説明

微小試料の蛍光検出方法および装置

【課題】マイクロアレイ等の高密度で多数な蛍光スポット測定を高感度かつ迅速に行い、全自動で数値データ化を可能にする方法および装置を提供する。
【解決手段】微量試料に励起光を照射し、前記試料から得られる蛍光を検出して、試料の状態を検査する方法。前記励起光が光パターン生成手段で生成された光である。光パターン生成手段、微小反応容器または微小スポットを有する器材の保持部、および蛍光検出手段を含む蛍光検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小試料の蛍光検出方法および装置に関し、より具体的には、マイクロアレイ等の高密度で多数な蛍光スポット測定を高感度かつ迅速に行い、全自動で数値データ化を可能にする方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム創薬や機能性分子の探索など分子レベルでの医療が発展するにつれてDNAアレイやプロテインアレイなど高速スクリーニング技術がますます重要性を増してきており、世界的な激しい競争の中でより早く、より確実に目的の生理活性物質を見つけ出す手法の開発が重要課題となっている。このような高速スクリーニング技術は医療分野だけでなく食品分野における安全や品質の管理、環境分野における公共安全性の確保や工場プロセス管理など、様々な分野における研究開発、診断、検査、管理などに適用されつつあり、大きな産業ニーズとなっている。
【0003】
このような分野では多種類の微量検体を1つの基板上で分析するアレイ技術が広く用いられている。より高い並列性と高い感度を持つアレイ分析装置を用いることができれば検査を短時間で終えて結果を得ることが可能であるため、創薬への応用であればいち早く分子探索を終えて知的財産権を確保することが出来る。また、医療や食品、環境への応用でも迅速な分析が健康を守るための有効な手段となることが考えられる。
【0004】
また、このアレイ分析技術は高い汎用性があるため未知の機能性分子を探索するだけでなく、より一般的な生化学分析などにもそのまま利用可能である。例えばバイオ関連機器ビジネス、バイオ関連受託研究ビジネス、診断・検査サービスビジネスなど、様々な場面で利用可能な技術シーズになる。
【0005】
アレイ分析装置では高い並列処理性と高い検出感度という2つの技術上のポイントがあり、この2つを同時に向上させることで国際的に高い競争能力を持つ製品を開発することが出来る。まず、並列処理性が高ければより多くの検体を同じ条件下で分析することが可能であり、検査対象が膨大な数であっても、1回の分析で結果を出せるようになれば、分析精度を向上が可能となる。また、検出感度が非常に高くなれば検体の培養/増幅に必要となる時間を省略できるため、検査全体を短時間で終えることが出来る。また、医療や食品分野への応用を進めるには装置そのものの低価格化に加えて、使い捨て可能な検査部位、低い運用コストが重要となる。
【0006】
現在最もよく使用されている従来法ではマイクロプレートとして数万穴(数万サンプル)の試作品も存在するが、実用的には1500穴程度が限界であり、400穴程度が最も良く使用されている。これはプレート上での微量サンプルの扱いが難しいこと、および、マイクロプレートリーダーのCCD検出感度の限界による制約があるためである。
【0007】
従来のマイクロプレートのプロセスである(1)最新型の超高感度CCDによって高感度化する手法(従来法CCD)(非特許文献1)、(2)集光レーザーを用いて行う手法(従来法レーザー)(非特許文献2)、(3)半導体LSI技術により励起光源、検出素子などを単一基板上に集積化するセンサアレイの手法(開発途上)(非特許文献3)の特徴と機能性を表1に示す。
【0008】
【表1】

【非特許文献1】K.L. Rogers, W.F. Fong, J. Redburn, L.R. Griffiths, "Fluorescence detection of plant extracts that affect neuronal voltage-gated Ca2+ channels", European Journal of Pharmaceutical Sciences 15 (2002) pp.321-330
【非特許文献2】D.S. Mehta, C.Y. Lee, A. Chiou, "Multipoint parallel excitation and CCD-based imaging system for high-throughput fluorescence detection of biochip micro-arrays", Optics Communications 190 (2001) pp.59-68
【非特許文献3】L. Rebohle, T. Gebel, R.A. Yankov, T. Trautmann, W. Skorupa, J. Sun, G. Gauglitz, R. Frank, "Microarrays of silicon-based light emitters for novel biosensor and lab-on-a-chip applications", Optical Materials 27 (2005) pp.1055-1058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術の問題点として以下を挙げることができる。
(1) CCD画像として情報を得る手法の場合、蛍光強度が高ければ高速処理が可能だが、超微弱光を観測するには1回の測定に数時間〜数十時間かかるという問題点がある。また、高密度なマイクロプレートの観測には顕微CCDが用いられるがステージ移動が必要であるため高速測定のメリットはなく、コストも高くなる。
【0010】
(2) 一様な励起光を基板全体に照射する場合には基板全体をガラスなどの蛍光を発しない材料で構成する必要があり、プラスティックのような安価な材料は使用できない。
【0011】
(3) 集光レーザーを掃引して反応容器を個別に照射する場合、レーザー照射の位置決めに非常に高い精度が要求され、装置のコストが高くなる。また、高密度なマイクロプレートを自動測定するためには測定前の位置補正の検査も必要となるため運用にかかる作業コストも高くなる。
【0012】
そこで本発明の目的は、マイクロアレイ等の高密度で多数な蛍光スポット測定を高感度かつ迅速に行い、全自動で数値データ化を可能にする方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
[1]微量試料に励起光を照射し、前記試料から得られる蛍光を検出して、試料の状態を検査する方法であって、
前記励起光が光パターン生成手段で生成された光である、方法。
[2]微量試料が、単一の基板上に複数の微小反応容器が設けられた部材における、微小反応容器内の試料である[1]に記載の方法。
[3]微小反応容器の容量が1pL〜100μLの範囲である[2]に記載の方法。
[4]微量試料が、単一の基板上に複数の微小スポットが設けられた部材における、試料の微小スポットである[1]に記載の方法。
[5]微小スポットの直径が、10μm〜5mm の範囲である[4]に記載の方法。
[6]光パターン生成手段が光源と光パターン生成部とを含む[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]光パターン生成部が、デジタルミラーデバイス、マイクロミラーアレイ、マイクロシャッターアレイ、または液晶素子である[6]に記載の方法。
[8]蛍光の検出を光量子計測または電流電圧変換回路を用いて行う[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[9]前記部材が、マイクロアレイ、マイクロチップ、またはマイクロプレートである[2]〜[7]のいずれかに方法。
[10]光パターン生成装置から特定の1つの微小反応容器または微小スポットに励起光を照射し、該微小反応容器または微小スポットの試料から得られる蛍光を検出する[2]〜[7]のいずれかに方法。
[11]励起光を照射した特定の1つの微小反応容器または微小スポットの番地と、該微小反応容器または微小スポットの試料から検出された蛍光に関する情報とを関連づけて記録する、[10]に記載の方法。
[12]関連づけて記録した情報を表示または印刷する、[11]に記載の方法。
[13]光パターン生成手段、
微小反応容器または微小スポットを有する器材の保持部、および
蛍光検出手段
を含む蛍光検出装置。
[14]光パターン生成手段が光源と光パターン生成部とを含む[13]に記載の装置。
[15]光パターン生成部が、デジタルミラーデバイス、マイクロミラーアレイ、マイクロシャッターアレイ、または液晶素子である[14]に記載の装置。
[16]光パターン生成手段が、光パターン生成部からの光を、前記器材の微小反応容器または微小スポットに集光するための手段をさらに含む[14]または[15]に記載の装置。
[17]蛍光検出手段が、光量子計測機または電流電圧変換回路を有する機器である[13]〜[16]のいずれかに記載の装置。
[18]検出した蛍光に関する情報と光パターン生成手段が、励起光を照射する微小反応容器または微小スポットの番地とを記録する手段をさらに含む[13]〜[17]のいずれかに記載の装置。
[19]記録した情報を表示または印刷する手段をさらに含む[18]に記載の装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、実用レベルで最大の並列処理能力と分析速度を持っており、非常に高い感度を実現できる。また、システム全体として低価格を実現できる技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、微量試料に励起光を照射し、前記試料から得られる蛍光を検出して、試料の状態を検査する方法であって、前記励起光が光パターン生成手段で生成された光であることを特徴とする。
【0016】
マイクロアレイ、マイクロチップ、マイクロプレート等の基板に形成された微小スポットや微小反応容器内に存在する蛍光標識量を測定する場合、従来法では図1(a)の様に基板全体に励起光を均一に照射し、蛍光発光の様子をCCD等の画像撮影により観測していた。本発明は逆転の発想に基づき、図1(b)の様に光パターン生成手段(図では、光パターン生成部、スポット光源および結像光学系)により発生させた励起光スポットを基板(マイクロアレイ)上に照射することで、単一の微小スポットや微小反応容器内の試料だけを選択的に励起させる。試料に蛍光物質が存在する場合、発生する蛍光は光計測装置により蛍光検出することができる。
【0017】
本発明において、微量試料は、例えば、単一の基板上に複数の微小反応容器が設けられた部材における、微小反応容器内の試料であることができる。微小反応容器の容量には特に制限はないが、例えば、1pL〜100μLの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図はない。尚、直径10μm×深さ10μmで1pL程度になる。また、容量100μLは直径5mm×深さ4mmに相当する。さらに、微量試料は、単一の基板上に複数の微小スポットが設けられた部材における、試料の微小スポットであることができる。微小スポットの直径は、例えば、10μm〜5mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図はない。さらに、前記複数の微小反応容器が設けられた部材は、例えば、マイクロアレイ、マイクロチップ、マイクロプレートであることができる。微量試料の量は、そこに含まれる検出されるべき蛍光物質の量やこの蛍光物質が励起されて生成する蛍光量と装置の検出感度を考慮して適宜決定することができる。
【0018】
微量試料の種類にも特に制限はない。例えば、(1) 検体を含む水溶液、有機溶剤、油などの液体、(2) 表面に検体が存在するプラスティックビーズ、磁気ビーズ等を挙げることができる。また、(3)水溶液を注入後に乾燥させて残留物を計測することも可能である。
【0019】
本発明の方法における蛍光の検出については、例えば、光パターン生成手段、微小反応容器または微小スポットを有する器材の保持部、および蛍光検出手段を含む蛍光検出装置(本発明の装置)を用いて実施できる。そこで、以下に、本発明の方法を、本発明の装置の説明とともに記載する。
【0020】
本発明の装置において、光パターン生成手段は、光源と光パターン生成部とを含むことができる。光パターン生成手段は、光パターン生成部からの光を、前記器材の微小反応容器または微小スポットに集光するための手段をさらに含むことができる。また、蛍光検出手段は、光量子計測機または電流電圧変換回路を有する機器であることができる。
【0021】
より詳細には図2に、本発明の1つの実施態様のシステム構成図を示す。このシステムを例に以下説明する。光パターン生成手段である光パターン照射装置10は、例えば、励起光源11、光パターン生成部12、光学系13から構成される。励起光源11は、例えば、高圧水銀ランプ、希ガス放電管、LED、レーザーのいずれか、またはそれらの複合光源およびインテグレータで構成することができ、光パターン生成部を均一照度で照らす働きをする。光パターン生成部12は、例えば、デジタルミラーデバイス(DMD)、マイクロミラーアレイ、マイクロシャッターアレイ、液晶素子のいずれかで構成することができ、単一スポット光または複数のスポット光を生成する働きをする。光学系13は、例えば、プリズム13aまたはミラー13bおよび投影レンズ13cで構成され、光パターン生成部12で生成された光パターンをマイクロアレイ20上の試料に結像させる働きをする。投影レンズ13cとして、例えば、テレセントリック系レンズを使用する事で、より精密な光スポットの照射が可能であると共に、フィルタによる波長選択性を向上させる事が可能である。プリズム13aとミラー13bは同じ作用をするため、どちらか一方を使用する。
【0022】
光パターン照射装置10とマイクロアレイ20との間には、試料に含まれる蛍光物質の励起に適した波長を選択的に透過するためのフィルターを設けることが好ましい。図2では、光学フィルタ41により蛍光物質の励起に適した波長を選択的に透過した光スポットを、ダイクロイックミラー43を介してマイクロアレイ20に照射する。さらに、マイクロアレイ20と光計測装置30との間には、マイクロアレイ20上の蛍光物質からの蛍光波長に適した光学フィルタを設けることが好ましい。図3では、マイクロアレイ上の蛍光物質からの蛍光は、蛍光波長に適した光学フィルタ42を選択的に透過させたのち、蛍光検出のための装置である光計測装置30に到達する。
【0023】
光計測装置30では蛍光強度を測定する。光計測装置は、例えば、光電子増倍管、半導体光検出素子のいずれか、あるいはその両方で構成することができ、蛍光強度を光量子計測(フォトンカウンティング)または電流電圧変換回路を通して計測する。
【0024】
従来の微小蛍光スポット計測のプロセスでは蛍光励起のための光源として均一照度の光源、または集光レーザーによるスポット光源が用いられているのに対して、本発明ではそれらの光源の代わりにDMDなどの光パターンを生成するデバイスを蛍光励起の光源に用いることに特徴がある。
【0025】
均一照度の光源と比較した場合、本発明は測定対象となる特定の1つの微小スポットや微小反応容器内だけを選択的に励起するため、周囲の基板構成材料からの不要な蛍光を生じさせずに高いSN比の測定が可能である。また、多数の微小反応容器の中から特定の容器だけを選択的に励起することから、CCD等による画像観測は不要となる。集光レーザーのスポット光源と比較した場合、本発明は機械的に移動する部分が全く無いため、測定対象の切り替えが非常に高速である。
【0026】
本発明の装置は、検出した蛍光に関する情報と光パターン生成手段が、励起光を照射する微小反応容器または微小スポットの番地とを記録する手段をさらに含むことができる。そのような手段はコンピューターであることができる。このコンピューターを光パターン生成手段および光計測装置と連動させることで、励起光を照射した特定の1つの微小反応容器または微小スポットの番地と、該微小反応容器または微小スポットの試料から検出された蛍光に関する情報とを関連づけて記録することができる。さらには、記録した情報を表示または印刷する手段をさらに含むこともできる。この手段は、コンピューターに接続されたディスプレイまたはプリンターであることができる。これにより、関連づけて記録した情報を、表示または印刷することができる。
【0027】
さらに本発明の光パターン照射システムをマイクロアレイ作成時のフォトリソグラフィ装置としても用いることができる。
【0028】
マイクロアレイとして、内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を、本発明の光パターン照射システムを用いて製造する方法について以下に説明する。
【0029】
まず、ゲル構造物は、内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するものであり、これら溝、部屋及び流路は、ゲル構造物の内部のみに存在しても、表面のみに存在しても、内部及び表面の両方に存在してもよい。製造されるゲル構造物は、例えば、マイクロ流路反応器、マイクロベッセル、マイクロカプセル等であることができる。
【0030】
ゲル構造物の製造方法では、溝及び/又は穴を有するゲル状シート(ゲル状シートA)と、溝及び穴を有さないゲル状シート(ゲル状シートB)を用いる。ゲル状シートAは、光重合性モノマー及び光重合開始剤を含有するモノマー組成物の層に、本発明の光パターン照射システムを用いて、部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化し、次いで光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して作成する。光重合性モノマーは、光重合性を有するモノマーの単独でも、混合物でもよい。光重合性モノマーは、例えば、アクリルアミドであることができる。光重合開始剤は、使用する光重合性モノマーの種類に応じて適宜選択することができる。光重合性モノマーがアクリルアミドの場合、例えば、リボフラビンを用いることができる。
【0031】
上記モノマー組成物における光重合性モノマーと光重合開始剤の混合比は、例えば、アクリルアミド10〜20%のゲルを作成する場合には、例えば、0.005%のリボフラビンを含むモノマー組成物を用いることができる。
【0032】
上記モノマー組成物は、粘度調整剤をさらに含有することができる。粘度調整剤は、モノマー組成物の粘度を上昇させ、光重合の際のモノマー組成物の移動を制限し、ゲル状シートAへの溝及び/又は穴の形成をより高い精度で行うことに役立つ。このような観点から、粘度調整剤は、モノマー組成物(溶液)に添加されて、モノマー組成物の粘度を上昇させることができる物質であれば、特に制限はない。但し、ゲル構造物を利用する際に、ゲル構造物内の空間に保持されるであろう、例えば、生体試料に対して、阻害効果等の悪影響を与えることの無い物質から適宜選択できる。このような観点から、粘度調整剤は、例えば、糖類、グリセリン類、ポリエチレングリコール(PEG)、フィコール、パーコール等であることができる。さらに、糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、アミロース等を挙げることができる。
【0033】
モノマー組成物は、適当な容器内で、層状(シート状)において、これに部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化する。重合用光の波長は、光重合開始剤の種類に応じて適宜決定できる。また、重合用光の照射時間や強度も、モノマー組成物もどの程度重合させるかを考慮して適宜決定できる。後述するように、ゲル状シートAは、未重合の光重合性モノマーが残存する程度に光重合されたものとし、このようなゲル状シートAをゲル状シートBと貼り合わせ、さらに未重合の光重合性モノマーを重合させて貼り合わせを完了させることができることから、この点も考慮して、重合用光の照射時間や強度は決定される。
【0034】
重合用光の照射は、本発明の光パターン照射システムを用いて、部分的に光未照射部分が形成されるように行われる。重合用光の照射の後、光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して、ゲル状シートAの溝及び/又は穴の形成することができる。未反応のモノマー組成物の除去は、例えば、以下のように行うことができる。中性付近のpHを持つ緩衝液(例えば、50mM Tris-HCl, pH7.4)で洗浄し、未重合のモノマーを洗い落とす。また、直ぐ後に、反応を行うときには、反応に用いる緩衝液を用いてもよい。
【0035】
このように作成したゲル状シートAは、溝及び穴を有さない少なくとも1つのゲル状シート(ゲル状シートB)と貼り合わせることで、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を形成することができる。ゲル状シートBは、重合用光の照射を全面に行うことを除き、ゲル状シートAの作成と同様に行うことができる。
【0036】
これにより、微小反応容器と励起スポット光の位置合わせ精度を著しく向上することが可能である。このことにより、集光レーザーのスポット光源の場合に必要な複雑で高価な位置合わせ機構は本発明では不必要となる。
【0037】
図4に示すように、従来は複数の装置を連携させることでマイクロアレイに関するプロセスを構成していた。それに対して、本発明ではプレートの作成から測定までのプロセスを単一の装置で実現することが可能となる。このことは低コスト化だけでなく、微小反応容器と励起スポット光の位置合わせ精度を著しく向上することが可能であり、測定系SN比の大幅な改善と測定の完全な自動化が可能となる。
【実施例】
【0038】
本発明の応用範囲はマイクロアレイ、マイクロチップ、マイクロプレート等の集積化された蛍光スポットの計測である。
【0039】
実施例1
Black Lightを光源とし、光パターン生成手段で生成された直径1mmの励起光スポットにより10μLの液滴中の蛍光色素標識抗体を検出する実験を行った。光学系は以下に示す最も単純な構成とした。励起光は光学フィルタU360により波長選択をしたのち、疎水化処理を行ったガラス基板上に滴下した10μLの液滴に照射した。蛍光は550nm広帯域干渉フィルタにより波長選択を行ったのち、光電子増倍管により測定を行った。液滴中のローダミン標識goat anti-mouse IgGの濃度を変化させた際の測定器出力電圧を図5に示す。この結果より、抗体を含まない液滴と抗体を含む液滴との判別が明確にできることが判明した。
【0040】
実施例2
超高圧水銀ランプを光源とし、光パターン生成手段で生成された直径1mmの励起光スポットにより、5μLの液滴中の蛍光色素標識抗体を検出する実験を行った。光学系は以下に示す最も単純な構成とした。励起光は430nm干渉フィルタおよび、438nm干渉フィルタの2枚により波長選択をした後、疎水化処理を行ったガラス基板上に滴下した10μLの液滴に照射した。蛍光は550nm干渉フィルタにより波長選択を行ったのち、光電子増倍管により測定を行った。液滴中のAlexa Fluor430蛍光標識goat anti-mouse IgGの濃度を変化させた際の測定器出力電圧を図6に示す。この結果より、微量サンプルを測定する際に濃度依存性を持って測定できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、(1) 創薬などの研究促進(分子進化、アプタマー探索、タンパク質機能解析など)、(2) 検査・診断など医療分野への応用(生化学分析、遺伝子治療など)、(3) 環境汚染物質の管理など環境分野への応用(有害物質の網羅的検査など)が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】従来法による微小スポット等に存在する蛍光標識量を測定の模式図(a)、および本発明の1つの実施態様における蛍光標識量を測定の模式図(b)。
【図2】本発明の1つの実施態様のシステム構成図。
【図3】本発明の1つの実施態様のシステム構成図。
【図4】従来は複数の装置を連携させることでマイクロアレイに関するプロセスの構成の模式図(a)、および本発明でのプレートの作成から測定までのプロセスを単一の装置で行う構成の模式図(b)。
【図5】実施例1で実施した、液滴中のローダミン標識goat anti-mouse IgGの濃度を変化させた際の測定器出力電圧。
【図6】実施例2で実施した、液滴中のAlexa Fluor430蛍光標識goat anti-mouse IgGの濃度を変化させた際の測定器出力電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量試料に励起光を照射し、前記試料から得られる蛍光を検出して、試料の状態を検査する方法であって、
前記励起光が光パターン生成手段で生成された光である、方法。
【請求項2】
微量試料が、単一の基板上に複数の微小反応容器が設けられた部材における、微小反応容器内の試料である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微小反応容器の容量が1pL〜100μLの範囲である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
微量試料が、単一の基板上に複数の微小スポットが設けられた部材における、試料の微小スポットである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
微小スポットの直径が、10μm〜5mm の範囲である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
光パターン生成手段が光源と光パターン生成部とを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
光パターン生成部が、デジタルミラーデバイス、マイクロミラーアレイ、マイクロシャッターアレイ、または液晶素子である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
蛍光の検出を光量子計測または電流電圧変換回路を用いて行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記部材が、マイクロアレイ、マイクロチップ、またはマイクロプレートである請求項2〜7のいずれか1項に方法。
【請求項10】
光パターン生成装置から特定の1つの微小反応容器または微小スポットに励起光を照射し、該微小反応容器または微小スポットの試料から得られる蛍光を検出する請求項2〜7のいずれか1項に方法。
【請求項11】
励起光を照射した特定の1つの微小反応容器または微小スポットの番地と、該微小反応容器または微小スポットの試料から検出された蛍光に関する情報とを関連づけて記録する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
関連づけて記録した情報を表示または印刷する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
光パターン生成手段、
微小反応容器または微小スポットを有する器材の保持部、および
蛍光検出手段
を含む蛍光検出装置。
【請求項14】
光パターン生成手段が光源と光パターン生成部とを含む請求項13に記載の装置。
【請求項15】
光パターン生成部が、デジタルミラーデバイス、マイクロミラーアレイ、マイクロシャッターアレイ、または液晶素子である請求項14に記載の装置。
【請求項16】
光パターン生成手段が、光パターン生成部からの光を、前記器材の微小反応容器または微小スポットに集光するための手段をさらに含む請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
蛍光検出手段が、光量子計測機または電流電圧変換回路を有する機器である請求項13〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
検出した蛍光に関する情報と光パターン生成手段が、励起光を照射する微小反応容器または微小スポットの番地とを記録する手段をさらに含む請求項13〜17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
記録した情報を表示または印刷する手段をさらに含む請求項18に記載の装置。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−78574(P2007−78574A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268483(P2005−268483)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】