説明

微小気泡を含有する液体組成物で細胞変化を促進する装置、微小気泡を含有する液体組成物で細胞変化を促進する方法。

【課題】(1)細胞培養・細胞増殖のさらなる大量高速化、(2)「piPS細胞技術」によるiPS細胞の実用的な大量取得(量産)を実現する。
【解決手段】培養液にマイクロバブラーで気体バブリングさせた組成物を用いて種々の細胞に好適なマイクロバブルの懸濁状態を形成し、さらに、対象細胞について、該細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度をあらかじめ実験的に決定し、かかる実験的に決定された複数の物質の取込み安さに応じた気体成分とその濃度について、物質取込みがたやすい順、あるいは、物質取込みが難しい順で時間経過とともに順次個別に気体成分指令を出す工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として細胞膜に刺激を与え、かかる細胞を利用する者にとって有効な変化、を細胞に醸成促進させる組成物とその醸成促進の実用的な方法と装置に関する。
【0002】
以上の記述は、やや漠然としているが、「有効な変化を細胞に醸成促進」を「細胞培養の促進」「細胞増殖の促進」あるいは対象細胞の「iPS化の促進」に置換すれば、その意味は明確になるだろう。
【0003】
一方、いわゆる「マイクロバブル」には通常の気泡とは異なった性質がある、とされている。この「マイクロバブル」には、低濃度タイプ:直径が30μm 付近に分布のピークがあり、気泡濃度としては数百個/mL 程度で、見た目は水が少し曇った状態のものがある。また、および、「マイクロバブル」には、高濃度タイプ:10μm 付近に気泡分布のピークがあり、気泡個数は数千個/mL 以上。見た目は牛乳のような状態のものもある。
【0004】
本発明の組成物には、この「マイクロバブル」が含有され、かかる気泡が細胞膜に刺激を与え、細胞膜での物質取り込み(エンドサイト−シス)を促進し、その結果として、(1)細胞培養に要する時間短縮し、たとえば(2)通常細胞iPS化のための物質取り込みを促進し、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)獲得歩留まり向上、その他の、おもにバイオテクノロジー分野の産業上有効な効果を得るためのものである。
【0005】
ここで、前記の「マイクロバブル」2種:低濃度タイプ(30μm)、高濃度タイプ(10μm)による経験的差異は、概して、高濃度タイプ(10μm)の与える種々の効果の方が、低濃度タイプ(30μm)のそれよりもはるかに大きいということである。
【0006】
ゆえに本発明の実施の際も同様であり、高濃度タイプ(10μm)にて実施するのがよりよい効果を与える。
【0007】
高濃度タイプ(10μm)マイクロバブルを生成する技術は、たとえば、特許文献6に記載されている。それに対し、低濃度タイプ(30μm)あるいは、さらにバブル径が大きな低級(ミリスケール)タイプの技術が特許文献7および特許文献8に記載されている。
【0008】
特許文献7および特許文献8には、本発明と同じコンセプトである「微細気泡による細胞培養」の記述が散見されるものの、バブル径が本発明のものよりはるかに大きいこと、エンドサイトーシスなどの用語で細胞膜に対する明確な現象把握をなしえていないこと、の2点から本発明の特許性を損なうものではない。
【0009】
細胞培養は、実験研究および実用的細胞量産にて無数の実施態様がある。数例を厳選して挙げるなら、あとで述べるiPS細胞研究のための皮膚細胞の培養、味噌・醤油・酒その他に多種かつ大量の実用用途がある酵母の培養が挙げられる。
【0010】
かかる細胞培養においては、いかにして細胞に、栄養分および酸素等のエネルギー獲得に要する分子を、多量、かつ、迅速に取込ませるか、が必要条件である。ここで、細胞の物質取り込みを「エンドサイトーシス」という用語で記載することにする。
【0011】
市販の培養液は、おおまかな対象細胞群ごとに個別商品化されている。これらは多くの試行錯誤から、その対象細胞の細胞膜におけるエンドサイトーシスが頻繁かつ迅速に起こるものをスクリーニングして得られた組成物である。
【0012】
しかし、エンドサイトーシスの条件は細胞によって大きく異なる。おおまかな対象群ごとに最小公倍数的にブレンドされた市販培養液は、個別の対象細胞ごとに、こまかなチューニングが必要だろう。このチューニングは、通常行われている、温度や圧力、水素イオン濃度、生物学的・化学的酸素要求量といった培養液の液相としての環境条件の最適化を当然ながら含む。
【0013】
しかしながら、培養液そのもの、の最適化を意図したチューニングは、適切な方法論(技術)がなく、費用対効果が不明であることから、実施されることはほとんどなかった。
【0014】
とりわけ、実際の培養対象細胞は無限にあるので、市販培養液と理想的培養環境(養分を含む)とは、小さからぬ乖離があった。それにもかかわらず、せいぜい実施されているのは、前記の培養液の液相としての環境条件の最適化のみであった。
【0015】
たとえば、ある酵母が通常の培養条件よりもやや多目、すなわち、高濃度の酸素下のほうが好ましい、と推察されていても、酸素圧を上げる設備は高価であるし、簡便な低級(ミリスケール)タイプの酸素バブリングでは、酸素濃度不均一;一部では貧酸素、一部では必要以上に豊酸素となってしまって望む効果が得られていなかった。
【0016】
こういった細胞培養環境の理想からの乖離は、迅速性を要する実験研究の大きなネックであり、細胞培養に費やされるバイオ系実験のヘッドロスタイムは大きいまま放置されている。本発明は、この問題を解決する適切な方法論を提供する。
【0017】
一方、受精卵をもちいないので倫理的が問題がないiPS細胞(誘導多能性幹細胞)の再生医療上における重要性はいうまでもない。皮膚など増殖旺盛な通常細胞、その他の細胞をもちいてiPS細胞を得る実験的な試みがなされている。(前記のごとく、ここでも皮膚細胞等の大量かつ高速な培養増殖のニーズがある。)
iPS細胞の獲得について、特許文献1から特許文献5の、いわゆる「山中iPS技術」が開示されている。この技術は、通常細胞のiPS化のため、4つの遺伝子(Oct3/4・Sox2・Klf4・c−Myc)を用いる。これらは発見者の名を取り「山中因子 (Yamanaka factors)」とも呼ばれている。
【0018】
しかしながら、iPS化のための遺伝子が通常細胞の染色体DNAに組み込まれるため、かかる染色体が体内に湧出し、他の細胞をがん化させる危険性がある。
【0019】
その問題を解決すべく、非特許文献1および非特許文献2が発表された。前者は、遺伝子を用いずにiPS細胞を樹立した、つまり、遺伝子ではない合成化合物によるiPS細胞樹立の研究で注目されたスクリプス研究所のSheng Dingらのグループの成果である。
【0020】
すなわち、遺伝子を用いない、安全かつ効率的な「蛋白質によるiPS化」の技術であって、この技術は、山中因子遺伝子がコードする蛋白質(リコンビナント蛋白質)をもちいる、ということがアイデアの核心である。
【0021】
非特許文献1の論文筆者ら、は、protein−induced pluripotent stem cells (piPS細胞)の技術と命名した。
【0022】
しかしながら、この「piPS細胞の技術」でも、かかる蛋白質が核内になかなか取り込まれない、という別の問題をかかえている。
【0023】
現在の公開情報から、山中因子遺伝子では、通常細胞100個に1個、piPS細胞の技術では、1000個に1個のiPS細胞が得られている。ゆえにいまのところ、「山中iPS技術」の遺伝子法が10:1で、蛋白質によるiPS化法(piPS法)に対して優位である。
【0024】
とはいえ、山中iPSの遺伝子法には、前述の癌化の致命的欠点があるので、蛋白質によるiPS化(piPS法)にて、核内への蛋白取込を1000個に1個から向上させれば、実用においてpiPS法がきわめて優位となる。よってこの蛋白取込みを促進する技術が求められている。
【0025】
こういった問題点を認識した本発明者は、特許文献9から特許文献12の発明を出願している。これらは、マイクロバブルによって培養液の液相としての気相環境をコントロールして、従来できなかった細胞個別に特徴的な増殖しやすさの気相環境、あるいは、細胞個別に特徴的な外部物質の取込みやすさ(エンドサイトーシスの促進)の気相環境、あるいは、気相環境のコントロールで、従来なしえなかった酵母など単細胞の増殖とエタノールなどの産生をコントロールする、という画期的な技術である。
【0026】
特許文献9から特許文献12の発明のうち、特許文献10から特許文献12の発明は、装置や制御システムとしての発明であって、本発明と直接的関わりは薄い。一方、特許文献9に、本発明と同様のコンセプトが記載されている。
【0027】
しかしながら、特許文献9では、たとえば、山中ファクターやこれから誘導されるリコンビナント蛋白が複数(4つ)であることを十分に意識した発明にはなっていない。
【0028】
イメージアップのために、図1に、一般に所望の細胞変化を期待する対象細胞Cに対象細胞自身の変化を促進するのに要する4つの物質を取込ませて所望の細胞変化をなしたCXを得ることの模式図を、図2により具体的な例として、iPS細胞化を期待する皮膚細胞CYにiPS細胞化を誘導促進するのに要する4つの山中ファクターそれぞれにて誘導された4つのリコンビナント蛋白質を取込ませてiPS細胞化をなしたCZを得ることの模式図を示す。
【0029】
特に山中ファクターの「Oct3/4」から誘導されたリコンビナント蛋白質は分子量が相対的に大きく、細胞への取込みが難しい、ということが知られている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0030】
本発明は、上記の例のごとく複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する、という必要性に対応した実用技術を提案するものである。
【特許文献1】再公表07−69666号公報「核初期化因子」 国立大学法人京都大学
【特許文献2】特開2009−165478号公報「誘導多能性幹細胞の製造方法」国立大学法人京都大学
【特許文献3】特開2009−165479号公報「誘導多能性幹細胞を製造するための核初期化因子の使用」国立大学法人京都大学
【特許文献4】特開2009−165480号公報「誘導多能性幹細胞およびその製造方法」国立大学法人京都大学
【特許文献5】特開2009−165481号公報「誘導多能性幹細胞からの体細胞の製造方法」国立大学法人京都大学
【特許文献6】特許第3620797号公報「微細気泡発生装置」アイピーエムエス
【特許文献7】特許第2762372号公報「微細気泡発生装置」小松製作所
【特許文献8】特公平5-60353号公報「液中通気による培養方法及び培養装置」日立製作所
【特許文献9】特願2009−234683「細胞変化を促進する微小気泡含有組成物、およびその微小気泡含有組成物を製造する装置、ならびに微小気泡含有組成物を用いた細胞変化促進方法」丸井智敬
【特許文献10】特願2009−243940「微小気泡含有組成物、および、微小気泡発生器」丸井智敬
【特許文献11】特願2009−249900「液体中に微小気泡を発生させる装置」丸井智敬
【特許文献12】特願2009−265832「液体中に微小気泡を生成して液体を発熱させる装置および方法」丸井智敬
【非特許文献1】Hongyan Zhou et.al 「Generation of iPS-Cell Using Recombinant Proteins」Cell Stem Cell 4, May 8, 2009
【非特許文献2】Dohoon Kim et.al「Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cells by Direct Delivery of Reprogramming Proteins」Cell Stem Cell 4, June 5, 2009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明の課題は、複数の物質を細胞が取込ますことで細胞変化を促進する、という必要性に対応した実用技術を提案するもので、とりわけ、取込み物質が複数であるケースに対応した技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、同じ発明者による特許文献9の発明において、複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する、という必要性に対応するため、より実用的な方法と装置を提案するものであって、たとえば、山中ファクターの「Oct3/4」から誘導された「リコンビナント蛋白質」に分子量が大きいものがあって、その細胞への取込みが難しい、という問題について対策を講じた。
【0033】
すなわち、こういった取込みにくい物質にて、その物質の取込みにくさに応じた特別な微小泡の気相成分と濃度の条件、取込ませたい物質の取込みを誘引する物質の追加、取込みにくさに応じた特別な温度・圧力・水素イオン濃度・生物学/化学的酸素要求量といった条件を、対象細胞に与える個別なタイムピリオドを設ける、ということである。
【0034】
取込みやすい物質については、上記の取込みにくい物質とは別のタイムピリオドとする。このことで、たとえば、山中ファクターの「Oct3/4」から誘導されたリコンビナント蛋白質を取込まれた細胞群のみを抽出して、これらに取込みやすい物質を取込ませる、というストラテジィ、あるいは、先に取込みやすい物質を取込ませてから、取込みにくい物質とは別のタイムピリオドで、取込みにくい「Oct3/4」から誘導されたリコンビナント蛋白質取込みを行わせる、というストラテジィがとれる。
【0035】
ここで、取込み物質に個別の取込み促進条件は、あらかじめ実験的に決定すればよい。
【0036】
すなわち(請求項7)、微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する方法であって、対象細胞について、該細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度をあらかじめ実験的に決定する工程、および、かかる実験的に決定された複数の物質の取込み安さに応じた気体成分とその濃度について、物質取込みがたやすい順、あるいは、物質取込みが難しい順で時間経過とともに順次個別に気体成分指令を出す工程を有する方法である。
【0037】
また、たとえば、山中ファクターの「Oct3/4」以外の遺伝子から誘導された3種類のリコンビナント蛋白質は分子量が比較的小さいので、3種類についてほぼ同様の大きく変わらない条件でも取込み可能であって、これらを平均値などで代表させて3種類を一気に取込ませてもよく、そのほうが実用的である。
【0038】
すなわち(請求項8)、複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度が類似である2つ以上の物質については、該2つ以上の類似の成分・濃度を代表する成分・濃度の指令を出す工程を行う、としてもよい。
【0039】
次に、この方法を実施する装置について説明する。まず、理解を助けるための模式図である図3は、本発明の請求項1の吸引気体成分と濃度、請求項2の促進物質供給量と濃度、請求項3の環境温度・圧力等の調整制御の目標値を時系列(タイムピリオドの連続グラフで示した模式図である。ただし、水素イオン濃度については温度や圧力と模式的に同様なので省略した。
【0040】
本発明の装置は(請求項1、図4参照)、気体吸引手段と液体吸引手段と液体吐出手段が接続された渦流ポンプと吐出ノズルを具備し、前記気体吸引手段で気体を吸引しつつ、前記液体吸引手段で液体槽の液体を吸引して該液体槽の液体中に前記吐出ノズルから微小気泡を吐出してなる微小気泡を含有する液体組成物によって、複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置であって、該微小気泡は、少なくともその粒径が30μm以下のマイクロバブルを含み、前記気体吸引手段の上流に吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段、および、前記吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段に、該気体成分とその濃度の調整制御目標指令を出す気体成分・濃度調整制御目標指令の出力手段、を具備し、かかる気体成分とその濃度の調整制御目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の気体成分・濃度の調整制御目標指令であり、かつまた、かかる気体成分とその濃度の調整制御目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力される、という構成の装置である。
【0041】
また、発明の装置は(請求項2)、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する生体物質または化学物質を供給し、その生体物質または化学物質の濃度を制御する促進物質供給・濃度制御手段、および、前記生体物質または化学物質の濃度を制御する促進物質供給・濃度制御手段に、該生体物質または化学物質を供給し濃度を調整制御する目標指令を出す生体物質または化学物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令の出力手段、を兼備し、かかる促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令であり、かつまた、かかる促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力される、といった構成をもつことが好ましい。
【0042】
また、発明の装置は(請求項3)、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する液体槽の環境を調整制御する手段、および、前記液体槽の環境を調整制御する手段に、促進環境の調整制御目標指令を出す液体槽環境調整制御目標指令の出力手段、を兼備し、かかる液体槽環境調整制御目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の液体槽環境調整制御目標指令であり、かつまた、かかる液体槽環境調整制御目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力される、といった構成をもつことが好ましい。
【0043】
また、より具体的に(請求項4)、請求項1の、気体成分・濃度調整制御手段が調整制御する吸引気体の成分と濃度は、酸素(O2)、および/または、窒素(N2)、および/または、二酸化炭素(CO2)の成分とそれらの濃度である。
【0044】
同様に具体的に(請求項5)、請求項2の、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する生体物質または化学物質は、対象細胞の自然生育環境に存在する物質、および/または、対象細胞中の生体反応に寄与する物質、および/または、生体内産生物質である。
【0045】
ここにおいて、対象細胞の自然生育環境に存在する物質・対象細胞中の生体反応に寄与する物質・生体内産生物質を例示すると、遺伝子・酵素・補酵素・助酵素および遺伝子によって生合成されるリコンビナント蛋白質およびアミノ酸・ぺプチド・糖鎖などが挙げられ、これらによってなるホルモンやフェロモン、NGF(神経細胞増殖因子)等も含まれる。
【0046】
また、具体的に(請求項6)、請求項3の、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進させられる環境条件が、液体組成物の温度、および/または、圧力、および/または、水素イオン濃度、および/または、生物学的ないしは化学的酸素必要量、である。
【0047】
ここで、図4とともに理解を助けるための模式図である図5を参照して補足する。図5は、1000細胞の単位の大量自動処理をイメージした装置模式図である。
【0048】
ここで、Q1が図4の構成の装置ブロックであって、請求項1が記載するところの微小泡を含む液体(細胞培養液)の供給源である。請求項3が記載するところの温度等の環境もコントロールされていることを示す。
【0049】
Q2は請求項1が記載するところの、対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質、たとえばF1からF4を個別に供給する供給手段である。
【0050】
Q3は、Q1のうち、請求項3が記載するところの温度等の環境コントロール部分を点線で囲んだもので、Q4は、Q1のうち、請求項4が記載するところの酸素(O2)、および/または、窒素(N2)、および/または、二酸化炭素(CO2)の供給部分を一点鎖線で囲んだものである。Q5は、複数の対象細胞の培養セルを有する自動培養容器である。
【0051】
図5で、請求項1の「複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力される」、あるいは、請求項7の「・・順で時間経過とともに順次個別に気体成分指令を出す工程」を図5右下の複数のQ5で表現した。これら複数のQ5は同じもので、時間ピリオドが異なる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によって、(1)細胞培養・細胞増殖のさらなる大量高速化、(2)「piPS細胞)技術」すなわち「蛋白によるiPS化」法において、かかる蛋白質の核内取込み率を向上させiPS細胞の実用的な大量取得(量産)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】所望の細胞変化を期待する対象細胞Cに対象細胞自身の変化を促進するのに要する4つの物質を取込ませて所望の細胞変化をなしたCXを得ることの模式図。
【図2】iPS細胞化を期待する皮膚細胞CYにiPS細胞化を誘導促進するのに要する4つの山中ファクターそれぞれにて誘導された4つのリコンビナント蛋白質を取込ませてiPS細胞化をなしたCZを得ることの模式図。
【図3】本発明の請求項1の吸引気体成分と濃度、請求項2の促進物質供給量と濃度、請求項3の環境温度・圧力等の調整制御の目標値を時系列で示した模式図である。水素イオン濃度については温度や圧力と模式的に同様なので省略した。
【図4】本案明の装置にて、Q2の手段を除いた装置構成の例図である。請求項との関係は図5を参照のこと。
【図5】本発明の装置の構成例図。Q1からQ5の意味するものは、符号の説明の欄を参照すること。請求項1の「複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力される」、あるいは、請求項7の「・・順で時間経過とともに順次個別に気体成分指令を出す工程」を図5右下の複数のQ5で表現した。これら複数のQ5は同じもので、時間ピリオドが異なる。
【符号の説明】
【0054】
2 細胞変化促進物質 F1からF4、FY1からFY4の例を一般的に代表する。
【0055】
3 本発明の細胞変化促進物質を混入した微小気泡含有細胞培養用組成物
4 気体吸引手段
10 微小気泡発生器
11 複数の気体供給手段(のひとつ)
12 吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段
12A 吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段12に、気体成分とその濃度の調整制御目標指令を出す気体成分・濃度調整制御目標指令の出力手段。
13 成分・濃度を調整制御された吸引気体の供給手段
14 10の液体吸引手段(の先端部分)
15 10の液体吐出手段(の先端部分)
16 気体吸引手段と液体吸引手段と液体吐出手段が接続された渦流ポンプを内蔵した筐体
17 濁度を透過光または散乱光測定方式で測定する濁度センサー
18 液体槽(細胞培養液容器)
18A 液体槽(細胞培養液容器)の温度・圧力・水素イオン濃度・生物学的/化学的酸素要求量等の環境の制御手段
30 液体槽の環境を調整制御する手段18Aに、促進環境の調整制御目標指令を出す液体槽環境調整制御目標指令の出力手段31 対象細胞について、該細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度をあらかじめ実験的に決定する工程によって得られたデータ(請求項7)を、30のリクエストに応じて与えるデータベース、および、該細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する液体槽の環境のデータをあらかじめ実験的に決定する工程(請求項煩雑故にたてず)によって得られたデータを、30のリクエストに応じて与えるデータベース。
C 所望の細胞変化を期待する対象細胞
CC CまたはCYの細胞核
CX 所望の細胞変化をなした対象細胞
CY iPS細胞化を期待する皮膚細胞
CZ iPS細胞化した皮膚細胞
F1 対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質の第1
F2 対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質の第2
F3 対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質の第3
F4 対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質の第4
FY1 iPS細胞化を期待する皮膚細胞自身の変化を促進するのに要する山中ファクターOct3/4にて誘導されたリコンビナント蛋白質
FY2 iPS細胞化を期待する皮膚細胞自身の変化を促進するのに要する山中ファクターSox2にて誘導されたリコンビナント蛋白質
FY3 iPS細胞化を期待する皮膚細胞自身の変化を促進するのに要する山中ファクターKlf4にて誘導されたリコンビナント蛋白質
FY4 iPS細胞化を期待する皮膚細胞自身の変化を促進するのに要する山中ファクターc−Mycにて誘導されたリコンビナント蛋白質
L1 対象細胞自身の変化を促進する操作を実施する液体槽の温度(取込み安さを促進させられる環境条件)の変化を模式的に示すライン
L2 対象細胞自身の変化を促進する操作を実施する液体槽の圧力(取込み安さを促進させられる環境条件)の変化を模式的に示すライン
L3 対象細胞自身の変化を促進する操作を実施する液体槽の水素イオン濃度(取込み安さを促進させられる環境条件)の変化を模式的に示すライン
L4 対象細胞自身の変化を促進する操作を実施する液体槽の生物学的ないしは化学的酸素必要量(取込み安さを促進させられる環境条件)の変化を模式的に示すライン
P0 標準状態の吸引気体成分とその濃度における微小気泡は吐出され、かつまた、液体槽が標準環境の温度・圧力・水素イオン濃度・生物学的ないしは化学的酸素必要量であるタイムピリオド
P1 P0からP2への吸引気体成分とその濃度の変化、かつまた、P0からP2への液体槽温度・圧力・水素イオン濃度・生物学的ないしは化学的酸素必要量となる変化が、対象細胞にバイオロジカルショックを与えないよう、なだらかな変化となすために要するタイムピリオド
P2 あらかじめ実験的に決定する工程で決定された、対象細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質のうち第1の物質を取込み安い気体成分とその濃度を気体成分・濃度の制御指令が指令出力して、かかる気体成分・濃度となったタイムピリオド。液体槽が環境条件も同様に決定され、かかる環境条件に制御された状態にある。
P3 P2からP4への吸引気体成分とその濃度の変化、かつまた、P0からP2への液体槽温度・圧力・水素イオン濃度・生物学的ないしは化学的酸素必要量となる変化が、対象細胞にバイオロジカルショックを与えないよう、なだらかな変化となすために要するタイムピリオド
P4 あらかじめ実験的に決定する工程で決定された、対象細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質のうち第2の物質を取込み安い気体成分とその濃度を気体成分・濃度の制御指令が指令出力して、かかる気体成分・濃度となったタイムピリオド。液体槽が環境条件も同様に決定され、かかる環境条件に制御された状態にある。
Q1 図4の構成の装置ブロックであって、請求項1が記載するところの微小泡を含む液体(細胞培養液)の供給源である。請求項3が記載するところの温度等の環境もコントロールされている。
Q2 請求項1が記載するところの、対象細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質、たとえばF1からF4を個別に供給する供給手段。
Q3 Q1のうち、請求項3が記載するところの温度等の環境コントロール部分を点線で囲んだもの。
Q4 Q1のうち、請求項4が記載するところの酸素(O2)、および/または、窒素(N2)、および/または、二酸化炭素(CO2)の供給部分を一点鎖線で囲んだもの。
Q5 複数の対象細胞の培養セルを有する自動培養容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体吸引手段と液体吸引手段と液体吐出手段が接続された渦流ポンプと吐出ノズルを具備し、
前記気体吸引手段で気体を吸引しつつ、前記液体吸引手段で液体槽の液体を吸引して該液体槽の液体中に前記吐出ノズルから微小気泡を吐出してなる微小気泡を含有する液体組成物によって、
複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置であって、
該微小気泡は、少なくともその粒径が30μm以下のマイクロバブルを含み、
前記気体吸引手段の上流に吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段、および、
前記吸引気体の成分とその濃度を調整制御する手段に、
該気体成分とその濃度の調整制御目標指令を出す気体成分・濃度調整制御目標指令の出力手段、を具備し、
かかる気体成分とその濃度の調整制御目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の気体成分・濃度の調整制御目標指令であり、かつまた、
かかる気体成分とその濃度の調整制御目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力されるものである、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項2】
請求項1の、微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置において、
細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する生体物質または化学物質を供給し、
その生体物質または化学物質の濃度を制御する促進物質供給・濃度制御手段、および、
前記生体物質または化学物質の濃度を制御する促進物質供給・濃度制御手段に、
該生体物質または化学物質を供給し濃度を調整制御する目標指令を出す生体物質または化学物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令の出力手段、を兼備し、
かかる促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令であり、かつまた、
かかる促進物質の供給量と濃度を調整制御する目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力されるものである、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項3】
請求項1の、微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置において、
細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する液体槽の環境を調整制御する手段、および、
前記液体槽の環境を調整制御する手段に、促進環境の調整制御目標指令を出す液体槽環境調整制御目標指令の出力手段、を兼備し、
かかる液体槽環境調整制御目標指令が、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じて決定された、それぞれ個別の液体槽環境調整制御目標指令であり、かつまた、
かかる液体槽環境調整制御目標指令が、前記複数の物質のそれぞれ個別の取込み安さに応じて、時間経過とともに順次個別に出力されるものである、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項4】
請求項1の、気体成分・濃度調整制御手段が調整制御する吸引気体の成分と濃度が、酸素(O2)、および/または、窒素(N2)、および/または、二酸化炭素(CO2)の成分とそれらの濃度である、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項5】
請求項2の、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進する生体物質または化学物質が、
対象細胞の自然生育環境に存在する物質、および/または、対象細胞中の生体反応に寄与する物質、および/または、生体内産生物質である、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項6】
請求項3の、細胞が自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さを促進させられる環境条件が、液体組成物の温度、および/または、圧力、および/または、水素イオン濃度、および/または、生物学的ないしは化学的酸素必要量、である、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかの装置を用いた、微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する方法であって、
対象細胞について、該細胞自身の変化を促進するのに要する複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度をあらかじめ実験的に決定する工程、および、
かかる実験的に決定された複数の物質の取込み安さに応じた気体成分とその濃度について、物質取込みがたやすい順、あるいは、物質取込みが難しい順で時間経過とともに順次個別に気体成分指令を出す工程を有する、
微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する方法。
【請求項8】
請求項7の、微小気泡を含有する液体組成物によって複数の物質を細胞が取込むことで細胞変化を促進する方法において、
複数の物質それぞれ個別の取込み安さに応じた、それぞれ個別の気体成分とその濃度が類似である2つ以上の物質については、該2つ以上の類似の成分・濃度を代表する成分・濃度の指令を出す工程を有する、方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−120548(P2011−120548A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282840(P2009−282840)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(596174329)
【Fターム(参考)】