説明

微小移動検出装置

【課題】位相検出器を利用して対象物の微小移動を検出する微小移動検出装置の初期設定を容易にする。
【解決手段】送信信号発生器(1〜4)が発する送信信号を、送信アンテナ7が送信波として移動検出対象物に照射し、受信アンテナ8が、送信波が移動検出対象物に反射して得られる反射波を捕らえ受信信号を出力する。位相検出器12は、送信信号と受信信号との位相差を検出する。判定手段13は、位相検出器12の検出信号に基づいて移動検出対象物の移動状態を判定する。初期設定手段13は、位相検出器12の検出信号に基づいて、初期位相差が位相検出器12の位相検出特性における直線領域の中心に最も近くなるように位相切替器14a〜cを制御する。位相切替器14a〜cは、低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いて対象物の微小移動を検出する微小移動検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、所定波長のマイクロ波(送信波)と、当該送信波が移動検出対象物に反射して得られる受信波(反射波)とによって形成される定在波の振幅最大値を検出することにより移動検出対象物の微小移動を検出する移動距離検出装置が開示されている。
【0003】
上記定在波の振幅は、受信点と移動検出対象物との間の位置に応じて正弦波状に変化するものとなり、送信波の受信点及び送信点を固定した状態において移動検出対象が受信点に対して接近する方向或いは離間する方向に移動すると、受信点における定在波の振幅は正弦波状に変化するものとなる。上記移動距離検出装置では、このように正弦波状に変化する定在波の振幅が最大となる位置を追尾し、当該位置の基準位置に対するズレを移動検出対象物の移動量として検出する。
【0004】
しかしながら、正弦波状に変化する定在波では、振幅最大値近傍における定在波の振幅変化が緩慢なために定在波の振幅最大値の検出に誤差が生じ易い。そして、この振幅最大値の検出誤差は、そのまま微小移動量の検出誤差となる。したがって、従来技術では、定在波の振幅最大値の検出誤差に起因して微小移動量の検出精度が低下するという問題点があった。
【0005】
本出願人は、上述の問題点を解決する発明を出願している(特願2005−369126)。ここに開示した技術は、微小移動検出装置から出射した送信波と、この送信信号が移動検出対象物に反射した反射波との位相差の変化を検出することによって、移動検出対象物の微小移動を検出するというものである。
【特許文献1】特開2000−046934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特願2005−369126号の装置における位相検出器は、検出信号の電圧値が360°毎に三角波状に変化する位相検出特性を有している。すなわち、例えば0〜180°の位相差範囲においては検出信号の電圧値が略直線状に増加し、180〜360°の位相差範囲においては検出信号の電圧値が略直線状に減少する。そして、このような検出信号の電圧値の変化における直線性は、上記各位相差範囲の中心(90°或いは270°)近傍が最も良好であり、検出信号の電圧値が上昇から降下に転じる180°或いは360°近傍では良好でない。したがって、このような180°或いは360°近傍では、位相差の検出精度が低下するという問題がある。
【0007】
このような位相検出器の位相検出特性を考慮して、従来では微小移動検出装置の設置時において上記位相差が90°或いは270°に初期設定されるように微小移動検出装置の位置を調節していたが、この位置調整は、設置場所の地形等の関係で極めて煩雑な作業である。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、位相検出器を利用して対象物の微小移動を検出する微小移動検出装置の初期設定を容易にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、第1の手段として、マイクロ波帯の波長を有する送信信号を発生する送信信号発生器と、前記送信信号を送信波として移動検出対象物に照射する送信アンテナと、前記送信波が移動検出対象物に反射して得られる反射波を捕らえ受信信号を出力する受信アンテナと、所定周波数のローカル信号を発生するローカル信号発生器と、ローカル信号を用いて送信信号を低周波送信信号に周波数変換する送信信号周波数変換器と、ローカル信号を用いて受信信号を低周波受信信号に周波数変換する受信信号周波数変換器と、低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切り替える位相切替器と、該位相切替器の後段において低周波送信信号と低周波受信信号との位相差を検出する位相検出器と、該位相検出器の検出信号に基づいて移動検出対象物の移動状態を判定する判定手段と、前記位相検出器の検出信号に基づいて、初期位相差が前記位相検出器の位相検出特性における直線領域の中心に最も近くなるように前記位相切替器を制御する初期設定手段と、を具備するものを採用した。
【0010】
また、第2の手段として、上記第1の手段において、位相切替器は、低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方を所定の固定位相分だけ遅延させる信号遅延手段を複数組み合わせてなるものを採用した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方の位相を所定の位相差分だけ切り替える位相切替器を設け、初期設定手段によって、位相検出器の検出信号に基づいて位相切替器を制御することにより、初期位相差を位相検出器の位相検出特性における直線領域の中心に最も近くなるようにしたので、装置位置の微調整によらず初期位相差の初期値を最適にすることができるため、微小移動検出装置の初期設定を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る微小移動検出装置のブロック図である。この図1に示されているように、本微小移動検出装置は、電圧制御発振器1、カップラ2、送信信号電力分配器3、PLL(Phase Locked Loop)回路4、アッテネータ5、送信信号用ミキサ6、送信アンテナ7、受信アンテナ8、受信信号用ミキサ9、ローカル信号電力分配器10、ローカル発振器11、位相検出器12及びワンチップマイコン13、位相切替器14a,14b,14c、アンプ15から構成されている。
【0013】
電圧制御発振器1は、PLL回路4から入力される制御電圧に基づいてマイクロ波帯の送信信号を発振する。この送信信号の周波数は、例えば10.525GHzである。カップラ2は、上記電圧制御発振器1と送信アンテナ7との間の信号伝送路に設けられており、電圧制御発振器1から出力された送信信号の一部を送信信号電力分配器3に出力する。
送信信号電力分配器3は、上記カップラ2から入力された送信信号をPLL回路4とアッテネータ5とに電力分配するものである。PLL回路4は、送信信号電力分配器3から入力された送信信号に基づいて上記制御電圧を生成するものである。上記電圧制御発振器1、カップラ2、送信信号電力分配器3及びPLL回路4は、電圧制御発振器1における送信信号の発振を制御する制御ループを形成しており、本実施形態における送信信号発生器に相当する。
【0014】
アッテネータ5は、上記送信信号電力分配器3と送信信号用ミキサ6との間の信号伝送路に設けられており、上記送信信号電力分配器3から入力された送信信号を所定量だけ減衰させて送信信号用ミキサ6に出力する。送信信号用ミキサ6は、アッテネータ5から入力された送信信号をローカル信号電力分配器10から入力されたローカル信号に基づいて低周波送信信号に周波数変換するものであり、本実施形態における送信信号周波数変換器に相当する。
【0015】
送信アンテナ7は、上記送信信号を偏波面が右旋回する送信波として移動検出対象物(例えば岩盤等の壁面)に照射する円偏波アンテナである。受信アンテナ8は、上記送信波が移動検出対象物(図示略)に反射して得られる反射波を捕らえ受信信号を出力する円偏波アンテナである。この反射波は、送信波が移動検出対象物で反射したものなので、偏波面が送信波(右旋回)とは逆で左旋回するマイクロ波となる。これら送信アンテナ7及び受信アンテナ8は、移動検出対象物に対して同一距離となる位置に固定されている。
【0016】
アンプ15は、受信アンテナ8から入力された受信信号を増幅して受信信号用ミキサ9へ出力する。
受信信号用ミキサ9は、アンプ15から入力された受信信号をローカル信号電力分配器10から入力されたローカル信号に基づいて低周波受信信号に周波数変換するものであり、本実施形態における受信信号周波数変換器に相当する。
ローカル発振器11は、ローカル信号を発振してローカル信号電力分配器10に出力するもので、本実施形態におけるローカル信号発生器に相当する。このローカル信号の周波数は、例えば9GHzである。ローカル信号電力分配器10は、ローカル発振器11から入力されたローカル信号を上記送信信号用ミキサ6と受信信号用ミキサ9とに電力分配する。
【0017】
位相検出器12は、送信信号用ミキサ6から入力された低周波送信信号と受信信号用ミキサ9から入力された低周波受信信号との位相差を検出し検出信号をワンチップマイコン13に出力する。この位相検出器12は、図2に示すような位相検出特性、つまり0〜180°の範囲の位相差については検出信号が直線的に増加する特性を、また180°〜360°の範囲の位相差については検出信号が直線的に減少する特性を有している。
【0018】
位相切替器14aは、ワンチップマイコン13Aから制御信号が入力されると、低周波送信信号を遅延させることにより、22°だけ位相を切り替えるものである。位相切替器14bは、ワンチップマイコン13Aから制御信号が入力されると、低周波送信信号を遅延させることにより、44°だけ位相を切り替えるものである。位相切替器14cは、ワンチップマイコン13Aから制御信号が入力されると、低周波送信信号を遅延させることにより、88°だけ位相を切り替えるものである。これらの位相切替器14a,14b,14cは、直列に連結され、送信信号用ミキサ6と位相検出器12との間に設けられている。
【0019】
ワンチップマイコン13は、本実施形態における判定手段に相当するものであり、位相検出器12の検出信号に基づいて移動検出対象物の移動状態を判定し、その判定結果を外部に出力する。このワンチップマイコン13は、上述した検出信号(アナログ信号)を量子化するA/D変換器、所定の判定処理プログラムを記憶する記憶部、A/D変換器から出力されたデジタル信号としての検出データに上記判定処理プログラムに基づく判定処理を施すCPU(Central Processing Unit)、及び当該CPUによる判定処理結果を外部に出力する出力部等から構成されている。
【0020】
また、ワンチップマイコン13は、本実施形態における初期設定手段に相当するものであり、位相検出器12の検出信号に基づいて、初期位相差が、位相検出器12の位相検出特性(図2)における直線領域の中心に最も近くなるように、位相切替器14a,14b,14cを制御する。
【0021】
次に、このように構成された本微小移動検出装置の要部動作について、図3をも参照して詳しく説明する。
【0022】
本微小移動検出装置では、10.525GHzの周波数を有する送信波が送信アンテナ7から移動検出対象物に照射され、この送信波が移動検出対象物で反射して発生した反射波(送信波と同様に10.525GHzの周波数を有する)が受信アンテナ8で捕らえられる。上記送信波の送信タイミングを基準とした反射波の受信タイミングは、送信波が送信アンテナ7から移動検出対象物に伝播する時間に反射波が移動検出対象物から受信アンテナ8に伝搬する時間を加算したものとなる。
【0023】
すなわち、送信波と受信波との位相差は、10.525GHzの周波数を有するマイクロ波(送信波及び受信波)が送信アンテナ7(受信アンテナ8)と移動検出対象物との距離に応じて変化するものとなる。図3に示すように、岩盤の壁面(移動検出対象物)が位置Aにある場合の反射波1と岩盤の壁面が位置Bにある場合の反射波2とは送信波に対する位相差が異なっている。
【0024】
このような送信波と受信波との位相差は、本微小移動検出装置と移動検出対象物との距離に応じた値であり、また送信信号と受信信号との位相差と同義である。したがって、本微小移動検出装置が位置不変に固定設置されている場合、送信信号と受信信号の位相差を検出することによって移動検出対象物の移動状態を判定することが可能である。
【0025】
本微小移動検出装置では、上述した制御ループによって周波数安定性が極めて高い送信信号を発生させ、このような送信信号に基づいて送信アンテナ7から送信波を移動検出対象物に照射して反射波を受信アンテナ8で捕らえる。そして、送信信号を送信信号用ミキサ6で低周波送信信号に周波数変換する一方、受信信号を受信信号用ミキサ9で低周波受信信号に周波数変換し、これら低周波送信信号と低周波受信信号との位相差を位相検出器12で検出する。低周波送信信号と低周波受信信号とは、同一のローカル信号によって周波数変換されたものであり、よってその位相差は、周波数変換前の送信信号と受信信号との位相差と同一である。
【0026】
ワンチップマイコン13に組み込まれた判定処理プログラムには、送信波(受信波)の周波数情報つまり「10.525GHz」がデータとして取り込まれており、ワンチップマイコン13は、判定処理プログラムに基づいて位相検出器12から入力される検出信号、つまり低周波送信信号と低周波受信信号との位相差と送信波(受信波)の周波数とに基づいて移動検出対象物の移動距離を演算する。
【0027】
このような本微小移動検出装置の初期設定動作において、ワンチップマイコン13は、位相検出器12の検出信号に基づいて、初期位相差が、位相検出器12の位相検出特性(図2)における直線領域の中心、つまり90°或いは270°に最も近くなるように、位相切替器14a,14b,14cを制御する。
再度、図2を参照して説明すると、位相検出器12の位相差特性は、実際には90°及び270°の直線性に比べて0°、180°及び360°近傍の直線性が悪いので、より直線性が良好な範囲を位相差検出範囲とするために、初期的には位相差が0〜180°(直線増加領域)或いは180°〜360°(直線減少領域)の中間位置、つまり90°或いは270°に近づけるように設定される。
【0028】
例えば、初期設定前に、位相検出器12の検出信号に基づく位相差が30°程度であれば、ワンチップマイコン13は、位相切替器14aを制御して低周波送信信号を遅延させて位相を22°ずらすと共に、位相切替器14bをも制御して低周波送信信号を更に遅延させて位相を44°ずらすと、位相差は96°程度になる。このように、位相切替器14a,14b,14cは、それぞれが22°,44°,88°だけ位相を切り替えるものであるので、組合せによって、0°,22°,44°,66°,88°,110°,132°,154°の8通りに位相を切り替えることができる。
【0029】
この状態において、移動検出対象物が微小移動検出装置に対して近づく方向あるいは遠ざかる方向に微小移動すると、位相差は90°の近傍から増大あるいは減少し、位相検出器12の検出信号の値は、位相検出特性に沿って、直線的に増大あるいは減少することになって、良好な位相差検出精度を得ることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、位相切替器14a,14b,14cによって低周波送信信号の位相を切り替えるようにしたが、位相切替器14a,14b,14cによって低周波受信信号の位相を切り替えるようにしても良い。
また、本実施形態では、位相切替器14a,14b,14cを3台設けているが、実施にあたっては、3台に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態における微小移動検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における微小移動検出装置の位相検出器12の位相検出特性を示す特性図である。
【図3】本発明の一実施形態における微小移動検出装置の動作原理を示す模式図である。
【符号の説明】
【0032】
1…電圧制御発振器、 2…カップラ、 3…送信信号電力分配器、 4…PLL回路、 5…アッテネータ、 6…送信信号用ミキサ(送信信号周波数変換器)、 7…送信アンテナ、 8…受信アンテナ、 9…受信信号用ミキサ(受信信号周波数変換器)、 10…ローカル信号電力分配器、 11…ローカル発振器(ローカル信号発生器)、 12…位相検出器、 13…ワンチップマイコン(判定手段、初期設定手段)、 14a,14b,14c…位相切替器、 15…アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波帯の波長を有する送信信号を発生する送信信号発生器と、
前記送信信号を送信波として移動検出対象物に照射する送信アンテナと、
前記送信波が移動検出対象物に反射して得られる反射波を捕らえ受信信号を出力する受信アンテナと、
所定周波数のローカル信号を発生するローカル信号発生器と、
ローカル信号を用いて送信信号を低周波送信信号に周波数変換する送信信号周波数変換器と、
ローカル信号を用いて受信信号を低周波受信信号に周波数変換する受信信号周波数変換器と、
低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切り替える位相切替器と、
該位相切替器の後段において低周波送信信号と低周波受信信号との位相差を検出する位相検出器と、
該位相検出器の検出信号に基づいて移動検出対象物の移動状態を判定する判定手段と、
前記位相検出器の検出信号に基づいて、初期位相差が前記位相検出器の位相検出特性における直線領域の中心に最も近くなるように前記位相切替器を制御する初期設定手段と、
を具備することを特徴とする微小移動検出装置。
【請求項2】
位相切替器は、低周波送信信号或いは低周波受信信号のいずれか一方を所定の固定位相分だけ遅延させる信号遅延手段を複数組み合わせてなることを特徴とする請求項1に記載の微小移動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−278932(P2007−278932A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107544(P2006−107544)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000232357)横河電子機器株式会社 (109)
【Fターム(参考)】