説明

微小電気機械システムのスイッチ

微小電気機械システム(MEMS)のスイッチは、固定接点24と、電機子30上の可動接点35を含む。スイッチは、静電式スイッチ動作をもたらすための、固定接点と可動接点の両方に関連する電極22、34と、電圧が印加されたとき電機子を曲げ、静電式スイッチングおよびクランピングが後続する、最初の圧電式スイッチ動作をもたらすための、関連する電極36、40を備える圧電材料とを有する。電機子は、印加電圧が0のスイッチ開路状態において、曲げられて固定接点から離れる湾曲形状を有する。それによって、オフ状態において大きなスイッチ間隙、たとえば3pmが得られ、この間隙は、静電的にスイッチを閉じるのに適する圧電動作によって減少される。湾曲状態は、電機子の厚さ全体にわたって応力を変化させることによってもたらされ、スイッチの製造時に作り出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小電気機械システム(MEMS)のスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械システム(MEMS)は、通常は半導体材料におけるシリコンプロセス技術によって作製されるデバイスとして知られている一クラスであり、従来のシャッタ、アクチュエータ、リレー、バルブなどの電気機械デバイス、およびバイメタルビームなどの熱機械デバイスの代替物として開発されている。
【0003】
このようなMEMSの例は、たとえばマイクロ波システム中の信号線路に電気的接触を設ける必要があるスイッチに使用されるものである。可動アームすなわち電機子上のスイッチ接点を、固定の静止導体パッド上にあるいはそれから離れるように機械的に移動させることにより、マイクロ波システムの2つの部分を必要に応じて接続および切断する必要がある。静電駆動は、MEMSスイッチで使用される知られている技術である。このような駆動は、2つの導電体の間に、キャパシタンスの変化率ならびに印加電圧差の2乗に比例する力をもたらす。2つの荷電した導体間の力は、それらの間隔の2乗に反比例して変化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接点の固着は、しばしばMEMSスイッチデバイスの故障の原因となる。このようなスティクションは、ファンデルワールス力などの接点境界面での表面相互作用から生じ、あるいは接点での高電流密度または高温度(「ホット」接点溶着)により生じうる。通常、スイッチは、適切な静的復元力を与えるために、十分な機械的剛性をもたらすように設計される。
【0005】
接点材料を注意深く選択し、最大限の接点面積を確保(電流密度を低くするため)することで、スイッチを切断するために克服しなければならない起こりうるスティクション力を最小限に抑える方向へある程度は近づくが、完全には解消されない。閉路状態において高い静的な機械的復帰力を有するように構造を設計することはできるが、そうすると非常に高い駆動電圧(静電駆動とした場合)を要する構造になり易い。
【0006】
電機子接点が静止接点の極く近傍にあり、電機子接点が静止接点と平行である場合に、静電アクチュエータから最大の力が得られる。
【0007】
スイッチが開路の位置にあるときに良好なアイソレーション特性を得るには、接点間の間隙を約3μm以上とする必要がある。最小限のスイッチング時間の要件により電機子のサイズに上限が課され、良好な復帰力の要件によりその剛性に下限が課される。
【0008】
電機子の横方向の圧電駆動は、MEMSスイッチを動作させるための他の知られている技術である。このような駆動は、駆動されている領域で電機子を放物線状に湾曲させる。この湾曲は、ビーム先端のたわみが圧電体層にかかる電圧に正比例して変化するようなものである。圧電駆動によって得られる接点力は、低くなる傾向がある。良好な電気的接触を確保するためには、接触力が大きいことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複式の駆動機構、すなわち圧電動作、熱電動作、または電磁動作と組み合わせて、電機子の湾曲と共に、静電動作を用いることにより上記の問題が低減される。
【0010】
本発明によれば、MEMSスイッチは、固定接点と、電機子上の可動接点を備え、静電式スイッチ動作をもたらすための、固定接点と可動接点の両方に関連する電極と、電圧が印加されたとき電機子を曲げ、圧電式スイッチ動作をもたらすための関連する電極を有する圧電材料と、印加電圧が0のスイッチ開路状態のとき、曲げられて固定接点から離される、形状が湾曲した電機子とを有し、静電力のもとで固定接点と可動接点をクランプするために、圧電材料が動作すると、電機子が固定接点の方向へ曲げられ、可動電極が曲げられて固定電極の極く近傍になりかつ固定電極とほぼ平行な位置にくるように構成されることを特徴とする。
【0011】
次に本発明について、添付の図面を参照して例としてのみ説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜3に示すように、複式の静電および圧電駆動式MEMSスイッチ1は、固定接点3と、それ自体が薄い絶縁層5で被覆された下部静電電極4とを担持する基板2を含む。電機子6は、基板に固定された一端と、可動ディンプル接点7を担持する外側の自由端とを有する。電機子6自体は、上部金属層8、PZTからなる圧電体層9、中央金属層10、絶縁性機械層11、および可動接点7を担持する下部金属層12のサンドイッチ構造のものである。
【0013】
スイッチ1は、電圧オフの開路状態では、図1に示すような湾曲した断面を有するように製造される。この湾曲は、構成要素層8〜12中に異なる量の応力を与えるように、製造ステップを制御することにより得られる。
【0014】
図2は、圧電体層9を挟んで電極8と電極10の間に電圧が印加され、層の長さが伸び、その結果として電機子6がまっすぐになった、部分的なスイッチ動作の状態を示している。この状態では、電機子6はまっすぐであり、下部静電電極4と下部層12(静電アクチュエータの一部を形成する)は、小さい間隔で互いに平行である。この段階で、図3に示すようなスイッチ閉路状態になるように、電機子6を引き降ろすために、静電電極4、12が付勢される。閉じたあと、図3で、圧電素子9はその印加電圧を除くことによりオフ状態にされ、静電電極4、12へ引き続き電圧を印加することにより、スイッチはクランプされた閉路状態を維持する。
【0015】
図3のこの閉路状態では、電機子の構成要素部分は歪んだ状態にある。したがって、静電式スイッチの電圧が除かれると、電機子は図1の自由な状態に跳ねて戻り、接点は離れる。必要であれば、電機子6が曲がって固定接点3から離れるのを助けるために、圧電材料9に逆電圧を印加してもよい。
【0016】
通常、MEMSスイッチは、2GHz未満で50dBより大きいアイソレーションを有し、45GHzまでの広帯域にわたり実測値で0.2dBより小さい挿入損失で動作する。
【0017】
図4に、製造時の切り離し前の、本発明によるMEMSスイッチの例20の断面概略図を示す。これは、コプレーナ導波路高周波伝送線路(CPW)を含むパターニングされた金属層と、外側電極25および内側電極26とをそれぞれ担持する、二酸化シリコンの電気的分離層20で覆われたシリコン基板21を含む。CPWは、2つのグラウンド面22、23、および伝送線路24を含む。グラウンド面22は、たとえば0.2μmの絶縁性の薄い絶縁性窒化シリコン層27で局部的に覆われ、静電駆動のための下部電極を形成する。
【0018】
電機子30は、基板21の上方に間隔をもって置かれ、一端がスイッチ電極25、26上に固定され、他端は電気的な制御下で自由に上下に動くようになっている。電機子30は、その下面にパターニングされた第1の金属層33を担持する、厚さ1μmの窒化シリコン層により形成される。この層33は、電極34の形に形成されて上部静電電極を提供し、内側のスイッチ電極26に電気的に接続される。第1の金属層はまた、スイッチが動作したときに伝送線路24中の切れ目42の両側に接触するように構成されたディンプルを有する、可動電極35を形成する。窒化シリコン層38の上には第2の金属層があり、この第2の金属層は、ビア35を通じて上部静電電極34に接続され、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電材料からなる厚さ1μmの層37の下に下部電極36を形成するようにパターニングされている。PZT層37は、誘電体層39でキャップされている。圧電体層37の上方には、ビア31、41を通じて外側のスイッチ電極25に接続される上部圧電駆動電極40がある。キャッピング層39は、上部圧電駆動電極40から、下部圧電駆動電極36を分離する。参照番号43は、後に説明するようにプロセスステップで使用され次いで除去される犠牲層を示す。
【0019】
動作時には、電圧オフの状態では、図1に示すように、電機子30は上方向に曲がる。スイッチを閉じるためには、2つのアンカ電極25、26に電圧が印加され、それによりPZT層37が伸長し、電機子30が図4の状態またはそれより低く曲がる。この状態では、静電電極22および34は、ほぼ平行で近接する。CPWグラウンド面22と上部静電電極34の間に電圧差を加えると、電極間に吸引力を生じ、この吸引力は可動スイッチ接点35が伝送線路24と接触してスイッチが閉路状態になるまでの電機子の下方向の動きを補助する。この時点でPZT層37から電圧を除く(外側のアンカパッド25への信号を除くことにより)ことができ、スイッチは静電力によりしっかりとクランプされたままとなる。
【0020】
スイッチを開くためには、静電電極26、34から電圧を除き、電機子30に蓄えられたひずみエネルギーにより可動接点35を上方向へ動かし、伝送線路24との係合を解除する。必要であれば、長さを短くして電機子30の上方向の動きを補強するために、PZT層37を逆バイアスしてもよい。
【0021】
図4のスイッチは、以下の製造ステップにより生成することができる。
【0022】
すべての層は、市販の未使用シリコンウェハ上に製作することができる。通常これらは、任意選択として基板21上にオーム性金属接点を作製できるようにするために、0.1Ωcm未満の固有抵抗を有するホウ素でドープされたもの(p型)である。
【0023】
二酸化シリコンの電気的分離層は、ウェハ上に成長/堆積される。後続のプロセスステップにおいて、バルク基板接点が作製できるようにするために、この層中にコンタクトホールをエッチング(たとえば反応性イオンエッチング、RIEにより)してもよい。
【0024】
次に、金属層(構成要素22〜26)が堆積(たとえばスパッター堆積により)され、次いでフォトリソグラフィを用いてパターニングされる。このプロセス中に、ウェハはフォトレジストで被覆され、フォトレジストは適当なマスクを用いて露光され、露光済みのフォトレジストは、後で下部層へパターンを移転するための所望のエッチングマスクを作成するために現像される。フォトレジストをパターニングした後に、下部層がエッチング(たとえばRIEにより)され、フォトレジストは除去(たとえばRIEにより)される。このリソグラフィ、堆積、およびエッチングのシーケンスが、ウェハ表面上に三次元(3D)構造を作り上げるために繰り返される。この固定金属層は、電極相互接続部およびボンディングパッドになる。
【0025】
薄い誘電体層27(窒化シリコンなどの)は、堆積(たとえばプラズマ気相成長すなわちPECVDにより)され、フォトリソグラフィを用いてパターニングされる。この層は固定金属部を意図しない電気的接触から保護し、下部静電電極22を絶縁する。
【0026】
次に、犠牲層43(ポリアミド、非晶質シリコンなどの)が堆積(たとえばレジストのスピンコーティングにより)される。この層は、ある程度の平坦化をもたらすことができ、製造プロセスの最後に、電機子30を形成する構造的可動層を自由にするための切り離しプロセス(RIE切り離しまたは湿式エッチング切り離しプロセスなど)において除去される。
【0027】
犠牲層のフォトリソグラフィおよび時間調節エッチングにより、ディンプルを犠牲層中に形成することもできる。
【0028】
可動機械層と固定金属層の間の電気的および機械的接続を可能にするために、犠牲層中にコンタクトホール31、32がエッチングされる。
【0029】
次いで導電金属層33が堆積(たとえばスパッタリングにより)され、フォトリソグラフィによりパターニングされる。この層は、静電駆動のための上部の可動電極34にもなり、高周波スイッチング動作のための導電層35にもなる。
【0030】
次いで機械的誘電体層(PECVD窒化シリコンなどの)が堆積され、パターニングされる。この層は、スイッチ電機子中の弾性機械層38になる。切り離し済みのスイッチ電機子における湾曲をいくぶん制御できるようにするために、[1、2]に述べられているように、この層中において面内応力および面外応力勾配を制御することもできる。PECVD堆積プロセスでのプロセスパラメータ(たとえば高周波電力)を変えることで、このような制御が可能になる。
【0031】
導電層が堆積され、パターニングされる。この層は、スイッチ中の圧電材料層37用の下部電極36を形成する。この層は、非金属(ランタンニッケレートなどの)を含む導電層の組合せを含むことができ、圧電材料層37(たとえばペロブスカイト)中の適切な相の核形成に適した表面をもたらさなければならない。
【0032】
圧電体層37が堆積(たとえば有機金属化学気相成長により)され、パターニング(たとえばフォトリソグラフィおよびRIEにより)される。
【0033】
薄いキャッピング誘電体層39(たとえばPECVD窒化シリコン)が、下部圧電電極36と後続の導電層の間の意図しない電気的接触を防ぐために、堆積されパターニングされる。切り離し済みのスイッチ電機子における湾曲をさらに制御できるようにするために、この層中の応力を制御することもできる。
【0034】
第3の金属層が、堆積されパターニングされる。この層は、上部圧電電極40を形成し、電極36と相まって圧電体層37を挟んで電界を印加できるようにする。この層は、外側アンカパッド25と接触する。
【0035】
切り離し済みスイッチ電機子における湾曲の領域および程度をさらに制御するために、続いて誘電体層を堆積(制御された応力を有して)させ、パターニングすることもできる。
【0036】
上記のプロセスに従うことで、薄い犠牲層を有するが、圧電体層を含む電機子の領域全体にわたって上向きに曲がり易くなる(しかし他の場所ではほぼ平坦である)スイッチ電機子を作成することができる。この上向きの湾曲は、高周波をスイッチングする可動接点35と、高周波を伝達する固定金属層24の間に、大きな間隙(3μmより大)をもたらす。これによって、良好なアイソレーションおよび/または挿入損対アイソレーション比が可能になる。
【0037】
参考文献
[1]R. J. Bozeat, K. M. Brunson; ”Stress control in low temperature PECVD silicon nitride for highly manufacturable micromechanical devices”, Micromechanics Europe, Ulvic (Norway), 1998.
[2]R. R. Davies, K. M. Brunson, M. McNie, D. J. Combes; ”Engineering In− and Out−of− Plane stress in PECVD Silicon Nitride for CMOS−Compatible Surface Micromachining”, SPIE Microfabrication and Micromachining Oct 2001, California, USA.
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】開路すなわち印加電圧が0の状態にあり、電機子が湾曲して固定接点から離れているMEMSスイッチの概略図である。
【図2】部分的に閉じた状態にあり、静電電極が平行な間隔で離れた位置にある、図1のスイッチを示す図である。
【図3】完全に閉じた状態にある、図1のスイッチを示す図である。
【図4】図2の部分的にスイッチ動作した状態と同様に製造された、切り離し前のMEMSスイッチの横断面図である。
【図5】図4のスイッチの平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点(24、42)と、電機子(30)上の可動接点(35)とを備える微小電気機械システムのスイッチであって、
静電式スイッチ動作をもたらすための、固定接点と可動接点の両方に関連する電極(22、34)と、
電圧が印加されたとき電機子(30)を曲げ、圧電式スイッチ動作をもたらすための、関連する電極(36、40)を有する圧電材料(37)と、
印加電圧が0のスイッチ開路状態のとき、曲げられて固定接点(24)から離される、形状が湾曲した電機子とを有し、
静電電極(22、34)からの静電力のもとで固定接点と可動接点をクランプするために、圧電材料(37)が動作すると、電機子が固定接点(24)の方向へ曲げられ、可動接点(35)が曲げられて固定電極とほぼ平行な位置にくるように構成されることを特徴とする、微小電気機械システムのスイッチ。
【請求項2】
固定接点が伝送線路の接点であり、可動接点がマイクロ波システムのスイッチング部のためのスイッチ接点である請求項1に記載のスイッチ。
【請求項3】
可動接点が、信号線路の電気的に分離された2つの部分を互いに接続するための、少なくとも2つの突起を有するスイッチ接点である請求項2に記載のスイッチ。
【請求項4】
基板(21)上に取り付けられ基板から隔てられた可動電機子(30)を有する微小電気機械システムのスイッチを提供する方法であって、
固定接点(24)および静電式スイッチ駆動電極(22)および電気的相互接続部(25、26)を形成する固定金属層を担持する基板(21)を提供するステップと、
電気的スイッチングのための少なくとも1つの可動スイッチ接点(35)、および静電駆動のための電極(34)を担持し、2つの電極(36、40)間の圧電材料層(37)を担持する機械層(38)を有する、電機子を提供するステップとを含み、
各層は、それらの厚さ全体にわたって様々な面内応力および/または応力勾配を有し、それにより電機子がその自由な状態では曲がって基板から離れる、湾曲した状態をとるスイッチを構成し、
静電力のもとで可動スイッチ接点(35)を固定スイッチ接点(24)にクランプするために、圧電材料(37)が動作すると、電機子(30)が基板(20)の方向へ曲げられ、可動静電駆動電極(34)が曲げられて固定静電電極(22)とほぼ平行な位置にくるように構成される方法。
【請求項5】
固定金属層が、コプレーナ導波路伝送線路の一部を形成し、固定接点がこの伝送線路の一部である請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−504608(P2007−504608A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524426(P2006−524426)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003711
【国際公開番号】WO2005/022575
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)