微小粒子測定装置
【課題】測定誤差を簡便な処理によって補正可能な微小粒子測定装置の提供。
【解決手段】微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置を提供する。この微小粒子測定装置では、各受光素子で取得された強度値をそれぞれの受光素子の検出波長域幅で補正することによって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することができる。
【解決手段】微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置を提供する。この微小粒子測定装置では、各受光素子で取得された強度値をそれぞれの受光素子の検出波長域幅で補正することによって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、細胞等の微小粒子の特性を光学的に測定する微小粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメータは、フローセルを通流する細胞やビーズなどの微小粒子に光を照射し、微小粒子から発せられる蛍光及び散乱光などを検出することによって、各微小粒子の特性を光学的に測定する装置である。
【0003】
例えば細胞の蛍光を検出する場合、蛍光色素により標識した細胞にレーザー光などの適当な波長かつ強度を有する励起光を照射する。そして、蛍光色素から発せられる蛍光をレンズなどで集光し、フィルタ又はダイクロイックミラーなどの波長選択素子を用いて適当な波長域の光を選択し、選択された光をPMT(photo multiplier tube)などの受光素子を用いて検出する。このとき、波長選択素子と受光素子とを複数組み合わせることによって、細胞に標識された複数の蛍光色素からの蛍光を同時に検出し、解析することも可能である。さらに、複数波長の励起光を組み合わせることで解析可能な蛍光色素の数を増やすこともできる。
【0004】
フローサイトメータにおける蛍光検出には、フィルタなどの波長選択素子を用いて不連続な波長域の光を複数選択し、各波長域の光の強度を計測する方法の他に、連続した波長域における光の強度を蛍光スペクトルとして計測する方法もある。蛍光スペクトルの計測が可能なスペクトル型フローサイトメータでは、微小粒子から発せられる蛍光を、プリズム又はグレーティングなどの分光素子を用いて分光する。そして、分光された蛍光を、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイを用いて検出する。受光素子アレイには、PMT又はフォトダイオードなどの受光素子を一次元に配列したPMTアレイ又はフォトダイオードアレイ、あるいはCCD又はCMOSなどの2次元受光素子などの独立した検出チャネルが複数並べられたものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フローサイトメータにおける計測値には様々な要因による誤差が含まれている。測定誤差の補正方法としては、例えば、蛍光特性が既知の標準サンプルを用いた方法が汎用されている。この方法は、標準サンプルを複数計測して得た基準値をもとに各受光素子について電流などの出力値と蛍光強度との関係(キャリブレーション情報)を取得し、この関係に基づいて計測値をキャリブレーションするものである。
【0007】
上記の補正方法では、フローサイトメータによる測定の都度に標準サンプルを計測し、レーザー光の出力や受光素子の設定値(例えばPMTであれば電圧など)に応じたキャリブレーション情報を取得する必要があり、非常に煩雑であった。
【0008】
そこで、本技術は、測定誤差を簡便な処理によって補正可能な微小粒子測定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置を提供する。各受光素子で取得された強度値をそれぞれの受光素子の検出波長域幅で補正することによって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することができる。
この微小粒子測定装置は、前記検出部として、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含むスペクトル型微小粒子測定装置、特にはスペクトル型フローサイトメータ、とすることができる。
この微小粒子測定装置において、前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出するよう構成することが好ましい。第一の補正値をそれぞれの受光素子の相対感度で補正することによって、受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することができる。
また、前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力するよう構成され得る。さらに、前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力するように構成されることが好ましい。
【0010】
本技術において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0011】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0012】
本技術により、サンプル解析の都度に標準サンプルを計測しなくとも、測定誤差を補正して正確な解析結果を得ることが可能な微小粒子測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本技術の第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】微小粒子測定装置Aの検出部10の構成を説明する模式図である。
【図3】本技術の第二実施形態に係る微小粒子測定装置Bの検出部10の構成を説明する模式図である。
【図4】微小粒子測定装置Bに関し、補正処理前の強度値に基づく出力データ(A)と補正処理後の強度値に基づく出力データ(B)の例を示す図面代用グラフである。
【図5】実施例で試作したフローサイトメータにおいて、PMTアレイの各PMTの検出波長域を決定した結果を示す図面代用グラフである。
【図6】実施例で試作したフローサイトメータにおいて、PMTアレイの各PMTの相対感度を算出した結果を示す図面代用グラフである。
【図7】実施例において蛍光分光光度計を用いた計測により得られた蛍光ビーズのスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。
【図8】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK505のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図9】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK505のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図10】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK528のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図11】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK549のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図12】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK667のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
(2)蛍光強度の補正処理
[第一の補正強度値の算出]
[第二の補正強度値の算出]
(3)データ表示
(4)データ解析
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
(2)蛍光強度の補正処理
[第一の補正強度値の算出]
[第二の補正強度値の算出]
(3)データ表示
【0015】
1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
図1は、本技術の第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aの機能的構成を説明するブロック図である。また、図2は、微小粒子測定装置Aの検出部10の構成を説明する模式図である。
【0016】
微小粒子測定装置Aは、微小粒子に対してレーザー光を照射して、微小粒子から発せられる蛍光を検出し、検出された蛍光の強度を電気信号に変換して出力する検出部10と、CPU20、メモリ30及びハードディスク(記憶部)40と、を含む。微小粒子測定装置Aにおいて、CPU20、メモリ30及びハードディスク(記憶部)40は処理部を構成する。また、微小粒子測定装置Aは、ユーザインターフェースとして、マウス51及びキーボード52と、ディスプレイ61及びプリンタ62を含んで構成される表示部60と、を含む。
【0017】
検出部10は、従来の微小粒子測定装置と同様の構成とできる。具体的には、光源101からのレーザー光を微小粒子Pに対して集光・照射する照射系と、微小粒子Pから発生する蛍光を分光する分光素子102と分光された光を検出する受光素子アレイ103とを含む検出系と、から構成される。微小粒子測定装置Aにおいて、微小粒子Pは、フローセル内又はマイクロチップに形成された流路内を一列に配列されて通流される。
【0018】
照射系は、光源101の他、微小粒子Pに対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルター等(不図示)からなる。なお光源101は、互いに異なる波長を発光する光源を2つ以上組み合わせたものでもよく、その場合2つ以上のレーザー光が微小粒子Pを照射する場所は、同一であっても異なっていても構わない。また、検出系は、微小粒子Pから発生する蛍光を集光し、分光素子102に導光するための集光レンズ等(不図示)を含んでいてもよい。ここでは、受光素子アレイ103として、検出波長域が異なる32チャネルのPMT(photo multiplier tube)を一次元に配列したPMTアレイを用いた構成を例示した。なお、受光素子アレイ103には、フォトダイオードアレイ、あるいはCCD又はCMOSなどの2次元受光素子などの検出波長域が異なる独立した検出チャネルが複数並べられたものも用いることができる。
【0019】
微小粒子測定装置Aにおいて、検出部10は、蛍光の他、レーザー光の照射によって微小粒子Pから発生する光であって、例えば前方散乱光、側方散乱光、レイリー散乱及びミー散乱等の散乱光なども検出するように構成してもよい。
【0020】
(2)蛍光強度の補正処理
CPU20及びメモリ30は、ハードディスク40に格納された蛍光強度補正プログラム41とOS43と共働して、検出部10から出力される電気信号に基づき、蛍光の強度値の補正処理を行う。この補正処理は、蛍光の強度値を各受光素子(ここではチャネル1〜32のPMT)の検出波長域幅で補正して第一の補正強度値を算出するステップと、第一の補正強度値を各PMTの感度データを用いて補正して第二の補正強度値を算出するステップとを含む。
【0021】
[第一の補正強度値の算出]
第一の補正強度値の算出は、各PMTで取得された蛍光の強度値を、それぞれのPMTの検出波長域幅で除すことにより行われる。
【0022】
具体的には、チャネル1〜32のPMTのうち、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値をI[k、n]とし、チャネルkのPMTの検出下限波長をL[k]かつ検出上限波長をH[k]とする。この場合、第一の補正強度値J1[k、n]は、次の式により算出される。ここで、kは1〜32の整数を表す。
J1[k、n]=I[k、n]/(H[k]−L[k])
【0023】
チャネル1〜32のPMTで検出される光の波長域幅は、分光素子102を含む検出部10の光学系が非線形性を有している場合、各PMT間で異なった幅となる(後掲の図5参照)。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、検出波長幅が広いチャネルでは相対的に高く、検出波長幅が狭いチャネルでは相対的に低くなり、このことが測定誤差の要因となる。
【0024】
特に、分光素子102により分光された蛍光を受光素子アレイ103を用いて検出し、微小粒子Pの蛍光スペクトルを計測する場合、各PMTで取得される蛍光の強度値をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、上記測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じる。すなわち、横軸をチャネル番号、縦軸を強度値とした2次元グラフ(以下、「スペクトルチャート」と称する)を、横軸を検出波長、縦軸を強度値としたスペクトルチャートと比較すると、前者では検出波長幅が広いチャネルほど強度値が相対的に大きくなる。このため、両者の蛍光スペクトル形状は一致せず、ずれが生じることとなる。
【0025】
各PMTで取得された蛍光の強度値をそれぞれのPMTの検出波長域幅で除して得られる第一の補正強度値では、このような光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0026】
各PMTの検出波長幅(H[k]−L[k])は、検出部10を構成する分光素子102、集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルターなどの光学素子の種類や配置によって一意に決定される(後掲の図5参照)。このため、光学素子の選定及び配置を含む装置設計が完了した段階で、各PMTの検出波長幅を取得しておくことで、各PMTで取得された蛍光の強度値から第一の補正強度値を算出することが可能となる。
【0027】
[第二の補正強度値の算出]
第二の補正強度値の算出は、各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除すことにより行われる。
【0028】
具体的には、チャネル1〜32のPMTのうち、チャネルkのPMTの相対感度をS[k]とする。この場合、第二の補正強度値J2[k、n]は、次の式により算出される。
J2[k、n]=J1[k、n]/S[k]
【0029】
ここで、相対感度とは、同一強度及び同一波長の光をPMTに照射して各チャネルで得られた強度値を、最も高い強度値が得られたチャネルの強度値に対する相対値により示したものである。相対感度は、同一強度及び同一波長の光をPMTに照射した場合に各チャネルから出力される電気信号量を記録した感度データから予め算出しておくことができる。この感度データは、各PMTに内在する感度差と、ユーザによって各PMTに設定された感度差(ゲイン)の両方が反映されたものである。なお、ゲインは、ユーザが印加電圧などの設定値を変化させることによって適宜調整が可能である。
【0030】
チャネル1〜32のPMTの感度は、PMTの個体差及びゲインの設定差によって、各PMT間で異なる(後掲の図6参照)。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、感度が高いチャネルでは相対的に高く、感度が低いチャネルでは相対的に低くなり、このことも測定誤差の要因となっている。
【0031】
特に、分光素子102により分光された蛍光を受光素子アレイ103を用いて検出し、微小粒子Pの蛍光スペクトルを計測する場合、各PMTで取得される蛍光の強度値をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、上記測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じる。すなわち、感度が高いチャネルほど強度値が相対的に大きくなっているため、蛍光スペクトル形状がいびつとなり、不正確なものとなる。
【0032】
各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除して得られる第二の補正強度値では、このような受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0033】
(3)データ表示
CPU20、メモリ30及びハードディスク40を含んで構成される処理部は、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を座標軸としたスペクトルチャートを生成して、表示部60に出力する。
【0034】
スペクトルチャートは、各PMTの検出波長を横軸にとり、第一の補正強度値を縦軸にとったものとできる(後掲の図8〜12の(B)参照)。また、スペクトルチャートは、好ましくは、検出波長を横軸にとり、第二の補正強度値を縦軸にとったものとされる(後掲の図8〜12の(C)参照)。
【0035】
スペクトルチャートには、所定の検出波長において所定の蛍光強度値で検出された微小粒子の数(イベント数あるいは密度)に基づいて、強度値を平均値や標準誤差、中央値、四分位点などの統計的な数値で表示することができる(後掲の図9参照)。さらに、スペクトルチャートを、イベント数をとった座標軸を追加した3次元グラフとして表示することもでき、この3次元グラフを疑似3D表示することもできる。また、微小粒子の数(イベント数あるいは密度)に関する情報(頻度情報)を反映させた色相、彩度及び/又は明度によりスペクトルチャートを多色表示することも可能である(後掲の図8参照)。
【0036】
(4)データ解析
CPU20、メモリ30及びハードディスク40を含んで構成される処理部は、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を第一のパラメータ、各PMTの検出波長を第二のパラメータとするスペクトルデータを生成し、これを用いて各種の解析を実行することができる。ここで第一のパラメータは、計測を行った複数の微小粒子Pの全てあるいは一部について計算した、第一の補正強度値又は第二の補正強度値の平均値、標準誤差、中央値及び四分位点などの統計的な数値とできる。
【0037】
また、処理部は、生成されたスペクトルデータと、ハードディスク(記憶部)40に保持された基準スペクトルデータとを比較して、両者の一致度を評価することができる。さらに、その結果を表示部60に出力することもできる。ここで、基準スペクトルデータとは、既知の蛍光物質を含んでなる微小粒子を事前に微小粒子測定装置Aで測定し、上述の補正処理を施すことによって得たスペクトルデータか、あるいは当該蛍光物質の蛍光スペクトルを通常の蛍光分光光度計により計測して得たスペクトルデータの、いずれであってもよい。これは、微小粒子測定装置Aより得られた計測値が、補正によって通常の蛍光分光光度計で得られた計測値と直接比較可能となるためである。基準スペクトルデータは、ハードディスク40内にリファレンスデータ42として蓄積されている。基準スペクトルデータとの一致度の評価方法には、例えば各検出波長における差分の和、差分の絶対値の和、差分の二乗和などを利用できる。
【0038】
微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータについて、1ないし2以上の基準スペクトルデータとの比較を行うことにより、測定を行った微小粒子Pが発する蛍光が、基準スペクトルデータに記録された蛍光のうちのいずれかと類似するか否かを判定することができる。これにより、例えば測定を行った微小粒子Pに含まれる蛍光物質の種類が不明な場合において、記録された基準スペクトルデータの中から類似度が高いものを探索して、微小粒子Pに含まれる蛍光物質の種類を予測することが可能となる。
【0039】
さらに、微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータについて、同一の微小粒子Pについてあらかじめ計測して得ておいた基準スペクトルデータとの比較を行うことにより、微小粒子測定装置Aの状態診断を行うこともできる。すなわち、微小粒子測定装置Aは、受光素子アレイの動作異常、フローセルないしマイクロチップ内における微小粒子の流れの乱れ、レンズや分光素子など各部品の温度変化や振動などによるずれなどの影響によってその状態が悪化し、計測の正確性が低下する場合がある。このような装置状態を診断する目的で、同一サンプルを微小粒子測定装置Aと蛍光分光光度計とで測定し、その結果の比較を行うことは、有力な方法であるといえる。本技術によれば、微小粒子測定装置Aで得られた計測結果を蛍光分光光度計と直接比較可能となるため、状態診断を簡便かつ正確に行うことが可能となる。
【0040】
加えて、微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータに対して、複数の基準スペクトルデータを用いたコンペンセーション処理を行うことにより、微小粒子Pに含まれる複数の蛍光色素の定量を行うことができる。例えば微小粒子Pが複数の色素{D1, D2, …, Dn}で染色されている場合、コンペンセーション処理に用いる基準スペクトルデータには、{D1, D2, …, Dn}の各蛍光色素で単染色されたサンプルより得られたものが含まれることが望ましい。コンペンセーション処理の方法としては、例えば最小二乗法を採用することができる。
【0041】
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
図3は、本技術の第二実施形態に係る微小粒子測定装置Bの検出部10の構成を説明する模式図である。微小粒子測定装置Bの機能的構成は、図1に示した第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aと同様であるので説明を省略する。
【0042】
微小粒子測定装置Bは、フィルタなどの波長選択素子を用いて不連続な波長域の光を複数選択し、各波長域の光の強度を計測する点で、連続した波長域における光の強度を蛍光スペクトルとして計測する微小粒子測定装置Aと異なっている。
【0043】
微小粒子測定装置Bの検出部10は、光源101からのレーザー光を微小粒子Pに対して集光・照射する照射系と、微小粒子Pから発生する蛍光から所定の波長域の光を選択する波長選択素子104〜106と選択された光を検出する受光素子107〜110とを含む検出系と、から構成される。微小粒子測定装置Bにおいて、微小粒子Pは、フローセル内又はマイクロチップに形成された流路内を一列に配列されて通流される。
【0044】
照射系は、光源101の他、微小粒子Pに対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルター等(不図示)からなる。なお光源101は、互いに異なる波長を発光する光源を2つ以上組み合わせたものでもよく、その場合2つ以上のレーザー光が微小粒子Pを照射する場所は、同一であっても異なっていても構わない。また、検出系は、微小粒子Pから発生する蛍光を集光し、波長選択素子104に導光するための集光レンズ等(不図示)を含んでいてもよい。ここでは、受光素子107〜110として、検出波長域が異なるPMT(photo multiplier tube)を用いた構成を例示した。以下、受光素子107〜110のチャネル番号を1〜4とする。なお、受光素子107〜110には、フォトダイオードを用いることもできる。
【0045】
微小粒子測定装置Bにおいて、検出部10を、蛍光に加えて散乱光なども検出するように構成できる点は、微小粒子測定装置Aと同様である。
【0046】
(2)蛍光強度の補正処理
微小粒子測定装置Bは、検出部10から出力される電気信号に基づき、蛍光の強度値の補正処理を行う。この補正処理は、蛍光の強度値を各受光素子(ここではチャネル1〜4のPMT)の検出波長域幅で補正して第一の補正強度値を算出するステップと、第一の補正強度値を各PMTの感度データを用いて補正して第二の補正強度値を算出するステップとを含む。
【0047】
[第一の補正強度値の算出]
第一の補正強度値を算出は、各PMTで取得された蛍光の強度値を、それぞれのPMTの検出波長域幅で除すことにより行われる。
【0048】
具体的には、チャネル1〜4のPMTのうち、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値をI[k、n]とし、チャネルkのPMTの検出下限波長をL[k]かつ検出上限波長をH[k]とする。この場合、第一の補正強度値J1[k、n]は、次の式により算出される。ここで、kは1〜4の整数を表す。
J1[k、n]=I[k、n]/(H[k]−L[k])
【0049】
チャネル1〜4のPMTで検出される光の波長域幅は、波長選択素子104〜106を含む検出部10の光学系が非線形性を有している場合、各PMT間で異なった幅となる。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、検出波長幅が広いチャネルでは相対的に高く、検出波長幅が狭いチャネルでは相対的に低くなり、このことが測定誤差の要因となる。
【0050】
各PMTで取得された蛍光の強度値をそれぞれのPMTの検出波長域幅で除して得られる第一の補正強度値では、このような光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0051】
各PMTの検出波長幅(H[k]−L[k])は、検出部10を構成する波長選択素子104〜106、集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルターなどの光学素子の種類や配置によって一意に決定される。このため、光学素子の選定及び配置を含む装置設計が完了した段階で、各PMTの検出波長幅を取得しておくことで、各PMTで取得された蛍光の強度値から第一の補正強度値を算出することが可能となる。
【0052】
[第二の補正強度値の算出]
第二の補正強度値の算出は、各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除すことにより行われる。
【0053】
具体的には、チャネル1〜4のPMTのうち、チャネルkのPMTの相対感度をS[k]とする。この場合、第二の補正強度値J2[k、n]は、次の式により算出される。
J2[k、n]=J1[k、n]/S[k]
【0054】
チャネル1〜4のPMTの感度は、PMTの個体差及びゲインの設定差によって、各PMT間で異なる。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、感度が高いチャネルでは相対的に高く、感度が低いチャネルでは相対的に低くなり、このことも測定誤差の要因となっている。
【0055】
各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除して得られる第二の補正強度値では、このような受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0056】
(3)データ表示
微小粒子測定装置Bは、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を座標軸とした2次元グラフを生成して、表示部60に出力する。
【0057】
2次元グラフは、各PMTの検出波長を横軸にとり、第一の補正強度値又は第二の補正強度値を縦軸にとったものとできる。図4(A)に補正処理前のグラフ、(B)に第二の補正強度値によるグラフを示す。図4(A)は、横軸にチャネル番号k(kは1〜4の整数)、縦軸に各チャネルで取得された蛍光の強度値(I[k])の対数をとったグラフである。また、図4(B)は、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の補正値(J1[k]又はJ2[k])の対数をとったグラフである。
【0058】
微小粒子測定装置Bでは、上記の補正処理によって、波長選択素子を用いて選択した不連続な波長域の光の強度の計測結果を、装置の光学系の非線形性及び受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償した状態で表示させることが可能である。
【0059】
本技術に係る微小粒子測定装置は以下のような構成をとることもできる。
(1)微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置。
(2)前記検出部は、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含む上記(1)記載の微小粒子測定装置。
(3)前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出する上記(2)記載の微小粒子測定装置。
(4)前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力する上記(2)又は(3)記載の微小粒子測定装置。
(5)前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力する上記(4)記載の微小粒子測定装置。
(6)スペクトル型フローサイトメータである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の微小粒子測定装置。
【実施例】
【0060】
図2に示した構成の検出部を備えたスペクトル型フローサイトメータを試作した。光源には、波長488nmのレーザーダイオードと波長638nmのレーザーダイオードを用いた。また、分光素子には、複数のプリズムを組み合わせたプリズムアレイを用いた。受光素子アレイには、32チャネルのPMTアレイを使用し、波長500nmから800nmの蛍光を分光検出した。
【0061】
試作した装置において、各PMTの検出波長域を決定したグラフを図5に示す。グラフ中の「×」は各チャネルのPMTの検出下限波長(L[k])を、「○」は検出上限波長(H[k])を示す。ここで、kは1〜32の整数を表す。各PMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])は、チャネル番号が大きい長波長側のPMTほど広くなっていることが確認される。なお、波長638nm付近の蛍光を検出するチャネル21番前後のPMTでは、波長638nmの光源からのレーザー光の漏れ込みを防止する光学フィルタによって、検出される蛍光も制限されている。
【0062】
また、各PMTの相対感度を算出したグラフを図6に示す。相対感度は、同一強度及び同一波長の光を各PMTに照射して各チャネルで得られた強度値を、最も高い強度値が得られたチャネル32の強度値を1とした相対値により示した。
【0063】
初めに、F-4500型蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて市販の蛍光ビーズの蛍光スペクトルを計測した。蛍光ビーズには、Sherotech社より入手したFluorescent Particle Kit (FPK)505、FPK528、FPK549、FPK667の4種を用いた。得られたスペクトルチャート(基準スペクトルチャート)を図7に示す。(A)はFPK505、(B)はFPK528、(C)はFPK549、(D)はFPK667の蛍光スペクトルを示す。横軸は蛍光波長(500〜800nm)、縦軸は蛍光強度値(対数表示)である。なお、レーザー光の励起波長は、(A)〜(C)が波長488nm、(D)が波長638nmである。
【0064】
次に、試作した装置を用いて蛍光ビーズの蛍光スペクトルを計測した。得られたスペクトルチャートを図8〜12に示す。図8及び図9はFPK505、図10はFPK528、図11はFPK549、図12はFPK667のチャートを示す。なお、図8では各チャネルでのイベント数をスペクトルの色によって表示した。また、図9では強度値をイベント数に基づく平均値(実線)及び平均値±標準偏差(破線)で表示している。
【0065】
図8〜12の(A)は、横軸にチャネル番号、縦軸に各チャネルで取得された蛍光の強度値(I[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。
【0066】
図8〜12の(A)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と明らかに異なっている。このことは、PMTで取得される蛍光の強度値(I[k])をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、装置の光学系の非線形性及び受光素子間の感度差に起因した測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じていることを示している。
【0067】
図8〜12の(B)には、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の第一の補正値(J1[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。第一の補正強度値J1[k]は、各PMTで取得された蛍光の強度値(I[k])を、図5に示したそれぞれのPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除すことにより得た。より具体的には、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値I[k、n]をPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除して第一の補正強度値J1[k、n]を得て、J1[k、n]の分布を横軸L[k]〜H[k]の範囲に描画してスペクトルチャートを作成した。
【0068】
図8〜12の(B)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と概ね一致している。このことは、各PMTで取得された蛍光の強度値(I[k])をそれぞれのPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除す補正処理によって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償して、スペクトル形状の歪みを補正できたことを示している。
【0069】
図8〜12の(C)には、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の第二の補正値(J2[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。第二の補正強度値J2[k]は、第一の補正強度値(J1[k])を、図6に示したそれぞれのPMTの相対感度(S[k])で除すことにより得た。
【0070】
図8〜12の(C)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と良く一致している。特に、図8〜12の(B)の第一の補正値(J1[k])に基づくスペクトルチャートでは、波長500nm付近の領域でPMTの感度差に起因すると思われるスペクトル形状の歪みがみられたが、図8〜12の(C)の第二の補正値(J2[k])に基づくスペクトルチャートでは、この歪みが補正されている。このことは、第一の補正値(J1[k])をそれぞれのPMTの相対感度(S[k])で除す補正処理によって、受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償して、スペクトル形状の歪みを補正できることが示された。
【0071】
以上の結果から、本技術に係る微小粒子測定装置によれば、微小粒子について、通常の蛍光分光光度計により計測して得られる基準スペクトルチャートと良く一致するスペクトル形状を計測可能であることが分かる。
【0072】
このため、本技術に係る微小粒子測定装置では、標識された蛍光色素の種類や量が未知のサンプルについて得られたスペクトル形状を、既知の蛍光物質のスペクトル形状を記録したデータベース(リフェレンスデータ)から検索することにより、サンプルに標識された蛍光色素の種類や量を推定することも可能となる。
【0073】
また、本技術に係る微小粒子測定装置では、複数の蛍光色素で標識されたサンプルを解析する際のコンペンセーション計算を、従来必要とされていた各蛍光色素で単染色されたサンプルの計測を行うことなく、予め計測した各蛍光色素の蛍光スペクトルを用いて行うことも可能となる。そして、これにより、サンプル解析のための手間や時間、試薬などのリソースを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本技術に係る微小粒子測定装置によれば、サンプル解析の都度に標準サンプルを計測しなくとも、測定誤差を補正して正確な解析結果を得ることができる。従って、本技術に係る微小粒子測定装置は、細胞等の微小粒子の光学特性をより詳細に解析するため寄与する。
【符号の説明】
【0075】
A:微小粒子測定装置、P:微小粒子、10:検出部、101:光源、102:分光素子、103:受光素子アレイ、104〜106:波長選択素子、107〜110:受光素子、20:CPU、30:メモリ、40:ハードディスク(記憶部)、41:蛍光強度補正プログラム、42:リファレンスデータ、43:OS、51:マウス、52:キーボード、60:表示部、61:ディスプレイ、62:プリンタ
【技術分野】
【0001】
本技術は、細胞等の微小粒子の特性を光学的に測定する微小粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメータは、フローセルを通流する細胞やビーズなどの微小粒子に光を照射し、微小粒子から発せられる蛍光及び散乱光などを検出することによって、各微小粒子の特性を光学的に測定する装置である。
【0003】
例えば細胞の蛍光を検出する場合、蛍光色素により標識した細胞にレーザー光などの適当な波長かつ強度を有する励起光を照射する。そして、蛍光色素から発せられる蛍光をレンズなどで集光し、フィルタ又はダイクロイックミラーなどの波長選択素子を用いて適当な波長域の光を選択し、選択された光をPMT(photo multiplier tube)などの受光素子を用いて検出する。このとき、波長選択素子と受光素子とを複数組み合わせることによって、細胞に標識された複数の蛍光色素からの蛍光を同時に検出し、解析することも可能である。さらに、複数波長の励起光を組み合わせることで解析可能な蛍光色素の数を増やすこともできる。
【0004】
フローサイトメータにおける蛍光検出には、フィルタなどの波長選択素子を用いて不連続な波長域の光を複数選択し、各波長域の光の強度を計測する方法の他に、連続した波長域における光の強度を蛍光スペクトルとして計測する方法もある。蛍光スペクトルの計測が可能なスペクトル型フローサイトメータでは、微小粒子から発せられる蛍光を、プリズム又はグレーティングなどの分光素子を用いて分光する。そして、分光された蛍光を、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイを用いて検出する。受光素子アレイには、PMT又はフォトダイオードなどの受光素子を一次元に配列したPMTアレイ又はフォトダイオードアレイ、あるいはCCD又はCMOSなどの2次元受光素子などの独立した検出チャネルが複数並べられたものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フローサイトメータにおける計測値には様々な要因による誤差が含まれている。測定誤差の補正方法としては、例えば、蛍光特性が既知の標準サンプルを用いた方法が汎用されている。この方法は、標準サンプルを複数計測して得た基準値をもとに各受光素子について電流などの出力値と蛍光強度との関係(キャリブレーション情報)を取得し、この関係に基づいて計測値をキャリブレーションするものである。
【0007】
上記の補正方法では、フローサイトメータによる測定の都度に標準サンプルを計測し、レーザー光の出力や受光素子の設定値(例えばPMTであれば電圧など)に応じたキャリブレーション情報を取得する必要があり、非常に煩雑であった。
【0008】
そこで、本技術は、測定誤差を簡便な処理によって補正可能な微小粒子測定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置を提供する。各受光素子で取得された強度値をそれぞれの受光素子の検出波長域幅で補正することによって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することができる。
この微小粒子測定装置は、前記検出部として、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含むスペクトル型微小粒子測定装置、特にはスペクトル型フローサイトメータ、とすることができる。
この微小粒子測定装置において、前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出するよう構成することが好ましい。第一の補正値をそれぞれの受光素子の相対感度で補正することによって、受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することができる。
また、前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力するよう構成され得る。さらに、前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力するように構成されることが好ましい。
【0010】
本技術において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0011】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0012】
本技術により、サンプル解析の都度に標準サンプルを計測しなくとも、測定誤差を補正して正確な解析結果を得ることが可能な微小粒子測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本技術の第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】微小粒子測定装置Aの検出部10の構成を説明する模式図である。
【図3】本技術の第二実施形態に係る微小粒子測定装置Bの検出部10の構成を説明する模式図である。
【図4】微小粒子測定装置Bに関し、補正処理前の強度値に基づく出力データ(A)と補正処理後の強度値に基づく出力データ(B)の例を示す図面代用グラフである。
【図5】実施例で試作したフローサイトメータにおいて、PMTアレイの各PMTの検出波長域を決定した結果を示す図面代用グラフである。
【図6】実施例で試作したフローサイトメータにおいて、PMTアレイの各PMTの相対感度を算出した結果を示す図面代用グラフである。
【図7】実施例において蛍光分光光度計を用いた計測により得られた蛍光ビーズのスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。
【図8】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK505のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図9】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK505のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図10】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK528のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図11】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK549のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【図12】実施例において試作したフローサイトメータを用いた計測により得られた蛍光ビーズFPK667のスペクトルチャートを示す図面代用グラフである。(A)は補正処理前のチャート、(B)は第一の補正強度値によるチャート、(C)は第二の補正強度値によるチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
(2)蛍光強度の補正処理
[第一の補正強度値の算出]
[第二の補正強度値の算出]
(3)データ表示
(4)データ解析
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
(2)蛍光強度の補正処理
[第一の補正強度値の算出]
[第二の補正強度値の算出]
(3)データ表示
【0015】
1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
図1は、本技術の第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aの機能的構成を説明するブロック図である。また、図2は、微小粒子測定装置Aの検出部10の構成を説明する模式図である。
【0016】
微小粒子測定装置Aは、微小粒子に対してレーザー光を照射して、微小粒子から発せられる蛍光を検出し、検出された蛍光の強度を電気信号に変換して出力する検出部10と、CPU20、メモリ30及びハードディスク(記憶部)40と、を含む。微小粒子測定装置Aにおいて、CPU20、メモリ30及びハードディスク(記憶部)40は処理部を構成する。また、微小粒子測定装置Aは、ユーザインターフェースとして、マウス51及びキーボード52と、ディスプレイ61及びプリンタ62を含んで構成される表示部60と、を含む。
【0017】
検出部10は、従来の微小粒子測定装置と同様の構成とできる。具体的には、光源101からのレーザー光を微小粒子Pに対して集光・照射する照射系と、微小粒子Pから発生する蛍光を分光する分光素子102と分光された光を検出する受光素子アレイ103とを含む検出系と、から構成される。微小粒子測定装置Aにおいて、微小粒子Pは、フローセル内又はマイクロチップに形成された流路内を一列に配列されて通流される。
【0018】
照射系は、光源101の他、微小粒子Pに対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルター等(不図示)からなる。なお光源101は、互いに異なる波長を発光する光源を2つ以上組み合わせたものでもよく、その場合2つ以上のレーザー光が微小粒子Pを照射する場所は、同一であっても異なっていても構わない。また、検出系は、微小粒子Pから発生する蛍光を集光し、分光素子102に導光するための集光レンズ等(不図示)を含んでいてもよい。ここでは、受光素子アレイ103として、検出波長域が異なる32チャネルのPMT(photo multiplier tube)を一次元に配列したPMTアレイを用いた構成を例示した。なお、受光素子アレイ103には、フォトダイオードアレイ、あるいはCCD又はCMOSなどの2次元受光素子などの検出波長域が異なる独立した検出チャネルが複数並べられたものも用いることができる。
【0019】
微小粒子測定装置Aにおいて、検出部10は、蛍光の他、レーザー光の照射によって微小粒子Pから発生する光であって、例えば前方散乱光、側方散乱光、レイリー散乱及びミー散乱等の散乱光なども検出するように構成してもよい。
【0020】
(2)蛍光強度の補正処理
CPU20及びメモリ30は、ハードディスク40に格納された蛍光強度補正プログラム41とOS43と共働して、検出部10から出力される電気信号に基づき、蛍光の強度値の補正処理を行う。この補正処理は、蛍光の強度値を各受光素子(ここではチャネル1〜32のPMT)の検出波長域幅で補正して第一の補正強度値を算出するステップと、第一の補正強度値を各PMTの感度データを用いて補正して第二の補正強度値を算出するステップとを含む。
【0021】
[第一の補正強度値の算出]
第一の補正強度値の算出は、各PMTで取得された蛍光の強度値を、それぞれのPMTの検出波長域幅で除すことにより行われる。
【0022】
具体的には、チャネル1〜32のPMTのうち、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値をI[k、n]とし、チャネルkのPMTの検出下限波長をL[k]かつ検出上限波長をH[k]とする。この場合、第一の補正強度値J1[k、n]は、次の式により算出される。ここで、kは1〜32の整数を表す。
J1[k、n]=I[k、n]/(H[k]−L[k])
【0023】
チャネル1〜32のPMTで検出される光の波長域幅は、分光素子102を含む検出部10の光学系が非線形性を有している場合、各PMT間で異なった幅となる(後掲の図5参照)。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、検出波長幅が広いチャネルでは相対的に高く、検出波長幅が狭いチャネルでは相対的に低くなり、このことが測定誤差の要因となる。
【0024】
特に、分光素子102により分光された蛍光を受光素子アレイ103を用いて検出し、微小粒子Pの蛍光スペクトルを計測する場合、各PMTで取得される蛍光の強度値をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、上記測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じる。すなわち、横軸をチャネル番号、縦軸を強度値とした2次元グラフ(以下、「スペクトルチャート」と称する)を、横軸を検出波長、縦軸を強度値としたスペクトルチャートと比較すると、前者では検出波長幅が広いチャネルほど強度値が相対的に大きくなる。このため、両者の蛍光スペクトル形状は一致せず、ずれが生じることとなる。
【0025】
各PMTで取得された蛍光の強度値をそれぞれのPMTの検出波長域幅で除して得られる第一の補正強度値では、このような光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0026】
各PMTの検出波長幅(H[k]−L[k])は、検出部10を構成する分光素子102、集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルターなどの光学素子の種類や配置によって一意に決定される(後掲の図5参照)。このため、光学素子の選定及び配置を含む装置設計が完了した段階で、各PMTの検出波長幅を取得しておくことで、各PMTで取得された蛍光の強度値から第一の補正強度値を算出することが可能となる。
【0027】
[第二の補正強度値の算出]
第二の補正強度値の算出は、各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除すことにより行われる。
【0028】
具体的には、チャネル1〜32のPMTのうち、チャネルkのPMTの相対感度をS[k]とする。この場合、第二の補正強度値J2[k、n]は、次の式により算出される。
J2[k、n]=J1[k、n]/S[k]
【0029】
ここで、相対感度とは、同一強度及び同一波長の光をPMTに照射して各チャネルで得られた強度値を、最も高い強度値が得られたチャネルの強度値に対する相対値により示したものである。相対感度は、同一強度及び同一波長の光をPMTに照射した場合に各チャネルから出力される電気信号量を記録した感度データから予め算出しておくことができる。この感度データは、各PMTに内在する感度差と、ユーザによって各PMTに設定された感度差(ゲイン)の両方が反映されたものである。なお、ゲインは、ユーザが印加電圧などの設定値を変化させることによって適宜調整が可能である。
【0030】
チャネル1〜32のPMTの感度は、PMTの個体差及びゲインの設定差によって、各PMT間で異なる(後掲の図6参照)。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、感度が高いチャネルでは相対的に高く、感度が低いチャネルでは相対的に低くなり、このことも測定誤差の要因となっている。
【0031】
特に、分光素子102により分光された蛍光を受光素子アレイ103を用いて検出し、微小粒子Pの蛍光スペクトルを計測する場合、各PMTで取得される蛍光の強度値をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、上記測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じる。すなわち、感度が高いチャネルほど強度値が相対的に大きくなっているため、蛍光スペクトル形状がいびつとなり、不正確なものとなる。
【0032】
各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除して得られる第二の補正強度値では、このような受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0033】
(3)データ表示
CPU20、メモリ30及びハードディスク40を含んで構成される処理部は、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を座標軸としたスペクトルチャートを生成して、表示部60に出力する。
【0034】
スペクトルチャートは、各PMTの検出波長を横軸にとり、第一の補正強度値を縦軸にとったものとできる(後掲の図8〜12の(B)参照)。また、スペクトルチャートは、好ましくは、検出波長を横軸にとり、第二の補正強度値を縦軸にとったものとされる(後掲の図8〜12の(C)参照)。
【0035】
スペクトルチャートには、所定の検出波長において所定の蛍光強度値で検出された微小粒子の数(イベント数あるいは密度)に基づいて、強度値を平均値や標準誤差、中央値、四分位点などの統計的な数値で表示することができる(後掲の図9参照)。さらに、スペクトルチャートを、イベント数をとった座標軸を追加した3次元グラフとして表示することもでき、この3次元グラフを疑似3D表示することもできる。また、微小粒子の数(イベント数あるいは密度)に関する情報(頻度情報)を反映させた色相、彩度及び/又は明度によりスペクトルチャートを多色表示することも可能である(後掲の図8参照)。
【0036】
(4)データ解析
CPU20、メモリ30及びハードディスク40を含んで構成される処理部は、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を第一のパラメータ、各PMTの検出波長を第二のパラメータとするスペクトルデータを生成し、これを用いて各種の解析を実行することができる。ここで第一のパラメータは、計測を行った複数の微小粒子Pの全てあるいは一部について計算した、第一の補正強度値又は第二の補正強度値の平均値、標準誤差、中央値及び四分位点などの統計的な数値とできる。
【0037】
また、処理部は、生成されたスペクトルデータと、ハードディスク(記憶部)40に保持された基準スペクトルデータとを比較して、両者の一致度を評価することができる。さらに、その結果を表示部60に出力することもできる。ここで、基準スペクトルデータとは、既知の蛍光物質を含んでなる微小粒子を事前に微小粒子測定装置Aで測定し、上述の補正処理を施すことによって得たスペクトルデータか、あるいは当該蛍光物質の蛍光スペクトルを通常の蛍光分光光度計により計測して得たスペクトルデータの、いずれであってもよい。これは、微小粒子測定装置Aより得られた計測値が、補正によって通常の蛍光分光光度計で得られた計測値と直接比較可能となるためである。基準スペクトルデータは、ハードディスク40内にリファレンスデータ42として蓄積されている。基準スペクトルデータとの一致度の評価方法には、例えば各検出波長における差分の和、差分の絶対値の和、差分の二乗和などを利用できる。
【0038】
微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータについて、1ないし2以上の基準スペクトルデータとの比較を行うことにより、測定を行った微小粒子Pが発する蛍光が、基準スペクトルデータに記録された蛍光のうちのいずれかと類似するか否かを判定することができる。これにより、例えば測定を行った微小粒子Pに含まれる蛍光物質の種類が不明な場合において、記録された基準スペクトルデータの中から類似度が高いものを探索して、微小粒子Pに含まれる蛍光物質の種類を予測することが可能となる。
【0039】
さらに、微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータについて、同一の微小粒子Pについてあらかじめ計測して得ておいた基準スペクトルデータとの比較を行うことにより、微小粒子測定装置Aの状態診断を行うこともできる。すなわち、微小粒子測定装置Aは、受光素子アレイの動作異常、フローセルないしマイクロチップ内における微小粒子の流れの乱れ、レンズや分光素子など各部品の温度変化や振動などによるずれなどの影響によってその状態が悪化し、計測の正確性が低下する場合がある。このような装置状態を診断する目的で、同一サンプルを微小粒子測定装置Aと蛍光分光光度計とで測定し、その結果の比較を行うことは、有力な方法であるといえる。本技術によれば、微小粒子測定装置Aで得られた計測結果を蛍光分光光度計と直接比較可能となるため、状態診断を簡便かつ正確に行うことが可能となる。
【0040】
加えて、微小粒子Pを微小粒子測定装置Aで測定し、これを補正して得たスペクトルデータに対して、複数の基準スペクトルデータを用いたコンペンセーション処理を行うことにより、微小粒子Pに含まれる複数の蛍光色素の定量を行うことができる。例えば微小粒子Pが複数の色素{D1, D2, …, Dn}で染色されている場合、コンペンセーション処理に用いる基準スペクトルデータには、{D1, D2, …, Dn}の各蛍光色素で単染色されたサンプルより得られたものが含まれることが望ましい。コンペンセーション処理の方法としては、例えば最小二乗法を採用することができる。
【0041】
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)装置の構成
図3は、本技術の第二実施形態に係る微小粒子測定装置Bの検出部10の構成を説明する模式図である。微小粒子測定装置Bの機能的構成は、図1に示した第一実施形態に係る微小粒子測定装置Aと同様であるので説明を省略する。
【0042】
微小粒子測定装置Bは、フィルタなどの波長選択素子を用いて不連続な波長域の光を複数選択し、各波長域の光の強度を計測する点で、連続した波長域における光の強度を蛍光スペクトルとして計測する微小粒子測定装置Aと異なっている。
【0043】
微小粒子測定装置Bの検出部10は、光源101からのレーザー光を微小粒子Pに対して集光・照射する照射系と、微小粒子Pから発生する蛍光から所定の波長域の光を選択する波長選択素子104〜106と選択された光を検出する受光素子107〜110とを含む検出系と、から構成される。微小粒子測定装置Bにおいて、微小粒子Pは、フローセル内又はマイクロチップに形成された流路内を一列に配列されて通流される。
【0044】
照射系は、光源101の他、微小粒子Pに対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルター等(不図示)からなる。なお光源101は、互いに異なる波長を発光する光源を2つ以上組み合わせたものでもよく、その場合2つ以上のレーザー光が微小粒子Pを照射する場所は、同一であっても異なっていても構わない。また、検出系は、微小粒子Pから発生する蛍光を集光し、波長選択素子104に導光するための集光レンズ等(不図示)を含んでいてもよい。ここでは、受光素子107〜110として、検出波長域が異なるPMT(photo multiplier tube)を用いた構成を例示した。以下、受光素子107〜110のチャネル番号を1〜4とする。なお、受光素子107〜110には、フォトダイオードを用いることもできる。
【0045】
微小粒子測定装置Bにおいて、検出部10を、蛍光に加えて散乱光なども検出するように構成できる点は、微小粒子測定装置Aと同様である。
【0046】
(2)蛍光強度の補正処理
微小粒子測定装置Bは、検出部10から出力される電気信号に基づき、蛍光の強度値の補正処理を行う。この補正処理は、蛍光の強度値を各受光素子(ここではチャネル1〜4のPMT)の検出波長域幅で補正して第一の補正強度値を算出するステップと、第一の補正強度値を各PMTの感度データを用いて補正して第二の補正強度値を算出するステップとを含む。
【0047】
[第一の補正強度値の算出]
第一の補正強度値を算出は、各PMTで取得された蛍光の強度値を、それぞれのPMTの検出波長域幅で除すことにより行われる。
【0048】
具体的には、チャネル1〜4のPMTのうち、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値をI[k、n]とし、チャネルkのPMTの検出下限波長をL[k]かつ検出上限波長をH[k]とする。この場合、第一の補正強度値J1[k、n]は、次の式により算出される。ここで、kは1〜4の整数を表す。
J1[k、n]=I[k、n]/(H[k]−L[k])
【0049】
チャネル1〜4のPMTで検出される光の波長域幅は、波長選択素子104〜106を含む検出部10の光学系が非線形性を有している場合、各PMT間で異なった幅となる。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、検出波長幅が広いチャネルでは相対的に高く、検出波長幅が狭いチャネルでは相対的に低くなり、このことが測定誤差の要因となる。
【0050】
各PMTで取得された蛍光の強度値をそれぞれのPMTの検出波長域幅で除して得られる第一の補正強度値では、このような光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0051】
各PMTの検出波長幅(H[k]−L[k])は、検出部10を構成する波長選択素子104〜106、集光レンズ、ダイクロイックミラー及びバンドパスフィルターなどの光学素子の種類や配置によって一意に決定される。このため、光学素子の選定及び配置を含む装置設計が完了した段階で、各PMTの検出波長幅を取得しておくことで、各PMTで取得された蛍光の強度値から第一の補正強度値を算出することが可能となる。
【0052】
[第二の補正強度値の算出]
第二の補正強度値の算出は、各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除すことにより行われる。
【0053】
具体的には、チャネル1〜4のPMTのうち、チャネルkのPMTの相対感度をS[k]とする。この場合、第二の補正強度値J2[k、n]は、次の式により算出される。
J2[k、n]=J1[k、n]/S[k]
【0054】
チャネル1〜4のPMTの感度は、PMTの個体差及びゲインの設定差によって、各PMT間で異なる。このため、各PMTで取得される蛍光の強度値は、感度が高いチャネルでは相対的に高く、感度が低いチャネルでは相対的に低くなり、このことも測定誤差の要因となっている。
【0055】
各PMTにおける第一の補正強度値を、それぞれのPMTの相対感度で除して得られる第二の補正強度値では、このような受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償することが可能となる。
【0056】
(3)データ表示
微小粒子測定装置Bは、算出された第一の補正強度値又は第二の補正強度値を座標軸とした2次元グラフを生成して、表示部60に出力する。
【0057】
2次元グラフは、各PMTの検出波長を横軸にとり、第一の補正強度値又は第二の補正強度値を縦軸にとったものとできる。図4(A)に補正処理前のグラフ、(B)に第二の補正強度値によるグラフを示す。図4(A)は、横軸にチャネル番号k(kは1〜4の整数)、縦軸に各チャネルで取得された蛍光の強度値(I[k])の対数をとったグラフである。また、図4(B)は、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の補正値(J1[k]又はJ2[k])の対数をとったグラフである。
【0058】
微小粒子測定装置Bでは、上記の補正処理によって、波長選択素子を用いて選択した不連続な波長域の光の強度の計測結果を、装置の光学系の非線形性及び受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償した状態で表示させることが可能である。
【0059】
本技術に係る微小粒子測定装置は以下のような構成をとることもできる。
(1)微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置。
(2)前記検出部は、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含む上記(1)記載の微小粒子測定装置。
(3)前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出する上記(2)記載の微小粒子測定装置。
(4)前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力する上記(2)又は(3)記載の微小粒子測定装置。
(5)前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力する上記(4)記載の微小粒子測定装置。
(6)スペクトル型フローサイトメータである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の微小粒子測定装置。
【実施例】
【0060】
図2に示した構成の検出部を備えたスペクトル型フローサイトメータを試作した。光源には、波長488nmのレーザーダイオードと波長638nmのレーザーダイオードを用いた。また、分光素子には、複数のプリズムを組み合わせたプリズムアレイを用いた。受光素子アレイには、32チャネルのPMTアレイを使用し、波長500nmから800nmの蛍光を分光検出した。
【0061】
試作した装置において、各PMTの検出波長域を決定したグラフを図5に示す。グラフ中の「×」は各チャネルのPMTの検出下限波長(L[k])を、「○」は検出上限波長(H[k])を示す。ここで、kは1〜32の整数を表す。各PMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])は、チャネル番号が大きい長波長側のPMTほど広くなっていることが確認される。なお、波長638nm付近の蛍光を検出するチャネル21番前後のPMTでは、波長638nmの光源からのレーザー光の漏れ込みを防止する光学フィルタによって、検出される蛍光も制限されている。
【0062】
また、各PMTの相対感度を算出したグラフを図6に示す。相対感度は、同一強度及び同一波長の光を各PMTに照射して各チャネルで得られた強度値を、最も高い強度値が得られたチャネル32の強度値を1とした相対値により示した。
【0063】
初めに、F-4500型蛍光分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて市販の蛍光ビーズの蛍光スペクトルを計測した。蛍光ビーズには、Sherotech社より入手したFluorescent Particle Kit (FPK)505、FPK528、FPK549、FPK667の4種を用いた。得られたスペクトルチャート(基準スペクトルチャート)を図7に示す。(A)はFPK505、(B)はFPK528、(C)はFPK549、(D)はFPK667の蛍光スペクトルを示す。横軸は蛍光波長(500〜800nm)、縦軸は蛍光強度値(対数表示)である。なお、レーザー光の励起波長は、(A)〜(C)が波長488nm、(D)が波長638nmである。
【0064】
次に、試作した装置を用いて蛍光ビーズの蛍光スペクトルを計測した。得られたスペクトルチャートを図8〜12に示す。図8及び図9はFPK505、図10はFPK528、図11はFPK549、図12はFPK667のチャートを示す。なお、図8では各チャネルでのイベント数をスペクトルの色によって表示した。また、図9では強度値をイベント数に基づく平均値(実線)及び平均値±標準偏差(破線)で表示している。
【0065】
図8〜12の(A)は、横軸にチャネル番号、縦軸に各チャネルで取得された蛍光の強度値(I[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。
【0066】
図8〜12の(A)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と明らかに異なっている。このことは、PMTで取得される蛍光の強度値(I[k])をそのまま用いた蛍光スペクトルでは、装置の光学系の非線形性及び受光素子間の感度差に起因した測定誤差によってスペクトル形状に歪みが生じていることを示している。
【0067】
図8〜12の(B)には、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の第一の補正値(J1[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。第一の補正強度値J1[k]は、各PMTで取得された蛍光の強度値(I[k])を、図5に示したそれぞれのPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除すことにより得た。より具体的には、チャネルkのPMTで得られたn番目の強度値I[k、n]をPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除して第一の補正強度値J1[k、n]を得て、J1[k、n]の分布を横軸L[k]〜H[k]の範囲に描画してスペクトルチャートを作成した。
【0068】
図8〜12の(B)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と概ね一致している。このことは、各PMTで取得された蛍光の強度値(I[k])をそれぞれのPMTの検出波長域幅(H[k]−L[k])で除す補正処理によって、装置の光学系の非線形性に起因した測定誤差を補償して、スペクトル形状の歪みを補正できたことを示している。
【0069】
図8〜12の(C)には、横軸に検出波長、縦軸に各チャネルで取得された蛍光強度値の第二の補正値(J2[k]、kは1〜32の整数を表す)の対数をとったスペクトルチャートである。第二の補正強度値J2[k]は、第一の補正強度値(J1[k])を、図6に示したそれぞれのPMTの相対感度(S[k])で除すことにより得た。
【0070】
図8〜12の(C)のスペクトルチャートに示されるスペクトル形状は、図7に示した基準スペクトルチャートのスペクトル形状と良く一致している。特に、図8〜12の(B)の第一の補正値(J1[k])に基づくスペクトルチャートでは、波長500nm付近の領域でPMTの感度差に起因すると思われるスペクトル形状の歪みがみられたが、図8〜12の(C)の第二の補正値(J2[k])に基づくスペクトルチャートでは、この歪みが補正されている。このことは、第一の補正値(J1[k])をそれぞれのPMTの相対感度(S[k])で除す補正処理によって、受光素子間の感度差に起因した測定誤差を補償して、スペクトル形状の歪みを補正できることが示された。
【0071】
以上の結果から、本技術に係る微小粒子測定装置によれば、微小粒子について、通常の蛍光分光光度計により計測して得られる基準スペクトルチャートと良く一致するスペクトル形状を計測可能であることが分かる。
【0072】
このため、本技術に係る微小粒子測定装置では、標識された蛍光色素の種類や量が未知のサンプルについて得られたスペクトル形状を、既知の蛍光物質のスペクトル形状を記録したデータベース(リフェレンスデータ)から検索することにより、サンプルに標識された蛍光色素の種類や量を推定することも可能となる。
【0073】
また、本技術に係る微小粒子測定装置では、複数の蛍光色素で標識されたサンプルを解析する際のコンペンセーション計算を、従来必要とされていた各蛍光色素で単染色されたサンプルの計測を行うことなく、予め計測した各蛍光色素の蛍光スペクトルを用いて行うことも可能となる。そして、これにより、サンプル解析のための手間や時間、試薬などのリソースを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本技術に係る微小粒子測定装置によれば、サンプル解析の都度に標準サンプルを計測しなくとも、測定誤差を補正して正確な解析結果を得ることができる。従って、本技術に係る微小粒子測定装置は、細胞等の微小粒子の光学特性をより詳細に解析するため寄与する。
【符号の説明】
【0075】
A:微小粒子測定装置、P:微小粒子、10:検出部、101:光源、102:分光素子、103:受光素子アレイ、104〜106:波長選択素子、107〜110:受光素子、20:CPU、30:メモリ、40:ハードディスク(記憶部)、41:蛍光強度補正プログラム、42:リファレンスデータ、43:OS、51:マウス、52:キーボード、60:表示部、61:ディスプレイ、62:プリンタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、
該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含む請求項1記載の微小粒子測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出する請求項2記載の微小粒子測定装置。
【請求項4】
前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力する請求項3記載の微小粒子測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力する請求項4記載の微小粒子測定装置。
【請求項6】
スペクトル型フローサイトメータである請求項5記載の微小粒子測定装置。
【請求項1】
微小粒子からの光を検出波長域が異なる複数の受光素子により検出する検出部と、
該検出部により取得された前記光の強度値を、各受光素子の検出波長域幅で補正して、第一の補正強度値を算出する処理部と、を有する微小粒子測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、微小粒子からの光を分光する分光素子と、検出波長域が異なる複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、を含む請求項1記載の微小粒子測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第一の補正強度値を、各受光素子の感度データを用いて補正して、第二の補正強度値を算出する請求項2記載の微小粒子測定装置。
【請求項4】
前記処理部は、一の軸を前記検出波長とし、他の一の軸を前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルチャートを生成し、表示部に出力する請求項3記載の微小粒子測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、一のパラメータを前記検出波長とし、他の一のパラメータを前記第一の補正強度値又は前記第二の補正強度値とするスペクトルデータを生成し、記憶部に保持された基準スペクトルデータと比較して、両者が一致しているかあるいは不一致であるかを前記表示部に出力する請求項4記載の微小粒子測定装置。
【請求項6】
スペクトル型フローサイトメータである請求項5記載の微小粒子測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−61244(P2013−61244A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199892(P2011−199892)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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