説明

微小規模の流体ハンドリングシステムにおける三次元細胞培養

本発明は、三次元の多細胞性集成体をイニシエート、培養、操作及び検定するための新規な微小規模の流体ハンドリングシステムを提供する。このシステムは、微小流体デバイス及び三次元多細胞性組織代用集成体を含む。本発明のデバイスは、少なくとも1つの微小流体チャネル及び少なくとも1つのチャンバーを含み、前記チャンバーの壁は細胞層に裏打ちされており、前記チャネル及びチャンバーの各々を通って液体培地が流れる。また、被検作用物質を多細胞性集成体まで導いて、その生物学的応答を観察するために前記デバイスを使用する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小規模の流体ハンドリングシステム(handing system)のスフェロイドに関する。本発明は、スフェロイド、培地、細胞外基質成分、可溶性シグナル伝達分子及び細胞間相互作用などの三次元(3D)多細胞性代用組織集成体をイニシエート(inintiate)、培養及び操作するためのデバイス及び方法を提供する。本発明はさらに、微小規模の流体ハンドリングシステム中のスフェロイドによりモデル化された疾患に介在し得る作用物質を研究するためのハイスループットスクリーニング(HTS)法を提供する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物細胞培養物は、疾患の過程、特に癌を研究するためのモデルとして、また前記疾患の治療に用いられる強力な治療剤を試験するためのモデルとして、慣習的に用いられてきた。一般に、哺乳動物細胞培養物に用いられる細胞は、必須栄養素及び増殖因子を細胞に補充する液体培地で覆われたプラスチック板上の単層の状態で増殖させられる。しかしながら、多くの細胞型にとって、この培養方法は、細胞が本来単離されたin vivoの環境を適切には模倣しない(1)。なぜなら、疾患の病因は、3D組織構造の状況で起こり、支質区画と上皮区画との異なる細胞型の間の相互作用を伴い、また細胞外基質(ECM)とも関係している(1)。驚くべきことではないが、単層で増殖している細胞はしばしば、それら細胞がin vivoの環境にある場合とは、同じ生物学的応答及び挙動を示さない。対照的に、球状構造で、且つ細胞の正常な環境を真似る細胞外成分の存在下で増殖される細胞は、一般的にはるかに忠実にin vivoの生物学的環境を提示する(1)。従って、スフェロイド、マンモスフェア(mammosphere)、オルガノイド及び器官型培養などの三次元多細胞性集合体は、新規な治療剤をスクリーニング及び開発することに使用され得る、改良型のin vitro疾患モデルの大きな可能性を提示する。
【0003】
スフェロイドは、組織外植片、樹立された細胞培養物又はそれらの両方に由来するin vitroで培養された、生きている哺乳動物細胞の3D集合体(aggregate)である。スフェロイド研究は、初めは3D集合体としての細胞の単一培養に広く焦点が合せられた。しかしながら近年、2以上の細胞型を有する異種性スフェロイドが用いられて、正常組織及び腫瘍発生の両方の異なる細胞型の相互作用が研究されてきている(1)。スフェロイドの内部環境は、充分に規定された形態学的及び生理学的な形状寸法を有する細胞の代謝応答及び適応応答によって、定められている。臨界サイズを超える(500 μMより大きい)単型スフェロイドの多くは、外周では細胞を増殖させ、壊死性のコアの近くでは休止細胞の層を有する、同心の異種細胞集団の層を発達させる(1)。スフェロイドにおけるこの細胞の異種配置は、初期腫瘍の最初の無血管段階を模倣する。別の種類の単型スフェロイドは、上皮細胞が再構成された基底膜を覆って培養される場合に、中心腔を有する充分に組織化(organized)された小葉様(acini-like)の構造を形成する(2)。これらの単型スフェロイドは、重要なin vivoの形態を模倣することはできるが、生物学的複雑さが非常に乏しい。スフェロイドで2以上の細胞型を共培養すると、標準的な条件下で、腫瘍細胞と他の細胞型との相互作用が研究できる。正常組織及び腫瘍の両方の微小な環境は上皮、その下にある基底膜、及び下に近接して位置する支質として、よく定義されている。腫瘍細胞と正常内皮細胞とのスフェロイドとしての共培養物は、血管新生の研究に有用とされている。腫瘍細胞と支質エレメント(支質繊維芽細胞を含む)との共培養は、新生物プログレッションにおいて、複雑な微小環境の重要性を示している。正常支質は腫瘍細胞を阻害することが示されており、腫瘍バイオプシー由来の支質は腫瘍細胞に対して分裂促進効果を有することが示されている(2)。
【0004】
スフェロイドは既に、腫瘍バイオプシー及び正常組織発生の一般的な理解に貢献している。実際に、スフェロイド腫瘍モデルを用いて、可溶性シグナル伝達分子、細胞間のシグナル伝達及び腫瘍プログレッションへのECMの影響の重要性が解明されてきた(1,3)。同種性単層細胞培養の方法論と比較して、これらin vitroの腫瘍モデルは、in vivoの腫瘍に対応する数多くの生化学的及び形態学的特徴を保存している(3)。さらに、in vitroの腫瘍モデルは、病因学的作用物質及び有力な治療剤の影響を試験する有用な方法を提供する。例えば、in vitroの乳癌モデルは、そのin vivoの疾患の病因での重要な要因であるエストロゲン刺激に対して応答することが示されている(3)。
さらに、膨大な数の腫瘍学研究により、主要な発癌遺伝子を活性化し、腫瘍抑制遺伝子を不活性化する突然変異の重要性が示されている(4)。しかしながら、これらの研究は、癌細胞単独に焦点が合せられており、腫瘍全体の複雑さ及び異種性は見落とされてきた。このような細胞の自律的見地は、癌を、正常細胞の非常に悪性な腫瘍細胞への形質転換を推進する遺伝的変更の漸進的なセットとして説明している。しかしながら、同程度に重要であるのが、新生物プログレッションを、腫瘍の微小環境における異なる細胞型間及び細胞とECMとの間でだんだんに異常になるシグナル伝達として理解することである(2)。従って、スフェロイドは、慣習的な単層培養物よりも、前記のようなシグナル伝達の異常性を解析でき且つより容易に抗癌剤の効果が評価できる、より現実的なin vitro腫瘍モデルを提供することができる。3D細胞培養法を用いた腫瘍発生のモデリングの重要性は、乳癌の事例で充分に説明される。
【0005】
乳腺は、乳房の体積の80%より多くの割合を占める緻密な支質によって支持されている上皮性の管のネットワークで構成されている。前記管は、図1に図示するように、極性を示す上皮細胞の中間層と、筋上皮細胞の外部不連続層と、基底膜と呼ばれる分化したECMの覆いとによって形成されている。前記支質は、繊維芽細胞、上皮細胞、炎症細胞、及びECMの巨大分子ネットワーク上に埋め込まれている他の分化した細胞を含む。基底膜及び支質ECMは、膜貫通型インテグリンタンパク質を介して上皮細胞への結合及びシグナル伝達を媒介するコラーゲン、ラミニン、他の糖タンパク質及びプロテオグリカンの異なる組合せで構成されている。ECMは、細胞に対する建築上の支持と、増殖、分化及び運動性の外部刺激への細胞応答に影響を与える前後関係上の情報との両方を提供する。
乳房の腫瘍は、終末管小葉単位の上皮細胞から発生し、それらの細胞内での突然変異の集積及び染色体異常が腫瘍発生の中心となることは、充分に証明されている。組織の微小環境は細胞-ECM相互作用を定義し且つ制御するが(図2)、乳房組織構造(極性を示す上皮細胞は基底膜の領域内で結合している)を規定する細胞-ECM相互作用は、覆されて、腫瘍細胞が支質区画に浸潤し、増殖し且つ転移することを可能にされる。この過程を制御している細胞シグナル伝達の多くは、インテグリンとして知られる細胞表面受容体を介して起こり、そのような細胞表面受容体はECMの構成成分に結合し、また悪性細胞ではそのような細胞表面受容体の発現及び分布が頻繁に変化する(5)。インテグリンは、細胞の増殖及びアポトーシスを制御する細胞内シグナル伝達経路を調節し、また浸潤及び転移に関与する細胞外プロテアーゼの活性を調節する。パラクリン的シグナル伝達として知られる、異なる細胞間でのシグナル伝達も、乳癌発生において重要な役割を果たしている。ステロイドホルモン及びポリペプチド増殖因子による迷走的な(aberrant)傍分泌的シグナル伝達(上皮内及び支質-上皮間のいずれも)は、乳房での悪性腫瘍の数多くの側面を担っており(6、7)、前記ホルモンの作用は、細胞-ECM相互作用と統合される(8)。さらに、乳房腫瘍での支質突然変異に関する近年のデータは、発癌の遺伝的基盤が、事実上は支質及び上皮であり得ることを示唆している(9、10)。
【0006】
単層培養物で観察される表現型分化の不足を克服するために、基底膜を取り入れた3D細胞培養法が開発されている(11)。例えば、再構成した基底膜の存在下で増殖した場合、3D構造体に由来する正常ヒト乳房上皮細胞及び悪性ヒト乳房上皮細胞は明瞭な形態学的及び生化学的差異を有しており、それら細胞のin vivo表現型を反映する(12)。正常細胞は、全体的な構成で乳房小葉に似ているオルガノイドを形成する(中心の腔を取り囲んでいる、極性を示す上皮細胞)。正常細胞は、基底膜を取り囲んで堆積し(再構成した基底膜の存在下であっても)、直径40〜50 μmに到達した後で増殖を停止する(12)。対照的に、悪性細胞は、腫瘍に似た固形の無秩序な集団を形成し、そのような集団は非常に大きなサイズまで増殖しつづけ、基底膜を分泌しない。正常細胞と悪性細胞との間の増殖パターン及び分化パターンの差異は、コラーゲン及びラミニンに富む基質又は組織構築を指令するのに必要なECM構成成分を提供するマトリゲル(商標)の存在下で細胞を増殖させた場合にのみ、識別することができる。そのような3D再構成基底膜(3D-rBM)培養法は、腫瘍形成にとって重要な細胞-ECM相互作用を取り入れていることから、単層細胞培養を超えて改良された方法である。しかしながら、そのような方法は未だ、支質細胞について説明しておらず、従って、未変性の乳房組織で起こっている支質-上皮のシグナル伝達を反映していない。
近年、乳房上皮細胞と様々な種類の支質細胞とが異種性スフェロイドに組み込まれて(13、14)、傍分泌的シグナル伝達を伴う腫瘍発生の側面を研究するのに用いられている。あるモデルでは、腫瘍細胞と繊維芽細胞スフェロイドとを別々に増殖させて、次に混合して、転移を可能にした。前記腫瘍細胞は、最終的には前記繊維芽細胞スフェロイドを包み、また浸潤した(15)。別の実験モデルでは、上述する3D-rBM培養法の延長で、再構成基底膜の存在下、腫瘍細胞(上皮性)が繊維芽細胞及び/又は内皮細胞と共培養された(16)。この系では、エストロゲン依存性の管形態形成及び心血管形成に関して、腫瘍細胞と上皮細胞との間の相互依存が観察された(16)。同様の実験では、腫瘍繊維芽細胞から単離した繊維芽細胞は、正常上皮細胞及び悪性上皮細胞の両方の形態形成を誘導するのに必要且つ充分であることが示されており、また、このような作用が内皮細胞の添加によってさらに増強された(17)。
【0007】
別のアプローチが組織の動態を再現するのに用いられており、具体的には、乳房組織が、隣接するECM層の上皮及び支質細胞と共培養されている(18、19)。コラーゲン中の繊維芽細胞の層は、コラーゲン中又は再構成基底膜中の上皮細胞で表面を覆われる。これにより、下方の「支質」層と上方の上皮層との間の相互作用を研究するための2成分システムが提供される。このモデルは、どのようにして上皮オルガノイドのエストロゲン依存性増殖が繊維芽細胞に産生された増殖因子により媒介されるのかを研究することに用いられ(18)、繊維芽細胞が産生した増殖因子及びプロテアーゼの分枝した上皮オルガノイドでの役割を研究することにも用いられている(19)。
上述するモデルは両方とも、in vitroでの支質細胞と上皮細胞との間のパラクリン的シグナル伝達を再現することの実行可能性を証明するが、両システムは欠点も有している。異種性スフェロイドは基本的に無秩序な細胞集団であり、従って、乳房組織の秩序だった構造とはかけ離れている。加えて、これらのモデルで上皮区画と支質区画との間の明瞭な選別は存在しない。2区画共培養法は、別個の上皮区画及び支質区画を取り込んでいることが、このアプローチの改良点である。しかしながら、両モデルに使用される古典的組織培養法の「バルク」の性質は、組織微小環境の規模で、実験の可変量を制御する能力及びシステムの活性をモニタリングする能力を制限している。ひとたび無傷の共培養物が樹立されれば、その系に行われるいずれの変更も全体的である。被検作用物質は、共培養物の表面を覆っている液体培地に直接添加されて、前記作用物質の効果がいずれかの区画の異なる細胞型によってどのように変化させられるかを制御することなく、前記系全体が前記作用物質に曝露されるべきである。また、上皮区画又は支質区画を被検作用物質で特異的に刺激することも不可能である。加えて、所定の期間、一定濃度の被検作用物質に対する前記系の曝露は、表面を覆う液体の頻繁な吸引及び置換を必要とし、煩わしく且つ細胞にとってもストレスが多いため、このようなモデルを用いては現実的ではない。これらの物理的な制約は、前記系を実験で探索する能力と、in vivoで作動するパラクリン的シグナル伝達及び区画の制御系を模倣する能力とを制限する。
【0008】
より一般的には、スフェロイドをイニシエート及び検定する現在の方法は、労働集約的プロセスであり、機械的な薬物スクリーニングに必要とされる高度な画一化及び自動化を、容易に受け入れられない。さらに、現在の静置細胞培養及び貫流(flow through)細胞培養などの方法は一般的にスフェロイドが機械的ストレスを受け、細胞集団の周囲の微小環境を制御するのが困難である。静置培養法は、正常組織又は腫瘍の微小環境において、漸進的な環境の変化を可能にすることができない。貫流培養法は大液量を使用し、培地が急速に補充されて、重要な増殖因子及び他の生物学的シグナル伝達分子が洗い流されてしまう。
さらに、微小規模では、大規模で経験される以上に、種々の力が優勢になることが明らかにされており(20)、そのような力としては、層流、拡散、流体抵抗性、表面積と体積の比率及び表面張力が挙げられる。層流は、微小流体の確定的特性である。数百ミクロン(マイクロメートル)までの直径と、流速が容易に達成できる幅とを有するチャネル中を流れる流体は、低いレイノルズ数(Re)によって特徴付けられる。その領域での流れは、層流であって、乱流ではない。一定の流速の表面は、システムの典型的な範囲を覆って滑らかであり、流れの正しいテンポのランダムな変動は存在しない。微小チャネルの長く狭い外形では、流れも主に一軸である。流れ全体は、壁の局所的方位に対して並行に移動する。一軸層流の適切な特徴は、流れの法線方向の運動量、質量及び熱の輸送は全て、分子のメカニズム:分子の粘度、分子の拡散性及び熱伝導性に任されている。
【0009】
微小流体工学は、局所的な流体環境と、より少ない試薬量及びより短い反応時間で働く能力とを、正確且つユニークに制御することを可能にする。微小規模の現象は、微小規模での技術及び実験を可能にはしない。一例を挙げると、微小チャネルの層流の特性は、接触して流れている2つの流れの間の混合が拡散依存性のものである、すなわち、乱流混合要因に影響されない。これにより、生物学的システムに対する刺激として使用するための試薬の濃度勾配及び離散的なパケットを生み出すことが可能となる。
第一の微小流体デバイスは、ミクロ電子工学産業からアレンジされた、慣例的な平面組立て技術(フォトリソグラフィー及びエッチング)によって、シリコン及びガラスに組立てられる。これらの方法は正確であるが、高価であり、柔軟性がなく、また探索的な作業に対する適性に乏しい。近年、ソフトリソグラフィー、in situ構築、マイクロモールディング及びレーザーアブレーションなどの新しい技術が微小流体デバイスの組立てに用いられている(20)。これらの非フォトリソグラフィー的微細加工法は、有機材料のプリンティング及びモールディングに基づいており、物理的な研究用のプロトタイプ及び特殊な目的の両デバイスの作製に対しても、フォトリソグラフィーよりも遥かに直接的である。このような方法は、チャネル及び構成部品の3Dネットワークを築くことも実用的にしている(21)。よって、エラストマー材料で組立てられたバルブ及びポンプのような新たな種類の流体エレメントに対するアクセスを提供することができる(22)。加えて、多くの用途で必要とされているチャネル表面の分子構造の高レベルなコントロールを提供する。スフェロイド細胞培養物の成長及び操作に使用される既存の方法では(具体的には、支質細胞と上皮細胞との間のシグナル伝達において)組織形態の精密な再構築が可能でないことから、スフェロイド細胞培養物の薬物開発設定における使用の開始は制限されてきた。従って、微小流体を用いて、3D細胞培養の微小環境を正確に操作する、別のアプローチを提供することが所望されている。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、要約すると微小流体デバイスと生細胞の三次元(3D)多細胞性集成体とからなる微小流体ハンドリングシステムであり、前記デバイスは多細胞性集成体、好ましくは少なくとも1つのスフェロイドを、イニシエート、培養、操作及び検定するのに用いられる。
本発明のある観点では、多細胞性代用組織集成体をイニシエート、培養、操作及び検定するための微小流体デバイスを提供し、前記微小流体デバイスは、少なくとも1つの微小流体チャネル、少なくとも1つのチャンバー及び少なくとも1つのスフェロイドを含み、前記チャンバーの壁は細胞層で裏打ちされており、前記チャネル及び前記チャンバーの各々を通って液体培地が流動する。
別の観点では、本発明は多細胞性代用組織集成体をイニシエート、培養、操作及び検定する微小流体デバイスを提供し、前記微小流体デバイスは、細胞層で裏打ちされている2つの隣接するチャンバーを有し、前記各チャンバーは別個の組織を表すスフェロイドを含み、また前記各チャンバーは組織に特異的である液体培地を含む。
別の観点では、本発明は、流体流動チャネル及びチャンバーを含む微小流体デバイスを作製すること;哺乳動物細胞の複数の細胞型の代用組織集成体を作製すること;代用組織集成体、好ましくはスフェロイドを、前記デバイスのチャンバー内に置くこと;流体流動チャネルを通して、被検作用物質を代用組織集成体まで導くこと;及び、前記代用組織集成体の応答を観察すること;による、代用組織集成体を用いて被検作用物質のハイスループットスクリーニングを行う方法を提供する。
【0011】
別の観点では、本発明は、多細胞性組織の被検作用物質との反応を模倣するためのハイスループットスクリーニングシステムを提供する。前記システムは、複数の流体流動チャネル及び複数のチャンバーを有する微小流体デバイスと、生きている哺乳動物細胞の生物学的特徴を有する複数の代用組織集成体とを含み、前記代用組織集成体の各々は前記チャンバーの1つに配置される。
本発明の更に別の観点は、本発明の微小流体デバイスとスフェロイドとを有し、種々の病状に介入し得る薬剤を研究するのに用いられるキットを提供することを含む。
これら及びその他の本発明の観点は、次の説明及び図面を特許請求の範囲と併せて考慮して検討することにより、より良く理解されるであろう。
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、微小流体デバイスを精細胞の三次元(3D)多細胞性集成体と組合せた、新規な微小規模流体ハンドリングシステムを開発した。前記デバイスは、生細胞の3D多細胞性集成体、好ましくはスフェロイドをイニシエート、培養、操作及び検定することによって、病状をモデリングすることに使用される。本発明はまた、前記デバイスを用いて、スフェロイドで新生物のプログレッションの刺激、阻害または予防について被検作用物質を検定することによって疾患の進行をモデリングする方法も提供する。前記方法は、微小規模の流体ハンドリングシステムにおいて、スフェロイドによってモデリングされている疾患に介入し得る作用物質をハイスループットスクリーニングすること;獲得したスフェロイドの特性を検出すること;及び、新生物のプログレッション、適切には乳癌のプログレッションの刺激、阻害または予防について作用物質を選択するため、獲得したスフェロイド特性について検定することを含む。
本明細書で用いられる用語「三次元」細胞培養、すなわち「3D」細胞培養は、細胞の3D多細胞性代用組織集成体またはスフェロイドへの成長をもたらすのに私用されるいずれの方法をも指し、細胞の天然の組織形態への成長をもたらすのに用いられる器官型細胞培養法を含む。
【0013】
また、本明細書で使用される用語「スフェロイド」は、単一層としての成長とは対照的に、3D成長を可能にするように培養された細胞の凝集塊または集成体を指す。「スフェロイド」という用語は、凝集塊が幾何学的なスフェアであることを意味するのではないことを注記しておく。前記凝集塊は、充分に規定された形態で高度に組織化されていてもよく、または組織化されていない塊であってもよく;前記凝集塊は、単一の細胞型または2以上の細胞型を含み得る。細胞は、初代単離物であってもよく、永続的な細胞株であってもよく、それら2つの組合せであってもよい。この定義は、マンモスフェア、オルガノイド及び器官型培養物を含み、より具体的には、乳腺上皮細胞によって特定の培養状態で形成されている、充分に規定された小葉様のオルガノイドを含む。
一般に、in vivoの組織発生及び恒常性は、可溶性シグナル伝達分子、ECM中の付着(attachment)因子及び細胞間シグナルに由来する、注意深く画策されている「合図」に頼っている。「ECM」すなわち「細胞外基質」は、細胞の結合及びシグナル伝達を媒介するコラーゲン、ラミニン並びに他の糖タンパク質及びプロテオグリカンの異なる組合せからなる細胞層を指す。ECMは、細胞に対する建築学的な支えと、成長、分化及び運動性のための外部刺激に対する応答性に影響を及ぼす前後関係の情報との両方を提供する。自然のままのECM、単純な(plain)コラーゲン、合成の混合物及び天然の単離物(すなわち、マトリゲリル(商標))が挙げられる。
【0014】
これらの合図の時間的協調及び空間的協調の両方が、正常な組織のin vitroモデルを作製することにとって重要である。他の哺乳動物細胞培養システムと比較して、本発明の一態様は微小規模流体ハンドリングシステムを提供し、前記システムは、液体培地中の可溶性シグナル伝達因子、細胞接着表面、圧力、pH及び細胞間情報交換の正確な制御を可能にすることによって、増殖及び分化のためのin vivo条件をより忠実にモデリングする環境を提供する。
本態様では、本発明は、3D多細胞性代用組織集成体の微小環境を操作するための手段も提供する。本明細書で用いられる「操作」または「操作する」という用語は、pH、静水圧、勾配、流速、内分泌シグナル及び傍分泌シグナルを表す可溶性因子の導入、細胞間相互作用、並びに特異的ECM構成成分を含む3D細胞培養(物)の微小環境を正確に制御する能力を差す。
具体的には、本発明は、in vivo環境を表す正確な様式で、液体培地の斬新的な変化を提供する。懸濁したスフェロイドを培養する現在の方法は(23)、ピペットでスフェロイドを移動させることを必要とする。ピペット移動は、局所的な環境での突然の変化でスフェロイドにショックを与え得るし、またin vivo環境を代表しない機械的ストレスにスフェロイドを曝露し得る。懸濁しているスフェロイド及び付着しているスフェロイドのいずれの培地も変化させる別の方法は、貫流培養である。標準的な貫流培養は、外因性のシグナル伝達分子を希釈及び洗い落とし、このことが正常組織の分化及び発達に重要である。
【0015】
また、本発明に用いられるチャネルの層流特性は、大規模な組織培養法を用いた場合は不可能であるユニークなアッセイを可能にすることも想定される。2以上の層流流れは、単一な多成分性層流流れへと一緒にされ得る。これにより、研究者が、単一なスフェロイド細胞培養物の別個の部分を同時に別個の可溶性因子に曝露すること又はスフェロイド細胞培養物の全域にわたって勾配を確立することを可能にする。被検化合物、シグナル伝達分子又は酵素は、層流ストリーム中で離散的なパケットで送達されて、正確に計時されたスフェロイド細胞培養物の曝露を可能にすると考えられ得る。チャネルの幾何学的形態と流速とが、前記スフェロイドに対する前記パケットの曝露の時間的及び空間的な側面を規定する。前記スフェロイド内の異なる深さでの細胞の生理機能及び分化状態は、組織分化で重要な役割を果たす(24)。スフェロイド細胞培養物から層を剥し取ることができることにより、細胞集団内の異なる深さの細胞の形態的特徴及び表面マーカーについての検定が可能となり、細胞の分化状態の洞察が提供され得る(23)。更に、組織の分化及び組織の浸潤又は転移のいずれの正常な過程にも関連する酵素の離散的なパケットの導入は、そのような酵素の腫瘍プログレッションにおける役割を更に解明するための検定を可能にする(2)。化学的処理(例えば、流体パケット)を機械的操作と組合せることも可能である。例えば、小型のポートを介する吸引が、ウシ卵母細胞の卵丘細胞を吸い取ることに使用されてきた。同様の操作は、スフェロイドから細胞の層を選択的に取り出すことに用い得る。
【0016】
更に、チャネル内の障壁は、定位置で(in place)スフェロイドを懸濁させておき、一方でスフェロイドを横切る連続的又は断続的な培地の流れを維持していると思われる(25)。スフェロイドは、流体の流れを逆にすることによって、スフェロイドが保持されている場所の外に容易に移動できる(26)。チャネル内の一連の障壁は、サイズによってスフェロイドを選別することにも役立ち得る。一連のもののうち、第一の障壁は、その障壁の周囲の開口部よりも大きいスフェロイドが培養チャネルに入るのを妨げる。チャネルの下流末端では、第二の障壁が、所望のスフェロイドを同じ位置に保持し、一方で、より小さいスフェロイドを前記培養チャネルから抜け出させることができる。
本発明の別の態様では、微小流体デバイスは、スフェロイド培養物を基底膜及びECM構成成分で支持することができる。ECMは、細胞によって細胞に隣接する微小環境中へ分泌された巨大分子からなる。このような巨大分子は相互作用して、不溶性マトリックスを形成する。ECMは、細胞が移動する足場を提供するのに役立つことができ、又は、特定の細胞型への分化を誘導してもよい。ECMを形成しているそのような巨大分子としては、例えばコラーゲン、プロテオグリカン及び基質接着分子が挙げられる。基底膜は、細胞とそれに隣接する結合組織との間に差し挟まれている、不溶性の巨大分子の薄い層である。毛細血管では、基底膜が、血管を裏打ちしている内皮と、それに隣接する間葉との間の境界を形成している。基底膜を形成している巨大分子としては、例えば、コラーゲンIV、ラミニン及びプロテオグリカンが挙げられる。基底膜は、幾つかの組織で支持的機能を有しており、受動的な選択フィルターとしても役立ち得る(27)。スフェロイド細胞培養物のイニシエーションに使用される微小流体チャネルは、ECM及び基底膜の重要な構成成分である生体高分子で被覆されていてもよい。そのような生体高分子としては、ラミニン、フィブロネクチン、ゼラチン及びコラーゲンが上げられるが、これだけに限られない。合成の基底膜調製品であるマトリゲル(商標:Collaborative Biomedical Products, Catalog No.40234)も、培養チャネルを調製するのに用いることができる。
【0017】
ECMに加えて、細胞間シグナル伝達が正常な分化及び発達と新生物の分化及び発達とのいずれにも必要不可欠であることが明らかになってきた(8)。増殖因子、ホルモン及びモルフォゲンのような拡散しうる因子がある細胞型によって分泌されて、他の細胞型の挙動を変化させる。親和性に基づき幾つかの細胞は互いに接着させられ、また他の細胞は互いにすれ違って移動させられる細胞表面の特性に基づいて、細胞も他の細胞を選択的に認識することができる。そのような親和性は、他の細胞の表面に対するものであってもよく、又はECMの構成成分に対するものであってもよい。形態形成の主要な実例は、組織内、器官内及び腫瘍内で適切に細胞を局在化させる、ディファレンシャルな細胞親和性である(27)。
更に、正常組織から悪性腫瘍への進行は、腫瘍と腫瘍の微小環境とを含む細胞間の異常な情報交換の増加によって特徴付けることができる。この前後関係では、腫瘍の形成は、異なる細胞型及びECMの間のシグナル伝達に応答して複合的な器官が形成する発生過程と考えられ得る。マトリックスメタロプロテアーゼであるストロメリシン-1の標的化発現は、新生物状態の特性を特徴とする組織の自発的な獲得を生じる(2)。繊維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞の間の異常な情報交換の増加は、腫瘍の血管新生などの過程を誘導することがin vitro腫瘍モデルを用いて示されている(3)。本明細書で用いられる用語「腫瘍モデル」は、悪性腫瘍の挙動を模倣するのに用いられるin vitroの細胞培養システムを差す。
【0018】
加えて、本発明は、微小流体チャネルに異なる細胞型を播種して、スフェロイド培養物をイニシエートするための方法を提供する。具体的には、本発明が、支質区画に見出される主要な細胞型である繊維芽細胞を用いて、生体高分子で被覆されているチャネルに播種する方法を提供することが考えられる。更に、増殖している繊維芽細胞が、そのECM構成成分を生体高分子コーティングに加えることによって、チャネルを調整すると思われる。繊維芽細胞で調整された(fibroblast-conditioned)チャネルは、次に、上皮細胞、そして、場合により更なる細胞型を包含しているスフェロイドで播種され得る。
本発明はまた、図11A及び12Aに示すように支質細胞及び上皮細胞を隣接した区画に組み込むように設計され、哺乳動物組織のin vivoでの構造を模倣している微小流体デバイスも提供する(図1)。そのようなデバイスの一例は、2つの組織区画が2つの異なる溶媒流により別々に扱われ得る方法を説明する図11に示されている。具体的には、図11A及び11Bは、上皮オルガノイド及び支質繊維芽細胞を隣接した区画で共培養するための微小流体デバイス(A)と、試薬の離散的なパルスを送達することを可能にするのに用いられるT-ジャンクション(密着結合)(B)との概略図を示している。矢印は、デバイスのチャネルを通る流体の流れの方向を指し示している。その2つの区画は、上方のチャネルを介して細胞/コラーゲン懸濁液をインキュベーションチャンバー中に流すこと及び温度を上昇させてコラーゲンをゲルにすることによって、連続的に形成される。支質層は、微小孔フィルター(点線)によって支持されている。上方及び下方のチャネルは、各区画の対象因子への曝露を別々に制御する能力を提供する。
【0019】
いずれか一方の組織区画を選択的に探索する能力は、より正確に支質-上皮間シグナル伝達の刺激ができるであろうことから、先に説明した他の2区画モデルを超える有意な改良点であると思われる。一例を挙げると、1の区画では選択的に刺激をイニシエートし、他方の区画の応答をモニタリングすることが可能であろう。
pH、光、温度、生物学的シグナル及び電流(22)を含む刺激に対して感受性であるポリマー類は、微小流体チャネルへ組み込み得ることが考えられる。外部刺激の微細な変化は、親水性ポリマーの伸長又は収縮を引き起こし、微小流体デバイス中で成長しているスフェロイドに対する圧力をかける又は軽減することができる。さらに、スフェロイド細胞培養物に隣接するエラストマー膜に、圧力が施されてもよい。変形の速度及び程度は、粒子イメージング(28)を用いて、測定及び制御することができる。in vivoでの器官及び腫瘍の発生はしばしば、周囲の組織にかけられる圧力に起因している。従って、本発明によると、圧力感受性ポリマー類及びエラストマー膜は、本発明のデバイスに用いられて、in vivoの腫瘍に対する圧力を制御することができる。
いずれの場合にも、微小流体チャネル内の並行制御チャネルは、被検作用物質に曝露されたスフェロイドを、同一の成長条件に曝露されるが被検作用物質には曝露されない対照スフェロイドと比較することに用いることができる。実験経過の間、流速及び細胞培地が同一であるように、前記制御チャネルは類似する構造を有し、また前記制御チャネルは試験チャネルに用いられる同一流体制御システムの一部である。
【0020】
別の態様では、本発明は、スフェロイドの成長、増殖、分化及び発達(development)を測定する方法を提供する。スフェロイドのサイズ、細胞形状、血管新生などの発生上の特徴、及び管形成の観察はしばしば、その分化の状態に関する情報を与え得る。形態学的解析は、スフェロイドを適切な位置で(in place)解析するために倒立顕微鏡を用いて行うことができ、あるいは組織学的技術又は特異的な細胞マーカーの画像解析によって行うこともできる(23)。外因性の蛍光発光又は緑色蛍光タンパク質などの発現された蛍光タンパク質を用いる細胞、オルガネラ又は巨大分子の蛍光標識は、スフェロイド特性の変化を検出するのに有用であり得る。増殖は、複数の方法を用いて直接的に測定することができ、そのような方法としてはMST比色法(Promega Corporation, Madison, WI)が挙げられるが、これだけに限られない。
付着しているスフェロイド培養物は、トリプシン又はプロナーゼの溶液を用いてチャネルから分離することができ、懸濁しているスフェロイドは、更なる解析のために微小流体デバイスの外側に抽出することもできる。また、液体培地は、可溶性因子について検定を行うこともできる。微小流体チャネルは、可溶性因子を標準的な培養技術に認められる程度まで希釈せず、細胞培養物を横切る流体のパルスを正確に制御する能力は、酵素、ホルモン及び増殖因子などの因子をより濃縮された形態で培養物の外へ洗い出す(20)。そのような可溶性因子の一部は、増殖因子及びプロテアーゼを含み得る。酵素結合免疫吸着検定(ELISA)は、増殖因子の存在又は量を決定するのに用いることができる。メタロプロテアーゼはしばしば、組織分化又は組織浸潤の指標となり、ザイモグラムゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)はその活性を測定するのに有用である。
【0021】
新たな治療法の探索では、製薬会社は、特異的な酵素活性又は特異的な核内受容体に対する結合を増加する又は阻害する能力について、膨大な化合物ライブラリーをスクリーニングする。そのような多数の検定は、受容体分子の吸光度、蛍光又は核磁気共鳴(NMR)の特性における変化を並行的な検定にてハイスループットスクリーニング様式で測定することを含み、前記様式では、数多くの作用物質が原則的に同一であるスフェロイドに対する効果について試験され得るように、チャネル間のスフェロイド特性が一定である。従って、別の態様では、本発明は、現在薬物候補スクリーニングに使用されている24、48又は96ウェル形式に適合するような、チャネル中にスフェロイド細胞培養物を樹立する手段を提供する。生化学的検定のレポーター分子は、微小流体培養チャネル内に導入できるか又はスフェロイド中の細胞によって産生できることが考えられ、微小流体デバイスから直接的に、前記レポーター分子の変化の直接測定を行うことができる(29)。これにより、初期のスクリーニングの間に所望の生物学的特性を示す化合物と、対応するスフェロイド発達の阻害又は促進とが、スフェロイドにおいて、予測されるとおりに実際に機能していることを証明する迅速な方法を提供することができる。
【0022】
(実施例)
微小規模のデバイスを用いて、全体的な構造特性を有する均一なサイズの複数の多細胞性代用組織集成体(例えば、スフェロイド)を作製することは、基本的に同一なスフェロイドに対する効果について多種多様な化学物質を試験できることから、重要な能力である。以下の仮想的実施例は、別々にアドレス可能な(addressable)チャンバーで互いに隔離されているため、異なる実験的変量に供することができる、1組の全体的な構造特性を有し、同様なサイズの複数のスフェロイドを作製するために用いられる方法を説明する。用いることができる2つのアプローチが存在する:微小規模(microscal:MS)デバイスでスフェロイドをイニシエーション及び増殖させること、又は、MSデバイスの外側で増殖させたバルク培養物からスフェロイドを選別して分配するためのMSデバイスの使用。
【0023】
(実施例1:類似するサイズのスフェロイドのMSデバイスにおけるイニシエーション及び成長)
仮想的な本実施例では、細胞は、最初プレートで単一層として増殖させられ、次に、酵素的に分離され、収集されて、スフェロイドを形成するチャンバーに通じた複数のチャネルを有する微小規模(MS)デバイスに導入される。この過程は、各チャンバーに同じ数の細胞が分配されて、形成するスフェロイドのサイズが、同一の培養条件下で維持された場合に均一になることを確実にするような方法で行われる。複数のチャンバーに細胞を分配することは、各々がチャンバーに通じている複数のチャネルに枝分かれしている1つの開口部を通じて均一な細胞の懸濁液を導入すること、各チャネルを通る並流を使用すること、又は各チャネルに面しているバルブを別々に使用すること、を含む幾通りかの方法で達成され得る。
【0024】
あるいは、各チャネルの別々の開口部を通して又は直接的なチャンバーへの別々の開口部を通して、均一な細胞の懸濁液が同量、導入される。細胞は、手動のシリンジ又は単一若しくは複数の出口を有する空気式操作されるシリンジを介して導入されてもよく、HTS設定で生物学的試薬を分配するのに一般的に使用されるような自動化された液体ハンドリングデバイスによって導入されてもよい。スフェロイド培養チャンバーは、アガロース(23)又は他の生体高分子の非接着性の静置層で被覆されていてもよい。各チャンバーに同数又はほぼ同数の細胞を分配することは、各チャネルまで細胞を導くために同一期間一定の流速を維持すること、次に、過剰な細胞がチャネルから洗い流される間、バルブを使用して流体の流れからチャンバーを遮断すること、を含む幾通りかの方法で達成され得る。あるいは、同数の細胞のチャンバーへの分配は、チャンバーの窪み又は排水ますを充填することによって達成される。後者の場合では、チャンバーが充填されるまで、層流特性が生じるような低流速で細胞が導入され、次に、流体の通路は一様に水平であって図9及び10に図示するように排水ますには入らないように上昇させた流速で、培地又は洗浄液を用いてチャネルをすすぐことによって、チャネルから細胞が取り除かれる。このアプローチのバリエーションでは、排水ますが底部にフィルターを含み、層流を排水ますの底部から出して、細胞を保持することができる。
【0025】
(実施例2:更なる成長及び解析のための、均一なサイズのスフェロイドのチャンバーへの分配)
MSデバイスでのスフェロイドのイニシエーションに代わる方法として、標準的な細胞培養方法によって(寒天プレート上又はスピナーフラスコ中で)スフェロイドが増殖されて、流体の流れを用いて、そのスフェロイドを微小規模のデバイスのチャンバーに分配してもよい。均一なサイズのスフェロイドは、ふるいとして働く流体通路のフィルター、漏斗又は障壁などの物理的構造の使用によって獲得することができる。例えば、図3及び4は、そのような物理的構造又は障壁が微小流体デバイスのチャネルに存在することにより、流体を通すことは可能であるがスフェロイドは通せないことを示している。同様に、図9は、チャンバーの緯線方向切断図を示して、均一なサイズの細胞又はスフェロイドを同じ数で分配するための異なる方法を示している。このように、漏斗が用いられる場合、所望のサイズよりも大きいスフェロイドは、漏斗の大きい開口部にはまり込めないため、全てチャンバーを通り抜け、所望のサイズよりも小さいスフェロイドは漏斗の小さい端を通り抜ける。
【0026】
(実施例3:スフェロイドの培養)
ここでは、同様に、スフェロイドを培養するための種々の技術を仮想的に例示する。ひとたびスフェロイド又は代用組織集成体がチャンバー内に存在すれば、チャンバーを通して培地を流すことによって、栄養素が補充され、廃棄産物が取り除かれて、前記スフェロイド又は代用組織集成体が培養される。流速は、スフェロイドの微小環境内の増殖因子及び他の可溶性シグナル伝達分子がスフェロイドから洗い出される前にその機能を実行するのに充分な程度に遅くする。このようにして、各チャンバーで基本的に同一な微小環境が維持され、スフェロイドが形成され、同一速度で増殖し、類似的に発達することを可能にする。ある場合では、スフェロイドの発達の同一時点で、培地の種類又は幾つかの構成成分を変えることが望まれ得る。必要に応じて、スフェロイドの形成作用を試験することを目的として、幾つかのチャンバーが異なる成長条件又は可溶性因子に供されてもよい。同様に、基底膜成分及び/又は繊維芽細胞若しくは免疫細胞などの支質細胞の存在下でスフェロイドを培養することが望まれる場合もある。その場合は、未処理のスフェロイド又はスフェロイド細胞の導入に先立って、基底膜及び支質細胞がチャンバー内に流入される。
【0027】
(実施例4:スフェロイドの解析)
本発明によると、上述のように培養したスフェロイドをサイズ又は全体的な形態学的特性について解析することが考えられ、そのような解析は一般に顕微鏡を用いて行われ、そのような目的では、スフェロイドがMSデバイス中に静止している状態で観察され得る。
あるいは、PDMSなどの軟質ポリマーマトリックスがMFデバイスを成型するために用いられる場合、個々のチャンバー中のスフェロイドは、穿孔装置又は切断装置を用いてデバイスから摘出して、丸のままで、又は薄切り、固定、酵素消化、染色、及び/又は他の組織及び細胞調製法に続けて、詳細な形態学的及び組織学的解析を行うことができる。あるいは、基底膜及びECM基質の酵素消化を用いて、スフェロイドをチャンバーから個々に遊離することができ、その内容物は解析のために収集される。スフェロイド細胞増殖の阻害又は刺激は、MTS比色法(Promega Corporation, Madison, WI)を用いて直接測定することができる。MTS試薬が、一般的な流体ハンドリングシステムを通じて導入されて、MSデバイス中で吸光度の変化が直接測定されてもよい。加えて、その他多数の実験上のアウトプットは、MSデバイス中で、又はスフェロイドの放出に続いて、測定することができる。そのようなアウトプットとしては、遺伝子の発現パターン、特異的な酵素活性又は細胞表面受容体の存在、可溶性因子の分泌などのような、腫瘍形成状態の目安を示すアウトプットが挙げられる。そのようなアウトプットを測定する方法は充分に確立されており、免疫化学、DNA又はRNAハイブリダイゼーション、レポーター蛋白質の利用及びレポーター基質の利用が挙げられ、主に比色分析、発光検出法及び蛍光検出法を含む。
【0028】
(実施例5:癌のモデルとしてのスフェロイド)
in vitroの腫瘍モデルとしてのスフェロイドの使用を記載している開発途中の文献が多数存在している(2、3)。単型(monotypic)及び異型(heterotypic)いずれのスフェロイドも、腫瘍モデルとしての有用性が証明されている。異型スフェロイドは、腫瘍の微小環境において異なる細胞型間の相互作用を研究する能力を提供する(3)。悪性細胞からなる単型スフェロイドは、単一性の利点を提供し、腫瘍早期の初期の無血管段階を効果的に表すことができる。単型スフェロイドは、固定した非接着性のアガロース層の上に腫瘍細胞の単一細胞懸濁液を播種することによって、調製することができる。3〜8日後に、スフェロイドは300〜400 nmのサイズに達する。
新たな薬物療法を試験するための実験では、スフェロイドの直径の小さな差異が体積及び形態上の特性に劇的な効果を有することから、スフェロイドは全て同一サイズであることが重要であると予測的に考えられる。したがって、本発明のスフェロイドは、スフェロイドの解析前に、一連の障壁を用いてサイズごとに選別されるであろう。
【0029】
(実施例6:被検作用物質のハイスループットスクリーニング)
同様に、ここでは、腫瘍を刺激する病因的作用物質と、腫瘍を抑制する見込みのある薬物とをハイスループットスクリーニング(HTS)する方法が仮想的に例示される。微小規模流体ハンドリングデバイスは、スフェロイド培養物を解析するために使用されることが想定され、このデバイスは、HTS設定で生物学的応答を定量するのに用いられる吸光度、蛍光、発光又は他のシグナルを測定するための既存の計測器に適合できるであろう。解析装置は、スフェロイドをイニシエートする及び/又は成長させるのに使用されるデバイスと同一のものであってもよく、解析に先立ってスフェロイドが移動させられる別個の装置であってもよい。試験及び解析のためのスフェロイドは、MSデバイスのチャンバーに、既存のマルチウェルプレート(24、96又は384ウェルプレートが挙げられるが、これだけに限られない)と一致するパターンで存在するであろう。
【0030】
あるいは、微小流体デバイス中のスフェロイドを解析するのにより適切な、新たな計測器が開発されてもよい。チャンバーはチャネル中の窪み又はウェルであるか、あるいは、チャンバーは遮断物又は壁によって隔離されている。前記窪みは再構成された基底膜で被覆されており、場合によっては、繊維芽細胞及び/又は細胞外基質を作っている他の種類の支質細胞が播種されて、in vivo条件を模倣する。腫瘍細胞株からなる単型スフェロイドはサイズについて選別されて、特異的なサイズ範囲内にあるスフェロイドは、チャネル内のチャンバーに堆積される。前記スフェロイドは基底膜に付着して、その成長及び形態が顕微鏡によってモニタリングされる。スフェロイドが試験に最適なサイズに達すると、被検作用物質が非対照スフェロイドまで導かれる。全てのチャンバーは共通の液体ハンドリングシステムを共有しており、各チャンバーは別々に扱うことができる。このことを達成する1の手段は、各チャンバーに通じる別々のポート及びチャネルを使用することである、別の手段は、バルブを使用することである。非対照スフェロイドは被検作用物質に曝露され、一方で、対照スフェロイド及び非対照スフェロイドのいずれも、同一の流速及び生物学的培地に曝露される。スフェロイド細胞増殖の阻害又は刺激は、MTS比色法(Promega Corporation, Madison, WI)を用いて、直接測定することができる。MTS試薬は、共通の流体ハンドリングシステムを通じて導入することができ、薬物候補スクリーニングに現在使用されている24、48又は96ウェル形式を用いて解析基点から吸光度の変化を直接測定することができる。
【0031】
加えて、腫瘍形成状態の目安を示す他の多数の実験上のアウトプットを測定することができ、そのようなアウトプットとしては、遺伝子の発現パターン、特異的な酵素活性又は細胞表面受容体の存在、可溶性因子の分泌などが挙げられるが、これだけに限られない。あるいは、PDMSなどの軟質ポリマーマトリックスがMFデバイスを成形するのに用いられる場合、個々のチャンバー中のスフェロイドを、穿孔装置又は切断装置を用いてデバイスから摘出して、丸のままで又は薄切り、固定、酵素消化、染色、及び/若しくは他の組織及び細胞調製法に続けて、詳細な形態学的及び組織学的解析を行うことができる。あるいは、基底膜及びECM基質の酵素消化を用いて、スフェロイドをチャンバーから個々に遊離することができ、その内容物は解析のために収集される。
【0032】
(実施例7:液相光重合を用いた、哺乳動物組織再構成用の2区画デバイスの組立て)
近年の液相光重合の発展により、微小流体デバイスの全体的な設計及び組立てのサイクルが数分間にまで減少されており、プロトタイプを開発する過程の間に数多くのデバイスを製造及び試験することが可能となった(30)。そのような反復するアプローチは、本発明によって説明されるような複雑な生物学的システムを内蔵するデバイスを造るのに、特によく適している。
微小流体デバイスを構築するために、プレポリマー溶液がチャンバー内に流し込まれて、設計されたチャネル又は他の開口部の場所の光重合を防ぐマスクを介して、UV光に曝露される。チャンバーの側面及び底部は、顕微鏡スライドに接着する接着性のガスケットによって形成され、上端部はポリカーボネートフィルムである(図6)。接着性のガスケットは空洞の高さを維持し(125 μmの増分)、ポリカーボネート上端部の可とう性は、ポリマー溶液の固有の収縮に順応する。多層式のデバイスは、先の層の上端の上に(いずれのチャネル構成を有することが所望されても)この組立て過程を繰り返すことによって構築される。水平なチャネル層の間の相互連結は、ポリカーボネート上端部の前もって打ち込まれた穴(これらの穴は、上端層の上のインプットポート及びアウトプットポートの部位となる)と並んでいる光ポリマーの穴を介することによって達成される。このような様式で、次の上端の上に、どのような数の層でも組立てることができる。
多孔性のポリカーボネートフィルターを図12に示すようなデバイスに一体化することが想定される。前記デバイス中のフィルターは、2つのECM/細胞の層を物理的に支持するために用いられ、また一方では、可溶性分子の自由拡散を可能にしている。第一の層は中央に通り穴が開けられており、下にチャネルのネットワークが形成されている。第二の層を作製する前に、前記通り穴の上部にフィルターが置かれて、表面に接着剤で固定される。次に、先に説明したのと同じ積層技術を用いて、上方のチャネルがフィルターの周囲に築かれる。
【0033】
さらに、図12に示す三重層構造のデザイン(これらは支質-上皮共培養集成体に使用される)を組立てるのに、液相光重合を用いることが想定される。光重合プロセスのため、ポリエチレングリコールジアクリレートがプレポリマーとして用いられ、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン(Irgacure 2959, Ciba, Inc.)が光開始剤として用いられ;これら成分のいずれも、哺乳動物細胞との生体適合性について有効であると認められている(31、32)。要約すると、本発明のデバイスの3つの層は、重合したPEGと可とう性のポリカーボネート上端部とからなっており、ガラススライド上に底部の層から出発して、順々に組立てられる(図8)。各層のため、周辺のガスケット(Hybriwell, Grace BioLabs, Bend, OR)上に置かれたポリカーボネート上端部によって形成されているチャンバー内に、液状のプレポリマーがシリンジによって導入される。チャネルを塗りつぶす(black out)ために、所望のパターンを有するマスクをチャンバー上に置いて覆い、露出しているプレポリマーにUV光(360 nm、2〜10秒、20 mW/cm2)を照射して、過剰なプレポリマーを蒸留水でチャネルから洗い流す。5 μmの孔サイズのポリカーボネートフィルター(Osmonics)を、第二の層のインキュベーションチャンバーの底に接着剤を用いて組み込む。ECM又は細胞/ECM混合物の導入の前に、デバイスの3つの層全てが組立てられる。使用されるコラーゲンマトリックスは、実際の細胞培養に使用されるものと同一であり、Vitrogen-100(Cohesion Corp, Palo Alto, CA)及びマトリゲル(商標;Collaborative Research, Inc., Waltham, MA)が挙げられる。
【0034】
(実施例8:微小流体デバイスの別々にアドレス可能な区画における、哺乳動物の上皮細胞オルガノイドと支質細胞との共培養)
別の仮想的な実施例として、微小流体デバイスの別々にアドレス可能な区画で哺乳動物の上皮細胞オルガノイドと支質細胞とを共培養できることが想定される。MCF10A及びその亜系は、広く3D培養に使用されており(11)且つ維持するのが比較的簡単であることから、哺乳動物上皮細胞株として用いることができると考えられる。MCF10Aは乳房繊維嚢胞病を患った女性から単離された、自発的に不死化した細胞株であって、悪性でないと考えられているたった3つのヒト乳房上皮細胞株のうちの1つである(33)。MCF10Aの亜系の幾つかは、H-ras及びErb-Bのファミリーのメンバーのような癌遺伝子の導入によって悪性にされている(21、33、34、35)。このような亜系の利用は、遺伝的にマッチしている正常細胞及び悪性細胞を用いたオルガノイドの挙動を比較することを可能にする。支質細胞起源のヒト乳房繊維芽細胞株は商業的に入手可能ではなく、この分野領域における基礎研究の大部分は、初代単離物を用いて行われている。ヒト組織を入手し処理すること及び初代培養物を維持することが非常に困難である場合は、非常によく特徴付けられているマウス繊維芽細胞株であるNIH3T3細胞を用いることができる。また、正常乳房皮膚に由来するヒト繊維芽細胞株(CCD-1086Sk、ATCC No.CRL2103)は、初代繊維芽細胞培養物の妥当な代替品である。CCD-1086Sk細胞は不死化されていないが、少なくとも23回の倍加を行うことができる。NIT3T3細胞は、100 mmプレート上で単一層として、10%仔ウシ血清を含むDMEM中で維持され、1週間に1回継代される。MCF10A細胞は、ウシ胎児血清、増殖因子及び抗生物質を補ったDMEM/F12培地中で単一層として維持され(33、36)、1週間に2回継代される。
【0035】
ECM及び細胞の混合物を含み、適切なサイズを有する支質層及び上皮層をチャンバー内で別々に形成することは、T-ジャンクションを用いることによって達成される(図11B)。簡単に言うと、冷却した水性のコラーゲン/細胞混合液(コラーゲンは4℃にて液状にとどまる)を緯線方向のチャネル内へ流し、経度方向のチャネルに圧力を施して、Tジャンクションの設計によって規定されるサイズを有するコラーゲン/細胞のパケットが押されて分離される。次に、そのパケットはインキュベーションチャンバー内に導かれ(上側の流入ポートと下側の排出ポートとの間に流れを作ることによって)、上側のチャネルと下側のチャネルとの間の結合部に、パケットが37℃にてゲル化できる場所が形成される。ゲル化に先立ち、チャンバー下部を液体でフィルターの底まで予備充填することによって、コラーゲンがフィルターを通って流れるのを防ぐ。典型的な3D培養構築物では、37℃、約15分間で、1〜2 mlのコラーゲンがゲル化する。しかしながら、微小チャネルでは、使用される体積は数オーダーで小さくなり(0.1〜0.5 μl)、従って、向上した熱伝導のため、より速いゲル化が起こり得る。他の制御パラメータは、濃度、pH、温度、及び微小チャネルの寸法である。ゲル化過程のより正確な制御を提供するために、必要に応じて、更なる熱交換チャネルが設計に含まれて、熱的条件の正確な空間的及び時間的制御を提供することもできる。
【0036】
更に、上述する二区画デバイスについて所望される最終的な形式は、乳房小葉終末管の
形態を模倣する、上皮オルガノイドを含むECMの層に隣接する繊維芽細胞のようなECM含有支質細胞層、又は小葉である(図1及び11を参照)。
乳腺のin vivo構造を再現するために、2つのゲル区画が必要とされる。従って、上述するプロセスが一番目に行われて支質区画を形成し、次に、上述するプロセスが繰り返されて、支質区画の上端部の上に第二の上皮区画を形成する。コラーゲンのゲル化はpH、温度及び濃度によって制御されるため、第一の区画を妨害することなく、別の上皮-コラーゲンのパッケージを導入することが可能である。第二のパケット(コラーゲンと混合されている上皮細胞)は、上述するT-ジャンクションを介して導入され、先に形成されている支質区画と接触させられて、ゲル化を可能にされる。第一のコラーゲン層を通って流れる流体は制限されることから、コラーゲンの上端層の堆積は、主としては密度沈降に依存する。粘度及び密度の最適な組合せを見出すために、様々なコラーゲン濃度が試験される。2つの区画が形成された後、それらの区画は各々、別々のチャネルから供給することができる。上皮の培地及び培養試薬は上側のチャネルを介して導入することができ、支質区画の流体は下側のチャネルを介して導入することができる。このようにして、システムの全体的な構造が、2つのチャネルを介して各区画の独立な曝露(露出)を可能にする。
【0037】
支質区画を確立するために、特定の支質細胞株に対して、繊維芽細胞が最初に接着すること、及びECMを覆い被せること又はECM懸濁液に細胞を加えることを含む別個のアプローチを最適化することもできる。異なる材料及び孔サイズのフィルターも、細胞付着について試験することができる。本発明のデバイス中にMCF10A細胞の3Dオルガノイドを樹立するために、充分に説明された、通常の組織培養装置で乳房上皮細胞を3D培養する方法(33、11、36)が適応させられる。基本的なプロトコールは、単一層の細胞培養物を引き剥がすこと及びそれらを商業的に入手可能なマトリゲル(商標;Collaborative Research, Inc., Waltham, MA)と呼ばれるECM材料中に最懸濁することを含む。前記ECM材料は、低温では液体であるが、37℃ではゲルである。MCF10Aのコンフレントな単一層培養物は、37℃にて数分間トリプシン-EDTAを用いて引き剥がされ、遠心分離によってペレットにされ、ダイズトリプシンインヒビターを含むDMEM/F12培地に再懸濁される。再懸濁した細胞は、血球計数板で計数されてから、ペレットにされて、3D-rBM培養物の播種まで氷上に保持される。細胞は、氷冷したマトリゲルで所望の濃度に再懸濁されて、上述するようにシリンジによってrMTSデバイスへ導入される。微小流体デバイスは37℃にてインキュベートされ、マトリゲルを凝固させ、次に、3D細胞-ECM層を覆って、ウェルに液体培地が添加される。微小流体デバイスは、標準的な加湿インキュベータ中で、5%CO2雰囲気にてインキュベーションされる。液体培地は、細胞の生存可能性を維持するのに必要なだけ、頻繁に補給して、オルガノイドの形成を可能にする。MCF10Aオルガノイドは、一般的に、播種後6〜8日間で、完全に形成して成長を停止する(12)。
【0038】
微小流体デバイスに通常の細胞培養法を適応させるのに重要な幾つかのキーパラメータとしては、例えば、播種材料の蒔かれる細胞の数、ECM層の体積/厚さ、及び培地交換の頻度が上げられる。微小流体チャンバーで繊維芽細胞単一層及び上皮オルガノイドを作成するのに必要な細胞の数は経験的に決定され、指針としては、24ウェルプレートに用いられる播種細胞密度からの縮尺が有用である(11)。顕微鏡実験に対しては最小限の厚さ(100 μMより薄い)が最も望ましく、ECM中に部分的に埋め込まれているだけの場合でも、充分な構造を有する上皮オルガノイドが形成されるであろう(3、12)。しかしながら、支質区画及び上皮区画を別々に扱える能力は、層が薄すぎる場合には損なわれ得る。また、微小流体デバイスにおける表面積対体積の比率は、通常の細胞培養の場合よりも大きく、よって、培地及び/又は酸素がより迅速に消費されて、より頻繁な交換か又は一定の流量を必要とする。










【0039】
(引用した刊行物)



【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ヒト乳房組織の構造を示す。乳管は、基底膜と呼ばれている特殊化した細胞層(ECM)の層に覆われている筋上皮細胞の不連続的な層によって取り囲まれている、極性化した上皮細胞からなる。乳管は、ECMプロテオグリカン、糖タンパク質並びに特殊化した細胞型(繊維芽細胞、マクロファージ、脂肪細胞及び内皮細胞を含む)から構成されている支質の緻密層に包埋されている。
【図2】微小流体チャネル内部のフローパターン(流れ方式)を示す。接触して流れている2つの流れは、拡散による場合を除いて混合しないであろう。2つの流れの接触時間が増加するにつれて、2つの流れ間の拡散の量は増加する。スフェロイド1の上端部分及び下底部分は、赤道軸にわたるはっきりした境界で異なる被検作用物質に曝露されており、スフェロイド2は上端から下底への勾配に曝露されている(A)。流体は、1の方向に流れて、最小限の漏出で直角なチャネルへ流れ込む。次に、流体が2の方向に流されて、流体のパケットを流れ1から取り出してチャネルを流すことを可能にし、流体パケット中の可溶性因子の短いパルスにスフェロイドを曝露することができる(B)。
【図3】流体の通過は可能であるがスフェロイドは通過できない、チャネルの狭い区域の平面図を示す。
【図4】スフェロイドがそれ以上移動するのを防ぐ、チャネルの底部の障壁の断面図を示す。
【図5】微小チャンバーに播種された繊維芽細胞に付着しているスフェロイドを示す。
【図6】培養フラスコ及び微小チャネルにおける、スフェロイドの挙動を示す。確立されているいずれの微小環境も、培地の大きな容積のため、拡散していってしまうであろう(A)。微小チャネルでは、スフェロイドを取り囲んでいる多くはない培地が存在しており、従って、微小環境での拡散の効果が減少する(B)。
【図7】スフェロイドの発達及び組織化を示す。同心の成長パターンが早期の無血管腫瘍を模倣しているスフェロイドの断面図を示す(A)。再構成された基底膜を覆って乳房小葉様の構造発達を誘導する乳房上皮細胞からなるスフェロイドを示す(B)。支質コアを取り囲んでいる上皮細胞及び基底膜による、管及び血管エレメントの形成を示している異型スフェロイドを示す(C)。
【図8】多数のスフェロイドに同一の微小環境を提供し、且つ個別に試験及びサンプリングを行うことが可能な、複数のチャネル及びチャンバーを有する微小規模デバイスの一部分を示す。
【図9】均一なサイズの細胞又はスフェロイドの同数を分配するための異なる方法を示している、チャンバーの緯線方向断面図を示す。
【図10】基底膜及びスフェロイドをチャンバーまで導くことのできる方法を示している、チャネル及びチャンバーの縦断面図を示す。
【図11】隣接する区画で上皮オルガノイド及び支質繊維芽細胞を共培養するための微小流体デバイス(A)及び試薬の離散的なパルスの送達を可能にするために用いられるT-ジャンクション(B)の概略を示す。矢印はデバイスのチャネルを通って流れる流れの方向を指し示している。2つの区画は、上方のチャネルを介して細胞/コラーゲン懸濁液をインキュベーションチャンバーへ流し込むこと及びコラーゲンがゲルになるまで温度を上昇させることによって、連続的に形成される。支質層は、微小多孔性フィルター(点線)によって支持されている。上方及び下方のチャネルは、各区画の対象因子への曝露を別々に制御する能力を提供する。
【図12】隣接する区画で上皮オルガノイド及び支質繊維芽細胞を共培養するための微小流体デバイスの詳細な図(具体的には(A)側面図と(B)平面図)を示す。材料の3つの層はブラケット(括弧{})によって指し示されており、その番号は組立ての順序を指し示す。各層は、約300 μmの厚さである。上皮流体チャネル、支質流体チャネル、及び底部にフィルターを有するインキュベーションチャンバーは、PEGジアクリレートの液相光重合を用いて組立てられる。前記フィルターは、ECM(コラーゲン)に埋め込まれた細胞の両方の層を支持しており、可溶性の分子の自由な通過を可能にしている。ECM中に懸濁されている細胞の層は、上皮流体チャネルを介して導入され、デバイス中でゲル化することができる。矢印は、チャネルを流れる流れの方向を指し示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流体デバイスと少なくとも1つの三次元多細胞性代用組織集成体とを含む微小規模の流体ハンドリングシステムであって、
前記デバイスが、前記システムの組織集成体の各々をイニシエート、培養、操作及び検定するのに使用される、前記流体ハンドリングシステム。
【請求項2】
デバイスが少なくとも1つの微小流体チャネルと少なくとも1つのチャンバーとを含み、前記チャンバーの壁は細胞層で裏打ちされており、前記デバイスのチャネル及びチャンバーの各々を通って液体培地が流れる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
少なくとも1つの多細胞性代用集成体がスフェロイドである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
デバイスが、液相光重合、電気マイクロモールディング、及びシリコン/ガラスミクロ機械加工からなる群より選択される方法を用いて組立てられている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
デバイスが、ポリジメチルシラン、イソボロニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロゲル、ガラス及びシリコンからなる群より選択される化合物を含む組立てデバイスである、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
スフェロイドが、支質の上皮細胞浸潤、上皮-間葉移行、又は血管新生を介する腫瘍発生過程をモデリングするのに用いられる、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
スフェロイドが、乳房の腫瘍発生におけるin situ腺癌腫から浸潤癌への移行をモデリングするのに用いられる、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
スフェロイドが病状をモデリングするのに用いられる、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
病状が癌である、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
癌が乳癌である、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
多細胞性代用組織集成体をイニシエート、培養、操作及び検定するための微小流体デバイスであって、
少なくとも1つの微小流体チャネル、少なくとも1つのチャンバー及び少なくとも1つのスフェロイドを含み、前記チャンバーの壁は細胞層で裏打ちされており、デバイスのチャネル及びチャンバーの各々を通って液体培地が流れる、前記デバイス。
【請求項12】
少なくとも1つのスフェロイドが非対照スフェロイド及び対照スフェロイドを含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
非対照スフェロイドの導入及び抽出のための少なくとも1つのポートを含む、請求項12のデバイス。スフェロイドの移動を促し且つ栄養状態を助けることができる細胞の滋養になる試薬を有する。
【請求項15】
液体培地が、可逆的な、継続的な又はパルス状の流速を有する、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
スフェロイドを所定の位置に保持するのと同時に前記スフェロイドを通り過ぎた培地の流れを維持するための、少なくとも1つの障壁を含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
スフェロイドを選別するためのスフェロイド選別障壁をさらに含み、選別がサイズによって行われる、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
少なくとも1つのチャネルが培地の多成分層流動流を確立するために用いられ、培地の少なくとも2成分がスフェロイドの別個の部分に接触できる、請求項15に記載のデバイス。
【請求項19】
スフェロイドが、脂質の上皮細胞浸潤、上皮-間葉移行、又は血管新生を介する腫瘍発生過程をモデリングするのに用いられる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
スフェロイドが、乳房の腫瘍発生におけるin situ腺癌腫から浸潤癌への移行をモデリングするのに用いられる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項21】
スフェロイドが、病状をモデリングするのに用いられる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項22】
病状が癌である、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
癌が乳癌である、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
少なくとも1つのチャンバー、少なくとも1つのチャネル又はそれらの組合せが、スフェロイドの形成及び成長を惹起する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項25】
少なくとも1つのチャンバー、少なくとも1つのチャネル又はそれらの組合せに、繊維芽細胞が播種される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項26】
チャンバー及びチャネルに播種された繊維芽細胞が、スフェロイドを培養するのに用いることができる、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
スフェロイドが異型スフェロイドである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項28】
スフェロイドが細胞からなっている、請求項11に記載のデバイス。
【請求項29】
細胞が、繊維芽細胞種、内皮細胞種、正常上皮細胞種及び新生物発生前上皮細胞種からなる群より選択される、請求項28に記載のデバイス。
【請求項30】
多細胞性代用組織集成体をイニシエート、培養、操作及び検定するための微小流体デバイスであって、
細胞層で裏打ちされている2つの隣接するチャンバーを含み、各チャンバーは別個の組織を表すスフェロイドを含み、また各チャンバーは組織に特異的な液体培地を含む、前記微小流体デバイス。
【請求項31】
細胞が上皮細胞、支質細胞、又は2つの異なる細胞の共培養物である、請求項25に記載のデバイス。
【請求項32】
細胞が乳房起源の細胞である、請求項31に記載のデバイス。
【請求項33】
細胞が、コラーゲン、マトリゲルなどの合成若しくは天然のECM混合物、及びそれらの混合物からなる群より選択される細胞外基質(ECM)に埋め込まれている、請求項31に記載のデバイス。
【請求項34】
細胞の種類が、初代培養物又は樹立された細胞株、正常な又は悪性の細胞、及び疾患過程の種々の段階を表している細胞からなる群より選択される、請求項31に記載のデバイス。
【請求項35】
細胞の種類が乳房細胞である、請求項31に記載のデバイス。
【請求項36】
腫瘍発生過程をモデリングするために請求項11に記載のデバイスを使用する方法であって、
前記過程は、上皮細胞による支質区画の浸潤、上皮-間葉移行又は血管新生を含む前記方法。
【請求項37】
腫瘍発生過程が、乳癌でのin situ腺癌腫から浸潤癌への移行である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
スフェロイドが、新生物プログレッションのモデルとしての機能を果たす、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
代用組織集成体を用いて被検作用物質のハイスループットスクリーニングを行う方法であって、
流体流動チャネル及びチャンバーを含む微小流体デバイスを作製する工程;
哺乳動物細胞の複数の細胞型の代用組織集成体を作製する工程;
デバイスのチャンバー内に代用組織集成体を配置する工程;
被検作用物質を、流体流動チャネルを通じて代用組織集成体まで導く工程;並びに、
代用組織集成体の応答を観察する工程;
を含む前記方法。
【請求項40】
応答が、スフェロイド成長の変化、遺伝子発現の変化、酵素活性の変化、細胞マーカーの変化、スフェロイドから分泌される産物の変化、観察される形態変化、組織浸潤及び転移における変化、又はそれらの組合せである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
応答が、成長シグナルの自給率、成長阻害に対する非感受性、血管新生、アポトーシスの回避、組織浸潤及び転移、又はそれらの組合せを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
被検作用物質に対する多細胞性組織の反応を模倣するためのハイスループットスクリーニングシステムであって、
複数の流体流動チャネルと複数個のチャンバーとを有する微小流体デバイス;及び
生きている哺乳動物細胞の生物学的特徴を備えている複数の代用組織集成体;
を含み、代用組織集成体の各々は前記チャンバーの1つに位置している、前記システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−501633(P2007−501633A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532811(P2006−532811)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014092
【国際公開番号】WO2004/101743
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505289443)ベル ブルック ラブズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】