥膜を、MD方向に延伸せずに122℃の温度(TD方向の延伸温度)にさらしながら、TD方向に1.2倍(第二の乾燥幅)にドライ延伸する。換言すれば、TD方向のドライ延伸の間、膜のMD方向長さは第二の乾燥長さにほぼ等しいままである。次いで、膜をバッチ式延伸装置に固定したまま122℃の温度(熱固定温度)に10分間さらしながら熱固定して、最終的な多層微多孔膜を得る。
【0093】
膜の製造に用いるポリマー、及び代表的な処理条件を表1に示す。
【0094】
実施例2〜5
実施例1に記載した方法を用いて、さらに4枚の微多孔フィルムを製造する。原料、相対量及び処理条件を表1に示す。表1に示す以外、実施例1に記載の通りに膜を製造する。例えば実施例5では、長さを実質的に一定に保持しながら膜を124.2℃の温度にさらし、膜の幅を1.4倍から1.2倍まで制御しながら低減する。
【0095】
比較例1及び2
表1に示す以外実施例1に記載の通りにして、4枚の微多孔膜を製造した。
【0096】
【表1−1】

注:(1) 第一の混合物中のポリマー濃度。
(2) 第二の混合物中のポリマー濃度。
【0097】
【表1−2】

注:(1) 第一の混合物中のポリマー濃度。
(2) 第二の混合物中のポリマー濃度。
【0098】
実施例1〜5及び比較例l〜4の膜の特性を表2に示す。
【0099】
【表2−1】

注:(1) 溶融状態における最大収縮。
【0100】
【表2−2】

注:(1) 溶融状態における最大収縮。
【0101】
実施例1〜5は、本発明の膜がBSFとして使用するのに適する特性を有することを示す。例えば実施例l〜5の膜は、l70℃以上のメルトダウン温度、3.0×103 mN/20μm以上の規格化された突刺強度、3.0×l02秒以下の電解液の注液速度、40.0 mAh以下の電気化学的安定性、及び1.0重量%以下の吸水量を有する。比較例1、2及び4の膜はスキン層に1.0×106超のMwを有するアイソタクチックポリプロピレンを含有しないので、メルトダウン温度が低く、40.0 mAh超の電気化学的安定性を有する。比較例3の膜はスキン層がポリプロピレン100重量%からなるが、吸水のために製造、貯蔵及び使用中に電池内に望ましくない副生物が生成される。
【0102】
本発明の多層微多孔膜は良好なバランスの特性を有するので、電池セパレータとして使用すると、優れた安全性、耐熱性、充電保持特性及び生産性を有する電池が得られる。
【0103】
本明細書に引用された全ての特許、試験方法、及び優先権証明書を含む他の文書は、開示内容が矛盾しない程度で、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【0104】
本明細書に記載の実施形態は特定の例であり、当業者であれば本開示の思想及び範囲を逸脱することなく種々の変更を容易になし得ることは明らかである。従って、本明細書に添付の請求項の範囲は例及び本明細書の記載に限定されず、それらの全ての発明的特徴(この開示に属する技術の当業者によりその均等物と見做される全ての特徴を含む)は請求項の範囲に入ると考えるべきである。
【0105】
本明細書に記載の数値の下限及び上限については、下限から上限までの範囲を含む。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 6.0×105以上のMwを有する40.0〜85.0重量%(第一の層の重量を基準として)のアイソタクチックポリプロピレンを含有する第一の層と、(b) ポリオレフィンを含有する第二の層と、(c) 6.0×105以上のMwを有する40.0〜85.0重量%(第三の層の重量を基準として)のアイソタクチックポリプロピレンを含有する第三の層とを有し、微多孔であり、かつ前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置することを特徴とする膜。
【請求項2】
請求項1に記載の膜において、前記第一の層がさらに、その重量を基準として、1.0×106以下のMwを有する第一のポリエチレン15.0〜60.0重量%と、1.0×106超のMwを有する第二のポリエチレン45.0重量%以下とを含有し、前記第一の層及び前記第三の層が実質的に同じ膜厚及び組成を有することを特徴とする膜。
【請求項3】
請求項2に記載の膜において、1.0×102 mAh以下の電気化学的安定性、170.0℃以上のメルトダウン温度、3.0×102秒以下の電解液の注液速度、及び膜の重量を基準として10.0重量%以下の吸水量を有することを特徴とする膜。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の膜において、前記第二の層がその重量を基準として、55.0〜75.0重量%の第一のポリエチレンと25.0〜45.0重量%の第二のポリエチレンとを含有し、前記第一のポリエチレンが132.0℃以上の融点を有し、前記第二のポリエチレンが134.0℃以上の融点を有することを特徴とする膜。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の膜において、前記ポリプロピレンが0.9×106〜2.0×106の範囲内のMw、6.0以下のMWD、及び90.0 J/g以上のΔHmを有することを特徴とする膜。
【請求項6】
請求項5に記載の膜において、前記ポリプロピレンが230℃の温度及び25 sec-1の歪み速度で少なくとも5.0×105 Pa・secの伸長粘度、230℃の温度及び25 sec-1の歪み速度で測定したときに少なくとも15のTrouton比、及び0.01 dg/分以下のMFRを有し、かつポリプロピレンの重量を基準として0.5重量%以下の抽出可能分を含有していることを特徴とする膜。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の膜において、(a) 前記第二の層は前記第一の層及び前記第三の層と接しており、(b) 全膜厚は10.0〜25.0μmの範囲内であり、(c) 前記第二の層は膜全体の70.0〜90.0%の膜厚を有し、かつ(d) 前記第一の層及び前記第三の層の膜厚はそれぞれ膜全体の5.0〜15.0%の範囲内であることを特徴とする膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の膜において、6.5×102秒/100 cm3/20μm以下の規格化された透気度、25%以上の空孔率、2.0×103 mN/20μm以上の規格化された突刺強度、8.5×104 kPa以上のMD方向の引張強度、8.0×104 kPa以上のTD方向の引張強度、50%以上のMD方向の引張伸度、50.0%以上のTD方向の引張伸度、2.5×102秒以下の電解液の注液速度、及び50.0 mAh以下の電気化学的安定性の一つ以上を有することを特徴とする膜。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれかに記載の膜において、前記第一の層は65.0〜75.0重量%のポリプロピレンを含有し、前記第二の層は10.0重量%以下のポリプロピレンを含有し、かつ前記膜はl05℃で少なくとも一つの面方向に1.0%以下の熱収縮率を有することを特徴とする膜。
【請求項10】
上記いずれかの請求項に記載の膜からなることを特徴とする電池セパレータフィルム。
【請求項11】
微多孔膜の製造方法であって、
(a) 第一の希釈剤と第一のポリマー(その重量を基準として、6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%を含有する。)とを含有する第一の混合物を調製し、
(b) 第二の希釈剤と第二のポリマーとを含有する第二の混合物を調製し、
(c) 第三の希釈剤と第三のポリマー(その重量を基準として、6.0×105以上のMwを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%を含有する。)とを含有する第三の混合物を調製し、
(d) 前記第一の混合物を含有する第一の層と、前記第三の混合物を含有する第三の層と、前記第二の混合物を含有する第二の層とを有し、前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置するシートを作製し、
(e) 前記シートから前記第一の希釈剤、前記第二の希釈剤及び前記第三の希釈剤の少なくとも一部を除去することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記第一の混合物及び前記第三の混合物が実質的に同じ混合物であり、前記第一の層及び前記第三の層が実質的に同じ膜厚を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法において、前記第一の希釈剤、前記第二の希釈剤及び前記第三の希釈剤が実質的に同じ希釈剤であり、前記希釈剤の量が前記混合物の重量を基準として20.0〜90.0重量%の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記第一の混合物及び前記第三の混合物が50.0〜70.0重量%のアイソタクチックポリプロピレンを含有し、前記アイソタクチックポリプロピレンが 90.0 J/g以上のΔHm、0.9×106〜2.0×106の範囲内のMw、及び2.0〜6.0の範囲内のMWDを有することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の方法において、前記第一の混合物がさらに、その重量を基準として、1.0×106以下のMwを有する15.0重量%以上の第一のポリエチレンと、1.0×106超のMwを有する第二のポリエチレン45.0重量%以下とを含有することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記第二のポリマーがさらに、その重量を基準として、55.0〜75.0重量%の第一のポリエチレンと、25.0〜45.0重量%の第二のポリエチレンとを含有することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記第二の層がさらにポリプロピレンを含有することを特徴とする方法。
【請求項18】
上記いずれかの請求項に記載の方法において、前記工程(d) の後に前記シートを冷却することを特徴とする方法。
【請求項19】
上記いずれかの請求項に記載の方法において、前記工程(e) の前及び/又は後に、前記シートを少なくとも一つの方向に延伸することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記延伸を前記工程(e) の前及び後に行い、前記工程(e) の後の延伸を、前記シートを119〜128℃の範囲内の温度にさらしながら行うことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項11〜20のいずれかに記載の方法により製造したことを特徴とする微多孔膜。
【請求項22】
正極、負極、電解質、及び前記正極と前記負極との間に位置する少なくとも一つのセパレータとを具備する電池であって、前記セパレータは実質的に等しい膜厚を有する第一の層及び第三の層と、前記第一の層と前記第三の層との間に位置する第二の層とを有し、前記第一の層及び前記第三の層の各々は、各層の重量を基準として、(i) 5.0×105以上のMw、約2.0〜6.0の範囲内のMWD及び90.0 J/g以上のΔHmを有するアイソタクチックポリプロピレン40.0〜85.0重量%と、(ii) 1.0×106以下のMwを有する第一のポリエチレン15.0〜60.0重量%と、(iii) 1.0×106超のMwを有する第二のポリエチレン45.0重量%以下とを含有し、前記第二の層はその重量を基準として、(i) 55.0〜75.0重量%の第一のポリエチレンと、(ii) 25.0〜45.0重量%の第二のポリエチレンとを含有することを特徴とする電池。
【請求項23】
請求項22に記載の電池、及び前記電池に電気的に接続された負荷。
【請求項24】
請求項20又は21に記載の電池において、前記電解質がリチウムイオンを含有することを特徴とする電池。
【請求項25】
アイソタクチックポリプロピレンを含有する第一の層と、ポリオレフィンを含有する第二の層と、(c) アイソタクチックポリプロピレンを含有する第三の層とを有する膜であって、(i) 微多孔であり、(ii) 前記第二の層が前記第一の層と前記第三の層との間に位置し、かつ(iii) 1.0×102 mAh以下の電気化学的安定性、170.0℃以上のメルトダウン温度、3.0×102秒以下の電解液の注液速度、及び膜の重量を基準として10.0重量%以下の固有吸水量を有することを特徴とする膜。

【公表番号】特表2013−517152(P2013−517152A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530042(P2012−530042)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/JP2010/073055
【国際公開番号】WO2011/086823
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(510157580)東レバッテリーセパレータフィルム株式会社 (31)
【Fターム(参考)】