微小共振器光スイッチ
【課題】複数のナノ粒子を含む微小共振器を備える光スイッチを提供する。
【解決手段】微小共振器は、ある信号波長を有する信号光を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する。
【解決手段】微小共振器は、ある信号波長を有する信号光を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本発明は、2005年9月16日出願の米国仮特許出願番号60/717,637号の優先権を主張し、その全体をここに引用によって援用する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、概して光変調器および光スイッチに関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
全光ファイバ変調器およびスイッチは、長年にわたって研究されてきた重要な装置である。これは主に、光通信およびファイバセンサシステムにおいて、低損失、低パワーで、ファイバ接続された、光学的にアドレス指定可能なスイッチングデバイスが求められているためである。これらのシステムは、限定はしないが、周期的自己回復通信ネットワーク、再構成可能な光信号処理、ローカルエリアネットワークのためのパケットスイッチング、ビットスイッチング、曳航式センサアレイ、およびファイバリンクのテストを含む。
【0004】
あいにく、スイッチングを誘起するためにシリカファイバの屈折率を変えるのに利用可能な物理的メカニズムは非常に少ない。広く研究されているカー効果は応答時間が極めて速い(たとえば数フェムト秒)が、周知のとおり弱い。カーに基づくファイバスイッチは、典型的に、10メートルのファイバにおいて1.55マイクロメートルでのフルスイッチングのために20ワットのオーダの出力を使用する(たとえば、N.J. Halas, D. KrokelおよびD. Grischkowskyによる“Ultrafast light-controlled optical-fiber modulator,”Applied Physics Letters, 第50巻,第14号, 886-888ページ, 1987年4月;ならびにS.R. Friberg, A.M. Weiner, Y. Silberberg, B.G. Sfez,およびP.S. Smithによる“Femtosecond switching in a dual-core-fiber nonlinear coupler,”Optics Letters, 第13巻,No. 10, 904-906ページ, 1988年10月参照)、または約200ワット×メートルのスイッチング出力と長さとの積PLを使用する。Er3+などの希土酸化物でドーピングしたファイバにおいて共振の点で向上した非線形はかなり強い(PLは10-2ワット×メートルにおよそ等しい)が、非常に遅い(たとえば応答時間は約10ミリ秒;たとえば、R.A. Betts, T. Tjugiarto, Y.L. Xue,およびP.L. Chuによる“Nonlinear refractive index in erbium doped optical fiber: theory and experiment,”IEEE Journal of Quantum Electronics, 第27巻, 第4号, 908-913ページ, 1991年4月;ならびにR.H. Pantell, R.W. Sadowski, M.J.F. Digonnet,およびH.J. Shawによる“Laser-diode-pumped nonlinear switchin erbium-doped fiber,”Optics Letters, 第17巻, 第4号, 1026-1028ページ, 1992年7月参照)。スイッチングは、吸収材でドーピングしたファイバにおいて熱誘起もされてきた。たとえば、Co2+でドーピングした2.55センチメートルのファイバスイッチは、1.8キロワットのスイッチングピーク出力を要し(PLは5ワット×メートルにおよそ等しい)、その応答時間は約25ナノ秒であった(たとえば、M.K. Davis,およびM.J.F. Digonnetによる“Nanosecond thermal fiber switch using a Sagnac interferometer,”IEEE Photonics Technology Letters, 第11巻, 第10号, 1256-1258ページ, 1999年10月参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.J. Halas, D. KrokelおよびD. Grischkowskyによる“Ultrafast light-controlled optical-fiber modulator,”Applied Physics Letters, 第50巻,第14号, 886-888ページ, 1987年4月
【非特許文献2】S.R. Friberg, A.M. Weiner, Y. Silberberg, B.G. Sfez,およびP.S. Smithによる“Femtosecond switching in a dual-core-fiber nonlinear coupler,”Optics Letters, 第13巻,No. 10, 904-906ページ, 1988年10月
【非特許文献3】R.A. Betts, T. Tjugiarto, Y.L. Xue,およびP.L. Chuによる“Nonlinear refractive index in erbium doped optical fiber: theory and experiment,”IEEE Journal of Quantum Electronics, 第27巻, 第4号, 908-913ページ, 1991年4月
【非特許文献4】R.H. Pantell, R.W. Sadowski, M.J.F. Digonnet,およびH.J. Shawによる“Laser-diode-pumped nonlinear switchin erbium-doped fiber,”Optics Letters, 第17巻, 第4号, 1026-1028ページ, 1992年7月
【非特許文献5】M.K. Davis,およびM.J.F. Digonnetによる“Nanosecond thermal fiber switch using a Sagnac interferometer,”IEEE Photonics Technology Letters, 第11巻, 第10号, 1256-1258ページ, 1999年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ごく最近では、Tapalian他(H.C. Tapalian, J.-P. Laine,およびP.A. Laneによる“Thermooptical switches using coated microsphere resonators,”IEEE Photonics Technology Letters, 第14巻, 1118-1120ページ, 2002年8月)が、吸収ポリマーでコーティングした微小球において、405ナノメートルの励起ビームを微小球の表面に照射することによるスイッチングを実証した。励起によりポリマーおよび微小球が熱せられ、微小球の共振波長が熱的に変動し、1.55マイクロメートルの信号がスイッチングされた。共振器の使用により、スイッチング出力は大幅に減少する。共振を約1000線幅だけ変動させるには、約0.5秒間わずか4.9ミリワットの励起露光を行なえば十分であった。フルスイッチングは約1線幅の変動を必要とするため,スイッチング出力はわずか4.9マイクロワット、スイッチングエネルギは約2.5マイクロジュールであった。しかし、スイッチの応答時間は非常に長かった(たとえば0.165秒)。このようなスイッチの特徴的な寸法を微小球の直径(この例では250マイクロメートル)と考えると、この装置のPL積は約1.2×10-9ワット×メートルであり、非常に小さい。カー効果に基づくウィスパリングギャラリーモード(Whispering gallery mode)微小球共振器も、以前から研究されている(たとえば、M. Haraguchi, M. Fukui, Y. Tamaki,およびT. Okamotoによる“Optical switching due to whispering gallery modes in dielectric microspheres coated by a Kerr moterial,”Journal of Microscopy, 第210巻, 第3部, 229-233ページ,2003年6月; A. Chiba, H. Fujiwara, J. Hotta, S. Takeuchi,およびK.Sasakiによる“Resonant frequency control of a microspherical cavity by temperature adjustment,”Japanese Journal of Applied Physics, 第43巻, 第9A号, 6138-6141ページ, 2004年参照)。他の全光ファイバスイッチと比べて、微小球を用いた光スイッチは、極めて寸法が小さく(たとえば、微小球の直径は典型的にわずか50〜500マイクロメートル)、かつスイッチングエネルギが非常に低いという固有の利点を示す。その理由は,共振器の共振が非常に急激であるため、フルスイッチングを誘起するには微小球の率をわずかに変化させるだけで十分だからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
一部の実施形態において、光スイッチは、複数のナノ粒子を含む微小共振器を備える。微小共振器は、ある信号波長を有する信号光を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する。
【0008】
一部の実施形態において、光スイッチは、複数のナノ粒子を含む微小共振器を備える。光スイッチはさらに、微小共振器に光結合された光カプラーを備える。光カプラーは、信号源から信号を受取るよう構成された第1の部分と、第1の部分に光結合され、かつ微小共振器に光結合するように構成された第2の部分と、第2の部分に光結合され、かつ第2の部分から受取った信号を伝送するように構成された第3の部分とを有する。光スイッチは、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号を第1の部分から第3の部分に伝送し、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号は、第1の部分から第3の部分に伝送しない。
【0009】
一部の実施形態の方法は、シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を含む光スイッチを製造する。当該方法は、シリカ光ファイバを設けるステップを備える。当該方法はさらに、ファイバの少なくとも一部分を溶融して、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップを備える。当該方法はさらに、微小球をシリカ層でコーティングするステップを備える。当該方法はさらに、微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップを備える。当該方法はさらに、水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップを備える。
【0010】
一部の実施形態において、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに微小共振器の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0011】
一部の実施形態において、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに光スイッチの少なくとも一部分がその内部の自由搬送波数の増加およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】励起パルスおよび信号がテーパファイバの一端に入力されているテーパファイバを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する一例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図2】励起パルスおよび信号がテーパファイバの両端に入力されているテーパファイバを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図3】励起パルスおよび信号を微小共振器に結合するプリズムを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図4】ここに記載した一部の実施形態に係る、自己スイッチングのための別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図5】ここに記載した一部の実施形態に係る、シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を備える光スイッチを製造する一例の方法を示すフローチャートである。
【図6】ここに記載した一部の実施形態に係る、光スイッチングのための方法の一例のフローチャートである。
【図7】励起パルスがある場合とない場合との、ここに記載した一部の実施形態に適合する一例の光スイッチの出力について測定された伝送スペクトルのグラフであり、3.4マイクロワットのピーク結合出力にて励起がオンであるときの共振波長における変動を示す図である。
【図8】図3の例の光スイッチの時間的な応答のグラフである。
【図9】ここに記載した一部の実施形態に係る、一例の励起パルスシーケンスとその結果得られるスイッチングされた信号パルスとのグラフである。
【図10】図10Aはピーク出力は同じであるが幅が異なり、各々の幅がτ1よりずっと短い3つの短い励起パルスのグラフである。図10Bはローレンツである共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。図10Cはガウスである共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。図10Dは矩形である共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。
【図11】ローレンツ共振線形について、モード体積の緩和時間(τp=50τ1)と比較して幅が長い励起パルスとその結果得られるスイッチングされた信号パルスとを示すグラフである。
【図12】図12Aは反復率が高い(Tp<<τ2)励起パルスシーケンスのグラフである。図12Bは一点鎖線がモード体積のベースライン温度の発達を表わす、図12Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスシーケンスのグラフである。
【図13A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える一例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図13B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える一例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【図14A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える別の例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図14B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える別の例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【図15A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備えるさらに別の例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図15B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備えるさらに別の例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
図1は、ここに記載する一部の実施形態に係る光スイッチ10を概略的に示す。光スイッチ10は、複数のナノ粒子を含む微小共振器20を備える。微小共振器20は、ある信号波長を有する信号光30を受取り、かつある励起波長を有する励起パルス40を受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器20の少なくとも一部分が励起パルス40に応答する。
【0014】
図1に概略的に示すように、一部の実施形態では、光スイッチ10はさらに、微小共振器20に光結合され、かつ信号源35および励起源45に光結合するように構成された光カプラー50を備える。光カプラー50は、励起源45から微小共振器20に励起パルス40を伝送し、信号源35から微小共振器20に信号光30を伝送する。
【0015】
一部の実施形態では、微小共振器20は、微小空洞、微小球、微小リング、マイクロディスク、マイクロトロイド、チップ上の導波路共振器、または高Q値微小共振器(たとえばシリコンチップ上のプレーナ型微小共振器)を含む。一部の実施形態では、微小共振器20は、シリカ(SiO2)ガラス、ドーピングしたシリカ系ガラス(たとえばゲルマニ
ウムでドーピングされる)、ホウケイ酸ガラス、ZBLANガラス、有機材料(たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA))、またはシリコンチップ上のパターニングされたオキシナイトライド膜を含む。微小共振器20は、さまざまな技術およびさまざまな標準的な半導体微細加工ツールを用いて製造することができる(たとえば、D.K. Armani, T.J. Kippenberg, S.M. Spillane,およびK.J. Vahalaによる“Ultra-high-Q toroid microcavity on a chip,”Nature, 2003年2月27日, 第421巻, 925-928ページ;F. Lissillour,D. Messager, G. Stephan, およびP. Feronによる“Whispering-gallery mode laser at1.56μm excited by a fiber laser,”Optics Letters, 2001年7月15日, 第26巻, 第14号, 1051-1053ページ参照)。微小リング共振器およびマイクロディスク共振器は、限定はしないが、SiH4およびN2Oを採用した化学気相成長(CVD)法を含むさまざまな堆積技術を用いて製造することもできる。このようなオンチップ共振器は、CVDまたは他の堆積技術を用いてナノ粒子層でコーティングすることもできる。
【0016】
一部の実施形態では、微小共振器20は、複数のナノ粒子で構成される層22を含む。層22は、微小共振器20の最も外側の層の少なくとも一部分、または微小共振器20の外側面下の微小共振器20の内側層の少なくとも一部分であり得る。ここで用いる「層」という用語は、最も広い通常の意味で用いられる。たとえば、厚さが概ね均一な単一の材料で構成され得る、または各々が異なる材料を有する複数の副層で構成され得る。一部の実施形態では、層22は、第2の材料内に均一または非均一に分布した第1の材料(たとえば複数のナノ粒子)で構成される。一部の実施形態では、層22は、第2の材料内に均一または非均一に分布した2種類以上のナノ粒子で構成される。層22は、微小共振器20の周りに完全にもしくはほぼ完全に延在し得る、または微小共振器20の周りに部分的にのみ延在し得る。層22は概ね連続的であり得る、または互いに隣接しない2つ以上の区域もしくは領域を含み得る。
【0017】
一部の実施形態ではナノ粒子は結晶質であるが、別の実施形態ではナノ粒子は非晶質である。一部の実施形態では、ナノ粒子は、限定はしないがシリコン、ゲルマニウム、II−VI族化合物半導体(たとえばCdTe、CdSまたはCdSe)、III−V族化合物半導体(たとえばGaAs)、または表面プラズモン共振によって特定の波長域において強い共振吸収性を有する金属材料(たとえば貴金属、Au、Ag、Cu、Al)を含む半導体材料で構成される。上記のさまざまな種類の微小共振器20は、これらのうち1つ以上の種類のナノ粒子の層で容易にコーティングすることができる。一部の実施形態のナノ粒子は、以下により詳細に記載するように、励起波長において強い吸収性を有し、信号波長において無視できる吸収性を有する。
【0018】
ここに記載する一部の実施形態において、新規の低エネルギ全光ファイバスイッチ10は、シリコンナノ粒子を有するシリカ層22によってコーティングしたシリカ微小球共振器20を備える。一部の実施形態において、以下により詳細に述べるように、スイッチ10は、シリコン(Si)のナノ結晶が析出されているシリコンリッチシリコン酸化物(SRSO)の薄い層によってコーティングした高Q値シリカ微小球を備える。
【0019】
一部の実施形態において、信号源35は、電磁スペクトルの赤外線領域においてある信号波長(たとえば1450ナノメートル)を有する信号光30を生成する可変波長レーザを含む。一部の実施形態において、信号源35は狭帯域可変波長源であるが、別の実施形態では、信号源35は広帯域可変波長源である。一部の実施形態の信号波長は、(i)ウィスパリングギャラリーモードまたは微小球共振器20の共振と一致するように、かつ(ii)信号がナノ粒子によって吸収されないようナノ粒子の吸収帯域の外側にあるように、選択される。たとえば、シリコンナノ粒子を含有するシリカ層22によってコーティングしたシリカ微小球を微小共振器20が含む一部の実施形態では、シリコンの吸収帯域の概ね外側にあることから、1450ナノメートルの信号波長が用いられる。一部の実施形態の信号波長は500ナノメートルから2000ナノメートルの範囲、1300ナノメートルから1600ナノメートルの範囲、または1300ナノメートルから1500ナノメートルの範囲にあるが、他の信号波長もここに記載するさまざまな実施形態に適合する。
【0020】
一部の実施形態において、励起源45は、電磁スペクトルの可視領域または赤外線領域においてある励起波長(たとえば488ナノメートル)を有する光を生成するレーザ46(たとえばアルゴンイオンレーザ)を含む。一部の実施形態において、レーザ46は狭帯域可変波長源であるが、別の実施形態では、レーザ46は広帯域可変波長源である。一部の実施形態の励起源45は、レーザ46からの光を低周波数(たとえば10Hz)にて調整可能な幅を有する短いパルスに変調する変調器47(たとえば機械的なチョッパホイール、音響光学変調器、または電子光学変調器)を含む。半導体励起レーザの場合における直接変調のように、他の種類の変調器を用いて、励起を適切な幅のパルスに変調することができる。一部の実施形態では、励起波長は信号波長よりも短い。一部の実施形態では、励起パルス40は複数の励起波長を有し、励起パルス40がナノ粒子によって有意に吸収されるように、1つ以上の励起波長がナノ粒子(たとえばシリコンリッチシリコン酸化物コーティング内のシリコンナノ結晶)の吸収帯域内に収まるよう選択される。したがって励起パルスは、たとえ共振したとしても不十分である。一部の実施形態の励起波長は300ナノメートルから1500ナノメートルの範囲であるが、他の励起波長(たとえば820ナノメートル、980ナノメートル、1060ナノメートル、および1480ナノメートル)もここに記載するさまざまな実施形態に適合する。
【0021】
光カプラー50は、少なくとも1つの励起パルス40を励起源45から微小共振器20に伝送し、信号光30を信号源35から微小共振器20に伝送する。図1に概略的に示したように、光カプラー50は光ファイバ52(たとえば単一モードファイバ)を含む。一部の実施形態では、光カプラー50は、基板(たとえばシリコンウェハなどの半導体基板)上に形成された光導波路を含む。一部の実施形態において、光カプラー50は、励起源45および信号源35に光結合するように構成された1つ以上の第1の部分53と、微小共振器20に光結合された第2の部分54とを含む。光カプラー50はさらに、(たとえば光検出器60およびオシロスコープ70を有する)光システムに光結合するように構成された出力部分55を含む。一部の実施形態では、光カプラー50の第1の部分53および第3の部分55は互いに同一である。
【0022】
一部の実施形態では、図1に概略的に示したように、光カプラー50はマルチプレクサ56(たとえば波長分割マルチプレクサ(WDM)ファイバカプラー)を含み、信号30と励起パルス40とを、複テーパ単一モード光ファイバ52の入力第1部分53に多重送信する。光ファイバ52は、微小共振器20に光結合された複テーパ第2部分54と、光システム(たとえば検出器60およびオシロスコープ70)に光結合された出力部分55とを有する。一部の実施形態における光ファイバ52の複テーパ第2部分54のネックの直径は数マイクロメートルである。
【0023】
他の一部の実施形態において、光カプラー50は、図2に概略的に示すように、2個のマルチプレクサ56(たとえばファイバ、マイクロ、もしくはバルク光)または2個のファイバサーキュレータ57を有する。このような一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図2に概略的に示すように、異なる第1の部分53(たとえば光ファイバ52の異なる端部)に、各第1の部分53においてマルチプレクサ56またはサーキュレータ57を介して結合されるが、他のこのような一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図1に概略的に示したように、マルチプレクサ56を介して同じ第1の部分53(たとえば光ファイバ52の同じ端部)に結合される。一部の実施形態では、光カプラー50は、信号出力のほぼすべてをテーパ第2部分54に伝送することによって、信号損失を有利に最小化する。一部の実施形態において、光カプラー50は、励起出力のほぼすべてをテーパ第2部分54に伝送することによって、励起出力損失を有利に最小化する。一部の実施形態では、信号30は(たとえば検出器60aおよびオシロスコープ70aを有する)光システムに出力され、励起パルス40は(たとえば光検出器60bおよびオシロスコープ70bを有する)光システムによって監視される。
【0024】
一部の実施形態では、光カプラー50は、図3に概略的に示すようにプリズム58を含む。プリズム58は、励起パルス40および信号30の波長が異なる一部の実施形態において、励起パルス40および信号30を異なる角度で微小共振器20に結合させる。一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図3に概略的に示すようにプリズム58の反対側から発信される。代替的に、他の一部の実施例では、励起パルス40および信号30は、プリズム58の同じ側から発信される。一部の実施形態では、信号30は(たとえば検出器60aおよびオシロスコープ70aを有する)光システムに出力され、励起パルス40は(たとえば光検出器60bおよびオシロスコープ70bを有する)光システムによって監視される。
【0025】
一部の実施形態では、励起パルス40に応答して、微小共振器20の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率の変化を経る。一部の実施形態では、励起パルス40が微小共振器20に発信されると、励起パルス40がナノ粒子によって吸収され、これにより微小共振器20が熱せられ、その屈折率が変化し、その共振を変動させることによって信号30をスイッチングする。たとえば、シリコンナノ結晶を含有するシリカ層を有する微小球を微小共振器20が含む一部の実施形態では、温度を上昇させることにより、それに伴って微小共振器20が信号波長において屈折率変化を経るように、シリカ層が励起パルス40に応答する。一部の実施形態において、励起パルス40の吸収によって微小共振器20が高温にあるときには、微小共振器20は信号30を伝送し、微小共振器20の温度がより低いときには、微小共振器20は信号30を伝送しない。他の一部の実施形態において、励起パルス40の吸収によって微小共振器20が高温にあるときには、微小共振器20は信号30を伝送せず、微小共振器20の温度が低いときには信号30を伝送する。
【0026】
図4は、ここに記載する一部の実施形態に係る別の例の光スイッチ10を概略的に示す。光スイッチ10は、複数のナノ粒子を含む微小共振器20を備える。一部の実施形態では、ナノ粒子は微小共振器20の層22内にある。光スイッチ10はさらに、微小共振器20に光結合された光カプラー50を備える。光カプラー50は、信号源35から信号30を受取るように構成された第1の部分53と、第1の部分53に光結合され、かつ微小共振器20に光結合するように構成された第2の部分54と、第2の部分54に光結合され、かつ第2の部分54から受取った信号30を(たとえば光検出器60およびオシロスコープ70を有する)光システムに伝送するように構成された第3の部分55とを有する。光スイッチ10は、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号30を第1の部分53から第3の部分55に伝送する。光スイッチ10は、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号30を第1の部分53から第3の部分55に伝送しない。
【0027】
このような一部の実施形態において、光スイッチ10は、微小共振器20において自己スイッチングを用いる「自己スイッチ」として使用することができ、信号30が自身をスイッチングし、マルチプレクサも励起パルスも使用されない。このような一部の実施形態における信号30の信号波長は、微小共振器20の共振波長の1つ(たとえばウィスパリングギャラリーモード)と一致する。信号30の信号出力が小さく、かつ微小共振器20に発信されると、微小共振器20によって吸収される信号出力の量は十分小さいため、微小共振器20の温度は信号30によって本質的に変化しない。したがって、低レベル信号が微小共振器20内で共振し、光カプラー50の第3の部分55には本質的に出力は伝送されない。
【0028】
信号出力が増大すると、微小共振器20によって吸収される信号出力の量が増大し、信号出力がモード体積において熱の形態で放散され、それによって微小共振器20の温度が上昇し、微小共振器20の共振波長を変動させることによって共振状態が変わる。信号出力が所定のしきい値出力よりも大きいときには、微小共振器20の共振波長は十分に変動するため、高レベル信号30は微小共振器20と共振せず、信号出力の大部分が光カプラー50の第3の部分55に伝送される。高レベル信号30はこのように自身をスイッチングする。
【0029】
一部の実施形態では、光スイッチ10は双安定挙動を示す。たとえば、微小共振器20に結合された光カプラー50の入力部分53に送り込まれた連続波(cw)信号30について、信号出力を増大させると、それに伴って微小共振器20が熱せられ、したがって信号30は共振しなくなる。信号出力によって生成された熱によって共振波長が十分に変動されると、信号30は微小共振器20と共振しなくなるため、信号30が光カプラー50の出力部分55に伝送され、微小共振器20は冷却される。微小共振器20は、信号30との共振状態に達し、信号30が微小共振器20と再び共振するまで冷却され、信号30は光カプラー50の出力部分55には伝送されなくなる。このとき微小共振器20は再び熱せられる、等。一部の実施形態において、この双安定挙動は、微小共振器20の熱応答時間よりも短い信号パルスを用いることによって有利に回避される。たとえば一部の実施形態において、信号源35は、レーザ36と、信号パルスの周期を決定する変調器37とを有する。このような一部の実施形態では、信号パルスが光スイッチ10によって受取られ微小共振器20を熱するが、微小共振器20の熱せられた体積から熱が流出するのにかかった時間までに終了するため、信号パルスは微小共振器20のその後の冷却を経験しない。同様に、次の信号パルスは有利に、先の信号パルスの後すぐには光スイッチ10に受取られない。これは、次の信号パルスが到達するときに微小共振器20が周囲温度にある(たとえば先の信号パルスによって熱せられていない)ことが有利なためである。一部の実施形態では、この振動系の力学によって、有利に(たとえばマイクロ秒のタイムスケールでの)速いスイッチング処理が可能になる。
【0030】
したがって一部の実施形態では、信号30が光カプラー50の第3の部分55に伝送されるか否かは、信号出力レベルによって制御される(たとえば低いレベルの信号の場合、信号出力はゼロであり、高いレベルの信号の場合、信号出力は最大である)。このような自己スイッチングの実施形態は、データのストリームにおいて「0」と「1」とを選別するのに用いることができる。他の一部の実施形態において、このような自己スイッチは信号を再生成するのに用いることができる。たとえば、0(低レベルパルス)および1(高レベルパルス)の信号パルス列が光伝送線を介して伝送される場合、伝送線の増幅器におけるノイズによって0が真の0ではなくなり、出力を少し伝える可能性がある。この信号パルス列を自己スイッチング光スイッチ10を介して送ることによって、これらの低レベルの0を真の0に回復させることができる。これは、0が自身を切換えるにはレベルが低すぎて、微小共振器の周りで共振し、そこですべてのパワーを失って真の0となるためである。
【0031】
図5は、ここに記載する一部の実施形態に係る、シリコンナノ結晶によってコーティングした微小球を含む光スイッチ10を製造する一例の方法100のフローチャートである。方法100は、動作ブロック110において、シリカ光ファイバ(たとえばコーニング社製SMF−28E光ファイバ)を設けるステップを備える。方法100はさらに、動作ブロック120において、ファイバの少なくとも一部分(たとえば一端)を溶融させ、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップを備える。一部の実施形態では、125ワット10.6マイクロメートルCO2レーザからの約3ワットの出力を用いて単一モードシリカファイバの先端を溶融させ、かつ表面張力を利用して、原子の表面が平滑な球状の液滴を形成することによって、直径約150マイクロメートルの微小球が製造される(たとえば、準備においてはJ.-Y. Sung, J.H. Shin, A. Tewary,およびM.L. Brongersmaによる"Cavity Q measurements of silica microspheres with nanocrystal silicon active layer"参照)。およそ1450ナノメートルでのこのような微小球の典型的なQ因子は、約5×107であると測定された。
【0032】
方法100はさらに、動作ブロック130において、微小球を(たとえば140ナノメートル厚さの)シリカ層でコーティングするステップを備える。一部の実施形態では、均一なコーティングを促すために微小球を回転させながら、ArプラズマによるSiH4およびO2の誘導結合プラズマ促進化学気相成長法を用いて、微小球がシリコンリッチシリコン酸化物(たとえばSiOx、x<2)(SRSO)の層によってコーティングされる。
【0033】
方法100はさらに、動作ブロック140において、微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップを備える。方法100はさらに、動作ブロック150において、水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップを備える。一部の実施形態では、微小球をまず60分間1100℃にてアニーリングしてシリコンナノ結晶を析出させ、その後650℃にて形成ガスにおいて60分間アニーリングして、ナノ結晶中のダングリングボンドを水素により不動態化する。透過型電子顕微鏡技術(TEM)によって、選択された試料においてナノ結晶の存在が確認された。参照試料はSRSOではなくシリカによってコーティングし、同様のアニーリング後処理を行なった。予期されるように、これらの参照試料においてナノ結晶は検出されなかった。信号は(約1450ナノメートルにおいて)Siナノ結晶の吸収帯域外にあるため、無視できる程度にコーティングによって吸収され、コーティングした微小球は、信号波長において依然として高いQ値(たとえば1450ナノメートルにおいて約3×105)を有する。
【0034】
一部の実施形態では、方法100はさらに、テーパ部分54を有する光ファイバ52を有する光カプラー50を設け、テーパ部分54を微小球に光結合するステップを備える。一部の実施形態では、方法100はさらに、マルチプレクサ56をテーパ光ファイバ52に光結合するステップを備え、マルチプレクサ56は、励起源45に光結合するように構成された第1の部分と、信号源35に光結合するように構成された第2の部分と、テーパ光ファイバ52に光結合された第3の部分とを有する。マルチプレクサ56は、励起源45からマルチプレクサの第1の部分に伝送された1つ以上の励起パルス40が、テーパ光ファイバ52に伝送されるように構成される。マルチプレクサ56はさらに、信号源35からの1つ以上の信号30がテーパ光ファイバ52に対してマルチプレクサ56の第2の部分に伝送されるように構成される。
【0035】
図6は、ここに記載する一部の実施形態に係る光スイッチングの一例の方法200のフローチャートである。方法200は、動作ブロック210において、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。方法200はさらに、動作ブロック220において、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには微小球の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0036】
一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスが光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスは光スイッチから伝送されない。他の一部の実施例では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスは光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスが光スイッチから伝送される。
【0037】
一部の実施形態では、方法200はさらに、光スイッチによって光信号を受取るステップを備える。このような一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号が光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号は光スイッチから伝送されない。このような他の一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号は光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号が光スイッチから伝送される。
【0038】
一部の実施形態では、光カプラーは、第1の部分、第2の部分、ならびに第1の部分および第2の部分の間にあり、かつ微小共振器に光結合されたテーパ部分を有する光ファイバと、光ファイバに光結合されたマルチプレクサとを含む。方法200はさらに、マルチプレクサから光ファイバのテーパ部分に光パルスを送るステップを備える。一部の実施形態では、微小共振器の温度が上昇するように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器によって吸収される。微小共振器の温度が上昇しつつ光信号がテーパ部分を伝播すると、光信号は光ファイバの第1の部分から第2の部分に伝播する。微小共振器の温度が上昇せずに光信号がテーパ部分を伝播すると、光信号は微小共振器と共振し、光ファイバの第2の部分には伝播しない。一部の実施形態では、光パルスが自己スイッチングするように、光パルスと光信号とが同一である。一部の実施形態では、微小共振器は、シリコンナノ結晶を含有するシリカ層によってコーティングしたシリカ微小球を含む。
【0039】
微小球を用いた実施形態の性能
ここに記載する一部の実施形態において、新規な低エネルギ全光ファイバスイッチ10は、シリコン(Si)のナノ結晶が析出しているシリコンリッチシリコン酸化物(SRSO)の薄い層によってコーティングした高Q値シリカ微小球共振器20を備える。このような一部の実施形態では、Tapalian他によって用いられているように、ポリマーの代わりにSiナノ結晶を吸収材として有利に使用する。これは、(1)Siナノ結晶は標準的な微細製造技術に適合し、かつ(2)Siナノ結晶が赤外線(IR)付近に延在する広い吸収帯域を有するためであり、したがってこのスイッチ10は、(たとえば808ナノメートルにおいて)標準的なレーザダイオードで有利に励起することができる。一部の実施形態では、光スイッチ10は、標準的な多重送信方式を用いて、同一の複テーパファイバを介して励起と信号とを微小球に結合する。このような一部の実施形態では、励起エネルギをより効率的に有利に利用できる。
【0040】
一部の実施形態では、励起パルスが微小球に発信されると、ナノ結晶層によって吸収され、微小球が熱せられてその屈折率が変化し、したがってその共振を変動させることによって信号がスイッチングされる。信号を完全にスイッチングするのに十分な5ピコメートルの共振波長変動が、3.4マイクロワットの励起パルス出力および25ミリ秒の励起パルス幅、またはわずか85ナノジュールの励起パルスエネルギによって観察された。この結果は、以下に記載する単純な熱モデルの予測とよく一致する。スイッチの立上がり時間は約25ミリ秒(励起ピーク出力によって得られる値)であり、その立下り時間は約30ミリ秒(微小球の熱時定数によって得られる値)であると測定された。この値は以前に報告されている(たとえば、Tapalian, et al.参照)よりも約5倍速く、予測(たとえばV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiによる"Thermal nonlinear effects in optical whispering gallery microresonators," Laser Physics, 第2巻, 1004-1009ページ, 1992
年参照)と一致する。3.4マイクロワットのスイッチングピーク出力と装置の特徴的な寸法(直径150マイクロメートル)との積は5.1×10-10ワット×メートルであり
、全光スイッチについて報告されている最も低い値のうちの1つである。
【0041】
励起パルスがない状態では信号が微小球と共振し、信号が微小球の周りで共振する際、主として散乱によって信号の出力が激減する。したがって、微小球が励起パルスによって励振されないときには、信号はテーパファイバの出力部分から出力されない。
【0042】
テーパ光ファイバに発信された後、励起パルスのエネルギはナノ結晶によって吸収され、したがってナノ結晶のバンドギャップより高く励振される。ナノ結晶が基底状態に緩和される際、熱が生成されて、微小球の少なくとも一部分(たとえばモード体積)に伝達され、微小球の熱せられた部分の温度が上昇する。この温度上昇により、微小球の屈折率および微小球の寸法が変化する。微小球によって励起パルスが吸収されることで、その共振波長が変動する。波長の変動が十分大きくなると、信号パルスの波長は、当初一致していた共振に対応しなくなり、すべての信号出力がテーパ光ファイバの出力部分から出力される。こうして信号がスイッチングされる。
【0043】
励起パルスが通過した後、微小球はその初期温度に冷却される(たとえば周囲の媒体、典型的には空気への自然または強制対流によるが、他の流体も有利に用いることができる)。微小球の共振波長はしたがって初期値に戻り、信号パルスは微小球と再び共振するようになり、信号出力はテーパ光ファイバの出力部分から出力されない。
【0044】
一部の実施形態では、ナノ結晶が、励起散乱損失率に比べて励起吸収率を上昇させる。一般に散乱は微小球の加熱には寄与しないため、励起散乱損失率に比べて励起吸収率を上昇させることにより、励起エネルギの熱に変わる部分がナノ結晶の存在によって増大する。したがって、ナノ結晶は、スイッチングに必要な励起エネルギを有利に低下させる。しかし、シリカ微小球がシリコンナノ結晶を含まない一部の実施形態では、励起パルスは微小球のシリカ材料(ナノ結晶がドーピングされたシリカよりも散乱損失に対する吸収損失率が低い)によって吸収され、励起パルスについてより大きいスイッチング出力が必要となる。
【0045】
一部の実施形態のスイッチングエネルギは、単純な熱モデルで評価することができる。微小球が熱せられると、その屈折率はシリカの指数熱係数∂n/∂Tによって変化し、その直径はシリカの熱膨張によって変化する。熱膨張の影響は率変化よりも約2桁弱いため、熱膨張は好都合に無視することができる。したがってスイッチングエネルギは、信号共振を(信号を完全にスイッチングするのに十分である)1線幅だけ変動させる率変化を算出し、次にこの量だけ微小球の率を変化させるのに必要な熱を算出することによって得ることができる。微小球の共振状態およびシリカの∂n/∂T(約10-5℃-1)から算出された、およそ1450ナノメートルでの微小球の共振波長の、温度による変化は約10ピコメートル/℃である。わずかな温度上昇に関しては(たとえばδT<1℃)、光ファイバについてのアナロジー(たとえばM.K. Davis, M.J.F. Digonnet,およびR.H. Pantellによる"Thermal effects in doped fibers," Journal of Lightwave Technologies, 第16巻, 第6号, 1013-1023ページ, 1998年6月参照)によれば、定常状態(たとえば、微小球の緩和時間よりも励起が長くオン状態にあった後)での微小球の温度は一定に近い。
【0046】
エネルギの保存は、温度δTでの定常状態温度を周囲の空気の温度より高く保つために単位時間当たりに球に注入される熱は式(1)によって得られると規定している:
H=hAδT (1)
ここでhは自然対流による空気中のシリカの熱伝達係数であり、Aは微小球の面積である。Pabsが微小球によって吸収される励起出力である場合、Pabs=Hであるとき、定常状態スイッチングが一部の実施形態において実現される。上で引用した例(スイッチングエネルギが85ナノジュール)では、微小球の直径は150マイクロメートルであり、Q値は3×105におよそ等しい。共振線幅はおよそ1450ナノメートルであり、したがってフルスイッチングのための波長変動は約4.8ピコメートル、または温度変化δT≒4.8/10=0.5℃である。シリカ微小球のh係数がシリカ円柱についてと同様であるとすると(h=81W/m2/℃)、スイッチングのために吸収された励起出力が約2.9マイクロワットであることを示すのに式(1)が用いられる。
【0047】
スイッチングの度合いは、一部の実施形態において、共振に対して信号波長を連続的に走査してデジタル化オシロスコープに共振の降下を記録することによって、実験的に監視することができる。この測定は励起レーザがオンの状態で繰返して、定常状態での共振における変動を記録することができる。
【0048】
励起波長でのテーパ損失がかなり大きい一部の実施形態では、励起波長でのテーパ損失が測定され、微小球に結合される励起出力が決まる。テーパ損失を測定するための一方法は、微小球がテーパファイバに結合されるときに、テーパファイバに結合されテーパファイバから出る励起出力を測定し、その後テーパファイバから微小球を分離したときにこの測定を繰返す方法である。テーパファイバのポートを逆にした後(すなわち励起を出力ポートに結合するとき)この測定が繰返される。この測定の組によって、2つのテーパファイバ部分(ネックへの入力および出力へのネック)の伝送損失と、微小球に吸収される励起出力とが明白に生じる。他の微小共振器(たとえばトロイダル微小共振器)についても同様の測定を用いることができる。
【0049】
図7は、スイッチングを例示するために、励起がある場合とない場合とで測定された一例の微小球スイッチの伝送スペクトルのグラフである。図7の共振(励起はオンまたはオフ)の半値全幅(FWHM)は4.8ピコメートルである。Q因子は定義上、λsが中心信号波長であるΔλ=λs/Qによって共振線幅Δλに関連するため、この測定は、測定されたQ値が(0.0048/1450)にほぼ等しい、または約3×105であることを示す。図7における測定された共振波長の変動は、微小球によって吸収された約3.4マイクロワットの励起出力に対して約5ピコメートルである。励起出力が増大するにつれてこの変動が増大するものと観察される。したがって、図7における共振の変動は信号の1線幅におよそ等しく、光スイッチの「オフ」状態と「オン」状態との間で完全にスイッチングさせるのに十分である。
【0050】
このスイッチング出力は、理論によって先に予測された2.9マイクロワットという値によく一致する。この測定値および微小球の長さ(150マイクロメートル)から、例示的なスイッチについて算出されたPL積は5.1×10-10ワット×メートル、または以前より報告されている観察(たとえば、Tapalian他参照)から算出された値よりも係数3だけ低い。Siナノ結晶を含有しないシリカコーティングを有する参照微小球においては、励起パルスによって誘起された変動は図7に示したものよりも係数約3.3だけ小さいと測定された。したがって、ナノ結晶を含まない微小球を用いて図7に匹敵する波長変動を誘起するのに必要な励起出力は、ナノ結晶を含む微小球に関する励起出力よりも係数約3.3だけ高い。この結果により、例示的なスイッチのナノ結晶が励起の吸収性を上昇させ、したがってスイッチングエネルギ要件を大幅に低下させることが確認された。
【0051】
図8は、図7の例示的なスイッチの時間的な応答のグラフである。時間的な応答は、信号を共振に合わせ、臨界結合のためにテーパファイバと微小球との間の間隔を調整することによって測定された(たとえばゼロ伝送信号出力)。次に励起パルスをオンにし(150ミリ秒幅、50%デューティサイクル、1ミリ秒に満たない立上がり時間および立下り時間)、テーパファイバによって伝送される信号出力を時間の関数として記録した。
【0052】
一部の実施形態では、ピーク出力がより小さい、より長い励起パルスを用いて微小球を励起する。比較的長い励起パルス(たとえば100ミリ秒のオーダ)によって蓄積される熱は、モード体積内にのみ留まるのではなく、励起パルスの終了までに微小球全体を移動する時間を有する。ここで用いる「モード体積」という用語は、微小共振器と共振している信号エネルギの大部分(たとえば95%)が微小共振器に位置する(たとえばウィスパリングギャラリーモード)微小共振器(たとえば微小球)の体積を指す。励起パルスによって微小球内に蓄積された熱の量は、モード体積のみが熱せられた場合よりも大きく、したがってスイッチングエネルギはより高い。励起パルスが微小球を通過した後、より大量の熱が微小球から周囲の媒体(たとえば空気)に移動するのに(たとえば、モード寸法に対する微小球寸法の割合に対応して係数約100だけ)相当長い時間がかかる。言い換えると、微小球は冷却するのにより時間がかかり、したがって、励起パルスが短い場合に比べて、スイッチの立下り時間はそれに応じてより長くなる。このような一部の実施形態は、光スイッチがより長い時間「オフ」状態に維持される用途において有利に用いることができる。
【0053】
一部の実施形態では、図8に概略的に示すように、スイッチングされたパルスの立下がり端縁および立上がり端縁は、基本的な物理学から予期されるように、およそ指数関数的である。指数を2つの端縁に当てはめると、立上がり時間定数は25±5ミリ秒であり、立下り時間定数は30±5ミリ秒となる。後者の結果は、例示的な微小球の寸法についてV.S. Il'chenko他によって算出された値とよく一致する。より短い励起パルスを用いる一部の他の実施形態では、以下により詳細に述べるように、立下り時間がかなり短くなる(たとえば数マイクロ秒)。立下り時間は、励起パルスがオフにされた後に微小球の温度が周囲の媒体と平衡に達するのに要する時間によって少なくとも部分的に決まる。微小球の代わりにマイクロトロイドを用いる一部の実施形態では、マイクロトロイドの熱量が微小球よりも小さいため、立下り時間はより速い(たとえばD.K. Armani, B. Min, A. Martin, K.J. Vahalaによる“Electrical thermo-optic tuning of ultrahigh-Q microtoroid resonators,”Applied Physics Letters, 第85巻, 第22号, 5439-5441ページ, 2004年11月参照)。
【0054】
光スイッチの立上がり時間は、(たとえば一定の励起エネルギに対する励起出力によって)熱が微小球に蓄積される率によって少なくとも部分的に決まる。このような一部の実施形態では、励起出力が増大するにつれて立上がり時間が長くなる。図8のような一部の実施形態では、測定された立上がりおよび立下り時間定数が同等であるのは単に偶然である。図7および図8に対応する装置について測定された立上がり時間および測定された吸収励起出力から、フルスイッチングに必要な総エネルギ(すなわち共振波長を1線幅だけ変動させるためのエネルギ)は3.4マイクロワット×25ミリ秒、または約85ナノジュールであると推定される。この結果は、先に報告されている(Tapalian他参照)よりも係数として約30低い。以下により詳細に記載する他の一部の実施形態では、スイッチングエネルギは数百ピコジュール以下のオーダである。
【0055】
熱応答の時間的な特徴
一部の実施形態では、共振ウィスパリングギャラリーモードを励振することによって光励起される微小共振器(たとえば微小球またはマイクロトロイド)は、モード体積における(または非常に近くでの)励起光子の吸収によって熱せられる。蓄積された熱によりモード体積の温度が上昇し、屈折率が変化し(かつより小さな規模で微小共振器の寸法が変化し)、したがってすべての共振波長が変化する。上記したように、この効果は、微小共振器の共振の1つに合わせられた固定波長を有する光信号の振幅をスイッチングするまたは変調するために、一部の実施形態で用いられる。励起がオフのときに微小共振器に光結合されたナノワイヤ(たとえばテーパ光ファイバ)を伝播する際、光信号は微小共振器と共振し、光信号の、あるとしてもわずかな部分のみがナノワイヤの出力部分から外に伝播する(たとえばナノワイヤを介するゼロ伝送)。励起がオンのときにナノワイヤを伝播する際、光信号は共振から外れており、光信号の大部分がナノワイヤの出力部分から伝送される(たとえばナノワイヤを介する100%伝送)。励起がパルスに変調されるときには、励起パルスが送られるたびにモード体積の温度が上下し、これにより択一的に信号がオンオフされる。
【0056】
熱励振に対する微小空洞の時間的な応答は、これらの微小空洞の光特性を考慮すると無視することはできない(たとえばT.Carmon, L. Yang,およびK.J. Vahalaによる“Dynamical thermal behavior and thermal self-stability of microcavities,”Optics Express, 第12巻, 第20号, 4742-4750ページ, 2004年10月参照)。微小共振器の時間的な応答、したがってスイッチングされた信号の時間的な形状、ならびに励起パルスの幅および間隔への依存について、微小共振器が微小球を含む一部の実施形態に関して以下に定性的に論じる。同様の挙動は、他の実施形態によって他の種類の微小共振器(たとえばマイクロトロイド)で示される。
【0057】
先に引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiに記載されているように、微小球の時間的な応答は2つの熱時定数によって求められる:(i)モード体積の速い時定数τ1(数マイクロ秒のオーダ)、および(ii)微小球全体のより遅い時定数τ2(数十ミリ秒のオーダ)。極めて短い励起パルスがモード体積に発信された場合、モード体積は瞬時に熱せられ、励起パルスがオンの間、モード体積に溜まっている熱はモード体積の外に放散される時間がない。励起パルスが通過した後に、モード体積から熱が流出する。温度上昇が適度であれば,この熱の流れは熱伝導によって主に微小球へ生じ、たとえば自然な熱対流によって周囲の媒体(たとえば空気)へも同様に生じる。τ1はどれだけ速く熱が流出するか、換言するとどれだけ速くモード体積の温度が低下するか、またはスイッチングされた信号がどれだけ速くスイッチングされていない(オフ)状態に戻るかを特徴付ける時定数である。温度が指数関数的に低下する場合、時間t=τ1の後、信号出力はスイッチングされた出力から1/eだけ減少し、2τ1の後には1/e2だけ減少する、等。一部の実施形態では、スイッチングされた信号は、目下の用途において用いられている信号消光比に依存して、3τ1−10τ1の後にスイッチングされていない状態に戻ると考えられる。
【0058】
同様にτ2は、熱源がオフになった後に、熱せられた微小球が(モード体積と対照的に)(たとえば室温T0に)冷却されるのにかかる時間を特徴付ける。一部の実施形態では、自然対流によって周囲の空気に移るのが、唯一の熱損失メカニズムである。微小球に蓄えられた熱の大部分が放出され、微小球の温度が本質的に室温に戻るまでに、典型的にτ2の数倍の時間がかかり得る。
【0059】
このような光スイッチによって生成された、スイッチングされた信号パルスのシーケンスの時間的な形状が、さまざまな実施形態においてこれら2つの時定数に相対して励起パルスの期間および反復率にどのように依存するかを例示するために、3つの異なる励起パルスシーケンスについて以下に論じる。
【0060】
低反復率の短い励起パルスシーケンス
一部の実施形態において、励起パルスシーケンスは2つの特徴を有する:(1)各励起パルスは、励起パルスがオンの間に励起パルスによって生成される熱がモード体積から流出する時間がない程度に十分短い期間τpを有し、かつ(2)次の励起パルスが到達するまでに(たとえば自然対流によって)1励起パルスによって生成される熱のすべてが微小球から放出される時間がある程度に十分低い(パルス間間隔Tpに対応する)反復率を有する。図7に示すように、各励起パルスは微小球にデルタ関数的なインパルスの熱を注入し、モード体積の温度が急激に上昇し、信号が急速にスイッチング状態に移動し、その後励起パルスがオフになった後でスイッチングされていない状態に迅速に戻り、次の励起パルスが到達する前に、完全にスイッチングされていない状態にある。この励起パルスシーケンス構成により、反復率が低いにもかかわらず、スイッチングされた信号パルスについて立上がり時間および立下り時間が可能な限り短くなる。このような励起パルスシーケンス構成を一部の実施形態で用いて、短い時定数τ1の存在および値を実験的に検証する。
【0061】
上述の特徴(1)によれば、励起パルス期間はτ1よりも短くなる。しかし、励起波長λpが共振に合わせられ、かつλpにおける微小球のQ値が高過ぎる場合、励起パルスが完全に吸収されるのにかかる時間はτ1を超過し得る。この場合、単純にこの条件を満たすことができない。一例として、直径D=150マイクロメートルであり、かつ励起波長における品質因子がQp=107であるシリカ微小球(屈折率n=1.44)を考える。励起パルスが微小球を一巡りするのにかかる時間はt0≒2.3ピコ秒であり、励起パルスの励起エネルギのすべてが吸収されるのにかかる時間は、微小球の時定数Qpt0≒23マイクロ秒のオーダである。十分に共振し、かつ十分に吸収させるため、励起パルスは有利に微小球の時定数と同じオーダの期間を有する。したがって、期間τp=23マイクロ秒の励起パルスが微小球に送り込まれる場合、τpはτ1に比べて大きい(典型的に数マイクロ秒)ため、励起パルスによって生成される熱は、励起パルスがオフになる十分前にモード体積から外に移動し始める。このような一部の実施形態では、スイッチングされた信号がスイッチングされていない状態に戻るまでにかかる時間がずっと長いため、スイッチは遅い。一部の実施形態では、この状態を避けるべく十分低くなるようにQpが選択される。
たとえば、Qpがわずか105であれば、励起エネルギのすべてが吸収される時間は約0.23マイクロ秒に短縮される。期間τp=0.23マイクロ秒の励起パルスについては、τpはτ1に対して十分小さく、したがって励起パルスによって生成される熱は、励起パルスがオンの間モード体積に有利に留まる。一部の実施形態では、微小球の表面にSiナノ粒子が存在する結果Qpの値が小さくなり(たとえば103未満または10未満)、たとえ(直径150マイクロメートルの球体について2.3ピコ秒もの短さの)極めて短いパルスが用いられたとしても、特徴(1)が満たされる。
【0062】
上述の特徴(2)により、連続する励起パルス間の時間Tpはτ2よりもずっと長いことになる。実際に特徴(2)を満たすためには、τ2の数倍以上のオーダの値Tpが適当である。
【0063】
図9を参照し、スイッチングされたパルスの立上がり時間は、複雑な方法で励起エネルギの吸収率に依存する。ここで用いるE1は、信号の共振波長を、Δλとして上で規定した1半共振半幅(HWHM)線幅だけ変動させるためにモード体積に蓄積される励起エネルギを指す。ここで用いる限りにおいて、このエネルギ量をスイッチングエネルギEsと称する。他の実施形態では、高い消光比で信号を完全にスイッチングするには、共振を2線幅以上変動させることが必要になり得ることに注意されたい(たとえば、線形および所望の消光度に依存して3〜10線幅のオーダ)。このような一部の実施形態では、信号を完全にスイッチングするのに必要なエネルギは3E1−10E1のオーダである。以下の記載では、フルスイッチングには1線幅の変動を要すると仮定する(すなわちEs=E1)。
【0064】
所与の励起パルスエネルギEpおよび期間τpについて、吸収された励起エネルギがEsに達すると、信号が完全にスイッチングされる。EpがEsより小さい場合、フルスイッチングのためのこの条件に達せず、したがって信号は、励起パルスの終わりに部分的にのみスイッチングされる。スイッチングされた信号の立上がり時間tr(信号が最小またはスイッチングされていない値から最大値にスイッチングされるのにかかる時間として定義される)は、単純にτpに等しい。EpがEsより大きい場合は、パルスエネルギの部分Esが吸収されると、信号は完全にスイッチングされた状態に達する。パルスエネルギEpの部分Esがモード体積によって吸収される時間量は、微小球の時定数Qpt0と比較してτpの値に依存する。ここでt0は励起光子が微小球を一巡りするのにかかる時間である。τp>Qpt0の場合、励起パルスが共振し、パルスを吸収するための時間は(Es/Ep)τpである。τp<Qpt0の場合、励起パルスは完全に共振するほど十分長くは続かず、したがって完全には吸収されない。したがって、励起パルスが極めて短くない限り、Ep≧Esのとき、スイッチングされたパルスの立上がり時間はtr≒(Es/Ep)τpである。
【0065】
一部の実施形態では、EpはEsよりも若干大きく選択される。t=trの後、残りの励起エネルギ(Ep−Es)が吸収され続け、モード体積の温度は上昇し続け、共振波長は変動し続ける。しかし、信号がすでに完全にスイッチングされているため、tr後に生じる追加的な変動はスイッチングされた信号には影響を及ぼさず、残りの励起エネルギは浪費されるだけである。したがってエネルギ効率の観点からすると、一部の実施形態については、スイッチングエネルギに等しい励起エネルギEp=Esを選択するのが最良である。スイッチングされた信号パルスの立上がり時間はtr=τpとなる。
【0066】
一部の実施形態では、励起パルス期間はτ1より短く、Qpt0より長い。D=150マイクロメートルであり、かつQpが小さい例示的な微小球については、Qpt0≒10ピコ秒、τ1≒3マイクロ秒、かつτpは約10ピコ秒から数マイクロ秒の間である。このような一部の実施形態における立上がり時間はτpのオーダである。
【0067】
一部の実施形態では、スイッチングされるパルスの大きさは、エネルギ(またはピーク出力)と励起パルスの期間との組合せによって制御される。図10Aは、ピーク出力は同じであるが3つの異なる幅、すなわちτp/3、2τp/3、およびτpを有する3つの励起パルスの例を示し、すべてτ1よりもずっと短い。ピーク出力Ppは、3つの幅の最大値についてパルスエネルギEp=Ppτpが3E1に等しくなるように選択される。
【0068】
一部の実施形態では、微小共振器はローレンツ共振を有する:
【0069】
【数1】
【0070】
ここでλ0は、スイッチングされていない信号の中心波長である。この定義は、ΔλがHWHMであるという上記の記載に対応する。3つの幅のうちの最大値(τp)については、E1(Ep=3E1)の定義によって、励起パルス(時間t=τp)の終わりには、信号共振は3Δλだけ変動している。したがって式(2)を用いると、スイッチング状態のピークにおける信号伝送は、図10Bに示すようにy(λ)=1−1/(1+32)=0.9である。信号伝送を1に近付くように上昇させるため、一部の実施形態はパルスのピーク出力を増大させるか、またはパルス期間を増大させる。励起パルス幅が2τp/3に減少すると、スイッチングされたパルスは、τpではなく2τp/3で終了すること以外は同じ立上がり端縁を有する。このような実施形態における共振波長の変動は2Δλに過ぎないため、スイッチングされた信号の最大振幅は、図10Bに示すように1−1/(1+22)=0.8に減少する。同様に、3つの励起パルスのうち最短のもの(幅τp/3)については、最大スイッチング信号振幅はより一層小さく、図10Bに示すように1−1/(1+12)=0.5にまで減少する。
【0071】
一部の実施形態において、共振関数の形状は、スイッチングされたパルスの立上がり端縁の形状に影響する(たとえばtが0からτpに増加する際のスイッチングパルスの漸進的な均一化)。共振がローレンツではなくガウスである場合、線形関数は:
【0072】
【数2】
【0073】
であり、係数ln(2)によって、ΔλをHWHM幅とする定義にy(λ)が確実に一致するようになる。励起パルス幅τpについては、スイッチングされた信号の最大振幅は、図10Cに示すように、式(3)によって1−exp(−ln(2)×32)=0.998となる。この振幅は、図10Bに示すように、同じ励起パルス幅でローレンツ共振から得られる振幅よりもずっと1に近い。なぜなら、ガウスの末端はローレンツのものよりも浅いためである。図10Cに示すように、スイッチングされた信号は、ローレンツ共振よりもガウス共振についての方がずっと急峻である。
【0074】
図10Dに示すように、HWHMがΔλである仮定的に矩形の共振線形については、スイッチングされた信号は、ガウスまたはローレンツ共振のいずれよりも、より一層急峻に最大振幅に到達する。実際には、共振がわずかΔλだけ変動したときにこの最大値に達する。矩形の共振線形については、最大振幅を実現するための変動は3ΔλではなくΔλであるため、スイッチングエネルギは係数3だけ減少し、Ep=E1となる。
【0075】
一部の実施形態では、スイッチングされたパルスの立下り時間は、対流によってモード体積から熱が放出されるのにかかる時間によってのみ求められる。したがって、このような一部の実施形態では、立下り時間は熱時定数τ1に単純に等しい。この立下り時間を測定することによって、τ1の値を直接求めることができる。
【0076】
低反復率の長い励起パルス
一部の実施形態において、励起パルスはτ1よりもずっと長く、τ2(たとえば数十ミリ秒以下)よりもずっと長い時間Tp(約200ミリ秒)離間される。Tpは十分長いため、励起パルス間に微小球が室温まで完全に冷却される時間が十分にある。経時による微小球の最終的な熱上昇がないため、以下の記載は1つの励起パルス中の効果に着目する。
【0077】
このような一部の実施形態では、励起パルスは時間t=0において開始され、t=0からt≒τ1まで熱がモード体積に蓄積し、モード体積からあまり遠く離れて移動する時間はない。熱はτ1当たり約1モード体積特徴幅w(たとえば典型的な微小球については1または2ミクロン)の速度で流れるため、t=0からt=τ1の間、熱は約w流れる。しかし、t=τpにおける励起パルスの終わりまでに、モード体積において生成された熱は微小球の大部分に放散される時間がある(たとえばt=2τ1では熱は約2w流れており、このとき熱せられた体積はモード体積よりも著しく大きい)。モード体積からの熱の放散と同時に、より多くの熱がモード体積に注入され、微小球全体の温度が徐々に上昇する。微小球の温度が上昇するにつれて、第2の冷却メカニズムすなわち微小球の表面から空気への自然対流がより効果的になる。微小球の表面の平均温度が高いほど、この第2のメカニズムがより優勢になる。所与の共振線形については、スイッチングされた信号の形状は、励起パルスのエネルギに再び依存する。
【0078】
一例として、図11Aに概略的に示すように、ローレンツ共振と、幅がτp=50τ1であり、かつEp=Ppτp=200E1となるようなピーク出力を有する励起パルスとを考える。スイッチングされた信号の立上がり端縁の始めは、t≒τ1になるまでは図10Bと同じ形状を維持する。t=τ1において、モード体積に蓄積した熱の量は4E1であるため、共振波長は4Δλだけ変動している。ローレンツ共振線形については、信号は94%にてスイッチングされる。当該パルスの間に時間が経つにつれて、励起パルスによって蓄積された熱が、モード体積から微小球の中心に向かって、および周囲の空気に流れる。モード体積の温度は上昇し続けるが、一層ゆっくりとなるため、共振波長は同じく一層ゆっくりλ0から変動し続ける。単に微小球の温度は無限に上昇することができないため、波長の変動は無限に続くことに注意されたい。微小球の表面温度が上昇するにつれて、表面と微小球を取巻く空気との間の温度差に比例する対流によって、単位時間当たりに表面から流出する熱の量も増大する。対流による単位時間当たりの熱の流出が励起パルスからの単位時間当たりの熱の入力に等しい定常状態値Tssに表面温度が達すると、微小球は加熱を停止する。
【0079】
この例示的な実施形態では、スイッチングを誘起するのに有用なパルスエネルギの唯一の部分は約(τ1/τp)Epである。したがって、このような一部の実施形態において信号をできるだけ速くオンオフするために、ほぼτ1の後に励起パルスが有利にオフされる。励起パルスエネルギの残りは、信号をスイッチング状態に維持するのに役立ち、これは一部の用途において有用な特徴である。
【0080】
上記の一部の実施形態では、大きな共振変動(たとえば200線幅のオーダの変動)が誘起されると微小共振器の共振が十分遠く離れると仮定されており、信号は、当該信号をスイッチング状態に維持するような信号波長に移動した他の共振と共振しないことに注意されたい。この仮定が当てはまらない場合、十分大きい変動(たとえば数線幅を上回る変動)の後、信号波長は次の共振波長を通過し、またはその付近に存在し、テーパファイバの出力における信号出力は再び減少する。一部の実施形態において光スイッチは、標準的な周知のインターフェロメトリ公式を用いて設計し、微小共振器の共振の中心波長および幅をモデル化して、光スイッチによって許容できる波長変動域を決定することができる。しかし、これらの中心波長および幅は、限定はしないが形状、寸法、屈折率、および(不均質な場合が多い)屈折率の空間分布を含む、微小共振器構造の一般に測定不可能な物理的細部についての典型的に重要な関数である。これらのパラメータを所要の精度でもって理論的に予測して微小共振器の共振をモデル化することは、非常に困難なおそれがある。このような場合、周知かつ直接的な手法を用いる測定によって微小共振器の共振に関するデータにアクセスする方がより簡単である。
【0081】
図11Aおよび図11Bに示した実施形態と、図10Aおよび図10Bに示した実施形態との主な違いは、図11Aの励起パルスは図10Aのものよりもずっと長いことから、モード体積だけではなく微小球も励起パルスの終わりまでに熱せられる点である。励起パルス(t>τp)後、この熱が微小球から放出されるには、(モード体積のみを熱する)短い励起パルスよりずっと長い時間がかかる。したがって、図11Bに示すように立下り時間はずっと長い。立下り時間の定性的な推定は、微小球からの熱流出についての本格的な計算式を用いて行なうことができる。しかしこのような計算を行なわなくても、励起パルス幅が微小球時定数τ2の数倍に等しい、またはそれより長い実施形態において立下り時間が最も長いことは明白である。このような一部の実施形態では、微小球は、このピーク励起出力について最大可能温度に達する。これは、蓄えられた熱が最大化され、この熱が微小球から完全に放散される時間も最大化されるためである。このような一部の実施形態では、立下り時間がτ1からτ2の間となるように、立下り時間がτ2に近づく。励起パルスが約200ミリ秒(τ2の数倍)間オンである一部の実施形態では、立下り時間はτ2に非常に近い。この記載は上記の30±5ミリ秒という測定された立下り時間を説明するものであり、上記で引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gordetskiの理論に基づいてこの微小球に関して予測された値τ2に近い。
【0082】
図12Aは、τ2よりもずっと短いパルス間間隔Tpを有する一例の励起パルスシーケンスを示す。上記の実施形態とは違い、Tp<<τ2であるため、この実施形態の微小球はパルス間に完全に室温に冷却する十分な時間がなく、時間とともに微小球に熱が蓄積する。その結果、微小球の平均温度が徐々に上昇し、図12Bの一点鎖線曲線に定性的に示すように、モード体積の平均温度も上昇する。図12Bのぎざぎざの曲線は、モード体積の瞬間的な温度上昇を示す。τ2の数倍のオーダの時間の後、微小球の表面温度は定常状態値Tssに達する。この値に関して、空気への対流(または他のいかなる形態の外側コーティングが供給されたとしても、たとえば強制対流、液体中の伝導等)によるパルス間隔Tp当たりの微小球からの熱の流出は、各励起パルスからの熱の入力に等しい。このような状況において微小球は加熱を停止し、その温度は図12Bに示すように安定する。つまり、一点鎖線曲線は漸近的に点線に近づき、微小球の表面の定常状態温度を表わす。
【0083】
図12Bによって示される注目すべき特徴の1つは、ぎざぎざの曲線における連続した個々の温度スパイクの形状である。図12Bをよく考察すると、励起パルス列の開始(t=0)から微小球の温度がTssに達するときの時間まで、この形状が発達していることがわかる。高さおよび立上がり時間は、すべての温度スパイクについてほぼ一定であるが、定常状態に近づくにつれて立下り時間は短くなる。最初のいくつかのパルスでは、微小球の温度は室温からあまりかけ離れて高くなく、図12Bの一点鎖線曲線の高いスロープによって示すように、微小球とモード体積との両方が相当迅速に熱せられるよう対流は無視できる役割を果たす。時間が経つにつれてモード体積の温度が上昇し、対流による冷却がより効率的になり、励起パルスシーケンスの開始時よりも、連続する励起パルス間にモード体積を一層冷却することができることを意味する。したがって、図12Bの連続する温度スパイクの立下り時間は、連続する各励起パルスごとにますます短くなる。最終的に、次の励起パルスが到達する時間までにモード体積の温度が先の励起パルスの開始時の値に戻るような立下り時間となる。この時点で、立下り時間がその定常状態値に維持され、モード体積の温度が各励起パルスの開始時と同じであるような熱定常状態にシステムが達している。
【0084】
一部の実施形態では、時間に対する共振波長のグラフは、図12Bの瞬間的な温度曲線とほぼ同一である。共振波長は、励起パルスがオンのときだけでなく、パルス同士の間においても変動する。最終的に定常状態に達し、各励起パルスによって信号波長は同じ極値間で前後に変動する。
【0085】
一部の実施形態では、この温度(および共振波長)形状は、非常に有用なスイッチングされた信号パターンには一般的には変換されない。t=0の時間に波長λ0にて信号が共振している場合は、モード体積のベースライン温度が上昇するにつれて平均共振波長がλ0から変動する。微小球の平均温度上昇が十分大きければ、定常状態の共振波長がλ0から遠く離れるため、信号は常にスイッチングされた状態となる。一部の実施形態では、この効果は、信号をオン状態またはオフ状態に維持するのに当然用いることができる。一部の実施形態では、モード体積が温度T=Tssにあるとき信号波長を微小球の共振波長に合わせることによって、周期的なスイッチングされた信号パルスを発生させるのに用いることもできる。このような一部の実施形態では、信号波長が周囲温度T0において微小球の共振に合わせられた場合、ずっと高い反復率(パルス間隔Tpはより小さい)にてスイッチを動作させることができる。
【0086】
一部の実施形態において、光スイッチは光ファイバ付きであるため、有利に光ファイバ部材および光ファイバシステムと容易に接続される。一部の実施形態では、光スイッチは極めて小さい(たとえば、直径がわずか50〜200ミクロンの微小球を有する)。一部の実施形態において光スイッチは、非常に小さい励起エネルギを用いて「オフ」状態から「オン」状態に駆動される。一部の実施形態の微小共振器は、信号波長において高いQ値(たとえば105以上のオーダ)を有するため、共振は極めて急激である。1共振線幅以上狭帯域信号波長から離れるように共振を変動させるには、単に屈折率を少し変化させれば十分であることが共振の急激さに寄与する。また、モードが進行するシリカの体積(すなわちモード体積)が非常に小さいため、モード体積の温度とその屈折率とを変化させるのに少量の熱だけで十分であることも、共振の急激さに寄与する。
【0087】
一部の実施形態では、励起パルスが一旦終了すると、熱がモード体積から放散されるのに少ししか時間がかからないように、モード体積が十分に小さい(たとえば、横寸法が信号の波長におよそ等しい)とき、スイッチの立下り時間が有利に速い。一部の実施形態の立上がり時間は、励起パルスの立上がり時間を(たとえば1ナノ秒以下に)短縮することによって短縮され、立下り時間はわずか数マイクロ秒である。一部の実施形態では、微小球は(たとえば冷却空気を微小球の表面に強制的に当てることによって)能動的に冷却され、立下り時間を短くする。一部の実施形態では、スイッチング出力は極めて小さい(たとえば100ナノワット以下のオーダ)。したがって、一部の実施形態のスイッチングエネルギは、10-13ジュールのオーダである。
【0088】
立下り時間および/またはスイッチングエネルギの低減
微小共振器の体積の大部分がパルスの終わりまでに熱せられるようにスイッチが十分長いパルスで励起されるとき、微小共振器スイッチの立下り時間を短縮するために、さまざまな手法がここに記載する実施形態に適合可能である。これらの手法のうちいくつかは、微小共振器の体積を減少させ、したがって熱せられる体積を減少させ、それによって微小共振器の立下り時間を短縮するために、微小共振器(たとえば微小球)の形状を変更することに依拠する。一部の実施形態において、この変更は、光信号をスイッチングするために必要な励起出力の量を減少させるという重要な付加的な利点を有する。
【0089】
一部の実施形態では、微小共振器の質量が有利に減少し、それによって微小共振器が冷却するための時間と光スイッチの立下り時間とが短縮される。このような一部の実施形態では、微小共振器はモード体積(たとえばコア)から離れた、微小球の少なくとも一部分が除去された微小球を含む。微小共振器の材料、ならびに除去された部分の寸法および形状に依存して、限定はしないが、反応性イオンエッチング、化学的エッチング、およびレーザアブレーションを含むさまざまな従来からの手法を用いて除去を行なうことができる。
【0090】
図13Aおよび図13Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ310と、光ファイバ310に光結合された微小共振器320とを有する光スイッチ300の一例の構成の、それぞれ側面図および上面図である。図13Aおよび図13Bに示す構成は、微小球320の頂部を貫通して形成された(たとえば、エッチングまたは穿孔された)孔330を備え、頂部350は、微小球320が取付けられているファイバ支柱360とは反対側の微小球320の端部として定義される。孔330は微小球320の全体は貫通せず、微小球320内のある深さで止まる。孔330の深さおよび直径は、除去された材料の体積を決定し、スイッチの立下り時間およびスイッチングエネルギを決定する。孔330の深さは微小球320の機械的強度に影響するため、この深さは、微小球の構造的な完全性を損なわないように有利に選択される。孔330は、限定はしないが、反応性イオンエッチング、従来のマスク技術と組合せた化学的エッチング、機械的穿孔等を含む複数の標準的な技術によって製造することができる。孔330は、製造しやすい他の形状、またはより優れた機械的強度をもたらしつつほぼ同じ体積の除去を可能にするいずれかの形状(たとえば円錐形の孔)を有し得る。一部の実施形態では、2つ以上の孔330を、異なる位置に、異なる配向および形状で微小球320に穿孔することができる。このような一部の実施形態では、孔330の存在によって信号も励起損失も上昇しないように、孔330は有利に、モード体積に近付き過ぎることはない(いくつかの信号波長内にある)。
【0091】
図14Aおよび図14Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ410と、光ファイバ410に光結合された微小共振器420とを備える光スイッチ400の別の構成例を概略的に示す。図14Aおよび図14Bに示す構成は、微小球420の頂部を除去し、それによって先端が切られた、または頂部が平らな微小球420を作成することを含む。図14Aおよび14Bの微小球420は、図13Aおよび図13Bの微小球について上述したのと同じ技術、ならびに研削および随意に研磨することによって製造することができる。一部の実施形態では、励起および信号の損失に影響しないように、頂部450の幅はあまり大きくない。したがってこのような一部の実施形態では、平らな頂部450は、モード体積の端から約数波長のところよりも離れている。頂部450の幅は、スイッチの立下り時間およびスイッチングエネルギを決定する。他の一部の実施形態では、頂部450は平坦ではない(たとえば湾曲している)。図14Aおよび図14Bのように頂部450が微小球420の赤道に近い一部の実施形態では、微小球の体積の本質的に半分が除去されている。したがってこのような一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの両方がおよそ係数2だけ低減されている。一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの低減は、ファイバ支柱460の存在によっても影響を受ける。ファイバ支柱460は、熱を微小球420から放出させ、それによって立下り時間が短縮されるが、スイッチングエネルギは上昇する。
【0092】
一部の実施形態では、直径がより小さいファイバで形成した微小球で微小共振器を製造することによって、および/または、たとえば化学的エッチングによってファイバを保持する支柱の直径を縮小することによって、微小共振器のスイッチングエネルギを低下させる。このような一部の実施形態は、励起されている間に微小球から流出する損失熱の量を有利に減少させる。同様の理由で、このような一部の実施形態は、スイッチの立下り時間を有利に増大させる。これは、冷却中に微小球から外に移動する熱の経路の1つがあまり効率的でなくなっているためである。支柱の直径の選択には、立下り時間とスイッチングエネルギとの間で折り合いをつけることが必要である。
【0093】
図15Aおよび図15Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ510と、光ファイバ510に光結合された微小共振器520とを備えるさらに別の例の光スイッチ500の、それぞれ側面図および上面図である。一部の実施形態では、図15Aおよび図15Bに概略的に示すように、たとえば研削または化学的エッチングによって支柱が完全に除去され、接触面を最小化する他の機械的手段(たとえばボンディング)によって支持物上に微小共振器が保持される。このような一部の実施形態では、接合基板は良好な断熱体(たとえばポリマー)を含み、それによって(立下り時間はより短くなるものの)スイッチングエネルギが低下する。他の一部の実施形態では、接合基板は良好な伝熱材(たとえば金属)を含み、それによって(スイッチングエネルギはより大きくなるものの)立下り時間が短くなる。支柱の除去後、頂部の除去に関して上述したように、微小共振器520の底部(支柱側)を除去することができ、それによって基板に、または直径が小さい支柱を介して基板に再接合することができる薄いディスクを残す。このような一部の実施形態では、図15Aおよび図15Bに概略的に示すように、微小共振器520はマイクロトロイドに似ており、当初の微小球材料の大部分が除去されている。一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの両方が、ディスクの厚さに依存して、劇的にたとえば係数10〜100以上だけ低減される。一部の実施形態では、ディスクを伝熱材に密接(たとえば接合)させることができ、スイッチングエネルギを犠牲にして、立下り時間をさらに短縮する。
【0094】
一部の実施形態では、直径がより小さい微小球を微小共振器として用いることによって、スイッチングエネルギおよび立下り時間の両方を低減する。先に引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiに記載のように、立下り時間は微小球の体積におおよそ比例する。同様に、スイッチングエネルギは微小球の体積におおよそ比例する。たとえば、150マイクロメートルではなく直径50マイクロメートルの微小球を用いると、立下り時間はおおよそ約30ミリ秒から約3.3ミリ秒に短縮され、スイッチングエネルギは約85ナノジュールから約10ナノジュール未満に低下する。
【0095】
自由搬送波誘起スイッチングメカニズム
一部の実施形態では、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに光スイッチの少なくとも一部分が自由搬送波数の増加とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0096】
上述のように、一部の実施形態では、微小共振器は、熱誘起された屈折率変化によって光信号に関する周波数または波長が変動する光共振を有する。他の一部の実施形態では、微小共振器の屈折率は、ナノ粒子内に自由搬送波を生成することによって変更される。R.SorefおよびB.R. Bennetによる“Electrooptical Effects in Silicon,”IEEE J. Quantum Electron., QE-23, 123-129ページ(1987年)に記載の経験的な関係によれば、1.5ミクロン付近のバルクSi中の自由搬送波によって、屈折率(Δn)および減衰係数(Δα)において観察される変化が定量化される。
【0097】
【数3】
【0098】
相対的に適度な自由搬送波濃度は、共振を著しく変動させることができる。したがって一部の実施形態では、自由搬送波誘起吸収によって光スイッチングを行なうことができ、これにはシリコンおよび他の半導体ナノ粒子がよく適する。
【0099】
Siナノ粒子がドーピングされた微小球を有する一例の実施形態として、Siナノ粒子は、(周波数υ=6.1×1014Hzに対応する)488ナノメートルの励起波長λにおいて、σA=10-16cm2(10-20cm2)という典型的な吸収断面積を有する。得ることができる典型的なナノ結晶密度はおよそNSi=1019cm-3(1025m-3)であり、蛍光寿命はおよそτ=10マイクロ秒である。(たとえば、F. Priolo他によるMat. Sci. Eng. B, 第81巻, 9ページ(2001年)参照。)したがって吸収深度は小さい(たとえばd1/e=NSiσA=10ミクロン)と予期され、励起の共振の向上は期待されない。
【0100】
単純な準2準位レート方程式モデルを用いると、励振される電子−正孔対の数NExは次から得られる:
【0101】
【数4】
【0102】
ここでφは光子磁束であり、モード面積AMod(およそλ2≒0.5μm2=0.25×10-12m2)および光子エネルギhυで除算した使用出力P=3.4μWに等しい。
【0103】
励振された電子−正孔対の濃度について解くと:
【0104】
【数5】
【0105】
一部の実施形態では、屈折率変化Δnは、熱効果による率変化よりも大きさが2桁大きい。減衰係数の変化Δαは、以下を用いてQ値に変換することができる:
【0106】
【数6】
【0107】
この結果は、自由搬送波の存在によってQが3×105から476に減少し、かつ信号をスイッチングさせることも可能であることを意味する。
【0108】
異なる半導体ナノ粒子は、吸収断面積と励振される搬送波の寿命とが異なる。たとえば、スイッチをより速くするために、直接バンドギャップ半導体ナノ粒子を用いることができ。一部の実施形態では、熱メカニズムおよび自由搬送波メカニズムの両方が、励起パルスと微小共振器のナノ粒子との相互作用に起因する屈折率の変化に寄与する。
【0109】
本発明のさまざまな実施形態を上に記載した。これらの特定の実施形態を参照して本発明を記載したが、記載は発明を例示するためのものであり、限定するものではない。当業者には、添付の請求項に規定した発明の精神および範囲から逸脱することなくさまざまな変更および用途が思い浮かぶであろう。
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本発明は、2005年9月16日出願の米国仮特許出願番号60/717,637号の優先権を主張し、その全体をここに引用によって援用する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、概して光変調器および光スイッチに関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
全光ファイバ変調器およびスイッチは、長年にわたって研究されてきた重要な装置である。これは主に、光通信およびファイバセンサシステムにおいて、低損失、低パワーで、ファイバ接続された、光学的にアドレス指定可能なスイッチングデバイスが求められているためである。これらのシステムは、限定はしないが、周期的自己回復通信ネットワーク、再構成可能な光信号処理、ローカルエリアネットワークのためのパケットスイッチング、ビットスイッチング、曳航式センサアレイ、およびファイバリンクのテストを含む。
【0004】
あいにく、スイッチングを誘起するためにシリカファイバの屈折率を変えるのに利用可能な物理的メカニズムは非常に少ない。広く研究されているカー効果は応答時間が極めて速い(たとえば数フェムト秒)が、周知のとおり弱い。カーに基づくファイバスイッチは、典型的に、10メートルのファイバにおいて1.55マイクロメートルでのフルスイッチングのために20ワットのオーダの出力を使用する(たとえば、N.J. Halas, D. KrokelおよびD. Grischkowskyによる“Ultrafast light-controlled optical-fiber modulator,”Applied Physics Letters, 第50巻,第14号, 886-888ページ, 1987年4月;ならびにS.R. Friberg, A.M. Weiner, Y. Silberberg, B.G. Sfez,およびP.S. Smithによる“Femtosecond switching in a dual-core-fiber nonlinear coupler,”Optics Letters, 第13巻,No. 10, 904-906ページ, 1988年10月参照)、または約200ワット×メートルのスイッチング出力と長さとの積PLを使用する。Er3+などの希土酸化物でドーピングしたファイバにおいて共振の点で向上した非線形はかなり強い(PLは10-2ワット×メートルにおよそ等しい)が、非常に遅い(たとえば応答時間は約10ミリ秒;たとえば、R.A. Betts, T. Tjugiarto, Y.L. Xue,およびP.L. Chuによる“Nonlinear refractive index in erbium doped optical fiber: theory and experiment,”IEEE Journal of Quantum Electronics, 第27巻, 第4号, 908-913ページ, 1991年4月;ならびにR.H. Pantell, R.W. Sadowski, M.J.F. Digonnet,およびH.J. Shawによる“Laser-diode-pumped nonlinear switchin erbium-doped fiber,”Optics Letters, 第17巻, 第4号, 1026-1028ページ, 1992年7月参照)。スイッチングは、吸収材でドーピングしたファイバにおいて熱誘起もされてきた。たとえば、Co2+でドーピングした2.55センチメートルのファイバスイッチは、1.8キロワットのスイッチングピーク出力を要し(PLは5ワット×メートルにおよそ等しい)、その応答時間は約25ナノ秒であった(たとえば、M.K. Davis,およびM.J.F. Digonnetによる“Nanosecond thermal fiber switch using a Sagnac interferometer,”IEEE Photonics Technology Letters, 第11巻, 第10号, 1256-1258ページ, 1999年10月参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.J. Halas, D. KrokelおよびD. Grischkowskyによる“Ultrafast light-controlled optical-fiber modulator,”Applied Physics Letters, 第50巻,第14号, 886-888ページ, 1987年4月
【非特許文献2】S.R. Friberg, A.M. Weiner, Y. Silberberg, B.G. Sfez,およびP.S. Smithによる“Femtosecond switching in a dual-core-fiber nonlinear coupler,”Optics Letters, 第13巻,No. 10, 904-906ページ, 1988年10月
【非特許文献3】R.A. Betts, T. Tjugiarto, Y.L. Xue,およびP.L. Chuによる“Nonlinear refractive index in erbium doped optical fiber: theory and experiment,”IEEE Journal of Quantum Electronics, 第27巻, 第4号, 908-913ページ, 1991年4月
【非特許文献4】R.H. Pantell, R.W. Sadowski, M.J.F. Digonnet,およびH.J. Shawによる“Laser-diode-pumped nonlinear switchin erbium-doped fiber,”Optics Letters, 第17巻, 第4号, 1026-1028ページ, 1992年7月
【非特許文献5】M.K. Davis,およびM.J.F. Digonnetによる“Nanosecond thermal fiber switch using a Sagnac interferometer,”IEEE Photonics Technology Letters, 第11巻, 第10号, 1256-1258ページ, 1999年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ごく最近では、Tapalian他(H.C. Tapalian, J.-P. Laine,およびP.A. Laneによる“Thermooptical switches using coated microsphere resonators,”IEEE Photonics Technology Letters, 第14巻, 1118-1120ページ, 2002年8月)が、吸収ポリマーでコーティングした微小球において、405ナノメートルの励起ビームを微小球の表面に照射することによるスイッチングを実証した。励起によりポリマーおよび微小球が熱せられ、微小球の共振波長が熱的に変動し、1.55マイクロメートルの信号がスイッチングされた。共振器の使用により、スイッチング出力は大幅に減少する。共振を約1000線幅だけ変動させるには、約0.5秒間わずか4.9ミリワットの励起露光を行なえば十分であった。フルスイッチングは約1線幅の変動を必要とするため,スイッチング出力はわずか4.9マイクロワット、スイッチングエネルギは約2.5マイクロジュールであった。しかし、スイッチの応答時間は非常に長かった(たとえば0.165秒)。このようなスイッチの特徴的な寸法を微小球の直径(この例では250マイクロメートル)と考えると、この装置のPL積は約1.2×10-9ワット×メートルであり、非常に小さい。カー効果に基づくウィスパリングギャラリーモード(Whispering gallery mode)微小球共振器も、以前から研究されている(たとえば、M. Haraguchi, M. Fukui, Y. Tamaki,およびT. Okamotoによる“Optical switching due to whispering gallery modes in dielectric microspheres coated by a Kerr moterial,”Journal of Microscopy, 第210巻, 第3部, 229-233ページ,2003年6月; A. Chiba, H. Fujiwara, J. Hotta, S. Takeuchi,およびK.Sasakiによる“Resonant frequency control of a microspherical cavity by temperature adjustment,”Japanese Journal of Applied Physics, 第43巻, 第9A号, 6138-6141ページ, 2004年参照)。他の全光ファイバスイッチと比べて、微小球を用いた光スイッチは、極めて寸法が小さく(たとえば、微小球の直径は典型的にわずか50〜500マイクロメートル)、かつスイッチングエネルギが非常に低いという固有の利点を示す。その理由は,共振器の共振が非常に急激であるため、フルスイッチングを誘起するには微小球の率をわずかに変化させるだけで十分だからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
一部の実施形態において、光スイッチは、複数のナノ粒子を含む微小共振器を備える。微小共振器は、ある信号波長を有する信号光を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する。
【0008】
一部の実施形態において、光スイッチは、複数のナノ粒子を含む微小共振器を備える。光スイッチはさらに、微小共振器に光結合された光カプラーを備える。光カプラーは、信号源から信号を受取るよう構成された第1の部分と、第1の部分に光結合され、かつ微小共振器に光結合するように構成された第2の部分と、第2の部分に光結合され、かつ第2の部分から受取った信号を伝送するように構成された第3の部分とを有する。光スイッチは、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号を第1の部分から第3の部分に伝送し、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号は、第1の部分から第3の部分に伝送しない。
【0009】
一部の実施形態の方法は、シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を含む光スイッチを製造する。当該方法は、シリカ光ファイバを設けるステップを備える。当該方法はさらに、ファイバの少なくとも一部分を溶融して、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップを備える。当該方法はさらに、微小球をシリカ層でコーティングするステップを備える。当該方法はさらに、微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップを備える。当該方法はさらに、水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップを備える。
【0010】
一部の実施形態において、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに微小共振器の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0011】
一部の実施形態において、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに光スイッチの少なくとも一部分がその内部の自由搬送波数の増加およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】励起パルスおよび信号がテーパファイバの一端に入力されているテーパファイバを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する一例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図2】励起パルスおよび信号がテーパファイバの両端に入力されているテーパファイバを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図3】励起パルスおよび信号を微小共振器に結合するプリズムを備える、ここに記載した一部の実施形態に適合する別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図4】ここに記載した一部の実施形態に係る、自己スイッチングのための別の例の光スイッチを概略的に示す図である。
【図5】ここに記載した一部の実施形態に係る、シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を備える光スイッチを製造する一例の方法を示すフローチャートである。
【図6】ここに記載した一部の実施形態に係る、光スイッチングのための方法の一例のフローチャートである。
【図7】励起パルスがある場合とない場合との、ここに記載した一部の実施形態に適合する一例の光スイッチの出力について測定された伝送スペクトルのグラフであり、3.4マイクロワットのピーク結合出力にて励起がオンであるときの共振波長における変動を示す図である。
【図8】図3の例の光スイッチの時間的な応答のグラフである。
【図9】ここに記載した一部の実施形態に係る、一例の励起パルスシーケンスとその結果得られるスイッチングされた信号パルスとのグラフである。
【図10】図10Aはピーク出力は同じであるが幅が異なり、各々の幅がτ1よりずっと短い3つの短い励起パルスのグラフである。図10Bはローレンツである共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。図10Cはガウスである共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。図10Dは矩形である共振線形について図10Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスのグラフである。
【図11】ローレンツ共振線形について、モード体積の緩和時間(τp=50τ1)と比較して幅が長い励起パルスとその結果得られるスイッチングされた信号パルスとを示すグラフである。
【図12】図12Aは反復率が高い(Tp<<τ2)励起パルスシーケンスのグラフである。図12Bは一点鎖線がモード体積のベースライン温度の発達を表わす、図12Aに対応して得られるスイッチングされた信号パルスシーケンスのグラフである。
【図13A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える一例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図13B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える一例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【図14A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える別の例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図14B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備える別の例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【図15A】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備えるさらに別の例の光スイッチを概略的に示す側面図である。
【図15B】ここに記載した一部の実施形態に適合する微小共振器を備えるさらに別の例の光スイッチを概略的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
図1は、ここに記載する一部の実施形態に係る光スイッチ10を概略的に示す。光スイッチ10は、複数のナノ粒子を含む微小共振器20を備える。微小共振器20は、ある信号波長を有する信号光30を受取り、かつある励起波長を有する励起パルス40を受取るように構成される。当該信号波長において屈折率変化を経ることによって、微小共振器20の少なくとも一部分が励起パルス40に応答する。
【0014】
図1に概略的に示すように、一部の実施形態では、光スイッチ10はさらに、微小共振器20に光結合され、かつ信号源35および励起源45に光結合するように構成された光カプラー50を備える。光カプラー50は、励起源45から微小共振器20に励起パルス40を伝送し、信号源35から微小共振器20に信号光30を伝送する。
【0015】
一部の実施形態では、微小共振器20は、微小空洞、微小球、微小リング、マイクロディスク、マイクロトロイド、チップ上の導波路共振器、または高Q値微小共振器(たとえばシリコンチップ上のプレーナ型微小共振器)を含む。一部の実施形態では、微小共振器20は、シリカ(SiO2)ガラス、ドーピングしたシリカ系ガラス(たとえばゲルマニ
ウムでドーピングされる)、ホウケイ酸ガラス、ZBLANガラス、有機材料(たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA))、またはシリコンチップ上のパターニングされたオキシナイトライド膜を含む。微小共振器20は、さまざまな技術およびさまざまな標準的な半導体微細加工ツールを用いて製造することができる(たとえば、D.K. Armani, T.J. Kippenberg, S.M. Spillane,およびK.J. Vahalaによる“Ultra-high-Q toroid microcavity on a chip,”Nature, 2003年2月27日, 第421巻, 925-928ページ;F. Lissillour,D. Messager, G. Stephan, およびP. Feronによる“Whispering-gallery mode laser at1.56μm excited by a fiber laser,”Optics Letters, 2001年7月15日, 第26巻, 第14号, 1051-1053ページ参照)。微小リング共振器およびマイクロディスク共振器は、限定はしないが、SiH4およびN2Oを採用した化学気相成長(CVD)法を含むさまざまな堆積技術を用いて製造することもできる。このようなオンチップ共振器は、CVDまたは他の堆積技術を用いてナノ粒子層でコーティングすることもできる。
【0016】
一部の実施形態では、微小共振器20は、複数のナノ粒子で構成される層22を含む。層22は、微小共振器20の最も外側の層の少なくとも一部分、または微小共振器20の外側面下の微小共振器20の内側層の少なくとも一部分であり得る。ここで用いる「層」という用語は、最も広い通常の意味で用いられる。たとえば、厚さが概ね均一な単一の材料で構成され得る、または各々が異なる材料を有する複数の副層で構成され得る。一部の実施形態では、層22は、第2の材料内に均一または非均一に分布した第1の材料(たとえば複数のナノ粒子)で構成される。一部の実施形態では、層22は、第2の材料内に均一または非均一に分布した2種類以上のナノ粒子で構成される。層22は、微小共振器20の周りに完全にもしくはほぼ完全に延在し得る、または微小共振器20の周りに部分的にのみ延在し得る。層22は概ね連続的であり得る、または互いに隣接しない2つ以上の区域もしくは領域を含み得る。
【0017】
一部の実施形態ではナノ粒子は結晶質であるが、別の実施形態ではナノ粒子は非晶質である。一部の実施形態では、ナノ粒子は、限定はしないがシリコン、ゲルマニウム、II−VI族化合物半導体(たとえばCdTe、CdSまたはCdSe)、III−V族化合物半導体(たとえばGaAs)、または表面プラズモン共振によって特定の波長域において強い共振吸収性を有する金属材料(たとえば貴金属、Au、Ag、Cu、Al)を含む半導体材料で構成される。上記のさまざまな種類の微小共振器20は、これらのうち1つ以上の種類のナノ粒子の層で容易にコーティングすることができる。一部の実施形態のナノ粒子は、以下により詳細に記載するように、励起波長において強い吸収性を有し、信号波長において無視できる吸収性を有する。
【0018】
ここに記載する一部の実施形態において、新規の低エネルギ全光ファイバスイッチ10は、シリコンナノ粒子を有するシリカ層22によってコーティングしたシリカ微小球共振器20を備える。一部の実施形態において、以下により詳細に述べるように、スイッチ10は、シリコン(Si)のナノ結晶が析出されているシリコンリッチシリコン酸化物(SRSO)の薄い層によってコーティングした高Q値シリカ微小球を備える。
【0019】
一部の実施形態において、信号源35は、電磁スペクトルの赤外線領域においてある信号波長(たとえば1450ナノメートル)を有する信号光30を生成する可変波長レーザを含む。一部の実施形態において、信号源35は狭帯域可変波長源であるが、別の実施形態では、信号源35は広帯域可変波長源である。一部の実施形態の信号波長は、(i)ウィスパリングギャラリーモードまたは微小球共振器20の共振と一致するように、かつ(ii)信号がナノ粒子によって吸収されないようナノ粒子の吸収帯域の外側にあるように、選択される。たとえば、シリコンナノ粒子を含有するシリカ層22によってコーティングしたシリカ微小球を微小共振器20が含む一部の実施形態では、シリコンの吸収帯域の概ね外側にあることから、1450ナノメートルの信号波長が用いられる。一部の実施形態の信号波長は500ナノメートルから2000ナノメートルの範囲、1300ナノメートルから1600ナノメートルの範囲、または1300ナノメートルから1500ナノメートルの範囲にあるが、他の信号波長もここに記載するさまざまな実施形態に適合する。
【0020】
一部の実施形態において、励起源45は、電磁スペクトルの可視領域または赤外線領域においてある励起波長(たとえば488ナノメートル)を有する光を生成するレーザ46(たとえばアルゴンイオンレーザ)を含む。一部の実施形態において、レーザ46は狭帯域可変波長源であるが、別の実施形態では、レーザ46は広帯域可変波長源である。一部の実施形態の励起源45は、レーザ46からの光を低周波数(たとえば10Hz)にて調整可能な幅を有する短いパルスに変調する変調器47(たとえば機械的なチョッパホイール、音響光学変調器、または電子光学変調器)を含む。半導体励起レーザの場合における直接変調のように、他の種類の変調器を用いて、励起を適切な幅のパルスに変調することができる。一部の実施形態では、励起波長は信号波長よりも短い。一部の実施形態では、励起パルス40は複数の励起波長を有し、励起パルス40がナノ粒子によって有意に吸収されるように、1つ以上の励起波長がナノ粒子(たとえばシリコンリッチシリコン酸化物コーティング内のシリコンナノ結晶)の吸収帯域内に収まるよう選択される。したがって励起パルスは、たとえ共振したとしても不十分である。一部の実施形態の励起波長は300ナノメートルから1500ナノメートルの範囲であるが、他の励起波長(たとえば820ナノメートル、980ナノメートル、1060ナノメートル、および1480ナノメートル)もここに記載するさまざまな実施形態に適合する。
【0021】
光カプラー50は、少なくとも1つの励起パルス40を励起源45から微小共振器20に伝送し、信号光30を信号源35から微小共振器20に伝送する。図1に概略的に示したように、光カプラー50は光ファイバ52(たとえば単一モードファイバ)を含む。一部の実施形態では、光カプラー50は、基板(たとえばシリコンウェハなどの半導体基板)上に形成された光導波路を含む。一部の実施形態において、光カプラー50は、励起源45および信号源35に光結合するように構成された1つ以上の第1の部分53と、微小共振器20に光結合された第2の部分54とを含む。光カプラー50はさらに、(たとえば光検出器60およびオシロスコープ70を有する)光システムに光結合するように構成された出力部分55を含む。一部の実施形態では、光カプラー50の第1の部分53および第3の部分55は互いに同一である。
【0022】
一部の実施形態では、図1に概略的に示したように、光カプラー50はマルチプレクサ56(たとえば波長分割マルチプレクサ(WDM)ファイバカプラー)を含み、信号30と励起パルス40とを、複テーパ単一モード光ファイバ52の入力第1部分53に多重送信する。光ファイバ52は、微小共振器20に光結合された複テーパ第2部分54と、光システム(たとえば検出器60およびオシロスコープ70)に光結合された出力部分55とを有する。一部の実施形態における光ファイバ52の複テーパ第2部分54のネックの直径は数マイクロメートルである。
【0023】
他の一部の実施形態において、光カプラー50は、図2に概略的に示すように、2個のマルチプレクサ56(たとえばファイバ、マイクロ、もしくはバルク光)または2個のファイバサーキュレータ57を有する。このような一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図2に概略的に示すように、異なる第1の部分53(たとえば光ファイバ52の異なる端部)に、各第1の部分53においてマルチプレクサ56またはサーキュレータ57を介して結合されるが、他のこのような一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図1に概略的に示したように、マルチプレクサ56を介して同じ第1の部分53(たとえば光ファイバ52の同じ端部)に結合される。一部の実施形態では、光カプラー50は、信号出力のほぼすべてをテーパ第2部分54に伝送することによって、信号損失を有利に最小化する。一部の実施形態において、光カプラー50は、励起出力のほぼすべてをテーパ第2部分54に伝送することによって、励起出力損失を有利に最小化する。一部の実施形態では、信号30は(たとえば検出器60aおよびオシロスコープ70aを有する)光システムに出力され、励起パルス40は(たとえば光検出器60bおよびオシロスコープ70bを有する)光システムによって監視される。
【0024】
一部の実施形態では、光カプラー50は、図3に概略的に示すようにプリズム58を含む。プリズム58は、励起パルス40および信号30の波長が異なる一部の実施形態において、励起パルス40および信号30を異なる角度で微小共振器20に結合させる。一部の実施形態では、励起パルス40および信号30は、図3に概略的に示すようにプリズム58の反対側から発信される。代替的に、他の一部の実施例では、励起パルス40および信号30は、プリズム58の同じ側から発信される。一部の実施形態では、信号30は(たとえば検出器60aおよびオシロスコープ70aを有する)光システムに出力され、励起パルス40は(たとえば光検出器60bおよびオシロスコープ70bを有する)光システムによって監視される。
【0025】
一部の実施形態では、励起パルス40に応答して、微小共振器20の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率の変化を経る。一部の実施形態では、励起パルス40が微小共振器20に発信されると、励起パルス40がナノ粒子によって吸収され、これにより微小共振器20が熱せられ、その屈折率が変化し、その共振を変動させることによって信号30をスイッチングする。たとえば、シリコンナノ結晶を含有するシリカ層を有する微小球を微小共振器20が含む一部の実施形態では、温度を上昇させることにより、それに伴って微小共振器20が信号波長において屈折率変化を経るように、シリカ層が励起パルス40に応答する。一部の実施形態において、励起パルス40の吸収によって微小共振器20が高温にあるときには、微小共振器20は信号30を伝送し、微小共振器20の温度がより低いときには、微小共振器20は信号30を伝送しない。他の一部の実施形態において、励起パルス40の吸収によって微小共振器20が高温にあるときには、微小共振器20は信号30を伝送せず、微小共振器20の温度が低いときには信号30を伝送する。
【0026】
図4は、ここに記載する一部の実施形態に係る別の例の光スイッチ10を概略的に示す。光スイッチ10は、複数のナノ粒子を含む微小共振器20を備える。一部の実施形態では、ナノ粒子は微小共振器20の層22内にある。光スイッチ10はさらに、微小共振器20に光結合された光カプラー50を備える。光カプラー50は、信号源35から信号30を受取るように構成された第1の部分53と、第1の部分53に光結合され、かつ微小共振器20に光結合するように構成された第2の部分54と、第2の部分54に光結合され、かつ第2の部分54から受取った信号30を(たとえば光検出器60およびオシロスコープ70を有する)光システムに伝送するように構成された第3の部分55とを有する。光スイッチ10は、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号30を第1の部分53から第3の部分55に伝送する。光スイッチ10は、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号30を第1の部分53から第3の部分55に伝送しない。
【0027】
このような一部の実施形態において、光スイッチ10は、微小共振器20において自己スイッチングを用いる「自己スイッチ」として使用することができ、信号30が自身をスイッチングし、マルチプレクサも励起パルスも使用されない。このような一部の実施形態における信号30の信号波長は、微小共振器20の共振波長の1つ(たとえばウィスパリングギャラリーモード)と一致する。信号30の信号出力が小さく、かつ微小共振器20に発信されると、微小共振器20によって吸収される信号出力の量は十分小さいため、微小共振器20の温度は信号30によって本質的に変化しない。したがって、低レベル信号が微小共振器20内で共振し、光カプラー50の第3の部分55には本質的に出力は伝送されない。
【0028】
信号出力が増大すると、微小共振器20によって吸収される信号出力の量が増大し、信号出力がモード体積において熱の形態で放散され、それによって微小共振器20の温度が上昇し、微小共振器20の共振波長を変動させることによって共振状態が変わる。信号出力が所定のしきい値出力よりも大きいときには、微小共振器20の共振波長は十分に変動するため、高レベル信号30は微小共振器20と共振せず、信号出力の大部分が光カプラー50の第3の部分55に伝送される。高レベル信号30はこのように自身をスイッチングする。
【0029】
一部の実施形態では、光スイッチ10は双安定挙動を示す。たとえば、微小共振器20に結合された光カプラー50の入力部分53に送り込まれた連続波(cw)信号30について、信号出力を増大させると、それに伴って微小共振器20が熱せられ、したがって信号30は共振しなくなる。信号出力によって生成された熱によって共振波長が十分に変動されると、信号30は微小共振器20と共振しなくなるため、信号30が光カプラー50の出力部分55に伝送され、微小共振器20は冷却される。微小共振器20は、信号30との共振状態に達し、信号30が微小共振器20と再び共振するまで冷却され、信号30は光カプラー50の出力部分55には伝送されなくなる。このとき微小共振器20は再び熱せられる、等。一部の実施形態において、この双安定挙動は、微小共振器20の熱応答時間よりも短い信号パルスを用いることによって有利に回避される。たとえば一部の実施形態において、信号源35は、レーザ36と、信号パルスの周期を決定する変調器37とを有する。このような一部の実施形態では、信号パルスが光スイッチ10によって受取られ微小共振器20を熱するが、微小共振器20の熱せられた体積から熱が流出するのにかかった時間までに終了するため、信号パルスは微小共振器20のその後の冷却を経験しない。同様に、次の信号パルスは有利に、先の信号パルスの後すぐには光スイッチ10に受取られない。これは、次の信号パルスが到達するときに微小共振器20が周囲温度にある(たとえば先の信号パルスによって熱せられていない)ことが有利なためである。一部の実施形態では、この振動系の力学によって、有利に(たとえばマイクロ秒のタイムスケールでの)速いスイッチング処理が可能になる。
【0030】
したがって一部の実施形態では、信号30が光カプラー50の第3の部分55に伝送されるか否かは、信号出力レベルによって制御される(たとえば低いレベルの信号の場合、信号出力はゼロであり、高いレベルの信号の場合、信号出力は最大である)。このような自己スイッチングの実施形態は、データのストリームにおいて「0」と「1」とを選別するのに用いることができる。他の一部の実施形態において、このような自己スイッチは信号を再生成するのに用いることができる。たとえば、0(低レベルパルス)および1(高レベルパルス)の信号パルス列が光伝送線を介して伝送される場合、伝送線の増幅器におけるノイズによって0が真の0ではなくなり、出力を少し伝える可能性がある。この信号パルス列を自己スイッチング光スイッチ10を介して送ることによって、これらの低レベルの0を真の0に回復させることができる。これは、0が自身を切換えるにはレベルが低すぎて、微小共振器の周りで共振し、そこですべてのパワーを失って真の0となるためである。
【0031】
図5は、ここに記載する一部の実施形態に係る、シリコンナノ結晶によってコーティングした微小球を含む光スイッチ10を製造する一例の方法100のフローチャートである。方法100は、動作ブロック110において、シリカ光ファイバ(たとえばコーニング社製SMF−28E光ファイバ)を設けるステップを備える。方法100はさらに、動作ブロック120において、ファイバの少なくとも一部分(たとえば一端)を溶融させ、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップを備える。一部の実施形態では、125ワット10.6マイクロメートルCO2レーザからの約3ワットの出力を用いて単一モードシリカファイバの先端を溶融させ、かつ表面張力を利用して、原子の表面が平滑な球状の液滴を形成することによって、直径約150マイクロメートルの微小球が製造される(たとえば、準備においてはJ.-Y. Sung, J.H. Shin, A. Tewary,およびM.L. Brongersmaによる"Cavity Q measurements of silica microspheres with nanocrystal silicon active layer"参照)。およそ1450ナノメートルでのこのような微小球の典型的なQ因子は、約5×107であると測定された。
【0032】
方法100はさらに、動作ブロック130において、微小球を(たとえば140ナノメートル厚さの)シリカ層でコーティングするステップを備える。一部の実施形態では、均一なコーティングを促すために微小球を回転させながら、ArプラズマによるSiH4およびO2の誘導結合プラズマ促進化学気相成長法を用いて、微小球がシリコンリッチシリコン酸化物(たとえばSiOx、x<2)(SRSO)の層によってコーティングされる。
【0033】
方法100はさらに、動作ブロック140において、微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップを備える。方法100はさらに、動作ブロック150において、水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップを備える。一部の実施形態では、微小球をまず60分間1100℃にてアニーリングしてシリコンナノ結晶を析出させ、その後650℃にて形成ガスにおいて60分間アニーリングして、ナノ結晶中のダングリングボンドを水素により不動態化する。透過型電子顕微鏡技術(TEM)によって、選択された試料においてナノ結晶の存在が確認された。参照試料はSRSOではなくシリカによってコーティングし、同様のアニーリング後処理を行なった。予期されるように、これらの参照試料においてナノ結晶は検出されなかった。信号は(約1450ナノメートルにおいて)Siナノ結晶の吸収帯域外にあるため、無視できる程度にコーティングによって吸収され、コーティングした微小球は、信号波長において依然として高いQ値(たとえば1450ナノメートルにおいて約3×105)を有する。
【0034】
一部の実施形態では、方法100はさらに、テーパ部分54を有する光ファイバ52を有する光カプラー50を設け、テーパ部分54を微小球に光結合するステップを備える。一部の実施形態では、方法100はさらに、マルチプレクサ56をテーパ光ファイバ52に光結合するステップを備え、マルチプレクサ56は、励起源45に光結合するように構成された第1の部分と、信号源35に光結合するように構成された第2の部分と、テーパ光ファイバ52に光結合された第3の部分とを有する。マルチプレクサ56は、励起源45からマルチプレクサの第1の部分に伝送された1つ以上の励起パルス40が、テーパ光ファイバ52に伝送されるように構成される。マルチプレクサ56はさらに、信号源35からの1つ以上の信号30がテーパ光ファイバ52に対してマルチプレクサ56の第2の部分に伝送されるように構成される。
【0035】
図6は、ここに記載する一部の実施形態に係る光スイッチングの一例の方法200のフローチャートである。方法200は、動作ブロック210において、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。方法200はさらに、動作ブロック220において、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備える。光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには微小球の少なくとも一部分が温度上昇およびそれに伴う屈折率変化を経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0036】
一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスが光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスは光スイッチから伝送されない。他の一部の実施例では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスは光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスが光スイッチから伝送される。
【0037】
一部の実施形態では、方法200はさらに、光スイッチによって光信号を受取るステップを備える。このような一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号が光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号は光スイッチから伝送されない。このような他の一部の実施形態では、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号は光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号が光スイッチから伝送される。
【0038】
一部の実施形態では、光カプラーは、第1の部分、第2の部分、ならびに第1の部分および第2の部分の間にあり、かつ微小共振器に光結合されたテーパ部分を有する光ファイバと、光ファイバに光結合されたマルチプレクサとを含む。方法200はさらに、マルチプレクサから光ファイバのテーパ部分に光パルスを送るステップを備える。一部の実施形態では、微小共振器の温度が上昇するように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器によって吸収される。微小共振器の温度が上昇しつつ光信号がテーパ部分を伝播すると、光信号は光ファイバの第1の部分から第2の部分に伝播する。微小共振器の温度が上昇せずに光信号がテーパ部分を伝播すると、光信号は微小共振器と共振し、光ファイバの第2の部分には伝播しない。一部の実施形態では、光パルスが自己スイッチングするように、光パルスと光信号とが同一である。一部の実施形態では、微小共振器は、シリコンナノ結晶を含有するシリカ層によってコーティングしたシリカ微小球を含む。
【0039】
微小球を用いた実施形態の性能
ここに記載する一部の実施形態において、新規な低エネルギ全光ファイバスイッチ10は、シリコン(Si)のナノ結晶が析出しているシリコンリッチシリコン酸化物(SRSO)の薄い層によってコーティングした高Q値シリカ微小球共振器20を備える。このような一部の実施形態では、Tapalian他によって用いられているように、ポリマーの代わりにSiナノ結晶を吸収材として有利に使用する。これは、(1)Siナノ結晶は標準的な微細製造技術に適合し、かつ(2)Siナノ結晶が赤外線(IR)付近に延在する広い吸収帯域を有するためであり、したがってこのスイッチ10は、(たとえば808ナノメートルにおいて)標準的なレーザダイオードで有利に励起することができる。一部の実施形態では、光スイッチ10は、標準的な多重送信方式を用いて、同一の複テーパファイバを介して励起と信号とを微小球に結合する。このような一部の実施形態では、励起エネルギをより効率的に有利に利用できる。
【0040】
一部の実施形態では、励起パルスが微小球に発信されると、ナノ結晶層によって吸収され、微小球が熱せられてその屈折率が変化し、したがってその共振を変動させることによって信号がスイッチングされる。信号を完全にスイッチングするのに十分な5ピコメートルの共振波長変動が、3.4マイクロワットの励起パルス出力および25ミリ秒の励起パルス幅、またはわずか85ナノジュールの励起パルスエネルギによって観察された。この結果は、以下に記載する単純な熱モデルの予測とよく一致する。スイッチの立上がり時間は約25ミリ秒(励起ピーク出力によって得られる値)であり、その立下り時間は約30ミリ秒(微小球の熱時定数によって得られる値)であると測定された。この値は以前に報告されている(たとえば、Tapalian, et al.参照)よりも約5倍速く、予測(たとえばV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiによる"Thermal nonlinear effects in optical whispering gallery microresonators," Laser Physics, 第2巻, 1004-1009ページ, 1992
年参照)と一致する。3.4マイクロワットのスイッチングピーク出力と装置の特徴的な寸法(直径150マイクロメートル)との積は5.1×10-10ワット×メートルであり
、全光スイッチについて報告されている最も低い値のうちの1つである。
【0041】
励起パルスがない状態では信号が微小球と共振し、信号が微小球の周りで共振する際、主として散乱によって信号の出力が激減する。したがって、微小球が励起パルスによって励振されないときには、信号はテーパファイバの出力部分から出力されない。
【0042】
テーパ光ファイバに発信された後、励起パルスのエネルギはナノ結晶によって吸収され、したがってナノ結晶のバンドギャップより高く励振される。ナノ結晶が基底状態に緩和される際、熱が生成されて、微小球の少なくとも一部分(たとえばモード体積)に伝達され、微小球の熱せられた部分の温度が上昇する。この温度上昇により、微小球の屈折率および微小球の寸法が変化する。微小球によって励起パルスが吸収されることで、その共振波長が変動する。波長の変動が十分大きくなると、信号パルスの波長は、当初一致していた共振に対応しなくなり、すべての信号出力がテーパ光ファイバの出力部分から出力される。こうして信号がスイッチングされる。
【0043】
励起パルスが通過した後、微小球はその初期温度に冷却される(たとえば周囲の媒体、典型的には空気への自然または強制対流によるが、他の流体も有利に用いることができる)。微小球の共振波長はしたがって初期値に戻り、信号パルスは微小球と再び共振するようになり、信号出力はテーパ光ファイバの出力部分から出力されない。
【0044】
一部の実施形態では、ナノ結晶が、励起散乱損失率に比べて励起吸収率を上昇させる。一般に散乱は微小球の加熱には寄与しないため、励起散乱損失率に比べて励起吸収率を上昇させることにより、励起エネルギの熱に変わる部分がナノ結晶の存在によって増大する。したがって、ナノ結晶は、スイッチングに必要な励起エネルギを有利に低下させる。しかし、シリカ微小球がシリコンナノ結晶を含まない一部の実施形態では、励起パルスは微小球のシリカ材料(ナノ結晶がドーピングされたシリカよりも散乱損失に対する吸収損失率が低い)によって吸収され、励起パルスについてより大きいスイッチング出力が必要となる。
【0045】
一部の実施形態のスイッチングエネルギは、単純な熱モデルで評価することができる。微小球が熱せられると、その屈折率はシリカの指数熱係数∂n/∂Tによって変化し、その直径はシリカの熱膨張によって変化する。熱膨張の影響は率変化よりも約2桁弱いため、熱膨張は好都合に無視することができる。したがってスイッチングエネルギは、信号共振を(信号を完全にスイッチングするのに十分である)1線幅だけ変動させる率変化を算出し、次にこの量だけ微小球の率を変化させるのに必要な熱を算出することによって得ることができる。微小球の共振状態およびシリカの∂n/∂T(約10-5℃-1)から算出された、およそ1450ナノメートルでの微小球の共振波長の、温度による変化は約10ピコメートル/℃である。わずかな温度上昇に関しては(たとえばδT<1℃)、光ファイバについてのアナロジー(たとえばM.K. Davis, M.J.F. Digonnet,およびR.H. Pantellによる"Thermal effects in doped fibers," Journal of Lightwave Technologies, 第16巻, 第6号, 1013-1023ページ, 1998年6月参照)によれば、定常状態(たとえば、微小球の緩和時間よりも励起が長くオン状態にあった後)での微小球の温度は一定に近い。
【0046】
エネルギの保存は、温度δTでの定常状態温度を周囲の空気の温度より高く保つために単位時間当たりに球に注入される熱は式(1)によって得られると規定している:
H=hAδT (1)
ここでhは自然対流による空気中のシリカの熱伝達係数であり、Aは微小球の面積である。Pabsが微小球によって吸収される励起出力である場合、Pabs=Hであるとき、定常状態スイッチングが一部の実施形態において実現される。上で引用した例(スイッチングエネルギが85ナノジュール)では、微小球の直径は150マイクロメートルであり、Q値は3×105におよそ等しい。共振線幅はおよそ1450ナノメートルであり、したがってフルスイッチングのための波長変動は約4.8ピコメートル、または温度変化δT≒4.8/10=0.5℃である。シリカ微小球のh係数がシリカ円柱についてと同様であるとすると(h=81W/m2/℃)、スイッチングのために吸収された励起出力が約2.9マイクロワットであることを示すのに式(1)が用いられる。
【0047】
スイッチングの度合いは、一部の実施形態において、共振に対して信号波長を連続的に走査してデジタル化オシロスコープに共振の降下を記録することによって、実験的に監視することができる。この測定は励起レーザがオンの状態で繰返して、定常状態での共振における変動を記録することができる。
【0048】
励起波長でのテーパ損失がかなり大きい一部の実施形態では、励起波長でのテーパ損失が測定され、微小球に結合される励起出力が決まる。テーパ損失を測定するための一方法は、微小球がテーパファイバに結合されるときに、テーパファイバに結合されテーパファイバから出る励起出力を測定し、その後テーパファイバから微小球を分離したときにこの測定を繰返す方法である。テーパファイバのポートを逆にした後(すなわち励起を出力ポートに結合するとき)この測定が繰返される。この測定の組によって、2つのテーパファイバ部分(ネックへの入力および出力へのネック)の伝送損失と、微小球に吸収される励起出力とが明白に生じる。他の微小共振器(たとえばトロイダル微小共振器)についても同様の測定を用いることができる。
【0049】
図7は、スイッチングを例示するために、励起がある場合とない場合とで測定された一例の微小球スイッチの伝送スペクトルのグラフである。図7の共振(励起はオンまたはオフ)の半値全幅(FWHM)は4.8ピコメートルである。Q因子は定義上、λsが中心信号波長であるΔλ=λs/Qによって共振線幅Δλに関連するため、この測定は、測定されたQ値が(0.0048/1450)にほぼ等しい、または約3×105であることを示す。図7における測定された共振波長の変動は、微小球によって吸収された約3.4マイクロワットの励起出力に対して約5ピコメートルである。励起出力が増大するにつれてこの変動が増大するものと観察される。したがって、図7における共振の変動は信号の1線幅におよそ等しく、光スイッチの「オフ」状態と「オン」状態との間で完全にスイッチングさせるのに十分である。
【0050】
このスイッチング出力は、理論によって先に予測された2.9マイクロワットという値によく一致する。この測定値および微小球の長さ(150マイクロメートル)から、例示的なスイッチについて算出されたPL積は5.1×10-10ワット×メートル、または以前より報告されている観察(たとえば、Tapalian他参照)から算出された値よりも係数3だけ低い。Siナノ結晶を含有しないシリカコーティングを有する参照微小球においては、励起パルスによって誘起された変動は図7に示したものよりも係数約3.3だけ小さいと測定された。したがって、ナノ結晶を含まない微小球を用いて図7に匹敵する波長変動を誘起するのに必要な励起出力は、ナノ結晶を含む微小球に関する励起出力よりも係数約3.3だけ高い。この結果により、例示的なスイッチのナノ結晶が励起の吸収性を上昇させ、したがってスイッチングエネルギ要件を大幅に低下させることが確認された。
【0051】
図8は、図7の例示的なスイッチの時間的な応答のグラフである。時間的な応答は、信号を共振に合わせ、臨界結合のためにテーパファイバと微小球との間の間隔を調整することによって測定された(たとえばゼロ伝送信号出力)。次に励起パルスをオンにし(150ミリ秒幅、50%デューティサイクル、1ミリ秒に満たない立上がり時間および立下り時間)、テーパファイバによって伝送される信号出力を時間の関数として記録した。
【0052】
一部の実施形態では、ピーク出力がより小さい、より長い励起パルスを用いて微小球を励起する。比較的長い励起パルス(たとえば100ミリ秒のオーダ)によって蓄積される熱は、モード体積内にのみ留まるのではなく、励起パルスの終了までに微小球全体を移動する時間を有する。ここで用いる「モード体積」という用語は、微小共振器と共振している信号エネルギの大部分(たとえば95%)が微小共振器に位置する(たとえばウィスパリングギャラリーモード)微小共振器(たとえば微小球)の体積を指す。励起パルスによって微小球内に蓄積された熱の量は、モード体積のみが熱せられた場合よりも大きく、したがってスイッチングエネルギはより高い。励起パルスが微小球を通過した後、より大量の熱が微小球から周囲の媒体(たとえば空気)に移動するのに(たとえば、モード寸法に対する微小球寸法の割合に対応して係数約100だけ)相当長い時間がかかる。言い換えると、微小球は冷却するのにより時間がかかり、したがって、励起パルスが短い場合に比べて、スイッチの立下り時間はそれに応じてより長くなる。このような一部の実施形態は、光スイッチがより長い時間「オフ」状態に維持される用途において有利に用いることができる。
【0053】
一部の実施形態では、図8に概略的に示すように、スイッチングされたパルスの立下がり端縁および立上がり端縁は、基本的な物理学から予期されるように、およそ指数関数的である。指数を2つの端縁に当てはめると、立上がり時間定数は25±5ミリ秒であり、立下り時間定数は30±5ミリ秒となる。後者の結果は、例示的な微小球の寸法についてV.S. Il'chenko他によって算出された値とよく一致する。より短い励起パルスを用いる一部の他の実施形態では、以下により詳細に述べるように、立下り時間がかなり短くなる(たとえば数マイクロ秒)。立下り時間は、励起パルスがオフにされた後に微小球の温度が周囲の媒体と平衡に達するのに要する時間によって少なくとも部分的に決まる。微小球の代わりにマイクロトロイドを用いる一部の実施形態では、マイクロトロイドの熱量が微小球よりも小さいため、立下り時間はより速い(たとえばD.K. Armani, B. Min, A. Martin, K.J. Vahalaによる“Electrical thermo-optic tuning of ultrahigh-Q microtoroid resonators,”Applied Physics Letters, 第85巻, 第22号, 5439-5441ページ, 2004年11月参照)。
【0054】
光スイッチの立上がり時間は、(たとえば一定の励起エネルギに対する励起出力によって)熱が微小球に蓄積される率によって少なくとも部分的に決まる。このような一部の実施形態では、励起出力が増大するにつれて立上がり時間が長くなる。図8のような一部の実施形態では、測定された立上がりおよび立下り時間定数が同等であるのは単に偶然である。図7および図8に対応する装置について測定された立上がり時間および測定された吸収励起出力から、フルスイッチングに必要な総エネルギ(すなわち共振波長を1線幅だけ変動させるためのエネルギ)は3.4マイクロワット×25ミリ秒、または約85ナノジュールであると推定される。この結果は、先に報告されている(Tapalian他参照)よりも係数として約30低い。以下により詳細に記載する他の一部の実施形態では、スイッチングエネルギは数百ピコジュール以下のオーダである。
【0055】
熱応答の時間的な特徴
一部の実施形態では、共振ウィスパリングギャラリーモードを励振することによって光励起される微小共振器(たとえば微小球またはマイクロトロイド)は、モード体積における(または非常に近くでの)励起光子の吸収によって熱せられる。蓄積された熱によりモード体積の温度が上昇し、屈折率が変化し(かつより小さな規模で微小共振器の寸法が変化し)、したがってすべての共振波長が変化する。上記したように、この効果は、微小共振器の共振の1つに合わせられた固定波長を有する光信号の振幅をスイッチングするまたは変調するために、一部の実施形態で用いられる。励起がオフのときに微小共振器に光結合されたナノワイヤ(たとえばテーパ光ファイバ)を伝播する際、光信号は微小共振器と共振し、光信号の、あるとしてもわずかな部分のみがナノワイヤの出力部分から外に伝播する(たとえばナノワイヤを介するゼロ伝送)。励起がオンのときにナノワイヤを伝播する際、光信号は共振から外れており、光信号の大部分がナノワイヤの出力部分から伝送される(たとえばナノワイヤを介する100%伝送)。励起がパルスに変調されるときには、励起パルスが送られるたびにモード体積の温度が上下し、これにより択一的に信号がオンオフされる。
【0056】
熱励振に対する微小空洞の時間的な応答は、これらの微小空洞の光特性を考慮すると無視することはできない(たとえばT.Carmon, L. Yang,およびK.J. Vahalaによる“Dynamical thermal behavior and thermal self-stability of microcavities,”Optics Express, 第12巻, 第20号, 4742-4750ページ, 2004年10月参照)。微小共振器の時間的な応答、したがってスイッチングされた信号の時間的な形状、ならびに励起パルスの幅および間隔への依存について、微小共振器が微小球を含む一部の実施形態に関して以下に定性的に論じる。同様の挙動は、他の実施形態によって他の種類の微小共振器(たとえばマイクロトロイド)で示される。
【0057】
先に引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiに記載されているように、微小球の時間的な応答は2つの熱時定数によって求められる:(i)モード体積の速い時定数τ1(数マイクロ秒のオーダ)、および(ii)微小球全体のより遅い時定数τ2(数十ミリ秒のオーダ)。極めて短い励起パルスがモード体積に発信された場合、モード体積は瞬時に熱せられ、励起パルスがオンの間、モード体積に溜まっている熱はモード体積の外に放散される時間がない。励起パルスが通過した後に、モード体積から熱が流出する。温度上昇が適度であれば,この熱の流れは熱伝導によって主に微小球へ生じ、たとえば自然な熱対流によって周囲の媒体(たとえば空気)へも同様に生じる。τ1はどれだけ速く熱が流出するか、換言するとどれだけ速くモード体積の温度が低下するか、またはスイッチングされた信号がどれだけ速くスイッチングされていない(オフ)状態に戻るかを特徴付ける時定数である。温度が指数関数的に低下する場合、時間t=τ1の後、信号出力はスイッチングされた出力から1/eだけ減少し、2τ1の後には1/e2だけ減少する、等。一部の実施形態では、スイッチングされた信号は、目下の用途において用いられている信号消光比に依存して、3τ1−10τ1の後にスイッチングされていない状態に戻ると考えられる。
【0058】
同様にτ2は、熱源がオフになった後に、熱せられた微小球が(モード体積と対照的に)(たとえば室温T0に)冷却されるのにかかる時間を特徴付ける。一部の実施形態では、自然対流によって周囲の空気に移るのが、唯一の熱損失メカニズムである。微小球に蓄えられた熱の大部分が放出され、微小球の温度が本質的に室温に戻るまでに、典型的にτ2の数倍の時間がかかり得る。
【0059】
このような光スイッチによって生成された、スイッチングされた信号パルスのシーケンスの時間的な形状が、さまざまな実施形態においてこれら2つの時定数に相対して励起パルスの期間および反復率にどのように依存するかを例示するために、3つの異なる励起パルスシーケンスについて以下に論じる。
【0060】
低反復率の短い励起パルスシーケンス
一部の実施形態において、励起パルスシーケンスは2つの特徴を有する:(1)各励起パルスは、励起パルスがオンの間に励起パルスによって生成される熱がモード体積から流出する時間がない程度に十分短い期間τpを有し、かつ(2)次の励起パルスが到達するまでに(たとえば自然対流によって)1励起パルスによって生成される熱のすべてが微小球から放出される時間がある程度に十分低い(パルス間間隔Tpに対応する)反復率を有する。図7に示すように、各励起パルスは微小球にデルタ関数的なインパルスの熱を注入し、モード体積の温度が急激に上昇し、信号が急速にスイッチング状態に移動し、その後励起パルスがオフになった後でスイッチングされていない状態に迅速に戻り、次の励起パルスが到達する前に、完全にスイッチングされていない状態にある。この励起パルスシーケンス構成により、反復率が低いにもかかわらず、スイッチングされた信号パルスについて立上がり時間および立下り時間が可能な限り短くなる。このような励起パルスシーケンス構成を一部の実施形態で用いて、短い時定数τ1の存在および値を実験的に検証する。
【0061】
上述の特徴(1)によれば、励起パルス期間はτ1よりも短くなる。しかし、励起波長λpが共振に合わせられ、かつλpにおける微小球のQ値が高過ぎる場合、励起パルスが完全に吸収されるのにかかる時間はτ1を超過し得る。この場合、単純にこの条件を満たすことができない。一例として、直径D=150マイクロメートルであり、かつ励起波長における品質因子がQp=107であるシリカ微小球(屈折率n=1.44)を考える。励起パルスが微小球を一巡りするのにかかる時間はt0≒2.3ピコ秒であり、励起パルスの励起エネルギのすべてが吸収されるのにかかる時間は、微小球の時定数Qpt0≒23マイクロ秒のオーダである。十分に共振し、かつ十分に吸収させるため、励起パルスは有利に微小球の時定数と同じオーダの期間を有する。したがって、期間τp=23マイクロ秒の励起パルスが微小球に送り込まれる場合、τpはτ1に比べて大きい(典型的に数マイクロ秒)ため、励起パルスによって生成される熱は、励起パルスがオフになる十分前にモード体積から外に移動し始める。このような一部の実施形態では、スイッチングされた信号がスイッチングされていない状態に戻るまでにかかる時間がずっと長いため、スイッチは遅い。一部の実施形態では、この状態を避けるべく十分低くなるようにQpが選択される。
たとえば、Qpがわずか105であれば、励起エネルギのすべてが吸収される時間は約0.23マイクロ秒に短縮される。期間τp=0.23マイクロ秒の励起パルスについては、τpはτ1に対して十分小さく、したがって励起パルスによって生成される熱は、励起パルスがオンの間モード体積に有利に留まる。一部の実施形態では、微小球の表面にSiナノ粒子が存在する結果Qpの値が小さくなり(たとえば103未満または10未満)、たとえ(直径150マイクロメートルの球体について2.3ピコ秒もの短さの)極めて短いパルスが用いられたとしても、特徴(1)が満たされる。
【0062】
上述の特徴(2)により、連続する励起パルス間の時間Tpはτ2よりもずっと長いことになる。実際に特徴(2)を満たすためには、τ2の数倍以上のオーダの値Tpが適当である。
【0063】
図9を参照し、スイッチングされたパルスの立上がり時間は、複雑な方法で励起エネルギの吸収率に依存する。ここで用いるE1は、信号の共振波長を、Δλとして上で規定した1半共振半幅(HWHM)線幅だけ変動させるためにモード体積に蓄積される励起エネルギを指す。ここで用いる限りにおいて、このエネルギ量をスイッチングエネルギEsと称する。他の実施形態では、高い消光比で信号を完全にスイッチングするには、共振を2線幅以上変動させることが必要になり得ることに注意されたい(たとえば、線形および所望の消光度に依存して3〜10線幅のオーダ)。このような一部の実施形態では、信号を完全にスイッチングするのに必要なエネルギは3E1−10E1のオーダである。以下の記載では、フルスイッチングには1線幅の変動を要すると仮定する(すなわちEs=E1)。
【0064】
所与の励起パルスエネルギEpおよび期間τpについて、吸収された励起エネルギがEsに達すると、信号が完全にスイッチングされる。EpがEsより小さい場合、フルスイッチングのためのこの条件に達せず、したがって信号は、励起パルスの終わりに部分的にのみスイッチングされる。スイッチングされた信号の立上がり時間tr(信号が最小またはスイッチングされていない値から最大値にスイッチングされるのにかかる時間として定義される)は、単純にτpに等しい。EpがEsより大きい場合は、パルスエネルギの部分Esが吸収されると、信号は完全にスイッチングされた状態に達する。パルスエネルギEpの部分Esがモード体積によって吸収される時間量は、微小球の時定数Qpt0と比較してτpの値に依存する。ここでt0は励起光子が微小球を一巡りするのにかかる時間である。τp>Qpt0の場合、励起パルスが共振し、パルスを吸収するための時間は(Es/Ep)τpである。τp<Qpt0の場合、励起パルスは完全に共振するほど十分長くは続かず、したがって完全には吸収されない。したがって、励起パルスが極めて短くない限り、Ep≧Esのとき、スイッチングされたパルスの立上がり時間はtr≒(Es/Ep)τpである。
【0065】
一部の実施形態では、EpはEsよりも若干大きく選択される。t=trの後、残りの励起エネルギ(Ep−Es)が吸収され続け、モード体積の温度は上昇し続け、共振波長は変動し続ける。しかし、信号がすでに完全にスイッチングされているため、tr後に生じる追加的な変動はスイッチングされた信号には影響を及ぼさず、残りの励起エネルギは浪費されるだけである。したがってエネルギ効率の観点からすると、一部の実施形態については、スイッチングエネルギに等しい励起エネルギEp=Esを選択するのが最良である。スイッチングされた信号パルスの立上がり時間はtr=τpとなる。
【0066】
一部の実施形態では、励起パルス期間はτ1より短く、Qpt0より長い。D=150マイクロメートルであり、かつQpが小さい例示的な微小球については、Qpt0≒10ピコ秒、τ1≒3マイクロ秒、かつτpは約10ピコ秒から数マイクロ秒の間である。このような一部の実施形態における立上がり時間はτpのオーダである。
【0067】
一部の実施形態では、スイッチングされるパルスの大きさは、エネルギ(またはピーク出力)と励起パルスの期間との組合せによって制御される。図10Aは、ピーク出力は同じであるが3つの異なる幅、すなわちτp/3、2τp/3、およびτpを有する3つの励起パルスの例を示し、すべてτ1よりもずっと短い。ピーク出力Ppは、3つの幅の最大値についてパルスエネルギEp=Ppτpが3E1に等しくなるように選択される。
【0068】
一部の実施形態では、微小共振器はローレンツ共振を有する:
【0069】
【数1】
【0070】
ここでλ0は、スイッチングされていない信号の中心波長である。この定義は、ΔλがHWHMであるという上記の記載に対応する。3つの幅のうちの最大値(τp)については、E1(Ep=3E1)の定義によって、励起パルス(時間t=τp)の終わりには、信号共振は3Δλだけ変動している。したがって式(2)を用いると、スイッチング状態のピークにおける信号伝送は、図10Bに示すようにy(λ)=1−1/(1+32)=0.9である。信号伝送を1に近付くように上昇させるため、一部の実施形態はパルスのピーク出力を増大させるか、またはパルス期間を増大させる。励起パルス幅が2τp/3に減少すると、スイッチングされたパルスは、τpではなく2τp/3で終了すること以外は同じ立上がり端縁を有する。このような実施形態における共振波長の変動は2Δλに過ぎないため、スイッチングされた信号の最大振幅は、図10Bに示すように1−1/(1+22)=0.8に減少する。同様に、3つの励起パルスのうち最短のもの(幅τp/3)については、最大スイッチング信号振幅はより一層小さく、図10Bに示すように1−1/(1+12)=0.5にまで減少する。
【0071】
一部の実施形態において、共振関数の形状は、スイッチングされたパルスの立上がり端縁の形状に影響する(たとえばtが0からτpに増加する際のスイッチングパルスの漸進的な均一化)。共振がローレンツではなくガウスである場合、線形関数は:
【0072】
【数2】
【0073】
であり、係数ln(2)によって、ΔλをHWHM幅とする定義にy(λ)が確実に一致するようになる。励起パルス幅τpについては、スイッチングされた信号の最大振幅は、図10Cに示すように、式(3)によって1−exp(−ln(2)×32)=0.998となる。この振幅は、図10Bに示すように、同じ励起パルス幅でローレンツ共振から得られる振幅よりもずっと1に近い。なぜなら、ガウスの末端はローレンツのものよりも浅いためである。図10Cに示すように、スイッチングされた信号は、ローレンツ共振よりもガウス共振についての方がずっと急峻である。
【0074】
図10Dに示すように、HWHMがΔλである仮定的に矩形の共振線形については、スイッチングされた信号は、ガウスまたはローレンツ共振のいずれよりも、より一層急峻に最大振幅に到達する。実際には、共振がわずかΔλだけ変動したときにこの最大値に達する。矩形の共振線形については、最大振幅を実現するための変動は3ΔλではなくΔλであるため、スイッチングエネルギは係数3だけ減少し、Ep=E1となる。
【0075】
一部の実施形態では、スイッチングされたパルスの立下り時間は、対流によってモード体積から熱が放出されるのにかかる時間によってのみ求められる。したがって、このような一部の実施形態では、立下り時間は熱時定数τ1に単純に等しい。この立下り時間を測定することによって、τ1の値を直接求めることができる。
【0076】
低反復率の長い励起パルス
一部の実施形態において、励起パルスはτ1よりもずっと長く、τ2(たとえば数十ミリ秒以下)よりもずっと長い時間Tp(約200ミリ秒)離間される。Tpは十分長いため、励起パルス間に微小球が室温まで完全に冷却される時間が十分にある。経時による微小球の最終的な熱上昇がないため、以下の記載は1つの励起パルス中の効果に着目する。
【0077】
このような一部の実施形態では、励起パルスは時間t=0において開始され、t=0からt≒τ1まで熱がモード体積に蓄積し、モード体積からあまり遠く離れて移動する時間はない。熱はτ1当たり約1モード体積特徴幅w(たとえば典型的な微小球については1または2ミクロン)の速度で流れるため、t=0からt=τ1の間、熱は約w流れる。しかし、t=τpにおける励起パルスの終わりまでに、モード体積において生成された熱は微小球の大部分に放散される時間がある(たとえばt=2τ1では熱は約2w流れており、このとき熱せられた体積はモード体積よりも著しく大きい)。モード体積からの熱の放散と同時に、より多くの熱がモード体積に注入され、微小球全体の温度が徐々に上昇する。微小球の温度が上昇するにつれて、第2の冷却メカニズムすなわち微小球の表面から空気への自然対流がより効果的になる。微小球の表面の平均温度が高いほど、この第2のメカニズムがより優勢になる。所与の共振線形については、スイッチングされた信号の形状は、励起パルスのエネルギに再び依存する。
【0078】
一例として、図11Aに概略的に示すように、ローレンツ共振と、幅がτp=50τ1であり、かつEp=Ppτp=200E1となるようなピーク出力を有する励起パルスとを考える。スイッチングされた信号の立上がり端縁の始めは、t≒τ1になるまでは図10Bと同じ形状を維持する。t=τ1において、モード体積に蓄積した熱の量は4E1であるため、共振波長は4Δλだけ変動している。ローレンツ共振線形については、信号は94%にてスイッチングされる。当該パルスの間に時間が経つにつれて、励起パルスによって蓄積された熱が、モード体積から微小球の中心に向かって、および周囲の空気に流れる。モード体積の温度は上昇し続けるが、一層ゆっくりとなるため、共振波長は同じく一層ゆっくりλ0から変動し続ける。単に微小球の温度は無限に上昇することができないため、波長の変動は無限に続くことに注意されたい。微小球の表面温度が上昇するにつれて、表面と微小球を取巻く空気との間の温度差に比例する対流によって、単位時間当たりに表面から流出する熱の量も増大する。対流による単位時間当たりの熱の流出が励起パルスからの単位時間当たりの熱の入力に等しい定常状態値Tssに表面温度が達すると、微小球は加熱を停止する。
【0079】
この例示的な実施形態では、スイッチングを誘起するのに有用なパルスエネルギの唯一の部分は約(τ1/τp)Epである。したがって、このような一部の実施形態において信号をできるだけ速くオンオフするために、ほぼτ1の後に励起パルスが有利にオフされる。励起パルスエネルギの残りは、信号をスイッチング状態に維持するのに役立ち、これは一部の用途において有用な特徴である。
【0080】
上記の一部の実施形態では、大きな共振変動(たとえば200線幅のオーダの変動)が誘起されると微小共振器の共振が十分遠く離れると仮定されており、信号は、当該信号をスイッチング状態に維持するような信号波長に移動した他の共振と共振しないことに注意されたい。この仮定が当てはまらない場合、十分大きい変動(たとえば数線幅を上回る変動)の後、信号波長は次の共振波長を通過し、またはその付近に存在し、テーパファイバの出力における信号出力は再び減少する。一部の実施形態において光スイッチは、標準的な周知のインターフェロメトリ公式を用いて設計し、微小共振器の共振の中心波長および幅をモデル化して、光スイッチによって許容できる波長変動域を決定することができる。しかし、これらの中心波長および幅は、限定はしないが形状、寸法、屈折率、および(不均質な場合が多い)屈折率の空間分布を含む、微小共振器構造の一般に測定不可能な物理的細部についての典型的に重要な関数である。これらのパラメータを所要の精度でもって理論的に予測して微小共振器の共振をモデル化することは、非常に困難なおそれがある。このような場合、周知かつ直接的な手法を用いる測定によって微小共振器の共振に関するデータにアクセスする方がより簡単である。
【0081】
図11Aおよび図11Bに示した実施形態と、図10Aおよび図10Bに示した実施形態との主な違いは、図11Aの励起パルスは図10Aのものよりもずっと長いことから、モード体積だけではなく微小球も励起パルスの終わりまでに熱せられる点である。励起パルス(t>τp)後、この熱が微小球から放出されるには、(モード体積のみを熱する)短い励起パルスよりずっと長い時間がかかる。したがって、図11Bに示すように立下り時間はずっと長い。立下り時間の定性的な推定は、微小球からの熱流出についての本格的な計算式を用いて行なうことができる。しかしこのような計算を行なわなくても、励起パルス幅が微小球時定数τ2の数倍に等しい、またはそれより長い実施形態において立下り時間が最も長いことは明白である。このような一部の実施形態では、微小球は、このピーク励起出力について最大可能温度に達する。これは、蓄えられた熱が最大化され、この熱が微小球から完全に放散される時間も最大化されるためである。このような一部の実施形態では、立下り時間がτ1からτ2の間となるように、立下り時間がτ2に近づく。励起パルスが約200ミリ秒(τ2の数倍)間オンである一部の実施形態では、立下り時間はτ2に非常に近い。この記載は上記の30±5ミリ秒という測定された立下り時間を説明するものであり、上記で引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gordetskiの理論に基づいてこの微小球に関して予測された値τ2に近い。
【0082】
図12Aは、τ2よりもずっと短いパルス間間隔Tpを有する一例の励起パルスシーケンスを示す。上記の実施形態とは違い、Tp<<τ2であるため、この実施形態の微小球はパルス間に完全に室温に冷却する十分な時間がなく、時間とともに微小球に熱が蓄積する。その結果、微小球の平均温度が徐々に上昇し、図12Bの一点鎖線曲線に定性的に示すように、モード体積の平均温度も上昇する。図12Bのぎざぎざの曲線は、モード体積の瞬間的な温度上昇を示す。τ2の数倍のオーダの時間の後、微小球の表面温度は定常状態値Tssに達する。この値に関して、空気への対流(または他のいかなる形態の外側コーティングが供給されたとしても、たとえば強制対流、液体中の伝導等)によるパルス間隔Tp当たりの微小球からの熱の流出は、各励起パルスからの熱の入力に等しい。このような状況において微小球は加熱を停止し、その温度は図12Bに示すように安定する。つまり、一点鎖線曲線は漸近的に点線に近づき、微小球の表面の定常状態温度を表わす。
【0083】
図12Bによって示される注目すべき特徴の1つは、ぎざぎざの曲線における連続した個々の温度スパイクの形状である。図12Bをよく考察すると、励起パルス列の開始(t=0)から微小球の温度がTssに達するときの時間まで、この形状が発達していることがわかる。高さおよび立上がり時間は、すべての温度スパイクについてほぼ一定であるが、定常状態に近づくにつれて立下り時間は短くなる。最初のいくつかのパルスでは、微小球の温度は室温からあまりかけ離れて高くなく、図12Bの一点鎖線曲線の高いスロープによって示すように、微小球とモード体積との両方が相当迅速に熱せられるよう対流は無視できる役割を果たす。時間が経つにつれてモード体積の温度が上昇し、対流による冷却がより効率的になり、励起パルスシーケンスの開始時よりも、連続する励起パルス間にモード体積を一層冷却することができることを意味する。したがって、図12Bの連続する温度スパイクの立下り時間は、連続する各励起パルスごとにますます短くなる。最終的に、次の励起パルスが到達する時間までにモード体積の温度が先の励起パルスの開始時の値に戻るような立下り時間となる。この時点で、立下り時間がその定常状態値に維持され、モード体積の温度が各励起パルスの開始時と同じであるような熱定常状態にシステムが達している。
【0084】
一部の実施形態では、時間に対する共振波長のグラフは、図12Bの瞬間的な温度曲線とほぼ同一である。共振波長は、励起パルスがオンのときだけでなく、パルス同士の間においても変動する。最終的に定常状態に達し、各励起パルスによって信号波長は同じ極値間で前後に変動する。
【0085】
一部の実施形態では、この温度(および共振波長)形状は、非常に有用なスイッチングされた信号パターンには一般的には変換されない。t=0の時間に波長λ0にて信号が共振している場合は、モード体積のベースライン温度が上昇するにつれて平均共振波長がλ0から変動する。微小球の平均温度上昇が十分大きければ、定常状態の共振波長がλ0から遠く離れるため、信号は常にスイッチングされた状態となる。一部の実施形態では、この効果は、信号をオン状態またはオフ状態に維持するのに当然用いることができる。一部の実施形態では、モード体積が温度T=Tssにあるとき信号波長を微小球の共振波長に合わせることによって、周期的なスイッチングされた信号パルスを発生させるのに用いることもできる。このような一部の実施形態では、信号波長が周囲温度T0において微小球の共振に合わせられた場合、ずっと高い反復率(パルス間隔Tpはより小さい)にてスイッチを動作させることができる。
【0086】
一部の実施形態において、光スイッチは光ファイバ付きであるため、有利に光ファイバ部材および光ファイバシステムと容易に接続される。一部の実施形態では、光スイッチは極めて小さい(たとえば、直径がわずか50〜200ミクロンの微小球を有する)。一部の実施形態において光スイッチは、非常に小さい励起エネルギを用いて「オフ」状態から「オン」状態に駆動される。一部の実施形態の微小共振器は、信号波長において高いQ値(たとえば105以上のオーダ)を有するため、共振は極めて急激である。1共振線幅以上狭帯域信号波長から離れるように共振を変動させるには、単に屈折率を少し変化させれば十分であることが共振の急激さに寄与する。また、モードが進行するシリカの体積(すなわちモード体積)が非常に小さいため、モード体積の温度とその屈折率とを変化させるのに少量の熱だけで十分であることも、共振の急激さに寄与する。
【0087】
一部の実施形態では、励起パルスが一旦終了すると、熱がモード体積から放散されるのに少ししか時間がかからないように、モード体積が十分に小さい(たとえば、横寸法が信号の波長におよそ等しい)とき、スイッチの立下り時間が有利に速い。一部の実施形態の立上がり時間は、励起パルスの立上がり時間を(たとえば1ナノ秒以下に)短縮することによって短縮され、立下り時間はわずか数マイクロ秒である。一部の実施形態では、微小球は(たとえば冷却空気を微小球の表面に強制的に当てることによって)能動的に冷却され、立下り時間を短くする。一部の実施形態では、スイッチング出力は極めて小さい(たとえば100ナノワット以下のオーダ)。したがって、一部の実施形態のスイッチングエネルギは、10-13ジュールのオーダである。
【0088】
立下り時間および/またはスイッチングエネルギの低減
微小共振器の体積の大部分がパルスの終わりまでに熱せられるようにスイッチが十分長いパルスで励起されるとき、微小共振器スイッチの立下り時間を短縮するために、さまざまな手法がここに記載する実施形態に適合可能である。これらの手法のうちいくつかは、微小共振器の体積を減少させ、したがって熱せられる体積を減少させ、それによって微小共振器の立下り時間を短縮するために、微小共振器(たとえば微小球)の形状を変更することに依拠する。一部の実施形態において、この変更は、光信号をスイッチングするために必要な励起出力の量を減少させるという重要な付加的な利点を有する。
【0089】
一部の実施形態では、微小共振器の質量が有利に減少し、それによって微小共振器が冷却するための時間と光スイッチの立下り時間とが短縮される。このような一部の実施形態では、微小共振器はモード体積(たとえばコア)から離れた、微小球の少なくとも一部分が除去された微小球を含む。微小共振器の材料、ならびに除去された部分の寸法および形状に依存して、限定はしないが、反応性イオンエッチング、化学的エッチング、およびレーザアブレーションを含むさまざまな従来からの手法を用いて除去を行なうことができる。
【0090】
図13Aおよび図13Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ310と、光ファイバ310に光結合された微小共振器320とを有する光スイッチ300の一例の構成の、それぞれ側面図および上面図である。図13Aおよび図13Bに示す構成は、微小球320の頂部を貫通して形成された(たとえば、エッチングまたは穿孔された)孔330を備え、頂部350は、微小球320が取付けられているファイバ支柱360とは反対側の微小球320の端部として定義される。孔330は微小球320の全体は貫通せず、微小球320内のある深さで止まる。孔330の深さおよび直径は、除去された材料の体積を決定し、スイッチの立下り時間およびスイッチングエネルギを決定する。孔330の深さは微小球320の機械的強度に影響するため、この深さは、微小球の構造的な完全性を損なわないように有利に選択される。孔330は、限定はしないが、反応性イオンエッチング、従来のマスク技術と組合せた化学的エッチング、機械的穿孔等を含む複数の標準的な技術によって製造することができる。孔330は、製造しやすい他の形状、またはより優れた機械的強度をもたらしつつほぼ同じ体積の除去を可能にするいずれかの形状(たとえば円錐形の孔)を有し得る。一部の実施形態では、2つ以上の孔330を、異なる位置に、異なる配向および形状で微小球320に穿孔することができる。このような一部の実施形態では、孔330の存在によって信号も励起損失も上昇しないように、孔330は有利に、モード体積に近付き過ぎることはない(いくつかの信号波長内にある)。
【0091】
図14Aおよび図14Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ410と、光ファイバ410に光結合された微小共振器420とを備える光スイッチ400の別の構成例を概略的に示す。図14Aおよび図14Bに示す構成は、微小球420の頂部を除去し、それによって先端が切られた、または頂部が平らな微小球420を作成することを含む。図14Aおよび14Bの微小球420は、図13Aおよび図13Bの微小球について上述したのと同じ技術、ならびに研削および随意に研磨することによって製造することができる。一部の実施形態では、励起および信号の損失に影響しないように、頂部450の幅はあまり大きくない。したがってこのような一部の実施形態では、平らな頂部450は、モード体積の端から約数波長のところよりも離れている。頂部450の幅は、スイッチの立下り時間およびスイッチングエネルギを決定する。他の一部の実施形態では、頂部450は平坦ではない(たとえば湾曲している)。図14Aおよび図14Bのように頂部450が微小球420の赤道に近い一部の実施形態では、微小球の体積の本質的に半分が除去されている。したがってこのような一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの両方がおよそ係数2だけ低減されている。一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの低減は、ファイバ支柱460の存在によっても影響を受ける。ファイバ支柱460は、熱を微小球420から放出させ、それによって立下り時間が短縮されるが、スイッチングエネルギは上昇する。
【0092】
一部の実施形態では、直径がより小さいファイバで形成した微小球で微小共振器を製造することによって、および/または、たとえば化学的エッチングによってファイバを保持する支柱の直径を縮小することによって、微小共振器のスイッチングエネルギを低下させる。このような一部の実施形態は、励起されている間に微小球から流出する損失熱の量を有利に減少させる。同様の理由で、このような一部の実施形態は、スイッチの立下り時間を有利に増大させる。これは、冷却中に微小球から外に移動する熱の経路の1つがあまり効率的でなくなっているためである。支柱の直径の選択には、立下り時間とスイッチングエネルギとの間で折り合いをつけることが必要である。
【0093】
図15Aおよび図15Bは、ここに記載する一部の実施形態に係る、複テーパ光ファイバ510と、光ファイバ510に光結合された微小共振器520とを備えるさらに別の例の光スイッチ500の、それぞれ側面図および上面図である。一部の実施形態では、図15Aおよび図15Bに概略的に示すように、たとえば研削または化学的エッチングによって支柱が完全に除去され、接触面を最小化する他の機械的手段(たとえばボンディング)によって支持物上に微小共振器が保持される。このような一部の実施形態では、接合基板は良好な断熱体(たとえばポリマー)を含み、それによって(立下り時間はより短くなるものの)スイッチングエネルギが低下する。他の一部の実施形態では、接合基板は良好な伝熱材(たとえば金属)を含み、それによって(スイッチングエネルギはより大きくなるものの)立下り時間が短くなる。支柱の除去後、頂部の除去に関して上述したように、微小共振器520の底部(支柱側)を除去することができ、それによって基板に、または直径が小さい支柱を介して基板に再接合することができる薄いディスクを残す。このような一部の実施形態では、図15Aおよび図15Bに概略的に示すように、微小共振器520はマイクロトロイドに似ており、当初の微小球材料の大部分が除去されている。一部の実施形態では、立下り時間およびスイッチングエネルギの両方が、ディスクの厚さに依存して、劇的にたとえば係数10〜100以上だけ低減される。一部の実施形態では、ディスクを伝熱材に密接(たとえば接合)させることができ、スイッチングエネルギを犠牲にして、立下り時間をさらに短縮する。
【0094】
一部の実施形態では、直径がより小さい微小球を微小共振器として用いることによって、スイッチングエネルギおよび立下り時間の両方を低減する。先に引用したV.S. Il'chenkoおよびM.L. Gorodetskiiに記載のように、立下り時間は微小球の体積におおよそ比例する。同様に、スイッチングエネルギは微小球の体積におおよそ比例する。たとえば、150マイクロメートルではなく直径50マイクロメートルの微小球を用いると、立下り時間はおおよそ約30ミリ秒から約3.3ミリ秒に短縮され、スイッチングエネルギは約85ナノジュールから約10ナノジュール未満に低下する。
【0095】
自由搬送波誘起スイッチングメカニズム
一部の実施形態では、光スイッチングの方法は、光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップを備える。当該方法はさらに、光スイッチによって光パルスを受取るステップを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに光スイッチの少なくとも一部分が自由搬送波数の増加とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される。
【0096】
上述のように、一部の実施形態では、微小共振器は、熱誘起された屈折率変化によって光信号に関する周波数または波長が変動する光共振を有する。他の一部の実施形態では、微小共振器の屈折率は、ナノ粒子内に自由搬送波を生成することによって変更される。R.SorefおよびB.R. Bennetによる“Electrooptical Effects in Silicon,”IEEE J. Quantum Electron., QE-23, 123-129ページ(1987年)に記載の経験的な関係によれば、1.5ミクロン付近のバルクSi中の自由搬送波によって、屈折率(Δn)および減衰係数(Δα)において観察される変化が定量化される。
【0097】
【数3】
【0098】
相対的に適度な自由搬送波濃度は、共振を著しく変動させることができる。したがって一部の実施形態では、自由搬送波誘起吸収によって光スイッチングを行なうことができ、これにはシリコンおよび他の半導体ナノ粒子がよく適する。
【0099】
Siナノ粒子がドーピングされた微小球を有する一例の実施形態として、Siナノ粒子は、(周波数υ=6.1×1014Hzに対応する)488ナノメートルの励起波長λにおいて、σA=10-16cm2(10-20cm2)という典型的な吸収断面積を有する。得ることができる典型的なナノ結晶密度はおよそNSi=1019cm-3(1025m-3)であり、蛍光寿命はおよそτ=10マイクロ秒である。(たとえば、F. Priolo他によるMat. Sci. Eng. B, 第81巻, 9ページ(2001年)参照。)したがって吸収深度は小さい(たとえばd1/e=NSiσA=10ミクロン)と予期され、励起の共振の向上は期待されない。
【0100】
単純な準2準位レート方程式モデルを用いると、励振される電子−正孔対の数NExは次から得られる:
【0101】
【数4】
【0102】
ここでφは光子磁束であり、モード面積AMod(およそλ2≒0.5μm2=0.25×10-12m2)および光子エネルギhυで除算した使用出力P=3.4μWに等しい。
【0103】
励振された電子−正孔対の濃度について解くと:
【0104】
【数5】
【0105】
一部の実施形態では、屈折率変化Δnは、熱効果による率変化よりも大きさが2桁大きい。減衰係数の変化Δαは、以下を用いてQ値に変換することができる:
【0106】
【数6】
【0107】
この結果は、自由搬送波の存在によってQが3×105から476に減少し、かつ信号をスイッチングさせることも可能であることを意味する。
【0108】
異なる半導体ナノ粒子は、吸収断面積と励振される搬送波の寿命とが異なる。たとえば、スイッチをより速くするために、直接バンドギャップ半導体ナノ粒子を用いることができ。一部の実施形態では、熱メカニズムおよび自由搬送波メカニズムの両方が、励起パルスと微小共振器のナノ粒子との相互作用に起因する屈折率の変化に寄与する。
【0109】
本発明のさまざまな実施形態を上に記載した。これらの特定の実施形態を参照して本発明を記載したが、記載は発明を例示するためのものであり、限定するものではない。当業者には、添付の請求項に規定した発明の精神および範囲から逸脱することなくさまざまな変更および用途が思い浮かぶであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナノ粒子を含む微小共振器を備え、前記微小共振器は、ある信号波長を有する光信号を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成され、当該信号波長において屈折率変化を経ることによって微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する、光スイッチ。
【請求項2】
微小共振器に光結合され、かつ励起源および信号源に光結合するように構成された光カプラーをさらに備え、光カプラーは、励起源から微小共振器に励起パルスを伝送し、信号源から微小共振器に信号光を伝送する、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項3】
光カプラーは、基板上に形成された光導波路を含む、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項4】
光カプラーは光ファイバを含み、光ファイバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部および第2の端部の間にあり、かつ微小共振器に光結合されたテーパ部分とを有する、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項5】
第1の端部は励起源に光結合するように構成され、第2の端部は信号源に光結合するように構成される、請求項4に記載の光スイッチ。
【請求項6】
光カプラーはプリズムを含む、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項7】
微小共振器はさらに、微小空洞、微小球、微小リング、マイクロディスク、マイクロトロイド、半導体チップ上の導波路共振器、または半導体チップ上のプレーナ型微小共振器を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項8】
微小共振器は、シリカガラス、ドーピングされたシリカ系ガラス、ホウケイ酸ガラス、ZBLANガラス、有機材料、および半導体チップ上のパターニングされたオキシナイトライド膜からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項9】
ドーピングされたシリカ系ガラスは、ゲルマニウムでドーピングされている、請求項8に記載の光スイッチ。
【請求項10】
有機材料はポリメチルメタクリレートを含む、請求項8に記載の光スイッチ。
【請求項11】
ナノ粒子は結晶質である、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項12】
ナノ粒子は半導体材料を含む、請求項11に記載の光スイッチ。
【請求項13】
半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、II−VI族化合物半導体材料、またはIII−V族化合物半導体材料からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項12に記載の光スイッチ。
【請求項14】
II−VI族化合物半導体材料は、CdTe、CdSおよびCdSeからなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項13に記載の光スイッチ。
【請求項15】
III−V族化合物半導体材料はGaAsを含む、請求項13に記載の光スイッチ。
【請求項16】
ナノ粒子は金属材料を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項17】
金属材料は、金、銀、銅、アルミニウムまたは貴金属からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項16に記載の光スイッチ。
【請求項18】
ナノ粒子は、励起波長において強い吸収性を有し、信号波長において無視可能な吸収性を有する、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項19】
微小共振器は、複数のナノ粒子を含有するシリカ層でコーティングしたシリカ微小球を含み、ナノ粒子はシリコンを含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項20】
シリカ層はシリコンリッチシリコン酸化物を含み、シリコンナノ粒子は結晶質である、請求項19に記載の光スイッチ。
【請求項21】
励起パルスに応答して、微小共振器の部分が温度上昇とそれに伴う屈折率変化とを経る、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項22】
光スイッチであって、
複数のナノ粒子を含む微小共振器と、
微小共振器に光結合された光カプラーとを備え、光カプラーは、信号源から信号を受取るように構成された第1の部分と、第1の部分に光結合され、かつ微小共振器に光結合するように構成された第2の部分と、第2の部分に光結合され、かつ第2の部分から受取った信号を伝送するように構成された第3の部分とを有し、光スイッチは、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号を第1の部分から第3の部分に伝送し、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号は第1の部分から第3の部分に伝送しない、光スイッチ。
【請求項23】
シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を含む光スイッチを製造する方法であって、前記方法は、
シリカ光ファイバを設けるステップと、
ファイバの少なくとも一部分を溶融して、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップと、
微小球をシリカ層でコーティングするステップと、
微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップと、
水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップとを備える、方法。
【請求項24】
微小球の直径は約150マイクロメートルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
シリカ層はシリコンリッチシリコン酸化物を含み、ArプラズマによるSiH4および
O2の誘導結合プラズマ促進化学気相成長法を用いて形成される、請求項23に記載の方
法。
【請求項26】
シリカ層を形成しながら微小球が回転される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ナノ結晶を析出させるステップは、微小球を60分間1100℃にてアニーリングするステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
ナノ結晶を不動態化するステップは、形成ガスにおいて60分間650℃までナノ結晶を熱するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
テーパ部分を有する光ファイバを含む光カプラーを設け、テーパ部分を微小球に光結合するステップをさらに備える、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
マルチプレクサをテーパ部分に光結合するステップをさらに備え、マルチプレクサは、励起源に光結合するように構成された第1の部分と、信号源に光結合するように構成された第2の部分と、テーパ部分に光結合された第3の部分とを有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
光スイッチングの方法であって、前記方法は、
光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップと、
光スイッチによって光パルスを受取るステップとを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに微小共振器の少なくとも一部分が温度上昇とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される、方法。
【請求項32】
光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスが光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスは光スイッチから伝送されない、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスは光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスが光スイッチから伝送される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
光スイッチによって光パルスを受取るステップをさらに備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号が光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号は光スイッチから伝送されない、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
光スイッチによって光信号を受取るステップをさらに備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号は光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号が光スイッチから伝送される、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
光スイッチングの方法であって、前記方法は、
光カプラーおよび、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器を含む光スイッチを設けるステップと、
光スイッチによって光パルスを受取るステップとを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには複数の光スイッチの少なくとも一部分が自由搬送波数の増加とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される、方法。
【請求項1】
複数のナノ粒子を含む微小共振器を備え、前記微小共振器は、ある信号波長を有する光信号を受取り、かつある励起波長を有する励起パルスを受取るように構成され、当該信号波長において屈折率変化を経ることによって微小共振器の少なくとも一部分が励起パルスに応答する、光スイッチ。
【請求項2】
微小共振器に光結合され、かつ励起源および信号源に光結合するように構成された光カプラーをさらに備え、光カプラーは、励起源から微小共振器に励起パルスを伝送し、信号源から微小共振器に信号光を伝送する、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項3】
光カプラーは、基板上に形成された光導波路を含む、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項4】
光カプラーは光ファイバを含み、光ファイバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部および第2の端部の間にあり、かつ微小共振器に光結合されたテーパ部分とを有する、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項5】
第1の端部は励起源に光結合するように構成され、第2の端部は信号源に光結合するように構成される、請求項4に記載の光スイッチ。
【請求項6】
光カプラーはプリズムを含む、請求項2に記載の光スイッチ。
【請求項7】
微小共振器はさらに、微小空洞、微小球、微小リング、マイクロディスク、マイクロトロイド、半導体チップ上の導波路共振器、または半導体チップ上のプレーナ型微小共振器を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項8】
微小共振器は、シリカガラス、ドーピングされたシリカ系ガラス、ホウケイ酸ガラス、ZBLANガラス、有機材料、および半導体チップ上のパターニングされたオキシナイトライド膜からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項9】
ドーピングされたシリカ系ガラスは、ゲルマニウムでドーピングされている、請求項8に記載の光スイッチ。
【請求項10】
有機材料はポリメチルメタクリレートを含む、請求項8に記載の光スイッチ。
【請求項11】
ナノ粒子は結晶質である、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項12】
ナノ粒子は半導体材料を含む、請求項11に記載の光スイッチ。
【請求項13】
半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、II−VI族化合物半導体材料、またはIII−V族化合物半導体材料からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項12に記載の光スイッチ。
【請求項14】
II−VI族化合物半導体材料は、CdTe、CdSおよびCdSeからなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項13に記載の光スイッチ。
【請求項15】
III−V族化合物半導体材料はGaAsを含む、請求項13に記載の光スイッチ。
【請求項16】
ナノ粒子は金属材料を含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項17】
金属材料は、金、銀、銅、アルミニウムまたは貴金属からなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項16に記載の光スイッチ。
【請求項18】
ナノ粒子は、励起波長において強い吸収性を有し、信号波長において無視可能な吸収性を有する、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項19】
微小共振器は、複数のナノ粒子を含有するシリカ層でコーティングしたシリカ微小球を含み、ナノ粒子はシリコンを含む、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項20】
シリカ層はシリコンリッチシリコン酸化物を含み、シリコンナノ粒子は結晶質である、請求項19に記載の光スイッチ。
【請求項21】
励起パルスに応答して、微小共振器の部分が温度上昇とそれに伴う屈折率変化とを経る、請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項22】
光スイッチであって、
複数のナノ粒子を含む微小共振器と、
微小共振器に光結合された光カプラーとを備え、光カプラーは、信号源から信号を受取るように構成された第1の部分と、第1の部分に光結合され、かつ微小共振器に光結合するように構成された第2の部分と、第2の部分に光結合され、かつ第2の部分から受取った信号を伝送するように構成された第3の部分とを有し、光スイッチは、所定のしきい値出力よりも信号出力が大きい信号を第1の部分から第3の部分に伝送し、所定のしきい値出力よりも信号出力が小さい信号は第1の部分から第3の部分に伝送しない、光スイッチ。
【請求項23】
シリコンナノ結晶でコーティングした微小球を含む光スイッチを製造する方法であって、前記方法は、
シリカ光ファイバを設けるステップと、
ファイバの少なくとも一部分を溶融して、少なくとも1個のシリカ微小球を形成するステップと、
微小球をシリカ層でコーティングするステップと、
微小球をアニーリングすることによって、シリカ層内にシリコンナノ結晶を析出させるステップと、
水素含有雰囲気において微小球をアニーリングすることによって、ナノ結晶を不動態化するステップとを備える、方法。
【請求項24】
微小球の直径は約150マイクロメートルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
シリカ層はシリコンリッチシリコン酸化物を含み、ArプラズマによるSiH4および
O2の誘導結合プラズマ促進化学気相成長法を用いて形成される、請求項23に記載の方
法。
【請求項26】
シリカ層を形成しながら微小球が回転される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ナノ結晶を析出させるステップは、微小球を60分間1100℃にてアニーリングするステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
ナノ結晶を不動態化するステップは、形成ガスにおいて60分間650℃までナノ結晶を熱するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
テーパ部分を有する光ファイバを含む光カプラーを設け、テーパ部分を微小球に光結合するステップをさらに備える、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
マルチプレクサをテーパ部分に光結合するステップをさらに備え、マルチプレクサは、励起源に光結合するように構成された第1の部分と、信号源に光結合するように構成された第2の部分と、テーパ部分に光結合された第3の部分とを有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
光スイッチングの方法であって、前記方法は、
光カプラーと、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器とを含む光スイッチを設けるステップと、
光スイッチによって光パルスを受取るステップとを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときに微小共振器の少なくとも一部分が温度上昇とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される、方法。
【請求項32】
光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスが光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスは光スイッチから伝送されない、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光パルスは光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光パルスが光スイッチから伝送される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
光スイッチによって光パルスを受取るステップをさらに備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号が光スイッチから伝送され、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号は光スイッチから伝送されない、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
光スイッチによって光信号を受取るステップをさらに備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには光信号は光スイッチから伝送されず、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも小さいときには光信号が光スイッチから伝送される、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
光スイッチングの方法であって、前記方法は、
光カプラーおよび、光カプラーに光結合され、かつ複数のナノ粒子を有する微小共振器を含む光スイッチを設けるステップと、
光スイッチによって光パルスを受取るステップとを備え、光パルスの光出力が所定のしきい値レベルよりも大きいときには複数の光スイッチの少なくとも一部分が自由搬送波数の増加とそれに伴う屈折率変化とを経るように、光パルスの少なくとも一部分が微小共振器のナノ粒子によって吸収される、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【公開番号】特開2012−108562(P2012−108562A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52784(P2012−52784)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−531416(P2008−531416)の分割
【原出願日】平成18年9月18日(2006.9.18)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−531416(P2008−531416)の分割
【原出願日】平成18年9月18日(2006.9.18)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】
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