説明

微小流路構造体

【課題】微小流路構造体を用いて化学処理を行うあるいは微粒子を生成するにあたり、平面的及び立体的に微小流路の集積度を向上させて、すべての微小流路に均一に流体を送液し、生成物を大量に生産することが可能な微小流路構造体を提供する。
【解決の手段】2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長及び/又は流路断面積を有することを特徴とする微小流路構造体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小流路を用いて化学処理を行うあるいは微粒子を生成する微小流路構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数cm角のガラス基板上に長さが数cm程度で、幅と深さが数μmから数百μmの微小流路を有する微小流路構造体を用い、微小流路に流体を送液することにより化学処理を行い化学合成物質を生成する研究や微粒子を生成する研究が注目されている。例えば特許文献1及び非特許文献1には化学処理を行う例が記載されている。また例えば特許文献2、特許文献3及び非特許文献2には、微粒子を生成する例が記載されている。
【0003】
前述したように微小流路の幅と深さは、数μmから数百μm程度である。このため1つの微小流路における生成物の生成量は毎分数十μl程度であるが、微小流路を用いて化学合成する場合や微粒子を工業的に大量生産する場合には、微小流路基板に形成する微小流路の集積度を高める、あるいは集積した微小流路を有する微小流路基板を立体的に積層することで実現可能であると一般的に言われており、このような態様を微小流路のナンバリングアップと称することもある。
【0004】
しかしながら、例えば特許文献4、非特許文献3に記載されているように、この微小流路の集積化技術は、従来までに1本の微小流路を有する微小流路基板を数枚程度、モデル的に積層した例が報告されているだけであり、実用的に数十本から数百本の微小流路を平面的に配置させ、すべての微小流路へ均一に流体を送液すること、さらに、前記数十本から数百本集積した微小流路を有する微小流路基盤をさらに数枚から数十枚立体的に配置させ、すべての微小流路へ均一に流体を送液することは未だ検討されておらず、微小流路による工業的な大量生産は従来非常に困難であった。
【0005】
以上のような背景から、微小流路の平面的集積度の向上及び立体的集積度の向上に伴う、各微小流路への均一送液の機構が切望されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−225900号公報
【特許文献2】国際公開WO02/068104パンフレット
【特許文献3】特許第3511238号公報
【特許文献4】特開2002−292275号公報
【非特許文献1】H.Hisamoto et.al.(H.ひさもと ら著) 「Fast and high conversion phase−transfer synthesis exploiting the liquid−liquid interface formed in a microchannel chip」, Chem.Commun., 2001年発行, 2662−2663頁
【非特許文献2】西迫貴志ら、「マイクロチャネルにおける液中微小液滴生成」、第4回化学とマイクロシステム研究会講演予稿集、59頁、2001年発行
【非特許文献3】菊谷ら、「パイルアップマイクロリアクターによる高収量マイクロチャンネル内合成」、第3回化学とマイクロシステム研究会公演予稿集、9頁、2001年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はかかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、微小流路構造体を使って化学処理を行うあるいは微粒子を生成するにあたり、平面的及び立体的に微小流路の集積度を向上させて、すべての微小流路に均一に流体を送液し、生成物を大量に生産することが可能な微小流路構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するものとして、2以上の流体が合流する部分を有する微小流路において、合流する各々の流体の圧力損失が合流部で等しくなるようにし、その圧力損失を等しくする手段が、各々の流体を流体導入口から合流部まで導入する導入流路の流路長及び/又は流路断面積である微小流路構造体を用いることにより、上記の従来技術による微小流路構造体の課題を解決することができ、遂に本発明を完成することができた。
【0009】
尚、本明細書において、微小流路とは、流路の幅は1μm〜500μm、好ましくは5μm〜200μmであり、流路の深さは0.1μm〜200μm、好ましくは1μm〜50μmであり、流路の長さは、1μm〜50cm、好ましくは10μm〜5cmの流路を意味する。また、流路とは、特に断りがない限り微小流路を意味する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の微小流路構造体は、2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長を有する。あるいは、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路断面積を有する。さらには、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長/流路断面積比を有する。
【0012】
このようにすることで、2以上の異なる流体が微小流路の合流部で合流したときに各々の流体の圧力損失がつりあうことで、1つの流体の流体導入口に別の流体が逆流していく減少を抑えることができ、各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。さらに、各々の流体の粘性や密度、各々の流体の送液速度によらず、流路形状によって微小流路の合流部における2以上の流体の圧力損失をつりあわせることができ、各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。
【0013】
なおここでいう流路断面積とは、流体進行方向と垂直方向の断面積であり、微小流路の断面が矩形であるならば流路の幅及び/又は深さでその大きさが決まり、微小流路の断面が円形ならば流路の内径で決まる。
【0014】
また本発明の微小流路構造体は、2以上の流体を導入する2以上の流体導入口と、前記流体の化学処理を行うあるいは前記流体により微粒子を生成する1以上の微小流路と、前記化学処理を行った流体あるいは生成した微粒子を含有する1以上の流体を排出する1以上の流体排出口とを有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は流体を微小流路に供給する2以上の流体供給用構造体と前記微小流路を有する1以上の微小流路基板とから構成されており、前記流体供給用構造体は、流体を導入する流体導入口となる2以上の貫通穴を有し、前記流体導入口と連通し導入する流体を一時的に蓄える貯蔵空間を有し、前記貯蔵空間から前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体導入口に連通して前記微小流路に流体を供給する1以上の放射状に直線的及び/又は曲線的に形成された供給流路を有し、さらに前記流体供給用構造体の少なくとも1つには前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体排出口と連通し流体を排出する流体排出口となる1以上の貫通穴を有する微小流路構造体である。
【0015】
なお、本発明における流体供給用構造体の流体貯蔵空間を、以下ではリザーバータンクと称することもある。
【0016】
このようにすることで、送液ポンプから送液された流体が一時的に貯蔵される貯蔵空間は、ポンプの脈動の影響を最小限にする働きをし、且つこの貯蔵空間から放射状に直線的及び/又は曲線的に形成された供給流路が、化学処理を行うあるいは微粒子を生成する微小流路を有する微小流路構基板に連通し、微小流路基板に形成された微小流路に均一に流体を供給することができる。ここで、導入する流体は気体あるいは液体のどちらでも良い。また化学処理とは混合、化学反応、抽出、分離を意味する。また微粒子を生成するとは、界面張力が異なる2種類以上の流体を微小流路の合流部で合流させ、その合流部において、一つの流体を他の流体でせん断し微粒子を生成することを意味する。
【0017】
なお本発明でいう微粒子とは、固体状の微粒子の他にも微小液滴や微小液滴の表面だけが硬化した微粒子(以下、「半硬化」という。)や、粘性が高い半固体状の微粒子も含む。また流体供給方法は、送液ポンプからキャピラリーチューブ等を通して微小流路構造体に導入しても良いし、微小流路構造体の内部に送液ポンプとしてマイクロポンプ等を設置してもよい。
【0018】
また、化学処理を行うあるいは微粒子を生成するために2種類以上の流体を微小流路基板に供給する場合は、本発明の微小流路構造体の上下に前述した流体供給用構造体を配置することが好ましい。特に2種類の流体の場合は微小流路基板の上下に異なる流体のリザーバータンクを有する流体供給用構造体を配置し接続することにより、非常にコンパクトな構造で多数の微小流路基板有する微小流路構造体を構成し、かつ各々の流体を各微小流路に均一に送液することが可能となる。ここで、リザーバータンク及び微小流路基板は任意の厚みを持った基板上に一般的なフォトリソグラフィーとウエットエッチングあるいはドライエッチング、切削技術、成形技術等を用いて作製され、使用する微小流路基板の材質や微小流路の大きさに応じて加工方法を選択すればよい。また、リザーバータンクおよび微小流路基板の材質は特に限定されず、例えば石英ガラス、青板ガラス、パイレックス(登録商標)等のガラス基板や、ポリカーボネート、ポリイミド、POM、ナイロン、ナイロン66、ポリエーテルイミド等の樹脂基板や、その他にも金属やセラミックスなどがあり、使用する流体や化学処理条件に対する耐薬品性や耐熱性により材料を選択すればよい。
【0019】
このようなリザーバータンク及び微小流離基板は熱融着、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂により直接接合してもよく、あるいは圧着等により接合してもよい。また、リザーバータンクや微小流路基板の間にOリングやシーリング材等により接続されていても良い。
【0020】
また、本発明の微小流路構造体の微小流路には、混合、化学合成、抽出、分離といった化学処理を行ったり、微粒子を生成させるために2種類以上の流体を導入するための流体導入口が設けられる。
【0021】
また、本発明の微小流路構造体は、流体供給用構造体の貯蔵空間から前記微小流路を有する微小流路基板の流体導入口へ、導入した2以上の流体を個別に導入できる微小流路構造体であり、また、2以上の流体供給用構造体の供給流路が、それぞれの流体供給用構造体の供給流路と重ならずに配置されている微小流路構造体である。
【0022】
すなわち、微小流路の形状がY字形状の場合などは、Y字状に2本に分かれた導入流路にそれぞれ異なる流体を導入するため、上下2つのリザーバータンクからの供給流路とそれに対応する導入流路が各々単独で接続されていることが好ましい。またY字形状に分かれた導入流路は、リザーバータンクと連通した供給流路とそれぞれ単独に接続するため、流体供給用構造体に存在するリザーバータンクから放射状に形成された供給流路は、対向する別の流体供給用構造体のリザーバータンクから放射状に形成された供給流路に重ならないように配置することが望ましい。
【0023】
また本発明の微小流路構造体は、流体の化学処理を行うあるいは流体により微粒子を生成する微小流路を有する微小流路基板が1以上重ね合わされて構成されており、かつ前記微小流路の各流体導入口が、前記流体供給用構造体の供給流路のいずれかに連通している微小流路構造体である。このようにすることで、微小流路構造体をさらにコンパクトにすることが可能であり、かつ各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。
【0024】
また、本発明の微小流路構造体は、各微小流路と連通する貯蔵空間の形状が円形状又は多角形状のくぼみであることが好ましい。このようにすることで、微小流路基板上の各微小流路に、さらに均一に流体を送液することが可能となる。また、リザーバータンクの形状を多角形とすることで、送液するときの圧力損失を極力抑えることが可能となる上、取り扱う流体が液体の場合、リザーバータンクに混入した均一送液の障害となる気泡を速やかに排除することが可能になる。
【0025】
以下では、本発明の微小流路構造体を図を用いてより具体的に説明する。
【0026】
図20に本発明における代表的な微小流路(4)の構造を示す。図20には粘性係数の異なる2つ流体を合流させて微粒子を生成する場合の流路を想定している。微小流路の合流部(27)で2つの流体の圧力損失を等しくするため、粘性係数の小さい第1の流体を導入する導入流路(28)の流路長を粘性係数の大きい第2の流体を導入する導入流路(29)の流路長よりも長くしてあり、その長さの比は粘性係数の比に等しくなっている。この理由を、以下では円管内における流体の内部摩擦にもとづく圧力損失を表す理論式であるハーゲン−ポアズイユの式を用いて説明する。図21に示すように、直径d[m](30)の水平円管(31)を流体が線速度u[m/s](32)で流れている場合、両方の円管端面(33)に作用する圧力P1とP2の差である圧力損失ΔP[Pa]は、
ΔP=P2−P1=32μLu/d (式1)
となる。これをハーゲン−ポアズイユの式という。ここで、μ[Pa・s]は粘性係数、L[m]は流路長(34)である。今、図22に示すように微小流路(4)に2つの流体A(35)と流体B(36)が合流部(27)で合流する場合、それぞれの流体に(式1)が成り立ち、流体Aと流体Bの圧力損失ΔPおよびΔPは、それぞれ(式2)、(式3)で示される。
【0027】
ΔP=32μ/d (式2)
ΔP=32μ/d (式3)
ここで、μ、u、d、Lは、それぞれ流体Aの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長であり、μ、u、d、Lは、それぞれ流体Bの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長である。
【0028】
本発明における流体Aと流体Bを合流部で等しい圧力損失にするということは、ΔPとΔPをつりあわせることと等価になり、(式4)を満たすことを意味する。
【0029】
ΔP/ΔP=1 (式4)
ここで(式4)に(式2)、(式3)を代入して、
μ/μ=1 (式5)
となる。
【0030】
流体Aと流体Bが異なった流体であるときは、流体の物性を示す粘性係数μ、μが異なることを意味する。今、流体Aの粘性係数μが流体Bの粘性係数μの9倍であった場合、(式5)からΔPとΔPをつりあわせるためには、例えば第1の例として流体Aの導入流路の流路長Lを9分の1倍にする、第2の例として流体Aの導入流路の内径を3倍にする、第3の例として流体Bの導入流路の流路長Lを9倍にする、第4の例として流体Bの導入流路の内径を1/3倍にする、等が挙げられる。すなわち、流体Aあるいは流体Bの導入流路の流路長及び/又は流路内径(すなわち流路断面積)を(式5)に従うように調整することで、合流部における流体Aと流体Bの圧力損失を等しくすることが可能となる。なお、上述した4つの例は微小流路の合流部で2つの流体の圧力損失を等しくする手段の一例であって、(式5)を満たすようにすることができれば、(式5)のパラメータを任意に組み合わせて調整しても良い。
【0031】
従って、本発明の微小流路構造体は、流体Aと流体Bが合流する合流部を有する微小流路であって、下式(A)を満たす微小流路構造体であることが好ましい。
0.9≦ μ/μ ≦1.1 (A)
(式中、μ、u、d、Lは、それぞれ、流体Aの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長であり、μ、u、d、Lは、それぞれ、流体Bの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長である。)
上記の式(A)の範囲は実際の流路製作上の公差、精度等を考慮したものであるが、さらに好ましくは、式(A)中の、μ/μの範囲が0.95以上1.05以下であることが好ましく、さらには実質的に1に等しくなることが好ましい。
【0032】
また、図1〜図3に本発明における微小流路構造体の基本構成要素を示す。図1は流体貯蔵空間(1)を有する流体を供給する第1の流体供給用構造体(3)であり、図2は流体を化学処理するあるいは流体より微小液滴を生成させるためのY字状の微小流路(4)を有する微小流路基板(2)であり、図3は流体貯蔵空間(1)を有する流体を供給する第2の流体供給用構造体(3)である。なお図1〜図3では、微小流路構造体の基本構成を説明するため、概念として簡易的なY字状の微小流路を描いてある。
【0033】
また図4〜図6には、2つ流体供給用構造体及び1つの微小流路基板に貫通穴を加工した部分を示す。図4は第1の流体貯蔵空間(1)を有する第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)の流体貯蔵空間に貫通穴(8)を形成した例である。図5は流体を化学処理するあるいは流体より微小液滴を生成させるためのY字状の微小流路(4)を有する微小流路基板(2)であり、微小流路の2つの流体導入口(6)と微小流路の1つの流体排出口(7)に貫通穴(8)を形成した例である。図6は第2の流体貯蔵空間(1)を有する第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)の流体貯蔵空間に貫通穴(8)を形成し、なおかつ、微小流路基板に形成された微小流路の流体排出口の位置に相当する位置に貫通穴(8)を形成した例である。
【0034】
図7は、図4〜図6に示した貫通穴を有した微小流路基板(2)を、貫通穴を有した第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と貫通穴を有した第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)により上下から挟んだ時の概念図である。
【0035】
また図8は、図7に示した貫通穴を有した微小流路基板(2)を2枚の貫通穴を有した第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と貫通穴を有した第1の流体を供給する流体供給用構造体(24)により上下から挟んだ時のそれぞれの貫通穴の位置関係を示した図である。
【0036】
積層する手法としては、図4の第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と図6の第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)、及び図5の微小流路基板(2)にそれぞれ蓋をしたものをOリング等のシーリング部材で各々貼り合せても良い。
【0037】
貼り合せ後の微小流路構造体の立体図及び断面図を図9に示した。図10、図11、図12は、それぞれ図9の微小流路構造体のAA’断面、BB’断面、CC’断面を示す。
【0038】
図10のAA’断面図に示すように、上側の第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)から放射状に伸びた供給流路(5)は、微小流路基板(2)に形成されたY字状の微小流路(4)の一方の流体導入口(6)と連通している。また、下側の第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)から放射状に伸びた供給流路(5)は、微小流路基板(2)に形成されたY字状の微小流路(4)のもう一方の流体導入口(6)とそれに連通した微小流路基板(2)の貫通穴(8)を介して連通している。このような構造にすることで、第1の流体供給用構造体と第2の流体供給用構造体から供給流路を介してY字状の微小流路に2つの流体を供給することができる。
【0039】
また、図11のBB’断面図に示すように、微小流路基板(2)に形成されたY字状の微小流路(4)からの流体排出口(7)は、流体排出口と連通した微小流路基板(2)の貫通穴(8)と第1の流体を供給する流体供給用構造体(24)の流体排出口(7)に連通した貫通穴(8)と連通し、微小流路で生成した生成物を排出可能とする。
【0040】
また図12のCC’断面図に示すように、上側の第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と下側の第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)にそれぞれ設けられた、第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)と第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)にそれぞれ連通する第1の流体導入口(6)と第2の流体導入口(5)を貫通穴として形成することで、本発明の微小流路構造体の外部から2種類の流体を供給することが可能となる。
【0041】
なお図4〜図9では、微小流路構造体の基本構成を説明するため、概念としてY字状の簡易的な微小流路を描いてある。
【0042】
ここで、上記記載の微小流路構造体は本発明を解りやすく説明するために示したものであり、リザーバータンクの形状や数、微小流路基板の形状や枚数、微小流路の形状や数および微小流路の導入流路の本数と排出流路の本数はこれに限定されるものではない。
【0043】
例えば、微小流路の断面形状として種々のものが適用できる。より具体的には、図27に示される代表的な微粒子生成用Y字状微小流路の模式図において、流体導入流路DD’の断面形状が円の場合の例(図28)、楕円の場合(図29、図30)、半円の場合(図31)、矩形の場合(図32、図33、図34)、三角形の場合(図35)などが挙げられる。この内でも、流体を送液するという観点から角状よりも丸状の方が好ましく、また、簡単なウェットエッチングで製作できるといった加工のしやすさの観点からは半円が好ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明の微小流路構造体は、2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長を有する。あるいは、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路断面積を有する。さらには、合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長と流路断面積との関係を有する。また、流体Aと流体Bが合流する合流部を有する微小流路であって、μ/μの範囲が0.9以上1.1以下となる微小流路構造体である。
【0045】
このようにすることで、2以上の異なる流体が微小流路の合流部で合流したときに各々の流体の圧力損失がつりあうことで、1つの流体の流体導入口に別の流体が逆流していく減少を抑えることができ、各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。さらに、各々の流体の粘性や密度、各々の流体の送液速度によらず、流路形状によって微小流路の合流部における2以上の流体の圧力損失をつりあわせることができ、各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。
【0046】
また本発明の微小流路構造体は、上記の構造体の構成に加え、2以上の流体を導入する2以上の流体導入口と、前記流体の化学処理を行うあるいは前記流体により微粒子を生成する1以上の微小流路と、前記化学処理を行った流体あるいは生成した微粒子を含有する1以上の流体を排出する1以上の流体排出口とを有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は流体を微小流路に供給する2以上の流体供給用構造体と前記微小流路を有する1以上の微小流路基板とから構成されており、前記流体供給用構造体は、流体を導入する流体導入口となる2以上の貫通穴を有し、前記流体導入口と連通し導入する流体を一時的に蓄える貯蔵空間を有し、前記貯蔵空間から前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体導入口に連通して前記微小流路に流体を供給する1以上の放射状に直線的及び/又は曲線的に形成された供給流路を有し、さらに前記流体供給用構造体の少なくとも1つには前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体排出口と連通し流体を排出する流体排出口となる1以上の貫通穴を有するである。
【0047】
このようにすることで、送液ポンプから送液された流体が一時的に貯蔵される貯蔵空間は、ポンプの脈動の影響を最小限にする働きをし、且つこの貯蔵空間から放射状に直線的及び/又は曲線的に形成された供給流路が、化学処理あるいは微粒子を生成する微小流路を有する微小流路構基板に連通し、微小流路基板に形成された微小流路に均一に流体を供給することができる。
【0048】
また、本発明の微小流路構造体は、流体供給用構造体の貯蔵空間から前記微小流路を有する微小流路基板の流体導入口へ、それぞれの流体供給用構造体の供給流路と重ならずに配置され、個別に導入できる微小流路構造体である。このようにすることで、微小流路の形状がY字形状の場合などは、Y字状に2本に分かれた導入流路にそれぞれ異なる流体を導入することができる。
【0049】
また本発明の微小流路構造体は、流体の化学処理を行うあるいは流体により微粒子を生成するための微小流路を有する微小流路基板が1以上重ね合わされて構成されており、かつ微小流路の各流体導入口が、流体供給用構造体の供給流路のいずれかに連通している微小流路構造体である。このようにすることで、微小流路構造体をさらにコンパクトにすることが可能であり、かつ各々の流体を各微小流路に均一に送液することができる。
【0050】
また、本発明の微小流路構造体は、各微小流路と連通する貯蔵空間の形状が円形状あるいは多角形状のくぼみであることが好ましい。このようにすることで、微小流路基板上の各微小流路に、さらに均一に流体を送液することが可能となる。
【0051】
また、リザーバータンクの形状を多角形とすることで、送液するときの圧力損失を極力抑えることが可能となる上、取り扱う流体が液体の場合、リザーバータンクに混入した均一送液の障害となる気泡を速やかに排除することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
本発明における実施例の概念図を図17、図18に示した。図18に示すように実施例1に用いた微小流路構造体(11)の構成は、1枚の微小流路基板(2)の表面と裏面にそれぞれ、第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を接合して挟んだ構造とした。微小流路基板とその上下に接合した流体供給用構造体の材質は、直径5インチ、厚さ1.2mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた。また、微小流路基板に形成した微小流路および流体供給用構造体に形成したリザーバータンクと供給流路は、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成し、微小流路基板と流体供給用構造体の接合は熱融着により接合した。なお、微小流路基板の微小流路の流体導入口及び流体導入口の貫通穴、第1の流体供給用構造体のリザーバータンクの貫通穴、及び第2の流体供給用構造体のリザーバータンクの貫通穴と流体排出口用の貫通穴は機械加工により直径1mmの貫通穴を形成した。
【0054】
図23には使用した微小流路基板(2)を示した。また図24には図23の微小流路の一部を拡大した図を示した。図24に示すように、1本の微小流路は第1の流体を導入する流体導入口(10)、第2の流体を導入する流体導入口(12)、合流部(27)、微小流路(4)、流体排出口(7)を1単位として構成されており、この1単位の微小流路が図23に示すように、微小流路基板上に100本形成されている。
【0055】
図25には使用した第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)を示した。また図26には使用した第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を示した。各々の微小流路に連通した2つの流体を導入する流体導入口は、図25、図26に示す微小流路基板の上下に接続した2つの流体供給用構造体に備えられた、第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)、第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)からそれぞれ放射状に直線的に配置された供給流路(5)を介して各々の流体を導入し異なる流体導入口に接続した。ここで図23に示したY字状の微小流路に導入する導入流路に連通する流体導入口(6)の位置に関しては、2種類の流体を導入するための流体導入口の穴径を十分に確保するスペースを得るために、第1の流体を導入する流体導入口(10)は半径35mmの同心円上の位置に、第2の流体を導入する流体導入口(12)は半径55mmの同心円上の位置に、それぞれ半径位置をずらして配置した。微小流路からの流体排出口(7)は半径40mmの同心円上の位置に配置した。なお、流体導入口と流体排出口はその穴数を少なくする目的で、図23に示すように流体導入口に関しては、1つの流体導入口から2本の導入流路に分岐する形状とし、流体排出口に関しては、2本の排出流路から1つの流体排出口に合一する形状とした。また、微小流路基板に形成した微小流路(4)の流路幅は110μm、流路深さは50μmでY字状に形成した。また導入流路としてのY字の角度は44度とした。さらに、本実施例では、第1の流体の粘性係数が第2の流体の粘性係数の約40倍あることから、図24における微小流路の合流部(27)において、第1の流体と第2の流体の圧力損失が等しくなるように(式5)の関係を満たすように、第1の流体を導入するための導入流路(28)の長さを7mm、幅を200μm、深さを50μmとし、第2の流体を導入するための導入流路(29)の長さを70mm、幅を100μm、深さを50μmとした。
【0056】
図24、図25において、流体供給用構造体に形成した第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)及び第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)は直径50mm、深さ300μmとしそれぞれ多角形状とした。また多角形状のリザーバータンクの各頂点の位置から外周に向けて放射状に直線的に供給流路(5)を形成した。第1の流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路の長さは15mm、流路幅1mm、流路深さ300μmであり、第2の流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路の長さは30mm、流路幅1mm、流路深さ300μmである。それぞれの流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路は50本づつ形成した。また図24、図25に示すように、それぞれの流体供給用構造体のリザーバータンク内の耐圧特性を高めるために、流体導入口近傍である半径約8mm付近に、長さ約5mm、最大幅約1mm、高さはリザーバータンクの深さに等しい300μmの涙型強度補強柱(14)を各リザーバータンクに3本、同心円上に120度の間隔で形成した。
【0057】
上記、本発明の微小流路構造体(11)を図17、図18に示すように基板ホルダーA(16)と基板ホルダーB(17)で挟み固定した。基板ホルダーAには、第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)の第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)と連通した貫通穴に連通する第1の流体を導入する流体導入口(10)に第1の流体の導入用フレアフィットアダプター(21)を接続し、キャピラリーチューブ(15)を介して第1の流体送液用ポンプ(18)に接続した。基板ホルダーBには、第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)の第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)と連通した貫通穴に連通する第2の流体導入口(10)に第2の流体用フレアフィットアダプター(21)を接続し、キャピラリーチューブ(15)を介して第2の流体送液用ポンプ(19)に接続した。また、基板ホルダーBには、第1の流体供給用構造体の外周側に形成した貫通穴と微小流路基板に形成された各微小流路の流体排出口とを連通した貫通穴と連通する流体の排出用フレアフィットアダプター(20)を50個の流体排出口のそれぞれに直接接続した。この流体排出口用フレアフィットアダプターから、キャピラリーチューブを介して微小流路で生成した微小液滴を排出し回収した。
【0058】
本実施例では、第1の流体送液用ポンプ(18)により3%のポリビニルアルコール水溶液を微小流路構造体に約1.0ml/分の送液速度で送液し、第2の流体送液用ポンプ(19)によりジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を微小流路構造体に約0.5ml/分で送液し、各々の流体の導入用フレアフィットアダプターを介して接続されたリザーバータンクに設けられた各流体導入口に導入した。導入した2種の流体は、各リザーバータンクに一時的に貯えられた後、リザーバータンクから放射状に伸びた供給流路を通って、微小流路基板に形成したY字状の微小流路のそれぞれの導入流路に導入され、Y字状の微小流路の合流部において連続相であるポリビニルアルコール水溶液が分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液をせん断することで微小液滴が生成された。
【0059】
本発明の微小流路構造体の効果を確認する手段として、微小流路の流体排出口と連通した50個の排出用フレアフィットアダプターから排出された流体に含有された流体を流体排出口別に回収し、回収した流体に含有されている微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、50個の流体排出口すべてにおいて、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が3.3%〜3.9%の範囲であった。この結果から、本発明の微小流路構造体を用いることにより、各微小流路に非常に均一に同じ条件で流体が供給されていることが示された。なお、粒径分散度とは、サンプリングした微小液滴の標準偏差を平均粒径で除算して得られる値で、粒径分布の広がりを示す目安となる数値である。
【0060】
また、50個の流体排出口から排出された流体をすべて同じサンプル瓶に回収して微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が3.5%であり、本発明の微小流路構造体全体としても、非常に均一な微小液滴を得ることができた。また得られた微小液滴の生成量は、スラリーとして1.49ml/分の生成速度で得ることができた。ここで、本実施例で用いたY字形状の微小流路と同じ形状の1本のY字状の微小流路に、連続相である3%のポリビニルアルコール水溶液と分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を導入して、Y字状の微小流路の合流部において連続相により分散相をせん断することで微小液滴を生成した場合、上記実施例と同程度である平均粒径が約100μm、粒径分度が約3%〜5%の範囲で微小液滴が生成される条件は、水相の送液速度が約10μl/分、有機相の送液速度が約5μl/分であり、送液して得られる微小液滴を含有するスラリーの生成速度15μl/分である。従って、本実施例の微小流路を100本集積化した微小流路基板1枚で構成された微小流路構造体は、微小流路1本で生成されるスラリーの約100倍となっている。以上のことから、本発明の微小流路構造体を用いることで、微小流路を集積化することにより、1本の微小流路で生成した生成物と同じ物性の生成物を、集積した流路の本数に応じてして大量に生成することができることが示された。
(実施例2)
実施例1で使用した図23に示した微小流路基板を2枚用いて熱接合により貼り合せ、貼り合せた基板の上下にさらに図25、図26に示す第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を熱接合により接合して挟んだ構造とし、図19に示した構造体として図17の実験装置に設置した。
【0061】
本実施例では、第1の流体送液用ポンプ(18)により3%のポリビニルアルコール水溶液を微小流路構造体に約2.0ml/分の送液速度で送液し、第2の流体送液用ポンプ(19)によりジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を微小流路構造体に約1.0ml/分で送液し、各々の流体の導入用フレアフィットアダプターを介して接続されたリザーバータンクに設けられた各流体導入口に導入し連続相であるポリビニルアルコール水溶液により分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液をせん断することで微小液滴が生成した。
【0062】
本発明の微小流路構造体の効果を確認する手段として、実施例1と同様に微小流路の流体排出口と連通した50個の排出用フレアフィットアダプターから排出された流体に含有された流体を流体排出口別に回収し、回収した流体に含有されている微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、50個の流体排出口すべてにおいて、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が3.8%〜4.1%の範囲であった。この結果から、本発明の微小流路構造体を用いることにより、各微小流路に非常に均一に同じ条件で流体が供給されていることが示された。
【0063】
また、50個の流体排出口から排出された流体をすべて同じサンプル瓶に回収して微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が3.9%であり、本発明の微小流路構造体全体としても、非常に均一な微小液滴を得ることができた。また得られた微小液滴の生成量は、スラリーとして約3.0ml/分の生成速度で得ることができ、実施例1の約2倍のスラリーの生成能力を得られたことから、接合した2枚の微小流路基板に均等に流体が流れていることを確認できた。実施例1と同に、本実施例で用いたY字形状の微小流路と同じ形状の1本のY字状の微小流路に、連続相である3%のポリビニルアルコール水溶液と分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を導入して、Y字状の微小流路の合流部において連続相により分散相をせん断することで微小液滴を生成した場合、上記実施例と同程度である平均粒径が約100μm、粒径分度が約3%〜4%の範囲で微小液滴が生成される条件は、水相の送液速度が約10μl/分、有機相の送液速度が約5μl/分であり、送液して得られる微小液滴を含有するスラリーの生成速度15μl/分である。従って、本実施例の微小流路を100本集積化した微小流路基板を2枚積層した微小流路構造体は、微小流路1本で生成されるスラリーの約200倍となっていることから、本発明の微小流路構造体を用いることで、微小流路を集積化することにより、1本の微小流路で生成した生成物と同じ物性の生成物を、集積した流路の本数に応じてして大量に生成することができることが示された。
(比較例1)
実施例1と同様に製作した図13に示した1枚の微小流路基板の上下に図15、図16に示す第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を熱接合により接合して挟んだ構造とし、図18に示した構造体として図17の実験装置に設置した。
【0064】
図13には使用した微小流路基板(2)を示した。また図14には図13の微小流路の一部を拡大した図を示した。図14に示すように、1本の微小流路は第1の流体を導入する流体導入口(10)、第2の流体を導入する流体導入口(12)、合流部(27)、微小流路(4)、流体排出口(7)を1単位として構成されており、この1単位の微小流路が図13に示すように微小流路基板上に100本形成されている。
【0065】
図15には使用した第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)を示した。また図16には使用した第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を示した。各々の微小流路に連通した2つの流体を導入する流体導入口は、図15、図16に示す微小流路基板の上下に接続した2つの流体供給用構造体に備えられた、第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)、第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)からそれぞれ放射状に直線的に配置された供給流路(5)を介して各々の流体を導入し異なる流体導入口に接続した。ここで図13に示したY字状の微小流路に導入する導入流路に連通する流体導入口(6)の位置に関しては、2種類の流体を導入するための流体導入口の穴径を十分に確保するスペースを得るために、第1の流体を導入する流体導入口(10)は半径35mmの同心円上の位置に、第2の流体を導入する流体導入口(12)は半径40mmの同心円上の位置に、それぞれ半径位置をずらして配置した。微小流路からの流体排出口(7)は半径55mmの同心円上の位置に配置した。なお、流体導入口と流体排出口はその穴数を少なくする目的で、図13に示すように流体導入口に関しては、1つの流体導入口から2本の導入流路に分岐する形状とし、流体排出口に関しては、2本の排出流路から1つの流体排出口に合一する形状とした。また、微小流路基板に形成した微小流路(4)の流路幅は110μm、流路深さは50μmでY字状に形成した。また導入流路としてのY字の角度は44度とした。本比較例では、第2の流体の粘性係数が第1の流体の粘性係数の約40倍ではあるが、図14における微小流路の合流部(27)において、第1の流体と第2の流体の圧力損失が等しくなることは考慮せずに、第1の流体を導入するための導入流路(28)の長さを10mm、幅を100μm、深さを50μmとし、第2の流体を導入するための導入流路(29)の長さを5mm、幅を100μm、深さを50μmとした。
【0066】
図14、図15において、流体供給用構造体に形成した第1の流体を貯蔵するリザーバータンク(9)及び第2の流体を貯蔵するリザーバータンク(26)は直径50mm、深さ300μmとしそれぞれ多角形状とした。また多角形状のリザーバータンクの各頂点の位置から外周に向けて放射状に直線的に供給流路(5)を形成した。第1の流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路の長さは15mm、流路幅1mm、流路深さ300μmであり、第2の流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路の長さは30mm、流路幅1mm、流路深さ300μmである。それぞれの流体供給用構造体のリザーバータンクからの供給流路は50本づつ形成した。また図14、図15に示すように、それぞれの流体供給用構造体のリザーバータンク内の耐圧特性を高めるために、流体導入口近傍である半径約8mm付近に、長さ約5mm、最大幅約1mm、高さはリザーバータンクの深さに等しい300μmの涙型強度補強柱(14)を各リザーバータンクに3本、同心円上に120度の間隔で形成した。
【0067】
本比較例では、第1の流体送液用ポンプ(18)により3%のポリビニルアルコール水溶液を微小流路構造体に約0.95ml/分の送液速度で送液し、第2の流体送液用ポンプ(19)によりジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を微小流路構造体に約0.45ml/分で送液し、各々の流体の導入用フレアフィットアダプターを介して接続されたリザーバータンクに設けられた各流体導入口に導入し連続相であるポリビニルアルコール水溶液により分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液をせん断することで微小液滴が生成した。
【0068】
本発明の微小流路構造体の効果を確認する手段として、実施例1と同様に微小流路の流体排出口と連通した50個の排出用フレアフィットアダプターから排出された流体に含有された流体を流体排出口別に回収し、回収した流体に含有されている微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、50個の流体排出口すべてにおいて、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が3.9%〜5.7%の範囲であった。この結果から、本発明の微小流路構造体を用いることにより、各微小流路にほぼ非常に均一に同じ条件で流体が供給されていることが示された。
【0069】
また、50個の流体排出口から排出された流体をすべて同じサンプル瓶に回収して微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、平均粒径が約100μmでその粒径分散度が4.2%であり、本発明の微小流路構造体全体としても、ほぼ均一な微小液滴を得ることができた。また得られた微小液滴の生成量は、スラリーとして約1.35ml/分の生成速度で得ることができた。実施例1と同様に、本比較例で用いたY字形状の微小流路と同じ形状の1本のY字状の微小流路に、連続相である3%のポリビニルアルコール水溶液と分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を導入して、Y字状の微小流路の合流部において連続相により分散相をせん断することで微小液滴を生成した場合、上記実施例と同程度である平均粒径が約100μm、粒径分度が約3%〜5%の範囲で微小液滴が生成される条件は、水相の送液速度が約10μl/分、有機相の送液速度が約5μl/分であり、送液して得られる微小液滴を含有するスラリーの生成速度15μl/分である。従って、本実施例の微小流路を100本集積化した微小流路基板を2枚積層した微小流路構造体は、微小流路1本で生成されるスラリーの約93倍となっていることから、本発明の微小流路構造体を用いることで、微小流路を集積化することにより、1本の微小流路で生成した生成物と同じ物性の生成物を、ほぼ集積した流路の本数に応じてして大量に生成することができることが示された。
(比較例2)
比較例1で使用した図13に示した微小流路基板を2枚用いて熱接合により貼り合せ、貼り合せた基板の上下にさらに図15、図16に示す第1の流体を供給する流体供給用構造体(25)と第2の流体を供給する流体供給用構造体(24)を熱接合により接合して挟んだ構造とし、図19に示した構造体として図17の実験装置に設置した。
【0070】
本比較例では、第1の流体送液用ポンプ(18)により3%のポリビニルアルコール水溶液を微小流路構造体に約0.4ml/分の送液速度で送液し、第2の流体送液用ポンプ(19)によりジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を微小流路構造体に約0.2ml/分で送液し、各々の流体の導入用フレアフィットアダプターを介して接続されたリザーバータンクに設けられた各流体導入口に導入し連続相であるポリビニルアルコール水溶液により分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液をせん断することで微小液滴が生成した。
【0071】
本発明の微小流路構造体の効果を確認する手段として、微小流路の流体排出口と連通した50個の排出用フレアフィットアダプターから排出された流体に含有された流体を流体排出口別に回収し、回収した流体に含有されている微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、50個の流体排出口すべてにおいて、平均粒径が約90μm〜100μmでその粒径分散度が25%〜32%の範囲であった。このように、各流体排出口毎の平均粒径のばらつきが大きく、粒径分散度も悪いことから、各微小流路に均一に同じ条件で流体が供給することが十分にできなかったことがわかる。
【0072】
また、50個の流体排出口から排出された流体をすべて同じサンプル瓶に回収して微小液滴の粒径分布を100個の微小液滴をサンプリングして測定した結果、平均粒径が約92μmでその粒径分散度が35%であり、均一な微小液滴を得ることが十分にできなかった。また得られた微小液滴の生成量は、スラリーとして0.6ml/分の生成速度でしか得ることができなかった。実施例1と同様に、本比較例で用いたY字形状の微小流路と同じ形状の1本のY字状の微小流路に、連続相である3%のポリビニルアルコール水溶液と分散相であるジビニルベンゼンと酢酸ブチルの混合溶液を導入して、Y字状の微小流路の合流部において連続相により分散相をせん断することで微小液滴を生成した場合、上記実施例と同程度である平均粒径が約100μm、粒径分度が約3%〜5%の範囲で微小液滴が生成される条件は、水相の送液速度が約10μl/分、有機相の送液速度が約5μl/分であり、送液して得られる微小液滴を含有するスラリーの生成速度15μl/分である。従って、本比較例の微小流路を100本集積化した微小流路基板を2枚積層した微小流路構造体は、微小流路1本で生成されるスラリーの約40倍にしかならないことから、すべての微小流路に均一に送液することができず、集積した流路の本数に応じた量のスラリーを生成することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明における微小流路構造体の基本構成要素のうち、第1の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図2】本発明における微小流路構造体の基本構成要素のうち、微小流路基板を示した概念図である。
【図3】本発明における微小流路構造体の基本構成要素のうち、第2の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図4】第1の流体貯蔵空間を有する第1の流体を供給する流体供給用構造体の流体貯蔵空間に貫通穴を形成した概念図である。
【図5】微小流路基板におけるY字状の微小流路の2つの流体導入口と微小流路の1つの流体排出口に貫通穴を形成した概念図である。
【図6】第2の流体貯蔵空間を有する第2の流体を供給する流体供給用構造体の流体貯蔵空間に貫通穴を形成し、なおかつ、微小流路基板に形成された微小流路の流体排出口の位置に相当する位置に貫通穴を形成した概念図である。
【図7】貫通穴を有した微小流路基板を、貫通穴を有した第1の流体を供給する流体供給用構造体と貫通穴を有した第2の流体を供給する流体供給用構造体により上下から挟んだ時の概念図である。
【図8】貫通穴を有した微小流路基板を2枚の貫通穴を有した第1の流体供給用構造体と貫通穴を有した第2の流体供給用構造体により上下から挟んだ時のそれぞれの貫通穴の位置関係を示した概念図である。
【図9】貼り合せ後の微小流路構造体の立体図を示した概念図である。
【図10】貼り合せ後の微小流路構造体の立体図を示した図9におけるAA’断面を示した概念図である。
【図11】貼り合せ後の微小流路構造体の立体図を示した図9におけるBB’断面を示した概念図である。
【図12】貼り合せ後の微小流路構造体の立体図を示した図9におけるCC’断面を示した概念図である。
【図13】比較例に用いた100本のY字状の微小流路を1枚の微小流路基板上に配置した微小流路基板を示した図である。
【図14】図13における点線で囲った部分の拡大図である。
【図15】比較例に用いた、2種類の流体の流体供給用構造体のうち、第1の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図16】比較例に用いた、2種類の流体の流体供給用構造体のうち、第2の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図17】本発明における微小流路構造体を、流体の送液システムに組み込んだ場合の概略図である。
【図18】実施例1及び比較例1に用いた図18における微小流路構造体の部分の拡大図である。
【図19】実施例2及び比較例2に用いた図18における微小流路構造体の部分の拡大図である。
【図20】本発明における代表的な微小流路の構造である。
【図21】円管内における流体の内部摩擦にもとづく圧力損失を表す理論式を説明する図である。
【図22】円管内における2つの流体の合流部における圧力損失の関係を説明する図である。
【図23】実施例に用いた圧力損失を合流部で等しくした、100本のY字状の微小流路を1枚の微小流路基板上に配置した微小流路基板を示した図である。
【図24】図23における点線で囲った部分の拡大図である。
【図25】実施例に用いた、2種類の流体の流体供給用構造体のうち、第1の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図26】実施例に用いた、2種類の流体の流体供給用構造体のうち、第2の流体供給用構造体を示した概念図である。
【図27】代表的な微粒子生成用Y字状微小流路の模式図である。
【図28】流体導入流路DD’の断面形状が円の場合の例である。
【図29】流体導入流路DD’の断面形状が楕円の場合の第1の例である。
【図30】流体導入流路DD’の断面形状が楕円の場合の第2の例である。
【図31】流体導入流路DD’の断面形状が半円の場合の例である。
【図32】流体導入流路DD’の断面形状が矩形の場合の第1の例である。
【図33】流体導入流路DD’の断面形状が矩形の場合の第2の例である。
【図34】流体導入流路DD’の断面形状が矩形の場合の第3の例である。
【図35】流体導入流路DD’の断面形状が三角形の場合の例である。
【符号の説明】
【0074】
1:流体貯蔵空間
2:微小流路基板
3:流体供給用構造体
4:微小流路
5:供給流路
6:流体導入口
7:流体排出口
8:貫通穴
9:第1の流体を貯蔵するリザーバータンク
10:第1の流体を導入する流体導入口
11:微小流路構造体
12:第2の流体を導入する流体導入口
13:第1の流体を導入する導入用フレアフィットアダプター
14:涙型強度補強柱
15:キャピラリーチューブ
16:基板ホルダーA
17:基板ホルダーB
18:第1の流体の送液ポンプ
19:第2の流体の送液ポンプ
20:排出用フレアフィットアダプター
21:第2の流体を導入する導入用フレアフィットアダプター
22:固定ホルダーA
23:固定ホルダーB
24:第2の流体を供給する流体供給用構造体
25:第1の流体を供給する流体供給用構造体
26:第2の流体を貯蔵するリザーバータンク
27:合流部
28:第1の流体を導入する導入流路
29:第2の流体を導入する導入流路
30:直径d
31:水平円管
32:線速度u
33:円管端面
34:流路長
35:流体A
36:流体B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、前記合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長を有することを特徴とする微小流路構造体。
【請求項2】
2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、前記合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路断面積を有することを特徴とする微小流路構造体。
【請求項3】
2以上の流体が合流する合流部を有する微小流路において、前記合流部で合流する2以上の流体の各々の流体の圧力損失が実質的に等しくなる導入流路の流路長/流路断面積比を有することを特徴とする微小流路構造体。
【請求項4】
流体Aと流体Bが合流する合流部を有する微小流路であって、下式を満たすことを特徴とする微小流路構造体。
0.9≦ μ/μ ≦1.1
(式中、μ、u、d、Lは、それぞれ、流体Aの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長であり、μ、u、d、Lは、それぞれ、流体Bの粘性係数、線速度、導入流路内径、導入流路長である。)
【請求項5】
2以上の流体を導入する2以上の流体導入口と、前記流体の化学処理を行うあるいは前記流体により微粒子を生成する1以上の微小流路と、前記化学処理を行った流体あるいは生成した微粒子を含有する1以上の流体を排出する1以上の流体排出口とを有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は流体を微小流路に供給する2以上の流体供給用構造体と前記微小流路を有する1以上の微小流路基板とから構成されており、前記流体供給用構造体は、流体を導入する流体導入口となる2以上の貫通穴を有し、前記流体導入口と連通し導入する流体を一時的に蓄える貯蔵空間を有し、前記貯蔵空間から前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体導入口に連通して前記微小流路に流体を供給する1以上の放射状に直線的及び/又は曲線的に形成された供給流路を有し、さらに前記流体供給用構造体の少なくとも1つには前記微小流路基板に形成された1以上の微小流路の各々の流体排出口と連通し流体を排出する流体排出口となる1以上の貫通穴を有する、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微小流路構造体。
【請求項6】
前記流体供給用構造体の貯蔵空間から前記微小流路を有する微小流路基板の流体導入口へ、それぞれの流体供給用構造体の供給流路と重ならずに配置され、個別に導入できることを特徴とする請求項5に記載の微小流路構造体。
【請求項7】
前記化学処理を行うあるいは前記流体により微粒子を生成するための微小流路を有する微小流路基板が1以上重ね合わされて構成されており、かつ前記微小流路の各流体導入口が、前記流体供給用構造体の供給流路のいずれかに連通していることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の微小流路構造体。
【請求項8】
貯蔵空間の形状が円形状のくぼみ又は多角形状のくぼみであることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の微小流路構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2006−55770(P2006−55770A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241081(P2004−241081)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】