説明

微小色見本のコンピュ−タカラ−マッチング

【目的】 染色糸1〜3本程度の微小色見本の分光反射率を、測色機による測定データから推定式により求め、コンピュータカラーマッチングに用いる。
【構成】 分光反射率既知の微小試料を作製し、裏面に白板と黒板とを当てて分光反射率を測定する。既知の分光反射率を数値変換し目的変数とし、測定により得られた分光反射率を数値変換し説明変数として重回帰分析をおこない回帰係数を求める。未知の微小色見本にたいして上記方法により分光反射率を測定し、これらの回帰係数を用いて真の分光反射率を測定する。この分光反射率から必要とされる染料量を定めカラ−マッチングを行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は分光反射率の測定方法及びコンピュータによるカラーマッチング法に関する。更に詳しくは分光反射率測定不可能な微小色見本のコンピュータによるカラーマッチングに関する。
【0002】
【従来の技術】微小色見本の分光反射率測定方法については既に特許昭54−1786,公開特許平1−150822に記載されており、いずれの特許においても異なる分光反射率をもつ2種の平板を色見本の裏面に当てて分光反射率を測定し、得られた分光反射率および平板の分光反射率から計算式により微小色見本の分光反射率を予測するものである。これらの計算式は理論的に誘導された式であり、限定された特定の条件下では適用される可能性はあるが、実際の測定条件、たとえば染色物の毛羽立ち、表面の凹凸等を考慮していないため、微小色見本のコンピュータカラーマッチングに用いるとき色合わせ精度が不良となる欠陥があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】染色業界における色合わせでは色見本に糸1〜3本とか、裏透けのあるガーゼ状の試料を使用することがあり、これらの微小色見本に対してコンピュータカラーマッチングを応用する場合、分光反射率測定不可能ないしは測定精度不良のためコンピュータカラーマッチングが機能しなくなる。上記特許に記載の方法でも十分な色合わせ精度が得られない。一方、多くの染色試験室ではコンピュータカラーマッチングシステムを導入しているため、微小色見本の色見本に対する色合わせを人手でなくコンピュータカラーマッチングを用いて行わせたい要望が出されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】糸1〜3本程度の微小色見本の分光反射率をいかにして求めるかについて鋭意検討した結果、複数個の分光反射率既知の微小色見本について請求項1の方法によって分光反射率を測定し、関連するデータを請求項2の方法により統計処理して推定式を求めることが上記課題の解決に有効であると判明した。即ち、本発明は(1)分光反射率既知の染色布から1〜3本程度の染色糸を作製し、この糸の裏面に分光反射率の異なる2種の平板を当てて分光反射率を測定し、得られた2種の分光反射率および平板自体の2種の分光反射率を数値変換した後重回帰分析における説明変数X1 〜Xi に、又波長に相当する変数を同じく説明変数Xi+1 に代入し、他方前記分光反射率既知の染色布の分光反射率を数値変換して重回帰分析における目的変数とする操作を複数個の染色布について行い、得られた数値を使用して重回帰分析を行い、分光反射率推定式における係数A1 からAi+1 を定め、この反射率推定式を用いて糸1〜3本からなる色見本の分光反射率を定めることを特徴とする微小見本の分光反射率の測定方法(上記においてiは整数を意味する)
(2)前項(1)に記載の反射率推定式から三刺激値X、Y、Zを計算し、これを目標値として別途測定される染色濃度と分光反射率との関係における基礎データから必要染料量を定めることを特徴とするカラーマッチング法に関する。
【0005】本発明を詳細に説明する。n個(少なくとも30個以上)の色にバラツキのある染色物を作製し、各染色物につき一つは分光反射率測定可能な試料を、他一つは分光反射率測定不可能な糸1〜3本の試料を作り、前者については通常の測定方法で分光反射率を求め、これをその染色物固有の分光反射率とし、後者については請求項1の方法で裏当ての2種の平板には分光反射率既知の白板と黒板を用いて各1回ずつ計2回の分光反射率測定をおこなった。上記操作によりつぎの5種の分光反射率データが得られる。
(1) 染色物固有の分光反射率 RSi (2) 微小試料の裏面にに白板を当てて測定した分光反射率 RWi (3) 微小試料の裏面にに黒板を当てて測定した分光反射率 RBi (4) 白板の分光射率 RW0i (5) 黒板の分光射率 RB0i (i は波長に相当する変数で400nm 〜700nm で20nm間隔データの場合0,1,..,15になる)
【0006】微小試料の分光反射率の測定にあたっては、第1図に示すように微小面積測定装置の測定窓の対角線上に試料を固定しておこなった。測定窓に対して縦方向或いは横方向にセットして測定する場合に比べて、繰り返し測定の再現精度が良くなるためである。
【0007】重回帰分析の目的変数Yi としてはRSi をデシベル変換してつぎの式で表す。
Yi =log(100/RSi −1)
重回帰分析の説明変数X1i,X2i,X3i,X4i,X5i,X6iは上記(2) 〜(5)の分光反射率データを用いて、データ変換およびデシベル変換してつぎのように表す。
A’i =RWi −RW0i +100 , B’i =RBi −RB0i +10Ai =log(100/A’i −1), Bi =log(100/B’i −1)
X1i=Ai , X2i=Ai2 , X3i=BiX4i=Bi2 , X5i=Ai xBi , X6i=Ai /BiX1i〜X5iは白板および黒板を当てて測定した分光反射率の変数変換データの1次項、2次項および交互作用項であり、X6iは測定窓に対する試料の面積比に対応するものである。残りの説明変数X7iは波長に相当する変数i である。
X7i=in個の染色物の測定データの重回帰分析から回帰係数A0 ,A1 ,A2 ,A3 ,A4 ,A5 ,A6,A7 が求まり、推定式は次式で表される。
Yi =A0 +A1 X1i+A2 X2i+A3 X3i+A4 X4i+A5 X5i+A6 X6i+A7 X7iYi を分光反射率データに変換するには次式による。
RSi =100/(1+exp(Yi ))
上記推定式には不偏性があることが確認されているので、得られた回帰係数A0〜A7 をコンピュータに記憶させて置けば未知の微小色見本の分光反射率測定に応用することができ、推定式から求められる分光反射率データを用いてコンピュータカラーマッチングが可能となる。本発明の微小サンプルを用いるカラ−マッチング法は正常な方法で分光反射率を測定しコンピュータカラーマッチングをおこなった場合に比較すると、色差はやや大きいが糸1〜3本の試料を考慮すると実用的には十分適用可能である。
【0008】
【実施例】実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0009】実施例1分散染料を用いてポリエステル布を染色濃度の異なる三原色(Yellow,Red,Blue )に染色した染色布15点、中間色(Brown, Grey,Navy 等)に染色した染色布19点、計34点の試料を作製し、測色機としてマクベスCE−3000を使用して正常な方法で分光反射率を測定し、得られたデータをこれら染色布の固有の分光反射率RSi とした。微小試料としては、同染色布より糸1本,糸2本,糸3本の3通りの染色糸を取り出し、計112点の試料として、同測色機に微小面積測定装置(5x10mm)を付属させた条件下で、第1図に示す状態に試料をセットし、裏面より白板および黒板を当てて分光反射率を測定し、得られたデータをそれぞれRWi ,RBi とした。112点の試料につき前記記載の方法で重回帰分析をした結果、回帰係数A0 〜A7 の値はつぎのように求められた。
A0 =47.66 ,A1 =-6.20 ,A2 =-0.09 ,A3 =-14.75A4 = 1.17 ,A5 = 0.36 ,A6 =19.47 ,A7 = -0.022なお、重相関係数 R=0.992,自由度調節済寄与率 ρ=0.983であった。
【0010】未知のポリエステル染色布3点につき、正常な方法で分光反射率を測定し得られたデータをこれら染色布の固有の分光反射率とした。同染色布より糸1本,糸3本の染色糸を取り出し、前記微小試料測定方法および分光反射率推定方法により各染色糸の分光反射率を求め、第2図〜第7図に固有の分光反射率と比較して示した。また、第1表に三刺激値XYZおよびCIE表色系L* a* b* を計算し、固有分光反射率と微小試料の推定分光反射率との色差を求め表示した。続いて、微小試料の推定分光反射率に対して分散染料を用いてコンピュータカラーマッチングをおこない、得られた処方によりポリエステル布を染色して元の色見本との色差を求めた。第2表に染色処方および第3表に元の色見本と試染色物との色差を示す。
【0011】
【表1】
第1表 微小試料の測色値および固有分光反射率との色差(ポリエステル布)
色見本 形態 X Y Z L* a* b* 色差ももいろ 正常 34.51 24.51 23.53 56.60 44.10 4.57 糸1本 36.54 25.90 23.83 57.94 45.15 6.38 2.49 糸3本 34.72 25.14 24.47 57.21 42.17 4.04 2.10ふじいろ 正常 17.63 16.63 24.96 47.79 10.39 -13.01 糸1本 17.02 15.91 23.83 46.86 11.14 -12.73 1.22 糸3本 18.37 17.16 25.62 48.46 11.47 -12.91 1.27ちゃいろ 正常 12.53 10.04 7.24 37.92 22.27 11.55 糸1本 13.30 11.09 8.46 39.74 19.53 10.34 3.50 糸3本 13.35 10.52 7.27 38.76 24.07 12.89 2.39
【0012】
【表2】
第2表 コンピュータカラーマッチングの結果(ポリエステル布)
色見本 ももいろ 糸1本 糸3本 Kayalon Polyester Yellow PAL-E 0.0503 % 0.0442 % Kayalon Polyester Red PAL-E 0.4845 % 0.4591 % Kayalon Polyester BLUE PAL-E 0.0107 % 0.0074 % 色見本 ももいろ 糸1本 糸3本 Kayalon Polyester Yellow PAL-E 0.0704 % 0.0551 % Kayalon Polyester Red PAL-E 0.2736 % 0.2290 % Kayalon Polyester BLUE PAL-E 0.1740 % 0.1462 % 色見本 ちゃいろ 糸1本 糸3本 Kayalon Polyester Yellow PAL-E 0.6530 % 0.6944 % Kayalon Polyester Red PAL-E 0.9388 % 1.0355 % Kayalon Polyester BLUE PAL-E 0.1489 % 0.1223 % (注) Kayalon Polyester は分散染料の商品名 (日本化薬(株)製)
【0013】
【表3】第3表 元の色見本と試染色物との色差(ポリエステル布)


【0014】実施例2未知の綿メリヤス染色布3点につき実施例1と同様なテストをおこなった。ただし、微小試料としては糸1本の場合だけにし、コンピュータカラーマッチングは反応染料を用いておこなった。染色布固有の分光反射率と微小試料からの推定分光反射率の比較を第8図〜第10図に、測色した結果を第4表に示した。またコンピュータカラーマッチングの結果は第5表に、元の色見本と試染色物との色差は第6表に示す。
【0015】
【表4】
第4表 微小試料の測色値および固有分光反射率との色差(綿メリヤス布)
色見本 形態 X Y Z L* a* b* 色差こげちゃ 正常 12.12 10.41 4.46 38.56 16.67 24.81 糸1本 12.31 10.46 5.02 38.65 17.62 22.15 2.83こんいろ 正常 7.54 8.07 16.89 34.12 -1.00 -21.55 糸1本 7.59 7.76 16.75 33.47 2.21 -22.38 3.38ワインいろ 正常 20.80 16.94 23.42 48.18 24.92 -9.76 糸1本 20.63 16.86 22.40 48.08 24.52 -8.14 1.67
【0016】
【表5】第5表 コンピュータカラーマッチングの結果(綿メリヤス布)
色見本 こげちゃ 糸1本 Kayacion Yellow E-CM 2.6281 %Kayacion Red E-CM 0.6251 %Kayacion BLUE E-CM 0.4708 %色見本 こんいろ 糸1本Kayacion Yellow E-CM 0.1844 %Kayacion Red E-CM 0.1226 %Kayacion BLUE E-CM 2.9272 %色見本 ワインいろ 糸1本Kayacion Yellow E-CM 0.0130 %Kayacion Red E-CM 0.4367 %Kayacion BLUE E-CM 0.2862 %(注) Kayacion は反応性染料の商品名(日本化薬(株)製)
【0017】
【表6】第6表 元の色見本と試染色物との色差(綿メリヤス布)


【0018】
【発明の効果】糸2乃至3本からなるような微小サンプルからカラ−マッチングを正確におこなう方法が確立された。
【図面の簡単な説明】
第1図は微小面積測定装置および試料のセット方法、第2図乃至第7図はポリエステル染色物の糸1本および糸3本の分光反射率推定値を固有の値と比較したもの、第8図乃至第10図は綿メリヤス染色物の糸1本の分光反射率推定値を固有の値と比較したものである。
【図1】微小面積測定装置の概念図
【図2】ももいろについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【図3】ももいろについての固有分光反射率及び糸3本の分光反射率
【図4】ふじいろについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【図5】ふじいろについての固有分光反射率及び糸3本の分光反射率
【図6】ちゃいろについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【図7】ちゃいろについての固有分光反射率及び糸3本の分光反射率
【図8】こげちゃについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【図9】こんいろについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【図10】ワインいろについての固有分光反射率及び糸1本の分光反射率
【符号の説明】
(1)微小面積測定装置
(2)測定窓
(3)微小試料
(4)固定装置
(5)固有分光反射率
(6)糸1本分光反射率推定値
(7)糸3本分光反射率推定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】分光反射率既知の染色布から1〜3本程度の染色糸を作製し、この糸の裏面に分光反射率の異なる2種の平板を当てて分光反射率を測定し、得られた2種の分光反射率および平板自体の2種の分光反射率を数値変換した後重回帰分析における説明変数X1 〜Xi に、又波長に相当する変数を同じく説明変数Xi+1 に代入し、他方前記分光反射率既知の染色布の分光反射率を数値変換して重回帰分析における目的変数とする操作を複数個の染色布について行い、得られた数値を使用して重回帰分析を行い、分光反射率推定式における係数A1 からAi+1 を定め、この反射率推定式を用いて糸1〜3本からなる色見本の分光反射率を定めることを特徴とする微小見本の分光反射率の測定方法(上記においてiは整数を意味する)
【請求項2】請求項1に記載の反射率推定式から三刺激値X、Y、Zを計算し、これを目標値として別途測定される染色濃度と分光反射率との関係における基礎データから必要染料量を定めることを特徴とするカラーマッチング法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平6−117932
【公開日】平成6年(1994)4月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−287148
【出願日】平成4年(1992)10月2日
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)