説明

微多孔膜及びその製造方法

ポリエチレンを含んでなり、厚さが1〜500μm、気孔率が20〜80%、溶融時貯蔵弾性率が4.5MPa以上、高融点結晶融解熱が2J/g以上である微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、微多孔膜に関する。さらに詳しくは、特定の厚さ、気孔率、溶融時貯蔵弾性率、及び高融点結晶融解熱を有するポリエチレン微多孔膜に関する。本発明のポリエチレン微多孔膜は、従来のポリエチレン微多孔膜よりも優れた耐熱性(溶融時耐破膜性)と高温寸法安定性とを有し、かつ、優れた透気性と機械強度とを併せ持つので、電池用セパレータなどとして有利に用いられる。本発明はまた、上記のポリエチレン微多孔膜などのポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関する。
従来技術
ポリエチレン微多孔膜(ポリエチレンを含んでなる微多孔膜)は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ等に使用されている。特に、近年ではリチウムイオン電池用セパレータとしての需要が大幅に伸びている。
ポリエチレン微多孔膜をリチウムイオン電池用セパレータとして用いる場合、イオン透過性や機械強度に優れている必要がある。さらに、何らかの原因で電池内温度が上昇した時にセパレータであるポリエチレン微多孔膜が溶融・破膜し、電流がショートするのを防ぐことができるような耐熱性(溶融時耐破膜性)、高温における寸法安定性が必要である。さらに、高容量化を進めるための薄膜化、高強度化ができるものが望ましい。これらの条件を満足するポリエチレン微多孔膜を得るために、超高分子量ポリエチレンを使用したポリエチレン微多孔膜が従来より提案されている。
超高分子量ポリマーとは、粘度平均分子量が60万以上のポリマーを意味する(以下、「粘度平均分子量」をしばしば単に「分子量」と表す)。超高分子量ポリエチレン、即ち分子量60万以上のポリエチレンは、分子量が60万未満のポリエチレンと比較して分子鎖の絡み合いが強く、溶融時には絡合点が架橋構造における架橋点と同様に機能するため、分子量60万未満のポリエチレンよりも優れた耐熱性を示し、且つ、分子量が60万未満のポリエチレンでは得ることの困難な溶融延伸性を示す。
超高分子量ポリエチレンを溶融延伸して得られる超高分子量ポリエチレンは高い強度を有するため、溶融状態で分子配向がかかりにくい分子量60万未満のポリエチレンに比べて薄膜化することが可能である。更に、そのような超高分子量ポリエチレンにおいては、溶融延伸の結果、通常結晶に加えて136〜160℃の範囲に結晶(高融点結晶)が生成するため、高融点結晶を持たないポリエチレンフィルムに比べ高温寸法安定性が良好である。したがって、そのような超高分子量ポリエチレンフィルムを更に多孔化して得られる超高分子量ポリエチレン微多孔膜にも同様の特性を付与することができる。
日本国特開平3−105851号公報には、特定量の超高分子量ポリエチレンを、該ポリエチレンより分子量の低い高分子量ポリエチレンにブレンドすることによって、ポリエチレン微多孔膜の機械強度を向上させる方法が開示されている。該公報では、流動パラフィンを含むポリエチレンのゲル状シートを融点以下で延伸した後、流動パラフィンを抽出することによってポリエチレン微多孔膜を製造している。しかし、この方法では、ゲル状シートを用いるために溶融延伸が不可能であり、したがって十分な量の高融点結晶を生成出来ず、結果的に高温寸法安定性が得られない。
日本国特開平8−73643号公報には、粘度平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレンからなるポリエチレン微多孔膜が開示されている。該公報においては、分子量100万以上の超高分子量ポリエチレンを用いているために高い耐熱性を有する。しかし、日本国特開平8−73643号公報においては、上記日本国特開平3−105851号公報と同様にゲル状シートを用いるために溶融延伸が不可能であり、したがって、十分な高融点結晶を生成出来ず、結果的に高温寸法安定性が得られない。
日本国特開平10−258462号公報及び日本国特開平11−302436号公報においては、可塑剤を実質的に含まない極限粘度4dl/g以上の高分子量ポリエチレンを溶融成形(具体的にはインフレーション成形)することによって不透気性膜を得、該不透気性膜を熱処理することによって微多孔化することによってポリエチレン微多孔膜を得ている。該公報の方法では、溶融延伸によって高融点結晶を生成出来るため、得られるポリエチレン微多孔膜は高温寸法安定性を有すると考えられる。しかし、日本国特開平10−258462号公報の表9には、極限粘度がそれぞれ8.7dl/g、16.5dl/gである高分子量ポリエチレンから溶融成形して得られた不透気性フィルムの極限粘度が、それぞれ6.9dl/g、8.1dl/gまで低下していることが示されている。これは、溶融成形の混練工程において分子量低下や分子劣化が生じていることを示しており、この公報の技術では極限粘度9dl/g以上(粘度平均分子量140万程度)の超高分子量ポリエチレン微多孔膜を製造することは困難または不可能である。したがって、これを上回るような超高分子量ポリエチレンに期待される、高いレベルの耐熱性(本願明細書の実施例1参照)を実現することも困難または不可能である。
上記日本国特開平10−258462号公報及び日本国特開平11−302436号公報は、超高分子量ポリエチレンの溶融成形で得られた押出シートを溶融延伸することを含む方法によって超高分子量ポリエチレンフィルムもしくは微多孔膜を得る従来技術の代表例であるが、上記のような欠点を有している。そこで、別の方法で得たシートを溶融延伸することを含む方法によって超高分子量ポリエチレンフィルムもしくは微多孔膜を得ることが検討されている。
具体的には、超高分子量ポリエチレンの多くは粉体として供給されるため、超高分子量ポリエチレンの粉体を焼結成形することによって焼結シートを得、これを溶融延伸することによって超高分子量ポリエチレンフィルムを得る方法が検討されている。
焼結成形の場合は、溶融成形に不可欠の混練工程を含まないため、溶融成形のような分子量低下や分子劣化の問題は少ない。よって、9dl/gを大きく上回るような超高分子量ポリエチレンのシート成形やフィルム成形も容易であると考えられるが、その一方で溶融延伸性を有する焼結シート(フィルム)の製造方法、特に、溶融延伸性と連続生産性とを併せ持つ焼結シート(フィルム)の製造方法の確立が課題となっていた。
日本国特開昭62−55968号公報には、超高分子量ポリエチレン粉体を融点以上の温度で圧縮成形(高温加圧)することによって焼結シートとし、融点以上150℃以下の温度で縦横それぞれ2〜5倍に2軸延伸することによってフィルム化する方法が開示されている。しかしながら該公報の実施例では、使用されている超高分子量ポリエチレンの粒径(180μm程度)が比較的大きいため必ずしも十分な圧縮条件とはなっていないこと、実施例に使用されている超高分子量ポリエチレンの分子量にとって該公報における溶融延伸倍率(2〜5倍)は明らかに低いこと(本願明細書の比較例1参照)、の2点から、十分な高融点結晶の生成は期待できない。したがって、該公報の方法で得られたフィルムを仮に多孔化して微多孔膜が得られたとしても、高温寸法安定性は不十分であることが推測される(本願明細書の比較例1参照)。更に、該公報の方法では、溶融樹脂が圧縮成形手段に粘着するため、連続方式で実施することは出来ない。
日本国特公昭48−11576号公報、日本国特開昭53−45376号公報、及び日本国特公平3−73452号公報には超高分子量ポリエチレンを連続してフィルム化する方法が開示されている。
まず、日本国特公昭48−11576号公報には、超高分子量ポリエチレン粉体を加熱して焼結シートとした後、多数のロールによって、融点以上の温度に設定された部分及び融点以下の温度に設定された部分を有する2枚のベルト間に挟んで加熱、圧着、冷却することにより、連続してフィルム化する方法が開示されている。該公報によれば、2枚のベルト間で加熱された超高分子量ポリエチレンをベルト越しに冷却することによって超高分子量ポリエチレンがベルトに貼り付くことなく連続して生産出来るとされている。しかし、該公報の方法では冷却ロール付近のベルトでポリエチレンの結晶化に伴う強い収縮応力が定常的に発生するため、連続生産は困難である。さらに、ロールに挟まれたベルト保護の観点から粉体界面を溶融延伸が可能になるほど充分に融着することは難しく、溶融延伸性の付与を前提としない単なるフィルム化技術の開示にとどまっている。
日本国特開昭53−45376号公報には、超高分子量ポリエチレンを焼結シートとした後、2次転移点(ガラス転移点)以上融点未満の温度領域で、ロール群を通過させることにより配向したフィルムに成形する方法が開示されている。該公報によれば、融点未満の温度領域で加圧されるため加圧ロールに貼り付くことなく連続生産できるが、融点未満の温度領域では加圧を強くしても粉体界面を溶融延伸が可能になるほど充分に融着することは難しく、溶融延伸性の付与を前提としない単なるフィルム化技術の開示にとどまっている。
日本国特公平3−73452号公報には、超高分子量ポリエチレンのスカイブシートを、T(Tは該超分子量ポリエチレンの融点)以上で且つT+15(℃)未満である温度領域でロール圧延しながら張力をかけて引き取ることによりフィルム化する方法が開示されている。該公報によれば、張力をかけることによって融点以上でもロールに貼りつくことなく連続生産出来るとされている。しかし、T(融点)以上のロールを使用するため、短時間ではロール圧延できたとしても、長時間ではロール表面の汚れによって粘着に伴う破膜が生じやすくなるため連続生産は困難である。さらに、T+15(℃)未満の温度領域では粉体界面を充分に融着することは難しい場合がある。
上記のように、粉体焼結に関わる上記の従来技術はいずれも溶融延伸性の付与を前提としない単なるフィルム化技術の開示にとどまっており、たとえ溶融延伸が出来たとしても高融点結晶の生成が不十分であり、したがって、微多孔膜を得ても高温寸法安定性に劣る。また、上記の従来技術では、連続生産は困難である。
以上のことから明らかなように、溶融成形、焼結成形いずれの従来技術においても、優れた耐熱性と優れた高温寸法安定性とを併せ持つポリエチレン微多孔膜を得ることできず、また連続生産に適用することはできなかった。
発明の概要
このような状況の下で、本発明者らは、優れた耐熱性(溶融時耐破膜性)と優れた高温寸法安定性とを有し、したがって高い安全性を有する電池用セパレータとして有利に用いることのできるポリエチレン微多孔膜を開発するために鋭意検討を重ねた。その際、本発明者らはポリマーにおける貯蔵弾性率と分子の絡合点間分子量との関係に注目した。
一般に、高分子のゴム状平坦域(結晶性高分子においては溶融時)における貯蔵弾性率(E’)と分子の絡合点間分子量(M)との間には、
E’=ρRT/M
(ただし、ρ:高分子の密度、R:気体定数、T:温度)という関係がある。上記式から分かるように、貯蔵弾性率が大きいとき、分子の絡合点間分子量が小さくなり、分子の絡み合いが増加し、それによって耐熱性及び高温寸法安定性が向上する。そこで、本発明者らは、溶融時貯蔵弾性率と高融点結晶融解熱とに着目して、耐熱性(溶融時耐破膜性)及び高温寸法安定性を大幅に向上すべく鋭意研究を行った。
その結果、本発明者らは、特定の厚さ、気孔率、高融点結晶融解熱を有し、且つ従来技術では達成し得なかった溶融時貯蔵弾性率を有するポリエチレン微多孔膜が、従来のポリエチレン微多孔膜よりも優れた耐熱性と高温寸法安定性を有し、かつ、優れた透気性と機械強度とを併せ持つことを意外にも知見した。
本発明者らはまた、上記の優れたポリエチレン微多孔膜の、連続生産にも適用することのできる製造方法について鋭意研究を行った。その結果、融点以上に加熱した超高分子量ポリエチレンをその表面のみ粘着の起こらない温度まで冷却し、内部は高温を維持したまま溶融延伸性の発現に必要な条件で圧縮するという「冷却加圧」を行うことを含む方法により、上記の優れたポリエチレン微多孔膜が製造でき、しかも連続生産にも適用出来ることを意外にも知見した。さらに、この製造方法は一般のポリオレフィン微多孔膜の製造にも適用できることを知見した。これらの知見に基づいて本発明を完成した。
したがって、本発明の1つの目的は、従来のポリエチレン微多孔膜よりも優れた耐熱性と高温寸法安定性とを有し、かつ、優れた透気性と機械強度とを併せ持つポリエチレン微多孔膜を提供することである。
本発明の他の目的の1つは、上記の優れたポリエチレン微多孔膜などのポリオレフィン微多孔膜の、連続生産にも適用することのできる製造方法を提供することである。
本発明の上記及びその他の諸目的、諸特徴ならびに諸利益は、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
添付の図面において:
図1は、本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法において用いるポリオレフィン原反シートの製造プロセスの一例を示す概略図である。
図2は、本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造方法における、圧縮ポリオレフィンシートの製造プロセスの一例を示す概略図である。
図3は、本発明における高融点結晶融解熱を測定する方法を説明するためのDSCチャートである。
【符号の説明】
1及び7:加熱手段
2、3、8及び9:加圧ロール
4:無端ベルト
5:ポリオレフィン粉体
6及び10:原反シート
11:圧縮シート
a:高融点結晶融解熱の計算のために面積を測定するDSCチャート中の領域
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様によれば、ポリエチレンを含んでなり、次の特性(1)〜(4)を満足することを特徴とする微多孔膜が提供される。
(1)厚さは1〜500μmである。
(2)気孔率は20〜80%である。
(3)溶融時貯蔵弾性率は4.5MPa以上である。
(4)高融点結晶融解熱は2J/g以上である。
本発明の理解を容易にするために、以下、本発明の基本的特徴及び好ましい諸態様を列挙する。
1.ポリエチレンを含んでなり、次の特性(1)〜(4)を満足することを特徴とする微多孔膜。
(1)厚さは1〜500μmである。
(2)気孔率は20〜80%である。
(3)溶融時貯蔵弾性率は4.5MPa以上である。
(4)高融点結晶融解熱は2J/g以上である。
2.さらに次の特性(5)を満足することを特徴とする、前項1に記載の微多孔膜。
(5)該微多孔膜を加熱したときに破膜する温度として定義される破膜温度は150℃以上である。
3.さらに次の特性(6)を満足することを特徴とする、前項1または2に記載の微多孔膜。
(6)該微多孔膜を160℃のシリコーンオイルに浸漬したときに破膜せずに維持される時間として定義される耐熱時間は1秒以上である。
4.さらに次の特性(7)を満足することを特徴とする、前項1〜3のいずれかに記載の微多孔膜。
(7)135℃における熱収縮率は30%以下である。
5.さらに次の特性(8)を満足することを特徴とする、前項1〜4のいずれかに記載の微多孔膜。
(8)突刺強度は0.1N/μm以上である。
6.前項1〜5のいずれかに記載の微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
7.正極、負極及びそれらの間に配置された前項6の電池用セパレータを包含することを特徴とする電池。
8.次の工程を包含することを特徴とするポリオレフィンフィルムの製造方法。
(I)ポリオレフィン原反シートとポリオレフィン粉体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン材料を提供する。
(II)該ポリオレフィン材料を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって溶融ポリオレフィン材料を得る。
(III)得られた溶融ポリオレフィン材料を、溶融ポリオレフィン材料の温度未満であり且つT+4(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(p)を用いて圧縮し、これによって圧縮ポリオレフィンシートを得る。
(IV)得られた圧縮ポリオレフィンシートを該ポリオレフィンの融点以上の温度で溶融延伸し、その後冷却することにより、溶融延伸ポリオレフィンフィルムを得る。
9.工程(III)において用いる圧縮手段(p)の表面温度が該ポリオレフィンの融点より低いことを特徴とする、前項8に記載の製造方法。
10.工程(III)において得られる圧縮ポリオレフィンシートの溶融時貯蔵弾性率が1MPa以上であることを特徴とする、前項8または9に記載の製造方法。
11.工程(II)での加熱を赤外線照射によって行い、工程(III)において用いる圧縮手段(p)が1組以上の加圧ロール対であることを特徴とする、前項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
12.工程(II)で得られる溶融ポリオレフィン材料の温度がT+14(℃)以上(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)であることを特徴とする、前項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
13.工程(III)において圧縮手段(p)によって該ポリオレフィン材料に加える圧力が3MPa以上であることを特徴とする、前項8〜12のいずれかに記載の製造方法。
14.工程(I)において提供するポリオレフィン材料がポリオレフィン原反シートであり、該ポリオレフィン原反シートが次の工程を包含する方法によって得られることを特徴とする、前項8〜13のいずれかに記載の製造方法。
(I−1)粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン粉体を、粉体搬送手段によって保持された状態で提供する。
(I−2)該粉体を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって該粉体搬送手段によって保持された溶融粉体を得る。
(I−3)得られた溶融粉体を、溶融粉体の温度未満であり且つT+14(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(q)を用いて圧縮し、これによって該粉体搬送手段によって保持されたポリオレフィン原反シートを得る。
15.工程(I−1)において用いる粉体搬送手段が無端ベルトであり、工程(I−2)における粉体の加熱を赤外線照射によって行い、工程(I−3)において用いる圧縮手段(q)が1組以上の加圧ロール対であって、工程(I−1)において用いる該無端ベルトと工程(III)で用いる該圧縮手段(p)とが互いに干渉しないことを特徴とする、前項14に記載の製造方法。
16.工程(I−2)で得られる溶融粉体の表面温度がT+64(℃)以下(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)であることを特徴とする、前項14または15に記載の製造方法。
17.前項8〜16のいずれかに記載の方法によって得られるポリオレフィンフィルム。
18.前項17のポリオレフィンフィルムを多孔化することを包含する微多孔膜の製造方法。
19.該ポリオレフィンフィルムの多孔化を次の工程を包含する方法によって行うことを特徴とする、前項18に記載の製造方法。
(V)該ポリオレフィンフィルムを可塑剤を用いて膨潤させ、これによってゲル状フィルムを得る。
(VI)得られたゲル状フィルムから該可塑剤を除去することによって微多孔膜を得る。
20.前項18または19に記載の方法によって製造される微多孔膜。
21.前項20に記載の微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
22.正極、負極及びそれらの間に配置された前項21の電池用セパレータを包含することを特徴とする電池。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第1態様である微多孔膜は、ポリエチレンを含んでなる(以下、「ポリエチレンを含んでなる微多孔膜」をしばしば「ポリエチレン微多孔膜」と称する)。ポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよいし、他のモノマーとの共重合体であってもよい。ポリエチレンがそのような共重合体である場合、共重合体中における、エチレンの該他のモノマーに対するモル比は90/10以上である。他のモノマーの例として、エチレン以外のオレフィンを挙げることができる。エチレン以外のオレフィンの例として、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンを挙げることができる。
本発明のポリエチレン微多孔膜は上記の特性(1)〜(4)を有する。特性(1)について説明する。本発明のポリエチレン微多孔膜の厚さは、1〜500μmであり、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜50μmである。微多孔膜の機械強度の観点から、膜厚は1μm以上が必要であり、電池の小型軽量化のために500μm以下であることが必要である。
特性(2)について説明する。本発明のポリエチレン微多孔膜の気孔率は、20〜80%であり、好ましくは30〜60%である。気孔率が20%以上80%以下であれば、十分な透過性と十分な機械強度とを有する微多孔膜を得ることができる。
特性(3)について説明する。本発明のポリエチレン微多孔膜の溶融時貯蔵弾性率は、4.5MPa以上であり、好ましくは5MPa以上、より好ましくは5.5MPa以上、更に好ましくは6MPa以上である。溶融時貯蔵弾性率が4.5MPa以上であれば、耐熱性(溶融時耐破膜性)に優れ、さらに高融点結晶生成による高温での寸法安定性にも優れるため、微多孔膜のセパレータとしての安全性に優れる。なお、溶融時貯蔵弾性率とは、160℃における貯蔵弾性率である。
特性(4)について説明する。本発明のポリエチレン微多孔膜の高融点結晶融解熱は、2J/g以上であり、好ましくは3J/g以上、より好ましくは4J/g以上、更に好ましくは5J/g以上である。高融点結晶融解熱が2J/g以上であれば、ポリエチレン微多孔膜のヒューズ温度における熱収縮が小さくなり、電池用セパレータとして高い安全性を有する。
本発明のポリエチレン微多孔膜の製造方法においては、超高分子量ポリエチレンを溶融延伸に付す。上記のように、超高分子量ポリエチレンを溶融延伸すると、通常結晶に加えて高融点結晶(たとえば、融点が150℃以上の結晶)が生成する。ポリエチレン微多孔膜の高融点結晶融解熱は、微多孔膜中のそのような高融点結晶の量を表す1つの尺度である。
なお、高融点結晶融解熱は次のように測定される(一般のポリオレフィン微多孔膜について説明する)(図3を参照)。ポリオレフィン微多孔膜のサンプルを示差走査熱量計に入れ、昇温速度10℃/分にて30℃からT+64(℃)(Tはポリオレフィンの融点)まで(ポリエチレンの場合は200℃まで)測定してDSC曲線を得る。得られたDSC曲線において、T+34(℃)(ポリエチレンの場合は170℃)に対応する点とT+44(℃)ポリエチレンの場合は180℃)に対応する点とを通る直線をベースライン(図3の破線)として、ベースラインと、T+14(℃)以上(ポリエチレンの場合は150℃以上)のDSC曲線と、直線t=T+14(横軸に垂直な直線)と、直線t=T+44(横軸に垂直な直線)とで囲まれる領域(図3の領域a)の面積から、高融点結晶融解熱(J/g)を算出する。具体的には、たとえば、上記DSC曲線をy=f(t)、ベースラインをy=f(t)とし(y、yはDSC熱流(W)を表わす)、wをサンプルの重量(g)としたとき、高融点結晶融解熱Q(J/g)は下記式で表わされる。
Q=[∫{f(t)−f(t)}dt]/w
(ただし、右辺の積分の積分範囲はT+14からT+44まで(Tは融点)であり、tは温度(℃)を表す。)
計算は、米国OriginLab Corporation社製Origin 6.1Jというソフトウェアなどを用いて行うことができる。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、上記の特性(1)〜(4)に加えて、さらに次の特性(5)を有することが好ましい。
(5)該微多孔膜を加熱したときに破膜する温度として定義される破膜温度は150℃以上である。
上記の破膜温度は、より好ましくは155℃以上、更に好ましくは160℃以上、更に好ましくは165℃以上である。破膜温度が150℃以上であれば、電池の安全性が一層向上する。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、上記の特性(1)〜(4)に加えて、さらに次の特性(6)を有することが好ましい。
(6)該微多孔膜を160℃のシリコーンオイルに浸漬したときに破膜せずに維持される時間として定義される耐熱時間は1秒以上である。
上記の耐熱時間は、より好ましくは5秒以上、更に好ましくは10秒以上、更に好ましくは30秒以上である。耐熱時間が1秒以上であれば、電池の安全性が一層向上する。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、上記の特性(1)〜(4)に加えて、さらに次の特性(7)を有することが好ましい。
(7)135℃における熱収縮率は30%以下である。
ポリエチレン微多孔膜の135℃における熱収縮率は、より好ましくは28%以下、更に好ましくは25%以下、より更に好ましくは22%以下である。135℃における熱収縮率が30%以下であれば、セパレータの熱収縮が原因で電池端部において電極同士が接触し短絡することを、さらによく防ぐことができる。
なお、ポリエチレン微多孔膜の130℃における熱収縮率は、25%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、より更に好ましくは10%以下である。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、上記の特性(1)〜(4)に加えて、さらに次の特性(8)を有することが好ましい。
(8)突刺強度は0.1N/μm以上である。
ポリエチレン微多孔膜の突刺強度は、より好ましくは0.125N/μm以上、更に好ましくは0.15N/μm以上、更に好ましくは0.2N/μm以上である。突刺強度が0.1N/μm以上であれば、脱落した活物質等によるセパレータの短絡をさらによく防止できる。
本発明のポリエチレン微多孔膜の透気度は、1500秒/100cc以下が好ましく、より好ましくは1000秒/100cc以下である。透気度が1500秒/100cc以下であれば、電池用セパレータとして一層良好なイオン透過性が得られる。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、更なる耐熱性の向上を目的として、架橋構造を有していることが好ましい。架橋構造の有無は、ASTM D2765に基づく方法で測定されるゲル分率により判断することができる。
ポリエチレン微多孔膜のゲル分率は、1%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上90%以下である。ゲル分率が1%以上であれば、ポリエチレン微多孔膜の耐熱性(溶融時耐破膜性)をさらに強化することができる。
ポリエチレン微多孔膜に架橋構造を形成する方法について、特に限定はない。形成方法の例として、電子線、γ線、紫外線等の電離放射線による方法、加熱による熱架橋が挙げられる。
本発明のポリエチレン微多孔膜は、高い安全性を有する電池用セパレータとして好適に用いることができる。本発明の電池は、正極、負極及びそれらの間に配置された上記の電池用セパレータを包含する。本発明の電池は、高い安全性を有するセパレータを用いているので、高い安全性を有する。
正極及び負極の例としては、それぞれ公知のものを挙げることができる。また、本発明の電池の製造方法には特に限定はなく、公知の方法、たとえばWO96/27633公報の16頁に記載の方法を用いることができる。
本発明においては、その主要な製造方法として後述するような圧縮成形法を用いるが、ポリオレフィン粉体に対して圧縮成形を行うと、微架橋が生成しやすい。本発明のポリエチレン微多孔膜の製造方法において、分子量140万以上のポリエチレンを用いたもののみならず、分子量60万以上140万未満の、比較的分子量の低いポリエチレンについても本発明の目的を達成するような溶融時貯蔵弾性率、高融点結晶融解熱を発現できる理由は明らかでないが、特に圧縮成形法を用いた場合においてはこのような微架橋の生成によって分子量200万以上相当の架橋点(絡合点)が生成したためであると推測される。なお、粘度平均分子量を測定するにはプラスチック材料の均一溶液を調製する必要があるが、ゲル分を有するプラスチック材料は均一溶液を調製することができないため、粘度平均分子量を定義することはできない。このことから、粘度平均分子量の測定値が開示されている上記日本国特開平10−258462号公報及び日本国特開平11−302436号においては、溶融成形に伴って分子量低下が起こる一方で、微架橋は生成していないことになる。
本発明のポリエチレン微多孔膜の製造方法について説明する。まず、主としてバッチ方式で行う方法について説明する。製造方法としては、上記の特性(1)〜(4)を満足するポリエチレン微多孔膜が得られる限り、様々な製造方法を用いることが出来る。本発明においては成形加工性が極めて低いとされる超高分子量ポリエチレンを使用するので、次の工程を包含する方法で製造することが好ましい。
(A)シート作成工程、
(B)溶融延伸フィルム作成工程、
(C)多孔化工程、及び
(D)可塑剤除去工程。
なお、工程(D)は工程(C)の多孔化を可塑剤を用いて行う場合に行う。以下、各工程について説明する。
((A)シート作成工程)
工程(A)においては、ポリエチレンのシートを作成する。用いるポリエチレンの粘度平均分子量は、60万以上であり、好ましくは100万以上、より好ましくは150万以上、更に好ましくは200万以上である。粘度平均分子量が60万以上であれば、溶融粘度が十分高いので、高融点結晶生成に必要な溶融延伸が可能となる。また、延伸性の観点から1000万以下が好ましい。
ポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンと、エチレン以外の少なくとも1種の炭化水素との共重合体であってもよい。ポリエチレンがそのような共重合体である場合、共重合体中における、エチレンの該少なくとも1種の炭化水素に対するモル比は90/10以上である。エチレン以外の炭化水素の例として、オレフィンを挙げることができる。オレフィンの例として、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンを挙げることができる。
粘度平均分子量60万以上の、異なる粘度平均分子量を有するポリエチレンを2種以上混合して用いることも可能である。さらに、本発明の目的を損なわない範囲で粘度平均分子量60万未満のポリエチレンを混合することも可能である。
なお、本発明において、ポリマーの粘度平均分子量(Mv)は、次の式を用いてポリマーの極限粘度[η]から求めたものである。
[η]=6.77x10−4x(Mv)0.67
ポリマーの極限粘度[η]は、ASTM D4020に基づき、デカヒドロナフタレンにて135℃で測定した値である。
以下、本発明では、粘度平均分子量60万以上のポリマーを超高分子量ポリマー、超高分子量ポリマーから製造されたフィルムを超高分子量ポリマーフィルム、超高分子量ポリマーフィルムから製造される微多孔膜を超高分子量ポリマー微多孔膜、という場合がある。
用いるポリエチレンの密度は、0.92g/cm以上が好ましく、より好ましくは0.93g/cm以上、更に好ましくは0.94g/cm以上、より更に好ましくは0.95g/cm以上である。密度が0.92g/cm以上であれば、高い気孔率および透過性を有するポリエチレン微多孔膜を得ることができる。
用いるポリエチレンの形状に特に限定はないが、粉体が好ましい。
ポリエチレンには、通常添加される添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。そのような添加剤の例として、酸化防止剤等の耐熱安定剤、耐光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、顔料、染料、無機充填剤を挙げることができる。
添加剤の粒径は50μm未満が好ましく、より好ましくは30μm未満、更に好ましくは10μm未満である。粒径が小さいほど均一に添加することが可能となるため、添加剤の添加ムラによる延伸後のフィルム強度低下を防ぐことができる。均一に添加する他の方法として、添加剤を熱や溶剤等で溶かして添加する方法等も用いられる。
シート作成方法について説明する。シート作成方法には特に限定されない。作成方法の例として、押出機によってポリエチレンを単独または可塑剤とともに混練し、Tダイを使ってシートを作成する押出成形法、ポリエチレン粉体を融点以上の温度で圧縮成形機、ダブルベルトプレス等によってシートに成形する圧縮成形法、圧縮成形や固相押出等によってブロックを成形後にスライスしてシートを作成する方法(スカイブシート)を挙げることができる。なお、押出成形において可塑剤を用いる場合、可塑剤は後述のものを用いることができる。
上記の方法の中で、押出成形法の場合は、混練中のせん断と熱のために分子劣化が生じやすい傾向があるため、圧縮成形機またはダブルベルトプレスによって圧縮成形することによってシートを作成する方法が好ましい。圧縮成形の場合、ポリエチレンは通常、粉体の形で用いる。
以下、好ましいシート作成方法として、ポリエチレンの粉体を圧縮成形することによってシートを作成する方法について説明する。
ポリエチレンの粉体の平均粒径は、300μm以下が好ましく、より好ましくは10〜250μm、更に好ましくは30〜200μmである。シートの均質性の観点から、平均粒径は300μm以下であることが必要である。ポリエチレンの最大粒径は、シートの均質性の観点から平均粒径の3倍以下であることが好ましい。メッシュによる分級や、機械的な粉砕によって粒径を好ましい範囲に調整することも可能である。
圧縮成形温度は、170℃以上が好ましく、より好ましくは180〜280℃、更に好ましくは200〜260℃、更に好ましくは220〜250℃である。圧縮成形温度が170℃以上であれば、ポリエチレンの粉体界面が十分に融着し、後述の溶融延伸フィルム作成工程における破膜を十分に防ぐことができる。また、圧縮成形温度が280℃以下であれば、ポリエチレン分子鎖の熱による分子劣化を十分に防ぐことができる。
圧縮成形圧力は、3MPa以上が好ましく、より好ましくは5MPa以上、更に好ましくは10MPa以上、更に好ましくは20MPa以上である。圧力が3MPa以上であれば、粉体間を十分に融着することができる。設備コストの点から、圧力は5GPa未満が好ましい。
圧縮成形時間は、5秒以上が好ましく、より好ましくは15秒以上、更に好ましくは30秒〜10分である。圧縮成形時間が5秒以上であるとき、ポリエチレン粉体間を十分に融着することができる。また、圧縮成形時間が10分以下であるとき、ポリエチレン分子の熱劣化を十分に防ぐことができる。
シートの膜厚は、後述の溶融延伸フィルム作成工程における破膜、延伸不良等を防ぐために、100〜1000μmが好ましい。
((B)溶融延伸フィルム作成工程)
上記で得られたシートを溶融延伸することによって溶融延伸フィルムを作成する。延伸方法は、1軸延伸および2軸延伸のどちらも利用可能であるが、2軸延伸が好ましい。2軸延伸をする場合、逐次2軸延伸を行ってもよいし、同時2軸延伸を行ってもよい。
延伸温度は、融点以上であることが必要で、137℃以上が好ましく、140℃以上が更に好ましく、145℃以上が更に好ましく、150℃以上が特に好ましい。一般に、溶融延伸温度が高いほど、高融点結晶の生成が多くなるため、高温における寸法安定性は良好になる。また、延伸温度は、延伸配向による機械強度向上の観点から250℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下が更に好ましい。
延伸倍率は、すなわち、1軸方向の延伸倍率は、自由延伸倍率以上、好ましくは自由延伸倍率×1.1以上、より好ましくは自由延伸倍率×1.2以上、更に好ましくは自由延伸倍率×1.3以上、より更に好ましくは自由延伸倍率×1.4以上、特に好ましくは自由延伸倍率×1.5以上、最も好ましくは自由延伸倍率×1.6以上である。ポリオレフィンの溶融延伸において、降伏点を通過した後、一旦延伸応力が低下し、その後再び延伸応力が上昇する場合、降伏点における延伸応力と同じ延伸応力に回復するときの延伸倍率を自由延伸倍率という。自由延伸倍率は多くのポリオレフィンにおいては概ね2倍〜5倍の延伸倍率で観察される。なお、ポリオレフィンの溶融延伸において、降伏点を通過した後も延伸応力が増大を続ける場合は、自由延伸倍率は2倍であると看做す。降伏点を通過した後も延伸応力が増大を続ける場合の延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、更に好ましくは4以上、より更に好ましくは5倍以上、特に好ましくは6倍以上、最も好ましくは7倍以上である。また、延伸倍率は、20倍以下が好ましく、15倍以下がより好ましい。
2軸延伸の場合、機械方向(MD)の延伸倍率と直角方向(TD)の延伸倍率とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。2軸延伸の場合の好ましい延伸倍率は、上記の好ましい範囲を掛け合わせることによって得られる。たとえば、2軸延伸において機械方向(MD)の延伸倍率と直角方向(TD)の延伸倍率とが等しい場合、面積延伸倍率(延伸前のシート面積に対する延伸後のシート面積の比)は、前記延伸倍率をそれぞれ2乗することによって好ましい範囲が得られる。
2軸延伸において機械方向(MD)の延伸倍率と直角方向(TD)の延伸倍率とが異なっている場合、延伸倍率の縦横比(すなわち、延伸倍率の低い方向の延伸倍率に対する高い方向の延伸倍率の比)は、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、3以下がより更に好ましく、2以下が特に好ましい。
また、対自由延伸倍率比(即ち、延伸倍率/自由延伸倍率)は、1以上であることが好ましい。
((C)多孔化工程)
多孔化工程おいては、上で得られた溶融延伸フィルムを多孔化する。多孔化方法には特に限定はない。多孔化方法の例として、針等で機械的に開孔する方法、電子線やレーザーを照射して開孔する方法、溶融延伸フィルムを可塑剤で膨潤させる方法が挙げられる。このうち、溶融延伸フィルムを可塑剤で膨潤させる方法が好ましい。ここでいう可塑剤とは、常温または高温においてポリエチレンと親和性のある溶媒を意味する。可塑剤を溶融延伸フィルムに接触して浸透させ、ポリエチレンの非晶部と低融点結晶部とを選択的に溶解させることによってゲル状フィルムとすることが出来る。
このような可塑剤の例として、流動パラフィン等の炭化水素、低級脂肪族アルコール、低級脂肪族ケトン、含窒素有機化合物、エーテル、グリコール、低級脂肪族エステル、シリコーンオイルが挙げられる。これらのうち、安全性および生産設備の観点から流動パラフィンが好ましい。可塑剤は単独または組み合わせて使用することができる。また、多孔化のために高温の可塑剤を用いる場合は、膜を定長拘束下で行うことが好ましい。
可塑剤との接触温度は、良好な透気性を得るという観点から、110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。
また、可塑剤との接触温度は、熱による配向緩和を防ぐという観点から、150℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましい。
可塑剤との接触時間は、3秒〜5分が好ましく、より好ましくは5秒〜2分である。
多孔化後の微多孔膜表面または全体に不透気層が生成することによって、透気性が失われる場合がある。この理由は必ずしも明らかではないが、多孔化前の溶融延伸フィルム中に含まれる高融点成分以外の結晶化度を熱処理によって高めることにより、これを防止することができる。熱処理温度は、135〜160℃が好ましく、140〜155℃がより好ましい。熱処理時間は、3秒〜10分が好ましく、10秒〜5分がより好ましい。均質な熱処理を行うためには3秒以上が好ましく、膜強度低下を防ぐためには10分以下が好ましい。熱処理は膜を定長拘束下で行うことが好ましい。
((D)可塑剤除去工程)
上記のように、工程(C)におけるポリエチレンの多孔化を可塑剤を用いて行う場合、可塑剤が浸透したフィルムから可塑剤を除去する。この除去によってポリエチレン微多孔膜が得られる。針等で機械的に開孔する方法、電子線やレーザーを照射して開孔する方法等を利用した場合は、この工程は不要である。
可塑剤除去工程は膜を定長拘束下で行うことが好ましい。可塑剤の除去は、フィルムに浸透した可塑剤を、洗浄溶剤を利用して抽出することによって行われる。洗浄溶剤の例としては、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ハイドロフロロエーテルやハイドロフロロカーボン等のフッ素系有機溶剤、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン等の低沸点炭化水素を挙げることができる。抽出後、上記洗浄溶剤を乾燥除去することにより、ポリエチレン微多孔膜を得ることができる。
得られたポリエチレン微多孔膜の寸法安定性を高めるために、更に加熱処理(ヒートセット)を行うことも可能である。
以上の製造方法は、主にバッチ生産を目的としたものであり、本発明のポリエチレン微多孔膜の製造方法として好適な1例を示したものである。
以下、本発明の第2の態様であるポリオレフィンフィルム及びポリオレフィン微多孔膜の製造方法を説明する(なお、前記「シート成形工程」は後述の工程(I−1)、(I−2)(I−3)、(I)、(II)及び(III)に対応し、「溶融延伸フィルム作成工程」は工程(IV)に対応し、「多孔化工程」は工程(V)に対応し、「可塑剤除去工程」は工程(VI)に対応する)。
本発明の第2の態様である製造方法は、元来、本発明のポリエチレン微多孔膜の、連続方式でも行い得る製造方法として発明されたものであるが、その対象としてはポリエチレンに限定されず、広くポリオレフィンを対象とすることが出来る。
ポリオレフィンフィルムの製造方法は、次の工程を包含することを特徴とする。
(I)ポリオレフィン原反シートとポリオレフィン粉体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン材料を提供する。
(II)該ポリオレフィン材料を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって溶融ポリオレフィン材料を得る。
(III)得られた溶融ポリオレフィン材料を、溶融ポリオレフィン材料の温度未満であり且つT+4(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(p)を用いて圧縮し、これによって圧縮ポリオレフィンシートを得る。
(IV)得られた圧縮ポリオレフィンシートを該ポリオレフィンの融点以上の温度で溶融延伸し、その後冷却することにより、溶融延伸ポリオレフィンフィルムを得る。
工程(I)について説明する。工程(I)においては、ポリオレフィン原反シートとポリオレフィン粉体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン材料を提供する。用いるポリオレフィンは、オレフィンの単独重合体でも他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いるポリオレフィンの例として、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等のオレフィンの単独重合体、またはこれらのオレフィン90モル%以上と他のオレフィン10モル%以下との共重合体が挙げられる。ポリオレフィンの結晶化度は30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
用いるポリオレフィンの粘度平均分子量は、好ましくは100万以上、より好ましくは150万以上、更に好ましくは200万以上である。用いるポリオレフィンの粘度平均分子量は上記のように60万以上と高いので、溶融粘度が上昇するため、高融点結晶生成に必要な溶融延伸が可能となる。また、延伸性の観点から1000万以下が好ましい。粘度平均分子量60万以上の、異なる粘度平均分子量を有するポリオレフィンを2種以上混合して用いることも可能である。さらに、本発明の目的を損なわない範囲で粘度平均分子量60万未満のポリオレフィンを混合することも可能である。
ポリオレフィンには、通常添加される添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。そのような添加剤の例として、酸化防止剤等の耐熱安定剤、耐光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、顔料、染料、無機充填剤を挙げることができる。
添加剤の粒径は50μm未満が好ましく、より好ましくは30μm未満、更に好ましくは10μm未満である。粒径が小さいほど均一に添加することが可能となるため、添加剤の添加ムラによる延伸後のフィルム強度低下を防ぐことができる。均一に添加する他の方法として、添加剤を熱や溶剤等で溶かして添加する方法等も用いられる。
ポリオレフィン粉体はどのように得られたものでもよい。また、原反シートもどのように得られたものでもよく、公知の方法により作成される原反シートを用いることができる。例として、ポリオレフィン押し出し成膜によって作成された原反シート、ポリオレフィンの粉体焼結によって作成された多孔質または非多孔質の原反シートを挙げることができる。超高分子量ポリオレフィンは押し出し成膜によって原反シートを作成することが困難であるため、ポリオレフィンの粉体焼結によって作成された多孔質または非多孔質の原反シートが好ましく用いられる。
粉体焼結による原反シートの製造方法としては、例えば、粉体搬送手段を挟んで設置されたロール対による連続圧縮成形、ダブルベルトプレスを粉体搬送手段兼加圧手段として用いた連続圧縮成形、平板プレスによるバッチ圧縮成形、バッチまたは連続圧縮成形で得られたブロックのスライス(スカイブシート成形)等が挙げられる。これらの中でも、連続的に安定して生産できることから、ロール対による連続圧縮成形およびダブルベルトプレスによる連続圧縮成形が好ましく用いられる。
原反シートを得る1つの好ましい方法として、工程(I−1)、(I−2)及び(I−3)を含む方法を以下に説明する。
(I−1)粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン粉体を、粉体搬送手段によって保持された状態で提供する。
(I−2)該粉体を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって該粉体搬送手段によって保持された溶融粉体を得る。
(I−3)得られた溶融粉体を、溶融粉体の温度未満であり且つT+14(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(q)を用いて圧縮し、これによって該粉体搬送手段によって保持されたポリオレフィン原反シートを得る。
工程(I−1)においては、粘度平均分子量60万以上のポリオレフィンの粉体を粉体搬送手段によって保持された状態で提供する。
粉体搬送手段としては、連続圧縮成形の場合は無端ベルトやダブルベルト、バッチ成形の場合は金属板等を使用することができる。無端ベルト等にポリオレフィン粉体を連続して提供する際には、上記日本国特公昭48−11576号公報に例示されているような公知の粉体提供手段を用いることができる。
粉体搬送手段に提供されたポリオレフィン粉体の厚みは、0.1〜10mmが好ましく、0.2〜5mmがより好ましく、0.3〜3mmが更に好ましい。厚みが0.1mm未満であると、密度の低い粉体の場合、後の工程で破れや垂れが発生しやすくなる場合があり、10mmを越える場合、加熱時に粉体表面と内部に温度差が生じやすくなる場合があるが、加熱に伴う分子劣化が十分に防止できる場合はこの限りではない。
粉体搬送手段に提供されたポリオレフィン粉体の厚みムラは、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましく、10%以下が更に好ましく、5%以下が特に好ましい。厚みムラが30%を越えると、工程(I−3)または工程(III)において安定した圧縮が行えない場合がある。
なお、本発明において、「ポリオレフィンの粉体を粉体搬送手段に提供する」とは粉体搬送手段にポリオレフィン粉体を提供する動作、「保持された状態」とは粉体搬送手段にポリオレフィン粉体が提供された状態を意味する。
工程(I−2)においては、該粉体を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって該粉体搬送手段によって保持された溶融粉体を得る。加熱の方法に特に限定はない。加熱の方法の例として、赤外線照射(近赤外線照射、中赤外線照射または遠赤外線照射)、熱対流式ヒーター、高周波式ヒーターによる加熱を挙げることができる。加熱効率の点から、中赤外線照射が好ましい。中赤外線照射を用いることにより加熱時間の短縮が可能となり、熱対流式ヒーターや遠赤外線照射に比べ、ポリオレフィンの劣化を防ぐことができる。また、窒素等の不活性ガス雰囲気下、酸素遮断下(例えば、ダブルベルトプレスや平板プレス等のポリオレフィン粉体が加熱時に酸素と接触しない方法)で加熱を行うと更に劣化を防ぐことができ、酸素存在下に比べて、より高温、かつ、長時間の加熱を行うことが可能になる。粉体搬送手段で保持されたポリオレフィン粉体の加熱は、ポリオレフィン粉体の片面または両面から行うことができる。
加熱により、粉体の温度はポリオレフィンの融点以上になる。加熱後の粉体の温度は、T〜T+64(℃)が好ましく、より好ましくはT〜T+44(℃)、更に好ましくはT〜T+24(℃)である(ただし、Tはポリオレフィンの融点である)。加熱後の粉体の温度が融点未満では、粉体界面の融着が不十分となり、溶融延伸時に破膜しやすくなる。加熱後の粉体の温度がT+64(℃)を越えると、ポリオレフィンが劣化して溶融延伸が困難になる場合がある。
ポリエチレンの場合は、T〜200(℃)が好ましく、より好ましくはT〜180(℃)、更に好ましくはT〜160(℃)である。
加熱時間は、20分以下が好ましく、より好ましくは10分以下、更に好ましくは5分以下である。加熱時間の下限は10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒以上である。
工程(I−3)において、得られた溶融粉体を、溶融粉体の温度未満であり且つT+14(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(q)を用いて圧縮し、これによって該粉体搬送手段によって保持された原反シートを得る。圧縮手段(q)としては、1対以上の加圧ロール対、ダブルベルトプレス、平板プレス等が用いられ、中でも加圧ロールおよびダブルベルトプレスが連続生産できる点から好ましく用いられる。
圧縮手段(q)の表面温度(すなわち、圧縮手段(q)のポリオレフィン粉体と接触する部分の温度)は、T+14(℃)未満であり、好ましくはT+9(℃)以下、より好ましくはT+4(℃)以下である。ポリエチレンの場合は、150℃未満であり、好ましくは145℃以下、より好ましくは140℃以下である。
圧縮手段(q)の表面温度の下限は、20℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上である。表面温度が150℃未満であれば、圧縮の際に溶融した原反シートが圧縮手段(q)の表面に貼り付かずに、連続して生産することが可能になる。圧縮手段(q)や配管に結露の発生を防止するために、表面温度は20℃以上が好ましい。
圧縮手段(q)によってポリオレフィン粉体に加える圧力は、ポリオレフィン粉体に対して0.05MPa以上が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上、更に好ましくは0.2MPa以上、より更に好ましくは0.5MPa以上、特に好ましくは1MPa以上である。圧力が0.05MPa未満では、粒子界面の融着が不十分となるため、十分な自己支持性を有する原反シートを作成できない場合がある。圧縮手段(q)の圧力が高いほど、工程(IV)において良好な溶融延伸性が得られる傾向にあるが、粉体搬送手段の保護や設備コストの点から5GPa未満が好ましい。
圧縮手段(q)による圧縮時間は、0.01秒以上が好ましく、より好ましくは0.1秒以上、更に好ましくは0.5秒以上、より更に好ましくは1秒以上である。圧縮時間が0.01秒未満では、粒子界面の融着が不十分となるため、十分な自己支持性を有する原反シートが作成できない場合がある。圧縮時間が長いほど、工程(II)において良好な溶融延伸性が得られる傾向にあるが、生産効率の点から5分以下が好ましい。
上記の加熱と圧縮とを経ることにより、原反シートが得られる。原反シートの溶融時貯蔵弾性率は、2MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3MPa以上、更に好ましくは4MPa以上、より更に好ましくは5MPa以上である。原反シートの溶融時貯蔵弾性率を好ましい範囲とすることにより、工程(II)において良好な溶融延伸性を発現することが出来る。
原反シートに用いられるポリオレフィン粉体の粒径は、小さく、かつ、均一であるほど、粉体の粒子間隙が小さく、かつ、粉体の比表面積が大きくなって粒子間の融着が改善される。したがって、平均粒径は300μm以下が好ましく、より好ましくは10〜250μm、更に好ましくは30〜200μm以上である。粉体中には、平均粒径の3倍以上の粒径を有する粉体が含まれないことが好ましい。メッシュによる分級、機械的に粉砕する等の方法を用いて好ましい範囲の平均粒径にすることも可能である。
原反シートの厚みは、0.1mm以上で10mm未満が好ましく、0.2mm以上で5mm未満がより好ましく、0.3mm以上で3mm未満が更に好ましい。厚みが0.1mm未満で密度の低い原反シートの場合、後の工程で破れや垂れが発生しやすくなり、10mmを越える場合は、後の工程で表面と内部に温度差が生じやすくなる場合があるが、加熱に伴う分子劣化が十分に防止できる場合はこの限りではない。
原反シートの気孔率は、50%以下が好ましく、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、より更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。気孔率が50%を越えると、原反シートに十分な自己支持性を与えられない場合がある。
以下、図1を用いて、無端ベルトおよび加圧ロールを用いた工程(I−1)、(I−2)及び(I−3)の好ましい態様の1つを説明する。
図1において、点線で囲まれた加熱手段1に設けられたヒーターにより、無端ベルト4上に保持されたポリオレフィン粉体5が加熱され、1対の加圧ロール(加圧ロール2、3)により圧縮され、原反シート6が形成される。
加圧ロールの直径は、3cm〜10mが好ましく、より好ましくは5cm〜5m、更に好ましくは10cm〜3mの範囲である。加圧ロールの直径が3cm未満では、圧力によりロールに歪みが生じやすくなり、10mを越えると、起動時の設定温度に上昇するまでに時間がかかる。
加圧ロール入口でのライン速度は、0.05〜30m/minが好ましく、より好ましくは0.1〜20m/min、更に好ましくは0.1〜10m/minである。速度が0.05m/min未満では、生産効率の点で不利であり、100m/minを越えると、加熱手段、加圧ロール等の設備が長大化する。
加圧ロールの直径とライン速度とを組み合わせることにより、前記の好ましい範囲の加圧時間を実現することができる。さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、加熱手段と加圧ロールの組み合わせを単一または複数の無端ベルトを介して2セット以上設置して、または加圧ロールを2対以上設置して、多段ロール化することにより加圧時間を増やし、好ましい範囲の加圧時間にすることもできる。
加圧ロールは、1対のロール基部に任意の厚みの金属板を挟む等の方法で、圧縮部となるロール間隙(本発明では以下「クリアランス」と称する)の下限を調整することができる。特に加圧ロールへの原反シート供給がとぎれた場合にロール同士が直接接触して損傷することを防ぐため、有限の高さの金属板等を挟み込んでおくことが好ましい。ただし、この場合は、原反シートと同時に金属板にも圧力がかかるため、プレスケールフィルム等を使用して原反シートにかかる圧力を測定する際は注意を要する。
上記の工程(I−1)、(I−2)及び(I−3)を行うことにより、溶融延伸可能な原反シートが作成される。圧縮が始まる際の原反シートの温度は融点以上であることが好ましく、融点以下では本発明の目的を達成できない場合がある。
工程(II)においては、工程(I)で提供したポリオレフィン材料を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって溶融ポリオレフィン材料を得る。加熱の方法に特に限定はない。加熱の方法の例として、赤外線照射(近赤外線照射、中赤外線照射または遠赤外線照射)、熱対流式ヒーター、高周波式ヒーターによる加熱を挙げることができる。加熱効率の点から、中赤外線照射が好ましい。中赤外線照射を用いることにより加熱時間の短縮が可能となり、熱対流式ヒーターや遠赤外線照射に比べ、ポリオレフィンの劣化を防ぐことができる。また窒素等の不活性ガス雰囲気下、酸素遮断下(例えばダブルベルトプレスや平板プレス等のポリオレフィンの粉体が加熱時に酸素と接触しない方法)で加熱を行えば更に劣化を防ぐことができ、酸素存在下に比べ、より高温、かつ、長時間で加熱することが可能になる。加熱は、ポリオレフィン材料が原反シートである場合、原反シートの片面または原反シート両面から行うことができる。
加熱により、ポリオレフィン材料の温度は融点以上になる。溶融ポリオレフィン材料の温度は、好ましくはT+14(℃)以上、更に好ましくはT+34(℃)以上、より好ましくはT+44(℃)以上、更に好ましくはT+64(℃)以上、更に好ましくはT+74(℃)以上である(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)。ポリオレフィン材料の温度が融点未満では、材料界面の融着が不十分となり、溶融延伸時に破膜しやすくなる。ポリオレフィン材料の温度がT+124(℃)を越えると、ポリオレフィンが劣化して溶融延伸が困難になる場合がある。
ポリエチレンの場合は、溶融ポリオレフィン材料の温度は、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上、より更に好ましくは210℃以上である。
加熱時間は、20分以下が好ましく、より好ましくは10分以下、更に好ましくは5分以下である。加熱時間の下限は10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒以上である。
加熱に用いる加熱手段、または加熱手段と圧縮手段(p)の間において、ポリオレフィン材料が熱により溶融して垂れが発生することを防ぐため、金属網、ローラーコンベア、金属ベルトコンベア等でポリオレフィン材料を支えながら、圧縮手段に搬送する方法が好ましく用いられる。この際、金属網、ローラーコンベアのロール、ベルトコンベアのベルトには、フッ素コーティング等を行って、溶融したポリオレフィン材料の貼り付きを防ぐことが好ましい。
工程(III)においては、得られた溶融ポリオレフィン材料を、溶融ポリオレフィン材料の温度未満であり且つT+4(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(p)を用いて圧縮し、これによって圧縮ポリオレフィンシートを得る。
圧縮手段(p)としては、1組の加圧ロール対、ダブルベルトプレス、平板プレス等が用いられ、中でも加圧ロールおよびダブルベルトプレスが連続生産できる点から好ましく用いられる。
圧縮手段(p)の表面温度(すなわち、圧縮手段(p)の原反シートと接触する部分の温度)は、好ましくはT+2(℃)以下、より好ましくはT未満である。表面温度がT+4(℃)以下であれば、圧縮の際に溶融したポリオレフィン材料が圧縮手段(p)の表面に貼り付かずに、連続して生産することが可能になる。
ポリエチレンの場合は、圧縮手段(p)の表面温度は、140℃以下、好ましくは138℃以下、より好ましくは融点未満である。
圧縮手段(p)の表面温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、更に好ましくは100℃以上である。圧縮手段(p)や配管に結露の発生を防止するために、表面温度は20℃以上が好ましい。
圧縮手段(p)によって溶融ポリオレフィン材料に加える圧力は、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上が更に好ましく、10MPa以上が更に好ましく、15MPa以上が特に好ましく、20MPa以上が最も好ましい。圧力が1MPa未満では、ポリオレフィン材料が粉体焼結体の場合、粒子界面の融着が不十分となるため、後述の工程(IV)において良好な溶融延伸性が得られない場合がある。圧力が高いほど工程(IV)において良好な溶融延伸性が得られる傾向にあるが、設備コストの点から5GPa未満が好ましい。
圧縮手段(p)による圧縮時間は、0.01秒以上が好ましく、より好ましくは0.1秒以上、更に好ましくは0.5秒以上、更に好ましくは1秒以上である。圧縮時間が0.01秒未満である場合、工程(IV)において良好な溶融延伸性が得られない場合がある。圧縮時間が長いほど工程(II)において良好な溶融延伸性が得られる傾向にあるが、生産効率の点から5分以下が好ましい。
上記の加熱及び圧縮を経ることにより、圧縮ポリオレフィンシートが得られる。圧縮ポリオレフィンシートの160℃における貯蔵弾性率は、1MPa以上であることが好ましく、より好ましくは2MPa以上、更に好ましくは4MPa以上、更に好ましくは5MPa以上である。圧縮ポリオレフィンシートの160℃における貯蔵弾性率を上記の好ましい範囲とすることにより、工程(IV)において良好な溶融延伸性を発現することが出来る。
圧縮ポリオレフィンシートの厚みは、0.1〜10mmが好ましく、0.2〜5mmがより好ましく、0.3〜3mmが更に好ましい。圧縮ポリオレフィンシートの厚みが0.1mm未満では、密度の低い原反シートの場合、後の工程で破れや垂れが発生しやすくなる傾向があり、10mmを越えると、加熱時に原反シート表面と内部に温度差が生じやすくなる場合があるが、加熱に伴う分子劣化が十分に防止できる場合はこの限りではない。
圧縮ポリオレフィンシートの気孔率は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0%である。気孔率が3%を越えると、工程(IV)の溶融延伸において破断しやすくなる場合がある。また溶融延伸して得られたフィルムの表面性が低下する場合がある。
以下、図2を用いて、加圧ロールを用いた工程(I)、(II)及び(III)の1つの好ましい態様を説明する。
図2において、点線で囲まれた加熱手段7に設けられたヒーターにより原反シート10が加熱され、1対の加圧ロール(加圧ロール8、9)により圧縮され、圧縮シート11が形成される。
加圧ロールの直径は、3cm〜10mの範囲が好ましく、より好ましくは5cm〜5m、更に好ましくは10cm〜3mである。加圧ロールの直径が3cm未満では、圧力によりロールに歪みが生じる場合があり、10mを越えると、起動時の設定温度に上昇するまでに時間がかかる。
加圧ロール入口におけるライン速度は、0.05〜30m/minが好ましく、より好ましくは0.1〜20m/min、更に好ましくは0.1〜10m/minである。ライン速度が0.05m/min未満では、生産効率が低下し、100m/minを越えると、加熱手段や加圧ロール等の設備が長大化する。
加圧ロールの直径とライン速度とを組み合わせることにより、前記の好ましい範囲の圧縮時間を実現することができる。本発明の目的を損なわない範囲で、加熱手段と加圧ロールとの組み合わせを2セット以上設置して、または加圧ロールを2対以上設置して、多段ロール化することにより圧縮時間を増やし、好ましい範囲の圧縮時間にすることもできる。
加圧ロールを用いることによって、溶融ポリオレフィン材料の圧縮と同時に圧延による塑性変形を与えることができる。加圧ロールにおける圧延倍率としては、1.0倍を越えて50倍以下の範囲が好ましく、50倍を越えると、シートが蛇行しやすくなり、または破膜しやすくなる。
加圧ロールは、1対のロール基部に任意の厚みの金属板を挟む等の方法で、圧縮部となるロール間隙(クリアランス)の下限を調整することができる。特に加圧ロールへのポリオレフィン材料供給がとぎれた場合に、ロール同士が直接接触して損傷することを防ぐため、有限の高さの金属板等を挟み込んでおくことが好ましい。この場合、ポリオレフィン材料と同時に金属板にも圧力がかかるため、プレスケールフィルム等を使用してポリオレフィン材料にかかる圧力を測定する際には注意を要する。
工程(III)で用いる圧縮手段(p)は、ポリオレフィン材料に溶融延伸性を付与するため、通常は工程(I−3)で用いる圧縮手段(q)より高圧がかけられる。このため、例えば、原反シートを無端ベルトのような粉体搬送手段に保持したままの状態で加圧ロールに導入すると、粉体搬送手段および加圧ロールを損傷する場合がある。このような損傷を避けるため、圧縮手段(p)は工程(I−1)〜(I−3)で用いる粉体搬送手段と互いに干渉しないこと、即ち、圧縮手段(p)の圧縮部位にはポリオレフィンのみが存在し、粉体搬送手段は存在しないことが好ましい。したがって、室温及び加熱されたポリオレフィン材料は圧縮手段(p)に単独で導入できるだけの十分な自己支持性を持つことが好ましい。
工程(IV)について説明する。工程(IV)においては、工程(III)で得た圧縮ポリオレフィンシートをポリオレフィンの融点以上で延伸し、さらに冷却することによって溶融延伸フィルムが製造される。圧縮ポリオレフィンシートが工程(IV)に入る際に、圧縮ポリオレフィンシートの温度が融点以上の場合は加熱を行うことなく延伸することができる。延伸装置には、通常は加熱手段が具備されており、十分な能力を有する加熱手段が具備されている場合は圧縮ポリオレフィンシートの温度は融点未満でもよい。
工程(IV)における延伸方法としては、通常用いられている一軸延伸、同時二軸延伸および逐次二軸延伸方式のいずれであってもよく、限定されるものではないが、生産性の高いテンター法による一軸または二軸延伸が好ましい。
工程(IV)における延伸温度は、T+4(℃)以上が好ましく、T+9(℃)以上がより好ましく、T+14(℃)以上が更に好ましい(ただし、Tはポリオレフィンの融点を表す)。ポリエチレンの場合は、140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。溶融延伸温度が高いほど、一般的に高融点結晶の生成が多くなるため、高温における寸法安定性は良好になる。
工程(IV)における延伸温度の上限は、融点+114℃以下が好ましく、融点+44℃以下がより好ましく、融点+34℃以下が更に好ましい。ポリエチレンの場合は、250℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下が更に好ましい。延伸配向による機械強度向上の観点から250℃以下が好ましい。
工程(IV)における延伸倍率は、自由延伸倍率以上、好ましくは自由延伸倍率×1.1以上、より好ましくは自由延伸倍率×1.2以上、更に好ましくは自由延伸倍率×1.3以上、より更に好ましくは自由延伸倍率×1.4以上、特に好ましくは自由延伸倍率×1.5以上、最も好ましくは自由延伸倍率×1.6以上である(自由延伸倍率については既述した)。自由延伸倍率は多くのポリオレフィンにおいては概ね2倍〜5倍の延伸倍率で観察されるが、降伏点を通過した後も延伸応力が増大を続ける場合の延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、更に好ましくは4以上、より更に好ましくは5倍以上、特に好ましくは6倍以上、最も好ましくは7倍以上である。延伸倍率の上限は、20倍以下が好ましく、15倍以下がより好ましい。
工程(IV)における面積延伸倍率は、前記延伸倍率をそれぞれ2乗する事によって好ましい範囲を知る事が出来る。
工程(IV)における延伸倍率の縦横比は、すなわち、延伸倍率の低い方向の延伸倍率に対する高い方向の延伸倍率の比は、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、3以下がより更に好ましく、2以下が特に好ましい。圧縮手段(p)における圧延倍率が1.0倍を越える場合は、縦方向の溶融延伸倍率を低く設定することが好ましい。すなわち、圧延倍率と溶融延伸倍率の積を4倍以上、400倍以下の範囲内に調整することが好ましい。
以上の方法によって、本発明のポリオレフィンフィルムが得られる。ポリオレフィンフィルムに対して、寸法安定性を高めるために加熱処理(ヒートセット)を行うことも可能である。
ポリオレフィンフィルムの膜厚は、1μm〜3mmが好ましく、1μm〜1mmがより好ましく、1〜500μmが更に好ましく、1〜200μmがより更に好ましく、3〜100μmが特に好ましく、5〜50μmが最も好ましい。厚みが1μm未満では機械強度が十分ではなく、3mmを越えると、膜が厚くなり、その用途が制約される。
ポリオレフィンフィルムの気孔率は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0%である。気孔率が3%を越えるとフィルムとしての透明性およびピンホールが問題になる場合がある。
ポリオレフィンフィルムの突刺強度は、2N/25μm以上が好ましく、より好ましくは3N/25μm以上、更に好ましくは4N/25μm以上、より更に好ましくは5N/25μm以上である。突刺強度が2N/25μm以上であれば、フィルムとしての強度は充分なものである。
ポリエチレンを用いる場合のポリオレフィンフィルムの溶融時貯蔵弾性率は、2MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3MPa以上、更に好ましくは4MPa以上、より更に好ましくは5MPa以上である。溶融時貯蔵弾性率が2MPa以上であれば、ポリオレフィンフィルムがより高い耐破膜性を達成することが可能となる。
ポリエチレンを用いる場合の超高分子量ポリオレフィンフィルムの高融点結晶融解熱は、1J/g以上が好ましく、より好ましくは2J/g以上、更に好ましくは3J/g以上、より更に好ましくは4J/g以上であり、同様に、130℃における熱収縮率は10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、より更に好ましくは1%以下である。高融点結晶融解熱が1J/g以上であれば、良好な寸法安定性を発現する事が出来る。
ポリオレフィンフィルムを多孔化することによって本発明のポリオレフィンフィルム微多孔膜が得られる。多孔化の方法には特に限定はない。多孔化を行う1つの好ましい方法として、次の工程を含む方法が挙げられる。
(V)該ポリオレフィンフィルムを可塑剤を用いて膨潤させ、これによってゲル状フィルムを得る。
(VI)得られたゲル状フィルムから該可塑剤を除去することによって微多孔膜を得る。
以下、この方法について説明する。
工程(V)においては、ポリオレフィンフィルムを可塑剤を用いて膨潤させ、これによってゲル状フィルムを得る。ここでいう可塑剤とは常温または高温においてポリオレフィンと親和性のある溶媒であり、溶融延伸フィルムに接触して浸透させ、ポリオレフィンの非晶部と低融点結晶部とを選択的に溶解させることによりゲル状フィルムとすることが出来る。
このような可塑剤の例としては、流動パラフィン等の炭化水素、低級脂肪族アルコール、低級脂肪族ケトン、含窒素有機化合物、エーテル、グリコール、低級脂肪族エステル、シリコーンオイルが挙げられる。これらのうち、安全性および生産設備の観点から流動パラフィンが好ましい。可塑剤は単独または組み合わせて使用することができる。また、高温の可塑剤を用いる多孔化は、膜を定長拘束下で行うことが好ましい。
可塑剤との接触温度の下限は、T−26(℃)以上が好ましく、T−21(℃)以上がより好ましく、T−16℃以上が更に好ましい(ただし、Tはポリオレフィンの融点を表す)。ポリエチレンの場合は、110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。良好な透気性を得るためには、110℃以上が好ましい。
可塑剤との接触温度の上限は、T+16(℃)以下が好ましく、T+9(℃)以下がより好ましく、T+4(℃)以下が更に好ましい。ポリエチレンの場合は、150℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましい。熱による配向緩和を防ぐために150℃以下が好ましい。
可塑剤との接触時間は、3秒〜5分が好ましく、より好ましくは5秒〜2分である。
多孔化後の微多孔膜表面または全体に不透気層が生成することによって、透気性が失われる場合がある。この理由は必ずしも明らかではないが、多孔化前の溶融延伸フィルム中に含まれる高融点成分以外の結晶化度を熱処理によって高めることにより、これを防止することができる。
熱処理温度はT−1(℃)以上T+14(℃)以下が好ましく、T+4(℃)以上T+19(℃)以下がより好ましい。ポリエチレンの場合は、135〜160℃が好ましく、140〜155℃がより好ましい。
熱処理時間は3秒〜10分が好ましく、より好ましくは10秒〜5分である。均質な熱処理を行うためには3秒以上が好ましく、膜強度低下を防ぐためには10分以下が好ましい。熱処理は膜を定長拘束下で行うことが好ましい。
工程(VI)について説明する。工程(VI)においては、ゲル状フィルムより可塑剤を除去して微多孔膜を得る。可塑剤を除去する方法としては洗浄や乾燥を用いる事が出来る。洗浄する際は、上記可塑剤と相溶性がありポリオレフィンを溶解しない洗浄溶剤を用いて行われる。洗浄溶剤の例として、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ハイドロフロロエーテル、ハイドロフロロカーボン等のフッ素系有機溶剤、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン等の低沸点炭化水素が挙げられる。可塑剤の除去は膜を定長拘束下で行うことが好ましい。また、必要に応じて洗浄溶剤を除去するために乾燥する事が好ましい。
以上の方法によって本発明のポリオレフィン微多孔膜が得られる。ポリオレフィン微多孔膜の寸法安定性を高めるために、加熱処理(ヒートセット)を行うことも可能である。
本発明のポリオレフィン微多孔膜の厚みは、1〜500μmが好ましく、1〜200μmがより好ましく、3〜100μmが更に好ましく、5〜50μmがより更に好ましい。厚みが1μm未満では、その機械強度が十分ではない場合があり、500μmを越えると、膜が厚くなり、用途が制限される。
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは10〜90%、より好ましくは20〜80%、更に好ましくは30〜70%、より更に好ましくは40〜60%である。気孔率が10%未満では、透過性が低くなり、気孔率が90%を越えると膜が弱くなるため、その用途が制限される。
ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、1N/25μm以上が好ましく、より好ましくは2N/25μm以上、更に好ましくは3N/25μm以上、より更に好ましくは5N/25μm以上である。突刺強度が1N/25μm以上であれば、脱落した活物質等によってセパレータが短絡することはない。
ポリエチレンを用いる場合のポリオレフィン微多孔膜の溶融時貯蔵弾性率は、1MPa以上であることが好ましく、より好ましくは2MPa以上、更に好ましくは4MPa以上、より更に好ましくは5MPa以上である。
ポリエチレンを用いる場合のポリオレフィン微多孔膜の高融点結晶融解熱は、1J/g以上が好ましく、より好ましくは2J/g以上、更に好ましくは4J/g以上、より更に好ましくは5J/g以上である。高融点結晶融解熱が1J/g以上の場合、ポリオレフィン微多孔膜のヒューズ温度における熱収縮が小さくなり、電池用セパレータとして高い安全性を発現する。
ポリオレフィン微多孔膜の130℃における熱収縮率は、25%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、より更に好ましくは10%以下である。
ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして使用する際のイオン伝導性を推定する有用な尺度であり、後に述べる方法で測定した値が1500秒/100cc以下が好ましく、より好ましくは1000秒/100cc以下である。透気度が1500秒/100cc以下であれば、電池用セパレータとして用いた場合、十分なイオン透過性が得られる。
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、高い安全性を有する電池用セパレータとして好適に用いることができる。本発明の電池は、正極、負極及びそれらの間に配置された上記の電池用セパレータを包含する。本発明の電池は、高い安全性を有するセパレータを用いているので、高い安全性を有する。
正極及び負極の例としては、それぞれ公知のものを挙げることができる。また、本発明の電池の製造方法には特に限定はなく、公知の方法、たとえばWO96/27633公報の16頁に記載の方法を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例において用いられる測定法は以下のとおりである。なお、実施例及び比較例においてはすべてポリエチレンの場合を扱っているが、一般のポリポレフィンの場合にも通用する測定方法を記載しておく。
(1)膜厚(μm)
デジタル定圧厚さ測定器(日本国(株)東洋精機製作所製、型式:B−1、測定子径φ5mm、測定圧62.4kPa)を用いて測定する。
(2)気孔率(%)
10cm角のサンプルをポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積と重量からポリオレフィン微多孔膜の密度ρ(g/cm)を求め、ポリオレフィンの密度をρ(g/cm)として(ポリエチレンの場合は0.95(g/cm))として、次式を用いて気孔率を計算する。
気孔率(%)=100×(1−ρ/ρ
(3)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(日本国(株)東洋精機製作所製、型式:G−B2C)を用いて測定する。
(4)突刺強度(N/μm)
測定温度25℃において、ハンディー圧縮試験器(日本国カトーテック(株)製、型式:KES−G5)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突き刺し試験を行い、最大突刺荷重(N)を求める。最大突刺荷重(N)に1/膜厚(μm)を乗じたものが、突刺強度(N/μm)である。
(5)ヒューズ温度(℃)
厚さ10μmのNi箔を2枚(A、B)用意する。一方のNi箔Aを縦15mm、横10mmの長方形部分を残して「テフロン」(登録商標)(米国デュポン社製)テープでマスキングするとともに、他方のNi箔Bには測定試料のポリオレフィン微多孔膜を置く。ポリオレフィン微多孔膜のMD両端を「テフロン」(登録商標)テープで固定する。電解液として1mol/Lのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン重量比=1/1/2)を用いる。ポリオレフィン微多孔膜に電解液を含浸させた後、Ni箔A、Bを貼り合わせ、2枚のガラス板で両側を押さえる。
このような装置で連続的に温度と電気抵抗を測定する。温度は25℃から200℃まで2℃/分の速度にて昇温させ、電気抵抗値は1kHzの交流にて測定する。微多孔膜の電気抵抗値が1000Ωに達するときの温度をヒューズ温度とし、さらに、ヒューズ後に再びインピーダンスが1000Ωを下回ったときの温度をショート温度とする。
(6)溶融時貯蔵弾性率(MPa)
ポリオレフィン微多孔膜、または工程(III)で得られた圧縮シートを二枚の「カプトン」(登録商標)フィルム(東レ・デュポン(株)製、型式:300H、厚み75μm)で挟み、T+44(℃)(ただし、Tはポリオレフィンの融点)の雰囲気下(ポリエチレンの場合は180℃の雰囲気下となる)で収縮させた後、厚さが3mmのステンレス製の平板でT+64(℃)(ポリエチレンの場合は200℃となる)、圧力1MPa、2分間予備加熱を行う。T+64(℃)(ポリエチレンの場合は200℃となる)、圧力5MPa、3分間で加圧を行った後、20℃、圧力1MPaで2分間冷却を行い、貯蔵弾性率測定用サンプルを作成する。
長さ30mm、幅5mmに切り出したサンプルを、動的粘弾性測定装置(日本国アイティー計測制御(株)製、DVA(登録商標)−200)を用い、JIS K−7244に基づいて、サンプル長さ20mm、昇温速度2℃/分、測定周波数35Hz、歪み0.05%、静動力比1.5の条件下、引張モードで25(℃)からT+64(℃)(ポリエチレンの場合は200℃となる)まで測定し、T+24(℃)(ポリエチレンの場合は160℃となる)における貯蔵弾性率を求める。
(7)高融点結晶融解熱(J/g)
ポリオレフィン微多孔膜を3.3mg切り取り、φ5mmのアルミ製サンプルパン内に入れて、クリンピングカバーでシールすることにより測定サンプルを作成する。該サンプルを示差走査熱量計(日本国セイコー電子工業(株)製、型式:DSC6200)に入れ、昇温速度10℃/分にて30℃からT+64(℃)(Tはポリオレフィンの融点)まで(ポリエチレンの場合は200℃まで)測定してDSC曲線を得る。得られたDSC曲線において、T+34(℃)(ポリエチレンの場合は170℃)に対応する点とT+44(℃)(ポリエチレンの場合は180℃)に対応する点とを通る直線をベースラインとして、ベースラインと、T+14(℃)以上(ポリエチレンの場合は150℃以上)のDSC曲線と、直線t=T+14(横軸に垂直な直線)と、直線t=T+44(横軸に垂直な直線)とで囲まれる領域の面積から、高融点結晶融解熱(J/g)を算出する。計算は、米国OriginLab Corporation社製Origin6.1Jというソフトウェアを用いて行う。
(8)130℃熱収縮率、135℃熱収縮率(%)
10cmに切り取ったポリオレフィン微多孔膜を紙にはさみ、130℃もしくは135℃に温度調節したオーブン中に1時間放置した後に、MD・TDの長さを測定し、次式によって熱収縮率を測定する。なお、熱収縮率はMD・TDの熱収縮率の算術平均値とする。
熱収縮率(%)=(1−(a/10))×100
(a:収縮後のサンプルの長さ(cm))
(9)破膜温度(℃)
熱機械的測定装置(日本国セイコー電子工業(株)製、型式:TMA/SS150C)を用いて、サンプル長10mm、サンプル幅3mm、初期加重1.2g、昇温速度10℃/分にて熱収縮応力の測定を行い、熱収縮応力が0となる温度をMD・TDのそれぞれについて測定する。低い方の温度を破膜温度とする。
(10)耐熱時間(秒)
ポリオレフィン微多孔膜を内径13mm、外径25mmのSUS製ワッシャ2枚の間に挟み込み、周囲4箇所をクリップで留めた後、予めT+44(℃)(ただし、Tはポリオレフィンの融点)に加熱(ポリエチレンの場合は160℃に加熱)したシリコーンオイル(日本国信越化学工業、商品名:KF−96−10CS)中に浸漬し、ピンホールまたは破膜が目視で認められるまでの時間を耐熱時間とする。2分以上観察してもピンホールや破膜が認められなかった場合は「破膜なし」とする。
(11)シートの温度
ハンディー形放射温度計(型式:IR−TA、日本国(株)チノー製)を使用し、放射率ε=0.95の条件でシートにレーザー光を当てて、シートの表面温度を測定する。
(12)圧縮手段の表面温度
デジタル温度計(型式:IT−2000、センサー部IK−500、日本国(株)井内盛栄堂製)を用いて圧縮手段の表面温度を測定する。
(13)ロール圧力
プレスケールフィルム(低圧用:商品コードLW、日本国富士フィルム(株)製)を加熱されたシートの上に載せて、表面温度が150℃未満の加圧ロールで圧縮して赤く発色した面積C(m)と加圧ロールの推力D(N)とから算出する。
図1の加圧ロール2が下降して上側から圧縮する方式の場合、加圧ロールの質量によってE(N)だけ推力が高くなることから、下記式(1)より求められる。図1の加圧ロール3が上昇して下側から圧縮する方式の場合、加圧ロールの質量によってF(N)だけ推力が低くなることから下記式(2)より求められる。
加圧ロール2の圧力(Pa)=(D+E)/C (1)
加圧ロール3の圧力(Pa)=(D−F)/C (2)
(14)圧縮時間
プレスケールフィルム(低圧用:商品コードLW、日本国富士フィルム(株)製)を加熱されたシートの上に載せて、表面温度が150℃未満の加圧ロールで圧縮して赤く発色した長さG(cm)を測定し、ライン速度H(m/min)から下記式(3)より求める。
加圧時間(秒)=G/{(H×100)/60] (3)
(15)自由延伸倍率、対自由延伸倍率比
バッチ式2軸延伸機(日本国(株)東洋精機製作所製)に付属の延伸応力測定装置により、溶融延伸における応力−歪み曲線を得た。応力−歪み曲線における、降伏点延伸応力と同じ延伸応力に回復したときの延伸倍率を自由延伸倍率とした。さらに、次の式を用いて対自由延伸倍率比を算出した。
対自由延伸倍率比=延伸倍率/自由延伸倍率
【実施例1】
極限粘度[η]=15.0(粘度平均分子量303万)の超高分子量ポリエチレン(ドイツ国ティコナ社製:GUR(登録商標)2126、平均粒径30μm、密度0.93g/cm、融点133℃)を、圧縮成形機(日本国庄次鉄工株式会社製;50トンプレス)を用い、温度240℃、圧縮成形圧力18MPaにて5分間圧縮成形を行い、膜厚500μmのシートを作成した。次に、バッチ式二軸延伸機(日本国(株)東洋精機製)を用いて、予熱温度150℃、延伸温度160℃、延伸速度10%/秒にて7×7倍に同時二軸延伸を行い、溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表1に示す。
次に、ステンレス製金枠に溶融延伸フィルムを拘束し、128℃に温調した流動パラフィン(日本国(株)松村石油研究所製、商品名:スモイルP−70)内に1分間放置して多孔化した後、取り出して冷却し、塩化メチレン中に1時間浸漬して流動パラフィンを除去して膜を乾燥させた。さらに、金枠に拘束したまま120℃に温調したオーブンで30秒間ヒートセットを行ってポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【実施例2】
極限粘度[η]=11.3(粘度平均分子量200万)の超高分子量ポリエチレン(日本国旭化成(株)製、サンファイン(登録商標)UH850、平均粒径50μm(200メッシュ分級品)、密度0.94g/cm、融点134℃)を使用し、同時二軸延伸の予熱温度を143℃としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた溶融延伸フィルムの物性及び微多孔膜の物性を表1に示す。
【実施例3】
圧縮成形後のシートを膜厚600μm、同時二軸延伸の予熱・延伸温度を145℃、延伸倍率を7.5×7.5倍、多孔化温度を130℃としたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。得られた溶融延伸フィルムの物性及び微多孔膜の物性を表1に示す。
【実施例4】
極限粘度[η]=7.1(粘度平均分子量100万)の超高分子量ポリエチレン(日本国三井化学(株)製、ハイゼックス(登録商標)145M、平均粒径170μm、密度0.94g/cm、融点135℃)を使用し、同時二軸延伸の予熱温度140℃、延伸温度140℃、延伸速度100%/秒にて7×7倍に同時二軸延伸を行い、多孔化温度(流動パラフィンの温度)を122℃としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた溶融延伸フィルムの物性及び微多孔膜の物性を表1に示す。
比較例1
予熱・延伸温度を145℃、延伸倍率を5×5倍、多孔化温度を130℃としたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。得られた溶融延伸フィルムの物性及び微多孔膜の物性を表1に示す。比較例1においては対自由延伸倍率比が1未満であるので、本発明のポリエチレン微多孔膜は得られない。
比較例2
極限粘度[η]=11.3(粘度平均分子量200万)の超高分子量ポリエチレン(密度0.94g/cm)9.0重量部、極限粘度[η]=3.0(粘度平均分子量28万)の高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm)21.0重量部、パラフィン油(日本国(株)松村石油研究所製、商品名:P−350P)70重量部、およびポリエチレンの重量に対して0.375重量%の酸化防止剤を35mmの二軸押出機を用いて200℃で溶融混練し、ハンガーコートダイから30℃に温度調整した冷却ロール上にキャストして厚さ1200μmのゲル状シートを作成した。なお、ブレンドしたポリエチレンの極限粘度[η]は4.9であった。
このシートを連続式の同時二軸延伸機を用いて7×7倍に延伸することによってゲル状延伸膜を作成した。次に、膜を金枠で拘束した状態で、塩化メチレンを用いてパラフィン油を抽出除去し、塩化メチレンを乾燥後に120℃に温調したオーブン内で30秒間ヒートセットを行い、ポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
比較例3
極限粘度[η]=3.0(粘度平均分子量28万)の高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm)38.25重量部、極限粘度[η]=3.5(粘度平均分子量35万)のポリエチレン(密度0.92g/cm)6.75重量部、パラフィン油(日本国(株)松村石油研究所製、商品名:P−350P)55重量部、およびポリエチレンの重量に対して0.375重量%の酸化防止剤を35mmの2軸押出機を用いて200℃で溶融混練し、ハンガーコートダイから30℃に温度調整した冷却ロール上にキャストして厚さ1200μmのゲル状シートを作成した。なお、ブレンドしたポリエチレンの極限粘度[η]は2.2であった。
このシートを連続式の同時二軸延伸機を用いて7×7倍に延伸することによってゲル状延伸膜を作成した。次に、膜を金枠で拘束した状態で、塩化メチレンを用いてパラフィン油を抽出除去し、塩化メチレンを乾燥後に120℃に温調したオーブン内で30秒間ヒートセットを行い、ポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【実施例5】
(工程(I−1)〜(I−3))
実施例2と同様の超高分子量ポリエチレンを使用し、ライン速度0.1m/分の速度で走行する厚さ1mmの無端ベルト(型式:1650SM、日本国サンドビック(株)製)上に、ポリエチレン粉体の厚みが1.3mm±0.05、幅20cmになるように供給した。ポリエチレン粉体を、上下1対とした遠赤外線ヒーター(型式:PLR−320、日本国(株)ノリタケ製)にて、粉体の表面温度が200℃になるように180秒間加熱した。この加熱されたポリエチレン粉体を、ベルト越しに表面温度80℃の加圧ロールで、圧力2MPa、クリアランス0.8mm、圧縮時間5.4秒に調整して圧縮することにより、厚み840μm、気孔率20%のポリエチレン原反シートを得た。
(工程(I)〜(II))
上記工程で得られた原反シートを、上下一対とした中赤外線ヒーター(反射ミラー付き中赤外線コイルヒーター1000W、日本国ビークス(株)製)にて、原反シートの表面温度が220℃になるように120秒間加熱した。
(工程(III))
加熱した原反シートを、直径18cm、表面温度が120℃の加圧ロールを用いて、ライン速度0.15m/min、圧力8.3MPa、圧縮時間3.6秒の条件で圧延し、圧延倍率1.2倍、厚み560μmの圧縮シートを得た。
(工程(IV)) 上記工程で得られた圧縮シートを実施例1で用いたのと同じバッチ式二軸延伸機を用いて、予熱温度145℃、延伸温度145℃、縦方向の延伸速度を8%/秒、横方向の延伸速度を10%/秒として、縦方向6倍、横方向8倍に同時二軸延伸を行い、溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表2に示す。
(工程(V))
ステンレス製金枠に工程(IV)で得た溶融延伸フィルムを拘束し、130℃に温調した流動パラフィン(スモイル(商標)P350P、日本国(株)松村石油研究所製)内に1分間放置して多孔化した後、取り出して冷却した。
(工程(VI))
次いで、塩化メチレン中に1時間浸漬して流動パラフィンを除去して膜を乾燥させた。さらに、金枠に拘束したまま120℃に温調したオーブンで30秒間ヒートセットを行ってポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表2に示す。
【実施例6】
実施例4と同様の超高分子量ポリエチレンを使用すること以外は実施例5と同じ方法で溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表2に示す。
比較例4
極限粘度[η]=4.5(粘度平均分子量50万)の超高分子量ポリエチレン(日本国三井化学(株)製、ハイゼックス(登録商標)030S、平均粒径120μm、密度0.95g/cm、融点135℃)を使用すること以外は実施例5と同じ操作を行った。しかし、粘度平均分子量が低いために溶融延伸途中で破膜した。この結果を表2に示す。
比較例5
工程(III)における加圧ロールの表面温度を145℃にすること以外は実施例5と同じ操作を行った。しかし、加圧ロールの温度が高いために原反シートが貼り付き、圧縮シートが得られなかった。この結果を表2に示す。
比較例6
予熱温度、延伸温度を130℃にしたこと以外は実施例5と同じ操作を行った。しかし、延伸温度が低いために縦方向に2.7倍、横方向に3.5倍までしか延伸できなかった。得られた溶融延伸フィルムの物性を表2に示す。
【実施例7】
実施例5で用いたのと同様のポリエチレン粉体と装置とを使用した。
(工程(I−1)〜(I−3))
無端ベルト上にポリエチレン粉体を厚み1.4mm±0.05、幅16cmになるように供給した。ポリエチレン粉体を、上下1対とした遠赤外線ヒーターにて、表面温度が143℃になるように180秒間加熱した。この加熱されたポリエチレン粉体を、ベルト越しに140℃の加圧ロールで、圧力3.5MPa、クリアランス0.8mm、圧縮時間5.4秒に調整して圧縮することにより厚み832μm、気孔率11%の原反シートを得た。
(工程(I)〜(III))
上記工程で得られた原反シートを、上下1対とした遠赤外線ヒーターにて、原反シートの表面温度が190℃になるように、180秒間加熱した。次いで、直径18cm、表面温度135℃の加圧ロールを用いて、ライン速度0.10m/min、圧力18.4MPa、圧縮時間4.8秒間、圧縮後のライン速度を0.14m/分の条件で引っ張りながら圧延し、圧延倍率5.0倍、厚み155μmの圧縮シートを得た。
(工程(IV))
上記工程で得られた圧縮シートをバッチ式二軸延伸機を使用して、予熱温度140℃、延伸温度140℃、延伸速度10%/秒にて、縦方向1.7倍、横方向7.3倍に逐次二軸延伸を行い、溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表2に示す。
【実施例8】
(工程(I−1)〜(I−3)及び(I)〜(III))
実施例7の工程(I−1)〜(I−3)で得た原反シートを、二枚のカプトン(登録商標)フィルム(型番:300H、厚み75μm、日本国東レ・デュポン(株)製)で挟み、更に厚さが3mmのステンレス製の平板で挟んで温度240℃、圧力2MPa、2分間加熱を行った。次いで、温度130℃、圧力18MPa、圧縮時間5分間、圧縮を行った後、5mm厚の鉄板にはさんで室温に冷えるまで放置し、圧縮シートを得た。
(工程(IV))
上記工程で得た圧縮シートを実施例1で用いたのと同じバッチ式二軸延伸機を使用して、予熱温度145℃、延伸温度145℃、延伸速度10%/秒にて、6.4×6.4倍に同時二軸延伸を行い、溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表3に示す。
(工程(V))
上記工程で得た溶融延伸フィルムをステンレス製金枠に拘束し、130℃に温調した流動パラフィン(商品名:スモイル(商標)P70、日本国(株)松村石油研究所製)内に1分間放置して多孔化した後、取り出して冷却した。
(工程(VI))
次いで、塩化メチレン中に30分間浸漬して流動パラフィンを除去して膜を乾燥させた。さらに、金枠に拘束したまま120℃に温調したオーブンで30秒間ヒートセットを行ってポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表3に示す。
【実施例9】
工程(I−1)〜(I−3)及び工程(IV)においては実施例5におけると同じ装置を使用した。
(工程(I−1)〜(I−3))
実施例1と同様の超高分子量ポリエチレンを使用し、ライン速度0.2m/分の速度で走行する厚さ1mmの無端ベルト上に、ポリエチレン粉体を厚み1.0mm±0.05、幅16cmで供給した。ポリエチレン粉体を、上下1対とした遠赤外線ヒーターにて、粉体表面温度が138℃、時間120秒の条件で加熱した。この加熱されたポリエチレン粉体を、ベルト越しに表面温度135℃の加圧ロールで、圧力3.5MPa、クリアランス0.5mm、圧縮時間2.7秒に調整して圧縮することにより厚み555μm、気孔率30%の原反シートを得た。
(工程(I)〜(III))
上記工程で得られた原反シートを使用したこと以外は実施例8と同じ工程(I)〜(III)を行い、圧縮シートを得た。
(工程(IV))
上記工程で得られた圧縮シートをバッチ式二軸延伸機を使用して、予熱温度145℃、延伸温度145℃、延伸速度10%/秒にて、5.6×5.6倍に同時二軸延伸を行い、溶融延伸フィルムを得た。得られた溶融延伸フィルムの物性を表3に示す。
(工程(V) 〜(VI))
上記工程で得た溶融延伸フィルムを使用したこと以外は実施例8と同じ工程(V)〜(VI)を行い、超高分子量ポリエチレン微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表3に示す。
比較例7
原反シートを110℃に加熱すること以外は、実施例8と同じ操作を行った。しかし、加熱温度が低いためにポリエチレン粉体の融着が不十分であり、溶融延伸時に破膜した。この結果を表3に示す。



【産業上の利用可能性】
本発明のポリエチレン微多孔膜は、従来のポリエチレン微多孔膜よりも優れた溶融時耐破膜性と高温寸法安定性とを有し、かつ、優れた透気性と機械強度とを併せ持つので、電池用セパレータなどとして有利に用いられる。
また、本発明の、上記のポリエチレン微多孔膜などのポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、連続生産にも適用することができるので、効率的な生産が可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンを含んでなり、次の特性(1)〜(4)を満足することを特徴とする微多孔膜。
(1)厚さは1〜500μmである。
(2)気孔率は20〜80%である。
(3)溶融時貯蔵弾性率は4.5MPa以上である。
(4)高融点結晶融解熱は2J/g以上である。
【請求項2】
さらに次の特性(5)を満足することを特徴とする、請求項1に記載の微多孔膜。
(5)該微多孔膜を加熱したときに破膜する温度として定義される破膜温度は150℃以上である。
【請求項3】
さらに次の特性(6)を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載の微多孔膜。
(6)該微多孔膜を160℃のシリコーンオイルに浸漬したときに破膜せずに維持される時間として定義される耐熱時間は1秒以上である。
【請求項4】
さらに次の特性(7)を満足することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の微多孔膜。
(7)135℃における熱収縮率は30%以下である。
【請求項5】
さらに次の特性(8)を満足することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の微多孔膜。
(8)突刺強度は0.1N/μm以上である。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
【請求項7】
正極、負極及びそれらの間に配置された請求項6の電池用セパレータを包含することを特徴とする電池。
【請求項8】
次の工程を包含することを特徴とするポリオレフィンフィルムの製造方法。
(I)ポリオレフィン原反シートとポリオレフィン粉体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン材料を提供する。
(II)該ポリオレフィン材料を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって溶融ポリオレフィン材料を得る。
(III)得られた溶融ポリオレフィン材料を、溶融ポリオレフィン材料の温度未満であり且つT+4(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(P)を用いて圧縮し、これによって圧縮ポリオレフィンシートを得る。
(IV)得られた圧縮ポリオレフィンシートを該ポリオレフィンの融点以上の温度で溶融延伸し、その後冷却することにより、溶融延伸ポリオレフィンフィルムを得る。
【請求項9】
工程(III)において用いる圧縮手段(p)の表面温度が該ポリオレフィンの融点より低いことを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(III)において得られる圧縮ポリオレフィンシートの溶融時貯蔵弾性率が1MPa以上であることを特徴とする、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(II)での加熱を赤外線照射によって行い、工程(III)において用いる圧縮手段(p)が1組以上の加圧ロール対であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
工程(II)で得られる溶融ポリオレフィン材料の温度がT+14(℃)以上(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
工程(III)において圧縮手段(p)によって該ポリオレフィン材料に加える圧力が3MPa以上であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
工程(I)において提供するポリオレフィン材料がポリオレフィン原反シートであり、該ポリオレフィン原反シートが次の工程を包含する方法によって得られることを特徴とする、請求項8〜13のいずれかに記載の製造方法。
(I−1)粘度平均分子量60万以上のポリオレフィン粉体を、粉体搬送手段によって保持された状態で提供する。
(I−2)該粉体を該ポリオレフィンの融点以上の温度に加熱し、これによって該粉体搬送手段によって保持された溶融粉体を得る。
(I−3)得られた溶融粉体を、溶融粉体の温度未満であり且つT+14(℃)未満(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)の表面温度を有する圧縮手段(q)を用いて圧縮し、これによって該粉体搬送手段によって保持されたポリオレフィン原反シートを得る。
【請求項15】
工程(I−1)において用いる粉体搬送手段が無端ベルトであり、工程(I−2)における粉体の加熱を赤外線照射によって行い、工程(I−3)において用いる圧縮手段(q)が1組以上の加圧ロール対であって、工程(I−1)において用いる該無端ベルトと工程(III)で用いる該圧縮手段(p)とが互いに干渉しないことを特徴とする、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(I−2)で得られる溶融粉体の表面温度がT+64(℃)以下(ただし、Tは該ポリオレフィンの融点を表す)であることを特徴とする、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれかに記載の方法によって得られるポリオレフィンフィルム。
【請求項18】
請求項17のポリオレフィンフィルムを多孔化することを包含する微多孔膜の製造方法。
【請求項19】
該ポリオレフィンフィルムの多孔化を次の工程を包含する方法によって行うことを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
(V)該ポリオレフィンフィルムを可塑剤を用いて膨潤させ、これによってゲル状フィルムを得る。
(VI)得られたゲル状フィルムから該可塑剤を除去することによって微多孔膜を得る。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法によって製造される微多孔膜。
【請求項21】
請求項20に記載の微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
【請求項22】
正極、負極及びそれらの間に配置された請求項21の電池用セパレータを包含することを特徴とする電池。

【国際公開番号】WO2004/024809
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571939(P2004−571939)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011738
【国際出願日】平成15年9月12日(2003.9.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】