説明

微小銀粒子粉末とその製造方法および該粉末を使用した銀ペーストとその利用方法

【課題】粒子径の均整なナノ粒子の大量生産に適した方法を提供することにある。該方法により得られるナノ粒子粉末、及び該ナノ粒子を含んだ分散液ならびに該ナノ粒子を含んだペーストを提供することを目的とする。
【解決手段】有機物からなる保護剤と、銀量に対して1〜1000ppmの銅成分とが存在する銀溶液中で銀を還元する操作を行うことで達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスなどの配線や電極等に好適に使用できる銀粒子、銀粒子含有分散液、ペースト及び該銀粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
100nm未満の粒子径を有する粒子(以降、ナノ粒子という)は、1μm以上の粒子径を有する粒子と比べ、異なった性質を示すことが知られている。最近、電気および電子機器分野ではそのような性質(例えば、粒子同士が低温で焼結すること)を利用して、ダウンサイジング化が図られるようになってきた。
【0003】
ナノ粒子の製造方法としては、大きく分けて液体中で生成させる液相法、気相中で形成させる気相法の2通りがある。気相中での製造は、一般的に高真空状態で製造されることが多く、結果として大がかりな装置が必要である。その結果、初期投資が高くなるとともに、大量生産には向かないという問題を抱えている。一方、液相法では、気相法で生じる問題は少ないものの、生成される粒子にばらつきが大きくなることがあり、用途によっては利用しにくくなる。
【0004】
特にナノ粒子の場合は、金属塩の溶液に対して還元剤を一挙添加する従来の生成方法では、金属粒子の核形成ならびにその成長の制御が容易でなく、粒子径の均整な粒子を得ることが難しかった。
【0005】
さらに、ナノ粒子では粒子間における自然焼結を避けるため、粒子の表面に被覆成分を形成させ焼結防止処置を施す必要がある。この焼結防止処理は、粒子の独立性を保つためには反応の初期段階から必要になる。しかし、こうした表面被覆成分が上述のような一挙に生成反応が進行する環境下で何の処置もなく使用されることは、粒子の均一性を得ることをより難しくする原因になっていた。
【0006】
そうした問題を解消するために、様々な方法が採られてきた。具体的には、還元を緩慢な形態とする方法(例えば、特許文献1参照)や、連続フロー方式の製造方法とすること(例えば、特許文献2参照)などが挙げられる。また、粒子径範囲は異なるが、均一な粒子径の銀フレークを得るために、異種成分(銅)を介在させ粒子径ならびに結晶性を高める技術が示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−146279号公報
【特許文献2】特開2004−068072号公報
【特許文献3】特開2006−111903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1または2においては、粒子径の均一性を得るという面では一定の成果を得ている。しかし、還元を緩慢に進行させる特許文献1のような反応形態は、反応にかなりの時間を費やしてしまうことがあり、大量生産性が望まれる用途では必ずしも好ましいものではない。また、連続生産で行う特許文献2の方法では、特にナノ粒子の場合には突発的に発生する不具合を確認できる手法が少ないので、不良品を大量に生産してしまう可能性がある。したがって、従来知られているような方法では均一性の高い粒子を得ることは難しいといえる。
【0009】
また分散液に着目した場合、例えば特許文献1に記載のあるように、溶媒の置換作業を行う必要があった。更に得られる溶媒における銀濃度は1.5〜9.5%といった比較的希薄なものであるため、利用に適した濃度とするためには濃縮が必要となる。従って、その限外濾過による濃縮工程に時間がかかるという問題があった。そのため、量産性の観点からはさらなる改善が必要なものであった。
【0010】
一方、特許文献3の技術を用いると、バッチ式の反応であって、粒子径の整った粒子が得られることが示されている。しかし、形成できる粒子は300nm程度の粒子径のものにとどまり、ファインピッチの配線を描画するにはやや大きい。また、粒子径を小さくするためには、大量の銅の添加を必要とするとされている。さらに、反応液中における銅の添加量は0.1重量%未満であれば、小粒子径の粒子を得ることができないと記載されている。したがって、本方法を単純に適用しても、ナノ粒子を大量に得ることは困難であると言える。
【0011】
そこで、本発明の目的は、粒子径の均整なナノ粒子の大量生産に適した方法を提供することにある。また、該方法により得られるナノ粒子粉末、及び該ナノ粒子を含んだ分散液ならびに該ナノ粒子を含んだペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らの検討によれば、銀量に対して1〜1000ppmの銅および有機物からなる保護剤を添加した溶液で、銀を還元させることで上記目的が達成されうることがわかった。こうした操作を行うことで、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径が、5〜100nmである、銀ナノ粒子を得ることができるようになる。
【0013】
さらに、低温焼結性を確保するため、金属ナノ粒子表面を被覆する保護剤は炭素数が5〜8の有機酸を使用する。この時の保護剤は飽和の有機酸であっても、不飽和の有機酸でも構わない。
【0014】
本発明は、次のように記述できる。すなわち、銀溶液と保護剤と還元剤とを混合することで銀ナノ粒子を得る反応において、保護剤と還元剤と銀量に対して、1〜1000ppm相当の銅成分を反応液中に混合する工程と、該溶液に銀溶液を添加して表面を有機物で被覆された銀ナノ粒子を析出させる工程とを備える、銀ナノ粒子の製造方法である。
【0015】
より具体的な態様としては、銀溶液と保護剤と還元剤とを混合することで銀ナノ粒子を得る反応において、保護剤と還元剤を混合する工程と、銀溶液と銀溶液中の銀量に対して、1〜1000ppm相当の銅成分を混合する工程と、これらの混合溶液同士を混合し表面を有機物で被覆された銀ナノ粒子を析出させる工程とを備える、銀ナノ粒子の製造方法である。
【0016】
さらに本発明は、得られた銀ナノ粒子を濾過、水洗、乾燥させて金属ナノ粒子凝集粉末を得、該凝集粉末を分散媒に分散させる工程を備えた、銀ナノ粒子分散液の製造方法である。
【0017】
加えて本発明は、該分散液に対して、樹脂を添加する工程が付加された、銀ナノ粒子ペーストの製造方法である。
【0018】
上述の反応を経て得られる物質は、粒子表面が炭素数5〜8の有機物からなる保護剤により被覆され、透過電子顕微鏡写真(以下「TEM写真」または「TEM像」と呼ぶ。)から算出される平均粒子径が5〜100nmであって、1〜200ppmの銅を含有する粉末である。
【0019】
また、該粉末の比表面積は10〜40m/gの範囲にあり、さらにはTEM写真から算出される粒子径の変動係数(CV値(%)=100×標準偏差/平均粒子径)が30%未満である粉末である。
【0020】
さらに、該粉末を溶媒に分散させて得られる分散液と、分散液に樹脂を添加して得られるペーストをも提供する。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示する方法を採用することにより、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径が5〜100nmという微細な粒子粉末を大量に得られるようになる。また、低温焼結性に優れた分散液およびペーストを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図2】実施例3で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図3】実施例4で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図4】比較例1で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図5】実施例8で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図6】実施例11で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図7】比較例6で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図8】比較例7で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図9】比較例2で作製した粒子を174000倍で撮影したTEM像。
【図10】実施例及び比較例で行った5L反応に関する銅成分添加量とBET比表面積の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明の銀粒子製造方法は、反応槽中にて銀化合物溶液と保護剤と還元剤溶液とを混合して還元する銀粒子の製造方法において、該反応系中にごく微量の銅を存在させることを特徴とする。なお、本明細書においては銅成分とは、銅、銅化合物及び銅イオンのいずれか若しくは複数が存在することをいう。
【0024】
本明細書では、溶液中の銀が還元剤との反応により銀に還元されるまでの間に銅成分を混合液中に存在させる工程を銅添加工程という。この時における銅の添加量は、極めて微量で足りるので、その反応スケールによっては既知の濃度の溶液を作成し、反応系に添加する方法が好適となることがある。反応スケールが大きい場合には直接原料である硝酸塩などを添加する方法でも可能であるが、添加後は均一になるまで撹拌することが必要である。添加操作の後、反応液の液温を上昇させる操作を含んでも良い。
【0025】
本発明にかかる製造方法では、反応終了よりも前に銅が存在していれば足りる。しかし、粒子径を均一にするために、反応当初から液中に存在させておくことが望ましい。反応生成物中に銅は粒子中にほとんど取り込まれるものではない。したがって、液中における存在形態には特段制限はないが、反応に均等に関与させるために、溶存状態すなわちイオン化された状態で存在していることが望ましい。ただし、例えば塊状とした場合には、最終段階で不純物として介在しないような手段を付加するのが好ましい。
【0026】
銅成分の添加は、銀化合物溶液、保護剤、還元剤溶液、銀化合物溶液と保護剤の混合溶液及び、還元剤溶液と保護剤の混合溶液のような還元反応実施前の原料溶液の段階で該原料溶液の1つ以上に添加しても良いし、該原料溶液を混合して還元反応を始めてから終了するまでの間でも良い。ただし、還元反応は場合により、数分間という短時間で完了してしまうこともあるため、還元反応中に添加する場合には、還元力が弱いものを選択して実施するのがよい。なお、本発明において反応終了とは反応溶液中からサンプリングした液に還元剤を添加した際に未還元の銀反応が起こらなくなった時点のことを言う。
【0027】
本発明においては、銅成分の添加量は、一定量以上になると効果が飽和する。さらに、本発明において銅成分は還元操作前に溶液中に存在させることになるため、必要以上の添加は銅成分が還元されてしまい、不純物として存在することにもつながる。したがって、本発明のように極めて微細な粒子を形成させるときに不純物である銅を大量に存在させることは適当ではない。そのため、高くとも、添加している銀量に対し1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、より好ましくは200ppm未満とするのがよい。
【0028】
本発明に使用し、ナノ粒子の表面を被覆する有機物は常温で液体であるときは沸点が250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。また、常温で粉末であるときには、沸点とあるのを分解点、あるいは昇華点と読み替えることができる。また、得られた粉末を使用して電子機器用途に使用する時には、不純物が混入しないことが重要であるため、保護剤はできる限り単純な構造となっていることが好ましい。また、カルボキシル基、あるいはヒドロキシル基をその構造中に有するものであるとより好ましい。
【0029】
こうした保護剤の添加形態は、可能な限り均一であることが好ましいので、溶液状にして添加することが好ましい。あるいは、水に対してある程度溶解することが好ましい。ここで、水に容易に溶解しないような物質を使用しようとするときには、反応に影響を及ぼさないことを前提として、例えば水に容易に混和するエタノールへ保護剤を溶解した溶液を用いて添加することも可能である。また、この溶解に際して、溶解液にアンモニア水などを添加して、pH調整あるいは溶解補助剤として使用することも可能である。
【0030】
本発明における保護剤は前記の特性を備えるものであれば特に制限はないが、例としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、安息香酸、サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸程度の長さのものなどが挙げられる。また、保護剤の添加量は銀に対するモル比(保護剤分子モル数/銀モル数)で0.1〜4.0が好ましい。0.1未満である場合、銀に対して保護剤の量が少なすぎるため、粒子同士の凝結が多数発生する可能性がある。
【0031】
また、保護剤の銀に対するモル比が4.0を超える場合は銀の周囲を被覆する保護剤が多すぎるものが得られる。このことは最終的に生成する銀組成物中において、不純物が多く残存する虞が高いことを示し、高純度の銀膜が得にくくなる虞があるので好ましくない。従って、保護剤の添加量/銀の割合は、モル比で、好ましくは0.1〜3.0、更に好ましくは0.3〜2.0の範囲である。
【0032】
還元剤としては、銀イオンを銀にまで還元できるものであれば特に制限はなく、従来から広く使用されている水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、L−アスコルビン酸、ヒドロキノン、没食子酸、ホルマリン、ホスフィン、グルコン酸やそれらの誘導体などを用いることができる。
【0033】
還元剤の添加量は銀に対する当量にして0.5〜9.0の範囲、好ましくは0.5〜8.0、一層好ましくは1.0〜7.0の範囲とすることが好ましい。0.5未満の場合、未還元の銀が残存する可能性があるので好ましくない。一方、9.0を超える場合は還元剤量が多くなり、反応が過剰に早くなる過ぎることがある。そのため、凝結粒子が増加し最終的に粒子径のバラつきが大きくなる可能性があるので好ましくない。
【0034】
以下、本発明の原料溶液について説明する。前記銀化合物溶液とは銀化合物を溶媒に溶解させたものを言う。前記銀化合物の種類は溶媒に応じて溶解するものを適宜選択すれば良く、例えば溶媒が水であれば硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀などを好適に使用することができる。
【0035】
仕込みの銀濃度は、他の成分との調整により適宜変更することが必要である。例えば、上述の還元剤の範囲であっても、銀濃度を極端に高くすると反応が一挙に進み、吹きこぼれるなど安全性の問題があるので好ましくない。一方で銀濃度が希薄すぎると生産性に問題が生じるため好ましくない。よって仕込みの銀濃度の好ましい範囲は0.01〜1.0mol/L、より好ましくは0.01〜0.75mol/L、一層好ましくは0.01〜0.50mol/Lの範囲である。
【0036】
また、反応性を均一にするため、液中の溶存酸素は可能な限り除いておくことが望ましい。具体的には反応前に液中に窒素のような不活性ガスを通気することにより溶存酸素を除去することができる。
【0037】
また、前記銀粒子の製造方法は40〜80℃の範囲内で行われることが好ましい。40℃未満の場合、銀の過飽和度が上がることから、過剰に生成物の核が発生してしまい、1次粒子の微粒子化が進むことになる。一次粒子径が小さいものは、個々の粒子が凝集しやすくなる。そのため、粒子間凝結が生じやすくなり、単独で存在し得た粒子と凝結してしまった粒子の間で、粒子径および粒子形状のばらつきが大きくなるため好ましくない。また、反応系における温度が低すぎる場合、銀の還元が不十分になり収率が低下する原因にもなる。
【0038】
一方、反応温度が高すぎると反応が急激に進む。急激な反応では、還元とともに凝結が進んでしまい、粒子径および粒子形状のばらつきが生じる原因にもなるので好ましくない。
【0039】
なお、「還元反応を40〜80℃で行う」には、反応槽中に投入する溶液をそれぞれ40〜80℃に加熱しておいてもよいし、最初に反応槽中で40〜80℃に溶液を加熱しておき、そこに40〜80℃の他の溶液を入れるといった方法を行ってもよい。すなわち、液の添加により、急速な温度変化が生じないよう調節することが好ましい。
【0040】
また、還元反応は一挙に進めることで粒子径の均整な粒子を形成することができるようになる。そのため、上述の還元剤は可能な限り一度に添加することが好ましい。また、逆に還元剤が予め添加された溶液に、銀溶液を添加する場合にも同様のことが言える。生産スケールが大きく、反応容器内での液深が深くなるような場合には、反応の均一性を担保するために、添加する方の液を添加される方の液中に加圧しながら添加する方法も採用できる。
【0041】
こうして得られる粒子は、適度に凝集した形態で得られる。従って、極端に目開きの小さいフィルタを用いなくても、フィルタープレスといった、通常ミクロンオーダーの粒子を回収するような方法で十分に分離回収することができる。
【0042】
得られた粒子は純水等の水で洗浄し、反応液中の余分な成分を除去しても良い。その後、粉末状とするには、水分を除く乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程での乾燥は100℃以下、より好ましくは80℃以下で行うことが好ましい。乾燥温度が高すぎる場合には、粒子間焼結が生じ、一次粒子の形態を保った形での銀粒子を得ることが難しくなる。
【0043】
次に本発明の製造法で作製できる銀粒子について詳細に説明する。本発明の製造法によれば、反応スケールに関わらず粒子径の揃ったナノオーダーの銀粒子を得ることができる。ここで、銀粒子の粒子径とはTEM像から後述する測定法によって測定される1次粒子径を意味する。本発明にかかる銀粒子は前記1次粒子径の平均値が1〜100nmの範囲内にあることが好ましい。この1次粒子径の平均値が1nm未満である場合、粒子の凝集力が強すぎるため粒子凝結の発生を防ぐことが困難となる。また、100nmを超える場合は低温焼結性が悪化するため、本発明の銀粒子が使用されることが予測される金属配線用途などにおいて不適なものとなる。
【0044】
ここで本発明の特性の一つである粒子径のバラつきに関して説明する。粒子径のバラつきについては、一般的にTEM像から測定される一次平均粒子径の標準偏差値を平均粒子径で割った値である変動係数(CV値)を指標に用いる。本発明にかかる銀粒子の場合、前記変動係数は30%未満、場合により25%未満の粒子でも得られる。この値が30%以上だと、粒子径のバラつきが大きいことを示すので好ましくない。
【0045】
また、本発明の銀粒子粉末をBET法で測定した比表面積は10〜40m/gのものが得られうる。分散液(インクと言うこともある)やペーストへ利用するため、粉末の比表面積は15〜40m/gとすることができ、より好適に使用するには20〜30m/gとするのがよい。本発明に従えばこれらのいずれの範囲にもすることが可能である。
【0046】
上述の範囲の銀粒子粉末を得るため、本発明の特徴である反応液中へ銅を極微量添加する銅添加工程を備えるようにする。従来の微粒子の場合、比表面積はほとんど確認されず、高いものでも10m/g未満のBET値であった。(例えば、特開2006−216389の実施例で示されている20nmの銀粉ではBETが5.7m/gであったと示されている。)このことからもわかるように、従来の粒子は一次粒子としては細かくとも、粒子の凝集が強く生じ、比表面積が低いものだった。しかし、本発明に従う粒子は適度に一つ一つの粒子が適度に隔離された結果、BET値の高い粒子が得られている。このことから見ても、本発明で提供している粒子がいかに特徴的であるかは理解されよう。
【0047】
いかにしてこのような現象が生じるかの詳細はよくわかっていない。しかし、銅を添加する場合としない場合の反応状態の比較を行ったところ、その反応速度が添加した場合の方が著しく早く完結していることが認められた。最終的な形成物に認められる銅の含有量から推定すると、銅成分は触媒のように振る舞う可能性があると考えられる。
【0048】
また、粒子粉末の比表面積調整に関しては、還元剤量や反応温度の調整など従来から行われているような方法により、粒子粉末の比表面積を調整することも考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、そのような反応条件の変更によっても、5.0m/g以上の比表面積を有する乾燥銀粒子粉末は得られなかった。
【0049】
そこで本発明者らが検討したところ、比表面積値は、製造時における銅の添加量により制御可能であることがわかった。添加量を多くすれば、BET値としては高いものが得られ、粒子径としては、大差ないと判断できるものが得られる。
【0050】
このことは、分散液あるいはペーストの設計に優位に働く。分散液もしくはペーストは、用途もしくは印刷方法によりその粘度を変化させる必要がある。その粘度の調整方法としては、一般的には比表面積の調整、添加物の添加や添加溶媒量の調整によりなされている。その中でも、粘度調整剤からなる添加物の添加は、結果として不純物を膜内に残存させてしまうことにつながり、導電性を要求される用途に対してはその使用が制限される。また、溶媒の添加量を調整する手法では、わずかな相違であっても得られるものが変化するので、この手法も所望粘度の分散液あるいはペーストに適用するのは困難である。
【0051】
従って、粘度調整に際して最も望ましいのは、比表面積を変化させることによる方法であり、本発明に従えばこのような要求に応えうるようになる。このことは、様々な用途に対して応用を図ることができるようになることを示唆し、好ましい態様であると言える。
【0052】
具体的な作用機構としては、粒子粉末の比表面積が大きい場合には粒子表面と接する溶媒量が増加するため、該粒子表面と接さない溶媒量が少なくなって粘度が増加する。また、粒子粉末の表面積が小さい場合には粒子表面と接する溶媒量が減少するため、フリーな溶媒量が多くなるため粘度が低下するという機構が考えられる。
【0053】
本願に従う方法により形成された銀粒子には、反応を経たことの特徴として銀に対して、銅を1〜1000ppmの範囲で含む。この検出量が1ppm未満の場合には、本発明に従う方法では製造していないと言うことができる。また、実際この条件下の湿式法で作成した場合には粒径は不均一なものとなってしまう。一方、検出量が1000ppmを超える場合には、粒子中に不純物である銅を多く含むことを示し、導電性に悪影響を及ぼすことがある。従って、導電性を期待する用途には好適ではない。すなわち、本発明の銀粒子から検出される銅は、銀に対して1〜1000ppm、好ましくは銀に対して1〜500ppm、一層好ましくは銀に対して1〜300ppmの範囲である。
【0054】
このようにして得られた粒子は、以下に示す分散溶媒等を使用して分散液(インク)として使用したり、さらには樹脂を添加してペーストとして使用することができる。そして、かような分散液やペーストは、その調整された粘度に応じて各種印刷装置により塗布や印刷することができるようになる。なお、本発明の分散液とは、本発明の銀粒子が、溶媒中に分散されている液体をいう。
【0055】
また、本発明の好適な実施形態によれば、反応後に凝集沈降するため濾過によって簡便に固液分離ができ、更にその粉末は様々な溶媒に再分散させることができる。この際に使用できる分散液溶媒としては、水、アルコール、ポリオール、グリコールエーテル、1−メチルピロリジノン、ピリジン、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、フェノキシプロパノールなどが例示できる。
【0056】
また分散液の分散性やチキソトロピー性などをより向上させるために、適宜分散液溶媒と共にバインダーや分散剤のいずれか、あるいはその両方を添加することも好適な形態を構成する。バインダーは、粒子に対して分散独立性を与えるために必要な要素となるので、溶剤並びに粒子との親和性を少なくとも有することが必要である。また、いくら分散性が高くなっても、焼結時に系外に排出されるものでなければ、本願発明の目的には合致しない。すなわち、分解もしくは揮散温度は250℃以下のものがより好適に選択される。少なくとも上述の性質を有していれば、有機、無機を問わず市販のバインダーや分散剤を好適に使用することができる。また、単独の種類のみならず、併用使用しても構わない。
【0057】
具体的にバインダーとしては、有機バインダーとして、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、DAP樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチルセルロースおよびポリビニルアルコール等を添加することができ、無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等を使用することができる。
【0058】
具体的名称を挙げると次のようなものが知られているが、上述の性質を有する場合には、本欄に記載のもの以外のものの使用を排除するものではない。アクリル樹脂としては、BR−102、BR−105、BR−117、BR−118、BR−1122、MB−3058(三菱レイヨン株式会社製)、アルフロンUC−3000、アルフロンUG−4010、アルフロンUG−4070、アルフロンUH−2041、アルフロンUP−1020、アルフロンUP−1021、アルフロンUP−1061(東亞合成株式会社製)、ポリエステル樹脂としては、バイロン220、バイロン500、バイロンUR1350(東洋紡績株式会社製)、マルキードNo1(荒川化学工業株式会社製)、エポキシ樹脂としては、アデカレジンEP−4088S、アデカレジンEP−49−23(株式会社アデカ製)、871(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、フェノール樹脂としては、レヂトップPL−4348、レヂトップPL−6317(群栄化学工業株式会社製)、フェノキシ樹脂としては、1256、4275(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、タマノル340(荒川化学工業株式会社製)、DAP樹脂としては、ダップA、ダップK(ダイソー株式会社製)、ウレタン樹脂としては、ミリオネートMS−50(日本ポリウレタン工業株式会社製)、エチルセルロースとしては、エトセルSTANDARD4、エトセルSTANDARD7、エトセルSTANDARD20、エトセルSTANDARD100(日進化成株式会社製)、ポリビニルアルコールとしては、RS−1713、RS−1717、RS−2117(株式会社クラレ製)といったものが例示できる。
【0059】
また分散剤としても、粒子表面と親和性を有するとともに分散媒に対しても親和性を有するものであれば、市販汎用のものであっても足りる。また、単独の種類のみならず、併用使用しても構わない。
【0060】
分散剤としては、脂肪酸塩(石けん)、α−スルホ脂肪酸エステル塩(MES)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、アルキル硫酸トリエタノールといった低分子陰イオン性(アニオン性)化合物、脂肪酸エタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE)、ソルビトール、ソルビタンといった低分子非イオン系化合物、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド、といった低分子陽イオン性(カチオン性)化合物、アルキルカルボキシルベタイン、スルホベタイン、レシチンといった低分子両性系化合物や、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ビニル化合物とカルボン酸系単量体の共重合体塩、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどに代表される高分子水系分散剤、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミンといった高分子非水系分散剤、ポリエチレンイミン、アミノアルキルメタクリレート共重合体といった高分子カチオン系分散剤が代表的なものであるが、本発明の粒子に好適に適用されるものであれば、ここに例示したような形態のもの以外の構造を有するものを排除しない。
【0061】
分散剤として、具体的名称を挙げると次のようなものが知られている。フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−17(共栄社化学株式会社製)、ソルプラスAX5、ソルプラスTX5、ソルスパース9000、ソルスパース12000、ソルスパース17000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース35100、ソルスパース54000、ソルシックス250、(日本ルーブリゾール株式会社製)、EFKA4008、EFKA4009、EFKA4010、EFKA4015、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4060、EFKA4080、EFKA7462、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4400、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4300、EFKA4330、EFKA4340、EFKA6220、EFKA6225、EFKA6700、EFKA6780、EFKA6782、EFKA8503(エフカアディディブズ社製)、アジスパーPA111、アジスパーPB711、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPN411、フェイメックスL−12(味の素ファインテクノ株式会社製)、TEXAPHOR−UV21、TEXAPHOR−UV61(コグニスジャパン株式会社製)、DisperBYK101、DisperBYK102、DisperBYK106、DisperBYK108、DisperBYK111、DisperBYK116、DisperBYK130、DisperBYK140、DisperBYK142、DisperBYK145、DisperBYK161、DisperBYK162、DisperBYK163、DisperBYK164、DisperBYK166、DisperBYK167、DisperBYK168、DisperBYK170、DisperBYK171、DisperBYK174、DisperBYK180、DisperBYK182、DisperBYK192、DisperBYK193、DisperBYK2000、DisperBYK2001、DisperBYK2020、DisperBYK2025、DisperBYK2050、DisperBYK2070、DisperBYK2155、DisperBYK2164、BYK220S、BYK300、BYK306、BYK320、BYK322、BYK325、BYK330、BYK340、BYK350、BYK377、BYK378、BYK380N、BYK410、BYK425、BYK430(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、ディスパロン1751N、ディスパロン1831、ディスパロン1850、ディスパロン1860、ディスパロン1934、ディスパロンDA−400N、ディスパロンDA−703−50、ディスパロンDA−725、ディスパロンDA−705、ディスパロンDA−7301、ディスパロンDN−900、ディスパロンNS−5210、ディスパロンNVI−8514L、ヒップラードED−152、ヒップラードED−216、ヒップラードED−251、ヒップラードED−360(楠本化成株式会社)、FTX−207S、FTX−212P、FTX−220P、FTX−220S、FTX−228P、FTX−710LL、FTX−750LL、フタージェント212P、フタージェント220P、フタージェント222F、フタージェント228P、フタージェント245F、フタージェント245P、フタージェント250、フタージェント251、フタージェント710FM、フタージェント730FM、フタージェント730LL、フタージェント730LS、フタージェント750DM、フタージェント750FM(株式会社ネオス製)、AS−1100、AS−1800、AS−2000(東亞合成株式会社製)、カオーセラ2000、カオーセラ2100、KDH−154、MX−2045L、ホモゲノールL−18、ホモゲノールL−95、レオドールSP−010V、レオドールSP−030V、レオドールSP−L10、レオドールSP−P10(花王株式会社製)、エバンU103、シアノールDC902B、ノイゲンEA−167、ブライサーフA219B、ブライサーフAL(第一工業製薬株式会社製)、メガファックF−477、メガファック480SF、メガファックF−482、(DIC株式会社製)、シルフェイスSAG503A、ダイノール604(日信化学工業株式会社製)、SNスパーズ2180、SNスパーズ2190、SNレベラーS−906(サンノプコ株式会社製)、S−386、S−420(AGCセイミケミカル株式会社製)といったものが例示できる。
【0062】
また、分散液の調整時には適切な機械的分散処理を用いることもできる。機械的分散処理には粒子の著しい改質を伴わないという条件下において、公知のいずれの方法も採用することが可能である。具体的には、超音波分散、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機などが例示でき、これらは単独あるいは複数を併用して使用することもできる。
【0063】
上述の構成を採用することで、低温焼結性に優れた性質を呈するようになる。銀のバルク抵抗値は1.6μΩ・cmであるが、本発明に従う粒子を採用することによって、焼成温度を250℃程度としても、この値に近似した抵抗値を取ることができるようになる。また、こうした性質を与えるためには、後述する分散液としたときの構成、とりわけ分散媒や添加剤の分解点や沸点に対しても配慮が必要であることは言うまでもない。
【0064】
以下に本発明で用いた測定方法を説明する。なお、以下の測定方法は本発明の銀粒子の評価にそのまま用いることができる。
【0065】
(TEM像からの一次粒子径の平均値の測定)
乾燥状態の銀粒子粉末2質量部をシクロヘキサン96質量部とオレイン酸2質量部との混合溶液に添加し、超音波によって分散させた。分散溶液を支持膜付きCuマイクログリッドに滴下し、乾燥させることでTEM試料とした。作成したマイクログリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−100CXMark−II型)を使用し、100kVの加速電圧で、明視野で粒子を観察した像を、倍率30,000倍及び174,000倍で撮影した。
【0066】
一次粒子平均径の算出には、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製A像くん(登録商標))を用いた。この画像解析ソフトは色の濃淡で個々の粒子を識別するものであり、174,000倍のTEM像に対して「粒子の明度」を「暗」、「雑音除去フィルタ」を「有」、「円形しきい値」を「20」、「重なり度」を「50」の条件で円形粒子解析を行って一次粒子平均径を測定した。なお、TEM像中に凝結粒子や異形粒子が多数ある場合は、測定不能であるとした。また、このようにして求めた一次粒子平均径を平均粒子径(若しくは「DTEM」)と呼ぶ。
【0067】
(一次粒子径からの変動係数の算出)
上記の測定方法での1000個以上での測定値から平均値、標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で割った値を変動係数として算出した。
【0068】
(銀粒子粉末中の銅含有量測定)
銀成分が残留していると分析誤差が発生する可能性があるため、銀成分を除くため、以下の前処理を施した。300mlコニカルビーカーに銀粒子粉末10gを入れ、次に硝酸溶液15mlを添加して銀粒子粉末を溶解させる。溶解した溶液を250℃に設定したホットプレート上で加熱し、蒸発乾固にならない程度まで濃縮する。濃縮された溶液を放冷した後、純水を添加する。溶液中に白濁や浮遊物がないことを確認する。もし溶液中に白濁や浮遊物がある場合には、なくなるまで硝酸添加、加熱濃縮、放冷の工程を繰り返す。白濁や浮遊物がない溶液に塩酸を添加し、塩化銀を生成する。その後濾過で固液分離して塩化銀と濾液を分別し、該濾液をICP−MS(アジレントテクノロジー株式会社製AGILENT7500i)を用いて銅量の分析を行った。
【0069】
(BET法による比表面積測定)
銀粒子粉末0.2gを25℃、45cc/minのN雰囲気下で20分間前処理を行った後、ユアサアイオニクス製の4S−U2若しくはこの製品の同等品を用いて行った。
【0070】
(TAP密度測定)
特開2007−263860号に記載されている測定法を用いて行った。本測定法を概略的に説明すると、所定のホルダーに測定対象の粉体を充填して粉体層を形成し、当該粉体層へ、0.14N/m以上、0.18N/m以下の圧力を加えた後、粉体層の高さを測定し、当該粉体層の高さの測定値と、充填された粉体の重量とから測定対象の粉体の密度を求めるタップ密度測定方法である。
【0071】
(銀粒子含有分散液(インク)の作製)
作製した銀粒子粉末6gとターピネオール4gを混合した。その後、ディスパーを用いて1400rpmで90秒間処理し、三本ロールで10パスさせて銀粒子含有分散液を作製した。
【0072】
(銀塗布膜の作製及び焼成および体積抵抗値の測定)
作製した銀粒子含有分散液を、スライドガラス上にアプリケーターを用いて塗布した。その後、乾燥機(ヤマト科学株式会社製)を用いて150℃で30分間焼成した。また、200℃で30分間焼成したサンプルも作製した。焼成した膜の厚さ1μm当りの体積抵抗値を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタGP)を用いて測定し、膜の厚さは表面粗度計(株式会社東京精密製サーフコム1500D)を用いて測定をすることで膜の体積抵抗値を算出した。
【0073】
(粒子分散性の評価)
得られた銀粒子粉末を溶媒および分散剤へ添加して分散液を作成し、溶媒に対する粒子の分散性を確認した。具体的な手法としては銀粒子粉末1.0g、ブチルカルビトールアセテート(和光純薬工業株式会社製)10.0g、分散剤としてDisperBYK2020(ビックケミー・ジャパン社製)0.1gをそれぞれ秤量し、それらを試験管中で混合し、超音波分散機で10分間分散することにより分散液を作成した。得られた液中における粒子の分散状態を目視により確認することで、粉末の溶媒に対する分散性を確認した。
【0074】
(表面被覆物質の推定)
表面を被覆する有機物は、粒子もしくは分散液、あるいはペーストを被覆する有機物の分解温度以下の温度、例えば150℃程度の温度で30分程度加熱して発生するガスを捕集し、ガスクロマトグラフ/マススペクトルグラフィ(GC/MS)で解析することにより知ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例1〜7および比較例1〜7については5Lスケールでの検討結果、実施例8〜13および比較例8は200Lスケールでの検討結果を示している。
【0076】
(実施例1)
5Lビーカーを使用し(実施例1〜7および比較例1〜7について同じ)、反応槽の中心に撹拌羽を備えた攪拌棒を設置する。反応槽には温度をモニターするための温度計を設置し、また溶液に下部より窒素を供給できるようにノズルを配設した。以上の構成を備えた装置を反応槽Aとする。
【0077】
まず、反応槽Aに水を3400g入れ、残存酸素を除くため反応槽下部から窒素を3000mL/分の流量で600秒間流した。その後、反応槽上部から3000mL/分の流量で供給し、反応槽中を窒素雰囲気とした。そして、反応槽内の溶液温度が60℃になるように攪拌しながら温度調整を行った。そして、アンモニアとして28質量%含有するアンモニア水7gを反応槽に投入した後、液を均一にするために1分間攪拌した。
【0078】
次に保護剤としてヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製)45.5g(銀に対してモル比で1.98にあたる)を添加し、保護剤を溶解するため4分間攪拌した。その後、還元剤として50質量%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)水溶液を23.9g(銀に対して4.82当量にあたる)添加し、これを還元剤溶液とした。
【0079】
別の容器に硝酸銀結晶(和光純薬工業株式会社製)33.8gを水180gに溶解した硝酸銀水溶液を用意し、これを銀塩水溶液とした。この銀塩水溶液中に更に硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)を銅換算で銀に対して1ppm相当量添加した。なお、ここでの硝酸銅三水和物の添加は、予め既知濃度の硝酸銅三水和物水溶液を作製し、それを希釈したものを添加することで調整を行っている。また、銀塩水溶液は反応槽内の還元剤溶液と同じ60℃に温度調整を行った。
【0080】
その後、銀塩水溶液を還元剤溶液に一挙添加により混合し、還元反応を開始させた。この際、スラリーの色は添加終了から直ちに変化した。攪拌は連続して行い、その状態のまま10分間熟成させた。その後、攪拌を止め、吸引濾過による固液分離を行い、洗浄廃液の電気伝導率が2.0μS/cm未満となるまで純水による洗浄を行った後、40℃で12時間乾燥させることにより、微小銀粒子粉末を得た。なお、得られる粉末は熱に対する感応性が高いため、この温度以上での乾燥は塊状銀になる可能性がある。
【0081】
(実施例2〜5)
銀に対する銅の添加量を各々変化させた以外は、実施例1を繰り返した。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0082】
(実施例6〜7)
銅の種類を変化させ、かつ添加量を変化させた。反応装置ならびに反応フローについては同じにしてある。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示した。
【0083】
(実施例8)
容積が200Lのステンレス製反応槽(実施例8〜13および比較例8について同じ)、を準備し、反応槽A(5L反応槽)同様に攪拌棒、温度計、窒素ノズルを設置することで、反応槽Bを構成した。
【0084】
まず、反応槽に水を137kg入れ、残存している酸素を抜くため下部より窒素を20L/分で600秒間流した。その後、反応槽上部より20L/分で窒素を供給して反応槽内部を窒素雰囲気にした。そして、反応槽内の溶液温度が60℃になるように攪拌しながら温度を調節した。そして、アンモニアとして28質量%含有するアンモニア水282.3gを反応槽に投入した後、液を均一にするために1分間攪拌した。
【0085】
次に保護剤としてヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製)1818.8g(銀に対してモル比で1.98にあたる)を添加し、保護剤を溶解するため4分間攪拌した。その後、還元剤として80質量%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)水溶液を596.3g(銀に対して4.82当量にあたる)添加し、これを還元剤溶液とした。
【0086】
別の容器に硝酸銀結晶(和光純薬工業株式会社製)1350.3gを水7200gに溶解した硝酸銀水溶液を用意し、これを銀塩水溶液とした。この銀塩水溶液中に更に硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)0.0325g(銅換算で銀に対して10ppmにあたる)を添加した。なお、銀塩水溶液は反応槽内の還元剤溶液と同じ60℃に温度調整を行った。
【0087】
その後、銀塩水溶液を還元剤溶液に一挙添加することにより混合し、還元反応を開始させた。攪拌は連続して行い、その状態のまま10分間熟成させた。その後、攪拌を止め、フィルタープレスによる固液分離、洗浄液の電気伝導率が2.0μS/cm未満となるまで純水による洗浄を行った後、及び40℃12時間以上の乾燥を経て、微小銀粒子粉末を得た。
【0088】
得られた粒子をブチルカルビトールアセテート、およびDisperBYK−2020からなる分散液中に添加し、作成した液を上述の方法により分散し、その状態を確認した。こうして作成した分散液では、混合直後でも沈殿は生じず、24時間後の分散液でも沈殿は確認されなかった。従って、本発明にかかる粒子は、ブチルカルビトールアセテートに対して、良好な再分散性を呈することがわかる。
【0089】
(実施例9〜13)
銀に対する銅の添加量を各々変化させた以外は、実施例8を繰り返した。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0090】
(実施例14)
樹脂としてフェノール樹脂レヂトップPL−4348(群栄化学工業株式会社製/固形分77.5wt%)3.9gをテルピネオール14.0gに溶解させ、次に高分子系顔料分散剤アジスパーPA111(味の素ファインテクノ株式会社製)1.3gをその溶液に溶解させる。この中に実施例8と同様にして作成した、ヘキサン酸(炭素数:6)で被覆された一次粒子の平均粒径が20nmの銀粒子94.3gを加え、手攪拌で10分間混合させ導電性ペーストを得た。
【0091】
作成した導電性ペーストを用いてスクリーン印刷機(MT−320T、マイクロテック社製)による配線描画を行った。配線用スクリーン版(ステンレス製、 250メッシュ、乳剤厚 30μm、ソノコム社製)を用いて線幅300μm、線長42mmの配線と、線幅80μm、線長20mmの配線をガラス基板上に描画し、描画した基板をオーブン(DKM400、ヤマト科学株式会社製)で大気中200℃、60分加熱してサンプルを作成した。作成したサンプルを用いて、比抵抗の評価を行ったところ、比抵抗が8.7μΩ・cmである良好な導電性を呈した薄膜が得られた。
【0092】
(実施例15)
樹脂としてアクリル樹脂BR−102(三菱レイヨン株式会社製)を5.0g用意し、分散媒であるテルピネオール(和光純薬工業株式会社製)44.0gに溶解し、この中にこの中に実施例8と同様にして作成した、ヘキサン酸(炭素数:6)で被覆された一次粒子の平均粒径が20nmの銀粒子95.0gを加え、実施例14を繰り返したところ、比抵抗が7.7μΩ・cmである良好な導電性を呈した薄膜が得られた。
【0093】
(比較例1)
銅を添加しなかったこと以外は、実施例1を繰り返した。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0094】
(比較例2)
還元剤のヒドラジン水和物量を銀に対して9.6当量となる量に変更した以外は、比較例1を繰り返した。なお、還元反応開始後直ちに反応スラリーの色変化が終了し、反応が完結していることが確認された。
【0095】
(比較例3)
還元反応完了後に、硝酸銅三水和物水溶液を銀に対して3000ppm相当量添加し、5分間撹拌した以外は、比較例1を繰り返した。
【0096】
(比較例4〜5)
銀に対する銅の添加量を各々変化させた以外は、実施例1を繰り返した。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0097】
(比較例6〜7)
添加物質を硝酸ニッケル六水和物水溶液(比較例6、和光純薬工業株式会社製)もしくは硝酸鉄(III)九水和物水溶液(比較例7、和光純薬工業株式会社製)とし、その添加量を実施例4と同じ銀に対して100ppmとした以外は、実施例4と同じ反応操作とした。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0098】
(比較例8)
銅を添加しなかったこと以外は、実施例8を繰り返した。得られた粒子の物性等を表1にあわせて示す。
【0099】
実施例及び比較例の反応スケール、製造時に添加した添加物及びその添加量、反応後の銀粒子粉末の中に含有されるCu含有量、乾燥状態の銀粒子粉末のBET比表面積、TAP密度、TEM径及び変動係数、銀膜の体積抵抗値を表1に示した。また、図1〜3に実施例1、3及び4のTEM像を、図4に比較例1のTEM像を示した。TEM写真の倍率は全て174,000倍である。
【0100】
【表1】



【0101】
また、図5、6には実施例8及び11のTEM像を、図7、8には比較例7、3のTEM像を示し、図9には比較例2のTEM像を示した。また、図10には実施例及び比較例に関して、Cu添加量とBETの関係を表すグラフを5L反応時と200L反応時に分けて示した。
【0102】
まず、表1の実施例1〜7、比較例1及び図10を参照する。図10は縦軸がBET、横軸がAgに対するCuの添加量をとったものである。白丸と白三角はそれぞれ5Lと200Lの反応槽で作製した実施例の結果を表わす。なお、黒丸印と黒三角印は、それぞれ5Lと200Lの反応槽で比較例である。具体的には黒丸印が比較例1で黒三角印は比較例2である。
【0103】
Cuが添加されていない比較例に対して、Cuが1ppm添加された実施例1でさえ、BETは7m/g以上高かった。すなわち、Cuを添加して反応させた際には、銀粒子粉末のBETが増加していることが分かる。また、銅粉末(実施例7)、亜酸化銅(実施例6)の添加によっても同様の効果が得られていたため、添加する銅成分の形態に関わらず本発明の効果が得られることが分かる。また、その効果はCuの1ppm添加から顕著に現れ、10ppm付近で飽和していた。
【0104】
これより極微量の銅添加がBETの増大に対して非常に顕著な効果が現れていることが分かる。また、図4の比較例1のTEM像を見ると、小さな粒子と粗大粒子とが混在している他、凝結状の粒子が多数存在していた。一方、図1で示した実施例1の写真では一次粒子が明確に識別でき粗大粒子は見当たらなかった。このことから、銅を添加した場合には凝結した粒子が減少し、粒度が揃う効果が得られることが分かる。
【0105】
このことは、TEM像から得られる変動係数によっても示されている。すなわち、実施例1〜7の変動係数は17〜21%と小さい値となっており、非常に粒度分布の狭いことを示したが、図4のTEM写真を見ると明らかに粒子の不均一性は高まっており、粒度分布は広くなっている。また、図1〜3を見ると銅を添加した場合には全て銀粒子がそれぞれ孤立して存在しており、非常に分散性に優れ且つ粒子径バラつきが小さいものができていた。
【0106】
次に実施例8〜13、比較例8及び図5、6を参照する。5L反応同様、銅成分の添加によって銀粒子粉末のBETが増加していた。また、200L反応においても粒子径の整った銀粒子が作製できていた。これより、本発明にかかる製造方法は反応スケールに関わらず粒子径バラつきを改善することができることが分かった。
【0107】
また、図10から200L反応の場合、銅成分添加量とBETの関係が5L反応時よりも緩い傾きとなっていることが分かる。これは、製造上の観点から見ると非常に好ましいことである。すなわち、前述のように銅成分添加量の制御によって所望のBETを有する銀粒子粉末を作製しようとした場合、200L反応ではこの銅成分添加量の制御幅が広くなっているため、簡便に所望の銀粒子を得ることが可能であると考えられる。
【0108】
次に比較例4、5を参照する。比較例4、5は銅成分をそれぞれ6000ppm(0.6質量%)、60000ppm(6質量%)添加したものであるが、このようにして得られる銀粒子では銀粒子中に含まれる銅量(表1の「Cu含有量(ppm)」の欄参照)も非常に多くなっている。比較例4、5の銀粒子を銀膜にした場合は、実施例3の場合より、抵抗値が悪化しているのはこのことに起因していると考えられる。
【0109】
また、比較例6、7及び図7、8を参照する。比較例6、7はそれぞれ銅成分の代わりにニッケル成分、鉄成分を添加したものだが、本発明のような効果が得られていない。本発明にかかる製造方法においては、銅成分を添加することが必要であることが分かる。
【0110】
また、比較例3を参照する。比較例3は還元反応終了後に銅成分を添加したものであるが、本発明のような効果が得られなかった。本発明にかかる製造方法においては、銅成分を還元反応終了前に添加することが必要であることが分かる。
【0111】
また、比較例8と図9を見ると、還元剤量を増加させることで還元反応は早くなったものの図から粗大粒子が多数発生していることが分かる。これより、単純に還元反応を早くすれば良いわけではなく、銅成分の存在が粒度分布や分散性にとって必要であることが分かる。
【0112】
また、本実施例では、銅成分を銀成分と予め混合しておき、還元剤液と混ぜた。従って、還元反応が開始される時点から銅成分が混合液中に存在していたので、還元反応の終了点を反応スラリーの色変化で判断した。しかし、反応スラリーの色変化が終了しても、還元反応自体はまだ終了してはいない場合もある。従って、銀化合物溶液と保護剤と還元剤溶液だけで還元反応を行い、反応スラリーの色変化が終了した場合でも、銅成分を添加することで本発明の効果を得ることはできる。
【0113】
実施例および比較例において、体積抵抗値の測定には、バインダーの入っていない分散液を用いて比較検討を行った。次に本発明の銀粒子粉末にバインダーを含ませた場合の導電膜の評価を示す。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の製造方法は大スケールの反応でも小スケール同様の銀粒子を容易に作製することができるため、量産性に優れている。また、本発明にかかる銀粒子は、粒子径のバラつきが小さく、また各種溶媒に再分散させることができるため、金属配線用途に用いる分散液にとって好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物からなる保護剤と、銀量に対して1〜1000ppmの銅成分とが存在する銀溶液中で銀を還元し、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5〜100nmの粒子を得る工程を備えた銀粒子の製造方法。
【請求項2】
銀量に対して1〜1000ppm相当の銅成分と保護剤と還元剤を溶液中に混合する工程と、該溶液に銀溶液を添加して表面を有機物で被覆された銀粒子を析出させる工程とを備えることにより、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5〜100nmの粒子を得る、銀粒子の製造方法。
【請求項3】
銀量に対して1〜1000ppm相当の銅成分と
保護剤と還元剤を溶液中に混合する工程と、
銀溶液と前記銀溶液中の銀量に対して1〜1000ppm相当の銅成分を混合する工程と、
前記2つの工程で得た混合溶液をさらに混合し、表面を有機物で被覆された銀粒子を析出させる工程とを備えることにより、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5〜100nmの粒子を得る、銀粒子の製造方法。
【請求項4】
粒子表面を被覆する保護剤は炭素数が5〜8のものを使用する、請求項1ないし3のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
還元反応は40〜80℃の条件下で行う、請求項1ないし4のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項6】
銀粒子の表面を被覆する有機物は、常温で液体であるときは沸点が250℃以下、常温で粉末であるときには、分解点あるいは昇華点が250℃以下のものを使用する、請求項1ないし5のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項7】
該銀粒子の表面を構成する有機物は、カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を有する、請求項1ないし6のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の銀粒子の製造方法によって得られた銀粒子を濾過、水洗、乾燥させて銀粒子凝集粉末を得、該凝集粉末を分散媒に分散させる工程を備えた、銀粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得られた分散液に対して、樹脂を添加する工程が付加された、銀粒子ペーストの製造方法。
【請求項10】
粒子表面が炭素数5〜8の有機物からなる保護剤により被覆され、TEM写真から算出される平均粒子径(DTEM)が5〜100nmであって、1〜200ppmの銅を含有する銀粒子粉末。
【請求項11】
BET法により算出される比表面積は10〜40m/gの範囲にあるとともに、さらにはTEM写真から算出される粒子径の変動係数(CV値(%)=100×標準偏差/平均粒子径)が30%未満である。請求項10に記載の銀粉末。
【請求項12】
請求項10または11に記載の銀粉末を極性溶媒に分散させて得られる銀粒子分散液。
【請求項13】
請求項12に記載の分散液に樹脂を添加して得られる銀粒子が含有されたペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−21271(P2011−21271A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285691(P2009−285691)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】