説明

微小粒子の検査方法

【課題】微小粒子を含んでいる材料を容易にかつ精度よく検査する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の方法は、均質な微小粒子を含んでいる検査対象における当該微小粒子が有している粒度のばらつきを検査する方法であって、上記微小粒子が溶媒に分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、上記電気泳動後の泳動パターンから上記微小粒子の粒度のばらつきを検査する工程とを包含している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象に含まれている微小粒子が有している粒度のばらつきを検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の微小粒子は、研磨剤、粘土、セラミックス用粉末、顔料、金属触媒および食料品などの成分として一般的に知られている。微小粒子は、その用途に応じて所望の範囲の粒度に収まっていることが求められる。特に、約1nmから100μmの粒度を有している微小粒子の分析は、微小粒子を成分とする材料の開発および品質管理に必要である。微小粒子の分析は、各種の粒度分布測定装置、光学顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、または透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって行われている。
【0003】
微小粒子の分析法の一例として、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した微小粒子を成分とする材料の画像に基づいて、個々の粒子の直径を測定したり、画像解析を行ったりして粒度分布が算出されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−264031号公報(2004年9月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、透過型電子顕微鏡によって観察できる視野が狭いので、材料中に微量に含まれている粗粒または微粒(所望の粒度の範囲から外れている、大きい粒子または小さい粒子)を見落とすおそれがあった。つまり、従来の微小粒子の分析方法は、製品の品質を高度に維持するために十分な精度を提供し得えない。
【0006】
上記課題を鑑みて、本発明の目的は、微小粒子を含んでいる材料を容易にかつ精度よく検査する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、微小粒子を含んでいる材料を容易にかつ精度よく検査する方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の方法は、微小粒子を含んでいる検査対象における当該微小粒子が有している粒度のばらつきを検査する方法であって、上記微小粒子が溶媒に分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、上記電気泳動後の泳動パターンから上記微小粒子の粒度のばらつきを検査する工程とを包含している。
【0009】
また、上記方法において、ばらつきを検査する上記工程が、上記微小粒子を最も多く含んでいる領域よりも、移動度の小さい領域または大きい領域における上記微小粒子が有している粒度を測定する工程であることが好ましい。
【0010】
また、上記方法において、ばらつきを検査する上記工程が、上記電気泳動後の分離媒体の一部を分取し、電子顕微鏡を用いて上記微小粒子を観察する工程であることが好ましい。
【0011】
また、上記方法は、所望の粒度のみを有している微小粒子が分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、上記検査対象における上記微小粒子が分散している液体の第1の泳動パターンと、上記所望の範囲の粒度を有している微小粒子が分散している液体の第2の泳動パターンとを比較する工程とをさらに包含していることが好ましい。
【0012】
また、上記方法において、ばらつきを検査する上記工程が、第1の泳動パターンのみに現れた、微小粒子を含んでいる領域について粒度を測定する工程であることが好ましい。
【0013】
また、上記方法において、上記微小粒子が1nm〜100μmの粒度を有していることが好ましい。
【0014】
また、上記方法において、上記溶媒が極性溶媒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、所望の粒度の範囲から外れている微小粒子が検査対象に含まれているか否かを容易にかつ精度よく検査できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の方法にしたがってTEMによって撮影された、検査対象の材料に含まれている微小粒子の写真を示す図である。
【図2】本発明の方法にしたがって分離した微小粒子の泳動パターンおよび各バンドに含まれている微小粒子のTEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る方法は、微小粒子を含んでいる検査対象における当該微小粒子が有している粒度のばらつきを検査する方法であって、上記微小粒子が溶媒に分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、上記電気泳動後の泳動パターンから上記微小粒子の粒度のばらつきを検査する工程とを包含している。
【0018】
つまり、本願に係る検査方法は、検査対象に含まれている微小粒子を当該微小粒子が有している粒度にしたがって分離する。微小粒子は液体中において特定のゼータポテンシャルを示す。よって、微小粒子は電気泳動において電界の方向に沿って定方向に同一の移動度を有して移動する。微小粒子は、分離媒体によってふるいに掛けられるので、電気泳動による移動度の差は主に微小粒子が有している粒度にしたがう。そして、分離された微小粒子の泳動パターンから検査対象に含まれている微小粒子の粒度のばらつきを検査する。
【0019】
よって、本発明に係る検査方法において、電気泳動によって単一のバンドしか検出されなければ、検査対象が所望の粒度を有している微小粒子(以下、単に“良好な微小粒子”と記載する)のみを含んでいることがわかる。つまり、本発明に係る検査方法は、従来技術と比べて、顕微鏡観察およびそのための試料調製の手間を省き得る。そして、後述する通り、さらなる工程において電気泳動後の微小粒子の測定を行うことによって大きく精度を向上させ得る。
【0020】
本発明に係る検査方法において、ばらつきを検査する上記工程が上記微小粒子を最も多く含んでいる領域よりも、移動度の小さい領域または大きい領域における上記微小粒子が有している粒度を測定する工程であることが好ましい。つまり、検査対象に含まれている微小粒子のうちの、粒度分布の低い領域に対応する微小粒子を選択的に測定するということである。
【0021】
上記構成によれば、検査対象の全体を検査する場合と比べて、所望の範囲から外れている粒度を有している微小粒子(以下、単に“不良な微小粒子”と記載する)が含まれている可能性が比較的に高く、検査すべき量の少ない微小粒子の集合における粒度を測定する。このため、検査対象に不良な粒子が含まれている場合に、少量の微小粒子を測定することによって、不良な微小粒子を見落とすことなく、精度よく見つけることができる。
【0022】
例えば、本発明の検査方法によれば、良好な微小粒子が含まれていると思われる分離媒体の領域よりも移動度の小さい領域における微小粒子を測定すれば、検査対象に含まれている微量の粗粒を容易に検出し得る。また例えば、本発明の検査方法によれば、良好な微小粒子が含まれていると思われる分離媒体の領域よりも移動度の大きい領域における微小粒子を測定すれば、検査対象に含まれている微量の微粒をを容易に検出し得る。ここで、粗粒は所望の範囲よりも比較的または極端に粒度の大きい粒子であり、微粒は所望の範囲よりも比較的または極端に粒度の小さい粒子である。
【0023】
本発明に係る検査方法は、所望の範囲の粒度を有している微小粒子が分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、上記検査対象における上記微小粒子が分散している液体の第1の泳動パターンと、上記所望の粒度のみを有している微小粒子が分散している液体の第2の泳動パターンとを比較する工程とをさらに包含していることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、良好な微小粒子の集合と検査対象との泳動パターンが同一であれば、検査対象が良好な微小粒子を含んでいることがわかる。よって複数のバンドが現れた場合であっても検査対象に含まれている微小粒子の良否を容易に判定することができる。
【0025】
本発明に係る検査方法において、ばらつきを検査する上記工程が、第1の泳動パターンのみに現れた、微小粒子を含んでいる領域について粒度を測定する工程であることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、良好な微小粒子の集合と検査対象との泳動パターンの差に基づいて、微量の粗粒または微粒が含まれている可能性の高い領域を、実際の測定を行うことなく特定し得る。よって無駄な測定を省いてさらに効率的に検査対象に含まれている微小粒子の良否を判定し得る。
【0027】
本発明に係る検査対象に含まれている微小粒子は例えば均質である。本明細書における“均質”という用語は、各微小粒子が同一の組成または性質を示すことを意味している。よって、本明細書において、粒度にばらつきの大きいか、または少ない微小粒子の集合のいずれかを指して“均質な微小粒子”と記載する。上述のように、本発明に係る検査方法における電気泳動は、検査対象に含まれている均質な微小粒子を分離する手法である。つまり、本発明における電気泳動は、種々の組成または性質を示す物質の混合物を分離するのではなく、均質な微小粒子をその粒度にしたがって分離する手法である。
【0028】
しかし、特定の場合に、本発明に係る検査対象に含まれている微小粒子は、異なる組成または性質を示す混合物であり得る。このとき当該混合物における各微小粒子は液体中においてほぼ類似のゼータポテンシャルを示す。したがって、組成または性質が同一ではなくとも、本発明の検査方法における電気泳動によって、微小粒子の混合物をその粒度にしたがって分離することもできる。
【0029】
上記微小粒子が有している粒度は、1nm〜100μmの範囲内であることが好ましい。このような範囲内の粒度を有している微小粒子から、本発明の方法にしたがって適切に、検査対象に含まれている場合に不良な微小粒子を見つけることができる。同様の観点から、上記微小粒子が有している粒度は、より好ましくは1nm〜50μm、最も好ましくは1nm〜30μmの範囲内である。
【0030】
本発明に係る検査方法における検査対象としては、ベンガラ、セリア、コランダムおよびダイヤモンドなどの研磨剤;カオリナイト、モンモリロナイトなどの粘土鉱物;アルミナ、ジルコニアおよび窒化ケイ素などのセラミックス用の粉末;コピー機用のトナー、インクジェットプリンタ用のインクおよび印刷用のインクなどの顔料;コバルト、ニッケル、イットリウム、ランタン、鉄、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムまたはオスミウムなどを含有する金属触媒;ならびに小麦粉およびきな粉などの食料品が挙げられる。このような検査対象は、インクのように溶媒に微小粒子が分散しており、そのまま電気泳動のサンプルとして使用できるもの、または溶媒に分散させてサンプルとして使用できるものであり得る。
【0031】
微小粒子を分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸ビニルエステル、グリセリン、およびエチレングリコールなどの極性溶媒が挙げられる。これらのうち、水、メタノール、エタノール、およびイソプロピルアルコールが好ましく、水が特に好ましい。
【0032】
溶媒における微小粒子の分散度を向上させるために分散剤を使用し得る。分散剤は市販のものから適宜選択され得る。分散剤の例としては、溶媒が水である場合には、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリトンXおよびドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0033】
微小粒子が溶媒に分散している液体を分離媒体に供給する方法としては、スポイト、ピペット、シリンジまたはスパチュラを用いる方法が一般的に挙げられる。これら以外にも、万年筆のペン先のような表面張力を利用する器具を用いる方法、吸水性の媒体(例えばろ紙)に吸着させる方法、およびアトマイザーを用いて分離媒体に噴霧する方法などが挙げられる。
【0034】
電気泳動に使用される分離媒体は、微小粒子が溶媒に分散している液体が浸透し得る、ふるいとして機能する種々の材料である。分離媒体の例としては、ろ紙、シリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲルおよびデンプンゲルなどが挙げられる。
【0035】
電気泳動に使用される電圧条件は、一般的に1V〜500Vであり、25V〜100Vが好ましい。
【0036】
分離後の微小粒子を分取する方法は、例えば、分離媒体がゲル状の場合はメスまたはナイフなどを用いて所望の領域を切り出す方法であり、分離媒体が粉状の場合はスパチュラなどを用いて掻き取る方法である。
【0037】
分取した微小粒子が有している粒度の測定は、例えば、各種の粒度分布測定装置を用いた測定、または光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察であり得る。
【0038】
以上のように、本発明の検査方法によれば、検査対象に含まれている微小粒子の良否を精度よく、かつ容易に判定し得る。本発明は、検査対象の全体からサンプリングすることによって得られた微小粒子の、粒度分布の測定結果、光学顕微鏡観察、SEM観察、またはTEM観察のみでは見逃すおそれのある、検査対象に含まれている微量の粗粒の検出にとって、特に有用である。
【0039】
また、本発明の検査方法は、次のようにして、製品の品質管理に適用し得る。
【0040】
製品から無作為にサンプリングされた微小粒子を、本発明の方法にしたがって分離し、分取してサンプルを得る。このサンプルに含まれている微小粒子の粒度の測定によって、品質情報(粗粒もしくは微粒の有無または粗粒もしくは微粒の量など)を取得する。この品質情報をデータベースなどに蓄積することによって、統計的な品質管理の手法を用いた母集団の標準偏差および平均値の推定などを実施でき、新たに取得した品質情報と蓄積されている品質情報との差について検定を実施できる。また、蓄積されている品質情報に基づいて管理図を作成することよって、ある製品の製造工程を安定に維持させるように管理し得る。
【実施例】
【0041】
より具体的な例として実施例を用いて、本発明をより詳細に説明するが、実施例の記載は、本発明を限定するものではない。
【0042】
まず最初に、日立ハイテクノロジーズ製のHF−2000型の透過型電子顕微鏡によって市販のインクジェットプリンタ用の黒インク(顔料系インク、キャノン製BCI−9BK)を観察した。図1に示すように、多数が密集している状態の粒子が観察され、粒子の粒度は、約20〜30nmであることがわかった。
【0043】
次に同一のインクを本発明の方法にしたがって以下のように検査した。
【0044】
市販のインクジェットプリンタ用の黒インク(顔料系インク、キャノン製BCI−9BK)をサンプルとして用いた。マイクロピペッターを用いて15μlのサンプルを分注した。電気泳動の分離媒体として、1.5%のアガロースおよび0.1%のSDSを含んでいるTAEバッファーを、いったん加熱し、型に流し込んでから冷却させてゲル化させたものを用いた。このとき、サンプルをアプライするためのウェルを設けるためにコームを差し込んでおいた。
【0045】
ウェルにサンプルをアプライし、50Vの電圧において30分間にわたって電気泳動を行った。スキャナによって泳動後のゲルを読み込み、サンプルの泳動パターンを得た(図2上段)。
【0046】
含まれている微小粒子が少ないと見られる、移動度が小さい領域、および含まれている微小粒子が多いと見られる移動度が大きい領域のそれぞれから、片刃の剃刀を用いてゲルの一部を切り出して、TEM観察用の切片を調製した。日立ハイテクノロジーズ製のHF−2000型の透過型電子顕微鏡によって、切片のそれぞれを観察した。電子線の加速電圧を200kVに設定し、50000倍の倍率において観察および写真撮影を行った。
【0047】
図2に示すように、移動度の大きい領域に含まれている微小粒子のほとんどは、50〜100nmの粒度を有していた(下段左側)。一方で、移動度の小さい領域には、約50〜100nmの粒度の粒子を一次粒子とする凝集粒子、および約500nmの粒度を有している粗大な粒子が含まれていた。
【0048】
以上のように、本発明に係る方法にしたがえば、電子顕微鏡を用いた観察のみと比べて、検査対象が不良な粒子を含んでいるか否かを精度よく、かつ容易に検査できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、微小粒子を含んでいる材料の開発または品質管理に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含んでいる検査対象における当該微小粒子が有している粒度のばらつきを検査する方法であって、
上記微小粒子が溶媒に分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、
上記電気泳動後の泳動パターンから上記微小粒子の粒度のばらつきを検査する工程とを包含している方法。
【請求項2】
ばらつきを検査する上記工程が、上記微小粒子を最も多く含んでいる領域よりも、移動度の小さい領域または大きい領域における上記微小粒子が有している粒度を測定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ばらつきを検査する上記工程が、上記電気泳動後の分離媒体の一部を分取し、電子顕微鏡を用いて上記微小粒子を観察する工程である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
所望の粒度のみを有している微小粒子が分散している液体を、ふるいとして機能する分離媒体を用いた電気泳動に供する工程と、
上記検査対象における上記微小粒子が分散している液体の第1の泳動パターンと、上記所望の範囲の粒度を有している微小粒子が分散している液体の第2の泳動パターンとを比較する工程とをさらに包含している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ばらつきを検査する上記工程が、第1の泳動パターンのみに現れた、微小粒子を含んでいる領域について粒度を測定する工程である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記微小粒子が1nm〜100μmの粒度を有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記溶媒が極性溶媒である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−230000(P2012−230000A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98524(P2011−98524)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)