微小規模のマイクロパターン化インビトロ操作・作製組織
本開示はin vitro培養系を提供する。本発明は、in vitro操作・作製組織の開発に有用な方法およびシステム、該組織を使用する方法、ならびに該組織を含む組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織組成物、組織培養するための方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、培養中にて増殖し、所望の機能を維持することができるマイクロパターン化細胞組織に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的に、細胞培養技術および組織発育では、細胞間および細胞-マトリックス間の連絡のための微小環境、ならびに栄養素の送達および老廃物の除去のために十分な拡散的環境の必要性を考慮していなかった。細胞培養技術、ならびに細胞相互および細胞と周囲環境との複雑な相互作用に関する理解は、ここ10年で向上した。
【0003】
移植用または毒性試験用の人工組織を生成する目的で、組織を成長させるための多くの方法およびバイオリアクターが開発されてきたが、こうしたバイオリアクターは、in vivoにおける栄養素やガスの送達および細胞間相互作用を実施する機構を、in vitroで十分に模倣していない。例えば、生体組織中の細胞は、拡散勾配に関して「極性を有する」。毛細血管系によりin vivoで行われる酸素および栄養素の特異的な送達によって、各組織細胞の相対的機能およびその成熟が制御される。したがって、こうしたin vivo送達機構を模倣していない細胞培養系およびバイオリアクターでは、結果として、in vitroで組織を発育させ、または組織反応を測定するためのin vivo環境が十分に得られていない。
【0004】
肝組織などのin vitro組織を発育することができると、毒性試験用組織、体外肝臓デバイス、ならびに移植用組織の供給を行うことが可能となる。例えば、肝不全は、米国での毎年3万人余りの患者、世界全体では2百万人余りの患者の死因である。現在の治療は、液体および血清タンパク質の送達を含め、大体において一時しのぎのものである。致死率を変えることが証明された唯一の治療法は、同所性肝移植であるが、臓器の供給がわずかである(非特許文献1)。
【0005】
細胞依拠療法が、全臓器移植の代替、移植までの一時的繋ぎ、および/または肝臓回復中での従来療法の補助として提案されてきた。主要な3手法として、単離肝細胞の血流中への注入による移植、肝細胞組織構築体の開発およびインプラント、ならびに肝細胞を含有する体外循環路を介した潅流、が提案されてきた。全3領域における研究はここ10年で劇的に増加したが、多くの重要な肝特異的機能を急速に失う単離肝細胞の性質のために進歩が阻まれてきた。
【0006】
薬物誘発性肝疾患は、予知不能な肝臓毒性および低い生体利用率の問題のために、新規な候補薬物の50%余りが第I相臨床試験に不合格となるので、製薬産業にとって主要な経済的課題である。更に、市場からの薬物回収の3分の1、および認可薬物に対する警告標識全体の半数余りは、主として肝臓に対する有害作用によるものである。したがって、薬理的性質以外に、ADME/Tox (吸収、分布、代謝、排泄および毒性)特性は、薬物の最終的な臨床試験合格の不可欠な決定因子である。この認識のために、問題のある性質を有する薬物を除外するための研究において、ADME/Toxスクリーニングが創薬過程中に早期に導入されることとなった。
【0007】
動物モデルでは、種特異的な変動ならびに動物間のばらつきのために、人間に対する毒性に関して限られた見識しか得られず、1投与量当たりの1化合物につき、ときには雌雄両方の動物5〜10匹が必要になる。in vitroモデルを薬物開発に取り入れることによって、幾つかの利点、即ち、患者に曝すことなく、動物および人間の1モデル当たり行える数百回の実験によって、問題ある薬物を早期排除することができ、ばらつきを減少する。肝臓の場合、in vitroモデルから、薬物の取込みおよび代謝、酵素誘導、ならびに代謝および肝臓毒性に影響する薬物間相互作用に関する貴重な情報が得られる。
【0008】
数種のin vitro肝臓モデルが、異物代謝および毒性の短期(数時間)調査のために使用されている。潅流される全臓器、肝臓切片および楔状生検試料は、肝臓のin vivo微小環境の多くの特徴を維持している。しかし、このような系では、内部細胞層にとって薬物利用が制限され、生存期間も限られる(<24時間)ため、酵素誘導試験には適当ではない。主にCYP450酵素を含んだ細胞断片である単離した肝ミクロソームは、第I相経路(酸化、還元、加水分解など)を介した薬物代謝を研究するために、主に使用される。しかし、ミクロソームでは、動的な変化の生起(即ち、遺伝子発現、タンパク質合成)によって、薬物代謝、毒性および薬物間相互作用を変化させる細胞機構の多くの重要な特徴が欠けている。ミクロソーム以外に、肝芽腫(HepG2)、または初代肝細胞の不死化(HepLiu、不死化SV40)に由来する細胞系には、肝組織の再現性ある安価なモデルとして限定的な用途がある。しかし、生理的な水準の肝特異的機能を維持している細胞系は、これまでのところ開発されていない。このような細胞系は、普通、異常な一揃いの肝機能に窮している。
【非特許文献1】McGuire et al., Dig. Dis. 13(6):379-88 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
製薬産業により使用され、有用ではあるが能力的に限界がある現行のin vitro肝臓モデルでは、in vivoでの肝臓の代謝および毒性を十分に予知できない。したがって、in vitro試験用の中心的基準として、単離した初代ヒト肝細胞を使用する方向に向かう研究が益々増加しているが、肝細胞は、生命力および表現型機能を急速に失うために、培養中で維持するのが困難であることはよく知られている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、現行技術の限界を克服する方法、システムおよび組成物を提供する。本発明は、数週間最適な機能を維持する実質組織(例えば、ヒト肝臓)の人工(engineered)in vitroモデルを提供する。より具体的には、本発明は、マイクロパターン化共培養物(coculture)中、非実質細胞と境界を接する幾何学形態中に空間的に配置された実質細胞(例えば、初代ヒト肝細胞)を含む、2-Dおよび3-D培養物を創製する微細加工技術を利用した。境界のある該幾何学形態は、任意の規則的または不規則的な寸法を有してもよい(例えば、所定の直径、長さ、幅など通常約250〜750μmの円形、半円形、球状の島状部)。例えば、本発明は、マイクロパターン化ヒト型共培養物が、類似の細胞比率および個数を含んだランダム分布対応培養物より、再現性に優る(数倍)ことを実証する。本発明は、共培養物が、最適に機能するために、同型および異型の相互作用の最適な均衡を必要とすることを実証する。
【0011】
本発明は、細胞島状部(cellular island)を規定する実質細胞の1つまたは複数の集団と、非実質細胞の1集団とを含み、非実質細胞が細胞島状部の幾何学的境界を規定する、in vitro細胞組成物を提供する。
【0012】
更に、本発明は、基板上に複数の細胞島状部を作製する方法も提供する。該方法は、各々が規定の幾何学的サイズおよび/または形状を有する、接着材料のスポットを基板上の空間的に異なる箇所に付けるステップと、接着材料および/または基板に選択的に接着する細胞の集団を基板と接触させるステップと、基板上の細胞を培養することにより、複数の細胞島状部を生成するステップとを含む。
【0013】
本発明は、非実質細胞と境界を接し、境界付き幾何学形態の少なくとも1つの側部間寸法が約250〜750μmである該境界付き幾何学形態を有する、実質細胞を含む人工組織を接触させるステップと、人工組織を試験作用物質と接触させるステップと、遺伝子発現、細胞機能、代謝活性、形態およびそれらの組合せから選択される、人工組織の活性を測定するステップとを含むアッセイ系も提供する。
【0014】
本発明は、間質細胞に取り囲まれ、直径または幅が約250〜750μmの実質細胞の島状部を含む人工組織を提供する。
【0015】
更に、本発明は、in vitroで組織を作製する方法も提供する。該方法は、細胞の第1集団の付着用規定領域を有する基板上に細胞の該第1集団を播種するステップであって、該規定領域が約250〜750μmの境界付き幾何学寸法を含む、上記播種するステップと、細胞の第2集団を基板上に、細胞の第1集団を取り囲む、またはそれに隣接するように播種するステップと、それらの細胞を、組織が生成する条件下および十分な期間、培養するステップとを含む。
【0016】
本発明の1つまたは実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明で述べる。他の特徴、目的および利点は、以下の説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形には、文脈上そうでないことが明確でない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって例えば、「細胞島状部」と言う場合、このような島状部の複数が含まれ、「細胞」と言う場合、当業者に公知の1個または複数の細胞への言及も含まれるといった具合である。
【0018】
別途定義していない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似または同等のものを、本発明の方法および組成物を実施する際に使用できるが、例示的な方法、デバイスおよび材料が本明細書に記載されている。
【0019】
上記および本文全体に亘って考察する刊行物は、本願の出願日前の各開示だけを対象として示してある。本明細書中のいずれの刊行物も、本発明者が、先行する開示のためにそれら開示に先行する権利を有さないことを認めるものとして解釈されるものではない。
【0020】
本発明は、細胞型を規定する規定された境界付き幾何形状を利用することによる、実質細胞-間質細胞の共培養物にもおよぶ。一態様では、本発明は、ラットおよびブタの肝臓モデルに対してこれまでに使用されているような共培養物をヒト組織(例えば、ヒト肝臓)のモデルに拡大適用する。微細加工手段を用いて、本発明は、マイクロパターン化配置(単一細胞島状部から大型集合体まで)が、ランダム分布した共培養を性能的に凌ぐことを実証している。人工のマイクロパターン化配置にあっては、同型および異型相互作用の均衡により、所定または所望の表現型活性、長寿命および増殖能を有する機能的共培養物を生成することができる。このような予想外の結果から、ランダム共培養と比較した場合、幾何学的共培養には異なる構造的依存性が示される。本発明は、抗体ベースの機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを利用して、このようなマイクロパターン化共培養物の特性を決定する。
【0021】
生物中の細胞の形態および機能は、代謝物質源および酸素源からの距離、ならびに同型および異型細胞相互作用を含めたその環境により変動する。例えば、肝細胞の形態および機能は、門脈三管から中心静脈までの肝洞様毛細血管に沿った位置と共に変動することが知られている(Bhatia et al., Cellular Engineering 1:125-135, 1996; Gebhardt R. Pharmaol Ther. 53(3):275-354, 1992; Jungermann K. Diabete Metab. 18(1):81-86, 1992およびLindros, K.O. Gen Pharmacol. 28(2):191-6, 1997)。帯状分布と称するこの現象は、肝機能のほぼ全分野で説明されてきた。酸化的エネルギー代謝、炭水化物代謝、脂質代謝、窒素代謝、胆汁抱合および異物代謝は、全て別の帯域に局在化されてきた。遺伝子発現のこのような区画化は、「グルコスタット」として機能する肝臓の能力、ならびに一部の生体異物(例えば、環境毒素、化学/生物兵器作用剤、更にホリスティック治療薬、栄養薬などの天然化合物)について認められる帯域肝毒性のパターンの基礎をなしていると考えられる。
【0022】
単離したヒト実質細胞(肝細胞など)は、培養物中で非常に不安定であり、したがって薬物毒性、薬物間相互作用、解毒酵素の薬物関連誘導、およびその他の現象に関する試験に対して、有用性が限られている。その利点が認識されていながら、初代実質細胞は、in vivoの微小環境から単離すると生命力および表現型機能を急速に失うため、培養物中で維持するのが困難なことで有名である。単離した肝細胞は、アルブミン分泌、尿素合成、シトクロームP450活性などの重要な肝特異的機能を急速に失う(例えば図1を参照されたい)。コラーゲンで被覆した皿上での約1週間の培養後、肝細胞は線維芽細胞の形態を示す。他方、単離直後の肝細胞は、明確な核および核小体と、明るい細胞間境界(毛細胆管)とを有する多角形形態を示す。脱分化した肝細胞は、酵素誘導剤に通常反応しないので、その使用は非常に限られる。
【0023】
ここ20〜30年に亘って、研究者達は、可溶性因子の補給、細胞外マトリックスの操作、および肝細胞型と非肝臓由来間質細胞型とのランダム共培養を用いて、数種の肝細胞機能を安定化することができた。ホルモン、コルチコステロイド、サイトカイン、ビタミンまたはアミノ酸を低濃度で添加すると、肝細胞において肝特異的機能の安定化を促進することができる。組成およびトポロジーが異なる細胞外マトリックスの提供によっても、同様の安定化を誘導することができる。例えば、多様な種(ヒト、マウス、ラット)由来の肝細胞は、ラット尾部コラーゲンIの2層(二重ゲル)間に挟むとアルブミンを分泌する。しかし、試験によれば、CYP450活性が二重ゲルモデル中で低下し、上層コラーゲンの存在が候補薬物にとって輸送障壁となるため、アッセイシステムとしてのその使用は限られることが判明した。Matrigelと称する腫瘍由来基底膜の抽出物上での培養によっても、肝細胞の球状形成が誘発され、P450活性を含めた重要な肝細胞機能が保持される。Matrigelはげっ歯類の肝細胞では機能を誘発できるが、ヒト肝細胞では効果が減少するようである。使用されている大部分のin vitro肝臓モデルは、創薬および薬物開発中の特定のシナリオでは用途を見出し得るが、堅固な生体模倣肝臓プラットホームの開発への適用性には限界がある。例えば、規定される培地処方物では潅流液の内容物が制限され、サンドイッチ構造のために輸送障壁が加わり、肝細胞はギャップ結合を発現しないし、更にMatrigelおよびスフェロイド培養では肝細胞の凝集に依存するため、不均一および輸送障壁が生じる。
【0024】
本発明は、実質細胞と非実質細胞との同型および異型相互作用を最適化することによって、こうした問題の多くを克服している。例えば、成体肝臓では、肝細胞は、洞様内皮、星細胞、クッパー細胞および脂質貯蔵性伊東細胞を含めた多様な間質細胞型と相互作用をする(例えば、異型相互作用)。これらの間質細胞型は、生理条件、病態生理条件のいずれでも肝細胞の細胞運命過程を調節する。in vitroでは、初代肝細胞を異なる種や器官に由来する異なる多様な間質細胞型と共培養すると、肝臓の器官形成を想起させるように分化した肝細胞機能が数週間支持されることが判明した(図2を参照されたい)。こうした肝細胞のランダム共培養を使用して、脂質代謝、急性期反応の誘導などの肝臓の生理および病態生理の様々な側面を試験した。
【0025】
一態様では、実質細胞の細胞島状部と間質細胞とを含むマイクロパターン化培養物を使用している。この態様では、間質細胞の間に実質細胞の島状部を散在させるように、基板を改変し、調製している。例えば半導体産業由来の改良した微細加工技術を使用して、実質細胞(例えばヒト肝細胞)および支持的間質細胞(例えば線維芽細胞)を小型化可能なフォーマットに空間配置させるように、基板を改変している。この空間配置は、境界付き幾何形状からなる実質細胞型でもよい。この境界付き幾何形状は、寸法(例えば、直径、幅、長さなど)がその形状により規定される任意の形状(例えば、規則的または不規則的)でもよい。この寸法は、一方の側部から実質的に反対側の側部までの少なくとも1つの距離が、約200〜800μm(例えば、その形状が長方形または楕円形の場合、一方の側部から反対側の側部までの距離が200〜800μm)となるように、その形状に基づいた所定の尺度を有することになろう。例えば、実質細胞(例えば肝細胞)は、間質細胞(例えば、マウス3T3線維芽細胞などの線維芽細胞)や他の材料で取り囲まれた、様々な寸法(例えば、直径が36μm、100μm、490μm、4.8mmおよび12.6mm、通常は約250〜750μm)の円形島状部に調製することができる。例えば、肝細胞の解毒機能は小パターンで最大化され、合成能は中間的寸法で最大化されるが、代謝機能および正常形態は全パターンにて保持されていた。
【0026】
一実施形態では、バイオリアクターは、初代実質細胞(例えば肝細胞)単独、または他の細胞型との組合せを使用することができる。本明細書に示す例では肝細胞を利用しているが、本開示のバイオリアクターおよび培養系で使用できる他の実質細胞型および非実質細胞型には、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞および他の腎細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア)、呼吸器上皮、幹細胞および血液細胞(例えば、赤血球およびリンパ球)、成体および胚性幹細胞、血液脳関門細胞、ならびに当該分野で公知の他の実質細胞型が含まれる。
【0027】
一態様では、該リアクターは、マイクロパターン化した実質細胞(例えば肝細胞)共培養物および間質細胞(例えば線維芽細胞)と共に使用できる。該リアクターの規模は、生体異物を調べることができるハイスループットマイクロリアクターアレイを作製できるように、変更することができる。一態様では、流体流路中に、またはそれに沿ってマイクロパターン化培養区域を有する、微小流体デバイスが想定されている。
【0028】
本発明は、同型(肝細胞/肝細胞)、異型(肝細胞/間質細胞)双方の細胞間相互作用により、実質細胞の生存率および分化機能が改善されることを実証する。
【0029】
本発明のマイクロパターン化細胞島状部培養は、代謝安定性、薬物間相互作用、毒性および感染性疾患に対するスクリーニングを含めた、創薬および薬物開発において有用である。代謝安定性は、予備臨床試験に進む主要薬物候補の選択にとって鍵となる規準である。
【0030】
本発明は、所望の特性、および/または脱分化を最小限に抑えて長期間培養できる性質を有するin vitro組織の開発に有用な細胞組成物を提供する。本発明は、同型細胞集団同士の距離および異型細胞集団との前記集団の関係が、多様な機能的(表現型の)差異を生じるという発見に、部分的に基づいている。例えば、本発明の一態様では、実質細胞を含んだ幾何学的に規定した細胞島状部が、1つまたは複数の集団となって生成する。本明細書で更に説明するように、該実質細胞型はいずれの実質細胞でもよい。以下に示す具体例は、該方法およびシステムの肝臓の実質細胞への応用を明示する。こうした実質細胞の島状部は、非実質細胞の集団に取り囲まれているか、当該集団によって隔てられている。
【0031】
該島状部は、所望の特性を有する任意の幾何学形状を取ることができ、円形、楕円形、正方形、長方形、三角形などのいずれでもよい幾何学形状に基づいて、長さ/幅、直径などにより規定できる。更に、実質細胞の機能は、パターン構成の変更 (例えば、細胞島状部の距離またはアレイの幾何学形態) により改変し得る。細胞の幾何学的境界付き島状部同士の距離は、培養系において変更してもよい(例えば、島状部同士の距離は規則的、不規則的のいずれでもよい)。本明細書に記載の技術を用いて、細胞島状部同士の空間的距離はランダム、規則的、不規則的のいずれでもよい。更に、異なる幾何学形状(例えば、複数の島状部サイズ)の境界付き幾何学的区域(例えば、細胞島状部)の組合せが、島状部同士の変動距離(例えば、複数の島状部間隔)または一定距離を有して、単一基板上に存在してもよい。言い換えると、本発明は、基板上での多様な幾何学形状および距離からなる細胞島状部(例えば、入り混じり、規則的に分布している、250μmおよび400μmの島状部を有する細胞島状部を含む共培養物)の使用を想定している。一態様では、該細胞島状部は、約250μm〜750μmの直径または幅からなる。同様に、幾何学的島状部が長方形を含む場合、その幅は約250μm〜750μmからなり得る。別の態様では、実質細胞島状部は、細胞島状部の中心間が約2μm〜1300μm相互に離れている。更に別の態様では、実質細胞島状部は、培養区域の全長または培養区域の一部に及び得る、所定の幅(例えば、250μm〜750μm)からなる。実質細胞の平行島状部は、間質細胞の平行列により隔てることができる。別の態様では、その幾何学形状は3D形状(例えば球状)を含み得る。このような場合、直径/幅などは約250μm〜750μmとなろう。
【0032】
当該分野で認識されているように、該細胞島状部は、静置および流体流動反応系(例えば、微小流体デバイス)を含めた任意の培養系中に存在し得る。このような微小流体デバイスは、わずかな流量および試薬量が必要な作用物質の迅速スクリーニングに有用である。
【0033】
本発明の細胞培養物は、当該分野で認識されている多数の技法により、作製することができる。例えば、複数の細胞島状部を基板上に作製する方法は、基板上の空間的に異なる箇所に接着物質(または、複数の相異なる細胞特異的接着物質)をスポットまたは積層することを含むことができ、各スポットが所定のサイズ(例えば直径)および空間配置を有する方法である。次いで、基板上のスポットを第1の細胞集団または細胞型の組合せと接触させ、培養して細胞島状部を生成する。異なる細胞型を同時に基板と接触させる場合、基板、基板上の被膜またはスポットによって細胞特異的結合が支持されるため、異なる細胞ドメインが形成されることになろう。接着物質(例えば、細胞外マトリックス物質)をスポットする方法は、例えば、ロボット式スポット法およびリソグラフィー法を包含することができる。
【0034】
本発明の方法およびシステムには、様々な培養基板を使用することができる。このような基板には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼、シリコンなどが挙げられるが、それだけに限らない。空間的に離れた細胞島状部を維持しようとする場合、基板の選択を検討すべきである。細胞培養基板の表面は、種類任意数の剛直性または弾性支持体から選択できる。例えば、細胞培養材料は、ガラスまたはポリマー製顕微鏡スライドを含むことができる。ある種の態様では、基板は、細胞型の基板への結合性に基づいて選択してもよい。
【0035】
本発明の方法およびシステムに使用される細胞培養基板の表面/基板は、哺乳動物細胞の培養に適当な任意の材料で作製できる。例えば、該基板は、生体適合性である限り、プラスチックや他の人工ポリマー材料などの滅菌容易な材料とすることができる。基板は、細胞および/または組織が接着でき(あるいは、細胞および/または組織が選定箇所に接着できる、または接着できないように改質することができ)、しかも細胞および/または組織が1層または多層に増殖できる任意の材料とすることができる。限定しないが、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニル化合物(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ニトロセルロース、綿、ポリグリコール酸(PGA)、セルロース、デキストラン、ゼラチン、ガラス、フッ素ポリマー、フッ素化エチレンプロピレン、ポリビニリデン、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、およびシリコン基板(溶融シリカ、ポリシリコン、シリコン単結晶など)を含めた種類任意数の材料を、該基板/表面を形成するために使用できる。金属(金、銀、チタンのフィルム)も使用することができる。
【0036】
本明細書に記載するように、幾つかの例では、細胞の接着および増殖を促進するために基板を改質してもよい(例えば、接着物質で被覆する)。例えば、ガラス基板をコラーゲンやフィブロネクチンなどのタンパク質(即ち、少なくとも2個のアミノ酸からなるペプチド)で処理することにより、細胞の基板に対する接着を補助してもよい。幾つかの実施形態では、タンパク質性物質の使用により、細胞島状部の位置が規定される。タンパク質でできるスポットは、細胞島状部を形成するための「鋳型」として機能する。通常は、単一種のタンパク質を基板に接着するが、ある種の実施形態では2種以上のタンパク質を使用してもよい。細胞接着を促進するように基板を改質するのに使用して適当なタンパク質には、細胞培養の条件下で特定の細胞型の接着を受けるタンパク質が含まれる。例えば、肝細胞はコラーゲンに結合することが知られている。したがって、コラーゲンは肝細胞の結合を促進するために良く適合している。他の適当なタンパク質には、フィブロネクチン、ゼラチン、IV型コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、およびヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカンを含めた他の基底膜タンパク質が含まれる。このようなタンパク質を併用することもできる。
【0037】
スポット中に沈着する接着物質(複数も)(例えば、ECM物質、糖類、プロテオグリカンなど)の種類は、部分的には、培養しようとする1種または複数の細胞型により決定されよう。例えば、肝臓の微小環境中に見出されるECM分子は、肝細胞、初代細胞、および胎児性肝特異的レポーターES細胞系の培養に有用である。肝臓は、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニンおよびフィブロネクチンに対して不均一染色を示す。肝細胞は、in vivoでインテグリンβ1、β2、α1、α2、α5と、非インテグリンフィブロネクチン受容体Agp110を示す。培養ラット肝細胞は、インテグリンα1、α3、α5、β1およびα6β1を示し、それらの発現は培養条件により調節される。
【0038】
一態様では、本発明はマイクロパターン化肝細胞共培養を提供する。薬物代謝における種特異的差異のため、ヒト肝細胞培養物は、非ヒト培養物より効果的に、候補薬物の代謝物質プロファイルを同定することができる。しかし、ヒト細胞の更なる試験に適当な性質または代謝の特定を促進するために、非ヒト細胞型を本発明において使用し得ることが認識されよう。次いで、この情報を用いることにより、臨床試験をにらんだ最終目標として、代謝物質の生成機構を推論することができる。定量的には差があるとはいえ、分離肝細胞を用いた場合の薬物の生物内変換活性にはin vivo対in vitroの良好な相関性が存在する。ヒト肝細胞in vitroモデルにより得られる代謝物質プロファイルを用いることにより、薬物動態、薬力学および毒性の前臨床試験に対する人間代用物として作用する適切な動物種を選定することもできる。試験によれば、種間変動はin vitroでも保持されており、試験される薬物に応じて異なってくることが判明した。
【0039】
本発明は、所望の特性を有する組織を開発するために有用なマイクロパターン化法も提供する。最適化したマイクロパターン化共培養物を創製するために、以下の実施例では連続フォトリソグラフィーに基づく技法を使用したが、この試験の示すところでは、このような共培養物は、ステンシル準拠軟質リソグラフィーを用いて、実験のハイスループット化促進に適した多重ウェルフォーマット中で小型化することができる。ロボット式スポット法を用いて単一基板上に、様々な組合せと種類の細胞外マトリックスタンパク質をパターン化することも、本発明により提供される。実質細胞(例えば、肝細胞)と間質細胞との共培養物と一体化したこうしたマトリックスアレイは、薬物開発用途におけるハイスループットスクリーニングに適している。本発明は、静置装置中、およびin vivo条件に近似した閉ループ流動条件を備えたバイオリアクター装置中で、機能的に安定した2Dおよび3D共培養物も提供する。更に、マイクロパターン化戦略は、細胞間相互作用が重要な他の系(例えば、造血幹細胞と間質細胞系との、および角化細胞と線維芽細胞との共培養物)の機能的最適化に使用することも潜在的にできる。
【0040】
不溶性および/または可溶性因子を特定の位置に配置することに関しては、このような因子を所定の位置にスポットするために、コンピュータ制御プロッタまたはインクジェットプリンターさえ用いる多様な微量スポット法が開発されてきた。一技法では、多数の毛細管を孔通ししたガラス繊維の各毛細管中に異なる物質を装填する。次いで、顕微鏡スライドガラスなどの基板を、各スライドガラス上にゴム印とほぼ同様にしてスタンプする。スポット法では、手動的または自動化技法を用いて特定の部位または領域に物質を配置する。
【0041】
羽ペン(quill)、ピン、マイクロピペッターなどの従来からの物理的スポット法では、基板上の直径10〜250ミクロンの範囲に物質を付着させることができる(例えば、96ウェル培養プレート上で約100スポット/ミクロウェル)。幾つかの例では、その密度は400〜10000スポット/cm2で、スポット間に隙間をもたらすことができる。Affymetrix(例えば、その開示内容が本明細書に参照として援用されている米国特許第5,744,305号)が提供するようなリソグラフィー法では、約10平方ミクロンもの小スポットを生成するため、約800,000スポット/cm2となる。
【0042】
スポット装置には、基板上の所望の位置にこのような試薬を送出するために、1つまたは複数の圧電ポンプ、音響分散、液体プリンター、微小圧電(micropiezo)ディスペンサーなどを採用してもよい。幾つかの実施形態では、該スポット装置は、米国特許第6,296,702号、第6,440,217号、第6,579,367号および第6,849,127号に記載のものに類似またはそれと同様の装置および方法を含む。
【0043】
したがって、自動化スポット装置には、例えばPerkin Elmer BioChip ArrayerTMが利用できる。幾種もの接触式および非接触式マイクロアレイプリンターが利用可能であり、基板上に可溶性および/または不溶性物質を分配/印刷するために使用し得る。例えば、非接触式プリンターは、Perkin Elmer (BioChip ArrayerTM)、Labcyte and IMTEK (TopSpotTM)、およびBioforce (NanoarrayerTM)から入手できる。これらの装置は、圧電分配、無接触音響移送、多重マイクロチャネルからの同時印刷(en bloc printing)などを含めた、非接触式スポットに対する多様な手法を利用している。他の手法には、インクジェット式プリントおよび微小流体プラットホームが含まれる。接触式プリンターは、TeleChem International (ArrayltTM)から市販されている。
【0044】
非接触式印刷が、通常、細胞島状部を含む細胞マイクロアレイの作製に使用されよう。基板表面に物理的に接触しないプリンターを利用することにより、基板表面上に異常部または変形部が持ち込まれないため、スポット物質の部位における不均一または異常な細胞捕捉が防止される。
【0045】
音響または他の無接触移送を利用するものを含めた、対象とする印刷法では、例えば溶液が高い粘度、濃度および/または粘着性を有する場合、プリンター開口部の目詰まりを回避する便益も得られる。無接触移送印刷によって、多くのシステムに特有のデッドスペースも除かれる。多重ポートを有するプリントヘッドの使用、およびスポットサイズの柔軟な調節能力を、ハイスループットの調製に使用することができる。
【0046】
基板上のスポット総数は、基板サイズ、所望の細胞島状部のサイズ、および細胞島状部間の間隔に応じて変動することになろう。一般に、支持体の表面上にあるパターンには、個別のスポットが少なくとも2個、普通は個別のスポットが約10個、より普通には個別のスポットが約100個含まれようが、そのスポット数は50,000以上にもなり得る。典型的な場合、該スポットは、全体的に円形の寸法を普通は有し(しかし、球状、長方形、正方形などの他の幾何形状を使用してもよい)、その直径は約10〜5000μm(例えば、約200〜800μm)の範囲となろう。
【0047】
多重ウェル培養プレートの表面上に分配または印刷することによって、アレイ手法の利点と多重ウェル手法の利点とを組み合わせることができる。標準的なスポット装置におけるチップ間の間隔は、384ウェル、96ウェルの両プレートに適合している。各搭載量で同時に数個のウェルが印刷できる。ウェルの印刷は、接触式、非接触式双方の技術を用いて行うことができる。
【0048】
本発明は、ロボット式スポット技術を利用することにより、所定のサイズおよび空間配置の細胞マイクロアレイまたは島状部を、例えば細胞培養基板上に形成するための堅固で扱い易い方法を開発することができる。本明細書で使用する場合、用語「マイクロアレイ」とは、アドレスが指定された、または指定可能な複数の位置を指す。
【0049】
一態様では、本発明は、ECM付着を可能とするスポット装置で使用され、ECM固定化を可能とするマイクロアレイ基板を特定する改良型プリントバッファーを含む方法およびシステムを提供する。本発明の方法およびシステムは、既製の薬品および従来からのロボット式DNAスポッターを用いて、標準的な細胞培養基板(例えば、顕微鏡スライド)上に実質的に精製した生体のタンパク質、核酸など(例えば、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニンおよびフィブロネクチン)、または様々な組合せのそれらの混合物をスポットするのに有用である。
【0050】
別の態様では、本発明は、細胞島状部を生成するためにフォトリソグラフィー技術を利用する。間質細胞との共培養時のげっ歯類肝細胞の機能を操作するために、フォトリソグラフィーマイクロパターン化法を利用する際、業界標準多重ウェルフォーマット中でヒト肝組織を小型化し、その特性を決定するための、エラストマー型板を利用した微細技術準拠プロセスを使用した。この手法には、「軟質リソグラフィー法」、即ち微細加工構造の再使用可能なエラストマー性ポリマー(ポリジメチルシロキサン-PDMS)の型枠を利用することにより、フォトリソグラフィー技術の限界を克服する1組の技法が組み込まれている。一態様では、本発明は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する、厚さ300μmの膜からなるPDMS型板を用いるプロセスを提供する(図3a)。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、そのアセンブリをポリスチレンプレートに相対して密封した。I型コラーゲンを露出ポリスチレンに物理吸着させ、型板を外し、24ウェルPDMS「ブランク」を当てた。ヒト肝細胞をコラーゲンドメインに選択的に接着した後、それを支持的なマウス3T3-J2線維芽細胞で取り囲むことにより、共培養物を「マイクロパターン化」した。貫通孔のサイズ(例えば、幾何学的寸法)によって、コラーゲンドメインのサイズ、したがって微小規模組織中における同型(肝細胞/肝細胞)および異型(肝細胞/間質細胞)相互作用の均衡が決定された。同様な技法を用いて、他の実質細胞型の細胞島状部を培養することができる。
【0051】
本発明は、細胞島状部のサイズおよび/または間隔を変更することにより、細胞の発達および成熟化を制御する最適条件の特定に有用な方法およびシステムを提供する。例えば、本発明の方法およびシステムは、細胞の運命(例えば、幹細胞のより成熟した細胞への分化、自己再生の維持など)を制御する最適条件の特定に有用である。
【0052】
用語「接着物質」とは、基板またはチップ上に付着し、細胞または微生物がある程度の親和性を示す、結合剤などの物質である。該物質は、ドメインまたは「スポット」となって付着することができる。該物質と細胞または微生物とは、例えば、静電もしくは疎水相互作用、共有結合、またはイオン結合を含めた任意の手段を介して相互作用をする。該物質は、それだけに限らないが、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチドアプタマー、核酸アプタマー、糖類、プロテオグリカンまたは細胞受容体を包含し得る。
【0053】
特定の実施形態では、本発明は、肝細胞機能をin vitroで最適化するのに有用な方法および組成物を提供する。本発明は、ラットおよびブタの肝臓モデルに以前使用された肝細胞-線維芽細胞共培養物をヒト肝臓モデルに拡張する。微細加工手段を用いて、本発明は、マイクロパターン化配置(単一の肝細胞島状部から大型集合体まで)が、ランダム分布共培養を性能的に凌ぐことを実証している。操作・作製したマイクロパターン化配置にあっては、同型および異型相互作用の明確な均衡により、機能的ヒト型共培養物を生成することができる。このような予想外の結果から、ラット型共培養物と比較した場合、ヒト型共培養物では異なる構造的依存性が示される。最適化したマイクロパターン化ヒト型共培養物の特性決定は、広範に及び、それには抗体準拠機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを利用する。共培養した肝組織における試験によれば、マイクロパターン化ヒト型共培養物は、多くの重要な肝特異的遺伝子の高度の発現量を保持しているが、薬物開発中に汎用される、コラーゲン上の純粋な肝細胞単層では発現量の低下が見られることを示している。薬物開発用の適正肝臓モデルとしてヒト型共培養物を検証する方策には、多様な臨床用および非臨床用化合物を用いる細胞準拠急性および慢性毒性アッセイ、ならびにCYP450鍵酵素の誘導および阻害が含まれる。
【0054】
細胞島状部または「スポット」とは、規定した境界を有する、実質的に均質な細胞型からなる境界付きの幾何学的に規定された形状を指す。一態様では、細胞島状部またはスポットは、異なる細胞型、物質(例えば、細胞外マトリックス物質)などに取り囲まれている。該細胞島状部は、サイズおよび形状に範囲を有することができる(例えば、均一な寸法または不均一な寸法でもよい)。細胞島状部は、同一基板上に相異なる形状を有してもよい。更に、2個以上の細胞島状部間の距離は、当該分野で公知の方法(例えば、リソグラフィー法およびスポット法)を用いて設計することができる。細胞島状部間の距離は、ランダム、規則的または不規則的であってもよい。細胞島状部の間隔距離および/またはそれらのサイズは、特定の細胞型(例えば、肝細胞などの実質細胞)へ形態に特徴的な所望の表現型をもたらすために、変更することができる。
【0055】
異型および/または同型相互作用を制御するために細胞島状部を調節すること以外に、本発明は、哺乳動物細胞の酸素および栄養素の取込み過程を調節する能力を与えることにより、リアクター系中に方向性勾配を創出するバイオリアクター系を使用することができる。方向性酸素勾配は、例えば、癌、組織発生、組織再生、創傷治癒、および正常組織などの多様な生体環境において存在する。その結果、バイオリアクター系の長さに沿った酸素勾配のために、局所的な酸素利用性に基づいて異なる機能特性を示す細胞が生じる。したがって、本発明は、正常組織に特徴的なヒト組織をin vitroでもたらすだけでなく、体内組織中に見出される酸素および/または栄養素の勾配を模倣することにより、類似の生理環境ももたらす方法、リアクター系および組成物を提供する。
【0056】
バイオリアクター系と組み合わせたマイクロパターン技術の使用によって、マイクロアレイ式バイオリアクターの開発が可能となる。以前のバイオリアクターは、栄養素および薬物の輸送変動の根拠となる自己組織化に対する依存と、特性不明の間質性汚染物(例えば、ランダム培養物)とに起因する組織編成の変動性が一因となるために、小型化に適していなかった。更に、以前のランダム共培養物は、特性不明の間質細胞集団を有し、顕微鏡撮像が困難であり、細胞数の評価が困難であり(細胞集団の増殖による)、マイクロパターン化共培養物ほど細胞特異的(例えば、肝特異的)な機能を示さない。本発明により提供されるマイクロパターン化は、こうした困難の多くを克服している。
【0057】
該バイオリアクターでは、少なくとも2つの細胞型が、基板上の境界付き幾何学パターン中に配置されている、細胞の共培養物が利用される。このようなマイクロパターン化技法は、異型および同型細胞間接触の程度を調節するのに有用である。その上、共培養物は改善した安定性を有するため、慢性試験が可能となる(例えば、食品医薬品局(FDA)が新規化合物に対して要求するような慢性毒性試験)。マイクロパターン化共培養物はランダム培養物より安定であるので、本発明の共培養物、より特定すればマイクロパターン化共培養物の使用により、本開示の培養系に有益な特徴が得られる。更に、薬物間相互作用は長期間に亘り生起することが多いので、安定な共培養物という利点によって、このような相互作用の分析および毒性学的測定が可能となる。
【0058】
一態様では、本発明は、医薬の開発、基礎科学研究、感染性疾患の研究(例えば、B型、C型肝炎およびマラリア)のため、ならびに移植用組織の発生において利用できる、ヒト肝組織のin vitroモデルを提供する。本発明は、in vitroでの長期ヒト培養物の発生を可能とする組成物、方法およびバイオリアクター系を提供する。加えて、本発明の組成物、方法およびバイオリアクター系は、細胞島状部のサイズおよび分布を改変することにより、特定の形態特性の設計を提供する。本開示の組成物、方法およびバイオリアクター系を肝臓培養物に適用したところ、細胞島状部のサイズおよび/または分布が、in vivo代謝を模倣する細胞代謝の誘導に寄与することが判明した。この結果によれば、細胞分布は、遺伝子発現を調節し、細胞特異的代謝(例えば、肝特異的代謝)の維持における重要な役割を暗示することが示されている。その上、現行の生体用人工支持システムの設計および最適化においてこのような分布の効果を考慮すれば、その機能を改善し得る。
【0059】
抗体準拠機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを用いた特性決定によって、本発明のマイクロパターン化ヒト型共培養物の肝特異的長期安定性(タンパク質量およびRNA量)が実証された。薬物開発における応用を示すために、典型的な薬物による急性/慢性毒性アッセイならびにシトクロームP450(薬物代謝の鍵酵素)の誘導/阻害を行った。例えば、特異な肝毒性(10,000件中1件)により2000年に市場から撤退した薬物REZULIN (トログリタゾン)を用いたin vitroの試験によれば、この薬物は汎用鎮痛剤のアセトアミノフェン(Tylenolの有効成分)より相当に毒性が高い。したがって、本発明は、毒性、および細胞代謝に正負いずれかの効果を及ぼし得る薬物相互作用をスクリーニングするために、有用である。
【0060】
本開示の組織培養およびバイオリアクターは、細胞毒性化合物、成長/調節因子、医薬などの広範囲の化合物をin vitroでスクリーニングすることにより、細胞(例えば肝細胞)機能を変化させ、および/または細胞毒性と死とを起こし、あるいは増殖活性または細胞機能を変化させる作用物質を同定するために、使用してもよい。例えば、該培養系は、様々な作用物質の吸着、分布、代謝、排泄および毒性(ADMET)を試験するために、使用してもよい。この目的のために、該培養物は、細胞島状部の所定の幾何形状を含みながらin vitroで維持され、試験対象の化合物に曝される。ある化合物の活性は、培養物中の細胞を損傷または殺滅する能力、あるいは細胞の機能(例えば、肝細胞ではP450の発現など)を変化させる能力によって、測定することができる。これは、生体染色法、ELISAアッセイ、免疫組織化学法などにより容易に評価し得る。成長/調節因子の細胞(例えば、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、膵細胞、星状細胞、筋細胞、癌細胞)に対する作用は、培養物の細胞含量、例えば全細胞数および細胞数の差、またはMTT、XTTなどの代謝マーカーによるその含量を分析することにより、評価し得る。これは、型特異的細胞性抗原を規定する抗体を用いた免疫細胞化学法の使用を含む、標準的な細胞学的および/または組織学的技法を用いても、実現し得る。培養系で培養された正常細胞に対する多様な薬物の作用を評価してもよい。例えばコレステロール産生を低下させることにより、コレステロール代謝に影響する薬物を、例えば肝培養系で試験することができよう。
【0061】
本発明の方法およびシステムは、正常、異常両組織のモデルを作製し、アッセイするために、使用することができる。例えば、活性化星細胞で肝細胞を取り囲めば、線維症肝組織を模倣することになろう。この態様において、肝細胞島状部は活性化星細胞により形成、および囲まれる。あるいは、細胞島状部の形成に用いる肝細胞源として、病的肝組織を使用してもよい。こうした異常肝細胞は、正常または異常な非実質細胞型と境界で隔てることができる。
【0062】
別の態様では、試験作用物質の存在下および非存在下で感染性疾患をモニターしてもよい。例えば、本発明の肝培養物では、異型および同型相互作用、ならびに特定細胞に対する相互作用に対して、B型およびC型肝炎の効果を試験してもよい。更に、このような疾患の治療に使用する試験作用物質を調査の対象としてもよい。同様に、マラリアおよび他の感染性疾患、ならびに潜在的治療薬を試験することができる。
【0063】
本開示のバイオリアクターおよび培養系(例えば、本発明の単一ならびにアレイ式バイオリアクター)の一利点は、このようなバイオリアクターまたは培養系中の細胞が、実質的に同種であり、自系である(例えば、細胞島状部は実質的に同種であり、自系である)ため、同じ生物学的背景で多数の実験をすることができることである。例えば、in vivo試験では、動物間の変動が起こり、所与の被験体に対して試験できる条件または作用物質の数に限りがある。
【0064】
本開示のバイオリアクター培養系を利用することによって、培養中の細胞(例えば、ヒト肝細胞)に対する医薬、抗新生物剤、発癌剤、食品添加物および他の物質の細胞毒性を試験してもよい。
【0065】
アッセイ系の一態様では、安定な増殖培養物が、所望のサイズ(例えば、島状部サイズおよび島状部間の距離)、形態を有するバイオリアクター系内に確立され、所望の酸素勾配も含み得る。培養物中の細胞/組織を様々な濃度の試験作用物質に曝す。試験作用物質とのインキュベーション後、位相差顕微鏡により、またはタンパク質産生/代謝などの細胞特異的機能(例えば、肝細胞指標)の測定により、培養物を検査することによって、最大耐容用量(最も早期の形態異常が出現し、または検出される試験作用物質の濃度)を決定する。多様な超生体色素を用いて細胞毒性試験を行うことにより、当業者に公知の技法を用いて培養系の細胞生存率を評価することができる。
【0066】
試験範囲を確立してしまえば、異なる細胞型の生存率、増殖および/または形態に対する試験作用物質の効果を、当業者に周知の手段によって様々な濃度で検査することができる。
【0067】
該バイオリアクター培養系は、悪性腫瘍および疾患の診断および治療、または遺伝毒性試験を補助するためにも使用してもよい。例えば、薬物感受性、悪性腫瘍または他の疾患もしくは障害の疑いがある被験者から、組織の生検試料(例えば肝生検試料など)を採取してもよい。次いで、その生検細胞を適当な条件でバイオリアクター系内で培養し、当該分野で公知の技法を用いて培養細胞の活性を評価することができる。その上、このような生検培養物を用いてその活性を変化させる作用物質をスクリーニングすることにより、被験者を治療するための治療計画を特定し、また、薬物感受性もしくは毒性、または疾患感受性を起こす遺伝子を同定することができる。例えば、被験者の組織培養物をin vitroで使用して細胞毒および/または医薬化合物をスクリーニングすることにより、最も有効な化合物、即ち悪性腫瘍または疾患細胞を死滅させるが、正常細胞を許容する化合物を同定する、あるいは薬物感受性による毒性反応を起こさない薬物を同定することができよう(例えば、個別医療に関わるスクリーニング)。次いで、こうした作用物質を用いて被験者に治療処置を施すことができよう。
【0068】
同様に、該培養系を用いて薬物の有益作用をin vitroで評価してもよい。例えば、成長因子、ホルモン、肝細胞の形成または活性を強化する薬物を試験することができる。この場合、安定なマイクロパターン培養物を試験作用物質に曝してもよい。インキュベーション後、マイクロパターン培養物の生存率、増殖、形態、細胞型などを試験物質の有効性の指標として検査してもよい。薬物を様々な濃度で試験することにより、用量-反応曲線を得ることができる。
【0069】
本発明の培養系は、生理または病理状態を試験するためのモデル系として使用してもよい。例えば、特定の実施形態では、該培養系は、細胞島状部のサイズまたは分布の変更により、本明細書に記載のように特異機能的に作用するように最適化することができる。別の態様では、酸素勾配が、培養系内の細胞のマイクロパターンの密度および/またはサイズと共に変更される。
【0070】
本発明の方法に有用なバイオリアクターの全体が、図4に描写されている。バイオリアクター5は、ポンプ90、ガス交換装置100、気泡トラップ120、基板20と組織結合性表面30と底面40とを含む培養装置15、少なくとも1つの壁55と導入口60と排出口70とを有する囲い/ハウジング50、センサー110、および液貯め容器80からなる。バイオリアクター5は、系内での流体の循環を維持するために用いるポンプ90を含む。ポンプ90は、系内に存在する流体を所望の濃度に酸素化するガス交換装置100と、流体を介して連通することができる。ポンプ90は、系内の細胞と接触することになる、例えば栄養培地または他の培地を収容するために用いる液貯め容器80とも、流体を介して連通している。一態様では、ガス交換装置100は、ガス交換装置100における流体のガス交換後に気泡を除くように機能する気泡トラップ120と、流体を介して連通している。系内を流通する流体は、培養装置15の導入口60に入り、基板20を排出口70へと通り抜ける。導入口60および排出口70は、囲い/ハウジング50のx、y、zいずれの面上に配置してもよい。
【0071】
細胞のための増殖表面が基板20の上面30にあるものとして示されている図4の特定の実施形態で、細胞の接着および増殖のための追加の表面を、ハウジング/チャンバー50の任意の表面(即ち、チャンバー50の任意の1つまたは複数の表面)を含めて調製してもよい。図4では、細胞は基板20の上面30上で増殖することができる。本明細書で考察するように、基板への細胞接着を促進する、または細胞増殖を改善するように、基板20、またはハウジング/チャンバー50の任意の1つもしくは複数の表面を処理または改変してもよい。基板20および/またはハウジング/チャンバー50の光透過性は、従来の顕微鏡観察(蛍光および透過光)用のプラットホームとして有用である。更に、細胞毒性および/または増殖と生存性を示す多様な代謝生成物または副生物を測定するために、マイクロ技術またはナノ技術を用いてインラインセンサーを組み込むことができる。例えば、様々な培養パラメーターをモニターするために、バイオリアクター中に分子プローブ(例えば、蛍光や、抵抗、キャパシタンスを含めた導電性の変化などの可測シグナルを得るプローブ)を含めることができる。変化を示すことができるプローブには、細胞環境または培地流出液中の分子と相互作用すると立体配置を変化させる多種の指示薬に連結した、多様な緑色蛍光タンパク質分子が含まれる。細胞環境または培地流出液中の分子と相互作用すると電気的変化を示すプローブは、多様なポリマー(例えば、ポリピロール、ポリアニリンなど、ならびに半導体基板)を含む基板を包含することができる。このような基板は、分子と相互作用すると抵抗またはキャパシタンスを変化させる。例えば、各リアクター(または、本明細書に記載するようなマイクロアレイ中の複数のリアクター)は、個々のO2、pHおよび代謝物質センサー(複数も)を有することができる。他のセンサー種は当該分野で公知である。その上、このようなセンサーを含み込めるための微細加工法も、当該分野で公知である。
【0072】
一態様では、排出口70を経て培養装置15から出る際、流体は、対象とする被分析物質を測定するセンサー110(例えば、酸素センサー、代謝物質センサーなど)と接触する。センサー110から得たデータを用いて、組織成長を調節し、および/または特定の作用物質もしくは薬物の有効性もしくは毒性に関するデータを得ることができる。
【0073】
更なる実施形態では、バイオリアクター系5は、図5に描写するようなバイオリアクター系のアレイにおいて使用することができる。図5は、流体で連通した複数の小型バイオリアクター系5の概略図である。各細胞培養装置15用の導入口60および排出口70が描かれている。各細胞培養装置15中の細胞10は、基板20上、または複数の基板20上で増殖する。
【0074】
再度図4を参照すれば、本開示によるバイオリアクター系5の一実施形態は、基板20の上部30上に播種されている組織10を有する。覆い用のチャンバーまたはハウジング50は、少なくとも1つの壁55を含む。このチャンバー/ハウジング50は、導入口60および排出口70を含む。組織10は、間質細胞集団中に散在した複数の実質細胞島状部を含むことができる。特定の一実施形態では、この組織または細胞アレイは、細胞島状部相互の特定の距離および/またはその島状部のサイズにより規定される。
【0075】
基板20の上部30は、チャンバー/ハウジング50と密封するように係合することにより、流動空間を創出する(図4における矢印で示される)。チャンバー/ハウジング50は、流体流動用の開口部を含む。流体供給管が導入口60に設けられ、ガス交換装置100、ポンプ90および液貯め容器80と流体で連通している。返送管が排出口70に設けられている。流体循環は、ポンプ90を用いて系内で維持されているが、該ポンプは、例えば、流体を送出してバイオリアクターに通すシリンジポンプおよび蠕動または他種のポンプを含む、細胞培養系で常套的に使用するいずれのポンプでもよい。
【0076】
導入口60および排出口70は、系内での流体の循環を維持するために、管と対合する接続具またはアダプターを含む。接続具またはアダプターは、ルアー接続具、ねじ山などでもよい。管用接続具またはアダプターは、細胞培養のための流体(栄養培地を含む)の送出に適した任意の材料で構成してよい。このような管用接続具またはアダプターは当該分野で公知である。導入口60および排出口70は、リアクターのサイズおよび流体の流量にとって望ましい内径を有する管を受け容れる接続具またはアダプターを含む。
【0077】
基板20は、哺乳動物細胞の培養に適した任意の材料で作製することができる。基板20は、図4ではバイオリアクターの一部として描かれているが、バイオリアクターのない状態での培養のために基板を調製できることは認識されよう。一態様では、基板20は伝統的な組織培養皿の場合もある。例えば、該基板は、材質が生体適合性である限り、プラスチックや他の人工ポリマー材料などの容易に滅菌できる材料でよい。基板20は、細胞および/または組織が接着でき(または、細胞および/または組織が接着するように改変でき)、しかも細胞および/または組織が1層または複数層となって成長できる任意の材料でもよい。本明細書に記載するような基板20を形成するために、種類任意数の材料を使用することができる。
【0078】
ナイロン、ポリスチレンなどのある種の材料は、細胞および/または組織の付着用の基板としてあまり有効ではない。こうした材料を基板として使用する場合、細胞の接種前に基板を前処理することによって、細胞の基板に対する付着性を強化することが得策である。例えば、間質細胞および/または実質細胞の接種前に、ナイロン基板を0.1M酢酸で処理し、ポリリジン、FBSおよび/またはコラーゲン中でインキュベートすることにより、ナイロンを被覆すべきである。硫酸を使用して同様にポリスチレンを処理することができよう。
【0079】
in vitroで生成した人工組織自体をin vivoで埋め込もうとする場合、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸などの生分解性基板を使用すべきである。組織を長期間維持する、または凍結保存しようとする場合は、ナイロン、ダクロン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニル、テフロン(登録商標)、綿などの非分解性材料を使用してもよい。
【0080】
組織が成長した後に、それを凍結および保存することができる。一態様では、組織は温度を4℃に下げることにより、保存される。組織を凍結保存しようとする場合、凍結保存剤が添加される。組織を凍結保存する方法は、保存しようとする組織の種類に依存しようが、その方法は当該分野で周知である。
【0081】
本開示の細胞島状部を含むマイクロパターン化組織は、広範囲の用途に使用することができる。こうした用途には、それだけに限らないが、培養人工組織のin vivoでの移植または埋込み、細胞毒性化合物、成長/調節因子、医薬化合物などのin vitroでのスクリーニング、ある種の疾患の機構解明、薬物および/または成長因子の作用機構の研究、患者における癌の診断およびモニター、遺伝子治療およびタンパク質送達、生体産物の作製、ならびに体外器官補助装置の主要な生理的構成要素が挙げられるが、これらの用途はその数例を挙げたものである。本開示のバイオリアクターによって培養された組織は、バイオリアクターが多機能細胞を有する組織の培養を可能とするので、上記用途に特に適している。したがって、こうした組織は、in vivoで成長する組織を有効にシミュレートしている。
【0082】
一実施形態では、該組織(例えば、バイオリアクター中にある)は、細胞性生体産物を高収率で産生するためにin vitroで使用することができよう。例えば、特定の生体産物(例えば、成長因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体など)を自然状態で多量に産生する細胞、または外来遺伝子産物を産生するように遺伝子操作された宿主細胞は、本開示のバイオリアクターを用いてin vitroで培養することができよう。
【0083】
例えば、生体産物を産生するためのバイオリアクターを使用するために、栄養素、成長因子、ガスなど、ある濃度の溶質を有する培地流は、口60から流入し、基板20上に播種された組織10を通過して口70から流出する。この供給液は、生体産物の産生を促進する細胞島状部の所望のサイズおよび/または分布と共に設計される。供給される溶質および栄養素の濃度は、組織層が所望の生体産物を産生するような濃度である。次いで、産物は、培地流中に排泄された後、当該分野で周知の技法を用いて、排出口70から出てくる排出流から採集することができる。
【0084】
上記したように、規模の異なるリアクターは異なる用途のために使用することができる。大規模リアクターは、組織機能に対する栄養素、薬物などの効果を試験するために、使用することができる(例えば、肝臓に対する虚血、および細胞の低酸素反応、器官維持などのその関わり)。ハイスループットリアクターは、代謝、毒性および有害な生体異物相互作用に関して薬物を評価するために使用することができる。それは、可変的な酸素環境における潜在的な制癌剤および他の薬理作用物質の評価のためにも使用することができよう。例えば、小型化したバイオリアクター系は、図5に描かれるようなアレイに作製することができる。
【0085】
例えば、肝細胞および/または間質細胞を含めた細胞の増殖のために、組織成長を維持し、増強するのに必要な溶質を含んだ培地を細胞と接触させる。液体培地中の溶質には、タンパク質、炭水化物、脂質、成長因子などの栄養素、ならびに酸素と、細胞および/または組織の成長および機能に資する他の物質が含まれる。例えば、バイオリアクター系中の酸素ガス濃度は、組織の形態(例えば、肝組織培養物における帯状分布)を維持するために調節することができる。培地中の溶質、ならびに培養中の細胞が産生し、放出する溶質は、多機能細胞の発生を促進する。
【0086】
別の態様では、本発明は、改変した酸素送達および共培養物のマイクロパターン化を併用することによって、例えば、肝細胞培養物における合成、代謝または解毒機能を含む、特定の生理機能のために(対象とする機能に応じて)組織培養を最適化する。
【0087】
本開示の方法を実施する際、通常、細胞は哺乳動物細胞であるが、その細胞は異なる2種に由来してもよい(例えば、ブタ、ヒト、ラット、マウスなど)。該細胞は初代細胞であっても該細胞は樹立細胞系に由来してもよい。本開示の方法およびシステムには基板に接着する任意の細胞型(例えば、実質細胞および/または間質細胞)を使用できるが、共培養物を作製するための細胞の例示的組合せには、限定することなく、(a) ヒト肝細胞(例えば、初代肝細胞)および線維芽細胞(例えば、正常細胞またはNIH 3T3-J2細胞などの形質転換細胞)、(b) 肝細胞および少なくとも他の1種の細胞型、特に、クッパー細胞、伊東細胞、内皮細胞、胆管細胞などの肝細胞、ならびに(c) 幹細胞(例えば、肝前駆細胞、卵細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞など)と、ヒト肝細胞および/または他の肝細胞と、間質細胞(例えば、線維芽細胞)が含まれる。肝細胞、肝細胞および肝前駆細胞の組合せ。
【0088】
別の態様では、ある種の細胞型は、固有の付着能を有するため、血清または外因性付着因子を添加する必要がない。細胞型の中には、帯電した細胞培養基板に付着するものもあれば、細胞表面タンパク質を介して、および細胞外マトリックス分子の分泌によって基板に付着するものもあろう。線維芽細胞は、こうした条件下で細胞培養基板に付着すると思われる一細胞型の例である。
【0089】
本開示の方法に有用な細胞は、市販源を含めた幾つもの供給源から入手できる。例えば、肝細胞は、ヒト肝臓の生検または剖検材料に適合できる従来法(Berry and Friend, 1969, J. Cell Biol. 43:506-520)により単離してもよい。通常の場合、門脈または門脈枝の中にカニューレを導入し、組織の色が薄くなるまで、肝臓をカルシウム非含有またはマグネシウム非含有緩衝液で潅流する。次いで、その臓器をコラゲナーゼ溶液などのタンパク分解酵素で適当な流速で潅流する。これにより、結合組織の構造が消化されるはずである。次いで、肝臓を緩衝液中で洗浄し、細胞を分散させる。細胞懸濁液を70μmナイロンメッシュでろ過することにより、屑を除き得る。肝細胞は、分画遠心分離を2〜3回行うことにより、細胞懸濁液から選択し得る。
【0090】
切除した個々のヒト肝葉を潅流するために、HEPES緩衝液を使用してもよい。HEPES緩衝液中でのコラゲナーゼの潅流は、約30ml/分の速度で実現し得る。単個細胞懸濁液は、37℃、15〜20分間コラゲナーゼと更にインキュベーションすることにより得られる。(Guguen-Guillouzo and Guillouzo, eds, 1986, "Isolated and Culture Hepatocytes" Paris, INSERM, and London, John Libbey Eurotext, pp.1-12; 1982, Cell Biol. Int. Rep. 6:625-628)。
【0091】
肝細胞は、多能性幹細胞または肝前駆細胞(即ち、肝細胞前駆細胞)の分化によっても得られる。単離した肝細胞は、次いで本明細書に記載の培養系に使用し得る。
【0092】
間質細胞には、例えば、本明細書に更に記載するような適当な供給源から得られる線維芽細胞が含まれる。あるいは、間質細胞を商業的供給源から得てもよいし、または当該分野で公知の方法を用いて多能性幹細胞から誘導してもよい。
【0093】
線維芽細胞は、線維芽細胞の供給源として役立てようとする適当な臓器または組織の解離によって、容易に単離し得る。これは、当業者に公知の技法を用いて容易になし得る。例えば、組織または臓器は、機械的に解離でき、ならびに/あるいは消化酵素および/またはキレート剤での処理により、隣接細胞間の結合を弱め、さしたる細胞破壊を起こさずに組織を個別細胞の懸濁液中に分散することを可能にすることができる。酵素的解離は、組織を細断し、細断組織を多種の消化酵素のいずれか単独または組合せで処理することにより、なし得る。こうした酵素には、それだけに限らないが、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、および/またはヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ、ディスパーゼなどが挙げられる。機械的破砕も、摩砕機、ブレンダー、篩、ホモジナイザー、圧力セルまたは超音波破砕器(insonator)を含むが、それだけに限らない多種の方法によってなし得る。組織解離技法の総説については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, ch. 9, pp. 107-126を参照されたい。
【0094】
組織を個別細胞の懸濁液に変えた後は、懸濁液を小集団に分別し、そこから線維芽細胞ならびに/あるいは他の間質細胞および/または構成要素を得ることができる。これも、標準的な細胞分離法を用いてなし得るが、その細胞分離法には、それだけに限らないが、特定の細胞型のクローニングおよび選択、不要細胞の選択的破壊(負の選択)、混合集団中の差別的な細胞凝集性に基づく分離、凍結融解操作、混合集団中の細胞の差別的な接着性、ろ過、従来型ゾーン遠心分離、遠心溶出(向流遠心分離)、ユニット重力分離、向流分配、電気泳動、蛍光活性化細胞分離などが挙げられる。クローン選択および細胞分離技法の総説については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 11 and 12, pp. 137-168を参照されたい。
【0095】
線維芽細胞の分離は、例えば以下のように実施することができる。即ち、新鮮な組織試料を徹底的に洗浄し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で細断して血清を除く。細断組織をトリプシンなどの解離酵素の調製直後の溶液中で1〜12時間インキュベートする。このようなインキュベーションの後、解離細胞を懸濁し、遠心分離によりペレット化し、培養皿上に播種する。全ての線維芽細胞は、他の細胞に先んじて付着すると見込まれ、したがって適当な間質細胞を選択的に単離し、増殖させることができる。単離線維芽細胞は、次いで本開示の培養系中で使用することができる。
【0096】
限定するわけではないが、例えば、Larson等の方法(1987, Microvasc. Res. 34:184)に従って内皮細胞を脳の小血管から単離し、本開示のバイオリアクター系を用いてin vitroで培養することにより、その個数を増やすことができる。銀染色を用いて、小血管内皮に特有であり、この内皮の「障壁」機能と関係する密着結合複合体の存在を確認し得る。
【0097】
膵腺房細胞の懸濁液を、他の文献(Ruoff and Hay, 1979, Cell Tissue Res. 204:243-252およびHay, 1979, in, "Methodological Surveys in Biochemistry Vol. 8, Cell Populations." London, Ellis Hornwood, Ltd., pp.143-160)に記載の技法を適合させることによって調製してもよい。手短に言うと、組織を細断し、カルシウム、マグネシウム共に非含有の緩衝液中で洗浄する。細断組織断片をトリプシンおよびコラゲナーゼの溶液中でインキュベートする。解離細胞は、20μmナイロンメッシュを用いてろ過し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)などの適切な緩衝液中で再懸濁し、遠心分離によりペレット化し得る。生成した細胞ペレットは、最小限の量の適当な培地に再懸濁し、基板上に接種することにより、本開示のバイオリアクター系中で培養することができる。膵細胞は、線維芽細胞などの間質細胞と共に培養してもよい。腺房細胞は、チモーゲン液滴封入体に基づいて同定することができる。
【0098】
癌組織も、本開示の方法およびバイオリアクター培養系を用いて培養し得る。例えば、腺癌細胞は、腫瘍細胞をHBSS中で細断し、その細胞を0.27%トリプシン中で37℃、24時間インキュベートし、懸濁細胞をプラスチック製ペトリ皿上のDMEM完全培地中で37℃、12時間更にインキュベートすることによって、間質細胞から腺癌細胞を分離することにより得ることができる。間質細胞は、プラスチック皿に選択的に接着した。
【0099】
本開示の組織培養物およびバイオリアクターを用いて、細胞および組織の形態を調べることができる。例えば、培養系中の酵素および/または代謝活性を、普通の顕微鏡上で蛍光または分光測定によって遠隔的にモニターしてもよい。一態様では、液体/培地中の蛍光代謝物質の使用により、細胞は適当な条件下で(例えば、その代謝物質に作用するある種の酵素などを産生した際に)蛍光を発することになろう。あるいは、組換え細胞を培養系に使用することができ、それによりこのような細胞は、遺伝子改変を受けて、適当な条件下で(例えば、帯状分布時または特定の酸素濃度下に)治療性または診断性産物を産生するプロモーターまたはポリペプチドを含む。例えば、P450遺伝子(CYPIA1)上にGFP(緑色蛍光タンパク質)レポーターを含むように、肝細胞を操作してもよい。したがって、薬物がそのプロモーターを活性化すれば、組換え細胞は蛍光を発する。これは、P450のアップレギュレーションにより起こる薬物間相互作用を予測するのに有用である。
【0100】
上記した本発明の多様な技法、方法および態様は、コンピュータ準拠システムおよび方法を用いて部分的または全般的に実施することができる。コンピュータ実施法は、細胞島状部を設計するためにリソグラフィー法で使用することができる。
【0101】
以下に示す実施例は、本発明を例示するのが目的であって、それを限定するためではない。こうした実施例で採用する科学的方法の様々なパラメーターは、以下で詳述され、本発明全般を実行するための指針を示す。
【0102】
こうした特定の実施例では、肝細胞が線維芽細胞と共培養される。同様な方法を用いて、細胞の他の組合せを共培養することができる。これらの実験では、バイオリアクター系中で酸素を制御しながら1種または複数の細胞型を培養することによって、in vivoの相当細胞と表現型が類似の細胞、ならびにin vivoの組織と形態が類似の組織を得ることができることを実証する。本発明を以上で全般的に説明してきたが、本発明の更なる態様は、例示的であって限定的ではない以下の特定の開示から明らかであろう。
【実施例】
【0103】
コラーゲンのマイクロパターン化: 24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔(500μm〜1200μmの中心間間隔)を有する厚膜(約300μm)からなる、エラストマー性ポリジメチルシロキサン(PDMS)の型板用具は、Surface Logix, Inc (Brighton, MA)により提供された。先ず、型板用具は、組織培養用処理済みポリスチレンオムニトレイ(Nunc, Rochester, NY)に密封し(軽い加圧で)、次いで各ウェルをI型コラーゲン水溶液(100μg/mL)と37℃、1時間インキュベートした。ラット尾部の腱から得たコラーゲンの精製は、以前に記載されていた。各ウェル中の過剰コラーゲン溶液を吸引し、型板を外し、PDMS「ブランク」(型板膜のない24ウェル型枠)を取り付けた。コラーゲンパターン入りポリスチレンを2週間までの間4℃で乾燥保存した。幾つかの例では、リン酸緩衝塩水(PBS)中に20μg/mLで溶解したAlexa Fluor(登録商標)488カルボン酸スクシニミジルエステル(Invitrogen, Carlsbad, CA)とのインキュベーション(室温1時間)で、マイクロパターン化コラーゲンを蛍光で標識した。図6の実験のために、以前に記載されたような従来型フォトリソグラフィー技術を用いて、ガラス基板上に様々な寸法でコラーゲンをマイクロパターン化した。
【0104】
線維芽細胞培養: 3T3-J2線維芽細胞はHoward Green(Harvard Medical School)から頂いた。高グルコース含量、10%(v/v)子ウシ血清および1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンを含んだダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37℃、5%CO2で細胞を培養した。幾つかの例では、培地中の10μg/mLマイトマイシンC(Sigma, St. Louis, MO)との2時間のインキュベーションにより、線維芽細胞の増殖を停止させた。
【0105】
顕微鏡観察: デジタル画像取得用にSPOTデジタルカメラ(SPOT Diagnostic Equipment, Sterling Heights, MI)およびMetaMorph Image Analysis System (Universal Imaging, Westchester, PA)を装備したNikon Diaphot顕微鏡を用いて、標本を観察し、記録した。
【0106】
遺伝子発現プロファイル作成: マイクロパターン化肝細胞-線維芽細胞共培養物をリン酸緩衝塩水(PBS)で3回洗浄することにより、痕跡量の血清を除いた後、0.05%トリプシン/EDTA(Invitrogen)で37℃、3分間処理した。線維芽細胞は、マイクロパターン化後に集塊(500μm)となって配置した肝細胞と比べ、トリプシン媒介剥離に対してはるかに高い感受性を示した。トリプシンとのインキュベーション後、プレートを軽く振とうして付着の緩い線維芽細胞を除き、上清を吸引し、付着肝細胞(純度約95%)を血清添加肝細胞培地で3回洗浄することにより、トリプシンを中和し、その痕跡量を培養物から除いた。肝細胞RNAをTRIzol(Invitrogen)で抽出し、RNeasyキット(Qiagen)を用い、製造業者の使用説明書に従って精製した。そのRNAを標識し、Affymetrix(Santa Clara, CA)のHuman U133 Plus 2.0 Arrayにハイブリッドを形成し、以前に記載のようにスキャンした。手短に言うと、T7-(dt)24プライマー(オリゴ)を用いて二本鎖cDNAを合成した後、逆転写(Invitrogen)cDNAをPhase Lock Gel中、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで精製し、酢酸アンモニウムで抽出し、エタノールを用いて沈殿させた。ビオチン標識cRNAは、BioArrayTM HighYieldTM RNA Transcript Labeling Kitを用いて合成し、RNeasyカラム(Qiagen)上で精製し、溶出し、次いで断片化した。発現データの品質は、低バックグラウンド値、3'/5'アクチンとGAPDH(グリセリルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)との比2未満などの規準を含む、製造業者の使用説明書を用いて評価した。発現データは全て、GCOS(GeneChip Operating System v1.2)にインポートし、条件間の比較を可能にするために、2500の目標強度に規模を合わせた。
【0107】
第I相および第II相酵素活性アッセイ: 薬品として、Sigmaからクマリン(CM)、7-ヒドロキシクマリン(7-HC)、エトキシレゾルフィン(ER)、レゾルフィン(RR)、ケトコナゾール(KC)、サルファフェナゾール(SP)、メトキサレン(MS)、サリチルアミド(SC)を購入し、またはBD-Gentestから7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(MFC)、7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(BFC)、7-ヒドロキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(7-HFC)を購入した。培養物は、フェノールレッドを含まないDMEM中に溶解した基質(CM、MFC、BFCを50μM、ERを8μM、7-HCを100μM)と共に37℃、1時間インキュベートした。阻害試験に対しては、培養物を特定の阻害剤(CMとはMSを25μM、MFCとはSPを50μM、BFCとはKCを50μM、7-HCとはSCを3mM)の存在下で基質と共にインキュベートした。反応はインキュベーション培地の採集により停止した。次いで、第II相活性により形成される潜在的な代謝物質抱合体を、上清のβ-グルクロニダーゼ/アリールスルファターゼ(Roche, IN)との37℃、2時間のインキュベーションによって加水分解した。試料をクエンチ溶液中で1:1に希釈し、他所で詳述されているように、蛍光マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)によって代謝物質の蛍光形成を定量した。CMからの7-HCの産生は、ヒトにおけるCYP2A6で媒介される反応(CM 7-ヒドロキシル化)であり、BFCまたはMFCからの7-HFCの産生(脱アルキル化)は、数種のCYP450で媒介され、ERからのRRの産生(ER O脱アルキル化)は、CYP1A2で媒介される。7-HCのグルクロン酸基および硫酸基との抱合は、第II相酵素のUPD-グルクロニルトランスフェラーゼおよびスルホトランスフェラーゼにより各々媒介される。
【0108】
肝細胞の単離および培養: 初代ラット肝細胞は、体重180〜200gの2〜3月齢成体雌ルイスラット(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)から単離した。ラット肝細胞の単離および精製の詳細な手順は、以前に記載されていた。ごく普通には、2〜3億個の細胞が生存率85〜95%、純度>99%で単離された。肝細胞培地は、高グルコース含量、10%(v/v)ウシ胎児血清、0.5U/mLインスリン、7ng/mLグルカゴン、7.5μg/mLハイドロコーチゾンおよび1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなっていた。初代ヒト肝細胞は、米国内で調達したヒト臓器由来の製品販売を連邦指定の臓器調達機関により許可された販売業者から、懸濁液として購入した。肝細胞販売業者には、In vitro Technologies (Baltimore, MD)、Cambrex Biosciences (Walkersville, MD)、 BD Gentest (Woburn, MA)、ADMET Technologies (Durham, NC)、CellzDirect (Pittsboro, NC)およびTissue Transformation Technologies (Edison, NJ)が含まれていた。全ての作業は、COUHES(実験用ヒト対象物の使用に関する委員会)の認可を得て行った。受領後、50xg、5分間(4℃)の遠心分離によりヒト肝細胞をペレット化した。上清を廃棄し、細胞を肝細胞培地中に再懸濁し、生存率をトリパンブルー排除を用いて評価した(70〜90%)。
【0109】
肝細胞-線維芽細胞共培養物: マイクロパターン化共培養物を創製するために、コラーゲンパターン入り基板上に無血清肝細胞培地中の肝細胞を播種し、選択的細胞接着により肝細胞パターンを作製した。細胞を2時間後に培地で洗浄することにより、非付着細胞を除いた後、血清添加肝細胞培地と共に一晩インキュベートした。12〜24時間後に、3T3-J2線維芽細胞を血清添加線維芽細胞培地に播種することにより、共培養物を創製した。線維芽細胞の播種から24時間後に、培地を肝細胞培地に取り替え、その後毎日取り替えた。ランダム分布培養物については、コラーゲンを均一に被覆した基板(ガラスまたはポリスチレン)上に血清添加肝細胞培地中の肝細胞を播種した。幾つかの例では、培地中に5μg/mLで溶解したCalcein-AM(Invitrogen)で、インキュベーション(37℃、1時間)を介して肝細胞を蛍光標識した。線維芽細胞は、製造業者の使用説明書に従ってCellTracker(Orange CMTMR, Invitrogen)で蛍光標識した。
【0110】
一態様では、図5A〜Bに描いたようなバイオリアクターを、バイオリアクター中のアセトメタフェンに対する用量反応の分析により検証した。該装置に肝細胞およびJ2-3T3線維芽細胞を播種し、静置培養条件下で5日間安定化させた。次に、該装置を潅流回路中に組み込み、バイオリアクター8個の各々を、微小流体希釈樹(図5に示すような)により生成したアセトメタフェンの異なる濃度に曝した。アセトメタフェンに曝してから1日後、生存率をMTT色素で評価し、強度を各バイオリアクターにおいて測定し、アセトメタフェンのバイオリアクター濃度の関数としてプロットした。こうした潅流試験に対して、TD50は13mMであると決定したが、それは、大型平板バイオリアクターで見出したものと同じ値である。以上の実験は21%酸素下で行ったが、次の段階は異なる酸素圧下で以上の実験を繰り返すことである。酸素の二層供給は、ルテニウム被覆基板(ルテニウムの蛍光は酸素濃度と相関する)を用いる酸素濃度の測定により実験的に、および潅流を拡散と結合する多重物理モデルの開発により理論的に検証した。その上、細胞内のアルブミンおよび核染色で示されるように、蛍光染色をバイオリアクター中で行うことができる。
【0111】
生化学アッセイ: 使用済み培地は-20℃で保存した。尿素濃度は、酸および熱によるジアセチルモノオキシムを利用した比色エンドポイントアッセイを用いてアッセイした(Stanbio Labs, Boerne, TX)。アルブミン含量は、西洋ワサビペルオキシダーゼによる検出および基質として3,3',5,5''-テトラメチルベンジジン(TMB, Fitzgerald Industries, Concord, MA)を用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(MP Biomedicals, Irvine, CA)を使用して測定した。
【0112】
シトクロームP450誘導: 原型CYP450誘導剤(Sigma)のストック溶液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で作製したが、例外としてフェノバルビタールは水中に溶解した。肝細胞培地中に溶解した誘導剤(リファンピン25μM、β-ナフトフラボン30μMまたは50μM、フェノバルビタール1mM、オメプラゾール50μM)で4日間、培養物を処理した。誘導倍率を計算するために、対照培養物をビヒクル(DMSO)だけで処理した。誘導剤間の比較を可能とするために、DMSO量は、全条件に対して0.06%(v/v)の一定に維持した。
【0113】
毒性アッセイ: 培養物を培地中に溶解した様々な濃度の化合物と、24時間(急性毒性)または長期間(慢性毒性、1〜4日間)インキュベートした。その後、細胞の生存率をMTT(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム、Sigma)アッセイで測定したが、このアッセイではミトコンドリアの脱水素酵素によるテトラゾリウム環の解裂により、紫色沈殿が形成される。MTTは、フェノールレッドを含まないDMEM中の細胞に0.5mg/mLの濃度で添加した。インキュベーション時間の1時間後、紫色沈殿をDMSOおよびイソプロパノールの1:1溶液中に溶解した。その溶液の吸光度を570nmで測定した(SpectraMax分光光度計、Molecular Devices, Sunnyvale, CA)。
【0114】
統計分析: 実験は、各条件に対して二重または三重の試料を用いて少なくとも2〜3回繰り返した。代表的な実験からのデータを提示しているが、同様な傾向は多数回の試験でも認められた。エラーバーは全て、平均値の標準誤差を表す。
【0115】
更に、誘導しない場合、CYP2B、CYP3Aの両タンパク質が、静置培養条件下の検出不能なタンパク質と対比して、潅流48時間後に、識別可能な空間的不均一が殆どなしに低濃度で存在していた。次に、フェノバルビタール(PB)による静置培養物の同一期間に亘る誘導によって、中度のCYP2B発現と低濃度のCYP3Aが生成した。対照に対する両CYPの劇的な発現は、培養物をPBで潅流してほんの36時間後に認められた。CYP2Bの発現は全領域で増加したが、その濃度は低酸素の排出口領域で最高であった。同様に、CYP3Aタンパク質は、導入口から排出口へと発現量の増加を示した。上皮成長因子(EGF)によるPB誘導CYP2B発現の抑制を示した以前の試験に基づいて、2nMのEGFを潅流培地に添加した。200μMのPB用量では、EGFは、チャンバーの長さに沿ったCYP2B濃度の有意な変化を起こさなかったが、最大濃度は排出口領域で認められた。PBおよびEGFに反応するCYP3A濃度も、PB単独潅流と殆ど差異を示さず、排出口で最大の発現を示した。
【0116】
この潅流系でCYPの誘導剤としてデキサメタゾン(DEX)を評価するためにも、実験を行った。DEXはCYP2Bを高濃度に誘導し、それは培養の導入口領域に局在していた。CYP3Aについては、誘導は大体均一であったが、排出口領域には検出されなかった。DEX潅流培養物にEGFを添加した場合、CYP2Bの空間分布に有意な移動が導入口領域から排出口へと認められた。CYP3Aの誘導は、DEXおよびEGFに反応して均一のままであったが、培養の全領域に亘って拡がった。
【0117】
肝細胞培養物および共培養物に対するアセトアミノフェン(APAP)の急性毒性作用を評価した(図7および8、APAPの静的毒性用量反応)。MTTで評価した生存率は用量依存的に減少し、24時間後の40mM APAPで、肝細胞単独では生存率が5%に減少し、共培養では28%に減少した。これらのデータから、APAPの用量範囲0〜20mMがバイオリアクター培養で中度の毒性を生じることが示唆された。図9は、様々な濃度のAPAPで24時間潅流した後、MTTと共にインキュベートしたバイオリアクター培養の全長(約5.6cm)の画像を示す。紫色沈殿の存在および強度は、細胞生存率に比例する。対照(中度の減少)および20mM(染色せず)と比較した際、APAPの用量15mMで導入口から排出口領域まで染色が劇的に減少することは、注目に値する。
【0118】
生存率の領域変化を更に定量するために、培養物の長さに沿って低倍率(40x)で明視野画像を取得し、平均光学密度を測定した(図9)。対照条件下では、生存率は導入口から排出口へと30%減少した。しかし、10mM APAPでは、毒性が培養物全体に亘りもっと均一であったが、対照の平均生存率の80%に減少した。15mM APAPを投与すると、排出口領域で最大の毒性を示し、導入口領域から70%減少した。最高用量の20mMでは、毒性はほぼ完全であった。
【0119】
薬物およびステロイドの第I相生体変換を担うCYPスーパーファミリーの多数の構成酵素は、in vivoで帯状パターンに発現される。通常および誘導の両条件下でのCYPの副中心局在化の決定因子には、酸素、栄養素およびホルモンの各勾配が含まれる。バイオリアクター培養でこれらの動的勾配を再現すると、in vivoで見出されるものを模倣したCYP2B、CYP3A双方の空間的分布が生じた。その上、200μM PBに対する反応で静置培養を凌ぐタンパク質濃度の劇的増加が示すように、CYP誘導は、リアクターの潅流微小環境により強化された。以前の試験によれば、EGFのPB誘導に対する抑制作用は、酸素により調節されることが実証された。
【0120】
本試験においてPBと共にEGFを添加しても、CYP2Bの空間的パターンに有意な変化はなかったが、DEXとの共用では、EGFは、導入口から排出口へと最大CYP2B発現を移動させた。CYP3A発現でも程度は弱まるものの認められるこの移動作用は、EGF勾配の形成に起因し得るものであり、したがって、成長因子およびホルモンの動的勾配がCYPの帯状分布を調節する様子を示している。
【0121】
APAP肝毒性の提案された機構では、反応性中間体NAPQIが形成され、それが細胞内構造のフリーラジカル損傷を開始する。この試験における毒性作用は、NAPQIを保護的に不活性化するグルタチオンの激減に起因するようである。APAPのin vivo毒性の副中心局在化は、CYPイソ酵素2E1および3Aの局所発現に起因するとされたが、小葉中心領域における利用可能な酸素量の低下も、ATPおよびグルタチオンを激減させることにより、または反応性種による損傷を増加させることにより寄与し得る。こうした因子が重なって、動的酸素勾配下でのリアクター培養中に認められた領域毒性を生じたのであろう。帯状毒性のin vitroでの実証によって、急性APAP毒性に対するCYP生体活性化およびグルタチオン濃度の各効果を分離することができる。
【0122】
更に、本システムにより、エタノールやN-アセチルシステインなどの臨床的に重要な多様な化合物の作用、およびAPAP毒性に対するそれら個々の悪化作用または保護作用の解明をし得る。
【0123】
データにより実証されたように、酸素勾配をラット肝細胞の培養に適用して、肝臓帯状分布のin vitroモデルを開発した。形態および膜完全性の蛍光マーカーが示すように、細胞は、生存率を低下させずに、正常酸素状態から低酸素状態に亘る酸素条件を受けた。酸素勾配に曝された肝細胞は、PEPCK(主に上流)およびCYP2B(主に下流)のタンパク質濃度により示されるように、誘導時にin vivo帯状分布の特性を示した。肝臓帯状分布のこのin vitroモデルを用いて、代謝および解毒機能の不均一分布を担っていると考えられる、肝洞様毛細血管に見られる微小環境条件を再現することができる。
【0124】
細胞播種条件および細胞高さは、流れ場の均一性を確保するために、バイオリアクター系内で均一に維持することができる。本明細書における実施例で行ったバイオリアクター実験は、通常、せん断応力1.25dyne/cm2に相当する流量0.5mL/分で行ったが、検証実験で用いたより高い流量では、7.5dyne/cm2に近いより高い応力が存在していたとも思われる。
【0125】
ヒト共培養物における肝特異的機能は、同型および異型相互作用の変更により最適化することができる。フォトリソグラフィー式細胞パターン化法が、in vitroでの肝特異的機能の安定化における同型(肝細胞-肝細胞)および異型(肝細胞-線維芽細胞)細胞間相互作用の相対的役割を調べる、本発明により提供される(図10を参照されたい)。共培養物中のラット肝細胞の表現型機能に対する異型相互作用の役割を調べるために、図11に示した実験設計を用いたが、そこでは肝細胞島状部のサイズが、単一細胞島状部(36μm)から大型円形コロニー(17,800μm)まで変化する。この設計を用いて、異型界面が、画像解析による推定で大きさが3桁に亘り変化する共培養を行った。しかし、細胞集団間の比率ならびに総細胞数は、一定に維持した。それとは対照的に、従来の培養条件では、細胞間相互作用が、細胞数、細胞集団間の比率の双方に連動する播種密度によって変化する。期待した通り、肝機能(アルブミンおよび尿素分泌)は、肝細胞単独と比較して、全ての共培養配置においてアップレギュレーションされた。しかし、アップレギュレーションの程度はマイクロパターン化幾何形状と共に変化した。初期異型界面がより大きなラット共培養物(即ち、単一細胞島状部)は、最高レベルの肝特異的機能を示したが、島状部サイズが最大のパターン2種では僅かなアップレギュレーションしか見られなかった(図12を参照されたい)。小型パターン(<250μm)中の肝細胞は相当程度に交じり合ったが、大型島状部は相対的に安定な立体配置を取っていた(数週間ほど)。幾つかの空間配置に再編成する傾向があるものの、「初期」の細胞微小環境は、肝特異的機能に相当程度の長期作用を及ぼすことが判明した。
【0126】
ラット共培養物がマイクロパターン化を用いて機能的に最適化できることを示すデータにより、同様な最適化はヒト共培養物でも得ることができると仮定した。種間の結果を比較するために、同様なパターン幾何形状を用いてマイクロパターン化ヒト共培養物を評価した。従来の共培養物は、単一細胞島状部から大型集合体まで(ランダム共培養)の島状部サイズがランダムに変動する中に肝細胞を含有する。したがって、幅広い一連の島状部サイズのために、ランダムヒト共培養物における機能は、単一島状部(36μm)および大型島状部(4,800μm)のマイクロパターン化配置の中間的な水準になろうと予想された。しかし、マイクロパターン化ヒト共培養物(全ての配置)は、同様な細胞の比率および個数を含有するランダム分布対応物に比べ、再現性良く(数倍)高い成績を示す(図13を参照されたい)。このような差の根底をなす機構は未解明であるが、その結果は、高機能のin vitroヒト肝組織を得る上でマイクロパターン化が有利であることを示している。ラット共培養について以前に公表された試験では、肝細胞島状部サイズを減少させると同時に異型相互作用(肝細胞から線維芽細胞)を増大させると、肝機能が高まることが示された。ラット共培養物とは対照的に、ヒト共培養物では、同型(肝細胞から肝細胞)および異型相互作用の適切な均衡を有する、機能的に最適なマイクロパターン化配置(490μmの島状部)があるために、それは、異なる構造的依存性を示す。また、線維芽細胞なしにヒト肝細胞をマイクロパターン化しても、ランダムに播種した場合より高濃度のアルブミンおよび尿素が産生された。具体的には、純粋な肝細胞単層では、490μmおよび4800μmの島状部は、単一細胞アレイ(36μm)より高い機能をもたらした(図13の、ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化)。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダム播種培養より好成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、490/1230とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六角形配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す(しかし、当業者であれば、他のアレイ形状も使用し得ることを認識されよう)。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【0127】
このような傾向は、ヒト肝細胞の表現型安定化が、同型相互作用の程度が増加するにつれ、より効果的に起こることを示す文献と一貫している。ラット共培養の場合同様に、36μmのヒト肝細胞島状部は1日以内に再編成され、そのためパターンが消散した。しかし、大型島状部サイズ2種のマイクロパターンは、培養の持続期間(3週間)の間、完全な状態であった。したがって、「最適」なマイクロパターン化配置は、中心間間隔が1230μmであり、線維芽細胞と肝細胞との比率が3:1である、490μmの島状部と特定した。この最適な配置における肝細胞島状部の再編成は、培養期間に亘って最小限であるので、形態的および機能的変化に対する個々の島状部の実時間追跡は、特定のレポーター系(即ち、緑色蛍光タンパク質)を用いて行うことができる。
【0128】
生体異物の代謝および毒性の評価を目的とした、最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物の使用: 最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物が、候補薬物のスクリーニングにとって有効な肝臓モデルであることを実証するために、急性および慢性毒性アッセイを行った。急性毒性試験では、8日齢の共培養物を様々な薬物と24時間インキュベートしたが、その薬物の一部には臨床的な肝毒性が知られているものもあった。インキュベーション期間後、細胞培地を吸引し、生存率アッセイを行った(MTTアッセイ、市販されている)。図14の一部として、各薬物が、薬物非含有の対照共培養と比較して、生存率シグナルを50%低下させた濃度(LD50値)が示されている。認めることができるように、臨床薬および重金属毒素の塩化カドミウム(CdCl2)に対するLD50値には、量的な差がある。Tylenolの有効成分であるアセトアミノフェン(APAP)は、臨床的に汎用されており、非常に高い相対濃度(35mM)を別とすればin vitro系で無毒である。他方カドミウムは、強毒性金属であり、その様子がin vitroでも認めることができる。APAPと比較して強毒性であることが図示されているトログリタゾンは、2型糖尿病の治療薬として薬物Rezulin中の有効成分である。Rezulinは、肝臓障害に関係した死亡例のために、2000年3月に製造業者により自発的に市場から撤退した。
【0129】
現行のin vitroヒト肝臓モデルは、懸濁液中の肝細胞、またはコラーゲン上の単層に通常依拠している。肝細胞は付着依存性細胞であるため、「懸濁液中の細胞」モデルは2〜3時間しか生存できず、一方、純粋な肝細胞単層は、通常24時間以内に生命力および肝特異的機能を失う。したがって、低用量の薬物と共に数日間または数週間、細胞を繰り返しインキュベートする慢性毒性アッセイは、現行の肝臓モデル系では行うことができない。最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物は、ごく普通に3週間持続するので、慢性毒性試験を行うことができる。図7には、ヒト共培養物を24時間毎に数日間、繰り返しアセトアミノフェンとインキュベートした際の該培養物における慢性毒性が示されている。認めることができるように、共培養物の生存率は、時間の関数として有意に低下する。2D系の特別な一利点は、複雑な3D系と比較して、細胞形態を容易にモニターすることができることである。30mM APAPとインキュベーションをほんの24時間した後の肝細胞形態は、肝細胞が正常に見える薬物非含有対照と比較したとき、激しい変化を示す(図7)。形態が著しく変化していても、30mM APAPとのインキュベーションに対する生存率は90%に近い。したがって、細胞形態は、薬物による毒性または不要な細胞変化のさらなる指針として役立つことができる。
【0130】
毒性試験以外に、CYP450酵素の誘導および阻害は、新薬候補のin vitro試験中に極めてよく見られる。図15で認めることができるように、市販の蛍光基質(BD Gentest)を用いて、最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物における特異的CYP450酵素の誘導および阻害を示した。具体的には、主要ヒトCYP450の3種であるCYP3A4、1A2および2C9に対して試験を行い、7-ベンジルオキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン (BFC)、7-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン(MFC)、およびエトキシレゾルフィンを各々基質として用いた。BFC、MFCの両者は、CYP450酵素によって、蛍光化合物であり、その蛍光が蛍光計を用いて定量できる7-ヒドロキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン (HFC)へと特異的に切断される。エトキシレゾルフィンは、CYP1A2によって蛍光性レゾルフィンへと切断される。細胞内の特異的CYP450量をアップレギュレーションするために、細胞培地中の典型的誘導剤(3A4および2C9に対するリファンピンと、1A2に対するβ-ナフトフラボン)で共培養物を72時間処理した。次いで、誘導剤を除き、細胞を基質と共に30分間〜1時間インキュベートした。阻害アッセイについては、誘導した共培養物を基質と、対象とする各CYP450に対する既知の特異的阻害剤(即ち、ケトコナゾールはCYP3A4を阻害する)と共にインキュベートした。認めることができるように、誘導および阻害は、全ての試験薬物について有効であったので、主要なCYP450酵素が共培養物中で活性であることが示唆される。
【0131】
現行のin vitro肝臓モデルが直面する主要な問題の1つは、重要な肝特異的遺伝子の発現量(RNA)が急速(数時間)に低下することである。したがって、最適化したマイクロパターン化共培養物における重要な肝特異的遺伝子の発現量を、数日間の培養後、従来の純粋肝細胞単層における発現量と比較した。DNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip)を用いて得たデータの示すところでは、図16に示すように、最適化したマイクロパターン化共培養のヒト肝細胞では、コラーゲン上の純粋肝細胞と比較して、培養6日目でも第I相および第II相薬物代謝の多くの重要な遺伝子の発現量が相対的に高い。共培養物から精製された肝細胞を得るために、0.05%トリプシン/EDTAを用いて基板から線維芽細胞を選択的に脱着した。このような選択的放出によって、GeneChip分析で90%強の肝細胞純度が得られた。
【0132】
間質細胞との共培養時にげっ歯類肝細胞の機能を操作するために、フォトリソグラフィー技術を用いる際、業界標準の多重ウェルフォーマット中でヒト肝組織を小型化し、その特性を決定するためのエラストマー型板を利用する微細技術準拠プロセスを使用した。この手法には、「軟質リソグラフィー法」、即ち微細加工構造の再使用可能なエラストマー性ポリマー(ポリジメチルシロキサン-PDMS)の型枠を利用することにより、フォトリソグラフィー技術の限界を克服する1組の技法が組み込まれている。一態様では、本発明は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する、厚さ300μmの膜からなるPDMS型板を用いるプロセスを提供する(図13a)。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、その集成体をポリスチレンプレートに相対して密封した。I型コラーゲンを露出ポリスチレンに物理吸着させ、型板を外し、24ウェルPDMS「ブランク」を当てた。ヒト肝細胞をコラーゲンドメインに選択的に接着した後、それを支持的なマウス3T3-J2線維芽細胞で取り囲むことにより、共培養物を「マイクロパターン化」した。貫通孔のサイズによって、コラーゲンドメインのサイズ、したがって微小規模組織中における同型(肝細胞/肝細胞)および異型(肝細胞/間質細胞)相互作用の均衡が決定された。
【0133】
コラーゲン島状部の直径は、数桁に亘り変化した。肝細胞の集合化によって、非組織化共培養物と比較して、肝特異的機能が一貫して改善された(図6)。更に、肝細胞機能は、約1200μmの間隔を有する約500μmの島状部を含んだ配置に対して最大となった。こうした知見は、3T3線維芽細胞が両種に亘って肝細胞機能を安定化することができたので、げっ歯類データと矛盾していない。しかし、ヒト肝細胞は、ラット肝細胞より同型相互作用に対する依存性が高かった。したがって、本発明で開発され、その特性が決定された微小規模ヒト肝組織は、各ウェルが、直径500μmの37コロニー中に組織化された約10,000肝細胞を収容し、プレート1枚当たり合計で反復肝微小構造888個のための24ウェルプレートに相当する(図3b)。
【0134】
微小規模ヒト肝組織の安定性を定性的に評価するために、肝細胞形態および微小規模組織化の持続性をモニターし、それらが培養の持続期間、通常3〜6週の間維持されることが判明した(図3c)。肝特異的機能の安定性を定量的に評価するために、アルブミンおよび尿素の分泌量を測定した。両マーカーは、このプラットホーム中で数週間安定であった(図17a〜b)が、組織化されていない純粋な肝細胞培養物では単調減少を確認した(図18)。より全体的な見通しを得るために、1週齢微小規模組織(6日目)からのヒト肝細胞に関して、選択的トリプシン処理で線維芽細胞を除くことにより遺伝子発現のプロファイルを作成した(純度約95%、補足的方法をオンラインで参照されたい)。共培養物からの精製された肝細胞RNAの入手性は、マイクロパターン化による集合化によって強化され、ゲノム応用にとって有利である(例えば、毒性ゲノミクス)。比較のために、「中心的基準」と見なされる新鮮な非組織化純粋肝細胞(1日目の播種から12時間後)、および6日目の非組織化純粋肝細胞の遺伝子発現を、肝特異的機能が低下するものと特徴づけた。散布図の全体的比較の結果、最小二乗線形適合の勾配(0.96)で評価した場合、1週齢微小規模組織からの肝細胞における遺伝子発現強度は、1日目の純粋肝細胞における強度と類似していることが判明した(図17c)。更に、微小規模組織からの肝細胞における第II相代謝遺伝子は、1日目の純粋肝細胞における対応遺伝子と同程度に発現された(図17d)。シトクロームP450(CYP450)遺伝子の発現は、純粋肝細胞では6日目までに有意にダウンレギュレートされたが、プラットホーム中の肝細胞は発現を高水準に保持していた(図17e)。同様な傾向は、糖新生、薬物輸送物質、凝固因子、細胞表面受容体などの肝特異的機能の多様な経路からの遺伝子に対しても認められた(図17f)。
【0135】
微小規模ヒト肝組織の薬物代謝試験に対する有用性を評価するために、CYP450活性、薬物間相互作用および第II相代謝の特徴を明らかにした。CYP450活性は、蛍光性基質を用いて評価し、未処理の微小規模組織中に保持されていることが判明した(図17g)。このような「基準」活性は、毒性の代謝媒介機構の評価に肝要である。特異的CYP450酵素に対する競合は、阻害剤で処理した際の基質代謝の減少で示されるように、プラットホーム中に維持されていた。第II相活性(グルクロナイド化/硫酸化)、および原型化合物によるその阻害も、7-ヒドロキシクマリンの抱合により決定した場合、保持されていた(図17h)。
【0136】
微小規模ヒト肝組織の毒性アッセイに対する有用性を評価するために、モデル肝毒素の急性および慢性毒性を定量した。化合物の特性は、24時間曝露後にミトコンドリア活性の50%減少を起こす濃度として定義されるTC50により決定した(図19a)。人間における相対毒性は、これらの化合物の相対肝毒性に対応した。例えば、トログリタゾン(肝毒性のために撤退した経口血糖降下薬)のTC50は、アセトアミノフェン(市販鎮痛剤)より2桁低かった。トログリタゾン、およびFDA認可の類縁体であるロジグリタゾン、ピオグリタゾンなどの同一部類に入る化合物の相対毒性は、臨床報告にも対応していたことは重要である。確立された毒性機構は、プラットホームにおける毒性プロファイルからも推測できよう。例えば、カドミウムは相対的に線形の毒性プロファイルを示したが、アセトアミノフェンは、グルタチオンの激減と一貫した毒性の「肩」を示した(図18)。数週間に亘り安定な肝組織の確立は、反復曝露による慢性毒性の評価に非常に重要である。図19bにおいて、本発明では、アセトアミノフェンの用量および時間依存性毒性を示す。24時間では致死的でない濃度のために、曝露を持続した後には多大な細胞死が起こった。更に、細胞死の前に形態変化が容易に認められたので、明らかな細胞死に必要な濃度より低い濃度で亜致死毒性を検出する可能性が得られた。
【0137】
微小規模ヒト肝組織におけるCYP450活性の誘導が、原型誘導剤および蛍光基質を用いて実証された(図19c)。例えば、CYP2A6の誘導は、リファンピンおよびフェノバルビタールで処理した際に認められたが、オメプラゾールおよびβ-ナフトフラボンの作用はそれより弱く、文献と一致していた。CYP1A2の誘導については、逆の傾向が見られた。CYP450活性の調節は、化合物への曝露の用量および時間に依存する。図18では、β-ナフトフラボンは、プラットホームにおいて用量および時間依存的にCYP1A2活性を誘導することが示されるが、メトキサレンは、CYP2A6活性の用量依存的阻害を示す。更に、種特異的な誘導の差異が、ヒトおよびラットの微小規模肝組織の反応を比較することによって実証された。ラットCYP1A22よりヒトCYP1A2の有効な誘導剤であると報告されているオメプラゾールは、ラットモデルよりヒトモデルにおいて8倍有効であった(図19d)。
【0138】
本発明のプラットホームの有利な特徴は、肝または非肝由来の多様な間質細胞を用いて、肝細胞コロニー/島状部を取り囲むことによりマイクロパターン化組織を形成できるため、そのモジュール式設計である。3T3線維芽細胞は、入手が容易なこと、増殖し易いこと、およびこの不死化細胞系が高度の肝特異的機能を誘導できることを示す証拠のために、選定した。それにもかかわらず、プラットホームの多能性を示すために、マイクロパターン化ヒト肝細胞とヒト肝臓の非実質画分との共培養でも、肝細胞機能の安定化が実証された。更に、型板を用いて2ヶ月余り機能を維持するラット肝臓の共培養モデルを創出し、数百もの同一のげっ歯類肝組織に関して慢性試験の実施を可能としたため、動物間の変動性から生じるノイズが減少した(図20)。
【0139】
本発明の示すところでは、ヒト肝細胞のマイクロパターン化集合体は、対応するランダム分散細胞より数倍の性能を示したが、この結果は、コンフルエント肝細胞培養物が、部分的にはカドヘリン相互作用のために、希薄培養物より良好に肝特異的機能を保持するとの報告と一致している。非実質細胞のその後の導入によって、肝細胞機能および肝組織の寿命が更に増強された。したがって、本明細書に記載の微小規模プラットホームは、同様な多重ウェルフォーマット中の従来型純粋単層と比べ、1桁少ない肝細胞(10K対200K)を使用し、長い期間(数週対数日)表現型機能を維持する。ヒト肝細胞の高価格(約80ドル/百万個)を考慮すれば、このような利点は相当なコスト削減となる。このプラットホームは、複数の年齢層、性別および病歴のドナー(表1)に亘る、新鮮肝細胞における肝特異的機能の誘導を示す。該培養物は、短期培養物に対して現在広く利用されているものと同様に、首尾良好に凍結保存することができ、したがって需要に応じて微小規模肝組織を生成する可能性が得られた。
【表1】
【0140】
肝組織の他の幾つかのin vitroモデルが提案されてきた。特に、連続的に潅流されるものもある、多層または球状型の「3D」肝細胞組織が報告されてきた。肝臓自体は、通常、細胞1個の厚さを有する平坦な吻合「板」から構成されるので、多くのADME/Tox用途に対しては肝臓の二次元(単層)プラットホームで満足し得る。更に、単層系(コンフルエント単層、コラーゲンサンドイッチまたはMatrigelオーバーレイ)は、業界13、14で依然として最も汎用的なプラットホームであるので、本明細書に提案した微小規模組織は、ロボット液体操作、in situ 顕微鏡観察、および比色/蛍光プレートリーダーアッセイを含む現行の実験手順に合わせて作製することができる。
【0141】
本発明の多数の実施形態についてこれまで記述してきた。しかし、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに多様な改変をなし得ることは理解されよう。したがって、他の実施形態も前述の特許請求の範囲内に入る。
【0142】
以下、様々な図面における類似の参照記号は、類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】in vivo微小環境から単離すると、肝細胞は、生命力と、アルブミン分泌、尿素合成、シトクロームP450活性などの重要な肝特異的機能とを急速に失うことを示す図である。コラーゲン被覆皿上での培養で1週間後、肝細胞は線維芽細胞的形態を示す。他方、単離直後の肝細胞は、明確な核および核小体と、明るい細胞間境界(毛細胆管)とを有する多角形形態を示す。
【図2】コラーゲン被覆表面上での肝細胞とJ2-3T3線維芽細胞との共培養を示す図である。アルブミン分泌などの肝機能(ならびにP450活性)は、共培養でアップレギュレーションされているが、純粋培養では低下し、肝細胞は生命力を失っている。共培養物中の機能的に安定な肝細胞は、分離直後の肝細胞に通常認められる多角形形態、明確な核および核小体、ならびに可視的な毛細胆管を維持している。
【図3A】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。各工程で撮った顕微鏡写真と共に示した方法の概略図。再使用可能なPDMS型板(stencil)は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する膜からなるのが分かる。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、乾燥条件下で培養基板にその用具を密封する。ポリスチレン製オムニトレイ(omni-tray)に密封した用具(スケールバーは2cmを表す)の写真が、型板薄膜の電子顕微鏡写真と共に見える。各ウェルを細胞外マトリックスタンパク質の溶液とインキュベートすることにより、貫通孔を通してタンパク質を基板に吸着させる。次いで、型板を剥ぎ取ると、基板上にECMタンパク質のマイクロパターンが残る(蛍光標識したコラーゲンパターンが示されている)。次いで、膜のない24ウェルPDMS「ブランク」をそのプレートに密封した後、細胞を播種する。初代肝細胞はマトリックス被覆ドメインに選択的に接着するため、支持的な非実質細胞を血清添加培地中、残存裸出領域の中へ播種することができる(肝細胞は緑色に、線維芽細胞は橙色に標識しており、スケールバーは500μmである)。
【図3B】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。MTTで紫色に染色した肝微小構造が反復する(各ウェル中に直径500μmの37コロニー) 24ウェル用具の写真(拡大のためのスケールバーは2cmおよび1cm)。
【図3C】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。最適なマイクロパターン化ヒト型共培養物の位相差顕微鏡写真。初代ヒト肝細胞は、中心間間隔が約1200μmのコラーゲン被覆島状部約500μm中に空間的に配置され、マウス胚性3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている。画像は、経時的なパターン忠実度を示し、肝細胞の形態的特徴には毛細胆管が含まれる(スケールバーは、左から右へ500μm、500μmおよび100μmである)。
【図4】本開示のバイオリアクターシステムを示す概略図である。
【図5】ハイスループットマイクロバイオリアクターアレイの概略図である。(A) 最下段のパネル図は、各々マイクロバイオリアクター5個のモジュール10個中にあるマイクロバイオリアクター50個のアレイを示す。モジュールは、2つの線列孔を有する4インチガラスウェーハ上に配置されている。リアクターは、コラーゲンでマイクロパターン化された下地ガラス表面、および潅流液の流れを閉じ込めるシリコン「蓋」により形成される。各モジュールには、単一の流入口および単一の流出口がある。中段のパネル図は、1個のモジュールにあり、共通の流入口および流出口を有するマイクロバイオリアクター5個のうち3個を示す。最上段のパネル図は、各マイクロバイオリアクター中に整列した肝細胞および線維芽細胞のマイクロパターン化共培養を示す。(B) は、バイオリアクターの更なる概略図および実施形態を示す。
【図6A】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。コラーゲン被覆ポリスチレン上にランダムに分布した、純粋単層培養と、3T3-J2マウス胚性線維芽細胞との共培養における、ヒト肝細胞によるアルブミン分泌(肝特異的タンパク質の合成用マーカー)の速度。他の数種の機能(即ち、尿素分泌、シトクロームP450活性)も、不安定な純粋単層と比較して、肝細胞/3T3共培養中では安定化した。肝細胞は、純粋培養中では「線維芽細胞的」形態を取るが、共培養中ではin vivoで通常認められるような、多角形形状(矢印)、明確な核、および可視的な毛細胆管を維持している(スケールバーは100μmを表す)。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図6B】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。微細加工技術を用いたヒト肝細胞/3T3共培養の機能的最適化。初代ヒト肝細胞は、フォトリソグラフィー技術を用いた所定寸法のコラーゲン被覆島状部上に空間的に組織化され、次いで肝細胞が付着、伸展してから24時間後に3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれた。各配置に対する島状部サイズ(36、490、4800μm)および島状部相互の中心間間隔(例えば、36μmの島状部に対しては90μm)は、全細胞数および細胞型2種の比率が一定となるように選択した。寸法は、初代ラット肝細胞を用いた以前の研究との比較もできるように選定した。コラーゲン上のランダム分布共培養対照(「ランダム」)も、比較できるように生成した。マイクロパターン化ヒト肝細胞/3T3共培養について、2週間に亘る累積的な肝特異的機能を比較している。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図6C】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。マイクロパターン化しているが、「マイクロパターン化純粋培養」中で線維芽細胞に取り囲まれていなかった肝細胞。肝特異的機能を比較した。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図7】マイクロパターン化ヒト型共培養物を用いた慢性毒性テストを示す図である。アセトアミノフェン(30mM)とのインキュベーションで時間間隔を延長した場合の共培養物の生存率減少。示した顕微鏡写真は、薬物の有無による肝細胞形態を示す。
【図8】様々な濃度のAPAPに24時間曝した後で、MTTで評価した場合の共培養物および肝細胞単独培養物の生存率を示す図である。
【図9】表示濃度のAPAPで24時間潅流した後で、MTTで染色した培養物の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】マイクロパターン化共培養物を生成する方法の概略図である。簡潔に言えば、フォトリソグラフィー技術を用いてガラス基板上にフォトレジストをパターン化する(A)。フォトレジストパターンの蛍光顕微鏡写真が「B」に示されている。コラーゲンをウェーハ全体に吸着させた後、アセトンを用いてフォトレジストを剥がし、ガラス上にコラーゲンパターンを残す(C〜D)。次いで、基板をウシ血清アルブミンで被覆することにより、無コラーゲン領域への非特異的細胞付着を防止する。肝細胞を無血清培地中、高濃度(35mmウェーハ当たり細胞約100万個)で数回播種することにより、非特異的付着を有意に起こさずに、コラーゲン区域のほぼ完全な被覆を保証する(E〜F)。付着から1〜2時間後に、浮遊細胞を洗い落とす。翌日、肝細胞が伸展してパターンを満たした後、線維芽細胞を血清添加培地中で播種する(G〜H)。
【図11】一定比の細胞集団ならびに一定細胞数を有するマイクロパターン化ラット型共培養物を示す図である。マイクロパターン化共培養物の位相差顕微鏡写真では、細胞構成要素は類似しているが、広範囲の異型界面が得られることが示されている。
【図12】一定比の細胞集団を有するマイクロパターン化ラット型共培養物の肝特異的機能を示す図である。アルブミンおよび尿素の分泌は、異型相互作用と共に変動し、肝細胞単独条件より共培養の方が高かった。
【図13−1】ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化を示す図である。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダムに播種した対応培養より良好な成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、「490/1230」とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六方配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【図13−2】ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化を示す図である。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダムに播種した対応培養より良好な成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、「490/1230」とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六方配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【図14】最適化したマイクロパターン化ヒト型共培養物に関する急性毒性アッセイを示す図である。LD50とは、生存率シグナルが薬物非含有対照の50%に低下した薬物の用量(横軸上)を指す。
【図15】特定のCYP450酵素の誘導および阻害を示すグラフである。市販の蛍光分子が、こうしたアッセイの読出し物質として使用されている。
【図16】純粋肝細胞と比較した際の、共培養肝細胞における重要な肝特異的遺伝子の発現プロファイルを示す図である。RNAを6日目の共培養肝細胞および純粋肝細胞単層から単離し、転写産物40,000種弱に対するプローブを含んだAffymetrix Human GeneChipアレイとのハイブリッド形成を行った。薬物代謝経路に関与する多くの重要な肝特異的遺伝子を、マイクロパターン化ヒト型共培養物の安定性の指標として選択した。グラフA〜Cの遺伝子発現レベルは、純粋肝細胞の1日目の遺伝子発現レベルIに規格化されている。
【図17A】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。マイクロパターン化共培養中での数週間に亘るアルブミン分泌および尿素産生の速度。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17B】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。マイクロパターン化共培養中での数週間に亘るアルブミン分泌および尿素産生の速度。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17C】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織(6日目)から精製したヒト肝細胞における遺伝子発現強度(Affymetrix GeneChipを介して得た)を、新鮮な肝細胞(12時間の接着培養、1日目)における発現強度と比較した全散布図。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17D】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。第II相異物代謝遺伝子(即ち、UDP-グリコシルトランスフェラーゼ、グルタチオントランスフェラーゼ)に限定した散布図。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17E】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織からの肝細胞におけるシトクローム-P450(第I相)と、純粋な肝細胞単層との、共に1週間培養後の定量的比較。全てのデータは、純粋な肝細胞単層の1日目の遺伝子発現レベルに規格化されている。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17F】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。一団の肝特異的重要遺伝子の「e」の場合と同様の定量的比較であって、該遺伝子は以下の通り: ALBはアルブミン、TFはトランスフェリン(分泌タンパク質)、ARG IはアルギナーゼI(尿素サイクル酵素)、G6Pはグルコース-6-ホスファターゼ(糖新生酵素)、F1,6-BPはフルクトース1,6-ビスホスファターゼ(糖新生酵素)、MDR1は多剤耐性遺伝子(P糖タンパク質、薬物輸送物質)、MRP1は多剤耐性タンパク質(薬物輸送物質)、PXRはプレグナンX受容体(核受容体、異物代謝の調節物質)、因子IIおよびVIIは凝固因子、AsGPR-2はアシアロ糖タンパク受容体2。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17G】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織において、基準値(未処理、1週間)および競合的阻害剤処理時にクマリン類縁体により測定した第I相CYP450酵素の活性。CYP 3A4、2C9および2A6の比活性は、以下の基質/阻害剤を各々併用して示した: BFC/ケトコナゾール、MFC/サルファフェナゾール、およびクマリン/メトキサレン(MFCは7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、BFCは7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン)。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17H】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織(10日目)において、グルクロン酸基および硫酸基の7-ヒドロキシクマリン(7-HC)への複合によりモニターした第II相酵素の活性。7-HCの複合量は、処理細胞からの上清をβ-グルクロニダーゼ/アリールサルファターゼとインキュベートすることにより決定し、サリチルアミドを競合的阻害剤として使用した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18A】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。急性曝露(24時間)後のモデル肝毒素の用量依存的毒性プロファイル。ミトコンドリア活性をMTTアッセイを用いて測定した。全てのデータは、ビヒクル単独の対照に規格化した。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18B】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。微小規模組織を原型誘導剤であるβ-ナフトフラボンと1日または3日インキュベーションした際のCYP1A活性の用量・時間依存性誘導。ERはエトキシレゾルフィン。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18C】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。微小規模組織を原型阻害剤であるメトキサレンとインキュベーションした際のCYP2A6活性の用量依存性阻害。CYP2C9活性の阻害剤であるサルファフェナゾールは、「高い」用量(25μM)を利用した場合でもクマリンの7-ヒドロキシル化を阻害しなかった。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19A】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。TC50、即ち定義では1週経過した組織に24時間曝した後にミトコンドリア活性が50%減少する薬物の毒性濃度(急性毒性)による、既知の肝毒素数種を含めた一団の化合物の順位配列。ミトコンドリア毒性はMTTアッセイを用いて評価した。挿入図は、構造的に関連のあるPPAR-γアゴニストの相対毒性(400μMで24時間曝露)を区分している。全てのデータはビヒクル単独対照に規格化した。データはビヒクル単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19B】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。微小規模のヒト肝組織(1週経過)におけるアセトアミノフェン(APAP)の時間・用量依存的慢性毒性。組織には48時間毎に繰り返し投薬した。全てのデータは、未処置培養物中のミトコンドリア活性(100%活性)に規格化した。位相差顕微鏡写真で、未処置条件下、およびAPAP30mMで24時間処置後のヒト肝細胞形態を示してある(スケールバーは100μm)。データはビヒクル単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19C】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。臨床用原型誘導剤を用いた微小規模のヒト肝組織におけるCYP450酵素活性の誘導。培養物は、蛍光測定用CYP450基質でインキュベーション前の4日間処理した。全てのデータはビヒクル単独対照に規格化した(倍率変化1)。MFCは7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、BFCは7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、COUはクマリン、ERはエトキシレゾルフィンである。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19D】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。原型誘導剤としてβ-ナフトフラボン(β-NF)およびオメプラゾール(OME)を用いた、ラットおよびヒトの微小規模の肝組織におけるCYP1Aアイソフォームの種特異的誘導。組織は4日間誘導し、CYP1A活性はエトキシレゾルフィンの脱アルキル化により評価した。データは培地単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図20】ラット肝臓の微小規模の操作・作製モデルを示す図である。図3に概要を示した軟質リソグラフィー法(「マイクロパターン化」)を用いて、初代ラット肝細胞を500μm島状部(中心間間隔1230μm)に組織化した後、増殖を停止させた3T3-J2線維芽細胞で取り囲んだ。細胞の個数と比率が類似したランダム分布共培養物(「ランダム」)を生成して、比較を可能にした。この図では、純粋な肝細胞培養物および共培養物(ランダムおよびマイクロパターン化)における70日に亘るアルブミンの産生速度を示してある。エラーバーは平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織組成物、組織培養するための方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、培養中にて増殖し、所望の機能を維持することができるマイクロパターン化細胞組織に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的に、細胞培養技術および組織発育では、細胞間および細胞-マトリックス間の連絡のための微小環境、ならびに栄養素の送達および老廃物の除去のために十分な拡散的環境の必要性を考慮していなかった。細胞培養技術、ならびに細胞相互および細胞と周囲環境との複雑な相互作用に関する理解は、ここ10年で向上した。
【0003】
移植用または毒性試験用の人工組織を生成する目的で、組織を成長させるための多くの方法およびバイオリアクターが開発されてきたが、こうしたバイオリアクターは、in vivoにおける栄養素やガスの送達および細胞間相互作用を実施する機構を、in vitroで十分に模倣していない。例えば、生体組織中の細胞は、拡散勾配に関して「極性を有する」。毛細血管系によりin vivoで行われる酸素および栄養素の特異的な送達によって、各組織細胞の相対的機能およびその成熟が制御される。したがって、こうしたin vivo送達機構を模倣していない細胞培養系およびバイオリアクターでは、結果として、in vitroで組織を発育させ、または組織反応を測定するためのin vivo環境が十分に得られていない。
【0004】
肝組織などのin vitro組織を発育することができると、毒性試験用組織、体外肝臓デバイス、ならびに移植用組織の供給を行うことが可能となる。例えば、肝不全は、米国での毎年3万人余りの患者、世界全体では2百万人余りの患者の死因である。現在の治療は、液体および血清タンパク質の送達を含め、大体において一時しのぎのものである。致死率を変えることが証明された唯一の治療法は、同所性肝移植であるが、臓器の供給がわずかである(非特許文献1)。
【0005】
細胞依拠療法が、全臓器移植の代替、移植までの一時的繋ぎ、および/または肝臓回復中での従来療法の補助として提案されてきた。主要な3手法として、単離肝細胞の血流中への注入による移植、肝細胞組織構築体の開発およびインプラント、ならびに肝細胞を含有する体外循環路を介した潅流、が提案されてきた。全3領域における研究はここ10年で劇的に増加したが、多くの重要な肝特異的機能を急速に失う単離肝細胞の性質のために進歩が阻まれてきた。
【0006】
薬物誘発性肝疾患は、予知不能な肝臓毒性および低い生体利用率の問題のために、新規な候補薬物の50%余りが第I相臨床試験に不合格となるので、製薬産業にとって主要な経済的課題である。更に、市場からの薬物回収の3分の1、および認可薬物に対する警告標識全体の半数余りは、主として肝臓に対する有害作用によるものである。したがって、薬理的性質以外に、ADME/Tox (吸収、分布、代謝、排泄および毒性)特性は、薬物の最終的な臨床試験合格の不可欠な決定因子である。この認識のために、問題のある性質を有する薬物を除外するための研究において、ADME/Toxスクリーニングが創薬過程中に早期に導入されることとなった。
【0007】
動物モデルでは、種特異的な変動ならびに動物間のばらつきのために、人間に対する毒性に関して限られた見識しか得られず、1投与量当たりの1化合物につき、ときには雌雄両方の動物5〜10匹が必要になる。in vitroモデルを薬物開発に取り入れることによって、幾つかの利点、即ち、患者に曝すことなく、動物および人間の1モデル当たり行える数百回の実験によって、問題ある薬物を早期排除することができ、ばらつきを減少する。肝臓の場合、in vitroモデルから、薬物の取込みおよび代謝、酵素誘導、ならびに代謝および肝臓毒性に影響する薬物間相互作用に関する貴重な情報が得られる。
【0008】
数種のin vitro肝臓モデルが、異物代謝および毒性の短期(数時間)調査のために使用されている。潅流される全臓器、肝臓切片および楔状生検試料は、肝臓のin vivo微小環境の多くの特徴を維持している。しかし、このような系では、内部細胞層にとって薬物利用が制限され、生存期間も限られる(<24時間)ため、酵素誘導試験には適当ではない。主にCYP450酵素を含んだ細胞断片である単離した肝ミクロソームは、第I相経路(酸化、還元、加水分解など)を介した薬物代謝を研究するために、主に使用される。しかし、ミクロソームでは、動的な変化の生起(即ち、遺伝子発現、タンパク質合成)によって、薬物代謝、毒性および薬物間相互作用を変化させる細胞機構の多くの重要な特徴が欠けている。ミクロソーム以外に、肝芽腫(HepG2)、または初代肝細胞の不死化(HepLiu、不死化SV40)に由来する細胞系には、肝組織の再現性ある安価なモデルとして限定的な用途がある。しかし、生理的な水準の肝特異的機能を維持している細胞系は、これまでのところ開発されていない。このような細胞系は、普通、異常な一揃いの肝機能に窮している。
【非特許文献1】McGuire et al., Dig. Dis. 13(6):379-88 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
製薬産業により使用され、有用ではあるが能力的に限界がある現行のin vitro肝臓モデルでは、in vivoでの肝臓の代謝および毒性を十分に予知できない。したがって、in vitro試験用の中心的基準として、単離した初代ヒト肝細胞を使用する方向に向かう研究が益々増加しているが、肝細胞は、生命力および表現型機能を急速に失うために、培養中で維持するのが困難であることはよく知られている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、現行技術の限界を克服する方法、システムおよび組成物を提供する。本発明は、数週間最適な機能を維持する実質組織(例えば、ヒト肝臓)の人工(engineered)in vitroモデルを提供する。より具体的には、本発明は、マイクロパターン化共培養物(coculture)中、非実質細胞と境界を接する幾何学形態中に空間的に配置された実質細胞(例えば、初代ヒト肝細胞)を含む、2-Dおよび3-D培養物を創製する微細加工技術を利用した。境界のある該幾何学形態は、任意の規則的または不規則的な寸法を有してもよい(例えば、所定の直径、長さ、幅など通常約250〜750μmの円形、半円形、球状の島状部)。例えば、本発明は、マイクロパターン化ヒト型共培養物が、類似の細胞比率および個数を含んだランダム分布対応培養物より、再現性に優る(数倍)ことを実証する。本発明は、共培養物が、最適に機能するために、同型および異型の相互作用の最適な均衡を必要とすることを実証する。
【0011】
本発明は、細胞島状部(cellular island)を規定する実質細胞の1つまたは複数の集団と、非実質細胞の1集団とを含み、非実質細胞が細胞島状部の幾何学的境界を規定する、in vitro細胞組成物を提供する。
【0012】
更に、本発明は、基板上に複数の細胞島状部を作製する方法も提供する。該方法は、各々が規定の幾何学的サイズおよび/または形状を有する、接着材料のスポットを基板上の空間的に異なる箇所に付けるステップと、接着材料および/または基板に選択的に接着する細胞の集団を基板と接触させるステップと、基板上の細胞を培養することにより、複数の細胞島状部を生成するステップとを含む。
【0013】
本発明は、非実質細胞と境界を接し、境界付き幾何学形態の少なくとも1つの側部間寸法が約250〜750μmである該境界付き幾何学形態を有する、実質細胞を含む人工組織を接触させるステップと、人工組織を試験作用物質と接触させるステップと、遺伝子発現、細胞機能、代謝活性、形態およびそれらの組合せから選択される、人工組織の活性を測定するステップとを含むアッセイ系も提供する。
【0014】
本発明は、間質細胞に取り囲まれ、直径または幅が約250〜750μmの実質細胞の島状部を含む人工組織を提供する。
【0015】
更に、本発明は、in vitroで組織を作製する方法も提供する。該方法は、細胞の第1集団の付着用規定領域を有する基板上に細胞の該第1集団を播種するステップであって、該規定領域が約250〜750μmの境界付き幾何学寸法を含む、上記播種するステップと、細胞の第2集団を基板上に、細胞の第1集団を取り囲む、またはそれに隣接するように播種するステップと、それらの細胞を、組織が生成する条件下および十分な期間、培養するステップとを含む。
【0016】
本発明の1つまたは実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明で述べる。他の特徴、目的および利点は、以下の説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形には、文脈上そうでないことが明確でない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって例えば、「細胞島状部」と言う場合、このような島状部の複数が含まれ、「細胞」と言う場合、当業者に公知の1個または複数の細胞への言及も含まれるといった具合である。
【0018】
別途定義していない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似または同等のものを、本発明の方法および組成物を実施する際に使用できるが、例示的な方法、デバイスおよび材料が本明細書に記載されている。
【0019】
上記および本文全体に亘って考察する刊行物は、本願の出願日前の各開示だけを対象として示してある。本明細書中のいずれの刊行物も、本発明者が、先行する開示のためにそれら開示に先行する権利を有さないことを認めるものとして解釈されるものではない。
【0020】
本発明は、細胞型を規定する規定された境界付き幾何形状を利用することによる、実質細胞-間質細胞の共培養物にもおよぶ。一態様では、本発明は、ラットおよびブタの肝臓モデルに対してこれまでに使用されているような共培養物をヒト組織(例えば、ヒト肝臓)のモデルに拡大適用する。微細加工手段を用いて、本発明は、マイクロパターン化配置(単一細胞島状部から大型集合体まで)が、ランダム分布した共培養を性能的に凌ぐことを実証している。人工のマイクロパターン化配置にあっては、同型および異型相互作用の均衡により、所定または所望の表現型活性、長寿命および増殖能を有する機能的共培養物を生成することができる。このような予想外の結果から、ランダム共培養と比較した場合、幾何学的共培養には異なる構造的依存性が示される。本発明は、抗体ベースの機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを利用して、このようなマイクロパターン化共培養物の特性を決定する。
【0021】
生物中の細胞の形態および機能は、代謝物質源および酸素源からの距離、ならびに同型および異型細胞相互作用を含めたその環境により変動する。例えば、肝細胞の形態および機能は、門脈三管から中心静脈までの肝洞様毛細血管に沿った位置と共に変動することが知られている(Bhatia et al., Cellular Engineering 1:125-135, 1996; Gebhardt R. Pharmaol Ther. 53(3):275-354, 1992; Jungermann K. Diabete Metab. 18(1):81-86, 1992およびLindros, K.O. Gen Pharmacol. 28(2):191-6, 1997)。帯状分布と称するこの現象は、肝機能のほぼ全分野で説明されてきた。酸化的エネルギー代謝、炭水化物代謝、脂質代謝、窒素代謝、胆汁抱合および異物代謝は、全て別の帯域に局在化されてきた。遺伝子発現のこのような区画化は、「グルコスタット」として機能する肝臓の能力、ならびに一部の生体異物(例えば、環境毒素、化学/生物兵器作用剤、更にホリスティック治療薬、栄養薬などの天然化合物)について認められる帯域肝毒性のパターンの基礎をなしていると考えられる。
【0022】
単離したヒト実質細胞(肝細胞など)は、培養物中で非常に不安定であり、したがって薬物毒性、薬物間相互作用、解毒酵素の薬物関連誘導、およびその他の現象に関する試験に対して、有用性が限られている。その利点が認識されていながら、初代実質細胞は、in vivoの微小環境から単離すると生命力および表現型機能を急速に失うため、培養物中で維持するのが困難なことで有名である。単離した肝細胞は、アルブミン分泌、尿素合成、シトクロームP450活性などの重要な肝特異的機能を急速に失う(例えば図1を参照されたい)。コラーゲンで被覆した皿上での約1週間の培養後、肝細胞は線維芽細胞の形態を示す。他方、単離直後の肝細胞は、明確な核および核小体と、明るい細胞間境界(毛細胆管)とを有する多角形形態を示す。脱分化した肝細胞は、酵素誘導剤に通常反応しないので、その使用は非常に限られる。
【0023】
ここ20〜30年に亘って、研究者達は、可溶性因子の補給、細胞外マトリックスの操作、および肝細胞型と非肝臓由来間質細胞型とのランダム共培養を用いて、数種の肝細胞機能を安定化することができた。ホルモン、コルチコステロイド、サイトカイン、ビタミンまたはアミノ酸を低濃度で添加すると、肝細胞において肝特異的機能の安定化を促進することができる。組成およびトポロジーが異なる細胞外マトリックスの提供によっても、同様の安定化を誘導することができる。例えば、多様な種(ヒト、マウス、ラット)由来の肝細胞は、ラット尾部コラーゲンIの2層(二重ゲル)間に挟むとアルブミンを分泌する。しかし、試験によれば、CYP450活性が二重ゲルモデル中で低下し、上層コラーゲンの存在が候補薬物にとって輸送障壁となるため、アッセイシステムとしてのその使用は限られることが判明した。Matrigelと称する腫瘍由来基底膜の抽出物上での培養によっても、肝細胞の球状形成が誘発され、P450活性を含めた重要な肝細胞機能が保持される。Matrigelはげっ歯類の肝細胞では機能を誘発できるが、ヒト肝細胞では効果が減少するようである。使用されている大部分のin vitro肝臓モデルは、創薬および薬物開発中の特定のシナリオでは用途を見出し得るが、堅固な生体模倣肝臓プラットホームの開発への適用性には限界がある。例えば、規定される培地処方物では潅流液の内容物が制限され、サンドイッチ構造のために輸送障壁が加わり、肝細胞はギャップ結合を発現しないし、更にMatrigelおよびスフェロイド培養では肝細胞の凝集に依存するため、不均一および輸送障壁が生じる。
【0024】
本発明は、実質細胞と非実質細胞との同型および異型相互作用を最適化することによって、こうした問題の多くを克服している。例えば、成体肝臓では、肝細胞は、洞様内皮、星細胞、クッパー細胞および脂質貯蔵性伊東細胞を含めた多様な間質細胞型と相互作用をする(例えば、異型相互作用)。これらの間質細胞型は、生理条件、病態生理条件のいずれでも肝細胞の細胞運命過程を調節する。in vitroでは、初代肝細胞を異なる種や器官に由来する異なる多様な間質細胞型と共培養すると、肝臓の器官形成を想起させるように分化した肝細胞機能が数週間支持されることが判明した(図2を参照されたい)。こうした肝細胞のランダム共培養を使用して、脂質代謝、急性期反応の誘導などの肝臓の生理および病態生理の様々な側面を試験した。
【0025】
一態様では、実質細胞の細胞島状部と間質細胞とを含むマイクロパターン化培養物を使用している。この態様では、間質細胞の間に実質細胞の島状部を散在させるように、基板を改変し、調製している。例えば半導体産業由来の改良した微細加工技術を使用して、実質細胞(例えばヒト肝細胞)および支持的間質細胞(例えば線維芽細胞)を小型化可能なフォーマットに空間配置させるように、基板を改変している。この空間配置は、境界付き幾何形状からなる実質細胞型でもよい。この境界付き幾何形状は、寸法(例えば、直径、幅、長さなど)がその形状により規定される任意の形状(例えば、規則的または不規則的)でもよい。この寸法は、一方の側部から実質的に反対側の側部までの少なくとも1つの距離が、約200〜800μm(例えば、その形状が長方形または楕円形の場合、一方の側部から反対側の側部までの距離が200〜800μm)となるように、その形状に基づいた所定の尺度を有することになろう。例えば、実質細胞(例えば肝細胞)は、間質細胞(例えば、マウス3T3線維芽細胞などの線維芽細胞)や他の材料で取り囲まれた、様々な寸法(例えば、直径が36μm、100μm、490μm、4.8mmおよび12.6mm、通常は約250〜750μm)の円形島状部に調製することができる。例えば、肝細胞の解毒機能は小パターンで最大化され、合成能は中間的寸法で最大化されるが、代謝機能および正常形態は全パターンにて保持されていた。
【0026】
一実施形態では、バイオリアクターは、初代実質細胞(例えば肝細胞)単独、または他の細胞型との組合せを使用することができる。本明細書に示す例では肝細胞を利用しているが、本開示のバイオリアクターおよび培養系で使用できる他の実質細胞型および非実質細胞型には、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞および他の腎細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア)、呼吸器上皮、幹細胞および血液細胞(例えば、赤血球およびリンパ球)、成体および胚性幹細胞、血液脳関門細胞、ならびに当該分野で公知の他の実質細胞型が含まれる。
【0027】
一態様では、該リアクターは、マイクロパターン化した実質細胞(例えば肝細胞)共培養物および間質細胞(例えば線維芽細胞)と共に使用できる。該リアクターの規模は、生体異物を調べることができるハイスループットマイクロリアクターアレイを作製できるように、変更することができる。一態様では、流体流路中に、またはそれに沿ってマイクロパターン化培養区域を有する、微小流体デバイスが想定されている。
【0028】
本発明は、同型(肝細胞/肝細胞)、異型(肝細胞/間質細胞)双方の細胞間相互作用により、実質細胞の生存率および分化機能が改善されることを実証する。
【0029】
本発明のマイクロパターン化細胞島状部培養は、代謝安定性、薬物間相互作用、毒性および感染性疾患に対するスクリーニングを含めた、創薬および薬物開発において有用である。代謝安定性は、予備臨床試験に進む主要薬物候補の選択にとって鍵となる規準である。
【0030】
本発明は、所望の特性、および/または脱分化を最小限に抑えて長期間培養できる性質を有するin vitro組織の開発に有用な細胞組成物を提供する。本発明は、同型細胞集団同士の距離および異型細胞集団との前記集団の関係が、多様な機能的(表現型の)差異を生じるという発見に、部分的に基づいている。例えば、本発明の一態様では、実質細胞を含んだ幾何学的に規定した細胞島状部が、1つまたは複数の集団となって生成する。本明細書で更に説明するように、該実質細胞型はいずれの実質細胞でもよい。以下に示す具体例は、該方法およびシステムの肝臓の実質細胞への応用を明示する。こうした実質細胞の島状部は、非実質細胞の集団に取り囲まれているか、当該集団によって隔てられている。
【0031】
該島状部は、所望の特性を有する任意の幾何学形状を取ることができ、円形、楕円形、正方形、長方形、三角形などのいずれでもよい幾何学形状に基づいて、長さ/幅、直径などにより規定できる。更に、実質細胞の機能は、パターン構成の変更 (例えば、細胞島状部の距離またはアレイの幾何学形態) により改変し得る。細胞の幾何学的境界付き島状部同士の距離は、培養系において変更してもよい(例えば、島状部同士の距離は規則的、不規則的のいずれでもよい)。本明細書に記載の技術を用いて、細胞島状部同士の空間的距離はランダム、規則的、不規則的のいずれでもよい。更に、異なる幾何学形状(例えば、複数の島状部サイズ)の境界付き幾何学的区域(例えば、細胞島状部)の組合せが、島状部同士の変動距離(例えば、複数の島状部間隔)または一定距離を有して、単一基板上に存在してもよい。言い換えると、本発明は、基板上での多様な幾何学形状および距離からなる細胞島状部(例えば、入り混じり、規則的に分布している、250μmおよび400μmの島状部を有する細胞島状部を含む共培養物)の使用を想定している。一態様では、該細胞島状部は、約250μm〜750μmの直径または幅からなる。同様に、幾何学的島状部が長方形を含む場合、その幅は約250μm〜750μmからなり得る。別の態様では、実質細胞島状部は、細胞島状部の中心間が約2μm〜1300μm相互に離れている。更に別の態様では、実質細胞島状部は、培養区域の全長または培養区域の一部に及び得る、所定の幅(例えば、250μm〜750μm)からなる。実質細胞の平行島状部は、間質細胞の平行列により隔てることができる。別の態様では、その幾何学形状は3D形状(例えば球状)を含み得る。このような場合、直径/幅などは約250μm〜750μmとなろう。
【0032】
当該分野で認識されているように、該細胞島状部は、静置および流体流動反応系(例えば、微小流体デバイス)を含めた任意の培養系中に存在し得る。このような微小流体デバイスは、わずかな流量および試薬量が必要な作用物質の迅速スクリーニングに有用である。
【0033】
本発明の細胞培養物は、当該分野で認識されている多数の技法により、作製することができる。例えば、複数の細胞島状部を基板上に作製する方法は、基板上の空間的に異なる箇所に接着物質(または、複数の相異なる細胞特異的接着物質)をスポットまたは積層することを含むことができ、各スポットが所定のサイズ(例えば直径)および空間配置を有する方法である。次いで、基板上のスポットを第1の細胞集団または細胞型の組合せと接触させ、培養して細胞島状部を生成する。異なる細胞型を同時に基板と接触させる場合、基板、基板上の被膜またはスポットによって細胞特異的結合が支持されるため、異なる細胞ドメインが形成されることになろう。接着物質(例えば、細胞外マトリックス物質)をスポットする方法は、例えば、ロボット式スポット法およびリソグラフィー法を包含することができる。
【0034】
本発明の方法およびシステムには、様々な培養基板を使用することができる。このような基板には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼、シリコンなどが挙げられるが、それだけに限らない。空間的に離れた細胞島状部を維持しようとする場合、基板の選択を検討すべきである。細胞培養基板の表面は、種類任意数の剛直性または弾性支持体から選択できる。例えば、細胞培養材料は、ガラスまたはポリマー製顕微鏡スライドを含むことができる。ある種の態様では、基板は、細胞型の基板への結合性に基づいて選択してもよい。
【0035】
本発明の方法およびシステムに使用される細胞培養基板の表面/基板は、哺乳動物細胞の培養に適当な任意の材料で作製できる。例えば、該基板は、生体適合性である限り、プラスチックや他の人工ポリマー材料などの滅菌容易な材料とすることができる。基板は、細胞および/または組織が接着でき(あるいは、細胞および/または組織が選定箇所に接着できる、または接着できないように改質することができ)、しかも細胞および/または組織が1層または多層に増殖できる任意の材料とすることができる。限定しないが、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニル化合物(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ニトロセルロース、綿、ポリグリコール酸(PGA)、セルロース、デキストラン、ゼラチン、ガラス、フッ素ポリマー、フッ素化エチレンプロピレン、ポリビニリデン、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、およびシリコン基板(溶融シリカ、ポリシリコン、シリコン単結晶など)を含めた種類任意数の材料を、該基板/表面を形成するために使用できる。金属(金、銀、チタンのフィルム)も使用することができる。
【0036】
本明細書に記載するように、幾つかの例では、細胞の接着および増殖を促進するために基板を改質してもよい(例えば、接着物質で被覆する)。例えば、ガラス基板をコラーゲンやフィブロネクチンなどのタンパク質(即ち、少なくとも2個のアミノ酸からなるペプチド)で処理することにより、細胞の基板に対する接着を補助してもよい。幾つかの実施形態では、タンパク質性物質の使用により、細胞島状部の位置が規定される。タンパク質でできるスポットは、細胞島状部を形成するための「鋳型」として機能する。通常は、単一種のタンパク質を基板に接着するが、ある種の実施形態では2種以上のタンパク質を使用してもよい。細胞接着を促進するように基板を改質するのに使用して適当なタンパク質には、細胞培養の条件下で特定の細胞型の接着を受けるタンパク質が含まれる。例えば、肝細胞はコラーゲンに結合することが知られている。したがって、コラーゲンは肝細胞の結合を促進するために良く適合している。他の適当なタンパク質には、フィブロネクチン、ゼラチン、IV型コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、およびヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカンを含めた他の基底膜タンパク質が含まれる。このようなタンパク質を併用することもできる。
【0037】
スポット中に沈着する接着物質(複数も)(例えば、ECM物質、糖類、プロテオグリカンなど)の種類は、部分的には、培養しようとする1種または複数の細胞型により決定されよう。例えば、肝臓の微小環境中に見出されるECM分子は、肝細胞、初代細胞、および胎児性肝特異的レポーターES細胞系の培養に有用である。肝臓は、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニンおよびフィブロネクチンに対して不均一染色を示す。肝細胞は、in vivoでインテグリンβ1、β2、α1、α2、α5と、非インテグリンフィブロネクチン受容体Agp110を示す。培養ラット肝細胞は、インテグリンα1、α3、α5、β1およびα6β1を示し、それらの発現は培養条件により調節される。
【0038】
一態様では、本発明はマイクロパターン化肝細胞共培養を提供する。薬物代謝における種特異的差異のため、ヒト肝細胞培養物は、非ヒト培養物より効果的に、候補薬物の代謝物質プロファイルを同定することができる。しかし、ヒト細胞の更なる試験に適当な性質または代謝の特定を促進するために、非ヒト細胞型を本発明において使用し得ることが認識されよう。次いで、この情報を用いることにより、臨床試験をにらんだ最終目標として、代謝物質の生成機構を推論することができる。定量的には差があるとはいえ、分離肝細胞を用いた場合の薬物の生物内変換活性にはin vivo対in vitroの良好な相関性が存在する。ヒト肝細胞in vitroモデルにより得られる代謝物質プロファイルを用いることにより、薬物動態、薬力学および毒性の前臨床試験に対する人間代用物として作用する適切な動物種を選定することもできる。試験によれば、種間変動はin vitroでも保持されており、試験される薬物に応じて異なってくることが判明した。
【0039】
本発明は、所望の特性を有する組織を開発するために有用なマイクロパターン化法も提供する。最適化したマイクロパターン化共培養物を創製するために、以下の実施例では連続フォトリソグラフィーに基づく技法を使用したが、この試験の示すところでは、このような共培養物は、ステンシル準拠軟質リソグラフィーを用いて、実験のハイスループット化促進に適した多重ウェルフォーマット中で小型化することができる。ロボット式スポット法を用いて単一基板上に、様々な組合せと種類の細胞外マトリックスタンパク質をパターン化することも、本発明により提供される。実質細胞(例えば、肝細胞)と間質細胞との共培養物と一体化したこうしたマトリックスアレイは、薬物開発用途におけるハイスループットスクリーニングに適している。本発明は、静置装置中、およびin vivo条件に近似した閉ループ流動条件を備えたバイオリアクター装置中で、機能的に安定した2Dおよび3D共培養物も提供する。更に、マイクロパターン化戦略は、細胞間相互作用が重要な他の系(例えば、造血幹細胞と間質細胞系との、および角化細胞と線維芽細胞との共培養物)の機能的最適化に使用することも潜在的にできる。
【0040】
不溶性および/または可溶性因子を特定の位置に配置することに関しては、このような因子を所定の位置にスポットするために、コンピュータ制御プロッタまたはインクジェットプリンターさえ用いる多様な微量スポット法が開発されてきた。一技法では、多数の毛細管を孔通ししたガラス繊維の各毛細管中に異なる物質を装填する。次いで、顕微鏡スライドガラスなどの基板を、各スライドガラス上にゴム印とほぼ同様にしてスタンプする。スポット法では、手動的または自動化技法を用いて特定の部位または領域に物質を配置する。
【0041】
羽ペン(quill)、ピン、マイクロピペッターなどの従来からの物理的スポット法では、基板上の直径10〜250ミクロンの範囲に物質を付着させることができる(例えば、96ウェル培養プレート上で約100スポット/ミクロウェル)。幾つかの例では、その密度は400〜10000スポット/cm2で、スポット間に隙間をもたらすことができる。Affymetrix(例えば、その開示内容が本明細書に参照として援用されている米国特許第5,744,305号)が提供するようなリソグラフィー法では、約10平方ミクロンもの小スポットを生成するため、約800,000スポット/cm2となる。
【0042】
スポット装置には、基板上の所望の位置にこのような試薬を送出するために、1つまたは複数の圧電ポンプ、音響分散、液体プリンター、微小圧電(micropiezo)ディスペンサーなどを採用してもよい。幾つかの実施形態では、該スポット装置は、米国特許第6,296,702号、第6,440,217号、第6,579,367号および第6,849,127号に記載のものに類似またはそれと同様の装置および方法を含む。
【0043】
したがって、自動化スポット装置には、例えばPerkin Elmer BioChip ArrayerTMが利用できる。幾種もの接触式および非接触式マイクロアレイプリンターが利用可能であり、基板上に可溶性および/または不溶性物質を分配/印刷するために使用し得る。例えば、非接触式プリンターは、Perkin Elmer (BioChip ArrayerTM)、Labcyte and IMTEK (TopSpotTM)、およびBioforce (NanoarrayerTM)から入手できる。これらの装置は、圧電分配、無接触音響移送、多重マイクロチャネルからの同時印刷(en bloc printing)などを含めた、非接触式スポットに対する多様な手法を利用している。他の手法には、インクジェット式プリントおよび微小流体プラットホームが含まれる。接触式プリンターは、TeleChem International (ArrayltTM)から市販されている。
【0044】
非接触式印刷が、通常、細胞島状部を含む細胞マイクロアレイの作製に使用されよう。基板表面に物理的に接触しないプリンターを利用することにより、基板表面上に異常部または変形部が持ち込まれないため、スポット物質の部位における不均一または異常な細胞捕捉が防止される。
【0045】
音響または他の無接触移送を利用するものを含めた、対象とする印刷法では、例えば溶液が高い粘度、濃度および/または粘着性を有する場合、プリンター開口部の目詰まりを回避する便益も得られる。無接触移送印刷によって、多くのシステムに特有のデッドスペースも除かれる。多重ポートを有するプリントヘッドの使用、およびスポットサイズの柔軟な調節能力を、ハイスループットの調製に使用することができる。
【0046】
基板上のスポット総数は、基板サイズ、所望の細胞島状部のサイズ、および細胞島状部間の間隔に応じて変動することになろう。一般に、支持体の表面上にあるパターンには、個別のスポットが少なくとも2個、普通は個別のスポットが約10個、より普通には個別のスポットが約100個含まれようが、そのスポット数は50,000以上にもなり得る。典型的な場合、該スポットは、全体的に円形の寸法を普通は有し(しかし、球状、長方形、正方形などの他の幾何形状を使用してもよい)、その直径は約10〜5000μm(例えば、約200〜800μm)の範囲となろう。
【0047】
多重ウェル培養プレートの表面上に分配または印刷することによって、アレイ手法の利点と多重ウェル手法の利点とを組み合わせることができる。標準的なスポット装置におけるチップ間の間隔は、384ウェル、96ウェルの両プレートに適合している。各搭載量で同時に数個のウェルが印刷できる。ウェルの印刷は、接触式、非接触式双方の技術を用いて行うことができる。
【0048】
本発明は、ロボット式スポット技術を利用することにより、所定のサイズおよび空間配置の細胞マイクロアレイまたは島状部を、例えば細胞培養基板上に形成するための堅固で扱い易い方法を開発することができる。本明細書で使用する場合、用語「マイクロアレイ」とは、アドレスが指定された、または指定可能な複数の位置を指す。
【0049】
一態様では、本発明は、ECM付着を可能とするスポット装置で使用され、ECM固定化を可能とするマイクロアレイ基板を特定する改良型プリントバッファーを含む方法およびシステムを提供する。本発明の方法およびシステムは、既製の薬品および従来からのロボット式DNAスポッターを用いて、標準的な細胞培養基板(例えば、顕微鏡スライド)上に実質的に精製した生体のタンパク質、核酸など(例えば、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニンおよびフィブロネクチン)、または様々な組合せのそれらの混合物をスポットするのに有用である。
【0050】
別の態様では、本発明は、細胞島状部を生成するためにフォトリソグラフィー技術を利用する。間質細胞との共培養時のげっ歯類肝細胞の機能を操作するために、フォトリソグラフィーマイクロパターン化法を利用する際、業界標準多重ウェルフォーマット中でヒト肝組織を小型化し、その特性を決定するための、エラストマー型板を利用した微細技術準拠プロセスを使用した。この手法には、「軟質リソグラフィー法」、即ち微細加工構造の再使用可能なエラストマー性ポリマー(ポリジメチルシロキサン-PDMS)の型枠を利用することにより、フォトリソグラフィー技術の限界を克服する1組の技法が組み込まれている。一態様では、本発明は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する、厚さ300μmの膜からなるPDMS型板を用いるプロセスを提供する(図3a)。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、そのアセンブリをポリスチレンプレートに相対して密封した。I型コラーゲンを露出ポリスチレンに物理吸着させ、型板を外し、24ウェルPDMS「ブランク」を当てた。ヒト肝細胞をコラーゲンドメインに選択的に接着した後、それを支持的なマウス3T3-J2線維芽細胞で取り囲むことにより、共培養物を「マイクロパターン化」した。貫通孔のサイズ(例えば、幾何学的寸法)によって、コラーゲンドメインのサイズ、したがって微小規模組織中における同型(肝細胞/肝細胞)および異型(肝細胞/間質細胞)相互作用の均衡が決定された。同様な技法を用いて、他の実質細胞型の細胞島状部を培養することができる。
【0051】
本発明は、細胞島状部のサイズおよび/または間隔を変更することにより、細胞の発達および成熟化を制御する最適条件の特定に有用な方法およびシステムを提供する。例えば、本発明の方法およびシステムは、細胞の運命(例えば、幹細胞のより成熟した細胞への分化、自己再生の維持など)を制御する最適条件の特定に有用である。
【0052】
用語「接着物質」とは、基板またはチップ上に付着し、細胞または微生物がある程度の親和性を示す、結合剤などの物質である。該物質は、ドメインまたは「スポット」となって付着することができる。該物質と細胞または微生物とは、例えば、静電もしくは疎水相互作用、共有結合、またはイオン結合を含めた任意の手段を介して相互作用をする。該物質は、それだけに限らないが、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチドアプタマー、核酸アプタマー、糖類、プロテオグリカンまたは細胞受容体を包含し得る。
【0053】
特定の実施形態では、本発明は、肝細胞機能をin vitroで最適化するのに有用な方法および組成物を提供する。本発明は、ラットおよびブタの肝臓モデルに以前使用された肝細胞-線維芽細胞共培養物をヒト肝臓モデルに拡張する。微細加工手段を用いて、本発明は、マイクロパターン化配置(単一の肝細胞島状部から大型集合体まで)が、ランダム分布共培養を性能的に凌ぐことを実証している。操作・作製したマイクロパターン化配置にあっては、同型および異型相互作用の明確な均衡により、機能的ヒト型共培養物を生成することができる。このような予想外の結果から、ラット型共培養物と比較した場合、ヒト型共培養物では異なる構造的依存性が示される。最適化したマイクロパターン化ヒト型共培養物の特性決定は、広範に及び、それには抗体準拠機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを利用する。共培養した肝組織における試験によれば、マイクロパターン化ヒト型共培養物は、多くの重要な肝特異的遺伝子の高度の発現量を保持しているが、薬物開発中に汎用される、コラーゲン上の純粋な肝細胞単層では発現量の低下が見られることを示している。薬物開発用の適正肝臓モデルとしてヒト型共培養物を検証する方策には、多様な臨床用および非臨床用化合物を用いる細胞準拠急性および慢性毒性アッセイ、ならびにCYP450鍵酵素の誘導および阻害が含まれる。
【0054】
細胞島状部または「スポット」とは、規定した境界を有する、実質的に均質な細胞型からなる境界付きの幾何学的に規定された形状を指す。一態様では、細胞島状部またはスポットは、異なる細胞型、物質(例えば、細胞外マトリックス物質)などに取り囲まれている。該細胞島状部は、サイズおよび形状に範囲を有することができる(例えば、均一な寸法または不均一な寸法でもよい)。細胞島状部は、同一基板上に相異なる形状を有してもよい。更に、2個以上の細胞島状部間の距離は、当該分野で公知の方法(例えば、リソグラフィー法およびスポット法)を用いて設計することができる。細胞島状部間の距離は、ランダム、規則的または不規則的であってもよい。細胞島状部の間隔距離および/またはそれらのサイズは、特定の細胞型(例えば、肝細胞などの実質細胞)へ形態に特徴的な所望の表現型をもたらすために、変更することができる。
【0055】
異型および/または同型相互作用を制御するために細胞島状部を調節すること以外に、本発明は、哺乳動物細胞の酸素および栄養素の取込み過程を調節する能力を与えることにより、リアクター系中に方向性勾配を創出するバイオリアクター系を使用することができる。方向性酸素勾配は、例えば、癌、組織発生、組織再生、創傷治癒、および正常組織などの多様な生体環境において存在する。その結果、バイオリアクター系の長さに沿った酸素勾配のために、局所的な酸素利用性に基づいて異なる機能特性を示す細胞が生じる。したがって、本発明は、正常組織に特徴的なヒト組織をin vitroでもたらすだけでなく、体内組織中に見出される酸素および/または栄養素の勾配を模倣することにより、類似の生理環境ももたらす方法、リアクター系および組成物を提供する。
【0056】
バイオリアクター系と組み合わせたマイクロパターン技術の使用によって、マイクロアレイ式バイオリアクターの開発が可能となる。以前のバイオリアクターは、栄養素および薬物の輸送変動の根拠となる自己組織化に対する依存と、特性不明の間質性汚染物(例えば、ランダム培養物)とに起因する組織編成の変動性が一因となるために、小型化に適していなかった。更に、以前のランダム共培養物は、特性不明の間質細胞集団を有し、顕微鏡撮像が困難であり、細胞数の評価が困難であり(細胞集団の増殖による)、マイクロパターン化共培養物ほど細胞特異的(例えば、肝特異的)な機能を示さない。本発明により提供されるマイクロパターン化は、こうした困難の多くを克服している。
【0057】
該バイオリアクターでは、少なくとも2つの細胞型が、基板上の境界付き幾何学パターン中に配置されている、細胞の共培養物が利用される。このようなマイクロパターン化技法は、異型および同型細胞間接触の程度を調節するのに有用である。その上、共培養物は改善した安定性を有するため、慢性試験が可能となる(例えば、食品医薬品局(FDA)が新規化合物に対して要求するような慢性毒性試験)。マイクロパターン化共培養物はランダム培養物より安定であるので、本発明の共培養物、より特定すればマイクロパターン化共培養物の使用により、本開示の培養系に有益な特徴が得られる。更に、薬物間相互作用は長期間に亘り生起することが多いので、安定な共培養物という利点によって、このような相互作用の分析および毒性学的測定が可能となる。
【0058】
一態様では、本発明は、医薬の開発、基礎科学研究、感染性疾患の研究(例えば、B型、C型肝炎およびマラリア)のため、ならびに移植用組織の発生において利用できる、ヒト肝組織のin vitroモデルを提供する。本発明は、in vitroでの長期ヒト培養物の発生を可能とする組成物、方法およびバイオリアクター系を提供する。加えて、本発明の組成物、方法およびバイオリアクター系は、細胞島状部のサイズおよび分布を改変することにより、特定の形態特性の設計を提供する。本開示の組成物、方法およびバイオリアクター系を肝臓培養物に適用したところ、細胞島状部のサイズおよび/または分布が、in vivo代謝を模倣する細胞代謝の誘導に寄与することが判明した。この結果によれば、細胞分布は、遺伝子発現を調節し、細胞特異的代謝(例えば、肝特異的代謝)の維持における重要な役割を暗示することが示されている。その上、現行の生体用人工支持システムの設計および最適化においてこのような分布の効果を考慮すれば、その機能を改善し得る。
【0059】
抗体準拠機能アッセイならびにDNAマイクロアレイを用いた特性決定によって、本発明のマイクロパターン化ヒト型共培養物の肝特異的長期安定性(タンパク質量およびRNA量)が実証された。薬物開発における応用を示すために、典型的な薬物による急性/慢性毒性アッセイならびにシトクロームP450(薬物代謝の鍵酵素)の誘導/阻害を行った。例えば、特異な肝毒性(10,000件中1件)により2000年に市場から撤退した薬物REZULIN (トログリタゾン)を用いたin vitroの試験によれば、この薬物は汎用鎮痛剤のアセトアミノフェン(Tylenolの有効成分)より相当に毒性が高い。したがって、本発明は、毒性、および細胞代謝に正負いずれかの効果を及ぼし得る薬物相互作用をスクリーニングするために、有用である。
【0060】
本開示の組織培養およびバイオリアクターは、細胞毒性化合物、成長/調節因子、医薬などの広範囲の化合物をin vitroでスクリーニングすることにより、細胞(例えば肝細胞)機能を変化させ、および/または細胞毒性と死とを起こし、あるいは増殖活性または細胞機能を変化させる作用物質を同定するために、使用してもよい。例えば、該培養系は、様々な作用物質の吸着、分布、代謝、排泄および毒性(ADMET)を試験するために、使用してもよい。この目的のために、該培養物は、細胞島状部の所定の幾何形状を含みながらin vitroで維持され、試験対象の化合物に曝される。ある化合物の活性は、培養物中の細胞を損傷または殺滅する能力、あるいは細胞の機能(例えば、肝細胞ではP450の発現など)を変化させる能力によって、測定することができる。これは、生体染色法、ELISAアッセイ、免疫組織化学法などにより容易に評価し得る。成長/調節因子の細胞(例えば、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、膵細胞、星状細胞、筋細胞、癌細胞)に対する作用は、培養物の細胞含量、例えば全細胞数および細胞数の差、またはMTT、XTTなどの代謝マーカーによるその含量を分析することにより、評価し得る。これは、型特異的細胞性抗原を規定する抗体を用いた免疫細胞化学法の使用を含む、標準的な細胞学的および/または組織学的技法を用いても、実現し得る。培養系で培養された正常細胞に対する多様な薬物の作用を評価してもよい。例えばコレステロール産生を低下させることにより、コレステロール代謝に影響する薬物を、例えば肝培養系で試験することができよう。
【0061】
本発明の方法およびシステムは、正常、異常両組織のモデルを作製し、アッセイするために、使用することができる。例えば、活性化星細胞で肝細胞を取り囲めば、線維症肝組織を模倣することになろう。この態様において、肝細胞島状部は活性化星細胞により形成、および囲まれる。あるいは、細胞島状部の形成に用いる肝細胞源として、病的肝組織を使用してもよい。こうした異常肝細胞は、正常または異常な非実質細胞型と境界で隔てることができる。
【0062】
別の態様では、試験作用物質の存在下および非存在下で感染性疾患をモニターしてもよい。例えば、本発明の肝培養物では、異型および同型相互作用、ならびに特定細胞に対する相互作用に対して、B型およびC型肝炎の効果を試験してもよい。更に、このような疾患の治療に使用する試験作用物質を調査の対象としてもよい。同様に、マラリアおよび他の感染性疾患、ならびに潜在的治療薬を試験することができる。
【0063】
本開示のバイオリアクターおよび培養系(例えば、本発明の単一ならびにアレイ式バイオリアクター)の一利点は、このようなバイオリアクターまたは培養系中の細胞が、実質的に同種であり、自系である(例えば、細胞島状部は実質的に同種であり、自系である)ため、同じ生物学的背景で多数の実験をすることができることである。例えば、in vivo試験では、動物間の変動が起こり、所与の被験体に対して試験できる条件または作用物質の数に限りがある。
【0064】
本開示のバイオリアクター培養系を利用することによって、培養中の細胞(例えば、ヒト肝細胞)に対する医薬、抗新生物剤、発癌剤、食品添加物および他の物質の細胞毒性を試験してもよい。
【0065】
アッセイ系の一態様では、安定な増殖培養物が、所望のサイズ(例えば、島状部サイズおよび島状部間の距離)、形態を有するバイオリアクター系内に確立され、所望の酸素勾配も含み得る。培養物中の細胞/組織を様々な濃度の試験作用物質に曝す。試験作用物質とのインキュベーション後、位相差顕微鏡により、またはタンパク質産生/代謝などの細胞特異的機能(例えば、肝細胞指標)の測定により、培養物を検査することによって、最大耐容用量(最も早期の形態異常が出現し、または検出される試験作用物質の濃度)を決定する。多様な超生体色素を用いて細胞毒性試験を行うことにより、当業者に公知の技法を用いて培養系の細胞生存率を評価することができる。
【0066】
試験範囲を確立してしまえば、異なる細胞型の生存率、増殖および/または形態に対する試験作用物質の効果を、当業者に周知の手段によって様々な濃度で検査することができる。
【0067】
該バイオリアクター培養系は、悪性腫瘍および疾患の診断および治療、または遺伝毒性試験を補助するためにも使用してもよい。例えば、薬物感受性、悪性腫瘍または他の疾患もしくは障害の疑いがある被験者から、組織の生検試料(例えば肝生検試料など)を採取してもよい。次いで、その生検細胞を適当な条件でバイオリアクター系内で培養し、当該分野で公知の技法を用いて培養細胞の活性を評価することができる。その上、このような生検培養物を用いてその活性を変化させる作用物質をスクリーニングすることにより、被験者を治療するための治療計画を特定し、また、薬物感受性もしくは毒性、または疾患感受性を起こす遺伝子を同定することができる。例えば、被験者の組織培養物をin vitroで使用して細胞毒および/または医薬化合物をスクリーニングすることにより、最も有効な化合物、即ち悪性腫瘍または疾患細胞を死滅させるが、正常細胞を許容する化合物を同定する、あるいは薬物感受性による毒性反応を起こさない薬物を同定することができよう(例えば、個別医療に関わるスクリーニング)。次いで、こうした作用物質を用いて被験者に治療処置を施すことができよう。
【0068】
同様に、該培養系を用いて薬物の有益作用をin vitroで評価してもよい。例えば、成長因子、ホルモン、肝細胞の形成または活性を強化する薬物を試験することができる。この場合、安定なマイクロパターン培養物を試験作用物質に曝してもよい。インキュベーション後、マイクロパターン培養物の生存率、増殖、形態、細胞型などを試験物質の有効性の指標として検査してもよい。薬物を様々な濃度で試験することにより、用量-反応曲線を得ることができる。
【0069】
本発明の培養系は、生理または病理状態を試験するためのモデル系として使用してもよい。例えば、特定の実施形態では、該培養系は、細胞島状部のサイズまたは分布の変更により、本明細書に記載のように特異機能的に作用するように最適化することができる。別の態様では、酸素勾配が、培養系内の細胞のマイクロパターンの密度および/またはサイズと共に変更される。
【0070】
本発明の方法に有用なバイオリアクターの全体が、図4に描写されている。バイオリアクター5は、ポンプ90、ガス交換装置100、気泡トラップ120、基板20と組織結合性表面30と底面40とを含む培養装置15、少なくとも1つの壁55と導入口60と排出口70とを有する囲い/ハウジング50、センサー110、および液貯め容器80からなる。バイオリアクター5は、系内での流体の循環を維持するために用いるポンプ90を含む。ポンプ90は、系内に存在する流体を所望の濃度に酸素化するガス交換装置100と、流体を介して連通することができる。ポンプ90は、系内の細胞と接触することになる、例えば栄養培地または他の培地を収容するために用いる液貯め容器80とも、流体を介して連通している。一態様では、ガス交換装置100は、ガス交換装置100における流体のガス交換後に気泡を除くように機能する気泡トラップ120と、流体を介して連通している。系内を流通する流体は、培養装置15の導入口60に入り、基板20を排出口70へと通り抜ける。導入口60および排出口70は、囲い/ハウジング50のx、y、zいずれの面上に配置してもよい。
【0071】
細胞のための増殖表面が基板20の上面30にあるものとして示されている図4の特定の実施形態で、細胞の接着および増殖のための追加の表面を、ハウジング/チャンバー50の任意の表面(即ち、チャンバー50の任意の1つまたは複数の表面)を含めて調製してもよい。図4では、細胞は基板20の上面30上で増殖することができる。本明細書で考察するように、基板への細胞接着を促進する、または細胞増殖を改善するように、基板20、またはハウジング/チャンバー50の任意の1つもしくは複数の表面を処理または改変してもよい。基板20および/またはハウジング/チャンバー50の光透過性は、従来の顕微鏡観察(蛍光および透過光)用のプラットホームとして有用である。更に、細胞毒性および/または増殖と生存性を示す多様な代謝生成物または副生物を測定するために、マイクロ技術またはナノ技術を用いてインラインセンサーを組み込むことができる。例えば、様々な培養パラメーターをモニターするために、バイオリアクター中に分子プローブ(例えば、蛍光や、抵抗、キャパシタンスを含めた導電性の変化などの可測シグナルを得るプローブ)を含めることができる。変化を示すことができるプローブには、細胞環境または培地流出液中の分子と相互作用すると立体配置を変化させる多種の指示薬に連結した、多様な緑色蛍光タンパク質分子が含まれる。細胞環境または培地流出液中の分子と相互作用すると電気的変化を示すプローブは、多様なポリマー(例えば、ポリピロール、ポリアニリンなど、ならびに半導体基板)を含む基板を包含することができる。このような基板は、分子と相互作用すると抵抗またはキャパシタンスを変化させる。例えば、各リアクター(または、本明細書に記載するようなマイクロアレイ中の複数のリアクター)は、個々のO2、pHおよび代謝物質センサー(複数も)を有することができる。他のセンサー種は当該分野で公知である。その上、このようなセンサーを含み込めるための微細加工法も、当該分野で公知である。
【0072】
一態様では、排出口70を経て培養装置15から出る際、流体は、対象とする被分析物質を測定するセンサー110(例えば、酸素センサー、代謝物質センサーなど)と接触する。センサー110から得たデータを用いて、組織成長を調節し、および/または特定の作用物質もしくは薬物の有効性もしくは毒性に関するデータを得ることができる。
【0073】
更なる実施形態では、バイオリアクター系5は、図5に描写するようなバイオリアクター系のアレイにおいて使用することができる。図5は、流体で連通した複数の小型バイオリアクター系5の概略図である。各細胞培養装置15用の導入口60および排出口70が描かれている。各細胞培養装置15中の細胞10は、基板20上、または複数の基板20上で増殖する。
【0074】
再度図4を参照すれば、本開示によるバイオリアクター系5の一実施形態は、基板20の上部30上に播種されている組織10を有する。覆い用のチャンバーまたはハウジング50は、少なくとも1つの壁55を含む。このチャンバー/ハウジング50は、導入口60および排出口70を含む。組織10は、間質細胞集団中に散在した複数の実質細胞島状部を含むことができる。特定の一実施形態では、この組織または細胞アレイは、細胞島状部相互の特定の距離および/またはその島状部のサイズにより規定される。
【0075】
基板20の上部30は、チャンバー/ハウジング50と密封するように係合することにより、流動空間を創出する(図4における矢印で示される)。チャンバー/ハウジング50は、流体流動用の開口部を含む。流体供給管が導入口60に設けられ、ガス交換装置100、ポンプ90および液貯め容器80と流体で連通している。返送管が排出口70に設けられている。流体循環は、ポンプ90を用いて系内で維持されているが、該ポンプは、例えば、流体を送出してバイオリアクターに通すシリンジポンプおよび蠕動または他種のポンプを含む、細胞培養系で常套的に使用するいずれのポンプでもよい。
【0076】
導入口60および排出口70は、系内での流体の循環を維持するために、管と対合する接続具またはアダプターを含む。接続具またはアダプターは、ルアー接続具、ねじ山などでもよい。管用接続具またはアダプターは、細胞培養のための流体(栄養培地を含む)の送出に適した任意の材料で構成してよい。このような管用接続具またはアダプターは当該分野で公知である。導入口60および排出口70は、リアクターのサイズおよび流体の流量にとって望ましい内径を有する管を受け容れる接続具またはアダプターを含む。
【0077】
基板20は、哺乳動物細胞の培養に適した任意の材料で作製することができる。基板20は、図4ではバイオリアクターの一部として描かれているが、バイオリアクターのない状態での培養のために基板を調製できることは認識されよう。一態様では、基板20は伝統的な組織培養皿の場合もある。例えば、該基板は、材質が生体適合性である限り、プラスチックや他の人工ポリマー材料などの容易に滅菌できる材料でよい。基板20は、細胞および/または組織が接着でき(または、細胞および/または組織が接着するように改変でき)、しかも細胞および/または組織が1層または複数層となって成長できる任意の材料でもよい。本明細書に記載するような基板20を形成するために、種類任意数の材料を使用することができる。
【0078】
ナイロン、ポリスチレンなどのある種の材料は、細胞および/または組織の付着用の基板としてあまり有効ではない。こうした材料を基板として使用する場合、細胞の接種前に基板を前処理することによって、細胞の基板に対する付着性を強化することが得策である。例えば、間質細胞および/または実質細胞の接種前に、ナイロン基板を0.1M酢酸で処理し、ポリリジン、FBSおよび/またはコラーゲン中でインキュベートすることにより、ナイロンを被覆すべきである。硫酸を使用して同様にポリスチレンを処理することができよう。
【0079】
in vitroで生成した人工組織自体をin vivoで埋め込もうとする場合、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸などの生分解性基板を使用すべきである。組織を長期間維持する、または凍結保存しようとする場合は、ナイロン、ダクロン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニル、テフロン(登録商標)、綿などの非分解性材料を使用してもよい。
【0080】
組織が成長した後に、それを凍結および保存することができる。一態様では、組織は温度を4℃に下げることにより、保存される。組織を凍結保存しようとする場合、凍結保存剤が添加される。組織を凍結保存する方法は、保存しようとする組織の種類に依存しようが、その方法は当該分野で周知である。
【0081】
本開示の細胞島状部を含むマイクロパターン化組織は、広範囲の用途に使用することができる。こうした用途には、それだけに限らないが、培養人工組織のin vivoでの移植または埋込み、細胞毒性化合物、成長/調節因子、医薬化合物などのin vitroでのスクリーニング、ある種の疾患の機構解明、薬物および/または成長因子の作用機構の研究、患者における癌の診断およびモニター、遺伝子治療およびタンパク質送達、生体産物の作製、ならびに体外器官補助装置の主要な生理的構成要素が挙げられるが、これらの用途はその数例を挙げたものである。本開示のバイオリアクターによって培養された組織は、バイオリアクターが多機能細胞を有する組織の培養を可能とするので、上記用途に特に適している。したがって、こうした組織は、in vivoで成長する組織を有効にシミュレートしている。
【0082】
一実施形態では、該組織(例えば、バイオリアクター中にある)は、細胞性生体産物を高収率で産生するためにin vitroで使用することができよう。例えば、特定の生体産物(例えば、成長因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体など)を自然状態で多量に産生する細胞、または外来遺伝子産物を産生するように遺伝子操作された宿主細胞は、本開示のバイオリアクターを用いてin vitroで培養することができよう。
【0083】
例えば、生体産物を産生するためのバイオリアクターを使用するために、栄養素、成長因子、ガスなど、ある濃度の溶質を有する培地流は、口60から流入し、基板20上に播種された組織10を通過して口70から流出する。この供給液は、生体産物の産生を促進する細胞島状部の所望のサイズおよび/または分布と共に設計される。供給される溶質および栄養素の濃度は、組織層が所望の生体産物を産生するような濃度である。次いで、産物は、培地流中に排泄された後、当該分野で周知の技法を用いて、排出口70から出てくる排出流から採集することができる。
【0084】
上記したように、規模の異なるリアクターは異なる用途のために使用することができる。大規模リアクターは、組織機能に対する栄養素、薬物などの効果を試験するために、使用することができる(例えば、肝臓に対する虚血、および細胞の低酸素反応、器官維持などのその関わり)。ハイスループットリアクターは、代謝、毒性および有害な生体異物相互作用に関して薬物を評価するために使用することができる。それは、可変的な酸素環境における潜在的な制癌剤および他の薬理作用物質の評価のためにも使用することができよう。例えば、小型化したバイオリアクター系は、図5に描かれるようなアレイに作製することができる。
【0085】
例えば、肝細胞および/または間質細胞を含めた細胞の増殖のために、組織成長を維持し、増強するのに必要な溶質を含んだ培地を細胞と接触させる。液体培地中の溶質には、タンパク質、炭水化物、脂質、成長因子などの栄養素、ならびに酸素と、細胞および/または組織の成長および機能に資する他の物質が含まれる。例えば、バイオリアクター系中の酸素ガス濃度は、組織の形態(例えば、肝組織培養物における帯状分布)を維持するために調節することができる。培地中の溶質、ならびに培養中の細胞が産生し、放出する溶質は、多機能細胞の発生を促進する。
【0086】
別の態様では、本発明は、改変した酸素送達および共培養物のマイクロパターン化を併用することによって、例えば、肝細胞培養物における合成、代謝または解毒機能を含む、特定の生理機能のために(対象とする機能に応じて)組織培養を最適化する。
【0087】
本開示の方法を実施する際、通常、細胞は哺乳動物細胞であるが、その細胞は異なる2種に由来してもよい(例えば、ブタ、ヒト、ラット、マウスなど)。該細胞は初代細胞であっても該細胞は樹立細胞系に由来してもよい。本開示の方法およびシステムには基板に接着する任意の細胞型(例えば、実質細胞および/または間質細胞)を使用できるが、共培養物を作製するための細胞の例示的組合せには、限定することなく、(a) ヒト肝細胞(例えば、初代肝細胞)および線維芽細胞(例えば、正常細胞またはNIH 3T3-J2細胞などの形質転換細胞)、(b) 肝細胞および少なくとも他の1種の細胞型、特に、クッパー細胞、伊東細胞、内皮細胞、胆管細胞などの肝細胞、ならびに(c) 幹細胞(例えば、肝前駆細胞、卵細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞など)と、ヒト肝細胞および/または他の肝細胞と、間質細胞(例えば、線維芽細胞)が含まれる。肝細胞、肝細胞および肝前駆細胞の組合せ。
【0088】
別の態様では、ある種の細胞型は、固有の付着能を有するため、血清または外因性付着因子を添加する必要がない。細胞型の中には、帯電した細胞培養基板に付着するものもあれば、細胞表面タンパク質を介して、および細胞外マトリックス分子の分泌によって基板に付着するものもあろう。線維芽細胞は、こうした条件下で細胞培養基板に付着すると思われる一細胞型の例である。
【0089】
本開示の方法に有用な細胞は、市販源を含めた幾つもの供給源から入手できる。例えば、肝細胞は、ヒト肝臓の生検または剖検材料に適合できる従来法(Berry and Friend, 1969, J. Cell Biol. 43:506-520)により単離してもよい。通常の場合、門脈または門脈枝の中にカニューレを導入し、組織の色が薄くなるまで、肝臓をカルシウム非含有またはマグネシウム非含有緩衝液で潅流する。次いで、その臓器をコラゲナーゼ溶液などのタンパク分解酵素で適当な流速で潅流する。これにより、結合組織の構造が消化されるはずである。次いで、肝臓を緩衝液中で洗浄し、細胞を分散させる。細胞懸濁液を70μmナイロンメッシュでろ過することにより、屑を除き得る。肝細胞は、分画遠心分離を2〜3回行うことにより、細胞懸濁液から選択し得る。
【0090】
切除した個々のヒト肝葉を潅流するために、HEPES緩衝液を使用してもよい。HEPES緩衝液中でのコラゲナーゼの潅流は、約30ml/分の速度で実現し得る。単個細胞懸濁液は、37℃、15〜20分間コラゲナーゼと更にインキュベーションすることにより得られる。(Guguen-Guillouzo and Guillouzo, eds, 1986, "Isolated and Culture Hepatocytes" Paris, INSERM, and London, John Libbey Eurotext, pp.1-12; 1982, Cell Biol. Int. Rep. 6:625-628)。
【0091】
肝細胞は、多能性幹細胞または肝前駆細胞(即ち、肝細胞前駆細胞)の分化によっても得られる。単離した肝細胞は、次いで本明細書に記載の培養系に使用し得る。
【0092】
間質細胞には、例えば、本明細書に更に記載するような適当な供給源から得られる線維芽細胞が含まれる。あるいは、間質細胞を商業的供給源から得てもよいし、または当該分野で公知の方法を用いて多能性幹細胞から誘導してもよい。
【0093】
線維芽細胞は、線維芽細胞の供給源として役立てようとする適当な臓器または組織の解離によって、容易に単離し得る。これは、当業者に公知の技法を用いて容易になし得る。例えば、組織または臓器は、機械的に解離でき、ならびに/あるいは消化酵素および/またはキレート剤での処理により、隣接細胞間の結合を弱め、さしたる細胞破壊を起こさずに組織を個別細胞の懸濁液中に分散することを可能にすることができる。酵素的解離は、組織を細断し、細断組織を多種の消化酵素のいずれか単独または組合せで処理することにより、なし得る。こうした酵素には、それだけに限らないが、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、および/またはヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ、ディスパーゼなどが挙げられる。機械的破砕も、摩砕機、ブレンダー、篩、ホモジナイザー、圧力セルまたは超音波破砕器(insonator)を含むが、それだけに限らない多種の方法によってなし得る。組織解離技法の総説については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, ch. 9, pp. 107-126を参照されたい。
【0094】
組織を個別細胞の懸濁液に変えた後は、懸濁液を小集団に分別し、そこから線維芽細胞ならびに/あるいは他の間質細胞および/または構成要素を得ることができる。これも、標準的な細胞分離法を用いてなし得るが、その細胞分離法には、それだけに限らないが、特定の細胞型のクローニングおよび選択、不要細胞の選択的破壊(負の選択)、混合集団中の差別的な細胞凝集性に基づく分離、凍結融解操作、混合集団中の細胞の差別的な接着性、ろ過、従来型ゾーン遠心分離、遠心溶出(向流遠心分離)、ユニット重力分離、向流分配、電気泳動、蛍光活性化細胞分離などが挙げられる。クローン選択および細胞分離技法の総説については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 11 and 12, pp. 137-168を参照されたい。
【0095】
線維芽細胞の分離は、例えば以下のように実施することができる。即ち、新鮮な組織試料を徹底的に洗浄し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で細断して血清を除く。細断組織をトリプシンなどの解離酵素の調製直後の溶液中で1〜12時間インキュベートする。このようなインキュベーションの後、解離細胞を懸濁し、遠心分離によりペレット化し、培養皿上に播種する。全ての線維芽細胞は、他の細胞に先んじて付着すると見込まれ、したがって適当な間質細胞を選択的に単離し、増殖させることができる。単離線維芽細胞は、次いで本開示の培養系中で使用することができる。
【0096】
限定するわけではないが、例えば、Larson等の方法(1987, Microvasc. Res. 34:184)に従って内皮細胞を脳の小血管から単離し、本開示のバイオリアクター系を用いてin vitroで培養することにより、その個数を増やすことができる。銀染色を用いて、小血管内皮に特有であり、この内皮の「障壁」機能と関係する密着結合複合体の存在を確認し得る。
【0097】
膵腺房細胞の懸濁液を、他の文献(Ruoff and Hay, 1979, Cell Tissue Res. 204:243-252およびHay, 1979, in, "Methodological Surveys in Biochemistry Vol. 8, Cell Populations." London, Ellis Hornwood, Ltd., pp.143-160)に記載の技法を適合させることによって調製してもよい。手短に言うと、組織を細断し、カルシウム、マグネシウム共に非含有の緩衝液中で洗浄する。細断組織断片をトリプシンおよびコラゲナーゼの溶液中でインキュベートする。解離細胞は、20μmナイロンメッシュを用いてろ過し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)などの適切な緩衝液中で再懸濁し、遠心分離によりペレット化し得る。生成した細胞ペレットは、最小限の量の適当な培地に再懸濁し、基板上に接種することにより、本開示のバイオリアクター系中で培養することができる。膵細胞は、線維芽細胞などの間質細胞と共に培養してもよい。腺房細胞は、チモーゲン液滴封入体に基づいて同定することができる。
【0098】
癌組織も、本開示の方法およびバイオリアクター培養系を用いて培養し得る。例えば、腺癌細胞は、腫瘍細胞をHBSS中で細断し、その細胞を0.27%トリプシン中で37℃、24時間インキュベートし、懸濁細胞をプラスチック製ペトリ皿上のDMEM完全培地中で37℃、12時間更にインキュベートすることによって、間質細胞から腺癌細胞を分離することにより得ることができる。間質細胞は、プラスチック皿に選択的に接着した。
【0099】
本開示の組織培養物およびバイオリアクターを用いて、細胞および組織の形態を調べることができる。例えば、培養系中の酵素および/または代謝活性を、普通の顕微鏡上で蛍光または分光測定によって遠隔的にモニターしてもよい。一態様では、液体/培地中の蛍光代謝物質の使用により、細胞は適当な条件下で(例えば、その代謝物質に作用するある種の酵素などを産生した際に)蛍光を発することになろう。あるいは、組換え細胞を培養系に使用することができ、それによりこのような細胞は、遺伝子改変を受けて、適当な条件下で(例えば、帯状分布時または特定の酸素濃度下に)治療性または診断性産物を産生するプロモーターまたはポリペプチドを含む。例えば、P450遺伝子(CYPIA1)上にGFP(緑色蛍光タンパク質)レポーターを含むように、肝細胞を操作してもよい。したがって、薬物がそのプロモーターを活性化すれば、組換え細胞は蛍光を発する。これは、P450のアップレギュレーションにより起こる薬物間相互作用を予測するのに有用である。
【0100】
上記した本発明の多様な技法、方法および態様は、コンピュータ準拠システムおよび方法を用いて部分的または全般的に実施することができる。コンピュータ実施法は、細胞島状部を設計するためにリソグラフィー法で使用することができる。
【0101】
以下に示す実施例は、本発明を例示するのが目的であって、それを限定するためではない。こうした実施例で採用する科学的方法の様々なパラメーターは、以下で詳述され、本発明全般を実行するための指針を示す。
【0102】
こうした特定の実施例では、肝細胞が線維芽細胞と共培養される。同様な方法を用いて、細胞の他の組合せを共培養することができる。これらの実験では、バイオリアクター系中で酸素を制御しながら1種または複数の細胞型を培養することによって、in vivoの相当細胞と表現型が類似の細胞、ならびにin vivoの組織と形態が類似の組織を得ることができることを実証する。本発明を以上で全般的に説明してきたが、本発明の更なる態様は、例示的であって限定的ではない以下の特定の開示から明らかであろう。
【実施例】
【0103】
コラーゲンのマイクロパターン化: 24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔(500μm〜1200μmの中心間間隔)を有する厚膜(約300μm)からなる、エラストマー性ポリジメチルシロキサン(PDMS)の型板用具は、Surface Logix, Inc (Brighton, MA)により提供された。先ず、型板用具は、組織培養用処理済みポリスチレンオムニトレイ(Nunc, Rochester, NY)に密封し(軽い加圧で)、次いで各ウェルをI型コラーゲン水溶液(100μg/mL)と37℃、1時間インキュベートした。ラット尾部の腱から得たコラーゲンの精製は、以前に記載されていた。各ウェル中の過剰コラーゲン溶液を吸引し、型板を外し、PDMS「ブランク」(型板膜のない24ウェル型枠)を取り付けた。コラーゲンパターン入りポリスチレンを2週間までの間4℃で乾燥保存した。幾つかの例では、リン酸緩衝塩水(PBS)中に20μg/mLで溶解したAlexa Fluor(登録商標)488カルボン酸スクシニミジルエステル(Invitrogen, Carlsbad, CA)とのインキュベーション(室温1時間)で、マイクロパターン化コラーゲンを蛍光で標識した。図6の実験のために、以前に記載されたような従来型フォトリソグラフィー技術を用いて、ガラス基板上に様々な寸法でコラーゲンをマイクロパターン化した。
【0104】
線維芽細胞培養: 3T3-J2線維芽細胞はHoward Green(Harvard Medical School)から頂いた。高グルコース含量、10%(v/v)子ウシ血清および1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンを含んだダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37℃、5%CO2で細胞を培養した。幾つかの例では、培地中の10μg/mLマイトマイシンC(Sigma, St. Louis, MO)との2時間のインキュベーションにより、線維芽細胞の増殖を停止させた。
【0105】
顕微鏡観察: デジタル画像取得用にSPOTデジタルカメラ(SPOT Diagnostic Equipment, Sterling Heights, MI)およびMetaMorph Image Analysis System (Universal Imaging, Westchester, PA)を装備したNikon Diaphot顕微鏡を用いて、標本を観察し、記録した。
【0106】
遺伝子発現プロファイル作成: マイクロパターン化肝細胞-線維芽細胞共培養物をリン酸緩衝塩水(PBS)で3回洗浄することにより、痕跡量の血清を除いた後、0.05%トリプシン/EDTA(Invitrogen)で37℃、3分間処理した。線維芽細胞は、マイクロパターン化後に集塊(500μm)となって配置した肝細胞と比べ、トリプシン媒介剥離に対してはるかに高い感受性を示した。トリプシンとのインキュベーション後、プレートを軽く振とうして付着の緩い線維芽細胞を除き、上清を吸引し、付着肝細胞(純度約95%)を血清添加肝細胞培地で3回洗浄することにより、トリプシンを中和し、その痕跡量を培養物から除いた。肝細胞RNAをTRIzol(Invitrogen)で抽出し、RNeasyキット(Qiagen)を用い、製造業者の使用説明書に従って精製した。そのRNAを標識し、Affymetrix(Santa Clara, CA)のHuman U133 Plus 2.0 Arrayにハイブリッドを形成し、以前に記載のようにスキャンした。手短に言うと、T7-(dt)24プライマー(オリゴ)を用いて二本鎖cDNAを合成した後、逆転写(Invitrogen)cDNAをPhase Lock Gel中、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで精製し、酢酸アンモニウムで抽出し、エタノールを用いて沈殿させた。ビオチン標識cRNAは、BioArrayTM HighYieldTM RNA Transcript Labeling Kitを用いて合成し、RNeasyカラム(Qiagen)上で精製し、溶出し、次いで断片化した。発現データの品質は、低バックグラウンド値、3'/5'アクチンとGAPDH(グリセリルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)との比2未満などの規準を含む、製造業者の使用説明書を用いて評価した。発現データは全て、GCOS(GeneChip Operating System v1.2)にインポートし、条件間の比較を可能にするために、2500の目標強度に規模を合わせた。
【0107】
第I相および第II相酵素活性アッセイ: 薬品として、Sigmaからクマリン(CM)、7-ヒドロキシクマリン(7-HC)、エトキシレゾルフィン(ER)、レゾルフィン(RR)、ケトコナゾール(KC)、サルファフェナゾール(SP)、メトキサレン(MS)、サリチルアミド(SC)を購入し、またはBD-Gentestから7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(MFC)、7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(BFC)、7-ヒドロキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(7-HFC)を購入した。培養物は、フェノールレッドを含まないDMEM中に溶解した基質(CM、MFC、BFCを50μM、ERを8μM、7-HCを100μM)と共に37℃、1時間インキュベートした。阻害試験に対しては、培養物を特定の阻害剤(CMとはMSを25μM、MFCとはSPを50μM、BFCとはKCを50μM、7-HCとはSCを3mM)の存在下で基質と共にインキュベートした。反応はインキュベーション培地の採集により停止した。次いで、第II相活性により形成される潜在的な代謝物質抱合体を、上清のβ-グルクロニダーゼ/アリールスルファターゼ(Roche, IN)との37℃、2時間のインキュベーションによって加水分解した。試料をクエンチ溶液中で1:1に希釈し、他所で詳述されているように、蛍光マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)によって代謝物質の蛍光形成を定量した。CMからの7-HCの産生は、ヒトにおけるCYP2A6で媒介される反応(CM 7-ヒドロキシル化)であり、BFCまたはMFCからの7-HFCの産生(脱アルキル化)は、数種のCYP450で媒介され、ERからのRRの産生(ER O脱アルキル化)は、CYP1A2で媒介される。7-HCのグルクロン酸基および硫酸基との抱合は、第II相酵素のUPD-グルクロニルトランスフェラーゼおよびスルホトランスフェラーゼにより各々媒介される。
【0108】
肝細胞の単離および培養: 初代ラット肝細胞は、体重180〜200gの2〜3月齢成体雌ルイスラット(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)から単離した。ラット肝細胞の単離および精製の詳細な手順は、以前に記載されていた。ごく普通には、2〜3億個の細胞が生存率85〜95%、純度>99%で単離された。肝細胞培地は、高グルコース含量、10%(v/v)ウシ胎児血清、0.5U/mLインスリン、7ng/mLグルカゴン、7.5μg/mLハイドロコーチゾンおよび1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなっていた。初代ヒト肝細胞は、米国内で調達したヒト臓器由来の製品販売を連邦指定の臓器調達機関により許可された販売業者から、懸濁液として購入した。肝細胞販売業者には、In vitro Technologies (Baltimore, MD)、Cambrex Biosciences (Walkersville, MD)、 BD Gentest (Woburn, MA)、ADMET Technologies (Durham, NC)、CellzDirect (Pittsboro, NC)およびTissue Transformation Technologies (Edison, NJ)が含まれていた。全ての作業は、COUHES(実験用ヒト対象物の使用に関する委員会)の認可を得て行った。受領後、50xg、5分間(4℃)の遠心分離によりヒト肝細胞をペレット化した。上清を廃棄し、細胞を肝細胞培地中に再懸濁し、生存率をトリパンブルー排除を用いて評価した(70〜90%)。
【0109】
肝細胞-線維芽細胞共培養物: マイクロパターン化共培養物を創製するために、コラーゲンパターン入り基板上に無血清肝細胞培地中の肝細胞を播種し、選択的細胞接着により肝細胞パターンを作製した。細胞を2時間後に培地で洗浄することにより、非付着細胞を除いた後、血清添加肝細胞培地と共に一晩インキュベートした。12〜24時間後に、3T3-J2線維芽細胞を血清添加線維芽細胞培地に播種することにより、共培養物を創製した。線維芽細胞の播種から24時間後に、培地を肝細胞培地に取り替え、その後毎日取り替えた。ランダム分布培養物については、コラーゲンを均一に被覆した基板(ガラスまたはポリスチレン)上に血清添加肝細胞培地中の肝細胞を播種した。幾つかの例では、培地中に5μg/mLで溶解したCalcein-AM(Invitrogen)で、インキュベーション(37℃、1時間)を介して肝細胞を蛍光標識した。線維芽細胞は、製造業者の使用説明書に従ってCellTracker(Orange CMTMR, Invitrogen)で蛍光標識した。
【0110】
一態様では、図5A〜Bに描いたようなバイオリアクターを、バイオリアクター中のアセトメタフェンに対する用量反応の分析により検証した。該装置に肝細胞およびJ2-3T3線維芽細胞を播種し、静置培養条件下で5日間安定化させた。次に、該装置を潅流回路中に組み込み、バイオリアクター8個の各々を、微小流体希釈樹(図5に示すような)により生成したアセトメタフェンの異なる濃度に曝した。アセトメタフェンに曝してから1日後、生存率をMTT色素で評価し、強度を各バイオリアクターにおいて測定し、アセトメタフェンのバイオリアクター濃度の関数としてプロットした。こうした潅流試験に対して、TD50は13mMであると決定したが、それは、大型平板バイオリアクターで見出したものと同じ値である。以上の実験は21%酸素下で行ったが、次の段階は異なる酸素圧下で以上の実験を繰り返すことである。酸素の二層供給は、ルテニウム被覆基板(ルテニウムの蛍光は酸素濃度と相関する)を用いる酸素濃度の測定により実験的に、および潅流を拡散と結合する多重物理モデルの開発により理論的に検証した。その上、細胞内のアルブミンおよび核染色で示されるように、蛍光染色をバイオリアクター中で行うことができる。
【0111】
生化学アッセイ: 使用済み培地は-20℃で保存した。尿素濃度は、酸および熱によるジアセチルモノオキシムを利用した比色エンドポイントアッセイを用いてアッセイした(Stanbio Labs, Boerne, TX)。アルブミン含量は、西洋ワサビペルオキシダーゼによる検出および基質として3,3',5,5''-テトラメチルベンジジン(TMB, Fitzgerald Industries, Concord, MA)を用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(MP Biomedicals, Irvine, CA)を使用して測定した。
【0112】
シトクロームP450誘導: 原型CYP450誘導剤(Sigma)のストック溶液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で作製したが、例外としてフェノバルビタールは水中に溶解した。肝細胞培地中に溶解した誘導剤(リファンピン25μM、β-ナフトフラボン30μMまたは50μM、フェノバルビタール1mM、オメプラゾール50μM)で4日間、培養物を処理した。誘導倍率を計算するために、対照培養物をビヒクル(DMSO)だけで処理した。誘導剤間の比較を可能とするために、DMSO量は、全条件に対して0.06%(v/v)の一定に維持した。
【0113】
毒性アッセイ: 培養物を培地中に溶解した様々な濃度の化合物と、24時間(急性毒性)または長期間(慢性毒性、1〜4日間)インキュベートした。その後、細胞の生存率をMTT(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム、Sigma)アッセイで測定したが、このアッセイではミトコンドリアの脱水素酵素によるテトラゾリウム環の解裂により、紫色沈殿が形成される。MTTは、フェノールレッドを含まないDMEM中の細胞に0.5mg/mLの濃度で添加した。インキュベーション時間の1時間後、紫色沈殿をDMSOおよびイソプロパノールの1:1溶液中に溶解した。その溶液の吸光度を570nmで測定した(SpectraMax分光光度計、Molecular Devices, Sunnyvale, CA)。
【0114】
統計分析: 実験は、各条件に対して二重または三重の試料を用いて少なくとも2〜3回繰り返した。代表的な実験からのデータを提示しているが、同様な傾向は多数回の試験でも認められた。エラーバーは全て、平均値の標準誤差を表す。
【0115】
更に、誘導しない場合、CYP2B、CYP3Aの両タンパク質が、静置培養条件下の検出不能なタンパク質と対比して、潅流48時間後に、識別可能な空間的不均一が殆どなしに低濃度で存在していた。次に、フェノバルビタール(PB)による静置培養物の同一期間に亘る誘導によって、中度のCYP2B発現と低濃度のCYP3Aが生成した。対照に対する両CYPの劇的な発現は、培養物をPBで潅流してほんの36時間後に認められた。CYP2Bの発現は全領域で増加したが、その濃度は低酸素の排出口領域で最高であった。同様に、CYP3Aタンパク質は、導入口から排出口へと発現量の増加を示した。上皮成長因子(EGF)によるPB誘導CYP2B発現の抑制を示した以前の試験に基づいて、2nMのEGFを潅流培地に添加した。200μMのPB用量では、EGFは、チャンバーの長さに沿ったCYP2B濃度の有意な変化を起こさなかったが、最大濃度は排出口領域で認められた。PBおよびEGFに反応するCYP3A濃度も、PB単独潅流と殆ど差異を示さず、排出口で最大の発現を示した。
【0116】
この潅流系でCYPの誘導剤としてデキサメタゾン(DEX)を評価するためにも、実験を行った。DEXはCYP2Bを高濃度に誘導し、それは培養の導入口領域に局在していた。CYP3Aについては、誘導は大体均一であったが、排出口領域には検出されなかった。DEX潅流培養物にEGFを添加した場合、CYP2Bの空間分布に有意な移動が導入口領域から排出口へと認められた。CYP3Aの誘導は、DEXおよびEGFに反応して均一のままであったが、培養の全領域に亘って拡がった。
【0117】
肝細胞培養物および共培養物に対するアセトアミノフェン(APAP)の急性毒性作用を評価した(図7および8、APAPの静的毒性用量反応)。MTTで評価した生存率は用量依存的に減少し、24時間後の40mM APAPで、肝細胞単独では生存率が5%に減少し、共培養では28%に減少した。これらのデータから、APAPの用量範囲0〜20mMがバイオリアクター培養で中度の毒性を生じることが示唆された。図9は、様々な濃度のAPAPで24時間潅流した後、MTTと共にインキュベートしたバイオリアクター培養の全長(約5.6cm)の画像を示す。紫色沈殿の存在および強度は、細胞生存率に比例する。対照(中度の減少)および20mM(染色せず)と比較した際、APAPの用量15mMで導入口から排出口領域まで染色が劇的に減少することは、注目に値する。
【0118】
生存率の領域変化を更に定量するために、培養物の長さに沿って低倍率(40x)で明視野画像を取得し、平均光学密度を測定した(図9)。対照条件下では、生存率は導入口から排出口へと30%減少した。しかし、10mM APAPでは、毒性が培養物全体に亘りもっと均一であったが、対照の平均生存率の80%に減少した。15mM APAPを投与すると、排出口領域で最大の毒性を示し、導入口領域から70%減少した。最高用量の20mMでは、毒性はほぼ完全であった。
【0119】
薬物およびステロイドの第I相生体変換を担うCYPスーパーファミリーの多数の構成酵素は、in vivoで帯状パターンに発現される。通常および誘導の両条件下でのCYPの副中心局在化の決定因子には、酸素、栄養素およびホルモンの各勾配が含まれる。バイオリアクター培養でこれらの動的勾配を再現すると、in vivoで見出されるものを模倣したCYP2B、CYP3A双方の空間的分布が生じた。その上、200μM PBに対する反応で静置培養を凌ぐタンパク質濃度の劇的増加が示すように、CYP誘導は、リアクターの潅流微小環境により強化された。以前の試験によれば、EGFのPB誘導に対する抑制作用は、酸素により調節されることが実証された。
【0120】
本試験においてPBと共にEGFを添加しても、CYP2Bの空間的パターンに有意な変化はなかったが、DEXとの共用では、EGFは、導入口から排出口へと最大CYP2B発現を移動させた。CYP3A発現でも程度は弱まるものの認められるこの移動作用は、EGF勾配の形成に起因し得るものであり、したがって、成長因子およびホルモンの動的勾配がCYPの帯状分布を調節する様子を示している。
【0121】
APAP肝毒性の提案された機構では、反応性中間体NAPQIが形成され、それが細胞内構造のフリーラジカル損傷を開始する。この試験における毒性作用は、NAPQIを保護的に不活性化するグルタチオンの激減に起因するようである。APAPのin vivo毒性の副中心局在化は、CYPイソ酵素2E1および3Aの局所発現に起因するとされたが、小葉中心領域における利用可能な酸素量の低下も、ATPおよびグルタチオンを激減させることにより、または反応性種による損傷を増加させることにより寄与し得る。こうした因子が重なって、動的酸素勾配下でのリアクター培養中に認められた領域毒性を生じたのであろう。帯状毒性のin vitroでの実証によって、急性APAP毒性に対するCYP生体活性化およびグルタチオン濃度の各効果を分離することができる。
【0122】
更に、本システムにより、エタノールやN-アセチルシステインなどの臨床的に重要な多様な化合物の作用、およびAPAP毒性に対するそれら個々の悪化作用または保護作用の解明をし得る。
【0123】
データにより実証されたように、酸素勾配をラット肝細胞の培養に適用して、肝臓帯状分布のin vitroモデルを開発した。形態および膜完全性の蛍光マーカーが示すように、細胞は、生存率を低下させずに、正常酸素状態から低酸素状態に亘る酸素条件を受けた。酸素勾配に曝された肝細胞は、PEPCK(主に上流)およびCYP2B(主に下流)のタンパク質濃度により示されるように、誘導時にin vivo帯状分布の特性を示した。肝臓帯状分布のこのin vitroモデルを用いて、代謝および解毒機能の不均一分布を担っていると考えられる、肝洞様毛細血管に見られる微小環境条件を再現することができる。
【0124】
細胞播種条件および細胞高さは、流れ場の均一性を確保するために、バイオリアクター系内で均一に維持することができる。本明細書における実施例で行ったバイオリアクター実験は、通常、せん断応力1.25dyne/cm2に相当する流量0.5mL/分で行ったが、検証実験で用いたより高い流量では、7.5dyne/cm2に近いより高い応力が存在していたとも思われる。
【0125】
ヒト共培養物における肝特異的機能は、同型および異型相互作用の変更により最適化することができる。フォトリソグラフィー式細胞パターン化法が、in vitroでの肝特異的機能の安定化における同型(肝細胞-肝細胞)および異型(肝細胞-線維芽細胞)細胞間相互作用の相対的役割を調べる、本発明により提供される(図10を参照されたい)。共培養物中のラット肝細胞の表現型機能に対する異型相互作用の役割を調べるために、図11に示した実験設計を用いたが、そこでは肝細胞島状部のサイズが、単一細胞島状部(36μm)から大型円形コロニー(17,800μm)まで変化する。この設計を用いて、異型界面が、画像解析による推定で大きさが3桁に亘り変化する共培養を行った。しかし、細胞集団間の比率ならびに総細胞数は、一定に維持した。それとは対照的に、従来の培養条件では、細胞間相互作用が、細胞数、細胞集団間の比率の双方に連動する播種密度によって変化する。期待した通り、肝機能(アルブミンおよび尿素分泌)は、肝細胞単独と比較して、全ての共培養配置においてアップレギュレーションされた。しかし、アップレギュレーションの程度はマイクロパターン化幾何形状と共に変化した。初期異型界面がより大きなラット共培養物(即ち、単一細胞島状部)は、最高レベルの肝特異的機能を示したが、島状部サイズが最大のパターン2種では僅かなアップレギュレーションしか見られなかった(図12を参照されたい)。小型パターン(<250μm)中の肝細胞は相当程度に交じり合ったが、大型島状部は相対的に安定な立体配置を取っていた(数週間ほど)。幾つかの空間配置に再編成する傾向があるものの、「初期」の細胞微小環境は、肝特異的機能に相当程度の長期作用を及ぼすことが判明した。
【0126】
ラット共培養物がマイクロパターン化を用いて機能的に最適化できることを示すデータにより、同様な最適化はヒト共培養物でも得ることができると仮定した。種間の結果を比較するために、同様なパターン幾何形状を用いてマイクロパターン化ヒト共培養物を評価した。従来の共培養物は、単一細胞島状部から大型集合体まで(ランダム共培養)の島状部サイズがランダムに変動する中に肝細胞を含有する。したがって、幅広い一連の島状部サイズのために、ランダムヒト共培養物における機能は、単一島状部(36μm)および大型島状部(4,800μm)のマイクロパターン化配置の中間的な水準になろうと予想された。しかし、マイクロパターン化ヒト共培養物(全ての配置)は、同様な細胞の比率および個数を含有するランダム分布対応物に比べ、再現性良く(数倍)高い成績を示す(図13を参照されたい)。このような差の根底をなす機構は未解明であるが、その結果は、高機能のin vitroヒト肝組織を得る上でマイクロパターン化が有利であることを示している。ラット共培養について以前に公表された試験では、肝細胞島状部サイズを減少させると同時に異型相互作用(肝細胞から線維芽細胞)を増大させると、肝機能が高まることが示された。ラット共培養物とは対照的に、ヒト共培養物では、同型(肝細胞から肝細胞)および異型相互作用の適切な均衡を有する、機能的に最適なマイクロパターン化配置(490μmの島状部)があるために、それは、異なる構造的依存性を示す。また、線維芽細胞なしにヒト肝細胞をマイクロパターン化しても、ランダムに播種した場合より高濃度のアルブミンおよび尿素が産生された。具体的には、純粋な肝細胞単層では、490μmおよび4800μmの島状部は、単一細胞アレイ(36μm)より高い機能をもたらした(図13の、ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化)。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダム播種培養より好成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、490/1230とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六角形配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す(しかし、当業者であれば、他のアレイ形状も使用し得ることを認識されよう)。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【0127】
このような傾向は、ヒト肝細胞の表現型安定化が、同型相互作用の程度が増加するにつれ、より効果的に起こることを示す文献と一貫している。ラット共培養の場合同様に、36μmのヒト肝細胞島状部は1日以内に再編成され、そのためパターンが消散した。しかし、大型島状部サイズ2種のマイクロパターンは、培養の持続期間(3週間)の間、完全な状態であった。したがって、「最適」なマイクロパターン化配置は、中心間間隔が1230μmであり、線維芽細胞と肝細胞との比率が3:1である、490μmの島状部と特定した。この最適な配置における肝細胞島状部の再編成は、培養期間に亘って最小限であるので、形態的および機能的変化に対する個々の島状部の実時間追跡は、特定のレポーター系(即ち、緑色蛍光タンパク質)を用いて行うことができる。
【0128】
生体異物の代謝および毒性の評価を目的とした、最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物の使用: 最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物が、候補薬物のスクリーニングにとって有効な肝臓モデルであることを実証するために、急性および慢性毒性アッセイを行った。急性毒性試験では、8日齢の共培養物を様々な薬物と24時間インキュベートしたが、その薬物の一部には臨床的な肝毒性が知られているものもあった。インキュベーション期間後、細胞培地を吸引し、生存率アッセイを行った(MTTアッセイ、市販されている)。図14の一部として、各薬物が、薬物非含有の対照共培養と比較して、生存率シグナルを50%低下させた濃度(LD50値)が示されている。認めることができるように、臨床薬および重金属毒素の塩化カドミウム(CdCl2)に対するLD50値には、量的な差がある。Tylenolの有効成分であるアセトアミノフェン(APAP)は、臨床的に汎用されており、非常に高い相対濃度(35mM)を別とすればin vitro系で無毒である。他方カドミウムは、強毒性金属であり、その様子がin vitroでも認めることができる。APAPと比較して強毒性であることが図示されているトログリタゾンは、2型糖尿病の治療薬として薬物Rezulin中の有効成分である。Rezulinは、肝臓障害に関係した死亡例のために、2000年3月に製造業者により自発的に市場から撤退した。
【0129】
現行のin vitroヒト肝臓モデルは、懸濁液中の肝細胞、またはコラーゲン上の単層に通常依拠している。肝細胞は付着依存性細胞であるため、「懸濁液中の細胞」モデルは2〜3時間しか生存できず、一方、純粋な肝細胞単層は、通常24時間以内に生命力および肝特異的機能を失う。したがって、低用量の薬物と共に数日間または数週間、細胞を繰り返しインキュベートする慢性毒性アッセイは、現行の肝臓モデル系では行うことができない。最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物は、ごく普通に3週間持続するので、慢性毒性試験を行うことができる。図7には、ヒト共培養物を24時間毎に数日間、繰り返しアセトアミノフェンとインキュベートした際の該培養物における慢性毒性が示されている。認めることができるように、共培養物の生存率は、時間の関数として有意に低下する。2D系の特別な一利点は、複雑な3D系と比較して、細胞形態を容易にモニターすることができることである。30mM APAPとインキュベーションをほんの24時間した後の肝細胞形態は、肝細胞が正常に見える薬物非含有対照と比較したとき、激しい変化を示す(図7)。形態が著しく変化していても、30mM APAPとのインキュベーションに対する生存率は90%に近い。したがって、細胞形態は、薬物による毒性または不要な細胞変化のさらなる指針として役立つことができる。
【0130】
毒性試験以外に、CYP450酵素の誘導および阻害は、新薬候補のin vitro試験中に極めてよく見られる。図15で認めることができるように、市販の蛍光基質(BD Gentest)を用いて、最適化したマイクロパターン化ヒト共培養物における特異的CYP450酵素の誘導および阻害を示した。具体的には、主要ヒトCYP450の3種であるCYP3A4、1A2および2C9に対して試験を行い、7-ベンジルオキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン (BFC)、7-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン(MFC)、およびエトキシレゾルフィンを各々基質として用いた。BFC、MFCの両者は、CYP450酵素によって、蛍光化合物であり、その蛍光が蛍光計を用いて定量できる7-ヒドロキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン (HFC)へと特異的に切断される。エトキシレゾルフィンは、CYP1A2によって蛍光性レゾルフィンへと切断される。細胞内の特異的CYP450量をアップレギュレーションするために、細胞培地中の典型的誘導剤(3A4および2C9に対するリファンピンと、1A2に対するβ-ナフトフラボン)で共培養物を72時間処理した。次いで、誘導剤を除き、細胞を基質と共に30分間〜1時間インキュベートした。阻害アッセイについては、誘導した共培養物を基質と、対象とする各CYP450に対する既知の特異的阻害剤(即ち、ケトコナゾールはCYP3A4を阻害する)と共にインキュベートした。認めることができるように、誘導および阻害は、全ての試験薬物について有効であったので、主要なCYP450酵素が共培養物中で活性であることが示唆される。
【0131】
現行のin vitro肝臓モデルが直面する主要な問題の1つは、重要な肝特異的遺伝子の発現量(RNA)が急速(数時間)に低下することである。したがって、最適化したマイクロパターン化共培養物における重要な肝特異的遺伝子の発現量を、数日間の培養後、従来の純粋肝細胞単層における発現量と比較した。DNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip)を用いて得たデータの示すところでは、図16に示すように、最適化したマイクロパターン化共培養のヒト肝細胞では、コラーゲン上の純粋肝細胞と比較して、培養6日目でも第I相および第II相薬物代謝の多くの重要な遺伝子の発現量が相対的に高い。共培養物から精製された肝細胞を得るために、0.05%トリプシン/EDTAを用いて基板から線維芽細胞を選択的に脱着した。このような選択的放出によって、GeneChip分析で90%強の肝細胞純度が得られた。
【0132】
間質細胞との共培養時にげっ歯類肝細胞の機能を操作するために、フォトリソグラフィー技術を用いる際、業界標準の多重ウェルフォーマット中でヒト肝組織を小型化し、その特性を決定するためのエラストマー型板を利用する微細技術準拠プロセスを使用した。この手法には、「軟質リソグラフィー法」、即ち微細加工構造の再使用可能なエラストマー性ポリマー(ポリジメチルシロキサン-PDMS)の型枠を利用することにより、フォトリソグラフィー技術の限界を克服する1組の技法が組み込まれている。一態様では、本発明は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する、厚さ300μmの膜からなるPDMS型板を用いるプロセスを提供する(図13a)。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、その集成体をポリスチレンプレートに相対して密封した。I型コラーゲンを露出ポリスチレンに物理吸着させ、型板を外し、24ウェルPDMS「ブランク」を当てた。ヒト肝細胞をコラーゲンドメインに選択的に接着した後、それを支持的なマウス3T3-J2線維芽細胞で取り囲むことにより、共培養物を「マイクロパターン化」した。貫通孔のサイズによって、コラーゲンドメインのサイズ、したがって微小規模組織中における同型(肝細胞/肝細胞)および異型(肝細胞/間質細胞)相互作用の均衡が決定された。
【0133】
コラーゲン島状部の直径は、数桁に亘り変化した。肝細胞の集合化によって、非組織化共培養物と比較して、肝特異的機能が一貫して改善された(図6)。更に、肝細胞機能は、約1200μmの間隔を有する約500μmの島状部を含んだ配置に対して最大となった。こうした知見は、3T3線維芽細胞が両種に亘って肝細胞機能を安定化することができたので、げっ歯類データと矛盾していない。しかし、ヒト肝細胞は、ラット肝細胞より同型相互作用に対する依存性が高かった。したがって、本発明で開発され、その特性が決定された微小規模ヒト肝組織は、各ウェルが、直径500μmの37コロニー中に組織化された約10,000肝細胞を収容し、プレート1枚当たり合計で反復肝微小構造888個のための24ウェルプレートに相当する(図3b)。
【0134】
微小規模ヒト肝組織の安定性を定性的に評価するために、肝細胞形態および微小規模組織化の持続性をモニターし、それらが培養の持続期間、通常3〜6週の間維持されることが判明した(図3c)。肝特異的機能の安定性を定量的に評価するために、アルブミンおよび尿素の分泌量を測定した。両マーカーは、このプラットホーム中で数週間安定であった(図17a〜b)が、組織化されていない純粋な肝細胞培養物では単調減少を確認した(図18)。より全体的な見通しを得るために、1週齢微小規模組織(6日目)からのヒト肝細胞に関して、選択的トリプシン処理で線維芽細胞を除くことにより遺伝子発現のプロファイルを作成した(純度約95%、補足的方法をオンラインで参照されたい)。共培養物からの精製された肝細胞RNAの入手性は、マイクロパターン化による集合化によって強化され、ゲノム応用にとって有利である(例えば、毒性ゲノミクス)。比較のために、「中心的基準」と見なされる新鮮な非組織化純粋肝細胞(1日目の播種から12時間後)、および6日目の非組織化純粋肝細胞の遺伝子発現を、肝特異的機能が低下するものと特徴づけた。散布図の全体的比較の結果、最小二乗線形適合の勾配(0.96)で評価した場合、1週齢微小規模組織からの肝細胞における遺伝子発現強度は、1日目の純粋肝細胞における強度と類似していることが判明した(図17c)。更に、微小規模組織からの肝細胞における第II相代謝遺伝子は、1日目の純粋肝細胞における対応遺伝子と同程度に発現された(図17d)。シトクロームP450(CYP450)遺伝子の発現は、純粋肝細胞では6日目までに有意にダウンレギュレートされたが、プラットホーム中の肝細胞は発現を高水準に保持していた(図17e)。同様な傾向は、糖新生、薬物輸送物質、凝固因子、細胞表面受容体などの肝特異的機能の多様な経路からの遺伝子に対しても認められた(図17f)。
【0135】
微小規模ヒト肝組織の薬物代謝試験に対する有用性を評価するために、CYP450活性、薬物間相互作用および第II相代謝の特徴を明らかにした。CYP450活性は、蛍光性基質を用いて評価し、未処理の微小規模組織中に保持されていることが判明した(図17g)。このような「基準」活性は、毒性の代謝媒介機構の評価に肝要である。特異的CYP450酵素に対する競合は、阻害剤で処理した際の基質代謝の減少で示されるように、プラットホーム中に維持されていた。第II相活性(グルクロナイド化/硫酸化)、および原型化合物によるその阻害も、7-ヒドロキシクマリンの抱合により決定した場合、保持されていた(図17h)。
【0136】
微小規模ヒト肝組織の毒性アッセイに対する有用性を評価するために、モデル肝毒素の急性および慢性毒性を定量した。化合物の特性は、24時間曝露後にミトコンドリア活性の50%減少を起こす濃度として定義されるTC50により決定した(図19a)。人間における相対毒性は、これらの化合物の相対肝毒性に対応した。例えば、トログリタゾン(肝毒性のために撤退した経口血糖降下薬)のTC50は、アセトアミノフェン(市販鎮痛剤)より2桁低かった。トログリタゾン、およびFDA認可の類縁体であるロジグリタゾン、ピオグリタゾンなどの同一部類に入る化合物の相対毒性は、臨床報告にも対応していたことは重要である。確立された毒性機構は、プラットホームにおける毒性プロファイルからも推測できよう。例えば、カドミウムは相対的に線形の毒性プロファイルを示したが、アセトアミノフェンは、グルタチオンの激減と一貫した毒性の「肩」を示した(図18)。数週間に亘り安定な肝組織の確立は、反復曝露による慢性毒性の評価に非常に重要である。図19bにおいて、本発明では、アセトアミノフェンの用量および時間依存性毒性を示す。24時間では致死的でない濃度のために、曝露を持続した後には多大な細胞死が起こった。更に、細胞死の前に形態変化が容易に認められたので、明らかな細胞死に必要な濃度より低い濃度で亜致死毒性を検出する可能性が得られた。
【0137】
微小規模ヒト肝組織におけるCYP450活性の誘導が、原型誘導剤および蛍光基質を用いて実証された(図19c)。例えば、CYP2A6の誘導は、リファンピンおよびフェノバルビタールで処理した際に認められたが、オメプラゾールおよびβ-ナフトフラボンの作用はそれより弱く、文献と一致していた。CYP1A2の誘導については、逆の傾向が見られた。CYP450活性の調節は、化合物への曝露の用量および時間に依存する。図18では、β-ナフトフラボンは、プラットホームにおいて用量および時間依存的にCYP1A2活性を誘導することが示されるが、メトキサレンは、CYP2A6活性の用量依存的阻害を示す。更に、種特異的な誘導の差異が、ヒトおよびラットの微小規模肝組織の反応を比較することによって実証された。ラットCYP1A22よりヒトCYP1A2の有効な誘導剤であると報告されているオメプラゾールは、ラットモデルよりヒトモデルにおいて8倍有効であった(図19d)。
【0138】
本発明のプラットホームの有利な特徴は、肝または非肝由来の多様な間質細胞を用いて、肝細胞コロニー/島状部を取り囲むことによりマイクロパターン化組織を形成できるため、そのモジュール式設計である。3T3線維芽細胞は、入手が容易なこと、増殖し易いこと、およびこの不死化細胞系が高度の肝特異的機能を誘導できることを示す証拠のために、選定した。それにもかかわらず、プラットホームの多能性を示すために、マイクロパターン化ヒト肝細胞とヒト肝臓の非実質画分との共培養でも、肝細胞機能の安定化が実証された。更に、型板を用いて2ヶ月余り機能を維持するラット肝臓の共培養モデルを創出し、数百もの同一のげっ歯類肝組織に関して慢性試験の実施を可能としたため、動物間の変動性から生じるノイズが減少した(図20)。
【0139】
本発明の示すところでは、ヒト肝細胞のマイクロパターン化集合体は、対応するランダム分散細胞より数倍の性能を示したが、この結果は、コンフルエント肝細胞培養物が、部分的にはカドヘリン相互作用のために、希薄培養物より良好に肝特異的機能を保持するとの報告と一致している。非実質細胞のその後の導入によって、肝細胞機能および肝組織の寿命が更に増強された。したがって、本明細書に記載の微小規模プラットホームは、同様な多重ウェルフォーマット中の従来型純粋単層と比べ、1桁少ない肝細胞(10K対200K)を使用し、長い期間(数週対数日)表現型機能を維持する。ヒト肝細胞の高価格(約80ドル/百万個)を考慮すれば、このような利点は相当なコスト削減となる。このプラットホームは、複数の年齢層、性別および病歴のドナー(表1)に亘る、新鮮肝細胞における肝特異的機能の誘導を示す。該培養物は、短期培養物に対して現在広く利用されているものと同様に、首尾良好に凍結保存することができ、したがって需要に応じて微小規模肝組織を生成する可能性が得られた。
【表1】
【0140】
肝組織の他の幾つかのin vitroモデルが提案されてきた。特に、連続的に潅流されるものもある、多層または球状型の「3D」肝細胞組織が報告されてきた。肝臓自体は、通常、細胞1個の厚さを有する平坦な吻合「板」から構成されるので、多くのADME/Tox用途に対しては肝臓の二次元(単層)プラットホームで満足し得る。更に、単層系(コンフルエント単層、コラーゲンサンドイッチまたはMatrigelオーバーレイ)は、業界13、14で依然として最も汎用的なプラットホームであるので、本明細書に提案した微小規模組織は、ロボット液体操作、in situ 顕微鏡観察、および比色/蛍光プレートリーダーアッセイを含む現行の実験手順に合わせて作製することができる。
【0141】
本発明の多数の実施形態についてこれまで記述してきた。しかし、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに多様な改変をなし得ることは理解されよう。したがって、他の実施形態も前述の特許請求の範囲内に入る。
【0142】
以下、様々な図面における類似の参照記号は、類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】in vivo微小環境から単離すると、肝細胞は、生命力と、アルブミン分泌、尿素合成、シトクロームP450活性などの重要な肝特異的機能とを急速に失うことを示す図である。コラーゲン被覆皿上での培養で1週間後、肝細胞は線維芽細胞的形態を示す。他方、単離直後の肝細胞は、明確な核および核小体と、明るい細胞間境界(毛細胆管)とを有する多角形形態を示す。
【図2】コラーゲン被覆表面上での肝細胞とJ2-3T3線維芽細胞との共培養を示す図である。アルブミン分泌などの肝機能(ならびにP450活性)は、共培養でアップレギュレーションされているが、純粋培養では低下し、肝細胞は生命力を失っている。共培養物中の機能的に安定な肝細胞は、分離直後の肝細胞に通常認められる多角形形態、明確な核および核小体、ならびに可視的な毛細胆管を維持している。
【図3A】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。各工程で撮った顕微鏡写真と共に示した方法の概略図。再使用可能なPDMS型板(stencil)は、24ウェル型枠中の各ウェルの底に貫通孔を有する膜からなるのが分かる。全てのウェルを同時にマイクロパターン化するために、乾燥条件下で培養基板にその用具を密封する。ポリスチレン製オムニトレイ(omni-tray)に密封した用具(スケールバーは2cmを表す)の写真が、型板薄膜の電子顕微鏡写真と共に見える。各ウェルを細胞外マトリックスタンパク質の溶液とインキュベートすることにより、貫通孔を通してタンパク質を基板に吸着させる。次いで、型板を剥ぎ取ると、基板上にECMタンパク質のマイクロパターンが残る(蛍光標識したコラーゲンパターンが示されている)。次いで、膜のない24ウェルPDMS「ブランク」をそのプレートに密封した後、細胞を播種する。初代肝細胞はマトリックス被覆ドメインに選択的に接着するため、支持的な非実質細胞を血清添加培地中、残存裸出領域の中へ播種することができる(肝細胞は緑色に、線維芽細胞は橙色に標識しており、スケールバーは500μmである)。
【図3B】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。MTTで紫色に染色した肝微小構造が反復する(各ウェル中に直径500μmの37コロニー) 24ウェル用具の写真(拡大のためのスケールバーは2cmおよび1cm)。
【図3C】多重ウェルフォーマット中に微小規模の肝組織を作製する軟質リソグラフィー法を示す図である。最適なマイクロパターン化ヒト型共培養物の位相差顕微鏡写真。初代ヒト肝細胞は、中心間間隔が約1200μmのコラーゲン被覆島状部約500μm中に空間的に配置され、マウス胚性3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている。画像は、経時的なパターン忠実度を示し、肝細胞の形態的特徴には毛細胆管が含まれる(スケールバーは、左から右へ500μm、500μmおよび100μmである)。
【図4】本開示のバイオリアクターシステムを示す概略図である。
【図5】ハイスループットマイクロバイオリアクターアレイの概略図である。(A) 最下段のパネル図は、各々マイクロバイオリアクター5個のモジュール10個中にあるマイクロバイオリアクター50個のアレイを示す。モジュールは、2つの線列孔を有する4インチガラスウェーハ上に配置されている。リアクターは、コラーゲンでマイクロパターン化された下地ガラス表面、および潅流液の流れを閉じ込めるシリコン「蓋」により形成される。各モジュールには、単一の流入口および単一の流出口がある。中段のパネル図は、1個のモジュールにあり、共通の流入口および流出口を有するマイクロバイオリアクター5個のうち3個を示す。最上段のパネル図は、各マイクロバイオリアクター中に整列した肝細胞および線維芽細胞のマイクロパターン化共培養を示す。(B) は、バイオリアクターの更なる概略図および実施形態を示す。
【図6A】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。コラーゲン被覆ポリスチレン上にランダムに分布した、純粋単層培養と、3T3-J2マウス胚性線維芽細胞との共培養における、ヒト肝細胞によるアルブミン分泌(肝特異的タンパク質の合成用マーカー)の速度。他の数種の機能(即ち、尿素分泌、シトクロームP450活性)も、不安定な純粋単層と比較して、肝細胞/3T3共培養中では安定化した。肝細胞は、純粋培養中では「線維芽細胞的」形態を取るが、共培養中ではin vivoで通常認められるような、多角形形状(矢印)、明確な核、および可視的な毛細胆管を維持している(スケールバーは100μmを表す)。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図6B】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。微細加工技術を用いたヒト肝細胞/3T3共培養の機能的最適化。初代ヒト肝細胞は、フォトリソグラフィー技術を用いた所定寸法のコラーゲン被覆島状部上に空間的に組織化され、次いで肝細胞が付着、伸展してから24時間後に3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれた。各配置に対する島状部サイズ(36、490、4800μm)および島状部相互の中心間間隔(例えば、36μmの島状部に対しては90μm)は、全細胞数および細胞型2種の比率が一定となるように選択した。寸法は、初代ラット肝細胞を用いた以前の研究との比較もできるように選定した。コラーゲン上のランダム分布共培養対照(「ランダム」)も、比較できるように生成した。マイクロパターン化ヒト肝細胞/3T3共培養について、2週間に亘る累積的な肝特異的機能を比較している。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図6C】ヒト肝細胞の培養物および共培養物のマイクロパターン化による機能的最適化を示す図である。マイクロパターン化しているが、「マイクロパターン化純粋培養」中で線維芽細胞に取り囲まれていなかった肝細胞。肝特異的機能を比較した。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図7】マイクロパターン化ヒト型共培養物を用いた慢性毒性テストを示す図である。アセトアミノフェン(30mM)とのインキュベーションで時間間隔を延長した場合の共培養物の生存率減少。示した顕微鏡写真は、薬物の有無による肝細胞形態を示す。
【図8】様々な濃度のAPAPに24時間曝した後で、MTTで評価した場合の共培養物および肝細胞単独培養物の生存率を示す図である。
【図9】表示濃度のAPAPで24時間潅流した後で、MTTで染色した培養物の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】マイクロパターン化共培養物を生成する方法の概略図である。簡潔に言えば、フォトリソグラフィー技術を用いてガラス基板上にフォトレジストをパターン化する(A)。フォトレジストパターンの蛍光顕微鏡写真が「B」に示されている。コラーゲンをウェーハ全体に吸着させた後、アセトンを用いてフォトレジストを剥がし、ガラス上にコラーゲンパターンを残す(C〜D)。次いで、基板をウシ血清アルブミンで被覆することにより、無コラーゲン領域への非特異的細胞付着を防止する。肝細胞を無血清培地中、高濃度(35mmウェーハ当たり細胞約100万個)で数回播種することにより、非特異的付着を有意に起こさずに、コラーゲン区域のほぼ完全な被覆を保証する(E〜F)。付着から1〜2時間後に、浮遊細胞を洗い落とす。翌日、肝細胞が伸展してパターンを満たした後、線維芽細胞を血清添加培地中で播種する(G〜H)。
【図11】一定比の細胞集団ならびに一定細胞数を有するマイクロパターン化ラット型共培養物を示す図である。マイクロパターン化共培養物の位相差顕微鏡写真では、細胞構成要素は類似しているが、広範囲の異型界面が得られることが示されている。
【図12】一定比の細胞集団を有するマイクロパターン化ラット型共培養物の肝特異的機能を示す図である。アルブミンおよび尿素の分泌は、異型相互作用と共に変動し、肝細胞単独条件より共培養の方が高かった。
【図13−1】ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化を示す図である。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダムに播種した対応培養より良好な成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、「490/1230」とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六方配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【図13−2】ヒト肝細胞の培養/共培養における、マイクロパターン化による肝特異的機能の最適化を示す図である。マイクロパターン化培養/共培養は、ランダムに播種した対応培養より良好な成績を示した。「ランダム」とはランダムに播種した培養を示し、「36/90」とは中心間間隔90μmで隔てた36μmの島状部を示し、「490/1230」とは中心間間隔1230μmで隔てた490μmの島状部を示し、4.8mmとは六方配列中に充填した7×4.8mmの島状部を示す。これらの寸法は、細胞型2種の比率および全細胞数を一定に維持するように選択した。グラフは代表的な7日目の肝細胞機能を示すが、数日間その傾向を認めた。肝細胞島状部が3T3-J2線維芽細胞に取り囲まれている、マイクロパターン化共培養の顕微鏡写真を示してある。
【図14】最適化したマイクロパターン化ヒト型共培養物に関する急性毒性アッセイを示す図である。LD50とは、生存率シグナルが薬物非含有対照の50%に低下した薬物の用量(横軸上)を指す。
【図15】特定のCYP450酵素の誘導および阻害を示すグラフである。市販の蛍光分子が、こうしたアッセイの読出し物質として使用されている。
【図16】純粋肝細胞と比較した際の、共培養肝細胞における重要な肝特異的遺伝子の発現プロファイルを示す図である。RNAを6日目の共培養肝細胞および純粋肝細胞単層から単離し、転写産物40,000種弱に対するプローブを含んだAffymetrix Human GeneChipアレイとのハイブリッド形成を行った。薬物代謝経路に関与する多くの重要な肝特異的遺伝子を、マイクロパターン化ヒト型共培養物の安定性の指標として選択した。グラフA〜Cの遺伝子発現レベルは、純粋肝細胞の1日目の遺伝子発現レベルIに規格化されている。
【図17A】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。マイクロパターン化共培養中での数週間に亘るアルブミン分泌および尿素産生の速度。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17B】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。マイクロパターン化共培養中での数週間に亘るアルブミン分泌および尿素産生の速度。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17C】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織(6日目)から精製したヒト肝細胞における遺伝子発現強度(Affymetrix GeneChipを介して得た)を、新鮮な肝細胞(12時間の接着培養、1日目)における発現強度と比較した全散布図。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17D】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。第II相異物代謝遺伝子(即ち、UDP-グリコシルトランスフェラーゼ、グルタチオントランスフェラーゼ)に限定した散布図。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17E】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織からの肝細胞におけるシトクローム-P450(第I相)と、純粋な肝細胞単層との、共に1週間培養後の定量的比較。全てのデータは、純粋な肝細胞単層の1日目の遺伝子発現レベルに規格化されている。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17F】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。一団の肝特異的重要遺伝子の「e」の場合と同様の定量的比較であって、該遺伝子は以下の通り: ALBはアルブミン、TFはトランスフェリン(分泌タンパク質)、ARG IはアルギナーゼI(尿素サイクル酵素)、G6Pはグルコース-6-ホスファターゼ(糖新生酵素)、F1,6-BPはフルクトース1,6-ビスホスファターゼ(糖新生酵素)、MDR1は多剤耐性遺伝子(P糖タンパク質、薬物輸送物質)、MRP1は多剤耐性タンパク質(薬物輸送物質)、PXRはプレグナンX受容体(核受容体、異物代謝の調節物質)、因子IIおよびVIIは凝固因子、AsGPR-2はアシアロ糖タンパク受容体2。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17G】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織において、基準値(未処理、1週間)および競合的阻害剤処理時にクマリン類縁体により測定した第I相CYP450酵素の活性。CYP 3A4、2C9および2A6の比活性は、以下の基質/阻害剤を各々併用して示した: BFC/ケトコナゾール、MFC/サルファフェナゾール、およびクマリン/メトキサレン(MFCは7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、BFCは7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン)。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図17H】微小規模のヒト肝組織の特性決定を示す図である。微小規模のヒト肝組織(10日目)において、グルクロン酸基および硫酸基の7-ヒドロキシクマリン(7-HC)への複合によりモニターした第II相酵素の活性。7-HCの複合量は、処理細胞からの上清をβ-グルクロニダーゼ/アリールサルファターゼとインキュベートすることにより決定し、サリチルアミドを競合的阻害剤として使用した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18A】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。急性曝露(24時間)後のモデル肝毒素の用量依存的毒性プロファイル。ミトコンドリア活性をMTTアッセイを用いて測定した。全てのデータは、ビヒクル単独の対照に規格化した。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18B】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。微小規模組織を原型誘導剤であるβ-ナフトフラボンと1日または3日インキュベーションした際のCYP1A活性の用量・時間依存性誘導。ERはエトキシレゾルフィン。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図18C】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を実証する事例研究を示す図である。微小規模組織を原型阻害剤であるメトキサレンとインキュベーションした際のCYP2A6活性の用量依存性阻害。CYP2C9活性の阻害剤であるサルファフェナゾールは、「高い」用量(25μM)を利用した場合でもクマリンの7-ヒドロキシル化を阻害しなかった。エラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19A】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。TC50、即ち定義では1週経過した組織に24時間曝した後にミトコンドリア活性が50%減少する薬物の毒性濃度(急性毒性)による、既知の肝毒素数種を含めた一団の化合物の順位配列。ミトコンドリア毒性はMTTアッセイを用いて評価した。挿入図は、構造的に関連のあるPPAR-γアゴニストの相対毒性(400μMで24時間曝露)を区分している。全てのデータはビヒクル単独対照に規格化した。データはビヒクル単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19B】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。微小規模のヒト肝組織(1週経過)におけるアセトアミノフェン(APAP)の時間・用量依存的慢性毒性。組織には48時間毎に繰り返し投薬した。全てのデータは、未処置培養物中のミトコンドリア活性(100%活性)に規格化した。位相差顕微鏡写真で、未処置条件下、およびAPAP30mMで24時間処置後のヒト肝細胞形態を示してある(スケールバーは100μm)。データはビヒクル単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19C】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。臨床用原型誘導剤を用いた微小規模のヒト肝組織におけるCYP450酵素活性の誘導。培養物は、蛍光測定用CYP450基質でインキュベーション前の4日間処理した。全てのデータはビヒクル単独対照に規格化した(倍率変化1)。MFCは7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、BFCは7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン、COUはクマリン、ERはエトキシレゾルフィンである。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図19D】薬物開発における微小規模のヒト肝組織の有用性を示す図である。原型誘導剤としてβ-ナフトフラボン(β-NF)およびオメプラゾール(OME)を用いた、ラットおよびヒトの微小規模の肝組織におけるCYP1Aアイソフォームの種特異的誘導。組織は4日間誘導し、CYP1A活性はエトキシレゾルフィンの脱アルキル化により評価した。データは培地単独対照に規格化した。全てのエラーバーは、平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【図20】ラット肝臓の微小規模の操作・作製モデルを示す図である。図3に概要を示した軟質リソグラフィー法(「マイクロパターン化」)を用いて、初代ラット肝細胞を500μm島状部(中心間間隔1230μm)に組織化した後、増殖を停止させた3T3-J2線維芽細胞で取り囲んだ。細胞の個数と比率が類似したランダム分布共培養物(「ランダム」)を生成して、比較を可能にした。この図では、純粋な肝細胞培養物および共培養物(ランダムおよびマイクロパターン化)における70日に亘るアルブミンの産生速度を示してある。エラーバーは平均値(n=3)の標準誤差を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)細胞島状部を規定する実質細胞の1つまたは複数の集団、および
(b)非実質細胞の1つの集団
を含み、非実質細胞が細胞島状部の幾何学的境界を規定する、
in vitro細胞組成物。
【請求項2】
実質細胞が、肝細胞、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア細胞)、呼吸器上皮細胞、成体および胚性幹細胞、ならびに血液脳関門細胞からなる群から選択される、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項3】
実質細胞が肝細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項4】
非実質細胞が間質細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項5】
間質細胞が、線維芽細胞または線維芽細胞由来の細胞である、請求項4に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項6】
細胞島状部が、約250μm〜750μmの直径または幅からなる、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項7】
細胞島状部同士が、細胞島状部同士の中心間について約2μm〜1300μm隔てられている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項8】
微小流体デバイス中に配置されている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項9】
組織培養プレート中に配置されている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項10】
実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項11】
非実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項12】
実質細胞および非実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項13】
細胞島状部が三次元である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項14】
細胞島状部が球状体である、請求項13に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項15】
細胞島状部が、非実質細胞と境界を接する境界付き幾何学形態中に実質細胞を含む、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項16】
基板上に複数の細胞島状部を作製する方法であって、
(a)基板上の空間的に異なる位置に接着物質をスポットするステップであって、各スポットが所定の幾何学的なサイズおよび/または形状を有する、上記スポットするステップ、
(b)接着物質および/または基板に選択的に接着する細胞の集団と、基板とを接触させるステップ、ならびに
(c)基板上で前記細胞を培養することにより、複数の細胞島状部を生成するステップ、
を含む、上記方法。
【請求項17】
スポットするステップがリソグラフィー技術により行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リソグラフィー技術がフォトリソグラフィー技術である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
接着物質が、細胞外マトリックス物質、糖類、プロテオグリカンおよびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記集団が、接着物質に選択的に接着する実質細胞集団を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記集団が、基板上の異なる位置または物質に選択的に接着する2種以上の細胞型を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
実質細胞集団が、肝細胞、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア細胞)、呼吸器上皮細胞、成体および胚性幹細胞、ならびに血液脳関門細胞からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
実質細胞集団が肝細胞を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
実質細胞集団とは異なる位置で基板に接着する集団と、基板とを接触させるステップを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記集団が間質細胞を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
間質細胞が、線維芽細胞または線維芽細胞由来の細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
基板が組織培養基板である、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
基板がガラスまたはポリスチレンである、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記所定の直径が約250μm〜750μmである、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記スポット同士が、約2μm〜1300μm空間的に隔てられている、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
請求項16に記載の方法により作製される細胞組成物。
【請求項32】
非実質細胞と境界を接し、境界付き幾何学形態の少なくとも1つの側部間寸法が約250〜750μmである該境界付き幾何学形態を有する、実質細胞を含む人工組織を接触させるステップと、
人工組織を試験作用物質と接触させるステップと、
遺伝子発現、細胞機能、代謝活性、形態およびそれらの組合せから選択される、人工組織の活性を測定するステップと
を含むアッセイ系。
【請求項33】
試験作用物質が、感染体、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、抗体、ペプチド模倣物質、小分子、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドから選択される、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項34】
試験作用物質が細胞毒性物質である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項35】
試験作用物質が医薬である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項36】
試験作用物質が生体異物である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項37】
生体異物が、環境毒素、化学/生物兵器作用剤、天然化合物および栄養薬からなる群から選択される、請求項36に記載のアッセイ系。
【請求項38】
前記活性が、試験作用物質の吸着、分布、代謝、排泄および毒性(ADMET)である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項39】
前記代謝活性がタンパク質産生である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項40】
前記代謝活性が酵素の生体産物形成である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項41】
実質細胞がヒト肝細胞であり、非実質細胞が線維芽細胞である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項42】
間質細胞により取り囲まれ、直径または幅が約250μm〜750μmである、実質細胞の島状部を含む人工組織。
【請求項43】
実質細胞がヒト肝細胞であり、間質細胞が線維芽細胞である、請求項42に記載の人工組織。
【請求項44】
組織をin vitroで作製する方法であって、
細胞の第1集団を付着させる所定の領域を有する基板上に、細胞の第1集団を播種するステップであって、前記所定の領域が、約250μm〜750μmの境界付き幾何学的寸法からなる、上記播種するステップと、
細胞の第2集団が、細胞の第1集団を取り囲む、またはその集団に隣接して接着するように、細胞の第2集団を基板上に播種するステップと、
組織を生成する条件下で、しかもその生成に十分な期間、前記細胞を培養するステップ、とを含む、上記方法。
【請求項45】
細胞の第1集団がヒト肝細胞を含み、細胞の第2集団が間質細胞を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
間質細胞が線維芽細胞である、請求項45に記載の方法。
【請求項1】
(a)細胞島状部を規定する実質細胞の1つまたは複数の集団、および
(b)非実質細胞の1つの集団
を含み、非実質細胞が細胞島状部の幾何学的境界を規定する、
in vitro細胞組成物。
【請求項2】
実質細胞が、肝細胞、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア細胞)、呼吸器上皮細胞、成体および胚性幹細胞、ならびに血液脳関門細胞からなる群から選択される、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項3】
実質細胞が肝細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項4】
非実質細胞が間質細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項5】
間質細胞が、線維芽細胞または線維芽細胞由来の細胞である、請求項4に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項6】
細胞島状部が、約250μm〜750μmの直径または幅からなる、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項7】
細胞島状部同士が、細胞島状部同士の中心間について約2μm〜1300μm隔てられている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項8】
微小流体デバイス中に配置されている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項9】
組織培養プレート中に配置されている、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項10】
実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項11】
非実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項12】
実質細胞および非実質細胞がヒト細胞である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項13】
細胞島状部が三次元である、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項14】
細胞島状部が球状体である、請求項13に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項15】
細胞島状部が、非実質細胞と境界を接する境界付き幾何学形態中に実質細胞を含む、請求項1に記載のin vitro細胞組成物。
【請求項16】
基板上に複数の細胞島状部を作製する方法であって、
(a)基板上の空間的に異なる位置に接着物質をスポットするステップであって、各スポットが所定の幾何学的なサイズおよび/または形状を有する、上記スポットするステップ、
(b)接着物質および/または基板に選択的に接着する細胞の集団と、基板とを接触させるステップ、ならびに
(c)基板上で前記細胞を培養することにより、複数の細胞島状部を生成するステップ、
を含む、上記方法。
【請求項17】
スポットするステップがリソグラフィー技術により行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リソグラフィー技術がフォトリソグラフィー技術である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
接着物質が、細胞外マトリックス物質、糖類、プロテオグリカンおよびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記集団が、接着物質に選択的に接着する実質細胞集団を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記集団が、基板上の異なる位置または物質に選択的に接着する2種以上の細胞型を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
実質細胞集団が、肝細胞、膵臓細胞(α、β、γ、δ)、筋細胞、腸細胞、腎上皮細胞、脳細胞(ニューロン、星状細胞、グリア細胞)、呼吸器上皮細胞、成体および胚性幹細胞、ならびに血液脳関門細胞からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
実質細胞集団が肝細胞を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
実質細胞集団とは異なる位置で基板に接着する集団と、基板とを接触させるステップを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記集団が間質細胞を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
間質細胞が、線維芽細胞または線維芽細胞由来の細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
基板が組織培養基板である、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
基板がガラスまたはポリスチレンである、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記所定の直径が約250μm〜750μmである、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記スポット同士が、約2μm〜1300μm空間的に隔てられている、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
請求項16に記載の方法により作製される細胞組成物。
【請求項32】
非実質細胞と境界を接し、境界付き幾何学形態の少なくとも1つの側部間寸法が約250〜750μmである該境界付き幾何学形態を有する、実質細胞を含む人工組織を接触させるステップと、
人工組織を試験作用物質と接触させるステップと、
遺伝子発現、細胞機能、代謝活性、形態およびそれらの組合せから選択される、人工組織の活性を測定するステップと
を含むアッセイ系。
【請求項33】
試験作用物質が、感染体、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、抗体、ペプチド模倣物質、小分子、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドから選択される、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項34】
試験作用物質が細胞毒性物質である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項35】
試験作用物質が医薬である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項36】
試験作用物質が生体異物である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項37】
生体異物が、環境毒素、化学/生物兵器作用剤、天然化合物および栄養薬からなる群から選択される、請求項36に記載のアッセイ系。
【請求項38】
前記活性が、試験作用物質の吸着、分布、代謝、排泄および毒性(ADMET)である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項39】
前記代謝活性がタンパク質産生である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項40】
前記代謝活性が酵素の生体産物形成である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項41】
実質細胞がヒト肝細胞であり、非実質細胞が線維芽細胞である、請求項32に記載のアッセイ系。
【請求項42】
間質細胞により取り囲まれ、直径または幅が約250μm〜750μmである、実質細胞の島状部を含む人工組織。
【請求項43】
実質細胞がヒト肝細胞であり、間質細胞が線維芽細胞である、請求項42に記載の人工組織。
【請求項44】
組織をin vitroで作製する方法であって、
細胞の第1集団を付着させる所定の領域を有する基板上に、細胞の第1集団を播種するステップであって、前記所定の領域が、約250μm〜750μmの境界付き幾何学的寸法からなる、上記播種するステップと、
細胞の第2集団が、細胞の第1集団を取り囲む、またはその集団に隣接して接着するように、細胞の第2集団を基板上に播種するステップと、
組織を生成する条件下で、しかもその生成に十分な期間、前記細胞を培養するステップ、とを含む、上記方法。
【請求項45】
細胞の第1集団がヒト肝細胞を含み、細胞の第2集団が間質細胞を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
間質細胞が線維芽細胞である、請求項45に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【図17H】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【図17H】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20】
【公表番号】特表2008−545410(P2008−545410A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513645(P2008−513645)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/020019
【国際公開番号】WO2006/127768
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/020019
【国際公開番号】WO2006/127768
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】
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