説明

微多孔膜

【課題】縦裂し難く、耐引裂き性に優れた熱可塑性樹脂微多孔膜を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる微多孔膜であって、微多孔膜における熱可塑性樹脂のメルトフローレートが0.1〜2.0g/10minであり、幅方向における引張強度が5〜10MPaで、かつ幅方向における引張伸度が300%以上である微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐引裂き性に優れた熱可塑性樹脂微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は様々な用途に用いられており、中でも熱可塑性樹脂微多孔膜は医療用、工業用の濾過、分離等に用いられる分離膜や、紙おむつ用バッグシート等の衛生材料、ハウスラップや屋根下地材等の建材等、様々な用途に広く使用されている。特に、ポリオレフィン系樹脂微多孔膜は有機溶剤やアルカリ性または酸性の溶液に対する耐性を有するため、これら用途に広く好適に使用されている。
【0003】
ポリオレフィン系樹脂微多孔膜の工業的製法としては、相分離法(湿式法)と延伸法(乾式法)の二つが一般的に良く知られている。
【0004】
湿式法では、ポリマーと溶剤を高温で混合して調製した均一溶液を、Tダイ法、インフレーション法等でフィルム化した後、溶剤を別の揮発性溶剤で抽出除去および延伸することにより、微多孔性フィルムが形成される。
【0005】
湿式法は、ポリマーと溶剤の組合せ方、ロール延伸による一軸延伸、ロール延伸とテンター延伸による逐次二軸延伸、同時二軸テンターによる同時二軸延伸等多様な延伸方法、また、抽出前に溶剤を含んだ状態で延伸する場合と、溶剤除去後に延伸する場合など、加工方法により多孔構造を制御することが可能である。
【0006】
しかしながら、多量の溶媒を使用することから、環境への負荷が大きく、また製造コストが高いといった本質的な問題を抱えている。
【0007】
乾式法では、溶融ポリマーをTダイやサーキュラーダイから押し出し、高ドラフト比でフィルム化した後、さらに熱処理を施し規則性の高い結晶構造を形成する。その後、低温延伸、更には高温延伸して結晶界面を剥離させてラメラ間に間隙部分を作り、多孔構造を形成する方法(以下「単成分延伸法」という)、ポリエチレンとポリプロピレン等を混合して成形したシートを、少なくとも一方向に延伸し、異種ポリマー間の界面に空隙(細孔)を生じさせる方法などがある。前者は特許文献1〜5などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭55−32531号公報(米国特許第3,426,754号明細書、米国特許第3,920,785号明細書)
【特許文献2】特公平2−11620号公報(米国特許第4,563,317号明細書)
【特許文献3】特公平6−18915号公報(米国特許第4,620,956号明細書)
【特許文献4】特公平6−76502号公報(米国特許第4,994,335号明細書、米国特許第5,173,235号明細書)
【特許文献5】特公平6−79659号公報(特開平1−270907号公報)
【0009】
乾式法は溶媒を使用しないことから、環境への負荷が小さく、製造コストも低く抑えることが出来る。特に単成分延伸法は樹脂の混合等の前処理が必ずしも必要でなく、さらに横方向への延伸装置も必要でなく、非常にシンプルなプロセスであることから注目を集めている。
【0010】
しかしながら、単成分延伸法においては、延伸そのものが多孔形成の支配原理となるプロセスであるため、使用できる樹脂の特性に制限があり、さらに取りうる多孔構造の範囲は狭く孔径等も限定される上、一方向に非常に強く配向がかかるため縦裂けし易く、耐引裂き性に劣るという問題がある。
【0011】
この問題を解決する方法として、原料メルトフローレート(以下原料MFRと略す)が低い樹脂を使用することで強度を持たせる手法が簡便で効率的な手法であると予想されるが、従来の単成分延伸法における製膜工程は高ドラフト条件で行われるため、低原料MFR樹脂に対しては安定生産が困難である。また安定生産のため低ドラフト条件で製膜した場合は結晶化が不十分となり多孔膜としての多孔特性発現が困難となることから、問題の解決には至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、低原料MFR樹脂を単成分延伸法により製造する微多孔膜において、著しく耐引裂き性が向上した微多孔膜、詳しくは幅方向に適正な引張強度と大きな引張伸度を有することで柔軟性と強度に優れた微多孔膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは微多孔膜における材料と物性を鋭意検討した結果、製造された微多孔膜における熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下フィルムMFR)が0.1〜2.0g/10minになるような樹脂を用い、幅方向における引張強度が5〜10MPaで、かつ幅方向における引張伸度が300%以上である微多孔膜において、柔軟かつ強度に優れることを見出し、本発明を完成させるにいたった。
【0014】
〔1〕熱可塑性樹脂からなる微多孔膜であって、微多孔膜における熱可塑性樹脂のメルトフローレートが0.1〜2.0g/10minであり、幅方向における引張強度が5〜10MPaで、かつ幅方向における引張伸度が300%以上であることを特徴とする微多孔膜。
〔2〕結晶性熱可塑性樹脂をダイから押し出し、さらに熱処理を施し、その後、流れ方向に低温延伸し次いで高温延伸して製造される微多孔膜であって、ダイから押し出す時のドラフト比が20〜150でかつ熱処理の温度が当該結晶性熱可塑性樹脂の融点未満で融点から10℃低い温度範囲であり、熱処理の時間が3〜15分であることを特徴とする方法によって製造される上記〔1〕に記載の微多孔膜。
〔3〕ダイから押し出す時のドラフト比が20〜50である上記〔2〕記載の微多孔膜。
〔4〕微多孔膜の原料として用いる、結晶性熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂であり、該ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量/数平均分子量が4〜15であり、融点より25℃低い温度における等温結晶化時間が200秒以下である上記〔2〕又は〔3〕に記載の微多孔膜。
〔5〕結晶性熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂であり、熱処理後の無孔フィルムおける密度が0.912〜0.916であることを特徴とする〔2〕〜〔4〕の何れか1項に記載の微多孔膜。
〔6〕結晶性熱可塑性樹脂をダイから押し出し、さらに熱処理を施し、その後、流れ方向に低温延伸し次いで高温延伸する微多孔膜の製造方法であって、ダイから押し出す時のドラフト比が20〜150でかつ熱処理の温度が当該結晶性熱可塑性樹脂の融点未満で融点から10℃低い温度範囲であり、熱処理の時間が3〜15分であることを特徴とする微多孔膜の製造方法。
〔7〕ダイから押し出す時のドラフト比が20〜50である上記〔6〕記載の微多孔膜の製造方法。
〔8〕上記〔6〕又は〔7〕記載の方法で製造される微多孔膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、幅方向に適正な引張強度と大きな引張伸度を有する、柔軟かつ高強度な微多孔膜を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明は、0.1〜2.0g/10minという特定のフィルムMFR、幅方向における引張強度が5〜10MPa、幅方向における引張伸度が300%以上であるという、柔軟かつ高強度な特性を有する新規な微多孔膜を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、特定の結晶性熱可塑性樹脂と低ドラフト製膜および熱処理を特徴とする単成分延伸法を適切に組み合わせることにより製造され得る、柔軟かつ高強度な微多孔膜を提供する。
【0019】
本発明のフィルムMFR0.1〜2.0g/10minを満足するために、原料として用いる結晶性熱可塑性樹脂の原料MFRは、加工性及び多孔膜として充分な強度を両立しやすい0.1〜1.9g/10minが好ましい。原料MFRが0.1以上であると、溶融時の流動性が良好で加工が容易になり、また1.9以下であると微多孔膜として良好な強度を得ることが容易になる。
【0020】
本発明においてフィルムMFRおよび原料MFRの測定は、JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定した。
【0021】
また結晶性熱可塑性樹脂については、上記の条件を満足すれば、一種の結晶性熱可塑性樹脂であっても、二種以上の結晶性熱可塑性樹脂を組合わせた結晶性熱可塑性樹脂組成物であってもよい、結晶性熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが挙げられ、これらの共重合体、又は単独重合体あるいは共重合体を二種以上ブレンドして用いても構わない。
【0022】
本発明において使用されるポリプロピレン樹脂は主としてプロピレン重合単位からなる結晶性の重合体であり、好ましくはプロピレン重合単位が全体の90重量%以上であるポリプロピレンである。具体的には、プロピレンの単独重合体であってもよく、また、プロピレン重合単位90重量%以上とエチレンまたはα−オレフィン10重量%以下とのランダムまたはブロック共重合体であってもよい。結晶性ポリプロピレンが共重合体の場合に使用されるオレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。このうち、プロピレン単独重合体を用いるのが、製造コストの点から好ましい。
【0023】
本発明において使用されるポリエチレン樹脂は、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレン以外の単量体との二元以上のランダムまたはブロック共重合体及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。なお、本発明において主成分とは最も多い成分をいう。前記エチレン以外の単量体としては、特に限定されないが、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜12のα−オレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、一酸化炭素等が例示できる。これらは一種でも二種以上の併用でもよい。
【0024】
また本発明において使用されるポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂は、通常のポリオレフィン樹脂に使用される酸化防止剤、中和剤、無機充填剤及びブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、α晶造核剤、界面活性剤等を必要に応じて配合することができる。
【0025】
酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、またはトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレン−ジフォスフォナイト等のリン系酸化防止剤等が例示できる。
【0026】
中和剤としてはステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸塩類が例示でき、無機充填剤及びブロッキング防止剤としては炭酸カルシウム、シリカ、ハイドロタルサイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が例示でき、滑剤としてはステアリン酸アマイド等の高級脂肪酸アマイド類が例示でき、帯電防止剤としてはグリセリンモノステアレート等の脂肪酸エステル類が例示できる。
【0027】
α晶造核剤としては、タルク、アルミニウムヒドロキシ−ビス(4−t−ブチルベンゾエート)、1・3,2・4−ジベンジリデンソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(2',4'−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(3',4'−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1・3−p−クロルベンジリデン−2・4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−クロルベンジリデン)ソルビトール、ナトリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2'−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−2,2'−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウムジヒドロキシ−2,2'−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等の公知のα晶造核剤が挙げられる。これらは単独使用でも、2種以上の併用でもよい。
【0028】
さらに本発明において使用されるポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂は、一般的に分子量分布が広ければ非ニュートン特性が大きくなり、加工性が向上する。また、分布が狭いほど引張強さや耐衝撃性等の機械的性質が向上する。加工性および強度を両立する見地から、重量平均分子量/数平均分子量が4〜15であり、融点より25℃低い温度における等温結晶化時間が200秒以下であることが好ましく、10〜200秒であることがより好ましい。等温結晶化時間が当該範囲であると、原料の結晶性と、低ドラフト比での製膜性のバランスが良好で、原反製膜が容易になる。
【0029】
本発明における重量平均分子量/数平均分子量の測定は、ゲルパ−ミエ−ションクロマトグラフィーの測定によって求められる重量平均分子量と数平均分子量の比として算出した。装置はWaters社製Alliance GPCV 2000を用い、東ソー(株)製 TSKgel GMHHR−H(20)HTの7.8mm(ID)×30.0cm(L)カラム2本を使用し、オルトジクロロベンゼンを溶媒として140℃、流速1mL/minで測定した。
【0030】
本発明における融点は、Mettler Toledo社製DSC822を用い、該装置の取扱説明書に沿ってサンプルをセットした後、20℃/minで10℃から230℃まで昇温したときのサンプルの融解に伴う吸熱ピークにおけるピークトップの温度とした。
【0031】
本発明における等温結晶化時間の測定は、Perkin Elmer社製DSC7−RSを用い、該装置の取扱説明書に沿ってサンプルをセットした後、20℃/minで230℃まで昇温し、充分サンプルが溶融するまで3min保持した。それから50℃/minで融点より25℃低い温度まで降温し、該温度にて保持しながら、保持開始からサンプルの結晶化に伴う発熱ピークにおけるピークトップまでの時間を測定し、等温結晶化時間とした。
【0032】
本発明の微多孔膜の製造方法は、下記の(A)〜(C)の工程を含み、さらに好ましくは(A)〜(D)の工程を含む。
(A):原料を、押出機中で溶融混練し、ダイから押し出し、冷却しフィルム状に成形する工程
(B):(A)工程で得たフィルム状の成形物を熱処理する工程
(C):(B)工程で作製した無孔フィルムを縦方向に冷延伸する工程、および、続いて縦方向に熱延伸する工程
(D):(C)工程に続き、熱延伸したフィルムを緩和させながら熱処理する工程
【0033】
(A)〜(D)の工程を詳細に説明する。
【0034】
(A)工程には、公知のポリオレフィン樹脂における製膜方法を用いればよいが、例えばTダイフィルム成形法、インフレーションフィルム成形法等の方法でフィルム状成形物を製膜することができる。特に加工マージンの幅からTダイフィルム成形法が好ましい。
【0035】
Tダイフィルム成形法、インフレーションフィルム成形法の場合、前記樹脂は、180℃以上の押出成形温度で製膜することができるが、ダイス内圧力を低減させ後述のドラフト比を低減させる目的と、樹脂の溶けムラを無くすため、220〜300℃の押出成形温度が好適に用いられる。
【0036】
溶融混練された前記樹脂は、ダイリップより押し出されるが、この際、ダイリップを通過する樹脂組成物の流れ方向(MD)の線速度VCLと膜状成形物の流れ方向(MD)の線速度Vfの比で定義されるドラフト比(VCL/Vf)が本発明を達成するための重要な要因である。一般に単成分延伸法における製膜工程でのドラフト比は200以上であるが、本発明の好ましい態様においては、該樹脂を製膜する際のドラフト比は20〜150であり、より好ましい態様のドラフト比は20〜50である。ドラフト比20以上の場合、延伸工程における多孔化が容易になり、ドラフト比150以下の場合、低MFRの樹脂においても安定した製膜を容易に行うことが出来る。これによって低MFR樹脂に対しても、安定して均一なフィルムを製膜することが出来る。
【0037】
製膜工程で得られたフィルム状成形物の厚さは特に限定されるものではないが、次の延伸工程における延伸及び熱処理条件と微多孔膜の要求特性によって、10μm〜70μm程度が好ましく、製膜速度は1〜100m/minの範囲が好適に用いられる。これらの厚さのフィルム状成形物は、Tダイフィルム成形装置を初めとして、冷却ロールとエアー吹き出し口を有するエアーナイフ、冷却ロールと一対の金属ロール、冷却ロールとステンレスベルト等の組み合わせからなるTダイフィルム成形装置等の各種製膜装置により得られる。
【0038】
(B)工程では、次の(C)工程に供する前に、フィルム状成形物の結晶化度を向上させるために熱処理を施さなければならない。熱処理を行うことで、(A)工程で得られたフィルムの結晶化度が向上し、(C)工程において、多孔膜として充分な空孔率を容易に得ることが出来るようになる。熱処理の方法は、例えば、加熱空気循環オーブン、加熱ロールまたは遠赤ヒーターにより、当該樹脂の融点未満で融点から10℃低い温度範囲で3〜15分処理する必要がある。熱処理温度について、融点から10℃低い温度以上で処理することにより、熱処理が不足することなく、かつ生産性も損なわないため好ましい。また融点に達してしまうと樹脂の結晶性がかえって損なわれ易くなるため、融点未満であることが好ましい。熱処理時間については、3分以上の場合、(C)工程において、充分な結晶化度になり易く、15分以下である場合、高い生産性も両立出来るため好ましい。(B)工程における熱処理が不足すると、次の(C)工程における孔発生が著しく低減し、多孔膜として充分な機能性を発現できなくなる。
【0039】
熱処理の状態は、例えばポリプロピレン単独重合体を熱処理した場合、無孔フィルムの密度が0.912以上になっていれば、次の(C)工程に問題なく供することが出来るため好ましい。密度が0.915〜0.916の無孔フィルムは特に好適に使用することが出来る。
【0040】
本発明におけるフィルム密度は、アッベ屈折率計(装置名:株式会社アタゴ製NAR−1T SOLID)を用いて測定した屈折率をもとに密度と屈折率の相関関係より算出した。
【0041】
従来困難であった低MFR樹脂において、ドラフト比と熱処理を上述した条件にて適切に処理することにより、後述する柔軟かつ高強度であり、多孔膜として充分な機能を発現するような微多孔膜を製造することが出来る。
【0042】
(C)工程では、(B)工程で得られた無孔フィルムを低温延伸に続いて高温延伸を行う。まず低温延伸では、延伸ムラ低減や多孔膜として十分な物性を得るため、好ましくは15〜35℃の雰囲気下、特に好ましくは15〜25℃でMD方向に延伸する。またこのときの倍率は、延伸ムラを抑え、均一な多孔膜を得るため、1.1〜2.5倍が特に好ましい。低温延伸されたフィルムは引き続いて、高温延伸に供される。加熱方法については、例えば、加熱空気循環オーブン、加熱ロールまたは遠赤ヒーターなど一般的なフィルムの加熱方式を使用することが出来る。高温延伸条件としては、延伸ムラを抑え、均一な多孔膜を得るため、融点より60℃低い温度〜融点より5℃低い温度、より好ましくは融点より30℃低い温度〜融点より5℃低い温度に制御された環境下で1.5〜3.0倍でMD方向に延伸を行うことが好ましい。
【0043】
(D)工程では、(C)工程に引き続いて、多孔化したフィルムの熱緩和処理を行う、例えば、加熱空気循環オーブン、加熱ロールまたは遠赤ヒーターにより、融点より30℃低い温度〜融点より5℃低い温度に制御された環境下で、10〜40%の緩和率で熱処理を行うことが、微多孔膜として十分な温度安定性を有し、シワの発生を抑制する上で、特に好ましい。
【0044】
上記原料および製法によって、本発明の微多孔膜、即ちフィルムMFRが0.1〜2.0g/10min、幅方向の引張強度が5〜10MPaで、かつ幅方向の引張伸度が300%以上である微多孔膜を得ることが出来る。
【0045】
本発明における微多孔膜の幅方向における引張強度は絶対強度と柔軟性のバランスから5〜10MPaが好ましい。また幅方向の引張伸度は、柔軟性及び耐引裂き性のバランスから300%以上であることが好ましい。
【0046】
また本発明における微多孔膜の膜厚は、5〜100μmが好ましい。例えば、フィルターとして用いる場合、透過性と信頼性のバランスを考慮すると、膜厚は5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。空孔率は30〜70%が好ましく、40%〜60%がより好ましい。孔径は透過性のムラが少なく、目詰まりなど生じにくいサイズとして、最大孔径35〜50nm以下で平均孔径10〜30nmであることが好ましい。
【0047】
上記の熱可塑性樹脂微多孔膜は、多孔特性、耐引裂き性、コストのバランスに優れることから、従来の多孔膜と同様に、空気清浄化や水処理用の濾過膜または分離膜、建材や衣料等の透湿防水用途等、各種の分野に好適に用いることができる。
【0048】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂微多孔膜の各特性は次の試験方法にて評価した。
【0050】
1.膜厚:微多孔膜を直径72mmの円形に切抜き、ダイヤルゲージ(測定子直径5mm、測定荷重1.5N)を用い、JIS K 7130(1992)A−2法に準じて、任意の15ヶ所について厚みを測定した。その15ヶ所の値の平均値を膜厚とした。
【0051】
2.空孔率:微多孔膜を100×100mmの方形に切抜き、嵩比重を求め、また、多孔化されていないサンプル100×100mmから(株)東洋精機製作所製の自動比重計DENSIMETER,D−Sにて真比重を求め、下記式より空隙率を求めた。
空孔率(%)=(1−嵩比重/真比重)×100
【0052】
3.最大孔径:ASTM F 316に準拠し、PMI社製のPerm−Porometerを用いGalwicを使用して熱可塑性樹脂微多孔膜の孔径を測定し、バブルポイント細孔径を最大細孔径とした。
【0053】
4.平均孔径:西華産業株式会社製のナノ細孔径分布測定装置(装置名:Nano−Perm−Porometer)を用い、キャリアーガスとしてヘリウムを使用し、ヘキサン蒸気透過性能を測定し、50%透過流速径を平均孔径とした。
【0054】
5.引張強度および引張伸度:微多孔膜を長さ120mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。なお、120mmの長さ方向(長手方向)を膜の幅方向(フィルム製造時の延伸方向に直交する方向)に合わせた。引張試験機(東洋精機製作所製ストログラフR−3)を用いて、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムの長手方向に引張試験を行った。サンプルが破断した時にフィルムにかかった最大応力を引張強度とし、またこのときの破断時チャック間距離より、破断時チャック間距離/初期チャック間距離×100の式より求められる値を引張伸度とした。
【0055】
6.耐引裂き性:微多孔膜を直径72mmの円形に切抜き、周囲が動かないように、中央に直径60mmの穴が開いている金枠で固定する。中央を直径15mmの円柱状の棒で押し込んだとき、2.5cm以上押し込んでも縦裂しないものを合格とした。n=3で測定を行い、合格数が3の場合を○、1〜2の場合を△、0の場合を×として評価を行った。
【0056】
(微多孔膜の作製)
[実施例1]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度1.2mmのTダイを使用し、MFR0.5、等温結晶化時間190秒、Mw/Mn10、融点163℃のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製ノバテック(登録商標)EA9BT)を210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比32で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は31μmであった。次に得られた無孔原反フィルムは熱風循環オーブンに導かれ、弛まないよう5%の緊張下、155℃、10分間熱処理された。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.915であった。熱処理後原反フィルムはMD延伸装置へと導かれ、25℃に制御された温度条件下で20%ロール延伸された。引続き155℃に制御された熱延伸槽に導かれロール間で総延伸量250%になるように熱延伸された後、120℃で20%緩和することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度1.6mmのTダイを使用し、MFR0.5、等温結晶化時間190秒、Mw/Mn10、融点163℃のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製ノバテック(登録商標)EA9BT)を210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比35で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は45μmであった。それ以外は、実施例1と同様に製造することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度1.2mmのTダイを使用し、MFR0.2、等温結晶化時間120秒、Mw/Mn14、融点133℃のポリエチレンホモポリマーを180℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比33で80℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は35μmであった。次に得られた無孔原反フィルムは熱風循環オーブンに導かれ、弛まないよう5%の緊張下、125℃、10分間熱処理された。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.955であった。熱処理後原反フィルムはMD延伸装置へと導かれ、25℃に制御された温度条件下で20%ロール延伸された。引続き125℃に制御された熱延伸槽に導かれロール間で総延伸量250%になるように熱延伸された後、120℃で20%緩和することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度1.0mmのTダイを使用し、MFR0.2、等温結晶化時間120秒、Mw/Mn14、融点133℃のポリエチレンホモポリマーを180℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比40で80℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は25μmであった。それ以外は、実施例3と同様に製造することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
無孔原反フィルムの熱処理工程において、弛まないよう5%の緊張下、150℃、10分間熱処理した。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.912であった。それ以外は実施例1と同様に製造することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0061】
[実施例6]
吐出リップ開度1.6mmのTダイを使用し、MFR1.8、等温結晶化時間195秒、Mw/Mn5、融点160℃のポリプロピレンホモポリマーを210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比47で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は32μmであった。次に得られた無孔原反フィルムは熱風循環オーブンに導かれ、弛まないよう5%の緊張下、155℃、10分間熱処理された。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.915であった。それ以外は実施例1と同様に製造することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す
【0062】
[実施例7]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度3.5mmのTダイを使用し、MFR0.5、等温結晶化時間190秒、Mw/Mn10、融点163℃のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製ノバテック(登録商標)EA9BT)を210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比133で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は29μmであった。次に得られた無孔原反フィルムは熱風循環オーブンに導かれ、弛まないよう5%の緊張下、155℃、10分間熱処理された。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.915であった。それ以外は実施例1と同様に製造することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度2.5mmのTダイを使用し、MFR0.5、等温結晶化時間190秒、Mw/Mn10、融点163℃のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製ノバテック(登録商標)EA9BT)を210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比155で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は31μmであった。しかしながら得られた無孔原反フィルムは厚みムラが酷くそれ以降の工程に供することが出来なかった。
【0064】
[比較例2]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度1.2mmのTダイを使用し、MFR4.0、等温結晶化時間195秒、Mw/Mn5、融点161℃のポリプロピレンホモポリマーを210℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比32で110℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は31μmであった。それ以外は実施例1と同様に製造することで微多孔膜を得た。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.914であった。得られた微多孔膜の物性を表2に示す。
【0065】
[比較例3]
吐出幅1100mm、吐出リップ開度4.0mmのTダイを使用し、MFR4、等温結晶化時間220秒、Mw/Mn4、融点161℃のポリプロピレンホモポリマーを200℃で溶融押し出しした。無孔原反フィルムはドラフト比200で90℃の冷却ロールに導かれた後、巻き取られた。膜厚は25μmであった。次に得られた無孔原反フィルムは熱風循環オーブンに導かれ、弛まないよう5%の緊張下、125℃、1分間熱処理された。このとき熱処理後原反フィルムの密度は0.914であった。熱処理後原反フィルムはMD延伸装置へと導かれ、25℃に制御された温度条件下で20%ロール延伸された。引続き110℃に制御された熱延伸槽に導かれロール間で総延伸量220%になるように熱延伸された後、120℃で20%緩和することで微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の微多孔膜は、多孔膜として機能を有し、かつ柔軟、高強度を両立することから、特性、コスト、耐引裂き性に優れた微多孔膜を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる微多孔膜であって、微多孔膜における熱可塑性樹脂のメルトフローレートが0.1〜2.0g/10minであり、幅方向における引張強度が5〜10MPaで、かつ幅方向における引張伸度が300%以上であることを特徴とする微多孔膜。
【請求項2】
結晶性熱可塑性樹脂をダイから押し出し、さらに熱処理を施し、その後、流れ方向に低温延伸し次いで高温延伸して製造される微多孔膜であって、ダイから押し出す時のドラフト比が20〜150でかつ熱処理の温度が当該結晶性熱可塑性樹脂の融点未満で融点から10℃低い温度範囲であり、熱処理の時間が3〜15分であることを特徴とする方法によって製造される請求項1記載の微多孔膜。
【請求項3】
ダイから押し出す時のドラフト比が20〜50である請求項2記載の微多孔膜。
【請求項4】
微多孔膜の原料として用いる、結晶性熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂であり、該ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量/数平均分子量が4〜15であり、融点より25℃低い温度における等温結晶化時間が200秒以下である請求項2又は3に記載の微多孔膜。
【請求項5】
結晶性熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂であり、熱処理後の無孔フィルムにおける密度が0.912〜0.916であることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の微多孔膜。
【請求項6】
結晶性熱可塑性樹脂をダイから押し出し、さらに熱処理を施し、その後、流れ方向に低温延伸し次いで高温延伸する微多孔膜の製造方法であって、ダイから押し出す時のドラフト比が20〜150でかつ熱処理の温度が当該結晶性熱可塑性樹脂の融点未満で融点から10℃低い温度範囲であり、熱処理の時間が3〜15分であることを特徴とする微多孔膜の製造方法。
【請求項7】
ダイから押し出す時のドラフト比が20〜50である請求項6記載の微多孔膜の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の方法で製造される微多孔膜。

【公開番号】特開2013−32490(P2013−32490A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93927(P2012−93927)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(596032100)JNC石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】