説明

微小構造体の製造方法およびマイクロリアクター

【課題】
微小構造体の製造方法およびマイクロリアクターに関して、液体同士が接触により比較的短時間に反応や固化する様な液体の組み合わせや、3種類以上の液体を用いて微小構造体を製造する場合において、製造歩留まり良く、所望の粒子径サイズで、かつ粒子径サイズのばらつきが小さい微小構造体を製造する方法を提供する。

【解決手段】
本発明の微小構造体の製造方法は、メイン流路と複数のサブ流路を備えたマイクロリアクターを用いて微小構造体を製造する方法において、
メインの流路に液体を供給する工程と;
メイン流路に出口を有する複数のサブ流路に異なる液体を供給する工程と;
複数のサブ流路の出口からメイン流路に供給される液体が、メイン流体中で実質上交点をもつ方向に供給され、層流状態で接触させる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体の製造方法およびマイクロリアクターに関する。より詳細には、液体同士が接触により比較的短時間に反応・固化する様な液体の組み合わせや、3種類以上の液体を用いて微小構造体を製造する場合においても、所望の粒子径サイズで、かつ粒子径サイズのばらつきが小さい微小構造体を、歩留まり良く、製造する方法、および、そのような微小構造体を容易に製造することが可能なマイクロリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロリアクターやマイクロチャンネルを利用したマイクロ空間の化学反応による研究がさかんに行なわれている。マイクロリアクター及びマイクロチャンネルは、数マイクロメートルから数百マイクロメートルの微細流路を有する微小反応器の総称であり、(1)加熱、冷却速度が速い、(2)流れが層流である、(3)単位体積当りの表面積が大きい、(4)物質の拡散長が短いので反応が迅速に進行するなどの特徴があり、これらを活かして、従来にない高速、高選択性の反応系の構築が可能となっている。
【0003】
マイクロリアクターによって合成される一例として、マイクロメーターオーダーの微粒子やマイクロカプセルは、インクジェットインクやトナー粒子、ディスプレー表示素子など2色ボールなどの色材粒子(色材カプセル)として、また、光拡散剤、ドラックデリバリーシステムや食品、蓄熱材、感圧紙などのマイクロカプセルなど多くの用途があるが、これらは粒子径ばらつきの少ない単分散なものが求められている。
【0004】
マイクロリアクターやマイクロチャンネルを用いた微粒子やマイクロカプセルの合成に関して、「特許文献1」には、微小構造体の製造方法およびマイクロリアクターに関する内容が記載されている。「非特許文献1」には、油中での粒子径57μmから220μmのアルギン酸カルシウムゲルの生成が記載されている。「特許文献2」には、マイクロチャンネルによって、電子ペーパー用の2色分相着色粒子の製造方法が記載されている。
【0005】
「特許文献1」には、第1の流路と第2の流路が3次元的に合流して合流流路を形成し、第1の流路における出口を端部とする少なくとも一部が第2の流路に包囲される構造のマイクロリアクターに関する内容と、第1の流路と第2の流路とが合流する地点で第1の液体と第2の液体とを層流状態で接触させて微小構造体を製造する方法が記載されている。しかしながら、第1の液体と第2の液体とがゲル化剤とゲル化開始剤などの様にお互いが接触すれば、短時間に反応・固化してしまう様な液体の組み合わせの場合には、第1の流路の出口で度々、反応固化した物質により流路閉塞気味になったり、甚だしい場合には流路閉塞に至ってしまう問題点があった。
また、3種類以上の液体を用いて微粒子を合成する場合には、特許文献1で用いられているマイクロリアクターでは対応できないという問題点があった。
【0006】
「非特許文献1」には、アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液をマイクロノズルから別々に油中に押し出し、アルギン酸ナトリウム液滴と塩化カルシウム液滴が反応に寄与しない液体中である連続相流路を流れるうちに合一することにより、アルギン酸カルシウムゲルの生成することが記載されている。しかしながら、マイクロノズルから押し出された液滴群が、確実に1対1の液滴同士で合一しておらず、合一しないものや同種類の液滴が合一したりしており、ゲル粒子径変動係数が予想した様に小さくならないという問題点があった。
【0007】
一方、「特許文献2」には、重合性樹脂成分を含有する2つの着色連続相を第1マイクロチャンネルにそれぞれ別々に導入し、2つの着色連続相を合流・移送し、第1マイクロチャンネル終端部から、第2マイクロチャンネルに流れる流動媒体の球状粒子化相内に着色連続相を順次吐出させて、第2マイクロチャンネルを移送させながら着色吐出物を順次球状化されながら、球状粒子化相中で重合硬化させる2色分相着色球状ポリマー粒子の製造方法が記載されている。しかしながら、2つの着色連続相が第1マイクロチャンネル移送中に、2色の成分が拡散によってその界面を移動する為に2色が混ざりあってしまい、特に2色分相着色球状ポリマー粒子の粒径が小さければ小さいほどその影響は顕著になってしまうという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−14936
【特許文献2】特開2004−197083
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】杉浦慎治ら,「マイクロノズルアレイを用いたアルギン酸カルシウムビーズの粒径制御」, 化学工学シンポジウムシリーズ, Vol.79, Page42-45,(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、複数の液体を接触させて所望の形状を有し、かつサイズのばらつきが小さい微小構造体を、歩留まりよく、かつ、簡便安価に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、メイン流路と複数のサブ流路とが合流する付近で複数のサブ流路液体同士をメイン流路液体中で層流状態で接触させることにより、液-液界面で瞬間的に物理的過程および/または化学的反応を起こさせることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の微小構造体の製造方法は、メイン流路と複数のサブ流路を備えたマイクロリアクターを用いて微小構造体を製造する方法において、
メインの流路に液体を供給する工程と;
メイン流路に出口を有する複数のサブ流路に異なる液体を供給する工程と;
複数のサブ流路の出口からメイン流路に供給される液体が、メイン流体中で実質上交点をもつ方向に供給され、層流状態で接触する工程;
を含むことを特徴とする微小構造体の製造方法。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記層流のレイノズル数は0.01〜200である。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記複数のサブ流路液体の流量それぞれは、上記メイン流路液体の流量より小さい。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記複数のサブ流路の液体は、不連続流体の個別の液滴状態又は液塊状態でそれぞれ接触させる。
【0016】
好ましい実施形態においては、複数のサブ流路の原料液体は、実質的に同期させて脈動的または間欠的にメイン流路に供給される。
【0017】
好ましい実施形態においては、上記メイン流路液体は、上記複数のサブ流路液体とは非相溶性の液体である。
【0018】
本発明の別の局面においては、マイクロリアクターが提供される。本発明のマイクロリアクターは、メイン流路と複数のサブ流路を備えたマイクロリアクターであって、
複数のサブ流路の出口が、メイン流路の側壁又は流路中になるように複数のサブ流路が設置され、かつ、複数のサブ流路の出口からの延長線がメイン流路内において実質上1点で交差するように複数のサブ流路が設置されていることを特徴とするマイクロリアクター。
【0019】
好ましい実施形態においては、本発明のマイクロリアクターは、上記複数のサブ流路の出口の内径が、1μm〜500μmである。
【0020】
好ましい実施形態においては、本発明のマイクロリアクターは、上記複数のサブ流路に上記複数の液体を脈動的に流すためのパルス発生手段が備える。
【0021】
好ましい実施形態においては、本発明のマイクロリアクターは、上記メイン流路中におけるメインの液体の流量と上記複数のサブ流路中における複数の液体の流量とを可変するための流量制御手段を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるマイクロリアクターを用いて、微小構造体を製造させるとサブ流路液体を比較的流量の大きなメイン流路内の液体内で層流状態で接触させることにより、以下のような利点が得られる。:(1)複数のサブ流路に導入する液体の組み合わせが、ゲル化剤とゲル化開始剤の様にお互いが接触すれば、短時間に反応・固化してしまう様な液体の組み合わせで粒子を合成する場合などの様に、混合が進行すると不具合のある液体の組み合わせでも、比較的流量の大きなメイン流路内で初めて接触させるので、詰まりなどの不具合なく、目的の微小構造体を得ることができる;(2)微小空間における液―液界面での反応となるので、非常に安定で精密な反応が実現されるので、得られる微小構造体の均一性に極めて優れる;(3)3種類以上の液体を用いて微粒子を合成することが可能になる。(4)流路および導入液の供給形態、流量を変えることにより、所望のサイズと所望の組成の微小構造体を製造することが可能である;本発明で得られる微小構造体としては、例えば、球状微粒子、異形微粒子、マイクロカプセル、マイクロファイバー、マイクロロットなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好ましい実施形態による製造方法に好ましく用いることができる装置(マイクロリアクター)100の流路方向に沿った概略断面図で、(b)は合流部の断面図である。
【図2】(a)は装置100の上方から見た概略図であり、(b)は図2(a)の合流部付近の部分拡大図である。
【図3】本発明のマイクロリアクターによって微粒子を製造する場合の好ましい実施形態を示す図2(a)の部分拡大図である。
【図4】本発明のマイクロリアクターにおけるパルス発生手段の好ましい実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例2で得られたアルギン酸カルシウム粒子の観察写真である。
【図6】本発明の実施例4のビデオカメラ撮影によるアクリル系ツイストボールの形成過程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
まず、本発明のマイクロリアクターのより好ましい実施の形態を図面によって説明する。
図1(a)は、本発明の好ましい実施形態による製造方法に好ましく用いることができる装置(マイクロリアクター)100の流路方向に沿った概略断面図であり、図1(b)はメイン流路とサブ流路の合流部の断面図である。図2(a)は装置100の上方から見た概略図であり、(b)は図2(a)の合流部付近の拡大図である。10のメイン流路が20の2つのサブ流路の出口部分を包囲しており、メイン流路がサブ流路と3次元的に31の合流点で合流し、30の合流流路に続いている。図3は、本発明のマイクロリアクターによって微粒子を製造する場合の好ましい実施形態を示す図2(a)の部分拡大図である。2つのサブ流路からメイン流路に出てきた40の液滴又は液塊が合流後のメイン流路中の液体中で衝突し、41の液滴又は液塊の合一となっている。
【0025】
1つに実施形態においては、このリアクターの全長Lは、約30mm〜約60mmである。メイン流路の径(流路方向からみた断面形状が実質的に円形の場合)は、20μm〜1500μmであり、より好ましくは50μm〜1000μm、さらに好ましくは150μm〜750μmである。
【0026】
本発明のマイクロリアクターは、サブ流路の出口の内径が好ましくは1μm〜500μm、より好ましくは5μm〜300μm、さらに好ましくは10μm〜150μmである。流路出口の内径は小さい程、小さな液滴又は液塊となってメイン流路内の液体中に吐出され、より小さな粒子が合成され得るが、流路抵抗は流路径の4乗に反比例して大きくなり、圧力損出が大きな問題になってくる。サブ流路の出口の内径が上記範囲内にあることによって、圧力損失の問題を回避しつつ、市場の要望の粒子サイズを合成できる。また、サブ流路出口部分は光造形法にて製作しても良く、任意の適切な材料を嵌め込んだりインサートしたりして形成され得る。好ましくは、エポキシ樹脂、ステンレス、アルミナセラミックス、ニッケル、ガラス、SiO2などで形成され得る。
【0027】
上記サブ流路出口の周壁は、任意の適切な表面処理が施され得る。サブ流路中の原料液体が親水性液体である場合には、好ましくは、撥水処理である。撥水処理に用いられる撥水剤としては、任意の適切な樹脂を含有する撥水剤が採用される。サブ流路中の原料液体が親油性液体である場合には、好ましくは親水剤である。
【0028】
本発明のマイクロリアクターは、好ましくは、上記複数のサブ流路における出口からの延長線上に実質的に交点があり、その交点は合流後のメイン流路内(合流点の下流)に存在してなる。上記構成によれば、各サブ流路からメイン流路に出た液体同士が、空間的に確実に合流後のメイン流路内で接触・合一させることが可能となる。この場合、サブ流路からの液滴または液塊は実質的に大きさを持っており、その大きさも含めて液同士が接触・合一できる範囲であれば良い。また、サブ流路からメイン流路に出た液滴または液塊同士が接触・合一する際にできるだけ、混合させたくない場合には、合流点から接触点までの距離を離し、さらにサブ流路液体の流量を遅くし、衝撃を小さく接触させる。接触・合一する際にできるだけ、混合させたい場合には、合流点から接触点までの距離を近づけ、さらにサブ流路液体の流量を速くし、衝撃を大きく接触または衝突させる。
【0029】
本発明のマイクロリアクターは、例えば、図4に示すように、サブ流路に液体を流脈動的に流すためのパルス発生手段50が設けられている。パルス発生手段50の位置は、サブ流路の途中であればどこでも良く、目的に応じて適宜設計され得る。複数のサブ流路のパルス状の圧力をかけるタイミングと時間を同期させることにより、複数のサブ流路出口からメイン流路に出てきた液滴又は液塊を時間的にタイミング良く接触させることが可能となる。また、パルス波形形状を制御することによって、得られる微小構造体の径や形を制御することが可能になる。パルス状圧力発生手段として、ジュピターコーポレーション製電磁バルブ(品番INKX0514100A)が挙げられる。シリンジポンプで圧力を加えた状態にてバルブ開閉をおこなうことにより、液体にパルス状の圧力を発生させることができる。バルブ開閉の周波数は好ましくは1〜1000Hzであり、より好ましくは1Hz〜50Hzである。
【0030】
本発明のマイクロリアクターは、メイン流路10の液体の流量とサブ流路の液体の流量を可変するための流量制御手段を設けても良い。流量制御手段としては、例えば、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、ギアポンプなどが挙げられる。好ましくはシリンジポンプである。流量制御手段を設けることにより、メイン流路10における液体の流量とサブ流路における液体の流量を可変できるため、得られる微小構造体の径を任意に制御することができる。
【0031】
本発明のマイクロリアクターは、どのような方法で作製しても良いが、容易且つ正確に作製できる等の点で、光造形法により作製することが好ましい。光造形法とは、3次元CADデータで設計された立体像を2次元のスライスデータに変換し、このデータに基づいて、レーザーで一層ずつ光硬化性樹脂を硬化させていき、3次元に積層造形していく方法である。より具体的には、3次元CADデータで設計された立体像を、幾層もの薄い断面体にスライスして2次元のスライスデータに変換し、この2次元のスライスデータに基づいてレーザーがタンク内の光硬化性樹脂の表面を走査して断面形状を描いていく。レーザーが当たった部分は硬化し、エレベーター上に一層分の断面体が形成される。その後、エレベーターが一層分ずつ下降して、連続的に幾層もの薄い断面体を積層し、3次元に積層造形していく。最後にエレベーターを引き上げることで、3次元に積層造形されたモデルを取り出し、後処理を施して完成させる。光造形法に用いることができる光造形装置としては、例えば、株式会社ディーメック製の光造形装置(例えば、SCS−1000HDなど)が挙げられる。光造形法に用いることができる光硬化性樹脂としては、例えば、株式会社ディーメック製の光硬化性樹脂(例えば、JSR製オキセタン系のSCR950など)が挙げられる。レーザーとしては、例えば、He−Cdレーザー(ピーク波長=325nm)が挙げられる。レーザーのスポットサイズは、例えば、φ10〜100μmが好ましく、φ30〜70μmがより好ましい。硬化させて得られる樹脂一層分の厚みは、例えば、10〜50μmが好ましく、20〜40μmがより好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態による微小構造体製造方法は、メイン流路10と複数のサブ流路20を備えたマイクロリアクターを用いて微小構造体を製造する方法において、メインの流路に液体を供給する工程と複数のサブ流路に異なる液体を供給する工程と
前記メイン流路と前記サブ流路の合流する付近において、前記複数のサブ流路に供給された液体を前記メインの液体中において層流状態で接触させる工程を含む。
本発明においては、上記の様な装置を用いることにより、メイン流路の液体およびサブ流路の液体はその合流点31および合流流路30で層流を形成し、複数のサブ流路液体をメイン流路液体中で接触させる。すなわち、本発明においては、複数のサブ流路の液体同士がメイン流路の液体中で、層流状態で接触する。サブ流路の液体は、目的に応じて適宜選択され得る。サブ流路の液体同士をメイン流路の液体中で層流状態で接触させることにより、サブ流路の出口部分の詰まりなどの不具合なく微小構造体を製造することが可能となる。
【0033】
上記層流レイノルズ数は好ましくは0.01〜200であり、さらに好ましくは0.1〜50であり、特に好ましくは0.5〜20である。この様に非常に小さなレイノズル数であれば、非常に安定な層流空間でサブ流路の流量とメイン流路の流量を制御することにより、サブ流路からメイン流路に出てくる液滴又は液塊のサイズを任意に制御し、サブ流路から出てくる液滴又は液塊同士を確実に接触させることが可能となり、従って不具合なく微小構造体が製造され、製造される微小構造体が単分散でそのサイズが制御可能となる。
【0034】
好ましくは、上記複数のサブ流路の流量それぞれは、前記メイン流路の流量より小さい。上記の構成によれば、サブ流路からメイン流路に出てきた液体が互いに接触し、その接触した液体が、流量の大きいメイン流路液体がある為に、合流後のメイン流路の上下左右の壁に接触しにくく、壁による摩擦や微小構造体変形又は合一や流路閉塞などの悪影響を受けにくい。各流路サイズにもよるが、具体的にはメイン流路の流量は、好ましくは10μl/分〜1000μl/分であり、1つのサブ流路の流量は、好ましくは0.5μl/分〜50μl/分である。
【0035】
好ましくは、上記複数のサブ流路の原料液体は、不連続流体の個別の液滴状態又は液塊状態でそれぞれ接触させる。上記の構成によれば、各サブ流路の原料液体が不連続体の個別の液滴状態又は液塊状態で接触させるので、各サブ流路の個別の液体同士を確実に所定比率で接触させることが可能となる。また、サブ流路液体が、メイン流路液体と非相溶性の液構成であれば、(例えば、メイン流路液体が油系溶媒、サブ流路液体が水系溶媒などの様に)接触後合一し、再び不連続体の液滴状態又は液塊状態になり、個別の液滴又は液塊という小さな空間の中での混合、反応が可能となる。
【0036】
好ましくは、複数のサブ流路の原料液体は、実質的に同期させて脈動的または間欠的にメイン流路に供給される。上記の構成によれば、複数のサブ流路からメイン流路に出てくるそれぞれの液体の個別の液滴又は液塊のタイミングと間隔が同じであるので、液体同士を時間的に確実に接触、合一させることができる。厳密には、液滴または液塊はある大きさを持っているので、液滴または液塊同士が接触・合一可能な時間的ズレまでは許容できる。この場合、サブ流路の送液は必ずしも脈動的または間欠的でなくとも良く、例えば、サブ流路内の液体とメイン流路内の液体とが非相溶性の液構成であれば、サブ流路からメイン流路に出てくる液体は、界面張力により脈動的または間欠的になる。また、実質的に同期させる為には、各サブ流路の送液のタイミング(脈動送液や連続流送液であっても送液ポンプがモーターを使用していて微脈動を発生している場合など)を合わせる。また、サブ流路の流路抵抗、サブ流路の液体容量、サブ流路のダンピング容量、サブ流路出口の流路抵抗など液の応答時間が無視できない要因を考慮して、複数のサブ流路出口からメイン流路に出てくる液体が同期される様にポンプや脈動機構などの送液源の駆動信号を調節する。
【0037】
好ましくは、メイン流路液体は、前記複数のサブ流路液体とは非相溶性の液体である。
上記の構成によれば、複数のサブ流路よりメイン流路に出てくる液体は、界面張力により球形又は球形に近い形状の液滴となる。また、層流状態とメイン流からの全方位せん断力により、非常にサイズの揃ったいわゆる単分散の液滴となる。メイン流路液体とサブ流路液体の組み合わせが、相溶性の組み合わせの場合でも良く、この場合にはサブ流路出口形状に近い液塊となる。
また、各流の流速は、液滴又は液塊サイズを任意に制御でき、液滴又は液塊の混合状態も制御することができる。サブ流路の流速とメイン流路の流速比「メイン流速/サブ流速」が大きいとせん断力が相対的に大きく、液滴又は液塊が小さくなり、「メイン流速/サブ流速」が小さいと、せん断力が相対的に弱くなり、液滴又は液塊が大きくなる。混合状態については、「メイン流速/サブ流速」が大きいと液滴又は液塊の接触点が合流後の下流側にずれて、接触時の液滴又は液塊同士の衝撃が少なく、混合されにくいが、「メイン流速/サブ流速」が小さいと、接触時の速度が速くしかも接触点が合流直後であるので、接触時の液滴又は液塊同士の衝撃が大きく、混合されやすい。
【0038】
本発明においては、メイン流路液体および各サブ流路液体の種類を適切に選択し、および/または、メイン流路の液体およびサブ流路の液体の流速を適切に選択し、および/または、適切な化学処理や表面処理をおこなうことにより、球形の微小構造体以外のもカプセル型微小構造体や多孔質の微小構造体を得ることができる。
【0039】
本発明におけるメイン流路液体とサブ流路液体の組み合わせ例として、例えば、1)メイン流路液体が植物性の親油性溶媒、一方のサブ流路液体がポリアニオン溶液、もう一方のサブ流路液体がポリカチオン溶液、2)メイン流路液体が植物性の親油性溶媒、一方のサブ流路液体がケイ酸ナトリウム水溶液と塩酸などのpH調製液、3)メイン流路液体が植物性親油性溶媒、一方のサブ流路液体が塩化金酸溶液、もう一方のサブ流路液体が還元剤などが挙げられる。1)の場合は高分子電解質反応を利用したマイクロカプセル合成の代表例で、2)の場合はゾル-ゲル反応を利用した無機粒子合成の代表例で、3)の場合は液相還元法を利用した貴金属粒子の合成の代表例である。
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、各実施例で得られた粒子の粒子径およびCV値は、以下の示す方法で測定した。
粒子径およびCV
得られた粒子を顕微鏡(キーエンス製)で観察して測長した。
粘度
振動式粘度計(VISCOMATE VM-1G)により測定した。
接触角
接触角計(DM-500、協和科学製)により測定した。
【実施例1】
【0041】
図1〜3 に示すマイクロリアクターについて、光造形装置(株式会社ディーメック製、商品名:SCS−1000HD)を用い、3次元CADデータで設計された立体像
を、幾層もの薄い断面体にスライスして2次元のスライスデータに変換した。タンク内に光硬化性樹脂(株式会社JSR製、商品名:SCR950オキセタン系)とエ
レベーターを入れ、この2次元のスライスデータに基づいてレーザー(He−Cdレーザー、ピーク波長=325nm)をタンク内の光硬化性樹脂の表面に走査 させ、断面形状を描いていった。レーザーのスポットサイズはφ50μm、レーザースキャンピッチはφ30μmであった。レーザーが当たった部分は硬化し、エレベーター上に一層分の断面体(樹脂
一層分の厚み=30μm)が形成された。その後、エレベーターが一層分ずつ下降して、連続的に幾層もの薄い断面体を積層し、3次元に積層造形していった。 最後にエレベーターを引き上げることで、3次元に積層造形されたモデルを取り出し、後処理を施して、図1〜3に示すマイクロリアクターを完成させた。
【実施例2】
【0042】
(アルギン酸ナトリウム水溶液の調製)
イオン交換水99gにアルギン酸ナトリウム1gを少量ずつ加えて撹拌し、1wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。得られたアルギン酸ナトリウム水溶液の粘度は54.3Pa・sであり、流路との接触角は71°であった。
(塩化カルシウム水溶液の調製)
イオン交換水99gに塩化カルシウム1gを少量ずつ加えて撹拌し1wt%(約0.1N)の塩化カルシウム水溶液を調製した。得られた塩化カルシウム水溶液の粘度は2.1Pa・sであり、流路との接触角は75°であった。
(アルギン酸ボールの合成)
マイクロリアクターの片方のサブ流路に上記で得られたアルギン酸ナトリウム水溶液を、もう片方のサブ流路に塩化カルシウム水溶液を、メイン流路に大豆油を流した。大豆油の粘度は55.7Pa・sであり、流路との接触角は、7.8°であった。サブ流路である第1の流路および第2の流路の出口の内径は共に50μmとし、メイン流路の内径は600μmとした。3種の液体は全てシリンジポンプを用いて整流で流し、アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の流量を共に8.3μl/分(流速70.6mm/秒)とし、大豆油の流量を100μl/分(流速5.9mm/秒)として、サブ流路とメイン流路との流量比を1:6(流速比を12:1)とした。合流点付近でアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴と塩化カルシウム水溶液の液滴が接触して合一・反応し、アルギン酸カルシウム粒子を得た。得られたアルギン酸カルシウム粒子の平均径は105.5μmで変動係数(CV)は、3.7%であった。
【実施例3】
【0043】
(アルギン酸ボールの合成)
アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の流量を共に20.8μl/分(流速176.8mm/秒)とし、大豆油の流量を100μl/分(流速5.9mm/秒)として、サブ流路の第1および第2の流路とメイン流路との流量比を1:2.4(流速比を30:1)としたこと以外は実施例2と同様にしてアルギン酸カルシウム粒子を得た。得られたアルギン酸カルシウムの平均径は145.3μmで変動係数(CV)は、3.2%であった。
【実施例4】
【0044】
(熱硬化性アクリルモノマー液の調製)
ACMO(興人社製)100重量部に蒸留水100重量部を添加し、さらに熱重合開始剤2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロクロリド(V−50)(Wako純薬社製)を3重量部、架橋剤エチレングリコールジグリシジルエーテル(東京化成社製)を10重量部添加して熱硬化性アクリルモノマー液を調製した。得られたモノマー液の粘度は3.58Pa・sであり、流路との接触角は50.3°であった。
得られたモノマー液にAllura Red(赤色40号)を2重量部添加することにより赤色モノマー液を、Acid Blue 9(青色1号)を2重量部添加することにより青色モノマー液をそれぞれ調製した。
(大豆油溶液の調製)
大豆油99gにソルビタンモノオレエート(Span80)を1g添加して撹拌し、大豆油溶液を調製した。得られた大豆油溶液の粘度は59.3Pa・sであり、流路との接触角は7.5°であった。
(アクリル系2色ボールの合成)
マイクロリアクターのサブ流路第1の流路に上記で調製した赤色モノマー液を、サブ流路第2の流路に青色モノマー液を、メイン流路に大豆油溶液をそれぞれ流した。サブ流路の第1の流路および第2の流路の出口の内径は50μmとし、メイン流路の内径は600μmとした。3種の液体は全てシリンジポンプを用いて整流的に流した。2色のモノマー液の流量を共に8.3μl/分(流速70.6mm/秒)とし、大豆油溶液の流量を100μl/分(流速5.9mm/秒)として、サブ流路第1および第2の流路とメイン流路との流量比を1:6(流速比を12:1)とした。3液の合流点で赤色と青色の液滴が接触し、ツイスト状の液滴を得た。この液滴をマイクロリアクターの出口で90℃に熱した上記で得られた大豆油溶液の入った容器に回収し、弱く撹拌しながら重合させ、アクリル系ツイストボールを得た。得られたアクリル系ツイストボールの平均径は168μmで変動係数は4.9%であった。
【実施例5】
【0045】
(アクリル系2色ボールの合成)
サブ流路の第1の流路および第2の流路の出口の内径は40μmとし、2色のモノマー液の流量を4.1μl/分(流速35.3mm/秒)とし、大豆油溶液の流量を400μl/分(流速23.6mm/秒)として、サブ流路第1および第2の流路とメイン流路との流量比を1:12(流速比を3:2)とした事以外は実施例3と同様にしてアクリル系ツイストボールを得た。得られたアクリル系ツイストボールの平均径は70.6μmで変動係数は6.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法は、非常に安全であり、かつ、高精度であるので、各種の化学産業に広範囲に利用され得る。
【符号の説明】
【0047】
100 マイクロリアクター
10 メイン流路
20 サブ流路
30 合流流路
31 合流点
40 サブ流路液の液滴又は液塊の接触・合一
50 パルス発生手段
101 メイン流路への供給口
102 サブ流路への供給口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン流路と複数のサブ流路を備えたマイクロリアクターを用いて微小構造体を製造する方法において、メインの流路に液体を供給する工程と;
メイン流路に出口を有する複数のサブ流路に異なる液体を供給する工程と;
複数のサブ流路の出口からメイン流路に供給される液体が、メイン流体中で実質上交点をもつ方向に供給され、層流状態で接触する工程;
を含むことを特徴とする微小構造体の製造方法。
【請求項2】
前記層流のレイノルズ数が0.01〜200である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数のサブ流路液体の流量それぞれは、前記メイン流路液体の流量より小さい請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複数のサブ流路の液体は、不連続流体の個別の液滴状態又は液塊状態でそれぞれ接触させる、請求項1から3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記複数のサブ流路の液体は、実質的に同期させて脈動的または間欠的に前記メイン流路に供給される、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記メイン流路液体は、前記複数のサブ流路液体とは非相溶性液体である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
メイン流路と複数のサブ流路を備えたマイクロリアクターであって、
複数のサブ流路の出口が、メイン流路の側壁又は流路中になるように複数のサブ流路が設置され、かつ、複数のサブ流路の出口からの延長線がメイン流路内において実質上1点で交差するように複数のサブ流路が設置されていることを特徴とするマイクロリアクター。
【請求項8】
前記複数のサブ流路の出口の内径が、1μm〜500μmである、請求項7に記載のマイクロリアクター。
【請求項9】
前記複数のサブ流路に前記複数の液体を脈動的に流すためのパルス発生手段が備える、請求項7又は8に記載のマイクロリアクター。
【請求項10】
前記メイン流路中における液体の流量と前記複数のサブ流路中における複数の液体の流量を可変するための流量制御手段を備える、請求項7から9までのいずれかに記載のマイクロリアクター。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−20004(P2011−20004A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164387(P2009−164387)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】